(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】誘発目地部材の固定具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/62 20060101AFI20230116BHJP
【FI】
E04B1/62 C
(21)【出願番号】P 2021026238
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智也
(72)【発明者】
【氏名】西田 亮
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256691(JP,A)
【文献】特開2002-047760(JP,A)
【文献】特開2006-070430(JP,A)
【文献】実開昭49-121313(JP,U)
【文献】特開2010-265612(JP,A)
【文献】登録実用新案第3121658(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の壁状構造物の内部に配設される上下方向に長い誘発目地部材を、当該壁状構造物の内部に配設されて水平方向に延びる鉄筋に固定するための誘発目地部材の固定具において、
前記鉄筋の外周面にそれぞれ当接して当該鉄筋を上下方向に挟持する第1挟持部及び第2挟持部を有するとともに、弾性を持った金属材料で構成された鉄筋取付部と、
前記誘発目地部材の幅方向一端部及び他端部にそれぞれ係合する第1係合部及び第2係合部を有する誘発目地部材取付部とを備え、
前記鉄筋取付部は、前記誘発目地部材取付部に固定される固定部を有し、
前記第1挟持部は、前記固定部の上部から突出し、前記鉄筋の外周面における上側部分に対して上から当接するように形成されるとともに、突出方向中間部が最も上に位置し、突出方向中間部から突出方向基端部に近づくほど及び突出方向中間部から突出方向先端部に近づくほど下に位置するように湾曲しており、
前記第1挟持部には、前記突出方向基端部側から前記突出方向先端部側に亘って開口部が設けられ、該開口部における前記突出方向先端部側に位置する周縁部には前記突出方向基端部へ向けて突出するとともに前記鉄筋の外周面に係止する第1爪部が形成され、
前記第2挟持部は、前記固定部の下部から突出し、前記鉄筋の外周面における下側部分に対して下から当接するように形成されるとともに、突出方向中間部が最も下に位置し、突出方向中間部から突出方向基端部に近づくほど及び突出方向中間部から突出方向先端部に近づくほど上に位置するように湾曲しており、
前記第2挟持部には、前記突出方向基端部側から前記突出方向先端部側に亘って開口部が設けられ、該開口部における前記突出方向先端部側に位置する周縁部には前記突出方向基端部へ向けて突出するとともに前記鉄筋の外周面における前記第1爪部が係止した部分よりも下の部分に係止する第2爪部が形成され、
前記第1挟持部の突出方向中間部と前記第2挟持部の突出方向中間部との上下方向の離間寸法は前記鉄筋の外径寸法よりも短く設定されていることを特徴とする誘発目地部材の固定具。
【請求項2】
請求項1に記載の誘発目地部材の固定具において、
前記誘発目地部材取付部は、前記誘発目地部材の幅方向一端部から他端部まで延びる板材からなり、
前記第1係合部は、前記板材における前記誘発目地部材の幅方向一端部に対応する部分を他端部側へ向けて屈曲させることによって構成され、
前記第2係合部は、前記板材における前記誘発目地部材の幅方向他端部に対応する部分を一端部側へ向けて屈曲させることによって構成されていることを特徴とする誘発目地部材の固定具。
【請求項3】
請求項2に記載の誘発目地部材の固定具において、
前記板材における前記誘発目地部材の幅方向中間部に対応する部分に前記鉄筋取付部の前記固定部が固定され、
前記板材は、前記固定部が固定された部分から前記第1係合部へ近づくにつれて前記鉄筋から離れるように形成された第1板部と、前記固定部が固定された部分から前記第2係合部へ近づくにつれて前記鉄筋から離れるように形成された第2板部とを有していることを特徴とする誘発目地部材の固定具。
【請求項4】
請求項3に記載の誘発目地部材の固定具において、
前記板材は弾性を有していることを特徴とする誘発目地部材の固定具。
【請求項5】
請求項4に記載の誘発目地部材の固定具において、
前記板材は、前記誘発目地部材の幅方向一端部に対応する部分から他端部に対応する部分まで平坦に形成されていることを特徴とする誘発目地部材の固定具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の誘発目地部材の固定具において、
前記誘発目地部材取付部は、前記壁状構造物の内部における前記鉄筋よりも外側に配設される外側誘発目地部材が取り付けられる部分であり、
前記鉄筋取付部は、前記壁状構造物の内部における前記鉄筋よりも内側に配設されて当該壁状構造物の厚み方向かつ上下方向に延びる板状の内側誘発目地部材に当接し、当該内側誘発目地部材の延長線上に前記外側誘発目地部材の幅方向中央部が位置するように当該外側誘発目地部材を位置決めするための位置決め部を有していることを特徴とする誘発目地部材の固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の温度ひび割れ対策に使用されるひび割れ誘発目地構造に関するものであり、特に誘発目地部材を鉄筋に固定する構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの多くは硬化過程において水とセメントが反応した際の反応熱によって膨張し、反応が収まるに従って硬化と共に収縮する。その収縮の際に先打ちコンクリート(底版コンクリート等)に拘束されることで壁部には無数のひび割れが発生する。ひび割れは内部に配設されている鉄筋の腐食などコンクリート構造物の耐久性に悪影響を与える。また、コンクリート構造物が水槽の場合であれば水密性の低下を招く。
【0003】
