IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニコン・エシロールの特許一覧

特許7210285ハードコート層形成用組成物、眼鏡レンズ
<>
  • 特許-ハードコート層形成用組成物、眼鏡レンズ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】ハードコート層形成用組成物、眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20230116BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20230116BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
G02B1/14
G02C7/00
G02C7/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018559593
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2017046979
(87)【国際公開番号】W WO2018124204
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2016256389
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】竹下 克義
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】杉山 輝和
【審判官】石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-285248(JP,A)
【文献】特表2010-515778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B1/14
G02C7/02
B32B27/20
B32B27/38
C09D7/40
C09D163/00
C09D183/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にハードコート層を形成するためのハードコート層形成用組成物であって、
エポキシ基を複数有する化合物と、
オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物と、
光カチオン重合開始剤と、
熱カチオン重合開始剤と、を含み、
前記エポキシ基を複数有する化合物および前記オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の合計質量に対する、前記オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量が、70質量%超である、ハードコート層形成用組成物。
【請求項2】
さらに、金属酸化物粒子を含む、請求項1に記載のハードコート層形成用組成物。
【請求項3】
さらに、加水分解性ケイ素化合物、その加水分解物、および、その加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載のハードコート層形成用組成物。
【請求項4】
ハードコート層構成成分に対する、前記エポキシ基を複数有する化合物および前記オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の合計質量が35~70質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のハードコート層形成用組成物。
【請求項5】
前記基材が、眼鏡レンズ基材である、請求項1~4のいずれか1項に記載のハードコート層形成用組成物。
【請求項6】
眼鏡レンズ基材と、
前記眼鏡レンズ基材上に配置される、請求項1~5のいずれか1項に記載のハードコート層形成用組成物を用いて形成されるハードコート層と、を含む、眼鏡レンズ。
【請求項7】
前記ハードコート層の膜厚が1.5μm以上である、請求項6に記載の眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層形成用組成物、および、眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック眼鏡レンズ基材に耐擦傷性を付与するために、プラスチック眼鏡レンズ基材上にはハードコート層が配置される場合がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2010-515778号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、基材上にハードコート層を形成するためのハードコート層形成用組成物であって、エポキシ基を複数有する化合物と、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物と、光カチオン重合開始剤と、熱カチオン重合開始剤と、を含み、エポキシ基を複数有する化合物およびオキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の合計質量に対する、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量が、70質量%超である、ハードコート層形成用組成物に関する。
また、本開示は、眼鏡レンズ基材と、眼鏡レンズ基材上に配置される、上記ハードコート層形成用組成物を用いて形成されるハードコート層と、を含む、眼鏡レンズにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】眼鏡レンズの一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
特許文献1に記載のハードコート層形成用組成物を用いて眼鏡レンズ基材上にハードコート層を配置して眼鏡レンズを製造した場合、形成されたハードコート層の応力により、眼鏡レンズ基材表面の面形状がハードコート層形成前後で異なるという問題があった。このような面形状の変化が大きいと、予め設定した眼鏡レンズ基材の度数が、ハードコート層を形成することにより変化してしまう。特に、ハードコート層の厚みが厚い場合は、上記問題が顕著であった。
そこで、耐擦傷性に優れるとともに、配置される基材表面の面形状変化が小さいハードコート層を形成することが可能なハードコート層形成用組成物が望まれる。
以下、本実施形態のハードコート層形成用組成物について詳述する。
なお、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0007】
ハードコート層形成用組成物においては、エポキシ基を複数有する化合物およびオキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物が所定の比率で含有され、かつ、光カチオン重合開始剤および熱カチオン重合開始剤が併用される。後段で詳述するように、このような組成のハードコート層形成用組成物に対して、加熱処理および光照射処理の2段階の硬化処理を施すことにより、所望の特性を示すハードコート層が形成される。なお、ハードコート層が配置される基材表面の面形状変化が小さいとは、言い換えれば、ハードコート層の応力が小さいともいえる。
また、上記ハードコート層形成用組成物より得られるハードコート層は、透明性に優れ、眼鏡レンズ基材に対する密着性にも優れる。また、ハードコート層上に反射防止膜が配置された場合でも、優れた耐擦傷性が維持される。
【0008】
ハードコート層形成用組成物は、基材上にハードコート層を形成するための組成物である。
以下、ハードコート層形成用組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0009】
<エポキシ基を複数有する化合物>
ハードコート層形成用組成物は、エポキシ基を複数有する化合物(以後、単に「多官能エポキシ化合物」とも称する)を含む。多官能エポキシ化合物中のエポキシ基はカチオンによって開環しやすいため、後述する硬化処理の際に重合初期の反応促進に寄与する。
エポキシ基とは、以下の式(1)で表される基である。R1は、水素原子またはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、および、プロピル基など)を表す。*は、結合位置を表す。
【0010】
【化1】
【0011】
多官能エポキシ化合物には、エポキシ基が複数(2個以上)含まれる。エポキシ基の数は特に制限されないが、通常、2~6個とすることができ、また2~3個とすることができる。
