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特許7209626物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品
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  • 特許-物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品 図1A
  • 特許-物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品 図1B
  • 特許-物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品 図2
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  • 特許-物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品 図9A
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  • 特許-物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品 図11
  • 特許-物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】物品の強度及び耐擦傷性を保持するための亀裂を緩和する単層及び多層フィルムを有するガラスベース物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/42 20060101AFI20230113BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230113BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20230113BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C03C17/42
B32B9/00 A
B32B17/06
G09F9/00 302
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019533115
(86)(22)【出願日】2017-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 US2017065507
(87)【国際公開番号】W WO2018118467
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】62/436,657
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ベルマン,ロバート アラン
(72)【発明者】
【氏名】フォン,ジアンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ハート,シャンドン ディー
(72)【発明者】
【氏名】プライス,ジェイムズ ジョセフ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532258(JP,A)
【文献】国際公開第2016/138195(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/176383(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C
B32B
G09F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品であって、
対向する主面を含むガラス系基板;
有機ケイ酸塩材料を含み、かつ主面の一方に配置された、亀裂緩和積層体;及び
亀裂緩和積層体上に配置された耐擦傷性フィルムであって、前記フィルムが前記ガラス系基板の弾性率以上の弾性率を含む、耐擦傷性フィルム
を含み、
前記亀裂緩和積層体が、30GPa以下の弾性率によって特徴づけられ、
前記亀裂緩和積層体が、1つ以上の二重層を含み、各二重層が、(a)有機ケイ酸塩材料を含む第1の層及び、(b)前記第1の層の上に配置され、有機ケイ酸塩材料を含む第2の層と、によって画定され、前記第1の層は、前記第2の層の弾性率よりも低い弾性率を有し、
前記耐擦傷性フィルムが、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含み、
さらに、前記物品が、前記基板の平均曲げ強度の少なくとも70%である平均曲げ強度によって特徴づけられる、
物品。
【請求項2】
前記亀裂緩和積層体が50ナノメートル~500ナノメートルの厚さを有し、前記耐擦傷性フィルムが1μm~3μmの厚さを有する、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記耐擦傷性フィルムが、SiO、Al、TiO、Nb、Ta、SiO、SiAl、AlO、SiN、AlN、立方晶窒化ホウ素、TiN、SiC、TiC、WC、Si、Ge、インジウム-スズ酸化物、酸化スズ、フッ素化酸化スズ、酸化アルミニウム亜鉛、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンドープ酸化物、シロキサン含有ポリマー、シルセスキオキサン含有ポリマー、ダイヤモンド状炭素、及びそれらの組合せを含む、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項4】
前記フィルムを有しない、前記基板と前記ガラス系基板上に配置された前記亀裂緩和積層体との光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で、前記フィルム及び前記層を有しない前記基板のみの光透過率から5%以下だけ異なっており、かつ
前記物品の光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で90%以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記耐擦傷性フィルムが、1kgの全荷重下でのガーネットスクラッチ試験に前記フィルムを曝露したときに、前記物品から実質的に剥離しないことによって特徴づけられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
デバイスであって、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体の内側にある電気部品;及び
前記筐体の前記前面にあるか、又はそれに隣接しているディスプレイ
を含み、
請求項1~5のいずれか一項に記載の物品が、前記ディスプレイ上に配置されたもの、及び前記筐体の一部として配置されたもののうちの少なくとも1つである、
デバイス。
【請求項7】
前記亀裂緩和積層体の前記二重層の前記弾性率は、21GPa~30GPaの範囲内である、請求項1からのいずれかに記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2016年12月20日出願の米国仮特許出願第62/436657号の米国法典第35編特許法119条に基づく優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、表面に耐擦傷性フィルムが配置されたガラス系基板、及びフィルムとガラス系基板との間の改質界面を有し、それによって、ガラス系基板がその平均曲げ強度を実質的に保持し、フィルムが、ディスプレイデバイス用途に関連する光学特性及び耐擦傷性を含む、その用途のための特性を保持する、物品に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書に記載される、強化することができる又は強靱でありうるガラス系基板を含む物品は、特にタッチスクリーン用途におけるディスプレイ用保護カバーガラスとして、最近、広く使用されており、自動車や建築用の窓、太陽光発電システム用ガラス、及び他の電子機器用途で使用するためのガラス系基板など、他の多くの用途で使用できる可能性がある。さらには、このような物品は、製品内のデバイスを保護し、入力及び/又は表示、及び/又は他の多くの機能のためのユーザーインターフェースを提供するために、消費者向け電子製品にしばしば使用される。これらの消費者向け電子製品には、例えば、スマートフォン、mp3プレーヤー、コンピュータータブレットなどの携帯用機器が含まれる。
【0004】
強力な光学性能は、物品がカバー基板及び一部の筐体基板用途で使用される場合の最大の光透過率と最小の反射率の観点から、これらの物品の多くにおいて有益である。加えて、カバー基板用途では、反射及び/又は透過において示される又は知覚される色が、視野角(又は入射照明角)が変化したときに、感知できるほど変化しないことが望ましい。すなわち、色、反射率、又は透過率が視野角によってかなり変化する場合には、カバーガラスを組み込んだ製品のユーザーは、ディスプレイの色又は明るさの変化を知覚するため、ディスプレイの知覚品質を低下させる可能性がある。これらの変化の中でも、色の変化は、多くの場合、ユーザーにとって最も目立つ、不快なものである。
【0005】
これらの用途の多くでは、ガラス系基板に耐擦傷性フィルムを施すことが有利でありうる。このような耐擦傷性フィルムは、外側の耐擦傷性フィルムと基板との間に配置された他の機能性フィルム及び/又は層も含むことができる。このようなものとして、例示的な耐擦傷性フィルムは、以下の材料の1つ以上の層又はフィルムを含むことができる:インジウム-スズ酸化物(ITO)又は他の透明な導電性酸化物(例えば、アルミニウム及びガリウムドープ酸化亜鉛並びにフッ素ドープ酸化スズ)、さまざまな種類の硬質フィルム(例えば、ダイヤモンド状炭素、Al、AlN、AlO、Si、SiO、SiAl、TiN、TiC)、IR又はUV反射層、導電層又は半導体層、エレクトロニクス層、薄膜トランジスタ層、又は反射防止(AR)フィルム(例えば、SiO、Nb及びTiOの層状構造など)。これらの耐擦傷性フィルムは、独立型の層であろうと多層であろうと、必然的に、高い耐擦傷性を有しなければならず、多くの場合、硬質であるか、及び/又は、高い弾性率を有しなければならず、さもなければ、その他の機能特性、又はその下の基板の特性(例えば、機械的、耐久性、電気伝導率、及び/又は光学特性)が低下する。ほとんどの場合、これらの耐擦傷性フィルムは薄いフィルムである。結果として、それらは一般に0.005μm~10μmの範囲(例えば、5nm~10,000nm)の厚さを有する。
【0006】
強化することができるか、又は強靱であると特徴づけることができるガラス系基板の表面に耐擦傷性フィルムを施すと、例えば、リング・オン・リング強度試験を使用して評価する場合などに、ガラス系基板の平均曲げ強度が低下する場合がある。この挙動は、温度の影響とは無関係であると測定されている(すなわち、この挙動は、加熱による強化ガラス系基板の表面圧縮応力の大幅な又は測定可能な緩和によって引き起こされない)。平均曲げ強度の低下は、ガラス表面の損傷又は加工による腐食とは明らかに無関係であり、約5nm~約10μmの範囲の厚さを有する薄い耐擦傷性フィルムが物品に施される場合であっても、明らかに物品の固有の機械的属性である。理論に束縛されるものではないが、この平均曲げ強度の低下は、強化された又は強靱なガラス系基板に対するこのようなフィルム間の接着と関連し、また、このようなフィルムとガラス系基板との間の亀裂のブリッジングと共に、選択された耐擦傷性フィルムに対する、選択された強化された又は強靱なガラス系基板の最初の高い平均曲げ強度(又は高い平均破損歪み)に関連すると考えられる。
【0007】
例えば、ガラス系基板を使用するこれらの物品は、ある特定の電子機器用途で使用される場合、製造中に追加の高温処理に供することができる。より詳細には、ガラス系基板上に耐擦傷性フィルムを堆積させた後、物品に追加の熱処理に供することができる。このような追加の高温処理は、多くの場合、物品の基板及び/又はフィルム上の追加の構造及び部品の用途特有の開発の結果である。さらには、耐擦傷性フィルム自体の基板上への堆積は、比較的高温で実施することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの新たな理解を考慮すると、耐擦傷性フィルムに起因してこれらの物品におけるガラス系基板の平均曲げ強度が低下するのを防止する必要がある。また、耐擦傷性フィルム堆積プロセス及び追加の用途特有の熱処理による高温曝露の後でさえも、ガラス系基板の平均曲げ強度が実質的に保持されることを保証する必要がある。加えて、基板と耐擦傷性フィルムとの間の界面の追加の設計、構成、及び/又は処理を考慮して、基板及び耐擦傷性フィルムの耐擦傷性及び光学特性を保持する必要性も存在する。すなわち、物品の強度の保持を目的とした追加の界面特徴の導入の際には、物品の耐擦傷性及び光学特性を保持する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、対向する主面を有するガラス系基板、有機ケイ酸塩材料を含み、かつ主面の一方に配置された亀裂緩和層、及び亀裂緩和層上に配置された耐擦傷性フィルムを含む物品に関し、該フィルムは、ガラス系基板の弾性率以上の弾性率を有する。亀裂緩和層は、約1GPa~約30GPaの弾性率によって特徴づけられる。さらには、耐擦傷性フィルムは、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含む。加えて、物品は、基板の平均曲げ強度の少なくとも70%である平均曲げ強度によって特徴づけられる。
【0010】
第2の態様によれば、亀裂緩和層が約50ナノメートル~約500ナノメートルの厚さを有し、耐擦傷性フィルムが約1μm~約3μmの厚さを有する、第1の態様の物品が提供される。
【0011】
第3の態様によれば、耐擦傷性フィルムが窒化ケイ素を含む、態様1又は態様2に記載の物品が提供される。
【0012】
第4の態様によれば、耐擦傷性フィルムが、SiO、Al、TiO、Nb、Ta、SiO、SiAl、AlO、SiN、AlN、立方晶窒化ホウ素、TiN、SiC、TiC、WC、Si、Ge、インジウム-スズ酸化物、酸化スズ、フッ素化酸化スズ、酸化アルミニウム亜鉛、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンドープ酸化物、シロキサン含有ポリマー、シルセスキオキサン含有ポリマー、ダイヤモンド状炭素、及びそれらの組合せを含む、態様1又は態様2に記載の物品が提供される。
【0013】
第5の態様によれば、その上に亀裂緩和層が配置されたガラス系基板の光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で、亀裂緩和層を有しない基板のみの光透過率と5%以下だけ異なっている、態様1~4のいずれかに記載の物品が提供される。
【0014】
第6の態様によれば、耐擦傷性フィルムが、1kgの全荷重下でのガーネットスクラッチ試験にフィルムを曝露したときに、物品から実質的に剥離しないことによって特徴づけられる、態様1~5のいずれかに記載の物品が提供される。
【0015】
第7の態様によれば、亀裂緩和層が約5GPa~約15GPaの弾性率によって特徴づけられる、態様1~6のいずれかに記載の物品が提供される。
【0016】
第8の態様によれば、亀裂緩和層が約6GPa~約8GPaの弾性率によって特徴づけられる、態様1~7のいずれかに記載の物品が提供される。
【0017】
第9の態様によれば、物品の光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で約80%以上である、態様1~8のいずれかに記載の物品が提供される。
【0018】
本開示の第10の態様は、前面、背面、及び側面を有する筐体;少なくとも部分的に筐体の内部にある電気部品;並びに、筐体の前面にある、又はそれに隣接したディスプレイを備えたデバイスに関する。さらには、態様1~9のいずれか1つに記載の物品は、ディスプレイの上に配置されたもの、及びハウジングの一部として配置されたもののうちの少なくとも1つである。
【0019】
本開示の第11の態様は、対向する主面を有するガラス系基板、主面の一方に配置された亀裂緩和積層体、及び亀裂緩和層上に配置された耐擦傷性フィルムを備えた物品に関し、該フィルムはガラス系基板の弾性率以上の弾性率を有する。亀裂緩和積層体は、1つ以上の二重層を含み、各二重層は、(a)有機ケイ酸塩材料を含む第1の層、及び(b)第1の層上の有機ケイ酸塩材料を含む第2の層によって画成され、第1の層は、第2の層の弾性率より低い弾性率を有する。さらには、耐擦傷性フィルムは、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含む。加えて、物品は、基板の平均曲げ強度の少なくとも70%である平均曲げ強度によって特徴づけられる。
【0020】
第12の態様によれば、第1の層が約1GPa~約20GPaの弾性率によって特徴づけられ、第2の層が約10GPa~約40GPaの弾性率によって特徴づけられる、態様11に記載の物品が提供される。
【0021】
第13の態様によれば、第1の層が約20ナノメートル~約70ナノメートルの厚さによってさらに特徴づけられ、第2の層が約5ナノメートル~約40ナノメートルの厚さによってさらに特徴づけられる、態様11又は態様12に記載の物品が提供される。
【0022】
第14の態様によれば、亀裂緩和積層体が約50ナノメートル~約500ナノメートルの厚さを有する、態様11~13のいずれかに記載の物品が提供される。
【0023】
第15の態様によれば、亀裂緩和積層体がN個の二重層を含み、Nが2~10である、態様11~14のいずれかに記載の物品が提供される。
【0024】
第16の態様によれば、Nが3に等しい、態様15に記載の物品が提供される。
【0025】
第17の態様によれば、耐擦傷性フィルムが窒化ケイ素を含む、態様11~16のいずれかに記載の物品が提供される。
【0026】
第18の態様によれば、耐擦傷性フィルムが、SiO、Al、TiO、Nb、Ta、SiO、SiAl、AlO、SiN、AlN、立方晶窒化ホウ素、TiN、SiC、TiC、WC、Si、Ge、インジウム-スズ酸化物、酸化スズ、フッ素化酸化スズ、酸化アルミニウム亜鉛、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンドープ酸化物、シロキサン含有ポリマー、シルセスキオキサン含有ポリマー、ダイヤモンド状炭素、及びそれらの組合せを含む、態様11~16のいずれかに記載の物品が提供される。
【0027】
第19の態様によれば、第1及び第2の層が異なる組成物によって画成される、態様11~18のいずれかに記載の物品が提供される。
【0028】
第20の態様によれば、その上に亀裂緩和積層体が配置されたガラス系基板の光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で、亀裂緩和積層体を有しない同じガラス系基板の光透過率と5%以下だけ異なっている、態様11~19のいずれかに記載の物品が提供される。
【0029】
第21の態様によれば、1kgの全荷重下でのガーネットスクラッチ試験にフィルムを曝露したときに、耐擦傷性フィルムが、物品から実質的に剥離しないことによって特徴づけられる、態様11~20のいずれかに記載の物品が提供される。
【0030】
第22の態様によれば、第1及び第2の層が、それぞれ、約5GPa~約10GPa、及び約25GPa~約35GPaの弾性率によって特徴づけられる、態様11~21のいずれかに記載の物品が提供される。
【0031】
第23の態様によれば、物品の光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で、約80%以上である、態様11~22のいずれかに記載の物品が提供される。
【0032】
本開示の第24の態様は、前面、背面、及び側面を有する筐体;少なくとも部分的に筐体の内部にある電気部品;並びに、筐体の前面にある、又はそれに隣接したディスプレイを備えたデバイスに関する。さらには、態様11~23のいずれかに記載される物品は、ディスプレイの上に配置されたもの、及びハウジングの一部として配置されたもののうちの少なくとも1つである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A】1つ以上の実施形態による、ガラス系基板、耐擦傷性フィルム、及び亀裂緩和層を含む物品を示す図
図1B】1つ以上の実施形態による、ガラス系基板、耐擦傷性フィルム、及び亀裂緩和積層体を含む物品を示す図
図2】フィルム又は層における亀裂の発生及びその可能なブリッジングモードの概略図
図3】フィルム又は層中の亀裂の存在及びその弾性的不整合αの関数としての可能なブリッジングの理論モデルを示す図
図4】エネルギー放出比G/Gを示す図
図5A】本開示の幾つかの実施形態による、耐擦傷性フィルムとガラス系基板との間に挿入された亀裂緩和層又は亀裂緩和積層体に関連する接着不良の概略図
図5B】本開示の幾つかの実施形態による、耐擦傷性フィルムとガラス系基板との間に挿入された亀裂緩和層又は亀裂緩和積層体における凝集破壊の概略図
図6】実施例1A~1C、2A及び2Bによって与えられる本開示の態様による、ガラス系基板対照;窒化ケイ素耐擦傷性フィルム(2μm及び440μm)を有する基板;窒化ケイ素耐擦傷性フィルム(440μm)及びトリメチルシランベース(TMS)の有機ケイ酸塩亀裂緩和層を有する基板;並びに、窒化ケイ素耐擦傷性フィルム(440μm)及びTMSベースの有機ケイ酸塩亀裂緩和積層体を有する基板のリング・オン・リング荷重の破壊性能に対するグラフ
図7】実施例1A、2A及び2Bによって与えられる本開示の幾つかの実施形態による、ガラス系基板対照;単層のTMSベースの有機ケイ酸塩亀裂緩和層を有するガラス系基板;及び、多層のTMSベースの有機ケイ酸塩亀裂緩和積層体を有するガラス系基板についての可視スペクトルにおける波長の関数としての光透過率及び反射率データを表すグラフ
図8】可視スペクトルの波長の関数としての図7に示したサンプルについての吸収及びヘイズ(すなわち、吸収及びヘイズは1-(反射率+透過率)に等しい)データを示すグラフ
図9A】D65照明下で図7に描かれたサンプルについてのa*及びb*色座標を示す、透過率のカラーマップ
図9B】D65照明下で図7に描かれたサンプルについてのa*及びb*色座標を示す、反射率のカラーマップ
図10】本開示の幾つかの実施形態による、さまざまなTMS及び酸素ガス流量比の下で処理されたTMSベースの有機ケイ酸塩コーティングについてのフーリエ変換赤外(FTIR)分光スペクトルのグラフ
図11】1つ以上の実施形態によるデバイスの平面図
図12図11に示されたデバイスの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の詳細な説明では、本開示の実施形態の完全な理解を提供するために、多くの特定の詳細が示されている場合がある。しかしながら、これらの特定の詳細の一部又は全てがなくても本開示の実施形態を実施できる場合は、当業者には明らかであろう。他の事例では、本開示を不必要に曖昧にしないように、よく知られた特徴又はプロセスは、詳細には記載されない場合がある。加えて、類似又は同一の参照番号を使用して、共通又は類似の要素を特定することができる。
【0035】
図1Aを参照すると、本開示の態様は、積層体の全厚さ10aを有する積層物品100aを含む。物品100aはまた、厚さ11を有する耐擦傷性フィルム110、厚さ12を有するガラス系基板120、及び有機ケイ酸塩材料を含む厚さ13aを有する亀裂緩和層130aも含む。これらの態様では、亀裂緩和層130aは、典型的には、同じ又は実質的に同じ組成を有し、かつ約1GPa~約25GPaの弾性率によって特徴づけられた1つ以上の層を含む。ある特定の態様では、耐擦傷性フィルム110は、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含む。積層物品100aの幾つかの実施形態では、耐擦傷性フィルム110は窒化ケイ素を含む。
