(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】膜形成性分散液及びサイジング分散液
(51)【国際特許分類】
D06M 15/59 20060101AFI20230113BHJP
D06M 13/328 20060101ALI20230113BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20230113BHJP
【FI】
D06M15/59
D06M13/328
D06M101:40
(21)【出願番号】P 2020531811
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2018072483
(87)【国際公開番号】W WO2019038249
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-07-26
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520060025
【氏名又は名称】エーシーアール ザ サード ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】ACR III B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】フェルカウレン,パウル
(72)【発明者】
【氏名】アマート,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラ,シモーナ
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/136888(WO,A1)
【文献】特開2014-043509(JP,A)
【文献】特表2017-515996(JP,A)
【文献】特表2017-521565(JP,A)
【文献】特開昭50-018796(JP,A)
【文献】特開2015-074837(JP,A)
【文献】特表2017-515992(JP,A)
【文献】特開2010-090188(JP,A)
【文献】特開2013-253364(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0177490(US,A1)
【文献】国際公開第2015/200591(WO,A1)
【文献】特表2007-502893(JP,A)
【文献】特開平06-128495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能化ポリアミドと水と
中和剤を含む膜形成性分散液であって、
前記官能化ポリアミドがカルボキシル化合物官能化ポリアミドおよび/またはスルホネート化合物官能化ポリアミドであり、
前記官能化ポリアミドは、水の存在下で、少なくとも部分的に1種以上の中和剤と反応し、
前記中和剤は、少なくともジエチルエタノールアミン又はトリエチルアミンのいずれか一方を含み、
前記膜形成性分散液の固形分における官能化ポリマーの割合は、膜形成性分散液の固形分総量に対し
て35重量
%以上であり、
前記膜形成性分散液は、粒子が個々の状態で、連続相である水相中に懸濁されている
膜形成性分散液。
【請求項2】
前記中和剤は
トリエチルアミンである請求項1に記載の膜形成性分散液。
【請求項3】
前記中和剤は、中和比が、官能化ポリアミドの酸官能価に対して100%以上400%以
下の範囲であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の膜形成性分散液。
【請求項4】
前記官能化ポリマーは、1種以上の直鎖ジカルボン酸で官能化されていて、
前記直鎖ジカルボン酸は
、アジピン酸、セバシン酸及びイソフタル酸からなる群より選択される1種以上である、請求項1~3のいずれかに記載の膜形成性分散液。
【請求項5】
前記スルホネート化合物は、少なくとも2つのカルボキシル基と少なくとも1つのスルホネート基とを含
む請求項1~4のいずれか1項に記載の膜形成性分散液。
【請求項6】
前記官能化ポリアミドは、ISO2114(2000)による電位差滴定により決定される酸価が、10(mgKOH)/g以上100(mgKOH)/g以下である請求項1~5のいずれかに記載の膜形成性分散液。
【請求項7】
前記分散液中の分散粒子の、蒸留水中でのレーザー散乱法で決定される平均粒径が5nm以上1000nm以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の膜形成性分散液。
【請求項8】
さらに非イオン性界面活性剤を、官能化ポリアミドの重量に対して、少なくとも1重量%で最大20重量
%含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の膜形成性分散液。
【請求項9】
前記膜形成性分散液は、触媒を本質的に含まず、及び/又は、
水以外の溶媒を実質的に含まない、請求項1~8のいずれか1項に記載の膜形成性分散液。
【請求項10】
前記官能化ポリアミドの重量損失が、15%以
下であり、前記重量損失は、閉鎖オーブン内の空気雰囲気で350℃での熱重量分析により決定され、15mgの官能化ポリアミドを出発材料として、50℃から400℃まで70分間かけて加熱する場合の重量損失である、請求項1~9のいずれか1項に記載の膜形成性分散液。
【請求項11】
前記膜形成性分散液は、液相中に粒子が分散している分散液である請求項1~10のいずれか1項に記載の膜形成性分散液。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の膜形成性分散液で処理され
た繊維;及び
樹
脂
を含む組成物。
【請求項13】
前記繊維は、炭素繊維である請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
繊維強化樹脂物品の製造方法であって、
繊
維を提供する工程;
前記繊維を、請求項1~11のいずれか1項に記載の膜形成性分散液で処理し、これにより処理された繊維を得る工程;及び
前記処理された繊維に前記樹脂を適用する工程
を含む繊維強化樹脂物品の製造方法。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載の膜形成性分散液で処理され
た繊維、及び樹脂を含む繊維強化物品。
【請求項16】
前記繊維は、炭素繊維である請求項15に記載の繊維強化物品。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載の膜形成性分散液により処理された炭素繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化されたポリアミドと水とを含み、好ましくは炭素繊維上に適用される、膜形成性分散液およびサイジング分散液に関する
【背景技術】
【0002】
熱可塑性複合材料は、本質的に、熱可塑性樹脂マトリックス(例えば、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)など)と強化繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維など)との組み合わせである。強化繊維は、短繊維、長繊維又は連続的繊維であってもよく、大きな負荷がかかる構造的用途における熱可塑性複合材料の使用を可能にする。繊維-樹脂マトリックスの界面は、負荷が樹脂マトリックスから繊維に伝達される場所となる。
【0003】
