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特許7210076偏光フィルム、偏光フィルムの成型方法および偏光レンズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】偏光フィルム、偏光フィルムの成型方法および偏光レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230116BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20230116BHJP
   B29C 43/58 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
G02B5/30
G02C7/12
B29C43/58
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020522590
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2019021525
(87)【国際公開番号】W WO2019230884
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-12-29
(31)【優先権主張番号】P 2018104626
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018104627
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018104628
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】松江 葵
(72)【発明者】
【氏名】濱本 輝文
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-263021(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021466(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/030603(WO,A1)
【文献】特表2017-504070(JP,A)
【文献】特開2014-142440(JP,A)
【文献】特開2004-126414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02C 1/00-13/00
B29C39/10
B29C43/58
B29C51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムを成型面に押し当てて形状が成型された偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムは、成型前に、Tg-20℃以上、50℃以下(ここで、Tgは前記偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点である。)の温度範囲で熱処理されたものであり、
前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差が5%以下であることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項2】
前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の低下率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
前記偏光フィルムは、成型前に、相対湿度が20%以上、70%以下の雰囲気で保持されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光フィルム。
【請求項4】
前記偏光フィルムは、1つのチャンバー内を、該チャンバー内に配置した偏光フィルムによって、第1の空間と、成型型を配設した第2の空間とに仕切り、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、成型型の成型面に沿って形状が成型された偏光フィルムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項5】
前記偏光フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素および色素を含浸させたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項6】
前記偏光フィルムは、レンズ内部に偏光フィルムが埋設された偏光レンズの製造に用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の偏光フィルムをレンズ内部に挟み込んでレンズを成形する工程を含むことを特徴とする偏光レンズの製造方法。
【請求項8】
偏光フィルムを曲面の形状に成型する方法であって、
前記偏光フィルムの形状を成型する際に、前記偏光フィルムを、Tg-20℃以上、50℃以下(ここで、Tgは前記偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点である。)の温度範囲で熱処理することを特徴とする偏光フィルムの成型方法。
【請求項9】
前記偏光フィルムの形状を成型する際に、前記偏光フィルムを、相対湿度が20%以上、70%以下の雰囲気に放置する処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の偏光フィルムの成型方法。
【請求項10】
成型前の偏光フィルムを、相対湿度が20%以上、70%以下の雰囲気に放置する処理を行い、次いで、前記熱処理を行うことを特徴とする請求項9に記載の偏光フィルムの成型方法。
【請求項11】
1つのチャンバー内を、該チャンバー内に配置した前記偏光フィルムによって、第1の空間と、成型型を配設した第2の空間とに仕切り、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、前記偏光フィルムを成型型の成型面に沿って転写成型することを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
【請求項12】
前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差は5%以下であることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
【請求項13】
前記偏光フィルムは、レンズ内部に偏光フィルムが埋設された偏光レンズの製造に用いることを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法によって、偏光フィルムの形状を成型する工程と、
成型した前記偏光フィルムをレンズ内部に挟み込んでレンズを成形する工程と、
を含むことを特徴とする偏光レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光レンズ内部に埋設される偏光フィルム、偏光フィルムの成型方法、および、レンズ内部に偏光フィルムを挟み込んで形成される偏光レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水面などにより反射された所定の偏光方向の光を遮断する眼鏡用の偏光プラスチックレンズが知られている。
たとえば、特許文献1には、レンズ内部に偏光フィルムが埋設された偏光レンズであって、所定のレンズ面形状となるように曲面加工を行った偏光フィルムを間隔をもって挟み込むように対向配置された上型モールドおよび下型モールドと、上型モールドと下型モールドの間隔を閉塞するシール部材とにより、内部に偏光フィルムが配置されたキャビティを有する成形型を組み付け、このキャビティ内に硬化性組成物を注入してから、加熱等により硬化性組成物を硬化させることによって製造される偏光レンズの製造方法が開示されている。このような製造方法は、一般に、注型重合法またはキャスティング法とも呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/021466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記製造方法により作製された偏光レンズにおいては、曲面加工前の元の偏光フィルムが有していた偏光性能や透過率が低下してしまい、良好な偏光性能を有する偏光レンズが得られないことがあった。本発明者らの検討によると、これは、偏光フィルムの分子配向性が曲面加工時の加熱及び加湿により劣化してしまうことが原因であることが判明した。
