(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】固体電解質の表面を処理するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230113BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230113BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230113BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230113BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230113BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20230113BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20230113BHJP
C04B 35/447 20060101ALI20230113BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/054
H01M10/052
H01B13/00 Z
C04B35/50
C04B41/87 C
C04B35/447
C04B41/91
(21)【出願番号】P 2019553355
(86)(22)【出願日】2018-04-02
(86)【国際出願番号】 US2018025685
(87)【国際公開番号】W WO2018184007
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-24
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507238218
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】サカモト ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン トラヴィス
(72)【発明者】
【氏名】シャラフィ アスマ
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502809(JP,A)
【文献】特開2021-177485(JP,A)
【文献】特開2009-238739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/054
H01M 10/052
H01B 13/00
C04B 35/50
C04B 41/87
C04B 35/447
C04B 41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学デバイスを形成するための方法であって、
(a)抵抗性表面領域を有する前駆電解質を提供する工程と、
(b)前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前記前駆電解質を加熱する工程であって、これにより固体状電解質を形成する工程と、
(c)前記固体状電解質を電極と接触するように配置する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記前駆電解質は、Li
wA
xM
2Re
3-yO
zの化学式を有するセラミック材料を備え、
式中、
wは、5~7.5であり、
Aは、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、
xは、0~2であり、
Mは、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、
Reは、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、
yは、0.01~0.75であり、
zは、10.875~13.125であり、
前記材料は、ガーネット型又はガーネット状の結晶構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前駆電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を有する材料を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抵抗性表面領域はLiOHを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抵抗性表面領域はLi
2CO
3を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm
2未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記(b)の工程は、350℃~650℃の間の温度で加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、30ohm cm
2未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記(b)の工程は、不活性ガス雰囲気下で加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記(b)の工程は、無水溶媒の存在下で加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記(c)の工程は、前記(b)の工程後、1秒~90分以内に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記電極はアノードを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記アノードは本質的にリチウム、マグネシウム、ナトリウム又は亜鉛金属の1つから構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記(c)の工程は、前記固体状電解質上に界面層を堆積させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記界面層は、ブロッキング金属、半ブロッキング金属、非ブロッキング金属又はこれらからなる混合物を備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記(b)の工程は、前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために、薬剤処理、電解研磨、湿式研磨、アルゴンプラズマエッチング、酸素プラズマ洗浄、アニーリング又は高真空への暴露をさらに含み、これにより固体状電解質を形成する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2017年3月31日に出願された米国仮出願第62/480,080号に対する優先権を主張する。
【0002】
<連邦政府の支援による研究に関する言明>
本発明は、米国エネルギー省によって与えられたDE-EE-00006821に従う政府の支持とともになされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、リチウム電池電極、リチウムイオン伝導性固体状電解質並びにこれらの電極及び固体状電解質を含む固体リチウムイオン電池などの電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0004】
現在の最先端のリチウムイオン電池は、2つの電極(アノード及びカソード)と、これらの電極同士の接触は防止するがLi+イオンの通過は許容するセパレータ材料と、電解質(リチウム塩を含む有機液体)と、を有する。充電及び放電中にLi+イオンが電極間で交換される。
【0005】
最先端の(SOA)Liイオン技術は現在、少量生産プラグインハイブリッド及びニッチ高性能車両に用いられているが、電動パワートレインの普及には25%低いコスト、4倍高い性能及び発火の可能性の無いより安全な電池が必要である。したがって、将来のエネルギー貯蔵として、より安全で、より安価で、そしてより高性能なエネルギー貯蔵手段が求められている。
【0006】
1つの戦略として、液体電解質を、Li+イオンの伝導性を有するとともにバッテリパックコストを約20%削減しつつも3~4倍のエネルギー密度を提供可能な固体材料に置き換えた固体電池の開発が挙げられる。これらの魅力的な特徴にもかかわらず、電気自動車などのバルクスケール用途向け固体電池の製造及び試験は行われていない。
【0007】
現在、SOAリチウムイオン電池に用いられている液体電解質は、リチウム金属アノード又は高電圧カソードの使用などの先進電池概念とは馴染まない。さらに、SOAリチウムイオン電池に利用されている液体は可燃性であり、熱暴走すると燃焼を生じやすい。SOAに用いられる液体を置き換えるために固体電解質を用いることによって高度な電池化学が可能となると同時に燃焼のリスクがなくなる。窒素ドープリン酸リチウム(LiPON)又は硫化物系ガラスを含むさまざまな固体電解質が特定されており、これらのタイプの技術を商品化するために会社が設立されてきた。これらのタイプの電池の性能に向けた進展がみられるものの、LiPONは蒸着する必要があり、また硫化物ガラスは環境大気に暴露されると有毒なH2Sを発生することから、大規模製造は行われていない。したがってこれらのシステムは特殊な製造手法を要求する。
