(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】ブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 5/48 20060101AFI20230116BHJP
C07C 11/167 20060101ALI20230116BHJP
B01J 23/887 20060101ALI20230116BHJP
B01J 29/40 20060101ALI20230116BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230116BHJP
【FI】
C07C5/48
C07C11/167
B01J23/887 Z
B01J29/40 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018236410
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】樋口 荘祐
(72)【発明者】
【氏名】木村 信啓
(72)【発明者】
【氏名】杉本 麻由
(72)【発明者】
【氏名】王 俊杰
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152324(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152287(WO,A1)
【文献】特開2015-189676(JP,A)
【文献】特表2011-521892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/48
C07C 11/167
B01J 23/887
B01J 29/40
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ブテンを含有する原料ガスと分子状酸素を含有する酸素含有ガスとを触媒が充填された反応器に供給し、ブタジエン
及び2-ブテンを含有する生成ガスを得る工程を備え、
前記触媒が、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含み、
前記原料ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合が、
35~45mol%であ
り、
前記生成ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合が、28~32mol%である、ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
1-ブテンを含有する原料組成物を異性化触媒に接触させて、前記1-ブテンの少なくとも一部を異性化させて、2-ブテンを得る工程を更に備える、請求項
1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直鎖状ブテンを触媒の存在下に酸化脱水素反応させてブタジエンを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-115532号公報
【文献】特開昭60-126235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブタジエンの需要増加に伴って、製造装置の要求特性、運転コスト、反応効率等の異なる、多様なブタジエンの製造方法の開発が求められている。
【0005】
本発明は、ブタジエンの新規製造方法として、2-ブテンからブタジエンを効率良く得ることが可能なブタジエンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、2-ブテンを含有する原料ガスと分子状酸素を含有する酸素含有ガスとを触媒が充填された反応器に供給し、ブタジエンを含有する生成ガスを得る工程を備える、ブタジエンの製造方法に関する。この製造方法において、上記触媒は、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含む。また、上記原料ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合は、30~90mol%である。
【0007】
上記製造方法では、特定の触媒を用い、cis-2-ブテンの割合が特定範囲内にある2-ブテンを原料とすることで、ブタジエンを効率良く得ることができる。なお、cis-2-ブテンの割合が30mol%未満であると、ブタジエン選択率及びブタジエン収率が低下し、cis-2-ブテンの割合が90mol%を超える2-ブテンは、原料調達が困難となり、プロセス全体の効率が低下する。
【0008】
一態様において、上記原料ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合は、35~45mol%であってよい。
【0009】
一態様において、上記生成ガスは2-ブテンを更に含有していてよく、当該生成ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合は、28~50mol%であってよい。
【0010】
一態様において、上記生成ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合は、28~32mol%であってよい。このような割合となるように酸化脱水素反応の反応条件を調整することで、ブタジエン選択率及びブタジエン収率が一層向上する傾向がある。
【0011】
