IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭精機工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-プレス機 図1
  • 特許-プレス機 図2
  • 特許-プレス機 図3
  • 特許-プレス機 図4
  • 特許-プレス機 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】プレス機
(51)【国際特許分類】
   B30B 1/26 20060101AFI20230116BHJP
   B30B 13/00 20060101ALI20230116BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20230116BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
B30B1/26 C
B30B13/00 A
B21D22/20 B
B21D22/26 C
B30B1/26 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022054907
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2022-03-30
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116976
【氏名又は名称】旭精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓二
(72)【発明者】
【氏名】若杉 圭祐
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-071557(JP,A)
【文献】特開2005-224855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 1/26
B30B 13/00
B21D 22/20
B21D 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのラムに対し、そのラムを下死点に向けて押し下げる3つ以上の複数のラム駆動用カムを共通のシャフトに一体回転可能に備えるプレス機であって、
前記シャフトは、前記複数のラム駆動用カムの全てを間に挟んだ両端部を、それら両端部に嵌合する1対の回転支持部により回転可能に支持されると共に、前記ラム駆動用カム同士に挟まれた中間部を、下方に開放した支持溝にて回転可能に支持され、
前記複数のラム駆動用カムには、前記ラムに、押し下げる力と押し上げる力との両方を付与する少なくとも2つの昇降用カムと、押し下げる力のみを付与する少なくとも1つの降下用カムとが含まれているプレス機。
【請求項2】
前記複数のラム駆動用カムのうち両端の前記ラム駆動用カムは、前記昇降用カムである請求項1に記載のプレス機。
【請求項3】
前記ラムの下方には、
前記シャフトの軸方向に並べられ、前記ラムの降下によって複数のワークが同時にプレス加工される複数の加工ステージと、
前記ラムが昇降する度に、前記複数の加工ステージの前記複数のワークを、それぞれ一方の隣りの前記複数の加工ステージに搬送するトランスファー装置と、が備えられている請求項1又は2に記載のプレス機。
【請求項4】
上流側端部の前記加工ステージには、板金からブランク材を打ち抜き、そのブランク材を筒形のワークに成形するワーク生成機構が備えられ、
前記ワーク生成機構よりワーク搬送方向の下流側の複数の前記加工ステージで、前記筒形のワークが絞り成形又はしごき成形され、
前記ワーク生成機構の両側に前記ワーク搬送方向の上流側の2つの前記ラム駆動用カムが配置されている請求項3に記載のプレス機。
【請求項5】
前記ワーク生成機構には、
前記ラムに固定され、前記板金から前記ブランク材を打ち抜く筒形の第1パンチと、
前記第1パンチの内側に嵌合し、前記ブランク材を筒形のワークに成形する第2パンチと、
前記シャフトに一体回転可能に設けられ、前記第2パンチを前記ラムの昇降動作とは異なるタイミングで昇降させる補助カムと、が備えられている請求項4に記載のプレス機。
【請求項6】
1つのラムに対し、そのラムを下死点に向けて押し下げる3つ以上の複数のラム駆動用カムを共通のシャフトに一体回転可能に備えるプレス機であって、
前記ラムの下方には、
