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特許7209850直接細胞転換に基づく神経幹細胞の星状膠細胞への分化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】直接細胞転換に基づく神経幹細胞の星状膠細胞への分化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/079 20100101AFI20230113BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230113BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20230113BHJP
【FI】
C12N5/079
A61P29/00
A61K35/30
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021542414
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 KR2020000948
(87)【国際公開番号】W WO2020153687
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0008256
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ホン ソンホイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン アヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ キョンア
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0042670(KR,A)
【文献】特開2013-017434(JP,A)
【文献】国際公開第2009/157559(WO,A1)
【文献】特表2007-522796(JP,A)
【文献】Abinaya Chandrasekaren et al.,Astrocyte Differentiation of Human Pluripotent Stem Cells: New Tools for Neurological Disorder Research.,Frontiers in Cellular Neuroscience,2016年09月26日,Vol.10, Article 215,p.1-27,doi: 10.3389/fncel.2016.00215
【文献】Michael A. Bonaguidi et al.,LIF and BMP signalling generate separate and discrete types of GFAP-expressing cells.,Development,2005年12月15日,Vol.132, No.24,p.5503-5514,DOI: 10.1242/dev.02166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法:(a)CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で神経幹細胞を1次培養する段階;
(b)前記1次培養された細胞を、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)を含まず、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で2次培養する段階;及び
(c)前記2次培養された細胞を、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein
4)を含まず、FBS(fetal bovine serum)を含む分化培地で3次培養する段階。
【請求項2】
前記分化培地は、N2及びB27を含むDMEM/F12であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(a)段階の培養は、2日間行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(b)段階の培養は、2日間行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(c)段階の培養は、21日~35日間行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記FBSは、1.5%~4.5%(v/v)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記神経幹細胞は、スフィア形態であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記神経幹細胞は、N2、B27、bFGF及びEGFを含むDMEM/F12を含む培地で継代培養後に浮遊培養してスフィアを形成させて得たことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記スフィア形成は、4日~9日間行うことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記星状膠細胞は、GFAP又はS100βマーカーを発現することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記星状膠細胞は、AQP4(Aquaporin 4)、Kir4.1又はTwik-1マーカーを発現することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記星状膠細胞は、グルタメートを取り込む(uptake)ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記星状膠細胞はTNF-α発現が減少されたことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
請求項1の神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法の前記(c)段階によって得た培養液を有効成分として含有する炎症疾患予防、改善又は治療用組成物。