繊維は、典型的には、膜形成性組成物またはサイジング剤で被覆され、一般的には、これらがブッシュから引き出されて、繊維の表面に塗布されることになる。サイジングまたは膜形成により、繊維加工性を改善し、繊維の取り扱いを可能にする一方、他方では界面強度を改善し、最終的に得られる複合材料の機械的性質に強い影響を有する。サイジングまたは膜形成性組成物は、典型的には、異なる機能を有するいくつかの成分を含む。具体的には、膜形成剤(繊維加工中に膜を形成できる、異なる化学的性質のポリマー系水エマルジョン/分散液)、サイジング組成物用カップリング剤(主として、樹脂マトリックスと強化繊維との結合に影響を与えるシラン)、滑剤、帯電防止剤、pH調整剤、架橋剤などの成分が挙げられる。
【0004】
熱可塑性複合材料のうち、ポリアミド樹脂マトリックスを用いた複合材料、例えばPA6、PA66、PA12を用いた複合材料は、市場における重要な代表例である。ポリアミド樹脂マトリックスを用いた複合材料は、高温耐性および優れた加水分解耐性が必要とされる用途に特に適している。現在、ポリアミド系繊維強化熱可塑性複合材料に使用される膜形成性組成物およびサイジング組成物の大部分は、種々の性質(脂肪族、ブロック化、架橋ポリウレタンなど)のポリウレタン(PU)膜形成剤に基づく。ポリウレタン膜形成剤は、比較的良好な繊維処理を可能にし、ポリアミド樹脂マトリックスと強化繊維との間に相溶性を付与する。しかしながら、これらは、大した高温耐性を有していない。膜形成剤またはサイジング剤を繊維に塗工した後、典型的には、繊維は加熱される。液状樹脂がコンパウンドの際に塗布される前に繊維は保管されてもよい。ある種の樹脂の融点はかなり高い。例えば、ナイロン66では約268℃であり、PPSでは285℃程度である。したがって、形成された膜またはサイジングは、高温に十分に耐えることができる必要がある。形成膜の高温での分解や高温でのサイジング処理は、形成膜中の欠陥、サイジング中の欠陥、繊維-樹脂マトリックス界面での欠陥をもたらし、このために、複合材料の機械的性質が低下するおそれがある。
【0005】
繊維サイジングまたは膜形成性用途に適するように、ポリマーが水に分散した分散液(以下「ポリマー水分散液」という)、好ましくは有機溶剤を含まないポリマー水分散液を得るためには、いくつかの重要な特性を有することが好ましい:
・ポリマーが、水に対して良好な相溶性/親和性および良好な極性を示し、水中で沈降、凝集(aggregation)、凝集(flocculation)などを生じることなく、経時的に安定であること;
特に、ガラス強化繊維上での繊維サイジングまたは膜形成のための特性:
・ポリマー水分散液は、サイジングの処方において、シラン(例えばアミノシラン、エポキシシラン)と混合したときに良好な安定性を有し、少なくとも72時間は沈殿、沈降等を生じないこと;及び/又は
・ポリマーの色は白色またはわずかに黄色で、最終的に得られるポリマー水分散液の色に影響を与えないこと;繊維(例えば、ガラス繊維)に塗布されたときに暗色となる分散液は、最終製品の外観に影響を及ぼす(暗色ガラス繊維は、典型的には、市場で受け入れられない)。
【0006】
溶媒の不在下でアミン官能化ポリアミドを使用する場合、ポリマー/水の相溶性の問題に起因して安定なポリアミド水分散液を得ることは不可能であると思われる。ポリアミドを無水マレイン酸で官能化する場合、変性ポリマー(すなわち最終的に得られる水分散液)の色は暗色である。このことは、特に透明な樹脂又は淡色樹脂が使用される場合、ガラス繊維上に膜を形成する用途での使用又はガラス繊維のサイジングで使用することには受け入れられない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記問題の一つ以上を解決する。本発明の好ましい態様は、上記の他の問題の一つ以上を解決する。より詳細には、本発明は、高温耐性を改善できる。ある見地の(好ましい)態様は、別の見地の(好ましい)態様でもある。
【0008】
ある見地では、本発明は、官能化ポリアミド及び水を含む膜形成性分散液に関し、該官能化ポリアミドは、カルボキシル化合物官能化ポリアミド及び/又はスルホネート化合物(sulfonated compound)官能化ポリアミドであり、該官能化ポリアミドは、水の存在下で少なくとも部分的に1種以上の中和剤と反応することを特徴とする。
【0009】
いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液の固形分は、少なくとも10重量%で最大で60重量%、好ましくは少なくとも15重量%で最大で50重量%、より好ましくは少なくとも20重量%で最大で45重量%、さらにより好ましくは少なくとも25重量%で最大で40重量%、最も好ましくは少なくとも30重量%で最大で35重量%である。固形分はISO3251(2008)に従って決定される。
【0010】
いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液の固形分は官能化ポリマーを含み、膜形成性分散液の固形分合計に対する官能化ポリマーの含有率は、少なくとも31重量%、好ましくは少なくとも35重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、さらにより好ましくは少なくとも45重量%、さらにより好ましくは少なくとも75重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%であることが好ましい。
【0011】
幾つかの好ましい態様において、膜形成性分散液は中和剤を含み、該中和剤は塩基であることが好ましく、より好ましくは、アミン類、好ましくは二級、三級、四級アミンからなる群より選択される。例えばジエチルエタノールアミン又はトリメチルアミン、ジエタノールアミン、及び/又は無機水酸化物(例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム)からなる群から選択されることが好ましい。
【0012】
いくつかの好ましい態様において、中和剤は、官能化ポリアミドの酸官能価の量と比較して中和比が75%~1000%、好ましくは90%~750%、好ましくは100%~750%、より好ましくは100%~400%、さらにより好ましくは100%~300%、最も好ましくは100%~200%の範囲となるモル量で存在する。
【0013】
いくつかの好ましい態様において、官能化ポリマーは、1種以上の直鎖ジカルボン酸で官能化され、好ましくは、アジピン酸、セバシン酸およびイソフタル酸からなる群より選択される直鎖ジカルボン酸で官能化される。
【0014】
いくつかの好ましい態様において、スルホネート化合物(sulfonated compound)は、少なくとも(2つ)のカルボキシル基および少なくとも(1つ)のスルホネート基を含み、好ましくは芳香族部分、より好ましくはジカルボキシベンゼンスルホン酸塩、さらに好ましくは3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸塩、最も好ましくはナトリウム3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸塩を含む。
【0015】
いくつかの好ましい態様において、官能化されたポリアミドは、ISO2114(2000)に従って電位差滴定法によって測定され、10~100(mgKOH)/gの酸価を有する。
【0016】
いくつかの好ましい実施形態では、分散液中の分散粒子の平均粒径は、蒸留水中でのレーザー散乱によって決定され、少なくとも5nmで最大でも1000nmである。
【0017】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液は、液体中の粒子が分散した分散液である。
いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液は、さらに非イオン性界面活性剤を、官能化ポリアミドの重量に対して、1~20重量%含み、より好ましくは3~15重量%、さらに好ましくは4~12重量%、最も好ましくは5~10重量%を含む。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、膜形成性分散液は、本質的に触媒を含まず、および/または本質的に(水以外の)溶媒を含まない。
【0019】
いくつかの好ましい実施形態では、前記官能化ポリアミドの重量損失は、15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下である。かかる重量損失は、密閉オーブン内の空気雰囲気中での350℃における熱重量分析によって、15mgの官能化ポリアミドを出発材料として、50℃~400℃で70分間にわたって加熱することにより決定される。
【0020】
ある見地では、本発明はサイジング分散液に関し、当該サイジング分散液は、以下の成分を含む。
・本発明の一実施形態による膜形成性分散液;及び
・シラン、好ましくはアミノシラン、エポキシシラン、またはこれらの混合物からなる群から選択されるシランであり、好ましくはアミノシランである。
【0021】
ある見地では、本発明は、繊維、好ましくは本発明の実施形態に係る膜形成性分散液又は本発明の一実施形態に係るサイジング分散液で処理された炭素繊維;
及び樹脂、好ましくは熱可塑性樹脂を含む組成物に関する。
【0022】
ある見地では、本発明は、繊維強化樹脂製品を製造する方法に関し、この方法は、以下の工程を含む:
繊維、好ましくは炭素繊維を提供する工程;
本発明の一実施形態による膜形成性分散液または本発明の一実施形態によるサイジング分散液で前記繊維を処理し、これにより処理された繊維を得る工程;及び
前記処理された繊維に樹脂を適用する工程。
【0023】
一態様では、本発明は、繊維、好ましくは、本発明の実施形態による膜形成性分散液又は本発明の一実施形態によるサイジング分散液で処理された炭素繊維;並びに樹脂を含む繊維維強化製品に関する。
【0024】
ある態様では、本発明は、繊維、好ましくは炭素繊維上の膜形成剤として、上述したような膜形成性分散液の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のユニットおよび方法を説明する前に、本発明が、特定のユニットおよび方法または下記説明の組み合わせに限定されないと理解される。そのようなユニットおよび方法および組合せは、当然ながら改変され得るからである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語が限定的なものを意図していないことも理解されるべきである。
【0026】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、単数形および複数形の両方を含む。「含む(comprising)」という用語は、本明細書で使用される「含む(comprises)」、およびここで用いられる「comprised of」は、「including」、「includes」又は「containing」「contains」と同義である。そしてこれらの用語は、包括的またはオープンエンドであり、追加を排除せず、非限定的要素、要件又は方法の工程を排除するものではない。本明細書で使用される「含む(comprising)」、「含む(comprise)」および「含む(comprised of)」という用語は、「からなる(consisting of)」、「構成する(consists)」、および「からなる(consists of)」という用語を含むと理解される。
【0027】
エンドポイントによる数値範囲の記載は、それぞれの範囲内に包含される全ての数および画分ならびに列挙されたエンドポイントを含む。一群の部材の1つ以上または少なくとも1つの部材(複数の部材)のような「1つ以上の」または「少なくとも1つの」という用語は、それ自体が明確であるが、さらなる例示により、用語は、とりわけ、前記部材のいずれかに言及すること、または、前記部材のうちのいずれか1つ、または、前記部材のうちの任意の2つ以上の部材、例えば、前記部材のうちの任意の1つまたは複数の部材、または前記部材のうちの任意の2つ以上(例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、又は7つ以上など)、ならびに前記部材のすべての数にまで言及することを包含する。
【0028】
本明細書に引用された全ての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。特に、本明細書中の全ての参考文献の教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
特に定義しない限り、本発明を開示する際に使用される全ての用語は、技術的および科学的な用語を含むが、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなるガイダンスにより、用語の定義は、本発明の教示をより良く理解するために含まれる。
【0030】
以下の節において、本発明の異なる態様をより詳細に定義する。このように定義された各態様は、反対のことが明示されていない限り、任意の他の1つまたは複数の態様と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示される任意の他の1つ又はそれ以上の特徴と組み合わせることができる。本明細書全体を通して、「ある実施形態」または「一実施形態」には、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な箇所における「ある実施形態で」または「一実施形態において」という語句の出現は、必ずしも同一の実施形態を参照するものではない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、一以上の実施形態において、この開示から当業者には明らかであるように、任意の適切な方法で組み合わせることができる。さらに、本明細書に記載された実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの他の特徴を含むが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、当業者には理解されるように、本発明の範囲内であり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、添付の特許請求の範囲において、請求された実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用することができる。
【0031】
各要素に付された括弧内の及び/又はボールドされた参照番号は、それぞれの要素を限定することを意図しておらず、単に要素を例示するに過ぎない。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、構造的または論理的な変更を行うことができると理解すべきである。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0032】