一態様に係る製造方法は、1-ブテンを含有する原料組成物を異性化触媒に接触させて、1-ブテンの少なくとも一部を異性化させて、2-ブテンを得る工程を更に備えていてよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブタジエンの新規製造方法として、2-ブテンからブタジエンを効率良く得ることが可能なブタジエンの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係るブタジエンの製造方法は、2-ブテンを含有する原料ガスと分子状酸素を含有する酸素含有ガスとを触媒が充填された反応器に供給し、ブタジエンを含有する生成ガスを得る工程を備える。本実施形態において、触媒は、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含む。また、原料ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合は、30~90mol%である。
【0015】
上記製造方法では、特定の触媒を用い、cis-2-ブテンの割合が特定範囲内にある2-ブテンを原料とすることで、ブタジエンを効率良く得ることができる。なお、cis-2-ブテンの割合が30mol%未満であると、ブタジエン選択率及びブタジエン収率が低下し、cis-2-ブテンの割合が90mol%を超える2-ブテンは、原料調達が困難となり、プロセス全体の効率が低下する。具体的には、例えば、石油精製物に由来する混合C4留分から、cis比率の高い(90mol%を超える)2-ブテンを得るためには、蒸留塔で多量のエネルギーが必要となる。
【0016】
原料ガスは、直鎖状ブテン(1-ブテン及び2-ブテン)を主成分として含んでいてよい。原料ガス中の直鎖状ブテンの含有割合は、例えば50mol%以上であってよく、好ましくは60mol%以上、より好ましくは70mol%以上である。原料ガス中の直鎖状ブテンの含有割合の上限は特に限定されず、100mol%であってもよい。
【0017】
原料ガスは、2-ブテンを主成分として含むことが好ましい。原料ガス中の2-ブテンの含有割合は、例えば50mol%以上であってよく、好ましくは60mol%以上、より好ましくは70mol%以上である。原料ガス中の直鎖状ブテンの含有割合の上限は特に限定されず、100mol%であってもよい。
【0018】
原料ガス中の2-ブテンは、cis-2-ブテン及びtrans-2-ブテンを含むものであってよい。原料ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合X1は、30mol%以上であり、好ましくは35mol%以上、より好ましくは37mol%以上である。また、上記割合X1は、90.0mol%以下であり、石油精製物に由来する混合C4留分から低コストで原料が得られやすくなる観点からは、70mol%以下であることが好ましく、60mol%以下であることがより好ましい。
【0019】
原料ガスは、直鎖状ブテン以外の成分を更に含有していてもよい。例えば、原料ガスは、ブタンを更に含んでいてもよい。ブタンとしては、n-ブタン及びイソブタンが挙げられる。原料ガス中のブタンの含有割合は特に限定されず、例えば50mol%以下であってよく、好ましくは40mol%以下、より好ましくは30mol%以下である。
【0020】
原料ガス中のイソブテンの濃度は低いことが好ましく、例えば3mol%以下であってよく、1mol%以下であることが好ましい。
【0021】
原料ガス中のブタジエンの濃度は低いことが好ましく、例えば3mol%以下であってよく、1mol%以下であることが好ましい。
【0022】
原料ガスは、炭素原子数5以上の炭化水素を更に含有していてもよい。ブタジエンの製造方法では、反応器の後段において、副生物(又は、副生物によって生じる重合物等)が沈着し、反応器の閉塞を引き起こすことがある。原料ガスが炭素原子数5以上の炭化水素を含有することで、反応器の後段で生成ガスが冷却された際に、炭素原子数5以上の炭化水素が凝縮して液体となり、副生物を溶解又は押し流すことによって、反応器の閉塞を抑制することができる。この効果を顕著に得る観点からは、原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の含有割合は、0.05mol%以上であることが好ましく、0.1mol%以上であることがより好ましく、0.2mol%以上であることが更に好ましい。また、反応効率の観点からは、原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の含有割合は、7mol%以下であることが好ましく、6mol%以下であることがより好ましく、5.5mol%以下であることが更に好ましい。
【0023】
上記炭化水素の炭素数は、例えば、25以下であってよく、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。また、上記炭化水素は、特に限定されないが、飽和炭化水素であることが好ましい。また、上記炭化水素は、直鎖状、分岐状又は環状であってよく、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。
【0024】
原料ガスとしては、例えば、ナフサ分解で副生するC4留分から、ブタジエン及びイソブテンを分離して得られる、直鎖状ブテン及びブタン類を含む留分を用いてよい。また、原料ガスとしては、例えば、n-ブタンの脱水素反応により生成した留分を使用してもよい。また、原料ガスとしては、例えば、エチレンの二量化により得られた留分を使用してもよい。また、原料ガスとしては、例えば、石油精製プラント等で原油を蒸留した際に得られる重油留分を、流動層状態で粉末状の固体触媒を使って分解し、低沸点の炭化水素に変換する流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking)から得られるC4留分を使用してもよい。