【0005】
上記特許文献1に開示されているような従来の偏光レンズの製造方法では、最初に偏光フィルムの曲面加工を行っている。具体的には、曲面加工後の偏光フィルムの変形等を出来るだけ少なくするために、曲面加工前のフィルム状の偏光フィルムを高温高湿下(例えば70℃以上、99%RH)で湿潤(加湿及び加熱)させてから、プレス装置を用いて所定のレンズ面形状となるように曲面加工を行っている。一般に、偏光フィルムとしては、例えばポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素、色素(染料)を含浸させたものをフィルム状に形成して一軸方向に延伸したものが使用されている。一軸延伸することで、フィルムの非晶部分が引き伸ばされ、フィルム中のヨウ素や色素分子を一定方向に配向させている。偏光フィルムは、このようにフィルム中にヨウ素や色素分子が一定方向に配向していることで偏光性能を発現している。
【0006】
ところが、上記のように偏光フィルムを高温高湿下で湿潤させると、フィルムが収縮(変形)し、フィルム中のヨウ素や色素分子の配向が乱れてしまい、偏光フィルムの分子配向性が劣化してしまう。分子配向性が劣化してしまうと、フィルムの透過率も低下してしまい、そのような偏光フィルムを用いて偏光レンズを製造しても、良好な透過率と偏光性能を持った偏光レンズは得られない。
【0007】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、第1に、形状が成型された偏光フィルムであって、成型の前後で透過率の低下が抑制された偏光フィルムを提供することであり、第2に、このような成型後の透過率の低下が抑制された偏光フィルムを用いて、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズの製造方法を提供することである。
【0008】
また、第3に、成型前の偏光フィルムが有している配向性を維持しながら曲面等の形状に延伸成型でき、成型後の透過率の低下を抑制できる偏光フィルムの成型方法を提供することであり、第4に、このような方法で成型された偏光フィルムを用いて、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズの製造方法を提供することである。
【0009】
また、第5に、作業工程が簡便であり、成型後のフィルム面の異物付着を低減できる偏光フィルムの成型方法を提供することであり、第6に、このような方法で成型された偏光フィルムを用いて、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得るためには、形状が成型され、成型の前後で透過率の低下が抑制された偏光フィルムが必要となってくる。そのためには、成型前の偏光フィルムの配向性を劣化させることなく、偏光フィルムを所定の形状に成型する必要がある。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、偏光フィルムの形状を成型する際に、偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点Tgを含む所定の温度範囲で当該偏光フィルムを熱処理することにより、成型前の偏光フィルムが有している配向性を維持して偏光フィルムの形状を成型できることを見出した。また、偏光フィルムを成型する際の偏光フィルムの配向性を維持するためには、偏光フィルムの形状を成型する際に、あまり湿度の高くない雰囲気に偏光フィルムを放置することにより、水分含有率の少ない偏光フィルムを成型に用いることがより好ましいことも見出した。
本発明は以上の知見に基づきなされたものである。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
偏光フィルムを成型面に押し当てて形状が成型された偏光フィルムであって、前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差が5%以下であることを特徴とする偏光フィルム。
(構成2)
前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の低下率が10%以下であることを特徴とする構成1に記載の偏光フィルム。
【0013】
(構成3)
前記偏光フィルムは、成型前に、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下(ここで、Tgは前記偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点である。)の温度範囲で熱処理されたものであることを特徴とする構成1又は2に記載の偏光フィルム。
(構成4)
前記偏光フィルムは、成型前に、相対湿度が20%以上、70%以下の雰囲気で保持されたものであることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の偏光フィルム。
【0014】
(構成5)
前記偏光フィルムは、1つのチャンバー内を、該チャンバー内に配置した偏光フィルムによって、第1の空間と、成型型を配設した第2の空間とに仕切り、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、成型型の成型面に沿って形状が成型された偏光フィルムであることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の偏光フィルム。
(構成6)
前記偏光フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素および色素を含浸させたものであることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の偏光フィルム。
【0015】
(構成7)
前記偏光フィルムは、レンズ内部に偏光フィルムが埋設された偏光レンズの製造に用いることを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の偏光フィルム。
(構成8)
構成1乃至7のいずれかに記載の偏光フィルムをレンズ内部に挟み込んでレンズを成形する工程を含むことを特徴とする偏光レンズの製造方法。
【0016】
(構成9)
偏光フィルムを曲面等の形状に成型する方法であって、前記偏光フィルムの形状を成型する際に、前記偏光フィルムを、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下(ここで、Tgは前記偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点である。)の温度範囲で熱処理することを特徴とする偏光フィルムの成型方法。
(構成10)
前記偏光フィルムの形状を成型する際に、前記偏光フィルムを、相対湿度が20%以上、70%以下の雰囲気に放置する処理を行うことを特徴とする構成9に記載の偏光フィルムの成型方法。
【0017】
(構成11)
成型前の偏光フィルムを、相対湿度が20%以上、70%以下の雰囲気に放置する処理を行い、次いで、前記熱処理を行うことを特徴とする構成10に記載の偏光フィルムの成型方法。
(構成12)
1つのチャンバー内を、該チャンバー内に配置した前記偏光フィルムによって、第1の空間と、成型型を配設した第2の空間とに仕切り、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、前記偏光フィルムを成型型の成型面に沿って転写成型することを特徴とする構成9乃至11のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
【0018】
(構成13)
