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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】料理用品用温度表示体
(51)【国際特許分類】
   C09K 9/00 20060101AFI20230113BHJP
   A47J 36/00 20060101ALI20230113BHJP
   G01K 11/12 20210101ALI20230113BHJP
   G01K 11/14 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C09K9/00 E
A47J36/00 A
G01K11/12 A
G01K11/14
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020500802
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2018068772
(87)【国際公開番号】W WO2019011975
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】1756587
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】594034072
【氏名又は名称】セブ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー ル ブリ
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ テシエ
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152879(WO,A1)
【文献】特開2012-052101(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014018464(DE,A1)
【文献】特開2004-346261(JP,A)
【文献】特開2012-250879(JP,A)
【文献】国際公開第2016/041838(WO,A1)
【文献】特開2019-135273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 9/00,11/08
A47J 36/00
G01K 11/12,11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア-シェル構造を有する粒子であって、コアは、少なくとも1種の熱変色性半導体を含み、シェルは、以下の少なくとも2つの層:
- コアと接触し、無機または有機-無機ハイブリッド材料を含む内層と:
- 内層の材料とは異なる無機または有機-無機ハイブリッド材料を含む外層と、
を含み、前記シェルの内層の無機または有機-無機ハイブリッド材料は、1種または複数種のケイ素酸化物を含む材料であり、前記シェルの外層の無機または有機-無機ハイブリッド材料は、1種または複数種のアルミニウム酸化物を含む材料であることを特徴とする粒子。
【請求項2】
前記シェルの層は連続的であることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記熱変色性半導体は、Bi23、Fe23、V25、WO3、CeO2、In23、パイロクロア半導体Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84、BiVO4、およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項4】
前記コアは、少なくとも1種の熱安定性顔料、および/または第1とは異なる第2の熱変色性半導体をさらに含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の粒子。
【請求項5】
i) 熱変色性半導体を提供する工程と;
ii) 加水分解-縮合段階を開始するために、工程i)で提供される粉末を、少なくとも1種の金属アルコキシドゾル-ゲル前駆体、水、およびアルコールの混合物中に分散させ、得られる混合物を連続的に撹拌する工程であって、前記金属アルコキシドゾル-ゲル前駆体はアルコキシシラン前駆体である工程と;
iii) 工程ii)で得られる粒子を、反応しなかった反応剤および溶媒から分離する工程と;
iv) 工程iii)で得られる粒子に、200℃と600℃との間の温度における少なくとも10分間にわたる熱処理を施す工程と;
v) 工程iv)で得られる粒子を、流動床反応器内に配置し、反応器を100℃と500℃との間の温度に加熱する工程と;
vi) 加熱された反応器中に、金属酸化物前駆体と交替する水を配置する工程であって、前記金属酸化物前駆体はアルミニウム前駆体である工程と;
vii) コア-シェル構造を有する粒子を得る工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の粒子を製造する方法。
【請求項6】
工程i)と工程ii)との間に、熱変色性半導体を熱処理する工程を含み、該熱処理を、100℃と600℃との間の温度で実施することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属アルコキシドゾル-ゲル前駆体は、テトラエトキシシラン(TEOS)であることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記アルミニウム前駆体は、トリメチルアルミニウム(TMA)であることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の粒子の少なくとも1種を含むことを特徴とする熱変色性顔料組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の熱安定性顔料をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の熱変色性顔料組成物。
【請求項11】
請求項9または10のいずれかに記載の熱変色性顔料組成物を含むことを特徴とする焦げ付き防止被膜。
【請求項12】
請求項9または10のいずれかに記載の熱変色性顔料組成物および/または請求項11に記載の焦げ付き防止被膜のいずれかを含むことを特徴とする料理用品。
【請求項13】
熱処理が加えられることが意図されている物品、特に料理用品、または熱を発生させることが意図されている物品における、請求項1から4のいずれかに記載の粒子、請求項9または10のいずれかに記載の熱変色性顔料組成物、または請求項11に記載の焦げ付き防止被膜の、温度表示体としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア-シェル構造を有する粒子、前述の粒子を製造する方法、および、特に平鍋のような料理用品における温度表示体としての前述の粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