【0025】
また、原料ガスとしては、上述の留分を異性化反応に供して、1-ブテンの少なくとも一部を異性化して、2-ブテンの割合を当該留分より向上させたものであってもよい。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、1-ブテンを含有する原料組成物を異性化触媒に接触させて、1-ブテンの少なくとも一部を異性化させて2-ブテンを得る工程を更に備えていてよい。
【0026】
異性化触媒及び異性化反応の反応条件は特に限定されず、1-ブテンを2-ブテンに異性化することが可能な公知の触媒及び条件を特に制限なく用いることができる。異性化触媒は、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、活性白土、珪藻土及びカオリンからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであってよい。また、異性化触媒は、シリカ及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであってもよい。また、異性化触媒は、シリカアルミナで構成されたものであってもよい。
【0027】
また、異性化触媒は、担体と、担体に担持された元素(以下、場合により「担持元素」という。)と、を有していてよい。担体は、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、活性炭、活性白土、珪藻土及びカオリンからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであってよく、シリカ及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであってもよく、ゼオライトから構成されるものであってもよい。
【0028】
異性化触媒の担持元素は、例えば、周期表第10族元素、周期表第11族元素及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種の元素であってよい。周期表とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期表をいう。担持元素は、周期表第10族元素、周期表第11族元素及びランタノイド以外の元素であってもよい。周期表第10族元素は、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。周期表第11族元素は、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)及び金(Au)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。ランタノイドは、例えば、ランタン(La)及びセリウム(Ce)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。担体に担持される元素は、これらの元素の組み合わせであってもよい。担体に担持される元素は、Agであることが好ましい。
【0029】
また、異性化反応の反応条件は特に限定されず、例えば、反応温度は150~450℃であってよく、好ましくは250~400℃、より好ましくは300~380℃である。また、原料の直鎖状ブテンのガス空間速度(GHSV(h-1))は、例えば0.01~50.0h-1であってよく、好ましくは0.05~10.0h-1であってよい。
【0030】
本実施形態において、酸化脱水素反応に用いられる反応器は特に限定されない。反応器としては、例えば、管型反応器、槽型反応器、流動床反応器等が挙げられ、好ましくは固定床反応器、より好ましくは固定床の多管式反応器である。これらの反応器は、一般に工業的に用いられるものであってよい。
【0031】
酸素含有ガスは、例えば、分子状酸素(O2)を10体積%以上含むガスであってよく、分子状酸素を15体積%以上含むガスであることが好ましく、分子状酸素を20体積%以上含むガスであることがより好ましい。酸素含有ガスは、例えば、空気であってよい。酸素含有ガス中の分子状酸素の濃度は、コスト抑制の観点から、50体積%以下であってよく、30体積%以下であることが好ましく、25体積%以下であることがより好ましい。
【0032】
酸素含有ガスは、上述の効果が奏される範囲で、分子状酸素以外の成分を含んでいてもよい。当該成分としては、例えば、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、CO、CO2、水等が挙げられる。酸素含有ガス中の窒素(分子状窒素)の濃度は、例えば、50体積%以上であってよく、70体積%以上であってよく、75体積%以上であってよい。また、酸素含有ガス中の窒素の濃度は、例えば、90体積%以下であってよく、85体積%以下であってよく、80体積%以下であってよい。窒素以外の成分の濃度は、例えば10体積%以下であってよく、1体積%以下であることが好ましい。
【0033】
反応器に原料ガスを供給するにあたっては、原料ガス及び酸素含有ガスと共に、窒素ガス及び水(水蒸気)を供給してもよい。窒素ガスは、反応ガスが爆鳴気を形成しないように、可燃性ガス及び分子状酸素の濃度を調整する観点から供給される。水(水蒸気)は、窒素ガスと同様に可燃性ガス及び分子状酸素の濃度を調整する観点と、触媒のコーキングを抑制する観点とから、供給される。
【0034】
