(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】無菌コネクタ
(51)【国際特許分類】
A61M 39/18 20060101AFI20230116BHJP
A61M 39/04 20060101ALI20230116BHJP
A61M 39/10 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
A61M39/18
A61M39/04
A61M39/10 120
(21)【出願番号】P 2018171168
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康平
(72)【発明者】
【氏名】原島 伸恭
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-200098(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056465(WO,A1)
【文献】特表2017-515546(JP,A)
【文献】特表2008-539992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/18
A61M 39/04
A61M 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コネクタ部と第2コネクタ部とで構成され、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつ前記第1コネクタ部に対し前記第2コネクタ部が差し込まれることで前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部とが結合して前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部との間における流体の流通が可能となる無菌コネクタにおいて、
前記第1コネクタ部が、
内部を前記流体が流通可能な中空針と、
前記中空針の先端側の部分とは反対側の前記中空針の後端側の部分を保持することで、前記先端側の部分が突き出した状態で前記中空針を支持する底部と、前記中空針の前記先端側の部分を取り囲み一端部が前記底部に連結された筒状の側面部と、を有する筐体と、
前記筐体の内側において、前記中空針の前記先端側の部分を覆うとともに周縁部が前記中空針の周囲を取り巻く態様で前記筐体に固定された弾性膜であって、前記中空針の前記先端側の部分の方を向いた内面に、該先端側の部分の周囲を取り巻く1つ以上の溝部が形成された弾性膜と、を備えており、
前記第2コネクタ部が、
2つの端面の間に、前記流体を流通させるための貫通孔である流通孔が形成された流通孔部材と、
前記流通孔部材の前記2つの端面のうちの一方の端面に後端面で連結し、該後端面と該後端面とは反対側の前端面との間に延び前記流通孔に連通する貫通孔である連通孔が形成された連通孔部材と、
前記連通孔部材の前記前端面を、該前端面における前記連通孔の開口部を封止しつつ被覆する弾性部材と、を備え、
前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部の前記結合は、前記弾性部材により前記前端面が被覆された前記連通孔部材、および、前記流通孔部材の少なくとも前記連通孔部材側の一部が、前記底部に向かって前記側面部の内側に相対的に差し込まれることによって行われるものであって、該差し込みの際には、まず、前記第1コネクタ部の前記中空針の前記先端側の部分の延長上に前記第2コネクタ部の前記連通孔および前記流通孔が位置する状態で前記第1コネクタ部の前記弾性膜と前記第2コネクタ部の前記弾性部材とが互いに接触し、次に、前記連通孔部材が、該連通孔部材の前記前端面を被覆する前記弾性部材を介して前記弾性膜の前記内面を前記第1コネクタ部の前記中空針の前記先端側の部分に向かって押し付けることで、前記中空針が、前記先端側の部分を覆う前記弾性膜、および、前記連通孔の前記開口部を封止する前記弾性部材をこの順に貫通して前記連通孔内および前記流通孔内を前記連通孔部材の押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行し前記流通孔内の所定位置に到達するものであり、
前記中空針が前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、前記連通孔部材は、該連通孔部材の前端面を被覆する前記弾性部材を介して、前記中空針に貫通された後の前記弾性膜を、前記中空針に沿って押し下げながら前記押し付け方向に進行するものであ
り、
前記弾性部材は、さらに、前記前端面と前記後端面との間に広がる前記連通孔部材の全側面のうち少なくとも前記前端面の側の一部の側面を被覆するものであって、該側面を被覆する前記弾性部材の、前記連通孔から離れる外側方向を向いた外側面において、前記外側方向に突き出し前記連通孔を周回する態様で延びる1本以上の突条を有するものであり、
前記中空針が前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、前記連通孔部材は、前記側面を被覆する前記弾性部材を介して、前記1本以上の突条を前記側面部の内壁に摺動させながら前記押し付け方向に進行するものである無菌コネクタ。
【請求項2】
前記弾性部材は、さらに、前記連通孔部材の前記連通孔の内壁面を、前記流通孔との連通状態を維持しつつ被覆するものである請求項
1に記載の無菌コネクタ。
【請求項3】
前記第1コネクタ部の前記筐体は、前記側面部の内壁において、前記底部の側を向いた第1斜面が前記底部の側とは反対側を向い第2斜面に比べ傾斜が急になっている山をそれぞれ有する複数のラチェット部が形成されているものであり、
