(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】抗ノロウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/18 20090101AFI20230116BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230116BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20230116BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20230116BHJP
A01N 65/24 20090101ALI20230116BHJP
A61P 31/14 20060101ALN20230116BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20230116BHJP
A61K 36/47 20060101ALN20230116BHJP
A61K 36/54 20060101ALN20230116BHJP
A61K 36/38 20060101ALN20230116BHJP
A61K 47/10 20060101ALN20230116BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20230116BHJP
A61Q 19/10 20060101ALN20230116BHJP
A61K 8/9789 20170101ALN20230116BHJP
【FI】
A01N65/18
A01P1/00
A01N25/02
A01N65/08
A01N65/24
A61P31/14
A61P31/04
A61K36/47
A61K36/54
A61K36/38
A61K47/10
A61P17/00 101
A61Q19/10
A61K8/9789
(21)【出願番号】P 2018159355
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】397056042
【氏名又は名称】セッツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】西谷 巧太
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祥典
(72)【発明者】
【氏名】勢戸 祥介
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-047196(JP,A)
【文献】特表2007-518812(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090830(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/017619(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカメガシワエキ
スを有効成分とする、抗ノロウイルス剤。
【請求項2】
前記有効成分の含有量が、0.01~10%(W/V)である、請求項1に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項3】
水及び極性有機溶媒の少なくとも一方をさらに含む、請求項1又は2に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項4】
pHが2~10の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、消毒剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ノロウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11月から3月が発生のピークとなっている。ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベローブを持たないRNAウイルスであり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、逆性石鹸、熱、酸性(胃酸等)、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。ノロウイルスの潜伏期間は1~2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ノロウイルスの感染経路の一つとして経口感染が知られており、ノロウイルスに汚染された食物や水等を経口摂取することにより感染が成立する。そのため、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場においては、食物や水、設備等がノロウイルスに汚染されないようにすることが求められている。
【0004】
ノロウイルスは、10個から100個程度という少量を摂取することによっても発症するほど高い感染力を有する。そのため、ノロウイルスに対して直接的に作用し、ノロウイルスの感染能力を低下又は消失させる、抗ノロウイルス剤が望まれる。
【0005】
厚生労働省によると、ノロウイルスを不活化するには、調理器具等に対して、85℃で1分間の加熱、200ppmの次亜塩素酸ナトリウムでの消毒を推奨している(非特許文献1参照)。しかしながら、加熱によるノロウイルスの不活性化には、対象物の耐熱性の問題があり、また、次亜塩素酸ナトリウムは強い金属腐食性を有するために使用が制限される場合がある。さらに、調理場など有機物汚れの多い場所では、次亜塩素酸ナトリウムが分解し、十分な効果の得られないことも想定される。
【0006】
さらに、次亜塩素酸ナトリウムは、皮膚や粘膜を侵す危険性があることから、人体への適用は難しく、さらに、酸と反応して有毒ガスが発生するなど、取り扱いや使用に際し注意が必要である。かかる状況下において、取り扱いが簡便で、次亜塩素酸ナトリウムが使用できない場合でも、十分な不活化効果を発揮し得る抗ノロウイルス剤が強く求められている。
