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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20230116BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
C03C23/00 Z
A61J1/05 310
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020515001
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018081299
(87)【国際公開番号】W WO2019105741
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】102017128413.3
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー グラツキ
(72)【発明者】
【氏名】インカ ヘンツェ
(72)【発明者】
【氏名】ドリス モーゼラー
(72)【発明者】
【氏名】ウルリケ シュテーア
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ ブラック
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512173(JP,A)
【文献】米国特許第02377062(US,A)
【文献】特開2016-060674(JP,A)
【文献】国際公開第2009/116300(WO,A1)
【文献】特開2011-001253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 23/00
C03C 21/00
A61J 1/05
A61J 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス物品の製造方法であって、
ガラス物品の表面が少なくとも一時的に少なくとも400℃の温度を有する、第1の工程段階Aと、
ガラス物品の表面が5℃を上回り且つ100℃未満の温度を有し、且つ前記表面が水または水蒸気と接触され、その際、ガラス物品の表面に水の層の厚さ1~100μmに相応する量の水が供給される、第2の工程段階Bと、
ガラス物品を異物または他のガラス物品との表面接触下でさらに加工する、第3の工程段階Cとを、
記載された順で含む、前記方法。
【請求項2】
前記ガラス物品の表面が、第2の工程段階Bにおいて60℃未満の温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の工程段階における表面と水または水蒸気との接触を、60秒未満の時間にわたって行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第3の工程段階Cを、第2の工程段階Bの終了後、4時間以内で行う、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記表面の滑り摩擦係数μは、第2の工程段階Bの前に値μ1を有し、第2の工程段階直後に値μ2を有し、ここで、(μ1-μ2)/μ1>0.1が該当する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第2の工程段階Bの後のガラス物品の化学的な変化は、厚さ<50nmの表面層に限定されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第2の工程段階Bは、ガラス表面の下方50nmの距離からガラス物品内に広がる、ガラス物品のより深くに存在する層内では化学的な変化をもたらさない、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第2の工程段階Bによる表面の変化を、冷却炉内での400℃での熱処理によって元に戻すことができる、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第2の工程段階において、前記表面を水または水蒸気のみと接触させる、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガラス物品の表面に、水の層の厚さ5~50μmに相応する量の水を供給する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
