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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】超電導コイル装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20230116BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01B12/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019182507
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021061268
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-124081(JP,A)
【文献】特開2009-188108(JP,A)
【文献】特開2013-41776(JP,A)
【文献】特開平10-92630(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/135868(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101577166(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00-12/16
H01B 13/00
H01F 6/00- 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻枠に少なくとも超電導線材と補強線材とが巻き回されてなる超電導コイルを備えた超電導コイル装置において、
前記補強線材は複数枚からなり、それぞれが前記超電導線材よりもヤング率が高い高強度金属材料にて構成され、
前記補強線材の合計の厚さは前記超電導線材の厚さ以上に設定され、
前記補強線材の1枚の厚さは、この補強線材の1枚のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性が、前記超電導線材のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性以下になる厚さに設定されて構成されたことを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
前記超電導線材は高温超電導線材であることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
複数枚の前記補強線材は、互いに異なる材質にて構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
複数枚の前記補強線材は、超電導線材にヤング率が近い順に、前記超電導線材に隣接して配置されたことを特徴とする請求項3に記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
複数枚の前記補強線材は、隣接する前記補強線材同士が互いに接触し、そのうち1枚が超電導線材に接合して構成されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項6】
複数枚の前記補強線材は、超電導コイルのターン位置によって枚数を異ならせるよう構成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項7】
複数枚の前記補強線材は、超電導コイルの内周側に設けられている枚数が、外周側に設けられている枚数よりも多くなるように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の超電導コイル装置。
【請求項8】
前記超電導線材は、複数枚が接触して重ね合わされてなるバンドル線材であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項9】
前記超電導線材は、隣接する2枚が、それらの超電導層に近い側の面を対向させて重ね合されて構成されたことを特徴とする請求項8に記載の超電導コイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、巻枠に少なくとも超電導線材と補強線材とが巻き回されてなる超電導コイルを備えた超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材は、常電導線材と比較して極めて高い電流密度で通電が可能であり、超電導コイルに用いられた際に高磁場を発生させることができる。このような超電導線材としては、例えばNbTi、Nb3Snといった金属系の低温超電導線材や、BiSrCaCu10+x線材やRE1(REBCO)線材といった酸化物の高温超電導線材がある。