温度表示体としての半導体材料の使用は、熱の効果により色を変化させる当該材料の能力(サーモクロミズム)によって、知られている。特に、その特性が、温度が上昇するにつれて、白色から、橙色、赤色および黒色に至る順序に従う、漸進的かつ可逆的な色変化の可能性を見込む、既知の半導体材料が存在する。あるいは熱安定性顔料と混合されてもよい、これらの熱変色性半導体材料は、改善された視認性および正確性を有する可逆的サーモクロミズムを含有する被膜を提供する利点を有する。
【0003】
熱変色性半導体材料の中でも、酸化ビスマスは、サーモクロミズムに関する魅力的な特性を有する。なぜなら、それは、室温と220℃との間の温度範囲内で白-黄色から明黄色に至る遷移を可能とし、これが可逆的様式であるからである。加えて、欧州特許第1405890号明細書から、酸化ビスマス(Bi23)をリン酸コバルト(青色熱安定性顔料)と組み合わせてもよく、それら顔料はケイ酸カリウムにより互いに結合することが知られている。この混合物を含有する被膜は、室温において青色であり、400℃において橙色へと変色する。
【0004】
しかしながら、これらの熱変色性半導体は、それらの使用を制限する大きな欠点を有する。それは、熱い表面上で用いられる際に、熱変色性半導体が油および脂質と適合性ではなく、それらは熱時に脂肪感受性であると言われる。実際、油または脂質と接触している際に、半導体金属酸化物は容易に熱還元され、そのような還元反応後に形成される化合物は、もはや熱変色性ではない。たとえば、熱い食用油(脂肪酸トリグリセリド)の存在下で、Bi23は、黒色化合物であり、何らの熱変色性も有さない金属ビスマス(Bi(m))に還元される。
【0005】
加えて、ある種の熱変色性半導体は、ある種の化合物と組み合わせられる際に、それらの特性を喪失する。たとえば、ある種の条件下、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の存在下で配合される酸化ビスマスは、PTFEと反応して、熱変色性を持たない白色のビスマスオキシフルオリド(BiOF)の形成をもたらす。この反応は、PTFE焼結(すなわち、PTFEの熱処理)の結果、たとえ少量であってもフッ化水素酸が放出される際にも、起こる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この理由のために、熱変色性半導体を全ての条件下で使用することができ、かつ前述の欠点を回避できるような解決法を提供する必要が発生している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱変色性半導体、より具体的には熱時に脂肪感受性である熱変色性半導体を保護するための解決法を提供し、特に熱変色性半導体を還元することができる油または脂質の場合において、それら熱変色性半導体を外部環境から保護する。
【0008】
結果的に、本発明は、コア-シェル構造を有する粒子であって、コアが少なくとも1種の熱変色性半導体を含み、シェルが:
- コアと接触し、無機または有機-無機ハイブリッド材料を含む内層と:
- 内層の材料とは異なる無機または有機-無機ハイブリッド材料を含む外層と
である少なくとも2つの層を含む粒子に関する。
【0009】
本発明は、前述の粒子を製造するための方法にも関する。
【0010】
本発明は、少なくとも1種の本発明の粒子を含む熱変色性顔料組成物にも関する。
【0011】
本発明は、本発明の熱変色性顔料組成物を含む焦げ付き防止被膜にも関する。
【0012】
本発明は、本発明の焦げ付き防止組成物および/または被膜の少なくとも1種を含む料理用品にも関する。
【0013】
本発明は、熱処理が与えられることを目的する物品または熱を発生させることを目的とする物品、特に料理用品における温度表示体としての、本発明の組成物の使用にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下の利点の少なくとも1つを有する:
- 本発明の粒子は、食品調理温度を中心とする目的とする温度範囲全体にわたって、顕著な視認性およびコントラストのある色変化を有する熱変色性機能を被膜に提供することを可能にする;
- 本発明の粒子は、健康および味覚の理由のみならず、安全性の理由により、および料理用品の被膜を破損するおそれがある瞬間的過熱を制限するために必要とされる、食品調理の際の温度の良好な検証を提供することができる;
- 本発明の粒子は、あらゆる種類の化合物と適合性であり、セラミック、エナメル、ゾル-ゲルまたはPTFEを含むフルオロカーボン樹脂であってもよい、あらゆる種類の被膜中に含ませることができる;
- 本発明の粒子は、高温を含む、油または脂質の存在下における使用に適合性である。なぜなら、当該粒子は脂質または油に関して不活性であり、金属ビスマスの生成は観察されないからである;
- 本発明の粒子は、厳しい化学処理に感受性ではない;
- 本発明の粒子は、可逆的熱変色性、すなわち、熱の効果による色の変化の後に温度が下降した際に、当該粒子は、その初期状態および初期色へと復帰し、この色変化サイクル(可逆性)を無限に反復することができる;
- 本発明の粒子は、高温において高い熱安定性を示し、半導体の融点まで、たとえばBi23の場合800℃まで、安定である;
- 本発明の粒子は、酸による分解に抵抗性であり、具体的には、フッ化水素酸に感受性ではなく、そのため、Bi23の場合にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の存在下でもビスマスオキシフルオリド(BiOF)が生成しない;
- 本発明の粒子は、特に摩擦に対して抵抗性である;
- 本発明の粒子のシェルは透明であり、粒子のコアの色の認識に影響せず、粒子のコアのサーモクロミズムの観察を妨害しない;
- 本発明の粒子は、前述の全てのこれらの性能特徴の組み合わせのため、改善された使用に関する耐久性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1に、本発明は、コア-シェル構造を有する粒子であって、コアが少なくとも1種の熱変色性半導体を含み、シェルが:
- コアと接触し、無機または有機-無機ハイブリッド材料を含む内層と:
- 内層の材料とは異なる無機または有機-無機ハイブリッド材料を含む外層と、
である少なくとも2つの層を含む粒子に関する。
【0016】
