(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】組織工学医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20230113BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230113BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230113BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20230113BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230113BHJP
【FI】
A61L27/38 300
A61L27/18
C12N5/071
C12N5/078
C12N5/077
(21)【出願番号】P 2020533353
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 EP2018073076
(87)【国際公開番号】W WO2019042961
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-01
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517000047
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート チューリヒ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘルシュトルップ, サイモン ペー.
(72)【発明者】
【氏名】エマート, マキシミリアン イグレク.
(72)【発明者】
【氏名】バーイェンス, フランク
(72)【発明者】
【氏名】ドリーセン-モル, アニタ
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531610(JP,A)
【文献】Biomaterials,2012年,Vol.33,pp.4545-4554
【文献】SHEA, M.J., et al.,心臓の生物学,MSDマニュアル家庭版,2017年02月,インターネットより入手, 検索日:2022年7月4日,URL:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6/%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6
【文献】Biomaterials,2013年,Vol.34,pp.7269-7280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
A61F 2/00- 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織工学医療デバイスの作製方法であって、以下の工程:
A.)ポリマー足場を提供する工程であって、前記ポリマー足場が、ポリグリコール酸を含む基質、およびポリ-4-ヒドロキシ酪酸を含むコーティングを含む、工程;
B.)単離および増殖された細胞を含有する細胞懸濁液を前記ポリマー足場へ塗布し、それによって播種されたポリマー足場を作製する工程;
C.)前記播種されたポリマー足場をバイオリアクター中に設置し、漸増的強度のパルス流動へさらすことによって機械的に刺激し、それによって細胞外マトリックスを含む組織工学医療デバイスを形成する工程;
D.)前記組織工学医療デバイスを導管スタビライザー上に取り付け、静的条件下で細胞培養培地中においてインキュベーションする工程;
E.)前記組織工学医療デバイスを界面活性剤を含む洗浄溶液中で脱細胞化する工程;
F.)前記組織工学医療デバイスをヌクレアーゼ処理する工程;
G.)前記組織工学医療デバイスをすすぐ工程、
を含む、方法。
【請求項2】
工程A.)が、以下の工程:
ポリマー足場のための基質としてのポリグリコール酸を含むメッシュを提供する工程;
第1のコーティング工程において、ポリ-4-ヒドロキシ酪酸を含有する溶液で
、前記メッシュをコーティングする工程;
前記ポリマー足場を滅菌する工程;および
前記ポリマー足場を、細胞培養培地中
でインキュベーションする工程、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項3】
前記組織工学医療デバイスが、血管移植片であり、前記第1のコーティング工程後かつ滅菌の前に、以下の工程:
前記コーティングされたメッシュを管へ成形し
、前記メッシュの辺縁を固定し、それによって管状ポリマー足場を形成する工程;
第2のコーティング工程において
、ポリ-4-ヒドロキシ酪酸を含有する溶液で、前記管状ポリマー足場
をコーティングする工程、
を含むことを特徴とする、請求項2に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項4】
工程B.)において、前記細胞懸濁液中に含有される前記細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、単核細胞および内皮前駆細胞からなる群から選択されるヒト細
胞であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項5】
工程B.)において、単離および増殖された細胞を含有する前記細胞懸濁液が、前記管状ポリマー足場の内側表面へのみ塗布されることを特徴とする、請求項3に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項6】
工程B.)において、少なくとも50万~500万細胞/cm
2
が、前記ポリマー足場上に播種されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項7】
工程B.)において塗布される前記細胞懸濁液が、以下の工程:
線維芽細胞、間葉系幹細胞、単核細胞および内皮前駆細胞からなる群から選択されるヒト細
胞を単離する工
程;
前記単離細胞
を増殖させる工程;
前記単離細胞を採取する工程;
ゲル化剤を含
む細胞担体溶液を前記単離細胞に添加することによって、細胞懸濁液を形成する工
程、
のうちの少なくとも1
つを含む方法によって調製されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項8】
前記方法が、前記組織工学医療デバイスをすすぐ工程後に、以下の工程:
前記組織工学医療デバイスを凍結乾燥する工程;
前記組織工学医療デバイスをパッケージングする工程;
前記組織工学医療デバイス
を滅菌する工程、
のうちの少なくとも1
つを、さらに含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項9】
前記方法が、工程中の品質管理の以下の工程:
前記ポリマー足場中のP4HBの含有量を測定する工程であって、ここで、前記ポリマー足場中のP4HBの含有量の判定基準が、前記ポリマー足場中のP4HBの前記含有量が、5~95%(w/w
)の範囲内である、工程;
前記ポリマー足場の前記メッシュ上でのP4HBの均一な沈着を確実にする工程;
細胞同一性、増殖、生存率および無病原体に関して、前記ポリマー足場上に播種される細胞を播種の前に検査する工程;
前記細胞懸濁液の凝固時間を管理する工程;
前記ポリマー足場上に播種される前記細胞の数を管理する工程;
前記ポリマー足場への前記細胞の均一な塗布を管理する工程;
前記バイオリアクター中の培地組成を管理する工程;
前記バイオリアクター中の各々の培地交換時に乳酸値を管理する工程;
前記バイオリアクター中の細胞外マトリックスの形成
を管理する工程、
のうちの1つまたは複
数をさらに含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項10】
前記ポリマー足場上に播種される前記細胞の、播種前の前記品質管理中に、前記細胞同一性がフローサイトメトリーにより測定され、および/または、増殖能が倍加時間の測定によって求めら
れる、請求項9に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項11】
前記方法が、少なくとも1つの、前記完成した組織工学医療デバイスの品質管理の工程をさらに含むことを特徴とする方法であって、ここで、前記完成した組織工学医療デバイスに対して、以下の品質管理の工程:
滅菌性を検証する工程;
エンドトキシン含有量を測定する工程;
マイコプラズマ含有量を測定する工程;
残留DNA含有量を測定する工程;
残留水分含有量を測定する工程;
ポリマー含有量を測定する工程;
ヒドロキシプロリン含有量を測定する工程;
タンパク質含有量測定する工程であって
、細胞外マトリックスタンパク
質の含有量の測定によって行われる、工程;
厚さを測定する工
程;
縫合糸保持力試験の工
程;
引張強さ試験の工
程;
破壊圧力試験の工
程;
のうちの少なくとも1
つが実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項12】
工程A.)が、以下の工程:
ポリマー足場のための基質としてのポリグリコール酸を含むメッシュを提供する工程;
第1のコーティング工程において、ポリ-4-ヒドロキシ酪酸を含有する溶液で、浸漬コーティングによって、前記メッシュをコーティングする工程;
エチレンオキシド処理によって、前記ポリマー足場を滅菌する工程;および
前記ポリマー足場を、細胞培養培地中で12~72時間インキュベーションする工程、
を含むことを特徴とする、請求項2に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項13】
少なくとも60℃へ加熱することによって、前記メッシュの辺縁を固定し、それによって管状ポリマー足場を形成する、請求項3に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項14】
第2のコーティング工程において、ポリ-4-ヒドロキシ酪酸を含有する溶液で、前記管状ポリマー足場を、前記管の外側上だけに、コーティングする工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項15】
第2のコーティング工程において、噴霧コーティングによってコーティングする工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項16】
工程B.)において、前記細胞懸濁液中に含有される前記細胞が、骨髄、血液、脂肪組織、羊水、絨毛膜絨毛、臍帯マトリックスおよび臍帯血からなる群から選択されるソースに由来するヒト細胞であることを特徴とする、請求項4に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項17】
工程B.)において、前記細胞懸濁液中に含有される前記細胞が、ヒト臍帯静脈に由来するヒト線維芽細胞であることを特徴とする、請求項4に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項18】
工程B.)において、200万~400万細胞/cm
2
が、前記ポリマー足場上に播種されることを特徴とする、請求項6に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項19】
工程B.)において塗布される前記細胞懸濁液が、以下の工程:
線維芽細胞、間葉系幹細胞、単核細胞および内皮前駆細胞からなる群から選択されるヒト細胞である前記細胞を単離する工程であって、前記細胞が骨髄、血液、脂肪組織、羊水、絨毛膜絨毛、臍帯マトリックス、臍帯血からなる群から選択されるソースに由来する細胞である、工程;
前記単離細胞を少なくとも1つの培養容器中で5~8日間増殖させる工程;
前記単離細胞を採取する工程;
ゲル化剤を含む担体溶液を前記単離細胞に添加することによって、細胞懸濁液を形成する工程、
のすべてを含む方法によって調製されることを特徴とする、請求項7に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項20】
前記細胞懸濁液を、フィブリノーゲンおよび精製トロンビンを含む細胞担体溶液を前記単離細胞に添加することによって形成し、ここで、精製フィブリノーゲンを前記単離細胞へ最初に添加し第1の細胞懸濁液を形成し、次いで、前記第1の細胞懸濁液に精製トロンビンを添加し、後に工程B.)における前記ポリマー足場への塗布に前記細胞懸濁液として供される第2の細胞懸濁液を形成することにより前記細胞懸濁液を形成する、請求項7に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項21】
前記方法が、以下の工程:
前記組織工学医療デバイスを凍結乾燥する工程;
前記組織工学医療デバイスをパッケージングする工程;
前記組織工学医療デバイスをエチレンオキシド処理によって滅菌する工程、
のすべてを、さらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項22】
前記方法が、工程中の品質管理の以下の工程:
前記ポリマー足場中のP4HBの含有量を測定する工程であって、ここで、前記ポリマー足場中のP4HBの含有量の判定基準が、前記ポリマー足場中のP4HBの前記含有量が、5~95%(w/w)の範囲内である、工程;
前記ポリマー足場の前記メッシュ上でのP4HBの均一な沈着を確実にする工程;
細胞同一性、増殖、生存率および無病原体に関して、前記ポリマー足場上に播種される細胞を播種の前に検査する工程;
前記細胞懸濁液の凝固時間を管理する工程;
前記ポリマー足場上に播種される前記細胞の数を管理する工程;