【請求項15】
前記培養液は、細胞が除去された条件培地(conditioned medium)であることを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経幹細胞を星状膠細胞に効率的に分化させる方法に関し、より詳細には、細胞転換方法に基づいて短時間でより効率的にヒト神経幹細胞を免疫反応抑制能を示す星状膠細胞に分化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経退行性疾患(ハンチントン病、パーキンソン病、アルツハイマーなど)のような神経細胞死滅による疾患を治療できる方法が全世界でかなり以前から活発に研究されている。その代表として、幹細胞を神経細胞に分化させて損傷した神経細胞を代替する方法を開発しようとする研究が進められているが、これは、幹細胞特性の上、所望の細胞に分化させることが容易でないなどの諸問題のため普遍化されておらず、まだ画期的な治療法が開発されていない現状である。
【0003】
大部分の神経退行性疾患は、神経細胞(ニューロン)の機能障害や喪失が主要発病原因であったが、最近の研究では、ハンチントン病やパーキンソン病においてニューロンの他、その周辺に位置する星状膠細胞が疾病に大きな影響を及ぼすことが発見され、星状膠細胞に対する関心が急増し始めた。
【0004】
神経細胞の一種である星状膠細胞(astrocyte)は、星膠細胞ともいい、神経系に最も多数(約40%以上)を占める細胞であり、中枢神経系において多用で重要な役割を果たすものとして知られている。星状膠細胞は、ニューロンが分泌する神経伝達物質を適切に除去したり或いは脳内のイオン濃度を調節することによってニューロン活性を補助する役割を担うこともあり、ニューロンのシナプス形成や血液脳関門(Blood-Brain Barrier)の形成や維持にも関与するものと知られている。また、脳に損傷が加えられたとき、反応性星状膠細胞(reactive astrocyte)に変化して他の神経細胞を保護し、免疫細胞役割を担う。
【0005】
幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法として、今までは、通常、胚幹細胞又は逆分化幹細胞から星状膠細胞に分化させる方式を用いてきた(大韓民国登録特許第10-1793722号、大韓民国登録特許第10-1636966号)。ヒト胚幹細胞の場合、ヒトの胚の使用による倫理的問題、免疫拒否反応の問題及びテラトーマ(teratoma)形成の恐れという不具合がある。逆分化幹細胞は倫理的問題からは比較的自由であるが、これも、分化していない幹細胞が移植されるとテラトーマが形成されることがあり、外部遺伝子導入は突然変異を形成させることがある。これと逆に、直接交差分化は、個人の線維芽細胞から神経幹細胞への誘導が可能なので、免疫拒否反応がなく、倫理的な問題もなく、よって、細胞治療剤として十分に利用可能である。このことから、本発明者は小分子化合物を用いた直接交差分化方法によって作られた神経幹細胞を星状膠細胞分化に用いた。
【0006】
既存の方法によって分化された星状細胞には純粋な星状細胞以外の細胞も共に含まれているため、星状細胞の分化効率及び純度が低いレベルである問題点があった(大韓民国公開特許第10-2014-0071512号)。また、既存の方法は、分化するまで180日以上の長い時間がかかり、効率も高くない。このような既存の問題点を解決する方案として他のサイトカイン(cytokine)や小分子化合物を用いた分化研究が行われているが、確実な分化方法はまだ定立していない。
【0007】
そこで、本発明者らは、直接交差分化を用いて製造した神経幹細胞を、神経系疾患治療効能に優れた星状膠細胞に分化させるために鋭意努力した結果、繊毛様神経性因子(Ciliary Neurotrophic Factor,CNTF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(Basic Fibroblast Growth Factor,bFGF)及び骨形成タンパク質4(Bone Morphogenetic Protein 4,BMP4)サイトカインの組合せを含む培地を用いて神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる場合、既存の方法と違い、分化時間が短縮し、分化効率に優れることを確認し、また、分化した星状膠細胞が免疫反応抑制能を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、神経幹細胞を星状膠細胞に効率的に分化させるために、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)のサイトカイン組合せを含む分化培地を用いて神経幹細胞を免疫反応抑制能を有する星状膠細胞に分化させる方法を提供することにある。
【0009】
本発明は、また、前記方法で分化させた様々な脳疾患で起きる免疫反応抑制に活用可能な星状膠細胞又は分化過程で得た条件培地培養液を有効成分として含有する、炎症疾患又は退行性脳疾患治療用組成物を提供することにある。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、(a)CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で神経幹細胞を1次培養する段階;(b)前記1次培養された細胞を、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)を含まず、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で2次培養する段階;及び(c)前記2次培養された細胞を、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含まず、FBS(fetal bovine serum)を含む分化培地で3次培養する段階を含む神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法を提供する。
【0011】
