(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 6/40 20071001AFI20230113BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230113BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20230113BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20230113BHJP
H02K 7/108 20060101ALI20230113BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20230113BHJP
B60K 17/02 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B60K6/40
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
H02K9/19
H02K7/108
B60K17/04 G
B60K17/02 Z
(21)【出願番号】P 2019051668
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】森下 真臣
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/1959(WO,A1)
【文献】特開2014-129835(JP,A)
【文献】特開2012-39762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/40
B60K 6/48
B60K 6/54
H02K 9/19
H02K 7/108
B60K 17/04
B60K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と、
前記駆動軸の外周側に配設された液冷式の回転電機と、
径方向において前記駆動軸と前記回転電機との間に配設され前記駆動軸と前記回転電機のロータとを駆動連結可能な乾式クラッチとを備え、
前記ロータが円筒状の支持部材の外周面で支持されると共に前記支持部材の
一方側で径方向外方へ突出形成された円環状の止部に当接して位置決めされ、
前記支持部材
から動力が出力され、
前記回転電機の冷却液が
前記支持部材の他方側から供給される構成を有する車両用駆動装置において、
前記止部よりも前記
一方側の前記支持部材の外周面に液密に摺接して前記回転電機の配置空間と前記乾式クラッチの配置空間とを区画するオイルシールを設け、
前記支持部材に前記
他方側から前記止部の外周面に形成された開口へ前記冷却液を供給する油路を形成し、
前記ロータの前記
一方側の端面に、前記開口に対向するように軸方向へ突出形成された円環状の第一壁部を設けた
ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記回転電機及び前記乾式クラッチの前記
一方側を覆うカバー部材に前記第一壁部に対応する円環状の第二壁部を軸方向の前記ロータ側へ突出形成した
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第一壁部の先端面と前記第二壁部の先端面とが互いに対向するように構成した
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第一壁部と前記第二壁部とが径方向において間隙を存して重なるように構成した
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第一壁部の先端部に第一段部を形成し、前記第二壁部の先端部に第二段部を形成し、両段部が互いに間隙を存して重なるように構成した
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記第二壁部の内周面に前記オイルシールの基部を固定した
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動軸と、液冷式の回転電機と乾式クラッチとを備えた車両用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に連結された駆動軸と、液冷式の回転電機と、駆動軸と回転電機のロータとを駆動連結可能な湿式クラッチとを備えた車両用駆動装置が公知である。(特許文献1)
