(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】扁平波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230116BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2021548127
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038184
(87)【国際公開番号】W WO2021059494
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-370445(JP,A)
【文献】特開2018-094679(JP,A)
【文献】実開平04-109245(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に直交する端面において円周方向に一定のピッチで第1の歯が形成されている剛性歯車と、
前記剛性歯車に対して前記軸方向から対峙し、前記第1の歯に対して前記軸方向からかみ合い可能な第2の歯が前記円周方向に一定のピッチで形成されている可撓性歯車と、
前記可撓性歯車における前記第2の歯が形成されている歯形成部分を前記軸方向に撓めて、前記第2の歯を前記円周方向に離れた複数の位置において前記第1の歯にかみ合わせ、両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
を有しており、
前記可撓性歯車は、
頂角が165°以上180°未満の扁平な円錐台形状に沿った形状をしており、
剛性ボス、前記剛性ボスの外周縁から、外方および前記剛性歯車から離れる方向に向けて広がっているベローズ状断面のダイヤフラム、および、前記ダイヤフラムの外周縁に連続して外方および前記剛性歯車から離れる方向に向けて広がっている円錐状胴部を備えており、
前記円錐状胴部に前記歯形成部分が形成されており、
前記波動発生器は、
前記円錐状胴部の前記歯形成部分の内周面に対して、前記軸方向から対峙しているコロ軌道面として機能するカム面が形成されている剛性カム板と、
前記剛性カム板の前記カム面と前記可撓性歯車の前記内周面との間に装着された複数個の円筒コロと、
前記円筒コロを円周方向に一定の間隔で保持した円環形状の保持器と、
を備えており、
前記カム面に沿って円周方向に転動する前記円筒コロの前記軸方向の位置が、前記円筒コロが前記カム面に沿って1周する間に、前記軸方向に一定の振幅で複数回往復するように、前記カム面の前記円周方向の曲面形状が規定されており、
前記保持器は、前記軸方向に撓み可能な可撓性を備えている扁平波動歯車装置。
【請求項2】
前記カム面は、円周方向の各位置において前記軸方向に直角な
曲面である請求項1に記載の扁平波動歯車装置。
【請求項3】
前記カム面は、前記可撓性歯車の前記歯形成部分が前記軸方向に撓められた撓み状態において得られる当該歯形成部分の前記内周面の曲面形状に倣った曲面となるように規定されており、
前記可撓性歯車の前記第2の歯を前記剛性歯車の前記第1の歯にかみ合わせるために必要な前記軸方向への変位量を最大変位量とすると、前記歯形成部分の前記撓み状態は、当該歯形成部分を、前記円周方向における複数の位置で、前記軸方向に前記最大変位量だけ撓めた状態である請求項1に記載の扁平波動歯車装置。
【請求項4】
軸方向に直交する端面において円周方向に一定のピッチで第1の歯が形成されている剛性歯車と、
前記剛性歯車に対して前記軸方向から対峙し、前記第1の歯に対して前記軸方向からかみ合い可能な第2の歯が前記円周方向に一定のピッチで形成されている可撓性歯車と、
前記可撓性歯車における前記第2の歯が形成されている歯形成部分を前記軸方向に撓めて、前記第2の歯を前記円周方向に離れた複数の位置において前記第1の歯にかみ合わせ、両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
を有しており、
前記可撓性歯車は、
頂角が165°以上180°未満の扁平な円錐台形状に沿った形状をしており、
剛性ボス、前記剛性ボスの外周縁から、外方および前記剛性歯車から離れる方向に向けて広がっているベローズ状断面のダイヤフラム、および、前記ダイヤフラムの外周縁に連続して外方および前記剛性歯車から離れる方向に向けて広がっている円錐状胴部を備えており、
