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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】観察装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20230116BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/36
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019107620
(22)【出願日】2019-06-10
(65)【公開番号】P2020201364
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】林 真市
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-190054(JP,A)
【文献】特開2002-031758(JP,A)
【文献】特開2000-010007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察物体に照射される照明光の光路上に配置された第1強度変調部であって、前記照明光の強度分布を変調する前記第1強度変調部と、
前記照明光が照射された前記観察物体からの観察光の光路上に配置された第2強度変調部であって、前記観察光の強度分布を変調する前記第2強度変調部と、を備え、
前記第1強度変調部の第1光利用率分布は、第1向きに減少し、
前記第2強度変調部の第2光利用率分布は、前記第1向きに対応する第2向きに増加し、
前記観察物体に位相勾配が無い場合において、前記第1強度変調部のより高い光利用率を有する領域が前記第2強度変調部のより低い光利用率を有する領域に投影される
ことを特徴とする観察装置。
【請求項2】
請求項1に記載の観察装置において、
前記第1強度変調部、前記第2強度変調部の光利用率分布は光利用率がゼロの領域を含まない
ことを特徴とする観察装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の観察装置において、さらに、
前記第2強度変調部で変調された前記観察光に基づいて、前記観察物体の画像データを取得する画像取得部と、
前記画像取得部で取得した前記画像データに基づいて、前記観察物体の画像のコントラストを強調する処理を行うコントラスト強調部と、を備える
ことを特徴とする観察装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記観察物体の光学像を形成する軸上の主光線に対する前記第1強度変調部の第1光利用率と前記第2強度変調部の第2光利用率の積は、前記光学像を形成する軸外の主光線に対する前記第1強度変調部の第1光利用率と前記第2強度変調部の第2光利用率の積と実質的に等価である
ことを特徴とする観察装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記第2強度変調部は、前記第1強度変調部と光学的に共役な位置に配置される
ことを特徴とする観察装置。
【請求項6】
請求項に記載の観察装置において、さらに、
前記照明光を前記観察物体に照射する照明光学系と、
観察光を検出器に導く観察光学系と、を備え、
前記第1強度変調部は、前記照明光学系の瞳位置、前記照明光学系の瞳位置の近傍、前記瞳と光学的に共役な位置、又は、前記瞳と光学的に共役な位置の近傍に配置され、
前記第2強度変調部は、前記観察光学系の瞳位置、前記観察光学系の瞳位置の近傍、前記瞳と光学的に共役な位置、又は、前記瞳と光学的に共役な位置の近傍に配置される
ことを特徴とする観察装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記第1光利用率分布は、互いに異なる光学濃度に対応する少なくとも3つの光利用率を有し、
前記第2光利用率分布は、互いに異なる光学濃度に対応する少なくとも3つの光利用率を有する
ことを特徴とする観察装置。
【請求項8】
請求項に記載の観察装置において、
前記第1光利用率分布が示す光学濃度分布は、前記第1向きに線形な分布であり、
前記第2光利用率分布が示す光学濃度分布は、前記第2向きに線形な分布である
ことを特徴とする観察装置。
【請求項9】
請求項に記載の観察装置において、
前記第1光利用率分布が示す光学濃度分布は、前記第1向きに沿ってステップ状の変化する分布であり、
前記第2光利用率分布が示す光学濃度分布は、前記第2向きに沿ってステップ状の変化する分布である
ことを特徴とする観察装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の観察装置において、さらに、
開口絞りを有し、
前記開口絞りは、開口径を調整する構造又は心出し構造の少なくとも一方を有する
ことを特徴とする観察装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の観察装置において、さらに、
前記第2強度変調部を光軸方向に動かす移動部を備える
ことを特徴とする観察装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記第1強度変調部と前記第2強度変調部は、光路に対して挿脱自在に配置される
ことを特徴とする観察装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の観察装置において、さらに、
前記第1強度変調部を光軸周りに回転する第1回転部と、
前記第2強度変調部を光軸周りに回転する第2回転部を備える
ことを特徴とする観察装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記第1強度変調部の第1波長に対する第1光利用率分布は、前記第1向きに減少し、
前記第2強度変調部の第1波長に対する第2光利用率分布は、前記第2向きに増加し、
前記第1強度変調部の前記第1波長とは異なる第2波長に対する第1光利用率分布は、前記第1向きとは異なる第3向きに減少し、
前記第2強度変調部の前記第2波長に対する第2光利用率分布は、前記第3向きに対応する第4向きに増加する
ことを特徴する観察装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記第1強度変調部と前記第2強度変調部のそれぞれは、光学フィルタであり、
前記第1光利用率分布と前記第2光利用率分布のそれぞれは、強度透過率分布である
ことを特徴する観察装置。
【請求項16】
請求項15に記載の観察装置において、
前記光学フィルタは、楔形状を有する吸収型のNDフィルタを含む
ことを特徴する観察装置。
【請求項17】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記第1強度変調部と前記第2強度変調部のそれぞれは、光学ミラーであり、
前記第1光利用率分布と前記第2光利用率分布のそれぞれは、反射率分布である
ことを特徴する観察装置。
【請求項18】
照明光を観察物体に照射する照明光学系と、
前記観察物体からの観察光を検出器に導く観察光学系と、
