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特許721027815β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形
(51)【国際特許分類】
   C07J 73/00 20060101AFI20230116BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230116BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 5/28 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
C07J73/00 CSP
A61K9/20
A61K31/58
A61P5/28
A61P13/08
A61P17/08
A61P17/14
A61P35/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018517047
(86)(22)【出願日】2017-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2017017619
(87)【国際公開番号】W WO2017195804
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2016095382
(32)【優先日】2016-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002990
【氏名又は名称】あすか製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆義
(72)【発明者】
【氏名】林 博之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 宏一
(72)【発明者】
【氏名】岩下 茂樹
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】野田 定文
【審判官】冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】特許第2591640(JP,B2)
【文献】特開平6-192228(JP,A)
【文献】特開平4-235188(JP,A)
【文献】特開昭61-263985(JP,A)
【文献】Chem.Pharm.Bull.,1993,Vol.41,No.5,p.870-875
【文献】Organic Process Research & Development,2009,Vol.13,No.6,p.1241-1253
【文献】Journal of Pharmaceutical Sciences,1979,Vol.68,No.2,p.175-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形であって、粉末X線回折スペクトルにおいて、以下の回折角度2θに回折ピークを有する15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形A。
9.6°±0.2°,12.1°±0.2°,14.6°±0.2°,16.2°±0.2°,17.1°±0.2°,20.2°±0.2°,20.9°±0.2°,24.9°±0.2°,25.6°±0.2°
【請求項2】
融点280~283℃を有する請求項1記載の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形A。
【請求項3】
プリズム晶である請求項1又は2記載の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形A。
【請求項4】
15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンをエタノールと水との混合溶媒に加熱して溶解し、溶液を冷却し、請求項1~のいずれかに記載の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを製造する方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aと担体とを含む医薬組成物。
【請求項6】
錠剤の形態である請求項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、17α-アセトキシ-6-クロロ-15β-ヒドロキシ-2-オキサプレグナ-4,6-ジエン-3,20-ジオン(15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン)の結晶多形に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第2591640号公報(特許文献1)には、17α-アセトキシ-6-クロロ-15β-ヒドロキシ-2-オキサプレグナ-4,6-ジエン-3,20-ジオン(15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン)が開示され、この化合物が、抗男性ホルモン活性(抗アンドロゲン活性)を有しており、アンドロゲン依存性疾病、例えば、前立腺肥大症、前立腺癌、脱毛症、多毛症、挫創、脂漏等の予防、治療、処置における薬剤として有効であることが開示されている。この特許文献1には、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの合成について記載されているが、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶については記載されていない。