このように、コンクリート構造物の温度ひび割れによる悪影響は大きいため、多種様々なひび割れ対策が実施されている。その温度ひび割れ対策の一つとしてひび割れ誘発目地があり、他のひび割れ対策と比べてひび割れ制御効果が高く、低発熱セメントを適用する場合のようなプラントの問題もないことから、ひび割れ誘発目地は多くの壁状構造物に使用されている。
【0004】
ひび割れ誘発目地は壁状構造物において長手方向に一定の間隔で断面欠損部分を設け、その断面欠損部分にひび割れを誘発することで、その他の部分へのひび割れ発生を抑制するものである。このようなひび割れ誘発目地を構成する誘発目地部材としては、例えばコンクリート構造物における鉄筋被り部に設置する外側誘発目地部材と、鉄筋内部に設置する内側誘発目地部材との2種類がある。壁厚によって外側誘発目地部材と内側誘発目地部材との組み合わせを選定し、所望の断面欠損率を確保するようにしている。
【0005】
特許文献1には、外側誘発目地部材と内側誘発目地部材とを結束線によって鉄筋に縛り付けて固定する構造が開示されている。また、特許文献2には、外側誘発目地部材をボルト及びナットによってコンクリート型枠用パネルに締結固定する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2868994号公報
【文献】特許第4764736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、コンクリートの温度ひび割れ対策として誘発目地部材が使用されているが、建設業界においては少子高齢化と共に作業員の確保や熟練者不足など大きな課題を抱えている。
【0008】
誘発目地部材は、大型のコンクリート構造物の場合では数千m程度取り付けることもあり、現場では、そのための作業員がいないといった問題や、工数が掛り過ぎるといった問題を抱えていた。
【0009】
この点、特許文献1の結束線による固定の場合、ハッカーと呼ばれる特殊工具が必要であること、及び取り付け作業に時間がかかることが問題となっていた。また、特許文献2のボルト及びナットによる固定の場合、ラチェットが必要であるとともに、ねじ山をねじ溝に掛ける作業、及び締め付け時の力加減の調整が必要であり、作業が煩雑であった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、誘発目地材を鉄筋に対して簡単な作業でかつ確実に固定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本開示の第1の側面では、コンクリート製の壁状構造物の内部に配設される上下方向に長い誘発目地部材を、当該壁状構造物の内部に配設されて水平方向に延びる鉄筋に固定するための誘発目地部材の固定具を前提とすることができる。前記固定具は、前記鉄筋の外周面にそれぞれ当接して当該鉄筋を上下方向に挟持する第1挟持部及び第2挟持部を有するとともに、弾性を持った金属材料で構成された鉄筋取付部と、前記誘発目地部材の幅方向一端部及び他端部にそれぞれ係合する第1係合部及び第2係合部を有する誘発目地部材取付部とを備えている。前記鉄筋取付部は、前記誘発目地部材取付部に固定される固定部を有し、前記第1挟持部は、前記固定部の上部から突出し、前記鉄筋の外周面における上側部分に対して上から当接するように形成されるとともに、突出方向中間部が最も上に位置し、突出方向中間部から突出方向基端部に近づくほど及び突出方向中間部から突出方向先端部に近づくほど下に位置するように湾曲しており、前記第1挟持部には、前記突出方向基端部側から前記突出方向先端部側に亘って開口部が設けられ、該開口部における前記突出方向先端部側に位置する周縁部には前記突出方向基端部へ向けて突出するとともに前記鉄筋の外周面に係止する第1爪部が形成され、前記第2挟持部は、前記固定部の下部から突出し、前記鉄筋の外周面における下側部分に対して下から当接するように形成されるとともに、突出方向中間部が最も下に位置し、突出方向中間部から突出方向基端部に近づくほど及び突出方向中間部から突出方向先端部に近づくほど上に位置するように湾曲しており、前記第2挟持部には、前記突出方向基端部側から前記突出方向先端部側に亘って開口部が設けられ、該開口部における前記突出方向先端部側に位置する周縁部には前記突出方向基端部へ向けて突出するとともに前記鉄筋の外周面における前記第1爪部が係止した部分よりも下の部分に係止する第2爪部が形成され、前記第1挟持部の突出方向中間部と前記第2挟持部の突出方向中間部との上下方向の離間寸法は前記鉄筋の外径寸法よりも短く設定されている。
【0012】
この構成によれば、鉄筋取付部の第1挟持部及び第2挟持部によって鉄筋を挟持することで、鉄筋取付部が鉄筋に取り付けられる。そして、鉄筋取付部に固定されている誘発目地部材取付部の第1係合部及び第2係合部に、誘発目地部材の幅方向一端部及び他端部をそれぞれ係合させることで、誘発目地部材が誘発目地部材取付部に取り付けられる。したがって、誘発目地部材を鉄筋に取り付ける際に、結束線やボルト、ナットが不要になるので、ハッカーやラチェットを使わずに済む。
【0013】
また、水平方向に延びる鉄筋を第1挟持部及び第2挟持部によって上下方向に挟持することができる。これにより、鉄筋取付部の上下方向の位置ずれを回避することができる。
【0014】
本開示の第2の側面では、前記誘発目地部材取付部は、前記誘発目地部材の幅方向一端部から他端部まで延びる板材からなるものである。前記第1係合部は、前記板材における前記誘発目地部材の幅方向一端部に対応する部分を他端部側へ向けて屈曲させることによって構成され、また、前記第2係合部は、前記板材における前記誘発目地部材の幅方向他端部に対応する部分を一端部側へ向けて屈曲させることによって構成されている。
【0015】
この構成によれば、第1係合部と第2係合部との間に誘発目地部材を入れた状態で、誘発目地部材の幅方向一端部及び他端部をそれぞれ第1係合部及び第2係合部に引っ掛けるようにして係合させることができる。これにより、誘発目地部材が脱落し難くなる。
【0016】
