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  • 特許-カテーテルシース及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】カテーテルシース及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20230116BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20230116BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20230116BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
A61M25/00 600
A61M25/00 500
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017248881
(22)【出願日】2017-12-26
(62)【分割の表示】P 2015501903の分割
【原出願日】2013-03-21
(65)【公開番号】P2018075414
(43)【公開日】2018-05-17
【審査請求日】2018-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】13/833,919
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/614,728
(32)【優先日】2012-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508286762
【氏名又は名称】アシスト・メディカル・システムズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ゼレンカ
(72)【発明者】
【氏名】ラス イー.ビービー
(72)【発明者】
【氏名】ケンドール アール.ウォーターズ
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】村上 聡
【審判官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0195490(US,A1)
【文献】米国特許第5316706(US,A)
【文献】特開2012-24491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端と、遠位端と、前記近位端及び前記遠位端の間に延びる長さ部と、を有する第1シースを備えたカテーテルであって、前記第1シースが前記近位端及び前記遠位端の間に接合部を有しておらず、前記第1シースは、前記第1シースの曲げ弾性率が前記長さ部の一部に沿って変化する遷移領域を有し、前記遷移領域は、第1曲げ弾性率を有する第1部分と第2曲げ弾性率を有する第2部分の間にあり、前記第1曲げ弾性率は前記第2曲げ弾性率よりも大きく、前記第1部分が前記第2部分の近位に在り、前記遷移領域は、前記第1シースの壁の厚さの少なくとも2倍に等しい遷移領域長さを有し、前記第1シースの前記遠位端は接合領域において第2シースに接合され、
前記第1シースはポリエーテルエーテルケトンを含み、前記第2シースはポリエチレンを含み、前記第1シースは前記第2シースの曲げ弾性率よりも大きな曲げ弾性率を有し、
前記カテーテルが、イメージングコアを更に含む超音波イメージングカテーテルであり、前記イメージングコアは、可撓性ドライブケーブルと、トランスデューサハウジングと、超音波トランスデューサスタックと、伝送線とを含む、カテーテル。
【請求項2】
前記遷移領域長さは、連続勾配としての、前記第1部分と前記第2部分との間の前記第1シースの曲げ弾性率の変化を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記第1部分が前記第2部分と同じ材料を含む、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記第1部分の結晶化度が約10%~約40%であり、前記第2部分の結晶化度が約0%~約20%である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記第1部分の曲げ弾性率が約3.45×109Pa~約11.0×109Pa(約500ksi~