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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64D 33/10 20060101AFI20230116BHJP
   B64D 27/24 20060101ALI20230116BHJP
   B64C 3/32 20060101ALI20230116BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
B64D33/10
B64D27/24
B64C3/32
B64C39/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020207089
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2022094198
(43)【公開日】2022-06-24
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】318002806
【氏名又は名称】HAPSモバイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳本 教朝
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第1600370(EP,A2)
【文献】特開2005-82018(JP,A)
【文献】国際公開第96/28343(WO,A1)
【文献】特開2020-183210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 33/10
B64D 27/24
B64C 3/32
B64C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼部と、
前記翼部内に配置されたバッテリと、
前記翼部の前側の前記バッテリに対応する位置に形成された吸気部と、
前記バッテリに対して配置され、前記吸気部から流入する空気によって前記バッテリを冷却するヒートシンク部であって、前側から後側に向かって広い形状を有する通気部を含むヒートシンク部と、
前記翼部の後側の前記バッテリに対応する位置に形成された排気部であって、前記ヒートシンク部から流出する空気を排気する排気部と
を備える、飛行体。
【請求項2】
前記吸気部、前記ヒートシンク部、及び前記排気部は連結しており、前記吸気部は、後部の負圧によって、前記翼部の前側の層流境界層を吸い込む、請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記通気部は、前側から後側に向かって高さが高い形状を有する、請求項1又は2に記載の飛行体。
【請求項4】
前記ヒートシンク部は、ハーモニカ形状を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の飛行体。
【請求項5】
前記排気部は、前側から後側に向かって狭い形状を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の飛行体。
【請求項6】
前記排気部は、前側から後側に向かって高さが低い形状を有する、請求項5に記載の飛行体。
【請求項7】
前記排気部は、排気によって前記飛行体の推進力を生み出すとともに、前記翼部の後側の層流境界層を引き付ける、請求項5又は6に記載の飛行体。
【請求項8】
前記翼部は、主翼と、前記主翼に対してヒンジ部を介して連結された動翼とを含み、
前記排気部は、前記主翼と前記ヒンジ部との間に排出口を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の飛行体。
【請求項9】
複数の前記バッテリと、
それぞれが前記複数のバッテリのそれぞれに対応する、複数の前記吸気部、複数の前記ヒートシンク部、及び複数の前記排気部と
を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の飛行体。
【請求項10】
