IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メディミューン,エルエルシーの特許一覧 ▶ ヒューマブス バイオメド エスエーの特許一覧

特許7209754抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用
<>
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図1
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図2
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図3
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図4
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図5A
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図5B
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図5C
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図6
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図7
  • 特許-抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】抗B型インフルエンザ抗体の中和及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230113BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230113BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230113BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/10
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P31/16
A61K39/395 S
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021018692
(22)【出願日】2021-02-09
(62)【分割の表示】P 2017523183の分割
【原出願日】2015-07-14
(65)【公開番号】P2021074013
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】62/024,804
(32)【優先日】2014-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】516097907
【氏名又は名称】ヒューマブス バイオメド エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(72)【発明者】
【氏名】コルティ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】ランザヴェッキア,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】カールワード-リレイ,ニコル
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,チン
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン,エボニー
(72)【発明者】
【氏名】ウェヒター,レスリー
(72)【発明者】
【氏名】ユアン,アンディ
(72)【発明者】
【氏名】マコーリフ,ジョセフィン,メアリー
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/070565(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/132007(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/007770(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/011347(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/086052(WO,A2)
【文献】Dreyfus et al.,Science,2012年,Vol. 337, No. 6100,pp. 1343-1348
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異Fc領域を含む単離された抗体又はその抗原結合断片であって、
前記抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)の球状頭部に結合し、A型インフルエンザウイルスHAに結合し、2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和し、且つ少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスのサブタイプを中和する能力があり、
前記抗体又はその抗原結合断片は、天然Fc抗体と比べて、増加した血清半減期を有し、
前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号145のHCDR-1、配列番号146のHCDR-2、配列番号147のHCDR-3、配列番号148のLCDR-1、配列番号149のLCDR-2及び配列番号150のLCDR-3を含む6つのCDRセットを含む
前記抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号62のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%の同一性を有するVH及び配列番号67のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%の同一性を有するVLを含む、請求項1に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号62のVH及び配列番号67のVLを含む、請求項1又は2に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片であって、
(a)B型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、且つYamagata及びVictoria系統の双方におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある、及び/又は
(b)B/AA/94(ca B/Ann Arbor/2/94(yamagata));B/YSI/98(ca B/Yamanashi/166/98(yamagata));B/JHB/99(ca B/Johannesburg/5/99(yamagata));B/SC/99(B/Sichuan/379/99(yamagata));B/FL/06(B/Florida/4/2006(yamagata))から選択されるYamagata系統のB型インフルエンザウイルス;B/BJ/97(ca B/Beijing/243/97(victoria))、B/HK/01(B/Hong Kong/330/2001(victoria));B/MY/04(B/Malaysia/2506/2004(victoria));B/BNE/08(ca B/Brisbane/60/2008(victoria))から選択されるVictoria系統のB型インフルエンザウイルス;B/Lee/40(B/Lee/40);B/AA/66(ca B/Ann Arbor/1/66);B/HK/72(B/Hong Kong/5/72)から選択される分岐前のB型インフルエンザ株;及びこれらの組み合わせに結合する能力がある、
前記抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
変異Fc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの221、225、228、234、235、236、237、238、239、240、241、243、244、245、247、250、251、252、254、255、256、257、262、263、264、265、266、267、268、269、279、280、284、292、296、297、298、299、305、308、313、316、318、320、322、325、326、327、328、329、330、331、332、333、334、339、341、343、370、373、378、392、416、419、421、428、433、434、435、436、440、及び443から選択される1つ以上の位置に修飾を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
修飾が、置換、挿入及び欠失から選択される、請求項5に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
変異Fc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの221K、221Y、225E、225K、225W、228P、234D、234E、234N、234Q、234T、234H、234Y、234I、234V、234F、235A、235D、235R、235W、235P、235S、235N、235Q、235T、235H、235Y、235I、235V、235E、235F、236E、237L、237M、237P、239D、239E、239N、239Q、239F、239T、239H、239Y、240I、240A、240T、240M、241W、241L、241Y、241E、241R、243W、243L、243Y、243R、243Q、244H、245A、247L、247V、247G、250E、250Q、251F、252L、252Y、254S、254T、255L、256E、256F、256M、257C、257M、257N、262I、262A、262T、262E、263I、263A、263T、263M、264L、264I、264W、264T、264R、264F、264M、264Y、264E、265A、265G、265N、265Q、265Y、265F、265V、265I、265L、265H、265T、266I、266A、266T、266M、267Q、267L、268E、269H、269Y、269F、269R、270E、280A、284M、292P、292L、296E、296Q、296D、296N、296S、296T、296L、296I、296H、296G、297S、297D、297E、298A、298H、298I、298T、298F、299I、299L、299A、299S、299V、299H、299F、299E、305I、308F、313F、316D、318A、318S、320A、320S、322A、322S、325Q、325L、325I、325D、325E、325A、325T、325V、325H、326A、326D、326E、326G、326M、326V、327G、327W、327N、327L、328S、328M、328D、328E、328N、328Q、328F、328I、328V、328T、328H、328A、329F、329H、329Q、330K、330G、330T、330C、330L、330Y、330V、330I、330F、330R、330H、331G、331A、331L、331M、331F、331W、331K、331Q、331E、331S、331V、331I、331C、331Y、331H、331R、331N、331D、331T、332D、332S、332W、332F、332E、332N、332Q、332T、332H、332Y、332A、333A、333D、333G、333Q、333S、333V、334A、334E、334H、334L、334M、334Q、334V、334Y、339T、370E、370N、378D、392T、396L、416G、419H、421K、428L、428F、433K、433L、434A、434W、434Y、436H、440Y及び443Wから選択される少なくとも1つの置換を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片であって、変異Fc領域が、
(a)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228、234、235及び331から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾;
(b)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228及び235から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾;
(c)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの239、330及び332から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾;又は
(d)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの252、254、及び256から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾
を含む、前記抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片であって、変異Fc領域が、
(a)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228P、234F、235E、235F、235Y、及び331Sから選択される1つ以上の置換;
(b)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228P、235E及び235Yから選択される1つ以上の置換;
(c)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの239D、330L、330Y、及び332Eから選択される1つ以上の置換;
(d)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの252Y、254T及び256Eから選択される1つ以上の置換;又は
(e)Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの3つの置換252Y、254T及び256E
を含む、前記抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
変異Fc領域が、IgG4 Fc領域を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする単離核酸。
【請求項12】
B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある単離された抗体又はその抗原結合断片を産生するためのベクターであって、請求項11に記載の単離核酸を含むベクター。
【請求項13】
B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある単離された抗体又はその抗原結合断片を発現することが可能な宿主細胞であって、請求項11に記載の核酸又は請求項12に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片を作製するための方法であって、請求項11に記載の核酸又は前記核酸を含むベクターを含む宿主細胞を、前記抗体又はその断片の発現に適した条件下で培養するステップを含む、方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容できる担体を含む組成物。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む組成物であって、
(a)被験体におけるB型インフルエンザ感染の予防又は治療における使用のための;
(b)被験者におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の予防又は治療における使用のための;及び/又は
(c)被験体におけるB型インフルエンザ感染のインビトロ診断のための、
前記組成物。
【請求項17】
前記抗体又はその抗原結合断片が、
(a)抗体の1μg/ml~50μg/mlの範囲内のEC 50 でA型インフルエンザHAに結合する;及び/又は
(b)マイクロ中和アッセイにおけるA型インフルエンザウイルスの中和において、抗体の0.01μg/ml~5μg/mlの範囲内でのIC 50 を有する、
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型インフルエンザウイルスに対して広範な中和活性を有する抗体及びかかる抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス(influenza virus)は、毎年のインフルエンザ流行病や偶発的な世界的大流行を引き起こし、世界規模で公衆衛生に多大な脅威をもたらしている。季節性インフルエンザ感染は、毎年、特に幼児、易感染性患者及び高齢者における200,000~500,000人の死亡に関連している。死亡率は、典型的には、パンデミックインフルエンザの大流行に伴い、季節を通じてさらに増加する。特に十分なサービスを受けていない集団においてインフルエンザ感染を予防し、治療するための強力な抗ウイルス薬という多くの満たされていない医学的需要が残っている。
【0003】
インフルエンザウイルスには、A型、B型及びC型の3つの型が存在する。インフルエンザ疾患の大部分は、A型及びB型インフルエンザウイルスによって引き起こされる(Thompson et al.(2004) JAMA.292:1333-1340;及びZhou et al.(2012)Clin Infect.Dis.54:1427-1436)。A型、B型及びC型インフルエンザウイルスの全体構造は類似しており、中心コアを囲むウイルスエンベロープを含む。ウイルスエンベロープは、2つの表面糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)を含み、HAはウイルスの標的細胞への結合及び標的細胞への侵入を媒介する一方、NAは子孫ウイルスの感染細胞からの放出に関与する。
【0004】
HAタンパク質は構造が三量体であり、タンパク質分解成熟時、球状頭部(HA1)及びストーク領域(HA2)を有するpH依存性の準安定な中間体に切断される単一のポリペプチド前駆体HA0の3つの同一コピーを含む(Wilson et al.(1981) Nature.289:366-373)。膜遠位の球状頭部は、HA1構造の大部分を構成し、ウイルス侵入及び主要な抗原ドメインに対するシアル酸結合ポケットを有する。
【0005】
A型インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)遺伝子における遺伝的変異に基づいたサブタイプに分類され得る。現在、季節性の流行病では、A型インフルエンザH1及びH3のHAサブタイプが主にヒト疾患に関連する一方、H5、H7、H9及びH10をコードするウイルスは、動物からの直接感染に起因する孤発性のヒトでの大流行に関連する。
【0006】
A型インフルエンザウイルスに対して、B型インフルエンザウイルスは、2つの表面糖タンパク質に基づくサブタイプに分けられず、1970年代まで1つの均一なグループとして分類された。1970年代を通じて、B型インフルエンザウイルスは、Victoria及びYamagata系統と名付けられた2つの抗原的に識別可能な系統に、それら各々の最初の代表であるB/Victoria/2/87及びB/Yamagata/16/88の後から分岐し始めた(Biere et al.(2010) J Clin Microbiol.48(4):1425-7;doi:10.1128/JCM.02116-09.Epub 2010 Jan 27)。B型インフルエンザウイルスはヒト感染に限定され、また両系統は毎年の流行病に寄与する。B型インフルエンザウイルスに起因する罹患率はA型インフルエンザH3N2に伴うものより低いが、A型インフルエンザH1N1に伴うものより高い(Zhou et al.(2012) Clin Infect.Dis.54:1427-1436)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Thompson et al.(2004) JAMA.292:1333-1340
【文献】Zhou et al.(2012)Clin Infect.Dis.54:1427-1436
【文献】Wilson et al.(1981) Nature.289:366-373
【文献】Biere et al.(2010) J Clin Microbiol.48(4):1425-7;doi:10.1128/JCM.02116-09.Epub 2010 Jan 27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インフルエンザウイルス感染によって誘導される中和抗体は通常、ウイルス受容体結合を阻止するため、可変HA1球状頭部に標的化され、通常は株に特異的である。1つ以上のサブタイプ又は系統を中和する広範に交差反応性の抗体は希少である。近年、両系統のB型インフルエンザウイルスの複数のサブタイプを中和し得る数種のヒト抗体が発見されている(Dreyfus et al.(2012) Science.337(6100):1343-8;及びYasugi et al.(2013) PLoS Path.9(2):e1003150)。これらの抗体は多数のB型インフルエンザウイルスを認識するが、限られた適用範囲と効力を有し、またA型インフルエンザウイルス株をいずれも中和することがない。現在まで、すべてのB型インフルエンザウイルス感染を広範に中和若しくは阻害するか又はB型インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患を弱毒化する利用可能な抗体は存在しない。したがって、複数のインフルエンザウイルスに対して保護する新規抗体を同定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に記載の発明は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある単離された抗体又はその抗原結合断片を提供する。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、且つYamagata及びVictoria系統の双方におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある。Yamagata系統として、限定はされないが、B/AA/94(ca B/Ann Arbor/2/94(yamagata));B/YSI/98(ca B/Yamanashi/166/98(yamagata));B/JHB/99(ca B/Johannesburg/5/99(yamagata));B/SC/99(B/Sichuan/379/99(yamagata));B/FL/06(B/Florida/4/2006(yamagata))が挙げられる。Victoria系統として、限定はされないが、B/BJ/97(ca B/Beijing/243/97(victoria))、B/HK/01(B/Hong Kong/330/2001(victoria));B/MY/04(B/Malaysia/2506/2004(victoria));B/BNE/08(ca B/Brisbane/60/2008(victoria))が挙げられる。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、且つ分岐前の(pre-divergent)株におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある単離された抗体又はその抗原結合断片を提供する。本明細書で用いられるとき、用語「分岐前の」は、B型インフルエンザのYamagata及びVictoria系統への分岐前に同定されたB型インフルエンザ株を指す。分岐前のB型インフルエンザ株として、限定はされないが、B/Lee/40(B/Lee/40);B/AA/66(ca B/Ann Arbor/1/66);及びB/HK/72(B/Hong Kong/5/72)が挙げられる。
【0011】
一実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、抗体の約1μg/ml~約50μg/mlの範囲内のEC50でB型インフルエンザウイルスに結合する。別の実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、実施例3に記載の通り、マイクロ中和アッセイにおけるB型インフルエンザウイルスの中和における、抗体の約0.001μg/ml~約5μg/mlの範囲内の50%阻害濃度(IC50μg/ml)として表される中和効力を有する。他のマイクロ中和アッセイもまた実施例1に記載されている。
【0012】
一実施形態では、抗体は、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合する能力がある。A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンは、サブタイプ1及びサブタイプ2のヘマグルチニンを含む。A型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプは、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びそれらの変異体を含む。A型インフルエンザウイルスグループ2のサブタイプは、H3、H4、H7、H10、H14及びH15並びにそれらの変異体を含む。一実施形態では、抗体は、1つ以上のA型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプに結合する能力がある。別の実施形態では、抗体は、1つ以上のA型インフルエンザウイルスグループ2のサブタイプに結合する能力がある。一実施形態では、抗体は、A型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプH9に結合する能力がある。一実施形態では、本発明は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)及びA型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ少なくとも1つのYamagata系統のB型インフルエンザウイルス;少なくとも1つのVictoria系統のB型インフルエンザウイルス;少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスのサブタイプ、又はその組み合わせを中和する能力がある単離された抗体又はその抗原結合断片を提供する。一実施形態では、本発明は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)及び1つ以上のA型インフルエンザウイルスのサブタイプ1のヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ少なくとも1つのYamagata系統のB型インフルエンザウイルス又は少なくとも1つのVictoria系統のB型インフルエンザウイルス及び少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスのサブタイプ1を中和する能力がある単離された抗体又はその抗原結合断片を提供する。一実施形態では、本発明は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)及びA型インフルエンザウイルスのサブタイプH9のヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ少なくとも1つのYamagata系統のB型インフルエンザウイルス;少なくとも1つのVictoria系統のB型インフルエンザウイルス;A型インフルエンザウイルスのサブタイプH9、又はそれらの組み合わせを中和する能力がある単離された抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0013】
一実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、抗体の約1μg/ml~約50μg/mlの範囲内のEC50でA型インフルエンザHAに結合する。別の実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、マイクロ中和アッセイにおけるA型インフルエンザウイルスの中和において、抗体の約0.01μg/ml~約5μg/mlの範囲内でのIC50を有する。
【0014】
一実施形態では、本発明の抗体又はその断片は、HAの球状頭部領域に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスの感染を中和する。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、HAの球状頭部領域に結合し、且つYamagata及びVictoria系統の双方からのB型インフルエンザウイルスの感染を中和する。本発明の抗体は、抗B型インフルエンザHA球状頭部に結合する抗体であり、公知の抗B型インフルエンザ抗体と比べて、B型インフルエンザウイルスに対するより広い適用範囲又はより優れた中和活性を示す。
【0015】
一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、
(a)配列番号3のHCDR-1、配列番号4のHCDR-2、配列番号5のHCDR-3、配列番号8のLCDR-1、配列番号9のLCDR-2及び配列番号10のLCDR-3;
(b)配列番号13のHCDR-1、配列番号14のHCDR-2、配列番号15のHCDR-3、配列番号18のLCDR-1、配列番号19のLCDR-2、配列番号20のLCDR-3;
(c)配列番号23のHCDR-1、配列番号24のHCDR-2、配列番号25のHCDR-3、配列番号28のLCDR-1、配列番号29のLCDR-2及び配列番号30のLCDR-3;
(d)配列番号33のHCDR-1、配列番号34のHCDR-2、配列番号35のHCDR-3、配列番号38のLCDR-1、配列番号39のLCDR-2及び配列番号40のLCDR-3;
(e)配列番号43のHCDR-1、配列番号44のHCDR-2、配列番号45のHCDR-3、配列番号48のLCDR-1、配列番号49のLCDR-2及び配列番号50のLCDR-3;
(f)配列番号53のHCDR-1、配列番号54のHCDR-2、配列番号55のHCDR-3、配列番号58のLCDR-1、配列番号59のLCDR-2及び配列番号60のLCDR-3;
(g)配列番号63のHCDR-1、配列番号64のHCDR-2、配列番号65のHCDR-3、配列番号68のLCDR-1、配列番号69のLCDR-2及び配列番号70のLCDR-3;
(h)配列番号75のHCDR-1、配列番号76のHCDR-2、配列番号77のHCDR-3、配列番号83のLCDR-1、配列番号84のLCDR-2及び配列番号85のLCDR-3;
(i)配列番号91のHCDR-1、配列番号92のHCDR-2、配列番号93のHCDR-3、配列番号99のLCDR-1、配列番号100のLCDR-2及び配列番号101のLCDR-3;
(j)配列番号107のHCDR-1、配列番号108のHCDR-2、配列番号109のHCDR-3、配列番号115のLCDR-1、配列番号116のLCDR-2及び配列番号117のLCDR-3;
(k)配列番号121のHCDR-1、配列番号122のHCDR-2、配列番号123のHCDR-3、配列番号124のLCDR-1、配列番号125のLCDR-2及び配列番号126のLCDR-3;
(l)配列番号127のHCDR-1、配列番号128のHCDR-2、配列番号129のHCDR-3、配列番号130のLCDR-1、配列番号131のLCDR-2及び配列番号132のLCDR-3;
(m)配列番号133のHCDR-1、配列番号134のHCDR-2、配列番号135のHCDR-3、配列番号136のLCDR-1、配列番号137のLCDR-2及び配列番号138のLCDR-3;
(n)配列番号139のHCDR-1、配列番号140のHCDR-2、配列番号141のHCDR-3、配列番号142のLCDR-1、配列番号143のLCDR-2及び配列番号144のLCDR-3;
(o)配列番号145のHCDR-1、配列番号146のHCDR-2、配列番号147のHCDR-3、配列番号148のLCDR-1、配列番号149のLCDR-2及び配列番号150のLCDR-3;
(p)配列番号78のHCDR-1、配列番号79のHCDR-2、配列番号80のHCDR-3、配列番号86のLCDR-1、配列番号87のLCDR-2及び配列番号88のLCDR-3;
(q)配列番号94のHCDR-1、配列番号95のHCDR-2、配列番号96のHCDR-3、配列番号102のLCDR-1、配列番号103のLCDR-2及び配列番号104のLCDR-3;
(r)配列番号110のHCDR-1、配列番号111のHCDR-2、配列番号112のHCDR-3、配列番号118のLCDR-1、配列番号119のLCDR-2及び配列番号120のLCDR-3;及び
(s)1つ以上のアミノ酸置換、欠失又は挿入を含む(a)~(r)のいずれか1つに記載の6つのCDRセット
から選択される6つのCDRセット:HCDR-1、HCDR-2、HCDR-3、LCDR-1、LCDR-2、LCDR-3を含む。
【0016】
別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号74のVH及び配列番号82のVL、
(i)配列番号90のVH及び配列番号98のVL、並びに
(j)配列番号106のVH及び配列番号114のVL
から各々選択されるVH及び/又はVLに対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%の同一性を有するVH及び/又は少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%の同一性を有するVLを有する。
【0017】
さらなる特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号74のVH及び配列番号82のVL、
(i)配列番号90のVH及び配列番号98のVL、並びに
(j)配列番号106のVH及び配列番号114のVL
から選択されるVH及びVLを含む。
【0018】
一実施形態では、本発明は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある抗体又はその抗原結合断片を提供し、抗体は配列番号71のVHアミノ酸配列を有し、ここで配列番号71のXaaはVal又はGluであり;配列番号71のXaaはLeu又はPheであり;配列番号71のXaaはSer又はThrであり;配列番号71のXaaはLeu又はSerであり;配列番号71のXaaはSer又はThrであり;配列番号71のXaaはMet又はThrであり;配列番号71のXaaはPhe又はTyrであり;配列番号71のXaaはHis又はGlnであり;配列番号71のXaaはSer又はAsnであり;配列番号71のXaa10はArg又はLysであり;且つ配列番号71のXaa11はAla又はThrであり;また配列番号72のVLアミノ酸配列を有し、ここで配列番号72のXaaはPhe又はTyrである。一実施形態では、配列番号71のXaaはSerである。別の実施形態では、配列番号71のXaaはLeuである。さらに別の実施形態では、配列番号71のXaaはGluであり;配列番号71のXaaはThrであり;配列番号71のXaaはThrであり;配列番号71のXaaはTyrであり;配列番号71のXaaはGlnであり;配列番号71のXaa10はLysであり;配列番号71のXaa11はThrであり、又はそれらの組み合わせである。別の実施形態では、配列番号71のXaaはGluであり;配列番号71のXaaはThrであり;配列番号71のXaaはThrであり;配列番号71のXaaはTyrであり;配列番号71のXaaはGlnであり;配列番号71のXaaはSerであり;配列番号71のXaa10はLysであり;且つ配列番号71のXaa11はThrである。