一態様では、本発明は、官能化ポリアミドおよび水を含む膜形成性分散液であって、前記官能化ポリアミドは、カルボキシル化合物で官能化されたポリアミドおよび/またはスルホネート化合物で官能化されたポリアミドであり、前記官能化ポリアミドが、水の存在下で少なくとも部分的に1種以上の中和剤と反応することを特徴とする膜形成性分散液に関する。好ましくは、前記官能化ポリアミドは、膜形成性分散液の固形分総重量に対して、少なくとも31重量%、好ましくは少なくとも35重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、さらにより好ましくは少なくとも45重量%、さらにより好ましくは少なくとも75重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%含まれる。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明は、官能化ポリアミドおよび水を含む膜形成性分散液に関し、前記官能化ポリアミドは、カルボキシル化合物で官能化されたポリアミドおよび/またはスルホネート化合物で官能化されたポリアミドであり、前記官能化ポリアミドは、水の存在下で少なくとも部分的に1種以上の中和剤と反応し、前記膜形成性分散液の固形分は、好ましくは10重量%~60重量%、より好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは20重量%~45重量%、さらにより好ましくは25重量%~40重量%、最も好ましくは30重量%~35重量%である。当該固形分はISO3251(2008)に従って決定される。
【0034】
用語「分散液」は、(1つ)の材料からなる個別的な粒子が別の材料の連続相中に分散されている分散系をいう。好ましくは、連続相は液体であり、より好ましくは連続相は水を含む。さらに好ましくは連続相の少なくとも75重量%は水、さらにより好ましくは少なくとも90重量%が水、最も好ましくは少なくとも95重量%が水である。いくつかの実施形態では、分散液は、粒子が個々の状態で、連続的な水相中に懸濁されている分散系である。
【0035】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液中の固体粒子の粒径は、少なくとも1ナノメートル、より好ましくは少なくとも5ナノメートル、さらにより好ましくは少なくとも10ナノメートル、さらにより好ましくは少なくとも25ナノメートル、最も好ましくは少なくとも50ナノメートルである。
【0036】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液中の固体粒子の粒径は、せいぜい10000ナノメートル、より好ましくは最大1000ナノメートル、さらにより好ましくは最大750ナノメートル、さらにより好ましくは最大500ナノメートル、最も好ましくはせいぜい250ナノメートルである。
【0037】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液中の固体粒子の粒径は、少なくとも1~最大10000ナノメートル、より好ましくは少なくとも5~最大1000ナノメートル、さらにより好ましくは少なくとも10~最大750ナノメートル、さらにより好ましくは少なくとも25~最大500ナノメートル、最も好ましくは少なくとも50~最大250ナノメートルである。
【0038】
本発明はまた、官能化ポリアミドおよび水を含む膜形成性分散液を調製するための方法に関し、当該方法は、以下の工程を含む:
・カルボキシル化合物および/またはスルホネート化合物でポリアミドを官能化する工程;及び
・前記官能化されたポリアミドを、水の存在下で、1種以上の中和剤と、少なくとも部分的に反応させる工程を含む。前記官能化ポリアミドを中和剤と少なくとも部分的に反応させる工程は、中和工程または中和反応とも称される。
【0039】
本発明者らは、このような膜形成性分散液およびその好ましい態様は、現在の市販のポリウレタン膜形成剤と比較して、耐熱性が著しく改善されることを見出した。このことは、熱重量分析TGAの結果から示される。実施例の欄で例示されているように、同じ試験条件下で市販のポリウレタン膜形成剤を用いて得られた重量損失が25~30%であるのに対して、ポリアミド膜形成剤を用いて得られた、空気環境における350℃での重量損失は15%未満である。
【0040】
いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液は、官能化ポリアミドの酸基を少なくとも部分的に中和することができる中和剤を含む。好ましくは中和剤は塩基であり、より好ましい中和剤は、アミン、好ましくは二級、三級または四級アミン、例えばジエチルエタノールアミン(DEEA)、トリメチルアミン(TMA)、トリエチルアミン(TEA)、ジエタノールアミン(DEA)またはこれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくはジエチルエタノールアミン(DEEA)またはトリエチルアミン(TEA)であり、最も好ましい中和剤はトリエチルアミン(TEA)であり、および/または無機水酸化物、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。本発明者らは、このような中和剤が、水中での官能化ポリアミドの安定な分散を可能にすることを見出した。列挙された中和剤はまた、官能化されたポリアミドの水分散液に非常に高い耐熱性を付与することができる。さらに、このような中和剤は、同時に、分散液において、所望により存在するシランに、非常に良好な安定性を付与することができる。
【0041】
いくつかの好ましい態様において、中和剤は、官能化ポリアミドの酸官能基の量と比較して中和比が少なくとも75%以上1000%以下、好ましくは100%以上750%以下、より好ましくは100%以上300%以下、さらに好ましくは102%以上500%以下、さらに好ましくは102%以上200%以下の範囲である。より好ましくは少なくとも104重量%~400重量%、さらに好ましくは104重量%~200重量%、最も好ましくは105重量%~200重量%、さらに好ましくは105重量%~120重量%である。本明細書で使用される「中和比」という用語は、官能化ポリアミド中に存在する酸官能基の量(モルで表される)に対する中和反応に使用される塩基官能基の量(モルで表される)を意味する。好ましくは、中和比は、TM5253に従ったアミン価決定によって決定される。このような中和比は、それ自体が良好なポリアミドの水分散安定性をもたらし、カップリング剤、好ましくはシランと組み合わせて使用される。
【0042】
いくつかの実施形態では、中和剤は、ジエチルエタノールアミン(DEEA)であり、中和比が、好ましくは75~200%、より好ましくは100%~200%、さらにより好ましくは100%~175%、さらにより好ましくは102%~150%、さらにより好ましくは104%~125%、最も好ましくは約105%である。
【0043】
いくつかの実施形態では、中和剤は、トリエチルアミン(TEA)であり、中和比が、好ましくは100%~600%、より好ましくは100%~500%、さらにより好ましくは100%~400%、例えば少なくとも200%~600%、例えば250%~500%、例えば少なくとも300%~450%、例えば約400%である。
【0044】
いくつかの実施形態では、中和剤は以下のものである。
ジエチルエタノールアミン(DEEA)で、好ましくは中和比が75~200%、より好ましくは100%~200%、さらにより好ましくは100%~175%、さらにより好ましくは102%~150%、さらにより好ましくは104%~125%、最も好ましくは約105%;及び/又は