前記第2コネクタ部の前記流通孔部材は、前記少なくとも前記連通孔部材側の一部の、前記流通孔から離れる外側方向を向いた側面において、該外側方向に突き出すとともに前記流通孔を周回する態様で延びる突条であって、前記連通孔部材の側を向いた第1斜面が、該連通孔部材の側とは反対側を向いた第2斜面よりも緩やかに傾斜している突条からなるラチェット爪が形成されているものであり、
前記中空針が前記押し付け方向とは反対方向に進行して前記所定位置に到達する際には、前記ラチェット爪は、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面を、前記ラチェット爪の前記第1斜面で押しながら、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面に沿って前記底部の側に相対的に進行して、前記複数のラチェット部それぞれの前記第1斜面に対して前記ラチェット爪の前記第2斜面が当接する当接位置に到達するものであり、該当接位置への前記ラチェット爪の到達により前記複数のラチェット部と前記ラチェット爪とが互いに係合するものである請求項1
又は2に記載の無菌コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのコネクタ部で構成され、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつこれら2つのコネクタ部が結合することでこれら2つのコネクタ部の間における流体の流通を実現する無菌コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器の分野では、薬液等の流体が流れる管や、こうした流体を含む容器や、こうした流体を処理する医療用装置などを互いに接続しこれらの間で流体を流通させるための医療用コネクタが従来から知られている。こうした医療用コネクタは、2つのコネクタ部で構成されており、これら2つのコネクタ部が結合することでこれら2つのコネクタ部の間における流体の流通が実現する。
【0003】
こうした医療用コネクタの中には、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつこれら2つのコネクタ部の結合が行われるものがあり、無菌コネクタと呼ばれている。無菌コネクタの中には、弾性膜により先端側の部分が覆われて外部から隔離された中空針を有する第1コネクタ部と、弾性部材により外部から隔離された流通孔が形成された第2コネクタ部とが結合するタイプのものが知られている(たとえば特許文献1参照)。このタイプの無菌コネクタでは、結合の際に、第1コネクタ部の弾性膜と第2コネクタ部の弾性部材とが接触した状態で、第1コネクタ部の中空針が、弾性膜および弾性部材を貫通して第2コネクタ部の流通孔に到達する。この結果、第1コネクタ部と第2コネクタ部との間において、中空針および流通孔を介した流体の流通が実現する。このタイプの無菌コネクタでは、結合前には弾性膜や弾性部材により中空針や流通孔が外部から遮断されており、結合時にもこれら弾性膜や弾性部材により中空針や流通孔のシール性が維持されるため、結合の前後で雑菌が侵入しにくい状態が維持される。
【0004】
なお、第1コネクタ部と第2コネクタ部のうちの一方のみにおいて、弾性膜や弾性部材による雑菌の侵入防止機構が備えられている無菌コネクタも存在する(たとえば、特許文献2,3参照)。ただし、外部からの雑菌の侵入を十分に抑制する観点から考えると、やはり特許文献1のように第1コネクタ部と第2コネクタ部の双方において弾性膜や弾性部材による雑菌の侵入防止機構が備えられていることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-200098号公報
【文献】特表2002-501793号公報
【文献】特表2002-520093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、弾性膜と弾性部材の双方が備えられている無菌コネクタでは、中空針が弾性膜および弾性部材を貫通して流通孔に向かって進む際に、弾性膜や弾性部材によって発生する抵抗力が、第1コネクタ部と第2コネクタ部の結合の妨げとなる。たとえば、特許文献1では、弾性膜はジャバラ状になっており(特許文献1の
図2、
図3、および
図6のコラプシブルチューブ34参照)、弾性膜を貫通した中空針が流通孔に向かって進んで行くにつれて弾性膜が折り畳まれていき、この結果、元の弾性膜の状態に戻ろうとする弾性抵抗が発生する(特許文献1の段落[0021]参照)。このような弾性抵抗は、中空針が進む向きとは反対方向に作用する抵抗力となるため、第1コネクタ部と第2コネクタ部の結合の妨げとなる。特に特許文献1では、第1コネクタ部と第2コネクタ部の結合を実現する(より厳密に言えば、結合状態を固定する)手段として、中空針の方向を回転軸の方向として第1コネクタ部を第2コネクタ部に対して相対的に回転させてピン止めする機構やネジ止めする機構が採用されている(特許文献1の段落[0026]および[0029]参照)。抵抗力を受けながら、このような機構で結合を実現する(結合状態を固定する)のは、手間がかかるとともに結合不良が生じやすい。
【0007】
このため、弾性膜や弾性部材によって発生する抵抗力をできるだけ抑制して結合時の無菌コネクタの操作性を向上させることが望まれる。
【0008】
特に近年では、細胞培養等を目的とする、小型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、培養液等の少流量の流体の流通のための小型の無菌コネクタの需要が高まっている。一般に小型の無菌コネクタほど結合時の操作がしづらくなるため、小型の無菌コネクタでは結合時の操作性の向上が、より一層望まれる。ここで、特許文献1~3の無菌コネクタは、治療等を目的とする、大型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、治療薬液等の流量の多い流体の流通のために用いられる比較的大型の無菌コネクタである。このため、特許文献1~3の無菌コネクタの構成を、上述のような小型の無菌コネクタにそのまま流用するのは難しい。たとえば、特許文献1の無菌コネクタのようにジャバラ状の弾性膜を備えた無菌コネクタは、上述したように弾性抵抗が大きくて操作性が悪いため小型化に適さないのに加え、ジャバラ状の弾性膜がかさばる点においても小型化に適さない。
