(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230116BHJP
B43K 5/00 20060101ALI20230116BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20230116BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20230116BHJP
C09D 11/18 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K5/00
B43K8/02
B43K7/00
C09D11/18
(21)【出願番号】P 2018239715
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 太郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-036255(JP,A)
【文献】特開2012-077102(JP,A)
【文献】特開2014-198829(JP,A)
【文献】特開2020-059153(JP,A)
【文献】特開2016-124180(JP,A)
【文献】特開2014-224124(JP,A)
【文献】特開平09-272835(JP,A)
【文献】特開2012-232418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
着色剤と、
式(1)で表されるアミド化合物と
【化1】
(式中、
R
1は、炭素数1~6の、直鎖または分岐の、アルキル基であり、かつ
R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素、または炭素数1~4の、直鎖もしくは分岐の、アルキル基である)
、
リン酸エステル系界面活性剤と
を含んでなる、筆記具用水性インキ組成物であって、
前記アミド化合物の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、1~35質量%である、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
水と、
着色剤と、
式(1)で表されるアミド化合物と
【化2】
(式中、
R
1
は、炭素数1~6の、直鎖または分岐の、アルキル基であり、かつ
R
2
およびR
3
は、それぞれ独立に、水素、または炭素数1~4の、直鎖もしくは分岐の、アルキル基である)、
多糖類と
を含んでなる、筆記具用水性インキ組成物であって、
前記アミド化合物の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、1~35質量%である、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項3】
水と、
着色剤と、
式(1)で表されるアミド化合物と
【化3】
(式中、
R
1
は、炭素数1~6の、直鎖または分岐の、アルキル基であり、かつ
R
2
およびR
3
は、それぞれ独立に、水素、または炭素数1~4の、直鎖もしくは分岐の、アルキル基である)、
以下の式(i):
【化4】
(式中、R
11
は、水素またはメチル基である)
で示される繰り返し単位と、
以下の式(ii):
【化5】
(式中、
R
12
は、水素またはメチル基であり、かつ
R
13
は、炭素数1~5の、直鎖または側鎖を有するアルキル基である)で示される繰り返し単位と
を含んでなる共重合体と
を含んでなる、筆記具用水性インキ組成物であって、
前記アミド化合物の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、1~35質量%である、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項4】
R
1が、炭素数1~4の、直鎖のアルキル基であり、かつ
R
2およびR
3が、ともに、メチル基である、請求項1
~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤またはシリコーン系界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1
~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記多糖類がデキストリンである、請求項
2に記載の組成物。
【請求項7】
万年筆用またはマーキングペン用インキ組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
水性ボールペン用インキ組成物である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~
8に記載の組成物を収容してなる筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物に関する。さらに詳細には、筆跡乾燥性に優れた筆記具用水性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具用水性インキ組成物は、主溶媒が水である。このため、例えば水性ボールペンのペン先が大気中に晒された状態が継続すると、水がペン先より蒸発し、その部分のインキ粘度が高くなり、筆跡がかすれてしまうことがある。そこで、インキ組成物中の水分蒸発を抑制するため、グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール溶剤を添加することが、一般的に行われている。この方法によってペン先の乾燥は抑制できるものの、得られる筆跡を完全に乾燥させるまでに時間を要する。このとき、乾燥していない筆跡に触れると、筆記面や筆跡自体が汚れてしまうことがある。
【0003】
これに対して、インキ組成物の表面張力を低下させ、紙支持体などの筆記対象への浸透性を向上させることで、筆記面等の汚れを防止することが検討されている。例えば、インキ組成物に、特定のアルコール、または特定の界面活性剤を添加することが多数提案されている。しかしながら、インキ組成物の浸透性や筆跡乾燥性の向上には、さらなる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、筆記対象への浸透性が改良され、筆跡乾燥性に優れたインキ組成物を提供するものである。さらに、それを用いた筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、
水と、
着色剤と、
式(1)で表されるアミド化合物と
【化1】
(式中、
R
1は、炭素数1~6の、直鎖または分岐の、アルキル基であり、かつ
R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素、または炭素数1~4の、直鎖もしくは分岐の、アルキル基である)
を含んでなる、筆記具用水性インキ組成物であって、
前記アミド化合物の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、1~35質量%であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明による筆記具は、上記の水性インキ組成物を収容してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるインキ組成物を用いると、筆記対象への組成物の浸透性が改良され、その結果、筆跡表面の乾燥性を向上させることができる。このようなインキ組成物を用いることで、筆跡の汚れが防止される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
筆記具用水性インキ組成物
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、「インキ組成物」ということがある)は、水と、着色剤と、特定の構造を有するアミド化合物とを含んでなる。
【0010】
<水>
本発明に用いられる水としては、特に制限はなく、例えば、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。本発明におけるインキ組成物は、主たる溶媒として水を含む。水の含有量は、インキ組成物中の水、式(1)で表されるアミド化合物、および必要に応じて含まれる後述する水溶性有機溶剤の総質量を基準として、50~95質量%、好ましくは、60~90質量%である。
【0011】
<着色剤>
本発明に用いられる着色剤としては、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。
【0012】
本発明において用いることができる染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能であれば特に制限されるものではない。例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料および食用色素など各種染料が挙げられ、これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。染料の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~20質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0013】