本開示の第3の側面では、前記板材における前記誘発目地部材の幅方向中間部に対応する部分に前記鉄筋取付部の前記固定部が固定されている。前記板材は、前記固定部が固定された部分から前記第1係合部へ近づくにつれて前記鉄筋から離れるように形成された第1板部と、前記固定部が固定された部分から前記第2係合部へ近づくにつれて前記鉄筋から離れるように形成された第2板部とを有している。
【0017】
この構成によれば、第1係合部及び第2係合部を鉄筋から壁状構造物の厚み方向外側へ離すことができるので、誘発目地部材も同様に鉄筋から壁状構造物の厚み方向外側へ離すことができる。したがって、例えば壁状構造物のコンクリートの被りが厚い場合には、誘発目地部材を壁状構造物の表面に近づけることができ、ひび割れを所望の箇所に誘発させる効果が向上する。
【0018】
本開示の第4の側面では、前記板材が弾性を有していることを特徴としている。
【0019】
この構成によれば、第1板部及び第2板部を弾性変形させることが可能になる。第1板部及び第2板部は鉄筋取付部から離れるように形成されているので、これらを弾性変形させることで、第1係合部と第2係合部との間隔を広げることができる。例えば第1係合部に誘発目地部材の幅方向一端部を係合させた状態で、第1板部または第2板部を弾性変形させて第1係合部と第2係合部との間隔を広げると、誘発目地部材の他端部を第2係合部に係合させることができる。その後、第1板部または第2板部の形状を復元させることで、誘発目地部材の脱落が抑制される。
【0020】
本開示の第5の側面では、前記板材が、前記誘発目地部材の幅方向一端部に対応する部分から他端部に対応する部分まで平坦に形成されている。
【0021】
この構成によれば、板材が第1係合部側から第2係合部側まで平坦な形状になるので、第1係合部と第2係合部に対して互いに離れる方向の力が作用した時に当該板材の変形が起こらないようにすること、即ち第1係合部と第2係合部との相対変位を抑制できる。これにより、例えば誘発目地部材がV字状を有していて当該誘発目地部材を幅方向に縮めるように弾性変形させることが可能な構造の場合には、誘発目地部材を幅方向に縮めて第1係合部及び第2係合部に係合させた後、誘発目地部材の復元力によって係合状態を維持する際に、誘発目地部材の幅方向一端部及び他端部を第1係合部及び第2係合部にしっかりと係合させておくことができる。
【0022】
本開示の第6の側面では、前記誘発目地部材取付部が、前記壁状構造物の内部における前記鉄筋よりも外側に配設される外側誘発目地部材が取り付けられる部分である。そして、前記鉄筋取付部は、前記壁状構造物の内部における前記鉄筋よりも内側に配設されて当該壁状構造物の厚み方向かつ上下方向に延びる板状の内側誘発目地部材に当接し、当該内側誘発目地部材の延長線上に前記外側誘発目地部材の幅方向中央部が位置するように当該外側誘発目地部材を位置決めするための位置決め部を有している。
【0023】
この構成によれば、鉄筋取付部の位置決め部を内側誘発目地部材に当接させた状態で、誘発目地部材取付部に外側誘発目地部材を取り付けると、外側誘発目地部材の幅方向中央部が、内側誘発目地部材の延長線上に位置付けられる。これにより、板状の内側誘発目地部材と、外側誘発目地部材とが一直線状に配置されることになり、ひび割れを所望の箇所に誘発させる効果が向上する。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、第1挟持部及び第2挟持部によって鉄筋を挟持し、第1係合部及び第2係合部に誘発目地部材の幅方向一端部及び他端部にそれぞれ係合させるようにしたので、誘発目地部材を鉄筋に対して簡単な作業でかつ確実に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る誘発目地部材の固定具を使用して誘発目地部材を固定する例を示す斜視図である。
【
図2】第1例に係る外側誘発目地部材を配設した場合の誘発目地構造の水平断面図である。
【
図3】第1例に係る外側誘発目地部材を上方から見た図である。
【
図4】第2例に係る外側誘発目地部材を配設した場合の
図2相当図である。
【
図5】第2例に係る外側誘発目地部材を上方から見た図である。
【
図6】第1例に係る誘発目地部材の固定具の側面図である。
【
図7】第1例に係る誘発目地部材の固定具の平面図である。
【
図8】第1例に係る誘発目地部材の固定具に誘発目地部材を固定した状態を示す
図7相当図である。
【
図9】第1例に係る誘発目地部材の固定具に誘発目地部材を固定する要領を説明する
図7相当図である。
【
図10】第2例に係る誘発目地部材の固定具の平面図である。
【
図11】第2例に係る誘発目地部材の固定具に誘発目地部材を固定した状態を示す
図10相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る誘発目地部材の固定具1を使用して誘発目地部材50を固定する例を示す斜視図である。この実施形態の説明では、誘発目地部材の固定具1の構造について説明する前に、コンクリート製の壁状構造物(RCコンクリート構造物)100の構造ついて説明する。
【0028】
(壁状構造物の構造)
壁状構造物100は、例えば先打ちコンクリートである底版コンクリート(図示せず)の上に設置された型枠(図示せず)内に打設されて固化したコンクリート101を含んでいる。壁状構造物100は、例えば建築物の壁、止水壁、水槽の壁等であるが、これらに限られるものではなく、壁または壁に近い形状の構造物であってもよい。
【0029】
壁状構造物100の厚みは、例えば数十cm~1m程度またはそれ以上の厚みの場合もある。壁状構造物100の内部には、補強用の鉄筋として、上下方向に延びる複数の主筋102と、水平方向に延びる複数の配筋103とが配設されている。複数の主筋102は、壁状構造物100の長手方向に互いに間隔をあけて配設されている。また、複数の配筋103は、壁状構造物100の高さ方向に互いに間隔をあけて配設されており、複数の主筋102に対して結束線等によって固定されている。主筋102及び配筋103は、壁状構造物100の厚み方向中央部から一側に離れた部分と、厚み方向中央部から他側に離れた部分とにそれぞれ配設されており、一側の主筋102及び配筋103と、他側の主筋102及び配筋103とは、壁状構造物100の厚み方向に所定の間隔をあけて配設されることになる。