前記ポリマー足場への前記細胞の均一な塗布を管理する工程;
前記バイオリアクター中の培地組成を管理する工程;
前記バイオリアクター中の各々の培地交換時に乳酸値を管理する工程;
前記バイオリアクター中の細胞外マトリックスの形成を、質量分析によって、好適なマーカーとしてヒトプロコラーゲンI型のC末端プロペプチドを使用することによって、管理する工程、
のすべてをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項23】
増殖能が倍加時間の測定によって求められ、前記倍加時間についての判定基準が100時間未満である、請求項10に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項24】
前記方法が、少なくとも1つの、前記完成した組織工学医療デバイスの品質管理の工程をさらに含むことを特徴とする方法であって、ここで、前記完成した組織工学医療デバイスに対して、以下の品質管理の工程:
滅菌性を検証する工程;
エンドトキシン含有量を測定する工程;
マイコプラズマ含有量を測定する工程;
残留DNA含有量を測定する工程;
残留水分含有量を測定する工程;
ポリマー含有量を測定する工程;
ヒドロキシプロリン含有量を測定する工程;
タンパク質含有量測定する工程であって、フィブロネクチン、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-2(VI)鎖からなる群から選択されるタンパク質のうちの少なくとも1つの含有量の測定によって;および/または、スーパーオキシドジスムターゼ、60S酸性リボソームタンパク質P2、インテグリンα5からなる群から選択されるタンパク質のうちの少なくとも1つの含有量の測定によって行われる、工程;
顕微鏡分析によって、乾燥形態および/または水で戻した形態で、厚さを測定する工程であって、ここで、前記脱細胞化された組織工学医療デバイスの厚さのための判定基準が、乾燥形態で0.1~0.6mmおよび/または水で戻した形態で0.15~0.7mmの範囲である、工程;
縫合糸保持力試験の工程であって、ここで、判定基準が、前記組織工学医療デバイスが0.5Nを超えて耐えることである、工程;
引張強さ試験の工程であって、ここで、判定基準が、前記組織工学医療デバイスが0.5MPaを超えて耐えることである、工程;
破壊圧力試験の工程であって、ここで、判定基準が、前記組織工学医療デバイスが150mmHgを超える圧力に耐えることである、工程;
のすべてが実施される、請求項11に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項25】
前記細胞が骨髄、血液、脂肪組織、羊水、絨毛膜絨毛、臍帯マトリックス、臍帯血からなる群から選択されるソースに由来する、請求項7に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【請求項26】
前記単離細胞がヒト臍帯静脈に由来するヒト線維芽細胞である、請求項7に記載の組織工学医療デバイスの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織置換介入等の治療の用途における使用、特に心血管への用途における使用のための組織工学医療デバイスの作製に関する。本医療デバイスは、生分解可能な合成足場とヒト細胞または動物細胞から増殖された組織工学による細胞外マトリックスとのハイブリッド構造を含む。
【背景技術】
【0002】
組織工学による構成物は、損傷した組織更には器官の修復または置換における補綴物として有用である。心血管の外科手術において、先天性疾患または例えばカルシウム沈着および変性に起因する不全組織を置換するための移植片、パッチおよび弁の必要性は高い。軟組織修復のため現在使用されている材料は、非分解性合成移植片または同種/異種由来の固定組織のいずれかであり、それゆえ進行性の機能障害変性、疾患伝播についてのリスク、および再生能の欠如が本質的に付随する。これらの欠点のために、若い患者集団における幅広い使用が制限されたり、複数回の再手術が必要とされたりする。非分解性合成ポリマー構成物は、移植後に感染、カルシウム沈着または炎症のリスクを生じる。分解可能な合成ポリマーは、組織培養足場としての広い有用性が見出されてきたが、分解性ポリマーの断片は炎症反応を引き起こし得る。あるいは、非ヒト(例えばウシまたはラット)コラーゲンのゲルまたはメッシュの足場では、引張強さが限定され、ヒト患者への移植後の汚染または免疫原性反応のリスクを伴う。
【0003】
生分解可能な足場マトリックスは、足場が新組織によって置換されるまで、細胞の増殖および細胞外マトリックス沈着のための一時的マトリックスの役目を務めることによって、インビトロの組織工学アプローチの土台を形成するために使用される。組織工学による生きた代替物が生育する一方で、生体適合性のある足場は、理想的には身体の中で残存物を残さずに分解される必要がある。PGAは予測可能な時点で(一般に)生体適合性のある構成要素へと分解するので、最も一般的に使用される。そのうえ、PGAメッシュの高多孔性は、良好な拡散、新血管形成および細胞浸潤を可能にする(非特許文献2)。残念なことに、PGAメッシュは数週間内に迅速に生分解されるため、材料に及ぼされる機械的な力に耐えて、長い培養期間にわたってバイオ工学によって作られた構成物の形状をガイドすることができない(非特許文献2及び3)。このため、ゆっくり分解するポリマーの形状記憶および機械的安定性を、PGA等のポリマーの速い分解特性と組み合わせるためにハイブリッドポリマーがデザインされた(非特許文献4)。例えば、P4HB(ポリ-4-ヒドロキシ酪酸)、PLAまたはPGA等のポリマーとPGAの組み合わせが検討された(非特許文献5及び6)。化学合成されるPGAとは異なり、P4HBは微生物によって天然に生成され、合成をより困難にする(非特許文献7)。生体内への移植後に、P4HBは主にバルク加水分解によって分解し、哺乳動物の身体の正常な構成要素である4HBを生成する(非特許文献8)。1998年に、Shinoka等は、子羊における組織工学血管移植片の外科移植を報告し、そこでは、足場はPGA移植片上へ播種した自己由来細胞から構成されていた(非特許文献9)。
【0004】
心臓弁および血管組織工学の両方について、P4HBコーティングされたPGAメッシュ、すなわちP4HBの熱可塑性特徴とPGAメッシュの高多孔性の組み合わせ、の使用が集中的に調査され、インビトロおよび前臨床研究で有望な結果をもたらした(非特許文献10,11及び12)。2006年に、Hoerstrup等は、成長中の子羊モデルにおいて、PGA/P4HB足場上に播種した血管細胞から組織工学によって作製された、生きていて、作動できる肺動脈の最初のエビデンスを提供した(非特許文献5)。
【0005】
脱細胞化された異種および同種の移植片による予備的試みは、前臨床試験および臨床試験において限定的な宿主細胞再増加のみを示しているが、自己修復およびリモデリング能力を備え、組織工学によって作製された生きた自己由来心臓弁の概念は、かかる限定を克服する有望な代替物として提案されている。
【0006】
インビトロの組織工学のアプローチに従えば、それらの天然の置換対象に類似する自己由来の生きた心血管置換物の製作の成功は、以下の3つの主な要素に依存する:1)表現型および機能性においてそれらの天然の置換対象に類似する自己由来細胞、2)自己由来細胞によって生成された細胞外マトリックスが単独で機能性を確保するまで、組織の強度を増進する生体適合性のある一時的な支持マトリックス、および3)生理的環境に類似するインビトロの条件、すなわちインビトロおよびインサイチュで組織形成を支持する、好適な生化学的な(例えば増殖因子)および物理的な(例えば周期的機械的荷重)刺激、によって、組織形成および成熟を可能にする培養条件。しかしながら、細胞採取、細胞増殖、足場上での播種、バイオリアクターのインビトロ培養、およびデリケートな生きた組織工学自己由来移植片の緊急を要する移植コーディネーション等の複雑な多工程の手順を含む、この「古典的な」組織工学の概念は、高度な物流面および経済面での尽力を必要とする。
【0007】
脱細胞化された心臓弁に基づくごく少数の予備的研究(非特許文献14及び15)以外に、臨床ルーチンにおいて心臓弁の組織工学の概念を適用できるという体系的なエビデンスは、これまで報告されていない。
【0008】
特許文献1は、分解性ポリマー足場上に播種され、増殖した細胞から組織工学動脈の生産物を開示する(非特許文献16も参照)。しかしながら、ここでは、対象とするレシピエントからの自己由来血管の生検が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Langer, R. & Vacanti, J. P. Tissue Engineering. Science 260, 920-926, doi:DOI 10.1126/science.8493529 (1993).
【文献】Asti, A. & Gioglio, L. Natural and synthetic biodegradable polymers: different scaffolds for cell expansion and tissue formation. Int J Artif Organs 37, 187-205, doi:10.530/ijao.5000307 (2014).
【文献】Dunn, A. S., Campbell, P. G. & Marra, K. G. The influence of polymer blend composition on the degradation of polymer/hydroxyapatite biomaterials. J Mater Sci Mater Med 12, 673-677 (2001).
【文献】Sugiura, T. et al. Tropoelastin inhibits intimal hyperplasia of mouse bioresorbable arterial vascular grafts. Acta Biomater 52, 74-80, doi:10.1016/j.actbio.2016.12.044 (2017).
【文献】Mol, A. et al. Autologous human tissue-engineered heart valves: prospects for systemic application. Circulation 114, I152-158, doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.105.001123 (2006).
【文献】Weber, B. et al. Injectable living marrow stromal cell-based autologous tissue engineered heart valves: first experiences with a one-step intervention in primates. Eur Heart J 32, 2830-2840, doi:10.1093/eurheartj/ehr059 (2011).
【文献】Li, H., Du, R. & Chang, J. Fabrication, characterization, and in vitro degradation of composite scaffolds based on PHBV and bioactive glass. J Biomater Appl 20, 137-155, doi:10.1177/0885328205049472 (2005).
【文献】Chen, G. Q. & Wu, Q. The application of polyhydroxyalkanoates as tissue engineering materials. Biomaterials 26, 6565-6578, doi:10.1016/j.biomaterials.2005.04.036 (2005).
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【文献】Schmidt, D., Stock, U. A. & Hoerstrup, S. P. Tissue engineering of heart valves using decellularized xenogeneic or polymeric starter matrices. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 362, 1505-1512, doi:10.1098/rstb.2007.2131 (2007).
【文献】Hoerstrup, S. P. et al. Functional living trileaflet heart valves grown in vitro. Circulation 102, III44-49 (2000).
【文献】Weber, B. et al. Off-the-shelf human decellularized tissue-engineered heart valves in a non-human primate model. Biomaterials 34, 7269-7280, doi:10.1016/j.biomaterials.2013.04.059 (2013).
【文献】Hoerstrup, S. P. et al. Living, autologous pulmonary artery conduits tissue engineered from human umbilical cord cells. Ann Thorac Surg 74, 46-52; discussion 52 (2002).