本発明は、また、前記神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する炎症疾患予防又は治療用組成物を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する組成物を個体に投与する段階を含む炎症疾患予防又は治療方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する組成物を炎症疾患予防又は治療に使用する用途を提供する。
【0014】
本発明は、また、炎症疾患予防又は治療用薬剤の製造のための前記神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する組成物の用途を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】細胞転換ヒト神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる過程を示す図である。
【0016】
図1B】神経幹細胞から星状膠細胞に分化されている細胞の形態学的変化を示す図である。
【0017】
図1C】ICC(immunocytochemistry)を用いて分化周期別に星状膠細胞マーカーであるGFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein)を確認したものである。
【0018】
図1D図1CのICC結果に基づいて分化効率を計算し、対照群であるhciNSC(human chemical induced Neural Stem Cell)と比較して星状膠細胞分化の効率を確認したものである。
【0019】
図1E】既存の分化方法の一つ(Zhou et al.,Stem cell international,2016)と本発明の分化方法を用いて星状膠細胞に分化させた後、ICC(immunocytochemistry)によって星状膠細胞マーカーであるGFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein)を確認したものである。
【0020】
図1F】既存の分化方法(Zhou et al.,Stem cell international,2016)と本発明の分化方法を用いて星状膠細胞分化の効率を確認したものである。
【0021】
図1G】PCRを用いて星状膠細胞マーカーであるGFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein)とS100β(S100 calcium-binding protein β)を確認したものである。
【0022】
図1H-1I】星状膠細胞への分化が進行されるにつれて星状膠細胞マーカーであるGFAP、S100βが増加することを示す実時間qPCR結果である。
【0023】
図2A】PCRを用いて星状膠細胞に存在するイオンチャネルマーカーであるAQP4(Aquaporin 4)、Kir4.1及びTwik-1を確認したものである。
【0024】
図2B】星状膠細胞への分化が進行されるにつれて星状膠細胞イオンチャネルマーカーであるAQP4が増加することを示す実時間qPCR結果である。
【0025】
図2C】星状膠細胞の成熟(maturation)尺度の一つであるグルタメート取り込み(glutamate uptake)を、条件培地(Conditioned medium)のグルタメート濃度を測定して確認したものである。
【0026】
図3A】炎症を誘発する因子であるTNF-α(Tumor Necrosis Factor alpha)を実時間qPCRで確認した結果である。
【0027】
図3B】実時間qPCRを用いて前炎症サイトカイン(Pro-inflammatory cytokine)であるTNF-αの発現を確認した図である。炎症の誘導された角質細胞に星状膠細胞培養液を処理したとき、TNF-αの発現が減少されたことが確認できた。
【0028】
図3C】ウェスタンブロットを用いて前炎症サイトカイン(Pro-inflammatory cytokine)であるIL-1βとその誘導を調節するp-NF-kBを確認した図である。炎症の誘導された角質細胞に星状膠細胞培養液を処理した後、IL-1βとp-NF-kBの発現が減少されたことが確認できる。
【0029】
図3D図3Cで確認したIL-1βのウェスタンブロット結果を数値で確認した図である。
【0030】
図3E図3Cで確認したp-NF-kBのウェスタンブロット結果を数値で確認した図である。
【0031】
図3F】免疫を担当する細胞である大食細胞(Macrophage)にヒト神経幹細胞由来星状膠細胞培養液を処理した後、炎症因子(LPS)を処理して細胞形状の変化を観察した図である。LPSのみ処理された群では細胞が活性化(activation)する傾向を示したが、培養液を処理した群では正常細胞と類似な形状を示した。
【0032】
図3G】実時間qPCRを用いて前炎症サイトカイン(Pro-inflammatory cytokine)であるIL-6の発現を確認した図である。星状膠細胞培養液の処理された大食細胞は、そうでない細胞に比べてより低いIL-6発現量を示した。
【0033】
図3H】実時間qPCRを用いて前炎症ケモカイン(Pro-Inflammatory chemokine)であるMCP-1の発現を確認した図である。星状膠細胞培養液が処理された細胞に炎症を誘導した細胞群は、培養液の処理されていない細胞群に比べてより低いMCP-1発現量を示した。
【0034】
図3I】ウェスタンブロットを用いて前炎症サイトカイン(Pro-inflammatory cytokine)であるIL-1βとその誘導を調節する因子であるp-NF-kBを確認した図である。炎症の誘導された大食細胞に星状膠細胞培養液を処理した後、IL-1βとp-NF-kBの発現が減少されたことが確認できた。
【0035】
図3J図3Iで確認したIL-1βのウェスタンブロット結果を数値で確認した図である。
【0036】
図3K図3Iで確認したp-NF-kBのウェスタンブロット結果を数値で確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
別に断りのない限り、本明細書で使われる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書における命名法は、本技術分野でよく知られており、通常用いられるものである。
