IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ紡織株式会社の特許一覧 ▶ リケンテクノス株式会社の特許一覧 ▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用内外装材 図1
  • 特許-車両用内外装材 図2
  • 特許-車両用内外装材 図3
  • 特許-車両用内外装材 図4
  • 特許-車両用内外装材 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】車両用内外装材
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20230116BHJP
   B60J 3/04 20060101ALI20230116BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
G02F1/13 505
B60J3/04
G02B5/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018207917
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020076791
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杁江 正博
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛治
(72)【発明者】
【氏名】岡本 賢治
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 望
(72)【発明者】
【氏名】三島 康児
(72)【発明者】
【氏名】原田 ▲祥▼平
(72)【発明者】
【氏名】山田 一志
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105810758(CN,A)
【文献】特開2015-034285(JP,A)
【文献】特開2017-206196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0231692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
B60J 3/04
G02B 5/00
B60R 13/00
B60R 13/02
B60R 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内装あるいは外装の一部の形状をなすパネル部材を主体として構成され、
車両用調光フィルムが、前記パネル部材の表面に沿って貼り付けられてなる車両用内外装材であって、
前記車両用調光フィルムは、
対向配置された一対のフィルム基材と、
前記一対のフィルム基材の各々の対向面に形成された導電層と、
前記一対のフィルム基材の各々に形成された前記導電層の間に介在する液晶層と、を備え、
前記導電層に電圧が印加されることで、少なくとも自身のヘイズ値が相対的に高い状態と低い状態との間で切り替えられる構成とされ、
前記フィルム基材が、アクリル系イミドあるいはアクリル系イミドとアクリル系イミド以外の熱可塑性樹脂とを積層したものからなるとともに、
前記導電層が、銀薄膜あるいは銅メッシュからなり、
前記パネル部材は、透明な樹脂材料からなるとともに、所定方向に向かって突出する突出部を有し、
前記車両用調光フィルムは、前記パネル部材の前記突出部が突出する側に、前記突出部の形状に沿って隙間なく貼り付けられ、前記ヘイズ値が相対的に高い状態である非透明状態と、前記ヘイズ値が相対的に低い状態である透明状態との間で切り替え可能とされ、
前記車両用調光フィルムの前記非透明状態と前記透明状態との切り替えによって、当該車両用内外装材が非透明状態と透明状態との間で切り替えられることを特徴とする車両用内外装材。
【請求項2】
前記フィルム基材が、アクリル系イミドと芳香族ポリカーボネートとを積層したものからなる、請求項1に記載の車両用内外装材。
【請求項3】
前記フィルム基材は、黄色度指数が5以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用内外装材。
【請求項4】
前記車両用調光フィルムは、真空成形により、前記パネル部材に一体的に貼り付けられている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用内外装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内装や外装に用いる車両用調光フィルム、および、その車両用調光フィルムを用いた車両用内外装材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、窓等に貼り付けて用いられる調光フィルムは、対向配置された一対のフィルム基材と、それら一対のフィルム基材の各々の対向面に形成された導電層と、各フィルム基材に形成された導電層の間に介在する液晶層と、からなる。