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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】転圧車両
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/22 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
E01C19/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020045489
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021147773
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正和
(72)【発明者】
【氏名】早坂 喜憲
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166202(JP,A)
【文献】特開平11-200312(JP,A)
【文献】特開2012-241496(JP,A)
【文献】特開2020-032953(JP,A)
【文献】特開2011-174794(JP,A)
【文献】特開2002-336751(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/22
E01C 19/25
E01C 19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に散水する散水ノズルと、
前記散水ノズルによる車幅方向の散水幅を調整可能な散水幅調整部と、
前記散水ノズルによる散水幅の目標値である目標散水幅を設定する目標散水幅設定部と、
前記散水ノズルにより散水された路面を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された画像中の路面の濃淡に基づき実散水幅を判定する散水幅判定部と、
前記実散水幅を前記目標散水幅とするように前記散水幅調整部を駆動制御する散水幅制御部と
を備えたことを特徴とする転圧車両。
【請求項2】
前記散水幅制御部は、前記実散水幅と前記目標散水幅とに基づき前記散水幅調整部の制御量を補正して前記散水幅調整部の駆動制御に適用する
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項3】
前記散水幅制御部は、前記散水幅判定部が実散水幅を判定不能なときに、予め設定された制御マップに基づき前記目標散水幅を達成可能な制御量を算出して前記散水幅調整部の駆動制御に適用する
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項4】
前記転圧車両の走行速度を検出する車速検出部をさらに備え、
前記散水幅制御部は、前記車速検出部により検出された車速が予め設定された下限車速未満のときに、予め設定された制御マップに基づき前記目標散水幅を達成可能な制御量を算出して前記散水幅調整部の駆動制御に適用する
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項5】
前記転圧車両の前進と後進とを検出する前後進検出部をさらに備え、
前記撮像部は、前記転圧車両の前方の路面を撮像する前方撮像部と、前記転圧車両の後方の路面を撮像する後方撮像部とからなり、
前記散水幅判定部は、前記前後進検出部により前記転圧車両の前進が検出されているときに前記後方撮像部により撮像された画像に基づき実散水幅を判定し、前記前後進検出部により前記転圧車両の後進が検出されているときには前記前方撮像部により撮像された画像に基づき実散水幅を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項6】
前記転圧車両の運転席の近傍に設けられた表示装置と、
前記散水ノズルから路面への散水状態を、前記転圧車両の俯瞰画像と共に前記表示装置に表示させる表示制御部とをさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転圧車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転圧車両による締固め作業では、転圧後の路面の冷却、路面の含水比の調整、粉塵の防止等を目的として路面に散水する場合があり、そのために車体の後部に散水ノズルが設けられた転圧車両がある(例えば、特許文献1参照)。