前記シャフトの軸方向に並べられ、前記ラムの降下によって複数のワークが同時にプレス加工される複数の加工ステージと、
前記ラムが昇降する度に、前記複数の加工ステージの前記複数のワークを、それぞれ一方の隣りの前記複数の加工ステージに搬送するトランスファー装置と、が備えられ、
上流側端部の前記加工ステージには、板金からブランク材を打ち抜き、そのブランク材を筒形のワークに成形するワーク生成機構が備えられ、
前記ワーク生成機構よりワーク搬送方向の下流側の複数の前記加工ステージで、前記筒形のワークが絞り成形又はしごき成形され、
前記ワーク生成機構の両側に前記ワーク搬送方向の上流側の2つの前記ラム駆動用カムが配置され、
前記ワーク生成機構には、
前記ラムに固定され、前記板金から前記ブランク材を打ち抜く筒形の第1パンチと、
前記第1パンチの内側に嵌合し、前記ブランク材を筒形のワークに成形する第2パンチと、
前記シャフトに一体回転可能に設けられ、前記第2パンチを前記ラムの昇降動作とは異なるタイミングで昇降させる補助カムと、が備えられているプレス機。
【請求項7】
前記複数のラム駆動用カムは、前記ラムのワーク搬送方向の中央に対する下流側より上流側に多く配置されている請求項3又は6に記載のプレス機。
【請求項8】
前記複数のラム駆動用カムの総数は3つであり、
前記シャフトのうち前記下流側の2つの前記ラム駆動用カムに挟まれた前記中間部が、前記支持溝にて支持されている請求項3,6,7の何れか1の請求項に記載のプレス機。
【請求項9】
前記上流側の2つの前記ラム駆動用カムの一方又は両方が、前記上流側の2つ以外の前記ラム駆動用カムより薄くなっている請求項4,6~8の何れか1の請求項に記載のプレス機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレス機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のプレス機として、カムにてラムを昇降させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-120161号公報(段落[0028])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のプレス機に対し、プレス加工の加工精度の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、1つのラムに対し、そのラムを下死点に向けて押し下げる3つ以上の複数のラム駆動用カムを共通のシャフトに一体回転可能に備えるプレス機であって、前記シャフトは、前記複数のラム駆動用カムの全てを間に挟んだ両端部を、それら両端部に嵌合する1対の回転支持部により回転可能に支持されると共に、前記ラム駆動用カム同士に挟まれた中間部を、下方に開放した支持溝にて回転可能に支持され、前記複数のラム駆動用カムには、前記ラムに、押し下げる力と押し上げる力との両方を付与する少なくとも2つの昇降用カムと、押し下げる力のみを付与する少なくとも1つの降下用カムとが含まれているプレス機である。
【0008】
請求項の発明は、前記複数のラム駆動用カムのうち両端の前記ラム駆動用カムは、前記昇降用カムである請求項に記載のプレス機である。
【0009】
請求項の発明は、前記ラムの下方には、前記シャフトの軸方向に並べられ、前記ラムの降下によって複数のワークが同時にプレス加工される複数の加工ステージと、前記ラムが昇降する度に、前記複数の加工ステージの前記複数のワークを、それぞれ一方の隣りの前記複数の加工ステージに搬送するトランスファー装置と、が備えられている請求項1又は2に記載のプレス機である。
【0010】
請求項の発明は、上流側端部の前記加工ステージには、板金からブランク材を打ち抜き、そのブランク材を筒形のワークに成形するワーク生成機構が備えられ、前記ワーク生成機構よりワーク搬送方向の下流側の複数の前記加工ステージで、前記筒形のワークが絞り成形又はしごき成形され、前記ワーク生成機構の両側に前記ワーク搬送方向の上流側の2つの前記ラム駆動用カムが配置されている請求項3に記載のプレス機である。
【0011】
請求項の発明は、前記ワーク生成機構には、前記ラムに固定され、前記板金から前記ブランク材を打ち抜く筒形の第1パンチと、前記第1パンチの内側に嵌合し、前記ブランク材を筒形のワークに成形する第2パンチと、前記シャフトに一体回転可能に設けられ、前記第2パンチを前記ラムの昇降動作とは異なるタイミングで昇降させる補助カムと、が備えられている請求項4に記載のプレス機である。