成層圏プラットフォームとして機能する、請求項1から9のいずれか一項に記載の飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、太陽電池パネルによって発電された電力をバッテリに蓄電して、バッテリの電力を用いて飛行したり無線通信サービスを提供したりする飛行体が記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2020-170888号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明の一実施態様によれば、飛行体が提供される。飛行体は、翼部を備えてよい。飛行体は、翼部内に配置されたバッテリを備えてよい。飛行体は、翼部の前側のバッテリに対応する位置に形成された吸気部を備えてよい。飛行体は、バッテリに対して配置され、吸気部から流入する空気によってバッテリを冷却するヒートシンク部であって、前側から後側に向かって広い形状を有する通気部を含むヒートシンク部を備えてよい。飛行体は、翼部の後側のバッテリに対応する位置に形成された排気部であって、ヒートシンク部から流出する空気を排気する排気部を備えてよい。
【0004】
上記吸気部、上記ヒートシンク部、及び上記排気部は連結しており、上記吸気部は、後部の負圧によって、上記翼部の前側の層流境界層を吸い込んでよい。上記通気部は、前側から後側に向かって高さが高い形状を有してよい。上記ヒートシンク部は、ハーモニカ形状を有してよい。上記排気部は、前側から後側に向かって狭い形状を有してよい。上記排気部は、前側から後側に向かって高さが低い形状を有してよい。上記排気部は、排気によって上記飛行体の推進力を生み出すとともに、上記翼部の後側の層流境界層を引き付けてよい。上記翼部は、主翼と、上記主翼に対してヒンジ部を介して連結された動翼とを含んでよく、上記排気部は、上記主翼と上記ヒンジ部との間に排出口を有してよい。上記飛行体は、複数の上記バッテリと、それぞれが上記複数のバッテリのそれぞれに対応する、複数の上記吸気部、複数の上記ヒートシンク部、及び複数の上記排気部とを備えてよい。上記飛行体は、成層圏プラットフォームとして機能してよい。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】HAPS100の一例を概略的に示す。
図2】HAPS100の翼部120の構造の一例を概略的に示す。
図3】HAPS100の翼部120の断面図を概略的に示す。
図4】HAPS100が備えるヒートパイプ410の一例を概略的に示す。
図5】ヒートパイプ410による熱の循環について説明するための説明図である。
図6】ヒートパイプ410による熱の循環について説明するための説明図である。
図7】ヒートパイプ410による熱の循環について説明するための説明図である。
図8】ヒートパイプ410のペイロード対応部分の構造の一例を概略的に示す。
図9】ヒートパイプ410のラジエータ対応部分の構造の一例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、HAPS100の一例を概略的に示す。HAPS100は、飛行体の一例であってよい。HAPS100は、成層圏プラットフォームとして機能してよい。HAPS100は、成層圏を飛行しながら、地上のゲートウェイ40との間でフィーダリンク162を形成し、かつ、地上に無線通信エリア164を形成する。
【0009】
HAPS100は、本体部110、プロペラ114、翼部120及び太陽電池パネル150を備える。太陽電池パネル150によって発電された電力は、翼部120内に配置されたバッテリに蓄電される。バッテリに蓄電された電力は、HAPS100が備える各構成によって利用される。
【0010】
本体部110内には、ペイロードが配置される。ペイロードは、電子機器を含んでよい。例えば、ペイロードは、HAPS100の飛行及び通信を制御する制御装置を含む。また、ペイロードは、制御モータを含んでよい。
【0011】
制御装置は、例えば、プロペラ114の回転、フラップやエレベータの角度等を制御することによってHAPS100の飛行を制御する。制御装置は、HAPS100が備える各種センサを管理してよい。センサの例として、GPSセンサ等の測位センサ、ジャイロセンサ、及び加速度センサ等が挙げられる。制御装置は、各種センサの出力によって、HAPS100の位置、姿勢、移動方向、及び移動速度を管理してよい。
【0012】
制御装置は、例えば、FL(Feeder Link)アンテナを用いて、ゲートウェイ40との間でフィーダリンク162を形成してよい。制御装置は、ゲートウェイ40を介して、ネットワーク20にアクセスしてよい。制御装置は、ネットワーク20に接続された管理装置50と通信してよい。
【0013】