【0003】
Chem. Pharm. Bull. 41(5) 870-875(1993)(非特許文献1)は、上記化合物の製造方法に関する文献であり、この文献には、15β,17α-ジアセトキシ-6-クロロ-2-オキサプレグナ-4,6-ジエン-3,20-ジオン、炭酸カリウム、メタノール及び水の混合物を室温で撹拌し、反応混合物に水を加え、生成物を酢酸エチルで抽出し、有機相を水で洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した後、得られた粗生成物をTLCで精製して、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン(mp285-288℃(アセトン-ヘキサン))を得たことが記載されている。
【0004】
これらの文献には結晶多形に関する記述はないものの、これらの文献に記載の方法に従って上記化合物を調製すると、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶(以下、単にB形結晶という)が得られる。しかし、得られたB形結晶は、安定性が十分でない。例えば、保存に伴って純度が低下し、保存安定性(熱安定性)が低いだけでなく、粉砕又は圧潰などにより圧力が作用しても結晶形を保てなくなり純度が低下する。さらに、粉体流動性も低く、製剤の配合作業での取り扱い性が低いだけでなく製剤中の薬物含有量が変動し、含量が安定した製剤を得にくい。さらには、薬物動態において、B形結晶は、薬物の最高血漿濃度Cmaxが高いだけでなく、Cmaxに到達する時間Tmaxが短い。そのため、短時間内にCmaxに到達し、急激な吸収性を示すため、安全性が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2591640号公報(請求項3,第3欄23行~第4欄19行,実施例3(f))
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chem. Pharm. Bull. 41(5) 870-875(1993) (第874頁左欄下から4行~右欄14行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、従来の結晶多形Bに比べて、安定性が改善された15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、粉体流動性も向上し、薬物含量の変動のない安定した製剤を調製するのに適した15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、薬物動態において、短時間内に薬物の最高血漿濃度Cmaxに到達することがなく、安全性の高い15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンを所定の溶媒を用いて結晶化させると、安定性が高く、高い粉体流動性を有するとともに、安全性の高い薬物動態のプロファイルを示す結晶が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、粉末X線回折スペクトルにおいて、以下の回折角度2θに特徴的な回析ピークを有している。
【0012】
回折角度2θ:9.6°±0.2°,17.1°±0.2°,20.2°±0.2°
【0013】
前記結晶多形Aは、さらに結晶多形Bにはない特徴的なピークを有していてもよく、このような回析ピークは、例えば、回折角度2θ=25.6°±0.2°に現れる。
【0014】
さらに、前記結晶多形Aは、結晶多形Bとは回折角度が共通するものの、結晶多形Bよりも強度が大きなピークを有していてもよく、このような強い回析ピークは、例えば、回折角度2θ=12.1°±0.2°に現れる。
【0015】
さらには、前記結晶多形Aは、結晶多形Bと回折角度が同じ位置に回折ピークを有していてもよく、例えば、回折角度2θ=14.6°±0.2°,16.2°±0.2°,20.9°±0.2°,24.9°±0.2°に回折ピークを示してもよい。
【0016】
15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aの融点は、280~283℃(例えば、281~282℃)程度であってもよい。また、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aの結晶形は、例えば、プリズム晶であってもよい。
【0017】
本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンをエタノールと水との混合溶媒に加熱して溶解し、溶液(例えば、飽和状態の溶液)を冷却(特に徐冷)することにより製造できる。
【0018】