【0036】
薄膜素子(例えば、亀裂緩和層、耐擦傷性フィルム、亀裂緩和積層体等)の厚さは、断面の走査電子顕微鏡(SEM)によって、又は光学エリプソメトリーによって(例えば、n&k分析器による)、又は薄膜反射率測定法によって測定した。多層要素(例えば、亀裂緩和積層体)については、SEMによる厚さ測定が好ましい。薄膜素子の弾性率を測定するために、プロキシ層を使用した。プロキシ層は同じ材料で作られ、コーティングの生成に使用した同じプロセスで堆積したが、Gorilla(登録商標)ガラス基板上に300nmの厚さで堆積させた。薄膜コーティングの硬度及びヤング率は、広く受け入れられているナノインデンテーション手法を使用して決定される。Fischer-Cripps, A.C., Critical Review of Analysis and Interpretation of Nanoindentation Test Data, Surface & Coatings Technology, 200, 4153 - 4165 (2006)(以後「Fischer-Cripps」);及び、Hay, J., Agee, P, and Herbert, E., Continuous Stiffness measurement During Instrumented Indentation Testing, Experimental Techniques, 34 (3) 86 - 94 (2010)(以後「Hay」)を参照。コーティングでは、硬度と弾性率を押し込み深さの関数として測定するのが一般的である。コーティングが十分な厚さである限り、結果の応答プロファイルからコーティングの特性を分離することが可能である。コーティングが薄すぎる(例えば、約500nm未満)場合には、異なる機械的特性を有しうる基板の近くから影響を受ける可能性があるため、コーティングの特性を完全に分離することができない可能性があることが認識されるべきである。Hayを参照。本明細書において特性の報告に用いる方法は、コーティング自体の代表である。この方法では、1000nmに近い深さまでの押し込み深さに対する、硬度及び弾性率を測定する。より軟らかいガラス上の硬質コーティングの場合には、応答曲線は、比較的小さい押し込み深さ(</=約200nm)で
最大レベルの硬度と弾性率を示す。より深い押し込み深さでは、応答は、より軟質のガラス基板の影響を受けるため、硬度と弾性率の両方が徐々に低下する。この場合、コーティングの硬度及び弾性率は、最大の硬度と弾性率を示す領域に関連するものとみなされる。より硬質のガラス基板上の軟質コーティングの場合、コーティングの特性は、比較的小さい押し込み深さで生じる最低の硬度及び弾性率レベルによって示される。より深い押し込みの深さでは、より硬質のガラスの影響により、硬度及び弾性率が徐々に増加する。深さに対するこれらの硬度及び弾性率のプロファイルは、従来のOliverとPharrの手法(Fischer-Crippsに記載)を使用して、又はより効率的な連続剛性の手法(Hayを参照)によって取得することができる。信頼性の高いナノインデンテーションデータの抽出には、十分に確立されたプロトコルに従うことが必要とされる。そうでなければ、これらの測定基準は重大なエラーの影響を被る可能性がある。
【0037】
物品100a内では、耐擦傷性フィルム110と亀裂緩和層130aとの間、又は亀裂緩和層130aと基板120との間の有効界面140における界面特性は、一般に、物品100aがその平均曲げ強度を実質的に保持し、フィルム110がその用途のための機能的特性、特に耐擦傷性を保持するように、亀裂緩和層130aにより改質される。
【0038】
ここで図1Bを参照すると、本開示の態様は、積層体の全厚さ10bを有する積層物品100bを含む。物品100bはまた、耐擦傷性フィルム110、ガラス系基板120、及び、厚さ13bを有し、有機ケイ酸塩材料を含む亀裂緩和積層体130bを含む。積層物品100bは、積層物品100aと類似している。結果として、同様の番号が付された要素は同じ又は同様の構造及び機能を有する。さらには、亀裂緩和積層体130bは、各々が第1の層33及び第2の層35でできた1つ以上の二重層23を含む。ある特定の態様では、亀裂緩和積層体130bは、N個の二重層23を含み、Nは約2~10個の二重層23の範囲である。幾つかの実施形態では、二重層23の数Nは3に等しい。その結果、3つの二重層23が存在し、合計で6つの第1及び第2の層33、35が存在する。
【0039】
積層物品100bの各二重層23(図1B参照)は、有機ケイ酸塩材料を含む第1の層33と、有機ケイ酸塩材料を含む第2の層35によって画成され、ここで、第1の層33は第2の層35の弾性率より低い弾性率を有する。第1及び第2の層33、35は、典型的には、同様の組成を有するが、弾性率が異なっている。ある特定の実施形態では、第1及び第2の層33、35は、異なる組成を有し、それによって、弾性率を含むそれらの特性の違いに影響を及ぼす。ある特定の実施形態では、第1の層33は約1GPa~約20GPaの弾性率によって特徴づけられ、第2の層35は約10Pa~約40GPaの弾性率によって特徴づけられる。ある特定の態様では、耐擦傷性フィルム110は、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含む。
【0040】
物品100b内では、耐擦傷性フィルム110と亀裂緩和積層体130bとの間、又は亀裂緩和積層体130bと基板120との間の有効界面140における界面特性は、一般に、物品100bがその平均曲げ強度を実質的に保持し、耐擦傷性フィルム110がその用途のための機能的特性、特に耐擦傷性を保持するように、亀裂緩和積層体130bによって改質される。
【0041】
本開示において理解されるように、用語「耐擦傷性フィルム」及び「耐擦傷性フィルム110」は、1つ以上のフィルム、層、構造、及びそれらの組合せを含むことができる。複数のフィルム、層、構造等を含む「フィルム」については、「フィルム」に関連した屈折率は、「フィルム」を構成するフィルム、層、構造等の集合体又は複合体の屈折率であることも理解されるべきである。
【0042】
再び図1A及び1Bを参照すると、本開示の態様は、ガラス系基板120及び亀裂緩和層130a又は積層体130bを含む積層物品100a、100bを含む。物品100a、100b内では、亀裂緩和層130a又は積層体130bと基板120との間の有効界面140における界面特性は、物品100a、100bがその平均曲げ強度を実質的に保持するように改質される。さらなる実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bと基板120との間の有効界面140における界面特性は、物品100a、100bがその平均曲げ強度の少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%を実質的に保持するように改質される。追加の実施では、有効界面140における界面特性は、物品100a、100bがその耐擦傷性、特に耐擦傷性フィルム110に関連する耐擦傷性を実質的に保持するように改質される。
【0043】
1つ以上の実施形態では、積層物品100a、100bは、このような界面の改質後にも保持される機能特性、例えば耐擦傷性を示す。耐擦傷性フィルム110及び/又は物品100a、100bの機能的特性は、光学特性、電気的特性及び/又は機械的特性、例えば、硬度、弾性率、破損歪み、耐摩耗性、耐擦傷性、機械的耐久性、摩擦係数、電気伝導率、電気抵抗率、電子移動度、電子又は正孔キャリアのドーピング、光屈折率、密度、不透明度、透明度、反射率、吸収率、透過率などを含みうる。屈折率は、当技術分野で知られているように、分光エリプソメトリーを使用する、米国カリフォルニア州サンノゼ所在のn&k Technology、Inc.から供給されるModel 1512-RT分析器を使用して測定した。ある特定の実施では、物品100a、100bの光学特性は、亀裂緩和層130a又は積層体130の特性及び/又は処理とは無関係に保持される。ある特定の態様では、基板120及び亀裂緩和層130a又は積層体130bの光透過率は、基板120の光透過率(例えば、400nm~800nmの波長)から1%以下だけ変動しうる。物品100a、100bのこれらの機能特性は、亀裂軽減層130a及び積層体130bと組み合わせた後、及び、本明細書に記載されるガラス系基板120から亀裂緩和層130a及び積層体130bを分離する前において保持されうる。
【0044】
積層物品100a、100bの1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルム110とガラス系基板120との間の有効界面140に対する改質は、フィルム110及び/又は物品の他の機能特性を保持しつつ、1つ以上の亀裂がフィルム110又はガラス系基板120の一方からフィルム110又はガラス系基板120の他方へとブリッジするのを防ぐことを含む。1つ以上の特定の実施形態では、図1A及び1Bに示されるように、界面特性の改質は、ガラス系基板120と耐擦傷性フィルム110との間に亀裂緩和層130a又は積層体130bを配置することを含む。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ガラス系基板120上に配置されて第1の界面150を形成し、フィルム110は、亀裂緩和層130上に配置され、第2の界面160を形成する。有効界面140は、第1の界面150、第2の界面160、及び/又は亀裂緩和層130を含む。
【0045】
図1A及び1Bに示される積層物品100a及び100bに関して、用語「耐擦傷性フィルム」は、耐擦傷性フィルム110及び/又は物品100a、100bに組み込まれた他のフィルムに施される際に、離散堆積法又は連続堆積法を含む当技術分野で知られている方法によって形成される1つ以上の層を含む。このような層は、互いに直接接触していてもよい。これらの層は、同じ材料又は複数の異なる材料から形成されていてもよい。1つ以上の代替的な実施形態では、このような層は、それらの間に配置された異なる材料の介在層を有していてもよい。1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルムは、1つ以上の連続した途切れのない層及び/又は1つ以上の不連続かつ途切れのある層(すなわち、互いに隣接して形成された異なる材料を有する層)を含みうる。
【0046】
本明細書で用いられる場合(例えば、積層物品100a、100bに関して)、用語「配置する」は、当該技術分野で知られている方法を使用して材料を表面にコーティング、堆積、及び/又は形成することを含む。配置された材料は、本明細書に定義される層又はフィルムを構成しうる。「~上に配置される」という語句は、材料が表面に直接接触するように材料を表面に形成する場合を含み、また、配置された材料と表面の間に1つ以上の介在材料が存在する場合は、該表面に材料が形成される場合も含む。介在材料は、本明細書で定義されるように、層又はフィルムを構成しうる。
【0047】
本明細書で用いられる場合、用語「平均曲げ強度」とは、リング・オン・リングで試験したガラス含有材料(例えば、物品及び/又はガラス系基板)の曲げ強度を指すことが意図されている。用語「平均」とは、平均曲げ強度又は他の特性に関連して用いられる場合には、5つの試料におけるこのような特性の測定値の数学的平均に基づいている。平均曲げ強度とは、リング・オン・リング下の破損荷重の2パラメータ・ワイブル統計のスケールパラメータのことを指しうる。このスケールパラメータは、ワイブル特性強度とも呼ばれ、材料の破損確率は63.2%である。ガラス表面強度は、ガラス含有材料(例えば、物品及び/又はガラス系基板)を含む器具又は装置を、表面曲げ応力を生じさせうるさまざまな方向に落下させる、装置構成においても試験することができる。平均曲げ強度は、幾つかの事例では、当技術分野で知られている他の方法、例えば3点曲げ試験又は4点曲げ試験で試験された強度を組み込むこともできる。幾つかの事例では、これらの試験方法は、物品のエッジ強度によって大きく影響を受ける可能性がある。
【0048】
本明細書で用いられる場合、用語「ブリッジ」、又は「ブリッジング」とは、亀裂、キズ、又は欠陥の形成、及びこのような亀裂、キズ、又は欠陥のサイズの成長、及び/又は、1つの材料、層、又はフィルムから別の材料、層、又はフィルムへの伝播のことを指す。例えば、ブリッジングには、耐擦傷性フィルム110に存在する亀裂が別の材料、層、又はフィルム(例えば、ガラス系基板120)に伝播する場合が含まれる。用語「ブリッジ」又は「ブリッジング」には、亀裂が、異なる材料、異なる層、及び/又は異なるフィルム間の界面を横断する場合も含まれる。材料、層、及び/又はフィルムは、亀裂がこのような材料、層、及び/又はフィルム間をブリッジするために互いに直接接触する必要はない。例えば、亀裂は、第1の材料と第2の材料との間に配置された中間材料を介してブリッジンすることにより、第1の材料から該第1の材料とは直接接触しない第2の材料へとブリッジしうる。同じシナリオを、層とフィルム、並びに、材料、層、及びフィルムの組合せにも適用することができる。本明細書に記載される積層物品100a、100bでは、亀裂は、耐擦傷性フィルム110又はガラス系基板120の一方で発生し、耐傷性フィルム110又はガラス系基板120のもう一方へと、有効界面140(特に第1の界面150及び第2の界面160)を横切る場合がある。
【0049】
積層物品100a、100bに関連して本明細書に記載されるように、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、亀裂が生じる場所(すなわち、フィルム110又はガラス系基板120)に関係なく、耐擦傷性フィルム110とガラス系基板120との間のブリッジングから亀裂を偏向させることができる。同様に、積層物品100a、100bの亀裂緩和層130a又は積層体130bは、層又は積層体130a、130bとガラス系基板120との間のブリッジングから亀裂を偏向させることができる。亀裂偏向は、ある材料(例えば、フィルム110、ガラス系基板120、又は亀裂緩和層/積層体130a/130b)から別の材料(例えば、フィルム110、ガラス系基板120又は亀裂緩和層/積層体130a/130b)への亀裂のブリッジングの際に、本明細書に記載されるように、フィルム110及び/又はガラス系基板120からの亀裂緩和層130a又は積層体130bの少なくとも部分的な剥離を含みうる。亀裂偏向には、フィルム110及び/又はガラス系基板120に伝播する代わりに、亀裂緩和層130a又は積層体130bを介して亀裂を伝播させることも含まれうる。このような事例では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、有効界面140に低靭性界面を形成することができ、ガラス系基板又はフィルムの代わりに亀裂緩和層を介して亀裂の伝播を促進する。このタイプの機構は、有効界面140に沿って亀裂を偏向させるものとして説明することができる。
【0050】
以下の理論的破壊力学解析は、積層物品、例えば、積層物品100a、100b(図1A及び1B参照)内で亀裂がブリッジするか、又は亀裂を緩和することができる、選択された方法を示している。図2は、ガラス系基板上に配置されたフィルムにおける亀裂の存在と、その可能なブリッジング又は緩和モードを示す概略図である。図2で番号が付された要素は、ガラス系基板40(例えば、図1A及び1Bのガラス系基板120に相当する)、該ガラス系基板40の表面(番号なし)の上部のフィルム42(例えば、耐擦傷性フィルム110に相当する)、ガラス系基板40とフィルム42との間の界面への両面偏向44、停止46(フィルム42で発達し始めたが、フィルム42を完全には通過しなかった亀裂)、「キンキング」48(フィルム42の表面に発生した亀裂だが、ガラス系基板40の表面に達したときに、ガラス系基板40に直接侵入せず、代わりに図2に示す横方向に移動し、別の位置でガラス系基板40の表面を貫通する亀裂)、フィルム42に発生し、ガラス系基板40に侵入した貫通亀裂41、並びに、片側偏向43である。図2はまた、ゼロ軸45と比較したガラス系基板40の張力対圧縮47のグラフも示している。縦方向のページで、すなわち、水平方向に線45、上部に数字48をともなって、線45と47は、絵に重ねられた応力プロファイルのグラフを表している。この方向では、線45はゼロ応力の値を有する、グラフのx軸を表している。ガラス表面における高い圧縮応力は線47で示され、また、ガラスの深さにおける引張応力も、線47が線45の下に下がったときに示されている。図示されるように、外部荷重を印加すると(このような場合、引張荷重が最も有害な状態である)、残留圧縮のある又は強化されたガラス系基板に亀裂が発生する前に、フィルムのキズを優先的に活性化して亀裂を形成することができる。図2に示されているシナリオでは、外部荷重が増加し続けると、亀裂は、ガラスベース基材に遭遇するまでブリッジする。亀裂がフィルム42で発生して、ガラス系基板40の表面に到達する場合、亀裂の可能なブリッジングモードは次のとおりである:(a)番号41で表されるように、その経路を変えずにガラス系基板に侵入する;(b)番号43で示されるように、フィルムとガラス系基板との間の界面に沿って片側へと偏向する;(c)番号44で示されるように、界面に沿って2つの側面へと偏向する;(d)番号48で示されるように、最初に、界面に沿って偏向し、次に、ガラス系基板にキンキングする;又は、(e)微視的な変形機構、たとえば亀裂先端における塑性、ナノスケールの鈍化、又はナノスケールの偏向による、番号46で示される亀裂停止。亀裂は、フィルムで発生する場合もあり、ガラス系基板内へとブリッジする可能性がある。上述のブリッジングモードはまた、例えば、ガラス系基板の既存の亀裂又はキズが、フィルムの亀裂又はキズを誘発又は核生成し、したがって、ガラス系基板からフィルムへの亀裂の成長又は伝播につながり、亀裂のブリッジングをもたらすなど、亀裂がガラス系基板で発生し、フィルム内へとブリッジする場合にも適用することができる。
【0051】
ガラス系基板120及び/又は耐擦傷性フィルム110内への亀裂の侵入は、ガラス系基板120のみ(すなわち、耐擦傷性フィルム又は亀裂緩和層/積層体なし)の平均曲げ強度と比較して、積層物品100a、100b(図1A及び1B参照)及びガラス系基板120の平均曲げ強度を低下させるが、一方、亀裂の偏向、亀裂の鈍化、又は亀裂の停止(本明細書では集合的に亀裂緩和と称される)は、物品の平均曲げ強度の保持に役立つ。「亀裂の鈍化」及び「亀裂の停止」は、互いに区別することができる。「亀裂の鈍化」は、例えば、塑性変形又は降伏機構による亀裂先端半径の増加を含みうる。一方、「亀裂停止」には、例えば、亀裂先端における高い圧縮応力への遭遇、低弾性率中間層又は低弾性率から高弾性率への界面遷移の存在によって生じる亀裂先端での応力拡大係数の減少、一部の多結晶又は複合材料のように、ナノスケールの亀裂偏向又は亀裂屈曲、亀裂先端における歪み硬化など、さまざまな機構を含めることができる。亀裂偏向のさまざまなモードが本明細書に記載されている。
【0052】
理論に拘束されることなく、ある特定の亀裂ブリッジング経路を、線形弾性破壊力学の観点で分析することができる。次の段落では、1つの亀裂経路を例として使用し、破壊力学の概念を亀裂経路に適用して問題を分析し、特定の範囲の材料特性について、物品の平均曲げ強度性能を維持するのに役立つ所望の材料パラメータを示す。
【0053】
図3は、理論モデル骨格の図を示している。これは、フィルム12とガラス系基板10との間の界面領域の簡略化された概略図である。用語μ、Ε、ν、及びμ、Ε、νは、それぞれ、剪断弾性率、ヤング率(弾性率)、ガラス系基板とフィルム材料のポアソン比であり、Γ ガラス及びΓ ITは、それぞれ、ガラス系基板の臨界エネルギー放出率及び基板とフィルムとの界面である。
【0054】
フィルムと基板の間の弾性不整合を特徴づける一般的なパラメータは、以下に定義されるDundursのパラメータα及びβである:
【0055】
【数1】
【0056】
式中、平面歪みについては、
【0057】
であり、
【0058】
【数2】
【0059】
である。
【0060】
臨界エネルギー放出率が、次のように定義される関係によって、材料の破壊靭性と密接に関連していることは、指摘する価値がある:
【0061】
【数3】
【0062】
フィルムに既存のキズがあると仮定すると、引張荷重が加えられると、図3に示すように亀裂が垂直に下方へと延びる。界面の右側では、亀裂は、
【0063】
【数4】
【0064】
の場合には、界面に沿って偏向する傾向があり、
【0065】
【数5】
【0066】
の場合には、亀裂は、ガラス系基板内へと侵入する[式中、G及びGは、それぞれ、界面に沿って偏向した亀裂及びガラス系基板内へと侵入した亀裂のエネルギー放出率である]。式(4)及び(5)の左側では、比率G/Gは弾性不整合パラメータαの強い関数であり、βに弱く依存しており、右側では、靭性比Γ IT/Γ ガラスが材料パラメータである。
【0067】
図4は、G/Gの傾向を弾性不整合αの関数としてグラフで示したものであり、二重に偏向した亀裂の基準から再現されている(Ming-Yuan, H. and J.W. Hutchinson, “Crack deflection at an interface between dissimilar elastic materials,” International Journal of Solids and Structures, 1989, 25(9): pp. 1053-1067参照)。
【0068】
比G/Gがαに強く依存していることは明らかである。負のαは、フィルムがガラス系基板よりも硬いことを意味し、正のαは、フィルムがガラス系基板よりも軟らかいことを意味する。αに依存しない靭性比Γ IT/Γ ガラスは、図4の水平線である。図4の式(4)の基準が満たされている場合、水平線より上の領域では、亀裂は界面に沿って偏向する傾向があり、基板の平均曲げ強度の保持にとって有益でありうる。一方、図4の式(5)の基準が満たされている場合、水平線より下の領域では、亀裂はガラス系基板内に侵入する傾向があり、物品、特に、本明細書の他の箇所に記載されている強化された又は強靱なガラス系基板を利用する物品の平均曲げ強度の低下につながる。
【0069】
上記の概念を用いて、以下では、インジウムスズ酸化物(ITO)フィルム(例えば、ITOを含む耐擦傷性フィルム110として)が例示的な例として利用される。ガラス系基板では、E=72GPa、v=0.22、及びK1c=0.7MPa・m1/2であり;ITOでは、E=99.8GPa、及びv=0.25である(Zeng, K., et al., “Investigation of mechanical properties of transparent conducting oxide thin films.” Thin Solid Films, 2003, 443(1-2): pp. 60-65)。ITOフィルムとガラス系基板との間の界面靭性は、堆積条件に応じて、約Γin=5J/mになる(Cotterell, B. and Z. Chen, “Buckling and cracking of thin films on compliant substrates under compression,” International Journal of Fracture, 2000, 104(2): pp. 169-179)。これにより、弾性不整合α=-0.17及びΓ IT/Γ ガラス=0.77が得られる。これらの値が図4にプロットされている。この破壊解析は、ITOフィルム用のガラス系基板への亀裂侵入が有利に働くことを予測しており、これは、ガラス系基板、特に強化された又は強靱なガラス系基板の平均曲げ強度の低下につながる。これは、強化された又は強靱なガラス系基板を含むガラスベーの基板上に配置された、インジウムスズ酸化物又は他の透明な導電性酸化物を含むフィルムを含めた、さまざまな耐擦傷性フィルムで観察される潜在的な根本的機構の1つであると考えられている。図4に示されるように、平均曲げ強度の低下を緩和する1つの方法は、適切な材料を選択して弾性不整合αを変更するか(「選択肢1」)、あるいは界面靭性を調整することであり(「選択肢2」)、すなわち、選択肢2は、Gd/Gpラインを下方へと移動させる。