約1600ksi)の範囲内であり、前記第2部分の曲げ弾性率が約1.38×109Pa~約2.76×109Pa(約200ksi~約400ksi)の範囲内である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記第1部分の長さが前記第2部分の長さの少なくとも3倍である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記第1シースの外径が前記長さ部にわたって不変である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記第1シースの内径が前記長さ部にわたって不変である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記第1シースの前記壁の厚さが前記長さ部にわたって不変である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記第2シースが所定の曲げ弾性率を有し、前記接合領域を挟んだ曲げ弾性率の差が約0.517×109Pa(約75ksi)以下である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記イメージングコアが前記第2シースの中にある、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記遷移領域長さは、前記第1シースの前記壁の厚さの少なくとも4倍に等しい、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項13】
前記第1部分が前記第2部分よりも長く、前記遷移領域が前記第1シースの前記近位端よりも前記第1シースの前記遠位端に近い、請求項1に記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2012年3月23日に出願された米国特許仮出願第61/614728号「カテーテルシース及びその方法」及び2013年3月15日に出願された米国特許出願第13/833919号「カテーテルシース及びその方法」の利益を主張する。それら米国特許仮出願の各々の内容は本明細書中に組み込まれる。
【0002】
本開示は、カテーテル、例えば、可変的な剛性を有するシースを備えた血管内カテーテルに関する。
【背景技術】
【0003】
カテーテルは、患者にアクセスし、疾患を診断して治療するために使用される。例えば、冠動脈疾患の患者は、疾患の治療のために経皮的冠動脈形成を受けることができる。血管内イメージングカテーテルは、冠動脈疾患を評価し、かつ治療装置の選択の指針を与えるために使用されうる。
【0004】
血管内イメージングカテーテルなどのカテーテルは、カテーテルのプッシャビィティ(pushability)とカテーテルの追従性のバランスを取るために、異なる曲げ弾性率又は剛性を有する複数の部分を有する。プッシャビリティは、カテーテル近位端において長手方向に伝えられた力が、どれほどカテーテル遠位端の長手方向の運動に転換されるかを表す。追従性は、カテーテルがどの程度容易にその目的場所(例えば、冠動脈部部分)へ到達できるかを表す。一般に、複数のカテーテルシース部分は、熱接合または接着などの接合技術を用いて接合される。各カテーテルシース接合部分は、カテーテルが蛇行性の解剖学的構造を通過して送達されるときのヒンジ点として作用する。現在の血管内イメージングカテーテルには、蛇行性冠動脈を前進する際の逸脱などの制約が見られる。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に記載される実施形態において、カテーテルは、その長さ部に沿って可変的な曲げ弾性率を有するシースを含む。いくつかの実施形態において、シースは、曲げ弾性率が異なる少なくとも2つの部分を含む。シースはポリマーを含みうる。いくつかの実施形態において、ポリマー製のシースは、曲げ弾性率が異なる少なくとも2つの部分を有するように加工されうる。いくつかの実施形態には、ポリマー製のシースが曲げ弾性率の異なる少なくとも2つの部分を有するようにポリマー製のシースを加工する方法が含まれる。また、本発明の実施形態には、曲げ弾性率が異なる少なくとも2つの部分を有するシースを備えたカテーテルも含まれており、接合継手が存在しないことによって、プッシャビリティ及び追従性が改善されうる。このことは血管内カテーテルの用途に特に有用でありうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】複数のシース部分を有する従来技術のカテーテルの側断面図である。