具体的には、酸性染料としては、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、塩基性染料としては、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、直接染料としては、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19、食用色素としては、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2などが挙げられる。
【0014】
本発明において用いることができる顔料としては、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。その他、着色樹脂粒子体として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料、液晶類、可逆熱変色性組成物、フォトクロミック材料などの機能性材料を内包したマイクロカプセル顔料を用いてもよい。更に、顔料を透明、半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子などや、また着色樹脂粒子や無色樹脂粒子を、顔料もしくは染料で着色したもの等も用いることもできる。これらの染料および顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。含有量は、インキ組成物の全質量を基準として、1~30質量%が好ましい。
また、従来、顔料はインキ組成物中で分散しているため、染料系と比較して、筆記対象への浸透性が劣りやすい傾向にあり、筆跡乾燥性を向上させにくい。しかしながら、本発明においては、着色剤として顔料を用いた場合でも、筆跡乾燥性を向上することができる。さらに後述する界面活性剤を用いることで、より筆跡乾燥性を向上することができる。さらに、顔料は、耐水性、耐光性に優れ、良好な発色が得られる。以上のことから、着色剤としては顔料を用いることが好ましい。
【0015】
<アミド化合物>
本発明に用いられるアミド化合物は式(1)で表されるものである。
【化2】
式中、
R
1は、炭素数1~6の、直鎖または分岐の、アルキル基であり、かつ
R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素、または炭素数1~4の、直鎖もしくは分岐の、アルキル基である。
【0016】
好ましくは、R1が、炭素数1~4の、直鎖のアルキル基であり、かつR2およびR3が、ともに、メチル基である。
R1は、より好ましくは、メチルまたはブチルであり、さらに好ましくはメチルである。
【0017】
式(1)で表されるアミド化合物の含有量は、その他の添加剤の種類や含有量によって変化しうるが、インキ組成物の総質量を基準として、1~35質量%である。1質量%より少ないと効果が不十分であり、35質量%より多いと溶剤量が多くなり過ぎ、インキ組成物中に含まれる各種成分の溶解度が低下し過ぎたり、顔料や樹脂粒子などの分散安定性が損なわれる傾向がある。好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは3~30質量%であり、特に好ましくは10~30質量%である。
【0018】
理論には拘束されないが、以下のように考えられる。本願発明の水性インキ組成物はその主溶媒は水であるが、水は強い水素結合で複数の水分子がクラスター構造をとる特徴的な溶媒として知られている。水は単純な化学構造の低分子物質であるが、強い水素結合やクラスター構造を持つことにより、高い表面張力や高い熱容量を有しており、低分子物質であるが浸透しづらく、揮発し難い溶媒として知られている。本発明に用いられる式(1)で表されるアミド化合物は構造に含まれるアミド基が水の水素結合を効果的に切断するように作用し、クラスター構造を微細化する効果があると考えられる。このため表面張力が低下し浸透性が向上するものと考えられる。また、クラスター構造の微細化により揮発性も向上し、より効果的に筆跡乾燥性が向上するものと考えられる。上記の理由により、本発明に用いられる式(1)で表されるアミド化合物を特定量含むことでインキ組成物の筆記対象への浸透性等が改良され、その結果、筆跡乾燥性が顕著に改良されると推測される。
【0019】
<その他の添加剤>
本発明によるインキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用ペンおよび各種マーキングペン類など各種筆記具に用いることができる。筆記具の用途により、本発明の性能を損なわない範囲で、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、保湿剤、界面活性剤、潤滑剤、多糖類、剪断減粘性付与剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、水溶性樹脂、有機樹脂粒子などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
本発明によるインキ組成物は、溶解安定性、水分蒸発乾燥防止等を目的として、水溶性有機溶剤を含むことができる。水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。水溶性有機溶剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
なお、本発明によるインキ組成物が前記した水溶性有機溶剤を含む場合、前記のアミド化合物の含有量が相対的に少なくても、本発明の効果を得ることができる場合がある。このような効果を得るためには、アミド化合物と水溶性有機溶媒の合計含有量が、インキ組成物の総質量を基準として1~45質量%であることが好ましい。例えば、アミド化合物の含有量を2分の1程度にしても、グリコール類などの水溶性有機溶剤を併用することによって、十分な浸透性改良効果が得られることがある。ただし、水溶性有機溶剤が単独でアミド化合物の効果を奏するものではない。したがって、アミド化合物の含有量は一般的には多い方が好ましいので、アミド化合物と水溶性有機溶媒の合計質量を基準としたアミド化合物の質量は、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは30質量%以上であり、70質量%以上であることがより好ましい。
【0021】
本発明によるインキ組成物は、水分蒸発防止を目的として、上記した水溶性有機溶剤の他に、尿素、ソルビット等の保湿剤を含むことができる。なお、本明細書において、上記した水溶性有機溶剤は保湿剤に含めないこととする。保湿剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0022】
本発明によるインキ組成物は、各種界面活性剤を含んでもいてもよく、ノニオン系、アニオン系、カチオン系界面活性剤などが挙げられる。また、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤、シリコーン系界面活性剤なども挙げられる。
【0023】
本発明においては、特定の界面活性剤と特定の水溶性有機溶剤を含むことでより好ましい特性を有するインキ組成物とすることができる。インキ組成物に含まれる界面活性剤は活性剤分子が界面に配列することで気液界面や液界面などの界面表面の表面張力を著しく低下させることができる。また、水溶性有機溶剤は水の水素結合を切断し、表面張力を低下させることができるため、界面、溶媒内部に関わらずインキ組成物全体の表面張力を低下させることができる。上記のような異なる作用機構を有するアミド化合物と、界面活性剤とを組み合わせることで相乗効果を得ることが可能となる。特に本発明に用いられる特定のアミド化合物と特定のアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤または特定のシリコーン系界面活性剤の組合せにより優れた筆跡乾燥性を有するインキ組成物を得ることができる。
【0024】
アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤は、筆跡乾燥性をさらに向上させるためにを含むことができる。
【0025】
本発明によるインキ組成物に用いられるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、エチレンオキシド付加モル数が10以下であることが好ましい。
エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤とは、エチレンオキシドが付加されたアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤であって、界面活性剤のエチレンオキシド付加モル数が10以下であるものである。例えば、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレングリコール系界面活性剤やエチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレンアルコール系界面活性剤などが挙げられる。
このエチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、筆記対象に対する浸透性を顕著に向上させることができる。このため、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなるインキ組成物は、紙に素早く浸透することができるようになり、よって、筆記対象の表面に形成された筆跡が完全に乾燥するまでの時間が短縮され、筆跡部分をこすった場合に、筆跡のなかった部分に組成物が付着したり、筆跡部分の組成物が除去されることを防止できる、筆跡乾燥性に優れたものとなる。
【0026】
この理由は定かではないが、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、浸透効果を発揮するための好適な疎水性と親水性のバランスを示すためであると考えられる。アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤による効果向上を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数は、8以下であることが好ましい。さらには、エチレンオキシド付加モル数は、4以上であることが好ましい。エチレンオキシド付加モル数が4以上であれば、溶解性が低下し、インキ組成物中で安定して存在しにくい状態となって界面活性剤の効果の経時安定性が低下することを防止できる。
筆記後、インキ組成物が筆記対象に速やかに浸透するためには、筆記後のインキ組成物の表面張力を好適に制御する必要がある。筆記動作に伴う表面張力、いわゆる動的表面張力を瞬時に制御し、筆記対象への速やかな浸透性を得るためには界面活性剤分子のインキ中での挙動が重要である。動的条件において界面活性剤分子が気液界面に速やかに配列し、瞬時に、しかも効果的に表面張力を制御するためには、特定構造の界面活性剤を用いることで可能となることから、筆跡乾燥性に優れたインキ組成物を得ることができる。
【0027】
また、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、筆跡乾燥性を向上させると同時に、滑らかな書き味をもたらすなど、書き味を向上させる効果を併せもつ。これは、インキ組成物が、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなることで、ボールペンが有するボールとボールペンチップの間の潤滑性が向上し、かつ、ボール座の摩耗を抑制することができるためである。
なお、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなる本発明によるインキ組成物は、その他の潤滑剤を含ませることが可能であるが、特には、潤滑剤の中でも、後述するリン酸エステル系界面活性剤と併用することが好ましい。
【0028】
また、本発明に用いられるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、さらにプロピレンオキシドが付加されていてもよい。更なる筆跡乾燥性の向上やインキ組成物の経時安定性を考慮すると、本発明においては、エチレンレンオキシドとさらにプロピレンオキシドが付加されたアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を選択して用いることが好ましい。これは、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤が、エチレンレンオキシドとプロピレンオキシドの二つが付加された場合、疎水性と親水性のバランスがさらに好適に保たれるためである。
エチレンオキシド付加モル数とプロピレンオキシド付加モル数の比は、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを好適に保ち、筆跡乾燥性の更なる向上を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数:プロピレンオキシド付加モル数=1:1~5:1であることが好ましい。
【0029】
また、気液界面への配列性を考慮すれば、エチレンオキシド付加モル数とプロピレンオキシド付加モル数の合計が10以下であることが好ましい。付加モル数が多くなりすぎると、界面活性剤分子が長くなりすぎ、気液界面へ配列時に立体障害を生じやすくなる傾向があるが、付加モル数の合計が10以下であると界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを好適に保ち、かつ気液界面への配列時の立体障害の影響も考慮された効果を得られるため特に好ましい。
さらに、筆跡乾燥性の向上や、インキ組成物の経時安定性を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数が5であり、プロピレンオキシド付加モル数が2であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を用いることが、より好ましい。
【0030】
また、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤のHLB値は、3~14であることが好ましく、6~12であることがより好ましく、7~9であることが特に好ましい。アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤のHLB値が3以上であると、溶媒である水に溶け残ることなく安定に存在することができ、初期および経時的に効果得ることができるため好ましく、14以下であると疎水性により気液界面付近に配列しやすい状態となりやすく、少量でかつ瞬時に、筆跡乾燥性の向上などの界面活性剤がもたらす効果を得ることができるため、好ましい。
【0031】
アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤については、例えば、アセチレンアルコール系界面活性剤、およびアセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられるが、筆記対象への浸透性を向上し、筆跡乾燥性を向上しやすいことを考慮すれば、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0032】
アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の具体例としては、オルフィンシリーズ、サーフィノールシリーズ、ダイノールシリーズ等(いずれも日信化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0033】
シリコーン系界面活性剤は、構造内のSi骨格、プロピレンオキシドなどの疎水基や、エチレンオキシドなどの親水基とのバランスをとり、好適とすることで、インキ組成物中で安定でありながら、活性剤分子が気液界面に速やかに配列し易くなるため、筆記時にインキ組成物の表面張力を速やかにコントロールして浸透性が向上し、筆跡乾燥性とインキ組成物の経時安定性を両立することができる。シリコーン系界面活性剤の中でも、質量平均分子量が500~3,000であることが好ましい。これは前述の界面活性剤が気液界面への配列性に関して、質量平均分子量が3,000を越えると、シリコーン系界面活性剤の分子が大きくなりすぎ、気液界面への配列が遅くなる傾向にあるため、筆跡乾燥性が十分でない場合がある。一方、質量平均分子量が3,000以下であると、シリコーン系界面活性剤の分子が比較的小さくなることで、活性剤分子の気液界面への配列が速やかに成される傾向があり、筆跡乾燥性を向上しやすい。また、質量平均分子量が500未満であると、所望の筆跡乾燥性が得られにくいためである。上記効果をより考慮すれば、質量平均分子量が500~3,000であることが好ましく、より好ましくは、質量平均分子量が500~2,000であり、さらに考慮すれば、質量平均分子量が1,000~2,000であることが好ましい。
【0034】
また、シリコーン系界面活性剤は、筆跡乾燥性を向上させると同時に、滑らかな書き味をもたらすなど、書き味を向上させる効果を併せもつ。これは、インキ組成物が、シリコーン系界面活性剤を含んでなることで、ボールペンが有するボールとボールペンチップの間の潤滑性が向上し、かつ、ボール座の摩耗を抑制することができるためである。
なお、シリコーン系界面活性剤を含んでなる本発明によるインキ組成物は、その他の潤滑剤を含ませることが可能であるが、特には、潤滑剤の中でも、後述するリン酸エステル系界面活性剤と併用することが好ましい。
【0035】