【0003】
高温超電導線材は低温超電導線材に比べ、20K~77Kという高い温度でも運転可能であり、また、低温超電導線材よりも高い臨界電流密度特性を有する。そのため、高温超電導線材を巻き回した高温超電導コイルは、従来の低温超電導コイルよりも少ないターン数または巻線体積で、10Tを超える強磁場を発生させる磁石設計が可能となる。
【0004】
ただし、超電導コイルは、自身が発生する磁場あるいは外部磁場によって、巻線部内の超電導線材に電磁力が生ずる。特に、コイル径方向に膨らむ方向(外向き方向)の電磁力は、高温超電導線材にとっては線材長手方向の引張り応力、所謂フープ応力となる。そこで、このような強磁場によるフープ応力に耐えるため、REBCO線材の場合には、ハステロイやNiWを含むNi基合金のような高強度金属のテープ基板の上に、酸化物超電導層が形成されている。
【0005】
しかしながら、10Tを超える強磁場を発生する超電導コイルにおいては、高温超電導線材の許容歪みを超えるフープ応力が発生する。そこで、高温超電導線材に補強線材としての高強度金属テープを追加し、フープ応力を補強線材にも分担させることで、高温超電導線材に生ずる歪みを許容歪以下に抑える技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-40176号公報
【文献】特開2012-195413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、補強線材としての高強度金属テープが追加された高温超電導線材は、耐フープ応力が向上する一方、補強線材(高強度金属テープ)が高温超電導線材よりも厚くなる場合には、補強線材のヤング率とその断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性(曲げこわさ)が高くなってしまう。このため、巻線時に高温超電導線材が滑らかに曲げられず、この高温超電導線材を円形状の巻枠に均一な曲率で巻き取ることが困難になる。このとき、高温超電導線材が許容曲げ半径を下回る小さな曲率半径で局所的に曲げられてしまうと、歪みに脆弱な超電導層の臨界電流特性が劣化して、超電導コイルは、設計した磁場を安定して発生させることができなくなるという課題があった。
【0008】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、超電導コイルの耐フープ応力を向上させつつ、補強線材による超電導線材の臨界電流特性の劣化を防止して超電導コイルに強磁場を安定して発生させることができる超電導コイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態における超電導コイル装置は、巻枠に少なくとも超電導線材と補強線材とが巻き回されてなる超電導コイルを備えた超電導コイル装置において、前記補強線材は複数枚からなり、それぞれが前記超電導線材よりもヤング率が高い高強度金属材料にて構成され、前記補強線材の合計の厚さは前記超電導線材の厚さ以上に設定され、前記補強線材の1枚の厚さは、この補強線材の1枚のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性が、前記超電導線材のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性以下になる厚さに設定されて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、超電導コイルの耐フープ応力を向上させつつ、補強線材による超電導線材の臨界電流特性の劣化を防止して超電導コイルに強磁場を安定して発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る高温超電導コイル装置における高温超電導コイル(パンケーキコイル)の一部を示し、(A)がその斜視図、(B)が図1(A)のIB-IB線に沿う巻線部の断面図。
図2図1の高温超電導コイルを構成する高温超電導線材の一例を示す斜視図。
図3図1(B)のIII部の拡大断面図。
図4図1の高温超電導コイルにおける巻取り開始直後の高温超電導線材等を、コイル上方から目視して示す部分平面図。
図5】第2実施形態に係る高温超電導コイル装置における高温超電導コイルの巻取り開始直後の高温超電導線材等を、コイル上方から目視して示す部分平面図。
図6】第3実施形態に係る高温超電導コイル装置における高温超電導コイルの巻線部の部分断面図。
