(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】非フッ素化界面活性剤を用いたフッ化ビニリデン系重合体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/16 20060101AFI20230113BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230113BHJP
C08F 14/22 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C08L27/16
C08L71/02
C08F14/22
(21)【出願番号】P 2021511383
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011498
(87)【国際公開番号】W WO2020203230
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019068926
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】四家 彩
(72)【発明者】
【氏名】長澤 善幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康弘
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179696(WO,A1)
【文献】特表2006-523758(JP,A)
【文献】特表2014-508210(JP,A)
【文献】特表2014-508209(JP,A)
【文献】特表2010-512430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系重合体と、界面活性剤と、を含有するフッ化ビニリデン系重合体組成物であって、
前記界面活性剤は、ポリエチレングリコールのセグメントとポリプロピレングリコールのセグメントとを含み、
前記界面活性剤の含有量は、前記フッ化ビニリデン系重合体組成物中の固形分に対し、質量基準で10ppm以上100ppm未満であり、
前記界面活性剤のHLB値が10以上であり、
但し、前記フッ化ビニリデン系重合体組成物は、フッ素化界面活性剤を含有しないフッ化ビニリデン系重合体組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤の重量平均分子量が2500以下である請求項1に記載のフッ化ビニリデン系重合体組成物。
【請求項3】
前記フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物に由来する構成単位と、を含むフッ化ビニリデン系共重合体であり、
前記フッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、前記フッ化ビニリデン系共重合体中の全構成単位に対し、60質量%以上100質量%未満である請求項1又は2に記載のフッ化ビニリデン系重合体組成物。
【請求項4】
前記含フッ素アルキルビニル化合物に由来する構成単位は、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位、及びクロロトリフルオロエチレンに由来する構成単位からなる群より選択される少なくとも1種である請求項3に記載のフッ化ビニリデン系重合体組成物。
【請求項5】
前記フッ化ビニリデン系重合体は、式(1)で示される化合物に由来する構成単位を含む請求項1から4のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系重合体組成物。
【化1】
式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、カルボキシル基、又は炭素数1~5のアルキル基で置換されたカルボキシル基であり、R
3は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、但し、R
2とR
3とは互いに結合して、環を形成してもよく、Xは、単結合であり、又は、Xに結合する2個の結合手を連結する最短の分子鎖中に存在する原子の数が1~20である分子量500以下の原子団であり、Yは、カルボキシル基又は水酸基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非フッ素化界面活性剤を用いたフッ化ビニリデン系重合体組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデンを主原料としたフッ化ビニリデン系重合体粒子を作製する方法として、懸濁重合、乳化重合、ソープフリー乳化重合、ミニエマルション重合、シード乳化重合、及び溶液重合が知られている。このうち、乳化重合は、水等の媒体と媒体に難溶な単量体と乳化剤(界面活性剤)とを混合し、そこに媒体に溶解可能な重合開始剤を加えて重合反応を行うことにより、重合体粒子が媒体に分散したラテックスが得られる重合方法である。この際に乳化剤が適切なものでないと重合反応中あるいは重合終了後に重合体粒子同士が凝集したり、ラテックスの安定性が悪かったりするため、適切な乳化剤を選択することが重要である。
【0003】
フッ化ビニリデン系重合体の乳化重合の場合、安定なラテックスを得るために、乳化剤としてフッ素化界面活性剤が使用されており、中でもパーフルオロオクタン酸(PFOA)が広く使用されている。しかしながら、環境面への配慮からフッ素化界面活性剤の使用を規制する動きがあり、フッ素原子を含有しない界面活性剤が求められている。
【0004】
特許文献1及び2では、ポリエチレングリコールセグメント等を含む非フッ素化界面活性剤を重合体固形分の重量に対して100ppm~2%使用することで、安定なラテックスを得る事ができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5410987号公報
【文献】特許第5112303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、従来技術に基づくラテックスは、使用時に泡立ちが発生しやすいためハンドリング性が悪くなる傾向にあり、従来技術に基づく製造方法では、ラテックスの安定性が悪くなりやすく、また、収率が低い傾向にあることが判明した。
【0007】
本発明は、使用時に泡立ちが発生しにくいためハンドリング性が良好であり、かつ、フッ素化界面活性剤を含有しないフッ化ビニリデン系重合体組成物、及び、良好な重合安定性を保ちつつ、高い収率で、フッ素化界面活性剤を使用せずに、フッ化ビニリデン系重合体を得ることができる、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、ポリエチレングリコールのセグメントとポリプロピレングリコールのセグメントとを含み、所定範囲のHLB値を有する界面活性剤の使用量を従来技術における必須の使用量の下限よりも少なく設定することで、意外にも上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物は、フッ化ビニリデン系重合体と、界面活性剤と、を含有し、
前記界面活性剤は、ポリエチレングリコールのセグメントとポリプロピレングリコールのセグメントとを含み、
前記界面活性剤の含有量は、前記フッ化ビニリデン系重合体組成物中の固形分に対し、質量基準で10ppm以上100ppm未満であり、
前記界面活性剤のHLB値が10以上であり、
但し、前記フッ化ビニリデン系重合体組成物は、フッ素化界面活性剤を含有しない。
【0010】
前記界面活性剤の重量平均分子量が2500以下であることが好ましい。
【0011】
前記フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物に由来する構成単位と、を含むフッ化ビニリデン系共重合体であり、
前記フッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、前記フッ化ビニリデン系共重合体中の全構成単位に対し、60質量%以上100質量%未満であることが好ましい。
【0012】
前記含フッ素アルキルビニル化合物に由来する構成単位は、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位、及びクロロトリフルオロエチレンに由来する構成単位からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記フッ化ビニリデン系重合体は、式(1)で示される化合物に由来する構成単位を含むことが好ましい。
【化1】
【0014】
式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、カルボキシル基、又は炭素数1~5のアルキル基で置換されたカルボキシル基であり、R3は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、但し、R2とR3とは互いに結合して、環を形成してもよく、Xは、単結合であり、又は、Xに結合する2個の結合手を連結する最短の分子鎖中に存在する原子の数が1~20である分子量500以下の原子団であり、Yは、カルボキシル基又は水酸基である。
【0015】
