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特許7210560タンパク質の凝集に対して有効なペプチド阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】タンパク質の凝集に対して有効なペプチド阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20230116BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230116BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230116BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C12P21/02 C
A61K38/10
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61P3/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020516884
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 IN2018050610
(87)【国際公開番号】W WO2019058389
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】201711033280
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】306017184
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ ディーパック クマール
(72)【発明者】
【氏名】グプタ アーピット
(72)【発明者】
【氏名】シン ラガヴァ ガジェンドラ パル
(72)【発明者】
【氏名】ガウタム アンクール
(72)【発明者】
【氏名】クマリ マニーシャ
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-502781(JP,A)
【文献】国際公開第2017/088711(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/117480(WO,A2)
【文献】Tomomi Imamura et al.,Identification of hepta-histidine as a candidate drug for Huntington's disease by in silico- in vitro- in vivo- integrated screens of chemical libraries.,Scientific Reports,2016年09月22日,Vol.6, No.1,33861,https://www.nature.com/articles/srep33861.pdf,DOI: 10.1038/srep33861
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00
C07K 14/00
C12N 15/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1[XiSACX1mHHHH[X23CGG]mを有し、式中、
mは1であり、
i はアセチル基であり、
1は親水性極性無電荷アミド基含有アミノ酸であり、
2はHis又はLeuであり、
3はHis又はSerであり、かつ
第3位及び第11位のCは、システイン又はシスチンから成る群から選択される、
タンパク質凝集の阻害活性を有するペプチド。
【請求項2】
C末端のアミノ酸がアミド化されている、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載の式1のペプチドを調製する方法であって、
(a)4~7μgの範囲の、Co++-NTA樹脂に結合したHis6タグ付α-Synを用意するステップと、
(b)x1011~7x1011pfuの提示環状ペプチドをコードするファージライブラリを用意するステップと、
(c)ステップで得られた1011 価のオーダーのファージディスプレイされたペプチドライブラリを、ステップ(a)で得られたCo++-NTA樹脂に結合したHis6タグ付α-synと1時間までにわたってインキュベートするステップと、
(d)pH1~3のバッファを使用して、ステップで得られた溶液から結合したファージを溶出させ、溶出直後に前記pHを中和するステップと、
(e)ステップで得られたファージを増幅し、α-synと強く相互作用するペプチドを選択するステップと、
(f)ステップe)で得られた強く相互作用するペプチドをTween20及びNaClで繰り返し洗浄するステップと、
(g)ステップで得られたα-synに結合したファージを溶出させるステップと、
(h)式Iを有する前記ペプチドを特定するステップ
とを含む、方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、α-シヌクレインである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
