(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】グラビア製版ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41C 1/00 20060101AFI20230116BHJP
【FI】
B41C1/00
(21)【出願番号】P 2019047837
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597047635
【氏名又は名称】東洋FPP株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今村 成吾
(72)【発明者】
【氏名】中岡 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】三保谷 隆
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-096189(JP,A)
【文献】特開2017-113883(JP,A)
【文献】特開2009-090661(JP,A)
【文献】特開2014-076410(JP,A)
【文献】特開2001-191475(JP,A)
【文献】特開2017-061092(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0217521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/00
B41C 1/18
B41N 1/12
B41N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)~工程(c)を含むグラビア製版ロールの製造方法。
工程(a):感光性材料と、アルキレングリコールモノアルキルエーテルとを含むレジスト塗工液を用意する工程。
工程(b):前記レジスト塗工液をリングコート法で円筒状グラビアシリンダーに塗工し、円筒状グラビアシリンダー上に、レジスト層を形成する工程。
工程(c):前記レジスト層が形成されたグラビアシリンダーにレーザアブレーション法でセルを形成する工程。
【請求項2】
レジスト塗工液が、アルキレングリコールモノアルキルエーテルをレジスト塗工液全体の20重量%~60重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のグラビア製版ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア製版ロールを、レーザアブレーション法でパターン形成のためのレジスト塗工液をより均一に塗工可能とするグラビア製版ロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア製版ロールは、グラビア製版ロール版材(シリンダー)の表面に製版情報に応じた微小な凹部(セル)を形成したものである。当該セルにグラビアインキを充填して被印刷物に転写するグラビア印刷だけでなく、インキ以外の材料を当該セルに充填して被印刷物に転写する凹版印刷することも可能である。
【0003】
セルは、エッチング法または電子彫刻法で形成される。
エッチング法は、感光液であるレジスト塗工液と塗工してなるレジスト層をグラビア製版ロール版材の表面に、塗工し光で非画線パターンを形成し、アルカリ現像し、未露光部分である画線部のみをエッチングし、その後、残っているレジスト層を剥離する方法である。
近年、アルカリ現像する工程を省略すべく、レーザアブレーション法で、画像部を焼き飛ばして、非画線パターンを形成する方法が提案されている。(特許文献1)
高精細で微小な凹部(セル)を形成するには、レジスト層の膜厚を薄くし、且つ均一性を良くする必要がある。前記レジスト層は、円筒状のシリンダーにレジスト塗工液をスプレーコート法で塗布する方法が知られているが、前記高精細な回路パターや偽造防止用パターンを形成する用途には不十分だった。(特許文献2~4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-191475号公報
【文献】特許第5996081号公報
【文献】実開昭56-170450号公報
【文献】特開2004-97896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、当該レーザアブレーション法に適用できる感光性材料であるレジスト組成物として、レーザ光の光吸収材であるカーボンブラックと可燃性物質としてニトロセルロースを主体とした樹脂組成物が記載されている。しかし、開示された方法によるレジスト層の膜厚均一性は±10%程度であった。近年、グラビア製版ロールを用いて、従来より精細なパターンの印刷物が要求され、いかに薄膜を均一に塗工できるかが課題となっている。
