(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】版胴位相差測定装置及び版胴位相差測定方法
(51)【国際特許分類】
B41F 13/00 20060101AFI20230113BHJP
B41F 13/12 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B41F13/00 514
B41F13/12
(21)【出願番号】P 2019089032
(22)【出願日】2019-05-09
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】大宮 利信
(72)【発明者】
【氏名】石橋 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】村上 徹
(72)【発明者】
【氏名】森川 亮
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-144432(JP,A)
【文献】特開2006-256176(JP,A)
【文献】特開2003-266645(JP,A)
【文献】特表2017-521288(JP,A)
【文献】特開2015-112854(JP,A)
【文献】実公平08-001863(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 13/00
B41F 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴を中心軸まわりに回転可能な状態で載置する載置台と、
前記版胴に印された、印刷絵柄の基準位置を示す基準マークを、所定の回転位置に調整する回転角度調整手段と、
前記版胴に形成され、前記版胴を印刷ユニットに位置決め固定するキー溝の回転位置と前記基準マークの回転位置との間の角度を測定する角度測定手段と、を備え、
前記角度測定手段は、
前記版胴の中心軸方向の一方の端部に形成された支持孔へ挿入される挿入部と、
前記挿入部に形成されており、前記キー溝に嵌入するキー部と、
前記
キー部の中心軸まわりの回転角度を測定する角度計と、を有する、
ことを特徴とする版胴位相差測定装置。
【請求項2】
前記回転角度調整手段は、
前記載置台に載置された前記版胴の中心軸に対して鉛直上方からレーザ光を照射する、
ことを特徴とする請求項1に記載の版胴位相差測定装置。
【請求項3】
前記角度計は、
前記キー溝の回転位置と前記基準マークの回転位置との相対角度を測定可能である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の版胴位相差測定装置。
【請求項4】
版胴を中心軸まわりに回転可能な状態で載置し、
前記版胴に印された、印刷絵柄の基準位置を示す基準マークを、所定の回転位置に調整し、
前記版胴に形成され、前記版胴を印刷ユニットに位置決め固定するキー溝の回転位置と前記基準マークの回転位置との間の角度を測定する角度測定手段を、前記版胴を前記印刷ユニットに支持させ
る支持孔に挿入して、前記キー溝の回転角度と前記基準マークの回転位置との間の角度を測定する、
ことを特徴とする版胴位相差測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、版胴位相差測定装置及び版胴位相差測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多色印刷を行うウエブ印刷装置では、各色の印刷を行う印刷ユニットに回転可能に支持された版胴を、ウエブに対して位置合わせ(以下、見当合わせという。)し、それぞれの版胴の外周面に付着したインキを順次ウエブに転写して印刷する。
【0003】
印刷ユニットに版胴を取り付けた際の初期の見当合わせは、各版胴間の長さ、版胴円周長、ウエブの伸び量等を考慮して、印刷ユニットに支持された版胴を、所定の回転位置(角度)に設定することにより行われる。また、版胴の回転位置設定は、版胴の外周面に形成された印刷絵柄の基準位置となるトンボマーク、カラコンマーク等の基準マークが所定の回転位置となるように、版胴を回転させ、位相を変えることにより行われる。
【0004】
一般的に、印刷装置の印刷ユニットは、円筒状の版胴の中心軸方向両端部に形成された支持孔に支持軸(版胴軸)を挿入して、版胴を支持する。また、版胴の支持孔に形成されたキー溝に、支持軸のキーが嵌入することにより、支持軸と版胴との角度合わせが行われる。印刷装置は、版胴の回転動作を制御する制御部を備えており、例えば、支持軸に形成されたキーの回転位置を検出することにより、支持軸の回転角度を認識する。