【0012】
多官能エポキシ化合物の種類は特に制限されず、公知の多官能エポキシ化合物が挙げられる。多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、および、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物などが挙げられる。
【0013】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0014】
【化2】
【0015】
1は、酸素原子を含んでいてもよいn価の炭化水素基を表す。上記炭化水素基の炭素数は特に制限されないが、多官能エポキシ化合物の取り扱い性の点から、3~30とすることができ、また3~10とすることができる。
炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状、および、これらを組み合わせた構造のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、および、これらを組み合わせた基のいずれであってもよい。
nは2以上を表し、多官能エポキシ化合物の取り扱い性の点から、2~6とすることができ、また2~3とすることができる。例えば、nが2の場合、Lは、酸素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基(例えば、酸素原子を含んでいてもよいアルキレン基)を表す。
1は、水素原子またはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基など)を表す。
【0016】
上記式(2)で表される化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、および、アラビトールからなる群から選択される少なくとも1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。
【0017】
<オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物>
ハードコート層形成用組成物は、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物を含む。
オキセタニル基とは、以下の式(3)で表される基である。R2は、水素原子またはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基など)を表す。*は、結合位置を表す。
【0018】
【化3】
【0019】
なお、一般的に、シルセスキオキサン化合物とは、アルコキシシラン、クロロシラン、および、シラノールなどの3官能性シラン化合物を加水分解することで得られる式(4)で表される基本骨格を有するシラン化合物である。シルセスキオキサン化合物の構造としては、ランダム構造と呼ばれる不規則の形態のほかに、ラダー構造、かご型(完全縮合ケージ型)構造、および、不完全かご型構造(かご型構造の部分開裂構造体であって、かご型構造からケイ素原子のうちの一部が欠けた構造やかご型構造の一部のケイ素-酸素結合が切断された構造のもの)などが知られている。
以下式(4)中、R3は有機基を表す。
式(4) R3-SiO3/2
【0020】
オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の構造は特に制限されないが、上記ランダム構造、ラダー構造、かご型構造、および、不完全かご型構造のいずれであってもよく、また、複数種の構造の混合物であってもよい。
【0021】
シルセスキオキサン化合物に含まれるオキセタニル基当量は特に制限されないが、ハードコート層の硬度がより優れる点で、50~500g/eq.とすることができ、150~300g/eq.とすることができる。
【0022】
オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物は、公知の方法にて合成してもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、東亞合成製:OX-SQ TX-100、OX-SQ SI-20、OX-SQ HDXなどが挙げられる。
【0023】
<光カチオン重合開始剤>
ハードコート層形成用組成物は、光カチオン重合開始剤を含む。光カチオン重合開始剤は、可視光線または紫外線などの光が照射されるとカチオン(例えば、酸)を発生する化合物である。
光カチオン重合開始剤の種類は特に制限されず、公知の光カチオン重合開始剤が挙げられる。光カチオン重合開始剤としては、例えば、ヨードニウム塩(例えば、芳香族ヨードニウム塩)およびスルホニウム塩(例えば、芳香族スルホニウム塩)のようなオニウム塩、s-トリアジン誘導体などのハロゲン含有化合物、スルホン化合物、スルホン酸化合物、スルホンイミド化合物、並びに、ジアゾメタン化合物などが挙げられる。なかでも、硬化性の点で、光カチオン重合開始剤を、芳香族スルホニウム塩とすることができる。
【0024】
芳香族スルホニウム塩は、トリアリールスルホニウムカチオンおよびアニオン(陰イオン)を有する化合物である。
トリアリールスルホニウムカチオンとしては、例えば、アルキル基、チオエーテル基、または、エーテル基などを置換基として有するトリフェニルスルホニウムカチオンが挙げられる。トリアリールスルホニウムカチオンの具体例としては、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムカチオン、トリフェニルスルホニウムカチオン、および、アルキルトリフェニルスルホニウムカチオンなどが挙げられる。
アニオンとしては、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6 -)、ヘキサフルオロアンチモネートアニオン(SbF6 -)、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネートアニオン(SbF5(OH)-)、ヘキサフルオロアーセネートアニオン(AsF6 -)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4 -)、および、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオン(B(C654 -)などが挙げられる。
【0025】
芳香族スルホニウム塩としては、ADEKA社のアデカオプトマーSP-150、SP-170、SP-171などが市販品として挙げられる。
【0026】
<熱カチオン重合開始剤(熱潜在性カチオン重合開始剤)>
ハードコート層形成用組成物は、熱カチオン重合開始剤を含む。熱カチオン重合開始剤は、加熱して臨界温度に達すると開裂してカチオン(例えば、酸)を発生する化合物である。
熱カチオン重合開始剤の種類は特に制限されず、公知の熱カチオン重合開始剤が挙げられる。熱カチオン重合開始剤としては、例えば、スルホニウム塩、アニリニウム塩、ピリジニウム塩、トルイジニウム塩、ホスホニウム塩、および、ヨードニウム塩などのオニウム塩が挙げられる。なお、これらオニウム塩には、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6 -)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4 -)、ヘキサフルオロアンチモネートアニオン(SbF6 -)、および、ヘキサフルオロアーセネートアニオン(AsF6 -)などのアニオンが含まれる。
【0027】
熱カチオン重合開始剤としては、ADEKA社のアデカオプトロンCP-66などが市販品として挙げられる。
【0028】
<その他成分>
ハードコート層形成用組成物は、上述した成分(エポキシ基を複数有する化合物、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物、光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤)以外の成分を含んでいてもよい。
【0029】
(金属酸化物粒子)
ハードコート層形成用組成物は、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。