さらに、本発明は、前記15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aと担体とを含む医薬組成物も包含する。この医薬組成物は錠剤の形態であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、従来の結晶多形Bに比べて、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、安定性(保存安定性、粉砕や圧縮などの圧力又は圧潰力に対する安定性)を改善できる。そのため、錠剤などの製剤の調製に適している。また、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、粉体流動性も高く、作業性を向上できるだけでなく、薬物含量の変動がなく安定した製剤を調製できる。さらには、薬物動態のプロファイルにおいて、短時間内に最高血漿濃度Cmaxに到達することがなく、急激な吸収を抑制でき、安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は実施例1で得られた15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aの粉末X線回折スペクトルを示すグラフである。
図2図2は実施例1で得られた15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aの顕微鏡写真である。
図3図3は比較例で得られた15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Bの粉末X線回折スペクトルを示すグラフである。
図4図4は比較例で得られた15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Bの顕微鏡写真である。
図5図5は実験例1での熱安定性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、粉末X線回折スペクトルでの回折ピークにより特徴付けることができる。なお、粉末X線回折スペクトルは、慣用の方法、例えば、後述の実施例の条件で測定できる。回折ピークを示す回折角度2θは、測定条件および試料の調製などによって±0.2°(例えば、±0.1°)程度変動する場合がある。
【0022】
本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、以下の回折角度2θに結晶多形Bにはない特徴的な回折ピークを有している。
【0023】
2θ:9.6°±0.2°,17.1°±0.2°,20.2°±0.2°
【0024】
前記結晶多形Aは、比較的強度が弱く、結晶多形Bにはない特徴的なピークを有しており、このような回析ピークは、例えば、回折角度2θ=25.6°±0.2°に現れる。
【0025】
さらに、結晶多形Bとは回折角度が同じであるものの、結晶多形Bよりも強度が大きな回折ピークを有しており、このような強い回析ピークは、例えば、回折角度2θ=12.1°±0.2°に現れる。また、結晶多形Bとは回折角度が共通するものの、結晶多形Bよりも強度が小さなピークを有していてもよく、このような回析ピークは、例えば、回折角度2θ=15.0°±0.2°に現れる。
【0026】
さらには、前記結晶多形Aは、結晶多形Bと同じピーク位置回折角度2θ=14.6°±0.2°,16.2°±0.2°,20.9°±0.2°,24.9°±0.2°にも回折ピークを示す。
【0027】
これら回析ピークのうち、結晶多形Aでは、結晶多形Bに特徴的な回折角度2θ=17.8°±0.2°又は24.5°±0.2°での回折ピークはほとんど現れず、たとえ現れたとしても小さな回折ピークが現れる。さらに、結晶多形Aでは最も強い回折ピークが17.1°±0.2°に現れるのに対して、結晶多形Bでは最も強い回析ピークが15.0°±0.2°に現れる。
【0028】
これらの回折ピークにおいて、回折角度2θ=17.1°での回折強度が最も大きい。そのため、回折角度2θ=17.1°での回折強度Aを「100」としたとき、他の回折角度2θでの相対的回折強度は、例えば、以下の通りである。
【0029】
回折角度2θ=9.6°での回折強度A=17~37(例えば、20~35)、好ましくは22~32(例えば、25~30)
回折角度2θ=12.1°での回折強度A=52~72(例えば、55~70)、好ましくは57~67(例えば、60~65)
回折角度2θ=14.6°での回折強度A=8~28(例えば、10~25)、好ましくは13~23(例えば、15~20)
回折角度2θ=15.0°での回折強度A=39~59(例えば、42~56)、好ましくは44~54(例えば、46~51)
回折角度2θ=16.2°での回折強度A=9~29(例えば、12~26)、好ましくは14~24(例えば、16~21)
回折角度2θ=20.2°での回折強度A=40~60(例えば、43~57)、好ましくは45~55(例えば、47~52)
回折角度2θ=20.9°での回折強度A=13~33(例えば、15~30)、好ましくは18~28(例えば、20~25)
回折角度2θ=24.9°での回折強度A=6~26(例えば、8~23)、好ましくは11~21(例えば、13~18)
回折角度2θ=25.6°での回折強度A=6~26(例えば、8~23)、好ましくは11~21(例えば、13~18)
【0030】
上記のように、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aにおいて、粉末X線回折スペクトルでの回折ピークの強度の順序は、以下のようである。
【0031】
≫A>A,A>A>A>A,A,A,A
【0032】