【0012】
請求項の発明は、1つのラムに対し、そのラムを下死点に向けて押し下げる3つ以上の複数のラム駆動用カムを共通のシャフトに一体回転可能に備えるプレス機であって、前記ラムの下方には、前記シャフトの軸方向に並べられ、前記ラムの降下によって複数のワークが同時にプレス加工される複数の加工ステージと、前記ラムが昇降する度に、前記複数の加工ステージの前記複数のワークを、それぞれ一方の隣りの前記複数の加工ステージに搬送するトランスファー装置と、が備えられ、上流側端部の前記加工ステージには、板金からブランク材を打ち抜き、そのブランク材を筒形のワークに成形するワーク生成機構が備えられ、前記ワーク生成機構よりワーク搬送方向の下流側の複数の前記加工ステージで、前記筒形のワークが絞り成形又はしごき成形され、前記ワーク生成機構の両側に前記ワーク搬送方向の上流側の2つの前記ラム駆動用カムが配置され、前記ワーク生成機構には、前記ラムに固定され、前記板金から前記ブランク材を打ち抜く筒形の第1パンチと、前記第1パンチの内側に嵌合し、前記ブランク材を筒形のワークに成形する第2パンチと、前記シャフトに一体回転可能に設けられ、前記第2パンチを前記ラムの昇降動作とは異なるタイミングで昇降させる補助カムと、が備えられているプレス機である。
【0013】
請求項7の発明は、前記複数のラム駆動用カムは、前記ラムのワーク搬送方向の中央に対する下流側より上流側に多く配置されている請求項3又は6に記載のプレス機である。
請求項8の発明は、前記複数のラム駆動用カムの総数は3つであり、前記シャフトのうち前記下流側の2つの前記ラム駆動用カムに挟まれた前記中間部が、前記支持溝にて支持されている請求項3,6,7の何れか1の請求項に記載のプレス機である。
請求項9の発明は、前記上流側の2つの前記ラム駆動用カムの一方又は両方が、前記上流側の2つ以外の前記ラム駆動用カムより薄くなっている請求項4,6~8の何れか1の請求項に記載のプレス機である。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係るプレス機によれば、3つ以上の複数のラム駆動用カムにて1つのラムを押し下げるので、ラムが受ける加工反力の大きさがラムの場所によって相違していても、従来よりラムの傾きを抑えて、プレス加工の加工精度を向上させることができる。
【0016】
プレス機は、ラムが上昇する時よりラムが降下してプレス加工を行う時の方が、ラム駆動用カムを有するシャフトが大きな負荷を受ける。つまり、シャフトが受ける負荷は、下向きの負荷より上向きの負荷の方が大きい。しかしながら、シャフトの両端部と中間部とのそれぞれに嵌合する回転支持部を設けると、それら複数の回転支持部に対するシャフトの組み付けが困難になる。これに対し、本開示のプレス機では、シャフトの中間部が、下方に開放した支持溝にて回転可能に支持される構造になっているので、組み付けが容易でありながら、上向きの負荷によるシャフトの撓みが抑えられる。つまり、プレス加工を行う時のシャフトの撓みが抑えられる。これにより、ラムの傾きが抑えられ、加工精度が向上する。なお、支持溝は、隣合う全てのラム駆動用カムの間に配置されていてもよいし、隣合う一部のラム駆動用カムの間のみに配置されていてもよい。
【0017】
昇降用カムに対しては、上下から当接する1対の当接部をラムに設ける必要がある一方、降下用カムに対しては下方から当接する1つの当接部をラムに設けるだけでよいので、本開示のプレス機によれば、組み付けの手間を含む製造コストが抑えられる。
【0018】
シャフトは、中間部を支持溝により上方から支持されているので、上方への撓みより下方への撓みが大きくなる。しかしながら、シャフトは、両端部を回転支持部で支持されるので、両端寄り位置は中間部に比べて上下の変位量は少ない。そして、請求項の構成では、複数のラム駆動用カムのうち両端のラム駆動用カムが昇降用カムであるので、上下の当接部に対する当接が安定する。一方、降下用カムはシャフトの両端から離して配置されてシャフトと共に上下に変位し得るが、上側に当接部を有しないので、上側の当接部と衝突を繰り返すような事態が防がれる。
【0019】
本開示のプレス機は、請求項3,6のように、複数の加工ステージとトランスファー装置とを有する、所謂、トランスファプレス機であってもよいし、トランスファー装置を有しないプレス機であってもよい。また、請求項3,6のようなプレス機は、ラムが受ける加工反力の大きさがシャフトの軸方向で異なる傾向にある。そこで、本開示の構成を適用することで、従来よりラムの傾きが抑えられ、加工精度が向上する効果を享受し易い。