図2】本発明の実施形態によるカテーテルの部分的な側断面図である。
図2A】本発明の実施形態による近位シースの部分的な側断面図である。
図3】本発明の実施形態によるカテーテルシース組立体の側断面図である。
図4】本発明の実施形態によるカテーテルシースを製造するための代表的な加工ステップを図解する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
添付図面は、本発明の特定の実施形態の図解であるので、本発明の範囲を限定するものではない。添付図面は、必ずしも(特に明示しない限り)原寸に比例しておらず、以下の詳細な説明と一緒に使用するように意図されている。以下においては、本発明の実施形態が添付図面に関連して説明されており、添付図面において、同様の参照符号は同様の要素を示している。
【0008】
図1は、長さ部に沿って剛性が変化するシースを有する従来技術のカテーテル10の側断面図である。カテーテル10は、近位シース12と、遠位シース14と、接合領域16と、を含む。近位シース12は、熱接合によって遠位シース14に接合されうる。近位シース12は、3.45×109Pa~11.0×109Pa(500ksi(キロポンド/平方インチ)~1600ksi)の範囲内であり、概ね4.10×109Pa(595ksi)の曲げ弾性率を有しうる。遠位シースは、1.38×109Pa~1.72×109Pa(200ksi~250ksi)の範囲内であり、概ね1.55×109Pa(225ksi)の曲げ弾性率を有しうる。遠位シース14の曲げ弾性率は、近位シース12の曲げ弾性率より概ね小さくされる。従って、カテーテルシース組立体は、接合されたシースにおいて遠位方向に(即ち、図1において左から右に)漸進的に増大する屈曲性を有する。カテーテルシース10の漸進的な屈曲率は、カテーテルのプッシャビリティ及び追従性に関して有利でありうる。しかし、曲げ弾性率が近位-遠位の接合領域16を挟んで4.10×109Paから1.55×109Paに(595ksiから225ksiに)遷移することは、冠動脈内の用途のようないくつかの用途においては問題となる可能性がある。接合領域16は、蛇行性の解剖学構造を有する冠動脈にカテーテルを送達する際には好ましくないヒンジ点として作用して、カテーテルを逸脱させる可能性がある。更に、機械的に回転するイメージングコアを有する血管内超音波イメージングカテーテルのような冠動脈内イメージングカテーテルにおいて、ヒンジ点での逸脱が機械的に回転するイメージングコアの動きを制約する場合には、ヒンジ点での逸脱が画像品質を低下させる可能性がある。
【0009】
図2には、本発明の1つの実施形態によるカテーテル30の部分的な側断面を示す。例示のために、本明細書に記載される本発明の実施形態は、冠動脈内超音波イメージングカテーテルに適している。記載される実施形態は、本発明の適用を冠動脈内カテーテル又は超音波イメージングカテーテルのみに限定するものではない。図示される実施形態において、カテーテル30は、近位シース32と、遠位シース14と、接合領域38と、イメージングコア40と、を含む。図示される実施形態において、イメージングコア40は、可撓性ドライブケーブル42と、トランスデューサハウジング44と、超音波トランスデューサスタック46と、伝送線48と、を更に含む。
【0010】
遠位シースは、任意の適切な材料を含みうる。いくつかの実施形態において、遠位シース14は、生体適合性ポリマーのようなポリマーを含みうる。特定の実施形態において、遠位シース14は、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)またはHDPEとLDPEの混合物のようなポリエチレンを含みうる。
【0011】
また、遠位シース14は、任意の所望の曲げ弾性率を有しうる。例えば、遠位シースは、約0.0345×109Pa~約3.45×109Pa(約5~約500ksi)の、例えば、約0.241×109Pa~約1.72×109Pa(約35ksi~約250ksi)の曲げ弾性率を有しうる。いくつかの実施形態において、遠位シース14は、接合領域付近において約1.03×109Pa~約2.07×109Pa(約150ksi~約300ksi)の、例えば、接合領域38付近において約1.38×109Pa~1.72×109Pa(約200ksi~250ksi)(例えば、1.55×109Pa(225ksi))の曲げ弾性率を有する。