【0019】
一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、単独ドメイン抗体、ダイアボディ抗体、多重特異性抗体、二重特異性(dual-specific)抗体、及び二重特異性(bispecific)抗体から選択される。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片はFc領域を含む。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、IgG1、IgG2若しくはIgG4又はその断片である。
【0020】
一実施形態では、本発明は、B型インフルエンザウイルスに結合し、且つB型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのYamagata系統及び少なくとも1つのVictoria系統を中和する能力がある、B型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその抗原結合断片を提供し、ここで抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのYamagata系統及び少なくとも1つのVictoria系統の中で保存されるエピトープに結合する。一実施形態では、エピトープの1つ以上の接触残基は、B型インフルエンザHAの頭部領域内に位置する。一実施形態では、エピトープは、接触残基としてHAの頭部領域の配列の128、141、150及び235から選択される1つ以上のアミノ酸を含む(Wang et al.(2008)J.Virol.82(6):3011-20)。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、且つ、本発明の抗体と同じエピトープに結合するか又はB型インフルエンザウイルスヘマグルチニンへの結合に対して本発明の抗体と競合する、2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある、B型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその抗原結合断片を提供する。一実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号74のVH及び配列番号82のVL、
(i)配列番号90のVH及び配列番号98のVL、並びに
(j)配列番号106のVH及び配列番号114のVL
から選択されるアミノ酸配列を有する抗体と同じエピトープに結合するか又はA型インフルエンザウイルスヘマグルチニンへの結合に対して同抗体と競合する。
【0022】
本発明はまた、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードする単離された核酸、並びにかかる単離された核酸を含むベクター及びかかる核酸又はベクターを含む宿主細胞を提供する。一実施形態では、ベクターは発現ベクターである。別の実施形態では、ベクターは非天然の組換えベクターである。一実施形態では、ベクターはプラスミドである。一実施形態では、ベクター又はプラスミドは、1つ以上の発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)、選択可能なマーカー遺伝子、又はその組み合わせに作動可能に連結された、本発明の抗体分子又はその抗原結合断片、本発明の抗体分子の重鎖又は軽鎖、本発明の抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメイン、又はその一部、あるいは重鎖又は軽鎖CDRをコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、ベクター又はプラスミドは、少なくとも1つの異種発現制御エレメント、選択可能なマーカー、又はその組み合わせを含む。
【0023】
一実施形態では、本発明は、抗体又はその抗原結合断片を、本明細書に記載の宿主細胞を抗体又はその断片の発現に適した条件下で培養することにより作製するための方法を提供する。一実施形態では、本方法は、抗体又はその抗原結合断片を宿主細胞培養物から単離するステップを含む。一実施形態では、宿主細胞は、細胞が天然に見出される組織から単離される。例えば、宿主細胞は、生物から単離され、細胞培養下、生体外で維持され得る。
【0024】
本発明はまた、本発明の抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容できる担体を含む組成物を提供する。一実施形態では、本組成物は、本発明の抗体又はその抗原結合断片並びにpH6.0での25mMのHis及び0.15MのNaClを含む。
【0025】
一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、被験者におけるB型インフルエンザ感染の予防又は治療において用いられる。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、被験者におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の予防又は治療において用いられる。別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、被験者におけるB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための薬剤の製造において用いられる。別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、被験者におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための薬剤の製造において用いられる。
【0026】
一実施形態では、本発明は、被験者におけるB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための方法であって、本発明の抗体又はその抗原結合断片を被験者に有効量で投与するステップを含む、方法を提供する。別の実施形態では、本発明は、被験者におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための方法であって、本発明の抗体又はその抗原結合断片を被験者に有効量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【0027】
一実施形態では、本発明の抗体又はその断片は、被験者におけるB型インフルエンザ感染のインビトロ診断用に用いられる。別の実施形態では、本発明の抗体又はその断片は、被験者におけるA型インフルエンザ感染のインビトロ診断用に用いられる。さらに別の実施形態では、本発明の抗体又はその断片は、被験者におけるA型インフルエンザ感染及びB型インフルエンザ感染のインビトロ診断用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】B/HongKong/330/2001(Victoria系統)とのインキュベーション後のNK細胞活性化と抗HA抗体FBD-94及びFBC-39並びにFcエフェクター機能が欠如した変異体(FBD-94 LALA及びFBC-39 LALA)の連続希釈により測定される場合の抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を示す。
図2】様々な濃度のFBC-39(A及びC)、FBD-94(B及びD)及び非関連対照抗体が、致死量のB/Sichuan/379/99(Yamagata)(A及びB)又はB/Hong Kong/330/2001(Victoria)(C及びD)インフルエンザウイルスによる感染の4時間前に投与された生存動物の百分率を示す。
図3】致死量のB/Sichuan/379/99(Yamagata)(A及びB)又はB/Hong Kong/330/2001(Victoria)(C及びD)による感染を受け、様々な用量のFBC-39(A及びC)又はFBD-94(B及びD)、又は非関連対照抗体で感染後の2日目に治療された生存動物の百分率を示す。
図4】致死量のB/Hong Kong/330/2001(Victoria)を受け、3mg/kgのFBC-39(A)又はFBD-94(B)、又は非関連対照抗体で感染後の1、2、3、又は4日目に治療された生存動物の百分率を示す。
図5A】Kabat及びIMGT付番システムを用いての抗B型インフルエンザ抗体FBD-56、FBD-94、FBC-39、FBC-39LSL、FBC-39FSL、FBC-39LTL、FBC-39FTL、FBC-39FSS、FBC-39LTS、及びFBC-39FTSのVH及びVL配列内部のCDR(枠内)を示す。VH及びVL配列内部の修飾アミノ酸は太字と下線で示される。
図5B図5Aの続きである。
図5C図5Aの続きである。
図6】FBC-39の重鎖アミノ酸配列(配列番号22)に基づく、一般名としての抗B型インフルエンザ抗体の重鎖アミノ酸配列(配列番号71)を示し、ここでXaaはVal又はGluであり得;XaaはLeu又はPheであり得;XaaはThr又はSerであり得;XaaはSer又はLeuであり得;XaaはThr又はSerであり得;XaaはThr又はMetであり得;XaaはTyr又はPheであり得;XaaはGln又はHisであり得;XaaはAsn又はSerであり得;Xaa10はLys又はArgであり得;且つXaa11はThr又はAlaであり得る。
図7】FBC-39の軽鎖アミノ酸配列(配列番号27)に基づく、一般名としての抗B型インフルエンザ抗体の軽鎖アミノ酸配列(配列番号72)を示し、ここでXaaはPhe又はTyrであり得る。
図8】モノクローナル抗体耐性突然変異体(MARM)の単離において用いられるウイルスからのHA1タンパク質の整列化を示す。MARMの選択を通じて接触残基であることが見出されたアミノ酸位置が枠で囲まれる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
導入
本発明は、本明細書に記載の通り、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する、ヒト型を含む抗体、並びに抗原結合断片、誘導体/コンジュゲート及びそれらの組成物を提供する。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、本明細書に記載の通り、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つYamagata及びVictoria系統の双方におけるB型インフルエンザウイルスを中和するもので、かかる抗B型インフルエンザ抗体及びその断片は本明細書中で本発明の抗体と称される。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)及びA型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ少なくとも1つのYamagata系統のB型インフルエンザウイルス;少なくとも1つのVictoria系統のB型インフルエンザウイルス;少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスサブタイプ、又はその組み合わせを中和する。かかる抗B型インフルエンザ抗体及びその断片もまた、本明細書中で本発明の抗体と称される。
【0030】
本明細書で用いられるとき、用語「中和する」は、抗体又はその抗原結合断片が感染病原体、例えばA型インフルエンザ及び/又はB型インフルエンザウイルスに結合し、且つ生物学的活性、例えば感染病原体の病原性を低下させる能力を指す。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、A型インフルエンザウイルス;B型インフルエンザウイルス、又はその組み合わせの少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基に免疫特異的に結合する。さらなる特定の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)の少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基に免疫特異的に結合する。別のさらなる特定の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、B型インフルエンザウイルスHA球状頭部の少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基に免疫特異的に結合する。
【0031】
抗体は、感染病原体、例えばA型インフルエンザ及び/又はB型インフルエンザウイルスの活性を、ウイルスの生活環の期間中の様々な時点で中和し得る。例えば、抗体は、ウイルスと1つ以上の細胞表面受容体との相互作用に干渉することにより、ウイルスの標的細胞への付着に干渉し得る。或いは、抗体は、例えば、受容体媒介性エンドサイトーシスによるウイルス内部移行に干渉することにより、ウイルスとその受容体との1つ以上の付着後の相互作用に干渉し得る。
【0032】
本明細書で使用されるとき、免疫グロブリンとしても知られる「抗体(antibody)」及び「抗体(antibodies)」は、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ科動物抗体、キメラ抗体、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、所望される生物学的活性を呈する抗体断片(例えば、抗原結合部分)、ジスルフィド結合Fvs(dsFv)、及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、細胞内抗体、及び上記のいずれかのエピトープ-結合断片を包含する。特に、抗体は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な断片、すなわち少なくとも1つの抗原結合部位を含む分子、を含む。免疫グロブリン分子は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、サブアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はアロタイプ(例えば、Gm、例えば、G1m(f、z、a又はx)、G2m(n)、G3m(g、b、又はc)、Am、Em、及びKm(1、2又は3))であってもよい。
【0033】
ヒト抗体は通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖を含む。各軽鎖は1つの共有結合性のジスルフィド結合により重鎖に連結される一方、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間でジスルフィド結合の数は異なる。各重鎖及び軽鎖はまた、規則的間隔の鎖内のジスルフィド架橋も有する。各重鎖は一端に可変ドメイン(VH)を有し、それにいくつかの定常ドメイン(CH)が続く。各軽鎖は一端に可変ドメイン(VL)を有し、その他端に定常ドメイン(CL)を有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の1番目の定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列する。軽鎖は、軽鎖定常領域のアミノ酸配列に基づきλ鎖又はκ鎖のいずれかに分類される。κ軽鎖の可変ドメインはまた、本明細書中でVKとして表され得る。
【0034】
本発明の抗体は、完全長抗体又はインタクトな抗体、抗原結合断片を含む抗体断片、天然配列抗体又はアミノ酸変異体、ヒト抗体、ヒト化抗体、翻訳後修飾抗体、キメラ又は融合抗体、イムノコンジュゲート、及びそれらの機能断片を含む。抗体は、Fc領域内を修飾することで、所望されるエフェクター機能又は血清半減期を供することができる。下記のセクション内でより詳細に考察されるように、適切なFc領域とともに、細胞表面上に結合されたネイキッド抗体は、例えば抗体依存細胞傷害性(ADCC)を介して、又は補体依存性細胞傷害性(CDC)における補体を動員することにより、又はA型インフルエンザ及び/又はB型インフルエンザウイルス上の結合された抗体を認識する1つ以上のエフェクターリガンドを発現し、その後に抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)における細胞の食作用を引き起こす非特異的細胞毒性細胞を動員することにより、細胞毒性、又はいくつかの他の機構を誘発し得る。或いは、副作用又は治療合併症を最小化するようにエフェクター機能を排除又は低減することが望ましい場合、特定の他のFc領域を使用してもよい。Fcエフェクター機能を増強するだけでなく、低減又は排除するための方法が本明細書に記載される。さらに、本発明の抗体のFc領域は、修飾により、FcRnに対する結合親和性を増強し、ひいては血清半減期を増加させ得る。或いは、Fc領域は、PEG又はアルブミンにコンジュゲートすることで血清半減期が増加し得、又はいくつかの他のコンジュゲーションにより所望される効果がもたらされる。
【0035】
一実施形態では、本抗体は、哺乳動物におけるB型インフルエンザウイルス感染の1つ以上の症状を診断、予防、治療及び/又は軽減するのに有用である。別の実施形態では、本抗体は、動物におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザウイルス感染の1つ以上の症状を診断、予防、治療及び/又は軽減するのに有用である。本明細書で用いられるとき、用語「動物」は、限定はされないが、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウサギ、マウス、及びラットを含む哺乳類;並びに限定はされないが、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、及びウズラなどのトリ種を含む非哺乳類種を指す。
【0036】
本発明は、本発明の抗体及び担体を含む組成物を提供する。B型インフルエンザウイルス感染の予防又は治療を意図して、かかる治療を必要とする患者に組成物が投与され得る。一実施形態では、本組成物は、A型インフルエンザウイルス感染;B型インフルエンザウイルス感染;及びこれらの組み合わせを予防又は治療するため、患者に投与され得る。本発明はまた、本発明の抗体及び担体を含む製剤を提供する。一実施形態では、本製剤は、薬学的に許容できる担体を含む治療製剤である。
【0037】
特定の実施形態では、本発明は、哺乳動物におけるB型インフルエンザ感染を予防又は治療するのに有用な方法であって、抗体を治療有効量で哺乳動物に投与するステップを含む、方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、哺乳動物におけるA型インフルエンザ感染;B型インフルエンザ感染;及びこれらの組み合わせを予防又は治療するのに有用な方法であって、抗体を治療有効量で哺乳動物に投与するステップを含む、方法を提供する。抗体治療組成物は、医師による指示通りに、短期間(急性的に)、慢性的に、又は断続的に投与され得る。
【0038】
特定の実施形態では、本発明はまた、本発明の少なくとも1つの抗体を含む製品、例えば滅菌剤形及びキットを提供する。キットは、例えばELISA又はウエスタンブロットにおける、インビトロでのインフルエンザウイルスの検出及び定量を意図した抗体を有するように提供され得る。検出に有用なかかる抗体は、蛍光又は放射標識などの標識とともに提供してもよい。
【0039】
用語法
本発明を詳細に記載する前に、この発明が具体的な組成物又は方法ステップに限定されるものでなく、それ自体変わり得ることが理解されるべきである。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明確に別段の指示がない限り、複数形の指示対象を含むことに留意しなければならない。
【0040】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が関係する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show(2002)2nd ed.,CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.(1999)Academic Press;及びOxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology,Revised(2000)Oxford University Pressが、この発明において使用される用語の多くの一般的な辞書を当業者に提供する。
【0041】
アミノ酸は、本明細書中で、IUPAC-IUB生化学命名委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)により推奨される、その一般に公知の3文字記号又は1文字記号のいすれかによって指すことができる。同様に、ヌクレオチドは、その一般に認められた1文字コードによって指すことができる。
【0042】
抗B型インフルエンザウイルス抗体
特定の実施形態では、抗体は、単離及び/又は精製された抗体及び/又はパイロジェンフリーの抗体である。用語「精製された」は、本明細書で使用されるとき、その天然環境の構成成分から同定され、分離され、及び/又は回収されている他の分子、例えばポリペプチド、核酸分子を指す。従って、一実施形態では、本発明の抗体は、その天然環境の1つ以上の構成成分から分離されている精製抗体である。用語「単離抗体」は、本明細書で使用されるとき、異なる抗原特異性を有する他の抗体分子から実質的に遊離された抗体を指す(例えば、B型インフルエンザウイルスに特異的に結合する単離抗体は、B型インフルエンザウイルスHA抗体の抗原以外の抗原に特異的に結合する抗体から実質的に遊離している)。従って、一実施形態では、本発明の抗体は、異なる特異性を有する抗体から分離されている単離抗体である。典型的には、単離抗体は、モノクローナル抗体である。さらに、本発明の単離抗体は、1つ以上の他の細胞物質及び/又は化学物質から実質的に遊離していてもよく、本明細書中で、単離され、精製された抗体を指す。本発明の一実施形態では、「単離」モノクローナル抗体の組み合わせは、異なる特異性を有し、且つ十分に規定された組成物中で組み合わされている抗体に関する。抗体の産生方法及び精製/単離方法は、以下により詳細に記載される。
【0043】
本発明の単離抗体は、任意の好適なポリヌクレオチドによってコードされた本明細書に開示される抗体アミノ酸配列、又は任意の単離若しくは配合された抗体を含む。
【0044】
本発明の抗体は、B型インフルエンザウイルスのHAタンパク質に特異的な、少なくとも1つの特定のエピトープに免疫特異的に結合する。用語「エピトープ」は、本明細書で使用されるとき、抗体に結合する能力があるタンパク質決定基を指す。エピトープは通常、アミノ酸又は糖の側鎖など、分子の化学的活性表面群(groupings)を含み、また通常、特定の三次元構造特性、並びに特定の電荷特性を有する。立体構造エピトープと非立体構造(non-conformational)エピトープは、後者ではなく前者への結合が変性溶媒の存在下で失われるという点から区別される。
【0045】
一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、少なくとも2つの系統学的に異なるB型インフルエンザ系統に存在するエピトープに結合する。さらなる特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、少なくとも1つのB型インフルエンザYamagata株及び少なくとも1つのB型インフルエンザVictoria株中に存在するエピトープに結合する。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、Yamagata系統及びVictoria系統の双方のB型インフルエンザウイルス中に存在するエピトープに結合する。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、Yamagata系統及びVictoria系統の双方のB型インフルエンザ中に保存されるエピトープに結合する。
【0046】
一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、少なくとも1つのB型インフルエンザYamagata株及び少なくとも1つのB型インフルエンザVictoria株に、約1ng/ml~約500ng/mlの間、又は約1ng/ml~約250ng/mlの間、又は約1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約500ng/ml、250ng/ml、100ng/ml、50ng/ml、40ng/ml、30ng/ml、20ng/ml、若しくは15μg/ml未満の最大半量の有効濃度(EC50)で結合する。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、Yamagata及びVictoria系統のB型インフルエンザウイルスに、約1ng/ml~約500ng/mlの間、又は約1ng/ml~約250ng/mlの間、又は約1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約500ng/ml、250ng/ml、100ng/ml、50ng/ml、40ng/ml、30ng/ml、20ng/ml、若しくは15μg/ml未満のEC50で結合する。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、Yamagata系統及びVictoria系統の双方のB型インフルエンザウイルス中に存在するエピトープに、約1ng/ml~約500ng/mlの間、又は約1ng/ml~約250ng/mlの間、又は約1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約500ng/ml、250ng/ml、100ng/ml、50ng/ml、40ng/ml、30ng/ml、20ng/ml、若しくは15μg/ml未満のEC50で結合する。
【0047】
一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザYamagata系統に存在するエピトープに、約1ng/ml~約100ng/mlの間、1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約1ng/ml~約25ng/mlの間、又は約50ng/ml若しくは25ng/ml未満のEC50で;またB型インフルエンザVictoria系統に存在するエピトープに、約1ng/ml~約500ng/mlの間、又は約1ng/ml~約250ng/mlの間、又は約1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約500ng/ml、250ng/ml、100ng/ml若しくは50ng/ml未満のEC50で結合する。
【0048】
別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザYamagata系統に存在するエピトープに、約1ng/ml~約100ng/mlの間、1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約1ng/ml~約25ng/mlの間、又は約50ng/ml若しくは25ng/ml未満のEC50で;B型インフルエンザVictoria系統に存在するエピトープに、約1ng/ml~約500ng/ml、又は約1ng/ml~約250ng/mlの間、又は約1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約500ng/ml、250ng/ml若しくは100ng/ml未満のEC50で;またA型インフルエンザHA上のエピトープに、約1μg/ml~約50μg/mlの間、又は約50μg/ml、25μg/ml、15μg/ml若しくは10μg/ml未満のEC50で結合する。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、B型インフルエンザYamagata系統に存在するエピトープに、約1ng/ml~約100ng/mlの間、1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約1ng/ml~約25ng/mlの間、又は約50ng/ml若しくは25ng/ml未満のEC50で;B型インフルエンザVictoria系統に存在するエピトープに、約1ng/ml~約500ng/mlの間、又は約1ng/ml~約250ng/mlの間、又は約1ng/ml~約50ng/mlの間、又は約500ng/ml、250ng/ml若しくは100ng/ml未満のEC50で;またA型インフルエンザH9 HA上のエピトープに、約1μg/ml~約50μg/mlの間、又は約50μg/ml、25μg/ml、15μg/ml若しくは10μg/ml未満のEC50で結合する。
【0049】
一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、線状エピトープ、又は連続的エピトープのいずれかであるエピトープを認識する。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、非線状又は立体構造的エピトープを認識する。一実施形態では、本エピトープは、B型インフルエンザヘマグルチニン(HA)の糖タンパク質上に位置する。さらなる特定の実施形態では、本エピトープは、B型インフルエンザのHA糖タンパク質の頭部領域上に位置する。一実施形態では、本エピトープは、接触残基としてB型インフルエンザHAの頭部領域内の位置128、141、150若しくは235(Wang et al.(2008) J.Virol.82(6):3011-20に記載のH3付番システムに従って付番される)に1つ以上のアミノ酸を含む。一実施形態では、本エピトープは、接触残基としてB型インフルエンザHAの頭部領域の配列のアミノ酸128を含む。別の実施形態では、本エピトープは、接触残基としてB型インフルエンザHAの頭部領域の配列のアミノ酸141、150及び235を含む。
【0050】
本発明の抗体又はその抗原結合断片によって認識される1つ若しくは複数のエピトープは、多数の用途を有し得る。例えば、精製又は合成形態のエピトープは、免疫応答を高める(すなわち、ワクチンとして、又は他の用途を意図して抗体を産生するため)か、又はエピトープと免疫反応する抗体について血清をスクリーニングするために、使用することができる。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片によって認識されるエピトープ、又はかかるエピトープを有する抗原は、免疫応答を高めるためのワクチンとして使用してもよい。別の実施形態では、本発明の抗体及び抗原結合断片を使用して、ワクチンの質を、例えばワクチン中の抗原が正しい立体構造中に正確な免疫原性エピトープを含むか否かを判定することにより、監視することができる。
【0051】
可変領域
本明細書で使用されるとき、用語「親抗体」は、本明細書で定義される、変異体又は誘導体の調製に使用されるアミノ酸配列によってコードされる抗体を指す。親ポリペプチドは、天然抗体配列(すなわち、天然に存在する対立遺伝子変異体を含む、天然に存在するもの)又は天然に存在する配列の既存のアミノ酸配列修飾(他の挿入、欠失及び/又は置換など)を有する抗体配列を含み得る。親抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体であってもよい。一実施形態では、本発明の抗体は、親抗体の変異体である。本明細書で使用されるとき、用語「変異体」は、親抗体配列における1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失及び/又は置換の理由で、アミノ酸配列が「親」抗体アミノ酸配列と異なる抗体を指す。
【0052】
抗体の抗原結合部分は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を含む。抗体の抗原結合機能が完全長抗体の断片によって実行され得ることは示されている。抗体の用語「抗原結合部分」の内部に包含される結合断片の例として、(i)Fab断片、つまりVL、VH、CL及びCH1ドメインを含む一価断片;(ii)F(ab’)2断片、つまりヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VH及びCH1ドメインを含むFd断片;(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインを含むFv断片、(v)VHドメインを含むdAb断片(Ward et al.(1989)Nature.341:544-546);及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、VL及びVH領域が対合し、一価分子(一本鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Bird et al.(1988)Science.242:423-426;及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照のこと)を形成するような単一のタンパク質鎖としての作製を可能にする合成リンカーにより、組換え方法を用いて連結され得る。かかる一本鎖抗体はまた、抗体の用語「抗原結合部分」の範囲内に包含されることが意図されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を用いて得られ、また断片は、有用性について、インタクトな抗体の場合と同様な方法でスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、又はインタクトな免疫グロブリンの酵素的又は化学的切断により、産生することができる。
【0053】
本発明の抗体は、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含み、それは本明細書に記載のVH及びVLドメインを含む。典型的なVH及びVLドメインは下の表1に示される。
【0054】
【表1】
【0055】
特定の実施形態では、精製抗体は、本明細書に開示されるVH及び/又はVL配列の少なくとも1つに対して所与のパーセント同一性を有するVH及び/又はVLを含む。本明細書で使用されるとき、用語「パーセント(%)配列同一性」(「相同性」も含む)は、最大のパーセント配列同一性を得るため、必要に応じて、配列を整列し、ギャップを導入した後の(ここでは配列同一性の一部としての任意の保存的置換を考慮しない)、参照配列、例えば親抗体配列におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドと同一である、候補配列におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドの百分率と定義される。比較のための配列の最適な整列は、手作業に加えて、Smith and Waterman(1981)Ads App.Math.2:482の局所的相同性アルゴリズムによるか、Neddleman and Wunsch(1970)J.MoI.Biol.48:443の局所的相同性アルゴリズムによるか、Pearson and Lipman(1988)Proc.Natl Acad.Sci.USA85:2444の類似性探索方法によるか、又はこれらアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N及びTFASTA)を用いるコンピュータープログラムによって、生成することができる。