トリエチルアミン(TEA)で、好ましくは中和比が、100%~600%、より好ましくは100%~500%、さらにより好ましくは100%~400%、最も好ましくは200%~400%、例えば200%~600%、例えば250%~500%、例えば300%~450%、例えば約400%である。
【0045】
いくつかの実施形態では、酸官能化ポリアミドは、触媒の不在下でも、中和剤と反応する。
【0046】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液は、膜形成性分散液の総重量に対する%表示で、最大でも20重量%、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらにより好ましくは8重量%以下、最も好ましくは6重量%以下で、官能化ポリアミドを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液は、膜形成性分散液の総重量に対する重量%表示で、少なくとも1重量%、好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上、より好ましくは4重量%以上、最も好ましくは5重量%以上の官能化ポリアミドを含む。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態では、官能化ポリアミドの含有率が少なくとも1重量%以上20重量%以下の範囲であることを特徴とする膜形成性分散液である。官能化ポリアミドの含有率は、好ましくは2重量%~15重量%、より好ましくは3重量%~10重量%、さらにより好ましくは4重量%~8重量%、最も好ましくは5重量%~6重量%である。このような含有率で官能化ポリアミドを含有する膜形成性分散液は、良好な加工および/または機械的特性をもたらす用途として用いる場合、繊維上に正確な量の膜形成剤を塗工できる。
【0049】
いくつかの実施形態では、官能化ポリアミドは、数平均分子量(Mn)が少なくとも2000Daから最大でも15000Da、より好ましくは2000Da~8000Da、最も好ましくは2000Da~5000Daである。好ましくは、数平均分子量(Mn)は、官能化ポリアミドを適切な溶媒(例えばヘキサフルオロイソプロパノール)に溶解し、好ましくは単分散ポリスチレン標準と比較することにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって決定される。このような範囲は、良好な加工性および/または良好な耐熱性を付与する。
【0050】
いくつかの態様において、前記官能化ポリアミドの少なくとも(1つ)の末端は、カルボン酸基であり、より好ましくは、官能化ポリアミドの両末端が、カルボン酸基である。カルボン酸基は、中和後の官能化ポリアミドに、表面活性を付与する。このことは、サイジングにおいて、繊維表面に膜を形成するのに必要である。界面活性特性はまた、水との良好な相溶性を提供し、及び/又はポリアミドを安定に分散させることができる。
【0051】
いくつかの好ましい態様において、官能化ポリアミドは官能化された脂肪族ポリアミドである。あるいは別の実施形態では、官能化ポリアミドは官能化された芳香族ポリアミドである。特に、官能化芳香族ポリアミドは優れた加水分解耐性を付与することができる。
【0052】
官能化ポリアミドは、カルボキシル化合物で官能化したポリアミド及び/又はスルホネート化合物で官能化したポリアミドである。いくつかの好ましい実施形態では、官能化ポリマーは直鎖ジカルボン酸で官能化される。好ましい直鎖ジカルボン酸は、アジピン酸、セバシン酸およびイソフタル酸からなる群から選択される。本発明者らは、カルボン酸化合物が直鎖ジカルボン酸である場合、官能化ポリアミドの色および/または膜形成後および/またはサイジング後に繊維上に残る色が、わずかに淡黄色に白色であることを見出した。
【0053】
いくつかの実施形態では、ポリアミド(好ましくは二官能性アミンを含む)を、水の存在下でジカルボン酸と反応させる。最終的な酸官能価は、使用される過剰の酸当量によって決定される。過剰のカルボン酸基は、好ましくは中和後に良好な水親和性を提供する。
【0054】
いくつかの実施形態では、官能化ポリマー(官能化ポリアミド)は、イソフタル酸のような非線状カルボン酸で官能化されてもよい。しかし、これは、膜形成性分散液の色および/またはサイジング後に繊維上に残る色に影響を及ぼす可能性がある。
【0055】
いくつかの実施形態では、官能化ポリマーは、少なくとも(1つ)のポリアミド部分を含み、前記ポリアミド部分は、酸官能基、好ましくはジカルボン酸官能基により官能化され、好ましくはアミド結合を介して、前記少なくとも(1つ)のポリアミド部分の繰り返し単位の原子に共有結合している。「ポリアミド部分」という用語は、異なるモノマーがアミド結合によって互いに結合しているポリマー主鎖の部分を指すことができる。
【0056】
いくつかの好ましい態様において、スルホネート化合物は、少なくとも(2つ)のカルボキシル基および少なくとも(1つ)のスルホネート基を含む。好ましくは、スルホネート化合物は芳香族部分を含み、より好ましくはジカルボキシベンゼンスルホン酸塩、さらにより好ましくは3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸塩、最も好ましくは3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩である。
【0057】
官能化ポリアミド中のスルホネート基は、ポリマーに適切な極性/水親和性を付与し、これにより、繊維に対する膜形成及び/又はサイジング用途に適した特性を有する安定な水分散液を提供できる。
【0058】
いくつかの実施形態では、官能化ポリアミドは、中和剤と接触する前では、少なくとも10(mgKOH)/g、好ましくは15(mgKOH)/g以上、より好ましくは20(mgKOH)/g以上、さらにより好ましくは30(mgKOH)/g以上、最も好ましくは45(mgKOH)/gの酸価を有する。酸価は、ISO2114(2000)による電位差滴定法により測定される。
【0059】
いくつかの実施形態では、官能化ポリアミドは、中和剤と接触する前で、100(mgKOH)/g以下、好ましくは75(mgKOH)/g以下、より好ましくは60(mgKOH)/g以下、さらに好ましくは55(mgKOH)/g以下であり、最も好ましくは50(mgKOH)/g以下である。酸価は、ISO2114(2000)による電位差滴定法により測定された。
【0060】
いくつかの好ましい態様において、官能化ポリアミドは、中和剤と接触する前において、酸価が10(mgKOH)/g以上100(mgKOH)/g以下であることを特徴とする。酸価は、好ましくは15(mgKOH)/g~75(mgKOH)/g、より好ましくは20(mgKOH)/g~60(mgKOH)/g、さらに好ましくは30(mgKOH)/g~55/mgKOH)/g、最も好ましくは45(mgKOH)/g~50(mgKOH)/gである。酸価は、ISO2114(2000)による電位差滴定法により測定される。このような酸価は、好ましくはカップリング剤(好ましくはシラン)と組み合わせることで、ポリアミド水分散液の長期安定性を高めることができる。分散液の安定性は、SB108試験法に従って決定される。このような酸価は、官能化ポリアミドの分子量にも影響を与えることができる。
【0061】
いくつかの好ましい態様においては、分散液中の分散粒子の平均粒径は、少なくとも5nm以上1000nm以下、好ましくは8nm以上800nm以下、より好ましくは10nm以上500nm以下、さらに好ましくは20nm以上300nm以下、最も好ましくは30nm以上200nm以下である。このような粒子サイズは、長期分散安定性に積極的に影響する。粒子サイズは、好ましくはTM5151試験法に従って測定される