このような構成の車両用駆動装置において、回転電機を液冷式としたままクラッチを乾式に変更しようとすると、回転電機が配設される空間と乾式クラッチが配設される空間とを区画するオイルシールを設ける必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記のような構成の車両用駆動装置では、通常、クラッチ(クラッチプレート)が内燃機関側に配置されるので、上記オイルシールも内燃機関側に配設されることとなる。一方、回転電機用冷却液は変速機側から供給されるので、冷却液がオイルシールまで十分に供給されず、その結果、オイルシールが過熱してしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、液冷式の回転電機の配置空間と乾式クラッチの配置空間とを区画するオイルシールを簡単な構成で冷却可能とする車両用駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の車両用駆動装置は、駆動軸と、前記駆動軸の外周側に配設された液冷式の回転電機と、径方向において前記駆動軸と前記回転電機との間に配設され前記駆動軸と前記回転電機のロータとを駆動連結可能な乾式クラッチとを備え、前記ロータが円筒状の支持部材の外周面で支持されると共に前記支持部材の一方側で径方向外方へ突出形成された円環状の止部に当接して位置決めされ、前記支持部材から動力が出力され、前記回転電機の冷却液が前記支持部材の他方側から供給される構成を有する車両用駆動装置において、前記止部よりも前記一方側の前記支持部材の外周面に液密に摺接して前記回転電機の配置空間と前記乾式クラッチの配置空間とを区画するオイルシールを設け、前記支持部材に前記他方側から前記止部の外周面に形成された開口へ前記冷却液を供給する油路を形成し、前記ロータの前記一方側の端面に前記開口に対向するように軸方向へ突出形成された円環状の第一壁部を設けたことを特徴とする。
【0007】
(2)前記回転電機及び前記乾式クラッチの前記一方側を覆うカバー部材に前記第一壁部に対応する円環状の第二壁部を軸方向の前記ロータ側へ突出形成することが好ましい。
(3)前記第一壁部の先端面と前記第二壁部の先端面とが互いに対向するように構成することが好ましい。
【0008】
(4)また、前記第一壁部と前記第二壁部とが径方向において間隙を存して重なるように構成することが好ましい。
(5)前記第一壁部の先端部に第一段部を形成し、前記第二壁部の先端部に第二段部を形成し、両段部が互いに間隙を存して重なるように構成することが好ましい。
(6)さらに、前記第二壁部の内周面に前記オイルシールの基部を固定することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、支持部材の一方側で支持部材の外周面に摺接するオイルシールを設け、支持部材の他方側から供給される冷却液を回転電機の一方側へ供給する油路をロータの支持部材に形成したので、オイルシールの摺接部と冷却液の供給部(油路)とを近接させることができ、オイルシールと摺接する支持部材の摺接部分を効率的に冷却することができる。
また、止部の外周面に形成された冷却液を流出するための開口に対向するように第一壁部を設けたので、開口から流出した冷却液の流通方向を第一壁部で変更して、冷却液をオイルシール方向へ流すことができ、オイルシールへの冷却液の供給量を増量することができる。
【0010】
また、本発明によれば、カバー部材に第一壁部と対応する第二壁部を突出形成し、両壁部の先端面を対向させる、両壁部を径方向で間隙を存して重なるように構成する、両壁部の先端部に段部を形成し両段部が互いに間隙を存して重なるように構成する等の構成により、両壁部間に形成される流路の面積を低減又は流路抵抗を増加させることで、径方向における両壁部内方から外方への冷却液の流出を低減して、オイルシール周辺への冷却液供給量を増加させることができ、オイルシールと摺接する支持部材の摺接部分の冷却効率を向上させることができる。
【0011】
さらに、第二壁部の内周面にオイルシールの基部を固定するようにしたので、オイルシール固定用の構成を別途形成する必要がなく、構造の複雑化を防止できる。
換言すれば、本来、オイルシール固定用の構成は必要であるので、その固定構成を第二壁部として兼用させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態が適用される車両用駆動装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】前記実施形態の変形例を示す部分断面図である。
【
図4】前記実施形態の他の変形例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0014】
本実施形態に係る車両用駆動装置10は、内燃機関Eと、液冷式の回転電機Mと、変速機Tとを備え、回転電機MはロータMrとステータMsとを備えている。そして、内燃機関Eに連結された駆動軸12が乾式クラッチCを介して回転電機MのロータMrを支持する支持部材14に係脱可能に駆動連結され、支持部材14は変速機Tの入力軸16に連結されている。また、変速機Tの出力軸18は駆動輪20に連結されており、入力軸16と出力軸18との間には、図示しないベルト式無段変速機構や遊星ギヤ式有段変速機構等の周知の変速機構が設けられている。ベルト式無段変速機構の場合には、前後進クラッチの締結・解放の制御で回転電機Mとの接続状態を制御し、遊星ギヤ式有段変速機構の場合には、機構内の締結・解放の制御で回転電機Mとの接続状態を制御する。
