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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】冷却材及びこれを用いた蓄電パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20230116BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20230116BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20230116BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20230116BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20230116BHJP
   H01M 10/6552 20140101ALI20230116BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20230116BHJP
   H01M 10/659 20140101ALI20230116BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20230116BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/647
H01M10/651
H01M10/6552
H01M10/6555
H01M10/659
H01M50/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019558018
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2018034012
(87)【国際公開番号】W WO2019111488
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2017236187
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】沼田 昂真
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹児
(72)【発明者】
【氏名】東小薗 誠
(72)【発明者】
【氏名】小野 純一
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-131428(JP,A)
【文献】特開2012-124319(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094819(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52-10/667
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と、多孔質で平板状の断熱材と、前記冷媒及び前記断熱材を密閉状態で封入する封入体と、を有し、
前記断熱材は、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)以下であり、かつ、厚みが0.5mm以上、10.0mm以下であ
前記封入体は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含むシート部材からなる、
冷却材。
【請求項2】
前記断熱材は、単位面積当たりの熱伝導率が100W/(K・m)以下である、請求項1に記載の冷却材。
【請求項3】
前記断熱材は、単位面積当たりの熱伝導率が60W/(K・m)以下である、請求項1又は請求項2に記載の冷却材。
【請求項4】
前記断熱材は、厚みが0.5mm以上、5.0mm以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の冷却材。
【請求項5】
前記断熱材は、厚みが0.5mm以上、2.0mm以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の冷却材。
【請求項6】
前記断熱材は、ガラスウール、マイクロビーズ多孔体、又は不織布である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の冷却材。
【請求項7】
前記断熱材は、ガラスウールであり、
前記冷媒は、フッ素系有機溶媒であり、
前記封入体は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含むシート部材からなる、
請求項1に記載の冷却材。
【請求項8】
複数の蓄電モジュールを備えた蓄電パックであって、
前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有し、
少なくとも、前記複数の蓄電セルの間に、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の冷却材を有する、蓄電パック。
【請求項9】
複数の蓄電モジュールを備えた蓄電パックであって、
前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有し、
少なくとも、前記複数の蓄電モジュールの間に、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の冷却材を有する、蓄電パック。
【請求項10】
前記蓄電セルは、電解液として有機電解液を有する、請求項8又は請求項9に記載の蓄電パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷却材及びこれを用いた蓄電パックに関する。
本出願は、2017年12月8日出願の日本出願第2017-236187号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
