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特許7210498放射性廃棄物固化システム、および、放射性廃棄物固化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】放射性廃棄物固化システム、および、放射性廃棄物固化方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20230116BHJP
   G21F 9/36 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
G21F9/30 511B
G21F9/36 511F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020039667
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021139834
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯原 勝
(72)【発明者】
【氏名】川内 加苗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍明
(72)【発明者】
【氏名】並木 千晶
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄生
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156671(JP,A)
【文献】特開2020-019681(JP,A)
【文献】特開2017-067679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0260510(US,A1)
【文献】米国特許第05349118(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28-9/36
C04B 28/26
B28C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含む第1基材と、ケイ素およびアルミニウムを含み第1基材よりもアルミニウムが多い第2基材と、マグネシムを含む第3基材と、アルカリ材とを原料として用いて作成されるジオポリマーを使用することによって、放射性廃棄物について固化処理を行う放射性廃棄物固化システムであって、
前記第1基材を貯蔵する第1基材貯蔵部と、
前記第2基材を貯蔵する第2基材貯蔵部と、
前記第3基材を貯蔵する第3基材貯蔵部と、
前記アルカリ材を貯蔵するアルカリ材貯蔵部と、
前記第1基材貯蔵部から供給された前記第1基材と前記アルカリ材貯蔵部から供給された前記アルカリ材とを混合し溶液を作成する溶液作成部と、
前記第2基材貯蔵部から供給された前記第2基材と前記第3基材貯蔵部から供給された前記第3基材と前記溶液作成部から供給された前記溶液とを混合することによってスラリーを作成し、放射性廃棄物が収容される廃棄物容器に前記スラリーが投入されるスラリー作成部と
を備え、
前記第3基材が水酸化マグネシウムであり、
シリコン元素の物質量とマグネシウム元素の物質量とを合計した合計量のうちマグネシウム元素の物質量が占める割合が0%を超え44%以下である前記ジオポリマーによって固化処理を行う、
放射性廃棄物固化システム。
【請求項2】
アルミニウムおよびカルシウムを含まずにケイ素を含む第1基材と、アルミニウムおよびケイ素を含む第2基材と、マグネシムを含む第3基材と、アルカリ材とを原料として用いてジオポリマーを製造する放射性廃棄物固化方法であって、
前記第1基材と前記アルカリ材とを水に溶解することによって溶液を作成する溶液作成ステップと、
前記溶液作成ステップで作成した前記溶液と前記第2基材と前記第3基材とを混合することによってスラリーを作成するスラリー作成ステップと、
廃棄物が収容される廃棄物容器に、前記スラリー作成ステップで作成した前記スラリーを充填するスラリー充填ステップと
を有し、
前記第3基材が水酸化マグネシウムであり、
シリコン元素の物質量とマグネシウム元素の物質量とを合計した合計量のうちマグネシウム元素の物質量が占める割合が0%を超え44%以下である前記ジオポリマーによって固化処理を行う、
放射性廃棄物固化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物固化システム、および、放射性廃棄物固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオポリマーは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの元素で構成された非晶質の重合体であって、セメントと同様に、無機材料である。ジオポリマーは、ケイ素、アルミニウムなどの元素を含む基材(固化材)と、アルカリ材(アルカリ刺激剤)とが原料として用いられる。基材とアルカリ材との間において縮重合反応が生じることによって、ジオポリマーの固化体が形成される。
