(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20230113BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20230113BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/08 B
C01B21/072 A
(21)【出願番号】P 2019074152
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 麻里奈
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄介
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-515333(JP,A)
【文献】特表2012-512307(JP,A)
【文献】特開2010-018771(JP,A)
【文献】特開2005-336253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00 -11/89
H01L 33/50
C01B 21/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:MAlSiN
3(M=Ca、Sr)で示され、前記Mの一部がEuで置換され、かつ主結晶相がCaAlSiN
3結晶相と同一の構造を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、
窒化物
、ユウロピウムのハロゲン化物
、及びストロンチウムの化合物を含む
原料粉末において、前記原料粉末の全量に対するSr含有量を30質量%以上に調整する工程と、
前記原料粉末を加熱して第一の蛍光体
粉末を得る第一の工程と、
前記第一の工程よりも低
く、1100~1650℃の温度で前記第一の蛍光体
粉末を加熱して窒化物蛍光体を得る第二の工程と、を有する、窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記第二の工程は、0~0.65MPaGの圧力で前記第一の蛍光体
粉末を加熱する、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物蛍光体は、発光ピーク波長が640nm以上であり、かつ前記発光ピーク波長の半値幅が80nm以下である、請求項1
又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物蛍光体は、Eu含有量が4.5~7.0質量%であり、Sr含有量が30~42質量%であり、Ca含有量が0.8~3.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物蛍光体中のハロゲン含有量が、前記窒化物蛍光体の全量を基準として、2000μg/g以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光ダイオード(白色LED)は、照明用に広く用いられている。白色LEDは、青色発光ダイオード等の発光素子と、赤色蛍光体等の蛍光体とを備え、発光素子が発する青色光と、蛍光体が発する蛍光の混色によって疑似白色光を発光するデバイスである。一般に用いられている白色LEDは赤色光が不足している。そこで、自然光に近い白色を再現し、演色性を向上させるために、種々の赤色蛍光体の検討がなされている。
【0003】
赤色蛍光体としては、カズン(CASN)蛍光体及びエスカズン(SCASN)蛍光体などの窒化物蛍光体が知られている(例えば、特許文献1等)。これらの窒化物蛍光体は、一般に、ユウロピウム酸化物又はユウロピウム窒化物と、カルシウム窒化物、ケイ素窒化物、及びアルミニウム窒化物と、を含む原料粉末を加熱することによって合成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
演色性に優れる発光装置を得る観点から、長波長域に発光ピーク波長を有し、十分な発光強度を示す赤色蛍光体が求められる。このような赤色蛍光体を得るために、発光中心であるユウロピウムの含有量を増加させる方法が考えられる。しかし、本発明者らの検討によれば、原料粉末に占めるユウロピウム酸化物又はユウロピウム窒化物の配合量を増加させると、得られる窒化物蛍光体の発光ピーク波長が長波長にシフトするものの、発光強度が低下する傾向にあり、十分な発光強度を有し、演色性に優れる蛍光体パッケージを提供する観点からは、改善の余地がある。演色性に優れる蛍光体パッケージを得るためには、十分な発光強度を有し、発光ピーク波長が長波長域に属する赤色蛍光体があれば有用である。
【0006】
本開示は、演色性に優れる蛍光体パッケージの製造に有用な蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、一般式:MAlSiN3(M=Ca、Sr)で示され、上記Mの一部がEuで置換され、かつ主結晶相がCaAlSiN3結晶相と同一の構造を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、窒化物及びユーロピウムのハロゲン化物を含む原料粉末を加熱して第一の蛍光体を得る第一の工程と、上記第一の工程よりも低い温度で前記第一の蛍光体を加熱して窒化物蛍光体を得る第二の工程と、を有する、窒化物蛍光体の製造方法を提供する。