前記照明光学系と前記観察光学系で共有する光路に配置され、前記照明光の強度分布と前記観察光の強度分布を変調する強度変調部と、を備え、
前記照明光学系と前記観察光学系は、対物レンズを共有し、
前記強度変調部は、前記対物レンズの射出瞳位置又は前記射出瞳位置と光学的に共役な位置に配置され、
前記強度変調部の光利用率分布は、前記対物レンズの光軸と直交する所定の向きに減少し、
前記観察物体に位相勾配が無い場合において、前記強度変調部に入射する前記照明光と前記観察光は光軸に対して対称な位置を通過する
ことを特徴とする観察装置。
【請求項19】
請求項1乃至請求項18のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記観察装置は、顕微鏡装置である
ことを特徴する観察装置。
【請求項20】
請求項1乃至請求項18のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記観察装置は、セルアナライザーである
ことを特徴する観察装置。
【請求項21】
請求項1乃至請求項18のいずれか1項に記載の観察装置において、
前記観察装置は、材料検査装置である
ことを特徴する観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無染色で生細胞を観察する方法の一つとして、微分干渉観察法(Differential Interference Contrast microscopy、以降、DIC法と記す。)が知られている。DIC法は、
偏光の干渉によって生じる明暗のコントラストで観察物体を可視化する観察法であり、例えば、特許文献1に記載されている。DIC法は、位相勾配に応じた明るさによって立体感のある画像(以降、位相勾配画像と記す。)を得ることができるため、生細胞の生育状態などを把握しやすいという点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】仏国特許発明第1059123号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
偏光を用いて位相勾配画像を得るDIC法では、偏光の乱れを抑制するため、歪みの少ない専用の対物レンズと専用のコンデンサレンズが用いられるのが通常である。このため、DIC法に用いられる装置は高価になりやすく、安価な機器で観察物体の位相勾配画像を得る技術が求められている。
【0005】
以上のような実情から、本発明の一側面に係る目的は、安価な機器構成で観察物体の位相勾配画像を得る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る観察装置は、観察物体に照射される照明光の光路上に配置された第1強度変調部であって、前記照明光の強度分布を変調する前記第1強度変調部と、前記照明光が照射された前記観察物体からの観察光の光路上に配置された第2強度変調部であ
って、前記観察光の強度分布を変調する前記第2強度変調部と、を備える。前記第1強度変調部の第1光利用率分布は、第1方向に減少し、前記第2強度変調部の第2光利用率分布は、前記第1方向に対応する第2方向に増加し、前記観察物体に位相勾配が無い場合において、前記第1強度変調部のより高い光利用率を有する領域が前記第2強度変調部のより低い光利用率を有する領域に投影される
【0007】
本発明の別の態様に係る観察装置は、照明光を観察物体に照射する照明光学系と、前記観察物体からの観察光を検出器に導く観察光学系と、前記照明光学系と前記観察光学系で共有する光路に配置され、前記照明光の強度分布と前記観察光の強度分布を変調する強度変調部と、を備える。前記照明光学系と前記観察光学系は、対物レンズを共有する。前記強度変調部は、前記対物レンズの射出瞳位置又は前記射出瞳位置と光学的に共役な位置に配置され、前記強度変調部の光利用率分布は、前記対物レンズの光軸と直交する所定の向きに減少し、前記観察物体に位相勾配が無い場合において、前記強度変調部に入射する前記照明光と前記観察光は光軸に対して対称な位置を通過する
【発明の効果】
【0008】
上記の態様によれば、安価な機器構成で観察物体の位相勾配画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】顕微鏡装置1の構成を例示した図である。
図2】変調素子8及び変調素子9の作用について説明するための図である。
図3】シフト量と像強度の関係を例示した図である。
図4】瞳位置近傍に配置された場合における変調素子8及び変調素子9の作用について説明するための図である。
図5】観察装置10の構成を例示した図である。
図6】第1実施形態に係る顕微鏡装置100の構成を例示した図である。
図7】変調素子113の強度透過率分布を例示した図である。
図8】変調素子132の調整方法について説明するための図である。
図9】コントラスト強調処理の効果を例示した図である。
図10】照明光学系の開口数と画像のコントラストの関係の一例を示した図である。
図11】照明光学系の開口数と画像のコントラストの関係の別の例を示した図である。
図12】変調素子の強度透過率分布と画像のコントラストの関係の一例を示した図である。
図13】顕微鏡装置100に用いられる対物レンズ119の一例を示した図である。
図14】変調素子の角度を変更する例を示した図である。
図15】第2実施形態に係る顕微鏡装置300の構成を例示した図である。
図16】第3実施形態に係る顕微鏡装置400の構成を例示した図である。
図17】第4実施形態に係る顕微鏡装置500の構成を例示した図である。
図18】第5実施形態に係るセルアナライザー600の構成を例示した図である。
図19】変調素子620の製造方法について説明するための図である。
図20】第6実施形態に係る材料検査装置700の構成を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、顕微鏡装置1の構成を例示した図である。図1に示す顕微鏡装置1は、微分干渉顕微鏡で得られる画像に類似する位相勾配画像を得る観察装置である。
【0011】
顕微鏡装置1は、観察物体4に照射される照明光の光路上に配置された変調素子8と、照明光が照射された観察物体4からの観察光の光路上に配置された変調素子9を備えている。顕微鏡装置1は、さらに、光源2と、照明光学系3と、観察光学系5と、撮像素子6と、表示装置7を備えてもよい。
【0012】
光源2は、例えば、ハロゲンランプである。光源2は、観察物体4を照明する照明光を出射する。照明光学系3は、光源2から出射した照明光を観察物体4に照射する。観察光学系5は、観察光を撮像素子6へ導く。撮像素子6は、例えば、CCD(Charge-Coupled
Device)イメージセンサ、CMOS(ComplementaryMetal-Oxide-Semiconductor)イメ
ージセンサなどの検出器である。撮像素子6は、変調素子9によって変調された観察物体4からの観察光に基づいて観察物体4の画像データを取得する画像取得部の一例である。表示装置7は、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(OLED)ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどである。表示装置7は、微分干渉顕微鏡で得られる画像に類似する観察物体4の位相勾配画像を表示する。