【0062】
いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液は、さらに非イオン性界面活性剤を含む。いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液は、非イオン性界面活性剤を、少なくとも1重量%で最大でも20重量%、より好ましくは少なくとも3重量%~15重量%、最も好ましくは5重量%~10重量%含む。
【0063】
いくつかの好ましい態様において、前記非イオン性界面活性剤は、エトキシル化ヒマシ油、アルコキシル化エチレンジアミンまたはエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロック共重合体からなる群から選択される。好ましくはトリブロックエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体である。
【0064】
いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液は、非イオン性界面活性剤を、官能化ポリアミドに対して、少なくとも1重量%で最大で20重量%、より好ましくは3重量%~15重量%、最も好ましくは5重量%~10重量%含む。非イオン性界面活性剤としては、ヒマシ油を含むポリエステル、エトキシル化ヒマシ油、アルコキシル化エチレンジアミン、及び/又はエチレンオキシドとプロピレンオキシドを含むブロックコポリマーからなる群より選択される。
【0065】
本発明者らは、このような非イオン性界面活性剤が、さらに分散液の耐熱性に貢献することを見出した。このような非イオン性界面活性剤は、分散液の粘度コントロールを可能にする。好ましくは、25℃における分散液の粘度は、1×10-4Pa・s~5.0Pa・s、好ましくは1×10-3Pa・s~3.5Pa・s、より好ましくは1×10-2Pa・s~2.5Pa・sある。
【0066】
いくつかの好ましい実施形態では、膜形成性分散液は、本質的に触媒を含まず、および/または本質的に水以外の溶媒を含まない。いくつかの実施形態では、膜形成性分散液は、ジブチルスズジラウレートのような亜鉛触媒および/または錫触媒を本質的に含まない。いくつかの実施形態では、膜形成性分散液は、アセトンおよび/または1-メトキシ-2-プロパノールを本質的に含まない。
【0067】
「組成物がある化合物を本質的に含まない」という文言は、組成物が、出発材料中に含まれる不純物として、または該化合物を特定的に除去する精製工程後の残留物として、組成物中に見出される、不可避的不純物以外の化合物を含まないことを意味する。
【0068】
幾つかの好ましい実施形態では、官能化ポリアミドの重量損失は、最大15%、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下である。官能化ポリアミドの重量損失は、閉鎖オーブン内の空気雰囲気中で350℃での熱重量分析により決定され、10~15mg官能化ポリアミド、好ましくは15mg官能化ポリアミドを出発材料として、50℃~400℃で70分間にわたって加熱した場合の重量損失である。
【0069】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液の固形分率は、少なくとも10重量%で最大で60重量%、好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは20重量%~45重量%、さらにより好ましくは25重量%~40重量%、最も好ましくは30重量%~35重量%である。固形分率は、ISO3251(2008)に従って決定される。このような固形分率とすることにより、膜形成性組成物及び/又はサイジング分散液の熱安定性を増大でき、特に、350℃のような高温でも熱安定性を有することが観察された。
【0070】
いくつかの好ましい態様において、膜形成性分散液の固形分の総量に対する官能化ポリマーの割合は、少なくとも31重量%、好ましくは35重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらにより好ましくは45重量%以上、さらにより好ましくは75重量%以上、最も好ましくは少なくとも90重量%以上である。特に、膜形成性分散液によって形成される膜の高温耐性については、分散液中の固形分のうち、官能化ポリマーの割合が高い方が有益である。他の固形分、例えば界面活性剤および/または非官能化ポリマーの割合が高くなっても、高温耐性に寄与しないか、ひどい場合には、高温耐性を低下させることがある。
【0071】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液の固形分率は、少なくとも10重量%で最大でも60重量%、好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは20重量%~45重量%、さらにより好ましくは25重量%~40重量%、最も好ましくは30重量%~35重量%である。固形分率は、ISO3251(2008)に従って決定される。このような固形分率とすることで、膜形成性組成物及び/又はサイジング分散液の、350℃のような高温での熱安定性が向上することが観察された。膜形成性分散液の固形分総重量に対する官能化ポリマーの割合は、少なくとも35重量%が好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらにより好ましくは45重量%以上、さらにより好ましくは75重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0072】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液の固形分率は少なくとも10%で最大で60%である。固形分率はISO3251(2008)に従って決定される。このような固形分率では、膜形成性組成物及び/又はサイジング分散液の熱安定性を高めることができ、特に350℃のような高温でも熱安定性を有することが観察された。そして、膜形成性分散液の固形分の総重量に対する、官能化ポリマーの割合は、少なくとも35重量%が好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは45重量%以上、さらにより好ましくは75重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0073】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液の固形分率は、少なくとも10重量%で最大60重量%、好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは20重量%~45重量%、さらにより好ましくは25重量%~40重量%、最も好ましくは30重量%~35重量%である。固形分はISO3251(2008)に従って決定される。このような固形分率で、膜形成性組成物および/またはサイジング分散液の熱安定性、特に350℃のような高温での熱安定性を高めることができる。そして、膜形成性分散液の固形分の総重量に対して、膜形成性分散液の固形分の少なくとも35重量%が官能化ポリマーである。
