(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】気体吸着デバイスおよび真空断熱材
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20230113BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
F16L59/065
B01D53/04 110
(21)【出願番号】P 2019094619
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 俊造
(72)【発明者】
【氏名】秦 裕一
(72)【発明者】
【氏名】井手 謙次
(72)【発明者】
【氏名】川西 一浩
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208193(WO,A1)
【文献】特開2008-200617(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1457299(KR,B1)
【文献】韓国公開実用新案第20-2012-0001761(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/065
B01D 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性および可撓性を有する包装容器と、
前記包装容器の内部に減圧封止された気体吸着剤と、
前記包装容器に開封孔を形成する開封部材とを備え、
前記開封部材は、複数の巻き部からなるコイルばね状の弾性部材と、前記弾性部材の上端部に形成され径方向に延在するピン支持部と、前記ピン支持部の先端部から下方に延びる開封ピンと、前記弾性部材の下端部における一巻き部と二巻き部との間に設けられ前記包装容器を挟持する把持部と、を備え、
前記開封ピンは、前記弾性部材が圧縮変形して各前記巻き部が接触した状態で、前記開封ピンの先端部が前記包装容器に接触しない長さに形成されていることを特徴とする気体吸着デバイス。
【請求項2】
前記弾性部材の前記ピン支持部が形成された上端部の前記巻き部の径を他の前記巻き部の径より小さくなるように形成したことを特徴とする請求項1に記載の気体吸着デバイス。
【請求項3】
前記把持部の間隙を、前記包装容器の厚さ寸法より小さく形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の気体吸着デバイス。
【請求項4】
前記包装容器は、前記開封孔と前記気体吸着剤とを連通する箇所に多孔質部材を収容し、前記開封部材は、前記多孔質部材と前記包装容器とを同時に把持するように設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の気体吸着デバイス。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の気体吸着デバイスと、芯材とを、外被材に挿入後、減圧封止して構成されていることを特徴とする真空断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体吸着デバイスおよび真空断熱材に係り、特に、窒素および酸素を吸着可能とした気体吸着デバイスを搭載した真空断熱材において、真空断熱材の性能および信頼性向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高真空を用いた断熱材への需要が高まりつつある。
家庭用電化製品については、特に冷蔵庫、冷凍庫、自動販売機などの保温保冷機器において、熱損失を低減させるために、優れた断熱性能を有する断熱材が求められている。
近年では、家庭用電化製品に限らず、住宅などにおいても、電気、ガスなどのエネルギ消費量を低減させるため、断熱性能の優れた断熱材が求められている。
一般的に、断熱材には、グラスウールやウレタンフォームなどが主に用いられているが、これらの断熱材の断熱性能を向上させるためには断熱材の厚さを増す必要がある。
そのため、断熱材を充填できる空間に制限がある場合や、省スペースや空間の有効利用が求められる場合においては、適用できない。
【0003】
そこで、近年、高性能な断熱材として、真空断熱材が提案されている。これはスペーサの役割を持つ芯材を、ガスバリア性を有する外被材の内部に挿入し、内部を減圧して封止した断熱体である。
真空断熱材は、内部が真空であるために、高い断熱性を有するが、内部の真空度の低下によって、性能が大きく変化する。
