IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの特許一覧

特許7209996組成物、成形体の製造方法、及び、成形体
<>
  • 特許-組成物、成形体の製造方法、及び、成形体 図1
  • 特許-組成物、成形体の製造方法、及び、成形体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】組成物、成形体の製造方法、及び、成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 97/02 20060101AFI20230116BHJP
   C08L 3/04 20060101ALI20230116BHJP
   C08L 5/04 20060101ALI20230116BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20230116BHJP
   B29C 48/05 20190101ALI20230116BHJP
【FI】
C08L97/02
C08L3/04
C08L5/04
C08L89/00
B29C48/05
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018124252
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020002288
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】酒井 日出子
(72)【発明者】
【氏名】島田 勝廣
(72)【発明者】
【氏名】松原 独歩
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-018200(JP,A)
【文献】特開2016-179625(JP,A)
【文献】特開平10-058412(JP,A)
【文献】特開2009-269966(JP,A)
【文献】特開2005-131790(JP,A)
【文献】特開2001-062855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 48/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~1000μmの粒径を有するリグノセルロース粉(リグノセルロース粉が繊維形状である場合を除く)と、天然糊(天然糊がコーンスターチ糊のみからなる場合を除く)と、水と、を含み、
前記粒径は、レーザ回折式の粒度分布計の体積基準の粒度分布のD50である、組成物。
【請求項2】
前記天然糊は、動物由来又は植物由来である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記天然糊は、海藻糊、デンプン糊、膠、及び、カゼインからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記リグノセルロース粉は、木質バイオマス粉、及び、草本バイオマス粉からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記リグノセルロース粉は、木粉、及び、竹粉からなる群から選択される少なくとも一つである、である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
リグノセルロース粉及び天然糊の合計を100質量部としたときに、天然糊を3~99.5質量部含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
天然糊及び水の合計を100質量部としたときに、天然糊を0.01~65質量部含む、請求項1~3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
リグノセルロース粉、水、及び天然糊の合計を100質量部としたときに、水を40~95質量部含む、請求項1~7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を成形する工程と、成形した組成物を乾燥させて成形体を得る工程と、を備える、成形体の製造方法。
【請求項10】
前記成形体は、家具、置物、装飾部材、又は、膜である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記成形する工程は、シリンジの細孔から、前記組成物をプランジャで押し出してフィラメントを得ることを含む、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
1~1000μmの粒径を有するリグノセルロース粉(リグノセルロース粉が繊維形状である場合を除く)と、天然糊(天然糊がコーンスターチ糊のみからなる場合を除く)と、を含み、水分量が20質量%以下であり、