シリコーン系界面活性剤の溶解度パラメーター(以下SP値)については、筆跡乾燥性を考慮すれば、SP値が8~13であることが好ましく、より考慮すれば、SP値が9~12であることが好ましく、さらにSP値が10~11が特に好ましい。溶媒の主成分である水のSP値は23.4であり、シリコーン系界面活性剤のSP値が近すぎると溶解状態で安定化してしまうため気液界面への活性剤分子の配列が速やかに成され難くなる傾向にある。SP値が上述の範囲にあると、活性剤分子が気液界面に速やかに配列しやすく、インキ組成物中での安定性も得られることから好ましい。
【0036】
シリコーン系界面活性剤については、具体的には、シルフェイスシリーズ(日信化学工業株式会社製)、BYKシリーズ(ビックケミー株式会社製)、Silsoft Spreadシリーズ、Coatosilシリーズ(いずれもモメンティブパフォマンスマテリアルズ社製)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0037】
また、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤の総含有量について、インキ組成物の総質量を基準として、0.01~3.0質量%がより好ましい。これは、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤の総含有量が、0.01質量%未満だと、所望の筆跡乾燥性が得られづらく、3.0質量%を越えると、インキ組成物の経時安定性に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.05~2.0質量%が好ましく、0.1~1.5質量%が特に好ましい。
【0038】
また、本発明によるインキ組成物は、さらにリン酸エステル系界面活性剤を含むことができる。リン酸エステル系界面活性剤は、インキ組成物の分散性などを改良する効果の他、インキ組成物をボールペンに用いる場合、潤滑剤としても作用する。潤滑剤は、ボールペンが有するボールとボールペンチップの間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上するものである。本発明において用いられる、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤は、リン酸基が金属に吸着しやすい性質にあることから、潤滑性を向上させ、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上させやすい。このため、本発明によるインキ組成物をボールペンに適用する場合に、特に優れた書き味を実現できる。しかしながら、この界面活性剤は、潤滑性だけでは無く、分散性の改良にも寄与しているため、インキ組成物をボールペン以外の筆記具に利用する場合にも有効に作用する。
【0039】
さらには、リン酸エステル系界面活性剤は表面張力を調整する効果も併せ持つ。このため、特に後述するくし溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、インキ組成物をペン先に供給するような供給機構を有する筆記具において、インキ流量調節部材に対して優れた濡れ性を呈するので好ましい。したがって、本発明によるインキ組成物は、くし溝状のインキ流量調節部材を有する万年筆およびマーキングペン、サインペン、ボールペン等にも好ましい。
【0040】
リン酸エステル系界面活性剤としては、直鎖アルコール系、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、オクチルフェノール系等のリン酸エステル系界面活性剤が挙げられるが、中でも、直鎖アルコール系、スチレン化フェノール系のリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0041】
本発明においてリン酸エステル系界面活性剤は、HLB値が5~15であることが好ましく、6~13であることが好ましい。また、本発明においてリン酸エステル系界面活性剤が有するアルキル基またはアルキルアリル基の炭素数が6~30であることが好ましく、8~18であることがより好ましく、10~14であることが特に好ましい。これは、特定のHLB値および炭素数をもつ直鎖系のリン酸エステル系界面活性剤は、線とびやかすれなどが改善された良好な筆跡が安定して得られるなど優れた筆記安定性をもたらし、また、本発明に用いられる分散剤とともに分散効果を相乗的に改良し、同時に潤滑効果をもたらすことができるためである。
【0042】
なお、本発明においてリン酸エステル系界面活性剤のHLB値とは、リン酸エステル系界面活性剤の原料非イオン性界面活性剤のHLB値を意味するものであり、川上法から算出される値であり、下記式によって算出される。
HLB=7+11.7log(Mw/Mo)、(Mw;親水基の分子量、Mo;親油基の分子量)
【0043】
なお、リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬株式会社)などが挙げられ、直鎖アルコール系のリン酸エステル系界面活性剤としては、プライサーフA212C、同A208B、同A213B、同A208F、同A215C、同A219B、同A208Nが挙げられ、スチレン化フェノール系のリン酸エステル系界面活性剤としては、プライサーフALが挙げられ、ノニルフェノール系としては、プライサーフ207H、同A212E、同A217Eが挙げられ、オクチルフェノール系としては、プライサーフA210Gが挙げられる。
【0044】
本発明によるインキ組成物がリン酸エステル系界面活性剤を含む場合、その含有量はインキ組成物の総質量を基準として0.1~2.0質量%が好ましく、0.5~1.5質量%であることがより好ましい。
ボールペンは、ペン先において、ボールとボール座との間にインキ組成物が適切な被膜を形成することで優れた筆記性を実現できる。リン酸エステル系界面活性剤は、そのような被膜を形成するのに有効に作用するので、ボールペンに用いられるインキ組成物にリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
本発明によるインキ組成物においてリン酸エステル系界面活性剤を用いると、リン酸エステル系界面活性剤が極圧剤として作用する。一般的に、極圧剤は、摩擦熱で温度が上昇すると金属表面に反応しやすく、固体状の柔らかい膜を形成し、潤滑性を高める作用を有する物質であり、高筆圧下での良好な筆感を得るために添加されるものである。リン酸エステル系界面活性剤であるリン酸エステルのリン酸基が金属表面に吸着し、極圧作用が働くので、高筆圧下でも良好な筆感が得られるのである。
すなわち、リン酸エステル系界面活性剤の潤滑効果は、リン酸基がチップのボール受け座およびボールのそれぞれの金属面に吸着し、疎水基がインキ中に伸び、ボールとボール座との物理的な接触を阻害することにより発現すると思われる。このため、チップ/ボール間で伸びた疎水基同士のクッション作用によりボールペンとして好ましい潤滑効果、すなわち滑らかで柔らかい筆感が得られるものと考えられる。
なお、上記のリン酸エステル系界面活性剤はアミン類やアルカリ金属類などのアルカリ性物質にて適宜中和して使用することもできる。
一方で、万年筆やマーキングペンではボールとボール座との間の摩擦は無いため、万年筆またはマーキングペンに用いられるインキ組成物は、リン酸エステル系界面活性剤を必要とはしない場合がある。
【0045】
上記した界面活性剤以外に、潤滑剤として用いることができるものとして、アルキルベンゼンスルホン酸、アミノ酸、N-アシルアミノ酸、脂肪族アミドアルキレンオキサイド付加物、テルペノイド酸誘導体、およびそれらの塩などが挙げられる。より具体的には、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アラニン、グリシン、リジン、スレオニン、セリン、プロリン、サルコシン、N-アシルサルコシン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドおよびそれらの塩などが挙げられる。
【0046】
本発明によるインキ組成物が万年筆やマーキングペンに用いられる場合に、インキタンクの反転によるインキの移動を良好にするために、インキタンク内壁に対する塗れ性を適度に保つことができるインキ反転材料を用いることができる。インキ反転材料としては、ポリエーテルアミンや、グリチルリチン酸及び/又はその塩、ポリグリセリンとジカルボン酸とのオリゴマーエステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられ、含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.01~10質量%が好ましい。
また、インキ反転材料は、インキタンクだけでなく、インキ流量調節体に対する濡れ性も適度に保つことができる。このため、インキ流量調節体の機能を十分に得ることができ、ペン先からのインキ吐出性を良好に維持することが可能となり、くし歯状のインキ保留部材、所謂ペン芯に、余剰なインキがスムーズに流入することができるため、インキのボタ落ち現象を抑制することもできる
【0047】