前記阻害活性が、アミロイド形成タンパク質のβシート重合に対するものである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載のペプチドと、その医薬的に許容可能な賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項7】
アミロイドが関係した疾患を治療するための、請求項6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の凝集を阻害する能力を有する一般式Iの新規なペプチドに関する。より正確には、天然変性タンパク質の変換過程、例えば、α-シヌクレイン(α-syn)からβ-シートリッチなフィブリル、を阻害し、それゆえにパーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、糖尿病及びα-シヌクレイン病等の様々な神経変性疾患の治療にとっての強力なリード分子として使用し得る新規なペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患は、ニューロンの機能が損なわれることに関わる疾患群である。多くの神経変性疾患が、β-シートリッチなアミロイドの蓄積を特徴とする。神経変性疾患とは別に、アミロイドは糖尿病にも関係している。これらの疾患に関与するタンパク質(ADにおけるAβ、PDにおけるα-Syn、HDにおけるハンチンチン、ALSにおけるSOD1、プリオン病におけるPrP)は別個の一次配列を有し、無関係ではあるものの、これらは全て類似した構造遷移を経て、高いβシート含有量及びSDS不溶性といった、幾つかの保存された構造的及び生化学的特性を共通して有するアミロイドを形成する(Prusiner,S.B.(1998).Prions.Proceedings of the National Academy of Sciences 95,13363-13383;Sunde,M.and Blake,C.C.F.(1998).From the globular to the fibrous state:protein structure and structural conversion in amyloid formation.Quarterly Reviews of Biophysics 31,1-39)。現在、これらの疾患は不治且つ致死性である。アミロイドの形成が神経毒性を引き起こすメカニズムははっきりとはわかっていない。
【0003】
本研究では、様々な天然変性タンパク質のフィブリル化に対する阻害剤を開発することに焦点をあてている。天然変性タンパク質α-synを、そのような阻害剤を特定するためのモデルタンパク質として使用した。α-synはアミロイドフィブリルを形成することが知られており、細胞中でのそのようなタンパク質内包物の蓄積は細胞毒性につながり、PDだけでなく、α-シヌクレイン病と総称される多くの疾患にも関連している(Spillantini,M.G.,Schmidt,M.L.,Lee,V.M.Y.,Trojanowski,J.Q.,Jakes,R.,and Goedert,M.(1997).[alpha]-Synin Lewy bodies.Nature 388,839-840;Spillantini,M.G.,Crowther,R.A.,Jakes,R.,Hasegawa,M.,and Goedert,M.(1998).α-Synin filamentous inclusions of Lewy bodies from Parkinson’s disease and dementia with Lewy bodies.Proceedings of the National Academy of Sciences 95,6469-6473)。疾病管理センター(CDC)の報告によると、PDは米国において14番目に多い死因である(National Vital Statistics Report,2014)。PDはドーパミン作動性ニューロンの死により引き起こされ、ドーパミン作動性ニューロンは筋肉の活動の制御に関与している。PDの重要な病理学的特徴は、レビー小体として知られるタンパク質の異常な凝集塊の蓄積である。
【0004】
α-synは、PD患者のドーパミン作動性ニューロン内に蓄積されるレビー小体の主な構成要素である。α-synは、神経組織のシナプス前終末中に豊富に存在するSynファミリータンパク質の1つである。Synファミリーに属するタンパク質はN末端でのKTKEGVモチーフの5回又は6回の不完全な繰り返し、中央の疎水性非アミロイドベータ成分(NAC)領域及び酸性カルボキシ末端テールの存在を特徴とする。未変性のα-synからフィブリルへの構造遷移中に形成されるプロトフィブリルが毒性を引き起こすと考えられているため(Bucciantini,M.,Giannoni,E.,Chiti,F.,Baroni,F.,Formigli,L.,Zurdo,J.,Taddei,N.,Ramponi,G.,Dobson,C.M.and Stefani,M.(2002).Inherent toxicity of aggregates implies a common mechanism for protein misfolding diseases.Nature 416,507-511)、フィブリル化の過程をブロックする方策は、アミロイド系疾患に対する効果的な治療につながり得る。これまで、多くの研究グループがα-synの凝集に対する強力な阻害剤を見つけようと努力してきた(Wu,C.-H.,Liu,I.-J.,Lu,R.-M.,and Wu,H.-C.