【0012】
いくつかの実施形態において、遠位シース14は、例えば米国特許出願第61/484941号明細書、並びにZelenka及びCostaによる米国特許出願公開第2012/0289837号明細書において更に詳細に説明される形態を有しうる。それら明細書の各々の全ての内容が本明細書中に組み込まれる。
【0013】
近位シースは、近位端と、遠位端と、近位端及び遠位端の間に延びる長さ部と、を有しうる。近位シースは、近位シースの長さ部に沿って異なる曲げ弾性率を有することを可能にする任意の適切な材料を含みうる。いくつかの実施形態において、近位シースは、生体適合性ポリマーのようなポリマーを含みうる。本発明の特定の実施形態において、ポリマーは、半結晶体又は半非晶質体でありうる。いくつかの実施形態において、近位シースは、熱処理によって修正可能な結晶化度を有するポリマーを含むか、基本的にそれから構成されるか、又はそれから構成されることができる。特定の実施形態において、近位シース32は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK(登録商標))を含むか、基本的にそれから構成されるか、又はそれから構成される。いくつかの実施形態において、PEEKは、異なる結晶化度及び曲げ弾性率を有するように加工される。例えば、非晶質PEEKの押出成形体の局部的領域を熱処理することによって、その局部的領域の結晶化度及び曲げ弾性率を増大させることができる。
【0014】
PEEKポリマーは、概ね143℃~158℃の範囲内のガラス転移温度及び概ね334℃~344℃の範囲内の溶融温度を有する。PEEKの結晶化度は、そのガラス転移温度より高くかつ溶融温度未満である温度でPEEK材料を焼きなますことによって修正可能である。より高い焼きなまし温度は、より高い結晶化度を生じさせ、その結果、高い曲げ弾性率を生じさせる可能性がある。
【0015】
図2に示すように、近位シース32は、少なくとも第1部分34と、第2部分36と、を含むことができ、第1部分は、第2部分36の近位に在る。いくつかの実施形態において、第1部分は、第2部分とは異なる曲げ弾性率を有する。特定の実施形態において、第1部分34は、第2部分36より高い曲げ弾性率を有する。例えば、近位シース32の第1部分34は、約3.45×109Pa~約11.0×109Pa(約500ksi~約1600ksi)の範囲内、例えば、約3.79×109Pa~約4.48×109Pa(約550ksi~約650ksi)の範囲内の(例えば4.10×109Pa(595ksi)の)曲げ弾性率を有しうる。近位シース32の第2部分36は、約1.38×109Pa~約2.76×109Pa(約200ksi~約400ksi)の範囲内の、例えば、約1.72×109Pa~約2.41×109Pa(約250ksi~約350ksi)の範囲内の(例えば2.07×109Pa(300ksi)の)曲げ弾性率を有しうる。
【0016】
いくつかの実施形態において、第1部分34は、第2部分36とは異なる結晶化度を有する。特定の実施形態において、第1部分34は、第2部分36より高い結晶化度を有する。例えば、近位シース32の第1部分34は、約10%~約40%(例えば、約20%~約30%)の範囲内の結晶化度を有しうる。近位シース34の第2部分36は、例えば、約0%~約20%(例えば、約0%~約10%)の範囲内の結晶化度を有しうる。PEEKを含む実施形態のようないくつかの実施形態においては、より高い第1部分34の結晶化度によって、第2部分36の曲げ弾性率よりも高い曲げ弾性率が与えられるので、近位シース32の結晶化度及び曲げ弾性率が、近位から遠位に向かう方向において減少する。
【0017】
概して、第1部分34と第2部分36との間には接合領域が存在せず、いくつかの実施形態においては、第1部分が終了して第2部分が開始する分離箇所が存在しない。むしろ、第1部分と第2部分との間の遷移部は、カテーテルの長手方向の或る距離にわたる連続勾配とされうる。このような実施形態が図2に示される。この勾配を遷移領域と称することができる。図2Aは、第1部分34と第2部分36とを有する近位シース32の遷移領域Tの1つの実施形態を示す。図2Aにおいて、遷移領域Tは、図の右側より図の左側の陰影を濃くすることによって表される。このような陰影は、材料の組成の変化ではなく、曲げ弾性率のような同じ材料の物理的特性の変化を表す。