本発明は、薄膜で膜厚均一性の良いレーザアブレーション法によるレジスト層を形成し、エッチングとレジスト層剥離の工程を経て、微小で高精細な凹部(セル)を形成したグラビア製版ロールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
【0007】
(1)下記工程(a)~工程(c)を含むグラビア製版ロールの製造方法。
工程(a):感光性材料と、アルキレングリコールモノアルキルエーテルとを含むレジスト塗工液を用意する工程。
工程(b):前記レジスト塗工液をリングコート法で円筒状グラビアシリンダーに塗工し、円筒状グラビアシリンダー上に、レジスト層を形成する工程。
工程(c):前記レジスト層が形成されたグラビアシリンダーにレーザアブレーション法でセルを形成する工程。
【0008】
(2)レジスト塗工液が、アルキレングリコールモノアルキルエーテルをレジスト塗工液全体の20重量%~60重量%含有することを特徴とする上記グラビア製版ロールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、薄膜で膜厚均一性の良いレーザアブレーション法によるレジスト層を形成でき、微小で高精細な凹部(セル)を形成したグラビア製版ロールを提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
グラビア製版ロールの製造に用いる、レジスト塗工液は、主に、感光性材料と溶剤とを含み、前記感光性材料は、光吸収剤と樹脂、添加剤、溶剤から構成される。
【0011】
本発明で用いられる光吸収剤は、レーザ光を吸収して、発熱をするものであれば、特に、限定されない。カーボンブラックが好ましく用いられる。カーボンブラック以外の黒鉛、カーボンナノチュープなどの光吸収剤を用いることができる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0012】
樹脂としては、光吸収剤の分散性が良く、燃焼残渣が少なく、銅との密着性が良く、エッチング液への耐薬品性があれば良く、以下の材料を用いることができる。ニトロセルロース樹脂、多塩基酸と多価アルコールの縮合反応により得られるポリエステル樹脂、さらに、大豆油、アマニ油、綿実油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、ヤシ油、牛脂などの油脂を反応させた樹脂、天然樹脂由来のテルペン系樹脂、も使用することができる。これらを混合して用いることもできる。
【0013】
また、可塑剤などの添加剤、粘度や乾燥性、塗工性を調整するための溶剤を用いることができる。例えば、前記光吸収剤を樹脂で分散した後、必要に応じて別の樹脂や添加剤、溶剤を混合し、レジスト組成物を作成する。
【0014】
本発明で用いられる溶剤は、酢酸エチルなどのエステル類、トルエンなどの炭化水素類、イソプロピルアルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール、シクロヘキサノンなどのケトン類が用いられる。
本発明において、溶剤として、アルキレングリコールモノアルキルエーテルを選定し、リングコート法で前記レジスト塗工液を塗布することで、数μmの薄膜で膜厚均一性の良いレジスト塗膜を形成できることを見出した。アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルは、前記レジスト塗工液中に20重量%~60重量%を含有することが好ましく、20重量%より少ないと膜厚均一性が低下、60重量%より多いと塗工液の安定性が悪くなることがある。
【0015】
リングコート法で使用する塗工装置としては、特に制約はなく、円筒状のシリンダーにレジスト塗工液が接触するような構造で、移動部分がシリンダーあるいは塗工液のどちらでも良く、移動速度を制御して膜厚を設定することができる。
【0016】
前記方法により、グラビア製版ロール版材の表面上に形成されたレジスト層は、公知のレーザ照射装置により、画線部をアブレーションすることができる。レーザアブレーションにより、グラビア製版ロール版材の表面の画線部のレジスト層は焼失し、非画線部のレジスト層は、そのまま残る。結果的に、グラビア製版ロール版材上に非画線部パターンが形成されることになる。
非画線部パターンが形成されたグラビア製版ロール版材は、公知のエッチング液によりエッチングされる。画線部は、エッチングされ凹部(セル)となり、非画線部は、レジスト層が存在するためエッチングされずに残る。
エッチング後に、非画線部に残留した、レジスト層を、公知のレジスト剥離液で剥離することで、グラビア製版ロールが製造される。なお、前記製版ロールの印刷耐性を維持させるために、セルを形成したグラビア製版ロールの表面にクロムメッキを施しても良い。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例および比較例により、一層具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。「部」「%」とあるものは特に断りのない限り、すべて「重量部」「重量%」を意味するものとする。