図7】第4実施形態に係る高温超電導コイル装置におけるバンドル型の高温超電導線材を示す断面図。
図8図7のバンドル型高温超電導線材を用いた高温超電導コイルの巻線部の部分断面図。
図9】従来の高温超電導コイルにおける巻取り開始直後の高温超電導線材等を、コイル上方から目視して示す部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図4
図1は、第1実施形態に係る高温超電導コイル装置における高温超電導コイル(パンケーキコイル)の一部を示し、(A)がその斜視図、(B)が図1(A)のIB-IB線に沿う巻線部の断面図である。また、図2は、図1の高温超電導コイルを構成する高温超電導線材の一例を示す斜視図である。図1に示す超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置10を構成する超電導コイルとしての高温超電導コイル11は、超電導線材としての図2に示す高温超電導線材(高温超電導テープ線)12が、図3に示す絶縁線材(絶縁テープ線)13及び補強線材14と共に巻枠15に巻き回されて、いわゆるパンケーキ形状の巻線部16を形成するものである。
【0013】
この高温超電導コイル11おける軸方向Oの両側面には、必要に応じて絶縁層17が設けられている。また、上述の高温超電導コイル11は、巻線部16がパンケーキ形状であることから、いわゆるパンケーキコイルと称される。ここで、巻枠15は、ガラス繊維強化プラスチックや補強型PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの絶縁材から構成されている。
【0014】
高温超電導線材12は、図2に示すように、少なくともテープ基板2と中間層3と超電導層4とを有し、それらの両面が安定化層5で被覆されて構成される。また、必要に応じて、テープ基板2と中間層3との間に配向層6が、超電導層4と安定化層5との間に保護層7がそれぞれ設けられてもよい。
【0015】
テープ基板2は、例えば、ハステロイやNiWを含むNi基合金などの高強度金属等の材質で形成される。また、中間層2は拡散防止層であり、例えば、酸化セリウム、YSZ、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、バリウムジルコニアなどの材質からなり、テープ基板2上に形成される。
【0016】
超電導層4は、例えば、RE123系の組成(RE等)やBiSrCaCu10+x線材などのビスマス系の組成を有する酸化物超電導体の薄膜からなる。なお、「RE」の「RE」は、希土類元素(例えば、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)等)及びイットリウム元素の少なくとも一方を、「B」はバリウム(Ba)を、「C」は銅(Cu)を、「O」は酸素(O)を意味している。また、安定化層5は、超電導層4に過剰に電気が流れた場合に超電導層4が燃焼するのを防止する目的で設けられ、導電性の銀等から形成される。
【0017】
配向層6は、テープ基板2上に中間層3を配向させて形成する目的で設けられ、酸化マグネシウム(MgO)等から形成される。なお、配向したテープ基板2を用いる場合には配向層6を省略することができる。また、保護層7は、超電導層4が空気中の水分に触れて劣化するのを防止する等の目的で設けられ、銀等から形成される。なお、保護層7も超電導層4に過剰に電気が流れた場合に超電導層4が燃焼することを防止する機能を果たしている。
【0018】
このような多層構造の高温超電導線材(高温超電導テープ線)12のテープ幅wは例えば4~12mm、厚さtは0.1~0.2mmとされる。また、高温超電導線材(高温超電導テープ線)12は、長手方向の機械強度に優れる一方、テープ面垂直方向の引張応力(剥離応力)には脆弱であるという特徴を持つ。また、高温超電導線材12の周囲をポリイミドやポリイミドアミドのような絶縁材で被覆した絶縁被覆の高温超電導線材としてもよい。
【0019】
補強線材14は、図3及び図4に示すように、複数枚(例えば3枚)からなり、それぞれの補強線材14A、14B、14Cが高温超電導線材12よりもヤング率が高い高強度金属にて構成される。例えば、補強線材14A、14B、14Cの材質は、ステンレスやハステロイ、NiWを含むニッケル基合金、銅合金、銀合金などの高強度金属である。
【0020】
また、複数枚の補強線材14(補強線材14A、14B、14C)のそれぞれは、ハンダなどの接合層を介して一体化されておらず、巻線時には互いに接触しているのみで互いに摺動可能である。同様に、補強線材14と高温超電導線材12とは、ハンダなどの接合層を介して一体化されておらず、巻線時には互いに接触しているのみで互いに摺動可能である。但し、高温超電導コイル11が樹脂含浸コイルの場合には、高温超電導線材12と絶縁線材13と補強線材14(補強線材14A、14B、14C)は、巻線後に線材ターン間に薄い樹脂層が形成されることで一体化される。