【0008】
上記窒化物蛍光体の製造方法は、原料粉末にユーロピウムのハロゲン化物を含み、第一の工程よりも低い温度で第一の蛍光体を加熱する第二の工程を有することで、窒化物蛍光体中の結晶格子の欠陥等を低減することができ、演色性に優れる蛍光体パッケージの製造に有用な蛍光体の製造することができる。
【0009】
従来の窒化物蛍光体の製造方法においては、原料粉末中に占める発光中心を有する化合物(例えば、ユーロピウムの化合物等)の配合量を増加させると、発光中心が蛍光体中に取り込まれず、Sr2Si5N8等の異相に取り込まれるなどの副反応が進行し得る。また、従来の窒化物蛍光体の製造方法において、各元素の供給源として、酸素を含む化合物を用いる場合、当該化合物に由来する酸素によって、上述の結晶格子内のいずれかの元素が酸素原子に置換されるなどして、結晶格子に欠陥が発生し得る。発明者らの検討によれば、この結晶格子の欠陥の発生は、発光中心元素を供給するための化合物に酸化物が含まれる場合に、特に多くなる傾向にある。結果として、得られる窒化物蛍光体の発光ピーク波長が期待し得る程に長波長とならなかったり、発光ピーク波長の半値幅が広がるため、期待し得る程に発光強度を示さなかったりしている。
【0010】
一方、本開示の一側面に係る窒化物蛍光体の製造方法においては、窒化物蛍光体を調製する際の発光中心元素を有する化合物としてユウロピウムのハロゲン化物を用いることによって、演色性に優れる蛍光体パッケージの調製に有用な窒化物蛍光体を製造することができる。
【0011】
上記第二の工程は、1100~1650℃の温度で上記第一の蛍光体を加熱してもよい。第二の工程における第一の蛍光体の加熱温度を上記範囲内とすることによって、第一の蛍光体中の結晶格子の欠陥等を低減することができる。
【0012】
上記第二の工程は、0~0.65MPaGの圧力で上記第一の蛍光体を加熱してもよい。第二の工程における圧力を上記範囲内とすることによって、第一の蛍光体中の結晶格子の欠陥をより十分に低減することができ、窒化物蛍光体の発光強度をより向上させることができる。
【0013】
上記原料粉末がストロンチウムの化合物を含み、上記原料粉末の全量に対するSr含有量を30質量%以上に調整する工程を更に有してもよい。原料粉末中のSr含有量を上記範囲内とすることで、得られる窒化物蛍光体の発光ピーク波長の半値幅を十分に小さなものとすることができる。
【0014】
上記蛍光体は、発光ピーク波長が640nm以上であり、かつ上記発光ピーク波長に対応する蛍光スペクトルの半値幅が80nm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、演色性に優れる蛍光体パッケージの製造に有用な蛍光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、発光装置の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合によって図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。各要素の寸法比率は図面に図示された比率に限られるものではない。
【0018】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0019】
窒化物蛍光体の製造方法の一実施形態は、一般式:MAlSiN3(M=Ca、Sr)で示され、上記Mの一部がEuで置換され、かつ主結晶相がCaAlSiN3結晶相と同一の構造を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、窒化物及びユウロピウムのハロゲン化物を含む原料粉末を加熱して第一の蛍光体を得る第一の工程と、上記第一の工程よりも低い温度で前記第一の蛍光体を加熱して窒化物蛍光体を得る第二の工程と、を有する。
【0020】
第一の工程は、窒化物及びユウロピウムのハロゲン化物を含む原料粉末を加熱することによって第一の蛍光体を形成する工程である。第一の蛍光体は、CaAlSiN3と同一の結晶構造を有する。
【0021】
第一工程で用いる窒化物は、上述の窒化物蛍光体を構成する元素の窒化物を含んでもよい。窒化物としては、例えば、窒化ストロンチウム(Sr3N2)、窒化カルシウム(Ca3N2)、窒化ユウロピウム(EuN)、窒化アルミニウム(AlN)、及び窒化ケイ素(Si3N4)等が挙げられる。
【0022】
第一工程で用いるユウロピウムのハロゲン化物としては、例えば、フッ化ユウロピウム、塩化ユウロピウム、臭化ユウロピウム、及びヨウ化ユウロピウム等が挙げられる。ユウロピウムのハロゲン化物を用いることで、ユウロピウムの酸化物を用いる場合に比べて、原料粉末由来の酸素原子が結晶構造に取り込まれることによって生じる結晶格子の欠陥の形成を抑制することができ、得られる窒化物蛍光体の発光特性及び温度特性を向上させることができ、演色性に優れる蛍光体パッケージを調製するために有用な窒化物蛍光体とすることができる。ユウロピウムのハロゲン化物におけるユウロピウムの価数は、2価であってもよく、また3価であってもよい。フッ化ユウロピウムとしては、EuF2及びEuF3が挙げられる。塩化ユウロピウムとしては、EuCl2及びEuCl3が挙げられる。臭化ユウロピウムとしては、EuBr2又はEuBr3が挙げられる。ヨウ化ユウロピウムとしては、EuI2又はEuI3が挙げられる。ユウロピウムのハロゲン化物は、好ましくはフッ化ユウロピウムを含み、より好ましくはフッ化ユウロピウムである。フッ化ユウロピウムは、好ましくはEuF3である。他のハロゲン化物を用いる場合に比べて、取扱い性に優れるフッ化物を用いることで、工業的な生産性を向上させることができる。またユウロピウムのハロゲン化物として、フッ化物を用いることで、原料粉末の加熱による反応がよく進行し、異相の形成が抑制できる。