【0013】
変調素子8は、照明光の強度分布を変調する第1強度変調部の一例である。変調素子8は、入射光に対して減光した透過光を出射する光学フィルタである。変調素子8は、具体的には、例えば、グラデーションフィルタである。変調素子8は、矢印A1に示す向き(以降、第1向きと記す。)に単調減少する強度透過率分布を有している。変調素子8は、例えば、レンズ3a、レンズ3b、レンズ3cからなる照明光学系3の瞳位置に配置されている。
【0014】
変調素子9は、観察光の強度分布を変調する第2強度変調部の一例である。変調素子9
は、入射光に対して減光した透過光を出射する光学フィルタであり、具体的には、例えば、グラデーションフィルタである。変調素子9は、第1向きに対応する矢印A2に示す向き(以降、第2向きと記す。)に単調増加する強度透過率分布を有している。変調素子9は、例えば、レンズ5a、レンズ5bからなる観察光学系5の瞳位置に配置されている。
【0015】
なお、本明細書において“方向”とは、直線で定義され、“向き”とは、矢印で定義される。また、本明細書において、ある方向によって定義される互いに逆向きの2つの向きの一方を、ある方向の正の向きと表現し、2つの向きの他方を、ある方向の負の向きと表現する。つまり、例えば、北向きを南北方向の正の向きと表現し、南向きを南北方向の負の向きと表現する。なお、正負に意味はなく、従って、北向きを南北方向の負の向きと表現し、南向きを南北方向の正の向きと表現してもよい。
【0016】
また、本明細書において、“単調減少”とは、連続的且つ単調に減少する場合の他、少なくとも3段以上のステップで段階的に減少するものを含むものとする。つまり、強度透過率が第1向きに単調減少するとは、強度透過率分布の第1向きの位置に対する微分値が任意の位置において0以下であり、微分値の最小値が0でないことをいう。また、“単調増加”とは、連続的且つ単調に増加する場合の他、少なくとも3段以上のステップで段階的に増加するものを含むものとする。つまり、強度透過率が第2向きに単調増加するとは、強度透過率分布の第2向きの位置に対する微分値が任意の位置において0以上であり、微分値の最大値が0ではないことをいう。
【0017】
また、本明細書において、光軸と直交する2つ平面における“対応する向き”とは、両方の平面に入射する任意の光線が2つの平面を通過する位置によって定義される。具体的には、2つの平面を平面FP1、平面FP2とし、平面FP1と平面FP2の両方に入射する光線が平面FP1、平面FP2を通過する位置を位置PP1、位置PP2とした場合、平面FP1における光軸から位置PP1に向かう向きと、平面FP2における光軸から位置PP2に向かう向きは、互いに対応する向きである。2つ平面が光学的に共役な位置にある場合であれば、一方の平面上に定義されたベクトルを他方の平面に投影したときに、一方の平面における投影前のベクトルの向きと、他方の平面における投影後のベクトルの向きとは、互いに対応する向きである。この例では、変調素子8の位置における第1向きのベクトルを変調素子9の位置に投影したとき、変調素子9の位置に投影されたベクトルの向きは第2向きである。従って、第1向きと第2向きは互いに対応している。
【0018】
以上のように、変調素子8は第1向きに単調減少する強度透過率分布を有し、且つ、変調素子9は第1向きに対応する第2向きに単調増加する強度透過率分布を有するように、変調素子8と変調素子9を配置することで、変調素子8と変調素子9は強度透過率分布に関して相補的関係を有することになる。ここでいう相補的関係とは、観察物体4に位相勾配がない場合において、変調素子8のより高い強度透過率を有する領域を通過した光線が変調素子9のより低い強度透過率を有する領域を通過する関係をいい、その結果、変調素子8の強度透過率分布と変調素子9の強度透過率分布とを合成した強度透過率分布(以降、合成強度透過率分布と記す。)が変調素子8と変調素子9の一方の強度透過率分布よりも均一に近づく関係をいう。
【0019】
図2は、変調素子8及び変調素子9の作用について説明するための図である。図3は、シフト量と像強度の関係を例示した図である。図2に示すように、変調素子8の投影像8iが投影される位置は、観察物体4が有する位相勾配に応じて光軸と直交する方向にシフトする。具体的には、図2(a)に示すように、観察物体4の位相勾配を有しない部分4aを観察する場合には、部分4aを平行平板とみなすことができるため、投影像8iは、光軸を中心に投影される。これに対して、図2(b)に示すように、正の位相勾配を有する部分4bを観察する場合には、投影像8iは、光軸と直交する方向の正の向きにシフト
し、図2(c)に示すように、負の位相勾配を有する部分4cを観察する場合には、投影像8iは、光軸と直交する方向の負の向きにシフトする。
【0020】
このため、変調素子8と変調素子9が強度透過率分布に関して相補的関係を有する顕微鏡装置1では、観察物体の位相勾配に応じて、合成強度透過率分布が変化する。詳細には、合成強度透過率分布は、観察物体の位相勾配の有無によらず変調素子8と変調素子9の相補的関係によって実質的にフラットな特性を有するが、観察物体の位相勾配に応じて合成強度透過率の値と合成強度透過率の値が0ではない範囲とが変化する。その結果、顕微鏡装置1は、観察物体4の各点は位相勾配に応じた明るさで撮像素子6に投影されるため、観察物体4の位相勾配が可視化された位相勾配画像を得ることができる。
【0021】
より詳細には、観察物体4の位相勾配を有しない部分4aを観察する場合には、図2(a)に示すように、照明光学系3の瞳の中心である点F2を通過した光線は観察光学系5の瞳の中心である点F12を通過する。そして、照明光学系3の瞳の端である点F1、点F3を通過した光線は観察光学系5の瞳の端である点F11、点F13を通過する。このため、合成強度透過率分布は、観察光学系5の瞳全域で中程度の値を有することになる。従って、観察物体4の位相勾配を有しない部分4aは、図3に示すように、中程度の明るさ(像強度1)で撮像素子6に投影される。
【0022】
正の位相勾配を有する部分4bを観察する場合には、図2(b)に示すように、照明光学系3の瞳の中心である点F5を通過した光線は観察光学系5の瞳の中心から逸れた点F15を通過する。変調素子9は、点F15において光軸上の点より高い強度透過率を有している。そのため、合成強度透過率分布は、位相勾配を有しない部分4aを観察する場合よりも高い値を有する。さらに、照明光学系3の瞳の一端である点F6を通過した光線は観察光学系5の瞳の一端よりも内側の点F16を通過する。つまり、観察光学系5の瞳の一端には、光線が入射しない。このため、合成強度透過率分布は、観察光学系5の瞳全域ではなく瞳の一部でのみ0ではない値を有する。なお、照明光学系3の瞳の他端を通過した光線は途中でケラレしてしまい、観察光学系5の瞳に入射しない。照明光学系3の瞳の他端よりも内側の点F4を通過した光線が観察光学系5の瞳の一端である点F14に入射する。従って、観察物体4の正の位相勾配を有する部分4bは、合成強度透過率の値の増加分が合成強度透過率の値が0ではない範囲の減少分に勝っているため、図3に示すように、位相勾配を有しない部分よりも高い明るさで撮像素子6に投影される。