金属酸化物粒子の種類は特に制限されず、公知の金属酸化物粒子が挙げられる。金属酸化物粒子としては、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、および、Tiから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物の粒子が挙げられる。なかでも、取り扱い性の点で、金属酸化物粒子を、Siを含む酸化物の粒子(酸化ケイ素粒子)、Snを含む酸化物の粒子(酸化スズ粒子)、Zrを含む酸化物の粒子(酸化ジルコニウム粒子)またはTiを含む酸化物の粒子(酸化チタン粒子)とすることができる。
なお、金属酸化物粒子には、上記に例示した1種の金属(金属原子)のみが含まれていてもよいし、2種以上の金属(金属原子)が含まれていてもよい。
【0030】
金属酸化物粒子の平均粒径は特に制限されないが、例えば、1~200nmとすることができ、また5~30nmとすることができる。上記範囲内であれば、ハードコート層形成用組成物中での金属酸化物粒子の分散安定性がより優れるとともに、硬化物の白色化をより抑制できる。
なお、上記平均粒径は、透過型顕微鏡にて100個以上の金属酸化物粒子の直径を測定して、それらを算術平均して求める。なお、金属酸化物粒子が真円状でない場合、長径を直径とする。
【0031】
金属酸化物粒子の表面には、必要に応じて、各種官能基(例えば、エポキシ基)が導入されていてもよい。
【0032】
(加水分解性ケイ素化合物、その加水分解物、および、その加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種(以後、単に「加水分解性ケイ素化合物類」とも称する))
ハードコート層形成用組成物は、加水分解性ケイ素化合物、その加水分解物、および、その加水分解縮合物からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
加水分解性ケイ素化合物とは、ケイ素原子に加水分解性基が結合した化合物を意図し、後述するシランカップリング剤も加水分解性ケイ素化合物に含まれる。
【0033】
加水分解性ケイ素化合物の一態様としては、式(5)で表される化合物が挙げられる。
式(5) Si(R44
4は、加水分解性基を表す。加水分解性基は、Si(ケイ素原子)に直結し、加水分解反応および/または縮合反応を進行し得る基である。加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基、および、イソシアネート基などが挙げられる。
【0034】
また、加水分解性ケイ素化合物の他の態様としては、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤とは、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、および、イソシアネート基などの官能基(好ましくは、反応性基)を有する加水分解性ケイ素化合物である。
シランカップリング剤の種類は特に制限されず、公知のシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、(メタ)アクリル系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、および、ビニル系シランカップリング剤などが挙げられる。
なお、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意図する。
シランカップリング剤としては、式(6)で表される化合物が好ましい。
式(6) X-Si(R43
Xは、反応性基を有する基を表す。反応性基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、および、メルカプト基が挙げられる。より具体的には、Xとしては、R5-L2-で表される基とすることができる。R5は反応性基を表し、L2は二価の連結基(好ましくは、ヘテロ原子(例:酸素原子)を含んでいてもよいアルキレン基)を表す。
4は、加水分解性基を表す。加水分解性基の定義は、上述の通りである。
【0035】
加水分解性ケイ素化合物の加水分解物とは、加水分解性ケイ素化合物中の加水分解性基が加水分解して得られる化合物を意図する。なお、上記加水分解物は、加水分解性基のすべてが加水分解されているもの(完全加水分解物)であっても、加水分解性基の一部が加水分解されているもの(部分加水分解物)であってもよい。つまり、上記加水分解物は、完全加水分解物、部分加水分解物、または、これらの混合物であってもよい。
また、加水分解性ケイ素化合物の加水分解縮合物とは、加水分解性ケイ素化合物中の加水分解性基が加水分解し、得られた加水分解物を縮合して得られる化合物を意図する。なお、上記加水分解縮合物としては、すべての加水分解性基が加水分解され、かつ、加水分解物がすべて縮合されているもの(完全加水分解縮合物)であっても、一部の加水分解性基が加水分解され、一部の加水分解物が縮合しているもの(部分加水分解縮合物)であってもよい。つまり、上記加水分解縮合物は、完全加水分解縮合物、部分加水分解縮合物、または、これらの混合物であってもよい。
【0036】
(溶媒)
ハードコート層形成用組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、水であっても、有機溶媒であってもよい。
有機溶媒の種類は特に制限されず、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、および、スルホキシド系溶媒などが挙げられる。
【0037】
ハードコート層形成用組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、老化防止剤、塗膜調整剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料、充填剤、内部離型剤などの種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
<ハードコート層形成用組成物>
ハードコート層形成用組成物は、上述した各種成分を含む。
ハードコート層形成用組成物の製造方法は特に制限されず、例えば、上述した成分を一括で混合してもよいし、分割して段階的に各成分を混合してもよい。
また、上述した加水分解性ケイ素化合物を用いる場合、例えば、加水分解性ケイ素化合物の加水分解反応および縮合反応を進行させて、加水分解物および/または加水分解縮合物を製造した後、加水分解物および/または加水分解縮合物と他の成分とを混合する方法が挙げられる。
【0039】
ハードコート層形成用組成物中における多官能エポキシ化合物の含有量は特に制限されないが、ハードコート層の耐擦傷性および外観特性がより優れ、かつ、硬化反応速度が速いという点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分(ハードコート層構成成分)に対して、1~15質量%とすることができ、また1~10質量%とすることができる。
なお、全固形分(ハードコート層構成成分)とは、硬化処理によりハードコート層を構成する成分であり、上述した、多官能エポキシ化合物、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物、光カチオン重合開始剤、および、熱カチオン重合開始剤などが該当し、溶媒は固形分に含まれない。また、成分が液状であっても、ハードコート層を構成する成分であれば、固形分として計算する。
ハードコート層形成用組成物中におけるオキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量は特に制限されないが、ハードコート層の耐擦傷性がより優れ、かつ、ハードコート層の応力が少ないという点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、35~70質量%とすることができ、また35~60質量%とすることができる。
ハードコート層形成用組成物中における光カチオン重合開始剤の含有量は特に制限されないが、ハードコート層の耐擦傷性がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、0.1~3.0質量%とすることができ、また0.2~1.5質量%とすることができる。
ハードコート層形成用組成物中における熱カチオン重合開始剤の含有量は特に制限されないが、ハードコート層と基材との密着性がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、0.1~3.0質量%とすることができ、また0.2~1.5質量%とすることができる。
ハードコート層形成用組成物に金属酸化物粒子が含まれる場合、金属酸化物粒子の含有量は特に制限されないが、ハードコート層の耐擦傷性がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、25~60質量%とすることができ、また30~50質量%とすることができ、さらに35~50質量%とすることができる。