【0003】
ジオポリマーは、セメントと異なり、固化体の構造に水和物が存在しない。このため、ジオポリマーを用いた場合には、余剰な水を加熱による乾燥で除去した場合であっても、固化体の構造に対して影響が小さい。したがって、ジオポリマーは、たとえば、高線量の放射性廃棄物について固化処理を実施する際に用いる材料として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-67679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射性廃棄物について固化処理を行って作成された固化体は、たとえば、地下水との接触によって固化体から放射性核種が溶出する可能性がある。特に、I-129などの長半減期放射性核種であって、処分場の環境において陰イオンとして存在する元素は、鉱物等による吸着遅延効果を受けづらいので、被ばく線量に対する影響が大きい。また、Csなどの陽イオンは、存在量が多いので、処分場を閉鎖した後などの後期段階において、被ばく線量に影響する。このため、ジオポリマーによって放射性廃棄物について固化処理を行う際には、上記のような放射性核種を吸着する吸着性能を向上させ、放射性核種の溶出を抑制することが求められている。
【0006】
ジオポリマーの固化体を作成する際には、基材とアルカリ材とを混合することでスラリーを作成する。スラリーを作成する際には、基材とアルカリ材との間の反応が短時間で起こる。その結果、基材とアルカリ材とを含むスラリーの粘度が上昇する場合がある。このため、基材とアルカリ材とを含むスラリーの粘度が著しく高くなって流動性が低下する前に、そのスラリーを用いる必要がある。上記のような事情により、ジオポリマーの固化体を作成する際には、基材とアルカリ材とを含むスラリーの取り扱いが容易でなく、作業性が低下する場合がある。また、スラリーの流動性が低下するに伴って、スラリーを容器に均一に充填できなくなる場合があるので、密な固化体を形成することが困難になる場合がある。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、放射性核種の溶出を抑制可能であると共に、作業性の向上等を容易に実現可能な、放射性廃棄物固化システム、および、放射性廃棄物固化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の放射性廃棄物固化システムは、ケイ素を含む第1基材と、ケイ素およびアルミニウムを含み第1基材よりもアルミニウムが多い第2基材と、マグネシムを含む第3基材と、アルカリ材とを原料として用いて作成されるジオポリマーを使用することによって、放射性廃棄物について固化処理を行う。放射性廃棄物固化システムは、第1基材を貯蔵する第1基材貯蔵部と、第2基材を貯蔵する第2基材貯蔵部と、第3基材を貯蔵する第3基材貯蔵部と、アルカリ材を貯蔵するアルカリ材貯蔵部と、第1基材貯蔵部から供給された第1基材とアルカリ材貯蔵部から供給されたアルカリ材とを混合し溶液を作成する溶液作成部と、第2基材貯蔵部から供給された第2基材と第3基材貯蔵部から供給された第3基材と溶液作成部から供給された溶液とを混合することによってスラリーを作成し、放射性廃棄物が収容される廃棄物容器にスラリーが投入されるスラリー作成部とを備える。第3基材は、水酸化マグネシウムである。ここでは、シリコン元素の物質量とマグネシウム元素の物質量とを合計した合計量のうちマグネシウム元素の物質量が占める割合が0%を超え44%以下であるジオポリマーによって固化処理を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、放射性核種の溶出を抑制可能であると共に、作業性の向上等を容易に実現可能な、放射性廃棄物固化システム、および、放射性廃棄物固化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る放射性廃棄物固化システム1を模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態に係る放射性廃棄物固化方法を示すフロー図である。
図3図3は、セシウムイオンに対する分配係数Kdの結果を示している。
図4図4は、ヨウ化物イオンに対する分配係数Kdの結果を示している。
図5図5は、一軸圧縮強度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[A]放射性廃棄物固化システム1