【文献】Hoerstrup, S.P. et al. Early failure of the tissue engineered porcine heart valve SYNERGRAFT in pediatric patients. Eur. J. Cardiothorac. Surg. 2003; 23:1002-6.
【文献】Agrawal C.M. et al., Biodegradable polymeric scaffolds for musculoskeletal tissue engineering. J. Biomedic. Mat. Res. 2001; 55:141-50.
【文献】Niklason et al., Functional arteries grown in vitro, Science, 1999; 284: 489-93.
【文献】D. Schmid, S.P. Hoerstrup, “Tissue engineered heart valves based on human cells”, Swiss Med. Wkly. 2005; 135: 618-623.
【特許文献】
【0010】
【0011】
したがって、開始材料として、対象とするレシピエントのいかなるヒトまたは動物の生検をも必要としないで、安全で、確立され、制御され、そして豊富に利用可能な同種のヒト細胞または動物細胞起源に基づく、多数の市販品として利用可能な組織工学医療デバイス、特に心血管移植片を作製する方法を提供することが望ましい。利点として、想定された組織工学医療デバイスは、長期の保存可能期間を有し、様々なサイズおよび形状で利用可能である。想定された産物は利点として完全に生分解可能であり、宿主の細胞による生体の様な細胞への迅速な再増殖を可能にし、自己修復および再生能を提供し、重要なことに、体の成長になじむものである。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、特に心血管適用のための、組織置換物として脱細胞化された同種組織工学マトリックスを作製する革新的なアプローチを提案するものであって、示唆される方法は、市販品としての利用可能性および再現性を付与することによって、作製プロセスを単純化し短縮するという点で、ならびに移植後の感染または炎症および免疫反応のリスクを最小限にするという点で、先行技術の短所を克服する。
【0013】
足場作製:
本発明は、以下の工程を含む、組織工学医療デバイス(TEMD)の作製方法に関する。
・最初に、基質、好ましくはポリグリコール酸(PGA)を含むメッシュ、好ましくは不織PGAメッシュが、ポリマー足場のための開始材料として提供される。代替材料は、それらが十分な細胞の内方成長のために必要な同等の多孔質構造を提供する限り、使用可能である。おそらく、ポリ乳酸(PLA)をさらに含むPGAメッシュもこれらの要求を満たし得る。
・第1のコーティング工程において、メッシュ、好ましくは不織PGAメッシュは、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)の一種であるポリ-4-ヒドロキシ酪酸(P4HB)を含有する第1のコーティング溶液を使ってコーティングされる。好ましくは、第1のコーティング溶液は、P4HBの、例えばテトラヒドロフラン(THF)等の非極性溶媒中の低パーセンテージの溶液であって、P4HB含有量は、好ましくは0.5%~2%、より好ましくは約1%である。この第1のコーティング工程は、第1のコーティング溶液中でのメッシュの浸漬コーティングによって好ましくは実施されるが、例えば噴霧コーティング等の他のコーティング方法も使用可能である。生分解可能なP4HBは、最終的な産物(細胞外マトリックス以外、以下参照)における、移植直後の血圧に耐えるために必要である機械的安定性をもたらすが、PGAは以下に記載されるようにバイオリアクター段階中に大部分既に分解されている。PLAは、PGAメッシュの代用コーティングとして使用可能である。
・第1のコーティング工程に続いて、コーティングされたメッシュは、好ましくは溶媒を蒸発させるために数時間風乾される。
・作製される組織工学医療デバイスが血管移植片(または、その上/その中に生育させた組織工学心臓弁をさらに含む血管移植片)である場合、コーティングされたメッシュは第1のコーティング工程後に、次いで管または中空円筒に形成される。このために、メッシュは好ましくは例えば要求される寸法を備えた金属製円筒等の型の周囲に巻かれる。次いで、辺縁部は、好ましくは2つの辺縁を重ね合わせ、そして例えばはんだごて使用等で少なくとも60℃、好ましくは約80℃へ重なった辺縁を加熱することによって固定される。これによって、P4HBは融点60度の熱可塑性物質であるので、それ自体融合要素として使用される。このことは、管状ポリマー足場が全部生分解可能な物質から構成されるという利点を有する。管または中空円筒の辺縁固定の方法には、分子間ポリマー結合に加えて、他に糊付け、針通しおよび織りがある。管の直径は可変であり、したがって、開始材料として異なるパッチサイズのメッシュの選択によって、TEVGが移植される対象となる管(血管タイプおよび患者サイズによる)に応じて調整可能である。管状ポリマー足場の望ましい放射状直径は、小児大静脈肺動脈吻合術のための移植片の場合、1.0~2.5cm、より好ましくは1.2~1.8cm、最も好ましくは約1.6cmである。
・管状ポリマー足場の場合、第2のコーティング工程が実施される。この第2のコーティング工程において、管状ポリマー足場は、好ましくは低パーセンテージのP4HBを含有する溶液、含有量は好ましくは1~3%、より好ましくは約2%のP4HB、によりコーティングされる。好ましくは、管状ポリマー足場は、管状ポリマー足場の外側(外皮)表面に沿っているその外側面上にのみコーティングされる。このために、管状ポリマー足場は、好ましくは保持デバイス上に取り付けられる。この第2のコーティング工程は、好ましくは噴霧コーティングによって実施され、好ましくは例えばエアブラシピストル等の噴霧デバイスが使用される。この工程は、コーティングの望ましい厚さに応じて、複数回反復することができる。好ましくは、第2のコーティング工程において、管状ポリマー足場の外側表面の噴霧コーティングは3回実施される。好ましくは、管状ポリマー足場中のP4HBの最終的な含有量は、5%~95%(w/w)(重量パーセント)、より好ましくは20~50%、さらにより好ましくは22~45%、および最も好ましくは24~32%(w/w)(重量パーセント)である。含有量は、好ましくは第1のコーティング工程の前、そして適用される場合には第2のコーティング工程後に、足場の重量を計量することによって決定される。
・次いで(管状であっても管状でなくても)、コーティング後に、ポリマー足場は、好ましくはエチレンオキシド処理によって滅菌される。アルコール処理および/または放射線処理は、追加または代替の滅菌工程として選択することができる。
・コーティングおよび滅菌後に、ポリマー足場は細胞培養培地中で、播種の前に平衡化目的のために好ましくは12~72時間、好ましくは後続の細胞接着を促進するためにインキュベーションされる。
【0014】
望ましい多孔質構造を備え、望ましい特性(品質管理に関して、以後にさらに列挙されるような)を示すポリマー足場は、上述の作製およびコーティング方法を使用して得られる。さらに、前記ポリマーを使用する付加製造等の技法およびFDM(熱溶解積層法)またはメルトエレクトロライティング等の代替方法を使用して、それぞれの構造的および組織分布的特性を備えた、前記寸法のポリマー足場を作製することができる。
【0015】
好ましくは上述の工程に従って作製およびコーティングされた、P4HBによりコーティングされたPGAメッシュのポリマー足場の形態での開始マトリックスは、容易に得られ、すなわち「市販品として」購入され、基質として組織工学医療デバイスの作製のために使用することができる。
【0016】
細胞の単離、増殖および播種:
本発明による組織工学医療デバイスの作製において、単離および増殖されたヒト細胞を含有する細胞懸濁液は、ポリマー足場へ塗布、すなわちポリマー足場上に播種される。細胞および細胞の担体溶液を含む、かかる細胞懸濁液の作製はさらに以下に記載される。
【0017】
ポリマー足場上に播種するために好ましく使用される細胞は、好ましくは線維芽細胞、筋線維芽細胞、間葉系幹細胞、単核細胞および内皮前駆細胞からなる群から選択される、ヒト細胞である。ヒト細胞は、好ましくは骨髄、血液、脂肪組織、羊水、絨毛膜絨毛、臍帯マトリックス、臍帯血からなる群から選択されるソースに由来する。より好ましくは、ポリマー足場上に播種するために使用されるヒト細胞は、ヒト線維芽細胞、最も好ましくはヒト臍帯静脈(静脈組織)に由来するヒト線維芽細胞である。線維芽細胞の代替ソースとしては、包皮、真皮、大動脈/伏在静脈、末梢動脈などが挙げられるがこれらに限定されない(心臓弁組織工学のために特に有利で好適な細胞タイプは、非特許文献17中に列挙される)。樹立細胞株からの細胞も使用され得る。
【0018】
ヒト細胞の代替物として、動物細胞が、細胞懸濁液の作製のために同等の組織ソースから利用することができる。
【0019】
好ましくは、少なくとも8000万細胞、好ましくは1億~1億3000万細胞、より好ましくは1億1500万±1200万細胞が、細胞担体溶液内のポリマー足場上に播種される。ポリマー足場上の細胞の好ましい密度は、50万~500万細胞/cm2、より好ましくは200万~400万細胞/cm2、最も好ましくは220万~330万細胞/cm2の間である。
【0020】
上述のように、細胞を購入、すなわち既に単離された形で得ることが可能である。別のソースから入手または購入しない場合、ポリマー足場の播種のための細胞の供与は、好ましくは本発明のさらなる態様による組織工学医療デバイス(TEMD)の作製方法の一部でもある。足場の播種の目的のために最初に細胞が単離されなければならない事例において、本発明に従ってTEMDを作製する方法は、好ましくは線維芽細胞、間葉系幹細胞、単核細胞、および内皮前駆細胞からなる群から選択されるヒト細胞の単離をさらに含み、ヒト細胞は、好ましくは骨髄、血液、脂肪組織、羊水、絨毛膜絨毛、真皮、臍帯マトリックス、臍帯血からなる群から選択されるソースに由来する。ポリマー足場の播種のために使用されるヒト細胞は、
・好ましくはヒト臍帯静脈(血管壁組織)、真皮、包皮、大動静脈、伏在静脈、または末梢動脈のうちの1つに由来する;より好ましくはヒト臍帯静脈に由来する、線維芽細胞;