本発明に係る、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、水系の媒体中、乳化剤及び開始剤の存在下で、単量体を乳化重合することを含み、但し、フッ素化界面活性剤を使用せず、
前記単量体は、フッ化ビニリデンを含み、含フッ素アルキルビニル化合物及び上記式(1)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み又は含まず、
前記乳化剤は、ポリエチレングリコールのセグメントとポリプロピレングリコールのセグメントとを含む界面活性剤であり、
前記乳化剤の使用量は、前記単量体に対し、質量基準で8.5ppm以上100ppm未満である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用時に泡立ちが発生しにくいためハンドリング性が良好であり、かつ、フッ素化界面活性剤を含有しないフッ化ビニリデン系重合体組成物、及び、良好な重合安定性を保ちつつ、高い収率で、フッ素化界面活性剤を使用せずに、フッ化ビニリデン系重合体を得ることができる、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[フッ化ビニリデン系重合体組成物]
本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物は、フッ化ビニリデン系重合体と、界面活性剤と、を含有する。以下、上記組成物が含有する成分について説明する。なお、上記組成物は、環境負荷低減等の観点から、フッ素化界面活性剤を含有しない。
【0018】
(フッ化ビニリデン系重合体)
フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を含む限り、特に限定されず、フッ化ビニリデンに由来する構成単位のみからなるフッ化ビニリデン系重合体であっても、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、フッ化ビニリデンと共重合し得る化合物に由来する構成単位と、を含むフッ化ビニリデン系共重合体であってもよい。フッ化ビニリデン系重合体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
フッ化ビニリデンと共重合し得る化合物としては、特に限定されず、例えば、含フッ素アルキルビニル化合物、式(1)で示される化合物が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合し得る化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
【0021】
式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、カルボキシル基、又は炭素数1~5のアルキル基で置換されたカルボキシル基であり、R3は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、但し、R2とR3とは互いに結合して、環を形成してもよく、Xは、単結合であり、又は、Xに結合する2個の結合手を連結する最短の分子鎖中に存在する原子の数が1~20である分子量500以下の原子団であり、Yは、カルボキシル基又は水酸基である。
【0022】
含フッ素アルキルビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられ、フッ化ビニリデンとの共重合性の観点から、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、及びクロロトリフルオロエチレンが好ましい。
【0023】
上記R1、R2、及びR3について、炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基等が挙げられる。R1は、水素原子、メチル基、又はメトキシカルボニル基であることが好ましく、水素原子又はメトキシカルボニル基であることがより好ましい。R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0024】
上記Xに結合する2個の結合手を連結する最短の分子鎖中に存在する原子の数は、1~20であり、好ましくは1~14であり、より好ましくは1~9である。このような分子鎖を構成する原子としては、例えば、炭素原子及びヘテロ原子等が挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子が挙げられ、フッ化ビニリデンとの共重合性の観点から、酸素原子が好ましい。具体的には、例えば、式(1)で示される化合物がアクリロイロキシエチルコハク酸である場合、Xは、-CO-O-(CH2)2-O-CO-(CH2)2-で表されることから、上記Xに結合する2個の結合手を連結する最短の分子鎖は、-C-O-C-C-O-C-C-C-で表され、当該分子鎖中に存在する原子の数は、8である。このように、当該分子鎖中に存在する原子の数には、当該分子鎖中に存在する原子に側鎖として結合する水素原子、オキソ基(即ち、=O)、その他の置換基中の原子の数は含まれない。なお、上記側鎖を構成する原子としては、例えば、炭素原子、水素原子、及びヘテロ原子等が挙げられる。上記側鎖を構成するヘテロ原子は、上記分子鎖を構成するヘテロ原子と同様である。
【0025】
上記Xが上記原子団である場合、上記原子団の分子量は、500以下であり、好ましくは495である。上記原子団の分子量の下限は、特に限定されず、例えば、14以上でよい。
【0026】
式(1)で示される化合物としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、フタル酸、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、フタル酸モノメチル、フタル酸モノエチル、アクリロイロキシプロピルコハク酸、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸、N-カルボキシエチルアクリルアミド、N-カルボキシエチルメタクリルアミド、カルボキシエチルチオアクリレート、カルボキシエチルチオメタクリレート、ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられ、フッ化ビニリデンとの共重合性の観点から、アクリル酸、マレイン酸モノメチル、アクリロイロキシプロピルコハク酸、及びアクリロイロキシエチルコハク酸が好ましい。
【0027】
フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、フッ化ビニリデンと共重合し得る化合物に由来する構成単位と、を含むフッ化ビニリデン系共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物に由来する構成単位と、を含むフッ化ビニリデン系共重合体であり、
前記フッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、前記フッ化ビニリデン系共重合体中の全構成単位に対し、60質量%以上100質量%未満であるものが挙げられる。上記含有量は、63質量%以上97質量%以下でもよく、65質量%以上95質量%以下でもよい。
【0028】
他に、上記共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、式(1)で示される化合物に由来する構成単位と、を含むフッ化ビニリデン系共重合体;フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物に由来する構成単位と、式(1)で示される化合物に由来する構成単位と、を含むフッ化ビニリデン系共重合体も挙げられる。これらのフッ化ビニリデン系共重合体において、フッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、上述と同様でよい。また、これらのフッ化ビニリデン系共重合体において、式(1)で示される化合物に由来する構成単位の含有量は、前記フッ化ビニリデン系共重合体中の全構成単位に対し、0質量%超1質量%以下でよく、0.01質量%以上1質量%以下でもよく、0.02質量%以上0.5質量%以下でもよい。
【0029】
(界面活性剤)
本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物において、界面活性剤は、例えば、上記フッ化ビニリデン系重合体を製造する際に用いた乳化剤に由来するものである。界面活性剤は、ポリエチレングリコールのセグメントとポリプロピレングリコールのセグメントとを含む限り、特に限定されず、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよく、硬水中、金属塩溶液中、酸溶液中、又はアルカリ溶液中等での界面活性能の高さ、泡立ち性の低さ、臨界ミセル濃度の低さ、コストの低さ、入手容易性の高さ等の観点から、非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられ、取り扱い性等の観点から、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルが好ましい。界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