制御装置は、管理装置50に、各種情報を送信してよい。制御装置は、例えば、テレメトリ情報を管理装置50に送信する。テレメトリ情報は、HAPS100の位置情報を含んでよい。位置情報は、HAPS100の3次元位置を示してよい。テレメトリ情報は、HAPS100の姿勢情報を含んでよい。姿勢情報は、HAPS100のピッチ、ロール、ヨーを示してよい。テレメトリ情報は、HAPS100の移動方向を示す移動方向情報を含んでよい。テレメトリ情報は、HAPS100の移動速度を示す移動速度情報を含んでよい。
【0014】
また、制御装置は、例えば、SL(Service Link)アンテナを用いて、地上に無線通信エリア164を形成する。制御装置は、SLアンテナを用いて、地上のユーザ端末30とサービスリンクを形成する。
【0015】
ユーザ端末30は、HAPS100と通信可能であればどのような通信端末であってもよい。例えば、ユーザ端末30は、スマートフォン等の携帯電話である。ユーザ端末30は、タブレット端末及びPC(Personal Computer)等であってもよい。ユーザ端末30は、いわゆるIoT(Internet of Thing)デバイスであってもよい。ユーザ端末30は、いわゆるIoE(Internet of Everything)に該当するあらゆるものを含み得る。
【0016】
HAPS100は、例えば、フィーダリンク162とサービスリンクとを介して、ネットワーク20とユーザ端末30との通信を中継する。HAPS100は、ユーザ端末30とネットワーク20との通信を中継することによって、ユーザ端末30に無線通信サービスを提供してよい。
【0017】
ネットワーク20は、移動体通信ネットワークを含む。移動体通信ネットワークは、3G(3rd Generation)通信方式、LTE(Long Term Evolution)通信方式、5G(5th Generation)通信方式、及び6G(6th Generation)通信方式以降の通信方式のいずれに準拠していてもよい。ネットワーク20は、インターネットを含んでもよい。
【0018】
HAPS100は、例えば、無線通信エリア164内のユーザ端末30から受信したデータをネットワーク20に送信する。また、HAPS100は、例えば、ネットワーク20を介して、無線通信エリア164内のユーザ端末30宛のデータを受信した場合に、当該データをユーザ端末30に送信する。
【0019】
管理装置50は、HAPS100を管理する。管理装置50は、ネットワーク20及びゲートウェイ40を介して、HAPS100と通信してよい。なお、管理装置50は、通信衛星を介してHAPS100と通信してもよい。管理装置50は、各種指示を送信することによってHAPS100を制御してよい。
【0020】
管理装置50は、無線通信エリア164によって地上の対象エリアをカバーさせるべく、HAPS100に、対象エリアの上空を旋回させてよい。HAPS100は、例えば、対象エリアの上空を円軌道で飛行しつつ、FLアンテナの指向方向を調整することによってゲートウェイ40との間のフィーダリンクを維持し、SLアンテナの指向方向を調整することによって無線通信エリア164による対象エリアのカバーを維持する。
【0021】
航空機の翼上面の流れを吸入すると、層流を維持でき、揚力が増して抗力が減る効果が得られるが、重量増加や複雑な構造が課題となるため、一般の航空機の構造では一部の航空機に部分的に採用されるにとどまっている。本実施形態に係るHAPS100は、翼部120の前縁部から空気を取り込み、取り込んだ空気をバッテリの排熱で加熱膨張させて、翼部120の後縁部から加速させて排気することにより、剥離を防ぎ、層流を維持することにより、従来技術の課題の解決に貢献するものである。一具体例を挙げると、本実施形態に係るHAPS100は、吸気部が、レーザ加工により無数の微小開口処理をした前縁パネルの構造として後部の負圧により境界層を吸い込み、剥離を遅らせる。そして、導入された大気は、電池上部に設けられた断面積が広くなっていくハーモニカ状のヒートシンクの構造により、バッテリを冷却しつつ吸気した大気を加熱・膨張・加速させる。最後に断面積を小さくし流速を上げるためのノズルを備えた排気部を通じて、ヒートシンクにより加速させた大気をさらに加速・排出し剥離を防ぐ構造となっている。
【0022】
図2は、HAPS100の翼部120の構造の一例を概略的に示す。図2では、翼部120内に8つのバッテリ300が配置されている場合を例示しているが、バッテリ300の数はこれに限らず、他の数であってもよい。全体の重量バランスをとるべく、左翼側と右翼側に左右対称となるように同数のバッテリ300が配置されることが望ましい場合がある。なお、図2に示す例において、HAPS100は、複数のバッテリ300を備えるが、HAPS100は、1つのバッテリ300のみを備えてもよい。