【0038】
本発明では、ヒト神経幹細胞を、繊毛様神経性因子(CNTF;Ciliary Neurotrophic Factor)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Basic Fibroblast Growth Factor)及び骨形成タンパク質4(BMP4;Bone Morphogenetic Protein 4)サイトカインの組合せを含む分化培地を用いて段階的な培養により速くて効率的に星状膠細胞に分化させた。このように分化された星状膠細胞は、イオンチャネルが形成されており、グルタメート取り込み機能を果たし得る成熟した星状膠細胞であり、炎症誘発因子であるTNF-αの発現が減少していた。したがって、本発明の方法で分化された星状膠細胞は免疫反応抑制能を有するので、退行性神経系疾患などの様々な脳疾患の治療又は改善に利用可能である。。また、前記分化過程で得た条件培地培養液は、炎症の誘導された細胞において炎症を緩和させる効果を示した。
【0039】
したがって、本発明は、一観点において、(a)CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で神経幹細胞を1次培養する段階;(b)前記1次培養された細胞を、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)を含まず、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で2次培養する段階;及び(c)前記2次培養された細胞を、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含まず、FBS(fetal bovine serum)を含む分化培地で3次培養する段階を含む、神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法に関する。
【0040】
本発明の一実施例では、ヒト神経幹細胞をneurobasal(登録商標)基本培地で培養した後、付着した細胞を切り離してさらに浮遊培養することによってスフィア(sphere)を形成させた。
【0041】
前記neurobasal(登録商標)基本培地は、N2、B27、bFGF及びEGFを含むDMEM/F12であることが好ましいが、これに限定されたものではない。
【0042】
本発明において、出発神経細胞の種類は、ヒト神経細胞を用いることができる。誘導神経幹細胞を疾病の治療に用いる場合には、患者から分離された体細胞を用いることが好ましく、例えば、疾病に関与する体細胞や疾病治療に関与する体細胞などを用いることができる。好ましくは、前記体細胞は線維芽細胞であるが、これに限定されない。
【0043】
本発明の神経幹細胞は、ヒト体細胞を直接転換方法で製造した細胞転換ヒト神経幹細胞であることが好ましいが、これに限定されない。
【0044】
本発明において、前記星状膠細胞に分化させる神経幹細胞は、スフィア形態であることを特徴とし得る。
【0045】
本発明の一実施例では、付着培養されたヒト神経幹細胞を切り離して浮遊培養させてスフィアを形成させており、前記スフィアの形成は4日~9日間行うことが好ましいが、これに限定されない。
【0046】
前記形成されたスフィアは、星状膠細胞に分化させるために、PLO/FNでコーティングしたプレートに載せた後、翌日、星状膠細胞分化培地に入れ替えた。
【0047】
本発明において、前記星状膠細胞分化培地は、N2及びB27を含むDMEM/F12であることが好ましいが、これに限定されない。
【0048】
本発明において、前記(a)段階の培養は、繊毛様神経性因子(CNTF;Ciliary Neurotrophic Factor)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Basic Fibroblast Growth Factor)及び骨形成タンパク質4(BMP4;Bone Morphogenetic Protein 4)サイトカインが全て含まれた星状膠細胞分化培地で2日間行うことが好ましいが、これに限定されない。
【0049】
また、前記(b)段階の培養は、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)以外のCNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)サイトカインだけが含まれた星状膠細胞分化培地で2日間行うことが好ましいが、これに限定されない。
【0050】
次に、前記(c)段階の培養は、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)サイトカインを全て含まず、その代わりにFBS(fetal bovine serum)を含む分化培地で21日~35日間行うことが好ましいが、これに限定されない。
【0051】
本発明において、前記FBSは、1.5%~4.5%(v/v)であることが好ましいが、これに限定されない。
【0052】
本発明において、前記分化された星状膠細胞は、GFAP又はS100βマーカーを発現することを特徴とし得る。
【0053】
前記GFAP(glial fibrillary acidic protein)及びS100β(S100calcium-binding protein β)マーカー遺伝子は、星状膠細胞マーカーであり、星状膠細胞への分化が進むにつれて発現程度が次第に増加した。
【0054】
本発明の一実施例では、GFAP及びS100β発現レベルを免疫細胞染色(immunocytochemistry,ICC)を用いて分化周期別に分析し、DD26には53.94%であった分化効率がDD33には94.33%と大きく増加したことを確認した。
【0055】
また、本発明の一実施例では、既存の分化方法(Zhou et al.,Stem cell international,2016)と本発明の方法で星状膠細胞に分化させ、星状膠細胞マーカーであるGFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein)を確認した。その結果、本発明の分化培地で分化された細胞ではGFAPシグナルがより強く発現したが、既存方法の分化培地で分化された細胞では非常に弱く発現することを確認した。具体的に、その分化効率を比較したとき、既存の方法は、分化効率が34.35%であるのに対し、本発明の分化培地を用いた方法は、94.33%の非常に高い分化効率を示した。
