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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20230113BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20230113BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230113BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230113BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20230113BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230113BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M50/449
H01M50/46
H01M10/0566
H01M10/0585
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020043759
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021144888
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 繁
(72)【発明者】
【氏名】西川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山本 紀明
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-071358(JP,A)
【文献】特開2017-050215(JP,A)
【文献】特開2019-053862(JP,A)
【文献】特開2014-120456(JP,A)
【文献】特開2019-125441(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077293(WO,A1)
【文献】特開2011-034859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/449-50/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層を有するセパレータと電極板とが積層され、前記接着層を介して前記電極板が前記セパレータに接着された積層電極体をケースに収容し、
前記ケースに電解液を注入し、
前記注入と同時または前後して、前記電極板と前記セパレータとの接着強度を低下させることを含み、
前記接着層は、加熱により接着力が低下する接着特性を有し、
前記接着層を加熱して前記接着強度を低下させる、
電池の製造方法。
【請求項2】
加熱した前記電解液を前記ケースに注入して前記接着層を加熱する、
請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記接着層は、所定の溶剤に対する可溶性を有し、
前記溶剤で前記接着層を溶かして前記接着強度を低下させる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
接着層を有するセパレータと電極板とが積層され、前記接着層を介して前記電極板が前記セパレータに接着された積層電極体をケースに収容し、
前記ケースに電解液を注入し、
前記注入と同時または前後して、前記電極板と前記セパレータとの接着強度を低下させることを含み、
前記ケースに収容された前記積層電極体にガスを吹き付けて風圧で前記接着強度を低下させる、
電池の製造方法。
【請求項5】
前記電極板の一部を前記セパレータに接着させることを含む、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の製造方法および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)等の普及にともない、車載用の二次電池の出荷が増えている。特にリチウムイオン二次電池の出荷が増えている。また、車載用に限らず、例えばノート型パソコン等の携帯端末用の電源としても二次電池の普及が進んでいる。このような二次電池について、例えば特許文献1には、接着層を有するセパレータと電極とを積層し熱圧着して積層電極体を製造し、積層電極体をケースに収容した後にケースに電解液を注入して、二次電池を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/081035号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二次電池では、電極板に電解液が接触した状態で電極反応が起こる。このため、二次電池を製造する際に、積層電極体に電解液を含浸させる必要がある。一方で、二次電池のエネルギー密度を高めるために、ケース内で積層電極体が占める体積が大きくなる傾向にある。このため、積層電極体への電解液の含浸に要する時間が長くなってきている。含浸時間が長くなると、二次電池の生産リードタイムが長くなり得る。また、二次電池生産のスループットの低下を防ぐために生産設備の増強が強いられ得る。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、積層電極体への電解液の含浸時間を短縮する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様は、電池の製造方法である。この製造方法は、接着層を有するセパレータと電極板とが積層され、接着層を介して電極板がセパレータに接着された積層電極体をケースに収容し、ケースに電解液を注入し、注入と同時または前後して、電極板とセパレータとの接着強度を低下させることを含む。