外被材内部の真空度が低下する主な要因は、生産時に外被材中に残留した窒素、酸素および水分を中心とする気体や、時間とともに外被材を通過して内部に侵入する気体である。
これらの気体を吸着するために、窒素、酸素および水分を吸着可能な気体吸着デバイスを、真空断熱材の外被材内部に、芯材とともに挿入する技術が提案されている。
【0004】
このような従来の気体吸着デバイスとして、ガスバリア性および可撓性を有する包装容器と、包装容器の内部に挿入される気体吸着剤と、包装容器の表面に設けられたばね線材で形成したコイル状の開封部材とを備え、開封部材の一端には屈曲して形成した開封ピンを設けるとともに、他端にはコイル状の把持部を設け、包装容器を挟み込んで把持するようにしたものが知られている。そして、真空断熱材の外部から外被材を介して開封部材に荷重を加えて変形させることにより、開封ピンが包装容器に突き刺さることで減圧密封された包装容器を開封するようにした技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、真空断熱材の製造工程は、外被材内部に芯材と気体吸着デバイスを挿入し、次に内部を減圧して封止し、次に真空断熱材の表面平滑性とその厚みを制御するためにロールプレスを行い、その後に、気体吸着デバイスの包装容器を破壊することによってはじめて気体吸着デバイスが窒素や酸素等の成分を吸着し、その効果を発揮するものである。
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、真空断熱材の製造工程における外被材内部の減圧封止工程やロールプレスの工程あるいはそれ以前の搬送などの工程で、開封部材に荷重が加わって開封部材が変形し、開封ピンが包装容器に突き刺さることで気体吸着デバイスの包装容器を開封してしまい、真空断熱材の性能を低下させるという課題がある。
【0007】
また、本来あるべき製造工程においても、開封部材に荷重を加える際に、真空断熱材の外部から外被材を介して開封部材に荷重を加えるので、外被材の内面はステンレス等の硬い金属製のバネに接触したまま強く押し付けられることとなり、その接触部に発生する集中的な負荷により、外被材が破損してしまい真空断熱材の信頼性を低下させるという課題がある。
また、包装容器の表面には、包装容器を挟み込んで把持する開封部材を設けているが、真空断熱材の製造工程において、包装容器の破壊工程より前に、開封部材の把持部から包装容器が外れることによって、気体吸着デバイスの包装容器を開口することができず、真空断熱材の性能を低下させるという課題がある。
【0008】
本発明は、前記した点に鑑みてなされたものであり、真空断熱材の製造段階で、包装容器に開封孔が形成されてしまうことを防止することができ、真空断熱材の性能の安定化を実現することができる気体吸着デバイスおよび真空断熱材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、ガスバリア性および可撓性を有する包装容器と、前記包装容器の内部に減圧封止された気体吸着剤と、前記包装容器に開封孔を形成する開封部材とを備え、前記開封部材は、複数の巻き部からなるコイルばね状の弾性部材と、前記弾性部材の上端部に形成され径方向に延在するピン支持部と、前記ピン支持部の先端部から下方に延びる開封ピンと、前記弾性部材の下端部における一巻き部と二巻き部との間に設けられ前記包装容器を挟持する把持部と、を備え、前記開封ピンは、前記弾性部材が圧縮変形して各前記巻き部が接触した状態で、前記開封ピンの先端部が前記包装容器に接触しない長さに形成されていることを特徴とする。
【0010】
これによれば、真空断熱材を製造している段階で、開封部材の弾性部材に外力が加わって単純圧縮状態とされた場合でも、弾性部材は圧縮変形されるが、開封ピンの下端部が包装容器に接触してしまうことがなく、開封部材のピン支持部を押圧して強制圧縮した場合にのみ、包装容器に開封孔を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、真空断熱材を製造している段階で、開封部材の弾性部材に外力が加わって単純圧縮状態とされた場合でも、弾性部材は圧縮変形されるが、開封ピンの下端部が包装容器に接触してしまうことがなく、包装容器に開封孔が形成されてしまうことを防止することができる。そして、開封部材のピン支持部を押圧して強制圧縮した場合にのみ、包装容器に開封孔を形成することが可能となり、包装容器を開封すべきタイミングを制御することが可能となり、真空断熱材の性能の安定化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施の形態における気体吸着デバイスを示す概略断面図