【0056】
本発明において、前記分化された星状膠細胞は、AQP4(Aquaporin 4)、Kir4.1又はTwik-1マーカーを発現することを特徴とし得る。
【0057】
前記AQP4(Aquaporin 4)、Kir4.1及びTwik-1マーカーは、星状膠細胞に存在するイオンチャネルマーカーであり、星状膠細胞膜に位置するイオンチャネルの存在の有無を分析することにより、分化された星状膠細胞の成熟(maturation)を確認することができる。
【0058】
本発明の分化された星状膠細胞がニューロン機能維持を助けるなどの主要役割を適切に果たすためには、星状膠細胞の成熟が重要である。なお、成熟した星状膠細胞は、ニューロンが放出したグルタメートを除去するグルタメート取り込み機能が適切に行われる必要がある。
【0059】
本発明において、前記星状膠細胞は、グルタメートを取り込む(uptake)ことを特徴とし得る。
【0060】
したがって、本発明の方法で分化された星状膠細胞は、成熟星状膠細胞であることが確認できた。
【0061】
本発明の一実施例では、本発明の分化された星状膠細胞が、炎症誘発因子であるTNF-α発現が減少されたことを確認し、分化された星状膠細胞に炎症反応抑制機能があるということを証明した。また、ヒト神経幹細胞を星状膠細胞に分化させながら集めた培養液を、INF-γ及びTNF-α処理によって炎症が誘導されたケラチノサイトに処理する場合、培養液が処理されていない対照群に比べてTNF-α発現が減少し、炎症反応が緩和されたことを確認し、また、前炎症性サイトカインであるIL-1β及びp-NF-kBの発現も、培養液の処理された細胞群において減少することを確認した。
【0062】
本発明の他の実施例では、免疫を担当する細胞である大食細胞(Macrophage)にLPSを処理して炎症反応を誘発した細胞に、ヒト神経幹細胞を星状膠細胞に分化させながら集めた培養液を処理する場合、LPSのみ処理された群では細胞が活性化される傾向を示したが、培養液を処理した群では正常細胞と類似な形状を示し、IL-6発現及びMCP-1発現が減少することを確認し、ヒト神経幹細胞由来星状膠細胞培養液が炎症の誘導された細胞において炎症反応を緩和させる役割を担うということを確認した。
【0063】
したがって、本発明は、他の観点において、(a)CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で神経幹細胞を1次培養する段階;(b)前記1次培養された細胞を、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)を含まず、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含む分化培地で2次培養する段階;及び(c)前記2次培養された細胞を、CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)及びBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)を含まず、FBS(fetal bovine serum)を含む分化培地で3次培養する段階を含む神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する、炎症疾患予防、改善又は治療用組成物に関する。
【0064】
本発明において、前記培養液は、細胞が除去された条件培地(conditioned medium)であることを特徴とし得る。
【0065】
本発明の分化された星状膠細胞は、TNF-α発現が減少されたことを特徴とし、分化過程で得られた条件培地培養液も炎症反応を抑制する。
【0066】
本発明で使われる用語“予防”は、本発明の薬学組成物の投与によって疾患の発病を防ぐか、その進行を抑制させる全ての行為を意味する。
【0067】
本発明の用語“改善”とは、治療される状態と関連したパラメータ、例えば、症状の程度を少なくとも減少させる全ての行為を意味する。
【0068】
本発明において用語“治療”とは、本発明の薬学組成物の投与によって疾患の症状を好転させたり或いは有益に変更させる全ての行為を意味する。
【0069】
本発明は、さらに他の観点において、前記神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する組成物を個体に投与する段階を含む炎症疾患予防又は治療方法に関する。
【0070】
本発明は、さらに他の観点において、前記神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する組成物を炎症疾患予防又は治療に使用する用途に関する。
【0071】
本発明において、前記培養液は、細胞が除去された条件培地(conditioned medium)であることを特徴とし得る。
【0072】
本発明は、さらに他の観点において、炎症疾患予防又は治療用薬剤の製造のための前記神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法によって得た培養液を有効成分として含有する組成物の用途に関する。
【0073】
本発明において、前記培養液は、細胞が除去された条件培地(conditioned medium)であることを特徴とし得る。
【0074】
本発明の用語“個体”とは、炎症疾患が既に発病したか発病する可能性がある、ヒトを含む全ての動物を意味し、本発明の組成物を個体に投与することによって、前記疾患を効果的に予防及び治療することができる。
【0075】
本発明の用語“投与”とは、いずれかの適切な方法で個体に本発明の薬学組成物を導入する行為を意味し、投与経路は、目的組織に到達できる限り、経口又は非経口の様々な経路とすることができる。
【0076】
本発明の薬学組成物の投与経路は、目的組織に到達できればいかなる一般の経路を通じても投与できる。本発明の薬学組成物は、特にこれに制限されないが、目的に応じて、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、血内投与、経口投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与できる。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与できる。