(2016).Advancement and applications of peptide phage display technology in biomedical science.Journal of Biomedical Science 23,8;Kisilevsky,R.,Lemieux,L.J.,Fraser,P.E.,Kong,X.,Hultin,P.G.,and Szarek,W.A.(1995).Arresting amyloidosis in vivo using small-molecule anionic sulphonates or sulphates:implications for Alzheimer’s disease.Nat Med 1,143-148;Wood,S.J.,MacKenzie,L.,Maleeff,B.,Hurle,M.R.,and Wetzel,R.(1996).Selective Inhibition of A Fibril Formation.Journal of Biological Ckhemistry 271,4086-4092;Perni,M.,Galvagnion,C.,Maltsev,A.,Meisl,G.,Muller,M.B.D.,Challa,P.K.,Kirkegaard,J.B.,Flagmeier,P.,Cohen,S.I.A.,Cascella,R.,et al.(2017).A natural product inhibits the initiation of α-synaggregation and suppresses its toxicity.Proceedings of the National Academy of Sciences;Caruana,M.,Neuner,J.,Hogen,T.,Schmidt,F.,Kamp,F.,Scerri,C.,Giese,A.,and Vassallo,N.(2012).Polyphenolic compounds are novel protective agents against lipid membrane damage by α-synaggregates in vitro.Biochimica et Biophysica Acta(BBA)-Biomembranes 1818,2502-2510;Fulop,L.,Penke,B.,Zarandi,M.,Bozso,Z.,Virok,D.,Janaky,T.,Verdier,Y.,Datki,Z.,Szegedi,V.,and Busa-fekete,R.(2015).Small peptide inhibitors of β-amyloid toxicity.(Google Patents);Arvidsson,P.,and Johansson,J.(2009).Peptides that are capable of binding to amyloid-beta peptide.(Google Patents);Barnham,K.J.,Mccarthy,T.D.,Pallich,S.,Matthews,B.R.,and Cherny,R.A.(2001).Beta-amyloid peptide inhibitors.(Google Patents);Carulla,N.,Fowler,S.,Giralt,E.,Stallwood,Y.,Teixido,M.,and Zurdo,J.(2008).Inhibition of alpha-synaggregation.(Google Patents);El-Agnaf,O.M.A.,and Allsop,D.(2004).Peptides and peptide derivatives for the tratment of α-synuclein-related diseases.(Google Patents);Cheruvara,H.,Allen-Baume,V.L.,Kad,N.M.,and Mason,J.M.(2015).Intracellular Screening of a Peptide Library to Derive a Potent Peptide Inhibitor of α-SynAggregation.Journal of Biological Chemistry 290,7426-7435;Emadi,S.,Liu,R.,Yuan,B.,Schulz,P.,McAllister,C.,Lyubchenko,Y.,Messer,A.,and Sierks,M.R.(2004).Inhibiting Aggregation of α-Synwith Human Single Chain Antibody Fragments.Biochemistry 43,2871-2878;Singh,P.K.,Kotia,V.,Ghosh,D.,Mohite,G.M.,Kumar,A.,and Maji,S.K.(2013).Curcumin Modulates α-SynAggregation and Toxicity.ACS Chemical Neuroscience 4,393-407;Bieschke,J.,Russ,J.,Friedrich,R.P.,Ehrnhoefer,D.E.,Wobst,H.,Neugebauer,K.,and Wanker,E.E.(2010).EGCG remodels mature α-synand amyloid-β fibrils and reduces cellular toxicity.Proceedings of the National Academy of Sciences 107,7710-7715)。これらの分子のいずれも成功していない。