【0005】
また、印刷ユニットは、予めキーの回転位置を原点とするように調整されており、支持軸に取り付けられたロータリーエンコーダによって、支持軸の回転位置を検出する。したがって、キーが嵌入するキー溝の回転位置と、版胴に印された基準マークの回転位置との差(以下、版胴位相差という。)を印刷装置の制御部で補正することにより、基準マークの回転位置を制御する。
【0006】
しかしながら、版胴の支持孔に形成されるキー溝の位置と、版胴の外周面上に印される基準マークの位置との間の角度である版胴位相差は、版胴ごとに異なる。したがって、印刷装置に取り付けられた版胴を回転させ、基準マークを所定の回転位置に設定して見当合わせを行うには、版胴ごとの版胴位相差を測定する必要がある。
【0007】
版胴位相差の測定は、例えば、版胴を印刷ユニットに取り付けた状態で、指針等を用いてトンボマークが所定の位置となるように位置合わせを行い、その時のキー溝の回転位置を0にプリセットして、版胴の角度情報をメモリに記憶させることによって行われる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の印刷装置では、印刷に初めて使用される版胴を、印刷ユニットに取り付けた状態で版胴位相差を測定するので、切替時間、すなわち版胴交換時の印刷装置の停止時間が長くなり、生産効率が低下する。また、基準マークの回転位置を位置合わせする指針等の装置が、各印刷ユニットに必要となる。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、製版完成時等、版胴を印刷ユニットに取り付ける前に、容易に版胴位相差を測定でき、この位相差を前もって印刷装置に入力し、記憶させることにより、版胴交換時の印刷装置の停止時間を短くすることができる版胴位相差測定装置及び版胴位相差測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、この発明の第1の観点に係る版胴位相差測定装置は、
版胴を中心軸まわりに回転可能な状態で載置する載置台と、
前記版胴に印された、印刷絵柄の基準位置を示す基準マークを、所定の回転位置に調整する回転角度調整手段と、
前記版胴に形成され、前記版胴を印刷ユニットに位置決め固定するキー溝の回転位置と前記基準マークの回転位置との間の角度を測定する角度測定手段と、を備え、
前記角度測定手段は、
前記版胴の中心軸方向の一方の端部に形成された支持孔へ挿入される挿入部と、
前記挿入部に形成されており、前記キー溝に嵌入するキー部と、
前記キー部の中心軸まわりの回転角度を測定する角度計と、を有する。
【0012】
また、前記回転角度調整手段は、
前記載置台に載置された前記版胴の中心軸に対して鉛直上方からレーザ光を照射する、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記角度計は、
前記キー溝の回転位置と前記基準マークの回転位置との相対角度を測定可能である、
こととしてもよい。
【0014】
この発明の第2の観点に係る版胴位相差測定方法は、
版胴を中心軸まわりに回転可能な状態で載置し、
前記版胴に印された、印刷絵柄の基準位置を示す基準マークを、所定の回転位置に調整し、
前記版胴に形成され、前記版胴を印刷ユニットに位置決め固定するキー溝の回転位置と前記基準マークの回転位置との間の角度を測定する角度測定手段を、前記版胴を前記印刷ユニットに支持させる支持孔に挿入して、前記キー溝の回転角度と前記基準マークの回転位置との間の角度を測定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、版胴を印刷ユニットに取り付ける前に、容易に版胴位相差を測定できるので、版胴交換時の印刷装置の停止時間を短くし、生産効率を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る版胴位相差測定装置の正面図である。
【
図2】実施の形態に係る版胴位相差測定装置の側面図である。
【
図3】回転角度調整が完了した状態を示す版胴の平面図である。
【
図4】実施の形態に係る角度測定手段の構成を示す斜視図である。
【
図5】版胴と版胴に挿入された角度測定手段とを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る版胴位相差測定装置及び版胴位相差測定方法について説明する。
【0018】
本実施の形態に係る版胴位相差測定装置1は、
図1及び
図2に示すように、載置台11、回転角度調整手段12、角度測定手段13を備える。