【0023】
上記原料粉末において発光中心を有する化合物は、ユウロピウムのハロゲン化物が主成分となるように調整されることが好ましい。すなわち、ユウロピウムのハロゲン化物の含有量は、ユウロピウムを含む化合物の全量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。ユウロピウムのハロゲン化物のユウロピウムを含む化合物の全量に対する含有量が上記範囲内であることによって、得られる第一の蛍光体及び窒化物蛍光体の結晶格子の欠陥の発生をより一層抑制することができ、発光ピーク波長が長波長(例えば、640nm)であっても、発光強度の低下が一層抑制された窒化物蛍光体を得ることができる。ユウロピウムのハロゲン化物の含有量は、ユウロピウムの含む化合物の全量に対して、100質量%(ユウロピウムを含む化合物がユウロピウムのハロゲン化物のみであることを意味する)であってもよい。
【0024】
上記原料粉末は、窒化物及びユウロピウムのハロゲン化物に加えて、その他の化合物を含んでもよい。その他の化合物としては、例えば、上述の窒化物蛍光体を構成する元素の酸化物、水素化物、及び炭酸塩等を含んでもよい。
【0025】
第一の工程における加熱温度は、例えば、1650℃超であってよく、又は1700℃以上であってよい。加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、第一の蛍光体を形成する反応をより十分に進行させることができ、未反応物の量をより低減することができる。第一の工程における加熱温度は、例えば、2000℃以下であってよい。加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、CaAlSiN3と同一の結晶構造を有する主結晶相の部分の分解による欠陥の発生を抑制することができる。加熱温度は上記範囲内で調整することができ、例えば、1700~2000℃であってよい。
【0026】
第一の工程は、例えば、不活性ガス雰囲気下で行われてもよい。不活性ガスは、例えば、窒素、及びアルゴン等を含んでもよく、好ましくは窒素を含んでもよく、より好ましくは窒素である。第一の工程は、圧力が調整された雰囲気下で行われてもよい。第一の工程における圧力(ゲージ圧)は、例えば、1MPaG未満、又は0.9MPaG以下であってよい。圧力の上限値を上記範囲内とすることによって、生産性をより向上させることができる。第一の工程における圧力(ゲージ圧)は、例えば、0.1MPaG(大気圧)以上、0.5MPaG以上、0.7MPaG以上、又は0.8MPaG以上であってよい。圧力の下限値を上記範囲内とすることによって、原料粉末の加熱処理の過程で形成される第一の蛍光体の熱分解をより十分に抑制することができる。
【0027】
第一の工程における原料粉末の加熱の時間は、例えば、2~24時間、又は5~15時間であってよい。加熱の時間を調整することによって、原料粉末中の未反応物の量をより低減し、結晶成長を制御することができる。
【0028】
窒化物蛍光体の製造方法は、第一の工程の前に、上記原料粉末中のSr含有量を調整する工程を有してもよく、また上記原料粉末中のSr含有量に対するEu含有量を調整する工程を有していてもよい。
【0029】
上記原料粉末中のSr含有量は、原料粉末全量を基準として、例えば、30質量%以上、32質量%以上、又は34質量%以上とすることができる。上記原料粉末中のSr含有量は、原料粉末全量を基準として、例えば、45質量%以下、又は42質量%以下とすることができる。原料粉末中のSr含有量を上記範囲内とすることで、得られる窒化物蛍光体の発光ピーク波長の半値幅を十分に小さなものとすることができる。
【0030】
上記原料粉末中のEu含有量は、Sr含有量を基準として、例えば、18.0質量%以下、16.0質量%以下、又は14.0質量%以下とすることができる。上記原料粉末中のEu含有量は、Sr含有量を基準として、例えば、10.0質量%以上、又は11.0質量%以上とすることができる。原料粉末中のSr含有量に対するEu含有量を上記範囲内とすることによって、得られる窒化物蛍光体の発光ピーク波長を長波長に、かつ半値幅を十分に小さなものとすることができ、発光強度の低下を抑制することができる。
【0031】
第二の工程は、上述のようにして得られた第一の蛍光体を第一の工程よりも低い温度で加熱することによって窒化物蛍光体(第二の蛍光体)を得る工程である。第二の工程によって、第一の蛍光体中の結晶格子の欠陥等を低減することができ、当該工程を経ることによって、発光ピーク波長及び当該ピーク波長の半値幅を調整することができる。
【0032】
第二の工程における加熱温度は、例えば、1100℃以上であってよく、又は1200℃以上であってよい。加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、第一の蛍光体中の結晶格子の欠陥等をより十分に低減することができる。第二の工程における加熱温度は、例えば、1650℃以下であってよく、又は1450℃以下であってよい。加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、第一の蛍光体中のCaAlSiN3と同一の結晶構造を有する主結晶相の部分の分解を十分に抑制することができる。加熱温度は、上記範囲内で調整することができ、例えば、1100~1650℃であってよい。