【0020】
複数の加工ステージを有するプレス機の場合、ワーク搬送方向の上流側の加工ステージで行われる加工の方が下流側の加工ステージで行われる加工に比べて加工反力が大きい傾向にある。そこで、請求項のようにワーク搬送方向の上流側に下流側より多くのカムを配置することで、ラムの傾きが抑えられ、加工精度が向上する。
【0021】
請求項のプレス機では、カムの総数を3つにして、下流側の2つのラム駆動カムに挟まれる中間部が、下方に開放した支持溝にて回転可能に支持される構造になっているので、組み付けが容易でありながら、上向きの負荷によるシャフトの撓みが抑えられる。つまり、プレス加工を行う時のシャフトの撓みが抑えられる。これにより、ラムの傾きが抑えられ、加工精度が向上する。
【0022】
請求項4,6のように、上流側端部の加工ステージに、板金からブランク材を打ち抜いてから筒形のワークに成形するワーク生成機構を有するプレス機では、上流側端部の加工ステージで、それより下流側の加工ステージで行われる絞り成形又はしごき成形に比べて大きな加工反力を受け、ラムが傾き易い。そこで、本開示の構成を適用することで、従来よりラムの傾きが抑えられ、加工精度が向上する効果を享受し易い。
【0023】
請求項9のプレス機によれば、上流側の2つのカムの一方又は両方を、それ以外のカムより薄くすることで、シャフトが軸方向で大きくなることを抑えることが可能となる。
【0024】
ワーク生成機構は、例えば、ボルスタの下方でシャフトと平行に延びかつシャフトと連動回転する補助シャフトを設けて、その補助シャフトに補助カムを備えると共に、ラムを昇降可能に支持するプレス機のフレームにレバーを傾動可能に支持して補助カムによって傾動されるようにして、その傾動レバーの先端に第2パンチを連結した構成であってもよい。また、ラムを昇降可能に支持するプレス機のフレームの外側で鉛直に延びる補助シャフトがシャフトに連結されると共に、フレームに傾動可能に支持された傾動レバーの一端を補助シャフトに設けられた補助カムに係合し、他端を第2パンチに連結した構成であってもよい。さらに、請求項5,6のように、第2パンチの上方に位置するシャフトに補助カムを設け、その補助カムで第2パンチを昇降させる構成とすることで、前者のワーク生成機構に比べて大きな荷重をワークに付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るプレス機の正面図
図2】(A)カムシャフトが自重により撓んだ状態を示す概念図、(B)カムシャフトが加工反力により撓んだ状態を示す概念図
図3】第2実施形態に係るプレス機の正面図
図4】第3実施形態に係るプレス機の正面図
図5】変形例に係るプレス機の正面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
図1図2を参照して、本開示の一実施形態に係るプレス機10について説明する。図1には、本実施形態のプレス機10を前方から見た正面図が示されている。このプレス機10は、所謂、トランスファプレス機であって、ラム20の下端部に複数のパンチ12を横一列に並べて保持すると共に、それらに対応する図示しない複数のダイを支持梁32に横一列に並べて保持している。そして、パンチ12とダイによりワークを加工する加工ステージSを複数、備える。また、複数の加工ステージSのうち左側端部の加工ステージSでは、板金からブランク材を打ち抜いた後、筒形のワークが成形される。このように二段モーションを行うために左側端部の加工ステージSには、後に詳説するワーク生成機構45が備えられている。そして、トランスファー装置14によってその筒形のワークが下流側の加工ステージSに順次、搬送され、絞り成形又はしごき成形されて所定形状のプレス製品が成形される。
【0027】
以下、ラム20の駆動機構について説明する。なお、以下では、図1におけるプレス機10の横方向を「ワーク搬送方向H1」といい、プレス機10を前方から見たときの左側(図1の左側)を「ワーク搬送方向H1の上流側」、その反対側を「ワーク搬送方向H1の下流側」ということとする。
【0028】