ハードコート層形成用組成物に加水分解性ケイ素化合物類が含まれる場合、加水分解性ケイ素化合物類の含有量は特に制限されないが、ハードコート層と基材との密着性がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、10質量%未満とすることができ、また7質量%未満とすることができる。
なお、加水分解性ケイ素化合物類の含有量を算出する際には、その化合物の加水分解縮合物(完全加水分解縮合物)の質量を基準に算出する。例えば、3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシランなどの加水分解性ケイ素化合物を用いる場合は、この加水分解性ケイ素化合物の加水分解反応および縮合反応が進行して得られる完全加水分解縮合物の質量を、加水分解性ケイ素化合物の質量として用いる。そのため、全固形分の質量を算出する際には、上記加水分解縮合物の質量を用いる。
【0040】
多官能エポキシ化合物およびオキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の合計質量に対する、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量は、70質量%超であり、ハードコート層の耐擦傷性および外観特性がより優れる点で、80質量%以上とすることができ、また85質量%以上とすることができる。上限は特に制限されないが、98質量%以下とすることができる。上記含有量が70質量%以下の場合、ハードコート層の硬さが低下して耐擦傷性が劣り、かつ、外観特性も劣る。
ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対する、多官能エポキシ化合物およびオキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物の合計質量は特に制限されないが、ハードコート層の耐擦傷性が優れる点で、35~70質量%とすることができる。
【0041】
上記ハードコート層形成用組成物は、基材上にハードコート層を形成するための組成物である。
基材を構成する材料としては、例えば、プラスチック(樹脂)およびガラスなどが挙げられる。
なかでも、基材としては、プラスチック基材が好ましい。
プラスチック基材としては、例えば、プラスチック眼鏡レンズ基材、プラスチックフィルムなどが挙げられる。
後段では、一例として、プラスチック眼鏡レンズ基材上に上記ハードコート層形成用組成物を適用した態様について詳述する。
【0042】
<眼鏡レンズ>
図1は、眼鏡レンズの一実施形態の断面図である。
図1に示す眼鏡レンズ10は、プラスチック眼鏡レンズ基材12と、プラスチック眼鏡レンズ基材12の両面上に配置されたハードコート層14とを含む。ハードコート層14は、上述したハードコート層形成用組成物を用いて作製(形成)された層である。
なお、図1においては、ハードコート層14はプラスチック眼鏡レンズ基材12に直接接触するように配置されているが、この形態には限定されず、プラスチック眼鏡レンズ基材12とハードコート層14との間に他の層(例えば、プライマー層)が配置されていてもよい。つまり、ハードコート層14は、プラスチック眼鏡レンズ基材12上に直接配置されていてもよいし、他の層を介して間接的にプラスチック眼鏡レンズ基材12上に配置されていてもよい。
また、図1においては、プラスチック眼鏡レンズ基材12の両面にハードコート層14が配置されているが、プラスチック眼鏡レンズ基材12の片面のみにハードコート層14が配置されていてもよい。
以下、眼鏡レンズ10に含まれる各部材について詳述する。
【0043】
(プラスチック眼鏡レンズ基材)
プラスチック眼鏡レンズ基材の種類は特に制限されないが、例えば、凸面および凹面共に光学的に仕上げ、所望の度数にあわせて成形されるフィニッシュレンズが挙げられる。
プラスチック眼鏡レンズ基材を構成するプラスチック(いわゆる、樹脂)の種類は特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエ-テルサルホン系樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1系樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系樹脂(CR-39)、および、ポリ塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。
【0044】
プラスチック眼鏡レンズ基材の厚さは特に制限されないが、取り扱い性の点から、1~30mm程度の場合が多い。
プラスチック眼鏡レンズ基材の屈折率は特に制限されない。
屈折率が1.70以上のプラスチック眼鏡レンズ基材としては、ガラス転移温度が低いプラスチック眼鏡レンズ基材が多い。それに対して、上記ハードコート層形成用組成物を用いれば低温硬化処理と光照射処理との組み合わせにより所望のハードコート層を形成可能である点から、このような屈折率が高いプラスチック眼鏡レンズ基材(ガラス転移温度が低いプラスチック眼鏡レンズ基材)上にもハードコート層を容易に製造できる。上記屈折率は、波長546.07nmでの屈折率を意図する。
また、プラスチック眼鏡レンズ基材は透光性を有していれば透明でなくてもよく、着色されていてもよい。
【0045】
(ハードコート層)
ハードコート層は、プラスチック眼鏡レンズ基材上に配置される層であり、プラスチック眼鏡レンズ基材に耐傷性を付与する層である。
ハードコート層は、上述したハードコート層形成用組成物より形成される層である。
【0046】
ハードコート層の形成方法としては、上述したハードコート層形成用組成物をプラスチック眼鏡レンズ基材上に塗布して塗膜を形成し、塗膜に対して加熱処理を施して、その後、光照射処理を実施する方法が挙げられる。
上述したように、まず、塗膜に対して加熱処理を施して、塗膜内の熱カチオン重合開始剤を開裂させて、多官能エポキシ化合物とオキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物とを部分的に反応させる。この際、多官能エポキシ化合物が重合初期の反応を促進する機能を有する。また、光照射処理に先だって加熱処理を実施することにより、塗膜の硬化収縮がより抑制される。
次に、加熱処理を施した塗膜に対して光照射処理を施して光カチオン重合開始剤を開裂させ、さらに多官能エポキシ化合物とオキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物とを反応させる。光照射処理の際に、主に、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物間での重合が進行し、3次元状の架橋構造が形成される。
このように、加熱処理および光照射処理の2段階での硬化処理を実施することにより、所望の特性を示すハードコート層が得られる。
【0047】
ハードコート層形成用組成物をプラスチック眼鏡レンズ基材上に塗布する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、ディッピングコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェットコーティング法、および、フローコーティング法など)が挙げられる。例えば、ディッピングコーティング法を用いる場合、ハードコート層形成用組成物にプラスチック眼鏡レンズ基材を浸漬し、その後、プラスチック眼鏡レンズ基材を引き上げて乾燥することにより、プラスチック眼鏡レンズ基材上に所定の膜厚の塗膜を形成できる。
プラスチック眼鏡レンズ基材上に形成される塗膜の膜厚は特に制限されず、所定のハードコート層の膜厚となるような膜厚が適宜選択される。
【0048】
加熱処理の条件は特に制限されず、使用される熱カチオン重合開始剤の種類によって最適な条件が選択される。
加熱温度は、30~100℃とすることができ、50~90℃とすることができる、加熱時間は、5~360分とすることができ、10~40分とすることができる。
【0049】
光照射処理の条件は特に制限されず、使用される光カチオン重合開始剤の種類によって適した条件が選択される。
光照射の際の光の種類は特に制限されないが、例えば、紫外線および可視光線が挙げられる。光源としては、高圧水銀灯などが挙げられる。
光照射の際の積算光量は特に制限されないが、生産性および塗膜の硬化性の点で、100~3000mJ/cm2とすることができ、100~1500mJ/cm2とすることができる。