【0033】
第二の工程は、例えば、第一の工程と同一の不活性ガス雰囲気下で行われてもよく、第一の工程とは異なる不活性ガス雰囲気下で行われてもよい。不活性ガスは、上記第一の工程において例示したガスを用いることができるが、好ましくはアルゴンを含み、より好ましくはアルゴンである。第二の工程は、第一の工程と同一の圧力雰囲気下で行われてもよく、第一の工程とは異なる圧力雰囲気下で行われてもよい。第二の工程における圧力(ゲージ圧)は、例えば、0.65MPaG以下であってよく、0.1MPaG以下であってよく、又は0.01MPaG以下であってよい。圧力の上限値を上記範囲内とすることによって第一の蛍光体中の結晶格子の欠陥をより十分に低減することができ、窒化物蛍光体の発光強度をより向上させることができる。第二の工程における圧力(ゲージ圧)は、特に制限されるものではないが、工業的生産性を考慮して、0MPaG以上、0.001MPaG以上、又は0.002MPaG以上であってよい。第二の工程における圧力は、上述の範囲において調整してもよく、例えば、0~0.65MPaGであってよい。
【0034】
第二の工程における第一の蛍光体の加熱の時間は、例えば、4~24時間、又は8~15時間であってよい。加熱の時間を調整することによって、第一の蛍光体の結晶格子の欠陥の低減及び窒化物蛍光体の発光強度をより向上させることができる。
【0035】
窒化物蛍光体の製造方法に用いる容器は、高温、及び高温の不活性雰囲気下において安定であり、原料粉末、第一の蛍光体及び窒化物蛍光体(第二の蛍光体)等と反応しにくい材質で構成されているものを用いることが好ましい。このような容器としては、例えば、モリブデン、タンタル、及びタングステン、並びにこれらの金属を含む合金で構成される金属製容器であることが好ましく、蓋つき容器であることがより好ましい。
【0036】
窒化物蛍光体の製造方法は、第一の工程及び第二の工程、上記原料粉末中のSr含有量を調整する工程、並びに、上記原料粉末中のSr含有量に対するEu含有量を調整する工程に加えて、その他の工程を更に有してもよい。その他の工程としては、第二の工程で得らえた第二の蛍光体(窒化物蛍光体)を酸処理する工程等が挙げられる。窒化物蛍光体の酸処理によって蛍光体中の不純物の含有量を低減することができる。酸としては、例えば、塩酸、ギ酸、酢酸、硫酸及び硝酸等を挙げることができる。酸処理の後に、窒化物蛍光体を水で洗浄して酸を除去し、乾燥させてもよい。
【0037】
上述の製造方法によって得られる窒化物蛍光体は微粒子として得られる。窒化物蛍光体のメジアン径(d50)は、例えば、1~50μm以上であってよい。メジアン径が上記範囲内であることによって、励起光を受けることができ、発光強度の低下を十分抑制すると共に、窒化物蛍光体が発する蛍光の色度のばらつきを抑制することができる。本明細書において「メジアン径(d50)」は、JIS R 1622:1997の記載に準じて、レーザー回折散乱法によって測定される体積平均径から算出される値を意味する。
【0038】
上述の製造方法によって得られる窒化物蛍光体は、例えば、以下のような組成を有する。窒化物蛍光体は、Eu含有量が4.5~7.0質量%であり、Sr含有量が30~42質量%であり、Ca含有量が0.8~3.0質量%以下であってよい。窒化物蛍光体において、Eu含有量、Sr含有量及びCa含有量が上記範囲となることによって、窒化物蛍光体の発光強度、及び高温における発光強度の低下抑制をより高い水準で両立することができる。
【0039】
窒化物蛍光体におけるEu含有量は、例えば、5.0~7.0質量%であってよく、5.0~6.0質量%であってよい。窒化物蛍光体におけるSr含有量は、例えば、34.0~41.0質量%であってよく、又は36.0~40.0質量%であってよい。窒化物蛍光体におけるCa含有量は、例えば、0.8~2.9質量%であってよく、0.8~2.8質量%であってよく、0.8~1.0質量%であってよく、又は0.8~0.9質量%であってよい。Eu含有量、Sr含有量及びCa含有量を上記範囲内とすることで、結晶格子の欠陥のより低減された窒化物蛍光体とすることができる。
【0040】
上述の製造方法によって得られる窒化物蛍光体は、CaAlSiN3と同一の結晶構造を有し、構成元素としてEu及びSrを有する窒化物蛍光体である。上述の製造方法によれば、例えば、発光ピーク波長が640nm以上であり、上記発光ピーク波長の半値幅が80nm以下である窒化物蛍光体を得ることもできる。
【0041】
上記窒化物蛍光体は、構成元素としてハロゲンを含んでもよい。上記窒化物蛍光体がハロゲンを含む場合、より長波長域に発光ピーク波長を有し、赤色蛍光体としてより有用なものとできる。窒化物蛍光体中のハロゲン含有量は、窒化物蛍光体の全量を基準として、例えば、200μg/g以上、300μg/g以上、又は500μg/g以上であってよい。窒化物蛍光体中のハロゲン含有量の下限値を上記範囲内とすることで、窒化物蛍光体の発光効率の低下を抑制することができる。当該効果は、窒化物蛍光体の結晶構造が高量示効率を発揮し得る状態に維持されているためと本発明者らは推定する。窒化物蛍光体中のハロゲンの含有量は、例えば、2000μg/g以下、1500μg/g以下、又は1000μg/g以下であってよい。上記ハロゲンとしては、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)等を挙げることができる。窒化物蛍光体は、好ましくはフッ素を含む。