【0070】
上記概説した理論的分析は、亀裂緩和層130a又は積層体130bを使用して、それぞれ積層物品100a、100bの強度をより良好に保持することができることを示唆している。具体的には、ガラス系基板120と耐擦傷性フィルム110(物品100用)との間に亀裂緩和層130a又は積層体130bを挿入することにより、本明細書で規定されるように、亀裂緩和がより好ましい経路となり、したがって物品はその強度をより良好に保持することができる。幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、本明細書でより詳細に説明されるように、亀裂偏向を促進する。
【0071】
ガラス系基板
図1A及び1Bを参照すると、積層物品100a、100bは、対向する主面122、124を有する、本明細書に記載される、強化することができる又は強靱でありうるガラス系基板120を含む。積層物品100a、100bはまた、基板の少なくとも1つの対向する主面(122又は124)上に配置された耐擦傷性フィルム110も含む。加えて、積層物品100、100aは、亀裂緩和層130a又は積層体130bを含む。物品100a、100bに関しては、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、耐擦傷性フィルム110とガラス系基板120との間に配置される。1つ以上の代替的な実施形態では、亀裂緩和層130a、積層体130b及び/又は耐擦傷性フィルム110は、少なくとも1つの主面(例えば、表面122又は124)上に配置されるのに加えて又はその代替として、ガラス系基板の一又は複数の非主面上に配置されうる。
【0072】
本明細書で用いられる場合、ガラス系基板120は、実質的に平面のシートでありうるが、他の実施形態は、湾曲した、又は他の方法で成形又は彫刻されたガラス系基板を利用することができる。ガラス系基板120は、実質的に澄んでおり、透明であり、かつ光散乱がないものでありうる。ガラス系基板は、約1.45~約1.55の範囲の屈折率を有しうる。1つ以上の実施形態では、ガラス系基板120は、本明細書でより詳細に説明されるように、強化することができるか、あるいは強靱であると特徴づけることができる。ガラス系基板120は、このような強化の前に、比較的無傷であり、欠陥がない場合がある(例えば、表面の傷の数が少ない、あるいは平均表面傷サイズが約1μm未満である)。強化された又は強靱なガラス系基板120が利用される場合、このような基板は、このような基板の1つ以上の対向する主面上に、高い平均曲げ強度(強化されていない又は強靱ではないガラス系基板と比較した場合)又は高い表面破損歪み(強化されていない又は強靱ではないガラス系基板と比較した場合)を有すると特徴づけることができる。
【0073】
追加的に又は代替的に、ガラス系基板120の厚さ12は、美的及び/又は機能的な理由から、その寸法の1つ以上に沿って変化してもよい。例えば、ガラス系基板120の縁部は、ガラス系基板120のより中央に近い領域と比較して厚くなっていてもよい。ガラス系基板120の長さ、幅、及び厚さ寸法もまた、物品100a、100bの用途又は使用に応じて変化しうる。
【0074】
1つ以上の実施形態によるガラス系基板120は、ガラス系基板120が耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は他のフィルム又は層と結合される前後に測定されうる、平均曲げ強度を含む。本明細書に記載される1つ以上の実施形態では、積層物品100a、100bは、ガラス系基板120を耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は他のフィルム、層又は材料と組み合わせた後に、このような組合せ前のガラス系基板120の平均曲げ強度と比較して、それらの平均曲げ強度を保持する。言い換えれば、物品100a、100bの平均曲げ強度は、耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は他のフィルム又は層がガラス系基板120上に配置される前後で、実質的に同じである。1つ以上の実施形態では、物品100a、100bは、亀裂緩和層130a又は積層体130bを含まない同様の物品の平均曲げ強度よりも著しく大きい平均曲げ強度(例えば、介在する亀裂緩和層130a又は積層体130bなしに、耐擦傷性フィルム110及びガラス系基板120を直接接触して含む物品よりも高い強度値)を有する。他の実施形態では、物品100a、100bは、ガラス系基板のみを含む(すなわち、他のコーティング又はフィルムを含まない)同様の物品の平均曲げ強度の少なくとも70%である平均曲げ強度を有する。
【0075】
1つ以上の実施形態によれば、ガラス系基板120は平均破損歪みを有し、これは、ガラス系基板120が耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は他のフィルム又は層と組み合わされる前後に測定することができる。用語「平均破損歪み」とは追加の荷重を印加せずに、亀裂が伝播する歪みを指し、これは、典型的には、所与の材料、層、又はフィルムに壊滅的な欠陥をもたらし、おそらくは、本明細書で定義されるように、別の材料、層、又はフィルムへのブリッジもたらす。平均破損歪みは、リング・オン・リング試験を使用して測定した。理論に拘束されるものではないが、適切な数学的変換を使用して、平均破損歪みを平均曲げ強度に直接関連付けることができる。特定の実施形態では、本明細書に記載される、強化することができる、又は強靱でありうるガラス系基板120は、0.5%以上、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1%以上、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上、1.5%以上、又はさらに2%以上である、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪みを有する。特定の実施形態では、ガラス系基板は、1.2%、1.4%、1.6%、1.8%、2.2%、2.4%、2.6%、2.8%、又は3%以上、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪みを有する。フィルム110の平均破損歪みは、ガラス系基板120の平均破損歪み未満、及び/又は亀裂緩和層130の平均破損歪み未満でありうる。理論に拘束されるものではないが、ガラス系基板又は他の材料の平均破損歪みは、このような材料の表面品質に依存すると考えられる。ガラス系基板に関しては、特定のガラス系基板の平均破損歪みは、ガラス系基板の表面品質に加えて、又はその代わりに利用されるイオン交換プロセス又は強化プロセスの条件にも依存する。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、約55GPa~約100GPa、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の弾性率を有しうる。他の実施形態では、ガラス系基板は、約55GPa~約80GPaの弾性率を有しうる。さらには、他の実施は、60GPa~90GPaの弾性率を有するガラス系基板を使用する。
【0076】
1つ以上の実施形態では、ガラス系基板120は、耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は他のフィルム又は層と組み合わせた後に、その平均歪み破壊を保持する。言い換えれば、ガラス系基板120の平均破損歪みは、耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は他のフィルム又は層がガラス系基板120上に配置される前後で、実質的に同じである。1つ以上の実施形態では、物品100a、100bは、亀裂緩和層130a又は積層体130bを含まない同様の物品の平均破損歪みより顕著に大きい平均破損歪み(例えば、介在する亀裂緩和層又は積層体なしに、直接接触した耐擦傷性フィルム110及びガラス系基板120を含む物品よりも高い破損歪み)を有する。例えば、物品100a、100bは、亀裂緩和層130a又は積層体130bを含まない同様の物品の平均破損歪みよりも少なくとも10%高い、25%高い、50%高い、100%高い、200%高い、又は300%高い平均破損歪み、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪みを示しうる。
【0077】
ガラス系基板120は、さまざまな異なるプロセスを使用して提供することができる。例えば、ガラス系基板形成方法としては、フロートガラスプロセス、プレスローリングプロセス、管成形プロセス、アップドロープロセス、並びに例えばフュージョンドロー及びスロットドローなどのダウンドロープロセスが挙げられる。フロートガラスプロセスでは、滑らかな表面と均一な厚さを特徴としうるガラス系基板は、溶融金属床、典型的にはスズ床の上に溶融ガラスを浮遊させることによって作られる。例示的なプロセスでは、溶融スズ床の表面に供給される溶融ガラスは、浮遊するガラスリボンを形成する。ガラスリボンがスズ浴に沿って流れるにつれて、温度は、ガラスリボンが凝固して、スズからローラー上へと持ち上げることができる固体のガラス系基板になるまで、徐々に低下する。浴から出た後に、ガラス系基板をさらに冷却することができ、内部応力を低減するためにアニールすることができる。
【0078】
ダウンドロー法は、比較的無傷な表面を有しうる、均一な厚さのガラス系基板を生成する。ガラス系基板の平均曲げ強度は表面の傷の頻度、量、及び/又は大きさによって制御されることから、最小限に接触している無傷の表面は、より高い初期強度を有する。次いで、この高強度ガラス系基板がさらに強化されると(例えば、化学的又は熱的に)、得られる強度は、表面がラップ仕上げ及び研磨されたガラス系基板の強度よりも高くなりうる。下方延伸されたガラス系基板は、約2mm未満の厚さまで延伸されうる。加えて、下方延伸されたガラス系基板は、非常に平坦で滑らかな表面を有することができ、高価な研削及び研磨をすることなく、その最終用途に使用することができる。
【0079】
フュージョンドロープロセスは、例えば、溶融ガラス原料を受け入れるためのチャネルを有する延伸タンクを使用する。チャネルは、該チャネルの両側に、チャネルの長さに沿って上部が開放されている堰を有する。チャネルが溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰から溢れ出る。重力に起因して、溶融ガラスは、2つの流れるガラスフィルムとして延伸タンクの外面を流下する。延伸タンクのこれらの外面は、該延伸タンクの下方の縁部で接合するように、下方かつ内側へと延びている。2つの流れるガラスフィルムは、この縁部で接合し、融着して、単一の流れるガラス系基板を形成する。フュージョンドロー法は、チャネル上を流れる2つのガラスフィルムが互いに融着することから、得られるガラス系基板の外面はどちらも、装置のいずれの部分とも接触しないという利点をもたらす。よって、溶融延伸されたガラス系基板の表面特性は、このような接触による影響を受けない。
【0080】
スロットドロー法はフュージョンドロー法とは異なる。スロットドロープロセスでは、溶融原料ガラスは延伸タンクに供給される。延伸タンクの底部は、スロットの長さにわたって延在する、ノズルを備えた開口スロットを有している。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通って流れ、連続的な基板として、アニーリング領域内へと下方に延伸される。
【0081】
形成された後は、ガラス系基板を強化して、強化されたガラス系基板を形成することができる。本明細書で用いられる場合、用語「強化されたガラス系基板」とは、例えば、ガラス系基板の表面のより大きなイオンをより小さなイオンにイオン交換することにより化学的に強化されたガラス系基板のことを指しうる。しかしながら、例えば熱強化など、当技術分野で知られている他の強化方法を利用して、強化されたガラス系基板を形成してもよい。説明されるように、強化されたガラス系基板は、該ガラス系基板の強度保存に役立つ表面圧縮応力を表面に有するガラス系基板を含みうる。また本明細書で使用される場合、「強靱」なガラス系基板も本開示の範囲内であり、これには、当業者によって理解されるように、特定の強化プロセスを受けていない可能性があり、表面圧縮応力を有しない可能性があるが、それにもかかわらず強靱である、ガラスベース基材が含まれる。このような強靱なガラス系基板物品は、約0.5%超、0.7%超、1%超、1.5%超、又はさらには2%超の平均破損歪み、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪みを有するガラスシート物品又はガラス系基板として定義されうる。これらの強靱なガラス系基板は、例えば、ガラス系基板を溶融及び形成した後、無傷のガラス表面を保護することによって作ることができる。このような保護の例は、ガラスフィルムの表面が成形後に装置のいずれかの部分又は他の表面と接触しない、フュージョンドロー法で生じる。フュージョンドロー法で形成されたガラス系基板は、その無傷の表面品質に由来した強度を得る。無傷の表面品質は、エッチング又は研磨、及びその後のガラス系基板表面の保護、並びに及び当技術分野で知られている他の方法によっても達成することができる。1つ以上の実施形態では、強化されたガラス系基板及び強靱なガラス系基板のいずれも、例えば、リング・オン・リング試験を使用して測定した場合に、約0.5%超、0.7%超、1%超、1.5%超、又はさらには2%超の平均破損歪み、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪みを有するガラスシート物品を含みうる。
【0082】
上記のように、本明細書に記載されるガラス系基板は、イオン交換プロセスによって化学的に強化されて、強化されたガラス系基板120をもたらすことができる。ガラス系基板はまた、例えば熱強化など、当技術分野で知られている他の方法によって強化されてもよい。イオン交換プロセスでは、典型的には、ガラス系基板を溶融塩浴内に所定の時間浸漬することにより、ガラス系基板の表面又は表面付近のイオンが、塩浴由来のより大きな金属イオンと交換される。幾つかの実施形態では、溶融塩浴の温度は約350℃~450℃であり、所定の時間は約2~約8時間である。ガラス系基板内へのより大きいイオンの取り込みにより、表面近くの領域又はガラス系基板の表面及び表面に隣接する領域に圧縮応力を生成することによって、ガラス系基板が強化される。圧縮応力とのバランスをとるために、対応する引張応力が、ガラス系基板の表面から距離を置いた一又は複数の中央領域内に誘起される。この強化プロセスを利用するガラス系基板は、より具体的には、化学的に強化されたガラス系基板120又はイオン交換されたガラス系基板120として説明することができる。強化されていないガラス系基板は、本明細書では非強化ガラス系基板と称されうる。
【0083】
一例では、強化されたガラス系基板120内のナトリウムイオンは、溶融塩浴、例えば硝酸カリウム塩浴由来のカリウムイオンで置き換えられるが、より大きな原子半径を有する他のアルカリ金属イオン、例えばルビジウム又はセシウムは、ガラス内のより小さいアルカリ金属イオンと置換することができる。特定の実施形態によれば、ガラス内のより小さいアルカリ金属イオンをAgイオンで置換することができる。同様に、例えば、限定はしないが、硫酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物など、他のアルカリ金属塩を、イオン交換プロセスで使用してもよい。
【0084】
ガラスネットワークを緩和できる温度よりも低い温度で、より小さいイオンをより大きいイオンに置き換えると、強化されたガラス系基板120の表面全体にわたってイオンの分布が生じ、それによって応力プロファイルを生じる。入ってくるイオンの体積が大きくなると、表面に圧縮応力(CS)が生じ、強化されたガラス系基板120の中央に張力(内部引張応力、又はCT)が生じる。交換の深さは、イオン交換プロセスによって促進されるイオン交換が行われる、強化されたガラス系基板120内の深さ(すなわち、ガラス系基板の表面からガラス系基板の中央領域までの距離)として説明することができる。
【0085】
圧縮応力(ガラスの表面における)は、折原製作所(日本所在)製造のFSM-6000などの市販の機器を使用する表面応力計(FSM)によって測定される。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関連する応力光学係数(SOC)の正確な測定に依拠している。SOCは、その内容全体がここに参照することによって本明細書に組み込まれる、「ガラス応力-光学係数の測定のための標準試験方法(Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient)」と題されたASTM規格C770-16に記載される手順C(ガラスディスク法)に準拠して測定される。
【0086】
本明細書で用いられる場合、圧縮の深さ(DOC)とは、本明細書に記載される化学的に強化されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品の応力が圧縮から引張に変化する深さを意味する。DOCは、イオン交換処理に応じて、FSM又は散乱光偏光器(SCALP)によって測定することができる。カリウムイオンをガラス物品内へと交換することによってガラス物品の応力が発生する場合には、FSMを使用してDOCを測定する。ナトリウムイオンをガラス物品内へと交換することによって応力が発生する場合には、SCALPを使用してDOCを測定する。カリウムとナトリウムの両方のイオンをガラス内へと交換することによってガラス物品の応力が生じる場合には、ナトリウムの交換深さはDOCを示し、カリウムイオンの交換深さは圧縮応力の規模の変化(ただし、圧縮から引張への応力変化ではない)を示すと考えられていることから、DOCはSCALPで測定される;このようなガラス物品中のカリウムイオンの交換深さは、FSMによって測定される。
【0087】
幾つかの実施形態では、強化されたガラス系基板120は、300MPa以上、例えば、400MPa以上、450MPa以上、500MPa以上、550MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上、又は800MPa以上、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の表面CSを有しうる。強化されたガラス系基板120は、15μm以上、20μm以上(例えば、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm以上)のDOC、及び/又は、10MPa以上、20MPa以上、30MPa以上、40MPa以上(例えば、42MPa、45MPa、又は50MPa以上)だが100MPa未満(例えば、95、90、85、80、75、70、65、60、55MPa以下)の内部引張応力、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の値を有しうる。1つ以上の特定の実施形態では、強化されたガラス系基板120は、次のうちの1つ以上を有する:500MPaを超える表面CS、15μmを超える圧縮層深さ、及び18MPaを超える内部引張応力。
【0088】
理論に拘束されるものではないが、500MPaを超える表面CS及び約15μmを超えるDOCを有する強化されたガラス系基板120は、典型的には、強化されていないガラス系基板(又は、言い換えれば、イオン交換又は他の方法で強化されていないガラス系基板)よりも大きい破損歪みを有すると考えられる。幾つかの態様では、多くの典型的な用途における取り扱い又は一般的なガラス表面損傷事象の存在の理由から、これらのレベルの表面CS又はDOCを満たさない、強化されていない又は弱く強化されたタイプのガラス系基板では、本明細書に記載される1つ以上の実施形態の利点がそれほど顕著ではない場合がある。しかしながら、前に述べたように、ガラス系基板表面を引っかき傷又は表面損傷から(例えば保護コーティング又は他の層によって)適切に保護することができる他の特定の用途では、比較的高い破損歪みを有する強靱なガラス系基板は、例えば溶融成形法等の方法を使用して、無傷のガラス表面品質の形成及び保護によって生成することもできる。これらの代替用途において、本明細書に記載される1つ以上の実施形態の利点を同様に実現することができる。
【0089】
強化されたガラス系基板120に用いられうる例となるイオン交換可能なガラスは、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物又はアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラス組成物を含みうるが、他のガラス組成物も企図されている。本明細書で用いられる場合、「イオン交換可能」とは、ガラス系基板が、該ガラス系基板の表面又は表面付近に位置するカチオンを、サイズがより大きい又はより小さい同じ原子価のカチオンと交換できることを意味する。一例となるガラス組成物は、SiO、B及びNaOを含み、ここで、(SiO+B)≧66モル%であり、NaO≧9モル%である。幾つかの実施形態では、ガラス系基板120は、少なくとも6質量%の酸化アルミニウムを含むガラス組成物を含む。幾つかの実施形態では、ガラス系基板120は、アルカリ土類酸化物の含量が少なくとも5重量%になるように、1つ以上のアルカリ土類酸化物を含むガラス組成物を含む。適切なガラス組成物は、幾つかの実施形態では、KO、MgO、及びCaOのうちの少なくとも1つをさらに含む。幾つかの実施形態では、ガラス系基板120に用いられるガラス組成物は、61~75モル%のSiO;7~15モル%のAl;0~12モル%のB;9~21モル%のNaO;0~4モル%のKO;0~7モル%のMgO;及び、0~3モル%のCaOを含みうる。
【0090】
任意選択的に強化することができるか、あるいは強靱でありうる、ガラス系基板120に適したさらなる例となるガラス組成物は、60~70モル%のSiO;6~14モル%のAl;0~15モル%のB;0~15モル%のLiO;0~20モル%のNaO;0~10モル%のKO;0~8モル%のMgO;0~10モル%のCaO;0~5モル%のZrO;0~1モル%のSnO;0~1モル%のCeO;50ppm未満のAs;及び、50ppm未満のSbを含み;ここで、12モル%≦(LiO+NaO+KO)≦20モル%であり、0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%である。
【0091】
任意選択的に強化することができるか、あるいは強靱でありうる、ガラス系基板120に適したさらなる例となるガラス組成物は、63.5~66.5モル%のSiO;8~12モル%のAl;0~3モル%のB;0~5モル%のLiO;8~18モル%のNaO;0~5モル%のKO;1~7モル%のMgO;0~2.5モル%のCaO;0~3モル%のZrO;0.05~0.25モル%のSnO;0.05~0.5モル%のCeO;50ppm未満のAs;及び50ppm未満のSbを含み;ここで、14モル%≦(LiO+NaO+KO)≦18モル%であり、2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%である。
【0092】
幾つかの実施形態では、任意選択的に強化することができ、あるいは強靱でありうる、ガラス系基板120に適したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物は、アルミナ、少なくとも1つのアルカリ金属、並びに、幾つかの実施形態では50モル%超のSiO、他の実施形態では少なくとも58モル%のSiO、さらに他の実施形態では少なくとも60モル%のSiOを含み、すべて、式(6)によって与えられる比によってさらに定義される:
【0093】
【数6】
【0094】
式中、成分はモル%で表され、改質剤はアルカリ金属酸化物である。
【0095】