原料ガスは、酸素含有ガスと混合されると、可燃性ガス及び分子状酸素の混合物となることから、爆発範囲に入らない様に各々のガス(原料ガス、酸素含有ガス、必要に応じて窒素ガス及び水(水蒸気))を供給する配管に設置された流量計にて流量を監視しながら、反応器入口の組成制御を行ってよい。当該組成制御により、例えば、後述の反応ガス組成に組成範囲が調整される。
【0035】
なお、爆発範囲とは、可燃性ガス及び分子状酸素の混合ガスが、何らかの着火源の存在下で着火するような組成を持つ範囲のことである。可燃性ガスの濃度がある値より低いと着火源が存在しても着火しない。この濃度を爆発下限界という。また可燃性ガスの濃度がある値より高い場合も同様に着火源が存在しても着火せず、この濃度を爆発上限界という。それぞれの値は酸素濃度に依存しており、一般に酸素濃度が低いほど両者の値が近づき、酸素濃度がある値になったとき両者が一致する。このときの酸素濃度を限界酸素濃度と言い、酸素濃度がこれより低ければ可燃性ガスの濃度によらず混合ガスは着火しない。
【0036】
本実施形態では、例えば、初めに反応器に供給される酸素含有ガス、窒素及び水蒸気の量を調整して、反応器入口の酸素濃度が限界酸素濃度以下になるようにしてから原料ガスの供給を開始し、次いで、可燃性ガス濃度が爆発上限界よりも濃くなるように原料ガス及び酸素含有ガスの供給量を増やしていき、反応を開始する方法を採用してよい。また、原料ガス及び酸素含有ガスの供給量を増やしていくときに、窒素及び/又は水蒸気の供給量を減らして、ガスの供給量が一定となるようにしてもよい。これにより、配管及び反応器におけるガスの滞留時間を一定に保ち、圧力の変動を抑えることができる。
【0037】
反応器に供給される反応ガスの代表的な組成を以下に示す。
<反応ガス組成>
炭素数4の炭化水素:反応ガス全量に対して、5~15体積%
直鎖状ブテン:炭素数4の炭化水素の合計に対して、50~100体積%
O2:炭素数4の炭化水素の合計に対して、40~120体積%
N2:炭素数4の炭化水素の合計に対して、500~1000体積%
H2O:炭素数4の炭化水素の合計に対して、90~900体積%
【0038】
反応器には、後述する触媒が充填されており、触媒上で直鎖状ブテンが酸素と反応して、ブタジエンと水とが生成する。この酸化脱水素反応は発熱反応であり、反応により温度が上昇するが、反応温度は280~400℃の範囲に調整することが好ましい。したがって、反応器は、熱媒体(例えば、ジベンジルトルエン、亜硝酸塩等)を使用して触媒層の温度を一定に制御できるものであることが好ましい。
【0039】
反応器の圧力は特に限定されない。反応器の圧力は、通常0MPaG以上であり、0.001MPaG以上であってよく、0.01MPaG以上であってもよい。反応器の圧力が大きくなるほど、反応器に反応ガスを多量に供給できるというメリットがある。一方、反応器の圧力は、通常0.5MPaG以下であり、0.3MPaG以下であってよく、0.1MPaG以下であってもよい。反応器の圧力が小さくなるほど、爆発範囲が狭くなる傾向がある。
【0040】
反応器の滞留時間は特に限定されない。反応器の滞留時間は、例えば0.1秒以上であってよく、0.5秒以上であることが好ましい。反応器の滞留時間の値が大きくなるほど、酸化脱水素反応による直鎖状ブテンの転化率が高くなるという利点がある。一方、反応器の滞留時間は、例えば10秒以下であってよく、5秒以下であることが好ましい。反応器の滞留時間の値が小さくなるほど、反応器を小さくできる。
【0041】
本実施形態では、酸化脱水素反応により、ブタジエンを含有する生成ガスが得られる。
【0042】
本実施形態において、酸化脱水素反応における直鎖状ブテンの転化率は、例えば、60%以上であってよく、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。また、直鎖状ブテンの転化率は、例えば、99%以下であってよく、好ましくは95%以下である。
【0043】
直鎖状ブテンの転化率が100%未満であるとき、生成ガスは、直鎖状ブテンを更に含有している。このとき、生成ガスは、2-ブテンを含有していてよい。
【0044】
生成ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合X2は、28~50mol%であることが好ましく、28~32mol%であることがより好ましい。生成ガス中の上記割合X2が上記範囲となるように酸化脱水素反応の反応条件等を調整することで、ブタジエン選択率及びブタジエン収率が一層向上する傾向がある。
【0045】
生成ガスは、酸化脱水素反応における副生物を含有していてもよい。副生物としては、例えば、アルデヒド類等が挙げられる。また、原料ガスが炭素原子数5以上の炭化水素を含有する場合、生成ガスは、炭素原子数5以上の炭化水素を更に含有していてもよい。
【0046】
[触媒]
以下に、本実施形態に係る製造方法で用いられる触媒(酸化脱水素反応触媒)の好適な態様について詳述する。
【0047】
本実施形態において、酸化脱水素反応触媒は、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含む、複合酸化物触媒であってよい。
【0048】
複合酸化物触媒は、例えば、コバルトをさらに含有していてもよい。
【0049】
複合酸化物触媒は、例えば、下記式(1)で表される複合酸化物を含むものであってよい。
(Mo)a(Bi)b(Co)c(Ni)d(Fe)e(X)f(Y)g(Z)h(Si)i(O)j …(1)