【0008】
また、固体状電解質用の超伝導酸化物(SCO)も提案されている。種々の酸化物電解質が文献で報告されてはいるものの、さまざまな基準を同時に満たす必要があることから特定の材料の選択は簡単ではない。SOAリチウムイオン電池技術ベースラインの組み合わせについて以下の指標が特定されている。即ち、(1)SOAリチウムイオン電池技術と同等の、伝導率>0.2mS/cm、(2)無視できる電子伝導率(electronic conductivity)、(3)高電圧カソード及びリチウム金属アノードに対する電子化学的安定性、(4)高温安定性(5)環境大気及び湿気に対する妥当な安定性及び(6)50マイクロメートル未満の厚さで製造が可能であること、である。その後、リチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZO)が、上で概説した固体電解質に必要な基準の全てを満たすことができることが示された。
【0009】
電力性能及び充電時間は、急速充電自動車、医療ハンドツール及び消費者向け電子技術応用において重要な懸案指標である。自動車の急速充電における重要な関心事は、固体電解質が故障せずに高電流密度をサポートする能力である。臨界電流密度(CCD)として知られる故障がみられる電流密度は1~10mA/cm2である必要があり、これは容易ではない。より高い電流密度はより良い電力性能及びより速い充電時間に直接関係する。
【0010】
したがって、自動車用途における固体電池について臨界電流密度を上げる方法が必要である。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、電気化学デバイスの固体状電解質材料とアノードとの間の界面インピーダンスの面積固有抵抗(ASR)が低くなるよう電気化学デバイスを形成及び処理する方法を提供する。
【0012】
一側面において、本開示は、電気化学デバイスを形成するための方法を提供する。この方法は、(a)抵抗性表面領域を有する前駆電解質を提供する工程と、(b)前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前記前駆電解質を加熱する工程であって、これにより固体状電解質を形成する工程と、(c)前記固体状電解質を電極と接触するように配置する工程と、を含むことができる。
【0013】
前記方法において、前記前駆電解質は、LiwAxM2Re3-yOzの化学式を有するセラミック材料を備えることができ、式中、wは、5~7.5であり、Aは、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、xは、0~2であり、Mは、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、Reは、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、yは、0.01~0.75であり、zは、10.875~13.125であり、前記材料は、ガーネット型又はガーネット状の結晶構造を有する。
【0014】
前記方法において、前記前駆電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を含む材料を備えることができる。
【0015】
前記方法において、前記抵抗性表面領域はLiOHを備えることができる。前記方法において、前記抵抗性表面領域はLi2CO3を備えることができる。
【0016】
前記方法において、前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度又は350℃~650℃の間の温度で加熱する工程をさらに含むことができる。結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満、450ohm cm2未満、400ohm cm2未満、350ohm cm2未満、300ohm cm2未満、250ohm cm2未満、200ohm cm2未満、150ohm cm2未満、100ohm cm2未満、75ohm cm2未満、50ohm cm2未満、25ohm cm2未満又は10ohm cm2未満とすることができる。結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、30ohm cm2未満とすることができる。前記方法において、前記(b)の工程は、前記前駆電解質を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程をさらに含むことができる。前記方法において、前記(b)の工程は、前記前駆電解質を無水溶媒の存在下で加熱する工程をさらに含むことができる。前記方法において、前記(c)の工程を、前記(b)の工程後、1秒~90分以内に行うことができる。
【0017】
前記方法において、前記電極はアノードを備えることができる。前記アノードは本質的にリチウム、マグネシウム、ナトリウム又は亜鉛金属から構成することができる。
【0018】
前記方法において、前記(c)の工程は、前記固体状電解質上に界面層を堆積させる工程をさらに含む。前記界面層は、ブロッキング金属、半ブロッキング金属、非ブロッキング金属又はこれらからなる混合物を備えることができる。
【0019】
前記方法において、前記(b)の工程は、前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために、薬剤処理、電解研磨、湿式研磨、アルゴンプラズマエッチング、酸素プラズマ洗浄、アニーリング又は高真空への暴露をさらに含み、これにより固体状電解質を形成する。
【0020】
別の側面において、本開示は、固体状電解質を形成するための方法を提供する。前記方法は、(a)金属の酸化物を備えるとともに抵抗性表面領域を有する前駆電解質を提供する工程と、(b)前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前記前駆電解質を前記金属の融点より高い温度まで加熱する工程であって、これにより固体状電解質を形成する工程と、を含むことができる。前記抵抗性表面領域はLiOHを備えることができる。前記抵抗性表面領域はLi2CO3を備えることができる。
【0021】
前記方法において、前記前駆電解質は、LiwAxM2Re3-yOzの化学式を有するセラミック材料を備えることができ、式中、wは、5~7.5であり、Aは、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、xは、0~2であり、は、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、Reは、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、yは、0.01~0.75であり、zは、10.875~13.125であり、前記材料は、ガーネット型又はガーネット状の結晶構造を有する。
【0022】
前記前駆電解質は、Li7La3Zr2O12を備えることができる。
【0023】
前記方法において、前記前駆電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を含む材料を備えることができる。
【0024】
前記方法において、前記(b)の工程は、350℃~650℃の間の温度で加熱する工程をさらに含むことができる。結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満、450ohm cm2未満、400ohm cm2未満、350ohm cm2未満、300ohm cm2未満、250ohm cm2未満、200ohm cm2未満、150ohm cm2未満、100ohm cm2未満、75ohm cm2未満、50ohm cm2未満、25ohm cm2未満又は10ohm cm2未満とすることができる。前記方法において、前記(b)の工程は、前記前駆電解質を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程をさらに含むことができる。前記方法において、前記(b)の工程は、前記前駆電解質を無水溶媒の存在下で加熱する工程をさらに含むことができる。前記方法において、前記(c)の工程を、前記(b)の工程後、1秒~90分以内に行うことができる。
【0025】
前記方法において、前記電極はアノードを備えることができる。前記アノードは本質的にリチウム金属から構成することができる。
【0026】
別の側面において、本開示は、固体状電解質を形成するための方法を提供する。この方法は、(a)抵抗性表面領域を有する前駆電解質を提供する工程と、(b)前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去する工程と、これにより固体状電解質を形成する工程と、を含み、前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去する工程が、薬剤処理、電解研磨、湿式研磨、アルゴンプラズマエッチング、酸素プラズマ洗浄、アニーリング又は高真空への暴露を含む。前記抵抗性表面領域はLiOHを備えることができる。前記抵抗性表面領域はLi2CO3を備えることができる。