15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、キャピラリー法(昇温速度2℃/分)により測定したとき、融点280~283℃(例えば、281~282℃)を有しており、結晶多形Bの融点(285~286℃)よりも低い。なお、示差走査熱量計(DSC)で測定すると、昇温に伴って結晶形が転移するためか、正確な融点を測定することが困難である。
【0033】
さらに、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aの結晶形は特に制限されないが、顕微鏡で観察すると、通常、プリズム状の結晶(プリズム晶)である。
【0034】
前記結晶多形Aの粒子サイズは、特に制限されず、例えば、レーザー回折法に基づいて測定した平均粒子径は、30~50μm程度である場合が多い。
【0035】
なお、プリズム晶であるためか、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、粉体流動性が高く、安息角が小さいという特色がある。例えば、粉末状の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、日本薬局方(局方)の安息角測定法に準拠して、3回測定したとき、平均安息角は、例えば、30~38°、好ましくは32~37°(例えば、33~37°)、さらに好ましくは34~36°程度である。なお、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Bは、上記と同様の測定において、平均安息角は、例えば、42~52°(例えば、44~50°、特に45~47°)程度である。なお、安息角は、ロートの下端から堆積面(直径1.5cmの円柱の上面)までの高さを4.5cmに固定し、ロート(ロート部の口径50mm、中空軸部の内径7mm、中空軸部の長さ40mmのガラス製ロート)を通して円柱面の中心部に過剰の粉末を落下させ、堆積した粉末の傾斜角を測定して評価できる。
【0036】
なお、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン結晶多形Aは、少量(例えば、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2.5重量%以下)であれば、他の多形(例えば、結晶多形B、アモルファスなど)を含んでいてもよい。
【0037】
[15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aの製造方法]
15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、種々の結晶化方法で得ることができ、例えば、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンを有機溶媒(クロロホルムなどの良溶媒)に溶解し、この溶液を貧溶媒(オクタンなどの貧溶媒)と混合して晶析することにより得てもよい。このような析出法では、他の結晶多形を含む結晶多形Aが得られる場合がある。そのため、代表的には、過飽和状態の溶液から晶析する方法、例えば、有機溶媒を含む晶析溶媒(例えば、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒)に溶解して飽和状態の溶液を調製し、この溶液を冷却(特に、徐冷)することにより、結晶多形Aを析出させることができる。
【0038】
良溶媒としては、アルコール類(エタノール、イソプロパノールなどの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコール)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエタンなどのハロC1-3アルカンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)などが例示できる。これらの溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい良溶媒は、水溶性溶媒、例えば、アルコール類(エタノール、イソプロパノールなどの直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルコール)、ケトン類(アセトン)、環状エーテルである。特に、アルコール類(エタノール、イソプロパノール)及びアセトンが好ましい。
【0039】
貧溶媒としては、水、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、オクタンなどのアルカン類、シクロヘキサンなどのシクロアルカン類)、鎖状エーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなど)などが例示できる。好ましい貧溶媒は水又はヘキサンである。
【0040】
良溶媒と貧溶媒との重量割合は、例えば、良溶媒100重量部に対して貧溶媒1~200重量部(例えば、1.5~100重量部)、好ましくは2~50重量部(例えば、2~40重量部)、さらに好ましくは2.5~20重量部(例えば、3~10重量部)程度であってもよい。
【0041】
加熱(例えば、40℃~還流温度に加熱)して15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンを溶解させると、飽和状態の溶液を容易に調製できる。溶液中の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの濃度は、例えば、0.1~20重量%、好ましくは1~15重量%、さらに好ましくは3~10重量%程度であってもよい。