図1は、実施形態に係る放射性廃棄物固化システム1を模式的に示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態において、放射性廃棄物固化システム1は、第1基材貯蔵部10と第2基材貯蔵部20と第3基材貯蔵部30とアルカリ材貯蔵部40と溶液作成部50とスラリー作成部60とを備えており、基材(第1基材、第2基材)とアルカリ材とを原料として用いてジオポリマーを製造するように構成されている。
【0013】
以下より、放射性廃棄物固化システム1を構成する各部について順次説明する。
【0014】
[A-1]第1基材貯蔵部10
第1基材貯蔵部10は、第1基材を貯蔵するために設置されている。第1基材は、ジオポリマーの基材であって、ケイ素を元素として含む物質である。第1基材は、アルミニウムおよびカルシウムを含まないことが好ましい。第1基材は、たとえば、シリカ(二酸化ケイ素)、シリカフュームである。
【0015】
本実施形態では、第1基材貯蔵部10は、第1基材溶液タンク11と第1基材粉体タンク12とを有する。第1基材貯蔵部10において、第1基材溶液タンク11は、たとえば、第1基材としてシリカが水に溶解したシリカ水溶液(水ガラス)を貯蔵している。これに対して、第1基材粉体タンク12は、たとえば、第1基材としてシリカの粉体を貯蔵している。
【0016】
[A-2]第2基材貯蔵部20
第2基材貯蔵部20は、第2基材を貯蔵するタンクを含む。第2基材は、ジオポリマーの基材であって、ケイ素およびアルミニウムを元素として含み、アルミニウムを第1基材よりも多く含む物質である。第2基材は、たとえば、アルミナシリカである。アルミナシリカは、メタカオリン、高炉スラグ、焼却灰、飛灰、ゼオライト、モルデナイト等である。アルミニウム元素を含まずにケイ素元素を含む物質(二酸化ケイ素など)と、ケイ素元素を含まずにアルミニウム元素を含む物質(酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど)との混合物を、第2基材として用いてもよい。なお、飛灰は、フライアッシュを含む。フライアッシュは、微粉砕した石炭を燃焼した後に捕集された飛灰であり、製品として管理されるものである。
【0017】
[A-3]第3基材貯蔵部30
第3基材貯蔵部30は、第3基材を貯蔵するタンクを含む。第3基材は、ジオポリマーの基材であって、マグネシムを元素として含む物質である。本実施形態では、第3基材は、水酸化マグネシウムである。
【0018】
[A-4]アルカリ材貯蔵部40
アルカリ材貯蔵部40は、アルカリ材を貯蔵するタンクを含む。アルカリ材は、たとえば、アルカリ性の水酸化物、アルカリ性のケイ酸塩である。アルカリ性の水酸化物は、たとえば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムである。アルカリ性のケイ酸塩は、たとえば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ルビジウム、ケイ酸セシウムである。ケイ酸塩としては、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩など、さまざまな形態のものを用いることができる。また、上記と共に、アルミン酸塩をアルカリ材として添加してもよい。
【0019】
[A-5]溶液作成部50
溶液作成部50は、第1基材貯蔵部10から第1基材が供給されると共に、アルカリ材貯蔵部40からアルカリ材が供給されるタンクを含み、第1基材とアルカリ材とが水に溶解した溶液を作成するために設けられている。
【0020】
具体的には、溶液作成部50は、第1基材溶液タンク11から第1基材が水に溶解した水溶液がポンプP11を介して供給される。また、溶液作成部50は、第1基材粉体タンク12から第1基材の粉体が供給されると共に、アルカリ材の固体が供給される。溶液作成部50では、第1基材が水に溶解した水溶液に、粉体の第1基材とアルカリ材の固体とが溶解するように、たとえば、撹拌機(図示省略)を用いて撹拌が実行される。その結果、溶液作成部50において、第1基材とアルカリ材とが水に溶解した溶液が作成される。
【0021】
[A-6]スラリー作成部60
スラリー作成部60は、第2基材貯蔵部20から第2基材が供給され、第3基材貯蔵部30から第3基材が供給され、かつ、溶液作成部50から溶液が供給されるタンクを含み、その溶液に第2基材および第3基材が混合したスラリーを作成するために設けられている。
【0022】
具体的には、スラリー作成部60は、溶液作成部50で作成された溶液がポンプP50を介して供給される。また、スラリー作成部60は、第2基材貯蔵部20から第2基材の粉体が供給されると共に、第3基材貯蔵部30から第3基材の粉体が供給される。スラリー作成部60では、第2基材の粉体および第3基材の粉体が溶液に混合されるように、たとえば、撹拌機(図示省略)を用いて撹拌が実行される。その結果、スラリー作成部60、においては、懸濁した分散体であるスラリーが形成される。
