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特許7210598耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法
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  • 特許-耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20230116BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20230116BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20230116BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20230116BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230116BHJP
   C22C 38/06 20060101ALN20230116BHJP
【FI】
C21D8/12 D
B23K26/364
B23K26/067
B23K26/073
C22C38/00 303U
C22C38/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020540629
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 CN2018092077
(87)【国際公開番号】W WO2019148742
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】201810095479.X
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】チュウ、シュアンジェ
(72)【発明者】
【氏名】リ、グオバオ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ヨンジェ
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、ズペン
(72)【発明者】
【氏名】マ、チャンソン
(72)【発明者】
【氏名】シェン、カンイー
(72)【発明者】
【氏名】ウー、メイホン
(72)【発明者】
【氏名】ジ、ヤミン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ファビン
(72)【発明者】
【氏名】フ、ヂゥオチャオ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106282512(CN,A)
【文献】国際公開第2012/033197(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107502723(CN,A)
【文献】特表2013-541643(JP,A)
【文献】国際公開第1997/024466(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0019919(KR,A)
【文献】特開平06-057335(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056501(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/014290(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/125672(WO,A1)
【文献】米国特許第04904312(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素鋼を、製鉄、製鋼、連続鋳造、熱間圧延、1回または2回の冷間圧延に付してから、さらに脱炭焼鈍、表面へのMgO系焼鈍分離剤の塗布、高温焼鈍を行い、最後にその表面に絶縁層を塗布し、熱延伸平坦化焼鈍して完成品を得ることを含む耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法であって、
パルスレーザーを用いて冷間圧延後、脱炭焼鈍後、高温焼鈍後または熱延伸平坦化焼鈍後のケイ素鋼片の片面または両面に走査してスクライビングを行い、ケイ素鋼片の圧延方向に互いに平行な溝を複数形成し、
ここで、前記パルスレーザーは、1本のレーザーパルスの時間幅が100ns以下であり、単発パルスピークのエネルギー密度が0.05J/cm以上であり、1本のレーザーで1回走査するエネルギー密度Eが1.0~100J/cmであり、
前記パルスレーザーのビームスポットが1つのビームスポットまたは複数のビームスポットの組み合わせであり、前記複数のビームスポットの組み合わせが走査方向に直線状に配列される2~300個のビームスポットからなり、1つのビームスポットまたは複数のビームスポットの組み合わせにおけるビームスポットの形状が円形または楕円形であり、各ビームスポットの走査方向における直径aが5.0μm~1mmであり、各ビームスポットの走査方向と垂直な方向における直径bが5~300μmであり、前記複数のビームスポットの組み合わせにおけるビームスポットの走査方向におけるギャップの平均値dがc/5~5cの間にあり、cがビームスポットの走査方向における平均直径であり、