前記円錐状胴部に前記歯形成部分が形成されており、
前記波動発生器は、
前記円錐状胴部の前記歯形成部分の内周面に対して、前記軸方向から対峙しているコロ軌道面として機能するカム面が形成されている剛性カム板と、
前記剛性カム板の前記カム面と前記可撓性歯車の前記内周面との間に装着された複数個の円筒コロと、
前記円筒コロを円周方向に一定の間隔で保持した円環形状の保持器と、
を備えており、
前記カム面に沿って円周方向に転動する前記円筒コロの前記軸方向の位置が、前記円筒コロが前記カム面に沿って1周する間に、前記軸方向に一定の振幅で2往復するように、前記カム面の前記円周方向の曲面形状が規定されており、
前記保持器は、前記軸方向に撓み可能な可撓性を備えており、
前記保持器は、円周方向に連結された複数個のモジュールから構成されており、
前記モジュールのそれぞれは、前記保持器の中心を通る半径線を中心として、隣接する前記モジュールに対して、前記軸方向に回動可能な状態で連結されている扁平波動歯車装置。
【請求項5】
前記カム面は、円周方向の各位置において前記軸方向に直角な
曲面である請求項4に記載の扁平波動歯車装置。
【請求項6】
前記カム面は、前記可撓性歯車の前記歯形成部分が前記軸方向に撓められた撓み状態において得られる当該歯形成部分の前記内周面の曲面形状に倣った曲面となるように規定されており、
前記可撓性歯車の前記第2の歯を前記剛性歯車の前記第1の歯にかみ合わせるために必要な前記軸方向への変位量を最大変位量とすると、前記歯形成部分の前記撓み状態は、当該歯形成部分を、前記円周方向における複数の位置で、前記軸方向に前記最大変位量だけ撓めた状態である請求項4に記載の扁平波動歯車装置。
【請求項7】
前記剛性歯車、前記可撓性歯車および前記波動発生器が組み込まれている筒状のハウジングと、
前記可撓性歯車の前記剛性ボスに同軸に固定した出力軸と、
前記ハウジングと前記出力軸との間に配置され、前記出力軸を前記ハウジングに対して回転自在の状態で支持している第1軸受と、
前記ハウジングと前記波動発生器の前記剛性カム板との間に配置され、前記剛性カム板を前記ハウジングに対して、前記軸方向から、回転自在の状態で支持している第2軸受と、
を有している請求項1または4に記載の扁平波動歯車装置。
【請求項8】
前記第1軸受は、
前記ハウジングに同軸に固定した前記剛性歯車の円形内周面に形成した外輪軌道面と、
前記出力軸の円形外周面に形成した内輪軌道面と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能な状態で装着されている転動体と、
を備えている
請求項7に記載の扁平波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置に関し、特に、剛性歯車に対して軸方向から対峙している可撓性歯車を、軸方向に撓めて部分的に剛性歯車にかみ合わせるように構成された軸長の短い扁平波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置の主流であるカップ型波動歯車装置は、軸方向に平行な外歯を有する可撓性歯車が、波動発生器により楕円形状に撓められる。楕円形状に撓められた可撓性歯車は、その半径方向の外側に配置されている剛性歯車の内歯に対して、楕円形状の長軸付近において、軸方向にほぼ平行なかみ合い状態でかみ合う。カップ型波動歯車装置は、軸方向の長さが短いパンケーキ型波動歯車装置(フラット型波動歯車装置)、軸長を短くした短胴型の波動歯車装置と比較すると、トルク容量、伝達特性に優れている。
【0003】
しかし、カップ型波動歯車装置の軸長は、その特性を活かすために、或る長さ以上が必要となる。具体的には、軸長は、可撓性歯車の歯幅と、可撓性歯車の胴部およびダイヤフラム部の長さとによって決まっており、扁平化が困難である。波動歯車装置の扁平化を図るために、可撓性歯車と剛性歯車とを軸方向から対峙させ、軸方向から双方の歯車をかみ合わせる構成を採用することが考えられる。
【0004】
