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  • 特許-糖質制限麺 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】糖質制限麺
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20230116BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20230116BHJP
   A23L 33/22 20160101ALI20230116BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L33/21
A23L33/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017243711
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2019106970
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000227489
【氏名又は名称】日東富士製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】池田 一貴
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】羽立 只勝
(72)【発明者】
【氏名】市野 広
(72)【発明者】
【氏名】高柳 雅義
(72)【発明者】
【氏名】大島 秀男
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-023050(JP,A)
【文献】特開平10-262589(JP,A)
【文献】特開2017-079598(JP,A)
【文献】特開2012-254024(JP,A)
【文献】特開2013-236585(JP,A)
【文献】特開2016-027795(JP,A)
【文献】特開2009-207484(JP,A)
【文献】特開平07-155131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0148562(US,A1)
【文献】特開2016-002000(JP,A)
【文献】特開平07-000132(JP,A)
【文献】特開2009-159874(JP,A)
【文献】特開2009-089667(JP,A)
【文献】国際公開第2007/026674(WO,A1)
【文献】特開2017-012099(JP,A)
【文献】特開2017-055662(JP,A)
【文献】新居, 佳孝 他,セルロースナノファイバ-を添加したソバ麺の品質改善効果,徳島県立工業技術センター研究報告,2017年,vol.26,pp.37-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00- 7/109
A23L 33/00-33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と、難消化性澱粉と、小麦蛋白と、穀類外皮の粉砕物を湿式粉砕して得られる一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材と、イヌリンとを含有し、前記小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、前記一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材を乾物換算で0.01~0.5質量部、前記イヌリンを2~10質量部含有することを特徴とする麺類。
【請求項2】
前記小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、前記小麦粉30~45質量部、前記難消化性澱粉40~55質量部、前記小麦蛋白10~20質量部含有する、請求項に記載の麺類。
【請求項3】
更に、こんにゃく加工物を含有する、請求項1又は2に記載の麺類。
【請求項4】
更に、大豆加工物を含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の麺類。
【請求項5】
乾物換算で、麺類100g中に含まれる糖質の含量が20~35gである、請求項1~のいずれか1項に記載の麺類。
【請求項6】
前記麺類が、中華麺、うどん、日本そば、焼きそば、沖縄そば、そうめん、冷むぎ、きし麺、冷麺、パスタ類、ギョウザの皮、ワンタンの皮から選ばれた1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の麺類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質含有量が制限された麺であって、食感や食味が優れた麺に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的な健康志向を反映して、あるいは糖尿病患者などの糖質制限が課せられる人々のために、麺においても糖質含有量が制限された技術が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、難消化性澱粉、小麦たん白、及び増粘多糖類を10~100重量%の割合で含有する低糖質麺用ミックス粉が開示されている。この技術によれば、糖質を低量化することでカロリーを抑制しながらも、通常の麺に類似した美味しい麺を調製し、提供できることが記載されている。