前記粒径は、レーザ回折式の粒度分布計の体積基準の粒度分布のD50である、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、成形体の製造方法、及び、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木粉と、ポリエチレンなどの合成樹脂とを混合した組成物を、加熱しながら成形し、その後冷却して、成形体を得ることが知られている(例えば特許文献1~3)。
【0003】
また、木粉と、ポリビニルアルコールと、ホウ砂とを含む組成物から成形体を得ることも知られている(特許文献4,5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-30746号公報
【文献】特開2007-185890号公報
【文献】特開2017-124506号公報
【文献】特開2002-137957号公報
【文献】特開2011-140538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3の組成物では、加熱しないと成形ができない。一方、特許文献4、5では、加熱しなくても成形できるが、ポリビニルアルコールのような合成樹脂を使用する必要がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、常温で成形ができ、かつ、合成樹脂を必要としない組成物、成形体の製造方法、及び、成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる組成物は、リグノセルロース粉と、天然糊と、水と、を含む。
【0008】
ここで、前記天然糊は、動物由来又は植物由来であることができる。
【0009】
また、前記天然糊は、海藻糊、デンプン糊、及び、膠からなる群から選択される少なくとも一つであることができる。
【0010】
また、前記リグノセルロース粉は木質バイオマス粉、及び、草本バイオマス粉からなる群から選択される少なくとも一つであることができる。
【0011】
また、前記リグノセルロース粉は、木粉、及び、竹粉からなる群から選択される少なくとも一つである、であることができる。
【0012】
また、リグノセルロース粉及び天然糊の合計を100質量部としたときに、天然糊を3~99.5質量部含むことができる。
【0013】
また、天然糊及び水の合計を100質量部としたときに、天然糊を0.01~65質量部含むことができる。
【0014】
また、リグノセルロース粉、水、及び天然糊の合計を100質量部としたときに、水を40~95質量部含むことができる。
【0015】
本発明にかかる成形体の製造方法は、上述の組成物を成形する工程と、成形した組成物を乾燥させて成形体を得る工程と、を備える。
【0016】
ここで、前記成形体は、家具、置物、装飾部材、又は、膜であることができる。
【0017】
また、前記成形する工程は、シリンジの細孔から、前記組成物をプランジャで押し出してフィラメントを得ることを含むことができる。
【0018】
本発明にかかる成形体は、リグノセルロース粉と、天然糊と、を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、常温で成形ができ、かつ、合成樹脂を必要としない組成物、成形体の製造方法、及び、成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態にかかる組成物の成形方法を説明する一部破断図である。
図2図2は、実施形態にかかる組成物の他の成形方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(組成物)
本発明の実施形態にかかる組成物は、リグノセルロース粉と、天然糊と、水と、を含む。
【0022】
(リグノセルロース粉)
リグノセルロース粉とは、リグノセルロースを主成分とする粉である。リグノセルロースは、セルロース、ヘミセルロース、及び、リグニンを主要成分とする材料である。
【0023】
リグノセルロース粉の例は、木質バイオマス粉、草本バイオマス粉である。木質バイオマス粉の例は、木粉、竹粉である。木の例は、スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹、ブナ、ナラ、カバ等の広葉樹である。木粉、竹粉は、原木の粉砕等により製造してもよいが、廃材の粉砕等により製造してもよい。草本バイオマス粉の例は、トウモロコシの茎、イネの茎、イグサの茎を粉砕した粉である。
【0024】
リグノセルロース粉の粒径は特に限定されないが、粒径の下限は、1μm、5μm、10μm、15μmであることができる。粒径の上限は、1000μm、500μm、400μm、300μm、200μmとすることができる。
【0025】
粒径は、レーザ回折式の粒度分布計の体積基準の粒度分布のD50とすることができる。