【0021】
ところで、補強線材14A、14B、14Cの合計の厚さは、高温超電導線材12の1枚の厚さ以上に設定される。つまり、補強線材14A、14B、14Cのそれぞれの厚さをt1としたとき、補強線材14A、14B、14Cの合計の厚さ3×t1は、高温超電導コイル11に生ずるフープ応力によって高温超電導線材12に生ずる歪みが、その高温超電導線材12の許容歪み以下になるように設定された厚さになっている。具体的には、補強線材14A、14B、14Cの合計の厚さ3×t1は、高温超電導線材12の厚さtと同じか、それよりも厚く設定される。
【0022】
例えば、高温超電導コイル11に発生するフープ応力が800MPaである場合、仮に高温超電導線材12のヤング率を150GPa、許容歪みを0.4%とすると、補強線材14が無い場合には、高温超電導線材12に発生する歪みが0.53%となり、許容歪みを超えるため、高温超電導線材12における超電導層4の臨界電流特性が劣化してしまう。
【0023】
一方、補強線材14(補強線材14A、14B、14C)が設けられた場合には、この補強線材14のヤング率を仮に200GPaとし、各補強線材14A、14B、14Cの厚さt1を、仮に高温超電導線材12の厚さtの2分の1の0.5tとする。すると、補強線材14A、14B、14Cの合計の厚さ3×t1は高温超電導線材12の厚さtの1.5倍になる。
【0024】
また、高温超電導線材12と補強線材14A、14B、14Cとを合わせた線材全体の見掛け上のヤング率は、それぞれの線材のヤング率に面積比を乗じた積の和になるので、150×1/(1+0.5×3)+200×(0.5×3)/(1+0.5×3)=180GPaとなる。このとき、高温超電導線材12に生じる歪みは0.33%まで低下して、許容歪み0.4%以下に抑えられる。
【0025】
更に、補強線材14A、14B、14Cの各1枚の厚さは、補強線材14A、14B、14Cの1枚のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性が、高温超電導線材12のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性以下になる(即ち高温超電導線材12の曲げ剛性と同じかまたは小さくなる)厚さに設定される。
【0026】
一般に、各線材の曲げ難さの指標となる曲げ剛性は、ヤング率Eと断面2次モーメントIとの積EIで表せられ、このうちの断面2次モーメントIは、例えば矩形断面の場合には、線材の幅W、厚さTとするとI=WT/12となる。このことから、補強線材14A、14B、14Cの各1枚の曲げ剛性は、補強線材14A、14B、14Cの幅が高温超電導線材12の幅wと同一であるとして、
200×w(0.5t)/12 ≒2.1wt
となる。一方、高温超電導線材12の曲げ剛性は、
150×w(t)/12 ≒12.5wt
となる。従って、補強線材14A、14B、14Cの各1枚の曲げ剛性が、高温超電導線材12の曲げ剛性よりも小さく、つまり、補強線材14A、14B、14Cは高温超電導線材12よりも曲げ易くなっている。
【0027】
ここで、図9に示す従来の補強線材100は1枚で構成されていた。このため、補強線材100の1枚の曲げ剛性は、補強線材100のヤング率が200GPa、その幅が第1実施形態の補強線材14の幅wと同一、その厚さt2が第1実施形態の補強線材14A、14B、14Cの各1枚の厚さt1(=0.5t)の3倍(t2=t1×3)であるとすると、
200×w(0.5t×3)/12 ≒56.3wt
となり、高温超電導線材12の曲げ剛性12.5wtの約4.5倍にまで高くなってしまう。従って、巻線時に補強線材100が滑らかに曲げられず、補強線材100及び高温超電導線材12を均一な曲率で円形状の巻枠に巻き回すことが困難になる。従って、高温超電導線材12が許容曲げ半径を下回る小さな曲率半径で局所的に曲げられて、歪みに脆弱な超電導層4の臨界電流特性を劣化させてしまう。
【0028】
これに対し、本第1実施形態では、補強線材14A、14B、14Cは、各1枚の曲げ剛性が高温超電導線材12の曲げ剛性よりも小さく、高温超電導線材12よりも曲げ易く構成されている。そのため、高温超電導線材12及び補強線材14(補強線材14A、14B、14C)を均一な曲率で巻枠15に巻き回すことができるので、高温超電導線材12が、許容曲げ半径を下回る小さな曲率半径で局所的に曲げられることがなく、超電導層4の臨界電流特性が劣化することがない。