走行中の転圧車両からの散水により、路面には走行経路に沿って水が浸透した帯状の領域が形成され、その車幅方向の長さ(以下、散水幅と称する)は任意に調整可能となっている。例えば散水幅の調整は、散水ノズルに水を供給する散水ポンプの吐出量を増減することで行われる。散水ポンプの吐出量を増大させるほど散水ノズルからの水の勢いと共に飛距離が増加し、路面に到達するまでに車幅方向に拡散して散水幅が増加するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-166202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
散水幅の調整は、締固め作業の現場の状況に応じてきめ細かく実施する必要がある。
例えば作業現場としては、転圧車両の周囲で作業員が働いている場合、作業現場の隣に安全通路が設けられている場合、2車線道路の一方を開通させながら他方で締固め作業を実施する場合、民家の壁ぎわで締固め作業を実施する場合等が挙げられる。このため無闇に散水幅を拡大すると、人や一般車両或いは壁等に水をかけてしまう上に、転圧車両に貯留された限りある水の浪費にもつながり、逆に散水幅を縮小し過ぎると作業効率が悪化してしまう。
【0005】
また、登坂路や降坂路での締固め作業では、平地のときに比較して路面勾配により散水ノズルから路面までの距離が増減し、それに伴い散水幅が拡大または縮小する。従って、例えば平地では適切な散水幅に調整されていたとしても、登坂路や降坂路に侵入すると不適切な散水幅になってしまう。
【0006】
このような不適切な散水幅を防止するために、転圧車両のオペレータは作業現場の状況や路面勾配等に常に気を配りつつ、散水幅をきめ細かく調整する必要がある。従って、肝心の転圧車両の運転操作や周囲で働く作業者等への配慮が疎かになり易い上に、オペレータを無用に疲労させる要因にもなるため、従来から改善策が要望されていた。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、オペレータの疲労を軽減した上で、運転操作や周囲への配慮を疎かにすることなく常に適切に散水幅を調整することができる転圧車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の転圧車両は、路面に散水する散水ノズルと、前記散水ノズルによる車幅方向の散水幅を調整可能な散水幅調整部と、前記散水ノズルによる散水幅の目標値である目標散水幅を設定する目標散水幅設定部と、前記散水ノズルにより散水された路面を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された画像中の路面の濃淡に基づき実散水幅を判定する散水幅判定部と、前記実散水幅を前記目標散水幅とするように前記散水幅調整部を駆動制御する散水幅制御部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転圧車両によれば、オペレータの疲労を軽減した上で、運転操作や周囲への配慮を疎かにすることなく常に適切に散水幅を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態のタイヤローラを示す側面図である。
図2】タイヤローラに搭載された路面散水装置を示すシステム構成図である。
図3】車両の前進中において実散水幅を縮小側に調整した場合の調整前及び調整後の散水状態を、車両の俯瞰画像と共に表したディスプレイ表示の説明図である。
図4】コントローラが実行する散水幅制御ルーチンを示すフローチャートである。
図5】目標散水幅を設定する散水幅設定モードのときのディスプレイ表示を示す説明図である。
図6】目標散水幅から流量調整弁の制御量を算出するための制御マップを示す図である。
図7】車両の後進中において実散水幅を縮小側に調整した場合の調整前及び調整後の散水状態を、車両の俯瞰画像と共に表したディスプレイ表示の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をタイヤローラに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のタイヤローラを示す側面図である。以下の説明では、車両に搭乗した運転者を主体として前後、左右及び上下方向を規定する。