図示されるように、遷移領域Tは、シースの或る長さLの全体にわたって第1の物理的特性(例えば、第1の曲げ弾性率及び/又は第1の結晶化度)から第2の物理的特性(例えば、第2の曲げ弾性率及び/又は第2の結晶化度)に徐々に遷移することができる。ここで、第1の物理的特性は第2の物理的特性とは異なる。いくつかの実施形態において、第1部分34と第2部分36との間に明確な境界線が存在しない。特定の実施形態において、遷移領域Tの長さLは、少なくともシースの壁厚WTと同じである。別の実施形態において、長さLは、壁厚WTの少なくとも2倍である。更に別の実施形態において、長さLは、壁厚WTの少なくとも3倍である。いくつかの実施形態において、長さLは、壁厚の少なくとも4倍(例えば、5倍)である。
【0018】
従って、いくつかの実施形態において、第1部分及び第2部分は、同じ組成を有しうるものの、異なる加工を施されたことが原因で異なる曲げ弾性率を有しうる。いくつかの実施形態において、第1部分と第2部分との間の遷移部は、第1部分の曲げ弾性率と第2部分の曲げ弾性率との間の曲げ弾性率の勾配を有する。このような実施形態によって、接合継手が無くても、可変の曲げ弾性率を有する近位シースが提供される。接合継手は、蛇行性の解剖学的条件の下でカテーテルが送達される間にカテーテルの逸脱を引き起こす可能性がある。特定の実施形態においては、組成が同じであるものの、曲げ弾性率以外の物理的特性も遷移部において変化しうる。このような他の物理的特性には、比重及び光透過率が含まれうる。PEEKを含む特定の実施形態において、比重は、半結晶体から半非晶質体への遷移部を挟んで約1.3グラム/立方センチメートル(cc)から約1.26g/ccに変化することができ、半結晶体から半非晶質体への遷移部を挟んで不透明から半透明に変化することができる。
【0019】
近位シースは、任意の適切なサイズで提供されうる。いくつかの実施形態において、近位シース32の外径は、約0.0864cm~約0.152cm(約0.034”~約0.060”)の範囲内で不変でありうる(例えば、約0.117cm(約0.046”)でありうる)。特定の実施形態において、近位シース32は、6Fガイドカテーテルを介してカテーテルを送達するために充分に小さくされる。さらに、近位シース32の内径は、約0.0610cm~約0.102cm(約0.024”~約0.040”)の範囲内で不変でありうる(例えば、約0.0813cm(約0.032”)でありうる)。近位シース壁厚は、約0.00254cm~約0.0254cm(約0.001”~約0.010”)の範囲内でありうる(例えば、約0.0178cm(約0.007”)でありうる)。
【0020】
また、近位シースは、一つには患者へのアクセス点及び実施される手順に応じて、任意の適切な長さで提供されうる。例えば、近位シースの長さは、一つには、大腿動脈のようなアクセス点から、冠状動脈へのアクセスのための冠状動脈口までの距離に応じて決定される。いくつかの実施形態において、近位シース32の長さは、約100cm~約150cmの範囲内でありうる(例えば、約125cmでありうる)。
【0021】
さらに、第1部分34及び第2部分36の各々は、任意の所望の長さを有しうる。特定の心臓血管の用途の場合、第1部分は、より遠位に位置する第2部分よりも概ね長くされる。例えば、いくつかの実施形態において、第1部分は、第2部分の長さの少なくとも3倍の長さを有する。他の実施形態において、第1部分は、第2部分の長さの少なくとも4倍の長さを有する。更に別の実施形態において、第1部分は、第2部分の長さの少なくとも5倍の長さを有する。非限定的な実施例として、近位シースの長さが125cmである場合、第1部分は近位側の約109cmであり、第2部分は遠位側の16cmでありうる。
【0022】
いくつかの実施形態において、近位シース32は、接合のような任意の適切な方法によって遠位シース14に結合されうる。例えば、近位シースは、医療用接着剤によって遠位シースに接合されうる。従って、いくつかの実施形態において、カテーテルシースは、遠位シースに接合された、複数の曲げ弾性率を有する近位シースを含むことになる。特定の実施形態において、カテーテルシースは、PEEKを含みかつポリエチレンを含む遠位シースに接合された、複数の曲げ弾性率を有する近位シースを含むことになる。
【0023】