【0023】
負の位相勾配を有する部分4cを観察する場合には、図2(c)に示すように、照明光学系3の瞳の中心である点F8を通過した光線は観察光学系5の瞳の中心から逸れた点F18を通過する。変調素子9は、点F18において光軸上の点より低い強度透過率を有しているため、合成強度透過率分布は、位相勾配を有しない部分4aを観察する場合よりも低い値を有する。さらに、照明光学系3の瞳の一端である点F7を通過した光線は観察光学系5の瞳の一端よりも内側の点F17を通過する。つまり、観察光学系5の瞳の一端には、光線が入射しない。このため、合成強度透過率分布は、観察光学系5の瞳全域ではなく瞳の一部でのみ0ではない値を有する。なお、照明光学系3の瞳の他端を通過した光線は途中でケラレしてしまい、観察光学系5の瞳に入射しない。照明光学系3の瞳の他端よりも内側の点F9を通過した光線が観察光学系5の瞳の一端である点F19に入射する。従って、観察物体4の負の位相勾配を有する部分4cは、合成強度透過率の値が減少し、且つ、合成強度透過率の値が0ではない範囲も減少する。そのため、図3に示すように、位相勾配を有しない部分よりも低い明るさで撮像素子6に投影される。
【0024】
なお、図3の横軸は、光軸を基準とした投影像8iのシフト量を瞳半径で割った値を示している。つまり、横軸の値が0の状態は、投影像8iが光軸上に投影された状態を示し、横軸の値が±1の状態は、投影像8iが瞳半径だけ光軸からシフトした位置に投影され
た状態を示している。横軸の値が±2の状態は、投影像8iが瞳径だけ光軸からシフトした状態を示している。横軸の値が2を超える又は-2を下回ると、投影像8iは変調素子9外に投影されることになるため、像強度は0になる。また、図3の縦軸は、像強度を示している。像強度は、合成透過率分布を観察光学系5の瞳全域で積分したものであり、シフト量0、つまり、位相勾配なしにおける像強度が1になるように規格化されている。
【0025】
以上のように、顕微鏡装置1では、位相勾配に応じてシフト量が単調に変化し、シフト量に応じて像強度が単調に変化する。その結果、位相勾配の高低が像強度の強弱に変換されるため、顕微鏡装置1は、観察物体4の位相勾配を可視化することができる。即ち、顕微鏡装置1によれば、照明光学系3と観察光学系5のそれぞれに相補的関係を有する変調素子を配置するだけで位相勾配を可視化することが可能であり、安価な機器構成で観察物体の位相勾配画像を得ることができる。
【0026】
図1では、変調素子8を照明光学系3の瞳位置に、変調素子9を観察光学系5の瞳位置に配置する例を示したが、変調素子8は、照明光学系3の瞳と光学的に共役な位置に配置されてもよい。変調素子9は、観察光学系5の瞳と光学的に共役な位置に配置されてもよい。その場合も、変調素子9と変調素子8の位置の光学的に共役な関係は維持される。さらに、変調素子9と変調素子8の位置の光学的に共役な関係が維持される限り、変調素子8は、照明光学系3の瞳位置の近傍に配置されてもよい。変調素子8は、照明光学系3の瞳と光学的に共役な位置の近傍に配置されてもよい。また、変調素子9と変調素子8の位置の光学的に共役な関係が維持される限り、変調素子9は、観察光学系5の瞳位置の近傍に配置されてもよく、観察光学系5の瞳と光学的に共役な位置の近傍に配置されてもよい。
【0027】
図4は、瞳位置近傍に配置された場合における変調素子8及び変調素子9の作用について説明するための図である。図4には、軸上光線の光線束PR1と軸外光線の光線束PR2が描かれている。図4に示すように、瞳位置からずれた位置に変調素子が配置されている場合でも、物体面4pの各位置を透過し物体面4pの像を形成する光線束の主光線に対する変調素子8の強度透過率と変調素子9の強度透過率との積が、物体面4pの位置によらず実質的に均一であれば、相補的関係が成立する。これは、観察物体の光学像を形成する軸上の主光線に対する第1強度変調部の第1光利用率と第2強度変調部の第2光利用率の積が、その光学像を形成する軸外の主光線に対する第1強度変調部の第1光利用率と第2強度変調部の第2光利用率の積と実質的に等価である、と言い換えることができる。ただし、軸外光線の光線高は、瞳位置(瞳位置Po、瞳位置Pc)からずれた位置では、瞳位置に比べて高くなる。そのため、瞳位置からずれた位置に配置する場合には、瞳位置に配置する場合よりも大きな変調素子が必要となる。従って、変調素子8と変調素子9は、瞳位置又は瞳と光学的に共役な位置又はそれらの近傍に配置されることが望ましい。
【0028】
図1では、変調素子9を変調素子8と光学的に共役な位置に配置する例を示したが、第1強度変調部と第2の強度変調部は、強度透過率分布に関して相補的関係を有していればよい。また、第1強度変調部と第2の強度変調部の位置関係は、光学的に共役な関係に限らない。例えば、第1強度変調部と第2の強度変調部は、図5に示すように、光学系を挟むことなく、観察物体を挟んで配置されてもよい。
【0029】
図5は、観察装置10の構成を例示した図である。図5に示す観察装置10は、観察物体12に照射される照明光の光路上に配置された変調素子11と、照明光が照射された観察物体12からの観察光の光路上に配置された変調素子13と、観察光を撮像素子16に導くレンズ14及びレンズ15と、撮像素子16と、を含んでいる。変調素子11と変調素子13は、観察物体12を挟んで配置されている。
【0030】
変調素子11は、単調減少する強度透過率分布を有し、照明光の強度分布を変調する第1強度変調部の一例である。変調素子13は、単調増加する強度透過率分布を有し、観察光の強度分布を変調する第2強度変調部の一例である。変調素子11と変調素子13は、変調素子11の強度透過率分布が単調減少する向きと変調素子13の強度透過率分布が単調増加する向きが同じ向きになるように、配置されている。この場合も、観察物体12に位相勾配がない場合において、変調素子11のより高い強度透過率を有する領域を通過した光線が変調素子13のより低い強度透過率を有する領域を通過する。そのため、第1強度変調部と第2の強度変調部は、強度透過率分布に関して相補的関係を有している。
【0031】
このため、観察装置10でも、図5に示すように、観察物体12の位相勾配を有しない平坦な部分(点S1、点S4)は、中間的な明るさで撮像素子16(画素P1、画素P4)に投影され、観察物体12の位相勾配を有する部分(点S2、点S3)は、位相勾配に応じた明るさで撮像素子16(画素P2、画素P3)に投影される。従って、観察装置10によっても、顕微鏡装置1と同様に位相勾配を可視化することができる。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0032】
[第1実施形態]
図6は、本実施形態に係る顕微鏡装置100の構成を例示した図である。図7は、変調素子113の強度透過率分布を例示した図である。図8は、変調素子132の調整方法について説明するための図である。図9は、コントラスト強調処理の効果を例示した図である。
【0033】
顕微鏡装置100は、図6に示すように、鏡基110と鏡筒120の間にアダプタ130を備える倒立顕微鏡と、カメラ140と、制御装置150と、表示装置160を備えている。
【0034】