前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差は5%以下であることを特徴とする構成9乃至12のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
(構成14)
前記偏光フィルムは、レンズ内部に偏光フィルムが埋設された偏光レンズの製造に用いることを特徴とする構成9乃至13のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
【0019】
(構成15)
構成9乃至14のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法によって、偏光フィルムの形状を成型する工程と、成型した前記偏光フィルムをレンズ内部に挟み込んでレンズを成形する工程と、を含むことを特徴とする偏光レンズの製造方法。
【0020】
(構成16)
偏光フィルムの形状を成型する方法であって、1つのチャンバー内を、該チャンバー内に配置した偏光フィルムによって、第1の空間と、成型型を配設した第2の空間とに仕切り、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、前記偏光フィルムを成型型の成型面に沿って転写成型することを特徴とする偏光フィルムの成型方法。
(構成17)
最初に、前記第1の空間内と前記第2の空間内の両方を真空状態とし、次いで、前記第1の空間内を大気圧に戻すことにより、前記偏光フィルムを成型型の成型面に沿って転写成型することを特徴とする構成16に記載の偏光フィルムの成型方法。
【0021】
(構成18)
前記第1の空間内と前記第2の空間内の両方を真空状態とした後、成型型の成型面を前記偏光フィルム面に押し当て、次いで、前記第1の空間内を大気圧に戻すことを特徴とする構成17に記載の偏光フィルムの成型方法。
(構成19)
前記偏光フィルムの形状を成型する際に、前記偏光フィルムを、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下(ここで、Tgは前記偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点である。)の温度範囲で熱処理することを特徴とする構成16乃至18のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
【0022】
(構成20)
前記偏光フィルムをチャンバー内に配置する前に、前記偏光フィルムを、相対湿度が20%以上、70%以下の雰囲気に放置する処理を行うことを特徴とする構成16乃至19のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
(構成21)
前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差は5%以内であることを特徴とする構成19又は20に記載の偏光フィルムの成型方法。
【0023】
(構成22)
前記偏光フィルムは、レンズ内部に偏光フィルムが埋設された偏光レンズの製造に用いることを特徴とする構成16乃至21のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法。
(構成23)
構成16乃至22のいずれかに記載の偏光フィルムの成型方法によって、偏光フィルムの形状を成型する工程と、成型した前記偏光フィルムをレンズ内部に挟み込んでレンズを成形する工程と、を含むことを特徴とする偏光レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、たとえば曲面等の形状が成型された偏光フィルムであって、成型の前後で透過率の低下が抑制されており、成型後の偏光性能も良好な偏光フィルムを提供することができる。また、本発明の偏光レンズの製造方法によれば、このような成型後の透過率の低下が抑制された偏光フィルムを用いることにより、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができる。
【0025】
また、本発明の偏光フィルムの成型方法によれば、成型前の偏光フィルムが有している配向性を維持しながら曲面等の形状に延伸成型でき、成型後の透過率の低下を抑制することができ、成型後の偏光性能も良好なものが得られる。また、本発明の方法で成型された偏光フィルムを用いることにより、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができる。
【0026】
また、本発明の偏光フィルムの成型方法によれば、成型型の成型面の頂部からフィルムの転写が開始され、成型面の外周側に向かってフィルムが延伸転写されていくため、成型面の形状に沿った忠実な成型が行われる。また、作業工程が簡便であり、特に、偏光フィルムの成型面と接触していない側の面はいずれの部材とも非接触の状態で成型が行われるため、少なくともフィルムの非接触面においては成型時の異物付着等を抑制することができる。また、本発明の方法で成型された偏光フィルムを用いることにより、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る偏光レンズの一実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係る偏光レンズの製造工程の概略を示す図である。
図3】本発明に用いる偏光フィルムの断面図である。
図4】本発明に係る偏光フィルムの成型方法の一実施形態を説明するための概略図である。
図5】本発明に係る偏光フィルムの成型方法の一実施形態に使用される成型装置の概略構成図である。
図6】偏光フィルムの成型方法の他の実施形態を説明するための概略図である。
図7】偏光レンズの製造に用いられる成形鋳型の組み付けを説明するための図である。
図8】成型鋳型を構成する上型モールドと下型モールドと偏光フィルムとの関係を説明する図である。
図9】上型モールドに偏光フィルムを保持するための保持部材が配設された状態を示す図である。
図10】偏光レンズの製造に用いられる成形鋳型の組み付けを説明するための図である。
図11】成形鋳型内にレンズモノマーを注入している状態を示す図である。
図12】実施例1の偏光フィルムにおける曲面への加工前後の透過率曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳述する。
【0029】
[偏光レンズ]
図1は、本発明に係る偏光レンズの一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の偏光レンズ10は、メニスカス形状を有するプラスチックレンズであり、第1のレンズ基材11と第2のレンズ基材12と、その両レンズ基材11、12の間に挟まれ、曲面加工された偏光フィルム21とから構成されている。第1のレンズ基材11は、偏光フィルム21に対してレンズの物体側(凸面側)に設けられ、第2のレンズ基材12は、レンズの眼球側(凹面側)に設けられている。また、第1のレンズ基材11および第2のレンズ基材12は、ともにメニスカス形状を有しており、第1のレンズ基材11において、凸面側11aがレンズの凸面部となっており、凹面側が偏光フィルム21に当接する面となっている。同様に、第2のレンズ基材12において、凹面側12aがレンズの凹面部であり、凸面側が偏光フィルム21に当接する面となっている。
【0030】
なお、レンズの物体側の面とは、レンズを構成する面のうち、レンズを眼鏡として装用した場合に視認される対象側となる面をいう。また、レンズの眼鏡側の面とは、レンズを構成する面のうち、レンズを眼鏡として装用した場合に装用者の眼球側となる面をいう。
【0031】
偏光レンズ10の内部に埋設される偏光フィルム21としては、例えば、市販のヨウ素系偏光フィルムを本発明の成型方法によって所定の曲率に曲面加工して、次いでレンズ形状に対応させて外形が円形にカットされた偏光フィルムを使用することができる。
【0032】
本発明に係る偏光レンズ10は、眼鏡レンズとして有用である。