本発明によるインキ組成物は、多糖類を含むことができる。多糖類は、種々の効果をもたらすが、主に、後述するように、インキ粘度の調整、剪断減粘性の付与、耐ドライアップ性能向上などの効果をもたらす。具体的には、デキストリン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ-カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガム等が挙げられる。
【0048】
インキ組成物が顔料などの主溶媒である水に不溶な状態で存在し得る成分を含む場合、そのインキを収容する筆記具のペン先などで水が蒸発し、インキが乾燥固化してインキ流路などが詰まってしまうことがある。このような現象が起きると、インキ吐出性に影響が出て、その筆記具はインキの残量はあるものの、再び筆記できなくなることがある。このため、耐ドライアップ性能を向上させることが好ましい。よって、例えばボールペンのチップ先端における耐ドライアップ性能の向上も考慮する必要がある。デキストリンは、ペン先に被膜を形成してその被膜によってインキ中の溶媒の蒸発を防ぐ効果を持つ。このため、デキストリンを用いることは、耐ドライアップ性能に優れたインキ組成物を得ることができるため効果的である。
【0049】
デキストリンの質量平均分子量については、5,000~120,000であることが好ましい。120,000以上であると、ペン先に形成される被膜が硬く、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡がカスレやすくなる傾向がある。一方、5,000未満だと、経時的な分散安定性を向上させる程度の粘度変化を与えにくく、さらにデキストリンの吸湿性が高くなりやすく、ペン先に生ずる被膜が柔らかく、ペン先で安定して維持しにくく、インキ中の溶媒の蒸発が抑制しにくい傾向にある。上記効果の向上をさらに考慮すると、質量平均分子量が、20,000~100,000であるデキストリンを用いることが好ましい。
【0050】
デキストリンの含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1~5質量%が好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、耐ドライアップ性能の向上効果が十分得られない傾向にあり、5質量%を越えると、インキ中で溶解しづらい傾向があるためである。よりインキ中の溶解安定性を考慮すれば、0.1~3質量%が好ましく、より耐ドライアップ性能の向上を考慮すれば、1~3質量%が最も好ましい。
【0051】
本発明によるインキ組成物は、2種類以上の多糖類を含んでいてもよい。
【0052】
特に本発明によるインキ組成物をボールペンに用いる場合には、インキ粘度を調整するために、剪断減粘性付与剤を用いることが好ましい。インキ組成物の静置時の粘度を高く保ち、均一で良好な分散状態を維持しやすく、筆記時には、チップ先端のボールの回転による剪断力をインキ組成物にあたえ、インキ組成物の粘度を低下させ、良好なインキ吐出性をもたらし、にじみなどなく、発色良好な筆跡を得ることができるためである。なお、比較的低い粘度が要求されるインキ組成物、例えば万年筆やマーキングペンに用いるインキ組成物は、剪断減粘性付与剤を含まないことが好ましい場合もある。そのような構成にすることによって、インキフローの確保や筆記性の改善を実現できる。
【0053】
剪断減粘性付与剤としては、前記した多糖類の他に、非架橋型アクリル酸重合体、架橋型アクリル酸重合体が挙げられる。剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0054】
非架橋型アクリル酸重合体としては、以下の式(i):
【化3】
(式中、R
11は、水素またはメチル基である)
で示される繰り返し単位と、
以下の式(ii):
【化4】
(式中、
R
12は、水素またはメチル基であり、かつ
R
13は、炭素数1~5の、直鎖または側鎖を有するアルキル基である)
で示される繰り返し単位と
を含んでなる非架橋型アクリル酸共重合体を用いることが好ましい。
【0055】
この非架橋型アクリル酸共重合体は、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。本発明において(メタ)アクリルは、アクリルとメタクリル両者を包含することを意味する。具体的には、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-メタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸-アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸エステル-メタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。非架橋型アクリル酸共重合体は、ランダム、ブロック、などの共重合体を用いることができる。これらの非架橋型アクリル差共重合体は、単独でまたは2種以上用いることができる。
【0056】
また、非架橋型アクリル酸共重合体のR13は、炭素数1~5の直鎖または側鎖を有するアルキル基であるが、炭素数が5より大きくなるとアルキル基の立体障害が大きくなり、アルキル基同士の凝集力が低下する。また、炭素数が5より大きくなるとアルキル基の疎水性が増大するため、一部で分離や沈殿などを生じやすくなり、不均一化する場合がある。このためインキ組成物中での安定性が劣る傾向にある。炭素数が1~5の範囲にあると、アルキル基同士の凝集力が高く働き、物理的な結合をして分子間でのネットワークを形成するため、好ましい。さらにアルキル基が直鎖であると、側鎖を有するアルキル基と比較して立体障害が小さくなるため、好ましい。特にR13が、炭素数1のメチル基、炭素数2のエチル基の場合、疎水力が大きくないため、分子中へのアルキル基の導入量を比較的多く設計することが可能となる。アルキル基の導入量を多くすることでアルキル基同士の物理的な結合点を多く配置することが可能となり、より静置時粘度を高く、剪断時粘度を低くするなどの効果が得られるので、特に好ましい。
【0057】
式(i)の繰り返し単位と式(ii)の繰り返し単位の数の比は、個数比で、1:0.05~1:10、より好ましくは、1:0.1~1:5、さらに好ましくは、1:0.3~1:3である。式(ii)の繰り返し単位の比が小さ過ぎるとアルキル基の物理結合効果が不十分となり、増粘性や静置時と剪断時の粘度勾配が小さくなる傾向があり、カルボン酸エステルの比が大きすぎると、共重合体の疎水性が増大するため、一部の分離や沈殿を生じる恐れがある。この範囲にあると、高い静置粘度と低いせん断時粘度とを両立することができるので、特に好ましい。
【0058】
非架橋型アクリル酸共重合体の質量平均分子量は、好ましくは1,000以上であり、より好ましくは、5,000以上であり、さらに好ましくは、20,000以上である。前記より小さいと十分な粘度を発現しにくくなる恐れがある。また、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは700,000以下でありさらに好ましくは600,000以下である。前記より大きいと、高剪断時の粘度が高くなりすぎる恐れがある。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算質量平均分子量であり、ポリスチレンを基準としてゲル浸透クロマトグラフィにより測定することができる。
【0059】
非架橋型アクリル酸共重合体の含有量としては、インキ組成物の総質量を基準として、0.01~10質量%の範囲で用いることができる。好ましくは、0.05~5質量%の範囲であり、さらに好ましくは、0.1~2質量%の範囲である。この範囲より大きいと、静置時の粘度が高くなり、インキ組成物の分散安定性が向上し、さらに筆跡が滲まないが、剪断時のインキ粘度が若干高くなる傾向があり、筆記性能が若干低下する傾向が見られる。この範囲より小さいと、剪断時のインキ粘度は低下し、筆跡が掠れたり、線割れをすることがないが、筆跡が滲む傾向が見られる。前記範囲にあると、インキ組成物の分散安定性を保ちつつ、筆記した際にかすれや線割れをおこすことが無く、筆跡が滲むことがなく、優れたインキ安定性と筆記性能が得られるため、好ましい。
【0060】
本発明によるインキ組成物が非架橋型アクリル酸共重合体を含む場合に、さらに架橋剤を含むことができる。本発明に用いる架橋剤とは、上記した非架橋型アクリル酸共重合体と可逆性の物理的な架橋を形成することが可能な化合物であり、非架橋型アクリル酸共重合体のエステルのアルキル基とファンデルワールスによる分子間凝集力を発現できる化合物である。インキ組成物が静止状態にある際には、架橋剤が本発明に用いられる共重合体のアルキル基と物理結合による架橋点を形成し、強固なネットワークを形成することが可能であり、インキ組成物に剪断力が加えられた際には、架橋点の物理結合が簡単に外れる化合物である。
【0061】