【0023】
スラリー作成部60で作成されたスラリーは、ポンプP60を介して、放射性廃棄物が収容される廃棄物容器81に充填される。廃棄物容器81の内部に充填されたスラリーにおいては、基材(第1基材,第2基材、第3基材)とアルカリ材との反応が進行し、ジオポリマーの固化体が作成される。
【0024】
[B]放射性廃棄物固化方法
図2は、実施形態に係る放射性廃棄物固化方法を示すフロー図である。
【0025】
図2に示すように、溶液作成工程ST10とスラリー作成工程ST20とスラリー充填工程ST30とを順次行うことによって、ジオポリマーの製造を行う。詳細については後述するが、ここでは、シリコン元素の物質量[Si](mol)とマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)とを合計した合計量(100%)のうちマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)が占める割合が0%を超え44%以下であるジオポリマーを作製することによって固化処理を行う(つまり、0(%)<100*[Mg]/([Si]+[Mg])≦44(%))。各工程の詳細について順次説明する。
【0026】
[B-1]溶液作成工程ST10
まず、溶液作成工程ST10では、上記したように、溶液作成部50において、第1基材とアルカリ材とを水に溶解することによって溶液を作成する。
【0027】
溶液作成工程ST10で作成される溶液は、各物質が、たとえば、下記範囲で混合している。
・第1基材・・・2.2~23.7wt.%
・アルカリ材・・・31.5~40.4wt.%
・水・・・44.8~57.4wt.%
【0028】
[B-2]スラリー作成工程ST20
つぎに、スラリー作成工程ST20では、上記したように、スラリー作成部60において、溶液作成工程ST10で作成した溶液に第2基材を投入し、混合することによって、スラリーを作成する。ここでは、基材(第1基材,第2基材、第3基材)において、シリコン元素の物質量[Si](mol)をアルミニウム元素の物質量[Al](mol)で割った値([Si]/[Al])が2になるように、第2基材および第3基材が混合される([Si]/[Al]=2)。
【0029】
スラリー作成工程ST20で作成されるスラリーは、各物質が、たとえば、下記範囲で混合している。
・第1基材・・・2.2~23.7wt.%
・第2基材・・・30.7~30.8wt.%
・第3基材・・・0.0wt.%を超え14.9wt.%以下
・アルカリ材・・・21.9~22.0wt.%
・水・・・31.1~31.3wt.%
【0030】
[B-3]スラリー充填工程ST30
つぎに、スラリー充填工程ST30では、上記したように、スラリー作成工程ST20で作成されたスラリーを廃棄物容器81に充填する。廃棄物容器81は、たとえば、高線量の放射性廃棄物が廃棄物として収容されたドラム缶である。充填されたスラリーは、廃棄物容器81の内部において廃棄物と混合される。その後、スラリーにおいて基材(第1基材,第2基材、第3基材)とアルカリ材との反応が進行することで、ジオポリマーの固化体が作成される。
【0031】
[C]まとめ
以上のように、本実施形態では、まず、第1基材とアルカリ材とが水に溶解した溶液を作成する。そして、第1基材およびアルカリ材が水に溶解した溶液に、第2基材および第3基材を混合することによってスラリーを準備する。その後、そのスラリーを廃棄物容器81に充填し、ジオポリマーの固化体を作成する。
【0032】
第1基材は、第2基材よりもアルミニウムが少ないため、第2基材よりもアルカリ材と反応しにくい。このため、本実施形態において第1基材とアルカリ材とが溶解した溶液は、粘度が低い状態を保持する。また、第3基材である水酸化マグネシウムは、溶解度が低く、第1基材よりも水に溶けにくい。本実施形態においてスラリーを作成する際には、第1基材とアルカリ材とが既に水に溶解している。その結果、本実施形態で作成したスラリーは、第1基材と第2基材と第3基材とアルカリ材とを同時に混合して作成したスラリーよりも、粘度が低い状態を長く保持することができる。
【0033】
したがって、本実施形態では、スラリーの流動性が低下する前に、スラリーを廃棄物容器81に容易に充填することができるので、作業性を向上可能である。また、これに伴って、本実施形態では、スラリーを廃棄物容器81に均一に充填することが容易になるため、密な固化体を形成することができる。第1基材がアルミニウムおよびカルシウムを含まない場合には、この効果を更に効果的に奏することができる。
【0034】