【0056】
本発明の抗体は、本明細書に記載されるVHアミノ酸配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%の同一性を有するVHアミノ酸配列を含んでもよい。他の実施形態では、本発明の抗体は、本明細書に記載されるVHアミノ酸配列のアミノ酸配列に対して、少なくとも、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するVHアミノ酸配列を有してもよい。
【0057】
本発明の抗体は、本明細書に記載されるVLアミノ酸配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%の同一性を有するVLアミノ酸配列を含んでもよい。他の実施形態では、本発明の抗体は、本明細書に記載されるVLアミノ酸配列に対して、少なくとも、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するVLアミノ酸配列を有してもよい。
【0058】
相補性決定領域(CDR)
可変ドメイン(VH及びVL)が抗原結合領域を含む一方で、その可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布しているわけではない。可変性は、軽鎖(VL又はVK)及び重鎖(VH)可変ドメインの双方で相補性決定領域(CDR)と称されるセグメント内に集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と称される。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、主としてβシート構成をとる、3つのCDRによって接続された4つのFRを含み、CDRが形成するループがこのβシート構造を接続し、ある場合にはβシート構造の一部を形成する。各鎖のCDRは、FRによって近接して一体に保持され、他方の鎖からのCDRと共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。重鎖の3つのCDRは、HCDR-1、HCDR-2、及びHCDR-3と名付けられ、軽鎖の3つのCDRは、LCDR-1、LCDR-2、及びLCDR-3と名付けられる。
【0059】
一実施形態では、抗体の可変ドメイン、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)におけるアミノ酸は、Kabat et al.(1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MDに従って同定され得る。この付番システムを用いて、実の線状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はCDRの短縮、又はそれへの挿入に対応するより少ないか又は追加的なアミノ酸を含んでもよい。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一のアミノ酸の挿入(Kabatによると残基52a)及び重鎖FR残基82の後に挿入残基(例えば、Kabatによると残基82a、82b、及び82cなど)を含んでもよい。残基のKabat付番は、所与の抗体に対して、抗体の配列の相同性領域での「標準の」Kabat付番配列との整列化により決定してもよい。フレームワーク残基の最大整列化は、付番システムにおいて「スペーサー」残基の挿入を必要とすることが多い。さらに、任意の所与のKabat部位番号での特定の個別残基の同一性は、種間又は対立遺伝子の相違により、抗体鎖から抗体鎖にかけて変化する場合がある。
【0060】
Kabatらの付番システムによると、HCDR-1は、約31のアミノ酸(すなわち、最初のシステイン残基後の約9残基)で開始し、約5~7のアミノ酸を含み、且つ次のチロシン残基で終結する。HCDR-2は、CDR-H1の末端後の15の残基で開始し、約16~19のアミノ酸を含み、次のアルギニン又はリジン残基で終結する。HCDR-3は、HCDR-2の末端後の約33のアミノ酸残基で開始し、3~25のアミノ酸を含み、且つ配列W-G-X-G(式中、Xは任意のアミノ酸である)で終結する。LCDR-1は、約24の残基(すなわちシステイン残基の後)で開始し、約10~17の残基を含み、次のチロシン残基で終結する。LCDR-2は、LCDR-1の末端後の約16の残基で開始し、約7の残基を含む。LCDR-3は、LCDR-2の末端後の約33の残基で開始し、約7~11の残基を含み、且つ配列F-G-X-G(式中、Xは任意のアミノ酸である)で終結する。CDRが抗体から抗体にかけて大幅に変化する(また定義によると、Kabatコンセンサス配列との相同性を呈することがない)ことに留意のこと。Kabat系を用いて付番された本発明の抗体のCDR重鎖及び軽鎖配列は、下の表2及び3に示される。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
Kabat付番スキームは広範に用いられるが、それは幾つかの欠点を有する。第1に、付番スキームは構造情報の不在下で配列データから開発されたことから、LCDR-1及びHCDR-1において挿入が設けられる位置は、構造的な挿入位置に常に一致するとは限らない。したがって、これらのループ内の形態学的に等しい残基は、同じ番号が付されない場合がある。第2に、その付番システムは厳密であり、限られた数の挿入しか許容されない。挿入に対して割り当てられた付番システムより多い残基が存在する場合、それらを付番する標準的な方法がない。
【0064】
別の実施形態では、抗体の可変ドメイン、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)におけるアミノ酸は、免疫遺伝学(IMGT)データベース(http://imgt.cines.fr)(Lefranc et al.(2003) Dev Comp Immunol.27(1):55-77)を用いて同定され得る。IMGTデータベースは、免疫グロブリン(IgG)、T細胞受容体(TcR)及び主要組織適合性複合体(MHC)分子についての配列情報を用いて開発されたものであり、抗体λ及びκ軽鎖、重鎖及びT細胞受容体鎖を通じて付番を統一し、すべてであるが異常に長い挿入に対する挿入コードの使用を回避する。IMGTではまた、Kabatらからのフレームワーク(FR)及び相補性決定領域(CDR)の定義、Chothiaらからの超可変ループの特徴づけ、並びにX線回折試験から得られた構造データが考慮され、組み合わされる。IMGT系を用いて付番された、本発明の抗体におけるCDR重鎖及び軽鎖配列は、下の表4及び5に示される。図5は、Kabat及びIMGTにより同定されるものとして、CDR配列を示すFBD-56、FBD-94及びFBC-39配列の整列化を提供する。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
本発明は、配列番号2;配列番号12;配列番号22;配列番号32;配列番号42;配列番号52;配列番号62;配列番号74;配列番号90;若しくは配列番号106のVHのアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%同一であり、且つ/又は配列番号7;配列番号17;配列番号27;配列番号37;配列番号47;配列番号57;配列番号67;配列番号82;配列番号98;若しくは配列番号114のVLのアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%同一である配列内のアミノ酸を含む抗B型インフルエンザ抗体を中和することを包含する。別の実施形態では、本発明は、配列番号2;配列番号12;配列番号22;配列番号32;配列番号42;配列番号52;配列番号62;配列番号74;配列番号90;若しくは配列番号106のVHのアミノ酸配列に対して少なくとも95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であり、且つ/又は配列番号7;配列番号17;配列番号27;配列番号37;配列番号47;配列番号57;配列番号67;配列番号82;配列番号98;若しくは配列番号114のVLのアミノ酸配列に対して少なくとも95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である配列内のアミノ酸を含む抗B型インフルエンザ抗体を中和することを包含する。
【0068】
別の実施形態では、本発明は、表2~5に示されるHCDR及びLCDRから選択される6つのCDRセット:HCDR-1、HCDR-2、HCDR-3、LCDR-1、LCDR-2、LCDR-3を含む抗体及びその抗原結合断片を提供する。別の実施形態では、本発明は、表2~5に示されるHCDR及びLCDRのアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%同一である配列内のアミノ酸を含む6つのCDRセット:HCDR-1、HCDR-2、HCDR-3、LCDR-1、LCDR-2、LCDR-3を含む抗体及びその抗原結合断片を提供する。別の実施形態では、本発明は、表2~5に示されるHCDR及びLCDRのアミノ酸配列に対して少なくとも95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である配列内のアミノ酸を含む6つのCDRセット:HCDR-1、HCDR-2、HCDR-3、LCDR-1、LCDR-2、LCDR-3を含む抗体及びその抗原結合断片を提供する。
【0069】
フレームワーク領域
重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、可変ドメインのより高度に保存された部分である4つのフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3、FR4)を含む。重鎖の4つのFRは、FR-H1、FR-H2、FR-H3及びFR-H4と名付けられ、また軽鎖の4つのFRは、FR-L1、FR-L2、FR-L3及びFR-L4と名付けられる。
【0070】
一実施形態では、Kabat付番システムは、フレームワーク領域を同定するため、用いることができる。Kabatらによると、FR-H1は、位置1で開始して約30のアミノ酸で終結し、FR-H2は約36~49のアミノ酸であり、FR-H3は約66~94のアミノ酸であり、またFR-H4は約103~113のアミノ酸である。FR-L1はアミノ酸1で開始して約23のアミノ酸で終結し、FR-L2は約35~49のアミノ酸であり、FR-L3は約57~88のアミノ酸であり、またFR-L4は約98~107のアミノ酸である。特定の実施形態では、フレームワーク領域は、Kabat付番システムに従う置換、例えばFR-L1内の106Aに挿入を有してもよい。天然の置換に加えて、FR残基の1つ以上の改変(例えば置換)もまた、それが中和能力を保持するという条件で、本発明の抗体に導入してもよい。特定の実施形態では、これらは、抗体のB型インフルエンザウイルスHAに対する結合親和性における改善又は最適化をもたらす。修飾対象のフレームワーク領域残基の例として、抗原に直接的に非共有結合するもの(Amit et al.(1986) Science.233:747-753);CDRの立体構造に対して相互作用/作用するもの(Chothia et al.(1987) J.Mol.Biol.196:901-917);及び/又はVL-VH界面に関与するもの(米国特許第5,225,539号明細書)が挙げられる。他の実施形態では、フレームワーク領域は、IMGTの付番システムを用いて同定され得る。
【0071】
別の実施形態では、FRは、「ジャームライニング(germlining)」を意図して1つ以上のアミノ酸変化を含んでもよい。例えば、選択された抗体の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列は、生殖系列の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列と比較することができ、選択されたVL及び/又はVH鎖の特定のフレームワーク残基が、(例えば免疫グロブリンの体細胞突然変異の結果として)生殖系列の立体配置と異なる場合、生殖系列の立体配置に対して、選択された抗体の改変されたフレームワーク残基を「逆突然変異する」(すなわち、選択された抗体のフレームワークアミノ酸配列を、生殖系列のフレームワークアミノ酸配列と同じであるように改変する)ことが、例えば、免疫原性の機会を低減するために望ましい場合がある。フレームワーク残基のかかる「逆突然変異」(又は「ジャームライニング」)は、特異的突然変異の導入(例えば、部位特異的変異誘発;PCR媒介性の突然変異誘発など)のための標準的な分子生物学的方法によって達成することができる。
【0072】
図6は、一般名としての抗B型インフルエンザ抗体のVHドメインのアミノ酸配列(配列番号71)を示し、FBC-39における非生殖系列残基(配列番号22)はXaa1-11と名付けられた。一実施形態では、非生殖系列(Xaa1-11)残基の1つ以上は、生殖系列に「逆突然変異」される。一実施形態では、配列番号71のXaaはVal又はGluであり;配列番号71のXaaはLeu又はPheであり;配列番号71のXaaはSer又はThrであり;配列番号71のXaaはLeu又はSerであり;配列番号71のXaaはSer又はThrであり;配列番号71のXaaはMet又はThrであり;配列番号71のXaaはPhe又はTyrであり;配列番号71のXaaはHis又はGlnであり;配列番号71のXaaはSer又はAsnであり;配列番号71のXaa10はArg又はLysであり;また配列番号71のXaa11はAla又はThrである。別の実施形態では、配列番号71のXaaはGluであり;配列番号71のXaaはThrであり;配列番号71のXaaはThrであり;配列番号71のXaaはTyrであり;配列番号71のXaaはGlnであり;配列番号71のXaa10はLysであり;配列番号71のXaa11はThrであり、又はその組み合わせである。さらなる特定の実施形態では、配列番号71のXaaはSerである。さらに別の実施形態では、配列番号71のXaaはLeuである。
【0073】
図7は、一般名としての抗B型インフルエンザ抗体のVLドメインのアミノ酸配列(配列番号72)を示し、FBC-39内の非生殖系列残基(配列番号27)はXaaによって表される。一実施形態では、非生殖系列残基(Xaa)は、生殖系列に「逆突然変異」される。一実施形態では、配列番号72のXaaはPhe又はTyrである。さらなる特定の実施形態では、配列番号72のXaaはTyrである。
【0074】
本発明の抗体をコードするヌクレオチド配列
上記のアミノ酸配列に加えて、本発明はまた、アミノ酸配列に対応し且つ本発明のヒト抗体をコードするヌクレオチド配列を提供する。一実施形態では、本発明は、本明細書に記載される抗体又はその断片をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供する。これらは、限定はされないが、上で参照したアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。従って、本発明はまた、本明細書に記載される抗体のCDR及びFRを含むVH及びVLフレームワーク領域をコードするポリヌクレオチド配列、並びに細胞(例えば、哺乳類細胞)でのその効率的発現のための発現ベクターを提供する。ポリヌクレオチドを使用して抗体を作製する方法は、以下により詳細に説明される。
【0075】
本発明はまた、例えば本明細書中で定義するとおりの、ストリンジェントな又はより低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の下で、本明細書に記載される本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドも包含する。用語「ストリンジェンシー」は、本明細書で使用されるとき、プローブとフィルタに結合した核酸との間の相同性の程度を表す、ハイブリダイゼーション実験の実験条件(例えば、温度及び塩濃度)を指し、ストリンジェンシーが高まると、プローブとフィルタに結合した核酸との間のパーセント相同性が高まる。
【0076】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、限定はされないが、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中約45℃でのフィルタに結合したDNAとのハイブリダイゼーションと、続く0.2×SSC/0.1%SDS中約50~65℃での1回以上の洗浄、高度にストリンジェントな条件、例えば6×SSC中約45℃でのフィルタに結合したDNAとのハイブリダイゼーションと、続く0.1×SSC/0.2%SDS中約65℃での1回以上の洗浄、又は当業者に公知の任意の他のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(例えば、Ausubel et al.,eds(1989)Current Protocols in Molecular Biology,vol.1,Green Publishing Associates,Inc.and John Wiley and Sons,Inc.,NYの6.3.1~6.3.6頁及び2.10.3頁を参照のこと)が挙げられる。
【0077】
実質的に同一な配列は、多形配列、すなわち、集団内の代替配列又は対立遺伝子であってもよい。対立遺伝子の差異は、1つの塩基対と同程度に小さくてもよい。実質的に同一な配列はまた、サイレント突然変異を有する配列を含む、変異誘発された配列を含んでもよい。突然変異は、1つ以上の残基の変化、1つ以上の残基の欠失、又は1つ以上のさらなる残基の挿入を含んでもよい。
【0078】
当該技術分野で公知の任意の方法により、ポリヌクレオチドを得て、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定してもよい。例えば、抗体のヌクレオチド配列が公知である場合、抗体をコードするポリヌクレオチドは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドから構築してもよく(例えば、Kutmeier et al.(1994)BioTechniques.17:242に記載のとおり)、それはつまり、抗体をコードする配列の一部分を含むオーバーラップオリゴヌクレオチドの合成、同オリゴヌクレオチドのアニーリング及び連結、及びそれに続くPCRによる連結されたオリゴヌクレオチドの増幅を含む。
【0079】
抗体をコードするポリヌクレオチドはまた、好適な供給源由来の核酸から作成してもよい。特定の抗体をコードする核酸を含むクローンが入手できないが、抗体分子の配列が公知である場合、免疫グロブリンをコードする核酸は、化学的に合成するか、或いは、好適な供給源(例えば、抗体cDNAライブラリ、又は、抗体を発現する任意の組織若しくは細胞、例えば抗体を発現するために選択されるハイブリドーマ細胞から作成されるcDNAライブラリ、又はそれから単離される核酸、一実施形態ではポリA+RNA)から、配列の3’及び5’末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを用いるPCR増幅により、又は特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いるクローニングし、例えば抗体をコードするcDNAライブラリからcDNAクローンを同定することにより、入手してもよい。次に、PCRによって生成される増幅核酸は、当該技術分野で周知の任意の方法を用いて、複製可能なクローニングベクターにクローニングすることができる。
【0080】
抗体のヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列が決定されると、抗体のヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列の操作のための当該技術分野で周知の方法、例えば、組換えDNA技術、部位特異的突然変異誘発、PCRなど(例えば、Sambrook et al.(1990)Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.and Ausubel et al.,eds.(1998)Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NYに記載の技法を参照のこと)を用いて操作し、異なるアミノ酸配列を有する抗体を作成し、例えばアミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入を生じさせることができる。
【0081】
結合特性
上記の通り、本発明の抗体又は抗原結合断片は、B型インフルエンザウイルスのHAタンパク質、ペプチド、サブユニット、断片、部分又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基に、他のポリペプチドに対して排他的又は優先的に、免疫特異的に結合する。特定の実施形態では、B型インフルエンザウイルスHAタンパク質のエピトープ又は抗原決定基は球状頭部である。用語「エピトープ」又は「抗原決定基」は、本明細書で用いられるとき、抗体に結合することが可能なタンパク質決定基を指す。一実施形態では、用語「結合」は、本明細書中で特異的結合に関する。これらのタンパク質決定基又はエピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖などの分子の化学的活性表面グルーピングを含み、通常は特定の三次元構造特性、並びに特定の電荷特性を有する。立体構造的及び非立体構造的エピトープは、後者ではなく前者への結合が変性溶媒の存在下で失われるという点で区別される。用語「不連続エピトープ」は、本明細書で用いられるとき、タンパク質の一次配列内の少なくとも2つの分離領域から形成されるタンパク質抗原上の立体構造的エピトープを指す。
【0082】
抗原と抗体の間の相互作用は、他の非共有結合的なタンパク質-タンパク質相互作用の場合と同じである。一般に、4種の結合相互作用、すなわち、(i)水素結合、(ii)分散力、(iii)ルイス酸とルイス塩基の間の静電力、及び(iv)疎水性相互作用が、抗原と抗体の間に存在する。疎水性相互作用は、抗体-抗原相互作用における主な駆動力であり、また分子間引力ではなく非極性基による水の反発に基づくものである(Tanford(1978)Science.200:1012-8)。しかし、特定の物理的力はまた、抗原-抗体結合、例えば異なる抗体結合部位を有するエピトープ形状のフィット又は優遇(fit or complimentary)に寄与する。さらに、他の材料及び抗原は、抗体と交差反応し、それによって利用可能な遊離抗体と競合し得る。
【0083】
抗原と抗体との間の結合の親和性定数及び特異性の測定は、本発明の抗体を用いる予防、治療、診断及び研究方法の有効性を判定するのを補助し得る。「結合親和性」は、一般にある分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間での非共有相互作用全体の力を指す。特に指示されない限り、本明細書で用いられるとき、「結合親和性」は、結合ペアのメンバー(例えば抗体及び抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は一般に、koff/kon比として算出される平衡解離定数(Kd)によって表され得る。例えば、Chen et al.(1999) J.Mol Biol.293:865-881を参照のこと。低親和性抗体は一般に、抗原に徐々に結合し且つ容易に解離する傾向がある一方、高親和性抗体は一般に、抗原により迅速に結合し且つ結合状態をより長く維持する傾向がある。結合親和性を測定する種々の方法は当該技術分野で公知であり、それらのいずれかは本発明の目的のために用いることができる。
【0084】
結合親和性を決定するための一方法は、Chen et al.(1999) J.Mol Biol.293:865-881によって記載の目的の抗体のFabバージョン及びその抗原を用いて実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)によって解離定数「Kd」を測定することを含む。あるいは、Kd値は、BIAcore(商標)-2000又はBIAcore(商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,N.J.)を用いる表面プラズモン共鳴アッセイを用いることにより測定してもよい。オンレートが表面プラズモン共鳴アッセイにより10-1S-1を超える場合、オンレートは、漸増濃度の抗原の存在下での蛍光発光強度の増加及び低下を測定する蛍光クエンチング技術を用いることにより決定され得る。「オンレート」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」はまた、上記と同じ表面プラズモン共鳴技術を用いて決定され得る。
【0085】
本発明の抗体、又はその改変/変異誘導体(mutant derivative)の結合特性の判定に適した方法及び試薬は、当該技術分野で公知であり、及び/又は市販されている(米国特許第6,849,425号明細書;同第6,632,926号明細書;同第6,294,391号明細書;同第6,143,574号明細書)。さらに、かかる動力学分析のために設計された機器及びソフトウェアは市販されている(例えば、Biacore(登録商標)A100、及びBiacore(登録商標)2000機器;Biacore International AB,Uppsala,Sweden)。
【0086】
一実施形態では、本発明の抗体(その抗原結合断片又は変異体を含む)はまた、それらのA型インフルエンザウイルスポリペプチド;B型インフルエンザウイルスポリペプチド;又はそれらの組み合わせに対する結合親和性の観点で説明又は特定してもよい。典型的には、高親和性を有する抗体は、10-7M未満のKdを有する。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド;その断片又は変異体;又はそれらの組み合わせに、5×10-7M、10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M若しくは10-15M以下の解離定数すなわちKdで結合する。より特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド、その断片又は変異体;又はその組み合わせに、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M若しくは10-12M以下の解離定数すなわちKdで結合する。本発明は、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド;又はそれらの組み合わせに、個別の列挙される値のいずれかの間の範囲内にある解離定数すなわちKdで結合する抗体を包含する。
【0087】
別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド;その断片又は変異体;又はそれらの組み合わせに、5×10-2-1、10-2-1、5×10-3-1若しくは10-3-1、5×10-4-1、10-4-1、5×10-5-1、若しくは10-5-1、5×10-6-1、10-6-1、5×10-7-1若しくは10-7-1以下のオフレート(koff)で結合する。より特定の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド又はその断片若しくは変異体に、5×10-4-1、10-4-1、5×10-5-1、若しくは10-5-1、5×10-6-1、10-6-1、5×10-7-1若しくは10-7-1以下のオフレート(koff)で結合する。本発明はまた、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド;又はそれらの組み合わせに、個々の列挙される値のいずれかの間の範囲内にあるオフレート(koff)で結合する抗体を包含する。
【0088】
別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド;その断片又は変異体;又はそれらの組み合わせに、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1、若しくは5×10-1-1以上のオンレート(kon)で結合する。より特定の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド;その断片又は変異体;又はそれらの組み合わせに、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1若しくは5×10-1-1以上のオンレート(kon)で結合する。本発明は、A型インフルエンザポリペプチド;B型インフルエンザポリペプチド;又はそれらの組み合わせに、個別の列挙される値のいずれかの間の範囲内にあるオンレート(kon)で結合する抗体を包含する。
【0089】
一実施形態では、結合アッセイは、直接結合アッセイ又は競合結合アッセイのいずれかとして実施してもよい。結合は、標準ELISA又は標準フローサイトメトリーアッセイを用いて検出され得る。直接結合アッセイでは、候補抗体が、その同族抗原への結合について試験される。他方、競合結合アッセイでは、候補抗体が特定の抗原、例えばB型インフルエンザウイルスHAに結合する既知の抗体又は他の化合物と競合する能力が評価される。一般に、抗体の検出可能なB型インフルエンザウイルスHAとの結合を可能にする任意の方法は、抗体の結合特性を検出し、測定するための本発明の範囲で包含される。当業者はこれらの周知の方法を理解するであろうし、この理由については、ここで詳細に提示されることはない。これらの方法はまた、抗体のパネルを所望される特性を提供するものについてスクリーニングするため、利用される。
【0090】
一実施形態では、本発明の抗体は、B型インフルエンザウイルスHAに免疫特異的に結合し、且つB型インフルエンザウイルス感染を中和する能力がある。一実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも1つのYamagata系統のB型インフルエンザウイルス及び少なくとも1つのVictoria系統のB型インフルエンザウイルスに免疫特異的に結合する。別の実施形態では、本発明の抗体は、Yamagata系統及びVictoria系統のB型インフルエンザウイルスに免疫特異的に結合する。
【0091】
別の実施形態では、本発明の抗体は、B型インフルエンザウイルスHA及びA型インフルエンザウイルスHAに免疫特異的に結合し、且つB型インフルエンザウイルス及びA型インフルエンザウイルス感染を中和する能力がある。一実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも1つのYamagata系統のB型インフルエンザウイルス;少なくとも1つのVictoria系統のB型インフルエンザウイルス及び少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスのサブタイプに免疫特異的に結合する。
【0092】
A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンサブタイプは、サブタイプH1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びH17を含むグループ1、並びにサブタイプH3、H4、H7、H10、H14、及びH15を含むグループ2として同定された、2つの主要な系統発生グルーピングに分類される。一実施形態では、本発明に記載の抗体又は抗原結合断片は、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びH17とそれらの変異体から選択される1つ以上のA型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプに対して結合し、且つ/又は中和する能力がある。別の実施形態では、本発明に記載の抗体又は抗原結合断片は、H4、H10、H14及びH15とそれらの変異体から選択される1つ以上のA型インフルエンザウイルスグループ2のサブタイプに対して結合し、且つ/又は中和する能力がある。一実施形態では、本発明の抗体は、A型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプH9に結合する。一実施形態では、本発明の抗体は、A型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプH9に対して結合し、且つ中和する。
【0093】
一実施形態では、本発明の抗体は、B型インフルエンザウイルスHAに免疫特異的に結合し、且つB型インフルエンザウイルス感染を中和する能力がある。別の実施形態では、本発明の抗体は、A型インフルエンザ及びB型インフルエンザウイルスHAに免疫特異的に結合し、且つA型インフルエンザ及びB型インフルエンザウイルス感染を中和する能力がある。中和アッセイは、本明細書の実施例セクションに記載の通りに又は当該技術分野で公知の他の方法を用いて実施され得る。用語「阻害濃度50%」(「IC50」と略記)は、A型インフルエンザウイルス及び/又はB型インフルエンザウイルスの50%中和にとって必要とされる阻害剤(例えば本発明の抗体)の濃度を表す。より低いIC50値がより強力な阻害剤に対応することは、当業者によって理解されるであろう。
【0094】
一実施形態では、本発明に記載の抗体又はその抗原結合断片は、マイクロ中和アッセイにおける、約0.001μg/ml~約5μg/mlの範囲内、又は約0.001μg/ml~約1μg/mlの範囲内の抗体、又は5μg/ml未満、2μg/ml未満、1μg/ml未満、0.5μg/ml未満、0.1μg/ml未満、0.05μg/ml未満若しくは0.01μg/ml未満の、B型インフルエンザウイルスを中和するためのIC50を有する。
【0095】
一実施形態では、本発明に記載の抗体又はその抗原結合断片は、マイクロ中和アッセイにおける、約0.001μg/ml~約5μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.001μg/ml~約1μg/mlの範囲内、又は5μg/ml未満、2μg/ml未満、1μg/ml未満、0.5μg/ml未満、0.1μg/ml未満、0.05μg/ml未満若しくは0.01μg/ml未満の、B型インフルエンザウイルスを中和するためのIC50;及び、マイクロ中和アッセイにおけるA型インフルエンザウイルスの中和のための、約0.1μg/ml~約5μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.1μg/ml~約2μg/mlの範囲内、又は5μg/ml未満、2μg/ml未満、1μg/ml未満、若しくは0.5μg/ml未満の、A型インフルエンザウイルスを中和するためのIC50を有する。
【0096】
一実施形態では、本発明に記載の抗体又はその抗原結合断片は、マイクロ中和アッセイにおける、約0.001μg/ml~約50μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.001μg/ml~約5μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.001μg/ml~約1μg/mlの範囲内、又は10μg/ml未満、5μg/ml未満、1μg/ml未満、0.5μg/ml未満、0.1μg/ml未満、0.05μg/ml若しくは0.01μg/ml未満の、B型インフルエンザウイルスを中和するためのIC50;及び、マイクロ中和アッセイにおけるA型インフルエンザウイルスの中和のための、約0.01μg/ml~約50μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.05μg/ml~約5μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.1μg/ml~約2μg/mlの範囲内、又は50μg/ml未満、25μg/ml未満、10μg/ml未満、5μg/ml未満、又は2μg/ml未満の、A型インフルエンザウイルスを中和するためのIC50を有する。