【0009】
このように、結合時の操作性が高く小型化に適した無菌コネクタの実現については、さらなる工夫が求められる。
【0010】
上記の事情を鑑み、本発明は、結合時の操作性が高く小型化に適した無菌コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の無菌コネクタを提供する。
【0012】
[1] 第1コネクタ部と第2コネクタ部とで構成され、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつ前記第1コネクタ部に対し前記第2コネクタ部が差し込まれることで前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部とが結合して前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部との間における流体の流通が可能となる無菌コネクタにおいて、
前記第1コネクタ部が、
内部を前記流体が流通可能な中空針と、
前記中空針の先端側の部分とは反対側の前記中空針の後端側の部分を保持することで、前記先端側の部分が突き出した状態で前記中空針を支持する底部と、前記中空針の前記先端側の部分を取り囲み一端部が前記底部に連結された筒状の側面部と、を有する筐体と、
前記筐体の内側において、前記中空針の前記先端側の部分を覆うとともに周縁部が前記中空針の周囲を取り巻く態様で前記筐体に固定された弾性膜であって、前記中空針の前記先端側の部分の方を向いた内面に、該先端側の部分の周囲を取り巻く1つ以上の溝部が形成された弾性膜と、を備えており、
前記第2コネクタ部が、
2つの端面の間に、前記流体を流通させるための貫通孔である流通孔が形成された流通孔部材と、
前記流通孔部材の前記2つの端面のうちの一方の端面に後端面で連結し、該後端面と該後端面とは反対側の前端面との間に延び前記流通孔に連通する貫通孔である連通孔が形成された連通孔部材と、
前記連通孔部材の前記前端面を、該前端面における前記連通孔の開口部を封止しつつ被覆する弾性部材と、を備え、
前記第1コネクタ部と前記第2コネクタ部の前記結合は、前記弾性部材により前記前端面が被覆された前記連通孔部材、および、前記流通孔部材の少なくとも前記連通孔部材側の一部が、前記底部に向かって前記側面部の内側に相対的に差し込まれることによって行われるものであって、該差し込みの際には、まず、前記第1コネクタ部の前記中空針の前記先端側の部分の延長上に前記第2コネクタ部の前記連通孔および前記流通孔が位置する状態で前記第1コネクタ部の前記弾性膜と前記第2コネクタ部の前記弾性部材とが互いに接触し、次に、前記連通孔部材が、該連通孔部材の前記前端面を被覆する前記弾性部材を介して前記弾性膜の前記内面を前記第1コネクタ部の前記中空針の前記先端側の部分に向かって押し付けることで、前記中空針が、前記先端側の部分を覆う前記弾性膜、および、前記連通孔の前記開口部を封止する前記弾性部材をこの順に貫通して前記連通孔内および前記流通孔内を前記連通孔部材の押し付け方向とは反対方向に向かって相対的に進行し前記流通孔内の所定位置に到達するものであり、
前記中空針が前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、前記連通孔部材は、該連通孔部材の前端面を被覆する前記弾性部材を介して、前記中空針に貫通された後の前記弾性膜を、前記中空針に沿って押し下げながら前記押し付け方向に進行するものである無菌コネクタ。
【0013】
上記において、「相対的に進行」とは、流通孔部材や連通孔部材の静止系から見たときに中空針が進行してみえることを指している、すなわち、「相対的に進行」には、流通孔部材や連通孔部材に向かって中空針が進行する場合に加え、中空針は静止しているが流通孔部材や連通孔部材の方が中空針に向かって進行する場合や、流通孔部材や連通孔部材と中空針とが互いに向かって進行する場合も含まれる。本明細書では、この「相対的に進行」に限らず、「相対的」の意味を、一般に、一方の静止系から見たときの他方の状態を指すものとして用いている。たとえば、「相対的に差し込まれる」は、一方の静止系から見たときの他方がその一方に向かって差し込んでくることを指す。
【0014】
[2] 前記弾性部材は、さらに、前記前端面と前記後端面との間に広がる前記連通孔部材の全側面のうち少なくとも前記前端面の側の一部の側面を被覆するものであって、該側面を被覆する前記弾性部材の、前記連通孔から離れる外側方向を向いた外側面において、前記外側方向に突き出し前記連通孔を周回する態様で延びる1本以上の突条を有するものであり、前記中空針が前記押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、前記連通孔部材は、前記側面を被覆する前記弾性部材を介して、前記1本以上の突条を前記側面部の内壁に摺動させながら前記押し付け方向に進行するものである[1]に記載の無菌コネクタ。
【0015】
[3] 前記弾性部材は、さらに、前記連通孔部材の前記連通孔の内壁面を、前記流通孔との連通状態を維持しつつ被覆するものである[1]又は[2]に記載の無菌コネクタ。
【0016】