【
図2】第1実施の形態の気体吸着デバイスを示す概略平面図
【
図3】第1実施の形態の開封部材部分を示す拡大断面図
【
図6】第1実施の形態の気体吸着デバイスを用いた真空断熱材を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の発明は、ガスバリア性および可撓性を有する包装容器と、前記包装容器の内部に減圧封止された気体吸着剤と、前記包装容器に開封孔を形成する開封部材とを備え、前記開封部材は、複数の巻き部からなるコイルばね状の弾性部材と、前記弾性部材の上端部に形成され径方向に延在するピン支持部と、前記ピン支持部の先端部から下方に延びる開封ピンと、前記弾性部材の下端部における一巻き部と二巻き部との間に設けられ前記包装容器を挟持する把持部と、を備え、前記開封ピンは、前記弾性部材が圧縮変形して各前記巻き部が接触した状態で、前記開封ピンの先端部が前記包装容器に接触しない長さに形成されている。
これによれば、真空断熱材を製造している段階で、開封部材の弾性部材に外力が加わって単純圧縮状態とされた場合でも、弾性部材は圧縮変形されるが、開封ピンの下端部が包装容器に接触してしまうことがなく、包装容器に開封孔が形成されてしまうことを防止することができる。そして、開封部材のピン支持部を押圧して強制圧縮した場合にのみ、包装容器に開封孔を形成することが可能となり、包装容器を開封すべきタイミングを制御することが可能となり、真空断熱材の性能の安定化を実現することができる。
【0014】
第2の発明は、前記弾性部材の前記ピン支持部が形成された上端部の前記巻き部の径を他の前記巻き部の径より小さくなるように形成した。
これによれば、単純圧縮状態からピン支持部に集中的に外力が加えられた際に、少ない部分的外力でピン支持部を変形することができ、外力を加えた際の真空断熱材の外被材の破損のリスクを大幅に低減することができる。
【0015】
第3の発明は、前記把持部の間隙を、前記包装容器の厚さ寸法より小さく形成した。
これによれば、把持部により、包装容器を弾性部材の弾性力で強力に把持することが可能となり、包装容器に開封部材を装着した気体吸着デバイスを真空断熱材の内部に配置して、真空断熱材を製造する際に、気体吸着デバイスの包装容器からの開封部材が外れてしまうことがない。そのため、開封部材を操作して開封孔を形成する作業を行うまで、包装容器に開封部材を確実に保持することが可能となり、包装容器に確実に開封孔を形成することができ、真空断熱材の性能の安定化を実現することができる。
【0016】
第4の発明は、前記包装容器は、前記開封孔と前記気体吸着剤とを連通する箇所に多孔質部材を収容し、前記開封部材は、前記多孔質部材と前記包装容器とを同時に把持するように設けられる。
これによれば、多孔質部材を介して、開封孔と気体吸着剤とを連通させることができ、真空断熱材を製造している段階で、開封部材の弾性部材に外力が加わって単純圧縮状態とされた場合でも、開封ピンの下端部が包装容器に接触してしまうことがなく、包装容器および多孔質部材に開封孔が形成されてしまうことを防止することができる。
【0017】
第5の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の気体吸着デバイスと、芯材とを、外被材に挿入後、減圧封止して構成されている真空断熱材である。
これによれば、真空断熱材を製造している段階で、開封部材の弾性部材に外力が加わって単純圧縮状態とされた場合でも、弾性部材は圧縮変形されるが、開封ピンの下端部が包装容器に接触してしまうことがなく、包装容器に開封孔が形成されてしまうことを防止することができる。そして、開封部材のピン支持部を押圧して強制圧縮した場合にのみ、包装容器に開封孔を形成することが可能となり、包装容器を開封すべきタイミングを制御することが可能となり、真空断熱材の性能の安定化を実現することができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態における気体吸着デバイスを示す概略断面図である。
図2は、第1実施の形態の気体吸着デバイスを示す概略平面図である。
【0019】
図1および
図2に示すように、第1実施の形態の気体吸着デバイス10は、ガスバリア性および可撓性を有する包装容器11と、この包装容器11の内部に減圧封止された気体吸着剤12と、包装容器11の内部に平面視で気体吸着剤12と隣接配置された多孔質部材13と、開封部材14とを備えている。