また、下記特許文献2には、穀粉と、60重量%以上のレジスタントスターチ(難消化性澱粉)を含むレジスタントスターチ含有澱粉と、糊化開始温度を低下させる化工を施した化工澱粉とを含有することを特徴とする麺類澱粉が開示されている。この技術によれば、食物繊維含量を十分に高め、糖質やカロリーの低減効果が得られる程度にレジスタントスターチの配合量を多くしても、澱粉全体の添加量を比較的少なくすることができ、製麺性や食感の低下を防止できることが記載されている。
【0004】
一方、下記特許文献3には、バイオナノファイバーを穀物粉含有生地に配合することを特徴とする、強度が高められた穀物粉含有生地の製造方法が開示されている。ここで、バイオナノファイバーは、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、表面キトサン化キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーからなる群より選択される1種またはそれ以上であるとされている。また、バイオナノファイバーは様々な方法により製造され、例えば、原料である乾燥カニ殻を脱タンパク質、脱カルシウム、所望により脱脂、脱色素処理し、機械的処理(例えば、らいかい器、ボールミル、高圧ホモジナイザー、二軸混練機、磨砕器、超音波等による)に付す方法等が挙げられるが、これらの方法に限定されないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-2000号公報
【文献】特許第3798509号公報
【文献】特開2016-27795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1、2に開示された麺においては、難消化性澱粉を含有させることにより、カロリー低減や糖質制限効果が得られるものの、歯ごたえが乏しく、苦味や渋味が生じたりして、食感や食味が本来の麺とは大きくかけ離れてしまうという問題点があった。
【0007】
一方、特許文献3に示されるように、穀物粉含有生地にナノファイバーを添加することが知られているが、難消化性澱粉を含有する糖質制限麺にナノファイバーを添加することは知られていなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、難消化性澱粉を含有する糖質含有量が制限された麺であって、食感や食味が優れた麺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の1つは、小麦粉と、難消化性澱粉と、小麦蛋白と、一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材とを含有することを特徴とする麺類を提供するものである。
【0010】
本発明によれば、難消化性澱粉を含有することにより、糖質の少ない麺類を提供することができる。また、難消化性澱粉を含有しても、小麦蛋白によって成形性が維持され、更に一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材を含有することにより、苦味や渋味が低減され、弾力のある歯ごたえと、つるみが付与された麺類を提供することができる。
【0011】
本発明の麺類においては、前記小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、前記一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材を、乾物換算で0.01~0.5質量部含有することが好ましい。
【0012】
本発明の麺類においては、前記一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材が、穀類外皮の粉砕物であることが好ましい。
【0013】
本発明の麺類においては、前記小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、前記小麦粉30~45質量部、前記難消化性澱粉40~55質量部、前記小麦蛋白10~20質量部含有することが好ましい。
【0014】
本発明の麺類においては、前記小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、イヌリンを2~10質量部含有することが好ましい。
【0015】
本発明の麺類においては、更に、こんにゃく加工物を含有することが好ましい。
【0016】
本発明の麺類においては、更に、大豆加工物を含有することが好ましい。
【0017】
本発明の麺類においては、乾物換算で、麺類100g中に含まれる糖質の含量が20~35gであることが好ましい。
【0018】
本発明の麺類においては、前記麺類が、中華麺、うどん、日本そば、焼きそば、沖縄そば、そうめん、冷むぎ、きし麺、冷麺、パスタ類、ギョウザの皮、ワンタンの皮から選ばれた1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、難消化性澱粉を含有することにより、糖質の少ない麺類を提供することができる。また、難消化性澱粉を含有しても、小麦蛋白によって成形性が維持され、更に一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材を含有することにより、弾力のある歯ごたえと、つるみが付与された麺類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一部ナノファイバー化している食物繊維含有素材の(A)3000倍及び(B)5000倍の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の麺類は、小麦粉と、難消化性澱粉と、小麦蛋白と、一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材とを含有する。