【0027】
前記方法において、前記前駆電解質は、LiwAxM2Re3-yOzの化学式を有するセラミック材料を備えることができ、式中、wは、5~7.5であり、Aは、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、xは、0~2であり、Mは、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、Reは、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、yは、0.01~0.75であり、zは、10.875~13.125であり、前記材料は、ガーネット型又はガーネット状の結晶構造を有する。
【0028】
前記前駆電解質は、Li7La3Zr2O12を備えることができる。
【0029】
前記方法において、前記前駆電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を含む材料を備えることができる。
【0030】
前記方法において、前記(b)の工程は、前記前駆電解質を400℃~600℃の間の温度で加熱する工程をさらに含むことができる。結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満、450ohm cm2未満、400ohm cm2未満、350ohm cm2未満、300ohm cm2未満、250ohm cm2未満、200ohm cm2未満、150ohm cm2未満、100ohm cm2未満、75ohm cm2未満、50ohm cm2未満、25ohm cm2未満又は10ohm cm2未満とすることができる。前記方法において、前記(b)の工程は、前記前駆電解質を無水溶媒の存在下で400℃~600℃の間の温度で加熱する工程をさらに含むことができる。
【0031】
前記方法において、前記電極はアノードを備えることができる。前記アノードは本質的にリチウム金属から構成することができる。
【0032】
別の側面において、本開示は、固体状電解質を形成するための方法を提供する。この方法は、(a)抵抗性表面領域を有する前駆電解質を提供する工程と、(b)研磨によって前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去する工程と、(c)前記前駆電解質を加熱する工程であって、これにより固体状電解質を形成する工程と、を含むことができる。前記抵抗性表面領域はLiOHを備えることができる。前記抵抗性表面領域はLi2CO3を備えることができる。前記方法において、前記電極はアノードを備えることができる。前記アノードは本質的にリチウム金属から構成することができる。
【0033】
前記方法において、前記前駆電解質は、LiwAxM2Re3-yOzの化学式を有するセラミック材料を備えることができ、式中、wは、5~7.5であり、Aは、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、xは、0~2であり、Mは、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、Reは、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、yは、0.01~0.75であり、zは、10.875~13.125であり、前記材料は、ガーネット型又はガーネット状の結晶構造を有する。
【0034】
前記前駆電解質は、Li7La3Zr2O12を備えることができる。
【0035】
前記方法において、前記前駆電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を含む材料を備えることができる。
【0036】
前記方法において、前記(b)の工程は、乾式研磨によって前記抵抗性表面領域の一部を除去する工程を含むことができる。前記方法において、前記(b)の工程は、湿式研磨によって前記抵抗性表面領域の一部を除去する工程を含むことができる。前記方法において、前記(c)の工程は、200℃~500℃の範囲の温度で前記前駆電解質を加熱する工程を含むことができる。
【0037】
結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満、450ohm cm2未満、400ohm cm2未満、350ohm cm2未満、300ohm cm2未満、250ohm cm2未満、200ohm cm2未満、150ohm cm2未満、100ohm cm2未満、75ohm cm2未満、50ohm cm2未満、25ohm cm2未満又は10ohm cm2未満とすることができる。
【0038】
別の側面において、本開示は、カソードと、固体状電解質と、電気化学的に活性な金属を含むアノードと、を備えた電気化学デバイスであって、前記アノードと前記固体状電解質の間の界面抵抗を500ohm cm2未満、450ohm cm2未満、400ohm cm2未満、350ohm cm2未満、300ohm cm2未満、250ohm cm2未満、200ohm cm2未満、150ohm cm2未満、100ohm cm2未満、75ohm cm2未満、50ohm cm2未満、25ohm cm2未満又は10ohm cm2未満とすることができる電気化学デバイスを提供する。前記電気化学的に活性な金属は、リチウム、マグネシウム、ナトリウム又は亜鉛を備えることができる。前記アノードは本質的にリチウム金属から構成することができる。前記カソードはリチウム母材を備えることができ、前記リチウム母材は、リチウム金属酸化物であって、前記金属がアルミニウム、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル及びバナジウムのうちの1以上であるリチウム金属酸化物と、一般式がLiMPO4であるリチウム含有リン酸塩であって、式中、Mが、コバルト、鉄、マンガン及びニッケルのうちの1以上であるリチウム含有リン酸塩と、からなるグループから選択される。前記リチウム母材は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなるグループから選択することができる。
【0039】
前記電気化学デバイスにおいて、前記固体状電解質は、LiwAxM2Re3-yOzの化学式を有するセラミック材料を備えることができ、式中、wは、5~7.5であり、Aは、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、xは、0~2であり、Mは、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、Reは、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、yは、0.01~0.75であり、zは、10.875~13.125であり、前記材料は、ガーネット型又はガーネット状の結晶構造を有する。
【0040】
前記電気化学デバイスにおいて、前記固体状電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を含む材料を備えることができる。
【0041】
本発明の上記の及び他の側面及び利点は以下の説明から明らかとなる。以下の説明は、本明細書の一部を構成するとともに本発明の好ましい実施形態を例示する添付の図面を参照してなされている。しかしながらそのような実施形態は必ずしも本発明の全範囲を表すものではなく、したがって本発明の範囲は特許請求の範囲及び本明細書を参照して解釈されるべきである。
【0042】
本発明についての以下の詳細な説明を検討すれば、本発明がより良く理解されるであろうし、また上記以外の特徴、側面及び利点が明らかとなるであろう。そのような詳細な説明は図面を参照してなされている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図2】アノードと固体状電解質の間の界面コーティングを有するリチウム金属電池の概略図である。
【
図3】本開示の種々の側面に係るリチウム金属アノードと固体状電解質の間の界面抵抗のバリエーションを示す。
【
図4】本開示の一部の側面に係る、異なる熱処理温度でのリチウム金属アノードと固体状電解質の間の界面抵抗のバリエーションを示す。リチウム金属アノードと固体状電解質の間の未処理かつ非コーティングの界面抵抗は、5,000~10,000ohm cm
2から開始した。
【
図5】400℃~500℃での熱処理の前後のLLZOのX線光電子分光法(XPS)分析を示す。(a)は、熱処理温度の関数としてのC:(La+Zr)原子比率を示す。(b)は、O 1sコアレベルを示す。(c)は、C 1sコアレベルを示す。(d)は、湿式研磨(WP)後の熱処理温度の関数としてのLLZO表面上の異なる酸素種の全組成における比率を示す。
【