ラム20は、支持フレーム11に昇降可能に支持されている。支持フレーム11は、台座部30から起立して横方向で対向する1対のサイド支持壁31を有する。1対のサイド支持壁31には、下端部寄り位置の間に支持梁32が架け渡されていると共に、上端部に天井壁33が架け渡されている。また、1対のサイド支持壁31の上下方向の略中央より上側には、ラム支持壁34が設けられている。ラム支持壁34は、1対のサイド支持壁31のうち前後方向の後端部寄り位置(図1における紙面奥行方向で奥側)に架け渡されると共に、その上端部が天井壁33に接続されている。また、ラム支持壁34の前面には、上下方向に延びる図示しない複数のレールが取り付けられている。そして、それらレールにラム20の後面に固定されたスライダが係合して、ラム20が上下方向にスライド可能に支持されている。
【0029】
1対のサイド支持壁31の上端部寄り位置には、1対の回転支持部31Aが備えられている。そして、ワーク搬送方向H1に延びるシャフト41の両端部が、1対の回転支持部31Aに設けられたベアリング又はメタル軸受に嵌合して回転可能に支持されている。
【0030】
シャフト41には、3つ以上複数のラム駆動用カム42が一体回転可能に固定されている。それらラム駆動用カム42は、共通のカム曲線を有する。具体的には、ラム駆動用カム42は円形をなし、その円形の中心からずれた位置にシャフト41の中心が位置している。本実施形態では、ラム駆動用カム42を3つ備えた場合を例に説明し、以下、3つのラム駆動用カム42を区別する場合には、ワーク搬送方向H1の上流側から順番に「第1~第3のラム駆動用カム42」と言うこととする。また、シャフト41と複数のラム駆動用カム42とを合わせた全体を「カムシャフト40」ということとする。
【0031】
第1のラム駆動用カム42及び第3のラム駆動用カム42は、シャフト41のうち1対の回転支持部31Aに近接して配置されている。これに対し、第2のラム駆動用カム42は、第1のラム駆動用カム42側に寄せて配置されている。
【0032】
ワーク搬送方向H1の上流側に配置される第1及び第2のラム駆動用カム42は、下流側の第3のラム駆動用カム42に比べて薄くなっている。なお、本実施形態では、第1及び第2のラム駆動用カム42の厚みが、第3のラム駆動用カム42の厚みの略2/3程度になっているが、これに限るものではない。また、第1及び第2のラム駆動用カム42の両方が第3のラム駆動用カム42に比べて薄くなっていたが、例えば、第1及び第2のラム駆動用カム42の何れか一方のみが第3のラム駆動用カム42に比べて薄くなっていてもよいし(図5(A)参照)、3つのラム駆動用カム42の厚みが同じであってもよいし(図5(B)参照)、それぞれ異なっていてもよい。なお、本開示では、ラム20のワーク搬送方向H1(横方向)の中央を境にして図1における左側を「ワーク搬送方向H1の上流側」、中央より右側を「ワーク搬送方向H1の下流側」ということとする。
【0033】
ラム20には、複数のラム駆動用カム42と当接する複数の当接部21が回動可能に支持されている。具体的には、ラム20のうち第1及び第3のラム駆動用カム42に対応する位置には、第1及び第3のラム駆動用カム42を上下方向で挟むように1対の当接部21が設けられている。これに対し、第2のラム駆動用カム42に対応する位置には、第2のラム駆動用カム42の下側にのみ当接部21が設けられている。即ち、両端の第1及び第3のラム駆動用カム42は、ラム20の押し上げと押し下げの両方を行う昇降用カムになっている一方、これら昇降用カムの間に挟まれる第2のラム駆動用カム42は、ラム20の押し下げのみを行う降下用カムになっている。
【0034】
当接部21は、例えば、ローラであって、ラム20から前方に突出して横方向で対向する図示しない1対の支持突壁の間に配置されている。そして、1対の支持突壁の間に差し渡される支持軸が、当接部21の中心部に備えたベアリングを貫通している。なお、ベアリングの代わりにメタル軸受をラム20の中心部に備えていてもよい。また、当接部21は、ローラに限らず、例えば、ラム20から突出してラム駆動用カム42に上方又は下方から対向する突壁を備え、その突壁に円弧状の溝を設けると共に、その溝の内面を摺動メタルで覆った構造とし、その摺動メタルにラム駆動用カム42が当接するようにしてもよい。
【0035】