【0005】
ファージディスプレイ法は、望ましい表現型に対して多数のペプチドをスクリーニングするための強力な方法である。この方法では、ペプチド又はタンパク質をバクテリオファージコートタンパク質に融合させ、ビリオン表面に提示させる。ファージは、ファージゲノムに遺伝的にコードされたランダムなペプチドライブラリを提示する。ペプチドを提示したファージを更に目的のタンパク質に対してスクリーニングし、相互作用するファージを、製造業者のプロトコルに沿ったスクリーニング工程においてアフィニティ精製により分離する(NEB社、#E8110S)。アフィニティセレクション(バイオパニングと呼ばれる)を用いて、個々のターゲットに結合するペプチドを特定する。このペプチドの一次構造を、個々のクローンのDNAシークエンシングにより確認する。
【0006】
本発明において、α-synのフィブリル化に対する有望なペプチド阻害剤を特定するために、発明者らは、環状7ペプチドを有する市販のファージディスプレイライブラリを、α-synとの相互作用能力についてスクリーニングした。特定したペプチドを更に、α-synのフィブリル化の阻害能力について試験した。
【発明の概要】
【0007】
発明の目的
発明の主な目的は、α-syn等の天然変性タンパク質のフィブリル化を阻害する潜在能力を有する新規なペプチドを提供することである。
【0008】
発明の概要
したがって、本発明は、天然変性タンパク質のフィブリル化を阻害し、それゆえにパーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、糖尿病及びα-シヌクレイン病等のアミロイド系疾患の治療で強力なリード分子として使用し得る新規なペプチドに関する。
【0009】
ある実施形態においては、一般式1:[XiSACX1mHHHH[X23CGG]mを有する、タンパク質の凝集を阻害するためのペプチドを提供する。式中、mは0又は1であり、Xiはアセチル基であり、X1は親水性極性無電荷アミド基含有アミノ酸であり、X2はHis又はLeuであり、X3はHis又はSerである。別の実施形態において、ペプチドのC末端のアミノ酸はアミド化される。このペプチドは、アミロイドが関係した疾患を治療するためのものである。このペプチドの阻害活性は、アミロイド形成タンパク質のβシート重合に対するものである。このペプチドは、好ましくはα-synであるアミロイド形成タンパク質を含む。
【0010】
一実施形態において、式Iのペプチドを調製する方法を提供する。本方法は、4~7μgの範囲のCo++-NTA樹脂に結合したHis6タグ付α-synを用意するステップと、2x1011~7x1011pfuの提示環状ペプチドをそれぞれコードするファージライブラリを用意するステップと、ステップbで得られた1011近くの力価のファージライブラリをステップ(a)で得られたCo++-NTA樹脂に結合したHis6タグ付α-synと1時間までにわたってインキュベートすることを特徴とするステップと、pH1-3のバッファを使用してステップcで得られた溶液から結合したファージを溶出させ、溶出直後にpHを中和するステップと、ステップdで得られたファージを増幅し、α-synと強力に相互作用するペプチドを選択するステップと、ステップeで得られた強力に相互作用するペプチドをTween20及びNaClで繰り返し洗浄するステップと、ステップfで得られたα-synに結合したファージを溶出させるステップと、α-synに対して最も高い特異性を有する式Iのペプチドを特定するステップとを含む。
【0011】
別の実施形態において、このペプチド及びその医薬的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ファージディスプレイライブラリを用いた、α-synのフィブリル化に対する有望なペプチドのスクリーニングを描いたモデルを示す。C-7ペプチドをコードしているファージディスプレイライブラリを、Co++-NTA樹脂に結合したHis6タグ付α-synに通した。3回のバイオパニング後、プラークの形態の個々の相互作用ファージを増幅し、α-synフィブリル化の阻害についてスクリーニングした。強力な阻害剤についてシークエンシングを行い、インビトロでのフィブリル化により更に検証した。表1は、ファージの力価を示す。5μgのHis6タグ付α-synをCo++-NTA樹脂に結合させ、表示した力価のファージライブラリを樹脂に1時間にわたって結合させ、製造業者のプロトコルに沿って溶出させた。3回のバイオパニング後、溶出したライブラリを増幅することなくロードした。個々のプラークを5番目及び6番目の溶出液からスクリーニングした。
図2】Pep.3をコードするファージがインビトロでのα-synのフィブリル化を阻害することを示す。α-synに繰り返し結合するファージを製造業者のプロトコルに沿って更に増幅した(NEB社、#E8110S)。α-synフィブリル化を、スクリーニング済みの様々なファージの存在下及び不在下で行った。ファージは、様々な効率でもってα-synのフィブリル化を阻害した。Pep.3をコードしているファージは、α-synのフィブリル化をほぼ完全に阻害した。