【0042】
特に、他の結晶多形の混入を抑制して、高純度の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを調製するためには、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンを、直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルコール(エタノール、イソプロパノールなど、特にエタノール)と水との混合溶媒(晶析溶媒)に加熱して溶解し、得られた溶液(飽和状態の溶液)を冷却し、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを析出させるのが好ましい。冷却は、急冷であってもよいが、徐冷することにより、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを析出させるのが好ましい。徐冷は、通常、加熱した溶液を室温で放置することにより行うことができ、必要であれば室温以下の温度に冷却してもよい。
【0043】
析出した結晶は、通常、ろ過し、必要により洗浄して回収し、乾燥することにより、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aを得ることができる。
【0044】
[用途および医薬組成物]
本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、単独で医薬として用いてもよく、担体(薬理学的又は生理学的に許容可能な担体など)と組み合わせて医薬組成物(又は製剤)として用いてもよい。
【0045】
本発明の医薬組成物において、担体は、医薬組成物(又は製剤)の形態(すなわち、剤形)、投与形態、用途などに応じて、選択できる。剤形は特に制限されず、固形製剤[粉剤、散剤、粒剤(顆粒剤、細粒剤など)、丸剤、ピル、錠剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤など)、ドライシロップ剤、坐剤、フィルム又はシート状製剤など]、半固形製剤(クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、グミ剤など)、液剤(注射剤、シロップ剤など)などであってもよい。
【0046】
なお、前記粉剤には、スプレー剤、エアゾール剤なども含まれる。カプセル剤は、軟カプセル、硬カプセルのいずれであってもよく、液体充填カプセルであってもよく、顆粒剤などの固形剤を充填したカプセルであってもよい。また、製剤は凍結乾燥製剤であってもよい。さらに、本発明の製剤は、薬剤の放出速度が制御された製剤(徐放性製剤、速放性製剤)であってもよい。また、製剤は経口投与製剤(顆粒剤、散剤、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠など)、カプセル剤、フィルム製剤など)であってもよく、非経口投与製剤(吸入剤、経皮投与製剤、経鼻投与製剤など)であってもよい。さらに、製剤は局所投与製剤(軟膏剤、貼付剤、パップ剤など)であってもよい。本発明の製剤は、固形製剤(例えば、経口投与固形製剤)である場合が多い。そのため、以下の説明では、固形製剤の成分を中心に説明する。
【0047】
前記担体は、例えば、日本薬局方(局方)の他、(1)医薬品添加物ハンドブック、丸善(株)、(1989)、(2)「医薬品添加物事典2016」(薬事日報社、2016年2月発行)、(3)薬剤学、改訂第5版、(株)南江堂(1997)、及び(4)医薬品添加物規格2003(薬事日報社、2003年8月)などに収載されている成分(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤など)の中から、投与経路及び製剤用途に応じて選択できる。例えば、固形製剤の担体としては、賦形剤、結合剤および崩壊剤から選択された少なくとも一種の担体を使用する場合が多い。また、医薬組成物は脂質を含んでいてもよい。
【0048】
前記賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖類又は糖アルコール類;トウモロコシデンプンなどのデンプン;結晶セルロース(微結晶セルロースも含む)などの多糖類;軽質無水ケイ酸などの酸化ケイ素又はケイ酸塩などが例示できる。結合剤としては、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプンなどの可溶性デンプン;アラビアゴム、デキストリン、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールなどの合成高分子;メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのセルロースエーテル類などが例示できる。崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが例示できる。これらの担体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0049】