【0050】
ハードコート層の膜厚は特に制限されないが、例えば、0.5μm以上とすることができ、また1.5μm以上とすることができる。特に、上記ハードコート層は、膜厚が10μm以上と比較的厚い場合でも、ハードコート層が配置される基材表面の面形状変化が小さい。なお、膜厚の上限は、例えば、20μm以下とすることができる。
上記膜厚は平均膜厚であり、その測定方法としては、ハードコート層の任意の5点の膜厚を測定し、それらを算術平均して求める。
【0051】
なお、プラスチック眼鏡レンズは図1の形態に限定されず、ハードコート層上にさらに反射防止膜が配置されていてもよい。
反射防止膜は、入射した光の反射を防止する機能を有する層である。具体的には、400~700nmの可視領域全域にわたって、低い反射特性(広帯域低反射特性)を有することができる。
【0052】
反射防止膜の構造は特に制限されず、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
多層構造の場合、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構造が好ましい。なお、高屈折率層を構成する材料としては、チタン、ジルコン、アルミニウム、タンタル、または、ランタンの酸化物が挙げられる。また、低屈折率層を構成する材料としては、シリカの酸化物が挙げられる。
反射防止膜の製造方法は特に制限されないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、および、CVD法などの乾式法が挙げられる。
【実施例
【0053】
以下、ハードコート層形成用組成物に関して実施例および比較例によりさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0054】
<実施例1>
褐色瓶に、ブチルセロソルブ(1.3kg)、加水分解性ケイ素化合物として3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)(270g)、および、塗膜調整剤としてポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製:8032 ADDITIVE)(6g)を加えて、さらに、褐色瓶に0.1N塩酸水(74g)を加えて、得られた混合液を室温で12時間攪拌した。
得られた混合液に、さらに、メタノール分散コロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製:Oscal-1132)(6.3kg)、多官能エポキシ化合物として1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製:デナコールEX-212)(80g)、および、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン(東亞合成(株)製:OX-SQ TX-100)(1.85kg)を加えて、得られた混合液を6時間攪拌した。その後、得られた混合液に、さらにヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株):Tinuvin477)(80g)、熱カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトロンCP-66)(25g)、および、光カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトマーSP-171)(30g)を加えて、得られた混合液を攪拌し、ハードコート層形成用組成物1を得た。
【0055】
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
スピンコート法により、このプラスチック眼鏡レンズ基材の一方の表面にハードコート層形成用組成物1を塗布した。具体的には、プラスチック眼鏡レンズ基材を300rpmで10秒間回転させ、その回転中にプラスチック眼鏡レンズ基材中心部から外周部にかけて上記ハードコート層形成用組成物1を2ml垂らした後、さらに、ハードコート層形成用組成物1が塗布されたプラスチック眼鏡レンズ基材を1000rpmで5秒間回転させ、塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られた塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を80℃で20分間熱加熱した後、光源として高圧水銀灯(80W/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1200mJ/cm2)し、ハードコート層を形成した。なお、得られたハードコート層の膜厚は、10μmであった。
なお、プラスチック眼鏡レンズ基材の他方の表面に対しても上記と同様の処理を施し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置したハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0056】
得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70℃に加熱し、圧力が1.0×10-3Paになるまで排気した。次に、加速電圧500Vおよび加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを一方のハードコート層に対して60秒間施した後、クリーニングしたハードコート層上に、順次、第1層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.090λ、第2層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.038λ、第3層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.393λ、第4層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.104λ、第5層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.069λ、第6層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.289λ、および、第7層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.263λで積層し、反射防止膜を形成した。なお、λは設計の中心波長で500nmとした。
また、他方のハードコート層に対しても上記と同様の処理を施し、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材(眼鏡レンズに該当)を得た。
【0057】
<実施例2>
褐色瓶に、ブチルセロソルブ(10.0kg)、加水分解性ケイ素化合物として3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)(270g)、および、塗膜調整剤としてポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製:L-7001)(6g)を加えて、さらに、褐色瓶に0.1N塩酸水(74g)を加えて、得られた混合液を室温で12時間攪拌した。
得られた混合液に、さらにメタノール分散コロイダルチタン(日揮触媒化成(株)製:オプトレイク1130Z・S-25・A8)(6.3kg)、多官能エポキシ化合物として1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製:デナコールEX-212)(80g)、および、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン(東亞合成(株)製:OX-SQ SI-20)(1.85kg)を加えて、得られた混合液を6時間攪拌した。その後、得られた混合液に、さらに老化防止剤(川口化学工業(株)製:アンテージBHT)(20g)、熱カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトロンCP-66)(30g)、および、光カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトマーSP-150)(20g)を加えて、得られた混合液を攪拌し、ハードコート層形成用組成物2を得た。
【0058】