・好ましくは骨髄、脂肪組織、羊水、絨毛膜絨毛、臍帯マトリックス、または臍帯血に由来する、間葉系幹細胞;
・好ましくは骨髄に由来する、単核細胞;
・好ましくは血液、羊水、または臍帯血に由来する、内皮前駆細胞;
・好ましくは大動脈、臍帯静脈、または臍帯の他の組織(例えばワルトン膠質)に由来する、筋線維芽細胞
からなる群から好ましくは選択される。
【0021】
細胞は選択培地によって選択され、組織培養プレートに接着する。細胞は、フローサイトメトリーによって適切な細胞表面マーカーにより同定される。次いで細胞は増殖させられ、そこで、100時間未満の倍加時間は、病原体フリーの要求に加えて、好ましい品質管理基準として役立つ。好ましくは、同属の細胞が使用される。自己由来アプローチとは異なり、組織工学プロセスは患者非依存性であり、したがってセルバンクを設置することができ、最適の細胞ソースが選ばれる。
【0022】
任意に、マスターセルバンク(MCB)は、単離細胞を増殖し、複数および同一のアリコートで冷凍保存することによって形成することができる。1回の臍帯生検による臍帯静脈からの線維芽細胞の単離の場合、市販品として入手可能なおよそ700のTEMDを作製するのに十分なMCBを設置することができる。MCBの事例において、MCBから所望の細胞のアリコートを解凍し、さらに培養し、次いで複数および同一のアリコートで細胞を冷凍保存してワーキングセルバンクを設置することにより、ワーキングセルバンク(WCB)はMCBから得ることができる。
【0023】
購入するか、樹立細胞株から採取するか、または本発明によるTEMDの作製の過程で単離するかにかかわらず、単離細胞は細胞懸濁液の作製のために使用される。
【0024】
いずれの場合も、単離ヒト細胞は、好ましくは培養容器中で好ましくは5~8日間増殖されなければならない。
【0025】
好ましくは、細胞の分化表現型が失われることのリスクを最小限にするために、低い継代数(好ましくは第五継代細胞(P5)よりも前、より好ましくは第三継代細胞(P3)よりも前)の細胞が採取され、ポリマー足場上へ播種するために使用される。1つの医療デバイス(移植片)あたり7000万~1億8000万細胞、好ましくは1億~1億3000万細胞、最も好ましくは約1億1500万の細胞を播種するのに十分な細胞数に培養した後に、増殖させたヒト細胞が採取される。ポリマー足場上に播種するために、好ましくは20×106細胞/ml~60×106細胞/mlの間、より好ましくは35×106細胞/ml~45×106細胞/mlの間、および最も好ましくは約41×106細胞/mlが使用される。
【0026】
採取された細胞を使用して、好ましくはゲル化剤を含む、細胞担体溶液を単離ヒト細胞へ添加することによって、細胞懸濁液を作製する。細胞担体溶液は、好ましくは精製トロンビンおよび精製フィブリノーゲンを含有する。好ましくは、最初に精製フィブリノーゲンを単離ヒト細胞へ添加することによって細胞懸濁液を作製して第1の細胞懸濁液とし、そして、第2の工程において精製トロンビンを第1の細胞懸濁液へ添加し、ポリマー足場上へ播種するための第2の細胞懸濁液を作製する。トロンビンの添加直後に凝固が起こり、細胞のポリマー足場への接着をもたらす。細胞担体溶液添加後の細胞懸濁液の好ましい凝固時間は5~8分であり、好ましくはポリマー足場上に細胞懸濁液を播種する前に調整される。
【0027】
組織工学血管移植片の作製用等の管状ポリマー足場の場合、好ましくは、その作製について以下で記述の細胞懸濁液は、管状ポリマー足場の内側表面上へのみ塗布/播種される。このために、細胞は、中空円筒として形成される管状ポリマー足場の内側表面に沿って均一な様に播種され、基質上に細胞懸濁液の均一な分布をもたらす。細胞の均一な播種は、管状ポリマー足場を両開放端で一時的にふさぎ、細胞懸濁液で充填し、次いで、細胞培養培地で充填した円筒容器中で回転させることでも達成することができる。
【0028】
播種後で、バイオリアクター中でのインキュベーションの前に、播種されたポリマー足場は、後述のようにバイオリアクター段階におけるものと同じ細胞培養培地中で、12~48時間、より好ましくは16~24時間、好ましくは静的条件でインキュベーションされる。
【0029】
バイオリアクター段階:
ポリマー足場上への細胞懸濁液の播種後、本発明によってTEMDを作製する方法は、以下の工程を含む。
・播種されたポリマー足場は、バイオリアクター中に置かれ、漸増強度のパルス流動へさらすことによって機械的刺激を与えられる。好ましくは、この「コンディショニング工程」中の機械的刺激は、10~30日にわたって、好ましくは15~25日にわたって、最も好ましくは16~20日にわたって、実施される。バイオリアクターにおける残留継続期間が短すぎる場合、不十分な組織が発達し、残留継続期間が長すぎる場合、導管は収縮し始める(目視管理)。好ましくは、培養培地は、アスコルビン酸、すなわちビタミンCを、好ましくは約0.0225%v/v(体積/体積)含有し、より好ましくは、バイオリアクター中の培養培地は、アスコルビン酸が添加されるということを除いて、細胞増殖中に使用される培養培地と同じとする。本発明の方法の好ましい実施態様によれば、バイオリアクター内部の培養培地は、決まった間隔、好ましくは1週間に2回、交換される。このバイオリアクター段階において播種された足場が生理的条件に耐えるように慣らされまたは調整され、その結果、本発明の組織工学医療デバイスが作製される。バイオリアクター中にTEMDが存在する間に、細胞外マトリックス(ECM)が形成される。細胞性能、したがってTEMD上でのECM形成は、バイオリアクター段階中にモニターされる。このために、さらに以下に列挙されるように、培地組成および乳酸値が管理される。
・次いで、TEMDがバイオリアクターから取り出される。
・バイオリアクターからのTEMDの取り出し後に、TEMDはスタビライザー上に取り付けられる。管状ポリマー足場に基づくTEMDの場合、スタビライザーは好ましくは円柱形状を有する導管スタビライザーである。バイオリアクター段階中、TEMDは収縮する傾向を有し、それはECMの形成に起因する可能性が最も高い。したがって、スタビライザー上への取り付けは、バイオリアクターにおけるコンディショニング段階中に起こった可能性のある「収縮」後に、TEMDを元の形状に回復させるのに有用である。TEMDは次いで、好ましくはスタビライザー上で、静的条件下で、細胞培養培地中で好ましくは12~36時間インキュベーションされ、ここで、細胞培養培地は、好ましくはバイオリアクター中のものと同じ組成を有する。
【0030】
脱細胞、ヌクレアーゼ処理およびすすぎ:
・形状回復後に、TEMDは脱細胞化される。脱細胞化中に、例えばTriton-X等の界面活性剤を含む洗浄溶液を使用して、細胞は溶解され、除去される。好ましくは、洗浄溶液は、リン酸緩衝食塩水(PBS)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、Triton X-100、およびデオキシコール酸ナトリウムを含有する。より好ましくは、洗浄溶液は、PBS、0.68mMのEDTA、0.25%(v/v)のTriton X-100、および0.25%(w/w)のデオキシコール酸ナトリウム、を含有する。洗浄溶液のストリンジェンシーは、バイオリアクター段階中に細胞によって生成された細胞外マトリックスは維持されるが、可溶性で望まれない細胞構成要素が除去されるように選択される。
・次いで、TEMDにヌクレアーゼ処理を行う。この酵素分解は、TEMDからのDNAの除去に役立つ。このために、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼを使用することができる。好ましくは、ベンゾナーゼがDNA分解のために使用される。最小のDNA残部のみが残ることを確実にするために、残留DNA含有量測定の品質管理工程が、後述のように完成産物に対して実施される。
【0031】
脱細胞およびヌクレアーゼ処理の工程には、第1に、同種の細胞がTEMDの作製のために使用されるので、免疫原性が低減されるという利点がある。第2に、生きた細胞が最終的なTEMD上に残らないので、最終的な産物を滅菌することができ、これは感染のリスクを低減し、患者のために有益である。第3に、最終的な産物は、凍結乾燥され、詰められ、保存され、したがって「市販品」の様式で提供される。
・本発明によるTEMD作製の最終工程において、TEMDを、すすぎ溶液中、好ましくはPBS中ですすぎ、次いで脱イオン水(ddH2O)中ですすいで、塩を除去する。次いでTEMDは、好ましくは後の使用のためにフィルターキャップ付きの管へ移される。
【0032】
凍結乾燥、パッケージングおよび滅菌:
TEMDのすすぎに続いて、本発明による方法は、好ましくは以下の工程のうちの少なくとも1つ、より好ましくはすべてを含む。
・TEMDから水を除去する、すなわちTEMDを乾燥するために、TEMDに凍結乾燥処理(すなわち冷凍乾燥)を行う。このために、TEMDは、好ましくは汚染のリスクを低減するためにフィルター蓋付きの閉管中で凍結乾燥される。例えば結晶形成に起因する材料の損傷を防止するために、最適な凍結乾燥プログラムが必要である。凍結乾燥は、好ましくは
図6のプログラムにより実施される。凍結乾燥は、完全に乾燥した状態でのTEMDの保存を可能にし、保存および輸送をより容易にする。
・さらに、TEMDがパッケージングされる。好ましくは、機械的損傷、汚染および液体または湿度からTEMDを十分に保護するために、凍結乾燥したTEMDは、例えば減菌袋、管、ブリスターパッケージングなどの中で二重パッケージングされる。
・最後に、TEMDに滅菌工程を実施し、これは好ましくはエチレンオキシド処理によって実現される。エチレンオキシドは水と反応し得るので、産物が凍結乾燥されているならば、これはより容易である。代替の滅菌処理はエタノール処理が挙げられる。しかしながら、このより侵襲性である処理方式は、材料損傷をより起こす可能性がある。
【0033】
工程中の品質管理:
複数の品質管理工程がTEMDの作製プロセス中に実施される。したがって、本発明のさらなる態様によれば、TEMDの作製のための方法は、以下の工程のうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくはすべてを、さらに含む。
・ポリマー足場中のP4HBの含有量の測定:好ましくは、ポリマー足場中のP4HBの含有量は、20~50%(w/w)、より好ましくは22~45%、最も好ましくは24~32%の範囲である。このために、PGAメッシュは、第1のコーティング工程の前に、次いで第1のコーティング工程の後または適用される場合には第2のコーティング工程の後に計量され、2つの重量は互いに比較される。