【0012】
タイヤローラ1(以下、車両と称する場合もある)の車体2の前部には、走行輪を兼ねた3本のゴム製の前部転圧輪3fが左右方向に並列配置されている。これらの前部転圧輪3fは車体2からヨーク4により操舵可能に支持されている。また、車体2の後部には走行輪を兼ねた4本のゴム製の後部転圧輪3rが左右方向に並列配置され、後部転圧輪3rは車体2から図示しないアクスルを介して支持されている。
【0013】
車体2上にはステアリング5及び前後進レバー6を備えた操作台7が設置され、操作台7の後側には運転席8が設置されている。運転席8の直上にはルーフスタンド9を介してルーフ10が支持され、車体2の左側面には運転席8への乗降のためのステップ11が設けられている。運転席8に着座したオペレータは、ステアリング5、前後進レバー6、及びフロア12上のペダル13を操作してタイヤローラ1を走行させ、締固め作業中には前部及び後部転圧輪3f,3rにより路面に敷きつめられた舗装材を締め固める。
【0014】
前部及び後部転圧輪3f,3rの近傍には、それぞれ散水ノズル15f,15r及び液剤ノズル16f,16rが設けられている。舗装作業時には、前部及び後部転圧輪3f,3rへの舗装材の付着防止を目的として、車体2内の散水タンク17(図2に示す)に貯留された水が散水ノズル15f,15rから散水されたり、図示しない液剤タンク内に貯留された液剤が液剤ノズル16f,16rから散布されたりする。また、車体2の後部には路面散水装置18を構成する左右一対の路面散水ノズル19が設けられ、舗装作業では、転圧後の路面の冷却、路面の含水比の調整、粉塵の防止等を目的として、散水タンク17内の水が各路面散水ノズル19から車幅方向に扇状に拡散して散水される。
【0015】
図2はタイヤローラ1に搭載された路面散水装置18を示すシステム構成図である。
車両1にはHST(Hydro Static Transmission)が搭載されており、周知のようにHSTは、エンジンにより駆動される油圧ポンプからの作動油により車体各部の油圧アクチュエータを駆動する油圧システムである。このHSTにより後部転圧輪3rの駆動や前部転圧輪3fの操舵等が行われると共に、HSTは路面散水装置18の作動にも利用されており、その構成を以下に説明する。
【0016】
図2に示すように、HSTの駆動源であるエンジン21には油圧ポンプ22が連結され、油圧ポンプ22と散水ポンプ23の駆動用の油圧モータ24との間で閉回路が形成されている。エンジン21に駆動される油圧ポンプ22により作動油タンク25内の作動油が汲み上げられ、流量調整弁26(散水幅調整部)を介して油圧モータ24に供給される。油圧モータ24により散水ポンプ23が駆動されると、散水タンク17の水が散水ポンプ23により汲み上げられて路面散水ノズル19に供給され、上記のように路面への散水が行われる。
【0017】
流量調整弁26は後述するコントローラ28により制御され、路面散水ノズル19からの散水幅を調整する役割を果たす。即ち、油圧ポンプ22からの作動油の吐出量はエンジン21の回転速度に応じて増減するものの、この吐出量とは関係なく、流量調整弁26の開度に応じて油圧モータ24への作動油の供給量が調整される。結果として油圧モータ24の回転速度、ひいては散水ポンプ23からの水の吐出量が増減し、吐出量を増大させるほど路面散水ノズル19からの水の勢いが強まりその飛距離が増加する。散水された水は路面に到達して浸透し、飛距離が増加するほど車幅方向に拡散することから、それに応じて散水幅(水が浸透した領域の車幅方向の長さ)が増加する。
【0018】
流量調整弁26を制御するコントローラ28は、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等からなる。コントローラ28の入力側には、車体2の前部に設けられて前方路面を撮像する前方カメラ29(前方撮像部)、車体2の後部に設けられて後方路面を撮像する後方カメラ30(後方撮像部)、操作台7に設けられた散水幅の入力等に用いられる入力装置31(目標散水幅設定部)、同じく運転台7に設けられた散水を行うための散水スイッチ32、車両1の走行速度を検出する車速センサ33(車速検出部)、及び前後進レバー6に設けられた前後進スイッチ34(前後進検出部)等のセンサ類が接続されている。