【0042】
上記窒化物蛍光体の発光ピーク波長は、例えば、640nm以上であってよく、642nm以上であってよく、644nm以上であってもよい。発光ピーク波長の下限値が上記範囲内であることによって、より深い赤色を発光することができ、白色LED用の赤色蛍光体として用いる場合には、より高い演色性を発揮し得る。また、発光ピーク波長の下限値を上記範囲内とすることでまた、窒化物蛍光体を使用した発光装置の色再現範囲をより拡大することができる。窒化物蛍光体の発光ピーク波長は、例えば、655nm以下であってよく、650nm以下であってよい。発光ピーク波長の上限値が上記範囲内であることによって、半値幅の値が大きくなることを抑制することができ、発光強度をより優れたものとすることができる。窒化物蛍光体の発光ピーク波長は、例えば、窒化物蛍光体中の発光中心となる元素(例えば、Eu等)の含有量を増やすこと等によって調整することができる。
【0043】
窒化物蛍光体の発光ピーク波長における半値幅は、例えば、80nm以下、78nm以下、又は76nm以下であってよい。発光ピーク波長における半値幅の上限値を上記範囲内とすることで、窒化物蛍光体の発光強度、及び高温における発光強度の低下抑制をより高い水準で両立することができる。窒化物蛍光体の発光ピーク波長における半値幅は、通常、50nm以上であり、60nm以上、又は65nm以上であってよい。発光ピーク波長における半値幅の下限値を上記範囲内とすることで、発光強度に優れた窒化物蛍光体とすることができる。窒化物蛍光体の発光ピーク波長における半値幅は、例えば、Sr含有量とEu含有量との割合等によって調整することができる。
【0044】
本明細書において蛍光体の発光ピーク波長は、455nmの励起波長に対する蛍光スペクトル測定によって決定される値を意味する。本明細書において「半値幅」は、半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)を意味し、455nmの励起波長に対する蛍光スペクトル測定によって得られる蛍光スペクトルから決定することができる。
【0045】
上記窒化物蛍光体は、25℃における発光強度に優れており、また高温(例えば、200℃)においても発光強度に十分優れたものとなり得る。窒化物蛍光体の25℃における発光強度に対する、200℃における発光強度の維持率は、例えば、70%以上とすることができ、72%以上、又は74%以上とすることもできる。窒化物蛍光体の発光強度の維持率が上記範囲内であることで、使用中に環境温度の上昇を伴う用途に使用することができ、照明用の赤色蛍光体として有用である。窒化物蛍光体の発光強度の維持率は、例えば、窒化物蛍光体中のSr含有量とEu含有量との割合を調整すること等によって向上させることができる。
【0046】
上記窒化物蛍光体は、単独で用いてもよく、その他の蛍光体と組み合わせて用いてもよく、蛍光体組成物として用いてもよい。上述の製造方法によって得られる窒化物蛍光体は、発光強度に優れ、他の蛍光体と組み合わせて蛍光体組成物(蛍光体パッケージともいう)として用いる蛍光体として好適である。当該窒化物蛍光体は、特に、赤色蛍光体として有用であり、これを用いた蛍光体パッケージは優れた演色性を発揮し得る。当該窒化物蛍光体は、また高温(例えば、200℃)における発光強度の低下が十分に抑制されている。このことから、照明用に用いられる赤色蛍光体として有用である。
【0047】
蛍光体組成物の一実施形態は、上述の窒化物蛍光体と、その他の蛍光体とを含む。その他の蛍光体は、例えば、赤色蛍光体、黄色蛍光体、黄緑色蛍光体、緑色蛍光体等を含んでもよい。その他の蛍光体は、蛍光体組成物を用いる用途に応じて選択することができ、例えば、発光装置に要求される輝度、色味、及び演色性等に応じて選択して組み合わせることができる。赤色蛍光体としては、例えば、CaSiAlN3を含む窒化物蛍光体(CASN蛍光体)、発光ピーク波長が640nm未満であるSCASN蛍光体等が挙げられる。緑色~黄色蛍光体(緑色から黄色の波長帯域に蛍光波長を有する蛍光体)としては、例えば、LuAG蛍光体YAG蛍光体等黄色蛍光体としては、Ca-α-SiAlON蛍光体等、緑色蛍光体としてはβ-SiAlON蛍光体等が挙げられる。
【0048】
上述の窒化物蛍光体は、例えば、白色LED等の発光装置に使用することができる。発光装置の一実施形態は、窒化物蛍光体と、発光素子とを有する。
図1は、発光装置の一例を示す模式断面図である。
図1に示す発光装置は、表面実装型に分類される光半導体装置の例である。発光装置100は、基材10と、基材10の表面に設けられた金属層20と電気的に接続された発光素子40と、発光素子40を取り囲むように基材10の表面に設けられた反射部30と、基材10と反射部30とで形成される凹部に充填され、発光素子40を封止する透明封止樹脂60と、を備えている。透明封止樹脂60中には、窒化物蛍光体52と、その他の蛍光体54とが分散している。
【0049】
基材10は、表面の一部に金属層20が形成されており、金属層20は、基材10の表面に配置された発光素子40と導通される電極となっている。発光素子40は、アノード側及びカソード側のいずれか一方の金属層20とダイボンドされており、ダイボンド材42を介して金属層20と電気的に接続されている。発光素子40は、アノード側及びカソード側のいずれか一方の金属層20とボンディングワイヤ44を介して電気的に接続されている。