・第1のコーティング工程中、次いで適用される場合には、第2のコーティング工程中にも、メッシュ上でのP4HBの均一な沈着を確実にすること:これは、各々のコーティング工程中の目視管理によって確実にされる。
・好ましくは細胞同一性および/または増殖および/または生存力および/または無病原体に関して、ポリマー足場上に播種されるヒト細胞を検査すること:細胞同一性(表現型)は、様々な細胞表面マーカーによるFACS分析を使用して、好ましくはフローサイトメトリーにより検証される。判定基準としては、少なくとも80%のCD90陽性およびCD26陽性の細胞ならびに5%以下のCD90陰性およびCD31陽性の細胞の含有量が挙げられるがこれに限定されない。FACS分析の代わりに、マイクロアレイを使用することができる。
・生存力および増殖:これは倍加時間の測定によって検証される。好ましくは、倍加時間は100時間未満である。ポリマー足場上に播種するために使用される細胞の好ましい最大の継代数は、第三継代細胞(P3)である。
・さらに、細胞は病原体が無いことが検証されなくてはならない(検出限界(LOD)未満)。
・細胞懸濁液の調製中の凝固時間の管理:これは、好ましくはゲル化剤の量の調節によって実施される。トロンビンおよびフィブリノーゲンの組み合わせを使用する場合に、1:1の比が好ましい(単位:mg)。凝固時間のための判定基準は好ましくは5~8分間である。
・ポリマー足場上に播種されるヒト細胞数の管理:播種される細胞の好ましい数は、ポリマー足場表面面積の1cm2あたり200万~400万細胞の間、好ましくは1cm2あたり230万~330万細胞の間であること。
・ポリマー足場へのヒト細胞の均一な塗布の管理:これは、目視管理によって実施される。
・バイオリアクター段階中の培地組成の管理(以下参照):ビタミンC含有量は、好ましくは培地中で0.0225%(v/v)である。バイオリアクター中の培地の好ましい組成は、以下の通りである。A-DMEM(改良型ダルベッコ改変イーグル培地)500ml、ウシ胎仔血清(FBS)50ml(すなわち、9%(v/v))、Glutamax(200mM)5ml(すなわち、1.8mM)、ゲンタマイシン(10mg/ml)0.5ml(すなわち、0.009mg/ml)、ビタミンC(20%)0.63ml(すなわち、0.225%(v/v))。
・バイオリアクター段階中の細胞性能の管理:乳酸は、バイオリアクター段階中の細胞性能のための好ましいマーカーとして使用される。このために、乳酸値は各々の培地交換時に管理される。乳酸値は、第1の培地交換時に少なくとも1.5mmol/l、第2の培地交換時に少なくとも2.5mmol/l、第3の培地交換時に少なくとも3.0mmol/l、第4および第5の培地交換時に少なくとも3.5mmol/lであるべきである。
・バイオリアクター段階中のECM形成の管理:バイオリアクター段階中のECM形成は、例えば質量分析(MassSpec)によって検証される。ヒトプロコラーゲンI型のC末端プロペプチドは、ECM作製中に分離され、細胞によって培地の中へ放出される。したがって、このプロペプチドはバイオリアクター段階中の培地中で検出され、ECM形成の好適なマーカーとして使用することができる。
【0034】
ECM形成の検証は、スタビライザー上でのTEMDのインキュベーション後に凍結乾燥された乾燥状態で実施される。
【0035】
TEMD作製後の品質管理:
さらに、好ましくは完成したTEMD、すなわち最終産物に、以下の工程のうちの少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくはすべてを含む品質管理を実施する。
・滅菌性の検証:対象とするレシピエント患者へのTEMDの移植は、滅菌条件下で実施されなくてはならない。特定のバッチからのTEMDサンプルの滅菌状態は、作製プロセスの中の滅菌が信頼でき再現性があることが検証される。
・エンドトキシン含有量の測定:エンドトキシンの量についての判定基準は<0.29EU/mlであり、それは、<0.29EU/パッチ(「EU」=エンドトキシン単位、「パッチ」=直径8mmおよび面積0.5cm2の生検パンチ)に相当する。エンドトキシンは、細菌の外側細胞膜の熱安定性構成要素である。最終産物中のエンドトキシンの存在はプロセス中の細菌汚染についての指標であり、臨床試験において患者の健康を危険にさらす。この試験は、最終産物中において、いずれのかかる細菌性残余物も存在しないことを検証するためにその実施が決定されている。
・マイコプラズマ含有量の測定:マイコプラズマは、細胞培養中に汚染物質として出現し得る非常に小さな細菌である。マイコプラズマは光学顕微鏡検査によって検出不可能であり、場合によっては標準抗生物質に対して耐性があるため、それらは多くの場合検出されないままになり、それぞれの細胞培養の増殖に影響を及ぼしたり悪化させたりすることがある。TEMDの播種のために使用されるヒト細胞培養のマイコプラズマ汚染は、最終産物の汚染をも導き得る。作製プロセスが信頼すべきものであり、いずれのかかる汚染も再現性良く無いこと(検出限界未満(LOD))を検証するために、導管サンプルは、マイコプラズマの存在について定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって試験される。qPCRのLODは、1血管移植片あたり1000GCマイコプラズマDNA濃度としてヨーロッパ薬局方2.6.7中に記載されている。
・残留DNA含有量の測定:TEMD上に残存するDNAは、対象とするレシピエントにとって健康に危険、または生命を脅かすことさえあり得る。DNAの除去が信頼できて再現性のあるように実施されることを検証するために、異なるバッチの導管サンプル中のDNA含有量はqPCRによって測定される。したがって、残留DNA含有量についての好ましい判定基準は、mg乾燥重量あたり50ng dsDNA未満である。
・残留水分含有量の測定:加水分解を防止し、したがって最終産物の保存可能期間を延ばすために、TEMDは脱細胞化工程後に凍結乾燥される(冷凍乾燥される)。異なるバッチのTEMDサンプル中の水分含有量の測定は、作製プロセスにおける凍結乾燥が信頼でき再現性があることを検証するために実行される。好ましくは、残留水分含有量は5%未満である。
・ポリマー含有量の測定:ポリマー分析は、ポリマーの含有量、比、および/または分子サイズ(鎖長)が、本発明による方法によって作製されたTEMDの様々なバッチにわたって一定かどうか測定することを可能にする。好ましくは、完成した脱細胞化TEMDは、20~75%(w/w)のP4HB、より好ましくは30~60%のP4HB、最も好ましくは40~50%(w/w)のP4HBの含有量、および好ましくは0~30%のPGA、より好ましくは10~20%のPGA、最も好ましくは15~18%のPGA、の含有量を有する。
・ヒドロキシプロリン含有量の測定:コラーゲンは、本発明による最終的なTEMDのECM組織における重要な構造構成要素である。他のタンパク質とは異なって、コラーゲンはアミノ酸であるヒドロキシプロリン(HYP)を含有する。したがって、コラーゲン含有量は、様々なバッチのTEMD中のHYP含有量の定量化によって測定することができる。これは、様々なバッチにわたる作製プロセス間の信頼でき再現性のあるECM作製を保証するはずである。ヒドロキシプロリン含有量についての好ましい判定基準は、5μg/mgを超えるものである。
・様々なECMマーカータンパク質によるタンパク質含有量の測定であって、好ましくはフィブロネクチン、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-2(VI)鎖のタンパク質の含有量が測定される。さらに、好ましくは、様々な脱細胞(decell)マーカーのタンパク質含有量が測定され、それは好ましくはスーパーオキシドジスムターゼ、60S酸性リボソームタンパク質P2、インテグリンα5である。最終的なTEMD産物は、タンパク質の特徴的な分布を含む。必要とするおよび/または必要としないタンパク質は、ペプチドの質量分析(LC-MS/MS)および特定の基準ペプチドの使用によって定量化される。必要とするタンパク質、すなわちECMマーカーの検出は、3つの非常に豊富なタンパク質であるフィブロネクチン、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-2(VI)鎖のペプチドフラグメントの測定によって代表的には行われる。この測定手段によって、これらの構造的ECMタンパク質の含有量は、TEMDの種々のバッチにわたって一定で再現性があることが検証される。前記ECMタンパク質の含有量の判定基準は、以下の通りである:フィブロネクチンの含有量は少なくとも100fmol/μg、および/またはコラーゲンα-2(I)鎖の含有量は少なくとも200fmol/μg、および/またはコラーゲンα-2(VI)鎖の含有量は少なくとも5fmol/μg。
必要としないタンパク質、すなわち脱細胞マーカーの含有量は、スーパーオキシドジスムターゼ、60S酸性リボソームタンパク質P2、インテグリンα-5の代表的な非ECMタンパク質および/またはそれらのペプチドフラグメントの定量化により測定される。この測定において、これらのタンパク質の含有量は特定の閾値未満であるはずであり、これによって脱細胞化が達成されたことが示される。これにより、一定で再現性のある脱細胞化を検証することができる。前記脱細胞マーカータンパク質の含有量の判定基準は、以下の通りである:スーパーオキシドジスムターゼの含有量は3fmol/μg未満、好ましくは2fmol/μg未満、および/または60S酸性リボソームタンパク質P2の含有量は3fmol/μg未満、好ましくは2fmol/μg未満、および/またはインテグリンα-5の含有量は3fmol/μg未満、好ましくは2fmol/μg未満。
【0036】
上述の品質管理工程において、サンプルは凍結乾燥後の乾燥した形態で分析される。
【0037】