[4] 前記第1コネクタ部の前記筐体は、前記側面部の内壁において、前記底部の側を向いた第1斜面が前記底部の側とは反対側を向い第2斜面に比べ傾斜が急になっている山をそれぞれ有する複数のラチェット部が形成されているものであり、前記第2コネクタ部の前記流通孔部材は、前記少なくとも前記連通孔部材側の一部の、前記流通孔から離れる外側方向を向いた側面において、該外側方向に突き出すとともに前記流通孔を周回する態様で延びる突条であって、前記連通孔部材の側を向いた第1斜面が、該連通孔部材の側とは反対側を向いた第2斜面よりも緩やかに傾斜している突条からなるラチェット爪が形成されているものであり、前記中空針が前記押し付け方向とは反対方向に進行して前記所定位置に到達する際には、前記ラチェット爪は、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面を、前記ラチェット爪の前記第1斜面で押しながら、前記複数のラチェット部それぞれの前記第2斜面に沿って前記底部の側に相対的に進行して、前記複数のラチェット部それぞれの前記第1斜面に対して前記ラチェット爪の前記第2斜面が当接する当接位置に到達するものであり、該当接位置への前記ラチェット爪の到達により前記複数のラチェット部と前記ラチェット爪とが互いに係合するものである[1]~[3]のいずれかに記載の無菌コネクタ。
【発明の効果】
【0017】
本願の無菌コネクタでは、弾性膜の内面に、中空針の先端側の部分を取り巻く1つ以上の溝部が形成されており、これら1つ以上の溝部は、弾性膜を内面側に折り曲げやすくする一種の折り目として機能する。すなわち、結合時において連通孔部材が、その前端面を被覆する弾性部材を介して、中空針に貫通された後の弾性膜を中空針に沿って押し下げながら進行する際には、この溝部のため弾性膜は内面側に折り曲がりやすく容易に収縮する。このため、本願の無菌コネクタでは、結合時に弾性膜の弾性によって生じる抵抗力が小さく、本願の無菌コネクタは、結合時の操作性が高く小型化に適している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の無菌コネクタの結合前の外観を表した斜視図である。
【
図2】
図1の無菌コネクタの結合後の外観を表した斜視図である。
【
図3】
図1に示す結合前の無菌コネクタの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態の無菌コネクタ10の結合前の外観を表した斜視図であり、
図2は、
図1の無菌コネクタ10の結合後の外観を表した斜視図である。
【0021】
図1および
図2に示す無菌コネクタ10は、細胞培養等を目的とする、小型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、培養液等の流体の流通のために用いられる医療用コネクタである。
図1に示すように、無菌コネクタ10は、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とで構成されている。
図1には、第1コネクタ部1の中心軸と第2コネクタ部2の中心軸とが同一の直線OO’上にのっている状態で、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが分かれて配置されている様子が示されている。この状態で、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2が矢印方向に相対的に進行して第1コネクタ部1に差し込まれることで、
図2に示すように第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが結合する。この結合は、後述するように、外部からの雑菌の侵入を抑制しつつ行われる。
図1および
図2の無菌コネクタ10では、第1コネクタ部1の細長い管状部分1A、および、第2コネクタ部2の細長い管状部分2Aには、それぞれ、上述の医療システムで用いられる小型の装置や容器に接続した、流体を流通させるための管(不図示)が接続する。
図2に示すように第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが結合することで、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2との間における流体の流通が可能となる。
【0022】
図3は、
図1に示す結合前の無菌コネクタ1の模式的な断面図である。
【0023】
図3には、第1コネクタ部1および第2コネクタ部2の各中心軸を通る
図1の直線OO’を含む面における第1コネクタ部1および第2コネクタ部2の模式的な断面が示されている。以下、
図3を参照しつつ、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2のそれぞれの構成について詳しく説明する。
【0024】
まず、第1コネクタ部1について説明する。第1コネクタ部1は、中空針3、筐体4、および弾性膜5を備えている。
【0025】
中空針3は、内部を流体が流通可能な中空の針である。中空針3の先端側部分31は、鋭くとがった先端を有する部分であり、ゴム等の通常の弾性体であれば貫くことができる。この先端には、中空針3内部を流通する流体の出口となる開口が形成されている。ここで、中空針3は、第1コネクタ部1の中心軸上に配置されている。
【0026】
筐体4は、底部41および側面部42を有している。底部41は、中空針3の先端側部分31とは反対側の後端側部分32を保持することで、先端側部分31が底部41から突き出した状態を維持しつつ中空針3を支持している。側面部42は、中空針3の先端側部分31を取り囲み一端部が底部41に連結された筒状の部材である。側面部42は、側壁421と中間部材422とを有している。側壁421の一端部は中間部材422に連結されており、中間部材422は底部41に連結されている。
【0027】
弾性膜5は、筐体4の内側において中空針3の先端側部分31を覆っており、弾性膜5の周縁部51は、中空針3の周囲を取り巻く態様で筐体4に固定されている。より具体的には、弾性膜5の周縁部51は、中間部材422に接着されるとともにさらに中間部材422と底部41との間に挟み込まれることで筐体4に強固に固定されている。ここで、弾性膜5の、中空針3の先端側部分31の方を向いた内面52には、先端側部分31の周囲を取り巻く1つ以上の溝部50が形成されている。