界面活性剤の含有量は、フッ化ビニリデン系重合体組成物中の固形分に対し、質量基準で10ppm以上100ppm未満であり、好ましくは15ppm以上90ppm以下であり、より好ましくは20ppm以上80ppm以下である。上記含有量が10ppm未満であるフッ化ビニリデン系重合体組成物は、製造時に良好な重合安定性を確保しにくく、製造することが困難となりやすい。上記含有量が100ppm超であると、得られるフッ化ビニリデン系重合体組成物は、製造時には重合安定性が悪くなる傾向にあり、使用時には泡立ちが発生しやすいためハンドリング性が悪くなる傾向にある。
【0031】
なお、本明細書において、フッ化ビニリデン系重合体組成物中の固形分とは、フッ化ビニリデン系重合体組成物を80℃で3時間乾燥させて残存する成分をいう。フッ化ビニリデン系重合体組成物中の固形分の濃度は、特に限定されず、該組成物のハンドリング性、安定性等の観点から、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは7~35質量%であり、更により好ましくは8~30質量%である。
【0032】
本明細書において、界面活性剤のHLB値とは、グリフィン法で算出したHLB値をいう。一般に、乳化重合に用いる界面活性剤の、グリフィン法で算出したHLB値は、該乳化重合によりw/o型エマルションを得る場合、0以上10以下であることが好ましく、該乳化重合によりo/w型エマルションを得る場合、10以上20以下であることが好ましい。本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物は、製造時に良好な重合安定性を確保しつつ、o/w型エマルションの形態で得やすいことから、界面活性剤のHLB値は10以上(即ち、10以上20以下)であり、好ましくは10以上18以下である。
【0033】
前記界面活性剤の重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう。)は2500以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1700以下であることがより好ましい。上記重量平均分子量が2500以下であると、界面活性剤の水溶液は、粘度が低くなりやすいため取り扱いがより容易になる。また、上記重量平均分子量が2500以下であると、界面活性剤の臨界ミセル濃度が小さくなる傾向にあり、得られるフッ化ビニリデン系重合体粒子表面への界面活性剤の濡れ性が向上しやすいため、該重合体粒子の凝集を抑制しやすい。前記界面活性剤の臨界ミセル濃度は、ポリエチレングリコールセグメントの付加モル数が小さくなるとともに低下する。更に、前記界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度よりも小さく、かつ、臨界ミセル濃度に近いほど、前記界面活性剤は、表面張力を低下させる能力が顕著に発現する。そのため、前記界面活性剤の臨界ミセル濃度が小さいほど、前記界面活性剤の含有量が100ppm未満でもフッ化ビニリデン共重合体粒子表面への濡れ性が向上しやすい。本明細書において、臨界ミセル濃度とは、横軸を界面活性剤濃度とし、縦軸を表面張力として、Wilhelmy法で測定した表面張力をプロットしたときに、界面活性剤の濃度によらず表面張力が変化しない高濃度側の領域Aにおけるプロットに対する近似直線Aと、領域Aよりも低濃度側であり領域Aに隣接する領域Bにおけるプロットに対する近似直線Bとの交点における界面活性剤濃度をいう。25℃における界面活性剤の臨界ミセル濃度は、例えば、エマルゲンLS-106で0.001質量%、エマルゲンLS-110で0.002質量%、エマルゲンLS-114で0.004質量%、プルロニック31R1で1質量%、プルロニック25R2で10質量%以上、プルロニックL101で0.008質量%である。上記重量平均分子量の下限は、特に限定されず、例えば、200以上でよく、300以上でも、500以上でも、1000以上でもよい。
【0034】
本明細書において、界面活性剤の重量平均分子量とは、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定された標準ポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。なお、界面活性剤の重量平均分子量は、当該界面活性剤の水酸基価から以下の式によって算出することもできる。ここで、水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であり、例えば、JIS K 0070に準拠して測定することができる。
重量平均分子量=(56.1×1000/水酸基価)×界面活性剤1分子あたりの平均水酸基数
【0035】
界面活性剤の水酸基価は、界面活性剤1分子あたりの平均水酸基数が1である非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルの場合、20mgKOH/g以上であることが好ましく、25mgKOH/g以上であることがより好ましく、30mgKOH/g以上であることが更により好ましい。また、界面活性剤の水酸基価は、界面活性剤1分子あたりの平均水酸基数が2である非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの場合、40mgKOH/g以上であることが好ましく、45mgKOH/g以上であることがより好ましく、50mgKOH/g以上であることが更により好ましい。上記水酸基価が上記範囲であると、上記界面活性剤は、重量平均分子量が好ましい範囲になり、粘度が低くなりやすいため取り扱いがより容易になり、また、得られるフッ化ビニリデン系重合体粒子表面への界面活性剤の濡れ性が向上しやすいため、該重合体粒子の凝集を抑制しやすい。
【0036】
界面活性剤の具体例としては、取り扱い性、入手容易性、価格面等の観点から、「エマルゲンLS-100」シリーズ(花王株式会社製)が挙げられ、より具体的には、LS-110、LS-106、LS-114等が挙げられる。
【0037】
(他の成分)
本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物は、本発明の効果を損なわない限り、フッ化ビニリデン系重合体及び界面活性剤以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含有してもよい。他の成分としては、例えば、pH調整剤、沈降防止剤、分散安定剤、湿潤剤、防カビ剤、腐食防止剤が挙げられる。なお、フッ化ビニリデン系重合体組成物中のフッ化ビニリデン系重合体を本発明に係る後述の製造方法で得た場合、フッ化ビニリデン系重合体組成物は、未反応のまま残った開始剤を含有してもよく、適宜、当該開始剤を上記組成物から除去してもよい。
【0038】
[フッ化ビニリデン系重合体の製造方法]
本発明に係る、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法としては、懸濁重合、乳化重合、ソープフリー乳化重合、ミニエマルション重合、シード乳化重合、溶液重合等が挙げられ、その中でも、乳化重合、ミニエマルション重合、及びシード乳化重合が特に好ましい。
【0039】
懸濁重合とは、懸濁剤等を含む水中で油溶性の重合開始剤を非水溶性のモノマーに溶かし、これを機械的撹拌により懸濁及び分散させて行われる重合方法である。懸濁重合では、モノマー液滴中で重合が進行することで、フッ化ビニリデン系重合体粒子が得られる。
【0040】
乳化重合とは、ラジカル重合の一種であり、水等の媒体と、媒体に難溶な単量体と乳化剤とを混合し、そこに媒体に溶解可能な重合開始剤を加えて行う重合方法である。乳化重合において、フッ化ビニリデン及び他の化合物の他に、分散媒、界面活性剤、及び重合開始剤が用いられる。
【0041】
ソープフリー乳化重合とは、上記乳化重合を行う際に用いるような通常の乳化剤を用いることなく行われる乳化重合である。ソープフリー乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン系重合体粒子は、乳化剤が重合体粒子内に残存しない。
【0042】
ミニエマルション重合とは、超音波発振器等を用いて強いせん断力をかけることで単量体液滴をサブミクロンサイズまで微細化して行われる重合である。ミニエマルション重合では、微細化された単量体液滴を安定化させるために、ハイドロホープという難水溶性物質を添加する。理想的なミニエマルション重合では、単量体液滴が重合することで、それぞれフッ化ビニリデン系重合体の微粒子となる。
【0043】
シード乳化重合とは、上記のような重合方法で得られた微粒子を他の単量体からなる重合体で被覆する重合である。微粒子の分散液に、更にフッ化ビニリデン及び他の単量体と、分散媒、界面活性剤、重合開始剤等が用いられる。
【0044】
溶液重合とは、単量体を溶媒に溶解した単量体溶液を作製し、ここに溶解可能な重合開始剤を加えて行われる重合である。多くの場合、溶媒としては、単量体及び重合開始剤と反応しにくいものが用いられる。
【0045】
本発明に係る、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、水系の媒体中、乳化剤及び開始剤の存在下で、単量体を乳化重合することを含み、但し、フッ素化界面活性剤を使用せず、