図3】精製されたPep.3はα-synのフィブリル化を阻害することを示す。(A)等モル濃度の直鎖及び環状(cycPep.3)形態のペプチドPep.3の存在下及び不在下でのインビトロのα-synフィブリル化アッセイ。アッセイは、実施例4に記載の通りに行った。(B)Pep.3又はcycPep.3の存在下及び不在下での3時間のα-synフィブリル化の後に回収したサンプルのTEM画像。
図4】Pep.2dがα-synのフィブリル化を異なるトランケーションで阻害することを示す。α-syn(400μM)を、Pep.2及びその誘導体と及びなしで上述したようにインキュベートし、標準的な時間の経過後にThT蛍光を測定した。低い蛍光強度からわかるように、Pep.2dはα-synのフィブリル化を阻害する。
図5】PC12細胞でのMTTアッセイは、Pep.2及びCycPep.2の存在下でα-synに関わる毒性が低下することを示す。等モル比の記載のペプチドの存在下及び不在下で、10μMのα-syn及びペプチド単体を96ウェルプレートで24時間にわたってPC12細胞とインキュベートした。ペプチド単体は、ペプチドのPC12細胞に対する毒性を調べるためのコントロールとして採用した。MTTアッセイを実施例6に記載の通りに三重で行い、吸光度を570nmで測定することで細胞の生存能をチェックした。Pep.2及びCycPep.2の存在下での吸光度の上昇は、PC12細胞中でのα-synが関わる毒性の低下を示した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
アミロイド系疾患の多くは、天然変性タンパク質が関与する傾向が高いことに起因する。アミロイド疾患に対する治療薬の設計における主要な難題の1つは、アミロイドフィブリルの形成を防止できる阻害剤を開発することであった。したがって、本研究の主な目的は、天然変性タンパク質のフィブリル化を阻害できる小さな生体分子、例えばペプチドの特定である。
【0014】
製造業者のプロトコルに沿った計算でファージ力価が2x1011~7x1011プラーク形成単位(pfu)の、New England Biolabs(NEB)社から市販されている環状7ペプチドをコードするファージディスプレイライブラリを使用して、ターゲットとしての精製α-synとの新規な相互作用配列をスクリーニングした。α-synを、製造業者のプロトコルに沿ってBCAタンパク質推定キットで定量した(#23227、Thermos Scientific社)。ここで、4~7μgのHis6タグ付α-synを金属コバルト親和性樹脂上に固定し、ファージライブラリをそれとインキュベートした。図1は、用いたプロトコルを簡単に説明したものである。5、6回のバイオパニング後に相互作用するペプチドを選択し、フィブリル化阻害アッセイについて更にスクリーニングした。
【0015】
ThTアッセイを用いて、37℃、連続振盪速度900rpmでインキュベートすると、α-synはフィブリルを形成することを示す。ThTはβシートリッチなフィブリルに特異的に結合することが知られる蛍光色素であり、そのような結合によりその蛍光強度は更に上昇する。フィブリル化アッセイは、上で特定された相互作用ファージの存在下及び不在下でα-synを用いて行った。図2に示すように、異なるファージは、α-synのフィブリル化を異なるレベルで阻害した。ペプチドPep.3をコードするファージは、α-synのフィブリル化の阻害において最も強力であると判明した。
【0016】
ゲノムDNAを有望なファージから単離し、対応する提示されたペプチドをコードする遺伝子をDNAシークエンシングにより同定した。同定された配列を使用して対応するペプチドを合成した。直鎖及び環状の両方のバージョンのペプチドを合成した。インビトロでのフィブリル化アッセイを、直鎖及び環状ペプチドで準備した。システインは直鎖ペプチドのことであり、シスチンは環状のペプチドのことである。図3Aから明白なように、α-synと等モル濃度のペプチドは、α-synのフィブリル化を阻害できた。ペプチドの存在下でのチオフラビンT蛍光の低下はペプチドのα-synフィブリル化阻害能力によるものであると更に確認するために、サンプルをTEMを使用して撮像した。37℃、等モル濃度のペプチドの存在下及び不在下でインキュベートしたα-synを含有するサンプルを5時間のフィブリル化反応の後に回収し、炭素をコーティングした200メッシュのグリッド上に載せ、続いてホスホタングステート染色を用いて透過型電子顕微鏡で可視化した。図3Bは、ペプチドの共インキュベーションによりα-synフィブリルの形成が阻害されることを示す。ペプチド中、第3位及び11位の「C」は、システイン及びシスチンから成る群からそれぞれ選択される。
【0017】
Pep.2のトランケートされた幾つかの誘導体を、ペプチドのN末端及びC末端から残基を除去することで構築した。Pep.2の7つの変種を商業的に合成し(GL Biochem社、中国)、ThTアッセイによりその抗フィブリル化活性を調べた。ペプチド変種を、ThTと共に、等モル濃度のα-synとインキュベートした。図4からわかるように、設計した変種は様々な阻害活性を示す。Pep.2dは、Pep.2と同程度にα-synのフィブリル化を低下させることができた。Pep.2gは、約80%のフィブリル化阻害を示した。
【0018】
