(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】無機質板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/18 20060101AFI20230116BHJP
C04B 18/26 20060101ALI20230116BHJP
C04B 16/08 20060101ALI20230116BHJP
C04B 14/18 20060101ALI20230116BHJP
C04B 20/10 20060101ALI20230116BHJP
B28B 1/16 20060101ALI20230116BHJP
B28B 1/52 20060101ALI20230116BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230116BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
C04B28/18
C04B18/26
C04B16/08
C04B14/18
C04B20/10
B28B1/16
B28B1/52
B32B9/00 A
B32B9/04
(21)【出願番号】P 2017188815
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000110860
【氏名又は名称】ニチハ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高村 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】水野 裕章
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-160881(JP,A)
【文献】特開平03-218955(JP,A)
【文献】特開2001-206762(JP,A)
【文献】特開2002-321305(JP,A)
【文献】特開平09-194245(JP,A)
【文献】特開2004-196601(JP,A)
【文献】特開2002-068815(JP,A)
【文献】特開平05-194004(JP,A)
【文献】特開2003-320514(JP,A)
【文献】特開平06-032643(JP,A)
【文献】特開平10-225914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
B28B 1/16
B28B 1/52
B32B 9/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質硬化マトリクスと、当該無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材と、当該有機系補強材に付着し且つ当該有機系補強材の最大長さより小さい中空体と、を含む硬化層と、
無機質硬化マトリクス、および、当該無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材、を含む追加硬化層と、を含む積層構造を有し、
前記中空体のメディアン径(直径D50)は、0.05~2mmであり、
前記有機系補強材は、20~50メッシュの木粉、 巾0.5~2mm、長さ1~20mmの木片、直径0.1~2mm、長さ2~35mmの木質繊維束の一種類以上であり、
前記中空体は、発泡ポリスチレンビーズ、マイクロスフィア、パーライトの一種類以上であり、
前記硬化層は、
前記硬化層の原料内における全体の質量を100とした場合、前記中空体を0.4~3質量部、前記有機系補強材を13質量
部含有し、
前記追加硬化層は前記中空体を含まず、且つ、前記追加硬化層における前記有機系補強材は、前記硬化層における前記有機系補強材よりも小さく、
前記追加硬化層における前記有機系補強材は、脂肪酸を含む防水剤により被覆されている無機質板。
【請求項2】
無機質硬化マトリクスと、当該無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材と、当該有機系補強材に付着し且つ当該有機系補強材の最大長さより小さい中空体と、を含む硬化層と、
無機質硬化マトリクス、および、当該無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材、を含む二つの追加硬化層と、を含む積層構造を有し、
前記二つの追加硬化層の間には前記硬化層が位置し、
前記中空体のメディアン径(直径D50)は、0.05~2mmであり、
前記有機系補強材は、20~50メッシュの木粉、 巾0.5~2mm、長さ1~20mmの木片、直径0.1~2mm、長さ2~35mmの木質繊維束の一種類以上であり、
前記中空体は、発泡ポリスチレンビーズ、マイクロスフィア、パーライトの一種類以上であり、
前記硬化層は、
前記硬化層の原料内における全体の質量を100とした場合、前記中空体を0.4~3質量部、前記有機系補強材を13質量
部含有し、
前記追加硬化層は前記中空体を含まず、且つ、前記追加硬化層における前記有機系補強材は、前記硬化層における前記有機系補強材よりも小さく、
前記追加硬化層における前記有機系補強材は、脂肪酸を含む防水剤により被覆されている無機質板。
【請求項3】
前記硬化層における前記有機系補強材は防水剤により被覆され、且つ、前記中空体は当該防水剤を介して前記有機系補強材に付着している、請求項
1または2に記載の無機質板。
【請求項4】
前記硬化層における前記有機系補強材、および、当該有機系補強材に付着している中空体は、防水剤により被覆されている、請求項
1または2に記載の無機質板。
【請求項5】
有機系補強材、および、当該有機系補強材の最大長さより小さい中空体、の混合を経て第1混合物を得る第1の工程と、
前記第1混合物、水硬性材料、および珪酸質材料、の混合を経て第2混合物を得る第2の工程と、
前記第2混合物を堆積させて第2混合物マットを形成する第3の工程と、
水硬性材料、珪酸質材料、および有機系補強材、の混合を経て第3混合物を得る第4の工程と、
前記第3混合物を堆積させて第3混合物マットを形成する少なくとも一つの第5の工程とを含み、
前記中空体のメディアン径(直径D50)は、0.05~2mmであり、
前記有機系補強材は、20~50メッシュの木粉、 巾0.5~2mm、長さ1~20mmの木片、直径0.1~2mm、長さ2~35mmの木質繊維束の一種類以上であり、
前記中空体は、発泡ポリスチレンビーズ、マイクロスフィア、パーライトの一種類以上であり、
前記第2混合物は、
前記第2混合物の原料内における全体の質量を100とした場合、前記中空体を0.4~3質量部、前記有機系補強材を13質量
部含有し、
前記第3混合物における前記有機系補強材は、前記第2混合物における前記有機系補強材よりも小さく、