前記単量体は、フッ化ビニリデンを含み、含フッ素アルキルビニル化合物及び上記式(1)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み又は含まず、
前記乳化剤は、ポリエチレングリコールのセグメントとポリプロピレングリコールのセグメントとを含む界面活性剤であり、
前記乳化剤の使用量は、前記単量体に対し、質量基準で8.5ppm以上100ppm未満である。上記製造方法により、フッ化ビニリデン系重合体を、本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物中の成分として、得ることができる。上記製造方法によれば、85%以上の高い収率でフッ化ビニリデン系重合体を得ることが容易である。
【0046】
上記水系の媒体としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、入手容易性、取り扱い性、環境負荷等の観点から、水を用いることが好ましい。
【0047】
乳化剤としては、フッ化ビニリデン系重合体組成物に関する記載中で説明した界面活性剤と同様である。乳化剤の使用量は、前記単量体に対し、質量基準で8.5ppm以上100ppm未満である。このように設定することにより、85~100%の収率でフッ化ビニリデン系重合体を得た場合に、得られたフッ化ビニリデン系重合体組成物中の界面活性剤の含有量を、前記フッ化ビニリデン系重合体組成物中の固形分に対し、質量基準で10ppm以上100ppm未満の範囲とすることができる。乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0048】
開始剤としては、特に限定されず、例えば、水溶性過酸化物、水溶性アゾ系化合物、又はレドックス系開始剤が挙げられる。水溶性過酸化物としては、例えば、過硫化アンモニウム、過硫化カリウム等が挙げられる。水溶性アゾ系化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスメチルブチロニトリル(AMBN)等が挙げられる。レドックス系開始剤としては、例えば、アスコルビン酸-過酸化水素等が挙げられる。開始剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。開始剤の使用量は、前記単量体の総量を100質量部とすると、0.01~5質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましい。
【0049】
単量体は上述の通りであり、各単量体の使用量は、本発明に係る製造方法によって得ようとするフッ化ビニリデン系重合体における各構成単位の比に応じて、適宜、調整すればよい。
【0050】
本発明に係る製造方法では、得られるフッ化ビニリデン系重合体の重合度を調節するために、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジエチル、アセトン、エタノール、n-プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素等が挙げられる。
【0051】
本発明に係る製造方法では、必要に応じてpH調整剤を用いてもよい。pH調整剤としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム等の、緩衝能を有する電解質物質;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等の塩基性物質が挙げられる。
【0052】
本発明に係る製造方法では、必要に応じて沈降防止剤、分散安定剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等の他の任意成分を用いてもよい。
【0053】
この任意成分の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部とすると、5ppm(質量基準)~10質量部であることが好ましく、10ppm(質量基準)~7質量部であることがより好ましい。
【0054】
乳化重合を行う際の、重合温度、重合時間等の重合条件は、特に限定されず、例えば、公知の重合条件を採用してもよい。重合温度は、重合開始剤の種類等によって、適宜選択すればよく、例えば、0~120℃、好ましくは20~110℃、より好ましくは40~100℃に設定すればよい。重合時間は、特に制限されず、生産性等を考慮すると、1~24時間であることが好ましい。
【0055】
本発明に係る製造方法によれば、水系の媒体が水である場合、水中にフッ化ビニリデン系重合体粒子が略均一に分散されたラテックスが得られる。このようにして得られたラテックスは、そのまま使用してもよい。当該ラテックスを塩析、凍結粉砕、スプレードライ、及びフリーズドライ等から選ばれる少なくとも1種の方法で粉体化して使用してもよい。粉体化したフッ化ビニリデン系重合体を、分散媒に物理的又は化学的に再分散させて使用してもよい。未処理のラテックスに、水、界面活性剤、pH調整剤、沈降防止剤、分散安定剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等を添加してもよいし、未処理のラテックスから、透析膜又はイオン交換樹脂等によって不純物を除去してもよい。
【0056】
[フッ化ビニリデン系重合体組成物の用途]
1.非水電解質二次電池用樹脂組成物
本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物は、例えば、非水電解質二次電池用樹脂組成物に用いることができる。本発明の非水電解質二次電池用樹脂組成物(以下、「二次電池用樹脂組成物」とも称する)は、少なくとも上述のフッ化ビニリデン系重合体組成物を含んでいればよく、フッ化ビニリデン系重合体組成物のみからなるものであってもよく、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、水溶性高分子やフィラー、溶媒(分散媒)、各種添加剤等を含むものであってもよい。また、二次電池用樹脂組成物は、粉体状であってもよく、液体状(例えばコロイド状等)であってもよく、塊状(例えばクラム状等)等であってもよい。
【0057】
上述のフッ化ビニリデン系重合体組成物は、上述のフッ化ビニリデン系重合体を含有することから、二次電池用樹脂組成物は、当該フッ化ビニリデン系重合体を含む。二次電池用樹脂組成物が含むフッ化ビニリデン系重合体の量は、二次電池用樹脂組成物の用途に応じて適宜選択されるが、例えば二次電池用樹脂組成物の固形分の総量に対して0.1質量%以上とすることができる。二次電池用樹脂組成物の固形分中に、フッ化ビニリデン系重合体が0.1質量%以上含まれると、二次電池用樹脂組成物から得られる層の強度が十分に高くなりやすく、非水電解質二次電池の構成材料に対する接着強度が十分になりやすい。なお、本明細書では、二次電池用樹脂組成物から溶媒もしくは分散媒を除いた成分を「二次電池用樹脂組成物の固形分」と称する。
【0058】
1-1.フッ化ビニリデン系重合体組成物
本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物は、上述の通りである。ここで、二次電池用樹脂組成物中でのフッ化ビニリデン系重合体の形状は特に制限されず、例えば溶媒に溶解していてもよいが、二次電池用樹脂組成物中に粒子状の状態(一次粒子又は二次粒子)で含まれていてもよい。また、二次電池用樹脂組成物中でフッ化ビニリデン系重合体が固形の状態(例えば粒子状)である場合、その平均粒子径は、二次電池用樹脂組成物の用途や、フッ化ビニリデン系重合体がどのような状態で二次電池用樹脂組成物に含まれているかによって、適宜選択することができる。例えば、二次電池用樹脂組成物が分散媒を含み、フッ化ビニリデン系重合体が当該分散媒に分散されている場合、フッ化ビニリデン系重合体は主に一次粒子となっていることが多い。その場合の平均粒子径(平均一次粒子径)は、10nm~700nmであることが好ましく、20nm~600nmであることがより好ましく、30nm~500nmであることが更に好ましい。当該平均一次粒子径は、動的光散乱法の正則化解析によって算出される。具体的には、JIS Z8828に準拠して測定される。また、正則化解析によって得られる大小2つのピークのうち、大きいピークを平均一次粒子径とする。
【0059】
一方、二次電池用樹脂組成物が粉体状である場合等には、フッ化ビニリデン系重合体が二次粒子となっていることが多い。その場合の平均粒子径(平均二次粒子径)は、30μm~200μmであることが好ましく35μm~190μmであることがより好ましく、40μm~180μmであることが更に好ましい。平均二次粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定し、その粒度分布の累積平均径(d50)から算出される。
【0060】
1-2.その他の成分
二次電池用樹脂組成物は、フッ化ビニリデン系重合体以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよく、その例には、水溶性高分子やフィラー、溶媒(分散媒)及び各種添加剤等が含まれる。
【0061】