本発明の粒子は、コアと、複数層(好ましくは2層であるが多層構造もまた想定される)を有するシェルとを含むコア-シェル構造を有する粒子である。好ましくは、本発明の粒子のシェルの複数の層は連続的である。変形例によれば、内層は不連続的であることができ、外層は連続的であることができる。好ましくは、外層は連続的である。
【0017】
本発明において、術語「層」とは、連続層または不連続層として理解しなければならない。連続層(一体構造層とも呼ばれる)は、それが配置される表面全体を完全なインキ被覆を形成する単一完全体である。不連続層(または非一体構造層)は、複数の部分を含んでもよく、したがって単一完全体ではない。
【0018】
本発明のコア-シェル構造を有する粒子は、そのコア中に少なくとも1種の熱変色性半導体を含んでもよい。熱変色性半導体は、Bi23、Fe23、V25、WO3、CeO2、In23、パイロクロア半導体Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84、BiVO4、およびそれらの混合物から選択される。
【0019】
これらの熱変色性半導体は、特有の色を有し、具体的には:
- V25は、室温において橙色がかった黄色を有する;
- Bi23は、室温において、オフホワイト、淡黄色、または非常に淡い黄色を有する;
- BiVO4は、室温において黄色を有する。
- WO3、Ce23およびIn23は、Bi23の色と非常に近い色を有する;
- Fe23は、室温において橙色がかった赤色を有する;および
- パイロクロア半導体Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84は、室温において、橙色がかった黄色を有する。
【0020】
本発明において、「熱変色性半導体」の表現は、温度が上昇するにつれて可逆的な色変化を起こすことができる無機または有機化合物であると理解しなければならない。これら半導体性化合物の漸進的かつ可逆的な熱変色特徴は、材料の膨張による半導体の禁制帯幅の縮小に関連する。実際、アニオンおよびカチオンの格子の周期性が、エネルギー帯におけるエネルギー準位の集合をもたらす。最も高いエネルギーを有する充填エネルギー帯は価電子帯と呼ばれ、最も低いエネルギーを有する空エネルギー帯は伝導帯と呼ばれる。これら2つの帯域の間に、ギャップと呼ばれる禁制帯が存在する。半導体材料の色は、同一原子内の伝導帯から価電子帯への電子の授受、または一般的にアニオンのオービタルからカチオンのオービタルへの電子の授受(原子間光子吸収)に対応する、電荷移動の存在から生じることができる。
【0021】
本発明において意図される用途の分野において、料理用品のような加熱物品、またはアイロンのような加熱物品は、典型的には、10℃と300℃との間の温度範囲において用いられる。
【0022】
この温度範囲内において、以下の進行にしたがって半導体の色変化が生じる:淡黄色から明黄色へ(Bi23)、橙色がかった黄色から赤黄色(V25)、および橙色がかった赤色から褐色(Fe23)。
【0023】
本発明において、「熱変色性物質、混合物、または組成物」は、温度の関数として色が変化し、その変化が可逆的である、物質、混合物、または組成物であると理解しなければならない。
【0024】
本発明のコア-シェル構造を有する粒子は、そのコア中に、少なくとも1種の熱変色性顔料、および/または第1の物とは異なる第2の熱変色性半導体をさらに含んでもよい。
【0025】
本発明において、「熱安定性顔料」の表現は、所定の温度範囲内の高温にさらされた際に、非常に少ない色味の変化を示すか、色変化を全く示さない、無機または有機化合物を意味すると理解しなければならない。
【0026】
好ましくは、本発明の粒子のコアは、混合物(Bi23+Co3(PO42)、(Bi23+LiCoPO4)、(Bi23+CoAl24)、(Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84+Co3(PO42)および(V25+Cr23)から選択される少なくとも1種の熱変色性顔料と少なくとも1種の熱変色性半導体との混合物をさらに含んでもよい。特に、Bi23(熱変色性)およびCoAl24(熱安定性、青色)とを15:1の質量比で混合物中で組み合わせ、それら顔料がケイ酸カリウムで結合させられている場合、この混合物を含有する被膜は、室温において青色であり、400℃において橙色に変化する。
【0027】
熱変色性半導体と熱安定性顔料との個々の量の間の質量比の例を、色の経過および最終的な色とともに以下に示す:
- 3:1のBi23対Co3(PO42の質量比を有する、Bi23(室温において淡黄色)とCo3(PO42(熱安定性、紫色)との混合物;この混合物は室温において藤色であり、200℃において緑色に変化する;
- 1:3のBi23対LiCoPO4の質量比を有する、Bi23(室温において淡黄色)とLiCoPO4(熱安定性、紫色)との混合物;この混合物は室温において紫色であり、200℃において灰色に変化する;
- 30:1のBi23対CoAl24の質量比を有する、Bi23(室温において淡黄色)とCoAl24(熱安定性、青色)との混合物;この混合物は室温において青色であり、200℃において緑色に変化する;
- 1:1のV25対Cr23の質量比を有する、V25(室温において橙色がかった黄色)とCr23(熱安定性、緑色)との混合物;この混合物は室温において緑色であり、200℃において褐色に変化する;
- 1:4のY1.84Ca0.16Ti1.840.161.84対Co3(PO42の質量比を有する、Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84(室温において橙色がかった黄色)とCo3(PO42(熱安定性、紫色)との混合物;この混合物は室温において緑色であり、200℃において灰色に変化する。
【0028】
熱変色性半導体および熱安定性顔料の組み合わせの上記のリストは限定的なものではなく、他の組み合わせも考慮することができる。
【0029】
熱変色性半導体および熱安定性顔料の組み合わせの主要な効果は、利用可能な色味の範囲が特に広いことである。加えて、色味の変化の知覚は同様に増強され、オフホワイトから明黄色へと進行する熱変色性半導体の混合物が、この方法において青色顔料を組み合わせられる場合に、シアン-青色からレモン色-緑色へと変化することができる。ヒトの眼の最高感度は、緑色に対応する波長の周囲を中心とするため、この混合物は、熱変色体単独よりも高い比色計パラメータを必ずしももたらさないものの、ヒトの眼はこの変化をより良好に知覚する。
【0030】
本発明のコア-シェル構造を有する粒子は、コアに接触する内層を含み、この内層は無機材料または無機-有機ハイブリッド材料を含む。本発明のコア-シェル構造を有する粒子のコアの内層の無機材料または無機-有機ハイブリッド材料は、好ましくは、以下の元素の酸化物から選択される1種または複数種の金属酸化物を含む:Al、Si、Fe、Zr、Ce、Ti、B、Mg、Sn、Mn、Hf、Th、Nb、Ta、Zn、Mo、Ba、Sr、Ni、およびSb。コアの内層の無機材料または無機-有機ハイブリッド材料は、好ましくは、1種または複数種のケイ素酸化物を含む材料である。