そのような調光フィルムは、フィルム基材上に導電層を形成する際、フィルム基材を製造用基板に保持させた状態で行われる。下記特許文献1に記載の調光フィルムは、フィルム基材上に導電層を形成する際に、フィルム基材の反りやシワの発生を抑えるために、製造用基板上に保持層、導電層、配向層の順で積層し、その積層したものを製造用基板から剥離して、フィルム基材に貼り付けた構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-62361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、上記のような調光フィルムのフィルム基材には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネイト(PC)が用いられるとともに、導電層には、透明電極である酸化インジウムスズ(ITO)が用いられている。このような構成の調光フィルムは、上述したように、窓のような平面や多少湾曲したような面に対して貼り付けて用いられる。しかしながら、車両の内装材や外装材の表面に貼り付けて用いる場合、車両の内外装材は比較的複雑な形状とされる部分が存在し、例えば、上記のような構成の調光フィルムをその複雑な形状に合わせて引き伸ばそうとすると、ITOにより形成された導電層にクラック等が発生し、導電性が著しく悪化して調光機能が失われてしまうという問題がある。また、ITO(詳しく言えば、インジウム)は、レアメタルであり、コストが高いという問題もある。さらに、PETやPCは、特に、一般的に多く用いられているPETが、耐熱温度が低く、比較的高温になることもある車両に用いることは難しい。
【0005】
本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、コストを抑え、複雑な形状に成形可能な車両の内外装に用いるための車両用調光フィルムを提供するとともに、その車両用調光フィルムを用いた車両用内外装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の車両用調光フィルムは、
対向配置された一対のフィルム基材と、前記一対のフィルム基材の各々の対向面に形成された導電層と、前記一対のフィルム基材の各々に形成された前記導電層の間に介在する液晶層と、を備え、前記導電層に電圧が印加されることで、少なくとも自身のヘイズ値が相対的に高い状態と低い状態との間で切り替えられる構成とされ、
前記フィルム基材が、アクリル系イミドからなるとともに、前記導電層が、銀薄膜または銅メッシュからなることを特徴とする。
【0007】
この構成の車両用調光フィルムは、例えば、車両用内装材に貼り付けて映像を投影可能なフィルムとして用いたり、バスや電車等の車両用外装材に貼り付けて映像を投射することでラッピングを施すのに用いたりすることができる。また、例えば、完全自動運転等が成立した将来の車両において、透明樹脂によって形成された車体と一体的に形成し、ヘイズ値(光散乱率)の低い状態、つまり、光を散乱させずに透過させる透明状態とすることで窓として、一方、ヘイズ値が高い状態、つまり、光を散乱させた非透明状態とすることでスクリーンとして、利用することができる。
【0008】
この構成の車両用調光フィルムが備えるフィルム基材に用いられるアクリル系イミドは、PETに比較して耐熱温度が高いため、車両用調光フィルムの構成要素として好適である。一方で、この構成の調光フィルムを加熱・軟化させて成形する際の温度は、PETに対して低いため、アクリル系イミドからなるフィルム基材は、PETからなる調光フィルムに比較して、成形を行いやすく、車両用調光フィルムの構成要素として好適である。また、この構成の車両用調光フィルムが備える導電層に用いられる銀薄膜および銅メッシュは、ITOに比較して、透明性は低いものの、曲げに対する耐性が高い。つまり、この構成の車両用調光フィルムは、調光フィルムとして製造した後に、用いる箇所が複雑な形状であっても、その形状に合わせて成形することができる。また、ITOを構成するインジウムは高価であるため、銀や銅を用いれば、コストを低下させることもできる。したがって、この構成の車両用調光フィルムは、車両の内外装材として好適なものとなっている。
【0009】
さらに言えば、アクリル系イミドからなるフィルム基材は、紫外線を防止することができるとともに、傷もつきにくく、車両用調光フィルムの構成要素として好適である。また、銀薄膜からなる導電層は、赤外線より長波長側の光(物を加熱する作用のある光)を約50パーセント程度カットすることができるため、この構成の車両用調光フィルムによれば、車内温度の上昇を抑えることができ、車両の内外装材として好適である。
【0010】
また、上記課題を解決するために本発明の車両用内外装材は、
車両の内装あるいは外装の一部の形状をなすパネル部材を主体として構成され、上記構成の車両用調光フィルムが、前記パネル部材の表面に沿って貼り付けられてなることを特徴とする。
【0011】