二次電池用樹脂組成物が、水溶性高分子を含むと、二次電池用樹脂組成物の粘度が調整されたり、二次電池用樹脂組成物の固形分の分散性が向上したりする。水溶性高分子の例には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース化合物;上記セルロース化合物のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸;ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸及びフマル酸等の不飽和カルボン酸と、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルブチラール又はビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマー等が含まれる。これらの中でも、セルロース化合物及びその塩が好ましい。二次電池用樹脂組成物は、水溶性高分子を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0062】
水溶性高分子の量は、特に限定されるものではないが、一例において、二次電池用樹脂組成物の固形分の総量に対して0.01~20質量%とすることができる。
【0063】
二次電池用樹脂組成物がフィラーを含むと、二次電池用樹脂組成物から得られる層の耐熱性やイオン透過性を向上させることができる。フィラーは、無機フィラーであってもよく、有機フィラーであってもよいが、二次電池用樹脂組成物から得られる層の耐熱性等の観点から無機フィラーが好ましい。無機フィラーの例には、二酸化ケイ素(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、二酸化チタン(TiO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウム(BaTiO3)等の酸化物;水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))等の水酸化物;炭酸カルシウム(CaCO3)等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化物;粘土鉱物;及びベーマイト等が含まれる。二次電池用樹脂組成物は、フィラーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。二次電池の安全性や、二次電池用樹脂組成物の安定性の観点から、フィラーとして、アルミナ、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛及びベーマイトを含むことが好ましい。
【0064】
フィラーの平均粒子径は、5nm~2μmであることが好ましく、10nm~1μmであることがより好ましい。平均粒子径は、JIS Z8828に準拠して測定される。ここで、フィラーの量は、二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン系重合体の総量に対して10~900質量%であることが好ましい。
【0065】
二次電池用樹脂組成物は、フッ化ビニリデン系重合体等を分散させるための分散媒を含んでいてもよい。分散媒は水であることが好ましいが、フッ化ビニリデン系重合体を溶解せず、分散、懸濁、又は乳化し得る非水溶媒も好ましく用いることができる。非水溶媒の例には、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;トルエン、キシレン、n-ドデカン、テトラリン等の炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン化合物;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物等が挙げられる。これらの水又は非水溶媒を単独で用いてもよく、水とこれら非水溶媒とを混合した混合溶媒としてもよい。このとき、非水溶媒を二種以上組み合わせてもよい。
【0066】
二次電池用樹脂組成物は、フッ化ビニリデン系重合体を溶解させるための溶媒を含んでいてもよい。この場合、溶媒は例えばN-メチルピロリドンであることが好ましいが、フッ化ビニリデン系重合体の少なくとも一部を溶解し、フィラーを溶解せず分散、懸濁、又は乳化し得る溶媒であれば、特に限定されるものではない。これらの溶媒は一種のみからなるものであってもよく、溶媒を二種以上混合した混合溶媒であってもよい。
【0067】
分散媒もしくは溶媒を用いる場合、二次電池用樹脂組成物中の分散媒もしくは溶媒の量は、フッ化ビニリデン系重合体100質量部に対して、60~3500質量部であることが好ましい。また、溶媒(分散媒)の量は、特に制限されないが、二次電池用樹脂組成物の総量に対して30~99質量%であることが好ましく、35~98質量部であることがより好ましい。
【0068】
また、各種添加剤の例には、分散安定剤、pH調整剤、増粘剤、沈降防止剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等が含まれる。これら各種添加剤は公知の化合物を用いることができる。分散安定剤の例には、上述の界面活性剤(上述のフッ化ビニリデン系重合体の調製時に用いる乳化剤)等が含まれる。pH調整剤の例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸二水素カリウム等の緩衝能を有する電解質物質や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等の塩基性物質等が挙げられる。これらの量は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で適宜選択される。
【0069】
1-3.二次電池用樹脂組成物の製造方法、及び二次電池用樹脂組成物の用途
上述の二次電池用樹脂組成物は、本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物と、必要に応じて他の成分とを混合することで、調製することができる。これらの混合方法は特に制限されず、公知の方法で混合することができる。
【0070】
例えば、二次電池用樹脂組成物において、フッ化ビニリデン系重合体(粒子)が分散媒に分散されている状態とする場合、上述の乳化重合法によって得られたフッ化ビニリデン系重合体粒子及び分散媒をそのまま二次電池用樹脂組成物として使用してもよい。あるいは、上記乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン系重合体粒子を粉体化してから、必要に応じて他の成分等と混合し、別途容易した分散媒に、物理的又は化学的に再分散させて二次電池用樹脂組成物としてもよい。粉体化の方法としては、例えば、塩析、凍結粉砕、スプレードライ、及びフリーズドライ等の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
一方、二次電池用樹脂組成物において、フッ化ビニリデン系重合体が溶媒に溶解している場合、上記乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン系重合体粒子を、粉体化してから溶媒に溶解させ、二次電池用樹脂組成物としてもよい。粉体化方法としては、上記と同様の方法とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
また、二次電池用樹脂組成物が粉体である場合、上記乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン系重合体粒子を粉体化したものをそのまま二次電池用樹脂組成物としてもよく、必要に応じて他の成分等と混合し、これを二次電池用樹脂組成物としてもよい。粉体化方法としては、上記と同様の方法とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
2.非水電解質二次電池用セパレータ
本発明の非水電解質二次電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」とも称する)は、セパレータ膜と、当該セパレータ膜の少なくとも一方の表面に配置された樹脂層とを含み、樹脂層が、上述の二次電池用樹脂組成物の固形分を少なくとも含む。ただし、樹脂層自体がセパレータとしての機能を担うことができる場合には、セパレータがセパレータ膜を含まなくてもよい。
【0074】
2-1.セパレータ膜
セパレータ膜は、電気的に安定であり、電気伝導性を有していない膜とすることができる。当該セパレータには、内部に空孔又は空隙を有する多孔質基材が用いられ、イオン透過性に優れる多孔質基材であることが好ましい。このような多孔質基材の例には、ポリオレフィン系高分子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系高分子(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド系高分子(例えば、芳香族ポリアミド系高分子、ポリエーテルイミド等)、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、セラミックス等、及びこれらの少なくとも2種の混合物からなる単層又は多層の多孔膜;不織布;ガラス;並びに紙等が含まれる。なお、上記ポリマーは変性物とされていてもよい。