このガラス組成物は、特定の実施形態では、58~72モル%のSiO;9~17モル%のAl;2~12モル%のB;8~16モル%のNaO;0~4モル%のKOを含み、上記式(6)によってさらに定義される。
【0096】
幾つかの実施形態では、任意選択的に強化することができるか、あるいは強靱でありうるガラス系基板は、64~68モル%のSiO;12~16モル%のNaO;8~12モル%のAl;0~3モル%のB;2~5モル%のKO;4~6モル%のMgO;及び、0~5モル%のCaOを含み、ここで:66モル%≦SiO+B+CaO≦69モル%;NaO+KO+B+MgO+CaO+SrO>10モル%;5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%;(NaO+B)-Al≦2モル%;2モル%≦NaO-Al≦6モル%;及び、4モル%≦(NaO+KO)-Al≦10モル%である、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物を含みうる。
【0097】
幾つかの実施形態では、任意選択的に強化することができるか、あるいは強靱でありうるガラス系基板120は、2モル%以上のAl及び/又はZrO、若しくは、4モル%以上のAl及び/又はZrOを含む、アルカリケイ酸塩ガラス組成物を含みうる。
【0098】
幾つかの実施形態では、ガラス系基板120に用いられるガラス系基板は、NaSO、NaCl、NaF、NaBr、KSO、KCl、KF、KBr、及びSnOを含む群から選択される、0~2モル%の少なくとも1つの清澄剤でバッチ化されていてもよい。
【0099】
1つ以上の実施形態によるガラス系基板120は、約50μm~5mmの範囲の厚さ12を有しうる。ガラス系基板の例となる厚さ12は、例えば、100、200、300、400、又は500μmなど、100μm~500μmの範囲でありうる。さらなる例となる厚さ12は、例えば、500、600、700、800、900、又は1000μmなど、500μm~1000μmの範囲である。ガラス系基板120は、例えば、約2、3、4、又は5mmなど、1mm超の厚さ12を有しうる。1つ以上の実施形態では、ガラス系基板120は、2mm以下、又は1mm未満の厚さ12を有しうる。ガラス系基板120は、表面の傷の影響を除去又は低減するために、酸研磨又は他の方法で処理されうる。
【0100】
耐擦傷性フィルム
積層物品100a、100b(図1A及び1Bを参照)は、ガラス系基板120の表面、特に、亀裂緩和層130a又は積層体130b上に配置された耐擦傷性フィルム110を含む。耐擦傷性フィルム110は、ガラス系基板120の主面122、124の一方又は両方に配置することができる。1つ以上の実施形態では、フィルム110は、主面122、124の一方又は両方に配置されるのに加えて、又はその代替として、ガラス系基板120の1つ以上の非主面(図示せず)上に配置されうる。1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、容易に視認できる巨視的な引っかき傷又は欠陥を含まない。さらには、図1A及び1Bに示されるように、フィルム110は、ガラス系基板120との有効界面140を形成する。
【0101】
1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、本明細書に記載される機構を通じて、このようなフィルム及びガラス系基板を組み込んだ積層物品100a、100bの平均曲げ強度を低下させることができる。1つ以上の実施形態では、このようなフィルムに発生する亀裂がガラス系基板内へとブリッジされるため、このような機構は、フィルム110が物品の平均曲げ強度を低下させる場合を含む。他の実施形態では、ガラス系基板に発生した亀裂がフィルム内へとブリッジされるため、機構は、フィルムが物品の平均曲げ強度を低下させる場合を含む。1つ以上の実施形態のフィルム110は、2%以下の破損歪み又は本明細書に記載されるガラス系基板の破損歪みよりも小さい破損歪みを示しうる。さらには、1つ以上の実施形態のフィルム110は、ガラス系基板の弾性率120以上の弾性率を示しうる。これらの属性の1つ以上を含むフィルムは、本開示内では「脆性」として特徴づけることができる。
【0102】
1つ以上の実施形態によれば、耐擦傷性フィルム110は、ガラス系基板120の破損歪みより低い破損歪み(又は亀裂発生歪みレベル)を有しうる。例えば、フィルム110は、約2%以下、約1.8%以下、約1.6%以下、約1.5%以下、約1.4%以下、約1.2%以下、約1%以下、約0.8%以下、約0.6%以下、約0.5%以下、約0.4%以下、又は約0.2%以下の破損歪み、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の破損歪みを有しうる。幾つかの実施形態では、フィルム110の破損歪みは、500MPaを超える表面CS及び約15μmを超えるDOCを有する強化されたガラス系基板120の破損歪みより低い場合がある。1つ以上の実施形態では、フィルム110は、ガラス系基板120の破損歪みより少なくとも0.1%低く又は少なくなる破損歪み、あるいは幾つかの事例では、少なくとも0.5%低く又は少なくなる破損歪み、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の破損歪みを有しうる。1つ以上の実施形態では、フィルム110は、ガラス系基板120の破損歪みより少なくとも約0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.50%、0.55%、0.6%、0.65%、0.7%、0.75%、0.8%、0.85%、0.9%、0.95%、又は1%低く又は少なくなる破損歪み、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の破損歪みを有しうる。これらの破損歪みの値は、任意選択的な顕微鏡又は高速カメラ分析と組み合わせたリング・オン・リング曲げ試験法を使用して測定される。フィルムの亀裂の開始は、導電性フィルムの電気抵抗率を分析することによって測定することができる。フィルムが導電性である場合、又は薄い導電性フィルムが試料に施されている場合には、導電率を使用して破損歪みを測定することができる。破損歪みは、例えばカメラ又は電気測定を使用して、試験中に試料をモニタすることによって、若しくは、例えば試料から荷重を取り除いた後に光学的又は電気的に亀裂が生じている証拠を探索するなど、荷重を加え、取り除いた後に試料を検査することによって、測定することができる。これらのさまざまな破損歪み分析は、荷重又は応力の印加中、あるいは幾つかの事例では荷重又は応力の印加後に、行うことができる。
【0103】
例示的な耐擦傷性フィルム110は、少なくとも25GPaの弾性率及び/又は少なくとも1.75GPaの硬度を有することができるが、この範囲外の幾つかの組合せも可能である。幾つかの実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、50GPa以上又はさらには70GPa以上の弾性率、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の弾性率を有しうる。例えば、フィルム弾性率は、55GPa、60GPa、65GPa、75GPa、80GPa、85GPa又はそれ以上、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。1つ以上の実施形態では、フィルム110は、3.0GPaを超える硬度を有しうる。例えば、フィルム110は、5GPa、5.5GPa、6GPa、6.5GPa、7GPa、7.5GPa、8GPa、8.5GPa、9GPa、9.5GPa、10GPa、11GPa、12GPa、13GPa、14GPa、15GPa、16GPa又はそれ以上の硬度、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の硬度を有しうる。このようなフィルム110について測定されたこれらの弾性率及び硬度の値は、ベルコビッチダイヤモンド圧子チップを用いて、上述のように、既知のダイヤモンドナノインデンテーション法を使用して行われた。
【0104】
本明細書に記載される耐擦傷性フィルム110はまた、約10MPa・m1/2未満、又は幾つかの事例では5MPa・m1/2未満、又は幾つかの事例では1MPa・m1/2未満の破壊靭性も示しうる。例えば、フィルムは、4.5MPa・m1/2、4MPa・m1/2、3.5MPa・m1/2、3MPa・m1/2、2.5MPa・m1/2、2MPa・m1/2、1.5MPa・m1/2、1.4MPa・m1/2、1.3MPa・m1/2、1.2MPa・m1/2、1.1MPa・m1/2、0.9MPa・m1/2、0.8MPa・m1/2、0.7MPa・m1/2、0.6MPa・m1/2、0.5MPa・m1/2、0.4MPa・m1/2、0.3MPa・m1/2、0.2MPa・m1/2、0.1MPa・m1/2以下の破壊靭性、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の破壊靭性を有しうる。
【0105】
本明細書に記載される耐擦傷性フィルム110はまた、約0.1kJ/m未満、又は幾つかの事例では0.01kJ/m未満の臨界歪みエネルギー放出率(GIC=KIC /E)も有しうる。1つ以上の実施形態では、フィルム110は、0.09kJ/m、0.08kJ/m、0.07kJ/m、0.06kJ/m、0.05kJ/m、0.04kJ/m、0.03kJ/m、0.02kJ/m、0.01kJ/m、0.0075kJ/m、0.005kJ/m、0.0025kJ/m以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の臨界歪みエネルギー放出率を有しうる。
【0106】
1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、それぞれ同じ厚さ又は異なる厚さを有する複数の層を含みうる。ある特定の態様では、フィルム110内の1つ以上の層は、フィルム110の他の層とは異なる組成を有しうる。フィルム110を構成する層のさまざまな配列もまた、本開示のある特定の態様によって企図される。1つ以上の実施形態では、フィルムの各層は、本明細書に別途記載されているように、積層物品100a、100bの平均曲げ強度及び/又は層の破損歪み、破壊靭性、弾性率、又は臨界歪みエネルギー放出率の値に対する1つ以上の層の影響に基づいて、脆性と特徴づけることができる。一変形では、耐擦傷性フィルム110の層は、例えば弾性率及び/又は破壊靭性などの同一の特性を有する必要はない。別の変形では、フィルム110の層は、例えば、異なる組成を有する交互の薄い層のように、互いに異なる材料を含むことができる。幾つかの実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、耐擦傷性が高い一又は複数の最外層(例えば窒化ケイ素層)及び他の機能特性を有する一又は複数の最内層(例えばITOなどの透明な導電性酸化物を含む導電性フィルム)を含む。
【0107】
耐擦傷性フィルム110の組成物又は材料は、フィルム110のバルク、又は少なくともその一又は複数の最外層が、物品100a、100bを施すために適切なレベルの耐擦傷性を示すべきであるという意味で制限される。積層物品100a、100bの幾つかの実施によれば、耐擦傷性フィルム110は、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含みうる。耐擦傷性フィルム110材料の幾つかの追加的な例としては、例えば、SiO、Al、TiO、Nb、Ta等の酸化物;例えば、SiO、SiAl、及びAlOなどの酸窒化物;例えば、SiN、AlN、立方晶窒化ホウ素、及びTiNなどの窒化物;例えば、SiC、TiC、及びWCなどの炭化物;上述の例えばオキシカーバイド及びオキシカーボナイトライド(例えば、SiC及びSiC)などの組合せ;例えばSi及びGeなどの半導体材料;例えばインジウム-スズ酸化物(ITO)、酸化スズ、フッ素化酸化スズ、酸化アルミニウム亜鉛、又は酸化亜鉛などの透明な導電体;カーボンナノチューブ又はグラフェンドープ酸化物;銀又は他の金属ドープ酸化物、例えば高度に硬化したシロキサン及びシルセスキオキサンなどの高ケイ酸ポリマー;ダイヤモンド又はダイヤモンド状炭素材料;若しくは、破壊挙動を示すことができる選択された金属フィルムが挙げられる。さらには、高い耐擦傷性に典型的には関連しない材料(例えば、半導体材料、立方晶窒化ホウ素等)を有する一又は複数の層を含む耐擦傷性フィルム110では、耐擦傷性フィルムの一又は複数の最外層は、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、ダイヤモンド状炭素材料、及びそれらの組合せを含みうる。加えて、その各々がここに参照することによって本明細書に取り込まれる、米国特許第9,079,802号、同第9,355,444号、同第9,359,261号、及び同第9,366,784号に記載されているさまざまな多層耐擦傷性コーティング設計もまた、積層物品に使用することができ、それによって本開示の亀裂緩和層スキームの利点を得ることができる。
【0108】
耐擦傷性フィルム110は、例えば、化学蒸着(例えば、プラズマ強化化学蒸着、大気圧化学蒸着、又はプラズマ強化大気圧化学蒸着)、物理蒸着(例えば、反応性又は非反応性スパッタリング又はレーザーアブレーション)、熱、抵抗、又は電子ビーム蒸着、又は原子層堆積などの真空蒸着技術によってガラス系基板120上に配置することができる。耐擦傷性フィルム110はまた、液体ベースの技術、とりわけ、例えばゾルゲルコーティング又はポリマーコーティング法、たとえばスピン、噴霧、スロットドロー、スライド、巻線ロッド、ブレード/ナイフ、エアナイフ、カーテン、グラビア、及びローラーコーティングなどを使用して、ガラス系基板120の1つ以上の表面122、124上にも配置することもできる。幾つかの実施形態では、耐擦傷性フィルム110とガラス系基板120との間、ガラス系基板120と亀裂緩和層130a又は積層体130bとの間、亀裂緩和層130a又は積層体130b層間(存在する場合)、フィルム110の層間(存在する場合)、及び/又はフィルム110と亀裂緩和層130a又は積層体130bとの間に、接着促進剤、例えばシラン系材料を使用することが望ましい場合がある。1つ以上の代替的な実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、ガラス系基板120上に直接配置されるか、あるいは別の層として形成された後にそこに結合されてもよい。
【0109】
耐擦傷性フィルム110の厚さ11(図1A及び1B参照)は、積層物品100a、100bの意図された用途に応じて変動しうる。幾つかの実施形態では、耐擦傷性フィルム110の厚さ11は、約0.005μm~約0.5μm、又は約0.01μm~約20μmの範囲でありうる。幾つかの実施形態では、フィルム110は、約0.05μm~約10μm、約0.05μm~約0.5μm、約0.01μm~約0.15μm、又は約0.015μm~約0.2μmの範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の厚さ11を有しうる。
【0110】
幾つかの実施形態では、以下を有する材料(単一又は複数の材料)を耐擦傷性フィルム110に(例えば、単層、二重層、又は多層構造を含むものとして)含むことが有利でありうる:
(1)光学干渉効果を最小限に抑えるために、ガラス系基板120、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は他のフィルム又は層のいずれかの屈折率と同様の(又はそれらより大きい)屈折率;
(2)反射防止干渉効果を達成するために調整される屈折率(実数成分及び/又は虚数成分);及び/又は、
(3)たとえば、UV又はIRの遮断又は反射を達成するため、若しくは着色/色づけ効果を達成するために、波長選択反射又は波長選択吸収効果を達成するために調整される屈折率(実数成分及び/又は虚数成分)。
【0111】
1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、ガラス系基板120の屈折率より大きい、及び/又は亀裂緩和層130a又は積層体130bの屈折率より大きい屈折率を有しうる。1つ以上の実施形態では、フィルム110は、約1.7~約2.2の範囲、又は約1.4~約1.6の範囲、又は約1.6~約1.9の範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の屈折率を有しうる。幾つかの実施形態は、フィルムの総合的な屈折率が基板の屈折率を超えたとしても、このような層が基板の屈折率に匹敵する、1つ以上の層を有するフィルム110を使用することができる(例えば、1つ以上のシリカ層と、ケイ酸塩ガラス組成物を有する基板120上に配置された残りの窒化ケイ素層とを有するフィルム110)。
【0112】
耐擦傷性フィルム110は、複数の機能を果たすこともでき、あるいは、耐擦傷性フィルム110に関連する耐擦傷性以外の機能を果たす本明細書に記載の追加のフィルム又は層と一体化することもできる。例えば、耐擦傷性フィルム110は、UV又はIR光反射又は吸収層、反射防止層、防眩層、防汚層、自己洗浄層、耐擦傷性層、バリア層、不動態化層、気密層、拡散防止層、耐指紋性層などを含むことができる。さらには、フィルム110は、導電層又は半導体層、薄膜トランジスタ層、EMI遮蔽層、破損センサ、警報センサ、エレクトロクロミック材料、フォトクロミック材料、タッチセンシング層、又は情報表示層を含むことができる。フィルム110及び/又は前述の層のいずれかは、着色又は色合いを含むことができる。情報表示層が積層物品100a、100bと一体化される場合には、その物品は、タッチセンサ式ディスプレイ、透明ディスプレイ、又はヘッドアップディスプレイの一部を形成することができる。このような事例では、耐擦傷性フィルム110は、異なる波長又は色の光を選択的に透過、反射、又は吸収する干渉機能を行うことが望ましい場合がある。例えば、耐擦傷性フィルム110は、ヘッドアップディスプレイ用途において目標波長を選択的に反射することができる。
【0113】
耐擦傷性に加えて、耐擦傷性フィルム110の他の機能的特性には、光学的特性、電気的特性及び/又は機械的特性、例えば硬度、弾性率、破損歪み、耐摩耗性、機械的耐久性、摩擦係数、導電率、電気抵抗率、電子移動度、電子又は正孔キャリアのドーピング、光屈折率、密度、不透明度、透明度、反射率、吸収率、透過率などが含まれる。これらの機能特性は、耐擦傷性フィルム110がガラス系基板120、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は物品100a、100bに含まれる他のフィルムと組み合わされた後に、実質的に維持又は改善さえされる。
【0114】
亀裂緩和層及び亀裂緩和積層体
本明細書に記載されるように、亀裂緩和層130a又は積層体130b(図1A及び1B参照)は、積層物品100a、100bの有効界面140に適度な接着エネルギーを提供する。亀裂緩和層130a及び積層体130bは、耐擦傷性フィルム110又はガラス系基板120の代わりに、亀裂緩和層/積層体内への亀裂偏向を促進する低靭性層を有効界面14に形成することによって、適度な接着エネルギーを提供する。亀裂緩和層130a又は積層体130bはまた、低靭性界面を形成することによっても、適度な接着エネルギー値を提供することができる。低靭性界面は、特定の荷重を印加すると、ガラス系基板120又は耐擦傷性フィルム110から亀裂緩和層130a又は積層体130bが剥離することによって特徴づけられる。この剥離により、亀裂は、第1の界面150又は第2の界面160のいずれかに沿って偏向する(例えば、積層物品100a、100bでは、耐擦傷性フィルム110が亀裂緩和層130a又は積層体130b上に存在する場合)。
【0115】
1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、例えば、物品100a、100bのガラス系基板120と耐擦傷性フィルム110との間の有効界面140における有効な接着エネルギーを修正することによって、適度な接着を提供する。1つ以上の特定の実施形態では、第1の界面150及び第2の界面160の一方又は両方が、有効な接着エネルギーを示す。1つ以上の実施形態では、これらの界面の有効な接着エネルギーは、約5J/m以下、約4.5J/m以下、約4J/m以下、約3.5J/m以下、約3J/m以下、約2.5J/m以下、約2J/m以下、約1.5J/m以下、約1J/m以下、又は約0.85J/m以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。有効な接着エネルギーの下限値は約0.1J/m又は約0.01J/mでありうる。1つ以上の実施形態では、第1の界面及び第2の界面のうちの1つ以上における有効な接着エネルギーは、約0.85J/m~約3.85J/m、約0.85J/m~約3J/m、約0.85J/m~約2J/m、及び約0.85J/m~約1J/mの範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。第1の界面150及び第2の界面160のうちの1つ以上における有効な接着エネルギーはまた、約0.1J/m~約0.85J/m、又は約0.3J/m~約0.7J/mの範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲であってもよい。幾つかの実施形態によれば、第1の界面及び第2の界面のうちの1つ以上における有効な接着エネルギーは、周囲温度から約600℃まで、実質的に一定のまま維持されるか、あるいは、例えば0.1J/m~約0.85J/mの目標範囲内に維持される。幾つかの実施形態では、1つ以上の界面における有効接着エネルギーは、周囲温度から約600℃までのガラス系基板の平均凝集接着エネルギーよりも少なくとも25%小さい。
【0116】
有効界面140、第1の界面150及び/又は第2の界面160が適度な接着を示す積層物品100a、100b(図1A及び1B参照)の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの少なくとも一部は、フィルム及び/又は亀裂緩和層又は積層体の亀裂成長及び/又は亀裂形成を引き起こす荷重プロセス中に、ガラス系基板120及び/又は耐擦傷性フィルム110から分離することができる。亀裂緩和層130a又は積層体130bの少なくとも一部がガラス系基板120及び/又はフィルム110から分離される場合、このような分離には、亀裂緩和層と、該亀裂緩和層又は積層体が分離するガラス系基板120及び/又はフィルム110との間の接着性の低下、又は接着性がないことが含まれうる。他の実施形態では、亀裂緩和層又は積層体の一部が分離する場合、このような分離された部分は、ガラス系基板120及び/又はフィルム110にまだ付着している亀裂緩和層又は積層体の部分によって、完全に又は少なくとも部分的に囲まれていてもよい。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの少なくとも一部は、積層物品がこのような荷重下で特定の歪みレベルで歪みを被る場合に、フィルム110又はガラス系基板120のうちの一方から分離しうる。1つ以上の実施形態では、歪みレベルは、ガラス系基板120の第1の平均破損歪みと耐擦傷性フィルム110の平均破損歪みとの間でありうる。
【0117】
積層物品100a、100bの1つ以上の特定の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの少なくとも一部は、フィルム110に発生する亀裂が亀裂緩和層130a又は積層体130b内にブリッジする(又は第2の界面160を横断する)ときに、耐擦傷性フィルム110から分離する。物品100a、100bの幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの少なくとも一部は、フィルム110に発生する亀裂が亀裂緩和層130a又は積層体130b内へとブリッジするときに、界面160(図5A参照)において接着不良190としてフィルム110から分離する。幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの少なくとも一部は、ガラス系基板120に発生する亀裂が亀裂緩和層130a又は積層体130b内へとブリッジするときに、界面150(図5A参照)において接着不良190としてガラス系基板120から分離する。本明細書で用いられる場合、用語「接着不良」は、物品100a、100bの亀裂緩和層130a又は積層体130b、耐擦傷性フィルム110、及びガラス系基板120の間の界面150及び160の1つ以上に実質的に限定される亀裂伝播に関する。