いくつかの実施形態において、曲げ弾性率が異なる別個の部分を有する近位シースによれば、近位シースの最遠位の部分と遠位シースとの間の曲げ弾性率の差を比較的小さくすることができる。特定の実施形態において、接合領域38を挟んだ曲げ弾性率の差は、約1.03×109Pa(約150ksi)未満である。別の実施形態において、接合領域38を挟んだ曲げ弾性率の差は、約0.690×109Pa(約100ksi)未満である。更に別の実施形態において、接合領域38を挟んだ曲げ弾性率の差は約0.517×109Pa(約75ksi)以下である。具体的な実施例においては、近位シースの最遠位の部分が約2.07×109Pa(約300ksi)の曲げ弾性率を有し、かつ近位シースが約1.55×109Pa(約225ksi)の曲げ弾性率を有しうるので、近位シース32の第2部分36と遠位シース14との間に在る近位-遠位の接合領域38を挟んだ曲げ弾性率の差は0.517×109Pa(75ksi)でありうる。このように近位-遠位の接合領域38を挟んだ曲げ弾性率の遷移を比較的小さくすることは、カテーテル逸脱の危性を低下させるのに有用でありうる。
【0024】
本発明に係るカテーテルシースの実施形態は、任意の適切な方法で製造可能である。概略的には、本発明の実施形態による方法は、所定の長さ部を有するカテーテルシースを用意するステップと、長さ部に沿ってカテーテルシースに別々の処理を施すことによって長さ部に沿って異なる曲げ弾性率を有するカテーテルシースを製造するステップと、を含んでいる。1つの実施形態においては、近位シースの長さ部に沿って異なる熱処理を加えることによって、長さ部に沿って異なる曲げ弾性率が与えられ、その結果、上記のような近位シースが加工されうる。このような実施形態においては、長さ部に沿って均一な曲げ弾性率を有する近位シースに局部的な熱処理を加えることによって、異なる曲げ弾性率を有する2つ又はそれ以上の部分を有し、かつ部分どうしの間に接合継手を有さない近位シースを製造することができる。長手方向の異なる箇所に異なる熱処理を加えることによって任意の個数の別個の部分を生成することができる。
【0025】
特定の実施形態において、熱処理は、近位シースの処理対象部分の結晶化度を変化させ、それにより曲げ弾性率を変化させる。例えば、予め非晶質のポリマー(例えば、PEEK)を含む近位シースを局部的に加熱することによって、予め非晶質のポリマーの結晶化を引き起こすことができる。加えられる熱処理に応じて、異なる曲げ弾性率を有する異なる結晶化度が近位シースの別個の部分に与えられうる。
【0026】
熱処理は、任意の適切な様式で加えられうる。代表的な近位シース組立体100の側断面が図3に示される。本発明を具現化する近位シースを製造するための代表的な加工ステップを説明する流れ図が図4に示される。便宜上、Beahm Designs社のカテーテルのラミネート加工機のようなラミネート加熱器を用いた熱処理に関して、代表的な方法が説明される。但し、上記の方法は、ラミネート加熱器を用いた加熱には特に限定されないし、ホットエア技術の全般にも特に限定されない。他の実施形態においては、ホットボックス、レーザー又は赤外線熱源のような他の加熱技術が使用されうる。以下の方法は、製造方法の1つの実施形態を表す。
【0027】
図示するように、被覆マンドレル102は、マンドレル104と、薄い非付着性のコーティング106(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))と、を含みうる。被覆マンドレルは、本明細書に記載された近位シースのいずれかの実施形態のような近位シースを装着するのに有用な任意のサイズを有しうる。いくつかの実施形態において、マンドレルの直径は、約0.0572cm~約0.0978cm(約0.0225”~約0.0385”)の範囲内である(例えば、約0.0800cm(約0.0315”)である)。被覆マンドレル102は、近位シース132を装着するのに使用されうる。
【0028】
いくつかの実施形態において、近位シース132は、ステップ200においてトリミングされうる。特定の実施形態において、近位シースは、約100cm~約150cmの範囲内の(例えば約125cmの)長さにトリミングされる。トリミングされた近位シース132は、ステップ202においてマンドレルに装着されうる。近位シース132の近位端(即ち図3の左側)は、被覆マンドレル102の端部から約100mm~約150mmの範囲内に(例えば、約125mmに)位置決めされうる。被覆マンドレル102の端部から近位シース132の近位端までの距離を、トップクランピング領域108と称することができる。トップクランピング領域108の長さは、ラミネータのクランプが近位シース132を締め付けることのないように十分な長さにされうる。