水、または空気と水との混合物との接触を吹きつけによって行うか、または水蒸気との接触を、前記ガラス物品より高い温度を有する湿った暖かい空気で行う、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
水または水蒸気との接触を、噴霧化された水と接触させることによって行う、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ガラス物品が中空体である、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ガラス物品が欧州薬局方8.4、第3.2.1章によるタイプIまたはタイプIIのホウケイ酸ガラス製または8~23質量%の範囲のAl 2 3 含有率を有するアルミノシリケートガラス製の中空体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ガラス物品が、薬品の一次包装である、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
第3の工程段階Cにおいて、前記異物または他のガラス物品は、ガラス物品の表面との接触領域において、金属、ガラス、ポリマーまたはセラミック材料を含む、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新たに成形されたガラス物品の表面は、高い表面エネルギーに基づいてぼやけており、従って表面欠陥、例えば引っかき傷、クラック、破壊および浅割れ(Check)に対して非常に弱い。さらに、新たに成形されたガラス物品は粘着傾向があり、つまりそれらは互いに容易に付着する。ぼやけた表面は、そのガラス物品のさらなる加工に際して表面の損傷、例えば引っかき傷をもたらすことがあり、それがガラスの破壊も増加させ、ひいてはガラス粒子の形成および製造されたガラス物品の粒子汚染をもたらすことがある。
【0003】
従って、容器用ガラス産業においては、多くの場合、いわゆるホットエンドコーティングおよびコールドエンドコーティングもしくは被覆物を用いて、ガラス表面を損傷に対して鈍感にする。この場合、金属酸化物および有機化合物、例えばワックスエマルションを含有し得る異物を有する被覆物をガラス上で施与する。しかしながら、そのようなホットエンドコーティングおよびコールドエンドコーティングは、ガラス物品のもたらされる不純物ゆえに、薬品の一次包装の製造のためには考慮に入れられない。
【0004】
代替的に、新鮮なガラス製品を少なくとも10日から数ヶ月までの期間にわたって保管し、その際、表面の損傷に対して明らかにより鈍感である飽和した表面が徐々に形成される。それによって、さらなる加工工程、例えば洗浄、印刷または被覆工程における破壊、引っかき傷、および材料の損傷のリスクが低減される。
【0005】
殊にガラスから薬品の一次包装を製造する場合、熱間成形後のガラス表面の敏感度によって、ガラス製品も、その製造工程の間も悪影響が生じる。中間保管をしていない、つまり、ガラス表面が自然飽和されていない製品がさらに加工される場合、ガラスとガラスとの接触、つまり例えば同種のさらなるガラス物品との接触、またはガラスと工具、グリッパー、台またはコンベヤベルトとの接触によって欠陥が生じることがある。製品が長期に保管されると、たしかにその敏感度は低下するのだが、製品表面上で、大部分が不定且つ薬品にとって望ましくない有機の被覆物が生じる。しかし、ガラス表面の自然飽和は時間および環境に非常に依存する。例えば、ガラス表面の飽和は、低温での保管の場合は通常、高温での保管の場合よりも明らかに長くかかる。さらに、さらなる加工前のガラス製品の中間保管は、高い物流コストを意味する。
【0006】