図6】(a)は全固体Li-LLZO-Liセルの概略図である。(b)は電気化学的インピーダンス分光法(EIS)のモデル化に用いられた等価回路を示す。(c)は、Li-LLZO-Liセル(LLZOは500℃で熱処理された)の代表的なナイキスト線図であり、組み立て状態(〇)及び175℃での前調整後(●)のものが示されており、マーカーは実験データを示し、点線は(b)に示す回路を用いた等価回路モデルシミュレーションを表す。(d)は、熱処理温度に対する175℃での前調整後のLi-LLZO界面抵抗を示す。各熱処理条件についてN=3であり、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図7】(a)は、室温でのLi-LLZO-Liセル(LLZOはWP後に500℃で熱処理された)のDCサイクリングを示し、電流密度を0.01~1mA cm
-2で段階的とした。(b)は、Li-LLZO界面抵抗に対する臨界電流密度であり、本開示の結果と文献(Buschmannら著、「高速イオン伝導体Li
7La
3Zr
2O
12の構造及びダイナミクス」、Phys.Chem.Chem.Phys.2011年、13、19378~19392頁;Sharafiら著、「温度及び電流密度の関数としてのLi-Li
7La
3Zr
2O
12界面安定性及び化学反応キネティクスの特性化」,J.Power Sources,2016年、302、135~139頁;Chengら著、「表面微細構造によるガーネット固体電解質の電気化学性能への影響」、ACS Appl.Mater.Interfaces、2015年、7、2073~2081頁)から知り得た他の研究と比較している。(c)は、100回のサイクルがなされたセルについて、各20サイクル後のLi-LLZO-Liのナイキスト線図である。(d)は、0.4mAh cm
-2で、100サイクルについて0.2mA cm
-2でLi-LLZO-Liの定電流サイクリングを示す。点線はEISを収集した時間を示すものであり、(d)に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の実施形態について詳しく説明する前に、本発明は、適用において、以下の説明に記載の又は添付の図面に示した構成の詳細及び部品の配置に限定されないことは理解されるべきである。本発明は、他の実施形態も可能であり、種々の形で実施又は実行可能である。また、本明細書で用いられる表現及び用語は説明を目的としたものであり限定とみなすべきでないことは理解されるべきである。本明細書に記載の「含む」、「備える」又は「有する」及びこれらのバリエーションの使用は、これより前に記載されたアイテム、それと同等な物及び追加のアイテムを包含することを意味する。
【0045】
以下の議論は、当業者による本発明の実施形態の作成及び使用を可能とするために示されている。示された実施形態に対する種々の変更は当業者にすぐ明らかとなるであろうし、本明細書の全体的な原理は本発明の実施形態から逸脱することなく他の実施形態及び応用に適応可能である。したがって、本発明の実施形態は示された実施形態に限定されることは意図しておらず、本明細書に開示された原理及び特徴と一貫した最も広い範囲が与えられるべきである。当業者は、本明細書に示された例が多くの有用な代替を有するとともに本発明の実施形態の範囲内であることを認識するであろう。
【0046】
本明細書に記載の種々の実施形態は、固体状電解質とリチウム金属アノードとの間に界面層を形成するための方法を提供する。介在層は、界面における面積固有抵抗を減少させることで臨界電流密度を高めるために、固体状電解質とリチウム金属アノードとの間に位置する電子伝導性層を含む。
【0047】
本明細書で用いられる「固体電解質」との用語は、複合電極のイオン伝導率を上げるように作用する相を指すことができる。
【0048】
本明細書で用いられる「臨界電流密度(CCD)」との用語は、故障がみられる前の固体電解質がサポートできる電流密度を指すことができる。
【0049】
本明細書で用いられる「面積固有抵抗(ASR)」との用語は、あらゆる部品の面積固有抵抗を指すことができるが、通常は、金属アノードと固体電解質界面の間の抵抗を定義するのに用いられる。
【0050】
本明細書で用いられる「ブロッキング」との用語は、熱力学的相図によって定義される十分に低いリチウム溶解性を有する材料を指すことができ、このような材料はリチウムと反応しないと考えることができる。
【0051】
本明細書で用いられる「半ブロッキング」との用語は、熱力学的相図によって定義される中程度に低いリチウム溶解性を有する材料を指すことができ、このような材料はリチウムと反応しないと考えることができる。
【0052】
本明細書で用いられる「非ブロッキング」との用語は、熱力学的相図によって定義される高いリチウム溶解性を有する材料を指すことができ、このような材料はリチウムと合金化反応すると考えることができる。
【0053】
本明細書で用いられる「変換相」との用語は、ブロッキング、半ブロッキング又は非ブロッキング金属伝導性被覆を形成するために化学又は電子化学反応還元反応によって変換される材料を指すことができる。
【0054】
本明細書で用いられる「金属」との用語は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイド、遷移金属、ポスト遷移金属、半金属及びセレンを指すことができる。
【0055】
現在、Li7La3Zr2O12(LLZO)などのガーネット相電解質が、高いリチウムイオン伝導率、無視できる電子伝導率、高温安定性、環境大気における妥当な安定性並びに高電圧カソード及びリチウム金属アノードに対する電子化学的安定性を有することが示されている。しかしながら、ガーネット相電解質は、固体状電解質の表面上における抵抗種の形成の影響を受けやすく、故にアノードと固体状電解質との間のインピーダンスが高くなる。これらの抵抗種は低臨界電流密度(CCD)にも寄与し、マイナスの性能となる。
【0056】
これまでの基礎研究により、面積固有抵抗(ASR)が温度に応じてどのように臨界電流密度(CCD)に影響するかが示されている。Sharafiら著、「温度及び電流密度の関数としてのLi-Li7La3Zr2O12界面安定性及び化学反応キネティクスの特性化」,Journal of Power Sources,302(2016年):135~139頁参照。CCDをコントロールする因子の1つは、リチウムアノードと固体状電解質との間の界面ASRである。ASR値が低い程CCDが高くなり、このことは妥当な電力レベルでバルクスケールの固体電池を動作させることにおいて有益である。したがって、ASRを減少させることでCCDを高める方法は、技術に付加価値を与える。
【0057】
ASRを増大させ得る要因の1つは、環境大気に暴露されたときにガーネット相の表面上に形成される抵抗種の形成である。一部の例では、以下の反応に基づいて、大気からの湿気がLLZOガーネットと反応してLiOHを形成することができる。
【0058】
【0059】
LiOHは、ガーネットの表面上に形成された後、Li2CO3などの別の抵抗種を形成するために大気中のCO2をゲッター即ち吸収することができる。一部の例では、この反応は以下の反応のうちの1つに基づいて起こる。
【0060】
【0061】
環境大気暴露による固体状電解質の表面上でのLiOH及びLi2CO3の自発的形成により、固体リチウム金属電池の製造プロセスが困難となっている。製造を簡素化して製造コストを削減するために環境大気中での製造が可能なプロセスが望ましい。抵抗種の機械的除去によってASRが減少することが示されているが、抵抗種の機械的除去は製造環境には適していない。また、固体状電解質の表面を酸で処理することで抵抗種の除去を行うことができることが知られている。しかしながら、このアプローチは電気化学デバイスの性能に関しマイナスの結果をもたらす。
【0062】
本明細書に記載された一実施形態は、抵抗種を除去することによって固体状電解質とアノードとの間の界面でASRを減少させる方法に関する。1つの非限定的かつ例示的な応用では、
図1に示すように、固体状電解質116をリチウム金属電池110に用いることができる。リチウム金属電池110は、カソード114と接触する電流コレクタ112(例えばアルミニウム)を含む。固体状電解質116は、カソード114と、電流コレクタ122(例えばアルミニウム)と接触するアノード118と、の間に配される。リチウムイオン電池10の電流コレクタ112及び122は、電気部品124と電気的に導通してもよい。電気部品124は、リチウム金属電池110を、電池を放電させる電気負荷又は電池を充電する充電器と電気的に導通させることができる。
【0063】
第1電流コレクタ112及び第2電流コレクタ122は導電性金属又はあらゆる適切な導電性材料を備えることができる。一部の実施形態では、第1電流コレクタ112及び第2電流コレクタ122は、アルミニウム、ニッケル、銅並びにこれらの組み合わせ及び合金を含む。他の実施形態では、第1電流コレクタ112及び第2電流コレクタ122は、厚さが0.1マイクロメートル以上である。
図1で描かれている厚さはスケール用ではないことは理解されるべきであるし、また第1電流コレクタ112及び第2電流コレクタ122の厚さは異なってもよいことは理解されるべきである。
【0064】