【0031】
有利なことには、本発明のコア-シェル構造を有する粒子は、内層の材料とは異なる無機または有機-無機ハイブリッド材料を含む外層を含む。内層の材料とは異なる、コアの外層の無機材料または無機-有機ハイブリッド材料は、以下の元素の酸化物から選択される1種または複数種の金属酸化物を含む:Al、Si、Fe、Zr、Ce、Ti、B、Mg、Sn、Mn、Hf、Th、Nb、Ta、Zn、Mo、Ba、Sr、Ni、およびSb。内層の材料とは異なる、コアの外層の無機材料または無機-有機ハイブリッド材料は、好ましくは、1種または複数種のアルミニウム酸化物(アルミナすなわちAl23)を含む材料である。
【0032】
好ましくは、本発明の粒子のシェルの内層の無機材料または無機-有機ハイブリッド材料は、1種または複数種のケイ素酸化物を含む材料であり、かつ、本発明の粒子のシェルの外層の無機材料または無機-有機ハイブリッド材料は、1種または複数種のアルミニウム酸化物を含む材料である。
【0033】
一般的規則として、外層はコアと接触することはない。
【0034】
第1の変形例によれば、内層と外層とは互いに接触している。
【0035】
第2の変形例によれば、本発明の粒子は、内層と外層との間に配置され、無機材料または無機-有機ハイブリッド材料から作製される中間層をさらに含むシェルを有する。この中間層は、内層の材料または外層の材料と同一または異種の材料で作製してもよい。
【0036】
有利なことには、本発明の粒子は、800nmと1000μmとの間のd50、好ましくは900nmと700μmとの間のd50、より好ましくは1000nmと500μmとの間のd50を有する。粒子の寸法またはそれらの粒子寸法は、一般的には、レーザー分析により決定される。それらの寸法はd50によって表される。Dv50とも呼ばれるd50は、体積による粒子寸法分布の50百分位数に相当し、すなわち、粒子の50%がd50よりも小さい寸法を有し、50%がd50よりも大きい寸法を有する。
【0037】
有利なことには、本発明の粒子は、一般的に、5nmと500nmとの間、好ましくは10nmと250nmとの間、より好ましくは15nmと100nmとの間の厚さを有するシェルを有する。
【0038】
有利なことには、粒子のシェルは、透明および連続的であり、有色の温度表示体としてのその役割を満たすことを可能にする。
【0039】
有利なことには、本発明の粒子は、粒子のコア中に被包された熱変色性半導体に依存して、規定された温度範囲内で可逆的な色変化を起こす。
【0040】
有利なことには、本発明の粒子は、一般的に約450℃の温度まで、油に対して、より詳細には、植物、動物または合成由来の脂肪酸トリグリセリドに対して、および拡張して脂肪酸エステル(脂肪酸モノエステル、脂肪酸ジエステル、または脂肪酸多エステル)に対して、不活性であるという特性を有する。
【0041】
本発明は、以下の工程を含む、本発明の粒子を製造するための方法にも関する:
i) 熱変色性半導体を提供する工程と;
ii) 加水分解-縮合段階を開始するために、工程i)で提供される粉末を、少なくとも1種の金属アルコキシドゾル-ゲル前駆体、水、およびアルコールの混合物中に分散させ、得られる混合物を連続的に撹拌する工程と;
iii) 工程ii)で得られる粒子を、反応しなかった反応剤および溶媒から分離する工程と;
iv) 工程iii)で得られる粒子に、200℃と600℃との間の温度において少なくとも10分間にわたる熱処理を施す工程と;
v) 工程iv)で得られる粒子を、流動床反応器内に配置し、反応器を100℃と500℃との間の温度に加熱する工程と;
vi) 加熱された反応器中に、金属酸化物前駆体と交替する水を配置する工程と;
vii) コア-シェル構造を有する粒子を得る工程。
【0042】
工程i)は、熱変色性半導体が粗い粒子寸法(たとえば、10μmより大きい)を有する固体の形態で入手される場合、微細な粉末を得るために、熱変色性半導体を粉砕することを含んでもよい。好ましくは、熱変色性半導体は、工程i)の後で、1μmと10μmとの間のd50、より好ましくは1μmと9μmとの間のd50を有する。好ましくは、小さい粒子寸法を有する熱変色性半導体粉末の等級を選択し、凝集を回避しつつ熱変色性半導体粉末を被包することが有利である。実際、被包(工程ii))の後では、保護用シェルの破壊または破砕の危険のために、得られる粒子はもはや粉砕できない。この方法において、本発明の最終粒子は、配合物への容易な分散を可能にし、かつ、得られる被膜の良好な色カバレッジを可能にするのに十分に小さい粒子寸法を有するであろう。
【0043】
有利なことには、本発明の方法は、工程i)と工程ii)との間に、熱変色性半導体の熱処理のための任意選択的工程を含んでもよく、熱処理は、100℃と600℃との間、好ましくは200℃と500℃との間、より好ましくは400℃と450℃との間の温度で実施される。この任意選択的熱処理は、粒子表面の初期活性化を可能にする。
【0044】
工程ii)は、粒子シェルの内層を形成する工程である。この工程は、工程i)で得られる粉末を金属アルコキシドゾル-ゲル前駆体、水およびアルコールと接触させることを伴う。工程ii)の目的は、加水分解-縮合段階を開始することである。この接触は、好ましくは、金属アルコキシドおよびアルコールにより形成される混合物中への粉末の分散、次いで、加水分解-縮合段階を開始させる水を添加することによる、2工程で実施される。この水のpHは、たとえばアンモニアを添加することにより、塩基性のpHに予め調整してもよい。シランの加水分解を開始するため、分散物を撹拌しながら、調整されたpHを有する水をゆっくりと添加する。水は、1と10との間、好ましくは2と5の間の比Rにしたがい、化学量論超過量まで添加される。ここで、Rは、シランのシラノール基のモル数で除した水のモル数に等しい(有利なことには、実施例においてRは2.5である)。
【0045】
本発明の方法の工程ii)において、金属アルコキシドゾル-ゲル前駆体は、好ましくは、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、およびジメチルジメトキシシランまたはそれらの混合物のようなアルコキシシラン前駆体、好ましくは、テトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0046】
用いられるTEOSの量(mTEOS)は、比表面積(S)および粉砕された半導体の使用質量(mBi)の関数として、目的とするシェルの厚さ(e)に相当するように計算することができる。粒子が完全に球状であること、および全ての粒子が同一の半径(r)を有することを仮定すると、用いるTEOSの量は以下の式で与えられる。