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.67のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
ディッピング方法により、このプラスチック眼鏡レンズ基材表面にハードコート層形成用組成物2を塗布した。具体的には、プラスチック眼鏡レンズ基材をハードコート層形成用組成物2に浸漬し、プラスチック眼鏡レンズ基材を200mm/minで引き上げ、塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られた塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を70℃で20分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(80W/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1000mJ/cm2)し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置したハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。なお、得られたハードコート層の膜厚は、2.5μmであった。
【0059】
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0060】
<実施例3>
褐色瓶に、ブチルセロソルブ(1.5kg)、加水分解性ケイ素化合物として3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)(270g)、および、塗膜調整剤としてポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製:L-7001)(4g)を加えて、さらに、褐色瓶に0.1N塩酸水(74g)を加えて、得られた混合液を室温で12時間攪拌した。
得られた混合液に、さらにメタノール分散コロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製:Oscal-1132)(6.3kg)、多官能エポキシ化合物としてジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製:デナコールEX-421)(670g)、および、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン(東亞合成(株)製:OX-SQ TX-100)(1.87kg)を加えて、得られた混合液を6時間攪拌した。その後、得られた混合液に、さらにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株)製:Tinuvin1130)(70g)、熱カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトロンCP-66)(15g)、および、光カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製:サンエイドSI-100L)(30g)を加えて、得られた混合液を攪拌し、ハードコート層形成用組成物3を得た。
【0061】
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
ディッピング方法により、このプラスチック眼鏡レンズ基材表面にハードコート層形成用組成物3を塗布した。具体的には、プラスチック眼鏡レンズ基材をハードコート層形成用組成物3に浸漬し、プラスチック眼鏡レンズ基材を400mm/minで引き上げ、塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られた塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を80℃で20分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(80W/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1500mJ/cm2)し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置したハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。なお、得られたハードコート層の膜厚は、8.5μmであった。
【0062】
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0063】
<実施例4>
褐色瓶に、ブチルセロソルブ(1.5kg)、加水分解性ケイ素化合物として3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)(270g)、および、塗膜調整剤としてポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製:L-7001)(3g)を加えて、さらに、褐色瓶に0.1N塩酸水(74g)を加えて、得られた混合液を室温で12時間攪拌した。
得られた混合液に、さらにメタノール分散コロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製:Oscal-1132)(3.5kg)、多官能エポキシ化合物としてジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製:デナコールEX-313)(80g)、および、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン(東亞合成(株)製:OX-SQ TX-100)(1.85kg)を加えて、得られた混合液を6時間攪拌した。その後、得られた混合液に、さらにヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株)製:Tinuvin400)(60g)、熱カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトロンCP-66)(25g)、および、光カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトマーSP-150)(25g)を加えて、得られた混合液を攪拌し、ハードコート層形成用組成物4を得た。
【0064】
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
ディッピング方法により、このプラスチック眼鏡レンズ基材表面にハードコート層形成用組成物4を塗布した。具体的には、プラスチック眼鏡レンズ基材をハードコート層形成用組成物4に浸漬し、プラスチック眼鏡レンズ基材を400mm/minで引き上げ、塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られた塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を80℃で20分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(80W/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1500mJ/cm2)し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置したハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。なお、得られたハードコート層の膜厚は、9μmであった。
【0065】
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0066】
<実施例5>
褐色瓶に、ブチルセロソルブ(1.5kg)、加水分解性ケイ素化合物として3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)(600g)、および、塗膜調整剤としてポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製:8032 ADDITIVE)(10g)を加えて、さらに、褐色瓶に0.1N塩酸水(165g)を加えて、得られた混合液を室温で12時間攪拌した。