【0074】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液の固形分は、少なくとも10重量%で60重量%、好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは20重量%~45重量%、さらにより好ましくは25重量%~40重量%、最も好ましくは30重量%~35重量%である。固形分率はISO3251(2008)に従って決定される。このような固形分率では、膜形成組成物および/またはサイジング分散液の、350℃のような高温での熱安定性が向上することが観察された。膜形成性分散液の固形分の総量を100重量%として、膜形成性分散液の固形分の少なくとも50重量%が官能化ポリマーである。
【0075】
いくつかの実施形態では、膜形成性分散液は、炭素繊維に対するサイジング分散液として直接使用することができる。
【0076】
ある一態様では、本発明は、特にガラス繊維用のサイジング分散液に関し、下記成分を含有する。
本発明の実施形態に係る膜形成性分散液;並びに、
シラン、好ましくは、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、[3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピル]トリメトキシシラン等のエポキシシラン、又はこれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはアミノシラン。
【0077】
シランは、典型的には、カップリング剤として作用する。繊維強化材、特にガラス繊維強化材と樹脂マトリックスとの間の化学結合を提供するカップリング剤である。前記シランは、好ましくは、熱可塑性樹脂マトリックスとの必要な化学的適合性を提供する。
【0078】
ある一態様の組成物は、繊維、好ましくは本発明の実施形態に係る膜形成性分散液又は本発明の一実施形態に係るサイジング分散液で処理された炭素繊維;並びに
樹脂、好ましくは熱可塑性樹脂を含有する組成物である。
前記樹脂としては、上記のような官能化ポリアミドではないことが好ましい。
【0079】
ある好ましい実施形態では、前記樹脂は熱可塑性樹脂である。好ましい熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリアミド樹脂(ナイロンまたはアラミド)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE又はテフロン(登録商標))からなる群より選択される熱可塑性樹脂であることが好ましい。さらに好ましい実施形態では、前記樹脂は、ポリアミド、好ましくはナイロンまたはアラミドであり、より好ましくはPA6、PA66、PA12、PA6/66またはPA66/610からなる群から選択され、最も好ましくはPA6、PA66、PA6/66からなる群より選択される。
【0080】
いくつかの好ましい実施形態では、繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維および天然繊維を含む群から選択され、好ましくは繊維はガラス繊維および/または炭素繊維である。
【0081】
いくつかの実施形態では、繊維は、グラファイト繊維を含む炭素繊維である。いくつかの実施形態では、炭素繊維はピッチ型炭素繊維、レーヨン型炭素繊維、またはPAN(ポリアクリロニトリル)型炭素繊維である。
【0082】
いくつかの実施形態では、炭素繊維は、撚られた炭素繊維、撚りのない炭素繊維及び/又は決して捩れていない炭素繊維であってもよい。
【0083】
いくつかの実施形態では、繊維、特に炭素繊維は、フィラメントの束であってもよく、好ましくは、各束は、少なくとも10で最大100000フィラメントを含む。より好ましくは100~80000フィラメント、さらにより好ましくは500~60000フィラメント、最も好ましくは1000~50000フィラメントである。
【0084】
いくつかの実施形態では、繊維はシート又は織物であってもよく、これは織布、不織布又は単方向シートであってもよい。前記繊維の膜形成のサイジングは、繊維が布又はシートとされる前又は後に行うことができる。
【0085】
一態様では、本発明は、繊維、好ましくは炭素繊維強化樹脂製品を形成するための方法に関し、この方法は、以下の工程を含む:
繊維、好ましくは炭素繊維を提供する工程;
本発明の一実施形態による膜形成性分散液または本発明の一実施形態によるサイジング分散液で前記繊維を処理し、それにより処理された繊維を得る工程;
前記処理された繊維に樹脂を適用する工程。
【0086】
いくつかの実施形態では、前記繊維を膜形成性分散液またはサイジング分散液で処理することは、前記繊維を前記分散液と接触させ、続いて前記繊維を乾燥させること、好ましくは、前記分散液から水を蒸発させることによって行われる。好ましくは、分散液は、ロール塗布器、好ましくはキスロール塗布器を用いて繊維に塗工する。
【0087】
いくつかの実施形態では、処理された繊維に樹脂を適用することは、処理された繊維を樹脂とコンパウンド(配合)すること、好ましくはメルトブレンダーまたは押出機中で、より好ましくは押出機中で配合することを含む。
【0088】
本発明のある一態様は、繊維強化物品に関し、当該繊維強化物品は、繊維、好ましくは本発明の実施形態による膜形成性分散液又は本発明の一実施形態によるサイジング分散液で処理された炭素繊維;及び樹脂を含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、繊維強化物品は、高温耐性および優れた加水分解耐性を必要とする用途で使用される。いくつかの実施形態では、繊維強化物品は、以下を含む群から選択される
・自動車において、フード部の下に配置されている物品用途
・半構造的および構造的な自動車用物品
・電気および電子用途品(例えば、コネクタ)
・器具類
・スポーツ用品、及び/又は、
・歯車及び軸受
【0090】
本発明のある一態様では、繊維、好ましくは炭素繊維上の膜形成剤(film-forming agent)、(本明細書では膜形成剤(film former)とも呼ばれる)として上述したような膜形成性分散液の使用に関する。幾つかの好ましい態様において、膜形成剤は無溶媒である。いくつかの実施形態では、膜形成剤は、繊維強化熱可塑性複合材料中、最も詳細には、ポリアミド系複合体のサイジング組成物用に使用される。膜形成剤は、高温耐性及び加水分解耐性が限定的であるポリウレタン皮膜形成剤に基づく現在のサイジング配合物における限界の大部分を克服する。
【0091】
膜形成剤分散液は、最終的なサイジング組成物中の唯一の膜形成剤として使用することができ、又はポリウレタン、エポキシ、エポキシ-エステル及び/又はエポキシ-ウレタンのような異なる化学的性質を有する他の共膜形成剤(co-film formers)と組み合わせて主たる膜形成剤として使用することができる。
【0092】
好ましくは、膜の厚さは、少なくとも10nmで最大500nm、より好ましくは30nm~400nm、より好ましくは50nm~300nm、さらに好ましくは70nm~200nm、最も好ましくは90nm~150nm以下、さらに好ましくは100nm程度である。
【実施例】
【0093】
本発明の特性、利点および特徴をより詳しく説明するために、いくつかの好ましい実施形態を例として開示する。したがって、本発明は、当業者には理解される多くの実施形態および改変を開示しており、本発明の範囲は、以下に示す例示的な実施例に限定されるものではない。
【0094】
以下の試験方法を実施例で使用した。これらの試験方法は、関連するパラメーターを得るための好ましい試験方法でもある。
【0095】
酸価の決定
mgKOH/g試料として表される酸価は、ISO2114(2000)に従って電位差滴定法により得た。
【0096】
アミン価の決定(TM5253)
