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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】パターン構造含有シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/12 20060101AFI20230116BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20230116BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20230116BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20230116BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20230116BHJP
   B05D 1/32 20060101ALI20230116BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230116BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230116BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20230116BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
B05D5/12 B
B32B27/12
B32B27/16
D21H11/18
D21H11/20
B05D1/32 B
B05D7/00 B
B05D7/24 301T
B05D3/06 102Z
H05K1/03 630D
H05K1/03 610T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019089937
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020185509
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】砂川 寛一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紅
(72)【発明者】
【氏名】梶田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 征彦
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038980(JP,A)
【文献】特開2008-024788(JP,A)
【文献】特開2006-064923(JP,A)
【文献】特開2018-184587(JP,A)
【文献】特開2019-001918(JP,A)
【文献】特開2018-106845(JP,A)
【文献】特開2012-219380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00-43/00
D21H11/00-27/42
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が100nm以下の繊維状セルロースを含む基層と、樹脂層とを有するパターン形成用基材の上部に、パターン形成用のフォトマスクを配置し、真空紫外線を照射する工程と、
前記パターン形成用基材上の真空紫外線照射部に導電性発現材料を付与して、パターンを形成する工程とを含み、
前記繊維状セルロースは、イオン性置換基を含有し、
前記繊維状セルロースを含む基層は、親水性高分子をさらに含み、
前記真空紫外線を照射する工程では、前記フォトマスクと前記パターン形成用基材の間には酸素が存在している、パターン構造含有シートの製造方法。
【請求項2】
前記パターンを形成する工程では、最細のラインが1μm以上1mm以下のパターンが形成される請求項1に記載のパターン構造含有シートの製造方法。
【請求項3】
前記真空紫外線を照射する工程は、真空紫外線を平行光として照射する工程である請求項1又は2に記載のパターン構造含有シートの製造方法。
【請求項4】
前記繊維状セルロースは、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有する請求項1~のいずれか1項に記載のパターン構造含有シートの製造方法。
【請求項5】
前記パターン形成用基材のヘーズは10%以下である請求項1~のいずれか1項に記載のパターン構造含有シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン構造含有シートの製造方法に関する。具体的には、本発明は、微細繊維状セルロースを含むパターン形成用基材上に、パターンを形成する工程を含むパターン構造含有シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
【0003】
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。また、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂層を含む複合体が開発されている。そして、このようなシートや複合体を、光学部材として用いることも検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1~4には、微細繊維状セルロースを含むシートに樹脂成分を含浸させることで複合シートを形成し、この複合シートを配線基板や回路基板の用途に用いることが開示されている。また、特許文献5には、セルロース繊維および低分子滑剤を含有するセルロース繊維複合フィルムが開示されており、このような複合フィルムを配線基板に用いることが検討されている。
【0005】
ところで、配線基板や回路基板を形成する際には、露光装置を用いてパターニング処理を行う場合がある。近年は、配線基板や回路基板の微細化、高集積化が検討されており、これに伴い、露光用光源の短波長化が要求される場合もある。例えば、特許文献6には、真空紫外光を含む光を放出するランプハウジングと、その他所定構造とを備えた真空紫外光照射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-060680号公報
【文献】特開2016-089022号公報
【文献】特開2018-132655号公報
【文献】特開2018-170518号公報
【文献】特開2017-078151号公報
【文献】特開2015-126044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような微細繊維状セルロースを含む複合シートをパターン形成用基材として用いる場合、高精度のパターン形成を可能とする基板であることが求められている。しかしながら、従来技術においては、微細繊維状セルロースを含むパターン形成用基材上に高精度のパターンを形成する技術について十分な検討がなされていなかった。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、微細繊維状セルロースを含むパターン形成用基材上に高精度なパターンを形成し得る、パターン構造含有シートの製造方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層と、樹脂層とを有するパターン形成用基材の上部に、パターン形成用のフォトマスクを配置した後に、真空紫外線を照射し、さらに、真空紫外線照射部に導電性発現材料を付与することにより、高精度なパターンが形成されることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層と、樹脂層とを有するパターン形成用基材の上部に、パターン形成用のフォトマスクを配置し、真空紫外線を照射する工程と、
パターン形成用基材上の真空紫外線照射部に導電性発現材料を付与して、パターンを形成する工程とを含むパターン構造含有シートの製造方法。
[2] パターンを形成する工程では、最細のラインが1μm以上1mm以下のパターンが形成される[1]に記載のパターン構造含有シートの製造方法。
[3] 真空紫外線を照射する工程は、真空紫外線を平行光として照射する工程である[1]又は[2]に記載のパターン構造含有シートの製造方法。
[4] 真空紫外線を照射する工程では、フォトマスクとパターン形成用基材の間には酸素が存在している[1]~[3]のいずれかに記載のパターン構造含有シートの製造方法。
[5] 繊維状セルロースを含む基層は、親水性高分子をさらに含む[1]~[4]のいずれかに記載のパターン構造含有シートの製造方法。
[6] 繊維状セルロースは、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有する[1]~[5]のいずれかに記載のパターン構造含有シートの製造方法。
[7] パターン形成用基材のヘーズは10%以下である[1]~[6]のいずれかに記載のパターン構造含有シートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、高精度なパターンが形成されたパターン構造含有シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、パターン形成用基材の構成を説明する断面図である。