【0019】
なお、本実施形態の前方及び後方カメラ29,30はモノクロ画像を撮像するが、カラー画像を撮像するカメラを用いてもよい。またコントローラ28の出力側には、流量調整弁26、及び操舵台7に設けられたディスプレイ35(表示装置)等のデバイス類が接続されている。
【0020】
次いで、コントローラ28により実行される具体的な散水幅の自動調整処理を説明するが、それに先立って本実施形態が採用する散水幅の判定原理について述べる。
端的に表現すると、本実施形態の散水幅の判定原理は、散水された水が浸透した路面上の領域の濃度が、周囲の領域の濃度に比較して濃くなる現象を利用したものである。締固め作業では、例えば車両1を前進及び後進させて同一の路面が繰り返し転圧され、この転圧と共に散水も同一路面に対して繰り返し実施される。前回の散水により水が浸透した領域では次第に浸透が進み、次回の散水までに濃度が薄まる。このため、次回の散水により新たに水が浸透した領域との間に濃度差が表れ、この濃度差に基づき散水幅が判定される。
【0021】
図3は車両1の前進中において実散水幅を縮小側に調整した場合の調整前及び調整後の散水状態を、車両1の俯瞰画像と共に表した説明図であり、これらの画像は、締固め作業中に散水状態表示モードとしてディスプレイ35に表示される(所謂アラウンドビューモニタ)。
【0022】
散水幅は、前方及び後方カメラ29,30により撮像された路面画像を解析して判定される。以下の説明では、判定された実際の散水幅を実散水幅Lと称し、入力装置31に入力される目標の散水幅を目標散水幅Ltgtと称する。図3の例では、車両1の前進中に路面散水ノズル19から路面に散水され、車両1の後方には走行経路に沿って水が浸透した帯状の領域が形成される。以下、路面散水ノズル19から散水された水が直接的に到達する路面上の領域を散水領域E1と称し(図3中にクロスハッチングで示す)、散水された水が浸透した領域を浸透領域E2と称する(図3中にハッチングで示す)。
【0023】
車両1の走行と共に散水領域E1が移動して浸透領域E2が順次形成されることから、散水領域E1及び浸透領域E2の車幅方向の長さは、共に実散水幅Lを意味することになる。そして、図3の例では、後方カメラ30により転圧直後の後方路面が撮像され、その後方路面画像中に予め設定された判定領域Er(図3中に四角枠で示す)を解析することにより実散水幅Lが判定される。そして、実散水幅Lが入力装置31により入力された目標散水幅Ltgtに自動調整されるのであるが、当該処理の詳細は図3等に基づき後述する。
【0024】
図2に示すようにコントローラ28は、散水幅判定部28a、散水幅制御部28b及び表示制御部28cを有している。
散水幅判定部28aは、前方カメラ29により撮像された前方路面画像中の判定領域Ef、或いは後方カメラ30により撮像された後方路面画像の判定領域Erを解析して、上記の原理により画像中の路面の濃淡に基づき実散水幅Lを判定する。
散水幅制御部28bは、入力装置31から目標散水幅Ltgtを入力し、予め設定された制御マップに基づき目標散水幅Ltgtを達成可能な流量調整弁26の制御量(例えば、ソレノイドへの電流値等)を算出する。そして、この目標散水幅Ltgtと散水幅判定部28aが判定した実散水幅Lとに基づき流量調整弁26の制御量を補正して開度調整し、これにより実散水幅Lを目標散水幅Ltgtと一致するように自動調整する。
【0025】
表示制御部28cは、予め車両1の俯瞰画像データが記憶されている。後述する散水幅設定モードでは、入力装置31への目標散水幅Ltgtの入力状態を示す画像を作成して、車両1の俯瞰画像と共にディスプレイ35に表示する(図5に示す)。また上記散水状態表示モードでは、散水幅制御部28bから入力される目標散水幅Ltgtや実散水幅L等の情報に基づき散水状態を示す画像を作成して、例えば図3に示すように車両1の俯瞰画像と共にディスプレイ35に表示する。
以上のコントローラ28の処理の詳細については後述する。
【0026】
図4は路面散水ノズル19による実散水幅Lの自動調整のためにコントローラ28が実行する散水幅制御ルーチンを示すフローチャートであり、コントローラ28は車両1の電源の投入中に当該ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