【0022】
本発明の麺類に用いる小麦粉としては、通常麺類を製造する際に用いるものを用いることができ、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、及びこれらの混合粉など、市販のものを用いることができる。
【0023】
本発明の麺類において、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、小麦粉の含有量は、30~45質量部であることが好ましい。小麦粉が30質量部未満であると麺の風味や食感が低下し、45質量部を超えると糖質量の低減効果が乏しくなる傾向にある。なお、一般的に小麦粉は約11.0~16.0質量%の水分を含有する。
【0024】
本発明の麺類に用いる難消化性澱粉は、消化吸収を受けにくい食用の澱粉をいう。詳細には、食物繊維の含量が50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更により好ましくは70質量%以上である食用の澱粉をいう。なお、食物繊維の定量法としては、プロスキー法(No.985.29, Total Dietary Fiber in Foods, "Official Method of Analysis", AOAC, 15th ed., 1990, P.1105-1106)、酵素HPLC法(AOAC2001.03)などが知られている。
【0025】
難消化性澱粉は、澱粉質原料を物理的、酵素的及び/又は化学的に処理すること等により得ることができる。例えば、特開平4-130102号公報及び特開平10-313804号公報に記載された方法に従い、澱粉質原料、好ましくは高アミロース澱粉質原料を湿熱処理する方法が挙げられる。より具体的には、減圧ラインと加圧蒸気ラインとの両方を付設し、内圧、外圧共に耐圧性の密閉できる容器を用い、この容器内に上記澱粉を入れ、減圧した後、蒸気を導入して加圧加熱し、又はこの操作を繰り返して、澱粉を所定時間加熱した後、冷却することにより湿熱処理する方法である。また、例えば、特開平8-56690号公報に記載された方法に従い、澱粉質原料に脱分枝化酵素を作用させる方法が挙げられる。より具体的には、ゼラチン化デンプンの水性スラリーを、プルラナーゼ、イソアミラーゼ等の脱分枝酵素により脱分枝し、そして得られる生成物を老化させる方法である。
【0026】
難消化性澱粉の原料となる澱粉質原料としては、食用として利用可能なものであればよく、特に制限はない。例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉などが挙げられる。また、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。更に、各種加工澱粉を用いてもよい。酸処理、アルカリ処理、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、リン酸化処理、架橋処理といった化学的処理、加熱処理、α化処理、湿熱処理、ボールミル処理、微粉砕処理といった物理的処理、酵素処理といった加工処理や、それらの2種以上の処理を施した澱粉を使用してもよい。
【0027】
難消化性澱粉としては、市販品を使用することもでき、例えば、「ファイバージムRW」(商品名、松谷化学工業株式会社製)、「アミロジェルHB-450」(商品名、三和澱粉工業株式会社製)、「日食ロードスター」(商品名、日本食品化工株式会社製)等を使用することができる。
【0028】
本発明の麺類において、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、難消化性澱粉の含有量は、40~55質量部であることが好ましい。難消化性澱粉が40質量部未満であると食感は良くなるものの糖質量の低減効果が乏しくなり、55質量部を超えると食感や食味が低下する傾向がある。
【0029】
本発明の麺類に用いる小麦蛋白としては、市販のものを用いることができ、例えば、グリコ栄養食品社製のA-グルシリーズ(それぞれ商品名、「A-グルEC」、「A-グルWP」、「A-グルG」、「A-グルK」等)やファイングルVP、理研ビタミン社製のエマソフトシリーズ(それぞれ商品名、「エマソフトEX-100」、「エマソフトEX-95」、「エマソフトA-2000」、「エマソフトVE」等)などが挙げられる。小麦蛋白として主に用いられるグルテンは、粉体状製品として市場に流通しており、その紛体状製品を水等に戻したときには、生地様の伸展性や弾力性を呈する。
【0030】
本発明の麺類において、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、小麦蛋白の含有量は、10~20質量部であることが好ましい。小麦蛋白が10質量部未満であると蛋白量が低いために食感や作業性が悪くなり、20質量部を超えると蛋白量が多いために食感や食味が悪くなる傾向がある。なお、一般的に小麦蛋白は約5~10質量%の水分を含有する。
【0031】
本発明の麺類に用いる一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材は、食物繊維含有素材にナノファイバー化の処理をすることで得ることができる。
【0032】