【0075】
セパレータ膜の材料としては、ポリオレフィン系高分子(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)が好ましく、シャットダウン機能の観点からポリエチレンを含むことがより好ましく、シャットダウン機能と耐熱性の両立の観点から95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが更に好ましい。
【0076】
ポリオレフィン系高分子からなるセパレータ膜には、セルガード(登録商標、ポリポア株式会社製)として市販されている、単層ポリプロピレンセパレータ、単層ポリエチレンセパレータ、及びポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータが含まれる。
【0077】
また、セパレータ膜(多孔質基材)の厚さは、力学特性及び内部抵抗の観点から、3μm以上25μm以下であることが好ましく、5μm以上25μmであることがより好ましい。
【0078】
セパレータ膜(多孔質基材)の表面は、樹脂層との密着性(もしくは上述の二次電池用樹脂組成物の濡れ性)を向上させる目的で、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、又は紫外線照射処理等が施されていてもよい。
【0079】
2-2.樹脂層
樹脂層は、上述の二次電池用樹脂組成物の固形分を含んでいればよく、必要に応じて他の成分を更に含んでいてもよい。樹脂層は、セパレータの強度を高めるための層であってもよく、セパレータと電極とを結着するための層であってもよく、これらの機能を同時に担う層であってもよい。当該樹脂層内で、上述のフッ化ビニリデン系重合体は、粒子状であってもよく、膜状(多孔質膜を含む)であってもよく、溶媒を含むゲル状であってもよい。
【0080】
樹脂層中のフッ化ビニリデン系重合体の量は、10質量%以上100質量%以下であることが好ましい。フッ化ビニリデン系重合体の量が当該範囲であると、樹脂層とセパレータ膜との接着性が高まったり、樹脂層と電極との接着性が高まったり、セパレータの強度が高まったり、樹脂層自体の強度が高まったりしやすくなる。樹脂層の厚みは、樹脂層の機能に応じて適宜選択され、特に限定されるものではない。
【0081】
樹脂層の形成方法は特に制限されず、例えば前述の二次電池用樹脂組成物が液状である(溶媒や分散媒を含む)場合には、当該二次電池用樹脂組成物を塗布し、溶媒や分散媒を乾燥させることにより形成することができる。なお、必要に応じて、二次電池用樹脂組成物に任意の成分を添加し、これを塗布してもよい。一方、二次電池用樹脂組成物が粉体状あるいは塊状である場合等には、当該二次電池用樹脂組成物を溶媒(分散媒)や必要に応じて他の成分と混合し、当該混合液を塗布する。そして、塗膜から溶媒(分散媒)を乾燥させることにより形成することができる。これらの塗布方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法及びディップコート法等を適用することができる。
【0082】
また、二次電池用樹脂組成物からなる樹脂層を乾燥させる場合、樹脂層中の溶媒(分散媒)の少なくとも一部を除去できる程度に行うことが好ましい。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよいし、乾燥の際には、圧力を印加してもよい。乾燥後に更に熱処理を行ってもよい。例えば、乾燥温度は、40~150℃であることが好ましく、45~130℃であることがより好ましく、乾燥時間は、1分~15時間とすることができる。
【0083】
樹脂層は、負極層と正極層との間に設けられるセパレータの少なくとも一方の面に配置されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。
【0084】
3.非水電解質二次電池用電極
本発明の二次電池用電極は、集電体と、当該集電体上に配置された電極合剤層とを含み、当該電極合剤層が、後述の電極合剤層用樹脂組成物の固形分を少なくとも含んでいればよい。また、当該二次電池用電極は、正極用であってもよく、負極用であってもよい。
【0085】
3-1.集電体
負極及び正極用の集電体は、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属鋼等を用いることができる。また、他の媒体の表面に上記金属箔あるいは金属鋼等を施したものであってもよい。
【0086】
3-2.電極合剤層用樹脂組成物及び電極合剤層
一方、電極合剤層は、上述の二次電池用樹脂組成物を電極活物質と混合して、電極合剤層用樹脂組成物を調製し、当該電極合剤層用樹脂組成物を集電体上に塗布し、乾燥させた層とすることができる。電極合剤層は、上記集電体の一方の面のみに形成されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。
【0087】
ここで、電極合剤層は、集電体と活物質とを結着するための層であってもよく、活物質同士を結着するための層であってもよく、活物質と他の成分とを結着するための層であってもよく、二次電池用電極と上述のセパレータとを結着するための層であってもよい。当該電極合剤層において、上述の二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン系重合体は粒子状であってもよく、膜状(多孔質膜を含む)であってもよく、溶媒を含んだゲル状であってもよい。
【0088】
電極合剤層は、例えば上述の二次電池用樹脂組成物の固形分と、電極活物質とを含んでいればよく、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、導電助剤や固体電解質、顔料分散剤、接着補助剤等が挙げられる。
【0089】
電極合剤層の総量に対する、フッ化ビニリデン系重合体の量は、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。フッ化ビニリデン系重合体の量が当該範囲であると、例えば電極合剤層と集電体との接着性が良好になりやすい。
【0090】
電極合剤層が含む電極活物質は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の負極用の電極活物質(負極活物質)又は正極用の電極活物質(正極活物質)を用いることができる。
【0091】
上記負極活物質としては、例えば、人工黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、活性炭、又はフェノール樹脂及びピッチ等を焼成炭化したもの等の炭素材料;Cu、Li、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr及びY等の金属・合金材料;並びにGeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2等の金属酸化物等が挙げられる。なお、負極活物質は、市販品であってもよい。
【0092】
一方、正極用の活物質としては、少なくともリチウムを含むリチウム系正極活物質が好ましい。リチウム系正極活物質の例には、LiCoO2、LiNixCo1-xO2(0<x≦1)等の一般式LiMY2(Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、及びV等の遷移金属のうち1種又は2種以上、Yは、O及びS等のカルコゲン元素)で表わされる複合金属カルコゲン化合物;LiMn2O4等のスピネル構造をとる複合金属酸化物;及びLiFePO4等のオリビン型リチウム化合物;等が含まれる。なお、正極活物質は、市販品であってもよい。
【0093】
また、導電助剤は、電極活物質同士、又は電極活物質と集電体との間の導電性をより高めることができる化合物であれば特に制限されない。導電助剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及びカーボンファイバー等が含まれる。
【0094】
導電助剤の量は、その種類や電池の種類に応じて任意に設定できる。導電性の向上及び導電助剤の分散性をともに高める観点から、一例において、電極活物質、フッ化ビニリデン系重合体、及び導電助剤の合計量に対して、0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。
【0095】
固体電解質は、イオン伝導性を有する固形状の化合物であれば特に限定されるものではなく、従来公知の無機固体電解質及び高分子固体電解質を用いることができる。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、窒化物系固体電解質、錯体水素化物固体電解質等が含まれる。また、高分子固体電解質としては、例えば、ゲル系電解質や真性ポリマー電解質等が含まれる。
【0096】