以下の生体力学的試験のために、サンプルは水で戻される。材料の厚さは、凍結乾燥した状態で、および水で戻した後に、測定される。TEMDの壁厚は、好ましくは顕微鏡分析によって測定される。壁厚の好ましい判定基準は、それぞれ、乾燥形態で0.1~20mm、好ましくは0.1~0.6mm、および/または水で戻した形態で0.15~25mm、好ましくは0.15~0.7mm、ならびにより好ましくは、それぞれ、乾燥形態で0.3~0.4mmおよび/または水で戻した形態で0.35~0.5mmである。壁厚はTEMDの機械的安定性のためにきわめて重要であり、特にTEMDが血管移植片である場合にそうである。最終産物が一定で再現性良く要求される最小壁厚を有することを検証するために、種々のバッチのTEMDサンプルの厚さが測定された。本発明によるTEMDの壁厚は、水で戻した状態に加えて乾燥状態でも測定された。厚さの顕微鏡分析はTEMDサンプルで実施され、次いで、サンプルは縫合糸保持力試験(Suture retention test)または引張強さ試験に供された(以下参照)。
【0038】
TEMDの機械的荷重容量を試験するために、好ましくは縫合糸保持力試験が実施される。縫合糸保持力試験では、TEMDにおける継ぎ目から糸を破り取るのに必要な強度が測定され、この試験は、TEMDが患者に移植された場合に受ける機械的ひずみを分析するのに役立つ。これにより、本発明の方法によって作製されたTEMDが再現性良く、要求される最小ひずみに抵抗できることが検証される。縫合糸保持力試験の好ましい判定基準は、少なくとも0.5Nである。
【0039】
TEMDで使用されるさらなる機械的ひずみ試験は、引張強さ試験である。そこでは、TEMDサンプルは牽引装置/引張具に取り付けられ、材料が裂けるまで延伸され、最大の引張ひずみが測定される。種々のバッチのTEMDサンプルでの引張強さ試験により、本作製方法により再現性良く要求される最小引張ひずみに耐える最終産物が作製されることが検証される。本発明によるTEMDの引張強さについての好ましい判定基準は、0.5MPaである。
【0040】
述べられた品質管理工程を実施することによって、その作製は、プロセスに沿った様々な工程(作製工程中および作製後)において管理される。これは、再現性があり信頼できる手法でプロセスを実施することを可能にする。したがって、品質管理のために、同じバッチの代表的サンプルの無作為試験を実施することが可能である。
【0041】
上述の方法により、合成された生分解可能なポリマー足場と生物学的材料とのハイブリッド構造を備える優れた組織工学医療デバイスが作製される。得られた組織工学医療デバイスの移植により、機能的/生理的に生体の様な組織構造への、レシピエントの身体において適応性のある細胞ベースのリモデリング/再増殖が可能になる。意外なことは、本発明によるTEMDが、一方では合成ポリマー足場と比較して、そして他方では成熟し脱細胞化された天然の構造に比較して、組織工学組織成熟の最適化された中間状態を提供するということである。この「制御された未成熟」は、合成構成要素の特定の組成/比、生物学的「新組織」、および3次元構造(すなわち多孔性、層状化)をもたらし、レシピエント身体における細胞の内方成長度の増加を含む有利な効果を有し、それによって、先行技術の方法によって作製された移植片を超える大きな長所を提供する。
【0042】
本発明は、さらに上述の方法によって作製されたTEMDに関する。好ましくは、組織工学医療デバイスは、血管移植片、弁の置換物(三尖弁、すなわち洞房弁等)または組織パッチを含む群から選択される。組織パッチは、好ましくは補強パッチ、隔壁パッチ、または肺壁/大動脈壁パッチである。しかしながら、ヒトまたは動物の身体の様々な器官におけるパッチの置換または組織の裏当てのため等のもう一つの使用も可能である。例えば、パッチは、皮膚移植片としても供することができる。
【0043】
さらに、本発明は、ヒトまたは動物の患者、好ましくはヒト小児患者における疾患の治療のための、上述によるTEMDの使用に関する。治療される疾患は、心血管の先天的欠陥または心臓弁欠陥であり得る。心臓弁欠陥の場合、本発明によるTEMDは、三尖弁、大動脈弁、僧帽弁または肺動脈弁のための置換物として設計することができる。先天性心臓血管異常の場合には、TEMDは、フォンタン法における大静脈肺動脈吻合術、または他の構造的欠陥(すなわち中隔または心室の欠陥、大血管の再建など)の修正等の再建手術のために使用することができる。
【0044】
本発明の別の主題は、置換移植片としての上述によるTEMDの移植を含む上述の組織欠陥を含む疾患を治療する方法である。本発明によるTEMDは、ヒトまたは動物の身体における上述の実施態様のうちの1つに記載の組織工学医療デバイスの移植を含む、ヒトまたは動物の患者における心血管性疾患の治療に使用することができる。好ましくは、本発明は、ヒトまたは動物の患者における大静脈肺動脈結合の欠陥を含む疾患を治療する方法に関し、本方法は、好ましくは小児のヒトまたは動物の身体における上述の実施態様のうちの1つに記載の組織工学医療デバイスの移植を含む。本発明のさらなる実施態様は従属請求項中で規定される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本発明の好ましい実施態様は、図面を参照して以下に記載されるが、これらの図面は、本発明の本好ましい実施態様の例証を目的とし、本発明の限定を目的とするものではない。
【0046】
【
図1】種々の品質管理工程を包含する、本発明による作製方法の系統的プロセスの概要を示す。
【
図2】組織工学血管移植片(TEVG)の形態である、第1の好ましい実施態様による組織工学医療デバイスの作製のための管状ポリマー足場の製作プロセスの写真を示すものであって、Aはメッシュが管へと形成されることを示し;Bは重なった辺縁の融合を示し;Cは管状ポリマー足場の噴霧コーティングを示し;Dは滅菌前のマウント上の最終的な管状ポリマー足場である。
【
図3】
図2の管状ポリマー足場の内側表面上のヒト細胞の播種を示す。
【
図4】バイオリアクター段階のためのポンプフロープログラムについての仕様を示す。
【
図5】バイオリアクター段階中の細胞性能についてのマーカーとして、乳酸測定の閾値を示す。
【
図6】好ましく使用される凍結乾燥プログラムの詳細を示す。
【
図8】Aは縫合糸保持力試験のために使用された装置、Bは最終的なTEVGについて測定された縫合糸保持力を示す。
【
図9】Aは周方向の引張強さ試験のために使用された装置、Bは周方向の引張試験の未加工のグラフ、CはMPaで示されるTEVGの周方向の最終的な引張強さを示す。
【
図10】水圧の破壊圧力試験の実験的設定を示すものであって、Aは概略図を示し、Bは実験的設定におけるTEVGの固定状態を示す。
【
図11】
図10に記載の破壊圧力試験の結果(n=4)を示す。
【
図12】サンプルTEVG(n=5)において測定されたヒドロキシプロリンおよびプロリンの含有量を示す。
【
図13】サンプルTEVG(n=12)のショットガンMS解析に続いて、マトリソームアノテーションに加えて、ECMタンパク質のクラスへペプチドを割り当てることを可能にする遺伝子オントロジー(GO)用語0031012を使用した検出ペプチドのアノテーションの結果を示す。コアマトリソームおよびマトリソーム関連タンパク質のタンパク質強度に加えて、ECMタンパク質のタンパク質強度(cps)を示す。
【
図14】サンプルTEVGのショットガンMS解析に続いて、「マトリソームプロジェクト」カテゴリーを使用したアノテーションの結果を示したものであって、指示されたクラスへ割り当てられたタンパク質のタンパク質強度(cps)が示される。
【
図15】サンプルTEVGにおけるECMマーカーおよび脱細胞マーカーのMS解析の結果を示すものであって、Aは既知の濃度の基準ペプチドを使用した、示されたマーカーの絶対定量を示し、Bは示されたマーカーの相対定量を示す。
【
図16】Aは、PGAおよびP4HBの含有量を測定するためのサンプルTEVGのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、そしてBはサンプルTEVGにおいて測定されたP4HBおよびPGAの含有量を示す。
【
図17】サンプルTEVG(n=8)の測定において、Aは孔半径、Bは孔体積、およびCは比表面積を示す。
【
図18】サンプルTEVG(n=1)のヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色およびアルシアンブルー染色を示す。
【
図19】サンプルTEVG(n=1)のマイクロCT解析を示す。
【
図20】本発明の第2の例示的な実施態様に基づいた、播種の前にニチノール製洞ステントの中へ縫合されたPGAメッシュ、および脱細胞化後の組織工学三尖弁を示す。
【
図21】本発明の第3の例示的な実施態様にもとづいた、播種の前に金属のステンレス鋼リングの上へ縫合されたPGAメッシュ、および脱細胞化後の組織工学パッチを示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1において、系統的プロセス概要は、準備プロセスとしての、ポリマー足場の作製および細胞の単離のためのプロセス工程を示す。これらの準備プロセスの産物、すなわちポリマー足場および/または単離細胞はそれぞれ、以下でさらに記載されるように、TEMDの作製の本発明の方法の一部として調製するか、または、別個に購入するかまたは別の方法で入手し、ポリマー足場の平衡化および単離細胞の増殖から始まり細胞を播種する工程のために両者を調製するTEMD作製の方法において使用することができる。
【0048】
実施例1:組織工学血管移植片の作製
細胞の単離および増殖:
ヒト臍帯(n=3)を、チューリッヒの州倫理委員会(スイス)[KEK-ZH-2009-0095]に基づくインフォームドコンセントにより満期産後に採取し、確立されたプロトコール(非特許文献13)に従って、静脈線維芽細胞の単離のために処理した。臍帯静脈を外科的に単離し、解剖用はさみを使用して小さな組織片を切り取った。組織片を滅菌ペトリディッシュ上に置き、30±5分間放置して底部へ接着させた。培養培地を穏やかに添加し、3日目または4日目毎に変えた。単離細胞の第1の増殖のために使用した好ましい培地組成は、以下の通りである:A-DMEM(改良型ダルベッコ改変イーグル培地)500ml、ウシ胎仔血清(FBS)50ml、Glutamax(200mM)5ml、ゲンタマイシン(10mg/ml)1.25ml。37℃で5%CO2の加湿インキュベーター条件下でおよそ1~2週間のインキュベーションした後、最初の細胞増生後に、組織片を除去した。
【0049】
足場製作:
図2は、本発明の第1の例示的実施態様に記載の血管移植片(または、それに/その中に接合した弁移植片を含む血管移植片)の作製に関し、第2のコーティング工程だけでなく第1のコーティング工程(図示されない)後の管状ポリマー足場の形成と融着、およびマウント上への管状ポリマー足場の固定を示す。足場基質(足場パッチ)を、不織ポリグリコール酸(PGA)メッシュ(比重60~80mg/cm