図2図2は、本発明のパターン構造含有シートの製造方法で用いる真空紫外光照射処理装置の構成を説明する概略図である。
図3図3は、本発明のパターン構造含有シートの製造方法で得られるパターン構造含有シートの構成を説明する断面図である。
図4図4は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図5図5は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(パターン構造含有シートの製造方法)
本発明は、パターン構造含有シートの製造方法に関する。本発明のパターン構造含有シートの製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層と、樹脂層とを有するパターン形成用基材の上部に、パターン形成用のフォトマスクを配置し、真空紫外線を照射する工程と、パターン形成用基材上の真空紫外線照射部に導電性発現材料を付与して、パターンを形成する工程とを含む。本発明においては、このような製造工程を経て得られるパターン構造含有シートには、高精度なパターンが形成される。
【0015】
本発明のパターン構造含有シートの製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層と、樹脂層とを有するパターン形成用基材の上部に、パターン形成用のフォトマスクを配置し、真空紫外線を照射する工程を含む。この工程では、真空紫外光照射処理装置の所定位置にパターン形成用基材を設置し、該パターン形成用基材の上部に配置したフォトマスクの上方から真空紫外線を照射する。なお、本明細書において、真空紫外線は、波長が200nm以下の紫外線であり、VUVと呼ぶこともある。なお、真空紫外線の波長は160nm以上であってもよい。
【0016】
図1は、本発明のパターン構造含有シートの製造方法に用いるパターン形成用基材の構成を説明する断面図である。図1に示されているように、パターン形成用基材20は、微細繊維状セルロースを含む基層22と樹脂層24を有する。基層22と樹脂層24は、いずれか一方の面で接した状態となるように積層されている。なお、パターン形成用基材は、基層22と樹脂層24を少なくとも1層ずつ有していればよいが、基層22を2層以上有していてもよく、樹脂層24を2層以上有するものであってもよい。例えば、基層22の両面に樹脂層24を有する構造であってもよい。
なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースもしくはCNFと呼ぶこともある。
【0017】
図2は、本発明のパターン構造含有シートの製造方法で用いる真空紫外光照射処理装置の構成を説明する概略図である。図2に示されるように、真空紫外光照射処理装置100は、ランプハウジング3と、透過性窓部4と、パターン形成用基材20を設置するワークステージ7が内部に配置された処理チャンバ5とを備える。ランプハウジング3と処理チャンバ5は、透過性窓部4を介して気密性が保たれるように連結されている。ランプハウジング3から処理チャンバ5へ真空紫外線が照射される構造であればよく、処理チャンバ5の上部にランプハウジング3が設けられることが好ましい。
【0018】
ランプハウジング3の内部には、真空紫外光を放出するVUVショートアークフラッシュランプ1(VUV-SFL)と放物面ミラー2が備えられており、フラッシュランプ1(VUV-SFL)に始動用トリガパルスや電力を供給する給電手段11が連結されている。給電手段11は、エネルギーが充電されるコンデンサ、昇圧トランスを含む電源部13と始動用トリガパルスを発生するトリガ回路部12、ならびに電源部13のコンデンサを充電する充電器14を含み、小型の電源部13、トリガ回路部12はランプハウジング3の内部に設置されていてもよい。
【0019】
フラッシュランプ1から放射された光は放物面ミラー2により平行光にされた後に透過性窓部4を透過して、処理チャンバ5に設置されたパターン形成用基材20に照射される。すなわち、真空紫外線を照射する工程は、真空紫外線を平行光としてパターン形成用基材20に照射する工程であることが好ましい。なお、本明細書において、平行光とは、反射鏡の光軸に対して平行に照射される光をいい、本装置100に当てはめれば、反射鏡が放物面ミラーであることにより平行光が出射される。そして、出射された平行光は、処理チャンバ5に設置されたパターン形成用基材20の表面に同じ角度で照射される。本実施形態においては、平行光はパターン形成用基材20の表面に対して垂直方向に照射される光である。ここで、本明細書において、平行光には略平行光が含まれている。
【0020】
透過性窓部4は、真空紫外線(VUV)に対して高い透過率を有するものである。また、透過性窓部4は、ランプハウジング3と処理チャンバ5のそれぞれの気密性が保たれるように組み立てられており、透過性窓部4を介したランプハウジング3内部から処理チャンバ5への気体の透過はない。なお、ランプハウジング3内部には、ランプハウジング3に設けた第1のガス導入口3aからN2ガスなどの不活性ガスを導入されてパージされる。ランプハウジング3内部に導入されたN2ガスなどの不活性ガスは、給電手段11の電源部13、トリガ回路部12、放物面ミラー2、放物面ミラー2の頂部の貫通孔とフラッシュランプ1外表面との間の間隙を介してフラッシュランプ1に到達し、これらを冷却した後、ランプハウジング3に設けた第1の排気口3bから排気される。
【0021】
ランプハウジング3の透過性窓部4の周辺には、ランプハウジング3内部空間と、処理ステージ5内部とを空間的に接続する少なくとも1つ以上の通過孔3cが設けられていてもよい。なお、処理チャンバ5内部は、フォトマスク6によって、透過性窓部4とフォトマスク6との間の空間であるマスク上部空間Aと、フォトマスク6下面のパターン形成用基材20が設置されるワーク処理空間Bとに分割されている。このため、上記通過孔3cは、ランプハウジング3内部と上記マスク上部空間Aとを空間的に連結するが、マスク上部空間Aとワーク処理空間Bとは連通していない。なお、マスク上部空間Aには、第2の排気口5aが設けられている。
【0022】
処理チャンバ5内には、パターン形成用基材20が設置されるワークステージ7が設けられている。ワークステージ7の上には、パターン形成用基材20の樹脂層24が上面(露出表面)となるように設置される。そして、パターン形成用基材20をパターニングする場合、パターン形成用基材20と透過性窓部4の間に転写パターン(光透過性間欠部)が施されているフォトマスク6が配設される。フォトマスク6は、例えば真空紫外線(VUV)を透過する材質の一方の面に、真空紫外線(VUV)を透過させない材質から構成される部材として金属薄膜などが設けられたものであって、その一部に、真空紫外線(VUV)を透過させる間欠部が設けられたものである。もしくは、フォトマスク6は、金属材料にエッチング等の加工により間欠部が形成されたメタルマスクであってもよい。これにより、ランプハウジング3から照射される平行光の一部がフォトマスク6の間欠部を透過してパターン形成用基材20に到達することになる。
【0023】
ここで、処理チャンバ5のワーク処理空間B内は大気条件下にあるため、ワーク処理空間Bには酸素が存在している。すなわち、上述したフォトマスク6と、パターン形成用基材20の間には酸素が存在している。なお、ワーク処理空間Bには、第2のガス導入口5bより酸素を含有するガスが導入され、当該ガスによりワーク処理空間Bがパージされ、第3のガス排気口5cより排気されてもよい。このような条件の下、真空紫外線(VUV)がパターン形成用基材20の樹脂層24に照射されると、樹脂層24において真空紫外線(VUV)が照射された箇所のみが親液化する。すなわち、樹脂層24の真空紫外線照射部は、フォトマスク6の間欠部のパターン形状のとおり形成され、この真空紫外線照射部が真空紫外線(VUV)の照射により親液化がなされた箇所となる。
【0024】
パターン形成用基材20における樹脂層24の親液化は、真空紫外線(VUV)を照射したパターン形成用基材20の表面の露光箇所の溶液接触角を測定することにより、判定することができる。例えば、真空紫外線(VUV)の照射によりパターン形成用基材20における樹脂層24が親水化した場合、パターン形成用基材20の表面の水接触各を測定することにより親水化(親液化)がなされたことを判定することができる。この場合、真空紫外線(VUV)を照射したパターン形成用基材20の表面の水接触角は、50°以下であれば、パターン形成用基材20における樹脂層24が親水化(親液化)したとの判定ができる。なお、パターン形成用基材20の表面の水接触角は、40°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましい。ここで、パターン形成用基材の表面の水接触角は、パターン形成用基材の樹脂層の表面の露光箇所の水接触角である。パターン形成用基材の表面の水接触角は、パターン形成用基材の表面に蒸留水を1μL滴下し、滴下後5秒後の水接触角である。測定には、動的水接触角試験機を用いる。動的水接触角試験機としては、例えば、Fibro社製の1100DATを用いることができる。
【0025】