図3の断面図では、中空針3の先端側部分31を間に置いて相対する内面52上の2つの凹部として溝部50が表されており、この図では、一例としてこのような溝部50が3つ(先端側部分31を間に置いて相対する2つの凹部からなる組が3組)存在している場合が示されている。この溝部50の働きについては後述する。
【0028】
次に第2コネクタ部2について説明する。第2コネクタ部2は、流通孔部材6、連通孔部材7、および弾性部材8を備えている。
【0029】
流通孔部材6は、2つの端面61,62の間に、流体を流通させるための貫通孔である流通孔60が形成された部材である。
【0030】
連通孔部材7は、流通孔部材6の流通孔60に連通する連通孔70が形成された部材であり、連通孔70は、連通孔部材7の一端面である後端面72と、後端面72とは反対側の連通孔部材7の端面である前端面71との間に延びる貫通孔である。連通孔部材7は、後端面72において、流通孔部材6の2つの端面61,62のうちの一方の端面61と連結している。ここで、流通孔部材6の流通孔60、および、流通孔60に連通する連通孔部材7の連通孔70とは、第2コネクタ部2の中心軸上に形成されている。
【0031】
弾性部材8は、連通孔部材7の前端面71を、前端面71における連通孔70の開口部70aを封止しつつ被覆する部材である。
【0032】
以下では、
図3の無菌コネクタ10の第1コネクタ部1と第2コネクタ部2との結合について詳しく説明する。
【0033】
第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の結合は、弾性部材8により前端面71が被覆された連通孔部材7、および、流通孔部材6の少なくとも連通孔部材7側の一部が、底部41に向かって側面部42の内側(より正確には側壁421の内側)に相対的に差し込まれることによって行われる。この差し込みの際には、まず、第1コネクタ部1の中空針3の先端側部分31の延長上に第2コネクタ部2の連通孔70および流通孔60が位置する状態で第1コネクタ部1の弾性膜5と第2コネクタ部2の弾性部材8とが互いに接触する。
【0034】
このような弾性膜5と弾性部材8との接触は、典型的には、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2が
図3の矢印方向(なお
図1の矢印方向も参照)に相対的に進行して第1コネクタ部1に差し込まれた直後に実現するものである。なお、ここでいう、中空針3の先端側部分31の延長上に連通孔70および流通孔60が位置する状態は、
図1および
図3に示すような、第1コネクタ部1の中心軸と第2コネクタ部2の中心軸とが同一の直線OO’上にのっている状態と同じである。
【0035】
次に、連通孔部材7が、連通孔部材7の前端面71を被覆する弾性部材8を介して弾性膜5の内面52を第1コネクタ部1の中空針3の先端側部分31に向かって押し付ける。これにより、中空針3が、その先端側部分31を覆う弾性膜5、および、連通孔70の開口部70aを封止する弾性部材8をこの順に貫通する。そして、中空針3は、連通孔70内および流通孔60内を、連通孔部材7の押し付け方向(すなわち第1コネクタ部1の底部41に向かう方向・
図3の矢印方向)とは反対方向に向かって相対的に進行し、流通孔60内の所定位置に到達する。
【0036】
ここで、中空針3が連通孔70内を上述の押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、連通孔部材7は、連通孔部材7の前端面71を被覆する弾性部材8を介して、中空針3に貫通された後の弾性膜5を中空針3に沿って押し下げながら上述の押し付け方向に進行する。
【0037】
なお、後述するように、弾性部材8は、連通孔70の内壁も被覆している。厳密に言えば、「連通孔70」という語は、連通孔部材7に形成されていた、弾性部材8により内壁が被覆される前の空洞部分を指す語であり、弾性部材8により内壁が被覆されることで、連通孔70の本来の空洞部分は減少する。実際、中空針3が進行するのは、本来の空洞部分のうち、弾性部材8により被覆されずに残った空洞部分である。しかしながら、以下では、弾性部材8により被覆されずに残った空洞部分それ自体も「連通孔70」と呼ぶことがあり、連通孔部材7に形成されていた本来の連通孔70と特に区別しない。
【0038】
以上説明した経過を経て、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2との結合が行われ、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2との間における、中空針3および流通孔60を介した流体の流通が可能となる。
【0039】
以上説明したように無菌コネクタ10では、結合前には弾性膜5や弾性部材8により中空針3や流通孔60が外部から遮断されており、結合時にもこれら弾性膜5や弾性部材8により中空針3や流通孔60のシール性が維持される。このため、無菌コネクタ10では、結合の前後で雑菌が侵入しにくい状態が維持されており、無菌コネクタとしての機能が発揮されている。
【0040】
ただし、一般に、中空針が弾性膜および弾性部材を貫通して第1コネクタ部と第2コネクタ部の結合が行われるタイプの無菌コネクタでは、中空針が弾性膜および弾性部材を貫通して流通孔に向かって進む際に、弾性膜や弾性部材によって発生する抵抗力が、第1コネクタ部と第2コネクタ部の結合の妨げとなる。このため、弾性膜や弾性部材によって発生する抵抗力をできるだけ抑制して結合時の無菌コネクタの操作性を向上させることが望まれる。
【0041】
特に近年では、
図1~