【0050】
反射部30は、発光素子40を封止するための透明封止樹脂60を充填させると共に、発光素子40から発せられた光(励起光)、並びに上記光を受けて窒化物蛍光体52及びその他の蛍光体54から発せられた蛍光を発光装置100の表面側に反射させるものである。上述のような発光素子40からの励起光、及び蛍光によって、窒化物蛍光体52及びその他の蛍光体54は、温度の高い状況にさらされることになる。上記発光装置100は、窒化物蛍光体52として上述の窒化物蛍光体を用いていることから、使用に伴って温度が上昇した場合であっても、発光強度の低下が抑制されることから、発光装置100の長期使用に伴う高温となっても輝度の低下が抑制されており、また発光装置100の高温環境下での使用における輝度の低下も抑制されている。
【0051】
発光素子40は、窒化物蛍光体52及びその他の蛍光体54を励起することが可能な光を発するものであってよい。発光素子40は、例えば、近紫外発光ダイオード(近紫外LED)、紫外発光ダイオード(紫外LED)及び青色発光ダイオード(青色LED)等であってよい。
【0052】
発光装置100は、窒化物蛍光体52の他に、その他の蛍光体54を含むが、窒化物蛍光体52のみであってもよい。その他の蛍光体54としては、例えば、赤色蛍光体、黄色蛍光体、緑色蛍光体、及び青色蛍光体等を含んでもよい。
【0053】
上記例では、発光装置を表面実装型に分類される光半導体装置の例で説明したが、これに限られるものではない。発光装置は、例えば、照明装置、信号装置、画像表示装置、発光パネル、並びに液晶ディスプレイ、及び液晶パネル等のバックライト等であってよい。
【0054】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定される必要ものではない。
【実施例】
【0055】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
<窒化物蛍光体の調製>
容器に、63.4gのα型窒化ケイ素(Si3N4、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、55.6gの窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、及び16.7gのフッ化ユウロピウム(EuF3、富士フイルム和光純薬株式会社製)を測り取り予備混合した。次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、5.4gの窒化カルシウム(Ca3N2、Materion社製)、及び109.1gの窒化ストロンチウム(Sr3N2、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)を更に測り取り、乾式混合することで原料粉末(混合粉末)を得た。
【0057】
グローブボックス内で、250gの上記原料粉末を、タングステン製の蓋つき容器に充填した。当該蓋つき容器をグローブボックスから取り出し、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が600℃になるまで昇温した。600℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.9MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1950℃になるまで昇温し、1950℃に到達してから8時間かけて加熱処理(第一の工程に相当)を行った。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から赤色の塊状物を回収した。回収した塊状物を乳鉢で解砕して、最終的に目開き75μmの篩を通過した粉末(焼成粉)を得た。
【0058】
得られた焼成粉をタングステン容器に充填し、カーボンヒーターを備えた電気炉内に速やかに移し、炉内の圧力が0.1PaG以下まで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま加熱を開始し、温度が600℃に到達したところで、炉内にアルゴンガスを導入し、炉内雰囲気の圧力が0.2MPaGとなるように調整した。アルゴンガスの導入を開始した後も1300℃まで昇温を続けた。温度が1300℃に到達してから8時間かけて加熱処理(アニール処理、第二の工程に相当)を行った。その後、加熱を終了して室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から、アニール処理後の粉体を回収した。回収した粉体は、目開きが75μmの篩を通過させ粒度を調整して、赤色蛍光体を得た。
【0059】
加熱処理の後、電気炉内の加熱を停止し室温まで冷却した。上記蓋つき容器内で塊状となった試料を乳鉢に採り、解砕した。解砕後、目開き75μmの篩を通すことによって、実施例1の赤色蛍光体(窒化物蛍光体、メジアン径(d50):25μm)を得た。
【0060】
(実施例2)