この構成の車両用内外装材は、上記の構成の車両用調光フィルムが内装材あるいは外装材として一体的に成形されたものである。従来の調光フィルムは、パネル部材に貼り付けたとしても、十分に曲げることができないため、無駄なスペース等が生じさせることになるが、この構成の車両用内外装材によれば、無駄なスペースを生じさせることもなく、さらに言えば、車両用調光フィルムがパネル部材と一体的に成形されてその車両用調光フィルムの存在さえ気付かせない車両用内外装材となる。また、例えば、この構成の車両用内外装材は、パネル基材を透明な基材によって形成し、車両用調光フィルムを透明状態とすることで、窓として用いることができる。また、パネル基材を加飾用のものとし、本車両用調光フィルムを透明状態とすることで、その基材の加飾を乗員に視認させ、非透明状態とすることで、スクリーンとして用いることができる。以上のように、この構成の車両用内外装材は、種々の方法で利用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コストを抑え、複雑な形状に成形可能な車両の内外装に用いるための車両用調光フィルムを提供するとともに、その車両用調光フィルムを用いた車両用内外装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例の車両調光フィルムが採用された車両の斜視図(一部を取り除いた図)である。
図2図1に示した車両の上方側の断面図である。
図3図1に示した車両の
図4】本発明の実施例の車両調光フィルムが備えるフィルム基材に用いられる材料の比較表である。
図5】本発明の実施例の車両調光フィルムが備える導電層に用いられる材料の比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0015】
図1に、本発明の実施例の車両用調光フィルム10(以下、単に「調光フィルム10」と呼ぶ場合がある)を採用した車両11を示す。本車両11は、完全自動運転が成立したと想定した場合のものであり、運転席は存在せず、比較的自由に配置を変更可能なシートを備えている。ただし、図1においては、シートの図示は省略するとともに、車両11の内部を図示するために、一部を断面としている。
【0016】
車両11は、開放的な空間を実現可能なものであり、車体12の上方側(前方,後方,側方および天井)は、複数のウインドウ13で覆われたような構成となっている。それらウインドウ13は、いずれも同様の構成であり、図2に示すように、ほぼ透明な樹脂材料(例えば、ポリカーボネイトやアクリル等)からなる板状のパネル部材14と、そのパネル部材14の車室内側に貼り付けられた本実施例の調光フィルム10と、を含んで構成される。本実施例の調光フィルム10は、後に詳しく説明するが、ヘイズ値が相対的に高い状態(ヘイズ値80パーセント以上:以下、「非透明状態」と呼ぶこととする。)と、低い状態(ヘイズ値数パーセント:以下、「透明状態」と呼ぶこととする)と、の間で切り替え可能なものである。つまり、ウインドウ13は、調光フィルム10を透明状態とすることで、窓として機能し、非透明状態とすることで、車室空間を外部から視認できない状態、換言すれば、車室空間から外部を視認できない状態とすることが可能とされている。また、車両11は、図1に示すように、非透明状態とした左側面のウインドウ13Lに、映像を投影することが可能な構成とされている。なお、車両11は、複数のウインドウ13の各々を、独立して、透明状態・非透明状態を切り替え可能な構成となっている。
【0017】
本車両用調光フィルム10は、図2に示すように、対向配置されたほぼ透明なフィルム状の一対のフィルム基材20と、それら一対のフィルム基材20の各々の対向面に形成された導電層21と、各フィルム基材20に形成された導電層21の間に介在する液晶層22と、を含んで構成される。そして、後に詳しく説明するが、本車両用調光フィルム10は、フィルム基材20がアクリル系イミドからなり、かつ、導電層21が銀薄膜からなることを特徴する。なお、銀薄膜である導電層21は、フィルム基材20の表面にスパッタリングによって成膜されたものである。そして、導電層21が成膜された一対のフィルム基材20が、液晶層22の厚さ分の間隔を維持するとともにその液晶層22を封止するシール材(図示省略)によって貼り合わされて、本調光フィルム10が形成されている。なお、液晶層22は、電界印加に伴って光学特性が変化する物質である液晶分子を含むものであり、本調光フィルム10は、導電層21に電圧を印加して液晶層22に電界を生じさせることで、液晶分子の配向方向を変更し、透明状態と非透明状態とを切り替えるように構成されている。
【0018】
また、本車両用調光フィルム10は、車体12の側面における下方側の部分にも採用される。車体12のその側面下方側の部分は、図1に示すように、側面パネル30が嵌め込まれて形成されている。その側面パネル30は、例えばアームレスト等として利用可能な車室内側に向かって突出する突出部30aを有するものとなっている。また、側面パネル30は、図3に示すように、車室外側面をなすアウタパネル31と、車室内側面をなすインナパネル32と、を含んで構成される。アウタパネル31は、ほぼ透明な平板状の樹脂材料製(例えば、ポリカーボネイトやアクリル等)の部材のみからなる。それに対して、インナパネル32は、車室内側に向かって突出して突出部30aを有する形状をなしたほぼ透明な樹脂材料(例えば、ポリカーボネイトやアクリル等)からなるパネル部材33と、そのパネル部材33の車室内側面に貼り付けられた本実施例の調光フィルム10と、が一体的に成形されたものである。そして、側面パネル30は、それらアウタパネル31とインナパネル32とが組み付けられたものとなっている。つまり、調光フィルム10の透明状態・非透明状態の切り替えによって、この側面パネル30自身の透明状態・非透明状態を切り替えることが可能とされている。