単電池セルや電池モジュール等の発熱体を冷却する冷却材としては、ヒートパイプが挙げられる。例えば、特許文献1(特開平11-023169号公報)には、冷却材(ヒートパイプ)として、金属製の材料で作られたパイプの内部に伝熱流体が液密に封入された構造のものが開示されている。
電池パック内の各単電池セルからの熱を逃がす方法としては、例えば、特許文献2(特開2012-155858号公報)には、各単電池セルに、電池セルの内部の電解液と、電池セルの外部に設けられた冷却システムとを接続する熱伝導部材(電熱板)を設けることが開示されている。
また、特許文献3(特開2010-211963号公報)には、蓄電素子の外面と接触し、蓄電素子からの熱を受けて蒸発可能な液状の冷媒を吸収した吸収シートを有する蓄電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-023169号公報
【文献】特開2012-155858号公報
【文献】特開2010-211963号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の冷却材は、
冷媒と、多孔質で平板状の断熱材と、前記冷媒及び前記断熱材を密閉状態で封入する封入体と、を有し、
前記断熱材は、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)以下であり、かつ、厚みが0.5mm以上、10.0mm以下であ
前記封入体は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含むシート部材からなる
【0005】
本開示の蓄電パックの一つは、
複数の蓄電モジュールを備えた蓄電パックであって、
前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有し、
少なくとも、前記複数の蓄電セルの間に、本開示の冷却材を有する。
【0006】
本開示の蓄電パックの別の一つは、
複数の蓄電モジュールを備えた蓄電パックであって、
前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有し、
少なくとも、前記複数の蓄電モジュールの間に、本開示の冷却材を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の実施形態に係る冷却材の一例の概略を表す図である。
図2】本開示の実施形態に係る蓄電パックにおける蓄電モジュールの一例の概略を表す図である。
図3】実施例において作製した各冷却材の断熱性を評価する際に用いた装置の概略を表す図である。
図4図3に示すチャンバー内の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の放熱手段は、通常の使用状態において効率よく熱を逃がすため、熱伝導率が高い金属製の材料によって構成されている。
しかしながら冷却材として熱伝導率が高い材料を用いていると、仮に、電池パック内において何らかの理由によって単電池セルが異常な発熱を起こすと、その熱は熱伝導部材を通じてすぐに隣接する単電池セルに伝わってしまう。
【0009】
そこで本開示は、上記問題点に鑑み、平時においては蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体を冷却する冷却性を発揮し、発熱体が異常な発熱を起こした場合にはその熱が隣接する部材に伝わり難くする断熱性を発揮することが可能な冷却材を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、平時においては蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体を冷却する冷却性を発揮し、発熱体が異常な発熱を起こした場合にはその熱が隣接する部材に伝わり難くする断熱性を発揮することが可能な冷却材を提供することができる。
更に、本開示によれば、平時においては蓄電パック内の蓄電セル又は蓄電モジュールが冷却され、蓄電パック内の一部の蓄電セル又は蓄電モジュールが異常な発熱を起こした場合にはその熱が付近の蓄電セル又は蓄電モジュールに伝わり難い蓄電パックを提供することができる。
【0011】
[実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
(1)本開示の一実施形態に係る冷却材は、冷媒と、多孔質で平板状の断熱材と、前記冷媒及び前記断熱材を密閉状態で封入する封入体と、を有する。前記断熱材は、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)以下であり、かつ、厚みが0.5mm以上、10.0mm以下である。
上記(1)に記載の冷却材によれば、平時においては蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体を冷却する冷却性を発揮し、発熱体が異常な発熱を起こした場合にはその熱が隣接する部材に伝わり難くする断熱性を発揮することが可能な冷却材を提供することができる。
なお、本開示において「単位面積当たりの熱伝導率(W/(K・m))」とは、材料固有の熱伝導率(W/(K・m))をその材料の厚みで割ったものをいうものとする。
【0012】
(2)上記(1)に記載の冷却材は、前記断熱材の、単位面積当たりの熱伝導率が100W/(K・m)以下であることが好ましい。
(3)上記(1)又は上記(2)に記載の冷却材は、前記断熱材の、単位面積当たりの熱伝導率が60W/(K・m)以下であることが好ましい。
上記(2)又は上記(3)に記載の冷却材によれば、蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体が異常な発熱を起こした場合に、より優れた断熱性を発揮することが可能な冷却材を提供することができる。
【0013】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれか一項に記載の冷却材は、前記断熱材の厚みが0.5mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。
(5)上記(1)から上記(4)のいずれか一項に記載の冷却材は、前記断熱材の厚みが0.5mm以上、2.0mm以下であることが好ましい。