なお、前記コーティング剤としては、例えば、糖類、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、オイドラギット(メタクリル酸・アクリル酸共重合物)などが用いられる。コーティング剤は、セルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体などの腸溶性成分であってもよく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどの塩基性成分を含むポリマー(オイドラギットなど)で構成された胃溶性成分であってもよい。また、製剤は、これらの腸溶性成分や胃溶性成分を剤皮に含むカプセル剤であってもよい。
【0050】
製剤においては、投与経路や剤形などに応じて、公知の添加剤を適宜使用することができる。このような添加剤としては、例えば、滑沢剤、崩壊補助剤、抗酸化剤又は酸化防止剤、安定剤、防腐剤又は保存剤、殺菌剤又は抗菌剤、帯電防止剤、矯味剤又はマスキング剤、着色剤、矯臭剤又は香料、清涼化剤、消泡剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
なお、本発明の医薬組成物(又は医薬製剤)は、必要に応じて、他の生理活性成分又は薬理活性成分を含んでいてもよい。
【0052】
本発明の医薬組成物は、有効成分の他、担体成分、必要により添加剤などを用いて、慣用の製剤化方法、例えば、第十六改正日本薬局方記載の製造法又はこの製造方法に準じた方法により調製できる。
【0053】
本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、保存安定性だけでなく、粉砕、圧潰などの圧縮又は摩擦に対する安定性が高い。そのため、摩擦が作用する方法、例えば、粉砕及び打錠により医薬製剤(例えば、錠剤)を調製するのに適している。さらに、粉体流動性にも優れており、粉末の形態で含有され、かつ均一な含量の製剤(例えば、錠剤の形態の製剤)を調製するのに適している。
【0054】
本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、毒性も低く、薬物動態において、短時間内に急激に吸収されることがなく、安全性も優れている。すなわち、結晶多形Aは、最高血漿濃度(Cmax)が小さく、薬物の最高血漿濃度(Cmax)に到達する時間(Tmax)が長く、安全性の高い薬物動態を示す。そのため、ヒト及び非ヒト動物、通常、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サルなど)に対して、安全に投与できる。投与量は、投与対象の種、年齢、体重、及び状態(一般的状態、病状、合併症の有無など)、投与時間、剤形、投与方法などに応じて、選択できる。例えば、ヒトに対する投与量(1日用量)は、例えば、0.01~50mg/日、好ましくは0.05~10mg/日(例えば、0.5~5mg/日)程度である。イヌに対する投与量は、例えば、1日当たり、0.03~3mg/kg、特に0.1~1mg/kg程度である。
【0055】
投与方法は、経口投与であってもよく、局所投与又は非経口投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与、直腸投与、膣投与など)であってもよい。
【0056】
投与回数は、特に制限されず、例えば、1日1回であってもよく、必要に応じて1日複数回(例えば、2~3回)であってもよい。
【実施例
【0057】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0058】
実施例1
特許文献1の実施例3(f)と同様にして15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン(17α-アセトキシ-6-クロロ-15β-ヒドロキシ-2-オキサプレグナ-4,6-ジエン-3,20-ジオン)を調製した。得られた15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン1gにエタノール/水(25:1)混合溶媒20mLを加え、混合液を還流して15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンを溶解した後、室温で1晩徐冷した。析出した結晶をろ過し、少量の前記混合溶媒で洗浄した。室温で通風乾燥して結晶多形A0.65gを得た。
【0059】
得られた結晶多形Aの粉末X線回折(PXRD)スペクトルを図1に示す。
【0060】
得られた結晶を顕微鏡で観察したところ、プリズム晶であった。得られた結晶の顕微鏡写真を図2に示す。さらに、キャピラリー法により昇温スピード2℃/分で測定した融点は281~282℃であった。
【0061】
比較例1
非特許文献1に記載の方法に基づき、15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン(結晶多形B)を得た。
【0062】
得られた結晶多形Bの粉末X線回折(PXRD)スペクトルを図3に示す。
【0063】
得られた結晶を顕微鏡で観察したところ、明らかな形状は示さなかった。得られた結晶の顕微鏡写真を図4に示す。キャピラリー法で測定した融点は285~286℃であった。
【0064】
実験例1(熱安定性試験)
実施例1で得られた結晶多形Aと比較例1で得られた結晶多形Bとを、それぞれ、温度100℃で28日間保存(保存条件、恒温槽 空気中)し、所定時間毎にサンプリングしてHPLCで15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの純度を測定した。結果を図5に示す。