前記第3の工程の後に前記第5の工程を行って第2混合物マット上に第3混合物マットを形成するか、
前記第5の工程の後に前記第3の工程を行って第3混合物マット上に第2混合物マットを形成するか、或いは、
前記第5の工程の後に前記第3の工程を行って第3混合物マット上に第2混合物マットを形成し、更に前記第5の工程を行って当該第2混合物マット上に第3混合物マットを形成し、
前記第4の工程では、脂肪酸を含む防水剤との混合を経た有機系補強材と水硬性材料および珪酸質材料とが混合されて第3混合物が得られる、無機質板製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程では、防水剤との混合を経た有機系補強材と中空体とが混合されて第1混合物が得られる、請求項5に記載の無機質板製造方法。
【請求項7】
前記第1の工程では、有機系補強材と中空体との混合の後に当該有機系補強材および中空体と防水剤とが混合されて第1混合物が得られる、請求項5に記載の無機質板製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用板材等として利用することが可能な無機質板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁や内壁を構成するための壁材として、窯業系サイディングボードやセラミックボードなどの無機質板が用いられる場合がある。無機質板は、セメント系無機材料を主材とする原料から成形される。このような無機質板に関する技術については、例えば下記の特許文献1,2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-67547号公報
【文献】特開2002-187759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無機質板の補強材として、木質繊維や木質パルプなどの木質補強材が用いられることが多い。無機質板への木質補強材の配合は、製造される無機質板の補強に役立つとともに軽量化(即ち、比重を下げること)に寄与するので、無機質板の曲げ強度を当該無機質板の比重で除した値として表される強度(比強度)の向上に役立つ。比強度に優れる無機質板は、その運搬時や施工時に破損しにくい。
【0005】
一方、施工された無機質板は、自然環境下に曝され、環境の寒暖差によっては、凍結と融解の繰り返しにより劣化する作用、即ち凍結融解作用を受ける場合がある。そして、木質補強材それ自体は、凍結融解作用を受けやすい。そのため、木質補強材が配合された無機質板において凍結融解作用に抗する性質、即ち耐凍結融解性を高めることなどを目的として、木質補強材とともにマイカなどの骨材が無機質板に配合されることがある。
【0006】
このような無機質板については、更なる軽量化の要求がある。無機質板を取り扱う職人の高齢化や減少が進んでいる昨今、その要求は強い。本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであり、その目的は、高い比強度および高い耐凍結融解性とともに軽量化を実現するのに適した無機質板とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によると、無機質板が提供される。この無機質板は少なくとも一つの硬化層を備える。この硬化層は、無機質硬化マトリクスと、無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材と、有機系補強材に付着し且つ当該有機系補強材の最大長さより小さい中空体とを含む。
【0008】
本無機質板ないしその硬化層においては、無機質硬化マトリクス中に有機系補強材が分散している。このような構成は、無機質硬化マトリクスより比重の小さな有機系補強材を採用する場合において、本無機質板を補強しつつ低比重化ないし軽量化するのに適し、従って、無機質板において高い比強度を実現するのに適する。これとともに、無機質硬化マトリクス中で骨材として機能しうる中空体は中空構造を有し、硬化層におけるそのような中空体の存在は、本無機質板における軽量化と高い比強度の実現に資する。
【0009】
また、本無機質板ないしその硬化層においては、無機質硬化マトリクス中に分散する有機系補強材に、当該有機系補強材の最大長さより小さい中空体が付着している。このような構成は、当該有機系補強材の吸湿を抑制して凍結融解作用を受けにくくするのに適し、従って、無機質板の硬化層において高い耐凍結融解性を実現するのに適する。
【0010】
加えて、有機系補強材に付着している状態で無機質硬化マトリクス中に存在する上述の中空体は、無機質硬化マトリクス中に単体で分散している場合の中空体よりも、破損しにくい。中空体の付着している有機系補強材(付着中空体よりも上述のように大きい)が、その弾性に基づき衝撃吸収性を発揮して、当該中空体を保護する傾向にあるからである。
【0011】
したがって、無機質硬化マトリクス中に分散する有機系補強材にその最大長さより小さな中空体が付着しているという上記構成は、本無機質板の硬化層内での中空体の破損を回避または低減して、上述の軽量化作用や耐凍結融解性向上作用など当該中空体に期待される作用を効率よく発揮させるのに適する。
【0012】
以上のように、本発明の第1の側面に係る無機質板は、高い比強度および高い耐凍結融解性とともに軽量化を実現するのに適するのである。
【0013】
本無機質板の好ましい形態においては、有機系補強材は防水剤により被覆され、且つ、中空体は当該防水剤を介して有機系補強材に付着している。このような構成は、有機系補強材の吸湿を回避または抑制して無機質板における高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。これとともに、当該構成は、有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するのに適する。
【0014】
本無機質板の他の好ましい形態においては、有機系補強材と当該有機系補強材に付着している中空体は防水剤により被覆されている。このような構成は、有機系補強材の吸湿を回避または抑制して無機質板における高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。これとともに、当該構成は、有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するのに適する。
【0015】
上記の防水剤は、好ましくは合成樹脂を含む。合成樹脂は被膜性を有するので、当該構成は、無機質板における高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましく、また、有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するうえで好ましい。