【0026】
(天然糊)
天然糊とは、天然成分に由来する成分を主成分とする接着剤である。
天然糊は、動物由来、又は、植物由来の成分を主成分とする接着剤であることができる。天然糊は水溶性であることが好適である。
【0027】
動物由来の天然糊の例は、膠、カゼインである。膠は、牛や豚などの動物に由来するゼラチンなどのタンパク質を主成分とする。カゼインは、牛乳などの乳から分離されるタンパク質である。
【0028】
植物由来の天然糊の例は、海藻糊、及び、デンプン糊である。
海藻糊は海藻から抽出される多糖類を主成分とする糊である。海藻の例は、紅藻である。
紅藻の例は、ツノマタ、ギンナンソウ、フノリ、スギノリである。これらの紅藻から抽出される多糖類の例は、カラギーナンである。
紅藻の他の例はテングサで有り、テングサから抽出される多糖類の例はアガロース(寒天)である。
海藻の他の例は、コンブなどの褐藻であり、これらの褐藻から得られる多糖類の例はアルギン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)である。
これらの海藻糊の中でも、ツノマタ、ギンナンソウ、フノリ等から抽出されるカラギーナンを主成分とする海藻糊が好ましい。
【0029】
デンプン糊は、糊化したデンプンを主成分とする糊である。デンプン源の例は、トウモロコシ、コメ、タピオカ、小麦、豆類、ジャガイモ、サツマイモである。
膠、カゼイン、海藻糊、デンプン糊の抽出方法は公知であり、市販もされている。
【0030】
(固形分中の天然糊の含有量CA)
リグノセルロース粉及び天然糊(固形分であって水を含まない)の合計を100質量部としたときに、組成物における天然糊の含有量CAは、特に限定されないが、下限は3質量部、5質量部、7質量部、9質量部、であることができ、上限は、99.5質量部、99質量部、95質量部、90質量部、80質量部、70質量部、60質量部、50質量部、45質量部とすることができる。
【0031】
手で成形する粘土用の組成物の場合には、天然糊の含有量CAは、7~45質量部であることが好適である。
【0032】
プレスして成形する用途の組成物の場合には、天然糊の含有量CAは7~55質量部であることが好ましく、9~22質量部であることがより好ましい。
【0033】
塗料用の組成物の場合には、天然糊の含有量CAは14~99.5質量部である。
【0034】
(天然糊水溶液の天然糊の含有量CB)
天然糊(固形分)と水との合計質量を100としたときに、組成物における天然糊の含有量CBの下限は0.01質量部、0.05質量部、0.1質量部、0.5質量部、1質量部、2質量部、3質量部、4質量部とすることができ、上限は、65質量部、50質量部、40質量部、30質量部、25質量部、22質量部とすることができる。
【0035】
粘土用の場合には、天然糊の含有量CBを1~40質量部とすることが好適である。
【0036】
プレス成形用の場合には、天然糊の含有量CBを1~45質量部とすることが好適である。
【0037】
塗料用の組成物場合には、天然糊の含有量CBは4質量部以上とすることが好適である。
【0038】
(組成物中の水の含有量CC)
天然糊(固形分)と水とリグノセルロース粉との合計質量を100としたときに、組成物における水の含有量CCの下限は40質量部、50質量部とすることができ、上限は、95質量部、90質量部、85質量部とすることができる。
【0039】
組成物は、上記の成分以外に添加剤を含むことができる。添加剤の例は、着色剤、防腐剤、界面活性剤、pH調整剤である。添加剤の量は、リグノセルロース粉及び天然糊の合計質量を100質量部としたときに、10質量部以下とすることが好適である。
【0040】
このような組成物は、リグノセルロース粉と、天然糊水溶液とを混合することにより、または、リグノセルロース粉と、天然糊と、水とを混合することにより容易に得ることができる。
【0041】
(成形体の製造方法)
続いて、このような組成物を利用した成形体の製造方法について説明する。
【0042】
(成形)
上述の組成物は、常温で変形させることができるので、組成物の塊を手で所望の形に変形させたり、一つの塊を複数に分割(ちぎるなど)したり、複数の塊を一つに合一させたりすることができ、容易に成形組成物を得ることができる。このような成形方法は、粘土としての利用に好適である。特に、玩具として利用したときに安全性が高い。
【0043】
また、図1に示すような押し出し成形も可能である。まつ、上記の組成物Cを、先端に細孔10aのあるシリンジ10内に充填する。次に、シリンジ10の細孔10aとは反対の開口10b側からシリンジ10内にプランジャ(ピストン)20を挿入する。プランジャ駆動装置30で、プランジャ20をシリンジ10の細孔10a側に押し込んで、シリンジ10内の組成物Cを細孔10aから押し出して、組成物Cのフィラメント(細線)Fを形成することができる。さらに、公知の3Dプリンタに適用されている駆動手段40により、組成物CのフィラメントFを押し出しながら、台50の上でシリンジ10を任意の3次元方向に移動させることにより、台50上に、組成物のフィラメントFを所望の位置及び方向に配置して、フィラメントFを積み重ねることができ、これにより、管、立体等の所望の高さの所望の形状の組成物の成形組成物MAを得ることができる。