ケイ素鋼片の同一位置に走査してスクライビングする時に、パルスレーザーのビームスポットの数と走査回数との積が5以上であり、
ケイ素鋼片の表面に形成される溝の深さが5.0~35μmであり、幅が8~310μmであり、溝の両側における堆積物の高さが2.5μm以下であり、溝とケイ素鋼片の横方向とがなす角度が45°以下であり、および
方向性ケイ素鋼片の片面にスクライビングする場合、隣接する溝のケイ素鋼片の圧延方向における間隔が1.0~10.0mmであり、方向性ケイ素鋼片の両面にスクライビングする場合、隣接する溝のケイ素鋼片の圧延方向における間隔が2.0~20mmであることを特徴とする耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法。
【請求項2】
熱延伸平坦化焼鈍後に走査してスクライビング加工を行い、その後、ケイ素鋼片の片面または両面に2次絶縁コーティングの塗布および焼結を行うことを特徴とする請求項1に記載の耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法。
【請求項3】
前記パルスレーザーの波長が0.3~3μmであることを特徴とする請求項1に記載の耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法に関し、特に、耐応力除去焼鈍のレーザースクライブによる方向性ケイ素鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球のエネルギーおよび環境問題が顕在化し、省エネルギーおよび消費電力の低減へのニーズが高まっている。2011年において、中国の送配電総損失は約2874億kWhであり、そのうち方向性ケイ素鋼の変圧器鉄芯による損失は約総量の20%を占める。このことから、方向性ケイ素鋼の鉄損を低減することは、巨大な経済的および社会的利益を有することが分かる。また、方向性ケイ素鋼の磁歪による伸縮や磁力線歪みなどの要因による変圧器の騒音も注目されており、変圧器の騒音レベルを低減することもケイ素鋼の性能改善の重要な方向である。
【0003】
現在、方向性ケイ素鉄鋼損と騒音レベルを改善する主な方法は次の通りである。
【0004】
第一、冶金学的方法:成分系およびプロセスパラメータの最適化により、完全な2次再結晶組織が得られ、配向度が向上する。
【0005】
第二、張力の制御:基板の表面のコーティングの張力を改善し、磁区を細分化し、鉄損を低減させる。
【0006】
第三、スクライビング:レーザー、機械、電子ビーム、プラズマ、化学エッチングなどの手段によりケイ素鋼の表面にスクライビングを行い、応力を加えて磁区を細分化することで、鉄損を低減させる。
【0007】
現在、冶金学的方法では、方向性ケイ素鋼の結晶粒の配向度をかなり高いレベルに向上させ、Hi-B鋼中の結晶粒の配向平均ずれ角が5°未満となっている。このため、方向性ケイ素鋼の性能を向上させる技術は、主に、コーティングの張力やスクライビングプロセスの改良に集中している。
【0008】
方向性ケイ素鋼の表面にスクライビングすると、磁区を細分化することにより、鉄損を低減させることができる。通常、スクライビング技術は、2種類に分類することができる。一種類は、非耐応力除去焼鈍のスクライビング技術であり、非耐熱スクライビング技術とも称され、レーザー、プラズマビーム、電子ビームなどの方式により表面に一定の間隔で線状熱応力領域を形成し、該領域の周囲にサブドメインを出現させることにより、主磁区幅を減少させ、鉄損を低減させるという目的を達成するが、その磁区細分化の効果が応力除去焼鈍を経た後に消失し、一般的に製品として焼鈍不要な積層鉄心変圧器の製造に用いられる。もう一種類は、耐応力除去焼鈍のスクライビング技術であり、耐熱スクライビング技術とも称される。従来の産業化技術としては、主に機械や電気化学エッチングなどの手段により、方向性ケイ素基板の表面に線状ひずみ領域、すなわち線状溝を形成し、ひずみ領域周辺のシステムの静磁エネルギーを再配分し、主磁区幅を小さくすることにより、鉄損低減効果を実現するが、その磁区細分化効果は、応力除去焼鈍後に劣化が起こらず、製品として応力除去焼鈍を必要とする巻鉄心変圧器の製造に用いることができる。
【0009】
以前、一般的に耐熱スクライビングによる方向性ケイ素鋼製品の製造は、機械的方法を採用する。例えば、米国特許US4770720Aでは、歯車型ロールなどの機械的スクライビングにより方向性ケイ素鋼の表面に線状溝を刻むことで耐熱スクライビングを実現したが、Siを約3%含有する方向性ケイ素鋼の基材と表面のケイ酸マグネシウム層は極めて高い硬度を有し、歯車型ロールが摩耗しやすく、コイル全体の鉄損が不均一となり、生産コストが極めて高く、量産に不利である。
【0010】
電気化学、電子ビームやイオンビームエッチングによる耐熱スクライビング製品の製造方法も前に報告されている。米国特許US7063780では、電解エッチングの方法による耐熱スクライビングの方向性ケイ素鋼の形成は、まず、レーザーなどの方法により下地層付きの方向性ケイ素鋼片を線状加工し、該領域を露出させた後に、さらに電解液に浸漬し、ケイ素鋼片と電極とを電極対とし、電極電位の正負の変化を交互に制御することで基板を電食し、この領域に線状溝を形成させる。米国特許US5013374では、レーザー、電子ビームおよび電気化学エッチングなどの方法により溝を形成させた後、溝内にケイ素鋼片のマトリックスと熱膨張係数の異なる金属、例えばAl等を電気泳動や噴霧などの手段により埋め込み、その後650℃環境下で硬化焼結させ、フィラーとマトリックスとの熱膨張係数の違いによりこの線状領域内に応力を形成させ、P17/50を8~12%低減させることができる。しかしながら、上記2つの方法は、工程およびプロセス制御が極めて複雑であり、製造コストが高く、処理速度が限定的である。