【0029】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)複数枚の補強線材14(補強線材14A、14B、14C)の合計の厚さが高温超電導線材12の厚さ以上に設定されたので、これらの補強線材14A、14B、14Cの追加によって高温超電導コイル11の耐フープ応力を向上させることができる。従って、高温超電導コイル11の高温超電導線材12に生ずる歪みをその高温超電導線材12の許容歪み以下にできるので、高温超電導線材12における歪みに脆弱な超電導層4の臨界電流特性の劣化を防止でき、高温超電導コイル12に強磁場を安定して発生させることができる。
【0030】
(2)補強線材14A、14B、14Cの各1枚の厚さは、この補強線材14A、14B、14Cの各1枚のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性が、高温超電導線材12のヤング率と断面2次モーメントの積で表される曲げ剛性以下になる厚さに設定されている。このため、補強線材14A、14B、14Cの各1枚が高温超電導線材12よりも曲げ易くなるので、補強線材14A、14B、14C及び高温超電導線材12を巻枠15に均一な曲率で巻き回すことができる。この結果、高温超電導線材12が許容曲げ半径を下回る小さな曲率半径で局所的に曲げられることがないので、この場合も、高温超電導線材10における歪みに脆弱な超電導層4の臨界電流特性の劣化を防止でき、高温超電導コイル11に強磁場を安定して発生させることができる。更に、高温超電導線材12の劣化部が熱暴走して高温超電導コイル11が焼損してしまう事態を未然に防止できる。
【0031】
なお、本第1実施形態では、補強線材14(補強線材14A、14B、14C)は3枚であり、各1枚の厚さが全てt1の場合を述べたが、補強線材14は、枚数を、前述の効果(1)を実現可能な範囲内で適宜変更してもよく、また、互いに異なる厚さに設定してもよい。また、高温超電導コイル11は円形に限らず、D形状や楕円形状、レーストラック形状、3次元形状などの非円形のコイル形状であってもよい。
【0032】
更に、本第1実施形態の高温超電導コイル11は、高温超電導線材12.絶縁線材13及び補強線材14を同心円状に巻き回して、いわゆるパンケーキ形状に形成されたパンケーキコイルの場合を述べたが、本第1実施形態のパンケーキコイルを軸方向に複数積層した所謂ダブルパンケーキ方式の超電導コイルに適用してもよい。このダブルパンケーキ方式の超電導コイルは、具体的には、高温超電導線材12、絶縁線材13及び複数枚の補強線材14の長手方向中央位置(最内周位置)を巻枠15に螺旋状に巻き掛け、上述の各線材の両端側部分をコイル状に巻き回して、積層した2個のパンケーキコイルとしたものである。
【0033】
[B]第2実施形態(図5
図5は、第2実施形態に係る高温超電導コイル装置における高温超電導コイルの巻取り開始直後の高温超電導線材等を、コイル上方から目視して示す部分平面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0034】
本第2実施形態の超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置20における超電導コイルとしての高温超電導コイル21が第1実施形態と異なる点は、巻枠15に高温超電導線材12及び絶縁線材13と共に巻き回される複数枚の補強線材22(補強線材22A、22B、22C)が互いに異なる材質にて構成され、更に、高温超電導線材12にヤング率が近い順に、この高温超電導線材12に隣接して配置された点である。従って、高温超電導コイル21は、高温超電導線材12、補強線材22A、22B及び22Cのヤング率が高温超電導コイル21の径方向に段階的に変化する構造に構成される。
【0035】
更に、隣接する補強線材22A、22B、22C同士は互いに接触し、このうちの高温超電導線材12に隣接する補強線材(図5中の補強線材22C)は、高温超電導線材12にヤング率が最も近いため、この高温超電導線材12に、例えばハンダ等の接合層を介して接合させ、高温超電導線材12と一体化させてもよい。但しこの場合、補強線材22Cに接合された高温超電導線材12は、高温超電導コイル21に発生するフープ応力により高温超電導線材12に生ずる歪みが、許容歪み以下である必要がある。
【0036】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)及び(4)を奏する。
【0037】