上記(4)又は上記(5)に記載の冷却材によれば、蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体が異常な発熱を起こした場合に、より優れた断熱性を発揮することが可能であり、かつ、蓄電パックの小型化に寄与する冷却材を提供することができる。
【0014】
(6)上記(1)から上記(5)のいずれか一項に記載の冷却材は、前記断熱材が、ガラスウール、マイクロビーズ多孔体、又は不織布であることが好ましい。
上記(6)に記載の冷却材によれば、冷媒の保持量が多く、平時においてより高い冷却性能を発揮することが可能な冷却材を提供することができる。
【0015】
(7)上記(1)に記載の冷却材は、前記断熱材がガラスウールであり、前記冷媒がフッ素系有機溶媒であり、前記封入体がアルミニウム又はアルミニウム合金を含むシート部材からなる、ことが好ましい。
【0016】
(8)本開示の一実施形態に係る蓄電パックは、複数の蓄電モジュールを備えた蓄電パックであって、前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有し、少なくとも、前記複数の蓄電セルの間に、上記(1)から上記(7)のいずれか一項に記載の冷却材を有する、蓄電パック、である。
(9)本開示の別の実施形態に係る蓄電パックは、複数の蓄電モジュールを備えた蓄電パックであって、前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有し、少なくとも、前記複数の蓄電モジュールの間に、上記(1)から上記(7)のいずれか一項に記載の冷却材を有する、蓄電パック、である。
上記(8)又は上記(9)に記載の蓄電パックによれば、平時においては蓄電パック内の蓄電セル又は蓄電モジュールが冷却され、蓄電パック内の一部の蓄電セル又は蓄電モジュールが異常な発熱を起こした場合にはその熱が付近の蓄電セル又は蓄電モジュールに伝わり難い蓄電パックを提供することができる。
【0017】
(10)上記(8)又は上記(9)に記載の蓄電パックは、前記蓄電セルが、電解液として有機電解液を有することが好ましい。
上記(9)に記載の蓄電パックによれば、エネルギー密度が高い有機電解液を有する蓄電パックであって、蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体が異常な発熱を起こした場合であっても、冷却材が断熱性を発揮して他の正常な発熱体に熱が伝わり難くすることが可能な蓄電パックを提供することができる。また、蓄電パック内の一部の蓄電セル又は蓄電モジュールが発火したとしても、隣接する蓄電セル又は蓄電モジュールへ延焼するまでの時間を遅くすることが可能な蓄電パックを提供することができる。
【0018】
[実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る冷却材及びこれを用いた蓄電パックの具体例を、以下に、より詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
<冷却材>
図1に本開示の実施形態に係る冷却材の一例の概略図を示す。図1に示すように、本開示の実施形態に係る冷却材10は、冷媒12と、多孔質で平板状の断熱材11と、封入体13と、を有する。封入体13は、冷媒12及び断熱材11を密閉状態で封入するものである。また、断熱材11は、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)以下であり、厚みが0.5mm以上、10.0mm以下である。
【0020】
本開示の実施形態に係る冷却材は、蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体の間に配置して用いるものである。本開示の実施形態に係る冷却材を用いることで、平時においては蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体を冷却することができ、かつ、発熱体が予期せぬ異常をきたして非常に高温となった場合には、断熱性を発揮して異常発熱した発熱体の熱が他の発熱体に伝わり難くすることができる。
【0021】
より具体的には、蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体の通常の使用状態である温度範囲(-40℃~70℃程度(非特許文献1参照))においては、発熱体からの熱が冷却材10に伝わると、冷却材10の内部において冷媒12が液体から気体に気化する際の気化潜熱によって発熱体を冷却することができる。なお、冷媒12が蒸発することで封入体13の内圧が上昇し、発熱体に挟まれた部分以外の封入体13の一部が膨らむように変形して膨出部が形成される。発熱体に挟まれた部分の封入体は膨張が規制され変形しない。冷媒12が冷えて凝縮することで封入体13の内圧が減少し膨出部はなくなる。
[非特許文献1]
「自動車部品-ワイヤハーネスコネクタ試験方法及び一般性能要件」、JASO 自動車規格、公益社団法人自動車技術会、JASO D616:2011
【0022】
一方、発熱体が何らかの理由により異常を来たして450℃程度の高温となった場合には、冷媒12の気化による体積膨張に封入体13が耐えられなくなり、封入体13が開封する。そして、冷媒12が封入体13から抜け出し、封入体13の内部には断熱材11が残る。このため、異常発熱した発熱体と、周囲の正常な発熱体との間には高断熱性の断熱材11が介在することとなり、異常発熱した発熱体の熱が周囲の発熱体に伝わる早さを遅くすることができる。
【0023】
以下、本開示の実施形態に係る冷却材の各構成を詳述する。
(冷媒)
冷媒12は、液体と気体とに状態が変化するものである。冷媒12は、例えば、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロケトン、フッ素不活性液体等のフッ素系有機溶媒、水、メタノール、エタノール等のアルコールからなる群から選ばれる1つ、又は複数を用いることができる。冷媒12は、絶縁性を有していてもよく、また、導電性を有していてもよい。封入体13の内部に封入される冷媒12の量は、必要に応じて適宜に選択できる。