なお、図2に示されるように、フォトマスク6とパターン形成用基材20の間には、空隙が存在しており、その空隙に酸素が存在している。このような空隙を設けるために、フォトマスク6とパターン形成用基材20の両端に、テープ状のギャップ構成部材を挟見込んで空隙を形成してもよい。
【0026】
上述した真空紫外光照射処理装置100としては、例えば、ウシオ電機(株)製VUVパターニング実験機 SUS740等を用いることができる。
【0027】
本発明のパターン構造含有シートの製造方法は、上述したような真空紫外線をパターン形成用基材20に照射する工程に続いて、パターン形成用基材上の真空紫外線照射部に導電性発現材料を付与して、パターンを形成する工程を含む。パターンを形成する工程では、露光されたパターン形成用基材20上に、導電性発現材料を付与する。導電性発現材料の付与は露光装置からパターン形成用基材20を取り出した後に行われることが好ましい。
【0028】
導電性発現材料の付与方法としては、塗工方法、噴霧方法、含浸方法等の各種付与方法を採用することができる。中でも、塗工方法により、導電性発現材料を付与することが好ましい。この場合、塗工装置としては、例えば、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ロッドブレードコーター等を用いることができる。
【0029】
導電性発現材料としては、金属含有組成物、導電性高分子含有組成物等を挙げることができる。導電性発現材料は、導電性を有する材料であってよく、パターン構造形成の過程で導電性を獲得し得る材料であってもよい。導電性発現材料として金属含有組成物を用いる場合、金属含有組成物に含まれる金属としては、例えば、Ag、Au、Cu、Al、Fe、Zn、Ni、Cr、Mo等を挙げることができる。また、金属含有組成物は上述した金属の酸化物を含む組成物であってもよい。なお、金属含有組成物には、溶媒や分散剤等の添加剤が含まれていてもよく、金属含有組成物としては、例えば、金属インク、金属ペースト等を用いることができ、金属ナノ粒子インク等を用いることもできる。
【0030】
導電性発現材料として導電性高分子含有組成物を用いる場合、導電性高分子含有組成物に含まれる導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリ(p-フェニレンビニレン)系導電性高分子、ポリキノキサリン系導電性高分子等が挙げられる。光学特性や外観、帯電防止性、塗工性、安定性等のバランスが良好であるという観点からポリチオフェン系導電性高分子が好ましい。ポリチオフェン系導電性高分子としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリチオフェンが挙げられる。これらの導電性高分子は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
パターン形成用基材20上の真空紫外線照射部に導電性発現材料を付与する工程では、パターン形成用基材20の全面に導電性発現材料を付与した後に、パターン形成用基材20上の真空紫外線照射部以外の領域から導電性発現材料を除去する工程を含むことが好ましい。これにより、パターン形成用基材20の真空紫外線照射部のみに導電性発現材料が付与されることになる。なお、導電性発現材料の塗工厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましい。また、導電性発現材料の塗工厚みは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0032】
導電性発現材料を付与した後には、乾燥工程が設けられてもよい。この際の乾燥温度は、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。乾燥温度は、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましい。また、乾燥工程における乾燥時間は、1分以上であることが好ましく、2分以上であることがより好ましい。乾燥時間は、60分以下であることが好ましく、40分以下であることがより好ましい。
【0033】
上述したような工程を経て、パターン形成用基材20上にパターン構造が形成されたパターン構造含有シートが得られる。図3は、本発明のパターン構造含有シートの製造方法で得られるパターン構造含有シート50の構成を説明する断面図である。図3に示されるように、パターン構造含有シート50においては、パターン形成用基材20の樹脂層24の上に真空紫外線照射部52(親液化部)が形成されており、真空紫外線照射部52上に導電性発現材料からなる導電部54が積層されている。なお、図3では、真空紫外線照射部52と導電部54の層構成を理解しやすいように描いているため、各層の厚みや厚みの比率は実際のパターン構造含有シートの構成とは必ずしも同一ではない。
【0034】
本発明においては、パターン形成用基材20を用い、さらに、上述したような真空紫外光照射処理装置を用いることにより、最細のラインが1μm以上1mm以下のパターンを形成することができる。ここで、最細のラインとは、パターン形成用基材20上に形成されたパターン構造の内、最も細いラインの幅である。最も細いラインの幅は、図3においてLとして示された幅である。なお、パターンにおいてスペースの幅は、図3においてSとして示される。パターン形成用基材20上に形成されたパターン構造の内、最も細いラインの幅は、その用途によって適宜調整することができるが、50μm以下や、40μm以下、30μm以下といった微細ライン構造を形成することも可能である。また、最も細いスペースの幅についても、その用途によって適宜調整することができるが、50μm以下や、40μm以下、30μm以下といった微細スペース構造を形成することが可能である。なお、最も細いラインの幅及び最も細いスペースの幅は、それぞれ1μm以上であることが好ましい。なお、パターン形成用基材20上の最細のラインの幅は、光学顕微鏡を観察して測定することができる。
【0035】
(パターン形成用基材)
本発明のパターン構造含有シートの製造方法に用いるパターン形成用基材は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層と、樹脂層とを含む。図1は、本発明のパターン構造含有シートの製造方法に用いるパターン形成用基材20の構成を説明する断面図である。図1に示されているように、パターン形成用基材20は、微細繊維状セルロースを含む基層22と樹脂層24を有する。本発明においては、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層22を含むパターン形成用基材20を用いることにより、パターン形成用基材20の寸法安定性を高めることができ、これにより高精度なパターン構造を形成することができる。
【0036】
パターン形成用基材の全体厚みは、特に制限されるものではないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、パターン形成用基材の全体厚みは、1000mm以下であることが好ましく、700μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。パターン形成用基材の厚みは形成されるパターン形状やその用途に応じて適宜調整することが好ましい。
【0037】
パターン形成用基材の基層の厚みは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。また、基層の厚みは、995μm以下であることが好ましく、695μm以下であることがより好ましく、495μm以下であることがさらに好ましい。ここで、パターン形成用基材を構成する基層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によってパターン形成用基材の断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。パターン形成用基材に基層が複数層含まれている場合は、合計の基層の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0038】
パターン形成用基材の樹脂層の厚みは0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。また、樹脂層の厚みは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。ここで、パターン形成用基材を構成する樹脂層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によってパターン形成用基材の断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。パターン形成用基材に樹脂層が複数層含まれている場合は、合計の樹脂層の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0039】
パターン形成用基材の密度は、1.00g/cm3以上であることが好ましく、1.10g/cm3以上であることがより好ましく、1.20g/cm3以上であることがさらに好ましい。パターン形成用基材の密度は、パターン形成用基材の坪量を厚みで除すことで算出した。なお、パターン形成用基材の厚みは触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