眼鏡レンズは、通常、フィニシュドレンズとセミフィニシュドレンズに大別される。フィニシュドレンズは、レンズ物体側の屈折面(通常、凸面)および眼球側の屈折面(通常、凹面)が、ともに処方レンズ度数を満足する鏡面の光学面であるレンズであり、光学面の曲面加工を必要としないレンズを意味する。なお、フィニシュドレンズには、眼鏡フレームに合わせて玉型加工したレンズと玉型加工前のレンズが含まれるものとする。
【0033】
一方、セミフィニシュドレンズは、通常、一方の面が凸面であり他方の面が凹面であるメニスカス形状を有しているが、視力補正機能を有しないレンズであり、レンズ凸面のみが鏡面加工された光学面を有し、凹面は未加工面である。レンズ製造者側が、レンズ処方度数に対応させて、凹面側を表面加工(研削加工、切削加工、研磨加工など)して視力補正機能を有するレンズを作り出すことができるように、加工により除去される取り代を残したレンズ厚の設計となっている。本発明では、眼鏡レンズといった場合には、以上説明したフィニシュドレンズおよびセミフィニシュドレンズの両方を含むものとする。
【0034】
図1に示すような偏光フィルム21を2枚のレンズ基材11、12で挟み込むタイプの偏光レンズ10では、第1のレンズ基材11のレンズ凸面側11aの屈折面の設計は回転対称面であることが好ましく、特に球面であることが好ましい。モールド製造や偏光フィルムの曲面形成が容易になるからである。
【0035】
図2は、本発明に係る偏光レンズの製造工程の概略を示す図である。
図1に示すような偏光レンズ10の製造工程は、偏光フィルムの形状を成型する工程と、成型した前記偏光フィルムをレンズ内部に挟み込んでレンズを成形する工程とを含む。
【0036】
まず、偏光フィルムの形状を成型する工程では、たとえば市販のヨウ素系の偏光フィルム20(図2(a)参照)を所定の曲率に曲面加工し、成型された偏光フィルム21(図2(b)参照)を作製する。本発明は、この偏光フィルムの成型方法、この曲面等の形状が成型された偏光フィルムに関するものである。詳細は後述する。
【0037】
また、成型した偏光フィルムをレンズ内部に挟み込んでレンズを成形する工程(図2(c)、(d)参照)では、たとえば、キャスティング法(注型重合法)を用いて偏光レンズを製造する。キャスティング法は、上型モールドと下型モールドと、上下のモールド間の距離を調整し、レンズ厚を決定するシール部材とにより形成されるキャビティ内で、レンズモノマーを重合硬化させた後、離型してレンズを取り出す成型法である。なお、図2(c)は、上記キャビティ内にレンズモノマーを注入し、2枚のレンズ基材11、12が未硬化の状態を示しており、図2(d)は、注入したレンズモノマーを加熱等により重合硬化させた後、離型して取り出された偏光レンズである。
【0038】
[偏光フィルム]
次に、本発明に係る偏光フィルムについて説明する。
図3は、本発明に用いる偏光フィルム20の断面図である。本発明に使用される偏光フィルムは、偏光機能を発現するものであれば特に限定されないが、例えばポリビニルアルコール(PVA)からなる樹脂層を備える単層または多層のフィルムであることが好ましい。PVAは、透明性、耐熱性、染色剤であるヨウ素または二色性染料との親和性、延伸時の配向性のいずれもが優れるため特に好ましい。したがって、偏光フィルムとしては、PVAにヨウ素や色素(染料)を含浸させたものをフィルム状に成形して一軸方向に延伸したものが好ましく使用される。一軸延伸することで、フィルムの非晶部分が引き伸ばされ、フィルム中のヨウ素や色素分子を一定方向に配向させている。偏光フィルムは、このようにフィルム中にヨウ素や色素分子が一定方向に配向していることで偏光性能を発現している。また、このようなPVAの単層樹脂層の片面または両面にトリアセチルセルロース(TAC)等を保護層として積層したものでもよい。
【0039】
偏光フィルム20の厚さは、フィルムの曲面加工が可能であれば、特に限定されるものではない。例えば、通常の市販の偏光フィルムであれば、10μm~500μm程度が好ましい。厚さが10μm以上であれば、剛性が強く、取り扱いが容易であり、500μm以下であれば、フィルムの曲面加工が容易だからである。
【0040】
本発明に係る偏光フィルムは、上記構成1の発明にあるとおり、偏光フィルムを成型面に押し当てて例えば曲面等の形状が成型された偏光フィルムであって、前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差が5%以下であることを特徴とするものである。本発明に係る偏光フィルムによれば、成型の前後で透過率の低下が抑制されており、そのため成型後の偏光性能も良好な偏光フィルムを提供することができる。そして、このような成型後の透過率の低下が抑制された偏光フィルムを用いることにより、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができる。
また、本発明では、偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差が3%以下であることが更に好ましい。
【0041】
また、本発明に係る偏光フィルムは、前記偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、前記偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の低下率が10%以下であることが好ましい(上記構成2の発明)。
【0042】
[偏光フィルムの成型方法]
次に、本発明に係る偏光フィルムの成型方法について説明する。
本発明の偏光フィルムの成型方法は、上記構成9の発明にあるとおり、偏光フィルムを曲面等の形状に成型する方法であって、偏光フィルムの形状を成型する際に、この偏光フィルムを、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理することを特徴とするものである。ここで、Tgは偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点である。偏光フィルムとして、上記のPVAフィルムを用いる場合は、Tgは例えば50℃であるから、上記熱処理の温度範囲は、具体的には、30℃以上、60℃以下である。
【0043】
前にも説明したように、前記特許文献1に開示されているような従来の偏光レンズの製造方法では、偏光フィルムの曲面加工を行う際、曲面加工後の偏光フィルムの変形等を出来るだけ少なくするために、曲面加工前のフィルム状の偏光フィルムを高温高湿下(例えば70℃以上、99%RH)で湿潤(加湿及び加熱)させてから、プレス装置を用いて所定のレンズ面形状となるように曲面加工を行っている。
【0044】
また、上記したように、偏光フィルムは、基材となるPVAなどのフィルムを一軸延伸することで、フィルムの非晶部分が引き伸ばされ、フィルム中のヨウ素や色素分子を一定方向に配向させており、偏光フィルムは、このようにフィルム中にヨウ素や色素分子が一定方向に配向していることで偏光性能を発現している。
【0045】
ところが、本発明者らの検討によると、偏光フィルムの分子配向性が曲面加工時の加熱及び加湿により劣化してしまうことが判明した。すなわち、上記のように曲面加工を行う際、偏光フィルムを高温高湿下で湿潤させると、フィルムが収縮(変形)し、フィルム中のヨウ素や色素分子の配向が乱れてしまい、偏光フィルムの分子配向性が劣化してしまう。分子配向性が劣化してしまうと、フィルムの透過率も低下してしまい、そのような偏光フィルムを用いて偏光レンズを製造しても、良好な透過率と偏光性能を持った偏光レンズは得られない。
【0046】
本発明者らは、このような従来の問題を解決するため鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
すなわち、偏光フィルムの形状を成型する際に、偏光フィルムを構成する樹脂のガラス転移点Tgを含む所定の温度範囲で当該偏光フィルムを熱処理することにより、成型前の偏光フィルムが有している配向性を維持しながら偏光フィルムの形状を成型できることを見出した。
【0047】
つまり、偏光フィルムを曲面等の形状に成型する際に、この成型前の偏光フィルムに対して、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理を行うと、成型前の偏光フィルムが有している配向性を劣化させることなく、要するに成型前の偏光フィルムの配向性を維持しながら所定の曲面等の形状に延伸成型できる。また、その配向性が維持されることの結果として、成型後のフィルムの透過率の低下を抑制することができる。これによって、成型後の透過率や偏光性能も良好なものが得られる。