【0019】
ここで、本実施例の車両用調光フィルム10の特徴について詳しく説明する。前述したように、本調光フィルム10は、フィルム基材20がアクリル系イミドからなり、かつ、導電層21が銀薄膜からなることを特徴としている。なお、調光フィルムは、フィルム基材がポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、導電層が酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)からなるものが一般的である。ここで、本発明の車両用調光フィルム10の材料と、一般的な調光フィルムの材料とを比較することとする。まず、図4に示すように、フィルム基材に用いられるアクリル系イミドは、光透過率91パーセントで、PETと同程度となっており、また、PETと同様に、車両の内外装に必要な紫外線を防止すること(UV99パーセントカット)や、傷付きにくいものとなっている。だだし、PETは、耐熱温度が100~120℃であるのに対し、アクリル系イミドは、150℃程度であり、温度上昇する場合がある車両の内外装に好適である、また、後に詳しく説明するが、成形時に材料を軟化させるための温度が、PETが260℃程度であるのに対し、アクリル系イミドは、160℃程度と低く、成形性に優れたものとなっている。
【0020】
以下に、上記アクリル系イミドについて、より詳細に説明することとする。上記アクリル系イミドは、アクリル構造とイミド構造の両方の構造を有する熱可塑性樹脂である。上記アクリル系イミドは、アクリル構造を有することから、アクリル樹脂の高透明性、高表面硬度、高剛性という特徴を有する。また上記アクリル系イミドは、イミド構造を有することから、ポリイミドの耐熱性や寸法安定性に優れるという特徴を有する。更に、上記アクリル系イミドは、通常、ポリイミドの淡黄色から赤褐色に着色するという欠点が改良されている。
【0021】
上記アクリル系イミドとしては、例えば、N-置換マレイミド・(メタ)アクリル酸メチル共重合体などの(メタ)アクリル酸エステルとイミド構造を有する重合性モノマーとの共重合体;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、スチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体などのアクリル系樹脂をイミド化剤(例えば、メチルアミン、シクロヘキシルアミン、及びアンモニアなどをあげることができる。)と反応させることによりイミド構造が導入された重合体;などをあげることができる。上記アクリル系イミドとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。本明細書において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸の意味である。
【0022】
上記アクリル系イミドのガラス転移温度は、耐熱性の観点から、通常125℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは140℃以上、より更に好ましくは145℃以上、最も好ましくは150℃以上であってよい。一方、上記アクリル系イミドのガラス転移温度は、成形性の観点から、通常170℃以下、好ましくは165℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは155℃以下であってよい。ここでガラス転移温度は、JIS K7121-1987に従い、250℃で3分間保持し、10℃/分で20℃まで冷却し、20℃で3分間保持し、10℃/分で250℃まで昇温するプログラムで測定される最後の昇温過程の曲線から算出した中間点ガラス転移温度である。示差走査熱量計としては、例えば、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用することができる。
【0023】
上記アクリル系イミドの黄色度指数は、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下であってよい。黄色度指数は低いほど好ましい。黄色度指数が5以下のアクリル系イミドを用いることにより、車両用内外装材として好適な色調のフィルムを得ることができる。ここで黄色度指数はJIS K7105:1981に従い測定した値である。色度計としては、例えば、株式会社島津製作所の色度計「SolidSpec-3700(商品名)」を使用することができる。
【0024】
上記アクリル系イミドのメルトマスフローレート(ISO1133に従い、260℃、98.07Nの条件で測定。)は、フィルム製膜時の押出負荷や溶融フィルムの安定性の観点から、好ましくは0.1~20g/10分、より好ましくは0.5~10g/10分であってよい。