なお、
図1においては、説明を理解しやすくするため、気体吸着剤12と包装容器11との間に間隙が形成されているが、実際には、気体吸着剤12と包装容器11との間に間隙はなく、密着された状態となっている。
【0020】
包装容器11のガスバリア性材料としては、軟包装材を用いることができ、例えば、アルミニウムを蒸着したPET層と、アルミニウム層と、低密度ポリエチレン層とからなる複層材料で構成される。包装容器11をガスバリア性材料で形成することにより、気体吸着デバイス10を大気中で保管しても、内部の気体吸着剤12は、周辺の大気を吸着して失活してしまうことはない。
なお、包装容器11を構成する材料として、前記材料に限定されるものではなく、ガスバリア性があればその他の材料を用いるようにしてもよい。
【0021】
気体吸着剤12は、特に指定するものではないが、化学吸着、物理吸着による各種吸着材、例えば、各種金属系ゲッター、ゼオライトなど気体吸着性の材料を用いることができる。なお、本実施の形態においては、ZSM-5型ゼオライトが用いられる。気体吸着剤12は、あらかじめ加熱することで吸着ガスを脱ガスし、気体が吸着できるようにした状態で使用される。
【0022】
また、包装容器11を形成する場合は、包装容器11を形成する1枚の複層材料を折り畳んだ状態で、その折り畳んだ辺と対向する側辺および一端部を熱溶着して袋状に形成し、その後、袋状に形成した包装容器11の内部に、多孔質部材13および気体吸着剤12を収容した状態で、他端部を熱溶着することで、包装容器11の内部に多孔質部材13および気体吸着剤12を封入するように構成されている。
これにより、熱溶着された箇所である包装容器11の側辺および両端部に非収容部15が形成されることになる。ここで、非収容部15とは、包装容器11のうち気体吸着剤12が存在しない箇所をいう。
そして、本実施の形態においては、開封部材14により形成される開封孔16は、多孔質部材13が存在する箇所に形成されるものであり、開封孔16と気体吸着剤12とは、多孔質部材13に形成される通気孔(図示せず)を介して連通される。
【0023】
図3は、開封部材14部分を示す拡大断面図である。
図4は、開封部材14の平面図である。
図5は開封部材14の動作を示す説明図である。
図3および
図4に示すように、開封部材14は、例えば、ステンレスからなるコイルばね状の弾性部材20と、弾性部材20の上端部に形成され径方向に延在するピン支持部21と、ピン支持部21の先端部から下方に延びる開封ピン22とを備えている。
弾性部材20は、複数回巻回された巻き部23を備えており、各巻き部23の間には、間隙が形成されている。巻き部23の下端部における一巻き部23aと二巻き部23bとの間は、包装容器11の非収容部15を挟持する把持部24とされている。
【0024】
ここで、開封ピン22の長さ寸法をAとし、弾性部材20を各巻き部23が接触するように最も圧縮した状態で弾性部材20の上端部から把持部24までの高さ寸法をBとした場合、開封部材14は、A<Bとなるように形成されている。
すなわち、開封部材14の弾性部材20が外力により圧縮された場合に、弾性部材20が圧縮されて各巻き部23が接触した状態となるが、この弾性部材20が圧縮された状態で、開封ピン22の下端部が把持部24により把持される包装容器11の非収容部15に接触しない長さに形成されている。
【0025】
そして、各巻き部23が接触した状態の弾性部材20のピン支持部21を下方に向けて押動することで、ピン支持部21が弾性部材20の上端部を支点として下方に揺動され、このピン支持部21の揺動変形により、開封ピン22の先端部が包装容器11を貫通することができ、包装容器11に開封孔16を形成するように構成されている。ここで、開封部材14をステンレスにより形成したのは、開封部材14により包装容器11に開封孔16を形成する際に、余計なガスを発生させないためである。
【0026】
次に、前述の気体吸着デバイス10を用いた真空断熱材30について説明する。
図6は、第1実施の形態の気体吸着デバイス10を用いた真空断熱材30の実施の形態を示す概略断面図である。
図6に示すように、真空断熱材30は、芯材31と、気体吸着デバイス10とを、外被材32で覆い、内部を減圧して構成される。
芯材31は、特に指定するものではないが、減圧封止した際に大気圧に抗して厚さを保つことができ、空隙率が高く、固体熱伝導率が低いものを用いることができる。例えば、無機粉末集合体、特にシリカ粉末や、無機繊維集合体、特に、ガラス繊維集合体が好ましい。