リチウム金属電池110のカソード114についての適切な活物質は、リチウムイオンを貯蔵しその後放出することが可能なリチウム母材である。例示的なカソード活物質はリチウム金属酸化物であり、前記金属はアルミニウム、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル及びバナジウムのうちの1以上である。非限定的かつ例示的なリチウム金属酸化物は、LiCoO2(LCO)、LiFeO2、LiMnO2(LMO)、LiMn2O4、LiNiO2(LNO)、LiNixCoyO2、LiMnxCoyO2、LiMnxNiyO2、LiMnxNiyO4、LiNixCoyAlzO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2及びその他である。カソード活物質の別の例は、リン酸鉄リチウム(LFP)及びフルオロリン酸鉄リチウムなどの一般式がLiMPO4であるリチウム含有リン酸塩(Mは、コバルト、鉄、マンガン及びニッケルのうちの1以上である)である。電子伝導率、層の順序、脱リチウム化の安定性及びカソード材料のサイクル特性に影響を与えるために、Co,Mn,Ni,Cr,Al又はLiなどの多くの異なる元素を構造内に代入又は追加してもよい。カソード活物質は、任意の数のこれらのカソード活物質の足し合わせでもよい。
【0065】
一部の実施形態では、リチウム金属電池110のアノード118についての適切な活物質は、リチウム金属から構成される。他の実施形態では、例示的なアノード118の材料は本質的にリチウム金属から構成される。あるいは、適切なアノード118は本質的にマグネシウム、ナトリウム又は亜鉛金属から構成される。
【0066】
リチウム金属電池110のための例示的な固体状電解質116の材料は、LiuRevMwAxOyの化学式を有する電解質材料を含み、ここで、Reは、La,Nd,Pr,Pm,Sm,Sc,Eu,Gd,Tb,Dy,Y,Ho,Er,Tm,Yb及びLuを含む、原子価(nominal valance)が+3価である元素のあらゆる組み合わせとすることができ、Mは、Zr,Ta,Nb,Sb,W,Hf,Sn,Ti,V,Bi,Ge及びSiを含む、原子価が+3価、+4価、+5価又は+6価である金属のあらゆる組み合わせとすることができ、Aは、H,Na,K,Rb,Cs,Ba,Sr,Ca,Mg,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Al,B及びMnを含む、原子価が+1価、+2価、+3価又は+4価であるドーパント原子のあらゆる組み合わせとすることができ、uは3~7.5の範囲でさまざまであり、vは0~3の範囲でさまざまであり、wは0~2の範囲でさまざまであり、yは11~12.5の範囲でさまざまである。
【0067】
リチウム金属電池110の固体状電解質116材料としてLi7La3Zr2O12(LLZO)材料を用いることは有益である。
【0068】
別の例示的な固体状電解質116は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を含むことができる。リチウム金属電池110の固体状電解質116は、電子伝導率が無視でき高電圧カソード及びリチウム金属アノードに対して電気化学的に安定なものであれば、イオンを貯蔵又はアノードとカソードとの間で移送できるあらゆる固体状材料を含むことができる。
【0069】
図2は、本開示の一実施形態に係る界面層218を含むリチウム金属電池210の非限定的かつ例示的な応用を示す。界面層218は、印加された電流の密度を均一化することで、固体状電解質216とアノード220の間のASRを減少させることを助ける。リチウム金属電池210は、カソード214と接触する第1電流コレクタ212(即ちアルミニウム)をも含む。固体状電解質216は、カソード214と界面層218の間に配置されている。界面層218は、固体状電解質216と、第2電流コレクタ222(即ち銅)と接触するアノード220との間に配置されている。リチウム金属電池210の第1電流コレクタ212及び第2電流コレクタ222は電気部品224と電気的に導通してもよい。電気部品224によって、リチウム金属電池210が、電池を放電させる電気負荷又は電池を充電する充電器と電気的に導通できる。
【0070】
一部の実施形態では、適切な第1電流コレクタ212及び第2電流コレクタ222は、上記したあらゆる導電性材料を備えてもよい。リチウム金属電池210のカソード214に適する活物質は、上記したリチウム母材のうちの1以上である。リチウム金属電池210のアノード218に適する活物質は、上記した材料のうちの1以上とすることができる。リチウム金属電池210の固体状電解質216に適する固体状電解質材料は、上記した固体状電解質材料のうちの1以上である。
【0071】
一部の実施形態では、適切な界面層218はあらゆる電子伝導性の相を備えてもよい。これらの相は金属、セラミックス又は高分子材料を含むことができる。他の非限定的な例では、界面層218は、非ブロッキング金属、半ブロッキング金属、ブロッキング金属及びこれらからなる混合物を備えてもよい。一部の側面では、界面層218は、固体状電解質216の第1電子伝導性よりも高い第2電子伝導性を有する。LLZO材料は固体状電解質21として使用するのに有益であり、電子伝導率が2×10-8S/cmであると報告されている。Ezhiyl Rangasamy、Jeff Wolfenstine及びJeffrey Sakamoto著、「組成式Li7La3Zr2O12の立方晶ガーネット型固体電解質の形成におけるAl及びLi濃度の役割」、Solid State Ionics、206(2012年)28参照。
【0072】
一部の側面では、界面層218の第2電子伝導率は1×10-7S/cmよりも大きく、又は1×10-6S/cmよりも大きく、又は1×10-5S/cmよりも大きく、又は1×10-4S/cmよりも大きく、又は1×10-3S/cmよりも大きく、又は1×10-2S/cmよりも大きく、又は1×10-1S/cmよりも大きい。
【0073】
本開示の他の非限定的な例では、界面層218は、アルミニウム、鉛、亜鉛、インジウム、ガリウム、マグネシウム、シリカ、ビスマス及びこれらの組み合わせなどの非ブロッキング金属を含む。界面層218は、金、銀、プラチナ、銅、クロム、鉄、コバルト、鋼、ステンレス鋼及びこれらの組み合わせなどの半ブロッキング金属も含んでもよい。他の例では、界面層218は、ニッケル、モリブデン及びチタンなどのブロッキング金属を含む。加えて、ブロッキング、半ブロッキング及び/又は非ブロッキング金属のあらゆる合金又は組み合わせを用いてもよい。
【0074】
一部の実施形態では、界面層218は、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(パラフェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(パラフェニレンスルフィド)、これらの共重合体及びこれらからなる混合物などのあらゆる電子伝導性の高分子材料を含む。
【0075】
本開示の一部の非限定的な例では、界面層218はあらゆる電子伝導性セラミックを含む。電子伝導性セラミックは、酸化亜鉛、アルミニウム、ガリウム又はインジウムドープ酸化亜鉛、フッ素ドープ酸化スズ、インジウム酸化スズ、インジウムドープカドミウム酸化物、グラフェン、カーボンナノチューブ、非晶質炭素、バナジウム酸化物、炭化ケイ素、窒化チタン、炭化タンタル、ランタンドープチタン酸ストロンチウム及びランタンドープチタン酸バリウムなどの1以上の金属酸化物を含むことができる。
【0076】
また、本開示は、電気化学デバイスを形成し、その後、抵抗種を除去してASRを減少させるために固体状電解質116の表面を処理する方法も提供する。前記方法は、抵抗性表面領域(resistive surface region)を有する前駆電解質を提供する工程を含む。適切な前駆電解質は、上記した固体状電解質材料のうちの1以上である。一部の実施形態では、抵抗性表面領域は、前駆電解質の表面上に形成される薄膜である。一部の実施形態では、抵抗性表面領域は、LiOH又はLi2CO3などの抵抗種を含むが、界面における全体抵抗に寄与するあらゆる抵抗種を含むことができる。また、前記方法は、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程であって、これにより固体状電解質116を形成する工程も含む。固体状電解質116は次に電極と接触するように配置される。一部の実施形態では、電極はアノード118である。
【0077】
一部の実施形態では、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程は、180℃よりも高い温度、200℃よりも高い温度、250℃よりも高い温度、300℃よりも高い温度、350℃よりも高い温度、400℃よりも高い温度、450℃よりも高い温度、500℃よりも高い温度、550℃よりも高い温度、600℃よりも高い温度、650℃よりも高い温度、700℃よりも高い温度、750℃よりも高い温度、800℃よりも高い温度、850℃よりも高い温度、900℃よりも高い温度、950℃よりも高い温度又は1000℃よりも高い温度で行われる。抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程は、あらゆる時間行うことができ、大気圧以上又は以下を含むあらゆる圧力下で行うことができる。
【0078】