【0040】
パターン形成用基材の全光線透過率は、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。パターン形成用基材の全光線透過率を上記範囲とすることにより、パターニングプロセスにおいて光学的な位置決めを行う場合などにおいてパターン形成用基材の適合性が高められる。ここで、全光線透過率は、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0041】
パターン形成用基材のヘーズは、10.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましく、2.5%以下がさらに好ましく、2.0%以下が一層好ましく、1.5%以下がより一層好ましく、1.0%以下が特に好ましい。パターン形成用基材のヘーズを上記範囲とすることにより、パターニングプロセスにおいて光学的な位置決めを行う場合などにおいてパターン形成用基材の適合性が高められる。ここで、ヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0042】
パターン形成用基材の23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、2.5GPa以上であることが好ましく、3.0GPa以上であることがより好ましく、5.0GPa以上であることがさらに好ましく、7.0GPa以上であることが一層好ましく、8.0GPa以上であることがより一層好ましく、9.0GPa以上であることが特に好ましい。また、パターン形成用基材の23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、30GPa以下であることが好ましい。パターン形成用基材の引張弾性率は、JIS P 8113に準拠して測定される値であり、引張弾性率は、SSカーブ(応力-ひずみ曲線)における正の最大の傾き値から算出される値である。
【0043】
パターン形成用基材を温度110℃、窒素雰囲気下に1時間保持した後の、収縮率は、1.5%未満であることが好ましく、1.2%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましく、0.8%以下であることが一層好ましく、0.7%以下であることが特に好ましい。パターン形成用基材の収縮率を上記範囲内とすることにより、よりパターニング性を高めることができる。ここで、パターン形成用基材の収縮率は、3mm幅×30mm長のパターン形成用基材を熱機械分析装置にセットした後、引っ張りモードでチャック間20mm、荷重10g、窒素雰囲気下に設定し、室温から110℃まで5℃/minで昇温、その後1時間保持した後の寸法変化率である。具体的には、以下の計算式で算出される値である。
収縮率(%)=|B-A|/A×100
Aは、分析装置にセットした初期状態(温度は室温)のチャック間距離(mm)であり、Bは、110℃で昇温し、1時間保持した後のチャック間距離(mm)である。
【0044】
パターン形成用基材の線熱膨張係数は、50ppm/K以下であることが好ましく、
40ppm/K以下であることがより好ましく、 30ppm/K以下であることがさらに好ましい。パターン形成用基材の線熱膨張係数は、4mm幅×30mm長のパターン形成用基材を熱機械分析装置(日立ハイテク社製、TMA7100)にセットした後、引っ張りモードでチャック間20mm、荷重10g、窒素雰囲気下で室温から180℃まで5℃/分で昇温、180℃から25℃まで5℃/分で降温した際の、100℃から150℃の測定値から算出される値である。
【0045】
パターン形成用基材の表面粗さ(算術平均)は、10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましく、6nm以下であることがさらに好ましく、4nm以下であることが特に好ましい。ここで、パターン形成用基材の表面粗さ(算術平均)は、パターン形成用基材の樹脂層の表面の算術平均粗さである。表面粗さ(算術平均)は、原子間力顕微鏡(Veeco社製、NanoScope IIIa)を用いて、10μm四方の算術平均粗さを測定し、得られる値である。
【0046】
パターン形成用基材の表面の水接触角は60°以上であることが好ましく、65°以上であることがより好ましく、70°以上であることがさらに好ましい。ここで、パターン形成用基材の表面の水接触角は、パターン形成用基材の樹脂層の表面の水接触角である。パターン形成用基材の表面の水接触角は、パターン形成用基材の表面に蒸留水を4μL滴下し、滴下後30秒後の水接触角である。測定には、動的水接触角試験機を用いる。動的水接触角試験機としては、例えば、Fibro社製の1100DATを用いることができる。
【0047】
なお、パターン形成用基材に真空紫外線(VUV)を5分間照射した後のパターン形成用基材の表面の水接触角は50°以下であることが好ましく、40°以下であることがより好ましく、30°以下であることがさらに好ましい。真空紫外線(VUV)を5分間照射した後のパターン形成用基材の表面の水接触角を上記範囲内とすることにより、より高精度なパターン形成が可能となる。なお、上記水接触角は、パターン形成用基材の表面の真空紫外線(VUV)照射部における値である。
【0048】
(樹脂層)
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
【0049】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0050】
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート及びウレタンアクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0051】
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0052】
樹脂層は疎水性樹脂を含むことが好ましい。なお、本明細書においては、疎水性樹脂とは、乾燥状態において水との接触角が60度以上の樹脂と定義する。ここで、「乾燥状態において」とは、例えば、疎水性樹脂がエマルション状態にあるときのように水と親和性を有するような状態を排除することを意味する。
【0053】
パターン形成用基材において、樹脂層は密着助剤を含有していてもよい。密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
【0054】
イソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物である又はまたはそれ以上の多官能イソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、具体的には、NCO基中の炭素を除く炭素数が6以上20以下の芳香族ポリイソシアネート、炭素数2以上18以下の脂肪族ポリイソシアネート、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、炭素数8以上15以下のアラルキル型ポリイソシアネート、これらのポリイソシアネートの変性物、およびこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。中でも、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、すなわちイソシアヌレートは好ましく用いられる。
【0055】
脂環式ポリイソシアネートの具体例としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
有機ケイ素化合物としては、シロキサン構造を有する化合物、または縮合によりシロキサン構造を形成する化合物を挙げることができる。例えば、シランカップリング剤、またはシランカップリング剤の縮合物を挙げることができる。シランカップリング剤としては、アルコキシシリル基以外の官能基を有するものであってもよいし、それ以外の官能基を有しないものであってもよい。アルコキシシリル基以外の官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基などが挙げられる。本発明で用いるシランカップリング剤は、メタクリロキシ基を含有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0057】
分子内にメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤の具体的な例としては、例えば、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンなどが挙げられる。中でも、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及び1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンから選択される少なくとも1種は好ましく用いられる。シランカップリング剤は、アルコキシシリル基を3つ以上含有するものであることが好ましい。
【0058】