鏡基110は、光源111と、変調素子113と、コンデンサ114と、ステージ115と、対物レンズ116と、ノーズピース117と、結像レンズ118を備えている。鏡筒120は、単眼又は双眼鏡筒であり、接眼レンズ121を備えている。
【0035】
変調素子113は、上述した第1強度変調部の一例であり、コンデンサ114の瞳位置に配置されたグラデーションフィルタである。変調素子113は、図7に示すように、第1向きに単調減少する強度透過率分布を有している。なお、図7において、Tは強度透過率を示し、ξは瞳面内における第1向きの位置を示している。位置ξ=0は瞳面の中心位置である。位置ξ=-1、1は、それぞれ瞳面における瞳の端部位置である。変調素子113の強度透過率分布は、位置ξ=0において光学濃度(OD)1を示し、位置ξ=-1において光学濃度(OD)2を示し、位置ξ=1において光学濃度(OD)0を示している。つまり、変調素子113の強度透過率分布は、光学濃度に換算すると、第1向きに線形な特性を有している。さらに換言すると、変調素子113の強度透過率分布が示す光学濃度分布は、第1向きに線形な分布である。
【0036】
アダプタ130は、光路切り替えミラー136を備えている。光路切り替えミラー136の位置を変更することで、結像レンズ118が形成した光学像を接眼レンズ121の前側焦点位置に投影する目視観察状態と、結像レンズ118が形成した光学像をカメラ140に投影する撮影状態と、を切り換えることができる。
【0037】
アダプタ130は、さらに、リレーレンズ131と、変調素子132と、スライダ133と、ダイヤル134と、リレーレンズ135を備えている。変調素子132が設置されているスライダ133は、リレーレンズ131とリレーレンズ135の間に設けられている。そして、スライダ133を所定の位置まで挿入することで、変調素子132上に変調
素子113の像が投影される。
【0038】
変調素子132は、上述した第2強度変調部の一例であり、対物レンズ116の瞳共役位置に配置されたグラデーションフィルタである。変調素子132は、一定の向きに単調増加する強度透過率分布を有している。変調素子132は、図8に示すように、スライダ133に設けられたダイヤル134の回転に連動して方位が変化する。従って、利用者は、ダイヤル134を操作することで、強度透過率が単調増加する向きを調整することが可能である。利用者は、変調素子132の強度透過率分布が第1向きに対応する第2向きに単調増加するように調整する。これにより、変調素子113と変調素子132は強度透過率分布に関して相補的関係を有する。なお、変調素子132の強度透過率分布が示す光学濃度分布は、第2向きに線形な分布であることが望ましい。
【0039】
カメラ140は、観察光学系によって導かれた観察物体からの光に基づいて観察物体の画像データを取得する画像取得部であり、撮像素子141を含んでいる。カメラ140は、画像データに基づいて、表示装置160に表示される観察物体の画像のコントラストを強調する強調処理を行ってもよい。即ち、カメラ140は、画像取得部であり、コントラスト強調部であってもよい。
【0040】
制御装置150は、カメラ140を制御する制御装置であり、ダイヤル151を備えている。利用者がダイヤル151を回転することで、顕微鏡装置100は、強調処理におけるコントラストの強調量を調整することができる。なお、制御装置150は、表示装置160を制御する制御装置であってもよい。この場合、利用者がダイヤル151を回転することで、表示装置160が画像データに基づいて、表示装置160に表示される観察物体の画像のコントラストを強調する強調処理を行ってもよい。
【0041】
表示装置160は、画像データに基づいて観察物体の画像のコントラストを強調するコントラスト強調部161を備えている。
【0042】
以上のように構成された顕微鏡装置100によれば、変調素子113と変調素子132の相補的関係によって、位相勾配に応じた明るさで観察物体の光学像をカメラ140上に形成することができる。このため、図9に示すように、微分干渉顕微鏡で得られる画像201に類似した位相勾配画像である画像202及び画像203を得ることができる。また、顕微鏡装置100では、変調素子113と変調素子132が線形な光学濃度分布を有しているため、位相勾配に応じて明るさを滑らかに変化させることができる。なお、画像201、画像202及び画像203は、大小2つの半球状の物体を撮影した画像である。画像202は、カメラ140でコントラストを強調する前の画像であり、画像203は、カメラ140でコントラストを強調した後の画像である。
【0043】
顕微鏡装置100では、変調素子113と変調素子132によって位相勾配を像強度に変換し、さらに、画像処理によって像強度の差によって生じるコントラストを強調する。これにより、図9の画像203に示すように、位相勾配が十分なコントラストで視認される画像を得ることができる。また、顕微鏡装置100では、常光線と異常光線をずらして合成することによって像を形成する微分干渉顕微鏡に比べて高い解像度を実現可能である。
【0044】
また、顕微鏡装置100では、既存の顕微鏡にアダプタ130を追加し、さらに、コンデンサ114の瞳位置に変調素子113を配置するだけで位相勾配画像を得ることができる。従って、顕微鏡装置100によれば、既存の顕微鏡装置を利用した安価な構成によって、観察物体の位相勾配画像を得ることができる。また、顕微鏡装置100では、微分干渉顕微鏡とは異なり、偏光特性に左右されることなく位相勾配画像を得ることができる。
このため、観察物体を偏光が乱しやすいプラスチック容器に収容したまま観察することができる。
【0045】
図10及び図11は、照明光学系の開口数と画像のコントラストの関係を例示した図である。図6には図示しないが、顕微鏡装置100は、照明光路上に開口絞りを有してもよい。開口絞りは、開口径を調整する構造を有することが望ましい。開口絞りを用いて照明光学系の開口数を調整することで、デフォーカス特性が変化する。図10に示す画像204から画像207は、画像処理によってコントラストを強調する前の画像であり、開口絞りで制限された照明光学系の開口数(NA)を0.6から0.3まで段階的に小さくしたときの画像である。また、図11に示す画像208から画像211は、画像処理によってコントラストを強調した後の画像であり、開口絞りで制限された照明光学系の開口数(NA)を0.6から0.3まで段階的に小さくしたときの画像である。図10及び図11に示すように、照明光学系の開口数を小さくすることで、焦点深度が深くなる。そのため、デフォーカスした状態であっても観察物体を探しやすくすることができる。
【0046】
また、開口絞りは、さらに、心出し構造を有してもよい。心出し構造により主光線の光軸に対する傾きを調整することにより、デフォーカスに伴って像位置が変化する事象の発生を抑制することができる。なお、開口絞りは開口径を調整する構造又は心出し構造の少なくとも一方を有することが望ましい。
【0047】