一部の実施形態では、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程は、抵抗性表面領域の0.1%~99.9%を除去する工程を含む。一部の実施形態では、前駆電解質を加熱する工程によって、抵抗性表面領域の5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上又は95%以上が除去される。
【0079】
一部の実施形態では、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程により、アノード118と固体状電解質116との間の界面抵抗が500ohm cm2より小さい電気化学デバイス110が得られる。他の実施形態では、アノードと固体状電解質116との間の界面抵抗は450ohm cm2より小さく、又は400ohm cm2より小さく、又は350ohm cm2より小さく、又は300ohm cm2より小さく、又は250ohm cm2より小さく、又は200ohm cm2より小さく、又は150ohm cm2より小さく、又は100ohm cm2より小さく、又は75ohm cm2より小さく、又は50ohm cm2より小さく、又は25ohm cm2より小さく、又は10ohm cm2より小さい。
【0080】
一部の実施形態では、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程は、環境大気中で行われる。他の実施形態では、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程は、湿気又はCO2が存在しない雰囲気中で加熱することで行われる。一部の実施形態では、雰囲気は不活性ガスを含む。適切な不活性ガスは、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトン、ラドン及び窒素を含む。一部の実施形態では、準酸素流下で汚染層が除去される。他の実施形態では、雰囲気は無水溶媒を含む。適切な無水溶媒は、エタノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン及びトルエンを含むがこれらに限定されない。
【0081】
一部の実施形態では、界面を形成するために固体状電解質116を電極と接触させて配置する前に、最初に、加熱する工程を湿気又はCO2の存在しない雰囲気中で実行することができる。その後、固体状電解質116を、移動中、界面を形成する前に、CO2を含む雰囲気にある期間露出させることができる。一部の実施形態では、期間は1秒未満~1日未満の間である。一部の実施形態では、期間は、1秒未満、10秒未満、20秒未満、30秒未満、40秒未満、50秒未満、60秒未満又は90秒未満である。他の実施形態では、期間は、5分未満、30分未満又は60分未満である。一部の実施形態では、期間は、5時間未満、10時間未満、15時間未満、20時間未満又は24時間未満である。
【0082】
一部の実施形態では、処理された固体状電解質218を電極に接触させる前に、界面層218を固体状電解質216上に堆積させてもよい。適切な界面層218は、上記した界面層のうちの1以上を含む。一部の実施形態では、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去する工程は、薬剤処理、電解研磨、湿式研磨、アルゴンプラズマエッチング、酸素プラズマ洗浄、アニーリング、機械研磨又は高真空への暴露を含む。上記の工程は、各々、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために、単独で、組み合わせて又は順番で実行することができる。加えて、これらの工程を、各々、加熱処理と順番で又は組み合わせて用いることができる。
【0083】
一部の実施形態では、上記のあらゆる方法を用いて前駆電解質上の抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去する工程によって、アノード218と固体状電解質216との間の界面抵抗が500ohm cm2未満の電気化学デバイス210が得られる。他の実施形態では、アノードと固体状電解質116との間の界面抵抗は450ohm cm2より小さく、又は400ohm cm2より小さく、又は350ohm cm2より小さく、又は300ohm cm2より小さく、又は250ohm cm2より小さく、又は200ohm cm2より小さく、又は150ohm cm2より小さく、又は100ohm cm2より小さく、又は75ohm cm2より小さく、又は50ohm cm2より小さく、又は25ohm cm2より小さく、又は10ohm cm2より小さい。
【0084】
また、本開示は、抵抗性表面領域のほぼない固体状電解質116を形成することにも関する。方法は、最初に金属酸化物を備える前駆電解質を提供する工程を含み、ここで前駆電解質は抵抗性表面領域を含むものである。一実施形態では、前駆電解質の酸化物材料は、LiwAxM2Re3-yOzの化学式を有し、ここで「Ax」、「M」及び「Re」は金属である。一部の実施形態では、「Ax」は、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択される。一部の実施形態では、xは0~2の間である。他の実施形態では、「M」はZr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせである。一部の実施形態では、「Re3-y」は、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択される。一部の実施形態では、yは0.01~0.75の間である。一部の実施形態では、前駆電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を含む材料を備えることができる。
【0085】
<例>
以下の例は、本発明の特定の実施形態及び側面を示すとともにさらに説明するために記載されるものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0086】
<例1>
図3は、本開示の種々の側面と一致した種々の処理方法についての固体状電解質116とアノード118の間の界面抵抗の比較を示す。特に、
図3は、熱処理、界面層218でコーティング、熱処理及び界面層218でコーティング並びに機械研磨などの処理方法を比較している。
【0087】
例1では、組成式Li6.25La3Zr2Al0.25O12のガーネット型材料が固体状電解質材料として用いられた。Li6.25La3Zr2Al0.25O12(LLZO)は、固体合成法を用いて準備することができる(E.Rangasamy、J.Wolfenstine、J.Sakamoto著、Solid State Ion.、206(2012年)28~32頁参照)。
【0088】
比較例(
図3で「ベースライン」と示される)として、LLZOの表面から汚染層を機械的に除去するために、ドライルーム内のアルゴン充填グローブボックス内における溶剤不使用のLLZOの研磨が行なわれた(Sharafiら著、「温度及び電流密度の関数としてのLi-Li
7La
3Zr
2O
12界面安定性及び化学反応キネティクスの特性化」、Journal of Power Sources、302(2016年)135~139頁、及びOhtaら著、「ガーネット型酸化物型電解質を含む全固体リチウムイオン電池の電気化学性能」、Journal of Power Sources、202(2012年)332~335頁参照)。
【0089】
別の比較例(
図3で「処理なし」と示される)として、LLZOに対して処理は行わなかった。
【0090】
あるテスト手順(
図3で「熱処理」と示される)において、LLZOを400℃で1時間加熱した。
【0091】
別のテスト手順(
図3で「界面層でコーティング」と示される)において、界面層として金をLLZO上にスパッタコーティングした。
【0092】
別のテスト手順(
図3で「熱処理+界面層でコーティング」と示される)において、LLZOを400℃で1時間加熱し、次に界面層として金をLLZO上にスパッタコーティングした。
【0093】
別のテスト手順(
図3で「機械研磨」と示される)において、LLZOの表面から汚染層を機械的に除去するために、LLZOの研磨を行った。
【0094】
例1に記載したように処理した又は処理しなかったLLZOを2つのリチウム電極間に配置することにより、固体対称セルが組み立てられた。面積当たりで規格化されたLi-LLZO界面抵抗が特性化されて
図3に示されている。
【0095】
<例2>
図4は、本開示の種々の側面と一致した種々の処理方法についての固体状電解質116とアノード118の間の界面抵抗の比較を示す。特に、
図4は、異なる熱処理温度及び界面層218の有無による固体状電解質116とアノード118の間の界面抵抗を比較している。スタート材の処理されていないかつコーティングされていない界面抵抗は、5000~10000ohm cm
2であった。
【0096】
例2では、組成式Li6.25La3Zr2Al0.25O12のガーネット型材料が固体電解質として用いられた。Li6.25La3Zr2Al0.25O12(LLZO)は、固体合成法を用いて準備することができる(E.Rangasamy、J.Wolfenstine、J.Sakamoto著、Solid State Ion.、206(2012年)28~32頁参照)。
【0097】
あるテスト手順(