【0047】
【数1】
【0048】
試験は、30nmの理論的内層厚さが良好な結果を与えることを示す。内層の厚さは、良好な保護を提供するために薄すぎてはならず、熱変色体の色特性を妨害するのを回避するために厚すぎてはならない。
【0049】
本発明の方法の工程ii)において、アルコールは、一般的には、第1級アルコール、第2級アルコール、または第3級アルコールであり、メタノール、エタノール、または好ましくはイソプロピルアルコール、またはそれらの混合物の1種のようなものである。
【0050】
有利なことには、本発明の方法の工程ii)は、塩基性pH、すなわち、厳密に7より大きいpH、好ましくは8と12との間のpH、より好ましくは9.5と11.5との間のpHにおいて実施される。
【0051】
工程ii)における塩基性pHを得るために、塩基を添加することにより、pHを調整してもよい。好ましくは、本発明の工程ii)において、アンモニアの水溶液が添加される。
【0052】
有利なことには、本発明の方法の工程ii)は、室温、好ましくは12℃と30℃との間の温度において実施される。
【0053】
有利なことには、工程ii)は、室温において、20分と24時間との間、好ましくは30分と12時間との間、より好ましくは1時間と5時間との間の期間にわたって、室温において撹拌しながら継続される。
【0054】
本発明の方法の工程iii)を用いて、反応しなかった反応剤および溶媒から粒子を分離することにより、工程ii)で得られる粒子を回収する。これは、濾過、デカンテーション、遠心分離、または他の相分離技術によって実施することができる。
【0055】
本発明の方法の工程iv)を用いて、工程iii)で得られる粒子に、200℃と600℃との間の温度において、少なくとも10分間にわたって、熱処理を適用する。これは、粒子シェルの内層の緻密化のための工程であり、すなわち、材料の密度が増大する。この方法において、内層の材料は、より低い多孔性を有するであろう。熱処理温度は、好ましくは350℃と575℃との間、450℃と550℃との間である。
【0056】
試験は、500℃における30分間にわたる緻密化が良好な保護を提供したことを示す。厳密に350℃より低い時間または温度は、シリカ格子を有効に架橋および緻密化するのに適当ではなく、厳密に600℃より高い時間または温度は、保護の有効性を低下させる(おそらく、熱膨張の差のための内層の破砕に起因する劣化)。
【0057】
有利なことには、本発明の粒子は、一般的に、2nmと200nmとの間、好ましくは5nmと100nmとの間、より好ましくは10nmと50nmとの間の内層厚さを有する。
【0058】
本発明の方法の工程v)を用いて、工程iv)で得られる粒子を流動床反応器内に導入し、次いで反応器を100℃と500℃との間の温度に加熱する。反応器加熱温度は、好ましくは120℃と400℃との間、より好ましくは150℃と200℃との間である。有利なことには、粒子は、流動床中の浮遊物中にある。
【0059】
本発明の方法の工程vi)において、予め加熱された反応器中に金属酸化物前駆体が導入される。この方法において、熱の効果により、この金属酸化物前駆体が揮発する。金属酸化物前駆体は、四塩化シリカ、六フッ化タングステン、テトラメトキシシラン(Si(OCH34)、テトラエトキシシラン(Si(OC254)、トリメチルアルミニウム(Al(CH33)、トリエチルアルミニウム(Al(C253)、トリアルキルアルミニウム化合物、イットリウムアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、およびそれらの混合物から選択することができる。好ましくは、金属酸化物前駆体は、トリメチルアルミニウム(TMA)のようなアルミニウム前駆体である。好ましくは、工程vi)は、原子層を堆積させること(ALD、すなわち原子層堆積法)により実施される。
【0060】
工程vi)を用いて、粒子の表面に薄い原子層を堆積させる。前述の層は好ましくは単原子である。好ましくは、工程vi)は、極薄い単原子層の累次的堆積を含む。1つの変形例によれば、工程vi)を累次的に反復して、薄層の厚さを増大させることができる。
【0061】
有利なことには、本発明の粒子は、一般的には、2nmと200nmとの間、好ましくは5nmと100nmとの間、より好ましくは10nmと50nmとの間の外層厚さを有する。
【0062】
本発明の工程vii)において、コア-シェル構造を有する本発明の粒子が得られる。
【0063】
本発明は、少なくとも1種の本発明の粒子を含む熱変色性顔料組成物にも関する。
【0064】
本発明の組成物は、Co3(PO42、LiCoPO4、CoAl24、Cr23、およびそれらの混合物の1種のような、以上で定義した少なくとも1種の熱安定性顔料を追加的に含んでもよい。
【0065】
本発明の生成物は、粒子に関して前述した特性および利点と同一の特性および利点を有し、特に、温度が上昇する際に可逆的に色を変化させることができる。
【0066】
本発明は、本発明の熱変色性顔料組成物を含む焦げ付き防止被膜にも関する。
【0067】
本記載において、術語「焦げ付き防止」および「抗粘着性」は、互換的に用いられる。
【0068】
本発明において、術語「被膜」は、一般的に、少なくとも3つの層を含む被膜と理解しなければならない:
- 結合層またはプライマー層または結合プライマーとも呼ばれる、基材に直接付着される第1層;この層が基材に対して堅固に接着すること、およびこの層がその機械的特性、硬度、耐引掻性の全てを有する被膜を提供することが好ましい;
- 本発明の熱変色性顔料組成物を含む層であって、熱安定性結合剤と結合してもよく、かつ熱安定性顔料と組み合わせられてもよい層;この層は、装飾層またはデコールとも呼ばれる;
- 仕上層と呼ばれる連続的かつ透明な表面層;この層は、熱変色性顔料組成物の層を摩耗から保護し、かつ被膜にその非粘着特性を提供しつつ、熱変色性顔料組成物の層の完全な視認性を可能にする。
【0069】
有利なことには、本発明の焦げ付き防止被膜は、結合剤として、少なくとも300℃まで熱安定性である結合剤を含む。被膜層中に用いられる熱安定性結合剤は、好ましくは、少なくとも300℃まで熱安定性である結合剤であり、有利なことには、エナメル、単独または他の熱安定性樹脂との混合物のいずれかであるフルオロカーボン樹脂またはフルオロカーボン樹脂の混合物、ポリエステル-シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーン、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリイミド、およびゾル-ゲル工程によって合成される無機ポリマーまたは有機/無機ハイブリッドポリマー(ゾル-ゲル材料)から選択することができる。