【0118】
亀裂緩和層130a又は積層体130bが分離せず、亀裂成長及び/又は亀裂形成を引き起こさない荷重レベルでは(すなわち、ガラス系基板の平均破損歪み未満、及びフィルムの平均破損歪み未満の平均破損歪みレベルでは)、物品100a、100bのガラス系基板120及び耐擦傷性フィルム110に付着したままである。理論に拘束されるものではないが、亀裂緩和層130a又は積層体130bの剥離又は部分的な剥離は、ガラス系基板120内の応力集中を低減する。したがって、ガラス系基板120における応力集中の低減は、ガラス系基板120(及び最終的には積層物品100a、100b)を破損させる荷重又は歪みレベルの増加を引き起こすと考えられる。このように、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、亀裂緩和層のない積層物品と比較して、積層物品の平均曲げ強度の低下又は増加を防止する。
【0119】
亀裂緩和層130a又は積層体130bの材料及び厚さを使用して、ガラス系基板120及び/又は耐擦傷性フィルム110の間の有効な接着エネルギーを制御することができる。一般に、2つの表面間の接着エネルギーは次式によって与えられる(L. A. Girifalco and R. J. Good, “A theory for the estimation of surface and interfacial energies, I. derivation and application to interfacial tension,” Journal of Physical Chemistry, vol. 61, p. 904(「Girifalco及びGood」)参照):
【0120】
【数7】
【0121】
式中、γ、γ及びγ12は、それぞれ、表面1、表面2の表面エネルギー、並びに表面1及び2の界面エネルギーである。個々の表面エネルギーは、通常、次式によって与えられる2つの項:分散成分γ及び極性成分γの組合せである:
【0122】
【数8】
【0123】
接着の大部分がロンドン分散力(γ)と、例えば水素結合などの極力(γ)によるものである場合、界面エネルギーは次式によって与えられうる(Girifalco及びGoodを参照):
【0124】
【数9】
【0125】
(7)に(9)を代入すると、接着エネルギーはおよそ次のように計算することができる:
【0126】
【数10】
【0127】
上記式(10)では、接着エネルギーのファンデルワールス(及び/又は水素結合)成分のみが考慮されている。これらには、極性-極性相互作用(ケーソム)、極性-非極性相互作用(デバイ)、及び非極性-非極性相互作用(ロンドン)が含まれる。しかしながら、例えば共有結合及び静電結合などの他の引力エネルギーもまた、存在しうる。したがって、より一般化された形式では、上記方程式は次のように表される:
【0128】
【数11】
【0129】
式中、w及びwは、共有結合エネルギーよび静電付着エネルギーである。式(11)は、接着エネルギーが、4つの表面エネルギーパラメータと共有エネルギー及び静電エネルギー(存在する場合)の関数であることを説明している。適切な接着エネルギーは、ファンデルワールス(及び/又は水素)結合及び/又は共有結合を制御するための亀裂緩和層130a又は積層体130b材料の選択によって達成することができる。
【0130】
亀裂緩和層130a又は積層体130bとガラス系基板120又は耐擦傷性フィルム110との間の接着エネルギーを含む、薄膜の接着エネルギーを直接測定することは、困難である。対照的に、2枚のガラス間の結合の結合強度は、薄い刃を挿入して亀裂の長さを測定することによって決定することができる。コーティング又は表面改質で第2のガラスに結合された第1のガラスの事例では、結合接着エネルギーγは、下記式(12)によって与えられる次の等式によって、第1のガラスのヤング率E、第1のガラスの厚さtw1、第2のガラスの弾性率E、第2のガラスの厚さtw2、ブレードの厚さt、及び亀裂長さLに関連している。
【0131】
【数12】
【0132】
式(12)を使用して、亀裂緩和層130a又は積層体130bとガラス系基板120又は耐擦傷性フィルム110との間の接着エネルギーを近似することができる。式(12)を使用して、図1A及び1Bに示される積層物品100a、100bについて、それぞれ界面150及び160における接着エネルギーを推定することもできる。例えば、2つのガラス系基板(例えば、一方は厚く、もう一方は薄い)間の接着エネルギーは、対照として式(12)を使用して測定することができる。次に、対照ガラス系基板結合(例えば、第1のガラス系基板と第2のガラス系基板との間)に表面処理を行うことによって、さまざまなガラス系基板試料を調製することができる。表面処理は、特定の亀裂緩和層130a又は積層体130b構造の例示である。表面処理後、次に、処理されたガラス系基板は、対照として使用される第2の基板に匹敵する第2のガラス系基板に結合される。処理された試料の接着エネルギーを、式(12)を使用して測定し、ガラス対照試料と同等の測定で得られた結果と比較することができる。
【0133】
図1A及び1Bに示される積層物品100a及び100bの1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、耐擦傷性フィルム110とガラス系基板120との間のブリッジング以外の亀裂伝播の好ましい経路を形成することができる。言い換えれば、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、亀裂を偏向させ、フィルム110及びガラス系基板120のうちの一方に形成し、フィルム110及びガラス系基板120のうちの他方に向かって亀裂緩和層130a又は積層体130b内を伝播しうる。このような実施形態では、亀裂は、積層物品100a、100bの第1の界面150又は第2の界面160の少なくとも一方に対して実質的に平行な方向に、亀裂緩和層130a又は積層体130bを通って伝播しうる。図5Bに示されるように、亀裂は、亀裂緩和層130a又は積層体130b内に閉じ込められると、凝集破壊180に至る。本明細書で用いられる場合、用語「凝集破壊」は、亀裂緩和層130a又は積層体130b内に実質的に閉じ込められた亀裂伝播に関する。
【0134】
亀裂緩和層130a又は積層体130bは、図5Bに示されるように、凝集破壊180を生じさせるように構成される場合には、このような実施形態に亀裂伝播の好ましい経路を提供する。亀裂緩和層130a又は積層体130bは、耐擦傷性フィルム110又はガラス系基板120で発生し、亀裂緩和層130a又は積層体130bに入る亀裂を、亀裂緩和層に保持することができる。代替的に又は追加的に、積層物品100a、100bの亀裂緩和層130a又は積層体130bは、耐擦傷性フィルム110及びガラス系基板120の一方で発生する亀裂が、このようなフィルム及びガラス系基板の他方へと伝播するのを効果的に制限する。同様に、積層物品100aの亀裂緩和層130a又は積層物品100bの積層体130bは、層130a又は積層体130b及びガラス系基板120の一方で発生する亀裂を、他のこのような層及び基板に伝播することを効果的に制限する。これらの挙動は、個別に又は集合的に亀裂偏向として特徴づけることができる。このようにして、亀裂は、フィルム110とガラス系基板120との間、又は亀裂緩和層130a又は積層体130bとガラス系基板120との間のブリッジングから偏向される。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、低い破壊靭性及び/又は低い臨界歪みエネルギー放出率を示す、低い靱性層又は界面を提供し、亀裂が亀裂緩和層を介してフィルム110及び/又はガラス系基板120に至る代わりに、亀裂緩和層130a又は積層体130bへの亀裂偏向を促進することができる。本明細書で用いられる場合、「促進する」は、ガラス系基板120又はフィルム110に伝播する代わりに、亀裂が亀裂緩和層130a又は積層体130bへと偏向する、好ましい条件を作り出すことを含む。用語「促進する」はまた、ガラス系基板120又はフィルム110の代わりに、亀裂緩和層130a又は積層体130bへの及び/又はそれを介した亀裂伝播のための曲がりくねりが少ない経路を生成することも含みうる。
【0135】
亀裂緩和層130a又は積層体130bは、以下により詳細に説明するように、低靭性亀裂緩和層を提供するように、比較的低い破壊靭性を示しうる。このような実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ガラス系基板120又は耐擦傷性フィルム110のいずれかの破壊靭性の約50%又は50%未満の破壊靭性を示しうる。より具体的な実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの破壊靭性は、ガラス系基板120又はフィルム110のいずれかの破壊靭性の約25%又は25%未満でありうる。例えば、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、約1MPa・m1/2以下、0.75MPa・m1/2以下、0.5MPa・m1/2以下、0.4MPa・m1/2以下、0.3MPa・m1/2以下、0.25MPa・m1/2以下、0.2MPa・m1/2以下、0.1MPa・m1/2以下の破壊靭性、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の破壊靭性を示しうる。
【0136】
物品100a、100bの1つ以上の実施形態によれば、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、耐擦傷性フィルム110の平均破損歪み寄りも大きい平均破損歪みを有しうる。積層物品100a及び100bの1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、約0.5%、0.7%、1%、1.5%、2%、又はさらには4%以上の平均破損歪みを有しうる。亀裂緩和層130a又は積層体130bは、0.6%、0.8%、0.9%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.2%、2.4%、2.6%、2.8%、3%、3.2%、3.4%、3.6%、3.8%、4%、5%、又は6%以上の平均破損歪み、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪みを有しうる。1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルム110は、1.5%、1.0%、0.7%、0.5%、又はさらには0.4%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪み(亀裂発生歪み)を有しうる。フィルム110は、1.4%、1.3%、1.2%、1.1%、0.9%、0.8%、0.6%、0.3%、0.2%、0.1%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均破損歪みを有しうる。ガラス系基板120の平均破損歪みは、積層物品100a、100bの耐擦傷性フィルム110の平均破損歪みより大きくてもよく、幾つかの事例では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの平均破損歪みより大きくなりうる。積層物品100a及び100bの他の幾つかの特定の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ガラス系基板上の亀裂緩和層の負の機械的効果を最小限に抑えるために、ガラス系基板120より高い平均破損歪みを有しうる。
【0137】
1つ以上の実施形態による亀裂緩和層130a又は積層体130bは、耐擦傷性フィルム110の臨界歪みエネルギー放出率より大きい臨界歪みエネルギー放出率(GIC=KIC /E)を有しうる。他の例では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ガラス系基板の臨界歪みエネルギー放出率の0.25倍より低い、又は0.5倍より低い臨界歪みエネルギー放出率を示しうる。特定の実施形態では、亀裂緩和層130の臨界歪みエネルギー放出率は、約0.1kJ/m以下、約0.09kJ/m以下、約0.08kJ/m以下、約0.07kJ/m以下、約0.06kJ/m以下、約0.05kJ/m以下、約0.04kJ/m以下、約0.03kJ/m以下、約0.02kJ/m以下、約0.01kJ/m以下、約0.005kJ/m以下、約0.003kJ/m以下、約0.002kJ/m以下、約0.001kJ/m以下でありうるが、幾つかの実施形態では、約0.0001kJ/mを超えてもよく(すなわち、約0.1J/m超)、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。
【0138】
積層物品100a、100bに用いられる亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ガラス系基板120の屈折率より大きい屈折率を有しうる。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの屈折率は、耐擦傷性フィルム110の屈折率未満でありうる。幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの屈折率は、ガラス系基板120の屈折率とフィルム110の屈折率の間でありうる。例えば、亀裂緩和層130a又は積層体130bの屈折率は、約1.45~約1.95、約1.5~約1.8、又は約1.6~約1.75の範囲内、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲内でありうる。あるいは、亀裂緩和層又は積層体は、可視波長範囲のかなりの部分にわたって(例えば、450~650nm)、ガラス系基板と実質的に同じ屈折率、若しくはガラス系基板の屈折率よりも大きい又は小さい0.05屈折率単位以下の屈折率を有しうる。ある特定の実施では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、基板及び亀裂緩和層の屈折率が、基板のみの光透過率から1%以下だけ変化するように構成される。言い換えれば、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、基板の光学特性(例えば、光学透過率及び反射率)が保持されるように構成されうる。
【0139】
1つ以上の実施形態では、積層物品100a、100bの亀裂緩和層130a又は積層体130bは、高温処理に耐えることができる。このようなプロセスには、真空蒸着プロセス、例えば化学蒸着(例えばプラズマ増強化学蒸着)、物理蒸着(例えば反応性又は非反応性スパッタリング又はレーザーアブレーション)、熱又は電子ビーム蒸着及び/又は原子層蒸着が含まれうる。1つ以上の特定の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ガラス系基板120上に配置された耐擦傷性フィルム110及び/又は他のフィルムが真空蒸着によって亀裂緩和層130a又は積層体130b上に堆積される、真空蒸着プロセスに耐えることができる。本明細書で用いられる場合、用語「耐える」は、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃を超える温度、及び潜在的にさらに高い温度に対する亀裂緩和層130a又は積層体130bの抵抗を含む、すなわち、層は、劣化したり、特性を大きく変化させたりすることなく、これらの温度に供されうる。幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ガラス系基板上(及び亀裂緩和層130a又は積層体130b上)へのフィルム110及び/又は他のフィルムの堆積後に、亀裂緩和層130a又は積層体130bが、10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下又は1%以下の重量損失、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の重量損失を経験する場合に、真空蒸着又は温度処理プロセスに耐えるとみなされうる。亀裂緩和層が重量損失を受ける堆積プロセス(又は堆積プロセス後の試験)には、約100℃以上、200℃以上、300℃以上、400℃以上の温度;特定のガス(例えば、酸素、窒素、アルゴンなど)が豊富な環境;及び/又は堆積が高真空(例えば10-6トル(約10-4Pa))下、大気条件下、及び/又はそれらの間の圧力(例えば10ミリトル(約0.133Pa))下で行われうる環境が含まれうる。本明細書で述べるように、亀裂緩和層130a又は積層体130bの形成に利用される材料は、その高温耐性(すなわち、例えば真空蒸着プロセスなどの高温プロセスに耐える能力)、及び/又はその環境耐性(すなわち、特定のガス又は特定の圧力が豊富な環境に耐える能力)のために、特に選択することができる。これらの耐性には、高温耐性、高真空耐性、低真空ガス放出、プラズマ又はイオン化ガスに対する高耐性、オゾンに対する高耐性、UVに対する高耐性、溶媒に対する高耐性、若しくは酸又は塩基に対する高耐性が含まれうる。幾つかの事例では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、ASTM E595に準拠したガス放出試験に合格するように選択されてもよい。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bを含む積層物品100a、100bは、亀裂緩和層130a又は積層体130bのない物品に対し、改善された平均曲げ強度を示すことができる。言い換えれば、ガラス系基板120、耐擦傷性フィルム110及び亀裂緩和層130a又は積層体130bを含む物品100a、100bは、ガラス系基板120及び耐擦傷性フィルム110を含むが亀裂緩和層130a又は積層体130bを含まない同様の物品よりも大きい平均曲げ強度を示すことができる。
【0140】
1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a(図1A参照)は、大気圧プラズマ化学蒸着(AP-CVD)、プラズマ増強化学蒸着(PECVD)、低圧化学蒸着(LPCVD)、又はスピン・オン・グラス(SOG)処理技術によって堆積することができる、有機ケイ酸塩材料又は有機ケイ素材料を含みうる。ある特定の態様では、有機ケイ酸塩材料又は有機ケイ素材料は、メチル化シリカに由来する。幾つかの態様では、有機ケイ酸塩材料は、各ケイ素原子が平均で最大3つの有機基と直接結合する0以外の確率を有する、4未満の平均ケイ素接続性を有するシロキサンネットワークによって特徴づけられる。典型的には、このような材料は、単官能性、二官能性、又は三官能性有機ケイ素化合物と、任意選択的に他の添加物、例えばケイ素前駆体及び酸化剤との反応によって形成される。幾つかの態様では、これらの有機ケイ酸塩又は有機ケイ素材料は、次の有機金属前駆体のいずれかから誘導される:ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、テトラメチルジソロキサン(TMDSO)、及びテトラエチルシラン(TMS)。幾つかの実施形態は、有機アルミニウム前駆体を使用する亀裂緩和層130aとして使用するための有機ケイ酸塩材料又は有機ケイ素材料の開発を含む。加えて、亀裂緩和層130aの特性、例えば弾性率、多孔性、表面粗さ、及び接着性(例えば、耐擦傷性フィルム110とガラス系基板120との間)は、プラズマ強化化学蒸着技術を使用して層130aを開発する場合には、次のパラメータの1つ以上を調整することによって調節できる:プラズマ源の周波数及び電力、作動ガス流量及び搬送ガス流量、前駆体流量、酸素ガスの存在、前駆体種、プラズマ源と基板との間の距離など。PECVD及びLPCVDプロセスでは、前述のパラメータを調整して、チャンバ圧力、真空レベルなどとともに亀裂緩和層130aの特性を調節することができ、これらのプロセス方法にさらなる柔軟性を与えることができる。
【0141】
有機置換、すなわち、亀裂緩和層130a(図1A参照)の組成物に使用されるこれらの材料におけるSi-O-Si骨格構造に組み込まれるメチル基量は、幾つかの興味深い利点を有する。例えば、有機基は、ガラスに近い値から有機置換が増加すると、ケイ酸塩の表面エネルギー(すなわち、脱イオン水、ヘキサデカン、及びジヨードメタンとの接触角で測定し、以下に説明するWuの式で計算した場合、約75mJ/m)を、ポリマー材料のより典型的な値である35mJ/mに近い値まで下げることができる。有機置換のもう1つの利点は、ネットワーク密度を下げ、Si-O-Si結合の極性を低下させ、モル自由体積を増加させることにより、材料の弾性率を下げることができることである。有機置換のさらなる利点は、有機成分の増加とともにケイ酸塩の屈折率を上げることである。
【0142】
ある特定の実施では、積層物品100aに用いられる有機ケイ酸塩を含む亀裂緩和層130a(図1A参照)は、蒸着プロセス(例えば、APCVD、PECVD、ACVD)又はTMS前駆体と作動ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、及びそれらの組合せ)を使用するSOGプロセスによって製造することができる。有利には、酸素ガスを堆積チャンバ又は処理チャンバに導入して、結果として生じる亀裂緩和層130aにおけるSi-O-Si骨格の形成を促進することができる。理論に拘束されるものではないが、亀裂緩和層130a内のSi-O-Si骨格の割合が高いと、コーティングの強度が向上し、積層物品100aに印加される用途に関連する荷重レベルにおける凝集破壊(例えば、図5Bに示される凝集破壊180)の可能性が低減すると考えられる。凝集破壊の可能性が減少し、層130aの強度が増加すると、このような亀裂緩和層130aを含む積層物品100aの耐擦傷性フィルム110の耐擦傷性が増加する。有機ケイ酸塩を含む亀裂緩和層130aを製造するための蒸着プロセスのある特定の実施では、TMS流量は、約20sscm~100sccm、好ましくは25~60sccmに制御される。同時に、酸素ガスは、50~200sccm、好ましくは100~150sccmで導入される。
【0143】
さらなる実施では、有機ケイ酸塩を含む亀裂緩和層130a(図1A参照)は、TMS前駆体及び酸素ガス(O)を使用する蒸着プロセスを用いて製造することができる。より具体的には、TMSガスのOガスに対する比を制御して、亀裂緩和層130aの弾性率を調整することができる。理論に拘束されるものではないが、有機ケイ酸塩を含む、結果的に得られる亀裂緩和層130a中の炭素及び水素の割合が高いと、比較的低い弾性率を有する層(すなわち「より軟らかい」コーティング)が得られる。逆に、有機ケイ酸塩を含む亀裂緩和層130a中のケイ素及び酸素の割合が高いと、比較的高い弾性率を有する層(すなわち「より硬い」コーティング)が得られる。有利には、蒸着プロセス中にTMSガスのOガスに対する比を制御して、炭素と水素又はケイ素と酸素の割合が高い亀裂緩和層130aを開発することにより、層130aの弾性率を調整することができる。例えば、TMS/O比を増加させると、層130a内の炭素及び水素の量が増加する傾向があり、したがってその弾性率は減少する。他方では、TMS/O比を減少させると、層130a内のケイ素及び酸素の量が増加する傾向があり、したがってその弾性率は増加する。これらのレベルでは、有機ケイ酸塩材料を含む亀裂緩和層130aを機械的特性に合わせて調整し、積層物品100aの耐擦傷性フィルム110の望ましいレベルの耐擦傷性を得ることができ(例えば、亀裂緩和層130a内の凝集破壊の可能性を減らすことにより)、また一方では、耐擦傷性フィルム110を追加したにもかかわらず、下にあるガラス系基板120の強度が(例えば、亀裂偏向を促進することにより)維持されることも保証される。