【0077】
上記の本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与できるが、本発明の用語“薬剤学的に有効な量”とは、医学的治療又は予防に適用可能な合理的な受恵/危険の比率であり、疾患を治療又は予防するのに十分な量を意味し、有効容量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する敏感度、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、使用された本発明の組成物と配合又は同時使用される薬物を含む要素、及びその他医学分野によく知られた要素によって決定可能である。
【0078】
本発明の薬学組成物は、個別治療剤として投与したり、或いは別の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次に又は同時に投与できる。そして、単一又は多回投与できる。上記の要素を全て考慮して副作用無しで最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要である。
【0079】
本発明の薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の中毒度、患者の年齢、体重、性別、既往力、又は有効成分として使用される物質の種類などを考慮して当業者が決定できる。例えば、本発明の薬学組成物をヒトを含む哺乳動物に1日に10~100mg/kg、より好ましくは10~30mg/kgで投与でき、本発明の組成物の投与頻度は、特にこれに制限されないが、1日1回~3回投与したり又は容量を分割して数回投与できる。
【0080】
本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物の製造に一般に使用する適切な担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含む筋減少症の治療又は予防用薬学組成物の形態で製造できるが、前記担体は、非自然的担体(non-naturally occuring carrier)を含むことができる。
【0081】
具体的に、前記薬学組成物は、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。
【0082】
本発明において、前記薬学組成物に含有可能な担体、賦形剤及び希釈剤には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油を挙げることができる。製剤化する場合には、通常の充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を使用して調製する。
【0083】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、少なくとも一つの賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)又はラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調製する。また、単純な賦形剤の他にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用される。
【0084】
経口のための液状製剤には、懸濁剤、耐溶液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、通常使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィンの他に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤なども含むことができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどを使用することができる。
【0085】
医薬組成物は、滅菌注射用の水性又は油性懸濁液であり、滅菌注射用製剤の形態でよい。この懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤(例えば、ツイン80)及び懸濁化剤を用いて本分野に公知の技術によって剤形化できる。滅菌注射用製剤は、また、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射溶液又は懸濁液(例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液)であってよい。許容的に使用可能なビークル及び溶媒には、マンニトール、水、リンゲル溶液及び等張性塩化ナトリウム溶液がある。また、滅菌不揮発性オイルが一般に溶媒又は懸濁化媒質として使用される。このような目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含めて刺激性の少ないいかなる不揮発性オイルも使用可能である。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体のような脂肪酸が薬剤学的に許容される天然オイル(例えば、オリーブ油又はひまし油)、特に、それらのポリオキシエチル化されたものと同様に、注射製剤に有用である。
【0086】
本発明の医薬組成物は、また、直腸投与のための坐剤の形態で投与できる。それらの組成物は、本発明の化合物を、室温で固形であるが直腸温度では液状である適切な非刺激性賦形剤と混合して製造できる。このような物質としては、これらに限定されないが、ココアバター、蝋及びポリエチレングリコールが含まれる。
【0087】