図3に示す無菌コネクタ10が用いられる医療システムのように、細胞培養等を目的とする、小型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、培養液等の少流量の流体の流通のための小型の無菌コネクタの需要が高まっている。一般に小型の無菌コネクタほど結合時の操作がしづらくなるため、小型の無菌コネクタでは結合時の操作性の向上が、より一層望まれる。実際、従来の無菌コネクタの多くは(たとえば特許文献1~3)、治療等を目的とする、大型の装置や容器や管で構成された医療システムにおいて、流量の多い流体の流通のために用いられる比較的大型の無菌コネクタである。このため、従来の無菌コネクタの構成を、上述のような小型の無菌コネクタにそのまま流用するのは難しい。
【0042】
一方、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、弾性膜5の内面52に、中空針3の先端側部分31を取り巻く1つ以上の溝部50(上述したように
図3では一例として3つの溝部50)が形成されている。これら1つ以上の溝部50は、弾性膜5を内面52側に折り曲げやすくする一種の折り目として機能する。すなわち、結合時において連通孔部材7が、その前端面71を被覆する弾性部材8を介して弾性膜5を中空針3に沿って押し下げながら進行する際には、この溝部50のため弾性膜5は内面52側に折り曲がりやすく容易に収縮する。このため、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、結合時に弾性膜5の弾性によって生じる抵抗力が小さく、
図1~
図3の無菌コネクタ10は、結合時の操作性が高く小型化に適している。
【0043】
ここで、弾性部材8は、連通孔部材7の前端面71に加え、さらに、前端面71と後端面72との間に広がる連通孔部材7の全側面のうちの少なくとも前端面71の側の一部の側面73を被覆している。さらに弾性部材8は、この側面を被覆する弾性部材8の、連通孔70から離れる外側方向を向いた外側面において、この外側方向に突き出し連通孔70を周回する態様で延びる1本以上の突条8aを有している。
図3の断面図では、連通孔70を間に置いて相対する2つの凸部として突条8aが表されており、この図では、一例としてこのような突条8aが2つ(連通孔70を間に置いて相対する2つの凸部からなる組が2組)存在している場合が示されている。なお、「突条」とは、2次元面上で一方向に長く延びる凸部(簡単に言えば、畑の畝(うね)のような形状)を指す語である。
【0044】
中空針3が上述の押し付け方向とは反対方向に進行する際には、連通孔部材7は、連通孔部材7の上述の側面を被覆する弾性部材8を介して、1本以上の突条8aを側面部42の内壁に摺動させながら上述の押し付け方向に進行する。
【0045】
このように、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、弾性部材8が内壁421aと接触する箇所が突条8aのみに限定されている。この結果、結合時において、側壁421、弾性部材8、および弾性膜5で囲まれた空間のシール性を維持しつつ、弾性部材8と内壁421aとの接触面積を最小限にすることができる。このため、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、結合時に弾性部材8の摺動によって生じる抵抗力が最小限に抑えられており、
図1~
図3の無菌コネクタ10は、結合時の操作性が高く小型化に適している。
【0046】
なお、突条8aが摺動する内壁421aは、側壁421の全内壁のうちの一部である。
図3に示すように、中空針3を側壁421の筒状の中心軸としたときの側壁421の内径は、底部41側の部分の内径の方が底部41から遠い側の部分の内径に比べて少し小さくなっており、両者の間には段差が存在する。突条8aが摺動する内壁421aは、前者の、側壁421の底部41側の部分の内壁である。以下では、側壁421の底部41側の部分の内壁421aと、側壁421の、底部41から遠い側の部分の内壁とを明確に区別する必要がある場合には、側壁421の底部41側の部分の内壁421aを第1内壁421aと呼び、側壁421の、底部41から遠い側の部分の内壁を第2内壁421bと呼ぶことがある。
【0047】
以下、突条8a以外の弾性部材8の特徴について説明する。
【0048】
図1~
図3の無菌コネクタ10では、弾性部材8は、連通孔部材7の前端面71、および、全側面のうちの少なくとも前端面71の側の一部の側面73に加え、さらに、連通孔部材7の連通孔70の内壁面も被覆している。ただし、この内壁面の被覆は、連通孔70と流通孔60との連通状態を維持しつつ行われている。
【0049】
このように弾性部材8が連通孔70の内壁面も被覆することで、連通孔部材7に対し弾性部材8がより強固に固定されることとなり、中空針3に貫通される際に連通孔部材7から剥がれにくくなっている。特に、内壁面も被覆する弾性部材8が存在しない場合、開口部70aを封止する弾性部材8が中空針3に貫通される際に、開口部70aの周囲において連通孔部材7の前端面71を被覆する弾性部材8に対し連通孔70に引き込もうとする力が作用し、弾性部材8が前端面71から剥がれやすくなる。内壁面を被覆する弾性部材8をあらかじめ設けると、この部分の弾性部材8の弾性が、上述した、連通孔70に引き込もうとする力に対抗するため、弾性部材8が前端面71から剥がれにくくなる。
【0050】
また、細胞培養等を目的とする、小型の装置や容器や管で構成された医療システムでは、培養液等の流体の流量はそれほど多くなく、このため流体の代わりに空気等の気体が流通しやすい。このため、たとえば、このような医療システムで用いられる小型の容器が外部から少し押された等の理由で、流通孔60や連通孔70の圧力が、瞬間的に急激に高まるといった事態も起こり得る。しかしながら、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、弾性部材8が連通孔70の内壁面も被覆することで連通孔部材7に対する弾性部材8の固定が強固であるため、急激に高まった圧力で弾性部材8が連通孔部材7から剥がれることが避けられる。このように弾性部材8は連通孔部材7に対し強固に固定されておりこのような連通孔部材7が、上述したように流通孔部材6に連結している。言い換えれば、連通孔部材7は、流通孔部材6に対して弾性部材8を(間接的に)強固に取り付ける役割を果たしている。