以下に記載する電位差滴定法により、meqNH2/gまたはmgKOH/g試料として表されるアミン基の含有量を求めた。
【0097】
所定量の材料をビーカー中で秤量し、材料を溶媒(例えばメタノール)に溶解し、材料が完全に溶解したとき、滴定溶液(例えば、酢酸(0.05N)中のHBr)を添加し、自動投与装置(例えばMetrohm製のTitrino PLUS818)を用いて電位差滴定を行う。
【0098】
アミン価(meqNH2/g)=(V*NHBr)/m
アミン価(meqKOH/g)=アミン価(meqNH2/g)*PEKOH
V:当量点に到達するのに必要なHBrの体積(ml)
N HBr:HBr溶液の規定度
m:材料の量(g)
PE KOH:KOH当量(56.1g/eq)
【0099】
熱重量分析(TGA)
この方法は、以下に記載されるように、窒素または空気環境において、特定の温度範囲における材料の重量損失を決定するために用いられた。
【0100】
これらの測定に使用された典型的な機器は、METTLER TOLEDO社のMETTLER TG50、METTLER M3、Mettler TC10A/TC15 TAコントローラである。
所定量の乾燥材料を、るつぼ内に秤量し、次いで、材料を、窒素または空気流下で所望の温度値まで、密閉されたオーブン中で加熱ランプにより加熱される。次いで、機械によって作成したグラフを、特定の温度での重量損失を有するように合成する。
【0101】
この具体例では、乾燥膜形成性分散液を10~15mg用い、空気雰囲気中で50℃から400℃まで70分かけて昇温した。
【0102】
【0103】
表1Aは、種々の乾燥膜形成剤としての分散液の様々な温度における重量損失を示す。
【0104】
比較例1~6は、乾燥膜形成性分散液(シランを含まない)を意味する。比較例1~6は、標準的なポリウレタン膜形成剤を指し、本発明品は、表1Bに示すように、本発明の実施形態による膜形成性分散液を指す。
【0105】
【0106】
比較例は市販品である。
比較例1:Neoxil 9851 (Aliancys);
比較例2:Neoxil 9851HF (Aliancys);
比較例3:Neoxil 8200A (Aliancys);
比較例4:Neoxil 8200A HF (Aliancys);
比較例5:Baybond PU405 (Covestro);
比較例6:Baybond PU407 (Covestro)
【0107】
粒度分布分析(TM5178)
この方法は、以下に記載するように、レーザー散乱法を用いてナノメータで表される分散液中の粒子の平均直径を決定するのに用いた。
【0108】
分散液の液滴は、2回蒸留した水に蒸留水に添加し、溶液が均一になるまで混合する。次いで、溶液をキュベット中に注ぎ、粒子サイズ分析器(例えば、Beckman‐Coulter製のN5機器)に載置した。
【0109】
平均粒径はナノメータで表され、粒度分布プロファイルは、「単峰」又は「二峰」として表される。
【0110】
分散液自体の安定性(TM5151)
この方法は、後述するように、水中でのポリマー分散の経時安定性を決定するために使用される。
【0111】
分散液を濾過し、密閉容器に注いだ。この材料を毎月、目視でチェックし、その外観について、分離、凝集、沈降が起こっているかを評価する。
【0112】
主な分散特性も測定され、それらの値は、例えば、粒径について、製造時の元のものと比較される。
【0113】
分散液の外観(TM2265)
この方法は、水中でのポリマー分散の外観を、下記のように、定性的に表現することで評価する。
【0114】
色:材料の色の評価、例えば、白色、黄色等
透明性:材料の透明性の評価、例えば透明、曇っている、濁っている等
汚染:もし汚染されていた場合には、汚染があった場合についてのみ、説明する
均一性:材料の均質性を評価
性状:材料の性状を評価、例えば液体、結晶性、粉末等
【0115】
シラン(SB108)による分散の安定性
この方法は、水中でのポリマー分散液と、異なる化学的性質を有するシラン化合物(典型的には繊維サイジング組成物で使用される)との間での、少なくとも72時間(3日間)の安定性/相溶性を決定するために採用された。
【0116】
水中でのポリマー分散液と、シラン化合物(例えば、アミノシラン又はエポキシシラン)との比率を計算し、調整定する。最終的配合の固形分率は、プラスチックビーカー中で混合物を調製する前に調整される。
【0117】
アミノシランを用いた試験
アミノシランは、攪拌条件下で少なくとも10分間、水に添加される(シランの加水分解)。次いで、計算された量のポリマー水分散液を、少なくとも10分間攪拌しながら、加水分解されたアミノシランに添加する。
混合物をプラスチックの密閉容器内に注ぎ、そこに放置する。経時的安定性(分離、凝集、沈降などがあるか否か)を目視観察により評価する。
主な分散特性も測定され、それらの値(例えば、粒径)については、製造時の元の値と比較される。
【0118】
エポキシシランを用いた試験
エポキシシランは、少なくとも45分間、攪拌しながら、ポリマー水分散液に添加される。次いで、少なくとも10分間攪拌しながら、水を、エポキシ-シラン/ポリマー水分散液混合物に添加する。
この混合物を、プラスチックの密閉容器内に注ぎ、そこに放置する。経時的安定性(分離、凝集、沈降などがあるか否か)を目視観察により評価する。
主な分散特性も測定され、それらの値(例えば、粒径)については、製造時における元の値と比較される。
【0119】
表2は、種々の膜形成性分散液の種々の特性を示す。表1と同様の条件を用いて、TGA分散試験を行った。
【0120】
【0121】
酸官能化ポリアミド(PA-COOH):
酸官能化ポリアミド(PA-COOH)を得るために、1550gのイソホロンジアミン、343gの2メチル-1,5ペンタンジアミン、及び857gの脱イオン水を、攪拌機、窒素噴出器、温度制御ユニット及び蒸留ガラス器を備えた6リットルのガラス反応器に入れた。すべての成分が溶解するまで反応混合物を攪拌した。溶解した時点で、セバシン酸2823gを60分間かけて添加し、発熱反応を80℃未満に維持した。この添加後、水を留去しながら、混合物を220℃までゆっくりと加熱した。反応温度220℃に達した後、酸価及びアミン価測定のための試料を1時間毎に採取した。目標とする酸価に達した後、混合物を30分間真空蒸留し、次いで真空を止め、樹脂を排出した。
表1に記載のPA-COOH樹脂の分子量は、1800Da~15000Daである。
【0122】
スルホネート官能化ポリアミド(PA-COOH-SO3Na):
スルホネート官能化ポリアミド(PA-COOH-SO3Na)を得るために、1550gのイソホロンジアミン、343gの2メチル-1,5ペンタンジアミン、及び857gの脱塩水を、攪拌機、窒素噴出器、温度制御ユニット及び蒸留器を備えた6リットルのガラス反応器に入れた。すべての成分が溶解するまで反応混合物を攪拌した。その時点で、セバシン酸2786gおよび3,5ジカルボキシベンゼンスルホン酸塩47gを60分間かけて添加し、発熱反応を80℃未満に維持した。この添加後、水を留去しながら220℃までゆっくりと加熱した。反応温度が220℃に到達した後、酸価及びアミン価測定のための試料を1時間毎に採取した。目標とする酸価に到達後、混合物を30分間真空蒸留し、次いで真空を止め、樹脂を排出した。
【0123】
表2に記載のPA-COOH-SO3Na樹脂の分子量は、1800Da~15000Daである。
NOVAMID(登録商標)2430A及びNOVAMID(登録商標)X21-F07は、カルボン酸基またはスルホン酸基で官能化されていないポリアミドである。これらのポリアミドはDSMから市販されている。