従来において、可撓性歯車と剛性歯車とを軸方向からかみ合わせる構成の波動歯車装置は、特許文献1~4に提案されている。例えば、特許文献1、2に開示の波動歯車機構においては、剛性歯車および可撓性歯車を軸方向から対峙させ、可撓性歯車を軸方向に撓めて剛性歯車に対して部分的にかみ合せるようにしている。可撓性歯車を軸方向に撓めるための波動発生器は、可撓性歯車の背面を、ボールを介して、軸方向から剛性カム板によって支持する構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭48-69947号公報
【文献】特開昭60-40845号公報
【文献】特開昭60-129455号公報
【文献】特開平4-370445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
剛性歯車と可撓性歯車を軸方向から対峙させ、可撓性歯車を軸方向に撓めて剛性歯車にかみ合わせる構成の波動歯車装置は、軸長を短くするのに有利である。しかしながら、カップ型波動歯車装置の場合と同様なトルク容量および伝達特性を確保するためには、可撓性歯車の歯幅、ダイヤフラムの長さを所定長さ以上にして、所定の撓み易さを確保して、歯筋方向の各位置において両歯車の間に適切なかみ合い状態を形成する必要がある。また、軸方向からの波動発生器による可撓性歯車の支持剛性を高める必要がある。
【0007】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、剛性歯車に対して軸方向から適切な状態でかみ合わせることができる可撓性歯車、および、支持剛性の高い波動発生器を備えた扁平波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の扁平波動歯車装置は、軸方向に直交する端面において第1の歯が円周方向に一定のピッチで形成されている剛性歯車と、剛性歯車に対して軸方向から対峙し、第1の歯に対して軸方向からかみ合い可能な第2の歯が円周方向に一定のピッチで形成されている可撓性歯車と、可撓性歯車における第2の歯が形成されている歯形成部分を軸方向に撓めて、第2の歯を円周方向に離れた複数の位置において第1の歯にかみ合わせ、両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器とを有している。また、可撓性歯車は、頂角が165°以上180°未満の扁平な円錐台形状に沿った形状をしており、剛性ボス、剛性ボスの外周縁から、外方および剛性歯車から離れる方向に向けて広がっているベローズ状断面のダイヤフラム、および、ダイヤフラムの外周縁に連続して外方および剛性歯車から離れる方向に向けて広がり、歯形成部分が形成されている円錐状胴部を備えている。
【0009】
本発明の扁平波動歯車装置は、頂角が165°以上180°未満と扁平な円錐台形状をしている。また、その円錐面の外周縁側の外周面部分は第2の歯が形成された歯形成部分となっている。歯形成部分は、ベローズ状断面のダイヤフラムを介して、出力軸締結部である剛性ボスに繋がっている。歯形成部分の軸方向の撓み易さを確保して、第2の歯を第1の歯に対して歯筋方向の各位置において良好にかみ合わせることができる。また、歯形成部分における歯かみ合い部の負荷トルクの局部的な偏りを抑制できる。
【0010】
また、本発明において、波動発生器は、円錐状胴部の歯形成部分の内周面に対して、軸方向から対峙しているコロ軌道面として機能するカム面が形成されている剛性カム板、剛性カム板のカム面と可撓性歯車の内周面との間に装着された複数個の円筒コロ、および、円筒コロを円周方向に一定の間隔で保持している円環形状の保持器を備えている。カム面に沿って円周方向に転動する円筒コロの軸方向の位置が、円筒コロがカム面に沿って1周する間に、軸方向に一定の振幅で複数回往復するように、カム面の円周方向の曲面形状が規定されている。
【0011】
コロ軌道面は、軸方向に直角な曲面、または、可撓性歯車の歯形成部分が軸方向に撓められた撓み状態において得られる曲面形状に倣った曲面である。また、波動発生器の保持器は、軸方向に撓み可能な保持器である。保持器は、波動発生器の回転に伴って生じるコロ軌道面の軸方向の変位、コロ軌道面に沿って転動する円筒コロの軸方向の変位、波動発生器によって撓められる可撓性歯車の歯形成部分の軸方向の変位に追従可能な可撓性が備わっている。
【0012】