【0007】
人体に対し安全にノロウイルス等を不活性化する方法として、食物由来のウイルス不活性化物質を使用する方法が検討されている。
【0008】
例えば特許文献1には、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物を、エタノールと混合した組成物とし、この組成物を用いることによりノロウイルス等を不活性化できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2008/153077号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【文献】厚生労働省ホームページ 「ノロウイルスに対するQ&A」;https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html#04
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記の通り、特許文献1には、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物と、エタノールとを含む組成物によって、ノロウイルス等を不活性化できることが示されている。しかしながら、この組成物のノロウイルス等の不活性化作用は充分といえず、ノロウイルスの不活性化作用が高く、人体に対して安全にノロウイルスを不活性化し得る、食物由来の抗ノロウイルス剤が求められている。
【0012】
このような状況下、本発明は、ノロウイルスの不活性化作用が高く、植物由来であり、人体に対して安全にノロウイルスを不活性化し得る、新規な抗ノロウイルス剤を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該抗ノロウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定の食物由来のエキスが、ノロウイルスによる感染を好適に抑制することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. アカメガシワエキス、ケイヒエキス、セントジョーンズワートエキス、及びマンゴスチンエキスからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、抗ノロウイルス剤。
項2. 前記有効成分の含有量が、0.01~10%(W/V)である、項1に記載の抗ノロウイルス剤。
項3. 水及び極性有機溶媒の少なくとも一方をさらに含む、項1又は2に記載の抗ノロウイルス剤。
項4. pHが2~10の範囲である、項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、消毒剤。
項6. 項1~4のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、洗浄剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノロウイルスの不活性化作用が高く、植物由来であり、人体に対して安全にノロウイルスを不活性化し得る、新規な抗ノロウイルス剤を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該抗ノロウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の抗ノロウイルス剤、及びこれを用いた消毒剤、洗浄剤について、詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0017】
本発明の抗ノロウイルス剤は、アカメガシワエキス、ケイヒエキス、セントジョーンズワートエキス、及びマンゴスチンエキスからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする。本発明の抗ノロウイルス剤においては、これらの有効成分は植物由来であり、ノロウイルスの不活性化作用が高く、人体に対して安全にノロウイルスを不活性化し得る。
【0018】
本発明の抗ノロウイルス剤は、有効成分がノロウイルスに直接作用し、そのカプシドタンパク質の構造に影響を与えること等により、ノロウイルスの感染能力を低下又は消失させる効果を発揮する。すなわち、本発明の抗ノロウイルス剤は、ノロウイルスの感染抑制剤ということもできる。
【0019】
本発明の抗ノロウイルス剤は、ノロウイルス属に属するウイルスに対して感染能力低下又は消失させる作用を示し、その他のカリシウイルス科(Caliciviridae)ウイルス、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)ウイルス、パルボウイルス科(Parvoviridae)ウイルス、パピローマウイルス科(Papillomaviridae)ウイルス、ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae)ウイルス、アデノウイルス科(Adenoviridae)ウイルス等、ノロウイルス以外の非エンベロープウイルスに対しても良好な感染能力低下又は消失させる作用を示し得る。
【0020】
抗ノロウイルス剤のノロウイルスに対する作用は、組み換えノロウイルスのウイルス様粒子(VLP)によって確認することができることが知られている。例えば、Sf9細胞中のバキュロウイルスベクターなどから細胞中のORF2によってコードされたノロウイルスカプシドタンパク質が組み換え型により発現すると、その結果、カプシドタンパク質がVLPへと自然に自己組織化することがある。また、例えばSf9細胞中のバキュロウイルスベクターなどから細胞中のORF1及びORF2によってコード化されたノロウイルスタンパク質が組み換え型により発現すると、その結果、カプシドタンパク質がVLPへと自然に自己組織化する。VLPは構造的にノロウイルスに類似しており抗原性は同様であるが、ウイルス性RNAゲノムが欠如し、したがって感染性ではない。このように、抗ノロウイルス剤がノロウイルスに対して感染能力を低下又は消失させる作用は、抗ノロウイルス剤の組み換えノロウイルスのウイルス様粒子(VLP)に対する作用によって確認することができる。