また、ガラス物品を多量の水および/またはさらなる化学物質に供する洗浄工程によって、滑り摩擦係数μが低下するようにガラス物品の表面が変えられることがある。しかしながら、洗浄工程も、高い製造コストを意味することがあり、多大な追加コストなくガラス物品の外側表面に限定することはできない。従って、容器の洗浄工程の際、原則的に外側表面の汚染のリスクがあるが、内部表面の汚染のリスクもある。しかし、殊に、どの洗浄工程もガラス表面の化学的な変化を引き起こし、殊に知られているとおり、アルカリ、例えばナトリウムおよびカリウム、並びにリチウム(ガラス中に存在する場合)の洗い出しが生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、ガラス物品の製造方法であって、表面欠陥、例えば引っかき傷、および殊にガラスの破壊を大部分回避し、さらにガラス物品の中間保管または洗浄工程が回避されるべき前記方法を提供することである。さらに、前記方法に際し、ガラス物品は、無機の異物、有機の異物またはガラス粒子と接触すべきではなく、もしくはそれらで汚染されるべきではない。最後に、薬品の一次包装としての可用性に悪影響を及ぼし得る、ガラス物品の全ての変化が排除されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、独立請求項によって解決される。好ましい実施態様は、従属請求項に説明されている。
【0009】
本発明によるガラス物品の製造方法は、
ガラス物品の表面が少なくとも一時的に少なくとも400℃の温度を有する、第1の工程段階Aと、
ガラス物品の表面が5℃を上回り且つ100℃未満の温度を有し、且つ前記表面が水または水蒸気と接触され、その際、ガラス物品の表面に水の層の厚さ1~100μmに相応する量の水が供給される、第2の工程段階Bと、
ガラス物品と異物または他のガラス物品との表面接触下でさらに加工する、第3の工程段階Cとを、
記載された順で含む。意外なことに、少なくとも一時的に400℃の温度に予め加熱されたガラス物品の表面は、水または水蒸気との短い接触によって既に、その表面の敏感度が明らかに低下され得るように変えられ得ることが判明した。ガラス物品の引っかき傷形成、クラックおよび互いに付着する傾向が明らかに低下される。
【0010】
その際、ガラス物品は、任意の形態、例えば中空ガラス、板ガラス、またはインゴット形態または管の形態、またはロッドの形態のガラスのガラス物品であってよい。
【0011】
第1の工程段階Aは、ガラス表面を短時間で少なくとも約400℃の温度にする任意の工程であってよい。それは、例えば、多くのガラス物品の製造の際に行われるような応力緩和のための冷却工程、または熱的なプレストレスプロセスであってもよい。それは、溶融物からガラス物品を一次成形する成形工程、または中間製品、例えばガラス管から変形する成形工程であってもよい。
【0012】
第2の工程段階Bでは少なくとも、ガラス物品の処理されるべき表面は5℃~100℃の温度を有する。前記表面は液体または気体の形態の少量の水と接触され、その際、水の量は、ガラス物品の処理されるべき表面上で液体の凝集状態に基づき1~100μmの層厚に相応するように調節される。従って、使用される全体の水の量について、ガラス物品の処理されるべき表面、および選択された施与方法に応じて、ガラス物品の表面に到達する水の割合を考慮すべきである。ガラス物品の表面上に水を吹きつける場合、典型的に用いられる水の量は、20μmの水で表面を覆うことに相応してガラス物品の表面1cm2あたり例えば0.02nlであってよい。
【0013】
第3の工程段階Cは、最も一般的な意味でのさらなる加工工程、例えば、ガラス物品が異物または他のガラス物品との表面接触下で輸送される搬送工程、被覆工程、梱包工程、または例えばグリッパーによるガラス物品の接触が必要なあらゆる種類の工程であってよい。好ましくはそれは、ガラス物品の表面が約200~300℃の温度より上にはならない、いわゆる冷間工程であってよい。
【0014】
本発明者らが見出したとおり、意外なことに、本発明により処理された表面の挙動は、自然に飽和された表面とは明らかに異なる。例えば、図1によれば、滑り摩擦係数μは、本発明による水または水蒸気との接触の後、処理後t=0の時点で非常に大きく低下するが、引き続き24時間の時間で再度わずかに上昇する一方で、自然に飽和した表面の場合の滑り摩擦係数μは単純に単調に低下する。しかしながら、24時間後でも、本発明により処理されたガラス物品の滑り摩擦係数μは、未処理の試料の滑り摩擦係数μを明らかに下回っている。従って、ガラス物品のこのさらなる加工は、第2の工程段階Bの終了後、できるだけ4時間以内、好ましくは1時間以内、特に好ましくは10分未満以内に行うべきである。