(式中、Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示し、Yはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示し、Zはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示す。また、a~jはそれぞれの元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.5~7、c=0~10、d=0~10(但しc+d=1~10)、e=0.05~3、f=0~2、g=0.04~2、h=0~3、i=0~48の範囲にあり、またjは他の元素の酸化状態を満足させる数値である。)
【0050】
複合酸化物触媒の製造方法は、特に限定されない。例えば、複合酸化物触媒は、各成分元素の供給源化合物を水系内で混合して得られた混合物を、焼成して得られたものであってよい。
【0051】
上記成分元素の供給源化合物としては、成分元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アセチルアセトナート、アルコキシド等が挙げられる。
【0052】
Moの供給源化合物としては、例えば、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸等が挙げられる。
【0053】
Feの供給源化合物としては、例えば、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、酢酸第二鉄等が挙げられる。
【0054】
Coの供給源化合物としては、例えば、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト等が挙げられる。
【0055】
Niの供給源化合物としては、例えば、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられる。
【0056】
Siの供給源化合物としては、例えば、シリカ、粒状シリカ、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等が挙げられる。
【0057】
Biの供給源化合物としては、例えば、塩化ビスマス、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス等が挙げられる。また、X成分(Mg、Ca、Zn、Ce及びSmのうちの1種又は2種以上)やY成分(Na、K、Rb、Cs及びTlのうちの1種又は2種以上)を固溶させた、Biと、X成分及び/又はY成分と、の複合炭酸塩化合物として供給することもできる。
【0058】
例えば、Y成分としてNaを用いた場合、BiとNaとの複合炭酸塩化合物は、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの水溶液等に、硝酸ビスマス等の水溶性ビスマス化合物の水溶液を滴下混合し、得られた沈殿を水洗、乾燥することによって製造することができる。また、BiとX成分との複合炭酸塩化合物は、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムの水溶液等に、硝酸ビスマス及びX成分の硝酸塩等の水溶性化合物からなる水溶液を滴下混合し、得られた沈殿を水洗、乾燥することによって製造することができる。炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムの代わりに、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムを用いると、BiとNa及びX成分との複合炭酸塩化合物を製造することができる。
【0059】
Kの供給源化合物としては、例えば、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム等を挙げることができる。
【0060】
Rbの供給源化合物としては、例えば、硝酸ルビジウム、硫酸ルビジウム、塩化ルビジウム、炭酸ルビジウム、酢酸ルビジウム等を挙げることができる。
【0061】
Csの供給源化合物としては、例えば、硝酸セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウム、炭酸セシウム、酢酸セシウム等を挙げることができる。
【0062】
Tlの供給源化合物としては、例えば、硝酸第一タリウム、塩化第一タリウム、炭酸タリウム、酢酸第一タリウム等を挙げることができる。
【0063】
Bの供給源化合物としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸等を挙げることができる。
【0064】
Pの供給源化合物としては、例えば、リンモリブデン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸、五酸化リン等を挙げることができる。
【0065】
Asの供給源化合物としては、例えば、ジアルセノ十八モリブデン酸アンモニウム、ジアルセノ十八タングステン酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0066】
Wの供給源化合物としては、例えば、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、タングステン酸、リンタングステン酸等を挙げることができる。
【0067】
Mgの供給源化合物としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。
【0068】
Caの供給源化合物としては、例えば、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。
【0069】