3;Confluent Medical Technologies、Warkwick、米国)で製作した。使用足場パッチは、元は6cm×9cmの長方形形状を有していた。各々のPGAメッシュを、規定された2工程の手順でコーティングした。最初に、PGAメッシュを、P4HB(非極性溶媒テトラヒドロフラン(シグマ アルドリッチ、スイス)の低パーセンテージ溶液の溶液中1%のポリ-4-ヒドロキシ酪酸(P4HB;TEPHA,Inc.、米国))中に浸漬し、数時間の空気乾燥によって溶媒を蒸発させた。次に、必要とする寸法、すなわち放射状直径1.6cmの金属製円筒の周囲にメッシュを巻き、PGAメッシュを管形状にした。コーティングされたPGAメッシュの重なり部/辺縁部を、はんだごてを使用して80℃へ加熱し融合した。次いで管を保持デバイス上に取り付け、複数の工程にわたり噴霧デバイス(エアブラシピストル)を使用し、外側にP4HBの低パーセンテージ溶液(テトラヒドロフラン中で2%)をコーティングした。第2のコーティング工程後に、管状ポリマー足場を長さ8cmに縮めた(後のバイオリアクター中での設置に使用される保持デバイスのサイズへ、管状ポリマー足場のサイズを適合させるため)。ポリマー足場の最終組成、すなわちPGA対P4HBの比を、P4HBによるコーティングの前後にポリマー足場を計量し決定した。
【0050】
足場作製工程はすべての種類のTEMDの作製に適用可能であるが、管形成工程は、血管移植片(または血管移植片へもしくは血管移植片の内腔中に接合される弁移植片)の作製の場合においてのみ実施される。第2のコーティング工程は管状足場のための利点があり、平面パッチまたは血管様の部分が無く弁置換のみを含む移植片等の非管状足場については任意である。それに応じて、P4HBコーティングは、2回の代わりに1回のみコーティングされた移植片上では、一般的にはより薄い。
【0051】
次いでポリマー足場をパッケージングし、6±1%エチレンオキシドおよび94±1%CO2中で、45±3℃、相対湿度≧40%および2.6±0.1barで180分間エチレンオキシド滅菌し、滅菌性を得た。滅菌後に、適切な脱着/換気段階を実施し足場から残留エチレンオキシドを除去した。
【0052】
播種の前に、足場は、アスコルビン酸(ビタミンC)を富化した細胞培養培地中で12~72時間のプレインキュベーションによって平衡化し、この培地は以下の組成を有する:A-DMEM(改良型ダルベッコ改変イーグル培地)500ml、ウシ胎仔血清(FBS)50ml(すなわち、9%(v/v))、Glutamax(200mM)5ml(すなわち、1.8mM)、ゲンタマイシン(10mg/ml)0.5ml(すなわち、0.009mg/ml)、ビタミンC(20%)0.63ml(すなわち、0.225%(v/v))。
【0053】
サンプルポリマー足場(DC16-90)の多孔性を、多層吸着システムに用いられるガス吸着分析、すなわちブルナウアー-エメット-テラー(BET)法によって分析した。これにより、比表面積12m2/gおよび全孔体積0.03cm3/gにおいて、50Åの平均細孔半径(BET)が測定された。
【0054】
細胞播種:
ポリマー足場のプレインキュベーション/平衡化後に、単離されたヒト線維芽細胞を、220万~330万の細胞/cm2の密度で、足場の上へ播種した。
【0055】
このために、細胞を精製フィブリノーゲン(シグマ アルドリッチ、スイス)(10mg/mLの活性タンパク質)に最初に懸濁し、続いて、精製トロンビン(シグマ アルドリッチ、スイス)を添加した。足場1つあたり、フィブリノーゲン1.2mgおよびトロンビン1.2U(単位)を使用し(1:1の比)、これはおよそ5~8分間の最適凝固時間となる。凝固直後に、細胞懸濁液を均一になるように滅菌足場の上へ播種した。
【0056】
図3に、管状ポリマー足場の内側(内腔)円筒表面上への細胞懸濁液の塗布/播種の好ましいパターンを示す。このために、マウントを一方の手により手動で固定し、他方の手でメッシュの内側表面上に細胞懸濁液を均一に播種した。細胞の必要とする均一な分布を達成するには他のパターンでも可能である。播種工程はすべての種類のTEMDの作製に適用可能である。
【0057】
播種後に、播種されたポリマー足場を、最初に上述と同じ細胞培養培地中において静的条件で約16時間インキュベーションし、この培地もアスコルビン酸(ビタミンC)が添加によって富化され、以下の組成であった:A-DMEM(改良型ダルベッコ改変イーグル培地)500ml、ウシ胎仔血清(FBS)50ml(すなわち、9%(v/v))、Glutamax(200mM)5ml(すなわち、1.8mM)、ゲンタマイシン(10mg/ml)0.5ml(すなわち、0.009mg/ml)、ビタミンC(20%)0.63ml(すなわち、0.225%(v/v))。
【0058】
バイオリアクター中でのコンディショニング:
次いで、播種されたポリマー足場をバイオリアクター中の保持デバイス上に置き、アスコルビン酸(ビタミンC)の添加によって富化した上述と同じ細胞培養培地中で、次の21±4日にわたって漸増的強度のパルス流動にさらした。バイオリアクター段階中のコンディショニングは、すべての種類のTEMDの作製に適用可能である。
【0059】
図4に、TEMDの、特にTEVGの好ましいポンプフロープログラムについての仕様が図示され、バイオリアクター段階中のポンプ体積の漸増的増加による拍動流の生成が示されている。
【0060】
図5は、各々の培地交換間隔毎の乳酸含有量(mmol/l)の最小閾値の表を示す。乳酸は、バイオリアクター段階の間の細胞性能についてのマーカーとして役に立つ。バイオリアクター段階中、細胞培養培地中のマーカーとして、ヒトプロコラーゲンI型のC末端プロペプチドを使用して、ECM形成を、質量分析によって検証した。
【0061】
バイオリアクターからの取り出し後に、実施例1のTEVGを導管スタビライザー上に置き、静的条件下で、バイオリアクター中と同じ細胞培養培地中で12~36時間インキュベーションした。この工程は他のタイプのTEMDの作製にも適用可能である。
【0062】
脱細胞:
インキュベーション後に、実施例1のTEVGを脱細胞化した。脱細胞化中、以下のように構成される洗浄溶液を使用して、細胞を溶解し、除去した。
【0063】
【0064】
さらなる工程において、酵素分解によってDNAを除去するために、実施例1の脱細胞化TEVGをヌクレアーゼベンゾナーゼにより処理した。凍結乾燥の前に、脱細胞化TEVGをddH2O中ですすいで塩を除去し、長さ7cmに切断し、次いで、フィルターキャップ付きの50mlの管へ移し、次いで凍結乾燥した(冷凍乾燥した)。この脱細胞化工程は他のタイプのTEMDの作製にも適用可能である。
【0065】
凍結乾燥:
図6に、凍結乾燥のための好ましいプログラムを図示する。このプログラムは、例えば結晶形成に起因する材料の損傷を防止する。最終的な産物を滅菌バッグ中に二重パッケージングし、外部の会社(QMedics)においてエチレンオキシド処理により滅菌した。この凍結乾燥工程は他のタイプのTEMDの作製にも適用可能である。
【0066】
TEVGの品質管理:
最終産物、すなわち脱細胞化され、凍結乾燥および滅菌されたTEVGに、以下の工程に基づき品質管理を行った:滅菌性の検証;エンドトキシン含有量の検証;マイコプラズマ含有量の検証;残留DNAの検証;残留水分含有量の検証;ポリマー含有量の検証;ヒドロキシプロリン含有量の検証;タンパク質含有量の検証:フィブロネクチン、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-2(VI)鎖、脱細胞マーカー(スーパーオキシドジスムターゼ、60S酸性リボソームタンパク質P2、インテグリンα5);顕微鏡分析による厚さの測定(乾燥したもの/水で戻したもの);縫合糸保持力試験;引張強さ試験。これらの品質管理工程は他のタイプのTEMDの作製にも適用可能である。
【0067】
TEVGの作製バッチは6つの移植片からなっていた。それらのうちの1つを、代表的サンプルの作製のために切り分け、残りの5つの移植片と同時進行で、これらの片を分けてパッケージング、凍結乾燥、滅菌した。次いでこれらの片を、滅菌性を含む様々な分析のために使用した。試験のために、パッケージングは再度取り除かれた。TEVGサンプルを凍結乾燥後に乾燥形態で分析した。生体力学的試験のために、サンプルを水で戻した。
【0068】
TEVGの壁厚を、Endolab Mechanical Engineering GmbH(Thansau/Rosenheim、ドイツ)においてISO7198:2016に準じて、顕微鏡(ヴィジョンエンジニアリング、HAWK 15-3)測定によって、凍結乾燥状態および水で戻した後に、測定した。
図7に示されるように、7つのTEVGの分析により平均厚みが342±57μmであることが示された。0.9%NaCl中に20分間おいて水で戻した後に、壁厚は16%増加し397±64μmになった。壁厚の測定は他のタイプのTEMDの作製にも適用可能である。
【0069】
本発明の方法によって作製されたTEMDの力学的特性をさらに評価するために、実施例1によって作製されたTEVGの周方向の引張強さを、ISO 5081要件を満たす引張試験機を使用し評価した(機器は以下のものを使用した:ロードセル、インストロン、2530-437;万能試験機、インストロン、5944)。最終的なTEVGのサンプルを長軸に対して垂直に切断し、サンプルの長さ(L)を測定した。生体力学的分析のために、サンプルを0.9%NaCl溶液中に20分間おいて水で戻した。管形状のTEVGサンプルを2つの丸いピンの上へ置いた(
図9Aを参照)。破断点に到達するまで、サンプルを100mm/分の定速で延伸した。破断点荷重を測定し(T
max)、周方向の引張強さを以下の式:周方向の引張強さ=T
max/2*Lによって決定した。平均長1.4cmの管状TEVGサンプル(3回の異なる作製でn=5)は、8.4Nの平均荷重で破断し、周方向の強度は0.29±0.05N/mmとなった。サンプルの壁厚に基づいて、0.87±0.21MPaの平均周方向の引張強さを算出した(
図9C参照)。
【0070】
血流および血圧による血行動態は、血管壁上に生体力学的力を誘導する。TEVGの機械的弾性を評価するために、破壊試験を実施し、TEVGの破裂が誘導される条件を評価した。このために、実施例1の完全なTEVGを、0.9%NaCl溶液中に20分間おいて水で戻した。水で戻した後に、血管移植片を試験装置に取り付け、流体要素として蒸留水を使用する増加する水圧にさらした。試験中に、圧力上昇を記録した。TEVGが破裂するまで圧力を増加させた(