【0044】
また、型による成形も可能である。例えば、図2に示すように、上型M2及び下型M1の間に組成物Cを挟みこんで成形し、上型M2と下型M1との間のキャビテイVに対応する形状を有する組成物の成形組成物MAを得ることもできる。
【0045】
さらに、組成物を公知の方法(例えば、刷毛、ローラー、コーター)などにより、基材の上に塗布して、組成物の層を形成することができる。基材としては、紙、樹脂、コンクリート、モルタル、等が挙げられる。
【0046】
(乾燥)
得られた成形組成物を乾燥して、乾燥した成形体を得る。乾燥は、例えば、成形組成物を常温の室内に放置することにより行うことができる。また、成形組成物を乾燥機内に収容して乾燥を行ってもよい。
【0047】
乾燥により、成形体中の水分量を20質量%以下、好ましくは、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下になるように除去することが好適である。
【0048】
乾燥により成形組成物から水を除去することにより、リグノセルロース粉と、天然糊とが強固に結合し、所望の形状の乾燥した成形体が完成する。
【0049】
立体形状を有する成形体は、置物、家具などにして利用することができる。また、塗布された組成物の層は基材を被覆する木質膜となり、木質の化粧板として利用することができる。その他、装飾部材例えばモールディング(壁と天井の接合部、壁面、柱などの装飾部材)、アクセサリーなどにも利用できる。
【0050】
(成形体)
本発明の実施形態の成形品は、上述の成形組成物の乾燥品であり、リグノセルロース粉と、天然糊と、を含む。水分量は、20質量%以下である。
【0051】
リグノセルロース粉及び天然糊の合計質量に占める天然糊の質量割合、添加剤等は、上述と同様とすることができる。
【0052】
(作用効果)
本実施形態によれば、組成物の成形時の加熱が不要となる。これにより、粘土としての利用が可能であるし、成形時の省エネルギー化に資する。また、原料に合成樹脂を添加することが不要となり、粘土として組成物を手で成形したときの安全性、及び、得られた木質物品に人が触れた場合の安全性などに優れることになる。
【0053】
また、リグノセルロース粉と、天然糊は、強固に接着することができ、成形体の強度の維持、及び、木質物品の強度に優れる。
【実施例
【0054】
(実施例A1)
スギ粉A(粒径177μm)、及び、ツノマタ糊水溶液(ツノマタ糊4質量%配合)を用意した。スギ粉10質量部及びツノマタ糊水溶液40質量部を、BEGO社の攪拌機Motova300で攪拌して、組成物を得た。
【0055】
(実施例A2、A3)
ツノマタ糊水溶液の量を、それぞれ、50質量部、60質量部にする以外は、実施例A1と同様として、それぞれ組成物を得た。
【0056】
(実施例B1)
スギ粉B(粒径22μm)、及び、ツノマタ糊水溶液(ツノマタ糊4質量%配合)を用意した。スギ粉10質量部及びツノマタ糊水溶液25質量部を、BEGO社の攪拌機Motova300で攪拌して、組成物を得た。
【0057】
(実施例B2、B3)
ツノマタ糊水溶液の量を、それぞれ、30質量部、40質量部にする以外は、実施例A1と同様として、それぞれ組成物を得た。
【0058】
(実施例C1)
スギ粉B(粒径22μm)、及び、タピオカ糊水溶液(タピオカ糊20質量%配合)を用意した。スギ粉10質量部及びタピオカ糊水溶液25質量部を、BEGO社の攪拌機Motova300で攪拌して、組成物を得た。
【0059】
(実施例C2、C3)
ツノマタ糊水溶液の量を、それぞれ、30質量部、40質量部にする以外は、実施例C1と同様として、それぞれ組成物を得た。
【0060】
(成形)
得られた組成物を、シリンジの細孔から0.66MPaの圧力で押し出し、直径2.5mm、長さ300mm及び長さ50mmの成形組成物フィラメントを得た。このフィラメントは、成形後にその形状を維持することができ、フィラメントを多段重ねて筒状などの成形組成物を得ることができた。また、手による成形も可能であった。
【0061】
(乾燥)
成形後、成形組成物を自然乾燥(2日)して、成形体を得た。
【0062】
直径2mm及び長さ50mmのフィラメントを、万能試験機で3点曲げ試験を行い、強度の測定をおこなった。
【0063】
条件及び結果を、表1~2に示す。
【表1】

【表2】
【符号の説明】
【0064】
C…組成物、MA…成形組成物、F…フィラメント、10…シリンジ、10a…細孔、20…プランジャ。
図1
図2