食物繊維含有素材としては、公知の不溶性食物繊維を使用することができ、例えば、穀類外皮、セルロース、キチン、キトサン等を用いることができる。このなかでも、よりよい風味を付与するため、穀類外皮が好ましく用いられる。穀類外皮としては、国内外産小麦(薄力系、中力系、準強力系、強力系、デュラム系、国内産小麦、準強力系等)、大麦、大豆、ライ麦、コメ、ソバ、トウモロコシ、オーツ麦等の穀物の外皮を用いることができる。また、これら1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0033】
なお、外皮とは、穀類を精白した際に出る、果皮、種皮を意味する。ただし、原料としては、外皮以外に、胚芽や、穀類の精白工程にて産出される末粉が含まれていてもよい。本発明の麺類に用いる一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材としては、穀類のふすま(糠)が好ましく用いられる。
【0034】
ナノファイバー化の処理に用いる食物繊維含有素材の食物繊維含量は、20質量%以上であることが好ましい。食物繊維含量が20質量%よりも少ないとナノファイバー化される食物繊維が少なくなるので、本発明の効果が少なくなる。なお、食物繊維含量の上限は特に限定されない。
【0035】
ナノファイバー化した食物繊維含有素材は、例えば、次のようにして得ることができる。
【0036】
事前処理として、食物繊維含有素材を乾式粉砕することが好ましい。この事前処理を施すことによって、食物繊維含有素材が更に効率よくナノファイバー化される。この乾式粉砕は、食物繊維含有素材を、平均粒径が200μm以下となるように粉砕することが好ましい。平均粒径が200μmより大きいと、後述する湿式粉砕において、ナノファイバー化される割合が減少する傾向がある。
【0037】
ナノファイバー化した食物繊維含有素材は、食物繊維含有素材を一部ナノファイバー化するまで、湿式で粉砕する湿式粉砕工程を経ることにより得られる。湿式粉砕方法としては、例えば磨砕粉砕、圧縮力粉砕、剪断力粉砕、又は衝撃力粉砕等が挙げられ、粉砕機としては、例えば、せん断摩擦式粉砕機、衝撃式粉砕機(ボールミル)、ホモジナイザー等が使用できる。この中でも、石臼式粉砕機や高圧噴射処理が好ましく用いられ、例えば「マスコロイダー」(商品名、増幸産業株式会社)や「スターバースト」(商品名、株式会社スギノマシン製)が好ましく用いられる。
【0038】
湿式粉砕は、1回又は2回以上行ってもよい。具体的には、例えば、食物繊維含有素材を湿式粉砕機に通過させて粉砕処理した後、通過させた食物繊維含有素材を再度湿式粉砕機に通過させて粉砕処理してもよく、このようにして、湿式粉砕機による粉砕処理を数回繰り返してもよい。
【0039】
湿式による粉砕は、食物繊維含有素材に、固形分含量が好ましくは1~20質量%となるように、加水して粉砕することが好ましい。固形分含量が1質量%よりも少ないと、固形分含量が少ないため粉砕の効率が悪くなり、20質量%よりも多いと、粉砕機が詰まりやすくなり、効率良く粉砕できなくなる傾向がある。
【0040】
上記のようにして得られた食物繊維含有素材の粉砕物は、一部ナノファイバー化した部分を含む。ナノファイバーとは、1μm未満の太さ、好ましくは1~100nmの太さの繊維状の物質である。なお、ナノファイバーの長さは、特に限定されないが、太さの100倍以上であることが好ましい。例えば、電子顕微鏡にて穀類の外皮の粉砕物の状態を3000~5000倍で観察すると、一部ナノファイバー化していることを確認することができる。
【0041】
なお、湿式粉砕処理された食物繊維含有素材は、粒径10μm以下のものが20質量%以上であることが好ましく、粒径10μm以下のものが30質量%以上あることがより好ましい。
【0042】
本発明の麺類において、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材の含有量は、乾物換算で、0.01~0.5質量部であることが好ましく、0.1~0.2質量部であることがより好ましい。一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材の含有量が0.01質量部未満であると、難消化性澱粉由来の低下した食感や食味を十分に改善させることができず、0.5質量部を超えると硬くなり食感が悪くなる傾向がある。なお、上記において、乾物換算とは、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部に対して、一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材の添加量を乾燥固形分として計算した値を意味する。
【0043】
本発明の麺類は、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、イヌリンを2~10質量部含有することが好ましい。イヌリンを上記範囲で添加することで、難消化性澱粉由来の苦みを低減させることができるが、2質量部未満であると苦味の低減が不十分となり、10質量部を超えると作業性が悪化しやすくなる傾向がある。
【0044】
本発明の麺類は、更に、こんにゃく加工物を含有することが好ましい。こんにゃく加工物とは、こんにゃく粉、糖質及び澱粉を合わせて複合物として、粒状、糸状、粉末状等の任意形状に加工したものである。どのような製造方法であってもよいが、一例としては、こんにゃく芋から常法にてグルコマンナンを抽出して乾燥し、澱粉と混合し、水を添加して膨潤し、少量のアルカリを添加することによる脱アセチル化処理を行った後、成型、加熱ゲル化、中和、糖質溶液浸漬、乾燥することで製造できる。このようなこんにゃく加工物は市販のものを用いることができ、例えば、蒟蒻屋本舗株式会社製の「ナノコン」(商品名)等が挙げられる。