容器に、63.1gのα型窒化ケイ素(Si3N4、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、55.2gの窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、16.9gのフッ化ユウロピウム(EuF3、富士フイルム和光純薬株式会社製)を測り取り予備混合した。次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、6.0gの窒化カルシウム(Ca3N2、Materion社製)、及び108.5gの窒化ストロンチウム(Sr3N2、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)を更に測り取り、乾式混合することで原料粉末を得た。その後の工程は実施例1と同様にして、実施例2の赤色蛍光体(窒化物蛍光体、メジアン径(d50):25μm)を得た。
【0061】
(比較例1)
容器に、64.4gのα型窒化ケイ素粉末(Si3N4、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、56.4gの窒化アルミニウム粉末(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、及び2.9gの酸化ユウロピウム(Eu2O3、信越化学工業株式会社製、RUグレード)を測り取り予備混合した。次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、2.6gの窒化カルシウム(Ca3N2、Materion社製)、及び123.7gの窒化ストロンチウム(Sr3N2、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)を更に測り取り、乾式混合することで原料粉末を得た。その後の工程は実施例1と同様にして、比較例1の赤色蛍光体(窒化物蛍光体、メジアン径(d50):25μm)を得た。
【0062】
(比較例2)
容器に、66.8gのα型窒化ケイ素粉末(Si3N4、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、58.6gの窒化アルミニウム粉末(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、及び7.6gの酸化ユウロピウム(Eu2O3、信越化学工業株式会社製、RUグレード)を測り取り予備混合した。次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、15.5gの窒化カルシウム(Ca3N2、Materion社製)、及び101.5gの窒化ストロンチウム(Sr3N2、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)を更に測り取り、乾式混合することで原料粉末を得た。その後の工程は実施例1と同様にして、比較例2の赤色蛍光体(窒化物蛍光体、メジアン径(d50):21μm)を得た。
【0063】
(比較例3)
容器に、66.5gのα型窒化ケイ素粉末(Si3N4、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、58.3gの窒化アルミニウム粉末(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、及び5.0gの酸化ユウロピウム(Eu2O3、信越化学工業株式会社製、RUグレード)を測り取り予備混合した。次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、12.6gの窒化カルシウム(Ca3N2、Materion社製)、及び107.6gの窒化ストロンチウム(Sr3N2、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)を更に測り取り、乾式混合することで原料粉末を得た。その後の工程は実施例1と同様にして、比較例3の赤色蛍光体(窒化物蛍光体、メジアン径(d50):37μm)を得た。
【0064】
(比較例4)
容器に、63.8gのα型窒化ケイ素粉末(Si3N4、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、55.9gの窒化アルミニウム粉末(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、及び14.4gの酸化ユウロピウム(Eu2O3、信越化学工業株式会社製、RUグレード)を測り取り予備混合した。次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、6.07gの窒化カルシウム(Ca3N2、Materion社製)、及び109.7gの窒化ストロンチウム(Sr3N2、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)を更に測り取り、乾式混合することで原料粉末を得た。その後の工程は実施例1と同様にして、比較例4の赤色蛍光体(窒化物蛍光体、メジアン径(d50):24μm)を得た。
【0065】
(比較例5)