【0065】
図5から明らかなように、結晶多形Aは薬物含量の低下が僅かであり、結晶多形Bに比べて熱安定性(及び経時安定性)が極めて高い。なお、保存後7日目に結晶多形A及びBは淡褐色に変化していたが、結晶多形Aは淡褐色を維持していたものの、結晶多形Bは時間の経過とともに褐色化した。
【0066】
実験例2(摩擦又は粉砕安定性)
自動乳鉢粉砕器(乳棒重量124g、50回転/分)に試料(結晶多形A又は結晶多形B)50mgを入れ、1時間に亘り粉砕し、サンプリングした。PXRD分析を行い、結晶化度の変化を確認したところ、1時間後の結晶化度は、結晶多形A46.8%、結晶多形B22.2%であり、結晶多形Aが粉砕に対して安定であった。なお、PXRDスペクトルでの特徴的な回析ピーク(結晶多形Aでは2θ=17.1°での回析ピーク、結晶多形Bでは2θ=16.2°での回析ピーク)の強度比(ピーク高さ)に基づいて結晶化度を測定し、結晶化度の変化率を算出した。
【0067】
実験例3(安息角)
ロート下端から堆積面(直径1.5cmの円柱の上面)までの高さを4.5cmに固定し、ロートを通して円柱面の中心部に過剰の粉末を落下させた。堆積した粉体の傾斜角(安息角)を測定した。この操作を3回繰り返し、安息角の平均値を算出した。
【0068】
結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、表1において、流動性の程度は、安息角と流動性との関係について記載した局方参考情報(G2 物性関連 粉体の流動性)に基づく評価である。
【0071】
表1から明らかなように、実施例1で得られた結晶多形Aは、比較例1で得られた結晶多形Bに比べて安息角が小さく、粉体流動性が高い。さらに、結晶多形Bは安息角のバラツキが大きく、流動性が基準「やや良好」の「39」から基準「やや不良」の「51」まで、不安定な流動性を示すのに対して、結晶多形Aは基準「良好」の「33」から基準「やや良好」の「38」まで、安定した流動性を示す。
【0072】
実験例4(安定性(懸濁撹拌))
(1)アセトン/ヘプタン混合溶媒(1:1)、(2)アセトン/水混合溶媒(1:1)、(3)エタノール/水混合溶媒(1:1)に結晶多形Aを加えて撹拌したところ、結晶多形Aは、1日後、混合溶媒(1)では98%、混合溶媒(2)では99%、混合溶媒(3)では100%の割合で結晶多形Aの結晶構造を保持し、3日後、混合溶媒(1)では95%、混合溶媒(2)では98%、混合溶媒(3)では99%の割合で結晶多形Aの結晶構造を保持し、7日後でも混合溶媒(1)では95%、混合溶媒(2)では98%、混合溶媒(3)では99%の割合で結晶多形Aの結晶構造を保持していた。
【0073】
なお、結晶の製造においては、通常、撹拌して結晶を熟成させる。そのため、このような結晶化において、結晶形が安定であることは非常に重要である。すなわち、結晶の製造過程で結晶形が変化することは、製造ロット間で、溶解度の変化や生体内への吸収に差が生じることになり、期待される薬効を発揮できないなどの弊害を生じる。このような状況において、製剤の製造において通常使用される前記溶媒に対して、結晶多形Bは不安定であるが、結晶多形Aは非常に安定である。そのため、結晶多形Aは、結晶化から製剤の調製に至るまでの過程で安定であり、安定した製剤を調製できる。
【0074】
実験例5(イヌでの薬物動態)
実施例1で得られた結晶多形Aおよび比較例1で得られた結晶多形Bを、0.3mg/kgの用量で乳糖水和物(DFE Pharma社製)100mgと混合し、ゼラチンカプセル((株)松屋製MM、サイズ:2号)に充填してカプセル剤を調製した。第1群(5頭)の雌性イヌに結晶多形Aを含むカプセル剤を経口投与し、第2群(5頭)の雌性イヌに結晶多形Bを含むカプセル剤を経口投与し、それぞれ、経口投与後0.5、1、2、3、4、5、7、10、24、48及び72時間に血液を採取し、遠心分離により血漿を得た。LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析)法により、血漿中の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロン濃度を測定し、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)および最高血漿濃度(Cmax)を算出した。
【0075】
結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2から明らかなように、実施例1で得られた結晶多形Aは、比較例1で得られた結晶多形Bと比較して、最高血漿濃度(Cmax)が小さく、しかも最高血漿中濃度到達時間(Tmax)が長いことから、薬物の急激な吸収を示すことはなく、安全性の高い結晶である。
【0078】
なお、実施例1で得られた結晶多形Aの投与群と、比較例1で得られた結晶多形Bの投与群とを、Cmaxについて有意差検定(t検定)したところ、統計的に有意差があった(p<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の15β-ヒドロキシ-酢酸オサテロンの結晶多形Aは、抗アンドロゲン活性に起因する種々の疾患、例えば、前立腺肥大症、前立腺癌、脱毛症、多毛症、挫創、脂漏などの予防又は治療に利用できる。また、骨粗鬆症、子宮筋腫、子宮内膜症などの予防又は治療にも有効である。
図1
図2
図3
図4
図5