図12は、変調素子の強度透過率分布と画像のコントラストの関係の一例を示した図である。顕微鏡装置100は、線形な光学濃度分布を有する変調素子113及び変調素子132を有するが、変調素子113と変調素子132の各々の光学濃度分布は、互いに異なる光学濃度に対応する少なくとも3つの強度透過率を有することが望ましい。従って、変調素子113は、図7に示すような第1向きに線形な光学濃度分布の代わりに、第1向きに沿ってステップ状の変化する光学濃度分布であってもよい。また、変調素子132は、第2向きに線形な光学濃度分布の代わりに、第2向きに沿ってステップ状の変化する光学濃度分布であってもよい。図12に示す画像212から画像214は、画像処理によってコントラストを強調した後の画像であり、互いに光学濃度分布が異なる変調素子を用いて取得した画像である。画像212は、線形な光学濃度分布を有する変調素子を用いて取得した画像である。画像213は、3段階に変化する光学濃度分布を有する変調素子を用いて取得した画像である。画像214は、2段階に変化する光学濃度分布を有する変調素子を用いて取得した画像である。図12に示すように、変調素子の光学濃度分布が3つ以上の光学濃度を有することで、デフォーカス像にゆがみを生じることなく観察物体の各部分を観察することができる。
【0048】
図13は、顕微鏡装置100に用いられる対物レンズ119の一例を示した図である。顕微鏡装置100では、第2強度変調部である変調素子132をアダプタ130を用いて対物レンズ116の共役位置に配置する例を示したが、変調素子132は、対物レンズの瞳位置に配置されてもよい。その場合、対物レンズの瞳位置は対物レンズ内部に位置することもあるため、顕微鏡装置100は、対物レンズ116の代わりに、図13に示すような変調素子132を対物レンズ鏡筒内に収容した対物レンズ119を備えてもよい。変調素子を収容した対物レンズを用いることで、スライダ133が不要となると同時に、対物レンズ毎に適切な変調素子を用いることが可能となる。
【0049】
図14は、変調素子の角度を変更する例を示した図である。図13では、対物レンズ毎に変調素子を有することで、対物レンズに応じた適切な変調素子を用いる例を示したが、顕微鏡装置100は、光軸に対する変調素子の角度を変更する構造を有してもよい。顕微鏡装置100は、例えば、図14に示すように、変調素子132を回動自在に支持する回転軸132eを有してもよい。この場合、対物レンズの瞳径に合わせて回転軸132eを
回転することで、変調素子132の強度透過率の最も高い領域と最も低い領域を瞳の端部に一致させることができる。このため、変調素子132の強度透過率分布を有効に活用して高いコントラストを得ることができる。
【0050】
[第2実施形態]
図15は、本実施形態に係る顕微鏡装置300の構成を例示した図である。顕微鏡装置300は、顕微鏡本体310と、コンピュータ340と、表示装置160を備えている。なお、PMT332とコンピュータ340は、画像取得部350を構成する。
【0051】
顕微鏡本体310は、レーザ走査型顕微鏡を拡張したものであり、コンピュータ340と協働することで共焦点画像を得ることができる。レーザ光源311から出射したレーザ光は、ビームエキスパンダ312で光束径が拡大される。その後、レーザ光は、開口絞り313、ダイクロイックミラー314、ガルバノミラー315、変調素子316及びリレーレンズ317を経由して、ノーズピース318に装着された対物レンズ319に入射する。変調素子316は、上述した第1強度変調部である。
【0052】
ノーズピース318には、対物レンズ319の他に倍率の異なる対物レンズ320が装着されている。対物レンズ319は、レーザ光を集光して、ステージ321に置かれたプラスチックシャーレ322内の培養細胞323の一点に向かって照射する。レーザ光の集光位置は、ガルバノミラー315でのレーザ光の偏向方向によって制御可能である。従って、ガルバノミラー315を制御することで培養細胞323を二次元に走査することができる。
【0053】
レーザ光が照射された培養細胞323では、蛍光が発生し、対物レンズ319、リレーレンズ317、変調素子316、ガルバノミラー315を経由してダイクロイックミラー314へ入射する。その後、ダイクロイックミラー314で反射した蛍光は、レンズ324によって共焦点絞り325へ照射され、焦点位置から生じた蛍光のみが共焦点絞り325に設けられたピンホールを通過して、光電子増倍管(以降、PMTと記す。)326に入射する。
【0054】
コンピュータ340は、培養細胞323の走査中にPMT326から出力される信号を、レーザ光の走査位置を用いて二次元にマッピングすることで、共焦点画像を得る。
【0055】
顕微鏡本体310は、さらに、ユニバーサルコンデンサ327と、レンズ331と、PMT332を備えている。ユニバーサルコンデンサ327のターレットには、複数の変調素子(変調素子328、変調素子329、変調素子330)が収容されていて、複数の変調素子の中から選択した変調素子を光路上に配置することができる。ユニバーサルコンデンサ327に収容されている複数の変調素子のうちの少なくとも1つは、上述した第2強度変調部であり、この例では、変調素子329は、第2強度変調部である。
【0056】
培養細胞323を透過したレーザ光は、プラスチックシャーレ322を透過してユニバーサルコンデンサ327に入射する。その後、ユニバーサルコンデンサ327内の変調素子329、及び、レンズ331を経由してPMT332へ入射する。
【0057】
コンピュータ340は、培養細胞323の走査中にPMT332から出力される信号を、レーザ光の走査位置を用いて二次元にマッピングすることで、位相勾配画像を得る。なお、コンピュータ340は、位相勾配画像のコントラストを強調する画像処理を行ってもよく、コンピュータ340の代わりに表示装置160のコントラスト強調部161がコントラストを強調する画像処理を行ってもよい。
【0058】
以上のように構成された顕微鏡装置300によれば、共焦点画像と同時に、微分干渉顕微鏡で得られる画像に類似した位相勾配画像を得ることができる。このため、運動する生細胞について、蛍光色素の位置と細胞の構造の相関を正確に把握することができる。
【0059】
[第3実施形態]
図16は、本実施形態に係る顕微鏡装置400の構成を例示した図である。顕微鏡装置400は、顕微鏡本体410と、カメラ430と、制御装置150と、表示装置160を備えている。なお、カメラ430は、画像取得部350を構成する。
【0060】
顕微鏡本体410は、金属顕微鏡である。投光管411内に設けられた光源412から出射した光は、コレクタレンズ413でコリメートされ、変調素子414、照明レンズ415、開口絞り416、視野絞り417を経由して、ハーフミラー418に入射する。ハーフミラー418を反射した光は、その後、ノーズピース419に装着された対物レンズ421によって、ステージ423に置かれた観察物体422に照射される。なお、ノーズピース419には、対物レンズ421の他に倍率の異なる対物レンズ420が装着されている。
【0061】
変調素子414は、上述した第1強度変調部であり、対物レンズ421の瞳と光学的に共役な位置の近傍に配置されている。変調素子414は、照明光路に対して挿脱自在に配置されている。変調素子414は、例えば、図8に示すようなスライダに固定されることで照明光路に対して挿脱自在に配置されてもよい。また、顕微鏡装置400は、変調素子414を光軸周りに回転する第1回転部を備えてもよい。第1回転部は、例えば、図8に示すようなダイヤルとベルトからなる構造であってもよく、ダイヤルを回転することで変調素子414が光軸周りに回転してもよい。