また、本発明の方法で成型された偏光フィルムを用いて偏光レンズを製造することにより、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができる。
【0048】
なお、上記の偏光フィルムに対して、Tg+10℃よりも高い温度で熱処理を行うと、フィルムが冷結晶化、すなわちポリマーの再配列が起こり分子配向が乱れるため、結果として偏光性能が低下してしまう恐れがある。また、偏光フィルムに対して、Tg-20℃未満の温度で熱処理を行っても、フィルムの軟化温度よりも低いため、所望の形状に成型することが困難である。
【0049】
また、本発明においては、成型前の偏光フィルムを、30℃~60℃の温度範囲で熱処理することがより好ましい。
【0050】
また、偏光フィルムを成型する際の偏光フィルムの配向性を維持するためには、偏光フィルムの形状を成型する際に、たとえば湿度のあまり高くない雰囲気に偏光フィルムを放置することにより、水分含有率の少ない偏光フィルムを成型に用いることがより好ましい。
【0051】
具体的には、偏光フィルムの形状を成型する際に、成型前の処理として、偏光フィルムを、相対湿度が20%以上70%以下の雰囲気に放置する処理を行うことがより好ましい。相対湿度が70%よりも高い雰囲気で処理すると、偏光フィルムの水分含有率が高くなり、偏光フィルムの収縮ないしは変形による配向性の劣化が生じることがあり、また、成型面への転写が良好に行われない。他方、相対湿度の下限値については特に制約はないが、常湿の雰囲気である20%以上であることが好ましい。
【0052】
本発明においては、成型前の偏光フィルムを、相対湿度が20%以上70%以下の雰囲気に放置する処理を行い、次いで、この偏光フィルムに対して、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理を行うことがより好ましい実施態様である。
【0053】
また、本発明においては、上記構成16の発明にあるとおり、偏光フィルムの形状を成型する方法であって、1つのチャンバー内を、該チャンバー内に配置した偏光フィルムによって、第1の空間と、成型型を配設した第2の空間とに仕切り、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、前記偏光フィルムを成型型の成型面に沿って転写成型することを特徴とする偏光フィルムの成型方法を適用することが好適である。
【0054】
図4は、本発明に係る偏光フィルムの成型方法の一実施形態を説明するための概略図である。
図示するように、上チャンバーボックス31と下チャンバーボックス32とが1つのチャンバーを構成している。このチャンバー内は、該チャンバー内に配置した偏光フィルム20によって、第1の空間(図示する上方の空間)と、内部に成型型35を配置した第2の空間(図示する下方の空間)とに仕切られている。このチャンバー内に配置した上記偏光フィルム20は、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理を行っている。
【0055】
最初に、前記第1の空間内と前記第2の空間内の両方を吸引して真空状態とする(図4(a)参照)。次いで、前記第1の空間内を大気圧に戻すことにより(図4(b)参照)、上記偏光フィルム20は成型型35の成型面に沿って転写成型される。つまり、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、上記偏光フィルム20を成型型35の成型面に押し当てて転写成型が行われるわけである。
【0056】
図5は、上述の偏光フィルムの成型方法の一実施形態に使用される成型装置の概略構成図である。
図5を参照して、成型装置の詳細を含め、もう少し詳しく説明する。
【0057】
図5に示される成型装置30は、上チャンバーボックス31と下チャンバーボックス32とを備えている。この上チャンバーボックス31と下チャンバーボックス32とが重なり合って1つのチャンバーを構成している。このチャンバー内は、該チャンバー内に配置した偏光フィルム20によって、第1の空間(図示する上チャンバーボックス31内の空間)と第2の空間(図示する下チャンバーボックス32内の空間)とに仕切られている。上チャンバーボックス31は駆動装置37によって上下方向に移動でき、下チャンバーボックス32と重なり合ったり(図5に示されている状態)、離間したりできるように構成されている。
【0058】
また、上チャンバーボックス31内部の上方には、複数個のヒーター36が配設されている。また、下チャンバーボックス32の内部には、テーブル33上にセット台34を介して成型型35が設置されている。この成型型35は、上記偏光フィルム20に対して所定の形状(レンズ面形状)を付与するための曲面状の成型面を有している。なお、上記テーブル33は、駆動装置38によって、下チャンバーボックス32内部で上昇及び下降する。
【0059】
また、上チャンバーボックス31は、切替えによって真空タンク39と圧空タンク40に接続し、下チャンバーボックス32は、真空タンク39と接続している。
【0060】
以上説明した成型装置にて本発明の偏光フィルムの成型を行うことができる。
まず、上チャンバーボックス31を上昇させて下チャンバーボックス32から離間させた状態で、下チャンバーボックス32の上面開口部全体を覆うように偏光フィルム20を設置する。
【0061】
次に、上チャンバーボックス31を降下させて下チャンバーボックス31と重なり合わせる(図5に示している状態)。上チャンバーボックス31と下チャンバーボックス32とが重なり合って構成する1つのチャンバー内は、該チャンバー内に配置した偏光フィルム20によって、第1の空間(上チャンバーボックス31内の空間)と第2の空間(下チャンバーボックス32内の空間)とに仕切られることになる。
【0062】
次に、真空タンク39を動作させて上記チャンバー内を吸引し、第1の空間(上チャンバーボックス31内の空間)と第2の空間(下チャンバーボックス32内の空間)を同時に真空状態とする。続いて、上記ヒーター36によって、上記偏光フィルム20に対して熱処理を行う。本発明では、上記偏光フィルム20に対して、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理を行うことが好ましい。なお、このような熱処理を行う加熱手段としては、ヒーターに限らず、熱を発する赤外線ランプ等を用いてもよい。また、このような成型装置内で偏光フィルムに対して熱処理を行う実施態様に限らず、例えば成型装置に設置する前の偏光フィルムに対して熱処理を行い、次いで熱処理済みの偏光フィルムを成型装置に設置するようにしてもよい。
【0063】
次に、下チャンバーボックス32内のテーブル33を上昇させて、成型型35の成型面を上記偏光フィルム20の下から当接させる。図5中のテーブル33を破線で示した位置33’は上昇位置を示している。なお、偏光フィルム20を下降させて、成型型35の成型面に偏光フィルム20を当接させる構成としてもよい。
【0064】
次いで、第1の空間(上チャンバーボックス31内の空間)内を大気圧に戻す。必要に応じて、圧空タンク40から圧縮空気を送るようにしてもよい。これによって、前述の図4(b)に示すように、上記偏光フィルム20は成型型35の成型面に沿って転写成型される。この場合、成型型35の成型面の頂部からフィルムの転写が開始され、成型面の外周側に向かってフィルムが延伸転写されていくため、成型面の形状に沿った忠実な成型が行われる。
【0065】
最後に、第2の空間(下チャンバーボックス32内の空間)内を大気圧に戻した後、上チャンバーボックス31を上昇させてチャンバーを開放し、中から成型された偏光フィルム21を取り出す。
【0066】
以上は、最初に、前記第1の空間内と前記第2の空間内の両方を真空状態とし、次いで、前記第1の空間内を大気圧に戻す場合を説明したが、要するに、第1の空間内の圧力と第2の空間内の圧力とを異ならしめることにより生じる差圧によって、上記偏光フィルム20を成型型35の成型面に押し当てて転写成型が行われるわけである。
【0067】