酸化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、ペロブスカイト型のLLTO、ガーネット型のLLZ、NASICON型の化合物、LISICON型の化合物、LIPON型の化合物、β-アルミナ型の化合物等が挙げられる。具体例には、Li3PO4、Li0.34La0.51TiO3、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li2.9PO3.3N0.46、Li4.3Al0.3Si0.7O4、50Li4SiO4-50Li3BO3、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3-0.05Li2O等が含まれる。
【0097】
硫化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、LGPS型の化合物、アルジロダイト型の化合物、非晶質系の化合物、Li-P-S系の化合物等が挙げられる。具体例には、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、0.03Li3PO4-0.59Li2S-0.38SiS2、57Li2S-38SiS2-5Li3PO4、70Li2S-30P2S5、Li7P3S11等が含まれる。
【0098】
窒化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、具体的にはLiN3等が挙げられる。
【0099】
錯体水素化物固体電解質としては、これに限定されるものではないが、具体的にはLiBH4等が挙げられる。
【0100】
ゲル系電解質としては、これに限定されるものではないが、具体例にはPoly(ethylene oxide)8-LiClO4(エチレンカーボネート(EC)+プロピレンカーボネート(PC))、Poly(ethylene oxide)8-LiClO4(PC)、Poly(vinylidene fluoride)-LiN(CF3SO2)2(EC+PC)、Poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)-LiPF6(EC+ジエチルカーボネート(DEC)+ジメチルカーボネート(DMC))、Poly(ethylene glycol acrylate)-LiClO4(PC)、Poly(acrylonitrile)-LiClO4(EC+PC)Poly(methyl methacrylate)-LiClO4(PC)等が含まれる。
【0101】
真性ポリマー電解質としては、これに限定されるものではないが、具体例にはPoly(ethylene oxide)8-LiClO4、Poly(oxymethylene)-LiClO4、Poly(propylene oxide)8-LiClO4、Poly(dimethyl siloxane)-LiClO4、Poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)-LiTFSI、Poly(2,2-dimethoxypropylene carbonate)-LiFSI、Poly[(2-methoxy)ethylglycidyl ether]8-LiClO4等が含まれる。
【0102】
これらの固体電解質は、上記電解質を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0103】
顔料分散剤の例には、ポリビニルピロリドン等が含まれる。接着補助剤の例には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイミド、カルボキシメチルセルロース等のセルロース化合物、セルロース化合物のアンモニウム塩及びアルカリ金属塩等が含まれる。これらの量は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0104】
その他の樹脂の例には、上述のフッ化ビニリデン系重合体以外のフッ化ビニリデン系重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、及びポリアクリロニトリル(PAN)等が含まれる。上記他の樹脂の含有量は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0105】
ここで、電極合剤層の厚みは特に限定されるものではなく、任意の厚みとすることができる。電極では、電極合剤層が、上述のセパレータと接するように設けられていてもよい。
【0106】
上記電極合剤層は、上述の二次電池用樹脂組成物や電極活物質を、必要に応じて溶媒(分散媒)や増粘剤と混合した電極合剤層用樹脂組成物を、集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。
【0107】
溶媒(分散媒)としては特に限定はされるものではないが、二次電池用樹脂組成物で説明した溶媒(分散媒)を用いることができる。これらの溶媒(分散媒)は、一種のみを含んでいてもよく、二種以上を含んでいてもよい。
【0108】
また、増粘剤は公知の化合物を用いることができ、その量は、電極合剤層用樹脂組成物の粘度に合わせて適宜選択される。
【0109】
電極合剤層の形成方法は特に制限されず、例えば前述の二次電池用樹脂組成物が液状である(溶媒や分散媒を含む)場合には、二次電池用樹脂組成物に電極活物質を混合したものを電極合剤層用樹脂組成物とし、これを塗布・乾燥させて電極合剤層を形成してもよい。なお、必要に応じて、二次電池用樹脂組成物及び電極活物質以外に任意の成分を添加し、これを塗布してもよい。一方、二次電池用樹脂組成物が粉体状あるいは塊状である場合等には、当該二次電池用樹脂組成物及び電極活物質を溶媒(分散媒)や必要に応じて他の成分と混合して電極合剤層用樹脂組成物を調製する。そして、当該電極合剤層用樹脂組成物を塗布・乾燥させることにより電極合剤層を形成することができる。これらの塗布方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法及びディップコート法等を適用することができる。また、電極合剤層用樹脂組成物の塗布後、任意の温度で加熱し、溶媒を乾燥させることが一般的である。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよい。乾燥の際には、圧力を印加してもよい。乾燥後に更に熱処理を行ってもよい。熱処理は、一例において、100℃以上300℃以下で10秒以上300分以下行う。
【0110】
上記塗布及び乾燥後、更にプレス処理を行ってもよい。プレス処理は、一例において、1MPa以上200MPa以下で行われる。プレス処理を行うことにより、電極密度を向上させることができる。
【0111】
4.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、を少なくとも含み、正極と負極の間に配置されたセパレータを含んでもよい。当該非水電解質二次電池は、正極及び/又は負極として、上述の非水電解質二次電池用電極を含む。更にセパレータとして、上述の非水電解質二次電池用セパレータを含んでもよい。
【0112】
非水電解質二次電池では通常、上記正極や負極、電解質を組み合わせる。電解質は、例えば非水溶媒に電解質を溶解した液体とすることができる。非水溶媒の例には、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル;ジメトキシエタン;ジエトキシエタン;テトラヒドロフラン;2-メチルテトラヒドロフラン;スルホラン;1,3-ジオキソラン等が含まれる。これらの非水溶媒は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。上述の二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン系重合体は、これらの非水溶媒によって膨潤したり溶解したりし難く、安定性の高い非水電解質二次電池とすることができる。
【0113】
また、電解質として、イオン性液体も用いることができる。イオン性液体としては、特に限定されず、公知のイオン性液体を用いることができ、一例において、エチルメチルイミダゾリウム塩、ブチルメチルイミダゾリウム塩等が挙げられる。イオン性液体は前述の非水溶媒に溶解して使用してもよいし、そのまま使用してもよい。
【0114】
また、電解質は、非水溶媒に溶解させずに固体のまま使用してもよい。本実施形態における二次電池に用いられる電解質は、特に限定されず、例えば、二次電池における公知の電解質を用いることができる。電解質の例には、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiCl、LiBr、LiB(C6H5)4、LiSbF6、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiBPh4、LiN(SO3CF3)2、Li(FSO2)2N(LiFSI)、Li(CF3SO2)2N(LiTFSI)等が含まれる。
【0115】
本発明の非水電解質二次電池は、正極と負極との間に設けられる中間層、正極とセパレータとの間に設けられる中間層、及び/又は負極とセパレータとの間に設けられる中間層を含んでもよく、中間層は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、水溶性高分子やフィラー、固体電解質、顔料分散剤、接着補助剤等が挙げられる。このような中間層は、本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物から製造することができる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