Znの供給源化合物としては、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。
【0070】
Ceの供給源化合物としては、例えば、硝酸セリウム、硫酸セリウム、塩化セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム等が挙げられる。
【0071】
Smの供給源化合物としては、例えば、硝酸サマリウム、硫酸サマリウム、塩化サマリウム、炭酸サマリウム、酢酸サマリウム等が挙げられる。
【0072】
各成分元素の供給源化合物を水系内で混合してなる混合物は、乾燥後、焼成されてよい。焼成温度は、特に限定されず、例えば300~700℃であってよく、400~600℃であってもよい。焼成時間も特に限定されず、例えば1~12時間であってよく、4~8時間であってもよい。
【0073】
複合酸化物触媒の形状は特に限定されず、反応器の形態等に応じて適宜変更してよい。例えば、複合酸化物触媒は、粒状であってよい。複合酸化物触媒が粒状であるとき、その粒径は、例えば0.1~10mmであってよく、1~5mmであってもよい。
【0074】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0076】
[製造例1:複合酸化物触媒の調製]
硝酸コバルト・六水和物12.3g及び硝酸鉄・九水和物5.8gを純水25.0gに加え、常温で撹拌し、溶解させた。この溶液を溶液Aと称す。
【0077】
次に、濃硝酸1.0gを純水5.0gに加え、酸性とした後、硝酸ビスマス・五水和物2.3gを加え、常温で撹拌し、溶解させた。この溶液を溶液Bと称す。
【0078】
次に、モリブデン酸アンモニウム・四水和物10.0gを純水70.0gに加え、常温で撹拌し、溶解させた。この溶液を溶液Cと称す。
【0079】
次に、溶液Aに溶液Bを滴下して、混合し、この溶液を溶液Cへと滴下して加え、常温で撹拌し、2時間混合した。得られた溶液を蒸発乾固し、更に175℃で一晩乾燥した後、空気雰囲気下、530℃で5時間焼成を行い、複合酸化物粉末を得た。得られた粉末を打錠成型し、それを破砕することにより、粒径が0.85~1.4mmに揃った複合酸化物触媒の粒状固体を得た。
【0080】
[実施例1]
<原料A-1の調製>
東京化成工業社製のtrans-2-ブテン及びcis-2-ブテンを、60/40(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン)の質量比で混合し、原料A-1を調製した。
【0081】
表1に示すC4炭化水素留分から、原料A-1の組成を得るために必要なエネルギー量を求めた。具体的には、C4炭化水素留分を異性化蒸留にかけて分枝状炭化水素を取り除き、直鎖状炭化水素を得る方法を想定し、当該方法で、原料A-1と同じ組成の直鎖状ブテンを1kg得るために必要となる投入エネルギー量を計算した。計算には、Vertual Materials Group Inc.社製のVMG ver9.5を使用した。計算の結果、投入エネルギー量は表2に示す通りであった。
【0082】
【0083】
<ブタジエンの製造>
内径10.9mm、長さ300mmのステンレス製反応管に、製造例1で製造された複合酸化物触媒11.6mLを充填した。反応管の中に熱電対を設置して反応器内の温度を測定した。なお、熱媒体は電気炉を使用した。
【0084】
原料ガス中の直鎖状ブテン:窒素:酸素:水蒸気=1:13.5:1.5:1.2の比率となるように混合したガスを、予め昇温した反応器に供給し、酸化脱水素反応を行った。原料中の直鎖状ブテンの触媒に対するガス空間速度(GHSV(h-1))は80h-1、反応器内の平均温度は350℃、圧力はゲージ圧で0.0MPaとした。反応器出口からの生成ガスを反応開始から1時間後にサンプリングし、ガスクロマトグラフィー(Agilent社製、型番6850A)で分析を行った。分析の結果、直鎖状ブテンの転化率、ブタジエンの選択率、ブタジエンの収率は表3に示す通りであった。
【0085】
[実施例2]
<原料A-2の調製>
東京化成工業社製のtrans-2-ブテン及びcis-2-ブテンを、60/40(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン)の質量比で混合して、混合ガスを得た。
【0086】
表1に示すC4炭化水素留分から、上記混合ガスを得るために必要なエネルギー量を求めた。具体的には、C4炭化水素留分を異性化蒸留にかけて分枝状炭化水素を取り除き、直鎖状炭化水素を得る方法を想定し、当該方法で、上記混合ガスと同じ組成の直鎖状ブテンを1kg得るために必要となる投入エネルギー量を計算した。計算には、Vertual Materials Group Inc.社製のVMG ver9.5を使用した。計算の結果、投入エネルギー量は表2に示す通りであった。
【0087】
上記混合ガスを、H型-ZSM-5ゼオライト触媒(東ソー社製、SiO2/Al2O3=1900(mol/mol))2.5mLを充填した内径10.9mm、長さ300mmのステンレス製反応管に、混合ガス中の直鎖状ブテン:窒素:酸素:水蒸気=1:13.5:1.5:1.2の比率となるように混合したガスを、触媒に対する原料中の直鎖状ブテンのガス空間速度(GHSV(h-1))が1800h-1となる様に、予め昇温した反応器に供給し、異性化反応を行った。この異性化反応により、原料A-2(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン/1-ブテン=48.7/33.1/18.2)を得た。
【0088】
<ブタジエンの製造>