得られた混合液に、さらにメタノール分散コロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製:Oscal-1132)(6.3kg)、多官能エポキシ化合物として1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製:デナコールEX-212)(150g)、および、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン(東亞合成(株)製:OX-SQ TX-100)(1.85kg)を加えて、得られた混合液を6時間攪拌した。その後、得られた混合液に、さらに老化防止剤(川口化学工業(株)製:アンテージクリスタル)(200g)、熱カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトロンCP-66)(25g)、および、光カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトマーSP-150)(25g)を加えて、得られた混合液を攪拌し、ハードコート層形成用組成物5を得た。
【0067】
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
ディッピング方法により、このプラスチック眼鏡レンズ基材表面にハードコート層形成用組成物5を塗布した。具体的には、プラスチック眼鏡レンズ基材をハードコート層形成用組成物5に浸漬し、プラスチック眼鏡レンズ基材を400mm/minで引き上げ、塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られた塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を80℃で20分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(80W/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1500mJ/cm2)し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置したハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。なお、得られたハードコート層の膜厚は、8μmであった。
【0068】
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0069】
<実施例6>
褐色瓶に、ブチルセロソルブ(500g)、1-メトキシ-2-プロパノール(2kg)、加水分解性ケイ素化合物として3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)(270g)、および、塗膜調整剤としてポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製:L7001)(6g)を加えて、さらに、褐色瓶に0.1N塩酸水(74g)を加えて、得られた混合液を室温で12時間攪拌した。
得られた混合液に、さらにメタノール分散コロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製:Oscal-1132)(1.5kg)、シリカナノパウダー(扶桑化学工業(株)製:HSP-2S typeE)(1.4kg)、多官能エポキシ化合物としてジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製:デナコールEX-313)(80g)、および、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン(東亞合成(株)製:OX-SQ SI-20)(1.85kg)を加えて、得られた混合液を6時間攪拌した。その後、得られた混合液に、さらにヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株)製:Tinuvin477)(80g)、熱カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトロンCP-66)(25g)、および、光カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトマーSP-150)(30g)を加えて、得られた混合液を攪拌し、ハードコート層形成用組成物6を得た。
【0070】
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
スピンコート法により、このプラスチック眼鏡レンズ基材の一方の表面にハードコート層形成用組成物6を塗布した。具体的には、プラスチック眼鏡レンズ基材を300rpmで10秒間回転させ、その回転中にプラスチック眼鏡レンズ基材中心部から外周部にかけて上記ハードコート層形成用組成物6を2ml垂らした後、さらに、ハードコート層形成用組成物6が塗布されたプラスチック眼鏡レンズ基材を750rpmで10秒間回転させ、塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られた塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を80℃で20分間熱加熱した後、光源として高圧水銀灯(80W/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1500mJ/cm2)し、ハードコート層を形成した。なお、得られたハードコート層の膜厚は、15μmであった。
なお、プラスチック眼鏡レンズ基材の他方の表面に対しても上記と同様の処理を施し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置したハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0071】
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0072】
<比較例1>
特許文献1(特表2010-515778号公報)の記載に従って、特許文献1の実施例1に記載のコーティング組成物(以後、比較コーティング組成物1とも称する)を調製した。
この比較コーティング組成物1を用いて、特許文献1の段落0159の記載に従って、加熱処理によりプラスチック眼鏡レンズ基材の両面上にハードコート層を形成し、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
なお、得られたハードコート層の膜厚は、3μmであった。
また、プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
【0073】
<比較例2>
得られるハードコート層の膜厚が10μmとなるように調整した以外は、比較例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材および反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0074】
<比較例3>
特開2009-256563号公報(特許文献2)の記載に従って、特許文献2の実施例11に記載のコーティング組成物(以後、比較コーティング組成物2とも称する)を調製した。
この比較コーティング組成物2を用いて、特許文献2の段落0159の記載に従って、加熱処理によりプラスチック眼鏡レンズ基材上にハードコート層を形成し、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
なお、得られたハードコート層の膜厚は、3μmであった。
また、プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
【0075】
<比較例4>
得られるハードコート層の膜厚が10μmとなるように調整した以外は、比較例3と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材および反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0076】
<比較例5>
褐色瓶に、ブチルセロソルブ(1.3kg)、加水分解性ケイ素化合物として3-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)(270g)、および、塗膜調整剤としてポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製:8032 ADDITIVE)(6g)を加えて、さらに、褐色瓶に0.1N塩酸水(74g)を加えて、得られた混合液を室温で12時間攪拌した。