まず、ステップ1で散水スイッチ32がON操作されているか否かを判定し、No(否定)のときには一旦ルーチンを終了する。散水スイッチ32のON操作によりステップ1でYes(肯定)の判定を下すとステップ2に移行し、入力装置31により目標散水幅Ltgtが設定されているか否かを判定する。
【0027】
図5は目標散水幅Ltgtを設定する散水幅設定モードのときのディスプレイ35の表示を示す説明図である。なお、散水幅設定モードと散水状態表示モードとの切換は、入力装置31に設けられた図示しないモード切換スイッチにより行われる。
散水幅設定モードでは、ディスプレイ35の画面中央に車両1の俯瞰画像が表示され、その後部には、設定可能な5段階の目標散水幅Ltgtの候補S1~S5が模式的に表示されている。他の候補S1~S5に比較して、現在設定されている目標散水幅Ltgt(図5の例では候補S3)は濃い濃度で表示されたり別の色で表示されたりし、設定状態をオペレータが容易に認識できるようになっている。目標散水幅Ltgtの設定は入力装置31の図示しない散水幅切換ボタンで行われ、その押圧操作毎に設定状態が順次変更される。
【0028】
このような手順で目標散水幅Ltgtが設定されているときにはステップ2でYesの判定を下し、ステップ3で設定値を目標散水幅Ltgtとして確定する。なお、締固め作業中に目標散水幅Ltgtが設定し直される場合もあり、その際は新たに設定された目標散水幅Ltgtに更新される。また、ステップ2の判定がNoのときにはオペレータが設定を失念していると見なし、ステップ4で予め設定された固定値、例えば車幅相当の散水幅を目標散水幅Ltgtとして設定する。
【0029】
その後、ステップ5で前方及び後方カメラ29,30による路面の撮像を開始し、続くステップ6で、車速センサ33により検出された車速が予め設定された下限車速、例えば2km/h以上であるか否かを判定する。当該処理は、実散水幅Lの誤判定防止を目的としている。散水された水は路面に浸透して周囲よりも濃度が濃い浸透領域E2を形成し、この場合の浸透領域E2は実散水幅Lに対応したものとなる。しかし、極低速の場合には水が浸透するだけでなく路面上に広がることから、実散水幅L(=散水領域E1)よりも幅広の浸透領域E2が形成されて実散水幅Lを誤判定する要因になり得る。
【0030】
そこで、このような現象が発生しない下限の車速として下限車速が設定され、下限車速未満のときにはステップ6でNoの判定を下してステップ7に移行する。ステップ7では、図6に示す制御マップに基づき目標散水幅Ltgtを達成可能な流量調整弁26の制御量を算出する(散水幅制御部)。散水幅と散水ポンプ23の回転速度(吐出量)との間には相関関係が成立し、散水ポンプ23の回転速度は、油圧モータ24への作動油の供給量を調整する流量調整弁26の開度、ひいては制御量に応じて増減する。このような散水幅とこれを達成可能な流量調整弁26の制御量との関係(図6中の特性線)が、事前に実施した実機試験に基づき図6の制御マップとして設定されている。
【0031】
ステップS7の処理が実行されることで、車速が下限車速未満のときには信頼性が十分でない実散水幅Lを用いることなく、目標散水幅Ltgtから一義的に流量調整弁26の制御量が算出される。そして、続くステップ8で制御量に基づき流量調整弁26を駆動制御し、ステップ9でディスプレイ35を散水状態表示モードに切り換えて、現在の散水状態を車両1の俯瞰画像と共に表示する。
【0032】
一方、車速が下限車速以上であるとしてステップ6でYesの判定を下したときには、ステップ10で前後進スイッチ34から入力される前後進信号に基づき、現在の車両1が前進中であるか後進中であるかを判定する。前進中のときにはステップ11で後方カメラ30を選択し、後進中のときにはステップ12で前方カメラ29を選択し、その後にステップ13に移行する。ステップ13では、選択したカメラ29,30により撮像された前方路面画像または後方路面画像を取り込み、その画像を解析して実散水幅Lを判定する(散水幅判定部)。
【0033】