【0070】
フルオロカーボン樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロプロピルビニルエーテルとのコポリマー(PFA)、またはテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)、またはこれらフルオロカーボン樹脂の混合物であることができる。少なくとも200℃の温度に耐える他の熱安定性樹脂は、ポリアミド-イミド(PAI)、ポリエチレンスルフィド(PES)、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはシリコーンからなることができる。最後に、熱安定性結合剤として、シリコーン樹脂またはポリエステル-シリコーン樹脂を用いることができる。
【0071】
有利なことには、本発明の焦げ付き防止被膜は、結合剤として、シリコーン樹脂またはポリエステル-シリコーン樹脂を含む。
【0072】
有利なことには、本発明の焦げ付き防止被膜は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のケイ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、およびそれらの混合物から選択される結合剤を含む。
【0073】
有利なことには、本発明の焦げ付き防止被膜は、結合剤として、少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートのマトリクスと、被膜の総質量を基準として少なくとも5質量%の、前記マトリクス中に分散される少なくとも1種のコロイド状金属酸化物とを含むゾル-ゲル材料を含む。ゾル-ゲル材料に基づく結合剤の場合、有利なことには、前記材料は、少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートのマトリクスと、被膜の総質量を基準として少なくとも5質量%の、前記マトリクス中に分散された少なくとも1種のコロイド状金属酸化物とを含む。
【0074】
本発明の焦げ付き防止被膜は、有機-無機被膜、または完全に無機の被膜であることができる。
【0075】
本発明において、「有機-無機被膜」は、特に、用いられる前駆体および被膜の焼成温度を考慮に入れて、または有機充填材の含有を考慮に入れて、格子は本質的に無機であるが、有機基を含む被膜であると理解しなければならない。
【0076】
本発明において、「完全に無機の被膜」は、何らの有機基も持たない完全に無機の材料からなる被膜であると理解しなければならない。そのような被膜は、少なくとも400℃の焼成温度を伴うゾル-ゲル方法によって、あるいは、400℃未満であってもよい焼成温度を伴うテトラエトキシシラン(TEOS)から得てもよい。
【0077】
前述の熱安定性結合剤は、結合層中または装飾層中または仕上層中のいずれか、あるいは3つの層全ての中に、あるいは3層中の2つの層中に存在してもよい。
【0078】
これらの種々の層(したがって、それらそれぞれの熱安定性結合剤)は、互いに適合性であることが好ましい。しかしながら、全ての層において結合剤が同一であることは必要とされない。したがって、第2層中にシリコーン樹脂を有する一方で、ベース被膜および/または仕上被膜中の結合剤がゾル-ゲル材料であることができる。
【0079】
同様に好ましくは、デコールは、シルクスクリーン印刷またはパッド印刷により塗布される。特に、上記デコールは、フランス国特許第2576253号明細書に記載される方法に従って塗布されてもよい。
【0080】
色変化は、本発明の粒子が埋め込まれている熱安定性結合剤層を通して視認できる。なぜなら、この層が透明であるからである。ベース被膜がPTFEのようなフルオロカーボン樹脂からなり、デコールもまたフルオロカーボン樹脂に基づく場合において、ベース被膜およびデコールの焼成は、デコールの樹脂粒子がベース被膜の樹脂粒子と一緒に焼結することを可能とし、焼成が同時である場合、得られる同時焼結は、第1層に対するデコールの優れた結合を提供する。
【0081】
熱変色性半導体の色変化は、物品が熱く、したがって火傷の危険を伴うことに使用者に警告すること、および物品の表面がその使用のために適合した温度に到達したことを示すことを可能にする。好ましくは、第1層およびデコールは、熱安定性結合剤の連続層、好ましくは透明フルオロカーボン樹脂からなる連続層(仕上層)により被覆され、当該連続層は、好ましくはベース被膜の樹脂およびデコールの樹脂と一緒に同時に焼成され、全ての粒子が互いに焼結することを可能にする。よって、得られる表面は、デコールの存在に影響されない最適な焦げ付き防止特性を達成する。
【0082】
特定の変形例において、デコールは連続的または非連続的である。当然、デコールは、同心円、文字または図のような、任意の他の形態からなってもよい。デコールが連続的である場合、それは基材の全表面を被覆してもよい。
【0083】
デコールは、少なくとも2種のパターンを含んでもよく、一方は温度の上昇に伴って暗色化する化学化合物を含有し、他方は温度の上昇に伴って明色化する化学化合物を含有する。この方法により、2種のパターンの間に生じるコントラストは、温度変化のより良好な知覚を可能にする。
【0084】
別の変形例において、デコールは、少なくとも2種のパターンを含んでもよく、一方は少なくとも1種の熱変色体を含み、他方は少なくとも1種の熱安定体を含む。
【0085】
本発明は、少なくとも1種の本発明の熱変色性顔料組成物および/または本発明の焦げ付き防止被膜を含む料理用品にも関する。
【0086】
本発明において、「料理用品」なる表現は、熱処理が加えられることが意図されている物品、または熱を発生させることが意図されている物品であると理解しなければならない。
【0087】
本発明において、「熱処理が加えられることが意図されている物品」なる表現は、外部加熱システムによって加熱され、前述の外部加熱システムによって生じる熱エネルギーを物品と接触している材料または食品へと伝達することができる物品(ポット、平鍋、中華鍋およびバーベキューグリルのようなもの)であると理解しなければならない。
【0088】
本発明において、「熱を発生させることが意図されている物品」なる表現は、アイロン、ヘアストレートナー、蒸気発生器、または調理を目的とする家電製品のような、それ自身の加熱システムを有する加熱物品であると理解しなければならない。
【0089】
本発明は、本発明の粒子、組成物または被膜の温度表示体としての使用、特に熱処理が加えられることが意図されている物品(特に、料理用品)または熱を発生させることが意図されている物品における温度表示体としての使用にも言及する。
【0090】
本発明は、本発明の粒子、組成物または被膜の料理用品における温度表示体としての使用にも言及する。