架橋剤としては、具体的には、アルキル変性グルコース、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキル変性ポリエチレンオキシド、フェニル変性ポリエチレンオキシド、フェニルアルキル変性ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。架橋剤はアルキル基を含む高分子化合物、低分子化合物のいずれを用いても効果が得られるが、低分子化合物を用いた方が剪断時の粘度がより低い傾向にあり、静置時と剪断時の粘度勾配を大きくすることができるため好ましい。アルキル基としては、炭素数1~30が用いられ、好ましくは1~22、より好ましくは1~18である。特に、アルキル基の炭素数が同じ場合には、立体障害の少ない化合物を用いると、その効果が大きくなるので、好ましい。
【0062】
非架橋型アクリル酸共重合体を用いることで筆記時にインキ組成物の剪断時粘度が従来の架橋型アクリル酸重合体よりも低粘度化するため、従来よりもインキ組成物を紙繊維などで構成された筆記対象(例えば紙支持体)に対して速やかに浸透させることができる。インキ組成物が、さらに上記したアセチレン結合を有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤を含むことにより、浸透促進効果により、非架橋型アクリル酸共重合体の効果と相乗効果を呈し、筆記対象への浸透性がさらに向上すると考えられる。この結果、インキ組成物中の前記した成分が、インキ組成物の粘度を低下させることと、浸透性を向上する働きをして、筆跡乾燥性が高いものとなる。
【0063】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、インキ粘度は、20℃環境下、剪断速度1.92sec-1で、500~5,000mPa・sであることが好ましく、インキ粘度が上記数値範囲内であれば、インキ流動性、分散安定性に優れ、良好なインキ吐出性を有し、筆跡のカスレ、にじみなどない良好な筆跡を得ることができる。特に、インキ組成物のペン先からの良好なインキ吐出性を考慮すると、インキ粘度は1,000~3,000mPa・sであることがより好ましい。
【0064】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどの水溶性のアミン化合物などの有機塩基性化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。pH調整剤の含有量は、インキ組成物に対して、0.1~25質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
【0065】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0066】
防腐剤としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下、MITということがある)、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下、OITということがある)、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3オン、N-(n-ブチル)-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバマート安息香酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール及びフェノールなどが挙げられる。これらの防腐剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として20~200ppmであることが好ましい。また、これらのうちMITとOITとのを組み合わせて用いると抗菌性が向上するので好ましい。この場合、OITの含有量は、インキ組成物の総質量を基準として1~50ppmであることが好ましく、OITとMITとの配合比が、質量基準で1:1~10:1であることが好ましい。
【0067】
また、本発明によるインキ組成物は、筆跡の耐擦性改善などの目的に、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂を含むことができる。さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを含むことができる。
【0068】
本発明によるインキ組成物は、インキの垂れさがりを抑制することを目的に、有機樹脂粒子を含むことができる。本発明で用いることができる有機樹脂粒子としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのオレフィン系樹脂粒子や、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、ナイロン樹脂などの化学構造中に窒素原子を含む含窒素樹脂粒子や、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、セルロース樹脂粒子などが挙げられる。これらの有機樹脂粒子は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0069】
有機樹脂粒子の中でも、オレフィン系樹脂粒子、含窒素樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、オレフィン系樹脂粒子が炭化水素化合物であり、無極性であるために水中で凝集が起こりやすく、この凝集構造と前記した非架橋型アクリル酸共重合体とが、相互に絡み合うことで、よりインキ漏れを抑制しつつ、インキ吐出量の不足などの不具合を起こさないような最適化された凝集構造を形成しやすいためと推定される。さらに、オレフィン系樹脂粒子は溶融温度が高いため、高温環境下であっても安定して存在しやすく、高圧環境にあった場合では、変形はしやすく変性はしにくいという特徴を持っており、インキ添加剤として好適に用いることができる。
【0070】
オレフィン系樹脂粒子の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン、ならびにそれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、インキ漏れ抑制や書き味を向上することを考慮すれば、ポリエチレンを用いることが好ましく、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレン、変性高密度ポリエチレンなどが挙げられる。その中でもインキ漏れ抑制効果を考慮すれば、低密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレンが好ましく、特に低密度ポリエチレンは、他種のポリエチレンよりも融点が低く、柔らかい性質があるため、ポリエチレン粒子が密着しやすく、粒子間の隙間を生じづらく、インキ漏れしづらいため、低密度ポリエチレンが好ましく、さらに、低密度ポリエチレンは、柔らかいため、書き味を向上するなど、好適に用いることができる。オレフィン系樹脂粒子は、必要に応じてポリオレフィン以外の材料を含んでいてもよい。
【0071】
含窒素樹脂粒子の中でも、アミノ基またはイミノ基を有することが好ましい、これは、アミノ基またはイミノ基を有すると、安定な凝集構造を長期間とりやすく、インキ漏れを抑制しやすいためである。なお、アミノ基、イミノ基の官能基を有する含窒素樹脂粒子としては、3級アミン、4級アミンなども含むものとする。
さらに、アミノ基またはイミノ基を有する窒素樹脂粒子の中でも、化学的に結合した三次元架橋構造を有する含窒素樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、化学的に結合した三次元架橋構造を有すると、強度、耐熱性、耐溶剤性などに特に優れるため水性インキ中での吸湿などもせずに安定しているため、経時安定性に優れるため好ましい。さらに含窒素樹脂粒子自体の安定性と、含窒素樹脂粒子間の相互的な水素結合性により、長期間凝集構造をとりやすく、インキ漏れを安定して抑制しやすいためある。特に、架橋構造を有する含窒素樹脂粒子中でも、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド樹脂などの複素環構造を有する樹脂粒子は、より吸湿しづらく、安定しているため、好ましい。
架橋構造を有する含窒素樹脂粒子については、具体的には、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂などのアミノ樹脂粒子が挙げられる。また、アミド結合を有する含窒素樹脂粒子については、ナイロン6、ナイロン12などのナイロン樹脂やポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ウレタンウレア樹脂などのウレタン樹脂粒子などが挙げられる。
【0072】
有機樹脂粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状樹脂粒子が好ましい。ここでいう球状樹脂粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の樹脂粒子や、略楕円球状の樹脂粒子などでもよい。