【0016】
本発明の第1の側面に係る無機質板は、上述の硬化層と追加硬化層とを含む積層構造、或いは、二つの追加硬化層とこれらの間に位置する上述の硬化層とを含む積層構造を有する。これらの場合、追加硬化層は、無機質硬化マトリクスと当該マトリクス中に分散している有機系補強材とを含み、且つ、追加硬化層中の有機系補強材は硬化層中の有機系補強材よりも小さい(即ち、追加硬化層中の有機系補強材の最大長さは、上記硬化層中の有機系補強材の最大長さよりも小さい)。追加硬化層は中空体を含まない。
【0017】
このような追加硬化層は、上述の硬化層よりも、層組織の緻密化を図るのに適する。層組織が緻密であるほど、当該層の耐水性および表面造形性は高い傾向にある。
【0018】
したがって、本無機質板がこのような追加硬化層と上述の硬化層との積層構造を有するという構成は、本無機質板において高い耐水性や高い造形性を実現するのに適する。また、二つの追加硬化層とこれらの間に位置する上述の硬化層との積層構造を本無機質板が有するという構成も、本無機質板において高い耐水性や高い造形性を実現するのに適する。
【0019】
追加硬化層における有機系補強材は防水剤により被覆されている。当該防水剤は、脂肪酸を含む(脂肪酸は耐水性に優れる)。これら構成は、上述の追加硬化層中の有機系補強材について吸湿を回避または抑制するうえで好ましく、従って、無機質板における高い耐水性や高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。
【0020】
本発明の第2の側面によると、無機質板の製造方法が提供される。この無機質板製造方法は、次の第1の工程、第2の工程、および第3の工程を少なくとも含む。
【0021】
第1の工程では、有機系補強材と当該有機系補強材の最大長さより小さい中空体との混合を経て第1混合物が得られる。第2の工程では、第1混合物と水硬性材料と珪酸質材料との混合を経て第2混合物が得られる。第3の工程では、例えば受具上に、第2混合物を堆積させて第2混合物マットが形成される。第3の工程の後、所定の温度条件と圧力条件の下、第2混合物マット中の水硬性材料と珪酸質材料から、中空体の付着している有機系補強材を包含しつつ無機質硬化マトリクスを形成することができ、これによって第2混合物マットから無機質板の硬化層を形成することができる。
【0022】
本発明の第2の側面に係る無機質板製造方法において、上記の第2の工程より前に上記の第1の工程を行うという構成は、有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するうえで好ましい。したがって、本無機質板製造方法は、本発明の第1の側面に係る上述の無機質板を製造するのに適する。
【0023】
本方法の好ましい形態において、第1の工程では、防水剤との混合を経た有機系補強材と中空体とが混合されて第1混合物が得られる。防水剤は、好ましくは合成樹脂を含む。
【0024】
これら構成は、有機系補強材が防水剤により被覆され且つ当該防水剤を介して中空体が有機系補強材に付着しているという、本発明の第1の側面に関して上述した一構成を、実現するのに適する。したがって、当該構成は、有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するのに適し、また、製造される無機質板において高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。
【0025】
本方法の他の好ましい形態において、第1の工程では、有機系補強材と中空体との混合の後に当該有機系補強材および中空体と防水剤とが混合されて第1混合物が得られる。防水剤は、好ましくは合成樹脂を含む。
【0026】
これら構成は、有機系補強材と当該有機系補強材に付着している中空体が防水剤により被覆されているという、本発明の第1の側面に関して上述した一構成を、実現するのに適する。したがって、当該構成は、有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するのに適し、また、製造される無機質板において高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。
【0027】
本発明の第2の側面に係る無機質板製造方法は、水硬性材料と珪酸質材料と有機系補強材との混合を経て追加硬化層形成用の第3混合物を得る第4の工程、および、第3混合物を堆積させて第3混合物マットを形成する少なくとも一つの第5の工程を、更に含んでもよい。
【0028】
この場合、好ましくは、第3混合物中の有機系補強材は上述の第2混合物中の有機系補強材よりも小さく(即ち、第3混合物中の有機系補強材の最大長さは、第2混合物中の有機系補強材の最大長さよりも小さく)、且つ、第3の工程の後に第5の工程が行われて第2混合物マット上に第3混合物マットが形成されるか、第5の工程の後に第3の工程が行われて第3混合物マット上に第2混合物マットが形成されるか、或いは、第5の工程の後に第3の工程が行われて第3混合物マット上に第2混合物マットが形成され、更に第5の工程が行われて当該第2混合物マット上に第3混合物マットが形成される。
【0029】
混合物マットのこのような積層の後、所定の温度条件と圧力条件の下、各混合物マット中の水硬性材料と珪酸質材料から無機質硬化マトリクスを形成することができ、これにより、第2混合物マットから上述の硬化層が形成され且つ第3混合物マットから上述の追加硬化層を形成することができる。
【0030】
第4および第5の工程を含む以上のような構成によると、硬化層と追加硬化層とを含む積層構造を有する上述の無機質板、または、二つの追加硬化層とこれらの間に位置する硬化層とを含む積層構造を有する上述の無機質板を、適切に製造することができる。
【0031】
好ましくは、第4の工程では、防水剤との混合を経た有機系補強材と水硬性材料および珪酸質材料とが混合されて第3混合物が得られる。この防水剤は、好ましくは脂肪酸を含む。これら構成は、形成される追加硬化層中の有機系補強材について吸湿を回避または抑制するうえで好ましく、従って、製造される無機質板において高い耐水性や高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る無機質板の部分断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る無機質板の部分断面図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る無機質板の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る無機質板X1の部分断面図である。無機質板X1は、硬化層11と、硬化層12と、硬化層13とを含む積層構造を有し、例えば、建築物の外壁や内壁を構成するための壁材として使用可能なものである。