【0051】
また、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、筐体4の側面部42の内壁(より正確には側壁421の第2内壁421b)において、底部41の側を向いた第1斜面4210aが底部41の側とは反対側を向いた第2斜面4210bに比べ傾斜が急になっている山をそれぞれ有する複数のラチェット部4210が形成されている(
図1および
図3参照)。
図1の斜視図では、複数のラチェット部4210の一例として、実際には6個のラチェット部4210を有する側壁421が示されており、そのうちの4個のラチェット部4210がこの斜視図では見えている。また、
図3の断面図では、これら6個のラチェット部4210のうちの、中空針3を間に置いて相対する2つのラチェット部4210が示されている。
【0052】
また、側面部42の内側(より正確には側壁421の内側)に相対的に差し込まれる上述の、流通孔部材6の少なくとも連通孔部材7側の一部では、流通孔60から離れる外側方向を向いた側面においてラチェット爪63が形成されている(
図1および
図3参照)。ラチェット爪63は、この外側方向に突き出すとともに流通孔60を周回する態様で延びる突条であって、連通孔部材7の側を向いた第1斜面63aが、連通孔部材7の側とは反対側を向いた第2斜面63bよりも相対的に緩やかに傾斜している突条からなるものである。
【0053】
中空針3が上述の押し付け方向とは反対方向に相対的に進行して上述の所定位置に到達する際には、ラチェット爪63は、複数のラチェット部4210それぞれの第2斜面4210bを、ラチェット爪63の第1斜面63aで押しながら、複数のラチェット部4210それぞれの第2斜面4210bに沿って底部41の側に相対的に進行する。そして、ラチェット爪63は、複数のラチェット部4210それぞれの第1斜面4210aに対してラチェット爪63の第2斜面63bが当接する当接位置に到達する。この当接位置へのラチェット爪63の到達により、複数のラチェット部4210とラチェット爪63とが互いに係合(ラチェット係合)する。
【0054】
以上説明したような、複数のラチェット部4210とラチェット爪63とが互いに係合する
図1~
図3の無菌コネクタ10では、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2が各中心軸の方向(
図1および
図3の直線OO’の方向)に差し込まれるだけで第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の結合が実現する。従って、たとえば特許文献1の無菌コネクタのように、結合時において第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2を各中心軸の周りに回転させる(たとえば特許文献1の段落[0026]および[0029]参照)といった操作は不要である。このように
図1~
図3の無菌コネクタ10では、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2の結合を実現する(結合状態を固定する)のがきわめて簡便であるため、結合に手間がかからず、また、結合不良も起こりにくい。このため、
図1~
図3の無菌コネクタ10は、結合時の操作性が高く小型化に適している。実際、無菌コネクタ10が小型化するほど、第1コネクタ部1に対し第2コネクタ部2を各中心軸の周りに回転させるといった操作がしづらくなる。上述したように、こうした回転操作を省くことで、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、小型であっても高い操作性を結合時に発揮できる。
【0055】
ここで、
図1に示す第1コネクタ部1の側壁421では、上述したように、複数のラチェット部の一例として6個のラチェット部4210が形成されており、ラチェット部4210が形成されている側壁部分は、切り欠け部4210cを間に置いて互いに分離している。これは、ラチェット爪63が、6個のラチェット部4210それぞれの第2斜面4210bをラチェット爪63の第1斜面63aで押す際に、6個の側壁部分が、直線OO’から離れる方向に広がる変形を起こしやすくするための工夫である。ラチェット爪63の第1斜面63aが6個のラチェット部4210の第2斜面4210bを通り過ぎた瞬間に、6個の側壁部分は、ラチェット爪63の第1斜面63aからの力を受けなくなるため、反跳で元の形状に戻り、ラチェット爪63の第2斜面63bが6個のラチェット部4210それぞれの第1斜面4210aに当接することとなる。このようにラチェット部4210が形成されている側壁部分が互いに分離している構成により、第1コネクタ部1と第2コネクタ部2とが結合しやすくなり、結合時の操作性がさらに向上する。
【0056】
なお、このように切り欠け部4210cを間に置いて互いに分離している側壁部分が、ラチェット爪63に押されて変形する形態以外に、本発明では、切り欠け部が存在せず、ラチェット部それ自体がラチェット爪に押されて弾性的に少し変形する形態が採用されてもよい。
【0057】
ここで、
図1~
図3の無菌コネクタ10の寸法の関係(寸法の比)について説明する。
【0058】
第2コネクタ部2の連通孔部材7の外径R
2(
図3参照)と、連通孔部材7が挿入される第1コネクタ部1の側面部42の側壁421の(最大)内径R
1(
図3参照・第2内壁421bの直径に相当)との比(R
2/R
1)の値は、0.9以上1.2以下が好ましく、0.95以上1.15以下がさらに好ましい。比(R
2/R