【0024】
(断熱材)
断熱材11は平板状であり、典型的には略長方形をなしている。断熱材11は、冷媒12を吸収可能なように多孔質の材料によって形成されていればよい。断熱材11として用いることが可能な材料としては、繊維状に加工した材料を織物あるいは不織布としたものや、粒子を焼結したもの等が挙げられる。断熱材11を構成する材料としては、天然繊維でもよく、また、合成樹脂からなる合成繊維であってもよく、また、天然繊維と合成繊維の双方を用いたものであってもよい。
【0025】
断熱材11としては、ガラスウール、マイクロビーズ多孔体、又は不織布を用いることが好ましい。
ガラスウールとしては、例えば、ガラス繊維をまとめて綿状にしたものや、ガラス繊維をバインダーと混合して成形したもの等が挙げられる。厚みの安定性やガラス繊維の脱落防止などの観点から、ガラスウールはバインダーを用いてシート状に成形したものが好ましい。ガラスウールは密度が大きいほど断熱性が高くなるため、密度が大きいガラスウールを用いることが好ましい。ガラスウールの密度は1.5kg/m以上であることが好ましく、2kg/m以上であることがより好ましく、2.2kg/m以上であることが更に好ましい。
マイクロビーズ多孔体としては、例えば、1μmから10μm程度の球状の粒子を焼結して、シート状に成形したものが挙げられる。マイクロビーズ多孔体の材質としては、ポリアミドイミド、ポリイミド等の高分子やガラス等が挙げられる。
不織布としては、例えば、繊維シート、ウェブ(繊維だけで構成された薄い膜状のシート)、又はバット(毛布状の繊維)等が挙げられる。
【0026】
一般に、蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体(例えば、リチウムイオン電池)が異常発熱して発火している状態では、温度は450℃程度にまでなっている(非特許文献2参照)。また、LiCoOを用いたリチウムイオン電池の場合には、200℃程度で正極活物質が熱分解して酸素を発生する(非特許文献3参照)。そのため、上記リチウムイオン電池は、異常発熱を起こした発熱体の周囲の正常な発熱体の温度が200℃に達するまでの時間をなるべく遅くすることが望まれる。蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体が搭載された車両等から搭乗者が避難するまでの時間を考慮すると、周囲の正常な発熱体の温度が200℃に達するまでの時間は70秒程度以上であることが好ましい。なお、本発明者等が実験した結果、20人乗りのマイクロバスから20人の搭乗者が降車するまでの時間としては、70秒程度あれば十分であり、8人乗りの乗用車からは40秒程度あれば十分であると判明した。
[非特許文献2]
松村英樹、松島和男、「リチウムイオン電池の安全性評価試験における発生事象について」、交通安全環境研究所フォーラム講演概要集、交通安全環境研究所、2012年、pp.135-138
[非特許文献3]
北野真也、他4名、「LiCoO正極を用いたリチウムイオン電池の過充電状態における発熱挙動」、GS Yuasa Technical Report、株式会社GSユアサ、2005年12月、第2巻、第2号、pp.18-24
【0027】
上記の観点から、本開示の実施形態に係る冷却材には、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)以下であり、かつ、厚みが0.5mm以上、10.0mm以下の断熱材を用いる。断熱材の単位面積当たりの熱伝導率は低ければ低い程好ましい。
本開示の実施形態に係る冷却材は蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体同士の間に配置して用いられるものであるため、エネルギー密度を高くするためには出力に関与しない冷却材の厚みはなるべく薄い方が好ましい。冷却材10の厚みを薄くするためには、断熱材11も薄いものであることが好ましい。
【0028】
断熱材の厚みが0.5mm程度以上であることにより、冷却材10を十分な強度のものとすることができる。また、断熱材の厚みが10.0mm以下であることにより、冷却材10を備える蓄電パックのエネルギー密度を高くすることができる。これらの観点から、断熱材の厚みは0.5mm以上、5.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上、2.0mm以下であることがより好ましい。
【0029】
断熱材11の単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)以下であることにより、冷却材10は優れた冷却性と断熱性を発揮することができる。断熱材11の単位面積当たりの熱伝導率は低ければ低いほど、より優れた断熱性を発揮することができる。このため、断熱材11の単位面積当たりの熱伝導率は100W/(K・m)以下であることが好ましく、60W/(K・m)以下であることがより好ましい。
【0030】
本開示の実施形態に係る冷却材10の大きさは特に限定されるものではなく、隣接して配置される蓄電セルや蓄電モジュール等の発熱体の大きさに応じて適宜選択すればよい。
通常は発熱体が平板状であるため、発熱体の主面の大きさと同程度か、これよりも僅かに大きい主面を有する冷却材とすればよい。
【0031】
(封入体)
封入体13は、例えば略長方形状をなす2つのシート部材を、接着、溶着、溶接等の公知の手法により液密に接合して形成されたものである。各シート部材は、金属製シートの両面に合成樹脂製のフィルムが積層されてなることが好ましい。封入体13は、例えば、前記シート部材における合成樹脂製のフィルムが積層された面同士を重ね合わせて熱融着することで形成される。
金属製シートを構成する金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等を挙げることができ、必要に応じて任意の金属を選択できる。
合成樹脂製のフィルムを構成する合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド等を挙げることができ、必要に応じて任意の合成樹脂を選択できる。
【0032】
<蓄電パック>