[製造方法]
実施例1
オートクレーブにイオン交換水380質量部を入れ、30分間の窒素バブリングによって脱気を行った。次に、リン酸水素二ナトリウム0.25質量部、及びエマルゲン(商品シリーズ名。花王株式会社製。以下、同じ。)LS-110を0.0019質量部仕込み、6.5MPaまで加圧して窒素置換を3回行った。その後、酢酸エチル0.2質量部、フッ化ビニリデン(VDF)28質量部、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)7質量部を上記オートクレーブ中に添加した。撹拌しながら80℃まで昇温させた。そして、5質量%過硫酸アンモニウム水溶液を、過硫酸アンモニウム量が0.1質量部となるように添加し、重合を開始させた。このときの缶内圧力は2.5~5MPaとした。反応開始後、缶内圧力が2.5MPaまで降下したところでVDF65質量部を缶内圧力が2.5MPaで維持されるように連続的に添加した。なお、反応開始時の缶内圧力が2.5MPaであった場合は、反応開始時からVDF65質量部を缶内圧力が2.5MPaで維持されるように連続的に添加した。反応開始後、連続添加するVDFのうち50質量%以上添加した時点で、マレイン酸モノメチル(MMM)0.06質量部を5質量%水溶液の形態で添加した。VDFの連続添加終了後、1.5MPaまで圧力が降下したところで重合を完了とし、ラテックス(フッ化ビニリデン系重合体組成物の水分散液)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン系重合体の濃度)は19.1質量%であった。
【0118】
実施例2
エマルゲンLS-110の量を0.0019質量部から0.003質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.2質量%であった。
【0119】
実施例3
MMMの量を0.06質量部から0質量部に変更した以外は実施例2と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は20.0質量%であった。
【0120】
実施例4
重合開始前にオートクレーブ中に添加するVDFの量を28質量部から10質量部に変更し、HFPの量を7質量部から35質量部に変更し、缶内圧力が2.5MPaで維持されるように連続的に添加するVDFの量を65質量部から55質量部に変更した以外は実施例3と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.4質量%であった。
【0121】
実施例5
イオン交換水の量を380質量部から760質量部に変更し、エマルゲンLS-110の量を0.003質量部から0.007質量部に変更し、重合開始前にオートクレーブ中に添加するVDFの量を28質量部から30質量部に変更し、HFPの量を7質量部から0質量部に変更し、缶内圧力が2.5MPaで維持されるように連続的に添加するVDFの量を65質量部から70質量部に変更した以外は実施例3と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は10.7質量%であった。
【0122】
実施例6
界面活性剤をエマルゲンLS-110からエマルゲンLS-106に変更し、界面活性剤の量を0.0019質量部から0.007質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.2質量%であった。
【0123】
実施例7
界面活性剤をエマルゲンLS-106からエマルゲンLS-114に変更した以外は実施例6と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.2質量%であった。
【0124】
実施例8
エマルゲンLS-110の量を0.0019質量部から0.007質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.1質量%であった。
【0125】
実施例9
重合開始前にオートクレーブ中に添加するVDFの量を28質量部から30質量部に変更し、HFPの量を7質量部から0質量部に変更し、缶内圧力が2.5MPaで維持されるように連続的に添加するVDFの量を65質量部から70質量部に変更した以外は実施例3と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.0質量%であった。
【0126】
実施例10
MMM 0.06質量部の代わりに、アクリル酸(AA) 0.06質量部を使用した以外は実施例8と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.4質量%であった。
【0127】
実施例11
MMM 0.06質量部の代わりに、アクリロイロキシプロピルコハク酸(APS) 0.06質量部を使用した以外は実施例8と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.4質量%であった。
【0128】
比較例1
界面活性剤として、エマルゲンLS-110 0.0019質量部の代わりに、パーフルオロオクタン酸アンモニウム(PFOA) 0.5質量部を使用した以外は実施例1と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は20.4質量%であった。
【0129】
比較例2
エマルゲンLS-110の量を0.0019質量部から0.02質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は18.5質量%であった。
【0130】
比較例3
エマルゲンLS-110の量を0.0019質量部から0質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合を実施したところ、ラテックスは得られなかった。
【0131】
比較例4
エマルゲンLS-110の量を0.007質量部から0質量部に変更した以外は実施例5と同様に重合を実施したところ、ラテックスは得られなかった。
【0132】
比較例5
エマルゲンLS-110の量を0.0019質量部から0.0089質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.1質量%であった。
【0133】
比較例6
界面活性剤をエマルゲンLS-110からプルロニック(商品シリーズ名。BASF社製。以下、同じ。)31R1に変更した以外は実施例6と同様に重合を実施したところ、ラテックスは得られなかった。
【0134】
比較例7
エマルゲンLS-110の量を0.003質量部から0.0095質量部に変更した以外は実施例3と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.7質量%であった。
【0135】
比較例8
エマルゲンLS-110の量を0.003質量部から0.0095質量部に変更した以外は実施例9と同様に重合を実施し、ラテックスを得た。得られたラテックスの固形分濃度は19.0質量%であった。
【0136】
[評価方法]
固形分濃度
ラテックス中のフッ化ビニリデン系重合体の濃度(固形分濃度)は、重合によって得られたラテックス約5gをアルミ製のカップに入れ、80℃で3時間乾燥させ、乾燥前後の質量を測定することで算出した。
【0137】
重合安定性
ラテックス(フッ化ビニリデン系重合体組成物の水分散液)の重合安定性は、重合終了後にオートクレーブから未反応の単量体をパージによって除去する際に、フッ化ビニリデン系重合体組成物の凝集体が噴出しない場合を「〇」(良好)と評価し、フッ化ビニリデン系重合体組成物の凝集体が噴出した場合を「×」(不良)と評価した。
【0138】
収率
ラテックス(フッ化ビニリデン系重合体組成物の水分散液)中のフッ化ビニリデン系重合体の収率は、以下の式によって算出した。
【数1】
【0139】
泡立ち性
100ccのバイアル瓶にラテックスを30mmの高さまで入れ、窒素ガスを2L/分の流量でφ1mmのシリンジ針を用いて1分間送気した。送気前後のラテックスの液層の高さから以下の式によって泡立ち率を算出した。このときの泡立ち率が10%以下のときに泡立ちが少ないと判断した。
【数2】
【0140】
重合体基準での界面活性剤量
重合体基準での界面活性剤量は、ラテックス(フッ化ビニリデン系重合体組成物の水分散液)中のフッ化ビニリデン系重合体の収率から以下の式によって算出した。
【数3】
【0141】
結果を表1に示す。なお、実施例及び比較例で用いた界面活性剤及びその他の界面活性剤に関するデータを表2に示す。
【0142】
【0143】
【0144】
*1:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定された標準ポリスチレン換算のMw。
【0145】
表1及び2から分かる通り、本発明に係るフッ化ビニリデン系重合体組成物は、使用時に泡立ちが発生しにくいためハンドリング性が良好であり、かつ、フッ素化界面活性剤を含有せず、また、本発明に係る、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、良好な重合安定性を保ちつつ、高い収率で、フッ素化界面活性剤を使用せずに、フッ化ビニリデン系重合体を得ることができる。