【0034】
硬化層11は、本実施形態では芯層であり、無機質硬化マトリクスと、当該無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材と、当該有機系補強材に付着し且つ当該有機系補強材の最大長さより小さい中空体とを含む。
【0035】
硬化層11における無機質硬化マトリクスとしては、例えば、水硬性材料から形成される硬化物、並びに、水硬性材料および珪酸質材料から形成される硬化物が、挙げられる。
【0036】
水硬性材料としては、例えば、セメント、石膏、およびスラグが挙げられる。セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、およびフライアッシュセメントが挙げられる。石膏としては、例えば、無水石膏、半水石膏、および二水石膏が挙げられる。スラグとしては、例えば、高炉スラグおよび転炉スラグが挙げられる。
【0037】
硬化層11中の無機質硬化マトリクスを形成するために、一種類の水硬性材料が用いられてもよいし、二種類以上の水硬性材料が用いられてもよい。このような水硬性材料のブレーン比表面積は、例えば2000~10000cm2/gである。
【0038】
珪酸質材料としては、例えば、珪砂、ケイ石粉、シリカ粉、石炭灰、フライアッシュ、および珪藻土が挙げられる。硬化層11中の無機質硬化マトリクスを形成するために、一種類の珪酸質材料が用いられてもよいし、二種類以上の珪酸質材料が用いられてもよい。このような珪酸質材料のブレーン比表面積は、例えば3000~30000cm2/gである。
【0039】
硬化層11の無機質硬化マトリクスとして、水硬性材料および珪酸質材料から形成される硬化物を採用する場合、硬化層11形成用の原料混合物における水硬性材料と珪酸質材料との質量比は、好ましくは6:4~3:7である。
【0040】
硬化層11における有機系補強材としては、例えば、植物系補強材および合成繊維が挙げられる。植物系補強材としては、例えば、木粉、木毛、木片、木質パルプ、木質繊維、木質繊維束、故紙、竹繊維、麻繊維、バガス、籾殻、および稲藁が挙げられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、およびアクリル繊維が挙げられる。硬化層11中には、一種類の有機系補強材が用いられてもよいし、二種類以上の有機系補強材が用いられてもよい。
【0041】
有機系補強材として木粉が用いられる場合、当該木粉のサイズは例えば20~50メッシュである。有機系補強材として木片が用いられる場合、当該木片について、巾は例えば0.5~2mmであり、長さは例えば1~20mmであり、アスペクト比(長さ/巾)は例えば20~30である。
【0042】
また、有機系補強材として木質繊維束が用いられる場合、当該木質繊維束について、直径は例えば0.1~2mmであり、長さは例えば2~35mmである。当該木質繊維束は、分枝形状を有してもよいし、湾曲形状を有してもよいし、折曲形状を有してもよい。
【0043】
硬化層11における中空体は、上述のように、有機系補強材に付着し、且つ有機系補強材の最大長さより小さい。有機系補強材の最大長さとは、例えば、有機系補強材が粉体や小片である場合にはその最長径であり、有機系補強材が有機系繊維である場合にはその繊維長である。このような有機系補強材の最大長さより、当該有機系補強材に付着している中空体の長さは小さいのである。
【0044】
硬化層11における中空体は、内部に空洞を伴う一の外殻または二以上の連なる外殻を有するものである。中空体の外郭は、閉じているのが好ましいものの、閉じていなくてもよい。中空体は多孔質体を含む。また、中空体の形状は、球形や楕円体などを含む略球形が好ましい。
【0045】
中空体としては、例えば、発泡ポリスチレンビーズ、マイクロスフィア、パーライト、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、膨張頁岩、膨張粘土、および焼成珪藻土が挙げられる。マイクロスフィアは、好ましくはアクリル系発泡体である。硬化層11中には、一種類の中空体が用いられてもよいし、二種類以上の中空体が用いられてもよい。
【0046】
中空体のメディアン径(直径D50)は、好ましくは0.05~2mmである。中空体として発泡ポリスチレンビーズが用いられる場合、当該発泡ポリスチレンビーズのメディアン径は、好ましくは0.5~2mm、より好ましくは0.8~1.5mmである。中空体としてマイクロスフィアが用いられる場合、当該マイクロスフィアのメディアン径は、好ましくは0.05~0.3mm、より好ましくは0.08~0.2mmである。中空体としてパーライトが用いられる場合、当該パーライトのメディアン径は、好ましくは0.1~1mm、より好ましくは0.1~0.5mmである。
【0047】
好ましい形態においては、硬化層11中の有機系補強材は防水剤により被覆され、且つ、中空体は当該防水剤を介して有機系補強材に付着している。好ましい他の形態においては、硬化層11中の有機系補強材とこれに付着している中空体は、防水剤により被覆されている。
【0048】
防水剤としては、例えば、ロウ、ワックス、パラフィン、コハク酸、脂肪酸、シリコーン、および合成樹脂が挙げられる。合成樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ウレタン系樹脂、およびエポキシ樹脂が挙げられる。合成樹脂は、被覆性が高く、硬化層11の防水剤として好ましい。
【0049】
硬化層12(追加硬化層)は、本実施形態では、無機質板X1の意匠面をなす表層である。硬化層12は、無機質硬化マトリクスと、当該無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材とを含む。
【0050】
硬化層12における無機質硬化マトリクスとしては、例えば、水硬性材料から形成される硬化物、並びに、水硬性材料および珪酸質材料から形成される硬化物が、挙げられる。硬化層12用の水硬性材料の種類およびブレーン比表面積については、上述した硬化層11用の水硬性材料の種類およびブレーン比表面積と同様である。硬化層12用の珪酸質材料の種類およびブレーン比表面積については、上述した硬化層11用の珪酸質材料の種類およびブレーン比表面積と同様である。
【0051】
硬化層12の無機質硬化マトリクスとして、水硬性材料および珪酸質材料から形成される硬化物を採用する場合、硬化層12形成用の原料混合物における水硬性材料と珪酸質材料との質量比は、好ましくは6:4~4:6である。
【0052】