【0097】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、細胞死を誘導しうる。「細胞死を誘導する」抗体は、生細胞を生育不能に至らしめるものである。細胞死は、補体及び免疫エフェクター細胞の不在下でインビトロで測定し、抗体依存細胞傷害性(ADCC)又は補体依存性細胞傷害性(CDC)によって誘導される細胞死を区別することができる。従って、細胞死用のアッセイは、熱不活化血清を用いて(すなわち補体の不在下で)且つ免疫エフェクター細胞の不在下で実施してもよい。抗体が細胞死を誘導することができるか否かを判定するため、ヨウ化プロピジウム(PI)、トリパンブルー(Moore et al.(1995)Cytotechnology 17:1-11を参照のこと)、7AADの取り込み又は当該技術分野で周知の方法によって評価される膜完全性の欠損は、未処理細胞と比べて評価することができる。
【0098】
具体的な実施形態では、本発明の抗体は、アポトーシスを介して細胞死を誘導し得る。「アポトーシスを誘導する」抗体は、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の拡大、細胞断片化、及び/又は(アポトーシス体と呼ばれる)膜小胞の形成によって判定されるプログラム細胞死を誘導するものである。アポトーシスに関連した細胞事象を評価するための様々な方法が利用可能である。例えば、ホスファチジルセリン(PS)転座は、アネキシンの結合によって測定可能であり、DNA断片化は、DNAラダリングを通じて評価可能であり、またDNA断片化に伴う核/クロマチン凝縮は、低二倍体細胞での任意の増加によって評価可能である。一実施形態では、アポトーシスを誘導する抗体は、アネキシン結合アッセイにおいて、未処理細胞と比べて約2~50倍、一実施形態では約5~50倍、また一実施形態では約10~50倍のアネキシン結合の誘導をもたらすものである。
【0099】
別の具体的な実施形態では、本発明の抗体は、抗体依存細胞傷害性(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害性(CDC)及び/又は抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)を介して細胞死を誘導し得る。ヒトIgG1サブクラス抗体のADCC活性及びCDC活性の発現は、一般に、抗体のFc領域の、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞又は活性化マクロファージなどのエフェクター細胞の表面上に存在する抗体に対する受容体(以降「FcγR」と称される)への結合を含む。様々な補体成分が結合され得る。その結合に関しては、抗体のヒンジ領域内の数個のアミノ酸残基及びC領域の2番目のドメイン(以降「Cγ2ドメイン」と称される)が重要であり(Greenwood et al.(1993)Eur.J.Immunol.23(5):1098-104;Morgan et al.(1995)Immunology.86(2):319-324;Clark,M.(1997)Chemical Immunology.65:88-110)、Cγ2ドメイン内の糖鎖(Clark,M.(1997)Chemical Immunology.65:88-110)もまた重要であることが示唆されている。
【0100】
目的の抗体のADCC活性を評価するため、インビトロADCCアッセイ、例えば米国特許第5,500,362号明細書に記載のものを用いることができる。同アッセイはまた、市販のキット、例えばCytoTox96(登録商標)(Promega)を用いて実施してもよい。かかるアッセイに有用なエフェクター細胞として、限定はされないが、末梢血単核球(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びNK細胞株が挙げられる。トランスジェニックFc受容体(例えばCD16)及び関連のシグナル伝達ポリペプチド(例えばFCεRI-γ)を発現するNK細胞株は、エフェクター細胞としても役立ち得る(国際公開第2006/023148号パンフレット)。一実施形態では、NK細胞株は、CD16を含み、且つNFATプロモーター下でルシフェラーゼを有し、細胞溶解又は細胞死ではなくNK細胞活性化を測定するために用いることができる。NK細胞の代わりにJurkat細胞を用いる類似の技術が、Promegaにより販売されている(Promega ADCCレポーターバイオアッセイ#G7010)。例えば、任意の特定の抗体が補体活性化及び/又はADCCにより溶解を媒介する能力はアッセイ可能である。目的の細胞はインビトロで成長し、標識され、抗体は、抗原抗体複合体により活性化され得る免疫細胞、すなわちADCC応答に関与するエフェクター細胞と組み合わせて細胞培養物に添加される。抗体はまた、補体活性化について試験され得る。いずれの場合でも、細胞溶解は溶解細胞からの標識の放出により検出される。細胞溶解の程度はまた、細胞質タンパク質(例えばLDH)の上清への放出を検出することにより判定してもよい。事実、抗体は、患者自身の血清を補体及び/又は免疫細胞の供給源として用いてスクリーニング可能である。次に、インビトロ試験においてヒトADCCを媒介することが可能な抗体は、その特定の患者において治療的に用いることができる。目的の分子のADCC活性はまた、例えば、Clynes et al.(1998) Proc.Natl.Acad.Sci.USA95:652-656に開示されたものなどの動物モデルで、インビボで評価され得る。さらに、抗体のADCC、及び任意選択的にはCDC活性のレベルを調節する(すなわち増加又は低下させる)ための技術は、当該技術分野で周知である(例えば、米国特許第5,624,821号明細書;米国特許第6,194,551号明細書;米国特許第7,317,091号明細書)。本発明の抗体は、ADCC及び/又はCDCを誘導する能力があり得るか、又はその能力を有するように修飾されていてもよい。ADCC機能を判定するためのアッセイは、ヒトADCC機能を評価するため、ヒトエフェクター細胞を用いて実行され得る。かかるアッセイはまた、壊死及び/又はアポトーシス機構により細胞死を誘導、媒介、増強、遮断する抗体についてスクリーニングするように意図されたものを含み得る。生存可能な色素を利用するアッセイ、カスパーゼを検出し、分析する方法、及びDNA切断を測定するアッセイを含むかかる方法は、目的の抗体とともにインビトロで培養された細胞のアポトーシス活性を評価するため、用いることができる。
【0101】
抗体の産生
以下は、本発明において有用な抗体の産生のための例示的技術を説明する。
【0102】
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマの使用(Kohler et al.(1975)Nature.256:495;Harlow et al.(1988)Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.;Hammerling,et al.(1981)in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier,N.Y.)、組換え技術、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせを含めた、当該技術分野において公知の幅広い技術を用いて調製することができる。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用されるとき、実質的に同種の抗体又は単離抗体の集団から得られる抗体を指し、例えば、その集団を構成する個別の抗体が、少量存在し得る天然に存在する可能な突然変異を除いては同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位を標的とする。さらに、異なる決定基(エピトープ)を標的とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤と対照的に、各モノクローナル抗体が抗原上の同じ決定基を標的とする。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、他の抗体による汚染なしに合成され得る点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものと解釈されるべきではない。以下はモノクローナル抗体の代表的な産生方法の説明であり(この説明は限定することを意図するものではない)、例えばモノクローナル哺乳類抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ドメイン、ダイアボディ、ワクチボディ、線状抗体及び多重特異性抗体の産生に用いることができる。
【0103】
ハイブリドーマ技法
ハイブリドーマ技術を用いた特異的抗体の産生及びスクリーニング方法は、当該技術分野においてルーチンであり、周知されている。ハイブリドーマ法では、マウス又は他の適切な宿主動物、例えばハムスターを上記のように免疫して、免疫化に用いた抗原に特異的に結合し得る抗体を産生する又はその産生能を有するリンパ球を誘導する。或いは、インビトロでリンパ球を免疫してもよい。免疫後、リンパ球を単離し、次に好適な融剤又は融合パートナー、例えばポリエチレングリコールを使用して骨髄腫細胞株と融合することにより、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding(1986)Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59-103(Academic Press))。特定の実施形態では、選択される骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高度な抗体産生を支持し、且つ融合しなかった親細胞を選択外にする選択培地に対して感受性を有するものである。一態様において、骨髄腫細胞株はマウス骨髄腫株、例えば、ソーク研究所細胞頒布センター(Salk Institute Cell Distribution Center),San Diego,Calif.USAから入手可能なMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍に由来するもの、並びにアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection),Rockville,MD.USAから入手可能なSP-2及び誘導体、例えばX63-Ag8-653細胞である。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株もまた、ヒトモノクローナル抗体の産生について記載されている(Kozbor(1984)J.Immunol.,133:3001;及びBrodeur et al.(1987)Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,))。
【0104】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定されると、クローンを限界希釈手順によりサブクローニングし、標準方法により成長させることができる(Goding、前掲)。この目的に好適な培養培地としては、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が挙げられる。加えて、ハイブリドーマ細胞は、例えば細胞をマウスに腹腔内注射することにより、動物において腹水腫瘍としてインビボで成長させてもよい。
【0105】
サブクローンにより選択されたモノクローナル抗体は、好適には、従来の抗体精製手順、例えば、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインA又はプロテインGセファロース)又はイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティータグ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析等によって培養培地、腹水、又は血清と分離される。例示的な精製方法を以下にさらに詳細に記載する。
【0106】
組換えDNA技法
組換えDNA技術を用いた特異的抗体の産生及びスクリーニング方法は、当該技術分野においてルーチンであり、周知されている(例えば米国特許第4,816,567号明細書)。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合する能力を有するオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離及び/又は配列決定することができる。単離後、DNAを発現ベクターに入れることができ、次にその発現ベクターが、大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞などの、本来抗体タンパク質を産生しない宿主細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成が達成される。抗体をコードするDNAの細菌における組換え発現に関するレビュー論文としては、Skerra et al.(1993)Curr.Opinion in Immunol.5:256-262及びPluckthun(1992)Immunol.Revs.130:151-188が挙げられる。ファージディスプレイにより作成される抗体及び抗体のヒト化について以下に記載するとおり、組換え抗体用のDNA又は遺伝物質をハイブリドーマ以外の1つ又は複数の供給源から入手して、本発明の抗体を作成することができる。
【0107】
抗体又はその変異体の組換え発現には、概して、抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築が必要である。従って本発明は、プロモーターに作動可能に連結された、抗体分子、抗体の重鎖若しくは軽鎖、抗体若しくはその一部分の重鎖若しくは軽鎖可変ドメイン、又は重鎖若しくは軽鎖CDRをコードするヌクレオチド配列を含む複製可能ベクターを提供する。かかるベクターは、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含むことができ(例えば、米国特許第5,981,216号明細書;同第5,591,639号明細書;同第5,658,759号明細書及び同第5,122,464号明細書を参照のこと)、抗体の可変ドメインが、重鎖全体、軽鎖全体、又は重鎖及び軽鎖全体の双方の発現用のかかるベクターにクローニングされてもよい。
【0108】
従来技術によって発現ベクターが宿主細胞に移入されると、次にトランスフェクト細胞が従来技術によって培養され、抗体が産生される。従って、本発明は、異種プロモーターに作動可能に連結された、本発明の抗体又はその断片、又はその重鎖又は軽鎖、又はその一部分、又は本発明の一本鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を含む。二重鎖抗体を発現させる特定の実施形態では、以下に詳述するとおり、重鎖及び軽鎖の双方をコードするベクターを、免疫グロブリン分子全体の発現用の宿主細胞で同時に発現させてもよい。
【0109】
組換え抗体の発現用宿主として利用可能な哺乳類細胞株は、当該技術分野において周知されており、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection:ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株、限定はされないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒーラー細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、ヒト上皮腎293細胞、及び数多くの他の細胞株が挙げられる。異なる宿主細胞は、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセシング及び修飾について特徴的で特異的な機構を有する。発現させた抗体又はその一部分の正しい修飾及びプロセシングが確実となるように、適切な細胞株又は宿主系を選択することができる。このため、適切な一次転写物のプロセシング、遺伝子産物のグリコシル化及びリン酸化のための細胞機構を有する真核生物宿主細胞が用いられ得る。かかる哺乳類宿主細胞としては、限定はされないが、CHO、VERY、BHK、ヒーラー、COS、MDCK、293、3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2O及びT47D、NS0(いかなる機能性免疫グロブリン鎖も内因的に産生しないマウス骨髄腫細胞株)、SP20、CRL7O3O及びHsS78Bst細胞が挙げられる。ヒトリンパ球を不死化することにより開発されたヒト細胞株を使用してモノクローナル抗体を組換え産生することができる。ヒト細胞株PER.C6(登録商標).(Crucell,オランダ)を使用してモノクローナル抗体を組換え産生することができる。
【0110】
組換え抗体の発現用宿主として用いられ得るさらなる細胞株としては、限定はされないが、昆虫細胞(例えばSf21/Sf9、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)Bti-Tn5b1-4)又は酵母細胞(例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae)、ピキア属(Pichia)、米国特許第7326681号明細書;他)、植物細胞(米国特許出願公開第20080066200号明細書);及びニワトリ細胞(国際公開第2008142124号パンフレット)が挙げられる。
【0111】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、抗体の安定発現を呈する細胞株で発現させる。安定発現は、組換えタンパク質の長期高収率産生に用いることができる。例えば、抗体分子を安定発現する細胞株を作成してもよい。宿主細胞を、発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位等)と、選択可能なマーカー遺伝子とを含む適切に操作されたベクターで形質転換することができる。外来DNAの導入後、細胞を1~2日間強化培地で成長させてもよく、次に選択培地に切り換える。組換えプラスミドにおける選択可能なマーカーが選択に対する耐性を付与し、プラスミドをその染色体に安定的に組み込んだ細胞の成長及びフォーカスの形成を可能にすることで、次にはそのフォーカスをクローニングし、細胞株へと拡大することができる。安定細胞株を高収率で作製する方法は当該技術分野において周知されており、概して試薬が市販されている。
【0112】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、抗体の一過性発現を呈する細胞株で発現させる。一過性トランスフェクションは、細胞に導入された核酸が当該細胞のゲノム又は染色体DNAに組み込まれないプロセスである。それは実際、染色体外要素、例えばエピソームとして細胞に維持される。エピソームの核酸の転写プロセスは影響を受けず、エピソームの核酸によりコードされるタンパク質が産生される。
【0113】
細胞株は、安定的にトランスフェクトされるものも、或いは一過性にトランスフェクトされるものも、モノクローナル抗体の発現及び産生をもたらす当該技術分野において公知の細胞培養培地及び条件に維持される。特定の実施形態では、哺乳類細胞培養培地は、例えばDMEM又はHam F12を含む市販の培地製剤をベースとする。他の実施形態では、細胞培養培地は、細胞成長及び生物学的タンパク質発現の両方の増加を支援するように修飾される。本明細書で使用されるとき、用語「細胞培養培地」、「培養培地」、及び「培地製剤」は、多細胞生物又は組織の外部の人工インビトロ環境で細胞を維持し、成長させ、増殖させ、又は拡大するための栄養溶液を指す。細胞培養培地は、例えば、細胞の成長を促進するように配合された細胞培養成長培地、又は組換えタンパク質産生を促進するように配合された細胞培養産生培地を含め、特定の細胞培養用途に最適化され得る。用語の栄養素、成分、及び構成成分は、本明細書では、細胞培養培地を構成する構成物を指して同義的に使用される。
【0114】
一実施形態では、細胞株は流加法を用いて維持される。本明細書で使用されるとき、「流加法」は、初めに基礎培地でインキュベートされた後、細胞培養物にさらなる栄養素が供給される方法を指す。例えば、流加法は、所与の時間内に所定の補給スケジュールに従い補足培地を添加することを含み得る。従って、「流加細胞培養物」は、細胞、典型的には哺乳類細胞、及び培養培地が培養槽に最初に供給され、且つ培養終了前の定期的な細胞及び/又は産物の回収を伴い、又は伴わずさらなる培養栄養素が培養中に培養物に対して連続的に、又は不連続に徐々に補給される細胞培養物を指す。
【0115】
使用される細胞培養培地及びそこに含まれる栄養素は、当業者に周知されている。一実施形態では、細胞培養培地は、基礎培地と、少なくとも1つの加水分解物、例えば、大豆ベースの加水分解物、酵母ベースの加水分解物、又はこれらの2種類の加水分解物の組み合わせとを含むことで、変法基礎培地をもたらす。別の実施形態では、さらなる栄養素は、濃縮基礎培地など、基礎培地のみを含んでもよく、又は加水分解物、若しくは濃縮加水分解物のみを含んでもよい。好適な基礎培地としては、限定はされないが、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、DME/F12、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI 1640、F-10、F-12、α-最小必須培地(α-MEM)、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)、PF CHO(例えば、CHOタンパク質不含培地(Sigma)又はCHO細胞用タンパク質不含EX-CELL(商標)325 PF CHO無血清培地(SAFC Bioscience)を参照のこと、及びイスコフ改変ダルベッコ培地が挙げられる。本発明において用いられ得る基礎培地の他の例としては、BME基礎培地(Gibco-Invitrogen;Eagle,H(1965)Proc.Soc.Exp.Biol.Med.89,36もまた参照のこと);ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、粉末)(Gibco-Invitrogen(#31600);Dulbecco and Freeman(1959)Virology.8:396;Smith et al.(1960)Virology.12:185.Tissue Culture Standards Committee,In Vitro 6:2,93もまた参照のこと);CMRL 1066培地(Gibco-Invitrogen(#11530);Parker et al.(1957)Special Publications,N.Y.Academy of Sciences,5:303もまた参照のこと)が挙げられる。
【0116】
基礎培地は無血清、つまり培地は血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ヤギ血清、又は当業者に公知の任意の他の動物由来血清)を含有しないか、又は動物性タンパク質不含培地又は化学限定培地であってもよい。
【0117】
基礎培地は、様々な無機及び有機緩衝剤、1つ又は複数の界面活性剤、及び塩化ナトリウムなどの、標準的な基礎培地に見られる特定の非栄養成分を除去するため、修飾され得る。基礎細胞培地からかかる構成成分を除去することにより、残りの栄養成分の濃度を高めることができ、細胞成長及びタンパク質発現が全体的に向上し得る。加えて、取り除いた構成成分を、細胞培養条件の要件に応じて、変法基礎細胞培地を含有する細胞培養培地に加え戻してもよい。特定の実施形態では、細胞培養培地は、変法基礎細胞培地と、以下の栄養素、すなわち、鉄源、組換え成長因子;緩衝剤;界面活性剤;容量オスモル濃度調節因子;エネルギー源;及び非動物性加水分解物の少なくとも1つとを含有する。加えて、変法基礎細胞培地は、場合により、アミノ酸、ビタミン、又はアミノ酸とビタミンとの両方の組み合わせを含有し得る。別の実施形態では、変法基礎培地は、グルタミン、例えば、L-グルタミン、及び/又はメトトレキサートをさらに含有する。
【0118】
抗体産生は、当該技術分野において公知の流加、バッチ、潅流又は連続供給バイオリアクター法を用いるバイオリアクタープロセスによって大量に行われ得る。大規模バイオリアクターは少なくとも1000リットルの容量、一実施形態では約1,000~100,000リットルの容量を有する。このようなバイオリアクターは撹拌機インペラを使用して酸素及び栄養素を分配し得る。小規模バイオリアクターは、概して容積が約100リットル以下の細胞培養を指し、約1リットル~約100リットルの範囲であり得る。或いは、単回使用バイオリアクター(SUB)が、大規模培養又は小規模培養のいずれにも用いられ得る。
【0119】
温度、pH、撹拌、曝気及び接種密度は、使用する宿主細胞及び発現させる組換えタンパク質に応じて異なり得る。例えば、組換えタンパク質細胞培養物は、摂氏30℃~45℃の温度に維持され得る。培養培地のpHは、培養プロセスの間、pHが至適レベルに保たれるように監視されてもよく、至適レベルは、ある種の宿主細胞に対して6.0~8.0のpH範囲内であり得る。かかる培養方法での撹拌には、インペラ駆動による混合が用いられ得る。インペラの回転速度は約50~200cm/秒の先端速度であってよく、しかしながら培養される宿主細胞の種類に応じて、当該技術分野で公知の他のエアリフト又は他の混合/曝気システムが用いられてもよい。十分な曝気を提供することにより、ここでもやはり培養される特定の宿主細胞に応じて、培養物中約20%~80%空気飽和の溶存酸素濃度が維持される。或いは、バイオリアクターにより空気又は酸素を培養培地中に直接拡散させてもよい。中空糸膜曝気装置を用いる無気泡曝気システムを含め、他の酸素供給方法が存在する。
【0120】
ファージディスプレイ技法
モノクローナル抗体又は抗体断片は、McCafferty et al.(1990)Nature.348:552-554、Clackson et al.(1991)Nature(1991)352:624-628及びMarks et al.(1991)J.Mol.Biol.222:581-597に記載される技法を用いて作成される抗体ファージライブラリから単離することができる。かかる方法では、抗体は、ヒトリンパ球に由来するmRNAから調製されたヒトVL及びVH cDNAを使用して調製される組換えコンビナトリアル抗体ライブラリ、一実施形態ではscFvファージディスプレイライブラリをスクリーニングによって単離することができる。かかるライブラリの調製及びスクリーニング方法は、当該技術分野において公知である。ファージディスプレイライブラリ作成用の市販のキットに加えて(例えば、Pharmacia組換えファージ抗体システム、カタログ番号27-9400-01;及びStratagene SurfZAP(商標)ファージディスプレイキット、カタログ番号240612)、抗体ディスプレイライブラリの作成及びスクリーニングに特に適している方法及び試薬の例を、例えば、米国特許第6,248,516号明細書;米国特許第6,545,142号明細書;同第6,291,158号明細書;同第6,291,159号明細書;同第6,291,160号明細書;同第6,291,161号明細書;同第6,680,192号明細書;同第5,969,108号明細書;同第6,172,197号明細書;同第6,806,079号明細書;同第5,885,793号明細書;同第6,521,404号明細書;同第6,544,731号明細書;同第6,555,313号明細書;同第6,593,081号明細書;同第6,582,915号明細書;同第7,195,866号明細書に見出すことができる。従って、これらの技術は、モノクローナル抗体の産生及び単離のための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技法に代わる実行可能な手法である。
【0121】
ファージディスプレイ方法では、機能性抗体ドメインが、それをコードするポリヌクレオチド配列を有するファージ粒子の表面に提示される。詳細な実施形態において、かかるファージを利用して、レパートリー又はコンビナトリアル抗体ライブラリ(例えば、ヒト又はマウスのもの)から発現する抗原結合ドメインを提示することができる。目的の抗原を結合する抗原結合ドメインを発現するファージを抗原により、例えば標識された抗原又は固体表面若しくはビーズに結合若しくは捕捉されている抗原を使用して、選択又は同定することができる。これらの方法で用いられるファージは、典型的には、ファージ遺伝子III又は遺伝子VIIIタンパク質のいずれかと組換え融合されたFab、Fv又はジスルフィド安定化Fv抗体ドメインを有するファージから発現するfd及びM13結合ドメインを含む繊維状ファージである。
【0122】
上記の参考文献に記載されるとおり、ファージ選択後、ファージから抗体コード領域を単離し、それを用いてヒト抗体、ヒト化抗体を含む全抗体、又は任意の他の所望の抗原結合断片を作成し、例えば以下に詳細に記載されるとおり、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、及び細菌を含む任意の所望の宿主で発現させることができる。例えば、Fab、Fab’及びF(ab’)2断片の組換え産生技法もまた、国際公開第92/22324号パンフレット;Mullinax et al.(1992)BioTechniques.12(6):864-869;及びBetter et al.(1988)Science.240:1041-1043に開示されるものなどの、当該技術分野において公知の方法を用いて採用することができる。
【0123】
単鎖Fv及び抗体の産生に用いることのできる技法の例としては、米国特許第4,946,778号明細書及び同第5,258,498号明細書に記載されるものが挙げられる。従って、上記に記載される技法及び当該技術分野において公知の技法を用いて、組換え抗体を作成することができ、ここで結合ドメイン、例えばScFvは、ファージディスプレイライブラリから単離された。
【0124】
抗体の精製及び単離
組換え発現又はハイブリドーマ発現による産生後、抗体分子は、当該技術分野において公知の免疫グロブリン分子を精製する任意の方法により、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、特に特異的抗原プロテインA又はプロテインGに対する親和性によるもの、及びサイズ排除カラムクロマトグラフィー)、遠心、溶解度の差によるか、又は任意の他の標準的なタンパク質精製技法により精製され得る。さらに、本発明の抗体又はその断片は、精製を促進することが知られる異種ポリペプチド配列(本明細書において「タグ」と称される)に融合されてもよい。
【0125】
組換え技術を用いるとき、抗体は細胞内に産生されるか、細胞膜周辺腔に産生されるか、又は培地中に直接分泌され得る。抗体が細胞内に産生される場合、最初の工程として、宿主細胞又は溶解した断片のいずれかである粒子状デブリが、例えば遠心又は限外ろ過により除去される。Carter et al.(1992)Bio/Technology.10:163-167は、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌される抗体の単離手順を記載している。抗体が培地中に分泌される場合、概して、初めにかかる発現系からの上清が、市販のタンパク質濃縮フィルタ、例えばAmicon又はMillipore Pellicon限外ろ過ユニットを使用して濃縮される。前述の工程のいずれかにPMSFなどのプロテアーゼ阻害薬を含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性汚染物の成長を防止してもよい。
【0126】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及び/又はアフィニティークロマトグラフィーを、単独で、或いは他の精製工程との組み合わせで用いて精製することができる。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存し、当業者は理解するであろう。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスが利用可能である。コントロールド・ポア・グラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスは、アガロースで達成され得るより高い流量及びより短い処理時間を実現する。抗体がCHドメインを含む場合、精製にはBakerbond ABX樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,NJ)が有用である。他のタンパク質精製技術、例えば、イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンでのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラムなど)でのセファロースクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿もまた、回収する抗体に応じて利用可能である。
【0127】
任意の予備的精製工程の後、目的の抗体及び汚染物を含む混合物を、pH約2.5~4.5の溶出緩衝液を使用する、且つ低塩濃度(例えば、約0~0.25M塩)で実施される低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供することができる。
【0128】
したがって、特定の実施形態では、実質的に精製/単離された本発明の抗体が提供される。一実施形態では、これらの単離/精製された組換え的に発現された抗体は、予防又は治療効果を媒介するため、患者に投与してもよい。予防は、薬物療法であるか、又は疾患、障害若しくは感染を発症から予防するように設計され、用いられる治療である。治療は、特定の疾患、障害又は感染の治療に特異的に関連する。治療量は、特定の疾患、障害又は感染を治療するのに要求される量である。別の実施形態では、これらの単離/精製された抗体は、インフルエンザウイルス感染、例えばB型インフルエンザウイルス感染、又は他の実施形態ではA型インフルエンザ及びB型インフルエンザウイルス感染を診断するのに用いてもよい。
【0129】
ヒト抗体
ヒト抗体は、当該技術分野で周知の方法を用いて作成することができる。ヒト抗体は、マウス又はラット可変及び/又は定常領域を有する抗体に付随する問題の一部を回避する。かかるマウス又はラット由来のタンパク質が存在すると、抗体の急速なクリアランスが引き起こされ得るか、又は患者による抗体に対する免疫応答の発生が引き起こされ得る。
【0130】
ヒト抗体は、インビトロ方法によって得ることもできる。好適な例としては、限定はされないが、ファージディスプレイ(MedImmune(旧CAT)、Morphosys、Dyax、Biosite/Medarex、Xoma、Symphogen、Alexion(旧Proliferon)、Affimed)リボソームディスプレイ(MedImmune(旧CAT))、酵母ディスプレイなどが挙げられる。ファージディスプレイ技術(例えば、米国特許第5,969,108号明細書を参照のこと)を用いることにより、未免疫ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからインビトロでヒト抗体又は抗体断片を作製することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子がM13又はfdなどの繊維状バクテリオファージの主要な或いはマイナーなコートタンパク質遺伝子にインフレームでクローニングされ、ファージ粒子の表面上に機能性抗体断片として提示される。この糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むため、抗体の機能特性に基づき選択すると、またそれらの特性を示す抗体をコードする遺伝子を選択することになる。従って、ファージはB細胞のいくらかの特性を模倣する。ファージディスプレイは様々なフォーマットで実施することができ、例えば、Johnson,Chiswell(1993)Current Opinion in Structural Biology.3:564-571にレビューされている。いくつかのV遺伝子セグメント供給源をファージディスプレイに用いることができる。Clackson et al.(1991)Nature.352:624-628は、免疫化マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小規模なランダムコンビナトリアルライブラリーから、抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。本質的にMarks et al.(1991)J.Mol.Biol.222:581-597、又はGriffith et al.(1993)EMBO J.12:725-734によって記載される技術に従い、非免疫ヒトドナー由来のV遺伝子のレパートリーを構築することができ、及び抗原(自己抗原を含む)の多様なアレイに対する抗体を単離することができる。米国特許第5,565,332号明細書及び同第5,573,905号明細書もまた参照のこと。