【0030】
上述したような厚みの厚い壁状構造物100の場合、打設後のコンクリートの収縮の際に既設の底版コンクリートに拘束されることで壁状構造物100にひび割れが発生する。こうしたひび割れの発生自体を防止することは困難である。このため、ひび割れの発生自体を防止するよりも、壁状構造物100の耐久性を低下させないようにひび割れを発生させる技術としてひび割れ誘発目地構造が壁状構造物100に適用される。本実施形態に係る壁状構造物100には、ひび割れを所望の箇所にのみ発生させるべく、ひび割れを誘発させる外側誘発目地部材50及び内側誘発目地材60が配設されている。外側誘発目地部材50及び内側誘発目地材60は、壁状構造物100の長手方向に所定の間隔をあけて複数組設けることができる。
【0031】
外側誘発目地部材50は、後述する固定具1によって配筋103に固定されている。よって、壁状構造物100は、コンクリート101、主筋102、配筋103、外側誘発目地部材50、内側誘発目地材60及び固定具1を備えたものである。
【0032】
(誘発目地部材)
外側誘発目地部材50は、一側の主筋102及び配筋103よりも壁状構造物100の厚み方向外側の被り部分、及び、他側の主筋102及び配筋103よりも壁状構造物100の厚み方向外側の被り部分にそれぞれ配設されている。また、内側誘発目地材60は、一側の主筋102及び配筋103よりも壁状構造物100の厚み方向内側、及び、他側の主筋102及び配筋103よりも壁状構造物100の厚み方向内側にそれぞれ配設されている。したがって、この実施形態では、壁状構造物100の厚み方向に2つの外側誘発目地部材50と、2つの内側誘発目地材60とが直線状に並ぶように配設されることになる。外側誘発目地部材50及び内側誘発目地材60は、壁状構造物100の内部に断面欠損を生じさせることによって当該壁状構造物100にひび割れを誘発するための部材であることから、断面欠損部材と呼ぶこともできる。尚、図示しないが、2つの内側誘発目地材60の間に同様に構成された別の誘発目地材を配設してもよい。また、内側誘発目地材60は、必要に応じて配設すればよく、省略してもよい。
【0033】
内側誘発目地材60は、壁状構造物100の厚み方向に延びるとともに、上下方向にも延びる板状部材で構成されている。
図2に示すように、内側誘発目地材60は、芯材61と、芯材61の両面にそれぞれ貼り付けられた粘着層62とを備えている。芯材61は、、コンクリートを打設する際に、流動するコンクリートによって変形しない剛性を有していればよく、例えば、金属、硬質ゴム、硬質プラスチック等の剛性材料で構成することができる。粘着層62は、コンクリートに対して密着する高分子材料からなり、例えばブチルゴム等で構成することができる。ブチルゴム系粘着剤は、コンクリートとの接着性が高い点で好ましい。
【0034】
内側誘発目地材60は、断面欠損に必要な長さを確保するという観点からは、異物として壁状構造物100の内部に埋設されていれば十分なので、上記した芯材61のみで構成されていてもよい。ただし、ひび割れが内側誘発目地材60に沿っても発生するので、このひび割れからの漏水等を一層完全に防止するという観点からは、内側誘発目地材60に粘着層62を形成し、芯材61の少なくとも一部またはを被覆しておくことが好ましい。
【0035】
内側誘発目地材60には、配筋103に固定される被固定部60aが設けられている。被固定部60aは、芯材61の端部を配筋103に沿うように屈曲させることによって形成されている。例えば、被固定部60aに貫通孔(図示せず)を設け、この貫通孔に対して結束線(図示せず)を挿通し、この結束線によって被固定部60aを配筋103に対して縛りつけることができる。また、被固定部60aによる固定に加えて、固定金具63によっても内側誘発目地材60を配筋103に固定することができる。固定金具63は、内側誘発目地材60の被固定部60aと反対側の端部を配筋103に固定するための金具であり、例えば番線のような線材で構成することができる。
【0036】
(第1例に係る外側誘発目地部材)
図1~
図3は、第1例に係る外側誘発目地部材50を示している。第1例に係る外側誘発目地部材50は、上下方向に延びる芯材51と、止水性を確保するための粘着層52とを備えている。外側誘発目地部材50の芯材51及び粘着層52は、それぞれ内側誘発目地材60の芯材51及び粘着層52と同様な材料で構成されているが、内側誘発目地材60のものとは形状が異なっている。すなわち、外側誘発目地部材50の芯材51は、壁状構造物100の厚み方向外側へむけて突出する突出部51aと、突出部51aから互いに離れる方向に延びる一対の延出板部51b、51bとを備えている。外側誘発目地部材50の幅方向は、延出板部51b、51bの延出方向、即ち配筋103の軸線方向に沿う方向である。
【0037】
芯材51の水平方向の断面形状は、当該芯材51の下端部から上端部まで同一である。芯材51の突出部51a及び一対の延出板部51b、51bは、1枚の板材で構成することができるが、これに限らず、複数の板材を接続することによって構成してもよい。
【0038】
図3に示すように、突出部51aの幅は、当該突出部51aの突出方向基端部から先端部まで略同じに設定されている。突出部51aの突出量は、所望の断面欠損率が得られるように、任意の量に設定することができる。また、一対の延出板部51b、51bは、突出部51aの突出方向に対して略直交する方向(幅方向)に延出しており、延出方向の寸法は略同一である。従って、外側誘発目地部材50の幅方向中央部に突出部51aが位置することになる。さらに、一対の延出板部51b、51bは、外側誘発目地部材50の幅方向に延びる略同一面上に位置付けられるようになっている。外側誘発目地部材50の粘着層52は、突出部51aの外面から延出板部51b、51bまで連続して設けられている。