(3)高温超電導コイル21では、高温超電導線材12、補強線材22A、22B及び22Cは、それらのヤング率が高温超電導コイル21の径方向に段階的に変化する分布に構成される。このため、高温超電導コイル21にフープ応力が発生したときに、高温超電導線材12と補強線材22A、22B、22Cとの間で歪み量が急激に変化せず、それらの歪み量分布を平滑化させることができる。この結果、フープ応力の発生時に高温超電導線材12に生ずる歪み量を抑制できるので、この高温超電導線材12における超電導層4の臨界電流特性の劣化を確実に防止でき、高温超電導コイル21に強磁場を、第1実施形態の場合よりも安定して発生させることができる。
【0038】
(4)高温超電導コイル12にヤング率が最も近い補強線材22(例えば補強線材12C)が高温超電導線材12に接合されるので、この補強線材22Cが良導電性を有する場合には、この補強線材22Cを電気的な迂回路として機能させることができる。つまり、高温超電導線材12が部分的に常電導化した際に、この高温超電導線材12から補強線材22Cへ電流を積極的に流して迂回させることができる。この補強線材22Cの材料としては、通常運転時においての超電導線材12の抵抗より大きく、且つ超電導線材12の常電導転移時の抵抗よりも小さい抵抗の材料が選択される。この材料は例えば、銅、ステンレス、アルミもしくはインジウムなどの常電導金属、半導体、導電性プラスチック、セラミックス材、導電性樹脂または超電導材料などである。また、グラファイト、炭素繊維または炭素繊維複合材などのカーボン材料なども補強線材22Cの材料として好適に用いることができる。
【0039】
[C]第3実施形態(図6
図6は、第3実施形態に係る高温超電導コイル装置における高温超電導コイルの巻線部の部分断面図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0040】
本第3実施形態の超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置30における超電導コイルとしての高温超電導コイル31が第1実施形態と異なる点は、複数枚の補強線材14が高温超電導コイル31の巻線部32のターン位置によって枚数を異ならせて構成された点である。
【0041】
一般に、超電導コイルが発生する磁場は、外挿コイルがないような場合には、超電導コイルの内周側の方が外周側に比べて高く、このため、電磁力により発生するフープ応力も、超電導コイルの内周側で強くなる。従って、本第3実施形態の高温超電導コイル31では、例えば、複数枚の補強線材14は、内周側に設けられている枚数が外周側に設けられている枚数よりも多くなるよう構成され、これにより、フープ応力が強い高温超電導コイル31の内周側で、補強線材14(補強線材14A、14B、14C)により補強効果を向上させている。
【0042】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(5)を奏する。
【0043】
(5)複数枚の補強線材14(補強線材14A、14B、14C)は、高温超電導コイル31の内周側に設けられる枚数が、高温超電導コイル31の外周側に設けられる枚数よりも多くなるように構成されている。このため、高温超電導コイル31に発生するフープ応力の強い高温超電導コイル31の内周側で補強線材14による補強効果を高めることができるので、高温超電導コイル31の高温超電導線材12に生ずる歪みを第1及び第2実施形態の場合よりも抑制できる。この結果、高温超電導線材12の超電導層4における臨界電流特性の劣化を確実に防止でき、高温超電導コイル31による強磁場を、第1及び第2実施形態の場合よりも安定して発生させることができる。
【0044】
なお、本第3実施形態では、高温超電導コイル31の巻線部32の全ターンに亘って補強線材14を高温超電導線材12と共巻きする例を示したが、高温超電導コイル31に発生するフープ応力の分布に応じて、高温超電導線材12に生ずる歪みが許容歪み以下になる高温超電導コイル31の巻線部32のターン位置については、補強線材14を高温超電導線材12に共巻きしなくてもよい。
【0045】
[D]第4実施形態(図7図8
図7は、第4実施形態に係る高温超電導コイル装置におけるバンドル型の高温超電導線材を示す断面図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0046】
本第4実施形態における超電導コイル装置としての高温超電導コイル装置40における超電導コイルとしての高温超電導コイル41が第1実施形態と異なる点は、超電導線材としての高温超電導線材42が、複数枚(例えば2枚)の高温超電導線材12を隣接し重ね合わせてなる所謂バンドル線材であり、更に、この高温超電導線材42を構成する例えば2枚の高温超電導線材12が、それらの超電導層4に近い側の面を対向させて重ね合わせて構成された点である。