【0023】
翼部120は、前側のバッテリ300に対応する位置に形成された吸気部132を備えてよい。吸気部132は、例えば、翼部120の前縁部に配置される。吸気部132は、例えば、複数の開口を有する。吸気部132は、例えば、レーザ加工によって形成された多数の微小な開口を有する。
【0024】
翼部120は、後側のバッテリ300に対応する位置に形成された排気部136を備える。排気部136は、例えば、翼部120の主翼122と動翼124との間に配置される。
【0025】
翼部120は、図2に示すように、それぞれが複数のバッテリ300のそれぞれに対応する、複数の吸気部132及び複数の排気部136を備えてよい。
【0026】
図3は、HAPS100の翼部120の断面図を概略的に示す。翼部120は、主翼122と、主翼122に対してヒンジ126を介して連結された動翼124とを含む。翼部120は、バッテリ300に対して配置され、吸気部132から流入する空気によってバッテリ300を冷却するヒートシンク部134を備えてよい。ヒートシンク部134は、バッテリ300の形状に対応する形状を有してよい。例えば、バッテリ300の上面が四角形状である場合に、ヒートシンク部134の下面は、バッテリ300の上面と同等の大きさの四角形状であってよい。
【0027】
吸気部132の横幅は、ヒートシンク部134の横幅と同じであってよい。吸気部132の横幅は、ヒートシンク部134の横幅より狭くてもよく、広くてもよい。
【0028】
排気部136の横幅は、ヒートシンク部134の横幅と同じであってよい。排気部136の横幅は、ヒートシンク部134の横幅より狭くてもよく、広くてもよい。
【0029】
ヒートシンク部134は、前側から後側に向かって広い形状を有する通気部135を有する。通気部135は、前側から後側に向かって高さが高い形状を有してよい。これにより、バッテリ300を冷却しつつ、吸気した空気を加熱、膨張、加速させることができる。
【0030】
ヒートシンク部134は、例えば、ハーモニカ形状を有する。ヒートシンク部134がハーモニカ形状を有することによって、吸気部132から流入する空気が排気部136から排気される流れを極力阻害することなく、効率的にバッテリ300の熱を排熱することができる。なお、ヒートシンク部134は、ハーモニカ形状を有さずに、中空構造であってもよい。
【0031】
吸気部132、ヒートシンク部134、及び排気部136は、連結している。排気部136は、ヒートシンク部134から流出する空気を翼部120の外部に排気する。吸気部132は、後部の負圧によって、翼部120の前側の層流境界層を吸い込む。層流境界層を吸い込む、層流の剥離を怒らせることができ、層流を維持して、揚力を増加させて抗力を減少させることができる。
【0032】
このように、後部の負圧が吸気部132にかかる構造を採用することによって、プラズマアクチュエータ等を用いなくても、層流境界層を吸い込むことができる。プラズマアクチュエータを使用した場合、非常に高い電力を必要とするし、全体の重量が増すことになる。本実施形態に係る翼部120の構造によれば、プラズマアクチュエータを使用する場合と比較して、消費電力を低減することができ、HAPS100全体の軽量化に貢献することができる。
【0033】
排気部136は、前側から後側に向かって狭い形状を有してよい。排気部136は、例えば、前側から後側に向かって高さが低い形状を有する。このように、排気部136が、前側から後側に向かって断面積が小さくなる構造を有することによって、ヒートシンク部134からの空気の流速を上げて排気することができる。
【0034】
排気部136は、図3に例示しているように、動翼124の上面に沿った排気を実現してよい。排気部136は、例えば、主翼122とヒンジ126との間に排出口を有する。排気部136は、排気によってHAPS100の推進力を生み出すとともに、翼部120の後側の層流境界層を引き付ける。
【0035】
ヒートシンク部134から排気部136に流入する空気は、上述したように、ヒートシンク部134によって加熱、膨張、加速されているが、排気部136によってさらに加速させることができ、HAPS100の推進力に貢献することができるとともに、翼部120の後側の層流境界層の剥離を防ぐことに貢献することができる。
【0036】
図4は、HAPS100が備えるヒートパイプ410の一例を概略的に示す。ヒートパイプ410は、ペイロード200、バッテリ300、及びラジエータ400の間で熱交換を行う。ラジエータ400は、ペイロード200よりも高い位置にあり、バッテリ300は、ラジエータ400よりも高い位置にある。