【0019】
載置台11は、版胴30を載置する基台であり、ベースプレート11a、保持ブロック11bを備える。ベースプレート11aは矩形板状の部材であり、主面が上下方向となるように配置される。
【0020】
保持ブロック11bは、版胴30の中心軸が水平方向となるように、載置台11上に載置された版胴30を保持する。保持ブロック11bは、例えば
図2に示すように、三角柱状の部材の一側面がベースプレート11aの上面に接するように、ベースプレート11aに取り付けられており、2つの保持ブロック11bの斜面部が対向するように配置されている。
【0021】
これにより、保持ブロック11bは、Vブロックのように、対向する斜面部に版胴30を載置することができる。したがって、様々な径の版胴30を載置台11上に載置することができる。また、
図1に示すように、載置する版胴30の中心軸方向に、対向する一対の保持ブロック11bを複数配置することにより、版胴30をより安定して載置することができる。
【0022】
上記の例では、保持ブロック11bの形状は三角柱状であることとしたが、特に限定されず、版胴30を回転可能に載置できるものであればよい。例えば、版胴30の載置方向と平行に回転可能に設置されたコロであってもよく、ベースプレート11aに立設する位置決めピンであってもよい。保持ブロック11bに代えて、ベースプレート11a上面に設置されたコロで版胴30を支持する場合、版胴30を容易に回転させることができる。
【0023】
回転角度調整手段12は、載置台11に載置された版胴30を版胴30の中心軸まわりに回転させて、版胴30の外周面に印された、印刷絵柄の基準位置を示す基準マークを所定の回転位置(角度)に調整するためのガイドである。本実施の形態に係る回転角度調整手段12は、保持ブロック11bの上方に配置されたレーザ照射装置である。
【0024】
回転角度調整手段12は、載置台11に配置された、対向する一対の保持ブロック11bの中間位置を通るように、直線状のレーザ光を照射する。具体的には、一対の保持ブロック11bの中間位置となるベースプレート11a上に、目安となる直線が印されている。そして目安となる直線と、回転角度調整手段12から照射されるレーザ光とが一致するように、レーザ光の照射角度等が予め調整されている。
【0025】
したがって、載置台11上に載置された版胴30の中心軸の直上にレーザ光を照射することができる。これにより、
図3に示すように、版胴30の基準マークが、照射されたレーザ光と重なるように、版胴30を中心軸まわりに回転させて、基準マークが最上部の位置となるように、版胴30の回転角度を調整することができる。
【0026】
角度測定手段13は、版胴30に形成され、版胴30を印刷ユニットに位置決め固定するキー溝30aの回転位置と基準マークの回転位置との間の角度である版胴位相差を測定するものであり、
図4に示すように、挿入部13a、キー部13b、角度計13cを備える。ここで、キー溝30aの回転位置とは、キー溝30aの幅方向中心の回転角度である。
【0027】
挿入部13aは、円柱状の角度測定手段13の一方の端部に形成されたテーパ部であり、
図5に示すように、版胴30の中心軸方向端部に形成された、版胴30を印刷ユニットに支持させる支持孔に挿入される。支持孔には、テーパ部30bが形成されており、挿入された角度測定手段13と版胴30とが同一中心軸となるように固定される。
【0028】
キー部13bは、テーパ部である挿入部13aに形成されたキーであり、
図5に示すように、版胴30のテーパ部30bに形成されたキー溝30aに嵌入して、角度測定手段13の版胴30に対する回転位置を位置決めする。
【0029】
角度計13cは、角度測定手段13の挿入部13aと反対側の端部に配置された角度測定器であり、測定位置の鉛直方向に対する傾きを示す。角度計13cは、例えば、一般的なデジタル角度計(シンワ測定株式会社、デジタルアングルメーター ミニ マグネット付 76447)であり、キー部13bの中心、より具体的には、キー部13bの幅方向中心が、角度計13cの測定位置となるように、配置されている。
【0030】
これにより、角度測定手段13の測定位置であるキー部13bの中心軸まわりの回転角度を測定することができる。
【0031】
続いて、本実施の形態に係る版胴位相差測定装置1を用いた版胴位相差測定方法について説明する。
【0032】
まず、版胴位相差の測定対象となる版胴30を、版胴位相差測定装置1の載置台11に載置する。載置台11に配置されている保持ブロック11bにより、版胴30は、中心軸が略水平方向となるように載置される。