蓄電パックは、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の車両に搭載され、モータ等の負荷に電力を供給するものである。
本開示の実施形態に係る蓄電パックの一例においては、複数の蓄電モジュールを備え、前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有しており、少なくとも、前記複数の蓄電セルの間に、前述の本開示の実施形態に係る冷却材が配置されていればよい。
【0033】
図2に本開示の実施形態に係る蓄電パックにおける蓄電モジュールの一例の概略図を示す。図2に示すように、蓄電モジュール20は、複数の蓄電セル21を有し、前記複数の蓄電セル21の間に、前述の本開示の実施形態に係る冷却材10を有する。図2に示す例では、2つ置きに冷却材10が配置されているが、1つ置きに配置して全ての蓄電セル21同士が隣接しないようにしてもよいし、3つ置きに配置する等、適宜変更することができる。
また、蓄電パック内において、各蓄電モジュールの間に冷却材10が配置されていてもよいし、配置されていなくてもよい。非常時における断熱性を向上させる観点からは、各蓄電モジュールの間にも冷却材10が配置されている方が好ましい。
【0034】
本開示の実施形態に係る蓄電パックの別の一例においては、複数の蓄電モジュールを備え、前記蓄電モジュールは複数の蓄電セルを有しており、少なくとも、前記複数の蓄電モジュールの間に、前述の本開示の実施形態に係る冷却材が配置されていればよい。この場合においては、各蓄電モジュール内の蓄電セルの間に冷却材10が配置されていてもよいし、配置されていなくてもよい。非常時における断熱性を向上させる観点からは、各蓄電モジュール内の蓄電セルの間にも冷却材10が配置されている方が好ましい。
【0035】
蓄電モジュールの内部において、それぞれの蓄電セル21は、電極22の端子間が接続されることにより、直列又は並列に接続されている。各蓄電セル21は、一対の蓄電セル用ラミネートシートの間に図示しない蓄電要素を挟んで、蓄電セル用ラミネートシートの側縁を熱溶着等の公知の手法により液密に接合されていればよい。
蓄電セル21としては、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池等の二次電池を用いてもよく、また、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタを用いてもよく、必要に応じて任意の種類を適宜に選択できる。蓄電セルが電解液として有機電解液を有する場合には、異常発熱により発火する虞があるため、蓄電パックは、蓄電セル間や蓄電モジュール間に本開示の実施形態に係る冷却材を備えることが好ましい。
【実施例
【0036】
以下、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本開示の冷却材及び蓄電パックはこれらに限定されるものではない。本発明の範囲は請求の範囲の記載によって示され、請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0037】
(実施例1)
封入体として三方が熱融着されたアルミラミネートシートを、冷媒としてフッ素系有機溶媒を用意した。
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが10.0mmであり、密度が2.3kg/mのガラスウールNo.1を用意した。ガラスウールNo.1は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
封入体内に、冷媒とガラスウールNo.1を収容して、冷却材No.1を得た。
【0038】
(実施例2)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが5.0mmであり、密度が3.5kg/mのガラスウールNo.2を用意した。ガラスウールNo.2は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.2を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.2を得た。
【0039】
(実施例3)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが0.5mmであり、密度が10kg/mのガラスウールNo.3を用意した。ガラスウールNo.3は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.3を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.3を得た。
【0040】
(実施例4)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が100W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが10.0mmであり、密度が5.2kg/mのガラスウールNo.4を用意した。ガラスウールNo.4は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.4を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.4を得た。
【0041】
(実施例5)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が100W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが5.0mmであり、密度が7.6kg/mのガラスウールNo.5を用意した。ガラスウールNo.5は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.5を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.5を得た。
【0042】