この他に、下記の実施例において具体的に説明するが、本実施形態では、第3基材として水酸化マグネシウムを用いているので、放射性核種を吸着する吸着性能を向上させることができる。また、シリコン元素の物質量とマグネシウム元素の物質量とを合計した合計量のうちマグネシウム元素の物質量が占める割合が44%以下になるようにジオポリマーの固化体を作製するので、一軸圧縮強度を十分に確保することができる。
【実施例
【0035】
実施例について、表1を用いて説明する。表1においては、実施例および比較例における各成分の配合を示している。
【0036】
【表1】
【0037】
[固化体の形成]
(実施例1)
実施例1では、表1に示すように、第1基材としてシリカフューム(SiO)を用い、第2基材としてメタカオリンを用い、第3基材として水酸化マグネシウム(MgOH)を用いた。また、実施例1では、アルカリ材として、ケイ酸カリウム溶液(KSiO)と水酸化カリウム(KOH)とを用いた。ここでは、実施例1における全ての成分のうち、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が表1に示す関係(90:10)であると共に、アルミニウム元素の量[Al]に対して、シリコン元素の物質量[Si](mol)とマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)とを合計した合計量とが下記の関係になるように、図2に示した手順で各成分を混合し、固化体を形成した。
【0038】
([Si]+[Mg])/[Al]=2
【0039】
(実施例2)
実施例2では、表1に示すように、実施例2における全ての成分のうち、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が表1に示す関係(70:30)である点を除き、実施例1と同様に、固化体の形成を行った。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、表1に示すように、実施例3における全ての成分のうち、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が表1に示す関係(60:40)である点を除き、実施例1と同様に、固化体の形成を行った。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、表1に示すように、第3基材である水酸化マグネシウム(MgOH)を用いなかった。つまり、比較例2における全ての成のうち、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が表1に示す関係(100:0)である点を除き、実施例1と同様に、固化体の形成を行った。
【0042】
(比較例2)
比較例2では、表1に示すように、比較例2における全ての成分のうち、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が表1に示す関係(50:50)である点を除き、実施例1と同様に、固化体の形成を行った。
【0043】
[分配係数の測定]
分配係数の測定を行う際には、実施例1、実施例2、および、比較例1において作成した固化体について、粒径が100μm未満である粉末になるように粉砕した。そして、液固比(L/S)が10になる条件で、その粉砕で得た粉末をヨウ化セシウム水溶液に1週間浸漬させた。その後、ヨウ化セシウム水溶液の上澄み液について、セシウムイオンの濃度とヨウ化物イオンの濃度とを、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)で測定した。セシウムイオンの濃度変化とヨウ化物イオンの濃度変化とのそれぞれから、図3および図4に示すように、分配係数を求めた。図3は、セシウムイオンに対する分配係数Kdの結果を示している。図4は、ヨウ化物イオンに対する分配係数Kdの結果を示している。
【0044】
図3に示すように、実施例1および実施例2は、比較例1よりも、セシウムイオンに対する分配係数Kdが高い。このように、シリコン元素の一部がマグネシム元素に置換した固化体は、セシウムイオンに対する吸着性能が向上している。なお、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が90:10である場合(実施例1)と70:30である場合(実施例2)との間では、セシウムイオンに対する分配係数Kdが同等であった。
【0045】
図4に示すように、実施例1および実施例2は、比較例1よりも、ヨウ化物イオンに対する分配係数Kdが高い。このように、シリコン元素の一部がマグネシム元素に置換した固化体は、ヨウ化物イオンに対する吸着性能が向上している。ここでは、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル分比([Si]:[Mg])が90:10である場合(実施例1)よりも70:30である場合(実施例2)の方が、ヨウ化物イオンに対する分配係数Kdが高い。したがって、マグネシウム元素の割合が大きいほど、ヨウ化物イオンに対する吸着性能を向上させることができる。