上述したように、シャフト41のうち第2のラム駆動用カム42と第3のラム駆動用カム42との間は、第1のラム駆動用カム42と第2のラム駆動用カム42との間に比べて広くなっていて、これら第2のラム駆動用カム42と第3のラム駆動用カム42の間にシャフト支持部35が備えられている。シャフト支持部35は、天井壁33から垂下し、その下面に支持溝35Mを有する。支持溝35Mは、上方に窪んだ形状をなし、その窪んだ内面を摺動メタルで覆われている。そして、支持溝35Mの内面にシャフト41の中間部の外周面が当接して、シャフト41の中間部の上方への曲げ変形を抑制している。なお、本実施形態の支持溝35Mは、断面半円状の溝になっているが、例えば、V字状の溝であってよい。
【0036】
一方、シャフト41のうち第1のラム駆動用カム42と第2のラム駆動用カム42との間には、前述のワーク生成機構45が配置されている。具体的には、ワーク生成機構45は、板金からブランク材を打ち抜く筒形の第1パンチ46と、その第1パンチ46の内側に設けられ、ブランク材を筒形のワークに成形する第2パンチ47とを有する。第1パンチ46はラム20と一体に昇降するのに対し、第2パンチ47はラム20とは異なる昇降動作で昇降する。第1のラム駆動用カム42と第2のラム駆動用カム42との間には、第2パンチ47をラム20とは異なる昇降動作で昇降するための補助カム49が備えられている。
【0037】
補助カム49は、シャフト41に一体回転可能に支持され、ラム駆動用カム42のカム曲線とは異なるカム曲線を有する。なお、本実施形態では、補助カム49は、第2パンチ47を降下するための降下用カム49Aと、第2パンチ47を上昇させるための上昇用カム49Bとを備えているが、1つのカムで昇降させてもよい。また、本実施形態では、降下用カム49A及び上昇用カム49Bの厚みが異なっているが(詳細には、降下用カム49Aの方が上昇用カム49Bより厚くなっているが)、同じであってもよい。
【0038】
ラム20のうち補助カム49の下方には、上下方向に延びる図示しないレールが取り付けられている。そして、そのレールにスライダ50がスライド可能に支持されている。スライダ50は、その下端部に第2パンチ47が固定され、上端部に支持フレーム51が連結されている。支持フレーム51は、内側に降下用カム49A及び上昇用カム49Bを収容可能な大きさをなし、下端部に降下用カム49Aに当接する図示しない当接部を回転可能に支持すると共に、上端部に上昇用カム49Bに当接する図示しない当接部を回転可能に支持している。これにより、降下用カム49Aが下側の当接部を介してスライダ50を下側にスライドさせて第2パンチ47を降下させると共に、上昇用カム49Bが上側の当接部を介してスライダ50を上側にスライドさせて第2パンチ47を上昇させる。
【0039】
本実施形態のプレス機10の構成に関する説明は以上である。次に、このプレス機10の作用効果について説明する。プレス機10を起動すると、カムシャフト40が回転駆動されてラム20が昇降し、ワークがプレス加工される。ここで、ワークがプレス加工される際にラム20が受ける加工反力は、ラム20の場所によって異なるため、ラム20が傾くことがある。しかしながら、本実施形態のプレス機10では、ラム駆動用カム42を3つ以上複数、備え、それら3つ以上複数のラム駆動用カム42でラム20を押し下げるので、ラム20が受ける加工反力の大きさがラム20の場所によって相違していても、従来よりラム20の傾きを抑えて、加工精度を向上させることができる。
【0040】
しかも、本実施形態のプレス機10では、シャフト41の中間部が、下方に開放した支持溝35Mにて回転可能に支持される構造になっているので、組み付けが容易でありながらラム20の傾きも抑えられ、加工精度が向上する。詳細には、プレス機10は、ラム20が上昇する時よりラム20が降下してプレス加工を行う時の方が、シャフト41に大きな負荷を受ける。つまり、シャフト41が受ける負荷は、下向きの負荷より上向きの負荷の方が大きい。しかしながら、シャフト41の両端部と中間部とのそれぞれに嵌合する回転支持部31Aを設けると、それら複数の回転支持部31Aに対するシャフト41の組み付けが困難になる。これに対し、プレス機10では、シャフト41が、両端部を1対の回転支持部31Aにより回転可能に支持されると共に、中間部を、下方に開放した支持溝35Mにて回転可能に支持されているので、組み付けが容易でありながら、上向きの負荷によるシャフト41の撓みが抑えられる。つまり、プレス加工を行う時のシャフト41の撓みが抑えられ、ラム20の傾きも抑えられ、加工精度が向上する。
【0041】