【0015】
本発明者らはさらに、意外なことに、滑り摩擦係数μは、ガラスとガラスとの接触に際し、ガラス表面の敏感度と相関することを見出した。
【0016】
滑り摩擦係数μは、シリンダー状のガラス体を有するガラス物品、例えばシリンジ、バイアル、カートリッジ、アンプルについて、定義された測定構成において第1のシリンダーガラス体を水平方向で固定し、且つ、水平且つ前記第1のシリンダーガラス体に対して直角に配置されている第2の同じシリンダーガラス体を速度10mm/分、および一定のプレス力FN0.5Nで、距離15mmにわたって、第1のシリンダーガラス体のシリンダー状の表面にわたって擦ることによって測定される。第2のシリンダーガラス体を動かす間に、摩擦力FRが測定される。ガラス表面のシリンダーの湾曲、並びに両方の容器の軸の互いに対する傾きに基づき、測定の間、ガラス物品は点で互いに接触している。滑り摩擦係数は式μ=FR/FNによって導出される。この測定方法で、ガラス物品の滑り摩擦係数μが、同種のガラス物品に対して常に測定されることに留意すべきである。その際、前記測定方法は特に、多くの製造工程の場合に当てはまるようにガラス物品が相互に接触する場合を考慮している。しかし、他の摩擦相手、例えば金属、セラミックまたはプラスチックに関するガラス物品の滑り摩擦は、本発明により測定された滑り摩擦係数μと相関し、そのことは高められた滑り摩擦係数μが、他の摩擦相手、例えば金属、セラミックまたはプラスチックに関するガラス物品の高められた滑り摩擦もみちびくことに由来し得る。本発明による方法によって、滑り摩擦係数μは、タイプ1bのホウケイ酸ガラス製のシリンダー状のシリンジ体、例えばSchott Fiolax(登録商標)について、例えば0.82から非常に速く0.42に低下し得る。これに対し、製造直後に滑り摩擦係数μ0.82を有する未処理のガラスシリンジは、製造の10日後にまだ滑り摩擦係数μ0.75を有する。従って、本発明による方法で製造されたガラスシリンジは、本発明による方法を使用して、その成形および冷却炉内での熱処理後に直接的に、表面欠陥、例えばひっかき傷、クラックまたは破壊を生じることなくさらに加工され得る。
【0017】
さらに、この手順の際にその位置にしっかりと固定されている第1のシリンダーガラス体の上で、測定手順によって生じる損傷を分析できる。
【0018】
好ましい実施態様において、ガラス物品の表面は第2の工程段階Bにおいて60℃未満の温度を有する。特に有利には、工程段階Bは、工程段階Aからのガラス物品が冷却した際に行われる。温度が約60℃であれば既に、ガラス物品を良好に水と接触させることができ、比較的強い蒸発は生じない。他方では、ガラス物品はまだ非常に新鮮なガラス表面を有する。それによって、ガラス物品表面の一様な処理が可能になる。100℃を上回る温度では、表面はもはや十分に飽和されず、そのことによって所望の効果が生じない。
【0019】
好ましい実施態様において、ガラス物品の表面は第2の工程段階Bにおいて10℃を上回る、好ましくは20℃を上回る、特に好ましくは30℃を上回る温度を有する。ガラス物品の表面は例えば周囲温度に相応し得る。しかし、周囲温度に対して高められた温度が好ましく、なぜなら、ガラス物品の表面は高められた温度の際により反応性があり、過剰な水がガラス物品表面からより速く蒸発するからである。
【0020】
好ましい実施態様において、第3の工程段階Cを、第2の工程段階Bの終了後、4時間以内、好ましくは1時間以内、特に好ましくは10分未満以内に行う。
【0021】
好ましい実施態様において、表面と水との接触を、60秒未満、好ましくは10秒未満、および特に好ましくは0.1秒~2秒の時間にわたって行う。本発明者らは、本発明による効果を達成するために、0.1秒~2秒の非常に短い処理時間で既に十分であることを見出した。その際、より長い処理時間が必ずしも悪い結果をもたらすわけではないが、一般には、高いサイクル速度での経済的な製造工程とは相反する。
【0022】