【0131】
上記に考察したとおり、ヒト抗体はまた、インビトロ活性化B細胞により作成してもよい(米国特許第5,567,610号明細書及び同第5,229,275号明細書を参照のこと)。
【0132】
免疫グロブリン遺伝子は、可変領域におけるV、D及びJ遺伝子セグメント間の組換え、アイソタイプスイッチング、及び超突然変異を含め、免疫応答が成熟する間に様々な修飾を受ける。組換え及び体細胞超突然変異は抗体多様性及び親和性成熟を生じる基礎であるが、それらはまた配列ライアビリティ(liability)も生じ得るために、かかる免疫グロブリンの治療剤としての商業生産は困難となり、又は抗体の免疫原性リスクが増加し得る。一般に、CDR領域における突然変異は親和性及び機能の向上に寄与するものと思われる一方、フレームワーク領域における突然変異は免疫原性リスクを増加させ得る。このリスクは、抗体の活性が悪影響を受けないことを確実にしながら、フレームワーク突然変異を生殖系列に復帰させることによって低減できる。多様化プロセスにより何らかの構造的ライアビリティが生じることもあり、又はそのような構造的ライアビリティが、重鎖及び軽鎖可変ドメインに寄与する生殖系列配列内に存在することもある。供給源にかかわらず、不安定性、凝集、産物の不均一性、又は免疫原性の増加をもたらし得る潜在的な構造的ライアビリティは除去することが所望され得る。望ましくないライアビリティの例としては、不対のシステイン(これはジスルフィド結合のスクランブリング、又は可変のスルフヒドリル付加物の形成を引き起こし得る)、N-結合型グリコシル化部位(構造及び活性の不均一性をもたらす)、並びにアミド分解(例えばNG、NS)、異性化(DG)、酸化(露出したメチオニン)、及び加水分解(DP)部位が挙げられる。
【0133】
従って、免疫原性リスクを低減し、且つ薬学的特性を向上させるため、フレームワーク配列を生殖系列に復帰させ、CDRを生殖系列に復帰させ、及び/又は構造的ライアビリティを除去することが所望され得る。
【0134】
従って、一実施形態では、特定の抗体がその各々の生殖系列配列とアミノ酸レベルで異なる場合、抗体配列は、生殖系列配列に逆突然変異され得る。かかる修正的な突然変異は、標準的な分子生物学的技法を用いて、1つ、2つ、3つ若しくはそれより多くの位置で、又は突然変異した位置のいずれかの組み合わせにおいて発生し得る。
【0135】
抗体断片
特定の実施形態では、本抗体は、抗体断片又はそれらの断片を含む抗体である。抗体断片は、完全長抗体のうち、概してその抗原結合領域又は可変領域である一部分を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd及びFv断片が含まれる。ダイアボディ;線状抗体(米国特許第5,641,870号明細書)及び一本鎖抗体分子である。
【0136】
伝統的には、これらの断片は、当該技術分野において公知の技法を用いたインタクトな抗体のタンパク質消化によって得られた。しかしながら、現在これらの断片は、組換え宿主細胞が直接産生することができる。Fab、Fv及びscFv抗体断片は全て、大腸菌(E.coli)の細胞型で発現させて、そこから分泌させることができるため、これらの断片は大量産生が容易に可能である。一実施形態では、抗体断片は、上記で考察される抗体ファージライブラリから単離することができる。或いは、Fab’-SH断片を大腸菌(E.coli)から直接回収し、化学的にカップリングすることにより、F(ab’)断片を形成することもできる(Carter et al.(1992))Bio/Technology.10:163-167。別の手法によれば、F(ab’)断片を組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体断片を産生する他の技術が、当業者には明らかであろう。他の実施形態では、選択される抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。特定の実施形態では、抗体はFab断片でない。Fv及びscFvは、定常領域を欠いたインタクトな結合部位を有する唯一の種である;従ってこれらは、インビボで使用する間の非特異的結合を低減するのに好適である。scFvのアミノ端又はカルボキシ端のいずれかにエフェクタータンパク質の融合が生じるようにscFv融合タンパク質を構築してもよい。
【0137】
特定の実施形態では、本抗体は、ドメイン抗体、例えば、ヒト抗体の重鎖可変(V)又は軽鎖可変(V)領域に対応する抗体の小さい機能的結合単位を含む抗体である。ドメイン抗体の例としては、限定はされないが、Domantisのものが挙げられる(例えば、国際公開第04/058821号パンフレット;国際公開第04/081026号パンフレット;国際公開第04/003019号パンフレット;国際公開第03/002609号パンフレット;米国特許第6,291,158号明細書;同第6,582,915号明細書;同第6,696,245号明細書;及び同第6,593,081号明細書を参照のこと)。
【0138】
本発明の特定の実施形態では、本抗体は、線状抗体である。線状抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(V-CH1-V-CH1)を含む。Zapata et al.(1995)Protein Eng.8(10):1057-1062を参照のこと。
【0139】
他のアミノ酸配列修飾
上述のヒト抗体、ヒト化抗体及び/又はキメラ抗体に加えて、本発明はまた、可変軽鎖(V)ドメイン及び/又は可変重鎖(V)ドメイン及び/又はFc領域における1つ以上のアミノ酸残基及び/又はポリペプチド置換、付加及び/又は欠失、及び翻訳後修飾を含む本発明の抗体のさらなる修飾体、並びにその変異体及びその断片も包含する。これらの修飾体には、抗体がある部分に共有結合している抗体コンジュゲートが含まれる。抗体との結合に好適な部分としては、限定はされないが、タンパク質、ペプチド、薬物、標識、及び細胞毒素が挙げられる。このような抗体に対する変化は、インフルエンザウイルス感染症の治療及び/又は診断に適切であるように抗体の(生化学的な、結合上の及び/又は機能的な)特性を改変し、又は微調整するために加えられ得る。コンジュゲートを形成し、アミノ酸及び/又はポリペプチド変化並びに翻訳後修飾を加える方法は、当該技術分野において公知であり、その一部を以下に詳述する。
【0140】
抗体に対するアミノ酸変化は、必然的に、上記に同定される抗体配列又は親抗体配列と100%未満の同一性の配列をもたらす。特定の実施形態では、これに関連して抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメインのいずれかのアミノ酸配列と約25%~約95%の配列同一性を有し得る。従って、一実施形態では修飾抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメインのいずれかのアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。別の実施形態では、改変抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖CDR-1、CDR-2、又はCDR-3のアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。別の実施形態では、改変抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖FR1、FR2、FR3又はFR4のアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。
【0141】
特定の実施形態では、改変抗体は、抗体の可変領域の1つ以上に導入された1つ以上のアミノ酸改変(例えば、置換、欠失及び/又は付加)により作成される。別の実施形態では、アミノ酸改変はフレームワーク領域に導入される。フレームワーク領域残基の1つ以上を改変すると、抗原に対する抗体の結合親和性の向上がもたらされ得る。これは特に、フレームワーク領域がCDR領域と異なる種から形成され得るヒト化抗体にそのような変化が加えられるときに該当し得る。修飾するフレームワーク領域残基の例には、抗原を直接非共有結合的に結合するもの(Amit et al.(1986)Science.233:747-753);CDRのコンホメーションと相互作用する/それを生じさせるもの(Chothia et al.(1987)J.Mol.Biol.196:901-917);及び/又はV-V接合部に関与するもの(米国特許第5,225,539号明細書及び同第6,548,640号明細書)が含まれる。一実施形態では、約1~約5個のフレームワーク残基が改変され得る。ときにこれは、超可変領域残基が一つも改変されていない場合であっても、前臨床試験での使用に好適な抗体変異体を得るのに十分であり得る。しかしながら、通常は、改変抗体は1つ又は複数のさらなる超可変領域改変を含み得る。
【0142】
改変抗体の一つの有用な作成手順は、「アラニンスキャニング突然変異生成」と呼ばれる(Cunningham and Wells(1989)Science.244:1081-1085)。この方法では、超可変領域残基の1つ以上がアラニン又はポリアラニン残基に置換されることにより、標的抗原とのアミノ酸の相互作用が改変される。次に、置換に対して機能的感受性を示すそれらの1つ又は複数の超可変領域残基が、置換部位に、又は置換部位用の追加的な又は他の突然変異を導入することによって精緻化される。従って、アミノ酸配列変異の導入部位は予め決めておかれるが、突然変異の性質それ自体を予め決めておく必要はない。このように産生されたAla突然変異体は、本明細書に記載されるとおりのその生物活性についてスクリーニングされる。
【0143】
特定の実施形態において置換変異体には、親抗体(例えばヒト化抗体又はヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基を置換することが関わる。概して、さらなる展開用に選択される得られた1つ又は複数の変異体は、それが作成される元になった親抗体と比べて生物学的特性が向上したものであり得る。かかる置換変異体を作成するための好都合な方法には、ファージディスプレイを使用した親和性成熟が関わる(Hawkins et al.(1992)J.Mol.Biol.254:889-896及びLowman et al.(1991)Biochemistry.30(45):10832-10837)。簡潔に言えば、いくつかの超可変領域部位(例えば、6~7個の部位)を突然変異させることにより、各部位にあらゆる可能なアミノ酸置換が作成される。このように作成された抗体突然変異体が、繊維状ファージ粒子から、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物との融合物として一価の形で提示される。次に、ファージが提示する突然変異体が、本明細書に開示されるとおりその生物活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0144】
抗体配列の突然変異には、置換、欠失(内部欠失を含む)、付加(融合タンパク質を生じる付加を含む)、又はアミノ酸配列内の及び/又はそれに隣接したアミノ酸残基の、但し変化が機能的に等価な抗体を生じる点で「サイレント」な変化をもたらす保存的置換が含まれ得る。保存的アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の性質の類似性を基準として作製されてもよい。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが挙げられ;極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが挙げられ;正電荷(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが挙げられ;及び負電荷(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。加えて、グリシン及びプロリンは、鎖配向に影響を及ぼすことのできる残基である。非保存的置換は、これらのクラスのうちの一つのメンバーを別のクラスのメンバーに交換することを伴い得る。さらに、必要であれば、非古典的アミノ酸又は化学的アミノ酸類似体を置換又は付加として抗体配列に導入することができる。非古典的アミノ酸としては、限定はされないが、共通アミノ酸のD-異性体、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、γ-Abu、ε-Ahx、6-アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸、例えばβ-メチルアミノ酸、Cα-メチルアミノ酸s、Nα-メチルアミノ酸、及び一般にアミノ酸類似体が挙げられる。
【0145】
別の実施形態では、抗体の適切なコンホメーションの維持に関与しない任意のシステイン残基もまた、概してセリンと置換されてよく、それにより分子の酸化安定性を向上させ、異常な架橋を防止し得る。逆に、1つ又は複数のシステイン結合を抗体に加えることで、その安定性を向上させてもよい(特に抗体がFv断片などの抗体断片である場合)。
【0146】
変異Fc領域
Fc領域の変異体(例えば、アミノ酸置換及び/又は付加及び/又は欠失)は、抗体のエフェクター機能を増強又は減退させ(例えば、米国特許第5,624,821号明細書;同第5,885,573号明細書;同第6,538,124号明細書;同第7,317,091号明細書;同第5,648,260号明細書;同第6,538,124号明細書;国際公開第03/074679号パンフレット;国際公開第04/029207号パンフレット;国際公開第04/099249号パンフレット;国際公開第99/58572号パンフレット;米国特許出願公開第2006/0134105号明細書;同第2004/0132101号明細書;同第2006/0008883号明細書を参照)、及び抗体の薬物動態特性(例えば半減期)を改変し得る(米国特許第6,277,375号明細書及び同第7,083,784号明細書を参照)ことが知られている。従って、特定の実施形態では、本発明の抗体は、改変されたFc領域(本明細書では「変異Fc領域」とも称される)を含み、ここでは抗体の機能特性及び/又は薬物動態特性を変化させるため、Fc領域に1つ以上の改変が加えられている。かかる改変は、IgGに関して、Clq結合及び補体依存性細胞傷害性(CDC)又はFcγR結合、及び抗体依存細胞傷害性(ADCC)、又は抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)の減少又は増加をもたらし得る。本発明は、エフェクター機能を増強するか又は減退させるかの微調整により所望のエフェクター機能が提供されるように変化を生じさせた変異Fc領域を有する本明細書に記載される抗体を包含する。従って、本発明の抗体は、変異Fc領域(すなわち、以下で考察するとおり改変されているFc領域)を含む。変異Fc領域を含む本発明の抗体はまた、本明細書では「Fc変異抗体」とも称される。本明細書で使用されるとき、天然とは、修飾されていない親配列を指し、天然Fc領域を含む抗体は、本明細書では「天然Fc抗体」と称される。Fc変異抗体は、当業者に周知されている数多くの方法で作成することができる。非限定的な例としては、抗体コード領域を(例えばハイブリドーマから)単離し、その単離した抗体コード領域のFc領域に1つ以上の所望の置換を作製することが挙げられる。或いは、抗体の抗原結合部分(例えば可変領域)を、変異Fc領域をコードするベクターにサブクローニングしてもよい。一実施形態では、変異Fc領域は、天然Fc領域と比較したとき同程度のエフェクター機能の誘導レベルを呈する。別の実施形態では、変異Fc領域は、天然Fcと比較したときより高いエフェクター機能の誘導を呈する。変異Fc領域のいくつかの具体的な実施形態を以下に詳述する。エフェクター機能の計測方法は、当該技術分野において周知されている。
【0147】
抗体のエフェクター機能は、限定はされないが、アミノ酸置換、アミノ酸付加、アミノ酸欠失及びFcアミノ酸に対する翻訳後修飾(例えばグリコシル化)の変化を含め、Fc領域を変化させることにより修飾される。以下に記載される方法を用いることにより、本抗体のエフェクター機能、所望の特性を有する治療用抗体をもたらす、FcRに対するFc領域の結合特性(例えば、親和性と特異性)の比率を微調整し得る。
【0148】
本明細書で使用されるとおりのFc領域には、第1定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を構成するポリペプチドが含まれることが理解される。従って、Fcは、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、及びIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、及びこれらのドメインに対する可動性ヒンジN末端を指す。IgA及びIgMに関しては、FcはJ鎖を含み得る。IgGに関しては、Fcは免疫グロブリンドメインCガンマ2及びCガンマ3(Cγ2及びCγ3)、及びCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)との間のヒンジを含み得る。
【0149】
Fc領域の境界は変わり得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、残基C226又はP230からそのカルボキシル端を含むように定義され得、ここで付番は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスに基づく。Fcは、単離におけるこの領域を指してもよく、又は抗体、抗体断片、若しくはFc融合タンパク質の文脈におけるこの領域を指してもよい。限定はされないが、EUインデックスにより付番するときの270位、272位、312位、315位、356位、及び358位を含む複数の異なるFc位置で多型が観察されており、従って提示される配列と先行技術の配列との間には、僅かな違いが存在し得る。
【0150】
一実施形態では、Fc変異抗体は天然Fc抗体と比較したとき、限定はされないが、FcRn、アイソフォームFcγRIA、FcγRIB、及びFcγRICを含むFcγRI(CD64);FcγRII(CD32、アイソフォームFcγRIIA、FcγRIIB、及びFcγRIICを含む);及びFcγRIII(CD16、アイソフォームFcγRIIIA及びFcγRIIIBを含む)を含め、1つ以上のFc受容体に対して改変された結合親和性を呈する。
【0151】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて1つ以上のFcリガンドに対する結合が増強されている。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、且つ最大25倍、又は最大50倍、又は最大75倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いFcリガンドに対する親和性の増加又は減少を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcリガンドに対する親和性を呈する。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、Fcリガンドに対する親和性が増加している。他の実施形態では、Fc変異抗体は、Fcリガンドに対する親和性が低下している。
【0152】
具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIAに対して増強された結合性を有する。別の具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIBに対して増強された結合性を有する。さらに具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIA及びFcγRIIBの双方に対して増強された結合性を有する。特定の実施形態では、FcγRIIIAに対して増強された結合性を有するFc変異抗体は、天然Fc抗体と比較したとき、FcγRIIB受容体との結合性の付随する増加を有しない。具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIAに対して低下した結合性を有する。さらに具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIBに対して低下した結合性を有する。さらに別の具体的な実施形態において、FcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、Fc受容体FcRnに対して増強された結合性を有する。さらに別の具体的な実施形態において、FcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べてC1qに対して改変された結合性を有する。
【0153】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は最大50倍、又は最大60倍、又は最大70倍、又は最大80倍、又は最大90倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いFcγRIIIA受容体に対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcγRIIIAに対する親和性を呈する。
【0154】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は最大50倍、又は最大60倍、又は最大70倍、又は最大80倍、又は最大90倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍高い又は低いFcγRIIB受容体に対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcγRIIBに対する親和性を呈する。
【0155】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増加又は低下したC1qに対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は最大50倍、又は最大60倍、又は最大70倍、又は最大80倍、又は最大90倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍高い又は低いC1q受容体に対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いC1qに対する親和性を呈する。さらに別の具体的な実施形態において、Ciqに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、Fc受容体FcRnに対して増強された結合性を有する。さらに別の具体的な実施形態において、C1qに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べてFcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された結合性を有する。
【0156】
当該技術分野においてまとめて抗体エフェクター機能として知られる複数のプロセスを介して攻撃及び破壊を誘導する能力が抗体にあることは、当該技術分野において公知である。「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」として知られるこれらのプロセスの一つは、ある種の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合した分泌Igが、これらの細胞傷害性エフェクター細胞を抗原保持細胞に特異的に結合させ、続いて細胞を細胞毒で死滅させることを可能にする細胞傷害性の一形態を指す。細胞の表面を指向する特異的高親和性IgG抗体が細胞傷害性細胞を「装備」し、かかる死滅には必須である。細胞の溶解は細胞外であり、直接的な細胞間接触が必要で、且つ相補体は関与しない。
【0157】
用語エフェクター機能に包含される別のプロセスは、補体依存性細胞傷害性(以下、「CDC」と称する)であり、これは、補体系による細胞破壊の生化学的イベントを指す。補体系は、正常な血漿に認められるタンパク質の複合系であり、抗体と組み合わさって病原性細菌及び他の外来細胞を破壊する。
【0158】
用語エフェクター機能に包含されるさらに別のプロセスは、抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)であり、これは、1つ以上のエフェクターリガンドを発現する非特異的細胞傷害性細胞が細胞上の結合した抗体を認識し、続いて細胞の食作用を生じる細胞媒介性反応を指す。
【0159】
Fc変異抗体は、1つ以上のFcγR媒介性エフェクター細胞機能を決定するためのインビトロ機能アッセイにより特徴付けられることが企図される。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、インビボモデル(本明細書に記載及び開示されるものなど)において、インビトロベースのアッセイの場合と同様の結合特性及びエフェクター細胞機能を有する。しかしながら、本発明は、インビトロベースのアッセイで所望の表現型を呈しないが、インビボで実に所望の表現型を呈するFc変異抗体を除外しない。
【0160】
特定の実施形態では、Fc変異体を有する抗体は、天然Fc領域を含む抗体と比べて、細胞毒性又は食作用活性(例えば、ADCC、CDC及びADCP)を増強している。具体的な実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は最大50倍、又は最大75倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍高い細胞毒性又は食作用活性を有する。或いは、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、細胞毒性又は食作用活性を低下させている。具体的な実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は最大50倍、又は最大75倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍低い細胞毒性又は食作用活性を有する。
【0161】
特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて低下したADCC活性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は最大50倍、又は最大75倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍低いADCC活性を呈する。さらに別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも100%、又は少なくとも200%、又は少なくとも300%、又は少なくとも400%、又は少なくとも500%低下したADCC活性を呈する。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、検出不能なADCC活性を有する。具体的な実施形態では、ADCC活性の低下及び/又は低減(ablatement)は、Fc変異抗体がFcリガンド及び/又は受容体に対して呈する低下した親和性に起因し得る。
【0162】
他の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたADCC活性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍高いADCC活性を呈する。さらに別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも100%、又は少なくとも200%、又は少なくとも300%、又は少なくとも400%、又は少なくとも500%増強されたADCC活性を呈する。具体的な実施形態では、増強されたADCC活性は、Fc変異抗体がFcリガンド及び/又は受容体に対して呈する増強された親和性に起因し得る。
【0163】
特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、Fc受容体FcγRIIIAへの結合を増強し、且つADCC活性を増強している。他の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、増強されたADCC活性及び増加した血清半減期の双方を有する。別の具体的な実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、Fc受容体FcγRIIIAへの結合を低下させ、且つADCC活性を低下させている。他の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、低下したADCC活性及び増加した血清半減期の双方を有する。
【0164】
特定の実施形態では、細胞毒性は、CDCによって媒介され、ここでFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、増強されるか又は低下したCDC活性のいずれかを有する。補体活性化経路は、補体系(C1q)の第1の構成成分の、ある分子、例えば同種抗原と複合体を形成した抗体への結合によって開始される。補体活性化を評価するため、例えば、Gazzano-Santoro et al.(1996)J.Immunol.Methods,202:163に記載のCDCアッセイを実施してもよい。
【0165】
一実施形態では、本発明の抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたCDC活性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は最大50倍、又は最大75倍、又は最大100倍、又は最大200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高いCDC活性を呈する。さらに別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも100%、又は少なくとも200%、又は少なくとも300%、又は少なくとも400%、又は少なくとも500%増強されたCDC活性を呈する。具体的な実施形態では、CDC活性の増強は、Fc変異抗体がC1qに対して呈する増強された親和性に起因し得る。
【0166】
本発明の抗体は、抗体の主要な作用機構の一つであるCDCを増強するCOMPLEGENT(登録商標)技術(Kyowa Hakko Kirin Co.,Ltd.)のおかげで、天然Fc抗体と比べて増強されたCDC活性を呈し得る。抗体のアイソタイプであるIgG3の一部分が、治療抗体における標準的アイソタイプであるIgG1の対応する領域内に導入される、アイソタイプキメラ(isotype chimerism)と呼ばれる手法を用いて、COMPLEGENT(登録商標)技術は、IgG1又はIgG3のいずれかの場合と比べてCDC活性を著しく増強し、他方でIgG1の所望される特徴、例えばADCC、PK特性及びプロテインA結合を保持する。さらに、COMPLEGENT(登録商標)技術はPOTELLIGENT(登録商標)技術と併用することができ、それにより、増強されたADCC及びCDC活性を伴うさらに優れた治療用Mab(ACCRETAMAB(登録商標))が創出される。
【0167】
本発明のFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたADCC活性及び増加した血清半減期を有し得る。
【0168】
本発明のFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたCDC活性及び増加した血清半減期を有し得る。
【0169】
本発明のFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたADCC活性、増強されたCDC活性及び増加した血清半減期を有し得る。
【0170】
Fc領域を有するタンパク質の血清半減期は、FcRnに対するFc領域の結合親和性を増加させることにより、増加させることができる。用語「抗体半減期」は、本明細書で使用されるとき、抗体分子のその投与後の平均生存時間の尺度である抗体の薬物動態特性を意味する。抗体半減期は、例えば血清中(すなわち循環半減期)又は他の組織で計測するときに、既知量の免疫グロブリンの50パーセントを患者の体内(又は他の哺乳類)又はその特定のコンパートメントから排出するのに必要な時間として表すことができる。半減期は免疫グロブリン毎又は免疫グロブリンのクラス毎に異なり得る。一般に、抗体半減期が増加すると、投与された抗体についての循環中の平均滞留時間(MRT)が増加する。
【0171】
半減期の増加により、患者に投与する薬物の量を低減するとともに投与頻度を低減することが可能になる。抗体の血清半減期を増加させるためには、例えば米国特許第5,739,277号明細書に記載されるとおり、抗体(特に抗体断片)にサルベージ受容体結合エピトープを組み込んでもよい。本明細書で使用されるとき、用語「サルベージ受容体結合エピトープ」は、IgG分子の生体内血清半減期の増加に関与するIgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のFc領域のエピトープを指す。
【0172】
或いは、半減期が増加した本発明の抗体を、Fc受容体とFcRn受容体との間の相互作用に関与すると特定されたアミノ酸残基を修飾することにより作成してもよい(例えば、米国特許第6,821,505号明細書及び同第7,083,784号明細書;及び国際公開第09/058492号パンフレットを参照のこと)。加えて、本発明の抗体の半減期は、当該技術分野で広く利用されている技術によってPEG又はアルブミンとコンジュゲートすることにより増加させてもよい。一部の実施形態では、本発明のFc変異領域を有する抗体は、天然Fc領域を有する抗体と比較したとき、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%、約65%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%又はそれ以上の半減期の増加を有する。一部の実施形態では、Fc変異領域を有する抗体は、天然Fc領域を有する抗体と比較したとき、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約20倍、約50倍又はそれ以上、又は最大約10倍、最大約20倍、最大約50倍、又は2倍~10倍、又は5倍~25倍、又は15倍~50倍の半減期の増加を有する。
【0173】