これにより、第2の歯は、歯筋方向の各位置において、軸方向に沿った方向から支持される。よって、波動発生器による可撓性歯車の支持剛性が高い。また、可撓性歯車の第2の歯が、歯筋方向の各位置において、軸方向から剛性歯車の第1の歯にかみ合う状態を形成でき、トルク伝達特性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は本発明の実施の形態に係る扁平波動歯車装置の概略端面図であり、(b)および(c)はその概略縦断面図である。
【
図2】(a)は可撓性歯車を示す平面図であり、(b)は撓められる前の可撓性歯車を示す断面図であり、(c)および(d)は撓められた状態の可撓性歯車の断面図である。
【
図3】(a)は剛性カム板を示す説明図であり、(b1)、(b2)、(c1)および(c2)はカム面形状の例を示す断面図である。
【
図4】(a)は保持器を示す平面図であり、(b)はそのモジュールを示す斜視図である。
【
図5】(a)および(b)は本発明の実施の形態に係るユニット型の扁平波動歯車装置を示す概略縦断面図である。
【
図6】(a1)~(a3)は異なるダイヤフラム形状の可撓性歯車を示す説明図であり、(b)は比較実験の結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した扁平波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0015】
(扁平波動歯車装置)
図1(a)は本発明の実施の形態に係る扁平波動歯車装置の概略端面図であり、(b)はその1b-1b´線で切断した部分を示す概略縦断面図であり、(c)はその1c-1c´線で切断した部分を示す概略縦断面図である。扁平波動歯車装置1は、剛性歯車2と、扁平な円錐台形状をした可撓性歯車3と、波動発生器4とを備えている。波動発生器4は、可撓性歯車3を中心軸線1aの方向(軸方向)に撓めて、円周方向に離れた複数の位置において剛性歯車2にかみ合わせている。
【0016】
剛性歯車2は一定厚さの円環状部材21と、この円環状部材21の一方の円環状端面22に形成した第1の歯23とを備えている。円環状部材21は、中心軸線1aを中心とし、この中心軸線1aに直角に配置されている。第1の歯23は、円環状端面22において、中心軸線1aを中心とする円周方向に一定のピッチで形成されており、その歯筋方向は半径方向となっている。
【0017】
可撓性歯車3は、剛性ボス31と、ベローズ状断面のダイヤフラム32と、円錐状胴部33と、円錐状胴部33の外周縁側の歯形成部分34に形成した第2の歯35とを備えている。第2の歯35は、円錐状の歯形成部分34において、中心軸線1aを中心として円周方向に一定のピッチで形成されている。第2の歯35の歯筋方向は、円錐状外周面の母線方向となっている。
【0018】
波動発生器4は、円盤形状の剛性カム板41と、複数個の円筒コロ42と、円筒コロ42を円周方向に一定の間隔で転動自在の状態に保持している円環状の保持器43とを備えている。波動発生器4は、可撓性歯車3における歯形成部分34を軸方向に撓めて、第2の歯35を円周方向に離れた複数の位置において第1の歯23にかみ合わせている。剛性カム板41は中心軸線1aを中心とし、中心軸線1aに直角に配置されている。剛性カム板41は、軸方向において、可撓性歯車3に対して、剛性歯車2とは反対側に配置されている。剛性カム板41における可撓性歯車3の側の端面44の外周縁側の部分は円周方向に延びる一定幅のカム面45となっている。このカム面45は、円筒コロ42のコロ軌道面として機能し、可撓性歯車3の歯形成部分34の背面である円錐状の内周面部分36に対峙している。
【0019】
扁平波動歯車装置1は、
図1(b)、(c)に想像線で示すように、組付け対象の機構に組付けられる。波動発生器4の剛性カム板41には、同軸に、回転入力軸5が連結される。回転入力軸5は、例えば、モータ回転軸である。また、剛性カム板41は、組付け対象の機構における固定側部材である円筒状のハウジング6によって、回転自在の状態で支持される。例えば、剛性カム板41の背面と、これに対峙するハウジング6の端面6aとの間に、スラストコロ軸受7が装着され、剛性カム板41が回転自在状態で軸方向からハウジング6によって支持される。さらに、ハウジング6に対して同軸に剛性歯車2が固定される。これに対して、可撓性歯車3の剛性ボス31には、同軸に、回転出力軸8等の負荷側部材が連結される。
【0020】