図10参照)。水圧の増加で、小さな穴の形成が観察された。264±52mmHgの水圧でTEVGの破裂が観察された(
図11参照)。
【0071】
TEVG中の残留水分含有量を測定するために、ヨーロッパ薬局方2.5.12に準じてカールフィッシャー滴定を実施する。5つの異なる作製バッチに由来する7つのTEVG中の残留水分含有量が測定され、平均4.1±0.5%(w/w)であった(図示されない)。
【0072】
5つのTEVG(3つの異なる作製バッチの)におけるHYP含有量をヨーロッパ薬局方2.2.56に準じて分析し、平均11.7±0.8μg/mg(w/w;平均±標準偏差)であった(
図12参照)。
【0073】
脱細胞化されたTEVGのタンパク質性組成を測定するために、質量分析(MS)を実施した。このために、TEVGサンプルを、最初に分解し(オンマトリックスプロトコール:タンパク質の還元、アルキル化およびトリプシン分解)、次いで、ショットガンLC-MS/MSモードで取得した。LC-MS/MSのデータを、ヒトUniProtデータベースを使用して検索し、TEVGに存在するECMの組成をより詳細に特徴づけるために、GO用語(GO term)0031012に基づき、「マトリソームプロジェクト」機能タンパク質カテゴリーにより、ECMタンパク質をアノテーションした(
図13参照)。マトリソームプロジェクトにより、細胞外マトリックスおよびECM関連タンパク質のアンサンブルの予測が可能になる(http://web.mit.edu/hyneslab/matrisome/)。「マトリソームプロジェクト」カテゴリーに基づくタンパク質アノテーションは、GO用語0031012に比較してより選択的であることが判明した。「マトリソームプロジェクト」アノテーションにより、以下のカテゴリーにおけるタンパク質の分類も可能になる:ECM糖タンパク質;コラーゲン;ECM制御因子;ECM関連(ECM-affiliated)タンパク質;プロテオグリカン;分泌因子(
図14参照)。
【0074】
実施例1のTEVGについての上述のさらなる力学的特性の評価工程は、他のタイプのTEMDの作製にも適用可能である。
【0075】
TEVGに存在する細胞外マトリックスについてのマーカーを絶対的に定量化するために、3つのECMマーカータンパク質(コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-2(VI)鎖およびフィブロネクチン)の基準ペプチドを使用した。さらに、TEVGの作製中の脱細胞化プロセスが効果的に行われたことを検証するために、3つの脱細胞マーカー(60S酸性リボソームタンパク質P2、インテグリンα-5およびミトコンドリアのスーパーオキシドジスムターゼ[Mn])の基準ペプチドを使用した。これらのECMマーカーおよび脱細胞マーカーの絶対的定量を
図15Aに図示する。さらにECMマーカーおよび脱細胞マーカーを分析したが、この定量化のために基準ペプチドを適用しなかったので、この定量化は相対的でしかない(
図15B参照)。概して言えば、これらのECMマーカーおよび脱細胞マーカーの分析から、TEVGの作製中に実施された脱細胞化工程により不必要な細胞構成要素が除去される一方で、ECMが維持されることが確認された。
【0076】
本発明によるTEMDは、ヒトタンパク質(主にECMタンパク質)ならびに生分解可能なポリマーであるポリ-4-ヒドロキシ酪酸(P4HB)およびポリグリコール酸(PGA)から構成される。本発明のTEMDの作製は、細胞が播種されるポリマー足場(PGAおよびP4HBからなる)の作製から始まる。ポリマー足場上への細胞播種に伴い、加水分解によるポリマーの分解が始まり、特に速分解性のPGAでは顕著である。最終的なTEMD産物のポリマーの含有量をモニターするために、溶離剤を使用して最終的な産物から実施例1のTEVGのポリマーを抽出し、次いで、契約会社PSS Polymer Services GmbH(Mainz、ドイツ)においてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分析した。サイズ排除クロマトグラフィーにより抽出物の分子量分布の特徴が示され、濃度が既知であるポリマー開始材料(PGA、P4HB;
図16A参照)の純粋なサンプルによりキャリブレーションを行い、各々のポリマーの含有量を半定量的に評価した。このアプローチを使用して、P4HB含有量40.7±4.6%(w/w)およびPGA含有量17.1±4.1%(w/w)(5つの作製バッチでn=7;平均±標準偏差)が、試験されたTEVGサンプルにおいて測定された(
図16B参照)。
【0077】
サンプルの血管移植片のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)において、
図16Aに基づきPGAおよびP4HB含有量を求めるために、濃度が既知である純粋なポリマー溶液のスパイク(PGAまたはP4HB、矢印により指示される)によって、PGAおよびP4HBの含有量を評価した。
【0078】
気体吸着分析は、表面積および多孔性の測定のために一般的に使用される。これは、固体材料を様々な条件で気体(一般的には窒素ガスが用いられる)にさらし、重量取込みまたはサンプル体積のいずれかを評価することを含む。これらのデータの分析により、多孔性、全孔体積、および孔のサイズを含む、固体の物理的特性に関する情報が提供される。TEVGの多孔性は、メソ細孔および小さなマクロ細孔のサイズ範囲に適用されるBJH法(Barrett、Joyner、Halenda法)によって測定した。結果は
図17中に示す。
【0079】
TEVGの構造組成を分析し、特定の構成要素を可視化するために、標準的な組織学分析を、Institut Mutualiste Montsouris(IMM)(Paris、フランス)において実施した。ヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色を使用して組織構造を可視化し、核/DNAの非存在を検証し、アルシアンブルー染色を使用してグリコサミノグリカンを可視化した。グリコサミノグリカンは、ECM中で豊富であり、したがってECMのマーカーとなる。
図18に示されるTEVGの代表的なH&E染色およびアルシアンブルー染色から、核の非存在およびECMの存在がそれぞれ検証される。両方の染色において、TEVGの多孔性は識別可能である。特に、ポリマー足場の作製中に噴霧されるP4HBの複数の層から構成されている、TEVGの外側は、
図18中の赤色矢印により示される。
【0080】
TEVGの壁厚および構造を分析するために、X線マイクロトモグラフィー(マイクロCT)を実施した(
図19参照)。マイクロCTはX線を使用して物理的対象物の断面図を作成し、これを使用して、元の対象物を破壊せずに仮想モデル(3次元モデル)を再現することができる。接頭語マイクロ(μ)は、断面図の画素サイズがマイクロメートル領域であることを示すために使用される。
【0081】
上述の品質管理工程は、他のタイプのTEMDの作製に適用可能である。
【0082】
TEVGの移植:
実施例1のTEVGの移植は、縫合結紮によってIVC(下大静脈)および肺動脈へ吻合することによって実施される。縫合糸の機械的安定性したがって安全性を評価するために、縫合糸保持力試験を実施した。このために、縫合糸(ポリプロピレン5/0縫合糸に相当する、直径0.14mmのステンレス鋼から作製された糸)を、デバイスの1つの壁を通して、水で戻したTEVGサンプルの端から2mm挿入して、半ループを形成させる(
図8A参照)。縫合糸を100mm/分の速度で牽引し、デバイスを通して縫合糸を牽引するのに必要な力を記録した(機器は以下のものを使用した:ロードセル、インストロン、2530-437;万能試験機、インストロン、5944)。7つのTEVGの縫合糸保持の強度が測定され、デバイスを通して縫合糸を牽引するのに平均で0.82±0.25N(82gに相当する)の力を加えなければならなかった(
図8B参照)。上述の機械的安定性の評価は他のタイプのTEMDの作製にも適用可能である。
【0083】
実施例2:組織工学洞房弁の作製
本発明の第2の例示的な実施態様に基づいて、三尖弁足場を不織PGAメッシュから作製し、連続縫合によってニチノール製洞ステントの中へ最終的に組み込んだ(
図20中で示すように)。PGA足場を1%P4HBでコーティングし、一晩乾燥し、EtOH、Pen-Strep(ペニシリン-ストレプトマイシン;10’000U/ml)、およびアムホテリシンにより滅菌した。最終的に、PGA足場を、1%Pen-Strep溶液、1%Glutamax、10%FBSおよびビタミンC130mg(500mlあたり)を補った改良型DMEMを含む最適化された増殖培地により37℃で一晩インキュベーションした。
【0084】
その後は、細胞担体としてフィブリンを使用して、ヒト皮膚線維芽細胞(1×106細胞/cm2)を、弁に播種した。播種後に足場を、好ましくは小葉が閉じた立体配置で、4週間の培養の間デュアルパルスデュプリケーターシステムの中へ置いた。弁培養中に、生理的な弁の幾何学的形状にさせるために挿入物を使用した。ビタミンCまたはTGF-βを培地中の任意の補足物として使用し、ECM作製を促進した。実施例1に記載のように、脱細胞化プロセスを実施した。
【0085】
洞房弁は、肺動脈中のそれぞれの洞房弁を置換するために設計され、心臓弁置換移植片の作製のための一例として役に立つ。
【0086】
実施例3:組織工学パッチの作製
本発明の第2の例示的な実施態様に基づいて、PGA足場を切断し(円形または条片)、1%P4HBでコーティングした。一晩乾燥後に、パッチを、金属ステンレス鋼リングの上へ縫合し(
図21に示すように)、EtOH、Pen-Strep、およびアムホテリシンで滅菌した。次に、パッチを、1%Pen-Strep溶液、1%Glutamax、10%FBSおよびビタミンC130mg(500mlあたり)を補った改良型DMEMを含む、最適化された増殖培地により37℃で一晩インキュベーションした。その後、細胞担体としてフィブリンを使用して、ヒト皮膚線維芽細胞を、パッチの上へ播種した。播種後に、パッチを小さな培地ジャー中に置き、培地の分布を促進するために旋回振盪機を使用し、4週間培養した。パッチの作製のためにも、ビタミンCまたはTGF-βを培地中の任意の補足物として使用し、ECM作製を促進した。実施例1に記載のように、脱細胞化プロセスを実施した。