好ましい実施態様において、表面の滑り摩擦係数μは第2の工程段階Bの前に値μ1を有し、前記第2の工程段階の直後に値μ2を有し、ここで、(μ1-μ2)/μ1>0.1、好ましくは(μ1-μ2)/μ1>0.2、およびより好ましくは(μ1-μ2)/μ1>0.3が該当する。この際、「第2の工程段階Bの直後」とは、水または水蒸気との接触後、少なくとも表面の乾燥が行われ、次いで滑り摩擦係数μが測定により調べられることを意味すると理解されるべきである。ガラス物品の約30℃未満もしくは室温への冷却を待つこともある。従って、第2の工程段階Bの直後の滑り摩擦係数μの測定は、工程段階Bの後、典型的には1分~15分後に行われる。商標Schott Fiolax(登録商標)のタイプIのホウケイ酸ガラス製のシリンジ体については、例えば値(μ1-μ2)/μ1=0.48が達成され、つまり滑り摩擦係数μがほぼ半分になった。
【0023】
さらに好ましい実施態様において、表面の滑り摩擦係数μは第2の工程段階Bの前に値μ1>0.7を有し、第2の工程段階Bの直後に値μ2<0.5を有する。滑り摩擦係数が0.6超~0.7である場合、ガラス物品はひっかき傷に対する敏感性が高く、滑り摩擦係数の値が0.5未満の場合、意外なことに、ガラスとガラスとの接触に際し相互の表面欠陥がほとんど観察されない。
【0024】
好ましい実施態様において、第2の工程段階Bの後のガラス物品の化学的な変化は、厚さn<50nm、好ましくは<10nmの表面層に限定されている。従って、本発明による方法は、ガラス物品が極めて薄い表面層においてのみ化学的に変化されることを特徴とする。これは殊に、水または水蒸気と接触する際のガラス表面の温度が低いことによって、並びに作用時間が短いことによっても達成される。従って、望ましくない効果、例えばガラス物品のより深い領域への水の拡散、並びに、より長い作用時間の場合に水がもたらすようなガラスの表面のアルカリ侵出は生じない。
【0025】
好ましい実施態様において、第2の工程段階Bは、ガラス表面の下方50nmの距離からガラス物品内に広がる、ガラス物品のより深くに存在する層内では化学的な変化をもたらさない。第2の工程段階によって、望ましくない影響、例えばガラス内部への水の拡散、並びにガラス内部の侵出が生じないので、ガラス内部の化学的特性は変化しない。従って、例えば引き続く成形工程に及ぼす、本発明による方法の望ましくない影響は回避できる。
【0026】
好ましい実施態様において、第2の工程段階Bによる表面の変化を、熱処理により元に戻すことができる。従って、ガラス物品の表面が少なくとも400℃の温度を有する工程段階Aによる工程段階を改めて実施した後、表面特性は新たに製造されたガラス表面の表面特性へと大部分回復される。それは、高い感度およびひっかき傷に対する敏感性を有する飽和されていないガラス表面をもたらす。滑り摩擦係数μは再度上昇する。さらに、工程段階Bによってガラス表面上にもたらされる残留物または不純物は残らない。従って、本発明による方法は大部分が可逆性である。
【0027】
好ましい実施態様において、第2の工程段階においてガラス物品の表面は水または水蒸気のみ、好ましくは蒸留水またはWFI(water for injection; 注射用水)のみと接触する。従って、液体の形態または蒸気としてのできるだけ高い純度の水が使用され、それは添加物も、有機または無機物質を有する不純物も有さない。従って、例えば高純度品質の水、蒸留水、WFIの水を用いることができる。さらに好ましくは、水は10μS未満、好ましくは5μS未満、および特に好ましくは0.5未満~0.01μSの伝導率を有する。本発明による方法で、通常の水道水でも、滑り摩擦係数の明らかな低下は達成されるのだが、ガラス表面の不純物、例えば石灰堆積物およびその種のものをそのように回避することができる。
【0028】
好ましい実施態様において、ガラス物品の表面上で5~50μm、および好ましくは10~30μmの水の層の厚さに相応する量の水をガラス物品に供給する。本発明者らは、意外なことに、必要とされる水の量が、ガラス物品上で形成する表面層の厚さよりも明らかに多いことを見出した。従って、水の量はガラス物品の表面に応じて提供される。滑り摩擦係数μの最適な低下を、少なくとも10μmの層厚に相応する量の水で達成することができた。より多い量の水は、もはや滑り摩擦係数μのさらなる低下をもたらさず、工程時間を伸ばし、ガラス物品が汚染されるか、または設備の一部が、過剰且つガラスから滴下する水によって汚染されるリスクを高めるに過ぎない。
【0029】