【0073】
また、有機樹脂粒子の含有量について、インキ組成物の総質量を基準として、0.01~10.0質量%がより好ましい。これは、有機樹脂粒子の含有量が、0.01質量%未満だとインキ漏れを抑制しづらく、10.0質量%を越えると、凝集構造が強くなりやすく、書き味やドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.02~5.0質量%が好ましく、0.03~1.0が特に好ましく、最も好ましくは、0.05~0.5質量%が好ましい。
【0074】
本発明によるインキ組成物の粘度勾配は、20℃における粘性指数nで表すことができる。ここで、粘性指数nは、S=αDnで示される粘性式中のnを指す。なお、Sは剪断応力(dyn/cm2=0.1Pa)、Dは剪断速度(s-1)、αは粘性係数を示す。粘性指数nは、E型回転粘度計(DV-II+Pro、コーン型ローターCPE-42、ブルックフィールド社製)を用いてインキ粘度を測定して、算出することができる。
【0075】
<筆記具>
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、各種の筆記具に収容することができる。そのような筆記具は、紙支持体、木材、親水性有機材料から構成される布帛などの筆記対象に筆記することで、表面に筆跡を形成させることができる。本発明による筆記具用水性インキ組成物を充填する筆記具の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来より汎用なものが適用でき、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップまたはボールペンチップなどをペン先としたマーキングペンやボールペン、金属製のペン先を用いた万年筆などの各種筆記具に用いることができる。
【0076】
また、本発明によるインキ組成物を用いることができる筆記具としては、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、インキ組成物を充填することのできる、インキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。また、インキ収容体またはインキ吸蔵体が、筆記具本体に着脱自在に交換可能な構造をもつインキカートリッジ式筆記具であってもよい。
【0077】
また、本発明によるインキ組成物を用いることができる筆記具は、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式筆記具や、ノック式、回転式およびスライド式などの軸筒内にペン先を収容可能な出没式筆記具ボールペンが挙げられる。
【0078】
また、本発明によるインキ組成物を用いることができる筆記具の供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(機構1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、(機構2)くし溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、インキ組成物をペン先に供給する機構、(機構3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、および(機構4)インキ流量調節部材なしに直接、インキ組成物をペン先に供給する機構などを挙げることができる。
特に、毛管現象を利用した機構1のような繊維束などからなるインキ誘導芯を備える場合や、機構2のようなくし溝状のインキ流量調節部材を備える場合は、毛管力を効果的に作用させるために低粘度のインキ組成物が用いられ、筆記時のインキ吐出量が多くなる傾向にある。このため、筆跡を完全に乾燥させるまでに時間を要するので、筆跡乾燥性が優れていることが好ましく、本発明によるインキ組成物は、インキ誘導芯やくし溝状のインキ流量調節部材を備える機構を有する場合に、好適に用いられる。
【0079】
本発明による筆記具用水性インキ組成物をボールペンに充填した場合のボールペンの仕様について検討したところ、水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、150≦A/B≦500の関係とすることが好ましく、250≦A/B≦450の関係とすることが好ましい。これは、上記範囲とすることで、ボール径に対して、適正なインキ消費量とすることで、インキ流動性を良好とし、筆跡カスレなどを抑制することで、良好な筆跡が得られやすいためである。
【0080】
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度65°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/分の速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。また、ボール径については、特に限定されないが、一般に0.1~2.0(mm)程度のボールを用いる。
【0081】
また、ボールペンチップの仕様については、ボールペンチップ中のボールの縦軸方向の移動可能量(クリアランス)を、ボールペンの製造時または使用開始時に、20~50μmとするのが好ましく、30~45μmとすることが好ましい。これは、上記範囲であれば、インキ吐出量を適切に調整し、線とびやカスレなどを抑制することで、良好な筆跡が得られやすいためであり、さらにクリアランスが上記範囲内であれば、前記の比A/Bも調整しやすい。
ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動可能量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。ここで、移動可能量は、ボールおよびボール座が使用によって摩耗するため、使用に応じて一般的に増大していく。そして、移動可能量はインク吐出量と関係する。したがって、一般的に、ボールペンの製造時または使用開始時における移動可能量は、上記の範囲に設定されるので、安定した筆記特性を達成するために、ボールペンの使用終了時まで、上記範囲内であることが好ましい。
クリアランスが大きいボールペンチップが用いられると、インキ吐出量が多くなり、筆跡濃度を高くできるが、筆跡乾燥性が優れていることが好ましい。よって、本発明によるインキ組成物は、クリアランスが大きいボールペンチップが用いられる場合にも、好適に用いられる。なお、インキ吐出量が多くなる場合には、上記した、有機樹脂粒子を垂れ下がり防止のために含むことが好ましい。
このようなボールペンに本発明によるインキ組成物を組み合わせる場合には、
水と、
着色剤と、
インキ組成物の総質量を基準として、含有量が1~35質量である、式(1)で表されるアミド化合物と
リン酸エステル系界面活性剤などの潤滑剤と、
を含んでなるインキ組成物を用いることが好ましい。
【0082】
また、本発明による筆記具用水性インキ組成物をマーキングペンに組み合わせる場合、ペン先は、特に限定されず、例えば、繊維チップ、フェルトチップまたはプラスチックチップなどであってよく、さらに、その形状は、砲弾型、チゼル型または筆ペン型などであってよい。
このようなマーキングペンに本発明による水性インキ組成物を組み合わせる場合には、
水と、
着色剤と、
インキ組成物の総質量を基準として、含有量が1~35質量である、式(1)で表されるアミド化合物と
を含んでなるインキ組成物を用いることが好ましい。
【0083】
さらに、本発明による筆記具用水性インキ組成物を万年筆に組み合わせる場合には、金属性、セラミック製などのペン先や、くし溝機構を有する軸などを採用することができる。さらに本発明によるインキ組成物を交換可能なカートリッジ等に充填し、それを装填して筆記可能となる万年筆に適用することができる。このような万年筆に本発明による水性インキ組成物を組み合わせる場合には、インキ組成物の総質量を基準として、
水と、
着色剤と、
インキ組成物の総質量を基準として、含有量が1~35質量である、式(1)で表されるアミド化合物と
インキ反転性材料と、
を含んでなるインキ組成物を用いることが好ましい。
【0084】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
下記の配合組成および方法により、インキ組成物を得た。
水:イオン交換水 77.8質量%
着色剤:カーボンブラック 8.0質量%
アミド化合物:3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド 10.0質量%
pH調整剤:トリエタノールアミン 1.0質量%
防錆剤:ベンゾトリアゾール 0.5質量%
防腐剤:1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン 0.2質量%
リン酸エステル系界面活性剤:プライサーフA215C(第一工業株式会社製) 1.0質量%
多糖類:デキストリン(質量平均分子量30,000、サンデックシリーズ、三和デンプン工業株式会社) 1.5質量%