【0015】
図2に示すように、回転電機Mは、駆動軸12の外周側(径方向外方)に配設されており、乾式クラッチCが、径方向において駆動軸12と回転電機Mとの間に配設されている。なお、
図2中、矢印Eは内燃機関E側を、矢印Tは変速機T側を示す。
乾式クラッチ12の構造は周知のものであり詳細は図示しないが、内燃機関E側に配設された複数枚のクラッチプレート22と、変速機T側に配設され、前記クラッチプレートを押圧可能な油圧作動のピストン24とを備えている。ピストン24には周方向に間隔を存して複数のプッシュロッド(図示せず)が設けられており、同プッシュロッドが後述する径方向連結部32に設けられた孔(図示略)を、液密性を保持しながら貫通してクラッチプレートを押圧する構成となっている。
【0016】
支持部材14は、円筒形状に形成され、その外周面でロータMrを支持すると共に、内燃機関E側に径方向外方に向かって突出形成された円環状の止部26が設けられ、止部26の変速機T側の端面28にロータMrの内燃機関E側のエンドプレート30が当接することによりロータMrの軸方向位置が位置決めされる。
また、支持部材14の内周側には、支持部材14を入力軸16に連結するためのフランジ状の径方向連結部32が一体形成されている。
【0017】
液冷式の回転電機Mには、入力軸16に設けられた供給口34から、一点鎖線の矢印Aで示すように、ピストン24と径方向連結部32及び支持部材14の内周面との間を介して、変速機T側から冷却液(変速機Tの作動油)が供給される構成となっている。
【0018】
上記構成において、支持部材14における止部26よりも内燃機関E側には、支持部材14の外周面に液密に摺接して乾式クラッチC(クラッチプレート22)の配置空間36と回転電機Mの配置空間38とを区画するオイルシール40が設けられている。
また、支持部材14の外周面には、止部26の外周面に形成された開口42へ、前記冷却液の一部を供給するため、軸方向に沿って油路44が形成されており、油路44にはピストン24と支持部材14の内周面との間を流通する冷却液を取り込むための連通孔46が形成されている。
【0019】
さらに、エンドプレート30には、その内周面が開口42に対向するように、円環状の第一壁部48が軸方向に突出形成され、回転電機M及び乾式クラッチCの内燃機関E側を覆うカバー部材50の内面側には第一壁部48に対応する円環状の第二壁部52がロータMr側へ軸方向に突出形成されている。そして、第一壁部48の先端面54と第二壁部52の先端面56とは、互いに対向することで両先端面54,56間に形成される間隙58の幅を狭くして流通面積を少なくし、両壁部48,52の内周側から外周側への冷却液の流通量を低減するように構成されている。
また、第二壁部52の内周面にはオイルシール40の基部40bが固定されている。
【0020】
上記構成により、本車両用駆動装置によれば、変速機T側へ供給される回転電機Mのための冷却液が、連通孔46及び油路44を介して、内燃機関E側へ供給されて、支持部材14の止部26近傍が冷却されるので、それに伴いオイルシール40と摺接する支持部材の摺接部分も冷却される。
また、開口42から流出した冷却液が、第一壁部48の内周面によりその流通方向をオイルシール40方向へ変更される上、間隙58の流通面積を少なくして両壁部48,52外方への冷却液の流出を低減したので、オイルシール40への冷却液の供給量を増大することができ、オイルシール40と摺接する支持部材の摺接部分を効率的に冷却することができる。
さらに、第二壁部52をオイルシール40の固定構造に兼用したので、構造の複雑化も防止できる。
【0021】
図3,
図4は、対応する第一壁部48と第二壁部52との別の構成(変形例)を示すもので、
図3に示す変形例は、第一壁部48を第二壁部52の外周側へ延長して両壁部48,52が径方向で重なるようにし、第一壁部48の内周面と第二壁部52の外周面とで間隙58を形成している。
この構成によれば、両壁部48,52外方へ流出する冷却液の流通方向が径方向から軸方向へ変更されることとなるので、流通抵抗が増大し、冷却液の流出をより低減できる。
【0022】
図4の構成では、第一壁部48の先端部に第一段部48sを形成し、前記第二壁部52の先端部に第二段部52sを形成し、両段部48s,52sが互いに間隙58’を存して重なるように構成したので、間隙58’が所謂ラビリンス形状となり、流通抵抗がさらに増大し、冷却液の流出をさらに低減できるものである。
【0023】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態を適宜変形して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0024】
10 車両用駆動装置
12 駆動軸
14 支持部材
16 入力軸
26 止部
30 エンドプレート
32 径方向連結部
36 乾式クラッチCの配置空間
38 回転電機Mの配置空間
40 オイルシール
42 開口
44 油路
48 第一壁部
52 第二壁部
58,58’ 間隙