【0039】
外側誘発目地部材50は、当該外側誘発目地部材50の幅方向中央部、即ち突出部51aが内側誘発目地材60の延長線上に位置するように、内側誘発目地材60との相対的な位置関係が設定されている。これにより、外側誘発目地部材50の突出部51aと、内側誘発目地材60とによって壁状構造物100の内部に所定の断面欠損率を得ることができるので、ひび割れを所望の位置に発生させる効果がより一層高まる。
【0040】
また、
図1に示すように、壁状構造物100の厚み方向一方の側面及び他方の側面には、それぞれ埋め込み化粧目地材70、70が配設されている。埋め込み化粧目地材70は、壁状構造物100の表面に断面欠損を生じさせるための部材であり、上下方向に長く形成されている。埋め込み化粧目地材70の材料としては、例えば耐候性に優れた樹脂材等で構成されている。埋め込み化粧目地材70も内側誘発目地材60の延長線上に位置している。埋め込み化粧目地材70と外側誘発目地部材50の突出部51aとの距離を短くすることで、ひび割れを狙い通りに発生させやすくなる。
【0041】
(第2例に係る外側誘発目地部材)
図4、
図5は、第2例に係る外側誘発目地部材80を示している。第2例に係る外側誘発目地部材80は、突出部の形状が第1例の外側誘発目地部材50とは異なっている。すなわち、第2例の外側誘発目地部材80は、上下方向に延びる芯材81と、粘着層82とを備えている。芯材81に形成されている突出部81aの幅は、突出方向基端部に近づくほど広く、突出方向先端部に近づくほど狭くなるように設定されている。従って、突出部81aの水平方向の断面は三角形に近い形状になり、突出部81aの基端部は開放されているので、幅方向に押圧力を作用させると、突出部81aを構成している板部が弾性変形して突出部81aの幅方向の寸法が短くなる。また、突出部81aの基端部には、一対の延出部81b、81bが互いに反対方向へ延出するように形成されているので、突出部81aの幅方向の寸法が短くなると、一対の延出部81b、81bの間隔が狭くなり、よって、外側誘発目地部材80の幅方向の寸法が短くなる。
【0042】
外側誘発目地部材80は、当該外側誘発目地部材80の幅方向中央部、即ち突出部81aの突出方向先端部が内側誘発目地材60の延長線上に位置するように、内側誘発目地材60との相対的な位置関係が設定されている。これにより、所定の断面欠損率を得ることができるので、ひび割れを所望の位置に発生させる効果がより一層高まる。尚、第2例に係る外側誘発目地部材80の場合も埋め込み化粧目地材70を設けることができる。
【0043】
(第1例に係る誘発目地部材の固定具)
次に、
図1及び
図2に示す第1例に係る外側誘発目地部材50を配筋103に固定するための誘発目地部材の固定具1の構造について説明する。
図1に示すように、1つの外側誘発目地部材50が上下方向に長い形状を有しているので、1つの外側誘発目地部材50の上下方向に離れた複数箇所をそれぞれ固定具1によって配筋103、103、…に固定する。固定具1は、同じものであるため、以下、そのうちの1つの固定具1の構造について詳細に説明する。
【0044】
図2に示すように、固定具1は、水平方向に延びる配筋103に取り付けられる鉄筋取付部2と、外側誘発目地部材50が取り付けられる誘発目地部材取付部3とを備えており、誘発目地部材取付部3が鉄筋取付部2に固定されることによって一体化したものである。鉄筋取付部2は、弾性を持った金属材料で構成されており、配筋103の外周面にそれぞれ当接して当該配筋103を挟持する第1挟持部21及び第2挟持部22とを有している。第1挟持部21及び第2挟持部22は、それぞれ上下方向に撓み変形可能になっている。
【0045】
図6に示すように、鉄筋取付部2は、誘発目地部材取付部3に固定される固定部20を有している。固定部20、第1挟持部21及び第2挟持部22は、1つの部材で一体成形されている。固定部20は、誘発目地部材取付部3に対して溶接や各種締結部材、爪嵌合構造等によって固定される部分である。第1挟持部21は、固定部20の上部から突出するように形成され、配筋103の外周面における上側部分に対して上から当接する。第1挟持部21は、突出方向中間部が最も上に位置し、そこから突出方向基端部に近づくほど及び先端部に近づくほど下に位置するように湾曲している。この湾曲形状は、配筋103の外周面の上側の形状に略対応した形状になっている。
【0046】
一方、第2挟持部22は、固定部20の下部から突出するように形成され、配筋103の外周面における下側部分に対して下から当接する。第2挟持部22は、突出方向中間部が最も下に位置し、そこから突出方向基端部に近づくほど及び先端部に近づくほど上に位置するように湾曲している。この湾曲形状は、配筋103の外周面の下側の形状に略対応した形状になっている。
【0047】
第1挟持部21の突出方向中間部と、第2挟持部22の突出方向中間部とによって配筋103を上下方向(径方向)に挟持する。すなわち、第1挟持部21の突出方向中間部と、第2挟持部22の突出方向中間部との上下方向の離間寸法は、配筋103の外径寸法よりも短く設定されており、配筋103を第1挟持部21と第2挟持部22との間に押し込むようにすることで、第1挟持部21と第2挟持部22とが弾性変形して両者の間隔が広がる。これにより、配筋103を第1挟持部21と第2挟持部22との間に入れることが可能になる。配筋103を第1挟持部21と第2挟持部22との間に入れた後は、第1挟持部21と第2挟持部22との復元力により、配筋103は第1挟持部21と第2挟持部22によって挟持される。このときの挟持力は材料の種類や第1挟持部21及び第2挟持部22の厚み、幅等によって任意に設定することができ、この実施形態では固定された外側誘発目地部材50の重量によって当該外側誘発目地部材50の位置がずれないように上記挟持力が設定されている。
【0048】
図7に示すように、第1挟持部21には、複数の開口部21aが設けられているが、この開口部21aは必要に応じて設ければよく、省略してもよい。第1挟持部21の突出方向先端部に近い部分には、下方へ突出する第1爪部21bが形成されている。