【0062】
観察物体422で反射した光は、対物レンズ421、ハーフミラー418、瞳リレーレンズ424を経由して、変調素子425へ入射する。変調素子425は、上述した第2強度変調部であり、対物レンズ421の瞳と光学的に共役な位置の近傍に配置されている。変調素子425は、観察光路に対して挿脱自在に配置されている。変調素子425は、例えば、図8に示すようなスライダに固定されることで観察光路に対して挿脱自在に配置されてもよい。また、顕微鏡装置400は、変調素子425を光軸周りに回転する第2回転部を備えてもよい。第2回転部は、例えば、図8に示すようなダイヤルとベルトからなる構造であってもよく、ダイヤルを回転することで変調素子425が光軸周りに回転してもよい。さらに、顕微鏡装置400は、変調素子425を光軸方向に動かす移動部を備えてもよい。移動部は、例えば、変調素子425を固定したスライダを光軸方向にスライドさせるボールねじであってもよい。
【0063】
変調素子425を透過した光は、結像レンズ426によってカメラ430に集光し、観察物体422の光学像を形成する。カメラ430は、観察物体の画像データを取得する画像取得部であり、さらに、画像データに基づいて表示装置160に表示される観察物体の画像のコントラストを強調するコントラスト強調部であってもよい。なお、カメラ430の代わりに表示装置160が、画像データに基づいて、表示装置160に表示される観察物体の画像のコントラストを強調する強調処理を行ってもよい。
【0064】
以上のように構成された顕微鏡装置400によれば、既存の金属顕微鏡に、相補的関係を有する変調素子を追加することで、微分干渉顕微鏡で得られる画像に類似した位相勾配画像を得ることができる。また、顕微鏡装置400は、変調素子を光路から取り除くことで、通常の金属顕微鏡としても利用することができる。さらに、顕微鏡装置400は、変調素子の相補的関係を維持しながら変調素子を光軸周りに回転させることで、位相勾配画像でコントラストが付く方向、つまり、位相勾配を検出する方向、を調整することができ
る。
【0065】
[第4実施形態]
図17は、本実施形態に係る顕微鏡装置500の構成を例示した図である。顕微鏡装置500は、変調素子414及び変調素子425の代わりに変調素子501を含む点、瞳リレーレンズ424がハーフミラー418よりも物体側に配置されている点が顕微鏡装置400とは異なっている。その他の点は、顕微鏡装置400と同様である。
【0066】
変調素子501は、照明光学系と観察光学系が共有している対物レンズ421の射出瞳位置と光学的に共役な位置に配置された、照明光の強度分布と観察光の強度分布を変調する強度変調部である。変調素子501は、例えば、グラデーションフィルタである。変調素子501の強度透過率分布は、対物レンズ421の光軸と直交する所定の向きに単調減少する。変調素子501に入射する照明光と観察光は光軸に対して対称な位置を通過する。このため、変調素子501は、照明光に対して顕微鏡装置400の変調素子414と同様に作用し、且つ、観察光に対して顕微鏡装置400の変調素子425と同様に作用する。
【0067】
従って、顕微鏡装置500によっても、顕微鏡装置400と同様に、微分干渉顕微鏡で得られる画像に類似した位相勾配画像を得ることができる。また、顕微鏡装置500では、例えば、対物レンズ421と対物レンズ420との切り替えに応じて、変調素子501と変調素子502を切り替えて使用してもよい。顕微鏡装置500では、対物レンズに応じて1つの変調素子を交換すればよい。また、1つの変調素子を光軸周り回転することで位相勾配画像にコントラストが付く方向を変更することもできる。このため、変調素子に関する調整作業を大幅に簡素化することができる。
【0068】
[第5実施形態]
図18は、本実施形態に係るセルアナライザー600の構成を例示した図である。セルアナライザー600は、観察装置の一例であり、計数対象の細胞601をバッファとともに流すフローセル602と、LED光源603と、変調素子604と、変調素子605と、カメラ606と、回収容器610を備えている。
【0069】
LED光源603は、面発光光源であり、空間的に均一な強度の照明光を発光する。このため、LED光源603は、変調素子604が取り除かれた状態では、フローセル602内を流れる空間を実質的に均一な強度で照明する。
【0070】
変調素子604は、上述した第1強度変調部であり、変調素子605は、上述した第2強度変調部である。変調素子604と変調素子605は、フローセル602を挟んで配置されていて、強度透過率分布に関して相補的関係を有している。具体的には、変調素子604は、例えば、フローセル602の上流に向かって線形に減少する光学濃度を有している。変調素子605は、例えば、フローセル602の上流に向かって線形に増加する光学濃度を有している。
【0071】
カメラ606は、レンズ607とレンズ608からなる撮像レンズと、撮像素子609とを備えている。撮像レンズは、アフォーカルマクロレンズである。カメラ606は、変調素子604と変調素子605の間に焦点が位置するように配置されている。カメラ606は、変調素子604と変調素子605を経由して検出された光に基づいて、変調素子604と変調素子605の間を通過する細胞601の画像を取得する。
【0072】
細胞601は細胞601とともに流れるバッファよりも高い屈折率を有しているため、細胞601とバッファの間には位相勾配が生じている。このため、セルアナライザー60
0では、細胞601の輪郭部分にコントラストが付いた位相勾配画像を得ることができる。さらに、図示しないプロセッサが位相勾配画像を画像解析することで、セルアナライザー600は、変調素子604と変調素子605の間を通過する細胞601を計数することができる。
【0073】
以上のように構成されたセルアナライザー600によれば、相補的関係を有する変調素子によって位相勾配を像強度に変換することができるため、従来のセルアナライザーのように、レーザ光源を必要としない。このため、従来のセルアナライザーよりもコストを抑えることが可能であり、安価に提供することができる。なお、LED光源603を拡散板に変更し、カメラ606をレンズアダプタ付きのスマートフォンに変更してもよい。これにより、さらに安価にセルアナライザーを提供することができる。
【0074】
図19は、変調素子620の製造方法について説明するための図である。以下、図19を参照しながら、変調素子の製造方法の一例について説明する。まず、図19(a)に示すように、吸収型のNDフィルタ621と、NDフィルタ621と同屈折率を有する透明基板622を接合する。NDフィルタ621は、一定の光学濃度を有している。さらに、それらの接合面に対して一定の角度で両面を研磨し、面C1と面C2を露出させる。次に、図19(b)に示すように、面C3と面C4で縁取りする。この作業は、主に、NDフィルタ621と透明基板622の接合物を支持枠に収めるために行われる。これにより、図19(c)に示すように、NDフィルタ621の厚さが線形に変化する変調素子620が完成する。変調素子620では、NDフィルタ621の厚さが線形に変化することで光学濃度も線形に変化する。図19に示す製造方法によれば、容易に光学濃度が線形に変化する変調素子を製造することができる。