【0027】
外被材32は、特に指定するものではないが、ガスバリア性に優れており、大気中に真空断熱材30を保存しても、内部に侵入する空気が少ないものが用いられる。
このような性質を満たすものとして、例えば、ガスバリア層を有するプラスチックラミネートフィルムを製袋したものが望ましい。ガスバリア層は、特に指定するものではないが、アルミニウム箔などの金属箔、プラスチックフィルムにアルミニウムなどの金属や、シリカ、カーボンなどを蒸着したものであってもよい。
【0028】
真空断熱材30は、外被材32の周縁部を熱溶着することで袋状に形成し、気体吸着デバイス10は、開封孔16が形成されてない状態で芯材31の内部に配置し、外被材32の内部に芯材31とともに挿入される。
そして、外被材32の内部を減圧して封止し、その後、真空断熱材30の表面平滑性と厚みを制御するために、全面に所定の厚さのロールプレスを行うことで構成される。
【0029】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
本実施の形態においては、外被材32の内部に、芯材31および気体吸着デバイス10を収容した状態で、内部を真空状態に減圧して封止することで真空断熱材30が製造される。
このように真空断熱材30を製造する際において、真空断熱材30の減圧封止による外力やロールプレスによる外力は、ともに真空断熱材30の厚さを圧縮する方向の外力として働き、真空断熱材30の製造工程では通常の取り扱いで発生する避けようのない外力とされる。
この外力は、外被材32と芯材31を通して、芯材31の内部に配置された気体吸着デバイス10に対しても圧縮力として働くことになり、この外力により、気体吸着デバイス10の開封部材14に対して弾性部材20を圧縮する方向に変形させてしまうおそれがある。
【0030】
本実施の形態においては、
図5(a)に示すように、開封ピン22の長さ寸法Aと、最も圧縮した状態で弾性部材20の上端部から把持部24までの高さ寸法Bとの関係を、A<Bとし、開封部材14の弾性部材20が外力により圧縮された状態で、開封ピン22の下端部が包装容器11の非収容部15に接触しない長さに形成されている。そのため、
図5(b)に示すように、真空断熱材30を製造している段階で、外力が加わった場合に、開封ピン22の弾性部材20は圧縮変形されるが、開封ピン22の下端部が包装容器11の非収容部15に接触してしまうことがなく、包装容器11に開封孔16が形成されてしまうことがない。このように弾性部材20が圧縮変形されて開封ピン22が非収容部15に接触しない状態を単純圧縮状態という。
【0031】
その後、単純圧縮状態から、真空断熱材30の外被材32の外部から開封部材14のピン支持部21を押動する。
すると、
図5(c)に示すように、弾性部材20の既に巻き部23同士が接触した部位は変形せず、拘束のないピン支持部21のみが弾性部材20の巻き部23の内側に入り込み、開封ピン22により気体吸着デバイス10の包装容器11の非収容部15に開封孔16を形成する。このように開封ピン22のピン支持部21が弾性部材20の内側に入り込むように変形した状態を強制圧縮状態という。
【0032】
(第1実施例)
次に、第1実施の形態における気体吸着デバイス10および真空断熱材30の第1実施例について説明する。
まず、使用した気体吸着デバイス10について説明する。
気体吸着デバイス10のガスバリア性および可撓性を有する包装容器11として、アルミニウムを蒸着したPET層と、アルミニウム層と、低密度ポリエチレン層からなる複層材料を用いた。アルミニウムを蒸着したPET層の厚さは12μm、アルミニウム層の厚さは6μm、低密度ポリエチレン層の厚さは50μmとした。
2枚の複層材料を、低密度ポリエチレン層同士を対向させて配置し、周辺部を加熱して溶着することで袋状にし、包装容器11を形成した。
【0033】
気体吸着剤12には、ZSM-5型のゼオライトを用い、あらかじめ真空中で加熱することで吸着ガスを脱ガスし、気体が吸着できるようにした。
開封部材14は、線径1mmのステンレス線材で形成した直径20mmのコイルばね状の弾性部材20で構成した。
第1実施例においては、開封ピン22の長さ寸法Aと、最も圧縮した状態で弾性部材20の上端部から把持部24までの高さ寸法Bとの関係を、A<Bとした。
【0034】
次に、上記気体吸着デバイス10を搭載した真空断熱材30について説明する。
真空断熱材30に挿入する芯材31には、グラスウールを用いた。