【0045】
本発明の麺類において、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、こんにゃく加工物の含有量は、0.5~5質量部であることが好ましい。こんにゃく加工物が0.5質量部未満であると食感改善の効果が期待できなく、5質量部を超えるとこんにゃく独特の食感・風味が強くなり麺らしさが失われる傾向がある。
【0046】
本発明の麺類は、更に、大豆加工物を含有することが好ましい。大豆加工物とは、大豆及び/又は乾燥大豆を用いた加工物のことをいい、例えば、全粒大豆粉、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、おから、おから粉末、きな粉、豆乳粉末等が挙げられる。
【0047】
本発明の麺類において、大豆加工物の含有量は、麺類に含有される小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、乾物換算で、2~10質量部であることが好ましく、2~5質量部であることがより好ましい。大豆加工物が2質量部未満であると糖質制限に効果がなく、10質量部を超えると大豆臭が強くなり食味が低下する傾向がある。
【0048】
本発明の麺類は乾物換算で、麺類100g中に含まれる糖質の含量が20~35gであることが好ましく、25~35gであることがより好ましい。麺類100g中に含まれる糖質の含量が20g未満であると食感・食味が劣り、35gを超えると糖質量の低減効果が乏しくなる傾向にある。ここでいう糖質とは、食物繊維を除いた炭水化物をいい、食物繊維の定量法は、上記にも記載した通り、プロスキー法や酵素HPLC法などが知られている。
【0049】
本発明において、麺の生地原料としては、小麦粉、難消化性澱粉、小麦蛋白、一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材、及び水を含むものであればよく、必要に応じてその他の原料を添加してもよい。その他の原料としては、例えば、食塩、かんすい、酒、増粘剤、リン酸塩、ポリリン酸塩、卵、グルテン、乳化剤、酸化防止剤、着色料、pH調整剤等が挙げられる。
【0050】
本発明の麺は、上記生地原料を混合して生地を作製し、前記生地を麺状に成形して得ることができる。
【0051】
本発明の麺としては、例えば、中華麺、うどん、日本そば、焼きそば、沖縄そば、そうめん、冷むぎ、きし麺、冷麺、パスタ類、ギョウザの皮、ワンタンの皮等の生麺、茹麺(チルド麺)、蒸し麺、包装蒸煮麺、冷凍麺等が挙げられる。
【0052】
本発明の麺は、難消化性澱粉を含有することにより糖質の含量が抑えられつつも、粘弾性が良好であり、苦味と渋味が低減され、食感や食味が優れているので、ダイエットしたい人や、糖尿病等の糖代謝異常を有する人等に好適である。
【実施例
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0054】
1.一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材の作製
一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材として用いた小麦由来外皮粉砕物は、以下のように作製した。
【0055】
通常の製粉方法で得た小麦ふすま(食物繊維含量42%)を、気流粉砕機(商品名「ウェーブミル」、ツカサ工業製)で乾式粉砕処理をし、平均粒径63.6μmの小麦ふすま粉砕物を得た。この粉砕物に、固形分濃度が10%となるように加水し、石臼式粉砕機(商品名「マスコロイダー」、増幸産業株式会社製)に投入して、湿式粉砕処理をした。湿式粉砕処理は、マスコロイダーに1回通したものを更にもう1回通す2パスで行った。
【0056】
こうして得られた小麦由来外皮粉砕物の、3000倍の電子顕微鏡写真を図1(A)に示し、5000倍の電子顕微鏡写真を図1(B)に示す。それぞれの写真の矢印で示す部分に、一部ナノファーバー化された食物繊維が存在することがわかる。
【0057】
なお、上記小麦由来外皮粉砕物は、粒度分布において、粒度9.817μm以下のものが7.7質量%であった。
【0058】
2.試験例
<試験例1>
(1)中華麺の製造
下記表1に示す配合で、原材料を6分間ミキシングし、得られた生地をまとめて圧延を繰り返し、#20角の切刃にて切り出して、27cm長さの生中華麺を作製した。
【0059】
続いて、各生中華麺を沸騰水中で1分45秒茹でて、中華麺を製造した。
【0060】
なお、小麦粉には「北疾風」(商品名、日東富士製粉株式会社製)、難消化性澱粉には「ファイバージムRW」(商品名、松谷化学工業製)、小麦蛋白には「A-グルEC」(商品名、グリコ栄養食品製)の、イヌリンには「フジFF」(商品名、フジ日本精糖製)、こんにゃく加工物には「ナノコン」(商品名、蒟蒻屋本舗製)、大豆加工物には「おからパウダー」(商品名、キッコーマンソイフーズ株式会社製)を用いた。
【0061】
【表1】
【0062】
(2)評価
中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について、下記の基準で官能評価した。
【0063】
・食感
5点 対照品と比較して、粘弾性が極めて良好。
4点 対照品と比較して、粘弾性が良好。
3点 対照品と同等の粘弾性。
2点 対照品と比較して、粘弾性がやや不良。
1点 対照品と比較して、粘弾性が不良。