【0144】
ある特定の実施では、亀裂緩和層130a(図1A参照)は、30GPa以下、25GPa以下、24GPa以下、23GPa以下、22GPa以下、21GPa以下、20GPa以下、19GPa以下、18GPa以下、17GPa以下、16GPa以下、15GPa以下、14GPa以下、13GPa以下、12GPa以下、11GPa以下、10GPa以下、9GPa以下、8GPa以下、7GPa以下、6GPa以下、5GPa以下、4GPa以下、3GPa以下、2GPa以下、又は1GPa以下の弾性率、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の弾性率によって特徴づけられる。幾つかの態様では、亀裂緩和層130aは、約25GPa~約0.1GPaの弾性率によって特徴づけられる。幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130aは、約10GPa~約25GPaの範囲の弾性率によって特徴づけられる。
【0145】
幾つかの実施形態によれば、1つ以上の二重層23(例えば、N個の二重層23は、幾つかの実施形態では、1~100の範囲でありうる)を含む亀裂緩和積層体130b(図1B参照)を、二重層23の各層(例えば、層33、35)が有機ケイ酸塩材料を含む、積層物品100bで使用するために製造することができる。より具体的には、二重層23の各層は、亀裂緩和層130aに関連する前述の技術及び構造を使用して製造することができる。その結果、亀裂緩和積層体130bは、積層物品100aと比較して同じ、又はさらに良好な機械的特性によって特徴づけることができるように積層物品100bに影響を与えることができる。
【0146】
ある特定の態様では、亀裂緩和積層体130bの各二重層23を構成する層(例えば、層33、35)は、層23を構成する層の所望の厚さに基づいて規定される所定の期間にわたる堆積の間のTMS及びOガス流量及び/又はTMS/Oガス比を単に調整することにより、異なる機械的特性(例えば、弾性率)で製造することができる。亀裂緩和積層体130bの幾つかの実施形態では、ガラス系基板120上に配置された二重層23の第1の層33は、二重層23の第2の層35の弾性率より低い弾性率で製造される。加えて、Nが2~10個の二重層23、好ましくはNが3の値に設定された状態で、N個の二重層23を亀裂緩和積層体130bに使用することができる。他の実施では、積層体130bは、各多層が3つ以上の個別の層を含み、それらの一部又はすべてが異なる機械的特性を有する、1つ以上の多層(図示しないが、二重層の代替として)から製造することができる。
【0147】
ある特定の実施では、亀裂緩和積層体130bの二重層23(図1B参照)は、30GPa以下、25GPa以下、24GPa以下、23GPa以下、22GPa以下、21GPa以下、20GPa以下、19GPa以下、18GPa以下、17GPa以下、16GPa以下、15GPa以下、14GPa以下、13GPa以下、12GPa以下、11GPa以下、10GPa以下、9GPa以下、8GPa以下、7GPa以下、6GPa以下、5GPa以下、4GPa以下、3GPa以下、2GPa以下、又は1GPa以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の有効弾性率で特徴づけることができる。幾つかの態様では、亀裂緩和積層体130bは、約25GPa~約0.1GPaの有効弾性率によって特徴づけられる。幾つかの実施形態では、亀裂緩和積層体130bは、約10GPa~約25GPaの範囲の弾性率によって特徴づけられる。他の実施では、二重層23の第1の層33は、1GPa~約20GPaの範囲の弾性率値によって特徴づけられ、二重層23の第2の層35は、約10GPa~約40GPaの範囲の弾性率値によって特徴づけられる。
【0148】
さらには、積層物品100a、100bの1つ以上の実施形態の亀裂緩和層130a又は積層体130b(図1A及び1B参照)は、より高い温度耐性、UVオゾン又はプラズマ処理に対する堅牢性、UV透過性、環境老化に対する堅牢性、真空中の低いガス放出などを示すことができる。耐擦傷性フィルム110も真空蒸着によって形成される事例では、亀裂緩和層130aとフィルム110は両方とも、同一又は類似の真空蒸着チャンバ内で、若しくは同一又は類似のコーティング装置を使用して形成することができる。
【0149】
幾つかの実施形態によれば、亀裂緩和層130aを含む積層物品100aの耐擦傷性フィルム110は、該フィルム110をガーネットスクラッチ試験に曝露するときに、物品から剥離しない又は実質的に剥離しないことによって特徴づけられる。幾つかの実施形態によれば、亀裂緩和積層体130bを含む積層物品100bの耐擦傷性フィルム110は、該フィルム110をガーネットスクラッチ試験に曝露するときに、物品から剥離しない又は実質的に剥離しないことによって特徴づけられる。
【0150】
本明細書で用いられる場合、「ガーネットスクラッチ試験」は、両面粘着テープを使用して直径約6mmの150グリットのガーネットサンドペーパーの円形片をTaber Abraserユニットのヘッドに取り付けることによって行われる。研磨ヘッドに合計1kgの荷重が印加される(追加荷重約650g+スピンドル荷重約350g)。あるいは、合計4kgの荷重を印加することもできる。次に、研磨ヘッドを試料の表面で約30mmの長さの1回の引っかき経路で掃引し、引っかき傷を検査する。試料上に幾つかの引っかき傷又は損傷の跡が視認できる場合があるが、本明細書で用いられる場合、「実質的に剥離しない」という基準は、光学顕微鏡を使用して検査したときに、耐擦傷性フィルム110が基板から完全に除去されている空間寸法内で、約30mmのガーネット引っかき経路の中心に約100μmを超える可視領域を有しないと定義される。別の言い方をすれば、「剥離」又は「剥離に関連する損傷」は、ガーネットスクラッチ試験を受けた後に、耐擦傷性フィルムが完全に除去されているものと定義される。本開示の態様は、総荷重1kg及び4kgの両方でガーネットスクラッチ試験を受けた場合、この基準に従って実質的に剥離を示さない。
【0151】
亀裂緩和層130a又は積層体130b(図1A及び1B参照)は、実質的に光学的に透明であり、光散乱を含まない場合があり、例えば、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の光透過ヘイズ、並びにそれらの間のすべての範囲及び部分範囲の光透過ヘイズを有しうる。層の透過ヘイズは、本明細書で定義されるように、亀裂緩和層130a又は積層体130b内の細孔の平均サイズを制御することによって制御することができる。層における例示的な平均細孔サイズは、200nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、5nm以下、並びにそれらの間のすべての範囲及び部分範囲を含みうる。これらの細孔サイズは、光散乱測定から推定するか、あるいは、透過型電子顕微鏡(TEM)及びその他の既知の方法を使用して直接分析することができる。
【0152】
亀裂緩和層130a又は積層体130bの多孔性及び機械特性は、真空チャンバ内のガスのわずかな過圧、低温堆積、堆積速度制御、並びにプラズマ及び/又はイオンビームのエネルギー改変などの堆積方法の注意深い制御を使用して制御することができる。蒸着法が一般的に使用されるが、他の既知の方法を使用して、所望の多孔性及び/又は機械的特性を有する亀裂緩和層130a又は積層体130bを提供することができる。
【0153】
ある特定の用途については、多孔性は、後で溶解又は熱分解される細孔形成剤(たとえば、ブロック共重合体細孔形成剤)、相分離法、又は微粒子又はナノ粒子層のキャスティング(粒子間の間隙は部分的に空のままである)を使用して、亀裂緩和層130a又は積層体130bに意図的に導入することができる。本開示のある特定の態様では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、蒸着法及び分解法を組み合わせることによってナノ多孔性を伴って調製することができる。これらの方法には、マトリックスと不活性ポロマー又はポロゲンの堆積が含まれる。次に、ポロマー又はポロゲンは、後続の分解工程で層130a又は積層体130bから除去され、所望のナノ多孔性が得られる。したがって、不活性ポロゲン又はポロマーは、最終的な加工されたままの層130a又は積層体130bの所望のナノ多孔性を考慮して、マトリックス内のそれらの最終寸法及び密度に関して、適切なサイズ、ふるい、又は他の方法で処理される。
【0154】
幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、光干渉効果を最小限に抑えるために、ガラス系基板120及び/又は耐擦傷性フィルム110のいずれか同様の屈折率を示しうる。したがって、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、基板120及び/又は耐擦傷性フィルム110の屈折率よりも幾分高い、等しい、又は幾分低い屈折率を示しうる。追加的に又は代替的に、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、反射防止干渉効果を達成するように調整された屈折率を示すこともできる。亀裂緩和層130a又は積層体130bの屈折率は、層の多孔性及び/又はナノ多孔性を制御することにより、幾らか改変することができる。例えば、幾つかの事例では、比較的高い屈折率を有する材料を選択することが望ましい場合があり、これは、目標の多孔性レベルを有する亀裂緩和層130a又は積層体130bにしたときに、約1.4~約1.8の範囲の中間屈折率、あるいは、ガラス系基板の屈折率に近いか又はそれよりわずかに高い屈折率(例えば、約1.45~約1.6の範囲)を示すことができる。亀裂緩和層130a又は積層体130bの屈折率は、当技術分野で知られている「有効屈折率」モデルを使用して、多孔性レベルに関連付けることができる。
【0155】
積層物品100a、100bに用いられる亀裂緩和層130aの厚さ13a(亀裂緩和層の厚さが変化する平均厚さを含む)及び亀裂緩和積層体130bの厚さ13bは、約0.001μm~約10μm(1nm~10,000nm)の範囲、又は約0.005μm~約0.5μm(5nm~約500nm)の範囲、約0.01μm~約0.5μm(10nm~約500nm)の範囲、約0.02μm~約0.2μm(20nm~約200nm)の範囲でありうる。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130aの厚さ13a又は積層体130bの厚さ13bは、約0.02μm~約10μm、約0.03μm~約10μm、約0.04μm~約10μm、約0.05μm~約10μm、約0.06μm~約10μm、約0.07μm~約10μm、約0.08μm~約10μm、約0.09μm~約10μm、約0.1μm~約10μm、約0.01μm~約9μm、約0.01μm~約8μm、約0.01μm~約7μm、約0.01μm~約6μm、約0.01μm~約5μm、約0.01μm~約4μm、約0.01μm~約3μm、約0.01μm~約2μm、約0.01μm~約1μm、約0.02μm~約1μm、約0.03~約1μm、約0.04μm~約0.5μm、約0.05μm~約0.25μm、又は約0.05μm~約0.15μmの範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。1つ以上の特定の実施形態では、亀裂緩和層130aの厚さ13a又は積層体130bの厚さ13bは、約30nm以下、約20nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、又は約1nm以下でありうる。
【0156】
本開示の幾つかの実施形態では、積層物品100aに用いられる亀裂緩和層130aの厚さ13a(図1A参照)又は積層物品100bに用いられる亀裂緩和積層体130bの厚さ13b(図1B参照)は、約100nm~約500nm、好ましくは約150nm~約450nmの範囲である。積層物品100bの幾つかの実施形態によれば、二重層23の第1の層33は、約10nm~約80nm、好ましくは約20nm~約70nmの範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の厚さを有し、二重層23の第2の層35は、約3nm~約50nm、好ましくは約5nm~約40nmの範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の厚さを有する。
【0157】
1つ以上の実施形態では、ガラス系基板120、耐擦傷性フィルム110及び/又は亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さは、互いに関連して指定されていてもよい(図1A及び1B参照)。例えば、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、耐擦傷性フィルム110の厚さ11の約10倍以下である厚さ13a、13bを有しうる。別の例では、耐擦傷性フィルム110が約85nmの厚さ11を有する場合、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、約850nm以下の厚さ13a、13bを有しうる。さらに別の例では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さ13a、13bは、約35nm~約80nmの範囲であってよく、フィルム110は、約30nm~約300nmの範囲の厚さ11を有しうる。さらなる例では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さ13a、13bは、約150nm~約450nmの範囲であってよく、耐擦傷性フィルム110の厚さ11は、約1μm~約3μmの範囲である。
【0158】
一変形では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、フィルム110の厚さ11の約9倍以下、8倍以下、7倍以下、6倍以下、5倍以下、4倍以下、3倍以下、又は2倍以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の厚さ13a、13bを有しうる。別の変形では、フィルム110の厚さ11及び亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さ13a、13bは、各々、約10μm未満、約5μm未満、約2μm未満、約1μm未満、約0.5μm未満、又は約0.2μm未満、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さ13a、13bのフィルム110の厚さ11に対する比は、幾つかの実施形態では、約1:1~約1:20の範囲、約1:2~約1:6の範囲、約1:3~約1:5の範囲、又は約1:3~約1:4の範囲、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲にありうる。別の変形では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さ13a、13bは約0.4μm未満であり、フィルム110の厚さ11は亀裂緩和層130a又は積層体130bより大きい。
【0159】
積層物品100a、100bの1つ以上の実施形態は、有機ケイ酸塩材料を含有する亀裂緩和層130a又は積層体130bを含む。このような実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bが用いられる場合、耐擦傷性フィルム110は機能的特性(例えば、光学的特性、電気的特性、及び機械的特性)を維持し、物品100a、100bはその平均曲げ強度を保持する。このような実施形態では、フィルム110は、1つ以上の透明な導電性酸化物層、例えばインジウム-スズ酸化物層などの又は耐擦傷性層、例えばAlOxNy、AlN及びそれらの組合せを含みうる。加えて、ガラス系基板120は強化されてもよく、より具体的には化学的に強化されてもよい。
【0160】
追加的に又は代替的に、インジウム-スズ酸化物層、耐擦傷性層(例えば、AlOxNy、AlN及びそれらの組合せ)、及び反射防止層;並びに、有機ケイ酸塩材料を含む亀裂緩和層130a又は積層体130bのうちの1つ以上を含む耐擦傷性フィルム110は、積層体要素を形成し、該積層体要素は、全体的に低い光反射率を有する。例えば、このような積層体要素の全体的な(又は全)反射率は、450~650nm、420~680nm、又はさらには400~700nmの可視波長範囲にわたり、15%以下、10%以下、8%以下、7%以下、6.5%以下、6%以下、5.5%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。上記反射率の数字は、コーティングされていないガラス界面単独からの約4%の反射である、むき出しの(又はコーティングされていない)ガラス界面(例えば、ガラス系基板120の)からの反射率を含む幾つかの実施形態に存在しうる、あるいは、ガラス系基板120の第1の主表面と、該第1の主表面に配置された積層体要素(及び関連する界面)についての反射率(ガラス系基板のコーティングされていない第2の主表面からの4%の反射を除く)として特徴づけることができる。積層体要素構造及び積層体要素-ガラスコーティング界面のみからの反射率(コーティングされていないガラスの界面の反射率を差し引く)は、ガラス系基板120の1つ以上の主面が、約1.45~1.65の封止材屈折率を有する典型的な封止材(すなわち、追加のフィルム又は層)で覆われている幾つかの事例で、450~650nm、420~680nm、又はさらには400~700nmの可視波長範囲にわたり、約5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又はさらには約1.5%未満、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。加えて、積層体要素は、一般的な関係:に従って、低い反射率及び低い吸収率の両方を示唆する、高い光透過率を示しうる:透過率=100%-反射率-吸収率。積層体要素の透過率の値(ガラス系基板120又は封止材層のみに関連する反射率及び吸収率を無視する場合)は、450~650nm、420~680nm、又はさらには400~700nmの可視波長範囲にわたり、約75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、又はさらには98%超、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。
【0161】
積層物品100a、100b(図1A及び1B参照)の光学特性は、耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又はガラス系基板120の特性のうちの1つ以上を変化させることによって調整することができる。例えば、物品100a、100bは、約400nm~約700nmの可視波長範囲にわたり、15%以下、10%以下、8%以下、7%以下、6.9%以下、6.8%以下、6.7%以下、6.6%以下、6.5%以下、6.4%以下、6.3%以下、6.2%以下、6.1%以下、及び/又は6%以下の全反射率、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の全反射率を示しうる。範囲は、上記指定されたようにさらに変化させてもよく、積層体要素(すなわち、耐擦傷性フィルム110及び亀裂緩和層130a又は積層体130bを含むもの)/コーティングされたガラス界面のみについての範囲が上に列挙されている。より具体的な実施形態では、本明細書に記載される物品100a、100bは、亀裂緩和層130a又は積層体130bを有しない物品よりも低い平均反射率と大きい平均曲げ強度を示しうる。1つ以上の代替的な実施形態では、物品100a、100bの光学特性、電気特性、又は機械特性のうちの少なくとも2つは、ガラス系基板120、フィルム110及び/又は亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さを変化させることにより調整することができる。追加的に又は代替的に、物品100a、100bの平均曲げ強度は、ガラス系基板120、フィルム110及び/又は亀裂緩和層130a又は積層体130bの厚さを修正することによって調整又は改善することができる。
【0162】
追加的に、亀裂緩和層でコーティングされたガラス系基板は、ガラス系基板のみの2%以内又は1%以内の反射率を有しうる。亀裂緩和層は、1.55未満の屈折率、1.35~1.55の屈折率、又は基板の屈折率よりも0.05以下だけ高い屈折率を有しうる。亀裂緩和層はまた、400~800nmの可視波長範囲にわたり入射光エネルギーの5%未満になる、吸収率と散乱レベルの組合せを有していてもよい。
【0163】
物品100a、100b(図1A及び1B参照)は、ガラス系基板120上に配置された1つ以上の追加フィルム(図示せず)を含みうる。物品100a、100bの1つ以上の実施形態では、1つ以上の追加のフィルムが、耐擦傷性フィルム110上に、あるいは、より典型的には、フィルム110の反対側の主表面上に、配置されうる。ある特定の追加のフィルムは、フィルム110と直接接触して配置されていてもよい。1つ以上の実施形態では、追加のフィルムは、次のいずれかの間に位置づけることができる:1)ガラス系基板120と亀裂緩和層130a又は積層体130bとの間(例えば、積層物品100a、100b内);又は2)亀裂緩和層130a又は積層体130bとフィルム110との間。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bとフィルム110の両方が、ガラス系基板120と追加のフィルムとの間に位置付けられうる。追加のフィルムは、保護層、接着層、平坦化層、抗分化層(anti-splintering layer)、光学接着層、ディスプレイ層、偏光層、光吸収層、反射調整干渉層、耐擦傷性層、バリア層、不動態化層、気密層、拡散防止層、及びそれらの組合せ、並びにこれら又は関連する機能を実行するための当技術分野で知られている他の層を含みうる。適切な保護層又はバリア層の例には、SiO、SiN、SiO、他の同様の材料及びそれらの組合せを含有する層が含まれる。このような層はまた、耐擦傷性フィルム110、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又はガラス系基板120の光学特性と一致する、又はそれらを補完するように改質することもできる。例えば、保護層は、亀裂緩和層130a又は積層体130b、フィルム110、又はガラス系基板120と同様の屈折率を有するように選択されうる。
【0164】
1つ以上の実施形態では、記載される物品100a、100bは、情報表示装置及び/又はタッチセンサ装置に使用されてもよい。1つ以上の代替的な実施形態では、物品100a、100bは、例えば、自動車又は航空機の窓に使用されるガラス-ポリマー-ガラス積層安全ガラスとしての積層構造の一部でありうる。これらの積層物体の中間層として使用される例示的なポリマー材料は、PVB(ポリビニルブチラール)であり、当技術分野で知られている使用可能な他の多くの中間層材料が存在する。加えて、積層ガラスの構造にはさまざまな選択肢があり、特に限定されない。物品100a、100bは、例えば自動車のフロントガラス、サンルーフ、又はサイドウィンドウなどのように、最終用途において湾曲又は成形されていてもよい。物品100a、100bの厚さ10a、10bは、設計又は機械的理由のいずれかのために変化してもよく、例えば、物品100a、100bは、物品の中央部よりも縁部で厚くなっていてもよい。物品100a、100bは、表面の傷の影響を除去又は低減するために、酸研磨又は他の方法で処理されてもよい。