【0033】
続いて、
図1及び
図2に示すように、載置台11に載置された版胴30の外周面上に、円柱形頂点指示水準器CLを設置する。そして、円柱形頂点指示水準器CLを用いて、版胴30が水平に設置されていることを確認する。版胴30が水平に載置されていない場合、ベースプレート11aの四隅に配置されたアジャスタ11cを用いて、載置台11の角度を調整して版胴30を水平にする。これにより、版胴位相差をより精度よく測定することができる。
【0034】
続いて、回転角度調整手段12のレーザ照射装置の電源を投入して版胴30にレーザ光を照射する。回転角度調整手段12からのレーザ光は、鉛直上方から版胴30の中心軸へ照射されるように予め調整されているので、レーザ光は、版胴30の頂部の直線上に照射される。
【0035】
版胴30は、版胴30の外周面に印された基準マークが、直線状のレーザ光に重なるように手動で回転される。これにより、版胴30は、基準マークが鉛直上方の位置になるように、位置決めされる。
【0036】
続いて、角度測定手段13が、版胴30の一方の端部に形成されたキー溝30aを有するテーパ部30bに挿入される。この時、角度測定手段13は、角度測定手段13の測定位置となるキー部13bが版胴30のキー溝30aに嵌入する回転位置で、版胴30へ挿入される。
【0037】
図6に示すように、角度測定手段13の角度計13cは、キー溝30aの回転位置と同じ、キー部13bの回転位置である角度を示す。したがって、角度計13cの示す角度を読みとることにより、版胴30の版胴位相差、すなわち、版胴30を印刷ユニットに位置決め固定するキー溝30aの回転位置と基準マークの回転位置との間の角度を測定することができる。
【0038】
版胴位相差が測定された版胴30を印刷ユニットに取り付ける際、印刷装置の制御部に測定済みの版胴位相差を入力することにより、制御部は、検出可能なキーの回転位置と、入力された版胴位相差とに基づいて版胴30を回転させて、見当合わせをすることができる。
【0039】
また、版胴30の識別番号と測定された版胴位相差との組み合わせ情報を、印刷装置の制御部、印刷装置がネットワークを介して接続されたサーバの記憶装置等に、予め記憶させておくことにより、繰り返し、版胴30を交換して使用する場合であっても、効率的に切替作業を行うことができる。
【0040】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態に係る版胴位相差測定装置1及びこれを用いた版胴位相差測定方法では、版胴30を印刷ユニットに取り付ける前に、容易に版胴位相差を測定できるので、版胴交換時の印刷装置の停止時間を短くし、生産効率を向上させることが可能である。
【0041】
また、印刷ユニットに版胴30を取り付けた状態で版胴位相差を測定する場合、基準マークの回転位置を設定するための指針等を各印刷ユニットに取り付ける必要がある。すなわち、版胴位相差測定の基準が、印刷ユニットごとに異なる。これにより、各印刷ユニットで印刷位置がばらつくおそれがある。しかしながら、本実施の形態に係る版胴位相差測定装置1及びこれを用いた版胴位相差測定方法では、各印刷ユニットに取り付ける版胴30について、共通の基準で版胴位相差を測定することができるので、各印刷ユニットの見当合わせの精度を高めることが可能である。
【0042】
本実施の形態に係る回転角度調整手段12は、レーザ照射装置であることとしたが、これに限られず、版胴30の基準マークを所定の位置に調整可能な構成であればよい。
【0043】
また、本実施の形態では、基準マークは、版胴30の外周面上に印されていることとしたが、これに限られない。例えば、中心軸方向の一方の端面に印されていることとしてもよい。この場合、回転角度調整手段12は、基準マークが印された端面の上下方向にレーザ光を照射する等、基準マークが鉛直上方に位置するようにガイド可能なものであればよい。
【0044】
また、本実施の形態では、回転角度調整手段12を用いて、基準マークの回転位置を鉛直上方に調整することとしたが、これに限られず、基準マークを、測定基準となる任意の回転位置に調整することとしてもよい。この場合、キー溝30aの回転位置と基準マークの回転位置との相対角度を測定可能な角度計13cを用いて、版胴位相差を測定すればよい。
【符号の説明】
【0045】
1 版胴位相差測定装置、11 載置台、11a ベースプレート、11b 保持ブロック、11c アジャスタ、12 回転角度調整手段、13 角度測定手段、13a 挿入部、13b キー部、13c 角度計、30 版胴、30a キー溝、30b テーパ部、CL 円柱形頂点指示水準器