図4で「400Cで熱処理」と示される)において、LLZOを400℃で3時間加熱した。
【0098】
別のテスト手順(
図4で「400Cで熱処理-コーティング」と示される)において、LLZOを400℃で3時間加熱し、次に界面層として金をLLZO上にスパッタコーティングした。
【0099】
別のテスト手順(
図4で「500Cで熱処理」と示される)において、LLZOを500℃で3時間加熱した。
【0100】
別のテスト手順(
図4で「500Cで熱処理-コーティング」と示される)において、LLZOを500℃で3時間加熱し、次に界面層として金をLLZO上にスパッタコーティングした。
【0101】
別のテスト手順(
図4で「600Cで熱処理」と示される)において、LLZOを600℃で3時間加熱した。
【0102】
別のテスト手順(
図4で「600Cで熱処理-コーティング」と示される)において、LLZOを600℃で3時間加熱し、次に界面層として金をLLZO上にスパッタコーティングした。
【0103】
例2に記載したように処理した又は処理しなかったLLZOを2つのリチウム電極間に配置することにより、固体対称セルが組み立てられた。面積当たりで規格化されたLi-LLZO界面抵抗が特性化されて
図4に示されている。
【0104】
<例3>
Li7La3Zr2O12(LLZO)固体状電解質と金属リチウム(Li)電極との間の界面抵抗への表面化学の影響について、この例で検証した。表面化学をコントロールすることによって、層間コーティングを必要とせずに、界面抵抗が、液体電解質の界面抵抗よりも低い2Ωcm2まで減少する。Li2CO3及びLiOHは、Liの濡れ性を低くして界面抵抗を高くする。このメカニズムに基づき、これらの表面層を除去するための手順が示され、これによってLiの濡れ性が大幅に増大し略全ての界面抵抗が無くなる。低界面抵抗は100サイクル以上にわたって維持され、高エネルギー及び電力密度固体電池を達成する道を示唆している。
【0105】
この例において、我々は固体電池の固体-固体界面における表面化学と電気化学性能の間の相互作用の機械論的理解を提供する。この理解によって低抵抗界面の設計のためのデザインルールがもたらされる。したがって、我々は、LLZOの表面化学を変更するためにコーティングを用いないプロセスを介してLi-LLZO界面抵抗をほぼ無くす(2Ωcm2)ことができることを示す。
【0106】
この例は、表面化学と容易な電荷輸送との間の関係を定量的に示す。この理解をもって、我々は、表面化学のコントロールによって実行可能な固体電池への道が開けることを示す。
【0107】
<例3:実験セクション>
LLZO試料の準備
Sharafi,A.;Yu,S.;Naguib,M.;Lee,M.;Ma,C.;Meyer,H.M.;Nanda,J.;Chi,M.;Siegel,D.J.;Sakamoto,J.著、「大気暴露及び表面化学のLi-Li7La3Zr2O12界面抵抗への影響」、J.Mater.Chem.A、2017年、5、13475~13478頁に記載の固体合成法を用いて、組成式Li6.25Al0.25La3Zr2O12の立方晶AlドープLLZOを準備した。>97%の相対密度を達成するために、アルゴンシールドガス下でグラファイト金型内で、カスタム急速導入ホットプレス(RIHP)を用いて1100℃及び62MPaで1時間、仮焼粉体を高密度化した。低速ダイヤモンド鋸を用いて各サンプルを1±0.2mmのディスクに切断した。平行な面を得るためにディスクを400グリットのSiC研磨紙を用いて大気中で乾式研磨した。
【0108】
表面調整
乾式研磨(DP)、湿式研磨(WP)及び熱処理(HT)を含む種々の表面調整プロセスが用いられた。DPについては、LLZOサンプルを、大気中で研磨液を用いずに、400、600及び1200グリット研磨紙(Norton社製)を用いて手で研磨した。WPについては、自動研磨機(EcoMet300Pro、Buehler社製)が用いられた。最初に、1200研磨紙(Norton社製)を用いてLLZOサンプルを磨いた。磨いた後、研磨液としてのグリコール系ダイヤモンドペースト延長剤とダイヤモンド研磨剤を含むTechnotron研磨布(Leco社製)上で研磨された。ダイヤモンド研磨剤の順序は、15、6、1から0.5μmの範囲である。各ダイヤモンド研磨剤の後、残存研磨液を表面から除去するためにサンプルをエタノールですすいだ。研磨の直後にサンプルをアルゴン充填グローブボックスに移動させた。熱処理(HT)は、サンプルをMgOボートに置き、マッフル炉(MTI社製)内で180分間、4℃min-1の加熱及び冷却速度で、100℃間隔で200℃~500℃の間の温度まで加熱することで行われた。
【0109】
表面化学特性化
全てのXPS実験についてKratos Axis Ultraが用いられた。サンプルを大気非暴露でXPSツール内に輸送するためにカスタムOリング密閉気密輸送装置が用いられた。測定スキャンは、パスエネルギー160eVを用い、CasaXPSでのLa 3d、Zr 3p、C 1s、O 1s及びLi 1sのピークについてShirleyバックグランド及びKratos感度因子を用いて定量化された。コアスキャンは、パスエネルギー20eVを用い、C-C結合エネルギーを284.8eVとしてエネルギー較正された。O 1sピークについて、531.1eVにおけるLiOH、532eVにおけるLi2CO3及び528.6~529eVにおける酸化物種の3つの種を用いてフィッティングした。C 1sピークは、スペクトルを較正するために用いられた284.8eVにおける外来性炭素、~286eVにおけるC-O、289eVにおけるO-C=O及び290eVにおけるLi2CO3の4つの種を用いてフィッティングした。
【0110】
電気化学的測定
R
Li-LLZOへの熱処理の影響及び最大臨界電流密度(CCD)を決定する為に電気化学的測定が行われた。金属Li電極は、きれいな表面を露出させるためにステンレス鋼スパチュラを用いて削ることによって準備された。Li-LLZO-Liセルは、サイクリング中に、一定の350kPaの一軸圧力の下で圧縮された。組み立て後、対象セルに対して、VMP-300バイオロジック及びEC-Lab V11.02ソフトウェアを用いて、7MHz~1Hzの周波数範囲で100mVの振幅を用いてEIS測定を行った。金属LiとLLZOの間の接触を良好にするために、セルを12時間175℃に加熱した(調整前工程)。室温まで冷却させた後、再度EISによって、セル抵抗の変化をR
Li-LLZOに着目して測定した。最初に、LiとLLZOの間の接触面積(面積=1.26cm
2)について全スペクトルが規格化された。次に、データの解釈の為に等価回路モデルが用いられた。EISデータは、
図6(b)に示される等価回路モデルを用いてモデル化された。このモデルでは、セル内の各輸送現象を表すためにレジスタとキャパシタの並列の組み合わせが用いられた。したがって、モデルにおいて、バルク(R
bulk)、粒界(R
gb)及びLi-LLZO界面(R
Li-LLZO)を表す3つの並列の組み合わせが用いられた。あらゆる非理想的なふるまい及び時定数における拡散を説明するために、理想キャパシタは一定相要素(CPE)で置き換えられた。CPEの理想因子はαで表される(α=1は部品が理想キャパシタとして含まっていることを示す)。CPEのQ値は、バルク、粒界及びLi-LLZO界面について、それぞれ10
-12、10
-8、10
-6Fのオーダーであるべきである。
【0111】
CCD(セル電圧が0Vに低下した際の電流密度)を決定する為に、0.01~1mAcm-2の間で、室温にて、Li-LLZO-Li対称セルのサイクリングにおけるふるまい(cycling behavior)を測定した。サイクリングは、短絡の証拠が観測され分極電圧の急激な低下の特徴として現れるまで続けられた。LLZOのサイクリングにおけるふるまいを調べるために、Li-LLZO-Liセルについて、±0.2mAcm-2で定電流でサイクリングを行った。電気化学的繰り返し(electrochemical cycling)のセルインピーダンス及びその安定性への影響を評価するために、セルにおけるサイクリング中に、セルのインピーダンスを20サイクル毎に測定した。例3の研究において、再現性を保証するために全ての試験が3回繰り返された。
【0112】
<例3:結果及び検討>
表面化学分析
LLZOの表面化学は大気暴露による影響を受けやすい。汚染層は、すぐに形成されるものであるとともに、主に炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)及び他の外来性炭素種からなり、これらが共同でLLZOと金属リチウムの間の高界面抵抗をもたらす。不活性雰囲気中における乾式研磨により表面を部分的にきれいにすることで界面抵抗を減少させることができるが、このアプローチの有効性は、~1000Ωcm2から~100Ωcm2まで界面抵抗を減少させるに留まる。例3では、乾式研磨(DP)、湿式研磨(WP)及び熱処理(HT)を含む種々の表面調整プロトコルが界面抵抗を減少させるために採用され、これらのLLZO表面化学への影響が評価された。乾式及び湿式研磨後、200℃~500℃の間の熱処理が不活性雰囲気中で実行された。
【0113】
各調整プロトコルの後、X線光電子分光法を用いてLLZOの表面化学が分析された(