【0064】
・食味
5点 対照品と比較して、苦味、渋味が全くないほどに改善されている。
4点 対照品と比較して、苦味、渋味が低減されている。
3点 対照品と同等の苦味、渋味あり。
2点 対照品と比較して、苦味や渋味が強い。
1点 対照品と比較して、苦味や渋味が極めて強い。
【0065】
評価はパネラー5名の平均点を算出し、表2に示した。食味・食感の一方が3.2点未満であるものを△、いずれも3.2点以上のものを〇又は◎とし、さらに糖質量等を考慮して◎を総合評価として付した。
【0066】
小麦粉、難消化性澱粉、小麦蛋白、及び小麦由来外皮粉砕物を原料とした中華麺(実施例1~7)では、十分な粘弾性があり、苦味や渋味が抑制された麺であった。
【0067】
【表2】
【0068】
<試験例2>
(1)中華麺の製造
下記表3に示す配合で、上記試験例1と同様に、中華麺を製造した。
【0069】
【表3】
【0070】
(2)評価
上記試験例1と同様に、中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について評価した。評価はパネラー5名の平均点を算出し、表4に示した。なお、小麦全粒粉には「20H石臼粉」(強力粉)(商品名、日東富士製粉株式会社製)、小麦ふすまには「Fブラン」(商品名、日東富士製粉株式会社製)を用いた。
【0071】
小麦粉、難消化性澱粉、小麦蛋白、及び小麦由来外皮粉砕物を原料とした中華麺(実施例4)では、十分な粘弾性があり、苦味や渋味が抑制された麺であった。
【0072】
一部ナノファイバー化した食物繊維含有素材として用いた小麦由来外皮粉砕物の代わりに、小麦全粒粉(比較例3~5)又は小麦ふすま(比較例6~8)を原料として用いた中華麺では、粘弾性が不良で、渋味や苦みが強い傾向にあった。
【0073】
【表4】
【0074】
<試験例3>
(1)中華麺の製造
下記表5に示す配合で、上記試験例1と同様に、中華麺を製造した。
【0075】
【表5】
【0076】
(2)評価
上記試験例1と同様に、中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について評価した。評価はパネラー5名の平均点を算出し、表6に示した。
【0077】
小麦粉、難消化性澱粉、及び小麦蛋白の合計量を100質量部としたとき、難消化性澱粉を40~55質量部、小麦蛋白を10~20質量部含有した中華麺(実施例9~11)では、特に粘弾性が良好であり、苦味や渋味が低減された麺であった。
【0078】
【表6】
【0079】
<試験例4>
(1)中華麺の製造
下記表7に示す配合で、上記試験例1と同様に、中華麺を製造した。
【0080】
【表7】
【0081】
(2)評価
上記試験例1と同様に、中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について評価した。評価はパネラー5名の平均点を算出し、表8に示した。
【0082】
小麦粉を30~45質量部、小麦蛋白を10~20質量部含有した中華麺(実施例14~16)では、特に粘弾性が良好であり、苦味や渋味が低減された麺であった。
【0083】
【表8】
【0084】
<試験例5>
(1)中華麺の製造
下記表9に示す配合で、上記試験例1と同様に、中華麺を製造した。
【0085】
【表9】
【0086】
(2)評価
上記試験例1と同様に、中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について評価した。評価はパネラー5名の平均点を算出し、表10に示した。
【0087】
小麦粉を30~45質量部、難消化性澱粉を40~55質量部含有した中華麺(実施例4,17~19)では、特に粘弾性が良好であり、苦味や渋味が低減された麺であった。
【0088】
【表10】
【0089】
<試験例6>
(1)中華麺の製造
下記表11に示す配合で、上記試験例1と同様に、中華麺を製造した。
【0090】
【表11】
【0091】
(2)評価
上記試験例1と同様に、中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について評価した。評価はパネラー5名の平均点を算出し、表12に示した。
【0092】
イヌリンを2~10質量部含有した中華麺(実施例4,23,24)では、特に粘弾性が良好であり、苦味や渋味が低減された麺であった。
【0093】
【表12】
【0094】
<試験例7>
(1)中華麺の製造
下記表13に示す配合で、上記試験例1と同様に、中華麺を製造した。
【0095】
【表13】
【0096】
(2)評価
上記試験例1と同様に、中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について評価した。評価はパネラー5名の平均点を算出し、表14に示した。
【0097】
こんにゃく加工物を0.5~5質量部含有した中華麺(実施例27~30)では、特に粘弾性が良好であり、苦味や渋味が低減された麺であった。
【0098】
【表14】
【0099】
<試験例8>
(1)中華麺の製造
下記表15に示す配合で、上記試験例1と同様に、中華麺を製造した。
【0100】
【表15】
【0101】
(2)評価
上記試験例1と同様に、中華麺をラーメンスープの入ったどんぶりに移し、1分後に食して、食感と食味について評価した。評価はパネラー5名の平均点を算出し、表16に示した。
【0102】
大豆加工物を2~10質量部含有した中華麺(実施例33~35)では、特に粘弾性が良好であり、苦味や渋味が低減された麺であった。
【0103】
【表16】
図1