【0025】
上記アクリル系イミドには、本発明の目的に反しない限度において、所望により、アクリル系イミド以外の熱可塑性樹脂;顔料、無機フィラー、有機フィラー、樹脂フィラー;滑剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、及び界面活性剤等の添加剤;などを更に含ませることができる。これらの任意成分の配合量は、アクリル系イミドを100質量部としたとき、通常10質量部以下、あるいは0.01~10質量部程度である。
【0026】
上記アクリル系イミドを用いて、アクリル系イミドからなるフィルム基材20を製膜する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。上記アクリル系イミドを用いて、アクリル系イミドからなるフィルム基材20を製膜する好ましい方法としては、例えば、特許5865953号公報に開示された方法をあげることができる。
【0027】
他の実施形態において、フィルム基材20は、上記アクリル系イミドと他の熱可塑性樹脂との積層フィルムであってよい。該他の熱可塑性樹脂の好ましいものとしては、例えば、芳香族ポリカーボネートをあげることができる。上記アクリル系イミドは表面硬度には優れているが、耐衝撃性が不十分になり易いのに対し、上記芳香族ポリカーボネートは耐衝撃性には優れているが、表面硬度が不十分になり易い。そのため上記アクリル系イミドと上記芳香族ポリカーボネートとを積層することにより、両者の弱点を補い合い、表面硬度、及び耐衝撃性の両方に優れたフィルム基材20を得ることができる。
【0028】
上記アクリル系イミドと上記芳香族ポリカーボネートとの積層フィルムとしては、例えば、上記アクリル系イミドからなる層と上記芳香族ポリカーボネートからなる層とが直接積層された多層フィルム;上記アクリル系イミドからなる第1の層、上記芳香族ポリカーボネートからなる層、及び上記アクリル系イミドからなる第2の層がこの順に直接積層された多層フィルム;などをあげることができる。
【0029】
上記芳香族ポリカーボネートとしては、例えば、ビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重合法によって得られる重合体;ビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルとのエステル交換反応により得られる重合体;などをあげることができる。上記芳香族ポリカーボネートとしてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0030】
上記芳香族ポリカーボネートには、本発明の目的に反しない限度において、所望により、芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂;顔料、無機フィラー、有機フィラー、樹脂フィラー;滑剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、及び界面活性剤等の添加剤;などを更に含ませることができる。これらの任意成分の配合量は、芳香族ポリカーボネートを100質量部としたとき、通常10質量部以下、あるいは0.01~10質量部程度である。
【0031】
上記アクリル系イミドと他の熱可塑性樹脂との積層フィルムを製膜する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。上記アクリル系イミドと他の熱可塑性樹脂との積層フィルムが、上記アクリル系イミドからなる第1の層、上記芳香族ポリカーボネートからなる層、及び上記アクリル系イミドからなる第2の層がこの順に直接積層された多層フィルムである場合の好ましい方法としては、例えば、特許5893686号公報に開示された方法をあげることができる。
【0032】
フィルム基材20の全光線透過率は、通常85%以上、好ましくは88%以上、より好ましくは90%以上であってよい。全光線透過率は高いほど好ましい。全光線透過率が85%以上のフィルム基材20を用いることにより、車両用内外装材として好適な透明性のフィルムを得ることができる。ここで全光線透過率はJIS K 7361-1:1997に従い測定した値である。濁度計としては、例えば、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000(商品名)」を使用することができる。
【0033】
フィルム基材20の黄色度指数は、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下であってよい。黄色度指数は低いほど好ましい。黄色度指数が5以下のフィルム基材20を用いることにより、車両用内外装材として好適な色調のフィルムを得ることができる。ここで黄色度指数はJIS K7105:1981に従い測定した値である。色度計としては、例えば、株式会社島津製作所の色度計「SolidSpec-3700(商品名)」を使用することができる。
【0034】