硬化層12における有機系補強材としては、例えば、植物系補強材および合成繊維が挙げられる。本実施形態では、硬化層12における有機系補強材は、上述の硬化層11における有機系補強材よりも小さい(即ち、硬化層12中の有機系補強材の最大長さは、硬化層11中の有機系補強材の最大長さよりも小さい)。
【0053】
硬化層12用の有機系補強材の種類については、上述した硬化層11用の有機系補強材の種類と同様である。硬化層12用の有機系補強材のサイズについては、硬化層11用の有機系補強材よりも小さい限りにおいて、上述した硬化層11用の有機系補強材のサイズと同様である。
【0054】
硬化層12における有機系補強材は、好ましくは、防水剤により被覆されている。防水剤としては、例えば、ロウ、ワックス、パラフィン、コハク酸、脂肪酸、シリコーン、および合成樹脂が挙げられる。硬化層12における防水剤は、好ましくは脂肪酸である。脂肪酸は、耐水性に優れ、防水剤として好ましい。脂肪酸としては、例えば、リノール酸やオレイン酸などの高級脂肪酸が挙げられる。
【0055】
また、本実施形態においては、硬化層11の構成材料の一つとして上述した中空体を硬化層12は含まない。
【0056】
硬化層13(追加硬化層)は、本実施形態では、無機質板X1の意匠面とは反対の側の裏層である。硬化層13は、無機質硬化マトリクスと、当該無機質硬化マトリクス中に分散している有機系補強材とを含む。
【0057】
硬化層13における無機質硬化マトリクスとしては、例えば、水硬性材料から形成される硬化物、並びに、水硬性材料および珪酸質材料から形成される硬化物が、挙げられる。硬化層13用の水硬性材料の種類およびブレーン比表面積については、上述した硬化層11用の水硬性材料の種類およびブレーン比表面積と同様である。硬化層13用の珪酸質材料の種類およびブレーン比表面積については、上述した硬化層11用の珪酸質材料の種類およびブレーン比表面積と同様である。
【0058】
硬化層13の無機質硬化マトリクスとして、水硬性材料および珪酸質材料から形成される硬化物を採用する場合、硬化層13形成用の原料混合物における水硬性材料と珪酸質材料との質量比は、好ましくは6:4~4:6である。
【0059】
硬化層13における有機系補強材としては、例えば、植物系補強材および合成繊維が挙げられる。本実施形態では、硬化層13における有機系補強材は、上述の硬化層11における有機系補強材よりも小さい(即ち、硬化層13中の有機系補強材の最大長さは、硬化層11中の有機系補強材の最大長さよりも小さい)。
【0060】
硬化層13用の有機系補強材の種類については、上述した硬化層11用の有機系補強材の種類と同様である。硬化層13用の有機系補強材のサイズについては、硬化層11用の有機系補強材よりも小さい限りにおいて、上述した硬化層11用の有機系補強材のサイズと同様である。
【0061】
硬化層13における有機系補強材は、好ましくは、防水剤により被覆されている。防水剤としては、例えば、ロウ、ワックス、パラフィン、コハク酸、脂肪酸、シリコーン、および合成樹脂が挙げられる。硬化層13における防水剤は、好ましくは脂肪酸である。脂肪酸は、耐水性に優れ、防水剤として好ましい。脂肪酸としては、例えばリノール酸やオレイン酸などの高級脂肪酸が挙げられる。
【0062】
また、本実施形態においては、硬化層11の構成材料の一つとして上述した中空体を硬化層13は含まない。
【0063】
硬化層11,12,13は、それぞれ、上述の構成材料に加えて他の材料を含有してもよい。他の材料としては、例えば、混和材が挙げられる。混和材としては、例えば、マイカ、製紙スラッジ焼却灰、シリカフューム、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、バーミキュライト、セピオライト、ゾノトライト、カオリナイト、ゼオライト、および、無機質板の粉砕物が挙げられる。
【0064】
マイカとしては、平均粒径が200~700μmであってアスペクト比が60~100のフレーク状のものが好ましい。
【0065】
無機質板の粉砕物としては、無機質板の製造過程で発生した硬化前無機質板の不良板の粉砕物および硬化後無機質板の不良板の粉砕物、並びに、建築現場等で発生した無機質板の端材や廃材の粉砕物が挙げられる。これら粉砕物の平均粒径は、例えば50~150μmである。
【0066】
以上のような構成の無機質板X1の各層は、乾式法または湿式法によって形成することができる。
【0067】
乾式法では、形成目的の硬化層の構成材料を含む原料混合物が受具上に散布されて混合物マットがフォーミングされる。原料混合物は、水を含有していてもよい。原料混合物が水を含有する場合、当該原料混合物における水の含有量は、硬化層構成材料の固形分100質量部に対して30~45質量部程度である。形成された混合物マットは、所定の圧力条件と温度条件の硬化工程や、必要に応じて行われるオートクレーブ養生を経て、硬化層を形成することとなる。
【0068】
湿式法では、形成目的の硬化層の構成材料と水とが混練されて調製されるスラリーがフェルト等の多孔質体上に流下されて抄造脱水されることによって混合物マットが形成される。この混合物マットは、所定の圧力条件と温度条件の硬化工程や、必要に応じて行われるオートクレーブ養生を経て、硬化層を形成することとなる。
【0069】
上述の無機質板X1は、具体的には、例えば以下のような過程を経て製造することができる。
【0070】
まず、硬化層11形成用の混合物、硬化層12形成用の混合物、および硬化層13形成用の混合物が、それぞれ、製造される。
【0071】
硬化層11形成用の混合物の製造においては、まず、硬化層11用の上述の有機系補強材と硬化層11用の上述の中空体との混合を経て第1混合物を得る。その後、この混合物と、硬化層11用の上述の水硬性材料と硬化層11用の上述の珪酸質材料との混合を経て第2混合物が得られる。有機系補強材と水硬性材料および珪酸質材料とが混合される工程より前に、有機系補強材と中空体とが混合される工程を行うという構成は、有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するうえで好ましい。
【0072】
硬化層11形成用の混合物の製造においては、好ましくは、硬化層11用の上述の防水剤との混合を経た有機系補強材と中空体とが混合されて第1混合物が得られる。このような構成は、有機系補強材が防水剤により被覆され且つ当該防水剤を介して中空体が有機系補強材に付着しているという、無機質板X1に関して上述した好ましい一の形態を実現するのに適する。
【0073】
或いは、硬化層11形成用の混合物の製造においては、有機系補強材と中空体との混合の後に当該有機系補強材および中空体と硬化層11用の上述の防水剤とを混合して第1混合物を得てもよい。このような構成は、有機系補強材と当該有機系補強材に付着している中空体が防水剤により被覆されているという、無機質板X1に関して上述した好ましい一の形態を実現するのに適する。