外被材32には、15μmのナイロン層と、25μmのナイロン層と、6μmのアルミニウム層と、50μmの低密度ポリエチレン層を重ねた複合フィルムを用い、2枚のフィルムを、低密度ポリエチレン層同士を対向させ、周縁部を熱溶着することで袋状に形成した。
気体吸着デバイス10は、開口されていない状態で芯材31の内部に配置し、外被材32の内部に芯材31とともに挿入した。
【0035】
次に、外被材32の内部を減圧して封止し、その後、真空断熱材30の表面平滑性と厚みを制御するために、全面に所定の厚さのロールプレスを行った。ロールプレスの隙間は10mmとした。
第1実施例においては、開封ピン22の長さ寸法Aと、最も圧縮した状態で弾性部材20の上端部から把持部24までの高さ寸法Bとの関係を、A<Bとしているので、真空断熱材30を製造している段階で、外力が加わって単純圧縮状態とされた場合に、開封ピン22の弾性部材20は圧縮変形されるが、開封ピン22の下端部が包装容器11の非収容部15に接触してしまうことがなく、包装容器11に開封孔16が形成されてしまうことがない。
【0036】
その後、前述した単純圧縮の状態から、さらに外力を加えて開封部材14のピン支持部21を変形させ、開封部材14の開封ピン22を包装容器11に突き刺して開封孔16を形成した。
このように、真空断熱材30を製造する工程において、減圧封止を行う際に弾性部材20が単純圧縮された状態では、開封部材14の開封ピン22により開封孔16が形成されることはなく、開封部材14のピン支持部21を押圧して強制圧縮した場合にのみ、包装容器11の非収容部15に開封孔16を形成することが可能となり、包装容器11を開封すべきタイミングを制御することが可能となる。
【0037】
以上述べたように、本実施の形態においては、ガスバリア性および可撓性を有する包装容器11と、包装容器11の内部に減圧封止された気体吸着剤12と、包装容器11に開封孔16を形成する開封部材14とを備え、開封部材14は、複数の巻き部23からなるコイルばね状の弾性部材20と、弾性部材20の上端部に形成され径方向に延在するピン支持部21と、ピン支持部21の先端部から下方に延びる開封ピン22と、弾性部材20の下端部における一巻き部23と二巻き部23との間に設けられ包装容器11を挟持する把持部24と、を備え、開封ピン22は、弾性部材20が圧縮変形して各巻き部23が接触した状態で、開封ピン22の先端部が包装容器11に接触しない長さに形成されている。
【0038】
これにより、真空断熱材30を製造している段階で、開封部材14の弾性部材20に外力が加わって単純圧縮状態とされた場合でも、弾性部材20は圧縮変形されるが、開封ピン22の下端部が包装容器11に接触してしまうことがなく、包装容器11に開封孔16が形成されてしまうことを防止することができる。
そして、開封部材14のピン支持部21を押圧して強制圧縮した場合にのみ、包装容器11に開封孔16を形成することが可能となり、包装容器11を開封すべきタイミングを制御することが可能となり、真空断熱材30の性能の安定化を実現することができる。
【0039】
(第2実施の形態)
次に、本発明の第2実施の形態について説明する。
図7は、本発明の第2実施の形態における開封部材14の平面図である。
図8は、第2実施の形態における開封部材14の動作を示す説明図である。
【0040】
図7および
図8に示すように、第2実施の形態においては、開封部材14の弾性部材20のピン支持部21が形成された上端部の巻き部23の径が、他の巻き部23の径より小さくなるように形成されている。この巻き部23の径を小さくする範囲は、任意に設定することができるが、例えば、巻き部23の略1周分に相当する範囲の径を小さくすることが好ましい。
なお、その他の気体吸着デバイス10の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一部分には、同一符号を付してその説明を省略する。
【0041】
次に、第2実施の形態の作用について説明する。
本実施の形態においては、外被材32の内部に、芯材31および気体吸着デバイス10を収容した状態で、内部を真空状態に減圧して封止した後、ロールプレスを行うことで真空断熱材30が製造される。
【0042】
そして、本実施の形態においては、
図8に示すように、開封ピン22の長さ寸法Aと、最も圧縮した状態で弾性部材20の上端部から把持部24までの高さ寸法Bとの関係を、A<Bとし、開封部材14の弾性部材20が外力により圧縮された状態で、開封ピン22の下端部が包装容器11の非収容部15に接触しない長さに形成されている。そのため、