本発明に係る医薬組成物の非経口投与は、目的とする治療が、局所適用で接近し易い部位又は器官と関連があるときに特に有用である。皮膚に局所的に適用する場合、医薬組成物は、担体に懸濁又は溶解された活性成分を含有した適切な軟膏で剤形化しなければならない。本発明の化合物を局所投与するための担体には、これらに限定されないが、鉱油、流動パラフィン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水が含まれる。また、医薬組成物は、担体に懸濁又は溶解された活性化合物を含有した適切なローション又はクリームとして剤形化されてもよい。適切な担体には、これらに限定されないが、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水が含まれる。本発明の医薬組成物は、また、直腸坐剤によって又は適切な浣腸剤で下部腸管に局所適用できる。局所適用された経皮パッチも本発明に含まれる。
【0088】
本発明の医薬組成物は、鼻内エアゾール又は吸入によって投与できる。このような組成物は、薬剤の分野によく知られた技術によって製造し、ベンジルアルコール又は他の適切な保存剤、生体利用率を増強させるための吸収促進剤、フルオロカーボン及び/又はその他この分野に知られた可溶化剤又は分散剤を用いて塩水中の溶液として製造できる。
【0089】
本発明の薬学組成物に含まれた前記製剤の含有量は、特にこれに制限されないが、最終組成物全重量を基準に0.0001~50重量%、より好ましくは0.01~10重量%の含有量で含むことができる。
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0091】
実施例1:星状膠細胞分化培地
ヒト神経幹細胞(大韓民国登録特許第1、816、103号参照)1×10個を60mm皿に準備し、翌日、DMEM/F12、N2、B27、bFGF、EGFを含むneurobasal(登録商標)培地で培養した。その後、2~3日ごとに培養液を入れ替え、5日程度になった時、アキュターゼ(Accutase)を用いて細胞を切り離した後、1×10個をペトリ皿に分注して浮遊培養した。このとき、分注された神経幹細胞は、幹細胞の性質上、プレート底に付着せずに互いに固まって小さいスフィアを形成する傾向を示す。2日ごとに同じ培地を用いて交替し、7日程度後には肉眼で確認できるような大きさにスフィアが形成された。あらかじめPLO/FNでプレートをコーティングした後、スフィア状態のまま載せた。
【0092】
翌日、星状膠細胞に分化させるための培地に入れ替えるが、2日間ではDMEM/F12、N2、B27が入っている基本培地にCNTF(5ng/ml)、bFGF(8ng/ml)、BMP4(10ng/ml)が含まれた培地を用い、その次の2日間ではbFGFのみ除外した培地を用いる。このようなサイトカインの組合せが含まれた培地を4日間使用した後には、DMEM/F12、N2、B27が入っている基本培地に2% FBS(fetal bovine serum)が含まれた培地に入れ替えた。その後には2日ごとな培地を替えながら形態学的変化を観察した。
【0093】
図1Aに、神経幹細胞を準備して7日間3D培養をした後、4日間それぞれ時期に合うサイトカインを処理した後、サイトカインが消えた後には、星状膠細胞活性を助ける培地に入れ替え、培養する神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる過程を示した。
【0094】
実施例2:分化された星状膠細胞特性確認
実施例1の分化培地を用いた方法で神経幹細胞を星状膠細胞に分化させた後、分化された星状膠細胞が一般の特性を示すか否かを確認した。
【0095】
まず、星状膠細胞が星状膠細胞マーカーを発現するか否か確認するために免疫細胞染色(ICC)を行った。分化された細胞を4%PFA(paraformaldehyde)で冷蔵で一晩固定した。PBS緩衝液で2回洗浄した後、0.1%トリトンX-100を10分間処理してよく染色される環境を作った(易透化(Permeabilization)段階)。10%NDS(Normal Donkey Serum)で1時間ブロッキングをした後、細胞を染色させるために、1次抗体であるGFAP抗体を2%NDSに1:400に希釈し、これを1日間4℃で細胞に処理した。翌日、2次抗体を室温で1時間反応させ、DAPI染色試薬で核を染色した後、蛍光顕微鏡で観察した(図1B)。
【0096】
その結果、免疫細胞化学(ICC)染色により、星状膠細胞がGFAPを発現することを確認した(図1C)。分化が進むにつれて、神経幹細胞ではよく見えなかったGFAPシグナルが次第に明確になることが確認できた。
【0097】
また、前記免疫細胞化学(ICC)染色の結果から星状膠細胞分化効率が測定できた。陰性対照群であるhciNSC(human chemical induced Neural Stem Cell)と比較したとき、分化開始26日目(DD26)には53.94%であった効率が、分化開始33日目(DD33)には94.33%へと大きく増加したことが確認できた(図1D)。
【0098】
その後、既存の分化方法(Zhou et al.,Stem cell international,2016)と前記実施例1の分化培地を用いて星状膠細胞に分化させた後、ICCによって星状膠細胞マーカーであるGFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein)を確認した結果、本発明の分化培地で分化された細胞ではGFAPシグナルがより強く発現したが、既存方法の分化培地で分化された細胞では非常に弱く発現することを確認した(図1E)。また、前記結果に基づいて分化効率を比較した時、既存の方法は34.25%の効率を示したが、実施例1の分化培地を用いると、94.33%の非常に高い効率を示すことが分かった(図1F)。
【0099】
最後に、PCRと実時間qPCRにより、星状膠細胞マーカーGFAP、S100βの遺伝子が、分化されたヒト星状膠細胞に発現することを確認した(図1G)。陰性対照群であるHDF(Human Dermal Fibroblast)ではGFAP、S100βが確認できないが、DD33の分化された細胞ではGFAP、S100βが確認できた。そして、このような星状膠細胞マーカーであるGFAP及びS100βの遺伝子発現は、分化が進むにつれてD33にはmRNAレベルで発現程度が次第に強くなることが確認できた(図1H及び図1I)。
【0100】
実施例3:分化された星状膠細胞の成熟(maturation)確認
星状膠細胞がニューロンの機能を維持するように助けるなどの主要役割を担うためには、成熟(maturation)を必要とする。このような成熟を確認するために、星状膠細胞膜に位置するイオンチャネルが存在するか否か、又はグルタメート取り込み(glutamate uptake)が適切に行われるか否かを調べてみた。