【0165】
本開示の幾つかの実施形態は、本明細書に記載される物品100a、100bを利用するカバーガラス用途に関する。1つ以上の実施形態では、カバーガラスは、ガラス系基板120(強化されていても強化されていなくてもよい)、耐擦傷性フィルム110(例えば、AlO、AlN、SiO、SiAl、Si及びそれらの組合せ)、及び1つ以上の有機ケイ酸塩材料を含む亀裂緩和層130a又は積層体130bを有する、積層物品を含みうる。積層物品100a、100bは、反射を低減し、及び/又は積層物品に掃除しやすい又は指紋防止表面を提供するために、1つ以上の追加のフィルムを含みうる。特に、約1~10nmの厚さのシラン又はフルオロシラン層を耐擦傷性層の表面に施して、摩擦を低減し、洗浄性を改善し、物品のユーザー表面の引っかき傷の低減に役立てることができる。
【0166】
本開示の幾つかの実施形態は、本明細書に記載される物品を含むタッチセンサ装置に関する。1つ以上の実施形態では、タッチセンサ装置は、ガラス系基板120(強化されていても強化されていなくてもよい)、耐擦傷性フィルム110(例えば、透明な導電性酸化物と、耐擦傷性材料、例えば、AlO、AlN、SiO、SiAl、Si、並びにそれらの組合せを含む)、及び亀裂緩和層130a又は積層体130bを含みうる。透明な導電性酸化物は、インジウム-スズ酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物、フッ素化スズ酸化物、又は当技術分野で知られている他のものを含みうる。1つ以上の実施形態では、耐擦傷性フィルム110の導電性酸化物部分は、ガラス系基板120上に非連続的に配置される。言い換えれば、耐擦傷性フィルム110の導電性部分は、ガラス系基板120の別個の領域上に配置することができる(それらの間に亀裂緩和層130a、又は積層体130bを有する)。フィルムを有する別個の領域は、パターン化又はコーティングされた領域(図示せず)を形成し、一方、フィルムのない別個の領域は、パターン化されていない又はコーティングされていない領域(図示せず)を形成する。1つ以上の実施形態では、パターン化又はコーティングされた領域及びパターン化されていない又はコーティングされていない領域は、ガラス系基板120の表面にある亀裂緩和層130a、又は積層体130bの表面にフィルム110を連続的に配置することにより形成され、次に、これらの個別の領域にフィルム110が存在しないように、別個の領域のフィルム110を選択的にエッチング除去する。フィルム110は、例として、例えばTransene Co.から市販されているTE-100エッチング液など、水溶液中のHCl又はFeClなどのエッチング液を使用してエッチング除去することができる。1つ以上の実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、エッチング液によって著しく分解又は除去されない。あるいは、フィルム110は、亀裂緩和層130a、又は積層体130bの表面の別個の領域上に選択的に堆積されてもよく、これが今度は、ガラス系基板120の表面に堆積されて、パターン化又はコーティングされた領域とパターン化されていない又はコーティングされていない領域とを形成することができる。
【0167】
導電性酸化物部分又は別個の領域を含む、耐擦傷性フィルム110を有する積層物品100a、100bの1つ以上の実施形態では、コーティングされていない領域は、コーティングされた領域の全反射率に似た全反射率を有する。1つ以上の特定の実施形態では、パターン化されていない又はコーティングされていない領域は、約450nm~約650nm、約420nm~約680nm、又はさらには約400nm~約700nmの範囲の可視波長にわたり、パターン化又はコーティングされている領域の全反射率と約5%以下、4.5%以下、4%以下、3.5%以下、3%以下、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、又はさらには1%以下だけ異なる、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の全反射率を有する。
【0168】
本開示の幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bと、インジウム-スズ酸化物又は他の透明な導電性酸化物を含みうる耐擦傷性フィルム110との両方を含む物品100a、100bは、タッチセンサデバイスでのこのような物品の使用に許容される抵抗率を示す。1つ以上の実施形態では、フィルム110は、本明細書に開示される物品に存在する場合には、約100オーム/スクエア以下、80オーム/スクエア以下、50オーム/スクエア以下、又は30オーム/スクエア以下のシート抵抗を示す。このような実施形態では、フィルムは、約200nm以下、150nm以下、100nm以下、80nm以下、50nm以下、又はさらには35nm以下の厚さ、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の厚さを有しうる。1つ以上の特定の実施形態では、このようなフィルムは、物品100に存在する場合には、10×10-4オーム-cm以下、8×10-4オーム-cm以下、5×10-4オーム-cm以下、又はさらには3×10-4オーム-cm以下の抵抗率、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の抵抗率を示す。よって、耐擦傷性フィルム110は、導電性酸化物部分を有する本明細書に開示される物品100a、100bに存在する場合には、投影型静電容量式タッチセンサデバイスを含むタッチセンサ用途で使用される透明な導電性酸化物フィルム及び他のこのようなフィルムに期待される電気的及び光学的性能を良好に維持することができる。
【0169】
本明細書の開示は、対話的ではない、又は表示用ではない物品100a、100bにも適用することができる;例えば、このような物品は、デバイスが、ディスプレイに使用される対話的なガラス製の前面と、非常に広い意味で「装飾的」と呼ばれる背面とを有する場合に使用することができる、すなわち、背面をある色で「塗装」することができ、アートワーク、若しくは製造業者、モデル、及びシリアル番号、テクスチャリング、又は他の特徴についての情報を有することができることを意味する。
【0170】
積層物品100a、100b(図1A及び1B参照)の光学特性に関しては、耐擦傷性フィルム110は、約1.7~約2.1の範囲の比較的高い屈折率を有する、耐擦傷性材料、例えばAlN、Si、AlO、及びSiOを含みうる。積層物品100a及び100bに用いられるガラス系基板120は、典型的には、約1.45~約1.65の範囲の屈折率を有する。さらには、物品100a及び100bに用いられる亀裂緩和層130a及び積層体130bは、典型的には、基板120及びフィルム110(存在する場合)に共通の屈折率範囲の近く又は間のどこかに屈折率を有する。これらの屈折率値の差(例えば、基板120と亀裂緩和層130a又は積層体130bとの間)は、望ましくない光干渉効果に寄与しうる。特に、界面150及び/又は160(図1A及び1B参照)での光学干渉は、物品100a及び100bで観察される見かけの色を作り出すスペクトル反射率振動をもたらしうる。入射照明角度によるスペクトル基準振動のシフトにより、視野角に応じて反射の色が変化する。最終的に、入射照明角度で観察される色及び色ずれは、特に蛍光灯及び一部のLED照明などのシャープなスペクトル特徴を有する照明下では、多くの場合、デバイスユーザーにとって気を散らすか、不愉快なものである。
【0171】
本開示の態様によれば、物品100a及び100bで観察される色及び色ずれは、界面150及び160(図1A及び1Bを参照)の一方又は両方において反射率を最小限に抑えることによって低減でき、したがって、物品全体の反射率振動及び反射色ずれを低減することができる。幾つかの態様では、亀裂緩和層130a又は積層体130bの密度、厚さ、組成、及び/又は多孔性は、界面150及び160におけるこのような反射率を最小限に抑えるように調整することができる。例えば、前述の態様に従って層130a又は積層体130bを構成することにより、可視スペクトルにわたる反射率の振幅及び/又は振動を低減することができる。
【0172】
本明細書で用いられる場合、用語「振幅」は、反射率又は透過率におけるピーク-谷間の変化を含む。また本明細書で用いられる場合、用語「透過率」は、物品100a及び100bを透過した所与の波長範囲内の入射光パワーの割合として定義される。用語「平均透過率」とは、CIE標準オブザーバーによって説明されているように、光透過率のスペクトル平均に発光効率関数を乗算した積を指す。用語「反射率」は、物品100a及び100bから反射される所与の波長範囲内の入射光パワーの割合として同様に定義される。一般に、透過率と反射率は、特定の線幅を使用して測定される。さらには、「平均振幅」という語句には、光波長領域内のあらゆる可能な100nm波長範囲にわたって平均化された反射率又は透過率のピーク-谷間の変化が含まれる。本明細書で用いられる場合、「光学波長領域」は、約420nm~約700nmの範囲を含む。
【0173】
1つ以上の実施形態によれば、積層物品100a及び100bは、可視スペクトルにわたって85%以上の平均透過率を示す。幾つかの実施形態では、積層物品100a及び100bは、80%以上、82%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上の平均透過率、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の平均透過率を示しうる。
【0174】
幾つかの態様では、物品100a及び100bは、可視スペクトルにわたって20%以下の平均全反射率を示す。物品100a、100bのある特定の実施形態は、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、又は5%以下の全反射率、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の全反射率を示す。
【0175】
1つ以上の実施形態によれば、物品100a及び100bは、ガラス系基板120の全反射率と同じ又はそれよりも低い全反射率を有する。1つ以上の実施形態では、物品100a及び100bは、光学波長領域にわたって比較的平坦な透過率スペクトル、反射率スペクトル、又は透過率及び反射率スペクトルを示す。幾つかの実施形態では、比較的平坦な透過率及び/又は反射率スペクトルは、光学波長領域の光学波長領域全体又は波長範囲セグメントに沿って、約5パーセントポイント以下の平均振動振幅を含む。波長範囲セグメントは、約50nm、約100nm、約200nm、又は約300nm、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。幾つかの実施形態では、平均振動振幅は、約4.5パーセントポイント以下、約4パーセントポイント以下、約3.5パーセントポイント以下、約3パーセントポイント以下、約2.5パーセントポイント以下、約2パーセントポイント以下、約1.75パーセントポイント以下、約1.5パーセントポイント以下、約1.25パーセントポイント以下、約1パーセントポイント以下、約0.75パーセントポイント以下、約0.5パーセントポイント以下、約0.25パーセントポイント以下、又は約0パーセントポイント、並びにそれらの間のすべての範囲及び部分範囲でありうる。1つ以上の特定の実施形態では、物品100及び100aは、光学波長領域にわたって約100nm又は200nmの選択された波長範囲セグメントにわたって透過率を示し、スペクトルからの振動は、約80%、約82%、約84%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、又は約95%の最大ピーク、並びにそれらの間のすべての範囲及び部分範囲の最大ピークを有する。
【0176】
幾つかの実施形態では、比較的平坦な平均透過率及び/又は平均反射率は、光学波長領域の特定の波長範囲セグメントに沿って、平均透過率又は平均反射率の%として表される最大振動振幅を含む。積層物品100a及び100bの平均透過率又は平均反射率もまた、光学波長領域における同じ特定の波長範囲セグメントに沿って測定されるであろう。波長範囲セグメントは、約50nm、約100nm、又は約200nmでありうる。1つ以上の実施形態では、物品100及び100aは、約10%以下、約5%以下、約4.5%以下、約4%以下、約3.5%以下、約3%以下、約2.5%以下、約2%以下、約1.75%以下、約1.5%以下、約1.25%以下、約1%以下、約0.75%以下、約0.5%以下、約0.25%以下、又は約0.1%以下の平均振動振幅、並びにそれらの間のすべての範囲及び部分範囲の平均振動振幅を有する、平均透過率及び/又は平均反射率を示す。このようなパーセントベースの平均振動振幅は、光学波長領域で約50nm、約100nm、約200nm、又は約300nmの波長範囲セグメントに沿って、物品によって示されうる。例えば、この開示に従った物品は、光学波長領域内で約100nmの波長範囲セグメントである、約500nm~約600nmの波長範囲に沿って約85%の平均透過率を示しうる。物品は、同じ波長範囲(500nm~約600nm)で約3%のパーセントベースの振動振幅を示すことができ、これは、500nm~600nmの波長範囲に沿って、絶対(非パーセントベース)振動振幅が約2.55パーセントポイントであることを意味する。例えば、平均透過率が85%であり、振動が85%の3%を表す場合、絶対値で3%に85%を掛けると2.55%になり、これは、85%が平均であり、86.275-83.725=2.55であることから、振動振幅のピークは絶対値で86.275になり、谷は83.725になることを意味している。
【0177】
幾つかの実施形態は、図11及び12に示されるように、本明細書に開示される物品100a、100bを組み込むデバイスに関する。図11~12に示されるデバイスは携帯電話であるが、しかしながら、ディスプレイ付きのデバイス又は物品(例えば、携帯電話、タブレット、コンピューター、ウェアラブル(例えば時計など)、ナビゲーションシステムなどを含む消費者向け電子機器)、建築用品、輸送用品(自動車、電車、航空機、船舶など)、家電製品、又は何らかの透明性、耐擦傷性、耐摩耗性、又はそれらの組合せが望まれるあらゆる製品を含むことができる。図11は、前面1040、背面1060、及び側面1080を有する筐体1020;筐体内部に少なくとも部分的に、又は筐体内に全体的にあり、少なくともコントローラと、メモリと、筐体の前面にある、又はそれに隣接するディスプレイ1120とを含む電気部品(図示せず);並びに、ディスプレイの上方になるように、筐体の前面又はその上にある物品100a、100bを含む、消費者向け電子機器1000を示している。幾つかの実施形態では、筐体1020は、背面1060、側面1080、又は前面1040の一部のうちの1つ以上に、物品100a、100bを含みうる。
【0178】
本開示の幾つかの実施形態は、物品100a及び100bを形成する方法に関する。1つ以上の実施形態では、このような方法は、ガラス系基板120を得る工程、ガラス系基板の第1の主面に耐擦傷性フィルム110を配置して、それらの間に有効界面を生成する工程、及び有効界面の有効な接着エネルギーを制御する工程を含む。ある特定の態様では、このような方法は、ガラス系基板120を得る工程、基板上に有効界面を生成する工程、及び有効界面の有効な接着エネルギーを制御する工程を含む。1つ以上の実施形態では、本方法は、有効な接着エネルギーを約4J/m未満に制御する工程を含む。1つ以上の実施形態では、有効な接着エネルギーを制御する工程は、耐擦傷性フィルム110(例えば、物品100a、100b用)を配置する前に、ガラス系基板120の表面(例えば、主面122、124の1つ以上及び/又は非主面の1つ以上)に亀裂緩和層130a又は積層体130bを配置する工程を含む。言い換えれば、有効な接着エネルギーを制御する工程は、物品100a、100bのフィルム110とガラス系基板120との間に亀裂緩和層130a又は積層体130bを配置する工程を含む。
【0179】
幾つかの実施によれば、物品100a及び100bを形成する方法は、例えばメチル化シリカなどの有機ケイ酸塩材料を含む、亀裂緩和層130a又は積層体130bを使用する。このようなものとして、物品100a、100bを形成する方法は、以下の堆積技術のいずれか1つを含む、亀裂緩和層130a又は積層体130bを堆積する工程を使用することができる:大気圧プラズマ化学蒸着(AP-CVD)、プラズマ化学蒸着(PECVD)、又はスピン・オン・グラス(SOG)処理技術。幾つかの態様では、有機ケイ酸塩材料は、各ケイ素原子が平均で最大3つの有機基と直接結合する0以外の確率を有する、4未満の平均ケイ素接続性を有するシロキサンネットワークによって特徴づけられる。典型的には、このような材料は、単官能性、二官能性、又は三官能性有機ケイ素化合物と、任意選択的に他の添加物、例えばケイ素前駆体及び酸化剤との反応によって形成される。
【0180】
1つ以上の実施形態では、本方法は、真空蒸着プロセスによって耐擦傷性フィルム110及び/又は亀裂緩和層130a又は積層体130bを配置する工程を含む。特定の実施形態では、このような真空蒸着プロセスは、少なくとも約25℃、50℃、75℃、100℃、200℃、300℃、400℃、並びにそれらの間のすべての範囲及び部分範囲の温度を利用しうる。幾つかの実施形態では、亀裂緩和層130a又は積層体130bは、湿式プロセスによって形成されうる。
【0181】
1つ以上の特定の実施形態では、本方法は、亀裂緩和層130a又は積層体130b及び/又は耐擦傷性フィルム110の厚さを制御する工程を含む。本明細書に開示される亀裂緩和層130a、積層体130b及び/又はフィルム(例えば、耐擦傷性フィルム110)の厚さを制御する工程は、所望の又は規定された厚さを有する、亀裂緩和層、積層体及び/又はフィルムが施されるように、亀裂緩和層、積層体及び/又はフィルムを形成するための1つ以上のプロセスを制御することによって行うことができる。幾つかの実施形態では、本方法は、亀裂緩和層130a、積層体130b及び/又は耐擦傷性フィルム110の厚さを制御して、ガラス系基板120の平均曲げ強度、ガラス系基板120の機能特性、及び/又はフィルム110の機能特性を維持(又は、幾つかの事例では促進)する工程を含む。
【0182】
1つ以上の代替的な実施形態では、本方法は、亀裂緩和層130a、積層体130b及び/又は耐擦傷性フィルム110の連続性を制御する工程を含む。亀裂緩和層130a又は積層体130bの連続性を制御する工程は、連続した亀裂緩和層を形成し、亀裂緩和層又は積層体の選択された部分を除去して、非連続的な亀裂緩和層を生成する工程を含みうる。他の実施形態では、亀裂緩和層又は積層体の連続性を制御する工程は、亀裂緩和層又は積層体を選択的に形成して、非連続的な亀裂緩和層又は積層体を形成する工程を含みうる。このような実施形態は、マスク、エッチング液、及びそれらの組合せを使用して、亀裂緩和層130a又は積層体130bの連続性を制御することができる。
【0183】
1つ以上の代替的な実施形態では、本方法は、ガラス系基板120上に配置されるときに(積層物品100a、100bを形成する方法に関して)、耐擦傷性フィルム110の堆積前に(特に物品100a、100bに関して)、亀裂緩和層130a又は積層体130bの表面エネルギーを制御する工程を含む。製造のこの中間段階で亀裂緩和層130a又は積層体130bの表面エネルギーを制御することは、反復可能な製造プロセスを確立するのに有用でありうる。1つ以上の実施形態では、本方法は、亀裂緩和層130a又は積層体130bの表面エネルギーを(亀裂緩和層130a又は積層体130bが被覆されておらず、空気に晒される場合に測定して)、約70mJ/m以下よりも低く、60mJ/m以下、50mJ/m以下、40mJ/m以下、30mJ/m以下、20mJ/m以下に、しかしながら幾つかの事例では、約15mJ/m超に、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲に制御する工程を含む。1つ以上の実施形態では、前述の表面エネルギーの値及び範囲は、極性成分と分散成分の両方を含み、S.Wu(1971)によって開発された既知の理論モデルを、3つの試験液(水、ジヨードメタン、及びヘキサデカン)の3つの接触角に当てはめることによって測定することができる(S. Wu, J. Polym. Sci., Part C, vol. 34, pp. 19-30, 1971参照)。
【0184】
亀裂緩和層の表面エネルギー
本明細書で言及されるように、亀裂緩和層の表面エネルギーは、キャリア上に存在する亀裂緩和層の表面エネルギーの尺度である。一般に、亀裂緩和層30の表面エネルギーは、例えば窒素又は窒素と酸素の混合物によって活性化することにより、堆積及び/又はさらに処理されるときに測定されうる。固体表面の表面エネルギーは、空気中の固体表面に個別に堆積した3つの液体(水、ジヨードメタン、及びヘキサデカン)の静的接触角を測定することによって、間接的に測定される。本明細書に開示される表面エネルギーは、以下に示されるように、Wuモデルに従って決定した(S. Wu, J. Polym. Sci. C, 34, 19, 1971参照)。Wuモデルでは、3つの試験液(水、ジヨードメタン、及びヘキサデカン)の3つの接触角に理論モデルを当てはめることにより、全成分、極性成分、分散成分を含む表面エネルギーを測定する。3つの液体の接触角の値から回帰分析を行い、固体表面エネルギーの極性成分と分散成分を計算する。表面エネルギー値の計算に使用される理論モデルの値は、3つの液体の3つの接触角の値、固体表面の表面エネルギーの分散成分及び極性成分(下付き文字「S」で表される)、並びに3つの試験液に関連する、次の3つの独立した等式も含む:
【0185】
【数13】
【0186】
【数14】
【0187】
【数15】
【0188】
式中、下付き文字「W」、「D」、及び「H」はそれぞれ、水、ジヨードメタン、及びヘキサデカンを表し、上付き文字「d」及び「p」はそれぞれ、表面エネルギーの分散成分及び極性成分を表す。ジヨードメタンとヘキサデカンは本質的に非極性の液体であるため、上記方程式のセットは次のようになる:
【0189】
【数16】
【0190】
【数17】
【0191】
【数18】
【0192】
上記の3つの式(4~6)のセットから、2つの未知のパラメータ、固体表面の分散と極性表面エネルギー成分r 及びr は、回帰分析によって計算できる。しかしながら、この手法では、固体表面の表面エネルギーを測定できる限界最大値が存在する。その限界最大値は、水の表面張力であり、約73mJ/mである。固体表面の表面エネルギーが水の表面張力よりもかなり大きい場合、表面は水で完全に湿り、それによって接触角はゼロに近づく。したがって、表面エネルギーのこの値を超えると、実表面エネルギー値にかかわらず、計算されたすべての表面エネルギー値は、約73~75mJ/mに対応するであろう。例えば、2つの固体表面の実表面エネルギーが75mJ/m及び150mJ/mの場合、液体接触角を使用して計算される値は、両方の表面において、約75mJ/mになる。
【0193】
したがって、本明細書に開示されるすべての接触角は、空気中の固体表面上に液滴を置き、接触線で固体表面と気液界面との間の角度を測定することによって、測定される。したがって、表面エネルギー値が55mJ/m~75mJ/mであるという主張がなされる場合、これらの値は、上記の方法に基づいて計算された表面エネルギー値に対応し、実表面エネルギー値ではなく、計算値が実表面エネルギー値に近づくと75mJ/mを超える可能性があることが理解されるべきである。
【0194】
1つ以上の実施形態では、本方法は、亀裂緩和層130a又は積層体130bに制御された量の多孔性を生成する工程を含みうる。本方法は、本明細書で別途記載されるように、亀裂緩和層130a又は積層体130bの多孔性を制御する工程を任意選択的に含みうる。本方法は、亀裂緩和層又は積層体の堆積及び製造プロセスの制御を通じて、亀裂緩和層130a、積層体130b及び/又はフィルム110の固有のフィルム応力を制御する工程をさらに含みうる。