図8に示すように、真空断熱材30を製造している段階で、外力が加わった場合に、開封ピン22の弾性部材20は圧縮変形されるが、開封ピン22の下端部が包装容器11の非収容部15に接触してしまうことがなく、包装容器11に開封孔16が形成されてしまうことがない。
【0043】
その後、単純圧縮状態から、真空断熱材30の外被材32の外部から開封部材14のピン支持部21を押動する。
すると、
図8に示すように、弾性部材20の既に巻き部23同士が接触した部位は変形せず、最上部の小径とされた巻き部23が下方の巻き部23の内側に入り込むように変形し、これに伴ってピン支持部21も巻き部23の内側に入り込む。
これにより、開封ピン22により気体吸着デバイス10の包装容器11の非収容部15に開封孔16を形成することができる。
【0044】
本実施の形態においては、ピン支持部21に集中的に外力が加えられた際に、ピン支持部21および最上部の小径の巻き部23が下方の巻き部23の内側に入り込むように変形するので、少ない部分的外力で変形が可能となる。
このことは、外力を加えた際の真空断熱材30の外被材32の破損のリスクを大幅に低減することができるものである。
【0045】
(第2実施例)
次に、第2実施の形態における気体吸着デバイス10および気体吸着デバイス10を搭載した真空断熱材30の第2実施例について説明する。
まず、使用した気体吸着デバイス10について説明する。
気体吸着デバイス10のガスバリア性および可撓性を有する包装容器11として、アルミニウムを蒸着したPET層と、アルミニウム層と、低密度ポリエチレン層からなる複層材料を用い、アルミニウムを蒸着したPET層の厚さは12μm、アルミニウム層の厚さは6μm、低密度ポリエチレン層の厚さは50μmとした。この複層フィルム2枚を、低密度ポリエチレン層同士を対向させて配置し、周辺部を加熱して溶着することで袋状にし、容器2を形成した。
【0046】
気体吸着剤12には、ZSM-5型のゼオライトを用い、あらかじめ真空中で加熱することで吸着ガスを脱ガスし、気体が吸着できるようにした。
開封部材14は、線径1mmのステンレス線材で形成した直径20mmのコイル状のスプリングを採用した。
開封ピン22は、開封部材14の弾性部材20のピン支持部21に屈曲して一体に形成した。開封ピン22の長さ寸法をAとし、最も圧縮した状態で弾性部材20の上端部から把持部24までの高さ寸法Bとの関係を、A<Bとした。
【0047】
次に、気体吸着デバイス10を搭載した真空断熱材30について説明する。
真空断熱材30に挿入する芯材31には、グラスウールを用いた。
外被材32には、15μmのナイロン層と、25μmのナイロン層と、6μmのアルミニウム層と、50μmの低密度ポリエチレン層を重ねた複合フィルムを用い、2枚のフィルムを、低密度ポリエチレン層同士を対向させ、周縁部を熱溶着することで袋状に形成した。
気体吸着デバイス10は、開口されていない状態で芯材31の内部に配置し、外被材32の中に芯材31とともに挿入した。
次に、外被材32の内部を減圧して封止し、その後、真空断熱材30の表面平滑性と厚みを制御するために、全面に所定の厚さのロールプレスを行った。
【0048】
この第2実施例においても、第1実施例と同様に、開封ピン22の長さ寸法Aと、最も圧縮した状態で弾性部材20の上端部から把持部24までの高さ寸法Bとの関係を、A<Bとしているので、真空断熱材30を製造している段階で、外力が加わって単純圧縮状態とされた場合に、開封ピン22の弾性部材20は圧縮変形されるが、開封ピン22の下端部が包装容器11の非収容部15に接触してしまうことがなく、包装容器11に開封孔16が形成されてしまうことがない。
【0049】
その後、前述した単純圧縮の状態から、さらに外力を加えて開封部材14のピン支持部21を変形させ、開封部材14の開封ピン22を包装容器11に突き刺して開封孔16を形成した。
その後、単純圧縮状態から、真空断熱材30の外被材32の外部から開封部材14のピン支持部21を押動すると、弾性部材20の最上部の小径とされた巻き部23が下方の巻き部23の内側に入り込むように変形し、これに伴ってピン支持部21も巻き部23の内側に入り込む。
これにより、開封ピン22により気体吸着デバイス10の包装容器11の非収容部15に開封孔16を形成することができる。
【0050】
このように、真空断熱材30を製造する工程において、減圧封止を行う際に弾性部材20が単純圧縮された状態では、開封部材14の開封ピン22により開封孔16が形成されることはなく、開封部材14のピン支持部21を押圧して強制圧縮した場合にのみ、包装容器11の非収容部15に開封孔16を形成することが可能となり、包装容器11を開封すべきタイミングを制御することが可能となる。