【0037】
ヒートパイプ410は、作動液を、バッテリ300の熱をペイロード200及びラジエータ400に移動させるように循環させる逆止弁420を有する。作動液としては、既存のヒートパイプと同様、代替フロン及び水等を採用してよいが、対象となる飛行体が飛行する環境に応じて、適宜選択されてよい。
【0038】
ラジエータ400は、図4に示すように、本体部110内に配置されてよい。ラジエータ400は、本体部110外に配置されてもよい。
【0039】
ヒートパイプ410は、HAPS100が夜間に飛行する間、無線通信エリア164を展開する位置まで移動する間、又は、HAPS100が予備機として飛行する間等、ペイロード200が低温である状況においては、ペイロード200を加熱・保温するように構成されてよい。ヒートパイプ410は、HAPS100が日中に飛行する間や、ゴールデンタイム中等の、消費電力が大きい状況においては、バッテリ300及びペイロード200を冷却するように構成されてよい。
【0040】
図5図6、及び図7は、ヒートパイプ410による熱の循環について説明するための説明図である。図5は、ペイロード200が低温である場合における作動液の循環の様子を概略的に示す。図6は、ペイロード200が適温である場合における作動液の循環の様子を概略的に示す。図7は、ペイロード200が高温である場合における作動液の循環の様子を概略的に示す。
【0041】
ヒートパイプ410は、バッテリ300に対応するバッテリ対応部分と、ラジエータ400に対応するラジエータ対応部分と、ペイロード200に対応するペイロード対応部分とを含む。バッテリ対応部分は、バッテリ300の熱を効率的に交換するために、バッテリ300のより多くの部分と接するように、降り曲がった形状を有してよい。ラジエータ対応部分は、ラジエータ400に熱を効率的に放出するために、ラジエータ400のより多くの部分と接するように、降り曲がった形状を有してよい。ペイロード対応部分は、ペイロード200の熱を効率的に交換するために、ペイロード200のより多くの部分と接するように、降り曲がった形状を有してよい。
【0042】
ヒートパイプ410は、バッテリ対応部分から延伸して、分岐部411で分岐して、ラジエータ対応部分及びペイロード対応部分のそれぞれに接続される第1循環部分412と、ペイロード対応部分から延伸してラジエータ対応部分に接続される第2循環部分414と、ラジエータ対応部分から延伸してバッテリ対応部分に接続される第3循環部分416とを備えてよい。逆止弁420は、第3循環部分416に位置する。
【0043】
ヒートパイプ410は、第1循環部分412の、分岐部411とラジエータ対応部分との間に配置され、ペイロード200の温度が予め定められた温度閾値より低い時は閉じ、ペイロード200の温度が当該温度閾値より高いときは開くバルブ430を備える。温度閾値は、例えば、0℃であってよい。温度閾値は、任意に設定可能であってよく、変更可能であってもよい。バルブ430は、サーモスタットバルブであってよい。なお、HAPS100は、サーモスタットバルブではないバルブ430と、ペイロード200の温度が予め定められた温度閾値より低い時はバルブ430を閉じ、ペイロード200の温度が当該温度閾値より高いときはバルブ430を開くバルブ制御部とを備えてもよい。
【0044】
図5は、ペイロード200の温度が予め定められた温度閾値より低く、バルブ430が閉じている状態を例示している。ペイロード200の温度は、例えば、-90℃から0℃程度であってよい。逆止弁420がない場合、気体となった作動液がバッテリ300付近で滞留することになるが、本実施形態に係るヒートパイプ410は逆止弁420を有するので、作動液は、バッテリ300からペイロード200、ペイロード200からラジエータ400、ラジエータ400からバッテリ300の順番で循環し、バッテリ300を冷却し、ペイロード200で排熱する。
【0045】
図6は、ペイロード200の温度が適温である場合を例示している。温度閾値は、適温よりも低く設定されており、ペイロード200の温度が適温である場合、バルブ430は開いた状態となる。温度閾値は、上述したように、例えば、0℃であってよく、バルブ430は、ペイロード200の温度が0℃を超えたときに開く。ペイロード200の適温は、0℃から50℃程度であってよい。ペイロード200の温度が適温である場合、ヒートパイプ410のペイロード対応部分の構造による循環の抵抗によって、作動液のほとんどがペイロード200側には循環せず、バッテリ300からラジエータ400、ラジエータ400からバッテリ300の順番で循環することになる。これにより、バッテリ300のみが冷却され、ラジエータ400で排熱される。