シランカップリング剤においては、加水分解後にシラノール基が生成し、シラノール基の少なくとも一部は基層を積層した後にも存在していることが好ましい。シラノール基は親水性基であるため、樹脂層の基層側の面の親水性を高めることで、樹脂層と基層の密着性を高めることもできる。
【0059】
密着助剤は、樹脂層に均一に分散した状態で含まれていてもよい。ここで、密着助剤が樹脂層中に均一に分散した状態とは、以下の3つの領域((a)~(c))の濃度を測定して、どの2領域の濃度を比較しても2倍以上の差がでない状態をいう。
(a)樹脂層の基層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(b)樹脂層の基層側の面とは反対側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(c)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
【0060】
また、密着助剤は、樹脂層の基層側の領域に偏在していてもよい。例えば、密着助剤として有機ケイ素化合物が用いられる場合、有機ケイ素化合物は、樹脂層の基層側の領域に偏在していてもよい。
ここで、樹脂層の基層側の領域に偏在している状態とは、以下の領域((d)及び(e))の2つの濃度を測定して、これらの濃度に2倍以上の差がでる状態をいう。
(d)樹脂層の基層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(e)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
ここで、密着助剤の濃度は、X線電子分光装置又は赤外分光光度計によって測定される数値であり、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によってパターン形成用基材の所定の領域の断面を切り出し、当該断面を当該装置によって測定して得る値である。
【0061】
樹脂層の基層側の面上には、有機ケイ素化合物含有層が設けられていてもよく、このような状態も有機ケイ素化合物が樹脂層の基層側の領域に偏在している状態に含まれる。有機ケイ素化合物含有層は、有機ケイ素化合物含有塗工液を塗工することで形成された塗工層であってもよい。
なお、樹脂層の基層側の面上に有機ケイ素化合物含有層が設けられている場合は、上記領域(d)において、「樹脂層の基層側の面」は、「有機ケイ素化合物含有層の露出表面」と読み替えるものとし、「樹脂層全体の厚み」は「樹脂層と有機ケイ素化合物含有層の合計厚み」と読み替えるものとする。
【0062】
密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましい。
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、18質量部以上であることがさらに好ましい。また、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。
密着助剤が有機ケイ素化合物である場合、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
密着助剤の含有量を上記範囲内とすることにより、より効果的に、基層と樹脂層の密着性を高めることができる。
【0063】
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、0.5mmol/g以上であることが好ましく、0.6mmol/g以上であることがより好ましく、0.8mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.9mmol/g以上であることが特に好ましい。また、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、3.0mmol/g以下であることが好ましく、2.5mmol/g以下であることがより好ましく、2.0mmol/g以下であることがさらに好ましく、1.5mmol/g以下であることが特に好ましい。
【0064】
樹脂層の基層側の面には表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。中でも、表面処理は、コロナ処理及びプラズマ放電処理から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、プラズマ放電処理は真空プラズマ放電処理であることが好ましい。
【0065】
樹脂層の基層側の面は微細凹凸構造を形成してもよい。樹脂層の基層側の面が微細凹凸構造を有することにより、基層と樹脂層の密着性をより効果的に高めることができる。樹脂層の基層側の面が微細凹凸構造を有する場合、このような構造は、例えば、ブラスト加工処理、エンボス加工処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ放電処理等の処理工程により形成されることが好ましい。なお、本明細書において、微細凹凸構造とは、任意箇所に引いた長さ1mmの一本の直線上に存在する凹部の数が10個以上である構造をいう。凹部の数を測定する際には、パターン形成用基材をイオン交換水中に24時間浸漬した後、樹脂層から基層をはく離する。その後、樹脂層の基層側の面を触針式表面粗さ計(小坂研究所社製、サーフコーダシリーズ)で走査することにより測定ができる。凹凸のピッチがサブミクロン、ナノオーダーの極めて小さいものである場合、走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製、AFM5000II、およびAFM5100N)の観察画像から凹凸の数を測定することができる。
【0066】
樹脂層には合成樹脂以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、フィラー、顔料、染料、紫外線吸収剤等の樹脂フィルム分野で使用される公知成分が挙げられる。
【0067】
(基層)
基層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を含む。微細繊維状セルロースの含有量は、基層の全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0068】
基層の密度は、1.0g/cm3以上であることが好ましく、1.1g/cm3以上であることがより好ましく、1.2g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、基層の密度は、1.8g/cm3以下であることが好ましく、1.6g/cm3以下であることがより好ましい。パターン形成用基材に基層が2層以上含まれている場合は、各々の基層の密度が上記範囲内であることが好ましい。
【0069】
基層の密度は、基層の坪量と厚さから、JIS P 8118に準拠して算出される。基層の坪量は、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によってパターン形成用基材の基層のみが残るように切削し、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。なお、基層が微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む場合は、基層の密度は、微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む密度である。
【0070】
本発明においては、基層は非多孔性の層である点にも特徴がある。ここで、基層が非多孔性であるとは、基層全体の密度が1.0g/cm3以上であることを意味する。基層全体の密度が1.0g/cm3以上であれば、基層に含まれる空隙率が、所定値以下に抑えられていることを意味し、多孔性のシートや層とは区別される。
また、基層が非多孔性であることは、空隙率が15体積%以下であることからも特徴付けられる。ここでいう基層の空隙率は簡易的に下記式(a)により求められるものである。
式(a):空隙率(体積%)=[1-B/(M×A×t)]×100
ここで、Aは基層の面積(cm2)、tは基層の厚み(cm)、Bは基層の質量(g)、Mは基層の基層を構成する固形分の密度である。
【0071】
<微細繊維状セルロース>
基層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む。繊維状セルロースの繊維幅は100nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。これにより、溶媒に対する分散性をより効果的に高めることができ、高強度かつ高透明な基層が得られやすくなる。
【0072】
繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制しやすくなる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0073】
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0074】
繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0075】