【0046】
[一軸圧縮強度の測定]
一軸圧縮強度の測定を行う際には、各例において作成したスラリーを、円筒状のプラスチックモールド(直径5cm、高さ10cm)に流し込んだ後に、43日間、風乾養生を行った。そして、プラスチックモールドを取り外すことによって得た固化体について、一軸圧縮強度の測定を行った(JIS A1108:2006コンクリートの圧縮強度試験方法)。
【0047】
図5は、一軸圧縮強度の測定結果を示す図である。図5において、縦軸は、一軸圧縮強度を示し、横軸の「Mg置換率」とは、「シリコン元素の物質量[Si](mol)とマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)とを合計した合計量(100%)のうちマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)が占める割合」を示している。
【0048】
図5に示すように、一軸圧縮強度に関して、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が90:10である場合(実施例1)は、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が100:0である場合(比較例1)とほぼ同等であった。これに対して、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が、70:30である場合(実施例2)、60:40である場合(実施例3)、および、50:50である場合(比較例2)には、100:0である場合(比較例1)よりも低下した。
【0049】
一般に、充填固化体として利用する場合には、固化体の一軸圧縮強度が30MPa以上であることが求められる。このため、充填固化体として利用する場合には、図5の近似式から判るように、シリコン元素の物質量[Si](mol)とマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)とを合計した合計量(100%)のうちマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)が占める割合が26%以下であることが好ましい(つまり、100*[Mg]/([Si]+[Mg])≦26(%))。
【0050】
また、一般に、均質固化体として利用する場合には、固化体の一軸圧縮強度が10MPa以上であることが求められる。このため、均質固化体として利用する場合には、図5の近似式から判るように、シリコン元素の物質量[Si](mol)とマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)とを合計した合計量(100%)のうちマグネシウム元素の物質量[Mg](mol)が占める割合が44%以下であることが好ましい(つまり、100*[Mg]/([Si]+[Mg])≦44(%))。
【0051】
このため、シリコン元素とマグネシウム元素とのモル比([Si]:[Mg])が、70:30である場合(実施例2)、60:40である場合(実施例3)では、強度が十分な固化体を得ることができる。
【0052】
<その他>
なお、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施例以外にも様々な形態で実施することができる。本発明は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0053】
たとえば、上記の本実施形態では、第1基材貯蔵部10に関して、第1基材としてシリカが水に溶解したシリカ水溶液(水ガラス)を貯蔵している第1基材溶液タンク11と、第1基材としてシリカの粉体を貯蔵している第1基材粉体タンク12とを含む場合について例示したが、これに限らない。第1基材貯蔵部10は、第1基材溶液タンク11が無く、第1基材粉体タンク12のみで構成されていてもよい。この場合、溶液作成部50では、第1基材の粉体とアルカリ材の固体とが水に投入されて混合されることで、第1基材とアルカリ材とが水に溶解した溶液が作成される。
【符号の説明】
【0054】
1…放射性廃棄物固化システム、10…第1基材貯蔵部、11…第1基材溶液タンク、12…第1基材粉体タンク、20…第2基材貯蔵部、30…第3基材貯蔵部、40…アルカリ材貯蔵部、50…溶液作成部、60…スラリー作成部、P11…ポンプ、P50…ポンプ、P60…ポンプ。
図1
図2
図3
図4
図5