【0021】
ノロウイルスは、レセプターとしてヒト組織血液型抗原(HBGA)を認識することが見出されている。組織血液型抗原の中で、最もよく遭遇する血液型は、ABO(ABH)式およびルイス式であり、ノロウイルスはこれらの抗原に特異的に結合する。血液型のABH式、ルイス式、P式およびI式システムでの抗原形成に利用される生合成経路は、相互に関係がある。組織血液型抗原は、いくつかの細菌病原体およびウイルス病原体による感染と関連づけられている。このことから、組織血液型抗原が病原体にとっての認識ターゲットであって、抗原を発現し、抗原とのレセプター・リガンド結合を形成する細胞への侵入を促進しうることが示唆される。そのような相互作用の正確な性質は現在分かっていないが、抗原結合と共に起こる病原体の密接な関連は、感染過程での初期段階として病原体を細胞に繋ぎ止めることに役割を果たしうる。ヒト組織血液型抗原は、赤血球および粘膜上皮細胞上に、または血液、唾液、腸内容物および乳汁などの生体液中の遊離抗原として存在する、糖タンパク質または糖脂質に結合している複合糖質である。これらの抗原は、遺伝的にコントロールされ、ABO式型、ルイス式型、および分泌型遺伝子ファミリーとして知られているいくつかのグリコシルトランスフェラーゼによる抗原前駆体への単糖の連続付加によって合成される。
【0022】
以上の通り、ノロウイルスはレセプターとして細胞表面の組織血液型抗原に結合するが、この結合に着目することで、抗ノロウイルス剤の効果測定を行うことができる。(Zhang XF et al. Bioorganic & Medicinal Chemistry.2012.20:1616-1623を参照)
【0023】
従って、本発明の抗ノロウイルス剤が有するノロウイルスの感染能力を低下又は消失させる効果は、具体的には、ノロウイルスとHBGAとの結合阻害効果ということができる。
【0024】
本発明の抗ノロウイルス剤のノロウイルスとHBGAとの結合阻害効果の具体的な評価は、以下のようにして行う。
【0025】
<抗ノロウイルス効果測定としてのノロウイルス-HBGA結合阻害アッセイ>
ヒトだ液由来のHBGAでコーティングした96ウェルのマイクロタイタプレートを洗浄し、被検成分(抗ノロウイルス剤)を含むサンプルで処理したノロウイルスVLP溶液を添加しHBGAと結合させる。プレートを洗浄し、ノロウイルスVLPに特異的なニワトリIgYを添加し、洗浄して、その後にホースラディッシュペルオキシダーゼ共役ヒツジ抗IgY抗体でインキュベートする。オルトフェニレンジアミン塩酸塩基質で呈色させ、1N硫酸で停止させる。呈色後は492nmで測定する。この方法ではHBGAとの結合能力を失ったノロウイルスVLPは、検出されない。よってネガティブコントロールとの比較により、被検成分(抗ノロウイルス剤)による結合阻害効果を確認することができる。
【0026】
前記の通り、本発明の抗ノロウイルス剤は、アカメガシワエキス、ケイヒエキス、セントジョーンズワートエキス、及びマンゴスチンエキスからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含んでいることを特徴としている。
【0027】
アカメガシワエキスは、アカメガシワの抽出物であり、例えばアカメガシワの樹皮、葉、根、又はこれらの混合物の抽出物であり、好ましくは樹皮の抽出物である。抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ピリジン類等の有機溶媒が挙げられる。これらの抽出溶媒は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、アカメガシワエキスは、アカメガシワの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。アカメガシワエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、アカメガシワエキスの市販品としては、例えば、日本粉末薬品株式会社から販売されるアカメガシワエキスパウダーなどが挙げられる。
【0028】
ケイヒエキスは、クスノキ科トンキンニッケイやその他同属植物(桂(ケイ))の樹皮抽出物である。クスノキ科トンキンニッケイやその他同属植物としては、例えば、トンキンニッケイ、ジャワニッケイ、セイロンニッケイなどが挙げられる。抽出溶媒としては、アカメガシワエキスの抽出溶媒として例示したものと同じものが挙げられ、これらの中でも、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ケイヒエキスは、クスノキ科トンキンニッケイやその他同属植物(桂(ケイ))の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ケイヒエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、ケイヒエキスの市販品としては、例えば、日本粉末薬品株式会社から販売されるケイヒエキスなどが挙げられる。
【0029】
セントジョーンズワートエキスは、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)の葉、茎、花、又はこれらの混合物など抽出物である。抽出溶媒としては、アカメガシワエキスの抽出溶媒として例示したものと同じものが挙げられ、これらの中でも、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、セントジョーンズワートエキスは、セントジョーンズワートの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。セントジョーンズワートエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、セントジョーンズワートエキスの市販品としては、例えば、株式会社常盤植物化学研究所から販売されるセントジョンズワートエキス末などが挙げられる。