【0074】
一方、硬化層12形成用の上述の水硬性材料と上述の珪酸質材料と上述の有機系補強材との混合を経て、硬化層12形成用の混合物が得られる。硬化層12形成用の混合物の製造においては、好ましくは、硬化層12用の上述の防水剤との混合を経た有機系補強材と水硬性材料および珪酸質材料とが混合される。このような構成は、形成される硬化層12中の有機系補強材について吸湿を回避または抑制するうえで好ましい。
【0075】
また、硬化層13形成用の上述の水硬性材料と上述の珪酸質材料と上述の有機系補強材との混合を経て、硬化層13形成用の混合物が得られる。硬化層13形成用の混合物の製造においては、好ましくは、硬化層13用の上述の防水剤との混合を経た有機系補強材と水硬性材料および珪酸質材料とが混合される。このような構成は、形成される硬化層13中の有機系補強材について吸湿を回避または抑制するうえで好ましい。
【0076】
無機質板X1の製造においては、次に、硬化層12形成用の混合物を受具上に散布して堆積させ、硬化層12形成用の混合物マットをフォーミングする。本実施形態において、受具は、製造目的の無機質板X1の意匠面に対応する凹凸形状を内表面(硬化層12形成用の混合物を受ける側の表面)に有する型板である。
【0077】
次に、硬化層12形成用の混合物マットの上に、硬化層11形成用の混合物を散布して堆積させ、硬化層11形成用の混合物マットをフォーミングする。
【0078】
次に、硬化層11形成用の混合物マットの上に、硬化層13形成用の混合物を散布して堆積させ、硬化層13形成用の混合物マットをフォーミングする。
【0079】
次に、以上のようにして積層された混合物マットについて、プレスした状態で加熱して硬化させる。具体的には、各混合物マット中の水硬性材料および珪酸質材料から無機質硬化マトリクスを形成する。本工程において、プレス圧力は例えば2~8MPaであり、加熱温度は例えば50~80℃であり、プレス時間は6~12時間である。
【0080】
この後、必要に応じてオートクレーブ養生が行われる。このオートクレーブ養生において、温度条件は例えば150℃以上であり、圧力条件は例えば0.5MPa以上である。
【0081】
例えば以上のようにして、無機質板X1を適切に製造することができる。
【0082】
無機質板X1ないしその芯層である硬化層11においては、上述のように、無機質硬化マトリクス中に有機系補強材が分散している。このような構成は、無機質硬化マトリクスより比重の小さな有機系補強材を採用する場合において、無機質板X1を補強しつつ低比重化ないし軽量化するのに適し、従って、無機質板X1において高い比強度(曲げ強度を比重で除した値)を実現するのに適する。
【0083】
これとともに、無機質硬化マトリクス中で骨材として機能しうる中空体は中空構造を有するところ、硬化層11におけるそのような中空体の存在は、無機質板X1における軽量化と高い比強度の実現に資する。
【0084】
また、無機質板X1ないしその硬化層11においては、上述のように、無機質硬化マトリクス中に分散する有機系補強材に中空体が付着している。このような構成は、当該有機系補強材についてその吸湿を抑制して凍結融解作用を受けにくくするのに適し、従って、無機質板X1ないしその硬化層11において高い耐凍結融解性を実現するのに適する。
【0085】
加えて、有機系補強材に付着している状態で無機質硬化マトリクス中に存在する上述の中空体は、無機質硬化マトリクス中に単体で分散している場合の中空体よりも、破損しにくい。中空体の付着している有機系補強材(付着中空体よりも上述のように大きい)が、その弾性に基づき衝撃吸収性を発揮して、当該中空体を保護する傾向にあるからである。
【0086】
したがって、無機質硬化マトリクス中に分散する有機系補強材にその最大長さより小さな中空体が付着しているという上記構成は、無機質板X1の硬化層11における中空体の破損を回避または低減して、軽量化作用や耐凍結融解性向上作用など当該中空体に期待される作用を効率よく発揮させるのに適する。
【0087】
以上のように、無機質板X1は、高い比強度および高い耐凍結融解性とともに軽量化を実現するのに適する。
【0088】
上述のように、無機質板X1の好ましい一の形態においては、硬化層11中の有機系補強材は防水剤により被覆され、且つ、中空体は当該防水剤を介して有機系補強材に付着している。このような構成は、硬化層11中の有機系補強材の吸湿を回避または抑制して無機質板X1における高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。これとともに、当該構成は、硬化層11中の有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するのに適する。
【0089】
上述のように、無機質板X1の好ましい他の形態においては、硬化層11中の有機系補強材とこれに付着している中空体は、防水剤により被覆されている。このような構成は、硬化層11中の有機系補強材の吸湿を回避または抑制して無機質板X1における高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。これとともに、当該構成は、硬化層11中の有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するのに適する。
【0090】
硬化層11中において防水剤が用いられる場合、当該防水剤は上述のように好ましくは合成樹脂を含む。合成樹脂は被膜性を有するので、当該構成は、無機質板X1における高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましく、また、硬化層11中の有機系補強材に対する中空体の良好な付着状態を実現するうえで好ましい。
【0091】
無機質板X1においては、上述のように、硬化層12中の有機系補強材は硬化層11中の有機系補強材よりも小さく、硬化層12は本実施形態では中空体を含まない。当該構成は、硬化層12の層組織を硬化層11の層組織よりも緻密化するのに適する。層組織が緻密であるほど、当該層の耐水性および表面造形性は高い傾向にある。したがって、無機質板X1が、硬化層11(芯層)に加えてこのような硬化層12(表層)を有するという構成は、無機質板X1の硬化層12側にて高い耐水性や高い造形性を実現するのに適する。
【0092】
無機質板X1においては、上述のように、硬化層12中の有機系補強材は防水剤により被覆されており、その防水剤は好ましくは脂肪酸である。このような構成は、硬化層12中の有機系補強材について吸湿を回避または抑制するうえで好ましく、従って、無機質板X1における高い耐水性や高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。