図6に示すように、第1爪部21bは、配筋103の外周面に係止する部分であり、これにより、配筋103の抜けを抑制できるとともに、鉄筋取付部2が配筋103の軸方向に移動すること、及び鉄筋取付部2が配筋103の周方向に回動することを抑制できる。第1爪部21bは、開口部21aの周縁部に設けることができる。尚、第2挟持部22にも第1挟持部21と同様な開口部(図示せず)が形成されるとともに、第2爪部22bが形成されている。第1爪部21b及び第2爪部22bは必要に応じて設ければよく、省略してもよい。
【0049】
図2に示すように、第1挟持部21における突出方向と交差する方向の一縁部は、内側誘発目地材60に当接する位置決め部21cとされている。位置決め部21cが内側誘発目地部材60の側面に当接することで、固定具1が配筋103の軸方向(壁状構造物10の長手方向)について位置決めされる。固定具1が配筋103の軸方向に位置決めされると、当該固定具1に取り付けられる外側誘発目地部材50も同方向について位置決めされることになり、この位置決めされた状態にある外側誘発目地部材50の幅方向中央部が内側誘発目地部材60の延長線上に位置するように、鉄筋取付部2の誘発目地部材取付部3に対する相対的な位置関係が設定されている。つまり、鉄筋取付部2の位置決め部21cは、内側誘発目地部材60に当接し、当該内側誘発目地部材60の延長線上に外側誘発目地部材50の幅方向中央部が位置するように当該外側誘発目地部材50を位置決めするための部分である。尚、第2挟持部22にも同様な位置決め部(図示せず)が設けられているので、内側誘発目地部材60には、上下方向に互いに離れた2つの位置決め部21cが当接することになる。位置決め部21cは、例えば上下方向に延びる面で構成されていてもよい。
【0050】
図8に示すように、誘発目地部材取付部3は、外側誘発目地部材50の幅方向一端部から他端部まで延びる板材30で構成されている。板材30を構成する材料は弾性を有していればよく、例えば金属、硬質樹脂、またはそれらの組み合わせ等を挙げることができる。板材30を構成する材料と、外側誘発目地部材50の芯材51を構成する材料とは同一であってもよい。板材30の幅方向と、外側誘発目地部材50の幅方向とは同じ方向となっている。板材30の幅方向中間部には、鉄筋取付部2の固定部20が固定される平板部31が設けられている。平板部31は、上下方向に延びるとともに、板材30の幅方向に略平坦に延びている。平板部31の上下方向中間部に、鉄筋取付部2の固定部20が固定されている。
【0051】
平板部31は、板部30の幅方向中央部ではなく、板部30の幅方向中央部から幅方向一側へ所定量だけ偏位している。平板部31には固定部20が固定されるので、平板部31を幅方向一側へ偏位させることで、鉄筋取付部2も幅方向一側へ偏位することになる。鉄筋取付部2の幅方向一側への偏位量(上記所定量)は、上述したように、鉄筋取付部2の位置決め部21cを内側誘発目地部材60の側面に当接させた状態で、内側誘発目地部材60の延長線上に外側誘発目地部材50の幅方向中央部が位置するように設定されている。
【0052】
板材30は、平板部31と、第1板部32と、第2板部33と、第1係合部34と、第2係合部35とを有している。平板部31、第1板部32、第2板部33、第1係合部34及び第2係合部35は、1枚の板材30をプレス成形することによって得られた部分であり、これにより部品点数の削減を図っている。第1係合部34は、板材30の幅方向一端部に設けられており、外側誘発目地部材50の幅方向一端部に係合する部分である。第1係合部34は、板材30における外側誘発目地部材50の幅方向一端部に対応する部分を他端部側へ向けて屈曲させることによって構成されており、外側誘発目地部材50の幅方向一端部を引っ掛けるようにして係合させることが可能になっている。
【0053】
第2係合部35は、板材30の幅方向他端部に設けられており、外側誘発目地部材50の幅方向他端部に係合する部分である。第2係合部35は、板材30における外側誘発目地部材50の幅方向他端部に対応する部分を一端部側へ向けて屈曲させることによって構成されており、外側誘発目地部材50の幅方向他端部を引っ掛けるようにして係合させることが可能になっている。
図7に示すように、第2係合部35の幅寸法(H2)は、第1係合部34の幅寸法(H1)よりも狭くなっているが、第1係合部34及び第2係合部35は共に外側誘発目地部材50に対してしっかりと引っ掛かるように形成されている。
【0054】
第1係合部34及び第2係合部35は、上下方向に連続して設けられている。これにより、外側誘発目地部材50と、第1係合部34及び第2係合部35との接触面積を広く確保することができるので、固定状態にある外側誘発目地部材50を安定させることができる。また、板材30の幅方向一端部及び他端部を屈曲させることによって第1係合部34及び第2係合部35を設けているので、板材30の幅方向一端部及び他端部の強度を高めることができる。尚、第1係合部34及び第2係合部35は、上下方向に断続して設けられていてもよい。
【0055】
第1係合部34と第2係合部35とは、配筋103の軸線A(
図7に示す)に平行な同一鉛直面上に位置するように、両者の相対的な位置関係が設定されている。つまり、配筋103の軸線Aに対する第1係合部34の径方向(配筋103の径方向)の離間距離と、配筋103の軸線Aに対する第2係合部35の径方向(配筋103の径方向)の離間距離とは同じに設定されている。これにより、外側誘発目地部材50を第1係合部34及び第2係合部35に係合させて配筋103に取り付けた状態で、外側誘発目地部材50の延出板部51b、51bが配筋103と平行に配置されることになる。
【0056】