【0030】
マンゴスチンエキスは、マンゴスチンの果皮など抽出物である。抽出溶媒としては、アカメガシワエキスの抽出溶媒として例示したものと同じものが挙げられ、これらの中でも、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、マンゴスチンエキスは、マンゴスチンの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。マンゴスチンエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、マンゴスチンエキスの市販品としては、例えば、日本新薬株式会社から販売されるマンゴスチンアクアなどが挙げられる。
【0031】
本発明の抗ノロウイルス剤において、アカメガシワエキス、ケイヒエキス、セントジョーンズワートエキス、及びマンゴスチンエキスからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分の含有量(これらエキスの合計含有量)としては、ノロウイルスを不活性化することができれば特に制限されないが、下限については、好ましくは0.01%(W/V)以上、より好ましくは0.05%(W/V)以上、さらに好ましくは0.5%(W/V)以上が挙げられ、上限については、好ましくは10%(W/V)以下、より好ましくは5%(W/V)以下、さらに好ましくは2%(W/V)以下が挙げられる。
【0032】
本発明の抗ノロウイルス剤は、前記の有効成分に加えて、水及び極性有機溶媒の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。
【0033】
極性有機溶媒としては、本発明の効果を阻害しないものであれば、特に制限されないが、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。また、本発明の抗ノロウイルス剤は、特にエタノール水溶液を含んでいることが好ましい。
【0034】
例えば、本発明の抗ノロウイルス剤を消毒剤や洗浄剤として用いる場合であれば、エタノール水溶液におけるエタノールの濃度は、下限については約43質量%以上(約50容量%以上)、上限については約52質量%以下(約60容量%以下)、範囲としては約43質量%~約52質量%(約50容量%~約60容量%)が最適である。なお、エタノールは、通常、60質量%~73質量%(約68容量%~約80容量%)の高濃度において、高い殺菌性を発揮することが知られているが、52質量%(約60容量%)を超える濃度のエタノール溶液は、消毒・洗浄対象物の材質によっては変質することがあり、また、手指などに付着した際に肌が荒れることもある。さらに、60質量%以上では消防法上危険物として扱われ、取り扱いにおいて制限を受けることがある。一方、速乾性が求められるような場合には、43質量%よりも低濃度では、水分量が多く乾きにくいため使用しづらいことがある。なお、速乾性が必要でなく、消毒・洗浄対象物が有機溶媒により変質するおそれのある場合には、溶媒として水を用いることが好ましい。このような観点から、本発明の抗ノロウイルス剤がエタノールを含み、消毒剤や洗浄剤として用いる場合であれば、エタノールの濃度は、下限については約43質量%以上(約50容量%以上)、上限については約52質量%以下、範囲としては約43質量%~約52質量%(約50容量%~約60容量%)が最適であるといえる。
【0035】
ノロウイルスに対する不活性化作用を高める観点から、本発明の抗ノロウイルス剤のpHは、2~10の範囲であることが好ましく、3.5~7.0の範囲であることがより好ましい。
【0036】
本発明の抗ノロウイルス剤におけるpHの調整は、公知のpH調整剤や緩衝液により行うことができる。pH調整剤としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;乳酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、アスコルビン酸等の有機酸およびこれらの塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩などが挙げられる。また、緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが挙げられる。本発明においては、乳酸および乳酸ナトリウム、アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウム等の有機酸および有機酸塩を用いてpHを調整することが好ましい。
【0037】
本発明の抗ノロウイルス剤には、前記の有効成分、水、極性有機溶媒の他、本発明の特徴を損なわない範囲で、アシクロビル等の一般的な抗ウイルス成分、フェノキシエタノール、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール等の一般的な抗菌成分を含有させることもできる。
【0038】
また、一般生菌に対する除菌力を増強するため、グリセリン脂肪酸エステルを加えても、ノロウイルスに対する不活性化作用には影響しないため、問題はない。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノイソステアリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンモノベヘン酸エステル等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリンジイソステアリン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル等のグリセリンジ脂肪酸エステル;酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等のモノグリセリド誘導体などが挙げられる。本発明においては、これらより1種または2種以上を選択して用いることができる。一般生菌に対する除菌力増強効果からは、グリセリンモノカプリル酸エステル、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル等、炭素数8~12の脂肪酸のグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0039】