【0007】
本開示の他の態様は、電池である。この電池は、接着層を有するセパレータおよび電極板が積層された積層電極体と、積層電極体に含浸される電解液と、積層電極体および電解液を収容するケースと、を備える。電極板は、接着層と向き合うように配置され、接着層と向き合う面の少なくとも一部に接着層との非接着領域を有する。
【0008】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、積層電極体への電解液の含浸時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(A)は、実施の形態1に係る電池の製造方法に用いられる積層電極体の一部を模式的に示す断面図である。図1(B)は、セパレータの一部を模式的に示す断面図である。
図2図2(A)~図2(B)は、実施の形態1に係る電池の製造方法を説明するための模式図である。
図3図3(A)~図3(B)は、実施の形態1に係る電池の製造方法を説明するための模式図である。
図4図4(A)~図4(B)は、実施の形態1に係る電池の製造方法を説明するための模式図である。
図5図5(A)~図5(B)は、実施の形態1に係る電池の製造方法を説明するための模式図である。
図6】変形例に係る電池の製造方法に用いられる熱圧着ローラの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、本開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施の形態1)
図1(A)は、実施の形態1に係る電池の製造方法に用いられる積層電極体の一部を模式的に示す断面図である。図1(B)は、セパレータの一部を模式的に示す断面図である。なお、図1(A)は、後述する接着強度の低下処理を施す前の状態にある積層電極体1を図示している。積層電極体1は、セパレータ2と電極板4とが積層された構造を有する。
【0013】
セパレータ2は、基材6と、接着層8と、を有する。基材6は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜で構成されるシートである。基材6は、単層構造であっても多層構造であってもよい。また、基材6は、好ましくは絶縁性を有する。
【0014】
接着層8は、基材6の少なくとも一方の主表面に設けられる。本実施の形態では、基材6の両面に接着層8が設けられている。接着層8は、公知の塗布装置で接着剤を基材6の表面に塗布することで得られる。本実施の形態の接着層8は、加熱により接着力が低下する接着特性を有する。このような接着層8を構成する接着剤としては、設定温度よりも高い温度で接着力が低下し、好ましくは接着力が実質的に失われる熱可塑性の感熱性接着剤が例示される。接着層8は、室温(例えば20~25℃)では、電極板4がセパレータ2に連結された状態を維持するために必要な接着力を発揮する。「接着力が低下する」とは、加熱後のある温度での接着強度が、好ましくは室温での接着強度の30%を下回ること、より好ましくは20%を下回ること、さらに好ましくは10%を下回ることを意味する。接着強度は、例えば日本工業規格JIS C2107(1999)に規定された方法で測定される、180度剥離強度(N/25mm)である。
【0015】
感熱性粘着剤の組成は、設定温度よりも高い温度に加熱すると接着力が低下するものであれば特に限定されない。典型的には、アクリル樹脂を主成分として含む樹脂組成物であるアクリル系粘着剤を使用可能である。感熱性粘着剤にアクリル樹脂が成分として含まれる場合、接着層8の接着力の低下は、加熱によりアクリル樹脂が溶融して接着力を失うことに起因する。したがって、感熱性接着剤をそのガラス転移点以上の温度まで加熱することで、感熱性粘着剤の接着力を急激に低下させることができる。
【0016】
接着層8の接着力が低下する温度は、例えば40~120℃、より好ましくは50~100℃の温度範囲内に設定される。接着力が低下する温度を40℃以上とすることで、ケース32に積層電極体1を収容する前に接着層8の接着力が低下して、電極板4とセパレータ2とが分離してしまうことを抑制できる。また、接着力が低下する温度を120℃以下とすることで、後述する電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させる処理において、基材6を構成する微多孔膜のシャットダウン温度以上に積層電極体1が加熱されてしまうことを抑制できる。シャットダウンとは、電池内の温度が過度に上がったときに細孔が封鎖され、電極間のリチウムイオンの流れが停止することをいう。
【0017】
電極板4は、正極板10と、負極板12と、を含む。正極板10は、正極集電体の片面または両面に正極活物質層が積層された構造を有する。正極集電体は、例えばアルミニウム箔等の金属箔、エキスパンド材、ラス材等で構成される。正極活物質層は、正極集電体の表面に公知の塗布装置で正極合材を塗布し、乾燥および圧延することによって形成することができる。正極合材は、正極活物質、結着材、導電材等の材料を分散媒に混練し、均一に分散させることによって得られる。