また、以上説明したような例えば図5に示す成型装置を用いて上記構成16の発明による偏光フィルムの成型方法により偏光フィルムの成型を行うと、偏光フィルムの成型面と接触していない側の面はいずれの部材とも非接触の状態で成型が行われるため、少なくともフィルムの非接触面においては成型時の異物付着等を抑制することができる。すなわち、この偏光フィルムの成型方法によれば、作業工程が簡便であり、成型後のフィルム面の異物付着を低減することができるので、洗浄等の作業負担が減らせ、全体の作業工程の効率化が図れる。
【0068】
本発明の偏光フィルムの成型方法によれば、成型前の偏光フィルムの配向性を維持しながら所定の曲面等の形状に成型できるため、成型後のフィルムの透過率の低下を抑制することができ、これによって、成型後の透過率や偏光性能も良好な成型偏光フィルムが得られる。
本発明によれば、偏光フィルムの形状の成型前と成型後で、偏光フィルムの波長400~700nmにおける平均透過率の差は5%以下である。
【0069】
以上説明したように、偏光フィルムを曲面等の形状に成型する際に、この成型前の偏光フィルムに対して、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理を行い、さらに好ましくは、成型前の処理として、偏光フィルムを、相対湿度が20%以上70%以下の雰囲気に放置する処理を行い、水分含有率の少ない偏光フィルムを成型に用いることにより、成型前の偏光フィルムが有している配向性を劣化させることなく、つまり成型前の偏光フィルムの配向性を維持しながら所定の曲面等の形状に転写成型することができる。また、その配向性が維持されることで、成型後のフィルムの透過率の低下を抑制することができ、成型後の透過率や偏光性能の良好なものが得られる。
【0070】
また、本発明は、従来のプレス成型法によりフィルム成型を行う場合にも好適に適用することができる。
図6は、偏光フィルムの成型方法の他の実施形態を説明するための概略図である。
図6(a)は、雄型部の曲面加工台を示す図であり、この曲面加工台50は、例えばセラミック製の加工基台部50aと例えば球面のガラス型である母型部(51a、51b)とから構成されている。
【0071】
この雄型の母型部にフィルム状の偏光フィルム20を載置させる。この偏光フィルム20は、本発明による熱処理を施したものである。
次いで、図示しない雌型の母型部を有するプレス手段でプレスすることにより(図6(b)参照)、上記母型部51a、51bの形状が転写された湾曲面22a、22bを有する偏光フィルム22が得られる(図6(c)参照)。
【0072】
このようなプレス成型法によるフィルム成型を行う場合においても、成型前の偏光フィルムに対して、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理を行うことにより、成型前の偏光フィルムが有している配向性を維持しながら所定の曲面等の形状にフィルム成型することができ、成型後のフィルムの透過率の低下を抑制することができる。
【0073】
[偏光レンズの製造方法]
次に、本発明の偏光フィルムの成型方法により成型された偏光フィルムを用いた偏光レンズの製造方法について、図7図11を適宜参照して説明する。以下では、偏光レンズを、キャスティング法(注型重合法)を用いて製造する場合を説明する。
【0074】
図7は、偏光レンズの製造に用いられる成形鋳型の組み付けを説明するための図である。図8は、成型鋳型を構成する上型モールドと下型モールドと偏光フィルムとの関係を説明する図である。図9は、上型モールドに偏光フィルムを保持するための保持部材が配設された状態を示す図である。図10は、偏光レンズの製造に用いられる成形鋳型の組み付けを説明するための図である。図11は、成形鋳型内にレンズモノマーを注入している状態を示す図である。
【0075】
キャスティング法は、上下モールドと、上下のモールド間の距離を調整し、レンズ厚を決定するシール部材とにより形成されるキャビティ内で、レンズモノマーを重合硬化させた後、離型してレンズを取り出す成形法である。
【0076】
成型鋳型を構成する上型モールド60と下型モールド80は母型とも呼ばれ、それらの材料としては、ガラス、セラミック、金属、樹脂等を使用することができる。通常、化学強化したガラスが使用される。上型モールド60とは、眼鏡レンズの物体側の面を形成するための成型面を有するモールドをいい、通常、成型面は凸面を形成すべく凹面である。一方、下型モールド80とは、眼鏡レンズの眼球側の面を形成するための成型面を有するモールドをいい、通常、成型面は凹面を形成すべく凸面である。
【0077】
上型モールド60は、通常、キャビティ側に配置される内面(成型面)60aが凹面であって、この凹面の面形状が転写されることにより、重合硬化により得られるレンズの凸面の屈折面が形成される。一方、下型モールド80は、通常、成型面が凸面であって、この凸面の面形状が転写されることにより、重合硬化により得られるレンズの凹面の屈折面が形成される。
【0078】
シール部材としては、ガスケットまたは粘着テープを使用することができる。ガスケットを使用する場合には、通常、バネ等の弾性体からなるクランプ部材で上下モールドを挟持して固定することが一般的である。ただし、ガスケット形状により固定方法は異なるため、これに限定されるものではない。一方、粘着テープの場合には、通常、クランプ部材は必要とされない。以下では、一実施態様として、シール部材として粘着テープを使用する場合を説明する。
【0079】
まず最初に、上型モールド60と偏光フィルム21とを接合させる。この偏光フィルム21は、上述の本発明の成型方法を適用して所定の曲面形状に成型されたものである。
図7に示すように、固定台53上に載置された偏光フィルム21の凸面部に上型モールド60を接近させ、予め設定されている所定の距離(保持部材の高さ以下の距離)となるまで近づけて偏光フィルム21に保持部材70a、・・・、70dを水平に載置させ、接触させる。
【0080】
図9に示すように、上型モールド60の内面のフランジ部60aに90度間隔で4箇所に、偏光フィルム21を保持するための保持部材70a~70dが配設されている。同図(b)は同図(a)におけるA-A’線断面図である。この保持部材は接着剤であり、一定の高さを形成するように接着剤が柱状に形成されている。この保持部材70a~70dは、偏光フィルムを接着、支持するためのもので、偏光フィルムがこれら保持部材に載置されたとき、偏光フィルムが上型モールドの内面に接触しないように、所定のクリアランス(間隔)H(図10)を維持しながら偏光フィルムを保持できるように高さおよび位置が制御されている。また、図中、符号100は偏光レンズを枠入れする眼鏡フレームの玉型形状を示すもので、保持部材は枠入れ加工後はカットされるようになっている。
【0081】
上型モールド60に保持部材である接着剤を形成する方法としては、例えば、図示しないディスペンサー装置による空圧制御によって、先端のニードルから粘性の接着剤を所定の吐出量、吐出できる吐出装置を用いて、上型モールドに接着剤を塗布する方法がある。
接着剤としては、紫外線硬化性成分と光重合開始剤を含む紫外線硬化性組成物を用いることが好ましい。紫外線硬化性成分としては、レンズモノマーの種類に応じて適切なものを選択することが好ましい。プラスチックレンズの製造に用いられる各種モノマーとの反応性が乏しい点で、紫外線硬化性エポキシ樹脂などが好ましい。
【0082】
接着剤の高さは、接着位置にほぼ同じ高さに形成する。偏光フィルムを水平に保持するためには、各箇所の接着剤の高さは同じ高さであることが好ましい。接着剤の高さは、予め設定された偏光フィルムと上型モールドとの間隔を基準に調整される。
【0083】
その後、紫外線照射装置90から紫外線91を保持部材に照射し、保持部材を固化させる。これにより、偏光フィルム21と上型モールド60とが接着され、上型モールド60に偏光フィルム21が保持された上型モールド構成体72が形成される(図7参照)。
【0084】
次に、成型鋳型の組み付けを行う。成型鋳型とは、偏光フィルムを介在させて組み立てられた上型モールドおよび下型モールドとシール部材(粘着テープ)とで形成されたものいう。なお、図8に示すように、偏光フィルム21の直径(内径)は、上型モールド60及び下型モールド80の内径よりもW(例えば約1mm)だけ小さくすることにより、後述するレンズモノマーの注入工程において、偏光フィルムの両側にモノマーが回り込むことができるようになり、モノマーの注入をスムースに行うことができる。