ここで、図2(A)及び図2(B)には、シミュレーションにて求めたシャフト41の撓みが強調して示されている。具体的には、図2(A)は、シャフト41がラム20の自重を負荷として上方から受けて下方に撓んだ状態であり、図2(B)は、シャフト41が加工反力を下方から受けて上方に撓んだ状態である。上述したように本実施形態のプレス機10では、シャフト41の両端のラム駆動用カム42は、上下に当接部21を備えた昇降用カムであり、中間のラム駆動用カム42は、下方のみに当接部21を備えた降下用カムであり、また、昇降用カムと上下の当接部21との間にはクリアランスを有する。さらに、シャフト41は、両端部を回転支持部31Aに支持され、中間部を支持溝35Mに支持されている。これらにより、シャフト41は、上方からの負荷に対しては図2(A)に示した通り、その負荷を両端のラム駆動用カム42のみを介して受けて下方に撓む。一方、シャフト41は、下方からの負荷に対しては図2(B)に示した通り、上方への移動を規制された状態で下方からの負荷を全てのラム駆動用カム42を介して受けることができる。これにより、上述したようにシャフト41の組み付けが容易でありながらも、プレス加工する時のシャフト41の撓みが抑えられてラム20の傾きも抑えられ、加工精度が向上する。
【0042】
図2(A)及び図2(B)に示すように、シャフト41は、両端部を回転支持部31Aで支持されるので、両端寄り位置は中間部に比べて上下の変位量は少ない。そして、複数のラム駆動用カム42のうち両端の第1及び第3のラム駆動用カム42を昇降用カムとしたので、上下の当接部21に対する当接を安定させることができる。一方、第2のラム駆動用カム42である降下用カムはシャフトの両端から離して配置されてシャフト41と共に上下に変位し得るが、上側に当接部21を有しないので、上側の当接部21と衝突を繰り返すような事態が防がれる。なお、シャフト41の撓みによって第2のラム駆動用カム42と上側の当接部21とが点で当接して当接部21のベアリングが損傷し得るが、上述の通り、上側の当接部21を有しないので、このような事態が防がれる。また、シャフト41のうち支持溝35Mに支持される中間部については、シャフト41と共に上下に変位して支持溝35Mに衝突し得るが、これらは第2のラム駆動用カム42及び当接部21に比べて面積が大きく且つ面同士で当接するため、損傷し難くなっている。
【0043】
また、複数の加工ステージSを有するプレス機10では、ワーク搬送方向H1の上流側の加工ステージSで行われる加工の方が下流側の加工ステージSで行われる加工に比べて加工反力が大きい。特に、本実施形態のプレス機10のように、加工ステージSの上流側端部で板金からブランク材を打ち抜いた後、筒形のワークに成形するワーク生成機構45を有するプレス機10では、ラム20のワーク搬送方向H1の上流側でより加工反力が大きくなる傾向がある。これに対し、本実施形態のプレス機10では、ワーク搬送方向H1の上流側に下流側より多くのラム駆動用カム42を配置したので、ラム20の傾きが抑えられ、加工精度を向上させることができる。
【0044】
さらには、本実施形態では、ワーク搬送方向H1の上流側に第2のラム駆動用カム42を寄せて配置することで、シャフト41の中間部に支持溝35Mを配置することができるので、上向きの負荷によるシャフトの撓みが効果的に抑えられる。また、本実施形態では、第1及び第2のラム駆動用カム42を第3のラム駆動用カム42に比べて薄くしたので、シャフト41が軸方向で大きくなることを抑えることが可能となる。
【0045】
[第2実施形態]
本実施形態のプレス機10は、図3に示されており、ワーク生成機構45を有しない点が第1実施形態のプレス機10と異なる。本実施形態のプレス機10においても、ラム20は、場所によって異なる加工反力を受けるため、ラム駆動用カム42を3つ以上複数、備え、それら3つ以上複数のラム駆動用カム42でラム20を押し下げることで、第1実施形態のプレス機10と同様に、従来よりラム20の傾きを抑えて、加工精度を向上させることができる。
【0046】
[第3実施形態]
本実施形態のプレス機10は、図4に示されており、ダイセット23,24を介してパンチ12及びダイが固定されている点が第1実施形態のプレス機10と異なる。また、本実施形態のプレス機10は、シャフト41が第1シャフト41Aと第2シャフト41Bとを、例えば、スプラインにて連結してなり、これにより1つのシャフト41に3つ以上複数(例えば、4つ)のラム駆動用カム42を備えている。本実施形態によっても第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0047】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、プレス機10として、複数の加工ステージSと、トランスファー装置14とを有する、所謂、トランスファプレス機を例示したが、トランスファー装置14を有しないプレス機であってもよい。