一実施形態では、本発明はFc変異体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの221、225、228、234、235、236、237、238、239、240、241、243、244、245、247、250、251、252、254、255、256、257、262、263、264、265、266、267、268、269、279、280、284、292、296、297、298、299、305、308、313、316、318、320、322、325、326、327、328、329、330、331、332、333、334、339、341、343、370、373、378、392、416、419、421、428、433、434、435、436、440、及び443から選択される1つ以上の位置に修飾(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。場合により、Fc領域は、当業者に公知の追加的及び/又は代替的な位置に修飾を含み得る(例えば、米国特許第5,624,821号明細書;同第6,277,375号明細書;同第6,737,056号明細書;同第7,083,784号明細書;同第7,317,091号明細書;同第7,217,797号明細書;同第7,276,585号明細書;同第7,355,008号明細書;米国特許出願公開第2002/0147311号明細書;同第2004/0002587号明細書;同第2005/0215768号明細書;同第2007/0135620号明細書;同第2007/0224188号明細書;同第2008/0089892号明細書;国際公開第94/29351号パンフレット;及び国際公開第99/58572号パンフレットを参照のこと)。さらに、有用なアミノ酸位置及び特定の置換が、米国特許第6,737,056号明細書の表2、及び表6~表10;米国特許出願公開第2006/024298号明細書の図41に提示される表;米国特許出願公開第2006/235208号明細書の図5図12、及び図15に提示される表;米国特許出願公開第2006/0173170号明細書の図8図9及び図10に提示される表、並びに国際公開第09/058492号パンフレットの図8図10図13及び図14に提示される表に例示される。
【0174】
具体的な実施形態において、本開示はFc変異体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの221K、221Y、225E、225K、225W、228P、234D、234E、234N、234Q、234T、234H、234Y、234I、234V、234F、235A、235D、235R、235W、235P、235S、235N、235Q、235T、235H、235Y、235I、235V、235E、235F、236E、237L、237M、237P、239D、239E、239N、239Q、239F、239T、239H、239Y、240I、240A、240T、240M、241W、241L、241Y、241E、241R、243W、243L、243Y、243R、243Q、244H、245A、247L、247V、247G、250E、250Q、251F、252L、252Y、254S、254T、255L、256E、256F、256M、257C、257M、257N、262I、262A、262T、262E、263I、263A、263T、263M、264L、264I、264W、264T、264R、264F、264M、264Y、264E、265A、265G、265N、265Q、265Y、265F、265V、265I、265L、265H、265T、266I、266A、266T、266M、267Q、267L、268E、269H、269Y、269F、269R、270E、280A、284M、292P、292L、296E、296Q、296D、296N、296S、296T、296L、296I、296H、296G、297S、297D、297E、298A、298H、298I、298T、298F、299I、299L、299A、299S、299V、299H、299F、299E、305I、308F、313F、316D、318A、318S、320A、320S、322A、322S、325Q、325L、325I、325D、325E、325A、325T、325V、325H、326A、326D、326E、326G、326M、326V、327G、327W、327N、327L、328S、328M、328D、328E、328N、328Q、328F、328I、328V、328T、328H、328A、329F、329H、329Q、330K、330G、330T、330C、330L、330Y、330V、330I、330F、330R、330H、331G、331A、331L、331M、331F、331W、331K、331Q、331E、331S、331V、331I、331C、331Y、331H、331R、331N、331D、331T、332D、332S、332W、332F、332E、332N、332Q、332T、332H、332Y、332A、333A、333D、333G、333Q、333S、333V、334A、334E、334H、334L、334M、334Q、334V、334Y、339T、370E、370N、378D、392T、396L、416G、419H、421K、428L、428F、433K、433L、434A、424F、434W、434Y、436H、440Y及び443Wから選択される少なくとも1つの置換を含む。場合により、Fc領域は、限定はされないが、米国特許第6,737,056号明細書の表2、及び表6~表10;米国特許出願公開第2006/024298号明細書の図41に提示される表;米国特許出願公開第2006/235208号明細書の図5図12、及び図15に提示される表;米国特許出願公開第2006/0173170号明細書の図8図9及び図10に提示される表、並びに国際公開第09/058492号パンフレットの図8図9及び図10に提示される表に例示されるものを含む当業者に公知の追加的及び/又は代替的なアミノ酸置換を含み得る。
【0175】
具体的な実施形態において、本発明はFc変異抗体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228、234、235及び331から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。一実施形態では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228P、234F、235E、235F、235Y、及び331Sから選択される少なくとも1つの置換である。
【0176】
別の具体的な実施形態において、本発明はFc変異抗体を提供し、ここではFc領域がIgG4 Fc領域であり、且つKabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228及び235から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾を含む。さらに別の具体的な実施形態において、Fc領域はIgG4 Fc領域であり、天然に存在しないアミノ酸は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228P、235E及び235Yから選択される。
【0177】
別の具体的な実施形態において、本発明はFc変異体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの239、330及び332から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの天然に存在しないアミノ酸を含む。一実施形態では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの239D、330L、330Y、及び332Eから選択される少なくとも1つの置換である。
【0178】
具体的な実施形態において、本発明はFc変異抗体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの252、254、及び256から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの天然に存在しないアミノ酸を含む。一実施形態では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの252Y、254T及び256Eから選択される少なくとも1つの置換である。本発明の特に好ましい抗体では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの3つの置換252Y、254T及び256E(「YTE」として公知)であり、米国特許第7,083,784号明細書を参照のこと。
【0179】
特定の実施形態では、IgG抗体により誘発されるエフェクター機能は、タンパク質のFc領域に連結した炭水化物部分に強く依存する(Ferrara et al.(2006)Biotechnology and Bioengineering.93:851-861)。従って、Fc領域のグリコシル化を、エフェクター機能が増加又は低下するように修飾することができる(例えば、Umana et al(1999)Nat.Biotechnol.17:176-180;Davies et al.(2001)Biotechnol Bioeng.74:288-294;Shields et al.(2002)J Biol Chem 277:26733-26740;Shinkawa et al.(2003)J Biol Chem.278:3466-3473;米国特許第6,602,684号明細書;同第6,946,292号明細書;同第7,064,191号明細書;同第7,214,775号明細書;同第7,393,683号明細書;同第7,425,446号明細書;同第7,504,256号明細書;米国特許出願公開第2003/0157108号明細書;同第2003/0003097号明細書;同第2009/0010921号明細書;Potillegent(商標)技術(Biowa,Inc.Princeton,N.J.);GlycoMAb(商標)グリコシル化操作技術(GLYCART biotechnology AG,Zurich,スイス)を参照のこと)。従って、一実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、アミノ酸残基の改変されたグリコシル化を含む。別の実施形態では、アミノ酸残基の改変されたグリコシル化によりエフェクター機能が低下する。別の実施形態では、アミノ酸残基の改変されたグリコシル化によりエフェクター機能が増加する。具体的な実施形態において、Fc領域はフコシル化が低下している。別の実施形態では、Fc領域は非フコシル化型である(例えば、米国特許出願公開第2005/0226867号明細書を参照のこと)。一態様において、宿主細胞(例えば、CHO細胞、コウキクサ(Lemna minor))で作成されるとおりの、エフェクター機能、特にADCCが増加したこれらの抗体は、親細胞によって産生される抗体と比較して、100倍超高いADCCを有する高度に脱フコシル化した抗体を産生するように操作される(Mori et al.(2004)Biotechnol Bioeng.88:901-908;Cox et al.(2006)Nat Biotechnol.24:1591-7)。
【0180】
IgG分子上のオリゴ糖類に対するシアル酸の付加は、その抗炎症活性を増進し、且つその細胞傷害性を改変し得る(Keneko et al.(2006)Science.313:670-673;Scallon et al.(2007)Mol.Immuno.44(7):1524-34)。上記に参照する研究は、シアリル化を増加させたIgG分子が抗炎症特性を有する一方、シアリル化を低減したIgG分子は免疫賦活特性が増加する(例えば、ADCC活性が増加する)ことを実証している。従って、抗体を、特定の治療適用に適切なシアリル化プロファイルで修飾することができる(米国特許出願公開第2009/0004179号明細書及び国際公開第2007/005786パンフレット)。
【0181】
一実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、天然Fc領域と比較して改変されたシアリル化プロファイルを含む。一実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、天然Fc領域と比較して増加したシアリル化プロファイルを含む。別の実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、天然Fc領域と比較して減少したシアリル化プロファイルを含む。
【0182】
一実施形態では、本発明のFc変異体は、Ghetie et al.(1997)Nat Biotech.15:637-40;Duncan et al(1988)Nature.332:563-564;Lund et al.(1991)J.Immunol.147:2657-2662;Lund et al(1992)Mol.Immunol.29:53-59;Alegre et al(1994)Transplantation.57:1537-1543;Hutchins et al.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.92:11980-11984;Jefferis et al(1995)Immunol Lett.44:111-117;Lund et al.(1995)Faseb.J.9:115-119;Jefferis et al(1996)Immunol.Lett.54:101-104;Lund et al(1996)J.Immunol.157:4963-4969;Armour et al.(1999)Eur.J.Immunol.29:2613-2624;Idusogie et al(2000)J.Immunol.164:4178-4184;Reddy et al(2000)J Immunol.164:1925-1933;Xu et al.(2000)Cell Immunol.200:16-26;Idusogie et al(2001)J.Immunol.166:2571-2575;Shields et al.(2001)J.Biol.Chem.276:6591-6604;Jefferis et al(2002)Immunol.Lett.82:57-65;Presta et al.(2002)Biochem Soc Trans 30:487-490);米国特許第5,624,821号明細書;同第5,885,573号明細書;同第5,677,425号明細書;同第6,165,745号明細書;同第6,277,375号明細書;同第5,869,046号明細書;同第6,121,022号明細書;同第5,624,821号明細書;同第5,648,260号明細書;同第6,528,624号明細書;同第6,194,551号明細書;同第6,737,056号明細書;同第7,122,637号明細書;同第7,183,387号明細書;同第7,332,581号明細書;同第7,335,742号明細書;同第7,371,826号明細書;同第6,821,505号明細書;同第6,180,377号明細書;同第7,317,091号明細書;同第7,355,008号明細書;米国特許出願公開第2004/0002587号明細書;及び国際公開第99/58572号パンフレットに開示されるものなどの他の公知のFc変異体と組み合わされてもよい。Fcドメインの他の修飾及び/又は置換及び/又は付加及び/又は欠失が、当業者には容易に明らかであろう。
【0183】
グリコシル化
グリコシル化が抗体のエフェクター機能を改変する能力に加えて、可変領域の修飾されたグリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を改変することができる。一実施形態では、本抗体の可変領域におけるグリコシル化パターンが修飾される。例えば、非グリコシル化抗体を作製することができる(すなわち、この抗体はグリコシル化を欠いている)。グリコシル化は、例えば抗原に対する抗体の親和性が増加するように改変することができる。かかる炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内の1つ以上のグリコシル化部位を改変して達成することができる。例えば、1つ以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の除去をもたらし、それにより当該の部位のグリコシル化を除去する1つ以上のアミノ酸置換を作製することができる。かかる非グリコシル化により、抗原に対する抗体の親和性が増加し得る。かかる手法は、米国特許第5,714,350号明細書及び同第6,350,861号明細書にさらに詳細に記載されている。Fc領域に存在するグリコシル化部位(例えば、IgGのアスパラギン297)の除去をもたらす1つ以上のアミノ酸置換もまた作製することができる。さらには、非グリコシル化抗体は、必須のグリコシル化機構を欠く細菌細胞において産生され得る。
【0184】
抗体コンジュゲート
特定の実施形態では、本発明の抗体は、当該技術分野において公知の方法を用いて物質とコンジュゲート又は共有結合される。一実施形態では、結合される物質は、治療剤、検出可能標識(本明細書ではレポーター分子とも称される)又は固体支持体である。抗体との結合に好適な物質としては、限定はされないが、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、多糖、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、ハプテン、薬物、ホルモン、脂質、脂質集合体、合成高分子、高分子マイクロパーティクル、生体細胞、ウイルス、フルオロフォア、発色団、色素、毒素、ハプテン、酵素、抗体、抗体断片、放射性同位元素、固体マトリックス、半固体マトリックス及びそれらの組み合わせが挙げられる。別の物質を抗体にコンジュゲート又は共有結合する方法は、当該技術分野において公知である。
【0185】
特定の実施形態では、本発明の抗体は固体支持体にコンジュゲートされる。抗体は、スクリーニング及び/又は精製及び/又は製造プロセスの一部として固体支持体にコンジュゲートされてもよい。或いは本発明の抗体は、診断方法又は組成物の一部として固体支持体にコンジュゲートされてもよい。本発明での使用に好適な固体支持体は、典型的には液相に対して実質的に不溶性である。多数の支持体が利用可能であり、当業者には周知されている。従って、固体支持体には、固体及び半固体マトリックス、例えばエーロゲル及びハイドロゲル、樹脂、ビーズ、バイオチップ(薄膜被覆バイオチップを含む)、マイクロ流体チップ、シリコンチップ、マルチウェルプレート(マイクロタイタープレート又はマイクロプレートとも称される)、膜、導電性及び非導電性金属、ガラス(顕微鏡スライドを含む)及び磁気支持体が含まれる。固体支持体のより具体的な例には、シリカゲル、高分子膜、粒子、誘導体化プラスチックフィルム、ガラスビーズ、綿、プラスチックビーズ、アルミナゲル、多糖、例えばセファロース、ポリ(アクリレート)、ポリスチレン、ポリ(アクリルアミド)、ポリオール、アガロース、寒天、セルロース、デキストラン、デンプン、フィコール(FICOLL)、ヘパリン、グリコーゲン、アミロペクチン、マンナン、イヌリン、ニトロセルロース、ジアゾセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン(ポリ(エチレングリコール)を含む)、ナイロン、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、常磁性ビーズ、超常磁性ビーズ、デンプンなどが含まれる。
【0186】
一部の実施形態では、固体支持体は、限定はされないが、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオール、アルデヒド、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミド、尿素、カーボネート、カルバメート、イソシアネート、スルホン、スルホネート、スルホンアミド、スルホキシド等を含めた、本発明の抗体を結合するための反応性官能基を含み得る。
【0187】
好適な固相支持体は、所望の最終用途及び様々な合成プロトコルの適合性を基準として選択することができる。例えば、本発明の抗体を固体支持体に結合するのにアミド結合形成が望ましい場合、ポリスチレン(例えば、Bachem Inc.、Peninsula Laboratories等から入手可能なPAM樹脂)、POLYHIPE(商標)樹脂(Aminotech,カナダから調達可能)、ポリアミド樹脂(Peninsula Laboratoriesから調達可能)、ポリエチレングリコールにグラフトされたポリスチレン樹脂(TentaGel(商標)、Rapp Polymere,Tubingen,ドイツ)、ポリジメチルアクリルアミド樹脂(Milligen/Biosearch,Californiaから入手可能)、又はPEGAビーズ(Polymer Laboratoriesから調達可能)などの、概してペプチド合成に有用な樹脂が用いられ得る。
【0188】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、抗体及び/又はそれに関連したリガンドが検出可能である診断及び他のアッセイを目的として、標識にコンジュゲートされる。抗体にコンジュゲートされ、また本明細書に記載される本方法及び本組成物で使用される標識は、280nmを超える波長で最大吸収を呈し、且つ抗体に共有結合的に結合されるときにそのスペクトル特性を保持する、任意の化学的部分(有機的又は無機的)である。標識としては、限定はされないが、発色団、フルオロフォア、蛍光タンパク質、りん光色素、タンデム色素、粒子、ハプテン、酵素及び放射性同位元素が挙げられる。
【0189】
特定の実施形態では、抗体はフルオロフォアにコンジュゲートされる。このように、本発明の抗体を標識するのに用いられるフルオロフォアには、限定なしに;ピレン(米国特許第5,132,432号明細書に開示される対応する誘導体化合物のいずれかを含む)、アントラセン、ナフタレン、アクリジン、スチルベン、インドール又はベンズインドール、オキサゾール又はベンゾオキサゾール、チアゾール又はベンゾチアゾール、4-アミノ-7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD)、シアニン(米国特許第6,977,305号明細書及び同第6,974,873号明細書における任意の対応する化合物を含む)、カルボシアニン(米国特許出願第09/557,275号明細書;米国特許第4,981,977号明細書;同第5,268,486号明細書;同第5,569,587号明細書;同第5,569,766号明細書;同第5,486,616号明細書;同第5,627,027号明細書;同第5,808,044号明細書;同第5,877,310号明細書;同第6,002,003号明細書;同第6,004,536号明細書;同第6,008,373号明細書;同第6,043,025号明細書;同第6,127,134号明細書;同第6,130,094号明細書;同第6,133,445号明細書;及び国際公開第02/26891号パンフレット、国際公開第97/40104号パンフレット、国際公開第99/51702号パンフレット、国際公開第01/21624号パンフレット;欧州特許出願公開第1 065 250 A1号明細書における任意の対応する化合物を含む)、カルボスチリル、ポルフィリン、サリチル酸塩、アントラニル酸塩、アズレン、ペリレン、ピリジン、キノリン、ボラポリアザインダセン(米国特許第4,774,339号明細書;同第5,187,288号明細書;同第5,248,782号明細書;同第5,274,113号明細書;及び同第5,433,896号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、キサンテン(米国特許第6,162,931号明細書;同第6,130,101号明細書;同第6,229,055号明細書;同第6,339,392号明細書;同第5,451,343号明細書;同第5,227,487号明細書;同第5,442,045号明細書;同第5,798,276号明細書;同第5,846,737号明細書;同第4,945,171;米国特許出願第09/129,015号明細書及び同第09/922,333号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、オキサジン(米国特許第4,714,763号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)又はベンゾキサジン、カルバジン(米国特許第4,810,636号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、フェナレノン、クマリン(米国特許第5,696,157号明細書;同第5,459,276号明細書;同第5,501,980号明細書及び同第5,830,912号明細書に開示される対応する化合物を含む)、ベンゾフラン(米国特許第4,603,209号明細書及び同第4,849,362号明細書に開示される対応する化合物を含む)及びベンズフェナレノン(米国特許第4,812,409号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)及びこれらの誘導体が含まれる。本明細書で使用されるとき、オキサジンには、レゾルフィン(米国特許第5,242,805号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、アミノオキサジノン、ジアミノオキサジン、及びこれらのベンゾ置換類似体が含まれる。
【0190】
具体的な実施形態において、本明細書に記載される抗体にコンジュゲートされるフルオロフォアには、キサンテン(ロドール(rhodol)、ローダミン、フルオレセイン及びこれらの誘導体)、クマリン、シアニン、ピレン、オキサジン及びボラポリアザインダセンが含まれる。他の実施形態では、かかるフルオロフォアは、スルホン化キサンテン、フッ素化キサンテン、スルホン化クマリン、フッ素化クマリン及びスルホン化シアニンである。また、ALEXA FLUOR(登録商標)、DyLight、CY(登録商標)Dyes、BODIPY(登録商標)、オレゴングリーン(OREGON GREEN)(登録商標)、パシフィックブルー(PACIFIC BLUE)(商標)、IRDYE(登録商標)、FAM、FITC、及びROX(商標)の商標で販売され、且つそのように一般に知られている色素も含まれる。
【0191】
抗体に結合するフルオロフォアの選択が、コンジュゲート抗体の吸収及び蛍光発光特性を決定し得る。抗体及び抗体結合リガンドに用いることのできるフルオロフォア標識の物理的特性としては、限定はされないが、スペクトル特性(吸収、発光及びストークスシフト)、蛍光強度、寿命、偏光及び光退色速度、又はそれらの組み合わせが挙げられる。これらの物理的特性は全て、あるフルオロフォアを別のフルオロフォアと区別するために用いることができ、従って多重化解析を可能にする。特定の実施形態では、フルオロフォアは480nmより大きい波長に吸収極大を有する。他の実施形態では、フルオロフォアは、488nm~514nm若しくはその近傍(アルゴンイオンレーザー励起源の出力による励起に特に好適)又は546nm近傍(水銀アークランプによる励起に特に好適)を吸収する。他の実施形態ではフルオロフォアは、組織又は全生物体適用にNIR(近赤外領域)で発光することができる。蛍光標識の他の望ましい特性としては、例えば抗体の標識が細胞又は生物体(例えば、生きている動物)で実施される場合に、細胞透過性及び低毒性を挙げることができる。
【0192】
特定の実施形態では、酵素が標識であり、本明細書に記載される抗体にコンジュゲートされる。酵素は、検出可能なシグナルの増幅を達成することができ、アッセイ感度の増加がもたらされるため、望ましい標識である。酵素それ自体は検出可能な反応を生じないが、適切な基質を接触させると基質を分解する働きをし、それにより変換された基質が蛍光、比色又は発光シグナルを生じる。標識試薬の一つの酵素が複数の基質についての検出可能なシグナルへの変換をもたらし得るため、酵素は検出可能なシグナルを増幅する。酵素基質は、好ましい計測可能な生成物、例えば比色、蛍光又は化学発光生成物が得られるように選択される。かかる基質は当該技術分野で広範に用いられており、当業者には周知されている。
【0193】
一実施形態では、比色基質又は蛍光発生基質及び酵素の組み合わせは、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのオキシドレダクターゼと、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)及び3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)などの識別性のある色(それぞれ褐色及び赤色)を生じる基質とを使用する。検出可能な生成物を生じる他の比色オキシドレダクターゼ基質としては、限定はされないが、2,2-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、o-ジアニシジン、5-アミノサリチル酸、4-クロロ-1-ナフトールが挙げられる。蛍光発生基質としては、限定はされないが、ホモバニリン酸又は4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル酢酸、還元型フェノキサジン及び還元型ベンゾチアジン、例えばAmplex(登録商標)レッド試薬及びその変種(米国特許第4,384,042号明細書)及び還元型ジヒドロキサンテン、例えばジヒドロフルオレセイン(米国特許第6,162,931号明細書)及びジヒドロローダミン、例えばジヒドロローダミン123が挙げられる。チラミドであるペルオキシダーゼ基質(米国特許第5,196,306号明細書;同第5,583,001号明細書及び同第5,731,158号明細書)は、酵素が作用する前に本質的に検出可能であり得るが、チラミドシグナル増幅(TSA)として記載される過程でペルオキシダーゼの作用によって「その場に固定」される点で、ペルオキシダーゼ基質のユニークなクラスに相当する。これらの基質は、細胞、組織又はアレイである試料中の抗原を、後に顕微鏡法、フローサイトメトリー、光学走査及び蛍光定量法によって検出するために標識するのに広範に利用されている。
【0194】
別の実施形態において、比色(及びある場合には蛍光発生)基質と酵素との組み合わせは、ホスファターゼ酵素、例えば酸性ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はかかるホスファターゼの組換え型を、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、6-クロロ-3-インドリルリン酸、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリルリン酸、p-ニトロフェニルリン酸、又はo-ニトロフェニルリン酸などの比色基質と組み合わせて、又は4-メチルウンベリフェリルリン酸、6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリニルリン酸(DiFMUP、米国特許第5,830,912号明細書)、フルオレセイン二リン酸、3-O-メチルフルオレセインリン酸、レゾルフィンリン酸、9H-(1,3-ジクロロ-9,9-ジメチルアクリジン-2-オン-7-イル)リン酸(DDAOリン酸)、又はELF 97、ELF 39若しくは関連するリン酸(米国特許第5,316,906号明細書及び同第5,443,986号明細書)などの蛍光発生基質と組み合わせて用いる。
【0195】
グリコシダーゼ、特にβ-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ及びβ-グルコシダーゼが、さらなる好適な酵素である。適切な比色基質としては、限定はされないが、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシド(X-gal)及び同様のインドリルガラクトシド、グルコシド、及びグルクロニド、o-ニトロフェニルβ-D-ガラクトピラノシド(ONPG)及びp-ニトロフェニルβ-D-ガラクトピラノシドが挙げられる。一実施形態では、蛍光発生基質には、レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシド、フルオレセインジガラクトシド(FDG)、フルオレセインジグルクロニド及びこれらの構造的変種(米国特許第5,208,148号明細書;同第5,242,805号明細書;同第5,362,628号明細書;同第5,576,424号明細書及び同第5,773,236号明細書)、4-メチルウンベリフェリルβ-D-ガラクトピラノシド、カルボキシウンベリフェリルβ-D-ガラクトピラノシド及びフッ素化クマリンβ-D-ガラクトピラノシド(米国特許第5,830,912号明細書)が含まれる。
【0196】
さらなる酵素としては、限定はされないが、コリンエステラーゼ及びペプチダーゼなどのヒドロラーゼ、グルコースオキシダーゼ及びシトクロムオキシダーゼなどのオキシダーゼ、及びそれに対する好適な基質が知られるレダクターゼが挙げられる。
【0197】
一部のアッセイには、化学発光を生じる酵素及びその適切な基質が好ましい。それらとしては、限定はされないが、天然及び組換え形態のルシフェラーゼ及びエクオリンが挙げられる。ホスファターゼ、グリコシダーゼ及びオキシダーゼに対する化学発光生成基質、例えば、安定ジオキセタン、ルミノール、イソルミノール及びアクリジニウムエステルを含有するものが、さらに有用である。
【0198】
別の実施形態では、ビオチンなどのハプテンもまた標識として利用される。ビオチンは、酵素系において検出可能なシグナルをさらに増幅するよう機能することができ、且つ単離目的でアフィニティークロマトグラフィーにおいて使用するタグとして機能することができるため、有用である。検出目的では、アビジン-HRPなどの、ビオチンに対して親和性を有する酵素コンジュゲートが用いられる。続いてペルオキシダーゼ基質を添加すると、検出可能なシグナルが生成される。
【0199】
ハプテンにはまた、ホルモン、天然に存在する及び合成の薬物、汚染物、アレルゲン、作用因子分子、成長因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、アミノ酸、ペプチド、化学的中間体、ヌクレオチドなども含まれる。
【0200】
特定の実施形態では、蛍光タンパク質が標識として抗体にコンジュゲートされてもよい。蛍光タンパク質の例には、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びフィコビリタンパク質及びこれらの誘導体が含まれる。蛍光タンパク質、特にフィコビリタンパク質は、タンデム色素で標識された標識試薬を作り出すのに特に有用である。このようなタンデム色素は、より大きいストークスシフトの達成を目的として蛍光タンパク質及びフルオロフォアを含み、ここでは発光スペクトルが蛍光タンパク質の吸収スペクトルの波長からさらに遠くにシフトする。これは、試料中の低量の抗原を検出するのに特に有利であり、ここでは放たれる蛍光の光が最大限最適化され、換言すれば、放たれる光がほとんど乃至全く蛍光タンパク質に再吸収されない。これが機能するには、蛍光タンパク質とフルオロフォアとがエネルギー伝達対として働き、ここで蛍光タンパク質はフルオロフォアが吸収する波長で発光し、次にそのフルオロフォア(fluorphore)が、その蛍光タンパク質のみで達成され得たより蛍光タンパク質からさらに遠い波長を発光する。特に有用な組み合わせは、米国特許第4,520,110号明細書;同第4,859,582号明細書;同第5,055,556号明細書に開示されるフィコビリタンパク質と、米国特許第5,798,276号明細書に開示されるスルホローダミンフルオロフォア、又は米国特許第6,977,305号明細書及び同第6,974,873号明細書に開示されるスルホン化シアニンフルオロフォア;又は米国特許第6,130,101号明細書に開示されるスルホン化キサンテン誘導体、及び米国特許第4,542,104号明細書に開示されるそれらの組み合わせである。或いは、フルオロフォアがエネルギー供与体として働き、且つ蛍光タンパク質がエネルギー受容体である。
【0201】
特定の実施形態では、標識は放射性同位体である。好適な放射性物質の例としては、限定はされないが、ヨウ素(121I、123I、125I、131I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(H)、インジウム(111In、112In、113mIn、115mIn)、テクネチウム(99Tc、99mTc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)、パラジウム(103Pd)、モリブデン(99Mo)、キセノン(135Xe)、フッ素(18F)、153Sm、177Lu、159Gd、149Pm、140La、175Yb、166Ho、90Y、47Sc、186Re、188Re,142Pr、105Rh及び97Ruが挙げられる。