【0085】
図10に示すように、上型モールド60と下型モールド80との距離が所定のキャビティを形成するように、下型モールド80を、偏光フィルム21の凹面側に対向して配置させる。キャビティの形成では、レンズモノマーの重合収縮等の材質特性を考慮し、結果として、レンズ設計に基づく所定のレンズ厚が充足されるように設定する。
【0086】
そして、上型モールド60および下型モールド80を、所定の距離を保持した状態で、上型モールド60および下型モールド80の側面に、粘着テープ65を全周に亘り巻き付ける。この際、上型モールド60および下型モールド80は、固定パッド54にセットされている。固定パッド54は、図示しないモータ装置から突出する回転軸55により回転駆動される。上記粘着テープ65の材質は、レンズモノマーと反応してレンズに曇りを生じさせたり、重合を阻害するものではないことが好ましい。例えば、粘着テープの基材としては、ポリプロピレン製、ポリエチレンテレフタレート製のものが好ましく、粘着剤としては、アクリル系、天然ゴム系、シリコーン系のものが好ましい。
【0087】
次に、図11に示すように、組み立てられた成型鋳型73に、調合されたレンズモノマー87を注入孔Aより注入する。上型モールド60および下型モールド80と粘着テープ65とで形成されたキャビティ85(85a、85b)内にレンズモノマー87を充填する。
【0088】
レンズモノマーとしては、特に限定されず、プラスチックレンズの製造に通常使用される各種のモノマーを用いることができる。例えば、分子中にベンゼン環、ナフタレン環、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合を有するものなどが使用できる。また、硫黄、ハロゲン元素を含む化合物も使用でき、特に核ハロゲン置換芳香環を有する化合物も使用できる。上記官能基を有する単量体を1種または2種以上用いることによりレンズモノマーを製造できる。例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリル(イソ)フタレート、ジベンジルイタコネート、ジベンジルフマレート、クロロスチレン、核ハロゲン置換スチレン、核ハロゲン置換フェニル(メタ)アクリレート、核ハロゲン置換ベンジル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体の(ジ)(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体のジアリルカーボネート、ジオルトクロロベンジルイタコネート、ジオルトクロロベンジルフマレート、ジエチレングリコールビス(オルトクロロベンジル)フマレート、(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換フェノール誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換ビフェニル誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、キシレンジイソシアネートと多官能メルカプタンの反応物、グリシジルメタクリレートと多官能メタクリレートの反応物等、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0089】
その後、レンズモノマー87を充填した成型鋳型73を加熱炉に入れて加熱することにより、熱硬化性のレンズモノマーを硬化させることができる。ここで、加熱条件は、レンズモノマーの種類により決定することができ、好ましくは0~150℃、より好ましくは10~130℃であり、好ましくは5~50時間、より好ましくは10~25時間かけて昇温し、重合硬化を行う。例えば、30℃で7時間保持し、その後30~120℃まで10時間かけて昇温する。
【0090】
加熱処理が終了すると、レンズモノマーが固化して成型鋳型73内に偏光フィルムが埋設されたレンズが成形される。成型鋳型73を加熱炉より取り出し、上型モールドおよび下型モールドからレンズを離型させて、図1に示すような偏光レンズが得られる。
上述した本発明の成型方法で曲面等の形状に成型された偏光フィルムを用いることにより、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができる。
【0091】
得られた偏光レンズには、さらに、耐衝撃、耐摩耗、反射防止、撥水処理等の目的で、プライマー、ハードコート、反射防止膜、撥水処理等の表面処理を行ってもよい。
【0092】
ハードコート層は、プラスチックレンズに耐衝撃性を付与することができる。また、一般的にプラスチックレンズに対する反射防止層の密着性は良くないため、プラスチックレンズと反射防止層の間に介在させて反射防止層の密着性を良好にして剥離を防止する働きを、ハードコート層が担うこともできる。
【0093】
ハードコート層の形成方法としては、硬化性組成物をプラスチックレンズの表面に塗布し、塗膜を硬化せる方法が一般的である。硬化処理は、硬化性組成物の種類に応じて、加熱、光照射等により行われる。このような硬化性組成物としては、例えば、紫外線の照射によりシラノール基を生成するシリコーン化合物とシラノール基と縮合反応するハロゲン原子やアミノ基等の反応基を有するオルガノポリシロキサンとを主成分とする光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO、TiOなどの無機微粒子を、ビニル基、アリル基、アクリル基またはメタクリル基などの重合性基とメトキシ基などの加水分解性基とを有するシラン化合物やシランカップリング剤中に分散させた無機微粒子含有熱硬化性組成物などが挙げられる。
【0094】
塗膜の形成方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法、フロー法、ドクターブレード法などを採用することができる。また、塗膜を形成する前に、密着性を向上させるため、レンズ表面を、コロナ放電やマイクロ波などの高電圧放電などで表面処理を行ってもよい。
【0095】
また、反射防止層は、無機被膜、有機被膜の単層または多層で構成される。例えば無機被膜の材質としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどの無機物が挙げられ、これらを単独または2種以上を併用して用いることができる。プラスチックレンズの場合は、低温で真空蒸着が可能なSiO、ZrO、TiO、Taが好ましい。また、多層膜構成とした場合は、最表層はSiOとすることが好ましい。
無機被膜の成膜方法としては、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法などを採用することができる。
【実施例
【0096】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
(実施例1)
市販のPVA製二色染料系の偏光フィルム(Tg:50℃)を、成型前に、相対湿度が30%の雰囲気に5時間放置する処理を行った後、前述の図5に基づき説明した方法により、偏光フィルムの成型を行った。本実施例では、この偏光フィルムの形状を成型する際に、偏光フィルムに対して、40℃で熱処理を行った。前述したように、成型装置30のチャンバー内に設置されているヒーター36によって、チャンバー内の温度が40℃となるように調節した。また、成型装置30の上チャンバーボックス31内の空間と下チャンバーボックス32内の空間を最初に同時に真空引き状態(-60kPa)とし、次いで、上チャンバーボックス31内の空間内を大気圧(0kPa)に戻した。
以上のようにして、実施例1による曲面形状に成型された偏光フィルムを得た。
【0097】
以上のようにして得られた実施例1による成型された偏光フィルムに対して、分光光度計(U-4100、日立製作所製。以下同様。)を用いて、曲面加工前後のそれぞれの透過率を測定した。図12は、実施例1の偏光フィルムにおける曲面への加工前後の透過率曲線のグラフである。