【実施例
【0091】
(粒子およびシェルの特性評価)
本発明のコア-シェル構造粒子のシェルの品質の巨視的評価を実施するために、2種の観察を行う:
- 本発明の粒子の維持される色および熱変色特性の視覚的観察:この検証は、室温および100℃と300℃との間の温度への加熱後における、粒子のコアに被包されていない熱変色性半導体の色変化と、本発明の粒子のコアに被包された同一の熱変色体の色変化との比較に基づく;色の差は最小限でなければならない;
- 粒子の油試験:この試験は、脂肪を用いる調理による料理用品の使用条件を模倣することにより、粒子中に被包された熱変色性半導体に提供される保護の有効性を評価することからなる。
【0092】
(サーモクロミズム検証方法:油試験)
この試験を、以下のように実施する。
・ 試験される被包されている熱変色性半導体または被包されていない熱変色性半導体を100mLのビーカー内に配置する;25mLのピーナッツ油を添加する;スパチュラを用いて熱変色性半導体を手動で分散させる;
・ ビーカーを、200℃における9時間にわたる熱処理、または加速試験のための270℃における2時間にわたる熱処理のために、炉の中に配置する;
・ ビーカーを炉から取り出し、開放空気中で冷えるままにし、次いで熱変色性半導体を濾取および洗浄し、その色およびサーモクロミズムを観察する;(油試験前および油試験後の熱変色性半導体間の)サーモクロミズムの色差は最小でなければならない。
【0093】
試験後に、いくつかの観察を行う:
・ 炉を熱いままにした際に、熱変色性半導体ベッドの色の均質性を観察する;
・ 冷却後に、上澄み油の色を観察する。次いで、過剰の油を除去した後に、熱変色性半導体ベッドの色およびその均質性を、格付けスケールにより格付けする。
【0094】
熱変色性半導体が油に対して脂肪感受性である場合、当該半導体はサーモクロミズムを喪失し、Bi23の場合には黒色に変化する。
【0095】
以下の格付けスケールを用いて、色の劣化(スケールは灰色の濃淡に適合した)を分類してもよい。
【0096】
【表1】
【0097】
粒子のシェルの内層および外層の厚さおよび連続性を特性決定するために、以下の3工程を用いて調製した試料について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った:1)粉砕を伴わないエタノール中への半導体の分散;2)10分間にわたる超音波浴;3)孔を有するカーボン膜で被覆された銅格子上への堆積。
【0098】
同様に、本発明の料理用品の種々の試験を実施し、長期にわたって調理が行われる際の物品中に組み込まれた温度表示体の老化を評価した:
- 油試験:物品の底を油で被覆し、9時間にわたって200℃に加熱する。
- ステーキの調理:10枚のステーキを連続して物品中で調理する。
- 使用試験:可能な限り綿密に物品の日常的使用を模倣するために、物品中で、ステーキ、ポテト、サヤインゲン、ラムチョップおよびクレープを交替で調理する。
【0099】
(製品)
- 熱安定性顔料:Co3(PO42(室温において紫色)、
- 熱変色性半導体:粉末形態のBi23(室温においてわずかに黄色の色味を有するオフホワイト)、
- シリカシェル:前駆体としてテトラエトキシシラン(TEOS)を用いるゾル-ゲル法により得られる、
- 30%シリカを有する水溶液の形態にあるコロイダルシリカ、
- イソプロピルアルコール、
- アルミナシェル:トリメチルアルミニウム(TMA)、
- ゾル-ゲル硬化前駆体:メチルトリメトキシシラン(MTMS)またはメチルトリエトキシシラン(MTES)、
- 有機酸:酢酸、
- 増粘剤:メタクリル酸およびアクリル酸エステルのコポリマー、
- 溶媒:プロピレングリコール
- 油:ピーナッツ油、
- 結合剤:分散物の形態のPTFE。
【0100】
(装置)
- VMI社により販売されている、Supertest剪断ブレードを取り付けたRaineriミキサー
【0101】
(本発明の粒子を製造するための原理)
酸化ビスマスは、バリアを形成し、熱変色性半導体を外部環境から隔離するシリカシェルに被包される。反応媒体中へのBi23粉末の良好な分散の後、アルカリ性条件下、アルコキシシラン前駆体を用いるゾル-ゲル法によりシリカシェルを形成する。デカンテーションの後、粉末を回収、洗浄、および乾燥させる。次いで、脂肪に対して完全に不浸透性にするために、そのように形成したシェルを熱処理により緻密化する。次いで、原子層堆積法により、内部シリカ層に対してアルミナの堆積物を付着させる。コアがBi23を含むコア-シェル構造を有する粒子が得られる。
【0102】
(実施例1:本発明のBi23粒子の製造)
<1.1 工程i): 分散>
500gのBi23半導体粉末を、粗いふるいにかけて、凝集物を除去する。
【0103】
<1.2 工程ii): 分散および内層の形成>
この工程は、シリカ前駆体の加水分解-縮合段階の開始に相当する。
【0104】
1,800mLの体積を有するガラスビーカーに300gのイソプロピルアルコールを注加し;次いで剪断ブレードを取り付けたRaineriミキサーを用いて激しく混合する。先に得られた500gのBi23粉末を、混合しながらイソプロピルアルコール中へと徐々に導入する。導入時間は約35秒である。得られる分散物を、25~30分間にわたって激しい撹拌を続けたままにする。
【0105】
最初に、混合しながら、イソプロピルアルコール中のBi23分散物に対して、320gのオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を非常にゆっくりと添加する。
【0106】
並行して、以下の比率にしたがって、pH11.3のアルカリ性水溶液を調製する:300gの脱イオン水(用水)に対して21gの10.25%NH4OH溶液。Bi23/TEOS/イソプロピルアルコール分散物を不安定化させないように、このアンモニア含有水溶液を50gのイソプロピルアルコール中に希釈する。
【0107】
次いで、イソプロピルアルコール中で希釈されたこのアンモニア溶液276gを、イソプロピルアルコール中のTEOSおよびBi23の分散物に対して、非常にゆっくりと添加する。
【0108】
用いられるTEOSの量(mTEOS)は、比表面積(S)および使用される粉砕Bi23の使用質量(mBi)の関数として、目的とするシェルの厚さ(e)に相当するように計算することができる。粒子が完全に球状であること、および全ての粒子が同一の半径(r)を有することを仮定すると、用いるTEOSの量は以下の式で与えられる。
【0109】
【数2】
【0110】
用いる粉末の比表面積(S)は、2.5m2/gと推定された。目的とする厚さ(e)は30nmであり、Bi23の質量(mBi)は500gであった。したがって、TEOSの計算量(mTEOS)は320gであった。加水分解-縮合を、激しい撹拌を伴い、室温および遮蔽(ビーカーをアルミニウムホイルで覆う)条件下、4時間にわたって継続する。