【0195】
本方法は、本明細書に記載されるように、ガラス系基板120上に追加のフィルムを配置する工程を含みうる。1つ以上の実施形態では、本方法は、追加のフィルムが、ガラス系基板120と亀裂緩和層130a又は積層体130bとの間、亀裂緩和層130a又は積層体130bと耐擦傷性フィルム110との間に配置されるように、若しくは、フィルム110が亀裂緩和層130a又は積層体130bと追加のフィルムとの間に存在するように、ガラス系基板上に追加のフィルムを配置する工程を含みうる。あるいは、本方法は、ガラス系基板120のフィルムが配置される表面とは反対の主表面上に追加のフィルムを配置する工程を含みうる。
【0196】
1つ以上の実施形態では、本方法は、ガラス系基板上に亀裂緩和層130a、積層体130b、耐擦傷性フィルム110及び/又は追加のフィルムを配置する前又は後に、ガラス系基板120を強化する工程を含む。ガラス系基板120は、化学的に、又は他の方法で強化されうる。ガラス系基板120は、該ガラス系基板120上に亀裂緩和層130a又は積層体130bを配置した後、ガラス系基板上にフィルム110を配置する前に、強化されうる。ガラス系基板120は、ガラス系基板120上に亀裂緩和層130a又は積層体130bとフィルム110とを配置した後であって、ガラス系基板上に追加のフィルム(存在する場合)を配置する前に、強化されうる。追加のフィルムが利用されない場合には、ガラス系基板120は、該ガラス系基板上に亀裂緩和層130a又は積層体130bとフィルム110とを配置した後に、強化されうる。低反りが望ましいガラス系基板については、コーティングの前に強化が行われる;典型的には、これがその事例である。
【0197】
以下の実施例は、本開示のある特定の非限定的な実施形態を表している。
【0198】
実施例1:不活性作動ガス中のTMS/Oガス混合物に由来する、有機ケイ酸塩亀裂緩和層及び積層体を有する積層物品の強度
実施例1A~1C(「実施例1A~1C」)及び2A、2B(「実施例2A及び2B)と指定された試料積層物品を、以下の組成に従ってガラス系基板を提供することによって形成した:65モル%のSiO、約5モル%のB、約14モル%のAl、約14モル%のNaO、及び約2.5モル%のMgO。ガラス系基板は1mmの厚さを有していた。ガラス系基板は、イオン交換によって強化されて、約690MPaの表面CS及び約24μmのDOCをもたらした。イオン交換プロセスは、ガラス系基板を約350℃~450℃の範囲の温度に加熱した溶融硝酸カリウム(KNO)浴に浸漬することによって行った。ガラス系基板を3~8時間の間、浴に浸漬し、表面CS及びDOCを達成した。イオン交換プロセスの完了後、実施例1A~1Cのガラス系基板を、約50℃の温度を有する、Semiclean KG社が供給する、2%濃度のKOH洗剤溶液で洗浄した。
【0199】
実施例1では、実施例1Aの試料は、ガラス系基板のみを含む対照を表している。同様に、実施例1Bの試料もまた、約440nmの厚さを有するSiN耐擦傷性フィルムを含み、有機ケイ酸塩材料を含む亀裂緩和層又は積層体を欠いていることから、対照としての機能を果たす。実施例1Bの試料では、SiN耐擦傷性フィルムを、シラン前駆体ガスと窒素ガスを用いて、200℃においてPlasma-Therm Versaline HDPCVDシステムで堆積させた。さらには、実施例1Cの試料もまた、約2μmの厚さを有するSiN耐擦傷性フィルムを含み、有機ケイ酸塩材料を含む亀裂緩和層又は積層体を欠いていることから、対照としての機能を果たす。
【0200】
実施例1では、実施例2A及び実施例2Bと指定された試料も調製した。実施例2A~2Bの試料では、強化されたガラス系基板と、実施例1Bの条件に従う耐擦傷性フィルム(例えば、約440nmの厚さを有するSiNフィルム)とを調製した。加えて、実施例2A及び2Bは各々、基板とSiN耐擦傷性フィルムとの間に配置されたトリメチルシリケート(TMS)に由来する有機ケイ酸塩層を含む、亀裂緩和層(実施例2A)又は亀裂緩和積層体(実施例2B)を有している。したがって、亀裂緩和層又は積層体の有機ケイ酸塩層は、耐擦傷性フィルムを亀裂緩和層又は積層体上に堆積する前に、ガラス系基板上に配置した。実施例2Aでは、亀裂緩和層は、約300nmの目標厚さ及び約7.6GPaの弾性率を有する。実施例2Bでは、亀裂緩和積層体は、約55nmの目標厚さを有する各二重層、すなわち、約40nmの厚さ及び約7.6GPaの弾性率を有する各二重層の第1の層と、約15nmの厚さ及び29GPaの弾性率を有する各二重層の第2の層とを有する、約3つの二重層を含む。
【0201】
実施例2A及び2Bのこれらの亀裂緩和層及び積層体を、プラズマヘッドとガラス系基板との距離約2~5mmで、20~70sccmのTMSガス、約130sccmのOガス、及び約70~100℃の空気中で約400~600Wのプラズマ電力を使用して、リニアDBDタイプの大気圧プラズマシステムで大気圧プラズマ化学蒸着(APCVD)法を使用して堆積させた。同様に、実施例5C及び5Dで用いたTMS層は、それぞれ、50nm及び約300nmの目標厚さを有する。より具体的には、実施例2Aと指定された試料の亀裂緩和層を、45sccmのTMS及び130sccmのOガスを使用して処理した。さらに、実施例2Bと指定された試料の亀裂緩和積層体を、各二重層の第1の層については、45sccmのTMS及び130sccmのOガスを使用して処理し、各二重層の第2の層については、25sccmのTMS及び130sccmのOガスを使用して処理した。
【0202】
リング・オン・リング(ROR)荷重-破壊試験を使用して、図6に示される実施例1A~1C、2A、及び2Bの平均曲げ強度の保持を実証した。ROR荷重-破壊試験では、フィルム及び/又は亀裂緩和層を有する側に張力をかけた。ROR荷重-破壊試験パラメータには、接触半径1.6mm、クロスヘッド速度1.2mm/分、荷重リング直径0.5インチ(約1.27cm)、及び支持リング直径1インチ(約2.54cm)が含まれていた。試験前に、破損したガラス破片を含むように、試験される試料の両側に接着フィルムを置いた。
【0203】
図6に示されるように、SiN耐擦傷性フィルム及びガラス系基板を有する積層物品への亀裂緩和層又は亀裂緩和積層体(TMS及びOガスに由来する有機ケイ酸塩材料を含む)の追加により(それぞれ、実施例2A及び2B)、このような亀裂緩和層又は積層体及び耐擦傷性フィルムなしで同様に構成された積層物品(実施例1A)とほぼ同じ平均曲げ強度を保持した積層物品が得られた。図6にも示されるように、亀裂緩和層又は積層体なしで440nm又は2μmの厚さを有する耐擦傷性フィルムを含めると(実施例1B、1Cを参照)、ガラス系基板の平均曲げ強度は、大幅に低下する(実施例1Aを参照)。より具体的には、単一の有機ケイ酸塩亀裂緩和層及び440nmのSiN耐擦傷性フィルムを有する積層物品(実施例2A)は、このような亀裂緩和層又は耐擦傷性フィルムのない、同様に構成された積層物品(実施例1A)の約74%の平均曲げ強度を示した。さらには、有機ケイ酸塩亀裂緩和積層体と440nmのSiN耐擦傷性フィルムとを有する積層物品(実施例2B)は、このような亀裂緩和積層体及び耐擦傷性フィルムのない、同様に構成された積層物品(実施例1A)の約90%のワイブル特性強度を示した。この実施例のSiNx耐擦傷性フィルムを使用した積層物品で得られた前述の結果を、SiO、AlN、AlO、及びSiAl材料を含む他の耐擦傷性フィルム組成に外挿することができると考えられる。この予想される傾向の根拠には、この実施例で使用されるSiNx材料と同様の屈折率、硬度、弾性率、フィルム応力、及び亀裂発生歪みの値を有するように、これらの代替的な耐擦傷性材料を作ることができる、個別の実験の結果が含まれる。したがって、これらの代替的な耐擦傷性フィルム材料は、本開示で概説される原理を考慮してほとんど改質せずに、本実施例に記載される有機ケイ酸塩亀裂緩和層と組み合わせて、同様に作用するように作ることができる。
【0204】
亀裂緩和積層体を含む積層物品(実施例2B)は、亀裂緩和層を含む積層物品(実施例2A)と比較して幾分高い強度を保持するように見えるが、実施例2Aの亀裂緩和層の全体の厚さは約300nmであり、実施例2Bの亀裂緩和積層体の全体の厚さは、約165nmで大幅に薄くなっている。例えば前述の説明で詳説した、有機ケイ酸塩層の厚さ、組成のばらつき、弾性率、及び多層構造の幅広い組合せは、積層物品の本実施例で実証された結果と同様の結果が得られると予想されることもまた、認識されるべきである。例えば、これらの有機ケイ酸塩の変形は、有機ケイ酸塩層とその下にある基板と有機ケイ酸塩層上の耐擦傷性フィルムとの間の表面及び接着エネルギーに最小限の影響しか与えないことが予想される。
【0205】
図7では、すなわち、実施例1Aと指定された積層物品(すなわち、ガラス系基板対照)、及び上記実施例1の2A及び2Bの亀裂緩和層(SiNx耐擦傷性層なし)についての反射率及び透過率のスペクトルが提供されている。亀裂緩和層の上に展開された耐擦傷性フィルムが本開示の積層物品の最適な特性に影響を及ぼすことから、このような耐擦傷性フィルムのない試料は、本開示の積層物品の全体的な光学特性上の亀裂緩和層の効果の相対的欠如を実証する目的で、代表であると判断される。凡例の接頭辞「R」及び「T」は、それぞれ反射率及び透過率データに対応する一連のデータを示している。図7に示されるように、光学波長領域(すなわち、400nm~800nm)における反射率及び透過率スペクトルの振動は、約10~15%以下である。さらには、有機ケイ酸塩材料を含む亀裂緩和層又は亀裂緩和積層体を有する積層物品(実施例2A及び2B)は、約400nm~約800nmで約90%の透過率を示し、亀裂緩和層又は積層体のないコーティングされていないガラスの対照サンプルで観察された透過率とほぼ同じである。
【0206】
図8を参照すると、このグラフは、実施例1A(すなわち、ガラス系基板対照)、2A及び2Bについての波長の関数としての吸収率、A(すなわち、A=1-(R+T))を示しており、ここで、Rは反射率であり、Tは透過率である。この特定の測定では、吸収率には散乱光も含まれうる。すなわち、量「1-(R+T)」は、透過率と反射率の合計(図7に示す)と1との差に等しい。その結果、「1-(R+T)」は、吸収及び/又は散乱された光の量を反映しており、他の方法で試料を通じて反射又は透過されない。図8では、有機ケイ酸塩亀裂緩和層(約300nm厚)を有する積層物品(すなわち、実施例2A)が可視波長範囲に幾らかの吸収率を示すことは、明らかである。さらには、実施例2Aに関して観察された吸収率レベルは、有機ケイ酸塩亀裂緩和積層体(約165nm厚)を有する積層物品である、実施例2Bの吸収率レベルよりも高く、ガラス系基板対照である、実施例1Aの吸収率レベルと比較してさらに高い。理論に縛られることなく、実施例2A及び2Bの亀裂緩和層及び積層体内の有機ケイ酸塩材料におけるC-Si及びC-C結合は、それぞれ、コーティングされていないガラス系基板対照(実施例1)の吸収率と比較して、これらの比較的高い吸収率レベルの発生源であると考えられる。
【0207】
次に図9A及び9Bを参照すると、D65照明下の実施例1の実施例1A、2A及び2B試料のa*及びb*色座標を示す、透過率及び反射率カラーマップが提供されている。これらの図にプロットされたデータから明らかなように、亀裂緩和積層体を含む積層物品(実施例2B)は、亀裂緩和層を含む積層物品(実施例2A)よりも、より中間色である。さらには、約165nmの全体的な厚さを有する有機ケイ酸塩亀裂緩和積層体を含む、実施例2Bの試料は、約300nmの厚さを有する有機ケイ酸塩亀裂緩和層を含む実施例2Aの試料と比較して、ガラス系基板対照試料である実施例1Aの色座標に近い。
【0208】
実施例2:亀裂緩和層及び積層体に適した有機ケイ酸塩層のFTIRスペクトル分析
下記表1に詳述され、図10に示されるように、指定条件に従ってAPCVDプロセスを使用してガラス系基板上に有機ケイ酸塩層を堆積させ、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)技術を使用して分析した。より具体的には、この実施例の有機ケイ酸塩層は、表1及び図10に示されるように、異なるプロセス条件(すなわち、可変のTMS/Oガス流量比)を考慮して、異なる組成を有する。このデータが示すように、Si-O-Siピークの約1020nmから1070nmの波長へのシフトは、有機ケイ酸塩層の組成及び/又は構造が変化したことを示唆している。理論に縛られることなく、これらの変化は、弾性率及びこれらの層の他の特性の変化(表1を参照)という形で現れると考えられる。前に概説したように、TMSガス前駆体にOガスを導入すると、Si-O-Si骨格の割合が高い有機ケイ酸塩層及び積層体を生じる傾向があり、これにより、層/積層体の強度が向上し、コーティングの凝集破壊の可能性が減少する。
【0209】
【表1】
【0210】
説明の目的で限られた数の実施形態に関して本開示を説明してきたが、本開示の利益を有する当業者は、本開示の範囲から逸脱しない他の実施形態を考案できることを認識するであろう。したがって、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者には様々な修正、適合、及び代替が想起されるであろう。
【0211】
本明細書で用いられる場合、用語「約」とは、量、サイズ、配合、パラメータ、及び他の量及び特性が正確ではなく、かつ、正確である必要はなく、許容誤差、変換係数、四捨五入、測定誤差など、及び当業者に知られている他の要因を反映して、必要に応じて近似及び/又はより大きく又はより小さくてもよいことを意味する。範囲の値又は端点を説明する際に「約」という用語が使用される場合、本開示は、言及される特定の値又は端点を含むと理解されるべきである。明細書の範囲の数値又は端点が「約」を記載しているかどうかにかかわらず、範囲の数値又は端点は、「約」によって修飾されたものと、修飾されていないものの2つの実施形態を含むことが意図されている。さらには、範囲の各々の端点は、他の端点に関連して、及び他の端点とは独立してのいずれにおいても重要であることが理解されよう。
【0212】
本明細書で使用される用語「実質的な」、「実質的に」、及びそれらの変形(他で定義される「実質的に剥離しない」で使用される場合を除く)は、記載された特徴が値又は説明に等しい又はほぼ等しいことを示すことが意図されている。例えば、「実質的に平坦な」表面は、平坦な又はほぼ平坦な表面を示すことが意図されている。さらには、上記に定義されるように、「実質的に同様」は、2つの値が等しいかほぼ等しいことを示すことが意図されている。幾つかの実施形態では、「実質的に同様」は、互いの約5%以内、又は互いの約2%以内など、互いの約10%以内の値を示しうる。
【0213】
本明細書で使用される方向用語(例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部)は、描かれた図を参照してのみ作られており、絶対的な方向を意味することは意図していない。
【0214】
本明細書で用いられる場合、用語「the」、「a」、又は「an」は、「少なくとも1つ」を意味し、明示的に反対の指示がない限り、「1つのみ」に限定されるべきではない。よって、例えば、「ある1つの(a)構成要素」への言及は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、そのような構成要素を2つ以上有する実施形態を含む。
【0215】
本明細書で用いられる場合、用語「ガラスベース」とは、ガラス及びガラスセラミックを含む、少なくとも部分的にガラスから作られた任意の材料を含むことを意味する。「ガラスセラミック」は、ガラスの制御された結晶化を通して製造された材料を含む。実施形態では、ガラスセラミックは約30%~約90%の結晶化度を有する。用いられうるガラスセラミック系の非限定的な例としては、LiO×Al×nSiO(すなわちLAS系)、MgO×Al×nSiO(すなわちMAS系)、及びZnO×Al×nSiO(すなわちZAS系)が挙げられる。
【0216】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0217】
実施形態1
物品であって、
対向する主面を含むガラス系基板;
有機ケイ酸塩材料を含み、かつ主面の一方に配置された、亀裂緩和層;及び
亀裂緩和層上に配置された耐擦傷性フィルムであって、前記フィルムが前記ガラス系基板の弾性率以上の弾性率を含む、耐擦傷性フィルム
を含み、
前記亀裂緩和層が、約1GPa~約30GPaの弾性率によって特徴づけられ、
前記耐擦傷性フィルムが、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含み、
さらに、前記物品が、前記基板の平均曲げ強度の少なくとも70%である平均曲げ強度によって特徴づけられる、
物品。
【0218】
実施形態2
前記亀裂緩和層が約50ナノメートル~約500ナノメートルの厚さを有し、前記耐擦傷性フィルムが約1μm~約3μmの厚さを有する、実施形態1に記載の物品。
【0219】
実施形態3
前記耐擦傷性フィルムが窒化ケイ素を含む、実施形態1又は実施形態2に記載の物品。
【0220】
実施形態4
前記耐擦傷性フィルムが、SiO、Al、TiO、Nb、Ta、SiO、SiAl、AlO、SiN、AlN、立方晶窒化ホウ素、TiN、SiC、TiC、WC、Si、Ge、インジウム-スズ酸化物、酸化スズ、フッ素化酸化スズ、酸化アルミニウム亜鉛、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンドープ酸化物、シロキサン含有ポリマー、シルセスキオキサン含有ポリマー、ダイヤモンド状炭素、及びそれらの組合せを含む、実施形態1又は実施形態2に記載の物品。
【0221】
実施形態5
前記フィルムを有しない、前記基板と前記ガラス系基板上に配置された前記亀裂緩和層との光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で、前記フィルム及び前記層を有しない前記基板のみの光透過率と5%以下だけ異なっている、実施形態1~4のいずれかに記載の物品。
【0222】
実施形態6
前記耐擦傷性フィルムが、1kgの全荷重下でのガーネットスクラッチ試験に前記フィルムを曝露したときに、前記物品から実質的に剥離しないことによって特徴づけられる、実施形態1~5のいずれかに記載の物品。
【0223】
実施形態7
前記亀裂緩和層が、約5GPa~約15GPaの弾性率によって特徴づけられる、実施形態1~6のいずれかに記載の物品。
【0224】
実施形態8
前記亀裂緩和層が、約6GPa~約9GPaの弾性率によって特徴づけられる、実施形態1~7のいずれかに記載の物品。
【0225】
実施形態9
前記物品の光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で約90%以上である、実施形態1~8のいずれかに記載の物品。
【0226】
実施形態10
デバイスであって、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体の内側にある電気部品;及び
前記筐体の前記前面にあるか、又はそれに隣接しているディスプレイ
を含み、
実施形態1~9のいずれかに記載の物品が、前記ディスプレイ上に配置されるもの、及び前記筐体の一部として配置されるもののうちの少なくとも一方である、
デバイス。
【0227】
実施形態11
物品であって、
対向する主面を含むガラス系基板;
主面の一方に配置された亀裂緩和積層体;及び
前記亀裂緩和積層体上に堆積された耐擦傷性フィルムであって、前記ガラス系基板の弾性率以上の弾性率を含む、耐擦傷性フィルム
を含み、
前記亀裂緩和積層体が1つ以上の二重層を含んでおり、ここで、各二重層が、(a)有機ケイ酸塩材料を含む第1の層、及び(b)前記第1の層上の有機ケイ酸塩材料を含む第2の層によって画成され、前記第1の層が、前記第2の層の弾性率より低い弾性率を含み、
前記耐擦傷性フィルムが、金属含有酸化物、金属含有酸窒化物、金属含有窒化物、金属含有炭化物、ケイ素含有ポリマー、炭素、半導体、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含み、
さらに、前記物品が、前記基板の平均曲げ強度の少なくとも70%である平均曲げ強度によって特徴づけられる、物品。
【0228】
実施形態12
前記第1の層が約1GPa~約20GPaの弾性率によって特徴づけられ、前記第2の層が約10GPa~約40GPaの弾性率によって特徴づけられる、実施形態11に記載の物品。
【0229】
実施形態13
前記第1の層が約20ナノメートル~約70ナノメートルの厚さによってさらに特徴づけられ、前記第2の層が約5ナノメートル~約40ナノメートルの厚さによってさらに特徴づけられる、実施形態11又は実施形態12に記載の物品。
【0230】
実施形態14
前記亀裂緩和積層体が約50ナノメートル~約500ナノメートルの厚さを有する、実施形態11~13のいずれかに記載の物品。
【0231】
実施形態15
前記亀裂緩和積層体がN個の二重層を含み、Nが2~10である、実施形態11~14のいずれかに記載の物品。
【0232】
実施形態16
Nが3に等しい、実施形態15に記載の物品。
【0233】
実施形態17
前記耐擦傷性フィルムが窒化ケイ素を含む、実施形態11~16のいずれかに記載の物品。
【0234】
実施形態18
前記耐擦傷性フィルムが、SiO、Al、TiO、Nb、Ta、SiO、SiAl、AlO、SiN、AlN、立方晶窒化ホウ素、TiN、SiC、TiC、WC、Si、Ge、インジウム-スズ酸化物、酸化スズ、フッ素化酸化スズ、酸化アルミニウム亜鉛、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンドープ酸化物、シロキサン含有ポリマー、シルセスキオキサン含有ポリマー、ダイヤモンド状炭素、及びそれらの組合せを含む、実施形態11~16のいずれかに記載の物品。
【0235】
実施形態19
前記第1及び前記第2の層が、異なる組成物によって画成される、実施形態11~18のいずれかに記載の物品。
【0236】
実施形態20
前記ガラス系基板上への前記亀裂緩和積層体コーティングの光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で、前記基板のみの光透過率と4%以下だけ異なっている、実施形態11~19のいずれかに記載の物品。
【0237】
実施形態21
前記耐擦傷性フィルムが、1kgの全荷重下でのガーネットスクラッチ試験に前記フィルムを曝露したときに、前記物品から実質的に剥離しないことによって特徴づけられる、実施形態11~20のいずれかに記載の物品。
【0238】
実施形態22
前記第1及び第2の層が、それぞれ、約5GPa~約10GPa、及び約25GPa~約35GPaの弾性率によって特徴づけられる、実施形態11~21のいずれかに記載の物品。
【0239】
実施形態23
前記物品の光透過率が、400ナノメートル~800ナノメートルの波長で約90%以上である、実施形態11~22のいずれかに記載の物品。
【0240】
実施形態24
デバイスであって、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体の内側にある電気部品;及び
前記筐体の前記前面にあるか、又はそれに隣接しているディスプレイ
を含み、
実施形態11~23のいずれかに記載の物品が、前記ディスプレイ上に配置されたもの、及び前記筐体の一部として配置されたもののうちの少なくとも1つである、
デバイス。
【符号の説明】
【0241】
23 二重層
33 第1の層
35 第2の層
40 ガラス系基板
41貫通亀裂
42 フィルム
43 片側偏向
44 両面偏向
45 ゼロ軸
46 停止
100 物品
110 耐擦傷性フィルム
120 ガラス系基板
130 亀裂緩和層/積層体
140 有効界面
150 第1の界面
160 第2の界面
1000消費者向け電子機器
1020 筐体
1040 前面
1060 背面
1080 側面
1120 ディスプレイ
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12