第1板部32は、平板部31の幅方向一方の縁部(鉄筋取付部2が固定された部分)から第1係合部34へ近づくにつれて配筋103から離れるように形成されている。また、第2板部33は、平板部31の幅方向他方の縁部(鉄筋取付部2が固定された部分)から第2係合部35へ近づくにつれて配筋103から離れるように形成されている。したがって、第1板部32及び第2板部33は、共に配筋103の軸線Aに対して傾斜した傾斜板部で構成されることになるが、第1板部32の傾斜方向と第2板部33の傾斜方向とは反対方向になるので、第1板部32の基端部と第2板部33の基端部とが互いに最も接近しており、第1板部32の先端部と第2板部33の先端部とが互いに最も離れた位置関係になる。
【0057】
外側誘発目地部材50が固定されていないとき、第1板部32は、その基端部近傍が固定端となり、先端部が自由端となるので、例えば第1板部32の先端部を当該第1板部32の厚み方向に押すことで、当該第1板部32をその弾性によって撓み変形させることができる。弾性による撓み変形後、力を除くと形状が復元する。第2板部33も同様に弾性域において撓み変形させることができる。尚、第2板部33の幅が第1板部34の幅よりも短いので、第2板部33の方が小さな力で大きく撓み変形する。
【0058】
図7に示すように、第1板部32の幅寸法(H3)は、第2板部33の幅寸法(H4)よりも短くなっている。これは、平板部31を板部30の幅方向一側へ所定量だけ偏位させていることに起因している。一方、上述したように、配筋103と第1係合部34との離間距離と、配筋103と第2係合部35との離間距離とは同じである。よって、第1板部32の配筋103(軸線)に対する傾斜が、第2板部34の配筋103(軸線)に対する傾斜よりも急になる。
【0059】
第1板部32及び第2板部33を上述したように傾斜させることで、第1板部32及び第2板部33の先端部にそれぞれ設けられている第1係合部34及び第2係合部35を配筋103から離すことができる。これにより、外側誘発目地部材50を壁状構造物100の表面に近づけること、即ち埋め込み化粧目地材70に近づけることができるので、コンクリートの被り部分が厚い場合であってもひび割れを所望箇所に誘発することができる。外側誘発目地部材50と埋め込み化粧目地材70との距離は、第1板部32及び第2板部33の形状や傾斜角度によって任意に設定することができる。
【0060】
(第1例に係る外側誘発目地部材の固定方法)
次に、上記のように構成された第1例に係る固定具1を用いて、第1例に係る外側誘発目地部材50を配筋103に固定する方法について説明する。まず、底版コンクリートの打設後、主筋102及び配筋103を配設した後、内側誘発目地部材60を配筋103に固定する。その後、固定具1の鉄筋取付部2を配筋103に取り付ける。このとき、鉄筋取付部2の第1挟持部21及び第2挟持部22の間に配筋103を押し込んで入れるだけで、第1挟持部21及び第2挟持部22によって配筋103を挟持することができるので、工具は不要である。そして、鉄筋取付部2の位置決め部21cを内側誘発目地部材60の側面に当接させる。位置決め部21cを内側誘発目地部材60の側面に当接させる作業は、第1挟持部21及び第2挟持部22の間に配筋103を押し込むのと同時であってもよいし、第1挟持部21及び第2挟持部22の間に配筋103を押し込んだ後であってもよい。このようにして複数の固定具1を各配筋103に取り付けておく。
【0061】
次いで、外側誘発目地部材50を誘発目地部材取付部3に取り付ける。このとき、
図9に示すように、外側誘発目地部材50の幅方向一端部を誘発目地部材取付部3の第1係合部34に引っ掛けて係合させる一方、外側誘発目地部材50の幅方向他端部は、第2係合部35よりも手前に配置して当該第2係合部35に係合させない状態にしておく。この状態から外側誘発目地部材50の幅方向他端部を第2係合部35に当て、第2係合部35を配筋103に接近する方向に押していくと、第2板部33が配筋103に接近する方向に撓み変形する。この第2板部33は傾斜しているので、配筋103へ近づく方向に撓み変形すると、その先端部にある第2係合部35は第1係合部34から離れる方向へ変位する。第2係合部35が第1係合部34から離れていくと、外側誘発目地部材50の幅方向他端部が第2係合部35を乗り越えて当該第2係合部35に係合可能な位置に移動する。このとき、第2係合部35の寸法H2が第1係合部34の寸法H1よりも短いので、第2板部33を大きく変形させることなく、外側誘発目地部材50の幅方向他端部を第2係合部35に係合させることができる。
【0062】
その後、外側誘発目地部材50を押している力を抜くと、第2板部33が復元して第1係合部34と第2係合部35との離間距離が設計通りの距離になるので、外側誘発目地部材50の幅方向一端部及び他端部が第1係合部34及び第2係合部35に係合する。これにより、外側誘発目地部材50が誘発目地部材取付部3から離脱しなくなるとともに、幅方向の変位が第1係合部34及び第2係合部35によって拘束されるので、コンクリートの流動圧が作用したときの外側誘発目地部材50の位置ずれを抑制できる。
【0063】
また、外側誘発目地部材50の幅方向一端部を第1係合部34に係合させた状態で外側誘発目地部材50の幅方向他端部を配筋103側へ押すだけで、第2板部33の弾性変形を利用して外側誘発目地部材50の幅方向他端部を第2係合部35に係合させることができる。よって、外側誘発目地部材50を固定するのに際して、各種工具は不要であるとともに、簡単な作業で済む。尚、外側誘発目地部材50の幅方向他端部を第2係合部35に係合させる際には、第1板部34が配筋103に接近する方向に撓み変形することもある。また、外側誘発目地部材50の幅方向他端部を第2係合部35に先に係合させ、その後、外側誘発目地部材50の幅方向一端部を第1係合部34に係合させるようにしてもよい。
【0064】
外側誘発目地部材50を固定した後、コンクリート型枠パネルを設置する。コンクリート型枠パネルの設置後、コンクリートを打設する。コンクリートが固化すると、内部に断面欠損を有する壁状構造物100が得られる。
【0065】
(第2例に係る誘発目地部材の固定具)
次に、
図4及び