詳しくは、前方及び後方カメラ29,30により撮像された前方及び後方路面画像は、走行方向にm行、車幅方向にn列として2次元配列された多数の画素からなり、各画素単位で路面の濃度に応じた画素信号がコントローラ28に入力される。前方及び後方路面画像中には、予め実散水幅Lを判定するための判定領域Ef,Erが設定されており、判定領域Ef,Erの車幅方向の長さは路面散水ノズル19による最大の実散水幅Lよりも若干広く設定されている。このため、車幅方向において実散水幅Lは常に判定領域Ef,Er内に含まれ、判定領域Ef,Er内には、路面に水が浸透した濃度が濃い浸透領域E2の左右両側に、相対的に濃度が薄い領域が形成される。
【0034】
ステップ13では、前方または後方路面画像から判定領域Ef,Erが抽出され、判定領域Ef,Er内の列方向(車幅方向)の各画素の濃度変化に基づき、濃度がステップ的に急変している2箇所の間の領域が浸透領域E2として特定され、浸透領域E2の車幅方向の長さが実散水幅Lと判定される(散水幅判定部)。なお、各列の画素の濃度は、例えば各列に含まれる全ての行の画素の濃度の平均値が適用される。
【0035】
続くステップ14では、ステップ13の処理により実散水幅Lが正常に判定されたか否かを判定する。例えば前後進の転圧距離が短く、前回の散水による水が十分に路面に浸透する以前に次回の散水が行われると、双方の間の濃度差が減少することから、濃度変化に基づき実散水幅Lを判定不能な場合がある。また、高温の路面への散水により発生した水蒸気に遮られて、明瞭な路面画像を撮像できなかった場合も、同様に実散水幅Lを判定不能になる。
【0036】
ステップ14でYesの判定を下したときにはステップ15に移行し、実散水幅Lと目標散水幅Ltgtとに基づき流量調整弁26の制御量を補正し、続くステップ8で制御量に基づき流量調整弁26を駆動制御し(散水幅制御部)、ステップ9で散水状態をディスプレイ35に表示する。ステップ15の補正処理はどのような手法を用いてもよく、例えば図6の特性線に基づき、目標散水幅Ltgtに対応する流量調整弁26の制御量と実散水幅Lに対応する制御量との偏差を求め、実散水幅Lが目標散水幅Ltgtに接近する方向に偏差に基づき制御量を補正する。或いは、実散水幅Lと目標散水幅Ltgtとの大小関係に基づき、予め設定された補正値によりコントローラ28の制御周期毎に制御量を逐次補正して、実散水幅Lを目標散水幅Ltgtに次第に接近させて一致させる。
【0037】
また、実散水幅Lを正常に判定不能であるとしてステップ14でNoの判定を下したときには、ステップ7で図6の制御マップに基づき流量調整弁26の制御量を算出する(散水幅制御部)。
なお、締固め作業中に目標散水幅Ltgtが設定し直された場合にはステップS3で目標散水幅Ltgtが更新され、新たな目標散水幅Ltgtに基づき実散水幅Lの制御が継続される。また、散水スイッチ32がOFF操作された場合には、ステップ1でNoの判定が下されて実散水幅Lの制御が中止される。
【0038】
このような流量調整弁26の制御量の補正処理が締固め作業中に継続して実行されることにより、実散水幅Lは常に目標散水幅Ltgtと一致するように自動調整される。例えば図3の左側は、中間値S3に設定された目標散水幅Ltgtに対し、路面勾配の影響を受けて実散水幅Lが最大値S5まで増加してしまった場合を示している。後方カメラ30で撮像された判定領域Erの解析に基づき最大値の実散水幅Lが判定され、図3の右側に示すように実散水幅Lが縮小側に調整されて目標散水幅Ltgtと一致する。このような散水状態の変化に対応してディスプレイ35の表示も図3の左側から右側に切り換えられ、オペレータは実散水幅Lが正常に自動調整されたことを容易に認識できる。
【0039】
オペレータが自ら目標散水幅Ltgtを設定し直した場合も同様である。例えば図3の左側に示すように、判定領域Erの解析に基づき最大値S5の実散水幅Lが判定されている状態で、目標散水幅Ltgtが中間値S3に設定し直されると、それに応じて図3の右側に示すように実散水幅Lが縮小側に調整されて目標散水幅Ltgtと一致する。オペレータは、自己の設定操作が実散水幅Lに反映されたことをディスプレイ35の表示に基づき容易に認識できる。
【0040】
図7は車両1の後進中において実散水幅Lを縮小側に調整した場合の調整前及び調整後の散水状態を、車両1の俯瞰画像と共に表した説明図であり、目標散水幅Ltgtの設定状態及び実散水幅Lの制御状態については図3の例と同様である。