【0202】
治療及び使用
本発明の抗体及びその抗原結合断片並びにその変異体は、B型インフルエンザウイルス感染の治療のため、B型インフルエンザウイルス感染の予防のため;B型インフルエンザウイルス感染の検出、診断及び/又は予後のため;あるいはそれらの組み合わせのため、用いてもよい。一実施形態では、本発明の抗体及びその抗原結合断片並びにその変異体は、A型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の治療のため、A型インフルエンザ及びB型インフルエンザの予防のため;A型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の検出、診断及び/又は予後のため;あるいはそれらの組み合わせのため、用いてもよい。
【0203】
診断の方法は、抗体又は抗体断片を試料に接触させることを含んでもよい。かかる試料は、例えば、鼻道、洞腔(sinus cavities)、唾液腺、肺、肝臓、膵臓、腎臓、耳、目、胎盤、消化管、心臓、卵巣、下垂体、副腎、甲状腺、脳又は皮膚から採取された組織試料であってもよい。検出、診断、及び/又は予後の方法もまた、抗原/抗体複合体の検出を含んでもよい。
【0204】
一実施形態では、本発明は、本発明に記載の抗体又はその抗原結合断片、あるいは抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を有効量で被験者に投与することにより被験者を治療する方法を提供する。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、実質的に精製される(すなわち、その効果を制限するか又は望ましくない副作用をもたらす物質から実質的に遊離される)。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、曝露後、すなわち被験者がB型インフルエンザウイルスに曝露されてから又はB型インフルエンザウイルスに感染後、投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、曝露後、すなわち被験者がYamagata及び/若しくはVictoria系統のB型インフルエンザウイルスに曝露されてから又はYamagata及び/若しくはVictoria系統のB型インフルエンザウイルスに感染後、投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、曝露後、すなわち被験者が少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスのサブタイプ;Yamagata系統のB型インフルエンザウイルス;Victoria系統のB型インフルエンザウイルス、又はそれらの組み合わせに曝露されてから;あるいは少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスのサブタイプ及び/又はYamagata及び/若しくはVictoria系統のB型インフルエンザウイルスに感染後、投与される。
【0205】
別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、曝露前、すなわちB型インフルエンザウイルスにまだ曝露されていないか又はB型インフルエンザウイルスにまだ感染していない被験者に、投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、曝露前、すなわちYamagata及び/若しくはVictoria系統のB型インフルエンザウイルスにまだ曝露されていないか又はYamagata及び/若しくはVictoria系統のB型インフルエンザウイルスにまだ感染していない被験者に、投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、曝露前、すなわちA型インフルエンザウイルス;Yamagata系統のB型インフルエンザウイルス;Victoria系統のB型インフルエンザウイルス;又はそれらの組み合わせにまだ曝露されていないか、又はA型インフルエンザウイルス;Yamagata系統のB型インフルエンザウイルス;Victoria系統のインフルエンザ;又はそれらの組み合わせにまだ感染していない被験者に、投与される。
【0206】
一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上のB型インフルエンザウイルスに対して血清陰性である被験者に投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上のB型インフルエンザウイルス系統に対して血清陰性である被験者に投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上のA型インフルエンザのサブタイプ及び/又は1つ以上のB型インフルエンザウイルスに対して血清陰性である被験者に投与される。
【0207】
別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上のB型インフルエンザウイルスに対して血清陽性である被験者に投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上のB型インフルエンザウイルス系統に対して血清陽性である被験者に投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上のA型インフルエンザウイルスのサブタイプ及び/又は1つ以上のB型インフルエンザウイルスに対して血清陽性である被験者に投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、感染又は症状発症から1、2、3、4、5日以内に被験者に投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、感染又は症状発症後の1、2、3、4、5、6、若しくは7日目、及び2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10日以内に被験者に投与され得る。
【0208】
一実施形態では、本方法は、被験者におけるB型インフルエンザウイルス感染を低下させる。別の実施形態では、本方法は、被験者におけるA型インフルエンザウイルス感染及び/又はB型インフルエンザウイルス感染を低下させる。別の実施形態では、本方法は、被験者におけるB型インフルエンザウイルス感染についてのリスク又は遅延を予防し、低下させる。別の実施形態では、本方法は、被験者におけるA型インフルエンザ及び/又はB型インフルエンザウイルス感染についてのリスク又は遅延を予防し、低下させる。一実施形態では、被験者は動物である。一実施形態では、被験者は哺乳動物である。さらなる特定の実施形態では、被験者はヒトである。一実施形態では、被験者は、限定はされないが、A型インフルエンザ及び/又はB型インフルエンザのウイルス感染に対して特にリスクがあるか又は罹りやすい被験者、例えば易感染性の被験者などを含む。
【0209】
治療は、単回用量スケジュール又は複数回用量スケジュールが可能であり、また本発明の抗体又はその抗原結合断片は、受動免疫又は能動免疫で使用することができる。
【0210】
一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上の抗ウイルス薬と組み合わせて被験体に投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上の小分子抗ウイルス薬と組み合わせて被験体に投与される。小分子抗ウイルス薬は、オセルタミビル(TAMIFLU(登録商標))、ザナミビル(RELENZA(登録商標))などのノイラミニダーゼ阻害剤並びにアマンタジン及びリマンタジンなどのアダマンタンを含む。
【0211】
別の実施形態では、本発明は、A型インフルエンザ及び/又はB型インフルエンザウイルス感染の予防又は治療のための薬物として使用される組成物を提供する。別の実施形態では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片、及び/又は、本発明の抗体又はその抗原結合断片が被験体の治療及び/又は被験体における診断のための薬物の作製において結合する対象のエピトープを含むタンパク質の使用を提供する。
【0212】
本発明に記載される抗体及びその断片はまた、A型インフルエンザウイルス感染;B型インフルエンザウイルス感染;又はこれらの組み合わせの診断用のキットの中で使用してもよい。さらに、本発明の抗体に結合する能力があるエピトープは、ワクチン接種手順の有効性を、保護的な抗A型インフルエンザ及び/又はB型インフルエンザウイルス抗体の存在を検出することによって監視するためのキットの中で使用してもよい。本発明に記載される抗体、抗体断片、又はその変異体及び誘導体はまた、所望される免疫原性を伴うワクチン製造を監視するためのキットの中で使用してもよい。
【0213】
本発明はまた、医薬組成物を調製する方法であって、本明細書に記載される本発明に記載のモノクローナル抗体であるモノクローナル抗体を、1つ以上の薬学的に許容できる担体と混合するステップを含む、方法を提供する。
【0214】
本発明の抗体又はその抗原結合断片を投与するため、限定はされないが、リポソーム、微小粒子、マイクロカプセルへの封入、抗体又は抗体断片を発現することが可能な組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシス、レトロウイルス又は他のベクターなどの一部としての核酸の構築を含む様々な送達系は公知であり、用いることができる。導入方法として、限定はされないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が挙げられる。別の実施形態では、ワクチンは、例えば、限定はされないがインビボエレクトロポレーションを含むエレクトロポレーション技術を用いるDNAワクチンとして投与され得る。組成物は、任意の便宜的な経路により、例えば注入又はボーラス注射により、上皮又は皮膚粘膜裏層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸管粘膜など)を通じた吸収により投与してもよく、また限定はされないが小分子抗ウイルス性組成物を含む他の生物活性剤とともに投与してもよい。投与は、全身性又は局所性であり得る。経肺投与はまた、例えば、吸入器又は噴霧器の使用、及びエアロゾル化剤との調合により用いることができる。さらに別の実施形態では、組成物は、徐放システムにおいて送達され得る。
【0215】
本発明はまた、医薬組成物を提供する。かかる組成物は、本発明の抗体又はその抗原結合断片、及び薬学的に許容できる担体を治療有効量で含む。用語「薬学的に許容できる」は、本明細書で使用されるとき、動物、より詳細にはヒトで使用するため、連邦政府若しくは州政府の規制機関によって認可されている、又は米国薬局方若しくは他の一般に認められている薬局方において収載されていることを意味する。用語「担体」は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は媒体を指す。かかる薬学的担体は、滅菌液体、例えば水及び油、例えば石油、動物、植物又は合成起源のもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等であり得る。水は、医薬組成物が静脈内投与される場合に好ましい担体である。生理食塩水及び水性デキストロース及びグリセロール溶液もまた、特に注射可能溶液用に、液体担体として使用することができる。好適な薬学的賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等を含む。組成物はまた、必要に応じて、少量の湿潤剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤も含有し得る。これらの組成物は、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤等の形態をとることができる。組成物は、坐剤として、従来型の結合剤及びトリグリセリドなどの担体と配合することができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等などの標準担体を含み得る。一実施形態では、医薬組成物は、患者に対する適切な投与のための形態を提供するように、治療有効量の抗体又はその抗原結合断片を、適量の担体とともに、好ましくは精製形態で含有する。製剤は、投与方法に適合させるべきである。
【0216】
典型的には、抗体治療薬においては、患者に投与される用量は、患者の体重に対して約0.1mg/kg~100mg/kgである。
【実施例
【0217】
実施例1 メモリーB細胞から単離したヒトモノクローナル抗体の構築及び最適化
CD22+IgG+B細胞を、B/Florida/4/2006 Yamagata系統(B/FLA/06)及びB/Brisbane/60/2008 Victoria系統(B/BNE/08)の双方に対する高い中和力価について選択した、ドナーの凍結保存した末梢血単核球(PBMC)から選別し、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、CpGオリゴデオキシヌクレオチド2006及び支持細胞を用いて3細胞/ウェルで不死化した。抗体を含有する培養上清を14日後に採取し、Yamagata及びVictoria B型インフルエンザ系統の双方からウイルスを中和することができる抗体クローンを同定するため、読み出しとしてノイラミニダーゼ活性(NA)を用いる前述の促進的なウイルス阻害アッセイから改良したマイクロ中和アッセイ(MNA)によりスクリーニングした(Hassantoufighi et al.(2010) Vaccine.28:790-7)。
【0218】
つまり、10μlの培養上清を、400TCID50のインフルエンザB/BNE/08(Victoria系統)又はB/FLA/06(Yamagata系統)とともに37℃で1時間インキュベートした。Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞をプレートに添加し(20,000細胞/ウェル)、4時間インキュベートし、TPCK-トリプシンを含有する培地で2回洗浄し、次に37℃で2日間インキュベートした。インキュベーション後、蛍光標識基質としてメチルウンベリフェリル-N-アセチルノイラミン酸(ΜU-NANA)(Sigma)を25μl/ウェル(10μM)で添加することによりNA活性を測定し、プレートを蛍光光度計で読み取った。
【0219】
3つのB細胞クローン(FBC-39、FBD-56、及びFBD-94)が、B型インフルエンザVictoria及びYamagata系統の双方に対して中和活性を有することが見出された。これらのクローンのVH及びVL遺伝子を配列決定し、IgG1発現ベクターにクローン化した。組換え抗体を、ヒト胚性腎臓(HEK)又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する哺乳類細胞株への一過性遺伝子導入により産生した。遺伝子導入細胞からの上清を培養の7~10日後に採取し、抗体(IgG)をプロテインAクロマトグラフィーにより親和性精製し、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)に透析した。
【0220】
ヒト抗体生殖系列配列のデータベースに対してmAb配列を整列させるため、Ig BLASTアルゴリズムを用いた。直近の生殖系列鋳型におけるVH及びVLの遺伝子領域の各々について同定した(表6)。非生殖系列化(non-germlined)アミノ酸を、これらの参照配列に対して整列することにより同定した。
【0221】
【表6】
【0222】
FBC-39変異体の構築
FBC-39抗体VLでは、軽鎖内の位置87にわずか1つの非生殖系列フレームワーク残基:Fが存在したが、ここで生殖系列化アミノ酸は、Kabatによる付番によるとY(すなわちL87F(Y))である(IMGT付番では位置103)。生殖系列化配列は、本明細書中でFBC-39-L87Yと称する。非生殖系列化配列は、FBC-39-L87Fと称する。
【0223】
FBC-39抗体VHでは、11のKabat定義の非生殖系列化フレームワーク残基、すなわち、Kabatによる付番によると、H6V(E)、H27L(F)、H28S(T)、H30L(S)、H68S(T)、H77M(T)、H79F(Y)、H81H(Q)、H82aS(N)、H83R(K)、及びH93A(T)が存在する。フレームワーク残基のIMGT定義を用いる場合、7つの非生殖系列化残基:H6V(E)、H77S(T)、H86M(T)、H88F(Y)、H90H(Q)、H92S(N)、及びH95R(K)が存在する。
【0224】
変異体は、全部で12のKabat定義の非生殖系列化フレームワーク残基が生殖系列アミノ酸に復帰されるように構築した。この抗体構築物は、Victoria系統のB型インフルエンザウイルスに対する中和活性及び適用範囲における有意な低下を示し、これは1つ若しくは複数の非生殖系列残基の1つ以上が活性において重要であることを意味する。
【0225】
位置H27、H28、及びH30に位置する非生殖系列化フレームワーク残基の3つは、IMGT系によりHCDR-1の一部と考えられるが、Kabat系によりVHフレームワーク1と定義される領域内に存在する。抗体変異体は、すべてのKabat定義の非生殖系列化フレームワークアミノ酸をそれらの各々の生殖系列残基に、これらの3つの位置:H27L(F)、H28S(T)、H30L(S)(生殖系列残基と非生殖系列残基との間での「ゆらぎ(wobbled)」)を例外として復帰することにより作製し、7つの重鎖変異体:FBC-39LSL、FBC-39FSL;FBC-39LTL;FBC-39FTL;FBC-39-;FBC-39-LTS;FBC-39-FTS(生殖系列残基は下線が引かれている)を、FBC-39FTSが3つの生殖系列化アミノ酸を有し、且つFBC-39LSLが位置H27、H28、及びH30に3つの野生型残基を有するように作製した。
【0226】
加えて、H82での生殖系列残基N(H92IMGT)は、VH内に有望な脱アミド部位(NS)を創出した。その結果、これは、7つ全部の変異体、FBC-39LSL、FBC-39FSL、FBC-39LTL、FBC-39FTL、FBC-39-FSS、FBC-39-LTS、及びFBC-39-FTSにおいて、FBC-39の野生型Sと置換された。加えて、FBC-39変異体の7つ全部は、FBC-39軽鎖とは1つのアミノ酸だけ異なる、同じ軽鎖配列(FBC-39-L87Y)を共有する。
【0227】
得られた抗体変異体を、上記のように発現し、精製し、さらに特徴づけた。
【0228】
実施例2.単離された抗HA抗体は両方のB型インフルエンザHA系統に結合する
単離された抗体の結合性及び交差反応性を判定するため、HA ELISA結合アッセイを実施した。384ウェルのMaxisorb ELISAプレート(Nunc)を、PBS中のYamagata系統株B/FLA/06又はVictoria系統株B/BNE/08由来の0.5μg/mlの組換えHAで、4℃で一晩コーティングした。コーティングされていないタンパク質を除去するため、プレートを、0.1%v/vツイーン-20を含有するPBSで洗浄し、1%(w/v)カゼインを含有するブロッキング溶液(Thermo Scientific)を室温で1時間添加した。ブロッキング溶液を廃棄し、抗HA抗体(FBC-39、FBD-56、及びFBD-94)の各々に対するPBS中の3倍連続希釈物を添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄し、結合した抗体をペルオキシダーゼコンジュゲートマウス抗ヒトIgG抗体(Jackson)を用いて検出した。抗体結合活性を、Supersignal Pico基質(Thermo Scientific)の添加後に化学発光シグナルを測定するか、又は1つの成分の基質としてのテトラメチルベンジジン(TMB)(Kirkegaard及びPerry Laboratories,Inc.(KPL),Gaithersburg,MDから入手可能)とインキュベート後、2N硫酸の添加により反応を停止させた後、450nmでの色変化を測定することにより、算出した。
【0229】
【表7】
【0230】
表7は、3つの独立実験から得た平均EC50を示す。3つすべての抗HA IgG(FBC-39、FBD-56及びFBD-94)は、両方のB型インフルエンザ系統からの組換えHAに結合した。同様のEC50値が、Yamagata(B/FL/06)HAに対する3つすべての抗体間で認められた。Victoria(B/BNE/08)の場合、FBD-56又はFBC-39のいずれかよりもFBD-94に対してEC50の低下が認められた。
【0231】
7つのFBC-39抗体の生殖系列化変異体の結合活性について、ELISAにより試験した。表8は、未精製抗HA FBC-39 IgG変異体の結合性の結果を示し、ここでFBC-39 FTSは、Kabat定義のフレームワーク生殖系列化アミノ酸を有し、且つFBC-39 LSLは、位置H27、H28、及びH30(Kabat付番)での野生型残基を除くKabat定義のフレームワーク生殖系列化アミノ酸を有する。これらの結果は、すべての変異体がYamagata系統(B/FL/06)HAタンパク質に結合したが、位置H30にS残基を有する変異体がVictoria系統(B/BNE/08)HAタンパク質への結合親和性を失ったことを示す。FBC-39LSL、FSL、LTL、及びFTLの4つの変異体が、両系統からのHAタンパク質に対するFBC-39と同等の又はFBC-39より優れた結合親和性を示した。
【0232】
【表8】
【0233】
実施例3.2つの異なる系統由来のウイルスに対する抗B型インフルエンザHA IgGのインビトロでの交差反応中和活性
精製されたmAb活性について試験するため、実施例1に記載のように、類似のマイクロ中和アッセイを用いた。つまり、MDCK細胞を、抗生物質、グルタミン(完全MEM培地)及び10%(v/v)ウシ胎仔血清を添加したMEM培地(Invitrogen)中で培養した。60TCID50(50%の組織培養感染用量)のウイルスを、室温で30分のインキュベーション後、二連ウェルで、0.75ug/mlのTPCKで処理したトリプシン(Worthington)を含有する完全MEM培地中、384ウェルプレート内の3倍希釈した抗体に添加し、2×10個の細胞/ウェルをプレートに添加した。33℃、5%COのインキュベーターで約40時間のインキュベーション後、NA活性を蛍光標識基質のメチルウンベリフェリル-N-アセチルノイラミン酸(Μ-NANA)(Sigma)を各ウェルに添加することにより測定し、37℃で1時間インキュベートした。NA活性によって表されるウイルス複製は、以下の設定、すなわち、励起355nm、放射460nm;10フラッシュ/ウェルを用いてのEnvision Fluorometer(PerkinElmer)を用いて蛍光を読み取ることにより定量化した。中和力価(50%阻害濃度[IC50])は、蛍光シグナルを細胞対照ウェルと比べて50%低下させた最終抗体濃度として表す。表9で用いるB型インフルエンザウイルス株は、以下に挙げる通り、すなわち、B/Lee/40(B/Lee/40);B/AA/66(ca B/Ann Arbor/1/66);B/HK/72(B/Hong Kong/5/72);B/BJ/97(ca B/Beijing/243/97(victoria))、B/HK/01(B/Hong Kong/330/2001(victoria));B/MY/04(B/Malaysia/2506/2004(victoria));B/BNE/08(ca B/Brisbane/60/2008(victoria));B/AA/94(ca B/Ann Arbor/2/94(yamagata));B/YSI/98(ca B/Yamanashi/166/98(yamagata));B/JHB/99(ca B/Johannesburg/5/99(yamagata));B/SC/99(B/Sichuan/379/99(yamagata));B/FL/06(B/Florida/4/2006(yamagata))である。
【0234】
【表9】
【0235】
表9は、2つの独立実験からの平均IC50を示す。抗HA抗体は、試験したすべてのB型インフルエンザウイルスを中和した。FBD-56及びFBD-94は、FBC-39より強力であったが、B/AA/94株に対する活性の一部の低下を示した。FBC-39変異体、LSL、FSL、LTL、及びFTLは、すべてのウイルスをFBC-39と同等の又はFBC-39より低いIC50まで中和した。
【0236】
実施例4.A型インフルエンザH9ウイルス株の結合及び中和
HA結合ELISAを、384ウェルプレートを、PBS中、3μg/mlのA型インフルエンザのサブタイプH9(A/chicken/HK/G9/97(H9N2))由来の組換えHAで、室温で2時間コーティングしたことを除き、実施例2などと同様の方法で実施した。その結果によると、FBC-39、及び生殖系列化変異体LTLが各々、6.2及び6.3μg/mlの類似のEC50値でH9 HAに結合し、またFBC-39LSL及びFTLが各々、41.7及び46.1μg/mlのより高いEC50で結合することが示された(表10)。それに対して、FBC-39FSLは試験した最高用量の50μg/mlでも弱く結合したにすぎず、またFBD-56及びFBD-94では結合が見られなかった。
【0237】
【表10】
【0238】
A型インフルエンザH9 HAタンパク質の結合性が機能的に適切であることを確認するため、マイクロ中和アッセイを実施例3に記載と同様の方法を用いて実施した。このアッセイにおいては、低温に適応した(ca)弱毒生インフルエンザワクチンウイルスを、Jin et al.(2003)Virology.306:18-24)による記載と同様の方法を用いて、ca A/Ann Arbor/6/60(H2N2)ウイルスの6つの内部タンパク質遺伝子と関連した、A/chicken/Hong Kong/G9/97(H9N2)ウイルス由来のウイルスHA及びNA遺伝子を有するように、逆遺伝学により作製した。マイクロ中和アッセイの結果を表10に示す。結合特性と一致して、FBC-39及び変異体は、生物学的に適切なIC50値でH9N2ウイルスを潜在的に中和した。FBC-39及びFBC-39 LTLは各々、0.17及び0.09μg/mlのIC50値で最も強力な活性を有した。想定通り、FBD-56、FBD-94、及び対照抗体は、試験した最高濃度(50μg/ml)で中和活性を全く示さなかった。
【0239】
実施例5.モノクローナル抗体耐性突然変異体(MARM)の選択によるエピトープの同定
Yamagata系統のB型インフルエンザウイルス(B/Florida/4/2006;B/FLA/06)及びVictoria系統のB型インフルエンザウイルス(B/Malyasia/2506/2004;B/MY/04)を、ウイルス及び抗体の混合物を、10×96ウェルプレート内、30,000TCID50/ウェルでMDCK細胞に吸着させ、FBC-39、FBD-56、及びFBD-94(10×IC50)の存在下で培養する前の1時間、高濃度のFBC-39、FBD-56、及びFBD-94(125×IC50)とともにインキュベートした。感染後の最大で3日、感染細胞上で細胞変性効果(CPE)を呈する推定上のMARMを単離した。HA遺伝子をRT-PCRにより増幅し、その後配列決定し、次いで単離したウイルスにおける耐性をマイクロ中和アッセイにより確認した。MARMは、FBC-39、FBD-56、又はFBD-94の存在下で培養した時、B/FLA/09ウイルスから全く単離されなかった。Victoria系統(B/MY/04)ウイルスを用いた時、FBD-56及びFBD-94の存在下であるがFBC-39の不在下で、MARMを単離した。配列分析によると、2つのFBD-56 MARMが位置128でグルタミン酸(E)からリジン(K)へ又はバリン(V)への単一アミノ酸置換を有することが示された(表11)。FBD-94 MARMは、位置128でEからKへの単一アミノ酸置換を有した(表11)。位置141でグリシン(G)からEへの単一アミノ酸置換を有するYamagata系統B/Florida/4/2006の変異体(B/FLA/06 G141E)は、野生型ウイルス(B/FLA/06)と比べて、FBC-39の中和において8倍の低下を与えた。このB/FLA/09 G141E変異体及びYamagata系統ウイルスB/Jiangsu/10/2003(B/JIN/03)、位置141にRを有する(G141R)天然に循環するウイルスを用いて、MARMの単離をFBC-39 mAbのみを用いて繰り返した。1つのMARMウイルスを、位置235でのGからアルギニン(R)への単一アミノ酸変化を伴うB/FLA/09G141Eウイルスを用いて単離した(表11)。2つのB/JIN/03エスケープ突然変異体ウイルスを各々、位置150でのセリン(S)からイソロイシン(I)へ、又は位置235でのEからロイシン(L)への単一アミノ酸置換とともに同定した(表11)。これらのB型インフルエンザMARMにおいて同定されたアミノ酸置換はHAの頭部領域内に位置し(Wang et al.(2008)J.Virol.82(6):3011-20)、これはFBC-39、FBD-56、及びFBD-94がB型インフルエンザウイルスのHA頭部上のエピトープを認識するとともに、FBD-56及びFBD-94が位置128に重要な接触を有し且つ重複エピトープを共有し、またFBC-39が位置141、150、及び235に重要な接触残基を伴う立体構造的エピトープを有することが示唆される。
【0240】
【表11】
【0241】
実施例6.B型インフルエンザ抗HA抗体はFcエフェクター機能を呈する
抗体は、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)、抗体依存性細胞食作用、及び補体依存性殺滅などのFc-エフェクター機能を通じてウイルス感染細胞を排除する可能性を有する。抗HA抗体がADCC活性を呈したことを確認するため、我々は、ADCCバイオアッセイを用いてB型インフルエンザウイルスの存在下でNK細胞を活性化するその能力を試験した。このアッセイでは、Fcエフェクター活性化を測定するため、NFATプロモーターの制御下でヒトFcgIIIA高親和性受容体及びルシフェラーゼ導入遺伝子を安定に遺伝子導入しているヒトNK細胞株(NK92)を用いる。96ウェルプレートを、5.0×10のTCID50/ウェルのB/Hong Kong/330/2001(Victoria)ウイルスストックでコーティングした。連続希釈したFBD-94、FBC-39並びにFc領域内に2つの置換L234A及びL235Aを有するFcエフェクターヌル変異体(FBD-94LALA及びFBC-39LALA)(Hezareh et al.(2001)J.Virol.75(24):12161)をウイルスに適用し、次にNK細胞を5.0×10個の細胞/ウェルで添加し、37℃で4時間インキュベートした。ルシフェラーゼをSteady-Glo試薬(Promega)の添加により検出し、エンビジョンプレートリーダーにより測定した。図1は、FBD-94及びFBC-39の双方が用量依存性のB型インフルエンザのADCC活性を呈した一方で、LALA変異体が同じ濃度で活性を示さなかったことを示す。
【0242】
実施例7.インフルエンザ感染の致死マウスモデルにおける抗B型インフルエンザIgGのインビボでの予防及び治療効果
B型インフルエンザを中和するモノクローナル抗体の保護的有効性を、致死B型インフルエンザマウスモデルにおいて評価した。
【0243】
予防活性(図2A~D):予防的有効性を試験するため、6~8週齢BALB/c(Harlan Laboratories)マウスの8つの群に、FBC-39又はFBD-94抗体のいずれかの単回腹腔内(IP)注射を、100μlの容量、3、1、0.3、又は0.1mg/kgの用量で施した。各試験においては、対照動物群に対して、100μlの容量、3mg/kgでのヒトアイソタイプ非関連対照IgGを用いてIP治療を行った。投与の4時間後、マウスの鼻腔内に、15倍の50パーセントマウス致死量(15MLD50)のB/Sichuan/379/99(Yamagata)(B/Sic/99)又は10MLD50のB/Hong Kong/330/2001(Victoria)(B/HK/01)を50μlの容量で接種した。マウスを、ウイルス負荷の日に秤量し、体重減少及び生存について14日間毎日監視した(体重減少≧25%のマウスを安楽死させた)。FBC-39及びFBD-94 mAbの双方は、用量依存性に保護を与えた。0.3mg/kg以上でのFBC-39及びFBD-94は、B/Sic/99(図2A及びB)及びB/HK/01(図2C及びD)を負荷した動物に90%~100%の保護を供した。0.1mg/kgのより低用量でのFBC-39及びFBD94もまた、各々の生存率が90%及び80%で、B/HK/01に対して高度に保護的であった。予想通り、アイソタイプ対照mAbを3若しくは30mg/kgで受けたマウスの中で、B/Sic/99又はB/HK/01の負荷で各々生存したものはなかった。
【0244】
治療活性(図3A~D並びに図4A及びB):抗体の治療効果を評価するため、マウスに10MLD50のB/Sic/99(Yamagata)又は5MLD50のB/HK/01(Victoria)を接種し、感染後(pi)の2日目、10、3、1、若しくは0.3mg/kgのFBC-39又はFBD-94を注射した。FBC-39及びFBD-94は、1mg/kg以上で投与した時、B/Sic/99を負荷した動物に完全な保護を供した(図3A及びB)。B/HK/01の感染においては、FBC-39及びFBD-94は、0.3mg/kg及び0.3mg/kg超の用量で、完全な保護を供した(図3C及びD)。予想通り、10又は30mg/kgで投与したアイソタイプ対照mAbは、B/Sic/99及びB/HK/01感染に対する生存率が各々10%又は20%で、マウスを保護できなかった。
【0245】
B型インフルエンザ抗体が経時的に保護する能力を試験するため、マウスに5MLD50のB/HK/01を接種し、3mg/kgのFBC-39又はFBD-94をIP注射した(感染後の1、2、3、又は4日目に開始した)。FBC-39は、感染後の1日目に投与した時にマウスの100%、また感染後の2日目及び3日目に各々80%及び70%を保護した(図4A)。FBD-94は、感染後の1日目及び2日目に投与した時にマウスの100%、また感染後の3日目及び4日目に各々80%及び60%を保護した(図4B)。予想通り、同じ用量の非関連アイソタイプ対照抗体で治療したマウスは、生存率が10%で、マウスを保護することができなかった。
【0246】
実施例8.赤血球凝集阻害活性
本発明の抗体のB型インフルエンザ抗体の機能性について考えられる作用機序を判定するため、赤血球凝集阻害(HAI)アッセイを、B型インフルエンザウイルス株の多様な群を用いて実施した。HAIアッセイでは、細胞表面に発現されるシアル酸のウイルス受容体での会合を遮断する抗体を、ウイルス媒介性の赤血球凝集の阻害を測定することにより検出する。B型インフルエンザウイルス(下記の表12のように略記)を、抗体の不在下での0.05%シチメンチョウ赤血球(Lampire Biological Laboratories)とのインキュベーションにより決定した4HA単位に調整した。96ウェルU底プレート内で、FBD-94及びFBC-39 IgGを2倍増加で連続希釈し、希釈したウイルスをウェルに添加した。30~60分のインキュベーション後、50ulの0.05%シチメンチョウ赤血球を添加した。プレートをさらに30~60分間インキュベートし、凝集について観察した。HAI力価は、凝集を完全に阻害する抗体の最低有効濃度(nM)であるように決定した。表12は、FBD-94及びFBC39が試験したすべてのB型インフルエンザ株に対してHAI活性を有したことを示し、B型インフルエンザHAの球状頭部への結合の証拠を提供している。本発明の他の抗体は、HAIアッセイを用いると、同様の活性を示す。
【0247】
【表12】
【0248】