原料A-1に代えて原料A-2を用い、GHSVを100h-1に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブタジエンの製造及び生成ガスの分析を行った。その結果、直鎖状ブテンの転化率、ブタジエンの選択率、ブタジエンの収率は表3に示す通りであった。
【0089】
[実施例3]
<原料A-3の調製>
東京化成工業社製のtrans-2-ブテン及びcis-2-ブテンを、49.6/50.4(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン)の質量比で混合し、原料A-3を調製した。
【0090】
表1に示すC4炭化水素留分から、原料A-3の組成を得るために必要なエネルギー量を求めた。具体的には、C4炭化水素留分を異性化蒸留にかけて分枝状炭化水素を取り除き、直鎖状炭化水素を得る方法を想定し、当該方法で、原料A-3と同じ組成の直鎖状ブテンを1kg得るために必要となる投入エネルギー量を計算した。計算には、Vertual Materials Group Inc.社製のVMG ver9.5を使用した。計算の結果、投入エネルギー量は表2に示す通りであった。
【0091】
<ブタジエンの製造>
原料A-1に代えて原料A-3を用い、GHSVを90h-1に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブタジエンの製造、生成ガスの分析を行った。その結果、直鎖状ブテンの転化率、ブタジエンの選択率、ブタジエンの収率は表3に示す通りであった。
【0092】
[実施例4]
<原料A-4の調製>
東京化成工業社製のtrans-2-ブテン及びcis-2-ブテンを、10.2/89.8(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン)の質量比で混合し、原料A-4を調製した。
【0093】
表1に示すC4炭化水素留分から、原料A-4の組成を得るために必要なエネルギー量を求めた。具体的には、C4炭化水素留分を異性化蒸留にかけて分枝状炭化水素を取り除き、直鎖状炭化水素を得る方法を想定し、当該方法で、原料A-4と同じ組成の直鎖状ブテンを1kg得るために必要となる投入エネルギー量を計算した。計算には、Vertual Materials Group Inc.社製のVMG ver9.5を使用した。計算の結果、投入エネルギー量は表2に示す通りであった。
【0094】
<ブタジエンの製造>
原料A-1に代えて原料A-4を用い、GHSVを100h-1に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブタジエンの製造、生成ガスの分析を行った。その結果、直鎖状ブテンの転化率、ブタジエンの選択率、ブタジエンの収率は表3に示す通りであった。
【0095】
[比較例1]
<原料B-1の調製>
東京化成工業社製のtrans-2-ブテン及びcis-2-ブテンを、99.6/0.4(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン)の質量比で混合し、原料B-1を調製した。
【0096】
<ブタジエンの製造>
原料A-1に代えて原料B-1を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてブタジエンの製造、生成ガスの分析を行った。その結果、直鎖状ブテンの転化率、ブタジエンの選択率、ブタジエンの収率は表3に示す通りであった。
【0097】
[比較例2]
<原料B-2の調製>
東京化成工業社製のtrans-2-ブテン及びcis-2-ブテンを、73.1/26.9(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン)の質量比で混合し、原料B-2を調製した。
【0098】
<ブタジエンの製造>
原料A-1に代えて原料B-2を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてブタジエンの製造、生成ガスの分析を行った。その結果、直鎖状ブテンの転化率、ブタジエンの選択率、ブタジエンの収率は表3に示す通りであった。
【0099】
[比較例3]
<原料B-3の調製>
東京化成工業社製のtrans-2-ブテン及びcis-2-ブテンを、0.8/99.2(trans-2-ブテン/cis-2-ブテン)の質量比で混合し、原料B-3を調製した。
【0100】
表1に示すC4炭化水素留分から、原料B-3の組成を得るために必要なエネルギー量を求めた。具体的には、C4炭化水素留分を異性化蒸留にかけて分枝状炭化水素を取り除き、直鎖状炭化水素を得る方法を想定し、当該方法で、原料B-3と同じ組成の直鎖状ブテンを1kg得るために必要となる投入エネルギー量を計算した。計算には、Vertual Materials Group Inc.社製のVMG ver9.5を使用した。計算の結果、投入エネルギー量は表2に示す通りであった。
【0101】
<ブタジエンの製造>
原料A-1に代えて原料B-3を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてブタジエンの製造、生成ガスの分析を行った。その結果、直鎖状ブテンの転化率、ブタジエンの選択率、ブタジエンの収率は表3に示す通りであった。
【0102】
実施例及び比較例の原料ガス組成及び反応結果を表2及び表3に示す。なお、表2中の原料ガス組成は、原料ガスに占める各成分の割合(mol%)を示し、エネルギー投入量は、原料調製に要したエネルギー量(2-ブテン1kg当たり)を示す。また、表3中のcis体比率は、生成ガス中の2-ブテンに占めるcis-2-ブテンの割合を示す。
【0103】
【0104】