得られた混合液に、さらに、メタノール分散コロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製:Oscal-1132)(6.3kg)、多官能エポキシ化合物として1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製:デナコールEX-212)(680g)、および、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン(東亞合成(株)製:OX-SQ TX-100)(1.25kg)を加えて、得られた混合液を6時間攪拌した。その後、得られた混合液に、さらにヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株):Tinuvin477)(80g)、熱カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトロンCP-66)(25g)、および、光カチオン重合開始剤((株)ADEKA製:アデカオプトマーSP-171)(30g)を加えて、得られた混合液を攪拌し、比較コーティング組成物3を得た。
【0077】
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコンエシロール製:ニコンライトAS生地 S-3.00D)を用いた。
スピンコート法により、このプラスチック眼鏡レンズ基材の一方の表面に比較コーティング組成物3を塗布した。具体的には、プラスチック眼鏡レンズ基材を300rpmで10秒間回転させ、その回転中にプラスチック眼鏡レンズ基材中心部から外周部にかけて上記比較コーティング組成物3を2ml垂らした後、さらに、比較コーティング組成物3が塗布されたプラスチック眼鏡レンズ基材を1000rpmで5秒間回転させ、塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
次に、得られた塗膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を80℃で20分間熱加熱した後、光源として高圧水銀灯(80W/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1200mJ/cm2)し、ハードコート層を形成した。なお、得られたハードコート層の膜厚は、10μmであった。
なお、プラスチック眼鏡レンズ基材の他方の表面に対しても上記と同様の処理を施し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置したハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0078】
次に、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、実施例1と同様の手順に従って、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を得た。
【0079】
<評価>
上記実施例および比較例にて得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材および反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて、以下の評価を実施した。なお、結果は、後述する表1にまとめて示す。
【0080】
(レンズ面測定(変形測定))
DUAL LENSMAPPER(Automation & Robotics社製)を用いて、40mm×40mmの範囲を透過による測定で度数分布を測定することで、ハードコート層形成前後の面形状の変形を評価した。
すなわち、ハードコート層を形成する前のプラスチック眼鏡レンズ基材の度数分布を測定した後、そのプラスチック眼鏡レンズ基材上にハードコート層を形成した後、得られたハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の度数分布を測定し、ハードコート層形成前後の度数分布を比較した。度数変化が小さいほど、ハードコート層の形成後のプラスチック眼鏡レンズ基材の面形状変化が小さい。
◎:測定範囲内で度数変化なし
〇:測定範囲内で0.1D未満の度数変化あり
△:測定範囲内で0.1D以上0.2D未満の度数変化あり
×:測定範囲内で0.2D以上の度数変化あり
【0081】
(耐擦傷性(その1))
ボンスター#0000スチールウール(日本スチールウール(株)製)で2kgの荷重をかけ、ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材中のハードコート層表面を10往復摩擦し、ハードコート層表面(1cm×3cm)において傷ついた程度を目視で次の段階に分けて評価した。
◎:全く傷がつかない。
〇:1~30本の傷がつく。
△:31~100本の傷がつく。
×:101本以上の傷がつく。
【0082】
(耐擦傷性(その2))
ハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材の代わりに反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いた以外は、上記(耐擦傷性(その1))と同様の手順で、評価を行った。
【0083】
(外観特性)
暗箱内に設置した蛍光灯およびスライドプロジェクターよる外観検査を目視により行った。具体的には、蛍光灯の光をハードコート層付きプラスチック眼鏡レンズ基材に透過させた透過光検査、および、蛍光灯の光をハードコート層面に反射させた反射光検査により、ハードコート層の白濁および平滑性を検査した。
さらに、スライドプロジェクターを用いてプラスチック眼鏡レンズ基材側面から強い光をあて、ハードコート層の白濁および平滑性を検査した。
以下の基準に従って、評価を行った。
◎:スライドプロジェクター検査においてハードコート層に白濁および平滑性に欠陥が認められない。
〇:スライドプロジェクター検査においてハードコート層に白濁または平滑性に欠陥が認められるが、暗箱内蛍光灯検査においてハードコート層に白濁および平滑性に欠陥が認められない。
×:暗箱内蛍光灯検査においてハードコート層に白濁および/または平滑性に欠陥が認められる。
【0084】
(密着性)
JIS-K5600に準じて、クロスカットテープ試験によって反射防止膜およびハードコート層の密着性を評価した。
すなわち、ナイフを用い、反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材の反射防止膜表面に1mm間隔にプラスチック眼鏡レンズ基材まで達する切れ目を入れ、マス目を25個形成した。次に、切れ目を入れた反射防止膜上へセロファン粘着テープ(ニチバン株式会社製;「セロテープ(登録商標)」)を強く押しつけた。その後、反射防止膜表面から90°方向(垂直方向)へすばやくセロファン粘着テープを引っ張り、剥離させた後、プラスチック眼鏡レンズ基材上に残っているマス目の数を数え、以下の基準に従って密着性を評価した。
◎:剥がれがない。
○:点状にわずかに剥がれを生じた。
△:表面面積に対して10%未満の剥がれを生じた。
×:表面面積に対して10%以上の剥がれを生じた。
【0085】
(温水試験)
反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を90℃の温水中に2時間浸漬させ、取り出した反射防止膜付きプラスチック眼鏡レンズ基材を用いて上記密着性の評価と同じ評価を実施した。
【0086】
表1中、ハードコート層形成用組成物に含まれる各成分の含有量を表す。なお、表1中では、(A)成分から(G)成分までの合計量が「100質量部」となるように換算されている。
表1中の「(G)添加剤」欄においては、実施例1、3~6、および、比較例5においては紫外線吸収剤の含有量(質量部)を、実施例2においては老化防止剤の含有量を表す。また、比較例2~4においては、(A)成分から(F)成分に該当しない成分の含有量を「(G)添加剤」欄に示す。
表1中の「膜厚(μm)」は、ハードコート層の膜厚を表す。
また、表1中の評価欄において、実用上、「○」または「◎」であることが好ましい。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、所定の成分を含むハードコート層形成用組成物を用いることにより、所望の効果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0089】
10 眼鏡レンズ
12 プラスチック眼鏡レンズ基材
14 ハードコート層
図1