(実施例6)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が100W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが0.5mmであり、密度が15kg/mのガラスウールNo.6を用意した。ガラスウールNo.6は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.6を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.6を得た。
【0043】
(実施例7)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が60W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが10.0mmであり、密度が7.6kg/mのガラスウールNo.7を用意した。ガラスウールNo.7は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.7を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.7を得た。
【0044】
(実施例8)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が60W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが5.0mmであり、密度が14.2kg/mのガラスウールNo.8を用意した。ガラスウールNo.8は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.8を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.8を得た。
【0045】
(実施例9)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が60W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが2.0mmであり、密度が17kg/mのガラスウールNo.9を用意した。ガラスウールNo.9は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.9を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.9を得た。
【0046】
(実施例10)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が60W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが0.5mmであり、密度が24kg/mのガラスウールNo.10を用意した。ガラスウールNo.10は、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.10を用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.10を得た。
【0047】
(比較例1)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が400W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが1.0mmであり、密度が3.5kg/mのガラスウールNo.Aを用意した。ガラスウールNo.Aは、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.Aを用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.Aを得た。
【0048】
(比較例2)
断熱材として、単位面積当たりの熱伝導率が300W/(K・m)であり、主面の大きさが5cm×5cm、厚みが15.0mmであり、密度が1.7kg/mのガラスウールNo.Bを用意した。ガラスウールNo.Bは、ガラス繊維をポリビニルアルコール(バインダー)と混合して成形したものを用いた。
実施例1において、ガラスウールNo.1の替わりにガラスウールNo.Bを用いた以外は実施例1と同様にして冷却材No.Bを得た。
【0049】
<評価>
冷却材No.1~冷却材No.10及び冷却材No.A、冷却材No.Bを用いて断熱性の評価を行なった。
断熱性の評価は図3に示すように、ホットプレート31に冷却材30をオートグラフ37によって接触させることにより行なった。対流の影響を排除するため、ホットプレート31等はチャンバー36内に配置し、チャンバー36内はスクラバー38によって脱気した。図4にチャンバー36内の拡大図を示す。チャンバー36内においては、予め450℃に調節したホットプレート31上に、各冷却材30、厚みが2mmのアルミニウム板33、熱電対32、厚みが1mmのアルミナ板34、金属ブロック35を配置し、経過時間による温度変化を計測した。金属ブロック35は、冷却材30が膨れることによってホットプレート31との接触不良が生じることを防止するためのものであり、5cm×5cm当たり1.1kgの荷重がかかるようにした。
各冷却材について、計測開始から40秒後の温度及び70秒後の温度を表1に表す。
【0050】
【表1】
【0051】
なお、各冷却材は開封端として断熱性を評価したが、これは評価時に封入体の形状が変化して測定値がばらつく事を防ぐためである。密閉状態の冷却材の場合にはより高い断熱性を示す。
表1より、本開示の実施形態に係る冷却材No.1~冷却材No.3は、450℃の発熱体(ホットプレート)に接触してから40秒以上、200℃以下の状態を保つことができ、冷却材No.4~冷却材No.10は70秒以上、200℃以下の状態を保つことができることが示された。
【符号の説明】
【0052】
10 冷却材
11 断熱材
12 冷媒
13 封入体
20 蓄電モジュール
21 蓄電セル
22 電極
30 冷却材
31 ホットプレート
32 熱電対
33 アルミニウム板
34 アルミナ板
35 金属ブロック
36 チャンバー
37 オートグラフ
38 スクラバー
図1
図2
図3
図4