また、単純圧縮状態からピン支持部21に集中的に外力が加えられた際に、少ない部分的外力で変形することができ、外力を加えた際の真空断熱材30の外被材32の破損のリスクを大幅に低減することができる。
【0051】
以上述べたように、第2実施の形態においては、弾性部材20のピン支持部21が形成された上端部の巻き部23の径を他の巻き部23の径より小さくなるように形成した。
これにより、単純圧縮状態からピン支持部21に集中的に外力が加えられた際に、少ない部分的外力でピン支持部21を変形することができ、外力を加えた際の真空断熱材30の外被材32の破損のリスクを大幅に低減することができる。
【0052】
(第3実施の形態)
次に、本発明の第3実施の形態について説明する。
図9は、本発明の第3実施の形態における開封部材14の概略図である。
図9に示すように、本実施の気体吸着デバイス10は、弾性部材20の巻き部23の下端部における一巻き部23と二巻き部23との間、すなわち、把持部24の間隙は、包装容器11の厚さ寸法より小さく形成されている。
その他の構成は、第2実施の形態と同様であるため同一部分には、同一符号を付してその説明を省略する。
【0053】
本実施の形態においては、弾性部材20の把持部24の間隙寸法は、例えば、0.20mmに形成されている。これに対して、包装容器11の厚さ寸法は、例えば、0.26mmとされており、把持部24の間隙寸法は、包装容器11の厚さ寸法より小さくなるように構成される。
【0054】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
本実施の形態においては、弾性部材20の把持部24の間隙を包装容器11の厚さ寸法より小さく形成することにより、把持部24により、包装容器11を弾性部材20の弾性力で強力に把持することが可能となる。
これに対して、開封部材14の製造時における製造不良などにより、把持部24の間隙寸法が包装容器11の厚さ寸法より大きく形成された場合、把持部24を包装容器11に装着した場合に、包装容器11との間に隙間が形成されてしまい、開封部材14を包装容器11に対して適正に装着することができない。
【0055】
そのため、包装容器11に対して開封部材14が固定されていれば、開封部材14が適正に製造されていると判断することができ、包装容器11から開封部材14が容易に外れてしまう場合には、把持部24の間隙寸法が不適正であり、開封部材14の製造不良であると判断することが可能となる。
そして、包装容器11に開封部材14を装着した気体吸着デバイス10を真空断熱材30の内部に配置して、真空断熱材30を製造する際に、気体吸着デバイス10の包装容器11からの開封部材14が外れてしまうことがない。そのため、開封部材14を操作して開封孔16を形成する作業を行うまで、包装容器11に開封部材14を確実に保持することが可能となる。
【0056】
以上述べたように、本実施の形態においては、把持部24の間隙を、包装容器11の厚さ寸法より小さく形成した。
これにより、把持部24により、包装容器11を弾性部材20の弾性力で強力に把持することが可能となり、包装容器11に開封部材14を装着した気体吸着デバイス10を真空断熱材30の内部に配置して、真空断熱材30を製造する際に、気体吸着デバイス10の包装容器11からの開封部材14が外れてしまうことがない。そのため、開封部材14を操作して開封孔16を形成する作業を行うまで、包装容器11に開封部材14を確実に保持することが可能となり、包装容器11に確実に開封孔16を形成することができ、真空断熱材30の性能の安定化を実現することができる。
【0057】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明に係る気体吸着デバイスは、包装容器を開口するタイミングを制御することが可能になり、真空断熱材の性能の安定化を図ることができ、真空断熱材に対する損傷の発生を防止することができる気体吸着デバイスに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 気体吸着デバイス
11 包装容器
12 気体吸着剤
13 多孔質部材
14 開封部材
15 非収容部
16 開封孔
20 弾性部材
21 ピン支持部
22 開封ピン
23 巻き部
24 把持部
30 真空断熱材
31 芯材
32 外被材