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0076】
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0077】
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0078】
繊維状セルロースは、イオン性置換基を有することが好ましい。繊維状セルロースがイオン性置換基を有することで、分散媒中における繊維状セルロースの分散性を向上させ、解繊処理における解繊効率を高めることができる。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。本実施形態においては、イオン性置換基としてアニオン性基を有することが特に好ましい。
【0079】
イオン性置換基としてのアニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、カルボキシメチル基、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基及びカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。アニオン性基としてリンオキソ酸基を導入することにより、例えば、アルカリ性条件下や酸性条件下においても、繊維状セルロースの分散性をより高めることができ、結果として高強度かつ高透明な基層が得られやすくなる。
【0080】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。リンオキソ酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO32で表される基である。リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。また、リンオキソ酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リンオキソ酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
【0081】
【化1】
【0082】
式(1)中、a、bおよびnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αnおよびα’のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αnおよびα’の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、nは1であることが好ましい。
【0083】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0084】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
【0085】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。なお、βb+は有機オニウムイオンであってもよく、この場合、有機アンモニウムイオンであることが特に好ましい。
【0086】
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることが一層好ましい。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。
【0087】
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0088】
図4は、イオン性置換基としてリンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図4の上側部に示すような滴定曲線を得る。図4の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図4の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図4において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(第2解離酸量)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(第1解離酸量)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0089】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0090】
図5は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有する繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有する分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図5の上側部に示すような滴定曲線を得る。図5の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図5の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図5における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の繊維状セルロースを含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
【0091】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量であることから、酸型の繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0092】
滴定法によるイオン性置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0093】
<微細繊維状セルロースの製造工程>
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0094】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0095】
<リンオキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程を含むことが好ましく、イオン性置換基導入工程としては、例えば、リンオキソ酸基導入工程が挙げられる。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
【0096】
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0097】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0098】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩または亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、または亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0099】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0100】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0101】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0102】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0103】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0104】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0105】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0106】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0107】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リンオキソ酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0108】
繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0109】
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、カルボキシ基導入工程を含んでもよい。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