後進中には、前方カメラ29で撮像された判定領域Efの解析により実散水幅Lが判定されるものの、実散水幅Lの調整状況については同様である。このため重複する説明はしないが、図6の左側では最大値S5に制御されていた実散水幅Lが、図6の右側では解析結果に基づき縮小側に調整されて中間値S3の目標散水幅Ltgtと一致している。
【0041】
以上のように、例えば車両1が平地から登坂路や降坂路に侵入して路面散水ノズル19から路面までの距離が増減した場合であっても、撮像画像の解析結果に基づき実散水幅Lが自動調整されて目標散水幅Ltgtに保たれる。
【0042】
また、作業現場の状況への配慮から、締固め作業中に目標散水幅Ltgtが変更される場合もあり、例えば車両1の周囲で作業者が作業を開始すると、水がかかるのを防止するために目標散水幅Ltgtが縮小される。従来のように散水幅を手動調整する場合、実際の散水状態を目視しても水がかかるか否かの判断は困難であり、必然的に何度も散水幅を調整し直す等、煩雑な調整作業が要求される。これに対して本実施形態では具体的な目標散水幅Ltgtを設定するため、例えば車幅を基準として周囲の作業者に水がかかるか否かをディスプレイ35上で容易に判断できると共に、設定結果に基づき実散水幅Lが自動調整されるため、実散水幅Lの調整作業が格段に簡単なものになる。
【0043】
結果として実散水幅Lの調整作業に要する手間が大幅に省かれることから、締固め作業に際したオペレータの疲労を軽減できる上に、肝心のタイヤローラ1の運転操作や周囲で働く作業者等への配慮に集中してより円滑に締固め作業を実施することができる。
【0044】
また、車速が下限車速未満で実散水幅Lを誤判定する可能性がある場合(ステップ6がNo)、及び路面の濃度変化に基づき実散水幅Lを判定不能な場合(ステップS14がNo)には、図6の制御マップに基づき目標散水幅Ltgtから一義的に流量調整弁26の制御量を算出している。このような場合、実散水幅Lと目標散水幅Ltgtとに基づくきめ細かな実散水幅Lの調整は望めないものの、誤判定された実散水幅Lに基づき目標散水幅Ltgtからかけ離れた不適切な散水幅に調整される事態を防止できるため、円滑な締固め作業の実現に大きく貢献する。
【0045】
また、車両1の前進中には後方カメラ30の撮像画像に基づき実散水幅Lを判定し、後進中には前方カメラ29の撮像画像に基づき実散水幅Lを判定している。例えば前方カメラ29を備えない場合、車両1の後進中には実散水幅Lを判定できないことから、たとえ不適切な散水幅になったとしても、その調整は車両1が前進に転じるまでは実施されない。車両1の前後進に応じて前方及び後方カメラ29,30を使い分けることにより、常に実散水幅Lを自動調整して最適な散水状態に保つことができる。
【0046】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、前後にゴム製の転圧輪3f,3rを備え、車体2の後部に設けられた路面散水ノズル19から路面に散水するタイヤローラ1に具体化したが、これに限るものではない。例えば路面散水ノズル19を車体2の前部に設けたり、転圧輪として金属製のローラを備えた他の種類の転圧車両に適用したりしてもよい。
【0047】
また上記実施形態では、油圧モータ24への作動油の供給量を流量調整弁26により調整することにより、散水ポンプ23の吐出量を増減して実散水幅Lを調整したが、本発明の散水幅調整部はこれに限るものではない。例えば路面散水ノズル19に、水の車幅方向の拡散角度を調整できる機構を設けてもよい。
【0048】
また上記実施形態では、車両1の前後進に応じて前方及び後方カメラ29,30を使い分けたが、これに限るものではない。例えば前後何れか一方のカメラのみを備え、その撮像画像に基づき実散水幅Lを判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 タイヤローラ(転圧車両)
19 路面散水ノズル
26 流量調整弁(散水幅調整部)
28a 散水幅判定部
28b 散水幅制御部
28c 表示制御部
29 前方カメラ(前方撮像部)
30 後方カメラ(後方撮像部)
31 入力装置(目標散水幅設定部)
33 車速センサ(車速検出部)
34 前後進スイッチ(前後進検出部)
35 ディスプレイ(表示装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7