好ましい実施態様において、水、または空気と水との混合物との接触を、吹きつけによって、または水蒸気との接触を、ガラス物品より高い温度を有する湿った暖かい空気で行う。水、または空気と水との混合物を、少なくとも1つの噴霧ノズルを用いて、特に効率的且つ狙い通りにガラス物品に吹き付けることができる。その際、ノズルの形状を、表面全体ができるだけ一様に吹き付けられるようにガラス物品に適合させることができる。ガラス物品の表面全体に達するために、複数の噴霧ノズルをガラス物品の周りに配置することができる。噴霧ノズル下でガラス物品を、好ましくはその縦軸周りに回転運動させることもでき、そのことよって、必要とされる噴霧ノズルの数を少なく保つことができる。
【0030】
好ましくはガラス物品より高い温度を有する水蒸気で飽和した暖かい空気をガラス物品に供給して、ガラス物品上に衝突した空気が冷され、ガラス物品上に水蒸気を凝縮させることもできる。水蒸気で飽和された暖かい空気を、ノズルまたは大面積の空気流を介してガラス物品に供給できる。この方法は特に、噴霧ノズルではガラス物品の表面全体に達することができない場合に勧められる。
【0031】
好ましい実施態様において、水または水蒸気との接触は、好ましくは超音波噴霧器によって噴霧化された水との接触によって行われる。超音波噴霧器による水の噴霧化は、エネルギー需要が少ないこと、および水の加熱が少ないことを特徴とし、従ってこの方式の水の供給の場合、特に高い冷却作用も達成される。さらに、超音波噴霧器によって噴霧化された水は、製造において、高温の蒸気よりも安全であり且つより低い負傷リスクで用いることができる。
【0032】
好ましい実施態様において、ガラス物品は、中空体、好ましくは欧州薬局方8.4、第3.2.1章によるタイプIまたはタイプIIのホウケイ酸製ガラスまたは8~23質量%の範囲のAl23含有率を有するアルミノシリケートガラス製の中空体である。前記の体は、機械的強度を高めるために従来技術において公知のとおり、熱または化学的な機械的プレストレスを有することができる。
【0033】
好ましい実施態様において、ガラス物品は薬品の一次包装、好ましくはバイアル、シリンジ、カートリッジまたはアンプルである。そのような薬品の一次包装は、不純物および外観上の欠陥、例えば引っかき傷およびクラックに関し、特に高い要求を課される。容器に薬を詰めた後、通常、粒子不純物について品質管理が行われ、該品質管理は、薬品の一次包装の外観上の欠陥により困難になり、且つ薬品の一次包装の外観上の欠陥が不良という評価をみちびくことすらある。従って、本発明による方法は、薬品の一次包装、例えばバイアル、シリンジ、カートリッジまたはアンプルを製造するために特に好ましく用いられる。
【0034】
好ましい実施態様において、第3の工程段階Cにおいて、異物または他のガラス物品は、ガラス物品の表面との接触領域において、金属、ガラス、ポリマーまたはセラミック材料を含む。金属、ガラスおよびセラミック材料は、それらの高い硬度に基づき、特に新たに形成されたガラス表面にとって特に危うい接触材料である。金属、ガラスまたはセラミックと接触させられる未処理の新鮮なガラス表面の場合、殊に接触材料もぼやけた粗い表面を有する際、通常は表面の損傷が生じる一方で、本発明により処理されたガラス物品は、例えば容器の重量に相応するような小さい通常の垂直力で表面の損傷を生じることなく、接触材料によって接触されることができる。これに対し、ポリマーは接触材料として、危うく成形されたガラス表面にとって表面の損傷に対するリスクがより少ないが、ポリマーとの接触の際、プラスチックの摩耗、ひいてはガラス物品表面の汚染が生じることがある。
【0035】
本発明を以下で図面および実施例を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明による方法を使用した(曲線2)、および使用しない(曲線1)、2つのFiolax(登録商標)シリンジの滑り摩擦係数μ
図2】第2の工程段階Bを実施するための装置の模式図。
【実施例
【0037】