【0110】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0111】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0112】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0113】
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、2.5mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
【0114】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0115】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0116】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0117】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0118】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性置換基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0119】
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、イオン性置換基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0120】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
【0121】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0122】
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0123】
解繊処理工程においては、たとえばイオン性置換基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0124】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、イオン性置換基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性置換基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0125】
<任意成分>
基層には、微細繊維状セルロース以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、親水性高分子や有機イオン等が挙げられる。中でも、基層は親水性高分子をさらに含む層であることが好ましい。
【0126】
親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましい。この場合、含酸素有機化合物は、親水性の有機化合物であることが特に好ましい。親水性の含酸素有機化合物は、基層の強度、密度及び化学的耐性などを向上させることができる。親水性の含酸素有機化合物は、たとえばSP値が9.0以上であることが好ましい。また、親水性の含酸素有機化合物は、たとえば100mlのイオン交換水に含酸素有機化合物が1g以上溶解するものであることが好ましい。
【0127】
含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の親水性高分子;グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等の親水性低分子が挙げられる。これらの中でも、基層の強度、密度、化学的耐性などを向上させる観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド及びポリビニルアルコールから選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレングリコールであることがさらに好ましい。
【0128】
親水性高分子の重量平均分子量は、1万以上であればよく、5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましい。また、親水性高分子の重量平均分子量は800万以下であることが好ましく、500万以下であることがより好ましい。
【0129】
親水性高分子の含有量は、基層の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、親水性高分子の含有量は、基層の全質量に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。親水性高分子の含有量を上記範囲内とすることにより、高強度であり、かつ高透明なパターン形成用基材を形成することができる。
【0130】
(その他の層)
パターン形成用基材は、樹脂層と基層の間に、接着剤層を有していてもよい。接着剤層を構成する接着剤として、例えば、アクリル系樹脂を挙げることができる。また、アクリル系樹脂以外の接着剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
【0131】
(パターン形成用基材の製造方法)
パターン形成用基材の製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層を形成する工程と、該基層の上に樹脂組成物を塗工する工程を含んでもよい。この際、樹脂組成物は、必要に応じて密着助剤等の任意成分を含んでいてもよい。
また、パターン形成用基材の製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層を形成する工程と該基層の上に樹脂フィルムもしくは樹脂シートを貼合する工程を含んでもよい。
【0132】
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む基層を形成する工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むシート形成用組成物(以下、スラリーもしくは塗工液ともいう)を得る工程と、該シート形成用組成物を基材上に塗工する塗工工程、または該シート形成用組成物を抄紙する抄紙工程を含む。これにより、上述したシートが得られることとなる。なお、シート形成用組成物は、上述したような親水性高分子を含む組成物であることが好ましい。
【0133】
<塗工工程>
塗工工程では、たとえば繊維状セルロースを含むシート形成用組成物(スラリー)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
【0134】
塗工工程で用いる基材の材質は、とくに限定されないが、シート形成用組成物(スラリー)に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、とくに限定されない。たとえばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
【0135】
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、とくに限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばポリプロピレン板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
スラリーを基材に塗工する塗工機としては、とくに限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターがとくに好ましい。
【0136】
スラリーを基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることがとくに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーをより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0137】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が好ましくは10g/m2以上100g/m2以下となるように、より好ましくは20g/m2以上60g/m2以下となるように、スラリーを基材に塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、より強度に優れたシートが得られる。
【0138】
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含む。スラリーを乾燥させる工程は、とくに限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
【0139】
非接触の乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、とくに限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
【0140】
加熱乾燥法における加熱温度は、とくに限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および繊維状セルロースの熱による変色の抑制を実現できる。