【0093】
無機質板X1においては、上述のように、硬化層13中の有機系補強材は硬化層11中の有機系補強材よりも小さく、硬化層13は本実施形態では中空体を含まない。このような構成は、硬化層13の層組織を硬化層11の層組織よりも緻密化するのに適する。層組織が緻密であるほど、当該層の耐水性および表面造形性は高い傾向にある。したがって、無機質板X1が、硬化層11(芯層)に加えてこのような硬化層13(裏層)を有するという構成は、無機質板X1の硬化層13側にて高い耐水性等を実現するのに適する。
【0094】
無機質板X1においては、上述のように、硬化層13中の有機系補強材は防水剤により被覆されており、その防水剤は好ましくは脂肪酸である。このような構成は、硬化層13中の有機系補強材について吸湿を回避または抑制するうえで好ましく、従って、無機質板X1における高い耐水性や高い耐凍結融解性を実現するうえで好ましい。
【0095】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る無機質板X2の部分断面図である。無機質板X2は、芯層である硬化層11と表層である硬化層12とを含む積層構造を有し、積層構造中に硬化層13を含まないこと以外は無機質板X1と同様の構成を備える。
【0096】
このような無機質板X2は、例えば、混合物マットの積層形成過程において、硬化層11形成用の混合物マット上に硬化層13形成用の混合物マットをフォーミングする工程を行わないこと以外は無機質板X1の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0097】
以上のような無機質板X2においても、硬化層11を有することに基づく効果として無機質板X1に関して上述した効果が奏され、且つ、硬化層12を有することに基づく効果として無機質板X1に関して上述した効果が奏される。
【0098】
無機質板X2は、例えば、裏面(硬化層11における、硬化層12とは反対側の面)に接着剤を塗布して当該裏面側にて他部材に貼着する態様で使用される板材に、適用することができる。
【0099】
図3は、本発明の第3の実施形態に係る無機質板X3の部分断面図である。無機質板X3は、芯層である硬化層11を有し、積層構造中に硬化層12,13を含まないこと以外は無機質板X1と同様の構成を備える。
【0100】
このような無機質板X3は、例えば、混合物マットの積層形成過程において、受具上に硬化層12形成用の混合物マットをフォーミングする工程と、硬化層11形成用の混合物マット上に硬化層13形成用の混合物マットをフォーミングする工程とを行わないこと以外は無機質板X1の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0101】
以上のような無機質板X3においても、硬化層11を有することに基づく効果として無機質板X1に関して上述した効果が奏される。
【0102】
無機質板X3は、例えば、耐火野地板や下地材などに適用することができる。
【実施例】
【0103】
試料1~10に係る無機質板を製造し、各無機質板について、比重、比強度、耐凍結融解性、寸法安定性、および燃焼収縮率を調べた。試料1~10に係る無機質板の各層を形成するための原料の固形分組成は表1,2に示すとおりであり、表1,2において、組成を表す各数値の単位は、各原料内での相対的な“質量部”である。
【0104】
〔試料1〕
まず、芯層用の第1原料混合物および表層用・裏層用の第2原料混合物を製造した。
【0105】
第1原料混合物の製造においては、まず、有機系補強材である木片(各木片の最大長さは20mm以下)と、中空体である発泡ポリスチレンビーズ(粒径D50は1.0mm)とを混合した。次に、これによって得られた混合物と、防水剤としてのアクリル系樹脂とを混合した。次に、これによって得られた混合物と水とを混合した。次に、これによって得られた混合物と、水硬性材料である早強セメントと、珪酸質材料であるフライアッシュと、混和材であるマイカおよび無機質板端材の粉砕物とを混合した。
【0106】
このようにして、芯層用の第1原料混合物を製造した。第1原料混合物において、水の配合量は、固形分100質量部に対して40質量部である。
【0107】
一方、第2原料混合物の製造においては、まず、有機系補強材である木片(各木片の最大長さは12mm以下)と、防水剤としての高級脂肪酸とを混合した。次に、これによって得られた混合物と水とを混合した。次に、これによって得られた混合物と、水硬性材料である早強セメントと、珪酸質材料であるフライアッシュと、混和材であるマイカおよび無機質板端材の粉砕物とを混合した。これら早強セメント、フライアッシュ、マイカ、および無機質板端材粉砕物は、第1原料混合物と同じである。
【0108】
このようにして、表層用・裏層用の第2原料混合物を製造した。第2原料混合物において、水の配合量は、固形分100質量部に対して40質量部である。
【0109】
試料1の無機質板の製造においては、次に、型板の上に上記第2原料混合物を散布して堆積させ、表層形成用の混合物マットをフォーミングした。次に、この混合物マットの上に上記第1原料混合物を散布して堆積させ、芯層形成用の混合物マットをフォーミングした。次に、この芯層用混合物マットの上に上記第2原料混合物を散布して堆積させ、裏層形成用の混合物マットをフォーミングした。
【0110】
次に、これら混合物マットの積層体について、圧力3MPaでのスタックプレスを行い、その圧締状態のまま温度60℃にて6時間の蒸気養生を行った。その後、当該積層体について、圧力0.7MPaおよび温度160℃の条件で、8時間のオートクレーブ養生を行った。
【0111】
以上のようにして、試料1に係る厚さ16mmの無機質板を製造した。試料1の無機質板の総厚において、芯層の厚さは70%であり、表層の厚さは15%であり、裏層の厚さは15%である。
【0112】
〔試料2〕
表層形成用混合物マットのフォーミングにあたって表層形成用の第2原料混合物の堆積量を100%増加したこと、および、芯層形成用混合物マット上に裏層形成用混合物マットを形成しなかったこと、以外は試料1の無機質板と同様にして、試料2の厚さ16mmの無機質板を製造した。試料2の無機質板の総厚において、芯層の厚さは70%であり、表層の厚さは30%である
【0113】
〔試料3〕
型板の上に上記第1原料混合物を散布して堆積させ、芯層形成用の混合物マットをフォーミングした。次に、この混合物マットについて、圧力3MPaでのスタックプレスを行い、その圧締状態のまま温度60℃にて6時間の蒸気養生を行った。その後、当該積層体について、圧力0.7MPaおよび温度160℃の条件で、8時間のオートクレーブ養生を行った。以上のようにして、試料3に係る厚さ16mmの無機質板を製造した。
【0114】