【0087】
水、着色剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、リン酸エステル系界面活性剤、デキストリンをディスパーで加温撹拌等してベースインキを作製した。その後、ベースインキを加温しながら、ホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、濾紙を用いて濾過を行い、実施例1のインキ組成物を得た。
【0088】
<実施例2、比較例1>
実施例1の組成に対して、アセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール2502(日信化学工業株式会社製)を0.5質量%を加え、水を77.3質量%に変更した以外は、同様にして、実施例2のインキ組成物を調製した。
実施例1の組成に対して、アミド化合物を0にし、水を87.8質量%とした以外は同様にして、比較例1のインキ組成物を調製した。
【0089】
実施例1、2および比較例1のインキ組成物(1.0g)を、直径0.7mmの超硬合金製ボールを回転自在に抱持したボールペンチップ(ボールの縦軸方向の移動量(クリアランス)30μm)を先端に有するインキ収容体の内部に充填させたレフィルを作製し、このレフィルを株式会社パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G-2)に装着し、ボールペンを得た。得られたボールペンを試験用ボールペンとし、以下の筆跡乾燥性評価を行った。
【0090】
試験用ボールペンを、室温にて市販のレポート用紙に手書きで「永」の文字を筆記し、それぞれ0、3、5、10、30秒後に、その筆跡を親指で一方向に擦った。その際の筆跡の状態を目視により確認し、得られた結果を表1のとおりであった。評価基準は以下である。
A:周囲を汚すことなく良好な筆跡を残した。
B:わずかに汚れが発生したが良好な筆跡を残した。
C:一部汚れが発生したが良好な筆跡を残した。
D:筆跡全体に汚れが発生した。
E:筆跡全体に著しい汚れが発生した。
【0091】
実施例1、2および比較例1のインキ組成物をそれぞれスライドガラスに採取し、光学顕微鏡を用いて観察し、インキ安定性(検鏡)を評価した。また、それぞれのインキ組成物の外観を目視により観察し、インキ安定性(外観)を評価した。得られた結果は表1にのとおりであった。評価基準はそれぞれ以下である。
インキ安定性
A:凝集体が確認されず、均一に分散されていた。
B:凝集体がわずかに確認されたが、良好な分散状態であった。
C:凝集体が確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
D:凝集体が確認され、実用上懸念の残るレベルであった。
インキ安定性(外観)
A:インキの良好な流動性が得られていた。
B:インキの増粘が確認されたが、流動性は保っていた。
C:インキのゲル化により流動性が乏しい傾向が確認された。
【表1】
【0092】
実施例2において、アセチレングリコール系界面活性剤のサーフィノール2502を、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤であるダイノール604(日新化学工業株式会社製)や、シリコーン系界面活性剤であるBYK345(ビックケミー株式会社製)に変更しても、本発明の効果が得られる。
【0093】
<実施例1-a~1-gならびに比較例1-hおよび1-i>
実施例1の組成に対して、アミド化合物10質量%に代えて、表2に記載の量のアミド化合物を含むこと以外は、同様にして、実施例1-a~1-gならびに比較例1-hおよび1-iのインキ組成物を調製した。
これらのインキ組成物に対して、上記と同様に、筆記乾燥性およびインキ安定性の評価を行った。得られた結果は表2のとおりであった。
【表2】
インキ安定性(外観)の評価において、比較例1-hのインキ組成物では、増粘する様子が確認され、比較例1-iのインキ組成物は、析出物が発生する様子が確認された。
【0094】
これらの例は、比較のために、すべてをボールペンに組み合わせて評価を行ったが、実施例1、2、および1-a~1-gのインキ組成物は、ボールペンの他、特に万年筆、マーキングペンにも好適に用いることができる。なお、万年筆に用いる場合に、多糖類などの剪断減粘性付与剤を含んでいなくても本発明の効果を得ることができる。
【0095】
特に、本発明によるインキ組成物が万年筆に用いられる場合、実施例1のインキ組成物に対して、リン酸エステル系界面活性剤と多糖類とを含まず、インキ反転性材料であるポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーを0.1質量%を含み、水が80.2質量%に変更されたインキ組成物を用いることができ、このインキ組成物は、本発明による効果を得ることができる。
【0096】
<実施例3、4、および比較例2>
実施例1の組成に対して、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸メチル共重合体(カルボン酸とメチルエステルのモル比1:2.1、アクリル酸由来の繰り返し単位とメタクリル酸由来の繰り返し単位のモル比1:0.36)を0.21質量%加え、水を77.59質量%に変更した以外は、同様にして、実施例3のインキ組成物を調製した。
実施例3の組成に対して、アセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール2502(日信化学工業株式会社製)を0.5質量%を加え、水を77.09質量%に変更した以外は、同様にして、実施例4のインキ組成物を調製した。
実施例3の組成に対して、アミド化合物を0にし、水を87.59質量%とした以外は同様にして、比較例2のインキ組成物を調製した。
【0097】
実施例3、4、および比較例2のインキ組成物を、上記と同様に、筆跡乾燥性およびインキ安定性の評価を行った。得られた結果は表3のとおりであった。
【表3】
【0098】
<実施例4-a~4-c>
実施例4の組成に対して、アミド化合物10質量%に代えて、表2に記載の量のアミド化合物とジエチレングリコールを含むこと以外は、同様にして、実施例4-a~4-cのインキ組成物を調製した。
これらのインキ組成物に対して、上記と同様に、筆記乾燥性およびインキ安定性の評価を行った。得られた結果は表4のとおりであった。
【表4】
【0099】
実施例3、3-a~3-cおよび4のインキ組成物は、特に、ボールペンに好適に用いることができる。
【0100】
<実施例5、6、および比較例3>
実施例1の組成に対して、キサンタンガム(三晶株式会社製)を0.33質量%加え、水を77.47質量%に変更した以外は、同様にして、実施例5のインキ組成物を調製した。
実施例5の組成に対して、アセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール2502(日信化学工業株式会社製)を0.5質量%を加え、水を76.97質量%に変更した以外は、同様にして、実施例6のインキ組成物を調製した。
実施例5の組成に対して、アミド化合物を0にし、水を87.47質量%とした以外は同様にして、比較例3のインキ組成物を調製した。
【0101】
実施例5、6、および比較例3のインキ組成物を、上記と同様に、筆跡乾燥性およびインキ安定性の評価を行った。得られた結果は表5のとおりであった。
【表5】
【0102】
実施例5および6のインキ組成物は、特に、ボールペンに好適に用いることができる。
【0103】
<実施例7、8、および比較例4>
実施例1の組成に対して、サクシノグリカン(三晶株式会社製)を0.15質量%加え、水を77.65質量%に変更した以外は、同様にして、実施例7のインキ組成物を調製した。
実施例7の組成に対して、アセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール2502(日信化学工業株式会社製)を0.5質量%加え、水を77.15質量%に変更した以外は、同様にして、実施例8のインキ組成物を調製した。
実施例7の組成に対して、アミド化合物を0にし、水を87.65質量%とした以外は同様にして、比較例4のインキ組成物を調製した。
【0104】
実施例7、8、および比較例4のインキ組成物を、上記と同様に、筆跡乾燥性およびインキ安定性の評価を行った。得られた結果は表6のとおりであった。
【表6】
【0105】
実施例7および8のインキ組成物は、特に、ボールペンに好適に用いることができる。
【0106】
<実施例9>
実施例1の組成に対して、アミド化合物を3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド10質量%に代えて、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド10質量%を含むこと以外は、同様にして、実施例9のインキ組成物を調製した。
得られたインキ組成物を、上記と同様に、筆跡乾燥性の評価を行ったところ、本願発明の効果が得られることが確認できた。なお、インキ安定性評価結果は、実施例1の方が良好であった。