MTT((3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド))細胞毒性実験を、ラット褐色細胞腫(PC12)ニューロン様細胞を使用して行うことでα-synの毒性とこの研究で作り出されたPep.2及びCycPep.2の保護効果を評価した。MTTアッセイ(図5)を、ペプチドの存在下及び不在下でα-synフィブリル化最終産物とインキュベートしたPC12細胞で行った。見てわかるように、α-synの存在は、細胞の生存能の約50%の低下につながる。しかしながら、同様の濃度のα-synの場合、Pep.2及びCycPep.2の存在により、細胞の生存能はそれぞれ30%及び>99%改善された。ペプチド単体の場合も、相対的にさらに高い濃度(20mM)でもってその毒性について調べたが、図5からわかるように、ペプチドはPC12細胞に対して毒性ではない。
【0019】
得られた配列に基づいて、発明者らはインビトロのフィブリル化スクリーニングを行い、式1:[XiSACX1mHHHH[X23CGG]mを有するペプチドを強力な阻害剤に設計した。上記のペプチドは医薬組成物、例えばペプチド安定性及び透過促進性を備えたリポソームのような脂質製剤、固形脂質ナノ粒子に使用できる。
【実施例
【0020】
以下の実施例は実例として挙げたものであり、本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。
【0021】
実施例1
His6タグ付α-Synの発現及び精製
N末端His6タグ付ヒト野生型α-synを、pET29aベースの発現ベクターを使用して大腸菌Rossetta(DE3)(#70954、Novagen社)で発現させた。IPTG誘導バクテリア細胞ペレットを遠心分離により収集し、10mMのTris-HCl(pH8.0)、1mMのEDTA、1mMのピアス社のプロテアーゼ阻害剤カクテルに再懸濁させた。タンパク質の精製を、van Raaij et al.,2006(van Raaij,M.E.,Segers-Nolten,I.M.J.,and Subramaniam,V.(2006).Quantitative morphological analysis reveals ultrastructural diversity of amyloid fibrils from alpha-synmutants.Biophysical journal 91,L96-98)に記載されるプロトコルに少し変更を加えて行った。簡単に説明すると、細胞溶解を超音波処理により行い、ライセートを95℃で30分間にわたって煮沸し、続いて10000xgで30分間にわたって4℃で遠心分離した。硫酸ストレプトマイシン及び氷酢酸で沈澱させたDNAを13500xg、30分間、4℃での遠心分離により除去した。上清を氷上の50%硫酸アンモニウムでインキュベートすることでα-シヌクレインを選択的に沈澱させた。ペレットを13500xg、30分間、4℃での遠心分離により分離し、更に等体積の100mMの酢酸アンモニウムで、続いて等体積のエタノールで洗浄した。ペレットを10mMのHEPES、50mMのNaCl(pH7.4)に溶解させ、十分な透析に供することで硫酸アンモニウムを除去した。タンパク質純度を15%SDS-PAGEで確認した。タンパク質を、製造業者のプロトコルに沿ってBCAタンパク質推定キットで定量した(#23227、Thermos Scientific社)。
【0022】
実施例2
ファージディスプレイスクリーニング
それぞれ7残基の環状ペプチドをコードする力価1011のファージライブラリ(#E8120S、NEB社)をCo++-NTA樹脂に結合した5μgのHis6タグ付α-synと1時間にわたってインキュベートした。結合していないファージを洗浄バッファ(150mMのNaCl、0.02%のTween20)で除去した。結合したファージをpH2.2のバッファを用いて溶出させ、溶出直後にpHを中和した。溶出したライブラリを大腸菌ER2738株を使用して増幅した(#E8110S、NEB社)。上記の工程を更に3回、溶出したファージで繰り返すことでα-synにとっての強力な相互作用物質のみを選択した。4回目に、洗浄を0.05%のTween20で行い、特異性を上昇させるために、溶出したファージを直接、増幅なしでα-synに結合させた。この工程を溶出したファージで2回繰り返した。
【0023】
実施例3
ペプチド合成
ペプチドを、インドのチャンディーガルにある微生物技術研究所(Institute of Microbial Technology)のペプチド合成施設で合成した。ペプチドを、他の文献(Gautam,A.,Sharma,M.,Vir,P.,Chaudhary,K.,Kapoor,P.,Kumar,R.,Nath,S.K., and Raghava,G.P.S.(2015).Identification and characterization of novel protein-derived arginine-rich cell-penetrating peptides,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 89,93-106)に記載されているように、Protein Technologies社(米国)のPS-3ペプチド合成装置で、0.01ミリモルスケールでのFmoc(N-(9-フルロニル)-メトキシカルボニル)化学反応を用いた固相ペプチド合成法で合成した。
【0024】
実施例4
インビトロのフィブリル化アッセイ
チオフラビンT(ThT)(4mM)を、96マイクロウェルプレート内の、ファージ(1011)又は等モル濃度の精製されたペプチドを伴う又は伴わない400μMの精製されたα-synに添加した。プレートを37℃、振盪速度900rpm、リニアモードで、マルチモードプレートリーダでインキュベートした(TECAN社、infinite M200 PRO)。蛍光キネティクスを、442nmの励起での発光波長482nmで15分毎に測定した。各実験を少なくとも3回繰り返した。