【0029】
いくつかの実施形態では、ステップ204において、チューブ110(例えば熱収縮チューブ)が近位シース132及び被覆マンドレル102のトップクランピング領域108を覆うように装着されうる。上記のチューブ110は、カテーテルシースと熱源との間にバッファ層を設けるのに有用でありうる。チューブ110は、フッ化エチレンプロピレン(FEP)を含みうる。チューブ110は、約0.107cm~約0.122cm(約0.042”~約0.048”)の範囲内の(例えば、約0.114cm(約0.045”)の)内径を有しうる。特定の実施形態において、チューブの長さは、トップクランピング領域108及び近位シース132の長さ部を覆うのに充分な長さ、例えば少なくとも125cmの長さにされうる。
【0030】
次に、いくつかの実施形態では、ステップ206において、被覆マンドレル102と、近位シース132と、熱収縮チューブ110と、を含む近位シース組立治具100がラミネータ206の中に装填される。そこでは、トップクランピング領域108がラミネータのクランプによって所定の位置に固定されうる。
【0031】
ステップ208において、近位シース組立体100の第1部分に熱が加えられうる。1つの実施形態において、非晶質PEEKを含む近位シース132(非晶質PEEK)の第1部分(即ち、図3の左端)が約154℃まで加熱される。特定の実施形態においては、シースの厚さの全体が上記の温度まで加熱される。加熱によって結晶化度が約35%まで増大させられ、それに応じて近位シース132の第1部分の曲げ弾性率が約4.10×109Pa(約595ksi)まで増大しうる。(非晶質PEEKの)近位シースの第2部分は、熱処理を受けずに非晶質のままであっても良い。異なる熱処理が近位シースの別個の長さ部に加えられることができ、それにより各々が異なる曲げ弾性率を有する複数の(例えば、2、3、4、5、n個の)近位シースの部分が生成される。ラミネータによって熱が加えられる実施形態の場合、第1部分が熱に曝される時間は、ラミネータの温度及び速度に応じて決定されうる。特定の実施形態において、第1部分は約1秒以下の時間だけ熱に曝される。いくつかの実施形態において、ラミネータの温度は、シースの材料の溶解点より低くされる。いくつかの実施形態において、ラミネータの温度は、約154℃~約204℃にされる。
【0032】
近位シース組立体100を熱処理した後に、ステップ210において、組立体がラミネータから取り外される。ステップ212及びステップ214において、チューブ110が近位シース組立体100から取り外され、熱処理された近位シース132がマンドレルから取り外される。
【0033】
図2を見ると、上記の代表的なプロセスによって、第1部分34と第2部分36とを有する近位シース32を備えたカテーテル30が製造されることになる。PEEKを含む具体的な実施形態において、近位シース32の第1部分34は、約35%の結晶化度及び約4.10×109Pa(約595ksi)の曲げ弾性率を有しうる。PEEKの近位シース32の第2部分36(第1部分34の遠位に在る)は、非晶質のままであり、約10%未満の結晶化度及び約2.07×109Pa(約300ksi)の曲げ弾性率を有しうる。上記のカテーテルは蛇行性の経路を通過するのに有用である。
【0034】
いくつかの実施形態においては、近位シースが被覆マンドレルに装着される際に付加的な加工ステップが採用されることができ、それにより所与の熱処理に対応するポリマー(例えばPEEK)の結晶化度が更に増大させられる。例えば、熱処理ステップの前又はその間に、近位シースに引張り応力が加えられうる。いくつかの実施形態において、近位シースが熱に曝されるときには、近位シースが概ね縦向きに維持されうる。このような実施形態においては、引張り応力を与える錘がシースの底部に結合されうる。いくつかの実施形態においては、材料の引張り破断強度の約50%~約75%の引張り応力が加えられうる。引張り破断強度が約120メガパスカル(MPa)であるPEEKを含む特定の実施形態においては、約60MPa~約90MPaの引張り応力が加えられうる。
【0035】
本発明の特定の実施形態が例示され説明されたものの、それらには修正が加えられうるので、本発明は、本発明の真性の精神及び技術的範囲に属する全ての変更及び修正を包含するように意図されている。
図1
図2
図2A
図3
図4