その結果、実施例1の偏光フィルムにおいては、曲面加工前の波長400~700nmでの平均透過率に対する曲面加工後の波長400~700nmでの平均透過率の低下は1.4%(加工前38.3%→加工後36.9%)であった。
【0098】
すなわち、偏光フィルムの形状を成型する際に、この偏光フィルムに対して、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理することにより、成型前の偏光フィルムが有している配向性を維持して成型できるので、その結果、成型後の偏光フィルムにおける透過率の低下を抑制できることがわかる。
一方、Tg+10℃よりも高い温度で熱処理を行うと、フィルムの配向性が劣化してしまい、そのことにより、成型後の偏光フィルムにおける透過率の低下率が大きい。また、Tg-20℃未満の温度で熱処理を行うと、透過率の低下はあまり大きくないものの、フィルムの軟化温度よりも低いため、所望の形状に成型することが困難であった。
【0099】
(偏光レンズの製造)
上記実施例1による曲面形状に成型された偏光フィルムを用いて、前述の図7図11に基づき説明した方法により、偏光フィルムが埋設された偏光レンズを製造した。
本発明の成型方法で偏光フィルムを曲面等の形状に成型することにより、成型後の偏光フィルムの透過率低下を抑制できるため、この偏光フィルムを用いることで、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができた。
【0100】
(実施例2)
実施例1における市販のPVA製二色染料系の偏光フィルム(Tg:50℃)を、成型前に、相対湿度が70%の雰囲気に5時間放置する処理を行った後、この偏光フィルムの形状を成型する際に、偏光フィルムに対して、60℃で熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2による曲面形状に成型された偏光フィルムを得た。
得られた実施例2による成型された偏光フィルムに対して、分光光度計を用いて、曲面加工前後のそれぞれの透過率を測定した結果、実施例2の偏光フィルムにおいては、曲面加工前の波長400~700nmでの平均透過率に対する曲面加工後の波長400~700nmでの平均透過率の低下を5%以内に抑制することができた。
【0101】
(実施例3)
実施例1における市販のPVA製二色染料系の偏光フィルム(Tg:50℃)を、成型前に、相対湿度が50%の雰囲気に5時間放置する処理を行った後、この偏光フィルムの形状を成型する際に、偏光フィルムに対して、30℃で熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3による曲面形状に成型された偏光フィルムを得た。
得られた実施例3による成型された偏光フィルムに対して、分光光度計を用いて、曲面加工前後のそれぞれの透過率を測定した結果、実施例3の偏光フィルムにおいては、曲面加工前の波長400~700nmでの平均透過率に対する曲面加工後の波長400~700nmでの平均透過率の低下を5%以内に抑制することができた。
【0102】
(実施例4)
市販のPVA製二色染料系の偏光フィルム(Tg:50℃)を、成型前に、相対湿度が20%の雰囲気に5時間放置する処理を行った後、前述の図5に基づき説明した方法により、偏光フィルムの成型を行った。本実施例では、この偏光フィルムの形状を成型する際に、偏光フィルムに対して、50℃で熱処理を行った。前述したように、成型装置30のチャンバー内に設置されているヒーター36によって、チャンバー内の温度が50℃となるように調節した。また、成型装置30の上チャンバーボックス31内の空間と下チャンバーボックス32内の空間を最初に同時に真空引き状態(-60kPa)とし、次いで、上チャンバーボックス31内の空間内を大気圧(0kPa)に戻した。
以上のようにして、実施例4による曲面形状に成型された偏光フィルムを得た。
【0103】
(参考例)
実施例1と同じ市販のPVA製二色染料系の偏光フィルム(Tg:50℃)を高温高湿下(70℃以上、99%RH)で湿潤(加湿及び加熱)させてから、従来のプレス成型法(前述の図6参照)により、曲面形状に成型された偏光フィルムを得た。
【0104】
以上のようにして得られた実施例4及び参考例による成型された偏光フィルムに対して、分光光度計を用いて、曲面加工前後のそれぞれの透過率を測定した。また、成型後のフィルム表面(測定範囲:フィルム径 90mmφ内)の異物付着数を測定した。異物は目視で確認できる大きさの異物の数をカウントした。
【0105】
実施例4の偏光フィルムにおいては、曲面加工前の波長400~700nmでの平均透過率に対する曲面加工後の波長400~700nmでの平均透過率の低下は1.5%であった。偏光フィルムの形状を成型する際に、この偏光フィルムに対して、Tg-20℃以上、Tg+10℃以下の温度範囲で熱処理することにより、成型前の偏光フィルムが有している配向性を維持して成型でき、成型後の偏光フィルムにおける透過率の低下を5%以内に抑制することができた。
また、上述の偏光フィルムの成型方法により偏光フィルムの成型を行うと、偏光フィルムの成型面と接触していない側の面はいずれの部材とも非接触の状態で成型が行われるため、少なくともフィルムの非接触面においては成型時の異物付着をゼロとすることができた。
【0106】
一方、従来のプレス成型法による参考例で得られた偏光フィルムは、成型後のフィルム表面の異物付着数が6~7個と多かった。また、Tg+20℃よりも高い温度で熱処理を行うと(上記参考例)、フィルムの配向性が劣化してしまい、そのことにより、成型後の偏光フィルムにおける透過率の低下が大きく、透過率の低下を5%以内に抑制することはできなかった。
【0107】
(偏光レンズの製造)
上記実施例4による曲面形状に成型された偏光フィルムを用いて、前述の図7図11に基づき説明した方法により、偏光フィルムが埋設された偏光レンズを製造した。
本発明の成型方法で偏光フィルムを曲面等の形状に成型することにより、成型後の偏光フィルムの透過率低下を抑制できるため、この偏光フィルムを用いることで、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができた。
【0108】
(実施例5)
市販のPVA製二色染料系の偏光フィルム(Tg:50℃)を、成型前に、相対湿度が30%の雰囲気に10時間保持した後、前述の図5に基づき説明した方法により、偏光フィルムの成型を行った。本実施例では、この偏光フィルムの形状を成型する際に、偏光フィルムに対して、45℃で熱処理を行った。前述したように、成型装置30のチャンバー内に設置されているヒーター36によって、チャンバー内の温度が45℃となるように調節した。また、成型装置30の上チャンバーボックス31内の空間と下チャンバーボックス32内の空間を最初に同時に真空引き状態(-60kPa)とし、次いで、上チャンバーボックス31内の空間内を大気圧(0kPa)に戻した。
以上のようにして、実施例5による曲面形状に成型された偏光フィルムを得た。
【0109】
以上のようにして得られた実施例5による成型された偏光フィルムに対して、分光光度計を用いて、曲面加工前後の波長400~700nmでの平均透過率を測定した結果、実施例5の偏光フィルムにおいては、曲面加工前の波長400~700nmでの平均透過率に対する曲面加工後の波長400~700nmでの平均透過率の低下は1.4%であった。また、低下率では10%以内に抑えられていた。
【0110】
(偏光レンズの製造)
上記実施例5による曲面形状に成型された偏光フィルムを用いて、前述の図7図11に基づき説明した方法により、偏光フィルムが埋設された偏光レンズを製造した。
本発明による偏光フィルムは、成型後の偏光フィルムの透過率低下が少ないため、この偏光フィルムを用いることで、良好な透過率と偏光性能を有する偏光レンズを得ることができた。
【符号の説明】
【0111】
10 偏光レンズ
11 第1のレンズ基板
12 第2のレンズ基板
20 偏光フィルム(成型前)
21 偏光フィルム(成型後)
30 成型装置
31 上チャンバーボックス
32 下チャンバーボックス
35 成型型
36 ビーター
37、38 駆動装置
60 上型モールド
73 成型鋳型
80 下型モールド
85 キャビティ
87 レンズモノマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12