【0048】
(2)上記実施形態のワーク生成機構45は、第2パンチ47がシャフト41に一体回転可能に備えられた補助カム49にスライダ50を介して連絡していたが、これに限らず、以下の構成であってもよい。即ち、支持梁32の下方でシャフト41と平行に延びかつシャフト41と連動回転する補助シャフト36(図1参照)を設けて、その補助シャフト36に補助カムを備えると共に、プレス機10の支持フレーム11にレバーを傾動可能に支持して補助カムによって傾動されるようにして、その傾動レバーの先端に第2パンチを連結してもよい。また、ラム20を昇降可能に支持するプレス機10の支持フレーム11の外側で鉛直に延びると共にシャフト41に連結される補助シャフト37を設けて(図4参照)、支持フレーム11に傾動可能に支持された傾動レバーの一端を補助シャフト37に設けられた補助カムに係合し、他端を第2パンチに連結してもよい。
【0049】
(3)上記実施形態の3つ以上複数のラム駆動用カム42には、少なくとも2つの昇降用カムと、少なくとも1つの降下用カムとが含まれていたが、これに限るものではない。具体的には、例えば、少なくとも2つの昇降用カムと、ラム20の押し上げのみを行う少なくとも1つの上昇用カムとを含んでいてもよいし、少なくとも2つの昇降用カムと、少なくとも1つの上昇用カムと、少なくとも1つの降下用カムとが含まれていてもよい。また、全てのラム駆動用カム42が昇降用カムであってもよい。
【0050】
(4)また、上記実施形態では、両端のラム駆動用カム42が昇降用カムになっていて、それら昇降用カムに挟まれるラム駆動用カム42が降下用カムになっていたが、例えば、図5(A)に示すように、両端の何れか一方のラム駆動用カム42が降下用カムになっていて、それ以外のラム駆動用カム42が昇降用カムになっていてもよい。
【0051】
(5)上記実施形態では、複数のラム駆動用カム42がワーク搬送方向H1の下流側より上流側に多く配置されていたが、例えば、ワーク搬送方向H1の下流側に多く配置されていてもよいし、図5(B)に示すように、ワーク搬送方向H1に対して等間隔にラム駆動用カム42が配置されていてもよい。
【0052】
(6)上記実施形態では、複数のラム駆動用カム42のうちラム駆動用カム42同士の間の隙間が広い区間(詳細には、第2のラム駆動用カム42と第3のラム駆動用カム42との間)にシャフト支持部35が配置されていたが、ラム駆動用カム42同士の隙間が狭い区間(例えば、第1のラム駆動用カム42と第2のラム駆動用カム42との間)にシャフト支持部35が配置されていてもよい。また、シャフト支持部35は1つに限らず、図4及び図5(B)に示すように、複数、備えられていてもよい。
【0053】
(7)上記実施形態では、ラム駆動用カム42と当接部21との間にはクリアランスを有していたが、クリアランスを有していなくてもよい。
【0054】
なお、本明細書及び図面には、特許請求の範囲に含まれる技術の具体例が開示されているが、特許請求の範囲に記載の技術は、これら具体例に限定されるものではなく、具体例を様々に変形、変更したものも含み、また、具体例から一部を単独で取り出したものも含む。
【符号の説明】
【0055】
10 プレス機
14 トランスファー装置
20 ラム
31A 回転支持部
35M 支持溝
41 シャフト
42 ラム駆動用カム
45 ワーク生成機構
46 第1パンチ
47 第2パンチ
49 補助カム
H1 ワーク搬送方向
S 加工ステージ
【要約】
【課題】従来のプレス機に対し、プレス加工の加工精度の向上が求められている。
【解決手段】本実施形態のプレス機10には、ラム20を昇降するカムシャフト40が備えられている。カムシャフト40は、シャフト41に3つ以上の複数のラム駆動用カム42を備えている。そして、本実施形態のプレス機10では、3つ以上複数のラム駆動用カム42にてラム20を押し下げるので、ラム20が受ける加工反力の大きさがラム20の場所によって相違していても、従来よりラム20の傾きを抑えて、加工精度を向上させることができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5