【0075】
[第6実施形態]
図20は、本実施形態に係る材料検査装置700の構成を例示した図である。材料検査装置700は、透明な検査材料704を検査する装置であり、光源701と、拡散板702と、変調素子703と、変調素子705と、カメラ706を備えている。
【0076】
光源701から出射した光は、拡散板702で拡散され、その結果、拡散板702から空間的におよそ均一な強度の照明光が出射する。このため、光源701と拡散板702は、変調素子703が取り除かれた状態では、検査材料704を実質的に均一な強度で照明する。
【0077】
変調素子703は、上述した第1強度変調部であり、変調素子705は、上述した第2強度変調部である。変調素子703と変調素子705は、検査材料704を挟んで配置されていて、強度透過率分布に関して相補的関係を有している。具体的には、変調素子703と変調素子705は、同じ向きに一方は線形に減少する光学濃度を有し、他方は線形に増加する光学濃度を有している。
【0078】
カメラ706は、レンズ707とレンズ708からなる撮像レンズと、撮像素子709とを備えている。カメラ706は、変調素子703と変調素子705の間に焦点が位置するように配置されていて、変調素子703と変調素子705を経由して検出された光に基づいて、変調素子703と変調素子705の間に配置された検査材料704の画像を取得する。
【0079】
以上のように構成された材料検査装置700でも、相補的関係を有する変調素子によって位相勾配を像強度に変換することができるため、検査材料704内の欠陥、検査材料704の表面にある凹凸などを可視化することができる。また、2つの変調素子の光学濃度の勾配を変更することで、位相勾配に対する感度を変更することができる。このため、材
料検査装置700を検査材料704の検査しやすい感度に調整することができる。
【0080】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするための具体例を示したものであり、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。上述した実施形態の一部を他の実施形態に適用して本発明の更に別の実施形態を構成してもよい。観察装置は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0081】
上述した実施形態では、2つの強度変調部(第1強度変調部と第2強度変調部)が強度透過率分布を有する光学フィルタである例を示したが、強度反射率が分布を有する光学ミラーを含んでも良い。その場合、2つの強度変調部は、強度反射率分布に関して相補的関係を有していればよい。なお、強度変調部の強度透過率分布と強度変調部の強度反射率分布は、いずれも強度変調部に入射する光強度と強度変調部から出射する光強度の比率を示す分布である。また、強度変調部の強度透過率分布と強度変調部の強度反射率分布は、いずれも強度変調部での光利用率を示す光利用率分布の一例である。このため、観察装置では、第1強度変調部の第1光利用率分布が第1向きに単調減少し、第2強度変調部の第2光利用率分布が第1向きに対応する第2向きに単調増加すればよい。
【0082】
また、上述した実施形態では、波長について特に言及していないが、2つの強度変調部は、波長毎に光利用率分布に関して相補的関係を有していればよい。例えば、第1強度変調部の第1波長に対する第1光利用率分布が第1向きに単調減少し、第2強度変調部の第1波長に対する第2光利用率分布が第1向きに対応する第2向きに単調増加し、さらに、第1強度変調部の第1波長とは異なる第2波長に対する第1光利用率分布が第1向きとは異なる第3向きに単調減少し、第2強度変調部の第2波長に対する第2光利用率分布が第3向きに対応する第4向きに単調増加してもよい。この場合、第1波長と第2の波長を用いて、2つの方向の位相勾配を一度に検出することができる。
【0083】
なお、上述した実施形態では、強度透過率分布や光利用率分布が“単調減少する”、または“単調増加する”として説明したが、必ずしもこれに限らない。本発明の効果を得るためには、図3に示したように、合成強度透過率分布がシフト量0付近において、シフト量により単調増加または単調減少する関係を有すればよい。したがって、強度透過率分布や光利用率分布が“減少する”、または“増加する”ものであってもよい。ここで、強度透過率や光利用率分布が第1向きに“減少する”とは、全体として減少しているものも含み、例えば、強度透過率分布や光利用率分布の第1向きの位置に対する微分値が大部分の位置において0以下であり、微分値の最小値が0でないことをいう。また、強度透過率や光利用率分布が第2向きに“増加する”とは、全体として増加しているものも含み、強度透過率分布や光利用率分布の第2向きの位置に対する微分値が大部分の位置において0以上であり、微分値の最大値が0ではないことをいう。ここで“全体として減少する”、または“全体として増加する”には、大部分が減少している全体の一部分に反対に増加する部分があること、または、大部分が増加している全体の一部分に反対に減少する部分があること、も含まれるものとする。また、大部分の位置とは、有効に作用する位置において例えば70%以上であればよく、90%以上であることがより望ましい。
【符号の説明】
【0084】
1、100、300、400、500 顕微鏡装置
2、111、412、701 光源
3 照明光学系
4、12、422 観察物体
4a、4b、4c 部分
4p 物体面
5 観察光学系
6、16、141、609、709 撮像素子
7、160 表示装置
8、9、11、13、113、132、316、328-330、414、425、501、502、604、605、620、703、705 変調素子
8i 投影像
10 観察装置
110 鏡基
313、416 開口絞り
114、327 コンデンサ
115,321、423 ステージ
116,119、319、320、420、421 対物レンズ
117、318、419 ノーズピース
118、426 結像レンズ
120 鏡筒
121 接眼レンズ
130 アダプタ
131、135、317、424 リレーレンズ
132e 回転軸
133 スライダ
134、151 ダイヤル
136 光路切り替えミラー
140、427、606、706 カメラ
150 制御装置
161 コントラスト強調部
201-214 画像
310、410 顕微鏡本体
311 レーザ光源
312 ビームエキスパンダ
314 ダイクロイックミラー
315 ガルバノミラー
322 プラスチックシャーレ
323 培養細胞
325 共焦点絞り
326、332 PMT
327 ユニバーサルコンデンサ
340 コンピュータ
350 画像取得部
411 投光管
413 コレクタレンズ
415 照明レンズ
417 視野絞り
418 ハーフミラー
424 瞳リレーレンズ
600 セルアナライザー
601 細胞
602 フローセル
603 LED光源
610 回収容器
621 NDフィルタ
622 透明基板
700 材料検査装置
702 拡散板
704 検査材料
図1
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