【0025】
実施例5
TEMイメージング
オリゴマー種の形態を、JEM-2100透過型電子顕微鏡(TEM)(Jeol社)を使用して評価した。TEM実験のために、サンプルを、炭素コーティングしたグリッドに吸着させ、1%のホスホタングステートで30秒間にわたってネガティブ染色した。
【0026】
実施例6
MTTアッセイ
MTT実験をラット褐色細胞腫(PC12)細胞を使用して行い、α-synの細胞毒性効果を評価した。PC12細胞の酸化還元活性の阻害は特異的であり、細胞死の早期指標である。MTTアッセイにおいては、水溶性のMTT色素(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)(#M2003、Sigma-Aldrich社)をホルマザンに変換し、この変換を570nmでの吸光度測定でモニタした。MTT色素のホルマザンへの変換は細胞の酸化還元状態に依存するため、吸光度の変化はアッセイにおいて、細胞の生存能の指標として使用できる。
【0027】
PC12細胞を、10%のウマ血清、5%のウシ胎仔血清並びに抗生物質であるペニシリン及びストレプトマイシンを補充した増殖培地RPMI1640で維持した。一晩培養した細胞(50000細胞/ウェル)を96ウェルプレートでのMTTアッセイに用いた。細胞を、ペプチド(400μM)の存在下及び不在下で形成されたα-syn(400μM)フィブリルを含む反応混合物(1.2μl)とインキュベートした。24時間、37℃、5%のCO2雰囲気下でのインキュベーション後、10μlのMTT(5mg/ml、PBS中)を添加し、更に4時間にわたってインキュベートした。細胞溶解のために、またホルマザン結晶の可溶化のために、100μLの可溶化バッファ(50%のDMF中の20%のSDS)を各ウェルに添加し、90分間にわたって穏やかな振盪条件下でインキュベートした。吸光度を570nmでマルチモードプレートリーダ(TECAN社、infinite M200 PRO)を使用して測定した。各実験を三重で行った。
【0028】
【表1】
【0029】
発明の利点
1.特定したペプチドはα-synのフィブリル化を阻害するため、α-シヌクレイン病と総称される多数の神経変性疾患に対する強力な治療薬として作用する。
2.多様な配列から形成されるアミロイドには共通する類似の構造があるため、特定したペプチドは、他の病原性天然変性タンパク質からのアミロイドフィブリルの形成を阻害する可能性を有し、そのためパーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、糖尿病及びα-シヌクレイン病等の様々な疾患に対する強力な治療薬として作用し得る。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕一般式1[X i SACX 1 m HHHH[X 2 3 CGG] m を有し、式中、
mは0又は1であり、
Xiはアセチル基であり、
1 は親水性極性無電荷アミド基含有アミノ酸であり、
2 はHis又はLeuであり、
3 はHis又はSerである、
タンパク質凝集を阻害するためのペプチド。
〔2〕C末端のアミノ酸がアミド化されている、前記〔1〕に記載のペプチド。
〔3〕第3位及び11位のCは、システイン又はシスチンから成る群から選択される、前記〔1〕に記載のペプチド。
〔4〕前記〔1〕に記載の式Iのペプチドを調製する方法であって、
(a)4~7μgの範囲の、Co ++ -NTA樹脂に結合したHis 6 タグ付α-Synを用意するステップと、
(b)約2x10 11 ~7x10 11 pfuの提示環状ペプチドをコードするファージライブラリを用意するステップと、
(c)ステップbで得られた10 11 近くの力価のファージディスプレイされたペプチドライブラリを、ステップ(a)で得られたCo ++ -NTA樹脂に結合したHis 6 タグ付α-synと1時間までにわたってインキュベートするステップと、
(d)pH1~3のバッファを使用して、ステップcで得られた溶液から結合したファージを溶出させ、溶出直後に前記pHを中和するステップと、
(e)ステップdで得られたファージを増幅し、α-synと強く相互作用するペプチドを選択するステップと、
(f)ステップe)で得られた強く相互作用するペプチドをTween20及びNaClで繰り返し洗浄するステップと、
(g)ステップfで得られたα-synに結合したファージを溶出させるステップと、
(h)式Iを有する前記ペプチドを特定するステップ
とを含む、方法。
〔5〕阻害活性が、アミロイド形成タンパク質のβシート重合に対するものである、前記〔1〕に記載のペプチド。
〔6〕アミロイドが関係した疾患を治療するための、前記〔5〕に記載のペプチド。
〔7〕アミロイド形成タンパク質が、好ましくはα-シヌクレインである、前記〔5〕に記載のペプチド。
〔8〕前記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載のペプチドと、その医薬的に許容可能な賦形剤とを含む、医薬組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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