商標Fiolax(登録商標)の中性ガラス管(出願人のタイプIの中性ガラス)から、外径10.85mmおよび壁厚1.1mmで、通常の変換工程においてシリンジを製造し、引き続き冷却炉内で無応力、もしくは応力がわずかになるように熱処理した。該シリンジは、その中央で、出発管に相応するシリンダー状の部分を有し、並びに近位の端部にフランジ、および遠位の端部にシリンジコーンを有する。熱処理工程の際、前記シリンジを約15分間で600℃の温度に加熱し、それから約20℃の室温に冷却する。そのシリンジのいくつかを、冷却ベルトの端部で取り出し、温度60℃で表面全体に注射用水(WFI)を噴霧した。噴霧プロセスのために、WFIで充填された最小量の噴霧システムを使用し、噴霧時間2秒以内で噴霧化ノズルを介して約0.02mlの量の水を放出した。この時間において、シリンジをシリンダーの軸に沿って360°回転させて、表面全体の一様な濡れを確実にした。その際、前記シリンジは手動で作業できる回転可能なホルダー上に保持されており、該ホルダーはシリンジ体を内部表面で保持するので、外部表面での異物の接触は回避された。短い乾燥の後、滑り摩擦係数μを上述の方法に従って測定し、その際、2つの同種のシリンジ体を、シリンダー状の中央の区間でそれぞれ10mm/分の速度で、一定のプレス力FN0.5Nで、長さ15mmにわたって互いに摺り合わせた。測定を、4時間、24時間、72時間および240時間後に繰り返し、測定間は、シリンジのバッチを周囲条件(20~25℃、相対湿度40~60%)で保管した。
【0038】
比較測定のために、ガラスシリンジのいくつかは、冷却ベルトの端部にてWFIで処理せず、それ以外は同様に製造した。このシリンジについて、滑り摩擦係数μを、冷却ベルトの端部での冷却後、t=0の時点から出発し、0時間および240時間後に測定した。
【0039】
測定結果を図1に示し、ここで、曲線1はガラスシリンジの未処理のバッチについての滑り摩擦係数を示し、曲線2は本発明により処理されたバッチについての滑り摩擦係数を示す。未処理のシリンジは、冷却炉の後、0.82±0.03の非常に高い滑り摩擦係数μを有し、240時間後でもなお、0.75±0.09の非常に高い滑り摩擦係数を有する。0時間での測定でも240時間での測定でも、滑り摩擦測定の実施により、両方のシリンジにおいてガラス表面の深刻な損傷がもたらされた。
【0040】
これに対し、本発明により処理されたシリンジは、本発明による処理の直後に0.42±0.21の滑り摩擦係数を有し、これは未処理の比較用バッチに対して約50%の滑り摩擦係数μの低減に相応する。4時間、24時間および72時間後も、滑り摩擦係数μの明らかに低減された値が測定された。しかしながら、興味深いことに、本発明による処理後の滑り摩擦係数μは、本発明による処理の直後よりも再度高くなったことが判明した。さらに、本発明により処理されたシリンジは、滑り摩擦の測定を実施したことによるガラス表面の損傷がほとんどないことも印象的であった。
【0041】
従って、本発明による方法で、ガラスシリンジの敏感な表面はその滑り特性において明らかに改善されているので、同種のシリンジを用いたガラスとガラスとの接触の際、表面の損傷の明らかな低減がもたらされた。
【0042】
一般に、使用された測定構成および調節されたパラメータの場合、ガラスとガラスとの接触によるひっかき傷の形成は、μ=0.5の閾値未満では回避されることが判明した。従って、この値を、滑り摩擦係数の目標の最大値としてみなすことができる。
【0043】
本発明による方法は多くの利点を有する。
【0044】
表面の損傷に対するガラス表面の敏感性を、速やか且つ持続的に低減することができる。製造後のシリンジの中間保管を回避できるので、シリンジを直接的にさらに加工できる。中間保管による不定の有機物/粒子/ダスト/汚れの堆積が防がれる。天候および保管条件(大気湿度、周囲温度、空気中の粒子含有率、換気条件)は、製品の表面特性にもはや影響を及ぼさなかった。さらなる加工の間、および表面状態の定義が変わらないことによって、不良品が低減される。ガラスのひっかき傷または破壊のリスクは、製品における粒子数の低減に伴って低下する。有害物質または薬学的な観点から懸念すべき物質はシリンジと接触されない。ガラス表面のひっかき傷、クラックおよび浅割れの傾向の明らかな低減に基づき、ガラス粒子の形成も低減する。従って、異物粒子不含のガラス表面が確保される。
【0045】
ガラスの滑り摩擦の低減は、さらなる加工ラインでの加工性の明らかな改善をもたらし、なぜなら、器具の接触により外観的な欠陥のリスクが低減されるだけでなく、例えば自動および手動でのピックアップおよびスムーズな輸送も、低減された滑り摩擦抵抗によって容易になるからである。
図1
図2