図5に示す第1例に係る外側誘発目地部材50を配筋103に固定するための誘発目地部材の固定具1Aの構造について説明する。固定具1Aは、鉄筋取付部200と、第2例に係る外側誘発目地部材80が取り付けられる誘発目地部材取付部300とを備えており、誘発目地部材取付部300が鉄筋取付部200に固定されている。鉄筋取付部200は、第1例に係る固定具1の鉄筋取付部2と同じ構造であり、第1挟持部221と、第2挟持部(図示せず)とを備えており、第1挟持部221には複数の開口部221aと、第1爪部221bと、位置決め部221cとが設けられている。同様に、図示しないが第2挟持部にも複数の開口部と、第2爪部と、位置決め部とが設けられている。
【0066】
誘発目地部材取付部300は、第1例の板材30と同様な金属製の板材330で構成されている。板材330は、誘発目地部材80の幅方向一端部に対応する部分から他端部に対応する部分まで平坦に形成されており、配筋103の軸線と平行な鉛直面上に位置するようになっている。この板材330の幅方向中間部には、第1例と同様に鉄筋取付部2の固定部220が固定される平板部331が設けられている。平板部331は、第1例のものと同様に、板部330の幅方向中央部ではなく、幅方向中央部から幅方向一側へ所定量だけ偏位している。
【0067】
板材330は、平板部331と、第1係合部334と、第2係合部335とを有している。第1係合部334は、板材330の幅方向一端部に設けられており、外側誘発目地部材80の幅方向一端部に係合する部分である。第1係合部334は、板材330における外側誘発目地部材80の幅方向一端部に対応する部分を他端部側へ向けて屈曲させることによって構成されており、外側誘発目地部材80の幅方向一端部を引っ掛けるようにして係合させることが可能になっている。また、第2係合部335は、板材330における外側誘発目地部材80の幅方向他端部に対応する部分を他端部側へ向けて屈曲させることによって構成されており、外側誘発目地部材80の幅方向他端部を引っ掛けるようにして係合させることが可能になっている。
図10に示すように、第1係合部334の幅寸法(H1)と、第2係合部35の幅寸法(H2)とは同じに設定されているが、一方が他方より長くてもよい。
【0068】
(第2例に係る外側誘発目地部材の固定方法)
次に、上記のように構成された第2例に係る固定具1Aを用いて、第2例に係る外側誘発目地部材80を配筋103に固定する方法について説明する。まず、内側誘発目地部材60を配筋103に固定し、その後、固定具1Aの鉄筋取付部200を配筋103に取り付ける。そして、鉄筋取付部200の位置決め部221cを内側誘発目地部材60の側面に当接させる。ここまでは第1例と同じである。
【0069】
次いで、外側誘発目地部材80を誘発目地部材取付部300に取り付ける。このとき、
図5に示す形状の外側誘発目地部材80の突出部81aを幅方向両側からつまむようにして持ち、外側誘発目地部材80の幅方向の寸法が短くなるように、当該外側誘発目地部材80を弾性変形させる。具体的には、外側誘発目地部材80の幅方向一端部と他端部との距離が、第1係合部334と第2係合部335との距離よりも短くなるように外側誘発目地部材80を弾性変形させ、この状態で、外側誘発目地部材80の延出部81b、81bを板材330に当接させる。その後、力を除くと、外側誘発目地部材80の形状が復元して、外側誘発目地部材80の幅方向一端部及び他端部が第1係合部334及び第2係合部335に係合する。従って、外側誘発目地部材80を配筋103に固定するにあたって工具は不要であるとともに、簡単な作業で済む。
【0070】
また、外側誘発目地部材80の幅方向一端部を先に第1係合部334に引っ掛けるようにして係合させておき、その後、外側誘発目地部材80を弾性変形させて幅を縮めてから、外側誘発目地部材80の幅方向他端部を第2係合部335に引っ掛けるようにしてもよい。
【0071】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、固定具1の鉄筋取付部2の第1挟持部21及び第2挟持部22によって配筋103を挟持することで、鉄筋取付部2を配筋103に取り付けることができる。そして、その鉄筋取付部2に固定されている誘発目地部材取付部3の第1係合部34及び第2係合部35に、外側誘発目地部材50の幅方向一端部及び他端部をそれぞれ係合させることで、外側誘発目地部材50を誘発目地部材取付部3に取り付けることができる。したがって、外側誘発目地部材50を配筋103に取り付ける際に、結束線やボルト、ナットが不要になるので、ハッカーやラチェットを使わずに済み、外側誘発目地部材50を簡単な作業でかつ確実に、しかも短時間で固定することができる。
【0072】
また、第1例に係る内側誘発目地部材50を誘発目地部材取付部3の第1係合部34及び第2係合部35に係合させる際には、内側誘発目地部材50を一方の係合部に引っ掛けた状態にして他方の係合部を押すようにすることで、誘発目地部材取付部3の弾性変形を利用して簡単に係合させることができる。
【0073】
また、第2例に係る内側誘発目地部材80を誘発目地部材取付部300の第1係合部334及び第2係合部335に係合させる際には、内側誘発目地部材80の幅が狭くなるように当該内側誘発目地部材80を弾性変形させて第1係合部334及び第2係合部335の間に配置した後、内側誘発目地部材80の形状を復元させるだけでよく、簡単に係合させることができる。
【0074】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明に係る誘発目地部材の固定具は、コンクリート構造物に配設される断面欠損部材を固定する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1、1A 固定具
2 鉄筋取付部
3 誘発目地部材取付部
21 第1挟持部
22 第2挟持部
30 板材
32 第1板部
33 第2板部
34 第1係合部
35 第2係合部
50 外側誘発目地部材
60 内側誘発目地材
80 外側誘発目地部材
100 壁状構造物
103 配筋(鉄筋)