【0047】
高温超電導線材42を構成する例えば2枚の高温超電導線材12は、それらの超電導層4が同一組成であっても、また異なった組成であってもよい。例えば、高温超電導線材12の一方12Mの超電導層4がRE等のRE123系組成の高温超電導材料であるに対し、高温超電導線材12の他方12Nの超電導層4が(Bi,Pb)2Ca2Sr1Cu210+x、(Bi,Pb)2Ca2Sr2Cu310+x、(Bi,Pb)2Ca2Sr3Cu410+x等の所謂ビスマス系組成の高温超電導材料であってもよい。
【0048】
また、高温超電導線材42を構成する例えば2枚の高温超電導線材12(12M、12N)は、ハンダ等の接合層を介さずに直接接触して電気的に接続されると共に、互いに摺動可能に構成されている。上述の高温超電導線材42が絶縁線材13及び補強線材14と共に巻枠15に巻き回されることで、高温超電導コイル41の巻線部43が形成される。
【0049】
以上のように構成されたことから、本第4実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(6)及び(7)を奏する。
【0050】
(6)高温超電導コイル41を構成するために巻枠15に絶縁線材13及び補強線材14と共に巻き回される高温超電導線材42が複数枚、例えば2枚の高温超電導線材12(12M、12N)により構成されている。これらの高温超電導線材12(12M、12N)は、線材内部に高強度金属からなるテープ基板2を有することから、このテープ基板2が、高温超電導コイル41に発生するフープ応力に対する補強効果を奏する。この結果、高温超電導線材42は、補強線材14(補強線材14A、14B、14C)と共に、高温超電導コイル41の耐フープ応力を向上させることができる。従って、高温超電導線材12(12M、12N)の超電導層4における臨界電流特性の劣化を防止して、高温超電導コイル41に強磁場を、第1~第3実施形態の場合よりも安定して発生させることができる。
【0051】
(7)高温超電導コイル41を構成するために巻枠15に絶縁線材13及び補強線材14と共に巻き回される高温超電導線材42が複数枚、例えば2枚の高温超電導線材12(12M、12N)により構成され、これらの高温超電導線材12(12M、12N)が、互いの超電導層4に近い側の面を対向させ、直接接触して電気的に接続されている。このため、高温超電導線材42を構成する複数枚の高温超電導線材12(12M、12N)のいずれかが常電導化して、接触抵抗のオーダーに近い抵抗が高温超電導線材12(12M、12N)内に発生しても、これらの高温超電導線材12(12M、12N)間で互いに電流を転流させることができる。この結果、高温超電導コイル41は強磁場を、第1~第3実施形態の場合よりも更に安定して発生させることができ、しかも、高温超電導コイル41の焼損の恐れも防止できる。
【0052】
なお、第4実施形態では、高温超電導線材42は、2枚の高温超電導線材12(12M、12N)を重ね合わせた場合を述べたが、図8に示すように、重ね合わせた2枚の高温超電導線材12を1組として、複数組の高温超電導線材12により高温超電導コイル41の巻線部43を構成してもよい。この場合、1組の重ね合わせた2枚の超高温超電導線材12同士は、超電導層4に近い側の面を互いに対向させることが好ましい。また、1組の重ね合わせた2枚の高温超電導コイル線材12と他の1組の重ね合わせた2枚の高温超電導線材12との間に、絶縁線材13を配置してもよい。
【0053】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0054】
例えば、各実施形態では、超電導線材が高温超電導線材12の場合を述べたが、低温超電導線材の場合に各実施形態を適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
4…超電導層、10…高温超電導コイル装置(超電導コイル装置)、11…高温超電導コイル(超電導コイル)、12…高温超電導線材(超電導線材)、14、14A、14B、14C…補強線材、20…高温超電導コイル装置(超電導コイル装置)、21…高温超電導コイル(超電導コイル)、22、22A、22B、22C…補強線材、30…高温超電導コイル装置(超電導コイル装置)、31…高温超電導コイル(超電導コイル)、40…高温超電導コイル装置(超電導コイル装置)、41…高温超電導コイル(超電導コイル)、42…高温超電導線材(超電導線材)、t…高温超電導線材の厚さ、t1…補強線材の厚さ
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8
図9