【0018】
正極活物質は、積層電極体1がリチウムイオン二次電池に用いられる場合、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、リチウム含有遷移金属化合物を正極活物質として使用可能である。リチウム含有遷移金属化合物としては、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄およびバナジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素と、リチウムと、を含む複合酸化物が挙げられる。
【0019】
結着材は、分散媒に混練および分散できるものであれば特に限定されない。例えば、結着材としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、アクリルゴム、アクリル樹脂、ビニル樹脂等を使用可能である。導電材としては、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維等の炭素材料を使用可能である。分散媒としては、結着材を溶かすことができる溶媒が使用される。正極合材には、必要に応じて分散剤、界面活性剤、安定剤、増粘剤等が含まれてもよい。
【0020】
負極板12は、負極集電体の片面または両面に負極活物質層が積層された構造を有する。負極集電体は、例えば銅、銅合金等からなる金属箔、エキスパンド材、ラス材等で構成される。負極活物質層は、負極集電体の表面に公知の塗布装置で負極合材を塗布し、乾燥および圧延することによって形成することができる。負極合材は、負極活物質、結着材、導電材等の材料を分散媒に混練し、均一に分散させることによって得られる。なお、負極板12は、上述の湿式法に代えて、蒸着法やスパッタ法等の乾式法によって作製することもできる。
【0021】
負極活物質は、積層電極体1がリチウムイオン二次電池に用いられる場合、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含有する炭素材料を負極活物質として使用可能である。炭素材料としては、天然黒鉛、球状または繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素等が挙げられる。また、負極活物質としてチタン酸リチウム、シリコン、錫等も使用することもできる。結着材および導電材は、正極活物質に用いられるものと同様である。負極合材には、必要に応じて分散剤、界面活性剤、安定剤、増粘剤等が含まれてもよい。
【0022】
接着強度の低下処理が施される前の状態で、各電極板4は、接着層8を介してセパレータ2に接着される。これにより、セパレータ2と電極板4とが互いに連結した積層電極体1が得られる。本実施の形態の積層電極体1は、複数の単位積層体14が積層された構造を有する。積層電極体1における単位積層体14の積層数は、例えば30~40個である。単位積層体14は、正極板10、セパレータ2、負極板12、セパレータ2がこの順に積層された構造を有する。
【0023】
本実施の形態の積層電極体1は、セパレータ2の単板と電極板4の単板とが複数積層された積層型であるが、特にこの構造に限定されない。積層電極体1は、互いに接着されたセパレータ2と電極板4との積層構造を少なくとも一部に有すればよく、帯状のセパレータ2と帯状の電極板4とが巻き回された巻回型であってもよいし、つづら折りされた帯状のセパレータ2の各谷溝に単板の電極板4を配置したつづら折り型等であってもよい。
【0024】
続いて、本実施の形態に係る電池の製造方法について説明する。図2(A)~図2(B)、図3(A)~図3(B)、図4(A)~図4(B)および図5(A)~図5(B)は、実施の形態1に係る電池の製造方法を説明するための模式図である。
【0025】
<積層電極体1の作製>
図2(A)および図2(B)に示すように、一対の熱圧着ローラ16の間に正極板10、セパレータ2、負極板12およびセパレータ2を通す。これにより、正極板10、セパレータ2、負極板12およびセパレータ2が熱圧着されて単位積層体14が得られる。続いて図3(A)に示すように、複数の単位積層体14を一対の熱圧着ローラ16で熱圧着する。これにより、積層電極体1が得られる。
【0026】
<電池36の組み立て>
図3(B)に示すように、封口板18を用意する。封口板18は、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属で構成される。封口板18は、正極端子20と、負極端子22と、注液孔24と、安全弁26と、を有する。注液孔24は、電解液をケース内に注入する際に用いられる。安全弁26は、ケースの内圧が所定値以上に上昇した際に開弁して、ケース内部のガスを放出する。
【0027】
積層電極体1の正極集電体を、電力取り出し用の正極集電タブ28を介して正極端子20に電気的に接続する。また、積層電極体1の負極集電体を、電力取り出し用の負極集電タブ30を介して負極端子22に電気的に接続する。正極集電体と正極集電タブ28とは、一体成形体であってもよいし、別体であって溶接等により接合されてもよい。同様に、負極集電体と負極集電タブ30とは、一体成形体であってもよいし、別体であって溶接等により接合されてもよい。正極集電タブ28と正極端子20、負極集電タブ30と負極端子22とは、それぞれ溶接等により接合される。
【0028】