1)の値が0.9未満の場合、第2コネクタ部2の、第1コネクタ部1に挿入された部分が、第1コネクタ部1内でがたつきやすく結合が安定化しない。一方、比(R
2/R
1)の値が1.2を超える場合、切り欠け部4210cを間に置いて互いに分離している側壁421の各部分(
図1参照・上述の各側壁部分)が半径方向(中空針3から離れる方向)に広がって破損あるいは変形しやすくなり、無菌コネクタ10の耐久性や結合強度が低下する。
【0059】
また、第2コネクタ部2の連通孔部材7の外径R
2(
図3参照)と、第2コネクタ部2の弾性部材8の前面(第1コネクタ部1への挿入方向を向いた弾性部材8の面)から連通孔部材7の後端面72までの距離D(
図3参照)との比(R
2/D)の値は、1.5以上5.0以下が好ましく、2.0以上4.0以下がさらに好ましい。比(R
2/D)の値が1.5未満の場合、第2コネクタ部2の挿入を受ける第1コネクタ部1において、切り欠け部4210cを間に置いて互いに分離している側壁421の各部分(
図1参照)の、中空針3に沿った方向の長さが、側壁421の(最大)内径R
1(
図3参照)に比して、長くなり過ぎ、側壁421の各部分が破損しやすくなる。また、比(R
2/D)の値が5.0を超える場合、弾性部材8の厚さを、比(R
2/D)の値が5.0以下の場合と比べて相対的に薄くする必要があり、弾性部材8のシール性が低下する。
【0060】
また、第2コネクタ部2の全長L
2(
図3参照)と、第1コネクタ部1の全長L
1(
図3参照)との比(L
2/L
1)の値は、0.7以上2.0以下が好ましい。比(L
2/L
1)の値が0.7より小さい場合、第2コネクタ部2を第1コネクタ部1に挿入する際に、第2コネクタ部2を把持しにくくなる。比(L
2/L
1)の値が2.0より大きい場合、第2コネクタ部2のうち、第1コネクタ部1に挿入されない部分が不必要に長くなり、また圧力損失が大きくなる。
【0061】
ここで、上述するように、中空針3が上述の押し付け方向とは反対方向に相対的に進行する際には、連通孔部材7が、連通孔部材7の側面を被覆する弾性部材8を介して突条8aを側壁421の第1内壁421aに摺動させながら上述の押し付け方向に進行する。そして、ラチェット爪63と複数のラチェット部4210との係合(当接位置へのラチェット爪63の到達)と同時あるいは直前に、連通孔部材7は、連通孔部材7の前端面71を被覆する弾性部材8を介して、側壁421の突き当て面421cに突き当たる。ここで、突き当て面421cは、第1内壁421aに垂直に交わるとともに中空針3に垂直な平面内に広がる面であり、側壁421は、この突き当て面421cとは反対側の面で中間部材422と連結している。
【0062】
なお、係合の直前に突き当てが起きる場合には、突き当てが起きてから、当接位置へのラチェット爪63の到達までの間は、前端面71を被覆する弾性部材8は突き当て面421cに押し付けられて少しつぶれる(少し収縮する)こととなる。いずれにせよ、この場合でも、係合と突き当ては、ほぼ同時に起きるということができる。
【0063】
このように係合と突き当てが同時、あるいは、ほぼ同時に起きることで、第1コネクタ部1に差し込まれた第2コネクタ部2は、上述の係合により第1コネクタ部1から抜け出すことができず、さらに、上述の突き当てのため第1コネクタ部1のさらに奥に進行することもできない。このようにして中空針3が流通孔60内の上述の所定位置に位置決めされる。
【0064】
また、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、中空針3によって貫通される、中空針3の鋭い先端に近接した箇所の弾性膜5は、弾性膜5の残りの部分よりも厚さが薄くなっている(
図3参照)。同様に、中空針3によって貫通される、連通孔70の開口部70aを封止する箇所の弾性部材8は、弾性部材8の残りの部分よりも厚さが薄くなっている(
図3参照)。このように貫通箇所の弾性膜5や弾性部材8の厚さが薄くなることで、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、結合時に弾性膜5の弾性や弾性部材8の弾性によって生じる抵抗力が小さい。この点から考えても、
図1~
図3の無菌コネクタ10は、結合時の操作性が高く小型化に適しているといえる。
【0065】
また、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、第2コネクタ部2の流通孔部材6では、流通孔部材6の管状部分2Aに連結する本体部2Bの側面上には、
図3に示すように、凹凸が形成されている。さらに、流通孔60を流通孔部材6の中心軸としたときに、本体部2Bの内径は、管状部分2Aの内径に比べてかなり大きくなっている。これら凹凸や内径の工夫は、本体部2Bをユーザが指でつかみやすくするためのものである。こうした工夫により、
図1~
図3の無菌コネクタ10では、操作性の向上が図られている。
【0066】
以上が本実施形態の説明である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、無菌コネクタの操作性の向上に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1:第1コネクタ部、2:第2コネクタ部、1A,2A:管状部分、2B:本体部、3:中空針、4:筐体、5:弾性膜、6:流通孔部材、7:連通孔部材、8:弾性部材、8a:突条、10:無菌コネクタ、31:先端側部分、32:後端側部分、41:底部、42:側面部、51:周縁部、52:内面、60:流通孔、61,62:端面、63:ラチェット爪、63a:第1斜面、63b:第2斜面、70:連通孔、70a:開口部、71:前端面、72:後端面、73:一部の側面、421:側壁、421a:第1内壁、421b:第2内壁、421c:突き当て面、422:中間部材、4210:複数のラチェット部、4210a:第1斜面、4210b:第2斜面、4210c:切り欠け部。