容器に、63.1gのα型窒化ケイ素(Si3N4、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、55.2gの窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、16.9gのフッ化ユウロピウム(EuF3、富士フイルム和光純薬株式会社製)を測り取り予備混合した。次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、6.0gの窒化カルシウム(Ca3N2、Materion社製)、及び108.5gの窒化ストロンチウム(Sr3N2、純度2N、株式会社高純度化学研究所製)を更に測り取り、乾式混合することで原料粉末を得た。その後、第二の工程を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例5の赤色蛍光体(窒化物蛍光体、メジアン径(d50):25μm)を得た。
【0066】
<赤色蛍光体の結晶構造の確認>
実施例1、2及び比較例1~4で得られた赤色蛍光体について、X線回折装置(株式会社リガク製、製品名:UltimaIV)を用いた粉末X線解析法によって各赤色蛍光体についてのX線回折パターンを取得した。得られたX線回折パターンから結晶構造を確認した。この結果、実施例1、2、及び比較例1~4の赤色蛍光体についてのX線回折パターンすべてに、CaAlSiN3結晶と同一の回折パターンが認められた。なお、測定には、CuKα線(特性X線)を用いた。
【0067】
<赤色蛍光体の組成分析>
実施例1、2及び比較例1~5で得られた赤色蛍光体について、組成分析を行った。まず、加圧酸分解法によって赤色蛍光体を溶解させ、試料溶液を調製した。得られた試料溶液を対象として、ICP発光分光分析装置(株式会社リガク製、商品名:CIROS-120)を用いて元素の定量分析を行った。結果を表1に示す。
【0068】
上記結晶構造及び組成分析の結果から、実施例1、2及び比較例1~5で得られた赤色蛍光体は、いずれもSCASN蛍光体であることが確認された。
【0069】
<窒化物蛍光体のフッ素含有量の評価>
実施例1、2及び比較例1~5で得られたSCASN蛍光体について、フッ素含有量を評価した。自動試料燃焼装置(株式会社三菱ケミカルアナリテック製、製品名:AQF―2100H)を用いてSCASN蛍光体を燃焼させ、発生したガスを吸収させた試料溶液を調製した。調製した試料溶液に対して、イオンクロマトグラフィー法によって、フッ素含有量を測定した。結果を表1に示す。なお、表1中、窒化物蛍光体のフッ素含有量が検出限界以下であったものは、「-」で示した。
【0070】
上記イオンクロマトグラフィー法の測定条件は以下のとおりである。
装置:イオンクロマトグラフ(サーモフィッシャーサイエンティクス社製、製品名:ICS―2100)
カラム:AS17-C(サーモフィッシャーサイエンティクス社製、製品名)
導入量:25μL
溶離液:水酸化カリウム(KOH)溶液
送液速度:1.00mL/分
測定温度:35℃
【0071】
【0072】
<窒化物蛍光体の発光ピーク波長及び半値幅の測定>
実施例1、2及び比較例1~5で得られたSCASN蛍光体について、発光ピーク波長、及び半値幅の測定を行った。蛍光スペクトルは、ローダミンBと副標準光源によって補正を行った分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:F-7000)を用いて測定した。測定には、光度計に付属の固体試料ホルダーを使用し、励起波長:455nmに対する蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトルから、発光ピーク波長及び当該発光ピーク波長の半値幅を決定した。結果を表2に示す。
【0073】
<窒化物蛍光体の発光強度及び200℃における発光強度維持率の測定>
実施例1、2及び比較例1~5で得られたSCASN蛍光体について、発光強度および200℃における発光強度維持率の測定を行った。具体的には、以下の方法で測定を行った。
【0074】
凹型のセルに試料表面が平滑になるように、上述のとおり調製したSCASN蛍光体を充填した。上記SCASN蛍光体が充填されたセルを積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)にセットした。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーによって導入し、分光光度計(大塚電子株式会社製、製品名:QE-2100)を用いて励起反射スペクトル、及び蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトルから25℃の発光強度を得た。
【0075】
さらに、上述のSCASN蛍光体を充填したセル内部を加熱していき、上述の方法と同様にして、200℃におけるSCASN蛍光体の蛍光スペクトルを測定し、200℃における発光強度を得た。得られた発光強度から、下記式(1)に基づいて、200℃における発光強度維持率を算出した。結果を表2に示す。なお、表2に記載の発光強度は、比較例4で調製したSCASN蛍光体の25℃で測定した発光強度を基準とした相対値である。
【0076】
発光強度維持率[%]=[(200℃における発光強度)/(25℃における発光強度)]×100・・・式(1)
【0077】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示によれば、演色性に優れる蛍光体パッケージの製造に有用な蛍光体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0079】
10…基材、20…金属層、30…反射部、40…発光素子、42…ダイボンド材、44…ボンディングワイヤ、52…窒化物蛍光体、54…その他の蛍光体、60…透明封止樹脂、100…発光装置。