【0111】
<1.3 工程iii): 分離>
次いで、合成溶媒および反応しなかった反応剤の洗浄除去と組み合わせられるデカンテーションによって、工程ii)で得られる粒子を取り出す。
【0112】
<1.4 工程iv): 緻密化>
内部シリカ層を可能な限り不浸透性にするために、最後の熱緻密化工程を行う。
【0113】
約100℃の赤外線乾燥チャンバー中で、工程iii)で得られる粒子を、30~60分間にわたって乾燥させ、次いで、500℃において30分間にわたって緻密化させる。
【0114】
この方法によって得られる粒子は、Bi23コアおよびシリカシェルを有する、コア-内層形態を有する。このシェルは連続的であり、油不浸透性であり、透明であり、少なくとも450℃まで耐熱性であり、かつ、配合物中への良好な分散を可能にする最終粒子寸法を有する。
【0115】
<1.5 工程v): 反応器の準備>
175mLの反応器に100gのBi23/SiO2粒子を充填する。窒素フラッシュをしながらチャンバーを180℃まで上昇させ、数時間にわたって流動床中の生成物が乾燥するままにする。
【0116】
<1.6 工程vi): 原子層堆積法(ALD)によるアルミナの堆積>
ALDによるアルミナの堆積のために、用いられる前駆体はトリメチルアルミニウム(TMA)および水である。得られる反応生成物はメタンである。方法を、オンラインの残留ガス分析(RGA-残留ガス分析器)により追跡して、前駆体の添加を点検する。
【0117】
最初に、反応器中へのTMAの導入を開始する。そして、流動床の出口においてメタンが検出される;その際、TMAは基質の表面との反応により消費されるため、TMAは検出されない;TMAは、表面の利用可能な反応部位の全てと反応し続ける。そして、メタンは連続的に生成される。ひとたび、全ての部位がTMAと反応すると、メタン濃度の低下およびTMA信号の突然の急上昇によってRGAにより検出することができる瞬間、TMAを停止し、反応器中に気相として水を導入する。表面上の全ての部位における水の反応は、同様にRGAによって追跡され、加水分解が完了する際に、水の流れを停止する。
このTMA/H2Oサイクルを、100回にわたって反復する。
【0118】
<1.7 工程vii): 本発明の粒子の獲得>
100サイクルのTMA/H2O堆積の後、反応器を冷却させ、粉末を取り出す。この得られる粉末状黄色粉末は、Bi23がシリカおよび次いでアルミナに被覆されている本発明のコア-シェル粒子を含む。
【0119】
MET観察は、得られる粒子の全てが、30nm~50nmの厚さのシェルを有することを示す。粒子の全ては、連続的なシェルで被覆されている。
【0120】
<1.8 油試験:>
最初に、油試験を用いて、本発明のコア-シェル粒子の粉末を評価する。
以下の表に示されるように、270℃の油浴中2時間後の粉末の色を、他の粉末との比較により格付けする。
【0121】
<1.9 内層のみからなるBi23粒子に基づく温度表示体の製造>
実施例1に記載される工程i)~iv)と同一であるが、工程v)~vii)を用いない方法により、Bi23粒子を調製する。そして、粉末状黄色粉末が得られる。この粉末は、油試験に対するまずまずの抵抗性(7/10の格付け)を示す。
【0122】
【表2】
【0123】
(実施例2:少なくとも1種の本発明の粒子を含む、本発明の熱変色性顔料組成物の製造)
最初に、以下に記載する配合にしたがって、リン酸コバルトCo3(PO42に基づく熱安定性紫色顔料を含む顔料ペーストを調製する。
【0124】
【表3】
【0125】
次いで、剪断ブレード(粒子被膜を破壊しないように粉砕しない)を用いて、紫色顔料ペーストP1と、実施例1で本発明にしたがって調製したシリカおよび次いでアルミナに被覆されているBi23粒子から、熱変色性顔料組成物を調製した。
【0126】
【表4】
【0127】
(実施例3:本発明の被膜の作製)
<3.1 第1層の調製>
既知の慣用の方法にしたがって、フルオロカーボン樹脂、結合樹脂、および無機補強充填材に基づく被覆剤組成物を調製する。予め形成されたアルミニウムキャップの内側にエアガンによって付着させる前に、この被覆剤組成物を濾過する。この基材は、最初に脱脂され、基材表面に対する被覆剤組成物のより良好な接着のためにホコリを払い、次いでその比表面積を増大させるために基材を処理する。5ミクロン~50ミクロンの厚さの少なくとも1つの層として、被膜を付着させる。多層塗布の場合、それぞれの層は、次の層の塗布の前に乾燥される。
【0128】
乾燥させた被膜下層に対して、パッド印刷により、本発明の熱変色性顔料組成物C1を塗布する。デコールのより良好な視認性のため、熱安定性緑色表示体の添加が推奨される。
【0129】
<3.2 表面層の調製および焼成>
PTFE分散物、溶媒、および慣用の添加剤を含む無色の被覆剤組成物を調製する。表面層は、第1層と同一の方法により、第1層およびデコール上に作製される。
【0130】
ひとたび全ての層が塗布および乾燥されたならば、物品を11分間にわたって430℃で焼成する(焼結)。
【0131】
<3.3 被膜の評価>
このように作製した被膜の品質および熱変色性表示体の品質を、被膜の色およびサーモクロミズムの視覚的観察により評価する。
【0132】
記載された実施形態の例において、室温において藤色であり、200℃において緑色に変化する熱表示体が得られる。表示体に対して実施された種々の老化試験(油試験、ステーキの調理、および使用試験)は、表示体の色の最小限の変化を示す。
【0133】
(比較例1:同一材料の2つの層からなる二重被膜を有するBi23粒子の製造)
実施例1に記載される工程i)~iv)と同一の方法により、Bi23粒子を調製し、次いで、工程ii)~iv)を二回目も全く同一に反復する。そして、粉末状淡黄色粒子の粉末が得られる。
【0134】
得られる粒子は、Bi23コアと、シリカの内層、および内層と同一であるシリカの外層からなるシェルとのコア-内層-外層形態を有する。
【0135】
これらの粒子を、油試験にて試験した。
しかしながら、これらの粒子は、油試験において劣悪な抵抗性を示す。
実際、270℃の油浴中2時間後の粉末の色を、以下の表に示す他の粉末との比較により格付けする。
【0136】
【表5】
【0137】
(比較例2:外層のみからなるBi23粒子の製造)
実施例1に記載される工程i)およびv)~vii)と同一であるが、工程ii)~iv)を用いない方法により、Bi23粒子を調製する。したがって、内層は作製されず、外層のみが作製される。
【0138】
非熱変色性粉末が得られる。実際、TMA前駆体がBi23と反応し、内部シリカシェルを持たないこの場合において、Bi23粒子の表面はBi(m)に還元される。得られる化合物は黒色であり、何ら熱変色特性を持たない。