フィルム基材20のレタデーションは、通常75nm以下、好ましくは50nm、より好ましくは40nm以下、更に好ましくは30nm以下、更により好ましくは20nm以下、最も好ましくは15nm以下であってよい。レタデーションは低いほど好ましい。レタデーションが75nm以下のフィルム基材20を用いることにより、車両用内外装材、特に窓用として好適なクリア感のフィルムを得ることができる。ここでレタデーションは平行ニコル回転法により測定した値である。測定装置としては、例えば、王子計測機器株式会社の平行ニコル回転法による位相差測定装置「KOBRA-WR(商品名)」を使用することができる。
【0035】
次に、図5を参照しつつ、導電層に用いられる材料を比較する。詳しく言えば、一般的な調光フィルムに用いられるITOと、本実施例の導電層21に用いられている銀薄膜と、本発明の調光フィルムに係る導電層に採用可能な銅メッシュと、を比較する。ITOが用いられた調光フィルムは、複雑な形状に合わせて引き伸ばそうとすると、ITOにより形成された導電層にクラック等が発生し、導電性が著しく悪化して調光機能が失われてしまうという問題がある。ITOは、平板状での導電性が高く、透明性は高いものの、曲げに対する耐性がなく、ITOを用いた調光フィルムは、前述した側面パネル30の突出部30aに沿った形状に成形することが不可能である。それに対して、銀薄膜や銅メッシュは、曲げに対する耐性が高く、側面パネル30の突出部30aに沿った形状に成形しても、調光機能を失うようなことはないのである。また、ITOを構成するインジウムは高価であるため、銀や銅によって導電層を形成することで、ITOを用いた場合に比較して、コストを低下させることができる。さらに言えば、銀薄膜からなる導電層21は、赤外線より長波長側の光、換言すれば、物を加熱する作用のある光を、約50パーセント程度カットすることができるため、本実施例の調光フィルム10を用いた車両11は、車内温度の上昇を抑えることが可能である。
【0036】
以上のように、本実施例の車両用調光フィルム10は、フィルム基材20がアクリル系イミドあるいはアクリル系イミドと他の熱可塑性樹脂とを積層したものからなり、かつ、導電層21が銀薄膜あるいは銅メッシュからなることで、車両の内外装材として好適なものとなっているのである。
【0037】
前述した側面パネル30のインナパネル32は、例えば、いわゆる真空成形を用いて、インナパネル32を構成するパネル部材33と本実施例の車両用調光フィルム10とを、一体的に成形したものとなっている。簡単に説明すれば、パネル部材33の材料となる平板状の樹脂部材に、本実施例の調光フィルム10を貼り付ける。そして、それら樹脂部材および調光フィルム10を保持して加熱し、型に合わせて真空吸引することで、上記の突出部30aを形成する。ただし、上述したように、アクリル系イミドからなるフィルム基材20は、成形時の温度が160℃程度である。それに対して、液晶層22は、耐熱温度が100℃であるため、液晶層22の温度が上昇しすぎないようにする必要がある。本実施例の調光フィルム10は、液晶層22が、銀薄膜からなる導電層21に挟まれている。銀薄膜(銅メッシュ)からなる導電層21は、ITOに比較して熱伝導性が高く、フィルム基材20からの熱を外部に逃がすことができるため、液晶層22の温度上昇を抑制することができる。その点においても、導電層21に銀薄膜(銅メッシュ)を用いた本実施例の車両用調光フィルム10は、成形することが多い車両用の調光フィルムとして好適である。
【0038】
PETからなるフィルム基材とITOからなる導電層を備える調光フィルムを、前述したように、パネル部材33に沿って曲げることは困難であり、パネル部材33に貼り付けようとしても、パネル部材33との間に隙間が生じたり、調光機能が失われたりしてしまう。それに対して、本発明の製造方法によって成形されたインナパネル32は、パネル部材33に対して調光フィルム10が隙間なく貼り付けられたものとなっており、無駄な隙間を生じさせることがない。また、本車両用調光フィルム10が透明なパネル部材33と一体的に成形されているため、その車両用調光フィルム10の存在を乗員に気付かせないような車両用内外装材となっているのである。
【0039】
本実施例の車両用調光フィルム10は、上述した用途以外にも、例えば、ドアトリム等の車室内側面に一体的に成形し、非透明状態とすることで、スクリーンとして機能させて、車両後方側の映像を投射してサイドミラーのように利用することができる。また、本実施例の車両用調光フィルム10を、電車やバス等の外装材として構成し、非透明状態として、画像を投射してラッピングを施すように利用することもできる。
【0040】
本実施例に係る車両11においては、車両用調光フィルム10を透明状態と非透明状態とで切り替えるように構成されていたが、導電層21に印加する電圧を制御することで、ヘイズ値を段階的に変更可能な構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0041】
10…車両用調光フィルム、20…フィルム基材(アクリル系イミド)、21…導電層(銀薄膜)、22…液晶層、32…インナパネル〔車両用内外装材〕、33…パネル部材、
図1
図2
図3
図4
図5