剛性カム板41は、回転入力軸5の側から可撓性歯車3に向かう方向に所定の予圧が掛けられた状態となるように、組付けられる。回転入力軸5によって剛性カム板41が高速回転すると、カム面45によって、歯形成部分34は軸方向に繰り返し変位する。歯形成部分34が軸方向に最大変位量で変位した位置では、歯形成部分34の第2の歯35が剛性歯車2の第1の歯23に対して、軸方向からかみ合う。
【0021】
本例では、
図1(b)に示すように、円周方向に180°離れた2か所の位置で、歯形成部分34が軸方向に最大変位量で変位し、第2の歯35が剛性歯車2の第1の歯23にかみ合う。この位置から90°回転した位置では、
図1(c)に示すように、第2の歯35は第1の歯23から軸方向に離れる。この場合、第1、第2の歯23、35の歯数差は2n枚とされる。例えば、第2の歯35の歯数は、第1の歯23の歯数に対して、2枚少ない。波動発生器4が1回転すると、剛性歯車2と可撓性歯車3の間には、歯数差に対応する角度分の相対回転が生じる。波動発生器4の回転に伴って、剛性歯車2と可撓性歯車3の歯数差に応じて大幅に減速された回転数で可撓性歯車3が回転する。この減速回転は、可撓性歯車3の剛性ボス31から回転出力軸8に取り出される。
【0022】
図2(a)は可撓性歯車を示す平面図であり、
図2(b)は撓められる前の状態の可撓性歯車を示す断面図であり、
図2(c)は撓められた状態の可撓性歯車の2c-2c´線で切断した部分の断面図であり、
図2(d)は撓められた状態の可撓性歯車の2d-2d´線で切断した部分の断面図である。
【0023】
可撓性歯車3は、撓められる前の初期形状は、
図2(b)に示すように、全体として、中心軸線1aを中心線とする扁平な円錐台形状をしている。例えば、頂角が165°以上180°未満の扁平な円錐台形状をしている。可撓性歯車3の剛性ボス31は、一定厚さの円盤形状をしている。ベローズ状断面のダイヤフラム32は、剛性ボス31の円形外周縁から、半径方向の外方に向けて円錐状に広がっている。円錐状胴部33は、ダイヤフラム32の円形外周縁から半径方向の外方に向けて円錐状に広がっている。円錐状胴部33の歯形成部分34の外周面には、円周方向に向けて一定のピッチで第2の歯35が形成されている。可撓性歯車3の第2の歯35は、剛性歯車2の第1の歯23にかみ合い可能であり、第1の歯23に対して、軸方向(中心軸線1aの方向)から対峙している。
【0024】
ダイヤフラム32は、剛性ボス31の外周縁端から軸方向の一方の側に半円形状に突出している第1湾曲部分32aと、この第1湾曲部分32aに連続して軸方向の他方の側に半円形状に突出している第2湾曲部分32bとを備えている。第2湾曲部分32bの端は半径方向の外方に湾曲して、円錐状胴部33に繋がっている。剛性ボス31における第1湾曲部分32aとの接続部分31aは、断面が半円形に切除されて、接続部分の板厚がダイヤフラム32の側から剛性ボス31の側に向けて徐々に増加している。
【0025】
可撓性歯車3の歯形成部分34は、波動発生器4によって撓められる前の状態では、
図2(b)に示すように、軸方向の位置p0に位置している。歯形成部分34が波動発生器4によって撓められた状態においては、歯形成部分34は
図2(c)、(d)に示すように軸方向に撓められる。すなわち、歯形成部分34が軸方向に最大変位量で撓められる角度位置は、
図2(c)に示すように、円周方向に180°離れた角度位置である。これらの角度位置では、可撓性歯車3の歯形成部分34が、初期位置p0から、剛性歯車2の側に最大変位量Δmaxで撓められた位置p1に変位する。これにより、第2の歯35が剛性歯車2の第1の歯23にかみ合う。これに対して、最大変位量Δmaxの角度位置から90°回転した角度位置では、歯形成部分34は
図2(d)に示すように、軸方向における逆方向に僅かな変位量で変位した位置p2にある。これらの位置においては、波動発生器4による軸方向への変位量は実質的に零であり、第2の歯35は第1の歯23から離れている。
【0026】
本発明者は、可撓性歯車3について、そのダイヤフラム32の断面形状を変えた場合の撓み易さ等について実験を行った。
図6を参照して実験結果の一例を説明する。
図6(a1)に示すように、小さな曲率で剛性ボスの外周縁から半径方向の外方に
湾曲させた断面形状のダイヤフラム(FS1形状)を備えている場合、
図6(a2)に示すように、これよりも大きな曲率で湾曲させた断面形状のダイヤフラム(FS2形状)を備えている場合と、