本願に記載のすべての出版物、特許及び特許出願は、個別の出版物、特許又は特許出願の各々が参照により本明細書に援用されるように詳細且つ個別に示されるのと同程度に、参照により本明細書に援用される。
本発明は以下の態様も提供する。
1.B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある、単離された抗体又はその抗原結合断片。
2.前記抗体が、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、且つYamagata及びVictoria系統の双方におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある、上記1に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
3.前記抗体又はその抗原結合断片が、B/AA/94(ca B/Ann Arbor/2/94(yamagata));B/YSI/98(ca B/Yamanashi/166/98(yamagata));B/JHB/99(ca B/Johannesburg/5/99(yamagata));B/SC/99(B/Sichuan/379/99(yamagata));B/FL/06(B/Florida/4/2006(yamagata))から選択されるYamagata系統のB型インフルエンザウイルス;B/BJ/97(ca B/Beijing/243/97(victoria))、B/HK/01(B/Hong Kong/330/2001(victoria));B/MY/04(B/Malaysia/2506/2004(victoria));B/BNE/08(ca B/Brisbane/60/2008(victoria))から選択されるVictoria系統のB型インフルエンザウイルス;B/Lee/40(B/Lee/40);B/AA/66(ca B/Ann Arbor/1/66);B/HK/72(B/Hong Kong/5/72)から選択される分岐前のB型インフルエンザ株;及びこれらの組み合わせに結合する能力がある、上記1に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
4.前記抗体又は抗原結合断片が、抗体の約1μg/ml~約50μg/mlの範囲内のEC 50 でB型インフルエンザウイルスに結合する、上記1~3のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
5.前記抗体又は抗原結合断片が、マイクロ中和アッセイにおけるB型インフルエンザウイルスの中和における、抗体の約0.001μg/ml~約5μg/mlの範囲内の50%阻害濃度(IC 50 μg/ml)として表される中和効力を有する、上記1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
6.前記抗体がA型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合する能力がある、上記1~5のいずれかに記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
7.前記抗体がA型インフルエンザウイルスのサブタイプ1又はサブタイプ2のヘマグルチニンに結合する能力がある、上記6に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
8.前記抗体が、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びそれらの変異体から選択されるA型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプに結合する能力がある、上記6に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
9.前記抗体がA型インフルエンザウイルスグループ1のサブタイプH9に結合する能力がある、上記6に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
10.B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)及びA型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ少なくとも1つのYamagata系統のB型インフルエンザウイルス又は少なくとも1つのVictoria系統のB型インフルエンザウイルス及び少なくとも1つのA型インフルエンザウイルスのサブタイプを中和する能力がある、単離された抗体又はその抗原結合断片。
11.前記抗体又は抗原結合断片が、抗体の約1μg/ml~約50μg/mlの範囲内のEC 50 でA型インフルエンザHAに結合する、上記6~10のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
12.前記抗体又は抗原結合断片が、マイクロ中和アッセイにおけるA型インフルエンザウイルスの中和において、抗体の約0.01μg/ml~約5μg/mlの範囲内でのIC 50 を有する、上記6~10のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
13.前記抗体又はその抗原結合断片が、
(a)配列番号3のHCDR-1、配列番号4のHCDR-2、配列番号5のHCDR-3、配列番号8のLCDR-1、配列番号9のLCDR-2及び配列番号10のLCDR-3;
(b)配列番号13のHCDR-1、配列番号14のHCDR-2、配列番号15のHCDR-3、配列番号18のLCDR-1、配列番号19のLCDR-2、配列番号20のLCDR-3;
(c)配列番号23のHCDR-1、配列番号24のHCDR-2、配列番号25のHCDR-3、配列番号28のLCDR-1、配列番号29のLCDR-2及び配列番号30のLCDR-3;
(d)配列番号33のHCDR-1、配列番号34のHCDR-2、配列番号35のHCDR-3、配列番号38のLCDR-1、配列番号39のLCDR-2及び配列番号40のLCDR-3;
(e)配列番号43のHCDR-1、配列番号44のHCDR-2、配列番号45のHCDR-3、配列番号48のLCDR-1、配列番号49のLCDR-2及び配列番号50のLCDR-3;
(f)配列番号53のHCDR-1、配列番号54のHCDR-2、配列番号55のHCDR-3、配列番号58のLCDR-1、配列番号59のLCDR-2及び配列番号60のLCDR-3;
(g)配列番号63のHCDR-1、配列番号64のHCDR-2、配列番号65のHCDR-3、配列番号68のLCDR-1、配列番号69のLCDR-2及び配列番号70のLCDR-3
(h)配列番号75のHCDR-1、配列番号76のHCDR-2、配列番号77のHCDR-3、配列番号83のLCDR-1、配列番号84のLCDR-2及び配列番号85のLCDR-3;
(i)配列番号91のHCDR-1、配列番号92のHCDR-2、配列番号93のHCDR-3、配列番号99のLCDR-1、配列番号100のLCDR-2及び配列番号101のLCDR-3;
(j)配列番号107のHCDR-1、配列番号108のHCDR-2、配列番号109のHCDR-3、配列番号115のLCDR-1、配列番号116のLCDR-2及び配列番号117のLCDR-3;
(k)配列番号121のHCDR-1、配列番号122のHCDR-2、配列番号123のHCDR-3、配列番号124のLCDR-1、配列番号125のLCDR-2及び配列番号126のLCDR-3;
(l)配列番号127のHCDR-1、配列番号128のHCDR-2、配列番号129のHCDR-3、配列番号130のLCDR-1、配列番号131のLCDR-2及び配列番号132のLCDR-3;
(m)配列番号133のHCDR-1、配列番号134のHCDR-2、配列番号135のHCDR-3、配列番号136のLCDR-1、配列番号137のLCDR-2及び配列番号138のLCDR-3;
(n)配列番号139のHCDR-1、配列番号140のHCDR-2、配列番号141のHCDR-3、配列番号142のLCDR-1、配列番号143のLCDR-2及び配列番号144のLCDR-3;
(o)配列番号145のHCDR-1、配列番号146のHCDR-2、配列番号147のHCDR-3、配列番号148のLCDR-1、配列番号149のLCDR-2及び配列番号150のLCDR-3;
(p)配列番号78のHCDR-1、配列番号79のHCDR-2、配列番号80のHCDR-3、配列番号86のLCDR-1、配列番号87のLCDR-2及び配列番号88のLCDR-3;
(q)配列番号94のHCDR-1、配列番号95のHCDR-2、配列番号96のHCDR-3、配列番号102のLCDR-1、配列番号103のLCDR-2及び配列番号104のLCDR-3;
(r)配列番号110のHCDR-1、配列番号111のHCDR-2、配列番号112のHCDR-3、配列番号118のLCDR-1、配列番号119のLCDR-2及び配列番号120のLCDR-3;及び
(s)1つ以上のアミノ酸置換、欠失又は挿入を含む(a)~(r)のいずれか1つに記載の6つのCDRセット
から選択される、6つのCDRセット:HCDR-1、HCDR-2、HCDR-3、LCDR-1、LCDR-2、LCDR-3を含む、上記1~12のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
14.
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号74のVH及び配列番号82のVL、
(i)配列番号90のVH及び配列番号98のVL、並びに
(j)配列番号106のVH及び配列番号114のVL
から選択されるVH及び/又はVLに対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%の同一性を有するVH及び/又は少なくとも75%、80%、85%、90%、95%若しくは100%の同一性を有するVLを含む、上記1~13のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
15.
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号74のVH及び配列番号82のVL、
(i)配列番号90のVH及び配列番号98のVL、並びに
(j)配列番号106のVH及び配列番号114のVL
から選択されるVH及びVLを含む、上記1~14のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
16.B型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)に結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力があり、配列番号71のVHアミノ酸配列及び配列番号72のVLアミノ酸配列を含み、ここで配列番号71のXaa はVal又はGluであり;配列番号71のXaa はLeu又はPheであり;配列番号71のXaa はSer又はThrであり;配列番号71のXaa はLeu又はSerであり;配列番号71のXaa はSer又はThrであり;配列番号71のXaa はMet又はThrであり;配列番号71のXaa はPhe又はTyrであり;配列番号71のXaa はHis又はGlnであり;配列番号71のXaa はSer又はAsnであり;配列番号71のXaa 10 はArg又はLysであり;且つ配列番号71のXaa 11 はAla又はThrであり;ここで配列番号72のXaa はPhe又はTyrである、抗体又はその抗原結合断片。
17.配列番号71のXaa がSerである、上記16に記載の抗体又はその抗原結合断片。
18.配列番号71のXaa がLeuである、上記16に記載の抗体又はその抗原結合断片。
19.配列番号71のXaa がGluであり;配列番号71のXaa がThrであり;配列番号71のXaa がThrであり;配列番号71のXaa がTyrであり;配列番号71のXaa がGlnであり;配列番号71のXaa 10 がLysであり;配列番号71のXaa 11 がThrであり、又はその組み合わせである、上記6~8のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
20.配列番号71のXaa がGluであり;配列番号71のXaa がThrであり;配列番号71のXaa がThrであり;配列番号71のXaa がTyrであり;配列番号71のXaa がGlnであり;配列番号71のXaa がSerであり;配列番号71のXaa 10 がLysであり;且つ配列番号71のXaa 11 がThrである、上記6~9のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
21.抗体又は抗原結合断片が、免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab’、F(ab’) 、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、単独ドメイン抗体、ダイアボディ、多重特異性抗体、二重特異性(dual-specific)抗体、及び二重特異性(bispecific)抗体からなる群から選択される、上記1~20のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
22.Fc領域を含む、上記1~21のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
23.前記抗体が、IgG1、IgG2又はIgG4又はその断片である、上記1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
24.B型インフルエンザウイルスに結合し、且つB型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのYamagata系統及び少なくとも1つのVictoria系統を中和する能力があり、B型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのYamagata系統及び少なくとも1つのVictoria系統の中で保存されるエピトープに結合する、B型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその抗原結合断片。
25.前記エピトープの1つ以上の接触残基がB型インフルエンザHAの頭部領域内に位置する、上記24に記載の抗体又はその抗原結合断片。
26.前記エピトープが、接触残基としてHAの前記頭部領域の前記配列の128、141、150及び235から選択される1つ以上のアミノ酸を含む、上記24に記載の抗体又はその抗原結合断片。
27.上記1~26のいずれかに記載の抗体と同じエピトープに結合するか又はB型インフルエンザウイルスヘマグルチニンへの結合に対して前記抗体と競合する、B型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、且つ2つの系統学的に異なる系統におけるB型インフルエンザウイルスを中和する能力がある、B型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその抗原結合断片。
28.
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号74のVH及び配列番号82のVL、
(i)配列番号90のVH及び配列番号98のVL、並びに
(j)配列番号106のVH及び配列番号114のVL
から選択されるアミノ酸配列を有する抗体と同じエピトープに結合するか又はA型インフルエンザウイルスヘマグルチニンへの結合に対して前記抗体と競合する、上記27に記載の抗体又はその抗原結合断片。
29.上記1~28のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする単離核酸。
30.上記29に記載の単離核酸を含むベクター。
31.上記29に記載の核酸又は上記30に記載のベクターを含む宿主細胞。
32.上記1~28のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片を作製するための方法であって、上記31に記載の宿主細胞を、前記抗体又はその断片の発現に適した条件下で培養するステップを含む、方法。
33.前記宿主細胞培養物から前記抗体又はその抗原結合断片を単離するステップをさらに含む、上記32に記載の方法。
34.上記1~28のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片及び薬学的に許容できる担体を含む組成物。
35.上記1~28のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片、並びに25mM His及び0.15M NaClをpH6.0で含む組成物。
36.被験体におけるB型インフルエンザ感染の予防又は治療における使用のための、上記1~28のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
37.被験者におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の予防又は治療における使用のための、上記1~28のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
38.被験者におけるB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための薬剤の製造における、上記1~28のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
39.被験者におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための薬剤の製造における、上記1~28のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
40.被験体におけるB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための方法であって、上記1~28のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片の有効量を前記被験体に投与するステップを含む、方法。
41.被験者におけるA型インフルエンザ及びB型インフルエンザ感染の予防又は治療のための方法であって、上記1~28のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を有効量で前記被験者に投与するステップを含む、方法。
42.被験体におけるB型インフルエンザ感染のインビトロ診断における、上記1~28のいずれか1項に記載の抗体又はその断片の使用。
【0249】
配列表情報
配列番号1(FBD-56 VH DNA)
【化1】
配列番号2(FBD-56 VHタンパク質)
【化2】
配列番号3(FBD-56 HCDR-1-Kabat):DYAMN
配列番号4(FBD-56 HCDR-2-Kabat):VISWDSGRIGYADSVKG
配列番号5(FBD-56 HCDR-3-Kabat):DMLAYYSDNSGKKYNVYGMDV
配列番号6(FBD-56 VL DNA)
【化3】
配列番号7(FBD-56 VLタンパク質)
【化4】
配列番号8(FBD-56 LCDR-1-Kabat):ASQSVSTFLA
配列番号9(FBD-56 LCDR-2-Kabat):DASNRAT
配列番号10(FBD-56 LCDR-3-Kabat):QQRSHWPPI
配列番号11(FBD-94 VH DNA)
【化5】
配列番号12(FBD-94 VHタンパク質)
【化6】
配列番号13(FBD-94 HCDR-1-Kabat):DYAIN
配列番号14(FBD-94 HCDR-2-Kabat):IISWDSGRIGYADSVRG
配列番号15(FBD-94 HCDR-3-Kabat):DMLAYYYDGSGIRYNLYGMDV
配列番号16(FBD-94 VL DNA)
【化7】
配列番号17(FBD-94 VLタンパク質)
【化8】
配列番号18(FBD-94 LCDR-1-Kabat):RASRSITTFLA
配列番号19(FBD-94 LCDR-2-Kabat):DASNRAT
配列番号20(FBD-94 LCDR-3-Kabat):QQRDHWPPI
配列番号21(FBC-39 VH DNA)
【化9】
配列番号22(FBC-39 VHタンパク質)
【化10】
配列番号23(FBC-39 HCDR-1-Kabat):NAWMS
配列番号24(FBC-39 HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号25(FBC-39 HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号26(FBC-39 VL DNA)
【化11】
配列番号27(FBC-39 VLタンパク質)
【化12】
配列番号28(FBC-39 LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号29(FBC-39 LCDR-2-Kabat):AASSLQS
配列番号30(FBC-39 LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号31(FBC-39 LSL VH DNA)
【化13】
配列番号32(FBC-39 LSL VHタンパク質)
【化14】
配列番号33(FBC-39 LSL HCDR-1-Kabat):NAWMS
配列番号34(FBC-39 LSL HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号35(FBC-39 LSL HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号36(FBC-39 LSL VL DNA)
【化15】
配列番号37(FBC-39 LSL VLタンパク質)
【化16】
配列番号38(FBC-39 LSL LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号39(FBC-39 LSL LCDR-2-Kabat):AASSLQS
配列番号40(FBC-39 LSL LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号41(FBC-39 FSL VH DNA)
【化17】
配列番号42(FBC-39 FSL VHタンパク質)
【化18】
配列番号43(FBC-39 FSL HCDR-1-Kabat):NAWMS
配列番号44(FBC-39 FSL HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号45(FBC-39 FSL HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号46(FBC-39 FSL VL DNA)
【化19】
配列番号47(FBC-39 FSL VLタンパク質)
【化20】
配列番号48(FBC-39 FSL LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号49(FBC-39 FSL LCDR-2-Kabat):AASSLQS
配列番号50(FBC-39 FSL LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号51(FBC-39 LTL VH DNA)
【化21】
配列番号52(FBC-39 LTL VHタンパク質)
【化22】
配列番号53(FBC-39 LTL HCDR-1-Kabat):NAWMS
配列番号54(FBC-39 LTL HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号55(FBC-39 LTL HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号56(FBC-39 LTL VL DNA)
【化23】
配列番号57(FBC-39 LTL VLタンパク質)
【化24】
配列番号58(FBC-39 LTL LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号59(FBC-39 LTL LCDR-2-Kabat):AASSLQS
配列番号60(FBC-39 LTL LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号61(FBC-39 FTL VH DNA)
【化25】
配列番号62(FBC-39 FTL VHタンパク質)
【化26】
配列番号63(FBC-39 FTL HCDR-1-Kabat):NAWMS
配列番号64(FBC-39 FTL HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号65(FBC-39 FTL HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号66(FBC-39 FTL VL DNA)
【化27】
配列番号67(FBC-39 FTL VLタンパク質)
【化28】
配列番号68(FBC-39 FTL LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号69(FBC-39 FTL LCDR-2-Kabat):AASSLQS
配列番号70(FBC-39 FTL LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号71(FBC-39 VHタンパク質-可変アミノ酸を伴う)
図6参照)
配列番号72(FBC-39 VLタンパク質-可変アミノ酸を伴う)
図7参照)
配列番号73(FBC-39 FSS VH DNA)
【化29】
配列番号74(FBC-39 FSS VHタンパク質)
【化30】
配列番号75(FBC-39 FSS HCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号76(FBC-39 FSS HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号77(FBC-39 FSS HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号78(FBC-39 FSS HCDR-1-IMGT):GFSFSNAW
配列番号79(FBC-39 FSS HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号80(FBC-39 FSS HCDR-3-IMGT):TTDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号81(FBC-39 FSS VL DNA)
【化31】
配列番号82(FBC-39 FSS VLタンパク質)
【化32】
配列番号83(FBC-39 FSS LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号84(FBC-39 FSS LCDR-2-Kabat):AASSLQS
配列番号85(FBC-39 FSS LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号86(FBC-39 FSS LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号87(FBC-39 FSS LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号88(FBC-39 FSS LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT配列番号89(FBC-39 LTS VH DNA):
【化33】
配列番号90(FBC-39 LTS VHタンパク質):
【化34】
配列番号91(FBC-39 LTS HCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号92(FBC-39 LTS HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号93(FBC-39 LTS HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号94(FBC-39 LTS HCDR-1-IMGT):GLTFSNAW
配列番号95(FBC-39 LTS HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号96(FBC-39 LTS HCDR-3-IMGT):TTDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号97(FBC-39 LTS VL DNA)
【化35】
配列番号98(FBC-39 LTS VLタンパク質)
【化36】
配列番号99(FBC-39 LTS LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号100(FBC-39 LTS LCDR-2-Kabat):AASSLQS配列番号101(FBC-39 LTS LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号102(FBC-39 LTS LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号103(FBC-39 LTS LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号104(FBC-39 LTS LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT
配列番号105(FBC-39 FTS VH DNA):
【化37】
配列番号106(FBC-39 FTS VHタンパク質):
【化38】
配列番号107(FBC-39 FTS HCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号108(FBC-39 FTS HCDR-2-Kabat):RIKSNTDGGTTDYAAPVKG
配列番号109(FBC-39 FTS HCDR-3-Kabat):DGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号110(FBC-39 FTS HCDR-1-IMGT):GFTFSNAW配列番号111(FBC-39 FTS HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号112(FBC-39 FTS HCDR-3-IMGT):TDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号113(FBC-39 FTS VL DNA)
【化39】
配列番号114(FBC-39 FTS VLタンパク質)
【化40】
配列番号115(FBC-39 FTS LCDR-1-Kabat):RASQDISTWLA
配列番号116(FBC-39 FTS LCDR-2-Kabat):AASSLQS配列番号117(FBC-39 FTS LCDR-3-Kabat):QQANSFPPT
配列番号118(FBC-39 FTS LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号119(FBC-39 FTS LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号120(FBC-39 FTS LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT
配列番号121(FBC-39 HCDR-1-IMGT):GLSFLNAW
配列番号122(FBC-39 HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号123(FBC-39 HCDR-3-IMGT):TDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDVW
配列番号124(FBC-39 LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号125(FBC-39 LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号126(FBC-39 LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT
配列番号127(FBC-39 LSL HCDR-1-IMGT):GLSFLNAW配列番号128(FBC-39 LSL HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号129(FBC-39 LSL HCDR-3-IMGT):TTDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号130(FBC-39 LSL LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号131(FBC-39 LSL LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号132(FBC-39 LSL LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT
配列番号133(FBC-39 FSL HCDR-1-IMGT):GFSFLNAW配列番号134(FBC-39 FSL HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号135(FBC-39 LSL HCDR-3-IMGT):TTDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号136(FBC-39 FSL LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号137(FBC-39 FSL LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号138(FBC-39 FSL LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT
配列番号139(FBC-39 LTL HCDR-1-IMGT):GLTFLNAW配列番号140(FBC-39 LTL HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号141(FBC-39 LTL HCDR-3-IMGT):TTDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号142(FBC-39 LTL LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号143(FBC-39 LTL LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号144(FBC-39 LTL LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT
配列番号145(FBC-39 FTL HCDR-1-IMGT):GFTFLNAW配列番号146(FBC-39 FTL HCDR-2-IMGT):IKSNTDGGTT
配列番号147(FBC-39 FTL HCDR-3-IMGT):TTDGPYSDDFRSGYAARYRYFGMDV
配列番号148(FBC-39 FTL LCDR-1-IMGT):QDISTW
配列番号149(FBC-39 FTL LCDR-2-IMGT):AAS
配列番号150(FBC-39 FTL LCDR-3-IMGT):QQANSFPPT
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
【配列表】
0007209754000001.app