【0101】
3-1:イオンチャネルマーカー確認
星状膠細胞に存在するイオンチャネルは、星状膠細胞が様々な機能を果たし得る成熟形態(Mature form)になった否かが分かる基準となるので、PCRにより、星状膠細胞に存在するイオンチャネルマーカーであるAQP4(Aquaporin 4)、Kir4.1、Twik-1を確認し、分化させた星状膠細胞にはイオンが交換できるチャネルが形成されていることが確認できた(図2A)。陰性対照群HDF(Human Dermal Fibroblast)では、AQP4、Kir4.1及びTwik-1が確認できないが、DD33の分化された細胞ではAQP4、Kir4.1及びTwik-1の発現が確認できた。
【0102】
また、実時間qPCRにより、分化が進むにつれてAQP4が増加することも確認できた。特に、DD26に比べてDD33にAQP4 mRNAレベルが大幅に増加した(図2B)。
【0103】
3-2:グルタメート取り込み
星状膠細胞は、ニューロンの放出したグルタメート(glutamate)を除去してニューロンの機能を維持するように助ける機能を担うが、この時、条件培地(Conditioned medium)のグルタメート濃度を確認することによって星状膠細胞がグルタメート取り込みを適切に行うか否かが分かる。
【0104】
グルタメートアッセイキット(Glutamate Assay Kit)(Abcam)を用いて測定したが、陰性対照群hciNSCと比較したとき、分化された星状膠細胞においてグルタメートの量が減少した(図2C)。したがって、実施例1の分化培地を用いた方法で分化させた星状膠細胞は、グルタメート取り込みを適切に行える程度に成熟した状態であることが分かった。
【0105】
このようなヒト神経幹細胞を用いたヒト星状膠細胞への分化、機能性星状膠細胞への成熟は、ヒトの退行性脳疾患の治療のための細胞治療剤としての活用可能性が非常に高いということを示す。しかも、星状膠細胞発生学的研究及び脳疾患発病機序を研究するための最適のモデル細胞としての活用可能性を提示する。
【0106】
実施例4:分化された星状膠細胞免疫反応抑制
星状膠細胞は、脳が損傷すると活性化(activation)されて免疫細胞としての機能を担うものとして知られている。分化された星状膠細胞がこのような炎症反応を抑制する機能を有するかを調べるために、実時間qPCRを用いて、炎症を誘発する因子であるTNF-α(Tumor Necrosis Factor alpha)の発現を確認した。
【0107】
その結果、星状膠細胞に分化するにつれて、分化する前の陰性対照群であるHDF(Human Dermal Fibroblast)には高かったTNF-α数値、すなわち炎症数値が減少し、分化された星状膠細胞に炎症反応抑制機能があることを証明した(図3A)。
【0108】
また、ヒト神経幹細胞を星状膠細胞に分化させながら集めた条件培地(Conditioned medium)の培養液を、炎症の誘導された細胞(disease cell)に処理し、炎症反応が緩和されることを確認した。
【0109】
まず、ヒトの角質細胞であるケラチノサイトで実験を行ったが、ケラチノサイトは、炎症反応を誘導するサイトカイン(cytokine)を分泌し、炎症反応を調節する役割を担う。ヒトのケラチノサイト(ATCC,United States)にヒト神経幹細胞由来の星状膠細胞培養液(分化23日目)を1日間処理した。そして、その翌日、炎症誘発因子であるINF-γ(Interferon gamma-100ng/ml)、TNF-α(100ng/ml)を1時間処理した細胞のTNF-αの発現を確認し、培養液を処理した場合が、炎症が誘発された細胞に比べてTNF-αの発現が減少したことが確認できた(図3B)。また、ウェスタンブロットにより、前炎症サイトカインであるIL-1β(Interleukin-1β)とこれを調節するp-NF-kB(phospho-Nuclear Factor-kappaB)が、培養液の処理された細胞群において減少したことが確認できた(図3C図3D及び図3E)。
【0110】
また、免疫を担当する細胞である大食細胞(Macrophage)(韓国細胞株銀行)においても同様の実験を行った。ヒト神経幹細胞由来星状膠細胞培養液(分化23日目)を1日間処理した後、免疫反応を起こす物質の一つであるLPS(Lipopolysaccharide-50ng/ml)を1時間処理した。細胞形状の変化を顕微鏡で確認し、LPSのみ処理された群では細胞が活性化される傾向を示したが、培養液を処理した群では正常細胞と類似な形状を示した(図3F)。
【0111】
実時間qPCRにより、IL-6(Interleukin-6)の発現が培養液の処理された細胞群において減少したことが確認でき、前炎症ケモカイン(Pro-Inflammatory chemokine)であるMCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)の発現も減少したことが確認できた(図3G及び図3H)。また、ウェスタンブロットにより、前炎症サイトカインであるIL-1βとこれを調節するp-NF-kBが培養液の処理された細胞群において減少したことが確認できた(図3I)。この結果は、ヒト神経幹細胞由来星状膠細胞培養液が、炎症の誘導された細胞において炎症反応を緩和させる役割を担い、これは、分化された星状膠細胞が抗炎症細胞としての機能を有することを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明に係る様々なサイトカインの組合せを含む分化培地を用いて神経幹細胞を星状膠細胞に分化させる方法は、既存の方法と違い、分化時間が短縮し、分化効率に優れ、分化された星状膠細胞が免疫反応抑制能を示すので、退行性神経系疾患のような様々な脳疾患治療剤として有用である。
【0113】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は、単に好ましい実施様態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項及びそれらの等価物によって定義されるといえよう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K