図6(a3)に示す本例のベローズ状の断面形状のダイヤフラム(FS3形状)を備えている場合について、180°離れた位置において最大変位量(変位量1)だけ歯形成部分を軸方向に撓めた。この場合の変形反力、ダイヤフラムに生じる最大応力、最大変位量の位置から90°回転した位置における軸方向の逆方向への反り量(変位量2)を測定した。
【0027】
図6(b)の表に測定結果を示す。この表においては、FS1形状における変形反力、最大応力、変位量1、変位量2、変位量1と2の合計を、それぞれ、比較のための基準単位量「1」として表示してある。この表から、本例のベローズ状断面のダイヤフラムを備えた可撓性歯車3(FS3形状)は、他の形状のダイヤフラムを備えている場合に比べて、撓み易さを維持しつつ、歯かみ合い部のトルクの局部的な偏りを抑制できることが分かる。
【0028】
次に、
図3(a)は波動発生器4の剛性カム板41を示す説明図であり、
図3(b1)および
図3(b2)は3b1-3b1´線で切断した部分のカム面形状の例を示す断面図であり、
図3(c1)および
図3(c2)は3c1-3c1´線で切断した部分のカム面形状の例を示す断面図である。
【0029】
波動発生器4の剛性カム板41に形成されているカム面45は、中心軸線1aに直角な曲面である。また、カム面45は、
図3(a)に示すように、円周方向に向けて、例えば正弦波状に軸方向の位置が変位する曲面形状をしている。換言すると、剛性カム板41のカム面45の円周方向の曲面形状は、当該カム面45に沿って転動する円筒コロ42の軸方向の位置が、当該カム面45に沿って1周する間に、軸方向に一定の振幅(最大変位量)で複数回往復するように、規定されている。本例では、カム面45に沿って円筒コロ42が1周する間に、円筒コロ42が軸方向に2往復するように、カム面45の円周方向の曲面形状が設定されている。カム面45において、可撓性歯車3の歯形成部分34が軸方向に最大変位量で撓められる角度位置は、
図3(a)に示す0°、180°の位置である。これらの位置から90°離れた90°および270°の角度位置では、歯形成部分34に対して、軸方向への変位が与えられない。
【0030】
ここで、カム面45は、
図3(b1)、(c1)に示すように、円周方向の各位置において、中心軸線1aに直角な曲面である。この代わりに、カム面45として、その円周方向の各位置において、軸方向に撓められた撓み状態の可撓性歯車3における歯形成部分34の背面である内周面部分36の形状に倣った曲面を備えたカム面を用いることもできる。歯形成部分34の撓み状態は、可撓性歯車3の剛性ボス31を軸方向に移動しないように拘束した状態において、歯形成部分34を、円周方向における180°離れた位置において、軸方向に最大変位量だけ撓めた状態である。例えば、
図3(b2)に示すように、0°、180°の角度位置(最大変位量の位置)においては、カム面45を中心軸線1aに直交する直交面とし、
図3(c2)に示すように、90°、270°の角度位置(最小変位量の位置)においては、カム面45を中心軸線1aに直角な方向に対して傾斜している傾斜面とする。
図3(b2)に示す直交面から
図3(c2)に示す傾斜面の間においては、カム面は、直交面から傾斜面に向けて、傾斜角度が徐々に増加するように設定される。
【0031】
次に、
図4を参照して、波動発生器4の保持器43について説明する。
図4(a)は保持器43を示す平面図であり、
図4(b)はそのモジュールを示す斜視図である。保持器43は、剛性カム板41のカム面45と、可撓性歯車3の内周面部分36との間に配置される。各円筒コロ42は、保持器43に形成されている各ポケット43aに、コロ中心線が半径方向を向く姿勢で保持されている。円筒コロ42は17個以上配置することが望ましい。保持器43に転動自在の状態で保持されている円筒コロ42は、カム面45と内周面部分36との間に、軸線方向から所定の予圧が加えられた状態で保持される。本例の保持器43は、円弧形状のモジュール46を円周方向に連結することによって構成されている。
【0032】