【0018】
<ニトロセルロースワニスaの調整例>
ニトロセルロース(稲畑産業社製 JIS規格H1/4同等品)43部(固形分70%)と酢酸エチル57部を混合し、加熱溶解させて固形分30%のニトロセルロースワニスaを得た。
【0019】
<ポリエステル樹脂bの合成とワニスの調整例>
攪拌機、温度計、脱水トラップ付還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた四ツ口フラスコに無水フタル酸250部、エチレングリコール100部、ペンタエリスリトール50部、ひまし油600部、トルエン50gを仕込み、窒素雰囲気下で180℃に加熱し、酸価が15mgKOH/g以下になるまで反応させた。反応終了後、40℃まで冷却し、酢酸エチル1000部を加えて、固形分50%のポリエステル樹脂ワニスbを得た。
【0020】
<テルペン系天然樹脂ワニスcの調整例>
エステルガム(軟化点:80℃以上、酸価:7mgKOH/g以下)60部およびトルエン40部を混合し、40℃で1時間加熱溶解して固形分60%のテルペン系天然樹脂ワニスcを得た。
【0021】
<グラビア製版ロールの製造用レジスト塗工液の調製例>
ニトロセルロースワニスa:40部、カーボンブラック(コロンビアンケミカル社製ラーベン780ウルトラパウダー):10部、溶剤として酢酸エチル:5部をディスパーで混合した後、アイガーミルで混練しミルベースを作成した。これに、ポリエステル樹脂ワニスb:6部、テルペン系天然樹脂ワニスc:5部、可塑剤としてヒマシ油:4部、希釈溶剤として酢酸エチル/トルエン/イソプロピルアルコール(混合割合(重量比):40/40/20):30部を加えレジスト塗工液1を得た。
さらに、塗工適性を付与するために、前記レジスト塗工液1:100部にプロピレングリコールモノエチルエーテル:70部を加え、離合社製のザーンカップNo.3で17秒のレジスト塗工液1を得た。
【0022】
前記レジスト塗工液1で作成したミルベース:55部に、ポリエステル樹脂ワニスb:6部、可塑剤としてヒマシ油:4部とマレイン酸ジニエチルヘキシル:5部、希釈溶剤として酢酸エチル/トルエン/イソプロピルアルコール(混合割合(重量比):40/40/20):30部を加えレジスト塗工液2を得た。さらに、塗工適性を付与するために、前記レジスト塗工液1:100部にプロピレングリコールモノエチルエーテル:70部を加え、離合社製のザーンカップNo.3で17秒のレジスト塗工液2を得た。
【0023】
前記レジスト塗工液1:100部に前記希釈溶剤:70部を加えて、レジスト塗工液3を得た。また、前記レジスト塗工液1にプロピレングリコールモノエチルエーテル:20部と前記希釈溶剤:50部を加えて、レジスト塗工液4を得た。
【0024】
前記調整したレジスト塗工液1~4を表1に示すとともに、グラビア製版ロールを製造し、評価した結果を表2に記す。
【0025】
(実施例1)
銅メッキを付けたグラビア製版ロール版材を準備し、酸および水、溶剤で表面洗浄した後、リングコーターで1.3mm/秒の移動速度でレジスト塗工液1を前記ロールに塗布し、常温乾燥後の膜厚が2.5μmとなるようレジスト層を全面に形成した。
前記レジスト層を形成したグラビア製版ロール版材にレーザ光(波長535nm)を照射してレジスト層のアブレーションを行ない、線数500線/inchの格子パターンを形成した。
形成したレジスト層の膜厚を非接触式のレーザ顕微鏡で測定し、膜厚の均一性を評価した。結果を表2に示す。
【0026】
膜厚均一性は、製版ロール表面に形成したレジスト塗膜の膜厚およびアブレーションで形成したパターンの線幅を、レーザ顕微鏡で測定し、以下の判定基準で評価した。
◎:端部と中央のバラツキが、±5%未満
○:端部と中央のバラツキが、±5~8%
×:端部と中央のバラツキが、±8%以上
【0027】
次に、前記製版ロール版材に、スプレー式エッチング装置で塩化第二銅水溶液を噴霧して、版深が10μmとなる条件で前記アブレーション部の銅をエッチングし、水洗・乾燥後にセル(凹部)を形成した製版ロール版材を得た。
前記製版ロール版材に残った非アブレーション部のレジスト層を、前記レジスト塗工液の作成で使用した希釈溶剤を使用して剥離し、全表面が銅となったグラビア製版ロールを得た。
さらに、銅表面の耐薬品性や耐摩耗性を付与する目的で、前記製版ロールにクロムメッキを施して、グラビア製版ロールを製造した。
【0028】
(実施例2~3、比較例1~2)
表2に示すレジスト塗工液2~4を使用し、実施例1と同様な製造方法でグラビア製版ロールを製造し、評価した結果を表2に示す。
ただし、比較例2のスプレーコート法では、2.5μmの膜厚は形成できず、5.0μmで評価した。
【0029】
表2の結果より、実施例1~3はレジスト塗膜の膜厚均一性に優れ、エッチング、レジスト剥離、クロムメッキの工程を経て、膜厚均一性の良いグラビア製版ロールを得ることができた。
【0030】
【0031】