図5参照)。アルゴン充填グローブボックスと超高真空XPSチャンバの間を大気非暴露で輸送されたサンプルに対して測定を行った。
図5(a)は、DP又はWP(HTなし)で調整されたサンプルにおいて、La及びZrに起因するほぼ全ての信号が表面層によってブロックされることを示す。これらのケースでは、表面層は全体的にほぼH、Li、C及びO(Hの量はXPSによって直接検出できないが、ヒドロキシル基結合(hydroxyl bonds)として観測される)から構成されている。これらの種粒子が携わる結合の特性は高分解能コアスキャンにより調べることができる。O 1sピークから、湿式研磨後と乾式研磨後とで表面層に大きな違いがあることが明らかとなった(
図5(b)参照)。WP表面は主に水酸化物種から構成され、一方でDPサンプル上にはより高濃度の炭酸塩種が存在する。このことは研磨液の使用によってLLZO表面が炭酸塩種の再形成から保護されることを示唆する。
【0114】
熱処理(HT)が施されたサンプルは、まず研磨され(DP又はWP、環境大気中)、その後すぐにアルゴン充填グローブボックス内に輸送され、この中で異なる温度まで加熱された。後続のXPS分析により、これらのサンプルの表面化学に大きなばらつきがあることが示された。
図5(a)において、LaとZrを足し合わせた量に対するCの量の比率のプロットが表面汚染量の定量化の基準として用いられた。比率が低いほど、表面がバルクLLZOとより似ている。HT後にアルゴン雰囲気中に保管され続けたサンプルであってさえも、いくらかの外来性炭素は常にLLZO表面上で観測される(
図5(c)参照)。汚染量は400℃~500℃まで加熱した後に大幅に減少することが観測された。このことは、加熱前は水酸化物及び炭酸塩が主であった表面が加熱後には(バルクLLZOで予想されるように)主に酸化物種に変換されたことを示すこれらのサンプルについてのO 1sコアスキャン(
図5(b)参照)とも一致する。これに対し、DPサンプルを400℃まで加熱しても表面は大きく変化せず、依然として炭酸塩種が支配的であった。
図5(d)は、異なる温度まで加熱されたWPサンプルについて、酸素含有種の割合表面組成のプロットを示す。HT温度が500℃まで上がるにつれて、酸化物の割合がだんだんと増大し、水酸化物の割合が減少し、そして炭酸塩の量はおよそ一定のままである。全体として、これらの観測結果は、1)乾式研磨と比べて湿式研磨は、炭酸塩含量がより低い表面を得る点でより有効であること、2)500℃までの熱処理によってLiOHを除去することができるが、Li
2CO
3の除去の点ではあまり有効でないこと、3)調査した方法のうち、湿式研磨と熱処理の連続的な組み合わせが、炭酸塩及び水酸化物表面汚染層の除去の点で最も有効であること、を示唆する。
【0115】
400℃~500℃の間の温度でのLiOH種の除去は、これまでの熱重量分析、質量分光法及び第一原理計算と一致している。このことは、湿式研磨の結果再形成される表面層が熱処理によってより容易に除去され、これにより不活性雰囲気中での湿式研磨及び熱処理の組み合わせが、固体電池におけるアノード-固体電解質(Li-LLZO)界面の形成前において良くコントロールされたLLZO表面を得るための良い選択肢となることを示唆する。
【0116】
電気化学的特性化
湿式研磨(WP)及び200℃~500℃の間での熱処理(HT)が施されたサンプルについて、LLZOのバルク抵抗(R
bulk)、粒界抵抗(R
gb)及びLi-LLZO界面抵抗(R
Li-LLZO)を測定するために、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)をLi-LLZO-Li対称セル(
図6(a))に対して実行した。EISデータは
図6(b)に示す等価回路を用いてモデル化された。このアプローチは、セル抵抗に対する個々の寄与を直接測定することを可能とし、特徴的な周波数と輸送現象を相互に関係づける。
図6(c)は、175℃での前調整の前後にWP及び500℃でのHTが施されたLLZOサンプルからなるセルについての代表的なEISスペクトルを示す(前調整は、Li-LLZO-Liセルを175℃まで12時間加熱することで金属LiとLLZOの間の良好な接触を保証するために用いられた)。
図6(c)から、LLZOの合計抵抗(R
bulk+R
gb)は一定(500Ωcm
2)に保たれた一方で、175℃での前調整及び冷却によりR
Li-LLZOが大幅に減少したことは明らかである。当初R
Li-LLZOは、乾式研磨後のLLZOについて報告されていたこれまでの値よりも大幅に低い約400Ωcm
2であった。175℃での前調整後、R
Li-LLZOのさらなる大幅な減少が観測された。湿式研磨、熱処理及び前調整の組み合わせによって、2Ωcm
2という極めて小さい界面抵抗が得られる。
【0117】
図6(d)は、熱処理を用いない及び200℃~500℃の間の種々の温度での熱処理を用いた、湿式研磨LLZOサンプルに対する前調整後のR
Li-LLZOを示す。熱処理の温度が高くなるにつれて、R
Li-LLZOは400から2Ωcm
2まで減少する。重要なのは、低界面抵抗が表面汚染層の除去と一致することである。さらに、界面抵抗の減少は、XPS測定で観測された熱処理温度及び熱処理後のLLZO表面の改善した濡れ性での表面化学における傾向によく沿う。総合的に考えると、これらの考察によって、表面化学、濡れ性及び界面抵抗間の強い結びつきの定量的な証拠が示された。
【0118】
湿式研磨され500℃で熱処理された(WP+HT)LLZOサンプルのサイクリングにおけるふるまい及び臨界電流密度(CCD)が、DCサイクリング及びEIS分析を用いて特性化された(
図7参照)。CCDは、Li金属の貫通に起因するセルの短絡が生じる最低電流密度として定義される。表面汚染の除去後、CCDは0.3mAcm
-2であるとされた(
図7(a)参照)。ここで準備されたWP+HTサンプルから得られたCCDは、
図7(b)において、文献で報告された他のLi-LLZO-Li対称セルと比較された。本研究で測定されたCCDは、LLZO固体状電解質について文献で報告されたもののなかでも最も高い値であった。我々のデータは、CCDとR
Li-LLZOが逆相関関係にあることを示し、界面化学即ちR
Li-LLZOをコントロールすることによってより高い電力密度を達成することができることを示唆している。
【0119】
WP+HTが施された後の界面におけるサイクリングした際の安定性を評価するために、Li-LLZO-Liセルにおいて、±0.2mAcm
-2で100サイクル、室温にてサイクリングを行った(
図7(d)参照)。20サイクルが終わる度に、R
bulk、R
gb、R
Li-LLZOの変化を評価するためにEIS分析を行った。
図7(c)は、EISスペクトルにおける無視できる程度の変化が観測されたことを示し、界面の安定性が良好であること及び短絡がないことを暗示している。さらに、DCセル分極電圧(
図7(a))を用いて見積もられた全セル抵抗(R
bulk+R
gb+R
Li-LLZO)(230Ωcm
2)は、EISを用いて測定された全セル抵抗(240Ωcm
2)と良く一致する。この一致はEISデータの解釈をさらに有効なものとする。
【0120】
DC及びEIS特性化は界面化学をコントロールすることの重要性を説明する。第一に、低R
Li-LLZOは、金属リチウムのアノードを備えた低抵抗固体セルデザインに向けた道を可能とする。第二に、R
Li-LLZOを減少させることで臨界電流密度が増大する。0.3mAcm
-2の値はこれまで報告された臨界電流密度値の中でも最も高いものの一つではあるが、車両の電動化に関連させるためにはこの値はさらに増大させるべきである。
図7(b)のデータは、さらに表面化学を調整するとともにR
Li-LLZOを減少させることがより高いCCDを達成するためのアプローチとなり得ることを示唆している。最後に、副反応及び機械的劣化を最小化するために、きれいで離散的なLi-LLZO界面が好適である。サイクリング試験では、室温での±0.2mAcm
-2でのサイクリング時には界面キネティクスは安定していると思われる。総合すると、電気化学特性化によって、湿式研磨及び熱処理が固体電池における金属Liアノード及びLLZOの使用を可能とすることが示唆される。
【0121】
<例3-結論>
例3は、表面化学がLi-LLZO界面の抵抗をコントロールするメカニズムを解明する。このメカニズムを利用することで、リチウムイオンセルにおける固体-液体界面に匹敵する2Ωcm-2という非常に低い界面抵抗がコーティングを必要とせずに達成できる。表面化学のコントロールによって可能となったより低い界面抵抗は、臨界電流密度を倍増させた。さらに、この低界面抵抗は100サイクルの間保たれ、短絡の兆候もみられなかった。この例3の研究は、界面化学、界面抵抗及び安定なサイクリング間の関係を明らかにした。得られた知識は、電極/電解質界面の合理的な設計を可能とするとともに、固体輸送現象を大まかに暗示している。
【0122】
本発明について特定の実施形態を参照してかなり詳細に記載したが、本発明は、例示目的でかつ限定を意図せずに記載された実施形態以外によっても実施可能であることは当業者に理解されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本明細書に含まれる実施形態の記載に限定されるべきではない。本発明の種々の特徴及び利点が特許請求の範囲に記載されている。