続いて、図4(A)に示すように、封口板18に溶接された積層電極体1をケース32に収容する。ケース32は、封口板18と同様の材料からなる。ケース32は、扁平な矩形状であるが、これに限らず円筒状等であってもよい。ケース32は開口を有し、この開口を介して積層電極体1をケース32の内部に挿入する。複数のセパレータ2と複数の電極板4とは接着層8を介して互いに連結されているため、積層電極体1をケース32に簡単に挿入することができる。積層電極体1をケース32に挿入した後、ケース32の開口を封口板18で塞ぎ、ケース32と封口板18とを溶接等により接合する。封口板18は、ケース32の一部を構成する。
【0029】
続いて、注液孔24を介してケース32内に電解液34を注入する。電解液34は、例えば非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質と、を含む。非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジクロロエタン等の公知の溶媒を使用可能である。電解質としては、電子吸引性の強いリチウム塩、具体的にはLiPF、LiBF等の公知の電解質を使用可能である。電解液34をケース32に注入した後、注液孔24に注液栓(図示せず)を溶接等により接合する。これにより、電池36が組み立てられる。
【0030】
<接着強度の低下処理>
図4(B)に示すように、接着層8を加熱して、電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させる。例えば、公知のヒータ38で電池36を加熱することで、接着層8を構成する接着剤の温度をそのガラス転移点以上に上げて、接着層8の接着力を低下させる。これにより、電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させることができる。この接着強度の低下により、図5(A)に示すように、電極板4とセパレータ2とが剥離して両者の間に隙間Gが生じる。したがって、正極板10および負極板12における接着層8と向き合う面には、接着層8との非接着領域44が形成される。この結果、図5(B)に示すように、隙間Gに電解液34が進入し、隙間Gに存在する空気が外に追い出されて、電解液34と空気とがスムーズに置換される。これにより、電極板4に電解液34を迅速に浸潤させることができる。また、加熱により電解液34の粘度が低下する。これによっても、積層電極体1への電解液34の含浸を促進することができる。
【0031】
以上の工程により、積層電極体1に電解液34が含浸された電池36が得られる。この電池36は、接着層8を有するセパレータ2および電極板4が積層された積層電極体1と、積層電極体1に含浸される電解液34と、積層電極体1および電解液34を収容するケース32と、を備える。積層電極体1において、電極板4は、接着層8と向き合うように配置され、接着層8と向き合う面の少なくとも一部に接着層8との非接着領域44を有する。非接着領域44は、当該領域におけるセパレータ2と電極板4との接着強度が、接着強度の低下処理が施される前の接着強度の30%を下回る領域、より好ましくは20%を下回る領域、さらに好ましくは10%を下回る領域である。
【0032】
なお、電極板4とセパレータ2との接着強度の低下と、電極板4とセパレータ2との間の隙間Gの発生と、隙間Gへの電解液34の進入と、を図4(B)~図5(B)で段階的に図示しているが、これらの現象は同時並行で起こり得る。つまり、加熱によって電極板4とセパレータ2との接着強度が低下し始めると、電極板4およびセパレータ2の剥離と電解液34の隙間Gへの進入とが並行して進み、積層電極体1への電解液34の含浸が進行し得る。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態に係る電池36の製造方法は、接着層8を有するセパレータ2と電極板4とが積層され、接着層8を介して電極板4がセパレータ2に接着された積層電極体1をケース32に収容し、ケース32に電解液34を注入し、電解液34の注入後に電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させることを含む。電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させることで、電極板4とセパレータ2との間に電解液34を進入させやすくすることができる。これにより、積層電極体1への電解液34の含浸時間を短縮することができる。
【0034】
また、本実施の形態の接着層8は、加熱により接着力が低下する接着特性を有する。そして、本実施の形態に係る電池36の製造方法は、接着層8を加熱して電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させる。これにより、積層電極体1への電解液34の含浸時間を簡単に短縮することができる。
【0035】
含浸時間の短縮により、電池36の生産リードタイムを短縮することができる。また、電池36のスループットを維持するための生産設備の増強も避けることができ、したがって生産スペースの拡大も回避することができる。また、生産リードタイムが延びることを抑制しながら、電池36の高容量化を図ることができる。
【0036】