【0046】
図7は、ペイロード200の温度が高温である場合を例示している。ペイロード200の高温とは、例えば、50℃以上であってよい。バルブ430は開いた状態となっている。ペイロード200の温度が高温であることから、ペイロード200側でも作動液の循環が発生している。作動液は、バッテリ300からラジエータ400、ラジエータ400からバッテリ300の順番で循環するとともに、ペイロード200から分岐部411を経由してラジエータ400、ラジエータ400からペイロード200の順番で循環する。これにより、ペイロード200及びバッテリ300が冷却され、ラジエータ400で排熱される。
【0047】
図8は、ヒートパイプ410のペイロード対応部分の構造の一例を概略的に示す。ペイロード対応部分は、図8に例示するように、折り曲がった構造を有してよい。ペイロード対応部分が折り曲がった構造を有することによって、ペイロード200と接触する部分が増え、熱交換の効率を高めることができる。また、第1循環部分412、第2循環部分414、及び第3循環部分416と比較して、作動液が通過する抵抗を高めることができ、ペイロード200が適温になったときに、ペイロード対応部分に対して作動液が循環しないようにできる。ヒートパイプ410のバッテリ対応部分も、図8に示す構造と同様の構造を有してよい。
【0048】
図9は、ヒートパイプ410のラジエータ対応部分の構造の一例を概略的に示す。ラジエータ対応部分は、図9に例示するように、第1循環部分412からの入口部分で分岐して、第2循環部分414及び第3循環部分416のそれぞれに接続される構造であって、それぞれの部分が折り曲がった構造を有してよい。このような構造を有することによって、ペイロード200が高温の場合に、作動液を、バッテリ300からラジエータ400、ラジエータ400からバッテリ300の順番で循環させるとともに、ペイロード200から分岐部411を経由してラジエータ400、ラジエータ400からペイロード200の順番で循環させることができる。また、降り曲がった構造を有することによって、ラジエータ400と接触する部分が増え、熱交換の効率を高めることができる。
【0049】
成層圏環境におけるHAPS100内のペイロード温度管理制御は、重要かつ非常に困難な課題である。電気機器及び制御モータ等は、低温では動作しない場合があり、加熱するためにヒータを装備すれば、電力が必要となり、重量も増えてしまう。また、断熱構造とすれば、逆に冷やしにくくなる問題が発生する。一方で、冷やしたい場合にも希薄大気のため自然放熱されにくく、高温部だけ非常に高温となる。
【0050】
本実施形態に係るHAPS100では、例えば、加温及び冷却して適温を保ちたいペイロード200と、冷却したい高温部分であるバッテリ300とを逆止弁420を有するヒートパイプ410で接続する。そして、中間にラジエータ400とバルブ430(サーモスタッドバルブ)を配置して、温度に応じてバルブ430の開閉が行われ、バルブ430内の作動液の流れのモードを変更して、バッテリ300を常時冷却しつつ、ペイロード200を適温に保つため加温及び冷却を行うものである。これにより、電力を消費することなく、流体の力のみで自動的に適温を保つことに貢献でき、効果的な温度管理が可能となる。
【0051】
上記実施形態では、飛行体の一例としてHAPS100を挙げているが、これに限らない。飛行体は、バッテリ及びペイロードを搭載している飛行体であれば、どのような飛行体であってもよい。
【0052】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0053】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0054】
20 ネットワーク、30 ユーザ端末、40 ゲートウェイ、50 管理装置、100 HAPS、110 本体部、120 翼部、122 主翼、124 動翼、126 ヒンジ、132 吸気部、134 ヒートシンク部、136 排気部、150 太陽電池パネル、162 フィーダリンク、164 無線通信エリア、200 ペイロード、300 バッテリ、400 ラジエータ、410 ヒートパイプ、411 分岐部、412 第1循環部分、414 第2循環部分、416 第3循環部分、420 逆止弁、430 バルブ
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図9