さらに本発明の抗ノロウイルス剤には、ノロウイルスの不活性化や組成物の安定性等に影響を与えない範囲において、洗浄性や起泡性の付与を目的として、上記グリセリン脂肪酸エステル以外の界面活性剤を添加することができる。かかる界面活性剤としては、第1級~第3級の脂肪アミン塩、第4級アンモニウム塩、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタイン型、N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸等のアミノカルボン酸型、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン等のアルキルスルホベタイン型、2-アルキル-1-ヒドロキシエチル-1-カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性界面活性剤などを用いることができる。また、増泡、製剤安定性の向上、着色、着香等を目的として、アラビアゴム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子;エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸塩等の金属イオン封鎖剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩;色素;香料などを添加してもよい。
【0040】
本発明の抗ノロウイルス剤は、そのまま、または各種担体、他の界面活性剤、殺菌剤等の添加成分などを加えて、消毒剤または洗浄剤(殺菌洗浄剤)とすることができる。すなわち、本発明の消毒剤及び洗浄剤は、それぞれ、本発明の抗ノロウイルス剤を含む。
【0041】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、液状、ゲル状、粉末状等の種々の形態で提供することができるが、短時間に広範囲の消毒対象物に作用させる上で、液状とすることが好ましい。液状の消毒剤または洗浄剤は、ローション剤、スプレー剤等として提供することができ、計量キャップ付きボトル、トリガータイプのスプレー容器、スクイズタイプもしくはディスペンサータイプのポンプスプレー容器等に充填し、散布または噴霧等して用いることができる。
【0042】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、病室、居室、調理室、浴室、洗面所、トイレ等の施設内の消毒、殺菌洗浄、テーブル、椅子、寝具等の家具類、食器、調理器具、医療用品等の器具または機器、装置などの消毒、殺菌洗浄など、ウイルスが存在する可能性のある場所、またはウイルスに汚染されている可能性のある物の消毒、殺菌洗浄などに幅広く用いることができる。
【0043】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、消毒対象物の表面がまんべんなく濡れる程度の量を用いればよい。また、消毒対象物に対する本発明の消毒剤または洗浄剤の作用時間は短時間でよく、1分~5分で十分な消毒または殺菌洗浄効果を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。なお、表1中の各成分の「%」は特に記載のない限り、%(w/v)を意味する。実施例及び比較例で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0045】
・アカメガシワエキス(日本粉末薬品株式会社製の商品名アカメガシワエキスパウダー)
・ケイヒエキス(日本粉末薬品株式会社製の商品名ケイヒエキス)
・セントジョーンズワートエキス(株式会社常盤植物化学研究所社製の商品名セントジョンズワートエキス末)
・マンゴスチンエキスa(日本新薬株式会社製の商品名マンゴスチンアクア)
・マンゴスチンエキスb(日本新薬株式会社製の商品名マンゴスチンα20)
・ガルシニアエキス(日本新薬株式会社製の商品名ガルシニアパウダーJ)
・さとうきびエキス(三井製糖株式会社の商品名さとうきび抽出物MSX-245)
・シソエキス(日本新薬株式会社製の商品名シソエキスパウダーRK)
・ハスカップエキス(日本新薬株式会社製の商品名ハスカップパウダーS)
【0046】
<実施例1~6及び比較例1~4>
表1に示す成分が1.0%となるようにして、各成分をイオン交換水に添加、混合して抗ノロウイルス剤を調製した。なお、得られた各抗ノロウイルス剤のpHを表1に示す。
【0047】
<ノロウイルスの不活性化評価>
前記の各抗ノロウイルス剤を用い、前記の<抗ノロウイルス効果測定としてのノロウイルス-HBGA結合阻害アッセイ>に記載の方法に基づいて、抗ノロウイルス剤によるノロウイルスの不活性化を評価した。ネガティブコントロールは、抗ノロウイルス剤の代わりにPBSを30分間作用させた場合とし、ネガティブコントロールに対する、抗ノロウイルス剤の結合阻害率(%)を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
++++:結合阻害率90%以上(非常に高い結合阻害効果)
+++:結合阻害率50%以上(高い結合阻害効果)
++:結合阻害率30%以上
+:結合阻害率30%未満(効果なし)
【表1】
【0048】
表1に示される結果から明らかなとおり、アカメガシワエキス、ケイヒエキス、セントジョーンズワートエキス、又はマンゴスチンエキスを有効成分とした抗ノロウイルス剤は、強力なノロウイルス-HBGA結合阻害効果を示し、優れたノロウイルス不活性化効果を発揮することが分かる。さらに、アカメガシワエキス、ケイヒエキスを含む抗ノロウイルス剤は、100%に近い結合阻害効果を示し、特に優れたノロウイルス不活性化効果を発揮した。