また、電池36においては、充電時に活物質が膨張することによって積層電極体1から電解液34が排出され得る。電解液34は、放電時に活物質が収縮することによって積層電極体1に戻る。仮に、電解液34が積層電極体1に戻りきらない場合、電極板4の一部に電解液34に浸潤していない領域、すなわち放電に寄与しない領域が発生し得る。これに対し、電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させていると、充電時に積層電極体1から排出された電解液34が放電時にスムーズに積層電極体1に戻ることができる。よって、本実施の形態によれば、電池36の充放電特性の改善、ひいてはサイクル寿命の改善を図ることができる。
【0037】
(実施の形態2)
本実施の形態は、接着強度の低下処理を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0038】
実施の形態1では、電解液34をケース32に注入した後に接着層8を加熱しているが、本実施の形態では、接着層8を加熱した後に電解液34を注入する。つまり、ケース32への電解液34の注入前に接着層8を加熱する。この場合、電解液34をケース32に注入した際の電解液34の流動圧によって、電極板4とセパレータ2とを剥離することができる。これにより、積層電極体1への電解液34の含浸時間をより短縮することができる。
【0039】
(実施の形態3)
本実施の形態は、接着強度の低下処理を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0040】
本実施の形態では、加熱した電解液34をケース32に注入して、電解液34の熱で接着層8を加熱する。つまり、本実施の形態では、ケース32への電解液34の注入と同時に接着層8を加熱する。これにより、接着層8を加熱する工程を別途設ける場合に比べて、電池36の製造工程を簡単にすることができる。なお、電解液34の加熱温度は、例えば40℃程度である。
【0041】
(実施の形態4)
本実施の形態は、接着強度の低下処理を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0042】
本実施の形態の接着層8は、所定の溶剤に対する可溶性を有する。そして、本実施の形態では、溶剤で接着層8を溶かして電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させる。例えば、溶剤は電解液34に混合される。この場合、ケース32への電解液34の注入と同時に接着層8を溶かすことができる。本実施の形態によっても、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【0043】
(実施の形態5)
本実施の形態は、接着強度の低下処理を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0044】
本実施の形態では、ケース32に収容された積層電極体1にガスを吹き付けて、風圧で電極板4とセパレータ2との接着強度を低下させる。この場合、例えば積層電極体1をケース32に収容した後、電解液34を注入する前に、ケース32の開口を介して積層電極体1にガスを吹き付ける。積層電極体1に吹き付けるガスとしては、空気が例示される。好ましくは、ガスはドライエアである。ガスの吹き付けには、公知のブロワーを使用可能である。ガスの吹き付けは、例えばケース32の内圧が500kPaに上昇するまで実施される。本実施の形態によっても、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【0045】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本開示を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本開示の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された本開示の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本開示の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0046】
実施の形態1~4には、以下の変形例を挙げることができる。図6は、変形例に係る電池36の製造方法に用いられる熱圧着ローラ16の模式図である。本変形例は、電極板4の一部をセパレータ2に接着させることを含む。例えば、図6に示すように、熱圧着ローラ16は、表面に複数の凸部40を有する。このような熱圧着ローラ16で電極板4とセパレータ2とを加圧することで、電極板4の一部のみをセパレータ2に押し付けて、押し付けた部分のみをセパレータ2に接着させることができる。セパレータ2に対して電極板4を部分的に接着させることで、電極板4とセパレータ2との間により確実に隙間Gを形成することができ、電解液34の含浸時間をより短縮することができる。なお、セパレータ2の電極板4と重なる領域における一部に接着層8を設け、電極板4の全体をセパレータ2に押し付けることでも、電極板4を部分的にセパレータ2に接着させることができる。
【0047】
接着層8の加熱による接着強度の低下処理と、溶剤で接着層8を溶かすことによる接着強度の低下処理と、ガスの吹き付けによる接着強度の低下処理と、は適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 積層電極体、 2 セパレータ、 4 電極板、 8 接着層、 32 ケース、 34 電解液、 36 電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6