【0141】
<抄紙工程>
抄紙工程は、抄紙機によりスラリーを抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、とくに限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
【0142】
抄紙工程は、スラリーをワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、とくに限定されないが、たとえば繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、とくに限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしてはとくに限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
【0143】
シート化工程において、スラリーからシートを製造する方法は、たとえば繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0144】
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
【0145】
このようにして得られた基層上に樹脂組成物を塗工するか、もしくは樹脂フィルムもしくは樹脂シートを貼合することでパターン形成用基材が得られる。
【実施例
【0146】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0147】
<製造例1>
<リンオキソ酸化処理>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリンオキソ酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0148】
<洗浄処理>
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0149】
<中和処理>
洗浄後のリン酸化パルプに対して、さらに上記リンオキソ酸化処理、上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った。次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
【0150】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0151】
<機械処理>
得られた二回リン酸化セルロースの脱水シートにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、後述する<置換基量の測定>
に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量強酸性基量)は、2.00mmol/gだった。なお、総解離酸量は、3.30mol/gであった。
【0152】
<置換基量の測定>
リンオキソ酸基量(強酸性基量)は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図4)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(第1解離酸量)(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
【0153】
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロースの繊維幅は下記の方法で測定した。微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察した。これにより、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。
【0154】
<シート化>
微細繊維状セルロース分散液にポリエチレングリコール(富士フイルム和光純薬社製、分子量400万)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、20質量部になるように添加した。その後、固形分濃度が0.6質量%となるよう濃度調整を行った。シートの仕上がり坪量が75g/m2になるように分散液を計量して、市販のアクリル板に塗工し70℃の乾燥機で24時間乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置した。以上の手順によりシートが得られ、その厚みは50μmであった。
【0155】
<樹脂層の形成>
ポリカーボネート系樹脂(三菱ガス化学株式会社製、ユピゼータFPC2136)をトルエンで希釈した溶液(固形分濃度10質量%)を、上記で得たシート上に、#24ワイヤーバーで塗布し、100℃の乾燥機で60分間乾燥することで積層シート(パターン形成用基材)を得た。このときの樹脂層の厚さは5μmであった。
【0156】
<シートのヘーズ>
JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いてヘーズを測定した。樹脂層塗工後の積層シート(パターン形成用基材)のヘーズは、1.0%であった。
【0157】
<シートの全光線透過率>
JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて全光線透過率を測定した。樹脂層塗工後の積層シート(パターン形成用基材)の全光線透過率は、91%であった。
【0158】
<シートの線熱膨張率>
樹脂層塗工後の積層シート(パターン形成用基材)をレーザーカッターにより、幅4mm×長さ30mmに切り出した。これを、熱機械分析装置(日立ハイテク社製、TMA7100)にセットして、引っ張りモードでチャック間20mm、荷重10g、窒素雰囲気下で室温から180℃まで5℃/分で昇温、180℃から25℃まで5℃/分で降温した際の、100℃から150℃の測定値から線熱膨張率(ppm/K)を求めた。樹脂層塗工後の積層シート(パターン形成用基材)の線熱膨張率は、10ppm/Kであった。
【0159】
(パターン形成用基材上への導電性パターンの形成)
露光装置は、真空紫外光(以下、VUV)光源装置(ウシオ電機株式会社製SUS740、波長150~200nm)を使用した。まず、露光装置の処理チャンバ内のワークステージ上に、上記で得られたパターン形成用基材(直径85mmの円形)を設置した。次いで、処理チャンバ内に設置したパターン形成用基材上に、フォトマスク(ミタニマイクロニクス社製、5インチサイズ、合成石英製、L/S=10/10,15/15,20/20,30/30,40/40,50/50μm)を設置した。この際、シムテープ(ミスミ社製、厚さ20μm、SUS製)を用い、パターン形成用基材とフォトマスクのギャップが20μmとなるようにした。その後、露光装置のランプハウジング内部に設けられたガス導入口より、ランプハウジング内部と処理チャンバのフォトマスク上部空間を窒素ガスで充填した。このとき、処理チャンバのフォトマスク上部空間への窒素ガス充填は、ランプハウジングと処理チャンバのフォトマスク上部空間を空間的に連結する通過孔を通じ行った。なお、処理チャンバのフォトマスク上部空間とフォトマスク下面のワーク処理空間は、気密に分割されており、ワーク処理空間への窒素ガスの流入はなく、酸素を含む大気雰囲気となっている。
【0160】
次いで、露光装置を用い、5分間露光した。このとき、露光装置のランプハウジング内のVUVショートアークフラッシュランプ(VUV-SFL)により放出されたVUVは、放物面ミラーを通じ、ワークステージに対し、平行光として照射した。VUVを5分照射した後の、パターン形成用基材の表面の露光箇所に純水を滴下した際の水接触角は、27°であった。なお、露光する前のパターン形成用基材の表面の水接触角は87°であった。
【0161】
露光されたパターン形成用基材を、露光装置から取り外し、水平台上に、パターン形成用基材を設置した。次に、パターン形成用基材上に、導電性インク(バンドー化学社製、FlowMetal SW1000シリーズ)を、ベーカーアプリケーター(ヨシミツ精機社製YBA型)を用い、塗布厚12.5μmで塗布し、ホットプレート上で、120℃の条件にて30分間乾燥させた。
【0162】
(評価)
パターン形成用基材のVUVが照射された箇所を光学顕微鏡で観察し評価した。その結果、パターン形成用基材の樹脂層の表面には、導電性インクが塗布された箇所が確認された。なお、10/10,20/20,30/30,40/40,50/50μmのL/Sパターンは、分離されて形成されていた。
【符号の説明】
【0163】
1 フラッシュランプ(VUV-SFL)
2 放物面ミラー
3 ランプハウジング
3a 第1のガス導入口
3b 第1の排気口
3c 通過孔
4 透過性窓部
5 処理チャンバ
5a 第2の排気口
5b 第2のガス導入口
5c 第3のガス排気口
6 フォトマスク
7 ワークステージ
11 給電手段
12 トリガ回路部
13 電源部
14 充電器
20 パターン形成用基材
22 基層
24 樹脂層
50 パターン構造含有シート
52 真空紫外線照射部
54 導電部
100 真空紫外光照射処理装置
A 上部空間
B ワーク処理空間
図1
図2
図3
図4
図5