〔試料4〕
芯層形成用の第1原料混合物の製造にあたり、防水剤としてアクリル系樹脂の代わりに高級脂肪酸を用いたこと以外は試料1の無機質板と同様にして、試料4の無機質板(厚さ16mm)を製造した。
【0115】
〔試料5〕
芯層形成用の第1原料混合物の製造にあたり、中空体として発泡ポリスチレンビーズの代わりに所定量のマイクロスフィア(粒径D50は0.1mm,アクリル系樹脂を外殻とする)を用いたこと、および、フライアッシュの配合量を変えたこと、以外は試料1の無機質板と同様にして、試料5の無機質板(厚さ16mm)を製造した。
【0116】
〔試料6〕
芯層形成用の第1原料混合物の製造にあたり、中空体として発泡ポリスチレンビーズの代わりに所定量のパーライト(粒径D50は0.3mm)を用いたこと、および、フライアッシュの配合量を変えたこと、以外は試料1の無機質板と同様にして、試料6の無機質板(厚さ16mm)を製造した。
【0117】
〔試料7〕
第1原料混合物の製造において、まず、有機系補強材である木片と、防水剤であるアクリル系樹脂とを混合した。次に、これによって得られた混合物と、中空体である発泡ポリスチレンビーズとを混合した。次に、これによって得られた混合物と水とを混合した。次に、これによって得られた混合物と、水硬性材料である早強セメントと、珪酸質材料であるフライアッシュと、混和材であるマイカおよび無機質板端材の粉砕物とを混合した。
【0118】
試料7の第1原料混合物の製造に用いた木片、アクリル系樹脂、発泡ポリスチレンビーズ、早強セメント、フライアッシュ、マイカ、および無機質板端材粉砕物は、試料1の第1原料混合物と同じである。
【0119】
以上のようにして、試料7の第1原料混合物を製造した。この第1原料混合物を、試料1に関して上述した第1原料混合物の代わりに用いたこと以外は試料1の無機質板と同様にして、試料7の無機質板(厚さ16mm)を製造した。
【0120】
〔試料8〕
第1原料混合物の製造において、まず、有機系補強材である木片と、防水剤であるアクリル系樹脂とを混合した。次に、これによって得られた混合物と水とを混合した。次に、これによって得られた混合物と、水硬性材料である早強セメントと、珪酸質材料であるフライアッシュと、混和材であるマイカおよび無機質板端材の粉砕物とを混合した。次に、これによって得られた混合物と、中空体である発泡ポリスチレンビーズとを混合した。
【0121】
試料8の第1原料混合物の製造に用いた木片、アクリル系樹脂、早強セメント、フライアッシュ、マイカ、無機質板端材粉砕物、および発泡ポリスチレンビーズは、試料1の第1原料混合物の製造に用いたものと同じものである。
【0122】
以上のようにして、試料8の第1原料混合物を製造した。この第1原料混合物を、試料1に関して上述した第1原料混合物の代わりに用いたこと以外は試料1の無機質板と同様にして、試料8の無機質板(厚さ16mm)を製造した。
【0123】
〔試料9〕
芯層形成用の第1原料混合物として試料1用の上記第1原料混合物の代わりに試料9用の第1原料混合物を用いたこと以外は、試料1の無機質板と同様にして、試料9の無機質板(厚さ16mm)を製造した。試料9用の第1原料混合物は、中空体である発泡ポリスチレンビーズを用いなかったこと、珪酸質材料であるフライアッシュと有機系補強材である木片の各配合量を変えたこと、および、防水剤としてアクリル系樹脂に代えて高級脂肪酸を用いたこと、以外は試料1用の第1原料混合物と同様にして、製造した。
【0124】
試料9の第1原料混合物の製造に用いた高級脂肪酸は、試料1の第2原料混合物の製造に用いた高級脂肪酸と同じものである。
【0125】
〔試料10〕
表層形成用の第2原料混合物の堆積量、芯層形成用の第1原料混合物の堆積量、および裏層形成用の第2原料混合物の堆積量をそれぞれ7.4%減らしたこと、並びに、スタックプレス時の圧力を3MPaに代えて2MPaとしたこと、以外は試料9の無機質板と同様にして、試料10の無機質板(厚さ16mm)を製造した。
【0126】
〈比強度〉
試料1~10の各無機質板から試験片(7cm×20cm)を切り出し、各試験片について、JIS A 1408に準じて曲げ強度(N/mm2)を測定した。各無機質板について、その曲げ強度(N/mm2)の値を、別途測定された比重(絶乾かさ比重)で除した値として、比強度を求めた。このようにして求められた比強度を比重とともに表1,2に掲げる。
【0127】
〈耐凍結融解性〉
試料1~10の各無機質板について、JIS A 1435に記載の気中凍結水中融解法によって耐凍結融解性を調べた。この気中凍結水中融解法に付された各無機質板の100サイクル後の厚さ変化率(%)、200サイクル後の厚さ変化率(%)、および300サイクル後の厚さ変化率(%)を表1,2に掲げる。
【0128】
〈寸法安定性〉
試料1~10の各無機質板から切り出された各試験片について、まず、60℃の恒温室内で平衡状態とさせた後、全長(初期長さ)を測定した。次に、各試験片について、水中に8日間静置した。次に、水中から取り出された試験片について、湿布を使用して表面付着水を拭き取った後、全長(試験後長さ)を測定した。そして、各試験片について、初期長さに対する試験後長さの寸法変化率(吸水8日後の寸法変化率)を求めた。その結果を表1,2に掲げる。
【0129】
一方、試料1~10の各無機質板から切り出された各試験片について、まず、温度20℃および湿度65%の恒温恒湿室内で平衡状態とさせた後、全長(初期長さ)を測定した。次に、各試験片について、器内温度80℃の乾燥器内で10日間静置した。次に、乾燥器から取り出された試験片について、全長(試験後長さ)を測定した。そして、各試験片について、初期長さに対する試験後長さの寸法変化率(放湿10日後の寸法変化率)を求めた。その結果を表1,2に掲げる。
【0130】
〈燃焼収縮率〉
試料1~10の各無機質板から試験片(7cm×20cm)を切り出し、各試験片について、燃焼試験を行って試験後の収縮率を調べた。燃焼試験では、電気炉内にて900℃で1時間、試験片を加熱した。その結果を表1,2に掲げる。
【0131】
[評価]
芯層に中空体の配合されていない試料9の無機質板(その厚さは試料1~8と同じ16mmである)は、比重が大きく、重い。製造過程において各原料混合物の堆積量が減らされ且つスタックプレス時の圧力が下げられて、正味の比重を小さくされたこと以外は試料9の無機質板と同様の構成を有する試料10の無機質板では、高い比強度も、高い耐凍結融解性も、実現されていない。これに対し、中空体の付着している有機系補強材が無機質硬化マトリクス中に分散しているという構成をとる芯層を備える試料1~8の無機質板では、高い比強度および高い耐凍結融解性とともに軽量化が実現された。
【0132】
【0133】
【符号の説明】
【0134】
X1,X2,X3 無機質板
11,12,13 硬化層