図4(b)に示すように、1個のモジュール46は、一定の角度を張る扇形状の本体板461と、本体板461の一方の端面の外周縁および内周縁から円周方向に突出している連結用円弧板462、463と、他方の端面の外周縁および内周縁から円周方向に突出している連結用円弧板464、465とを備えている。外周側の一方の連結用円弧板464の外周面形状は、他方の外周側の連結用円弧板462の内周面形状と相補的な形状をしている。同様に、内周側の一方の連結用円弧板465の内周面形状は他方の内周側の連結用円弧板463の外周面形状と相補的な形状をしている。また、連結用円弧板464、465には、半径方向に貫通する状態に、連結ピン466、467が一体形成されている。これらの連結ピン466、467を嵌め込み可能なピン穴468、469が、他方の連結用円弧板462、463に形成されている。
【0033】
モジュール46を円周方向に連結することで、隣接するモジュール46の端面46a、46bの間に矩形のポケット43aが形成される。ポケット43aに保持される円筒コロ42は、連結ピン466の内側の端と連結ピン467の外側の端との間に挟持される。また、モジュール46は、連結ピン466、467の中心を通る半径線を中心として、隣接するモジュール46に対して回動可能である。したがって、モジュール46を連結して構成された保持器43は、円周方向に沿って正弦波状に湾曲しているカム面45に沿った形状に撓み可能であり、カム面45に沿って転動する円筒コロ42の軸方向への変位に追従して撓み可能であり、カム面45に沿った形状に撓められた可撓性歯車3の歯形成部分の変位に追従して撓み可能である。なお、保持器43として、繊維強化ゴム等の弾性素材を用いた円環状の成形品を用いることもできる。
【0034】
(ユニット型の扁平波動歯車装置の例)
図5(a)本発明の実施の形態に係るユニット型の扁平波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、
図5(b)は5b-5b´線で切断した部分を示す概略縦断面図である。ユニット型の扁平波動歯車装置100は、剛性歯車2Aと、可撓性歯車3Aと、波動発生器4Aを備えた波動歯車機構10を有している。また、扁平波動歯車装置100は、波動歯車機構10が組み込まれている円筒状のハウジング110と、可撓性歯車3Aに同軸に固定した回転出力軸120と、クロスローラベアリング130と、スラストコロ軸受140とを有している。
【0035】
波動歯車機構10の各構成要素は
図1~
図3に示す扁平波動歯車装置1と同様な構成である。よって、
図5において、各構成要素(2A、3A、4A)における対応する部位については同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0036】
ユニット型の扁平波動歯車装置100のクロスローラベアリング130は、ハウジング110の一方の端に同軸に締結した外輪131と、この外輪131の内周面に形成した外輪軌道面132と、回転出力軸120の円形外周面に形成した内輪軌道面133と、外輪軌道面132および内輪軌道面133の間に装着された複数個の円筒コロ134とを備えている。クロスローラベアリング130の内輪は回転出力軸120に一体化されている。
【0037】
外輪131は、例えば、分割型の外輪であり、軸方向から同軸に締結した一対の外輪分割片135、136を備えている。また、本例では、ハウジング110の端面に当接している外輪分割片135の端面に、剛性歯車2Aの第1の歯23が形成されている。すなわち、剛性歯車2Aは外輪分割片135に一体化されて、単一部品として製作されている。なお、分割型の外輪131を用いる代わりに、外輪あるいは内輪に円筒コロの挿入穴(挿入溝)を備えた構成のクロスローラベアリングを用いることもできる。クロスローラベアリング130によって、固定側部材であるハウジング110に固定した剛性歯車2Aと、回転出力軸120に固定した可撓性歯車3Aとが、相対回転自在の状態に保持されている。
【0038】
また、ハウジング110における他方の端には半径方向の内方に延びる円環状の端板部分111が形成されている。端板部分111は、波動発生器4Aの剛性カム板41に対して軸方向から対峙している。端板部分111と剛性カム板41との間にスラストコロ軸受140が装着されている。
【0039】
この構成のユニット型の扁平波動歯車装置100には、その波動発生器4Aの剛性カム板41に、例えば、モータ出力軸(図示せず)が同軸に連結される。連結される駆動モータとしては、波動発生器4Aに対して軸方向に予圧を与えるために、超音波モータが適している場合がある。