【0011】
米国特許US5146063では、電子ビームによりケイ素鋼の表面コーティングを金属マトリックスに圧入し、線状ひずみを形成することで、磁区を微細化する目的を達成するが、当該方法ではケイ素鋼片の他面に微細突起が形成され、ケイ素鋼片の占積率を低下させ、かつ鋼板の絶縁性能の低下を招きやすい。
【0012】
近年、レーザーの方法により耐熱スクライビング型方向性ケイ素鋼製品を製造する技術の開発が盛り上がっている。米国特許US7045025では、レーザービームにより熱延伸平坦化焼鈍の前後のケイ素鋼基板の表面を線状に局所加熱し、再溶融領域を形成させることで、コーティング物質と一部の金属マトリックスを溶融・再冷却、固化させて溶融領域を形成し、重熔区の幅と深さを制御することにより完成品の磁気特性を制御し、ケイ素鋼片の鉄損を低減させる。中国特許CN102834529では、連続式レーザー装置によりスクライビングし、走査速度とパワーを制御することにより、熱溶融による突起と溶融凝固層を減少させ、方向性ケイ素鋼の使用性能を向上させる。
【0013】
しかしながら、上記レーザー耐熱スクライビング方法は、いずれも従来の連続式やパルスレーザー装置を採用するが、鋼鉄の融点が高く熱伝導速度が速いため、従来のレーザーにより耐熱スクライビングの方式を実現することは、いずれも異なる程度に溶融物堆積が存在し、ひいては、鋼板が熱変形し、レーザーエネルギーの利用効率が極めて低い可能性があり、スクライビングの品質が制御しにくく、製品の磁気特性が不安定になり、改善効果が大きく制約されてしまう。
【0014】
現在報告されているレーザー耐熱型磁区細分化技術は、いずれもパルスレーザー光源や連続式レーザー光源を用いるが、その原理としては、鋼板を高エネルギービームレーザーにより溶融温度以上に加熱し、基板の金属が溶融し微細な溶融金属液滴を形成して飛散したり、基板の金属が直接気化されるまで加熱されたりし、これによりケイ素鋼板の表面に溝が形成される。実際の加工過程では、鉄鋼の溶融温度が高く熱伝導速度が速いため、レーザー作用のエネルギーが鉄鋼融化までに達して溝を形成する際、レーザーエネルギーの大部分が基板の金属の熱伝導によって失われ、基板上に大きな熱拡散領域や熱応力領域が形成され、鋼板に熱変形反りが生じやすくなるだけでなく、磁気性能が劣化するおそれもある。しかも、飛散した金属液滴および残留スラグは溝の両側に極めて堆積しやすく、これにより溝が非平坦化となり、溝型制御の安定性に劣り、磁気特性が不安定になり、スラグを堆積させてエッジ部の突起が深刻となり、ケイ素鋼板の占積率が著しく低下するだけでなく、ケイ素鋼板の耐食性や絶縁性能に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来のレーザー耐熱スクライビングプロセスにおける不足を克服し、レーザースクライブ加工過程において熱影響、溶融物突起および熱影響部を大幅に低減し、板状劣化がなく、製造された方向性ケイ素鋼片の磁区細分化効果が顕著であり、鉄損が低く、かつ占積率が低下することがない、耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の技術的手段は以下のとおりである。
【0017】
ケイ素鋼を、製鉄、製鋼、連続鋳造、熱間圧延、1回または2回の冷間圧延に付してから、さらに脱炭焼鈍、表面へのMgO系焼鈍分離剤の塗布、高温焼鈍を行い、最後にその表面に絶縁層を塗布し、熱延伸平坦化焼鈍して完成品を得ることを含む耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法であって、パルスレーザーを用いて冷間圧延後、脱炭焼鈍後、高温焼鈍後または熱延伸平坦化焼鈍後のケイ素鋼片の片面または両面に走査してスクライビングを行い、ケイ素鋼片の圧延方向に互いに平行な溝を複数形成し、
ここで、前記パルスレーザーは、1本のレーザーパルスの時間幅が100ns以下であり、単発パルスピークのエネルギー密度が0.05J/cm以上であり、1本のレーザーで1回走査するエネルギー密度Eが1~100J/cmであり、
前記パルスレーザーのビームスポットが1つのビームスポットまたは複数のビームスポットの組み合わせであり、前記複数のビームスポットの組み合わせが走査方向に直線状に配列される複数のビームスポットからなり、ビームスポットの数が2~300個であり、1つのビームスポットまたは複数のビームスポットの組み合わせにおけるビームスポットの形状が円形または楕円形であり、ビームスポットの走査方向における直径aが5μm~1mmであり、走査方向と垂直する方向における直径bが5~300μmであり、前記複数のビームスポットの組み合わせにおけるビームスポットの走査方向におけるギャップの平均値dがc/5~5cの間にあり、ここで、cがビームスポットの走査方向における平均直径であり、ケイ素鋼片の同一位置に走査してスクライビングする時に、パルスレーザーのビームスポットの数と走査回数との積が5以上であることを特徴とする耐応力除去焼鈍の低鉄損方向性ケイ素鋼の製造方法。
【0018】
さらに、本発明では、熱延伸平坦化焼鈍後にケイ素鋼片の片面または両面に走査してスクライビング加工を行い、その後、ケイ素鋼片の片面または両面に2次絶縁コーティングの塗布および焼結を行う。
【0019】
また、本発明では、ケイ素鋼片の表面に形成される溝の深さが5~35μmであり、幅が8~310μmであり、溝の両側にレーザー加工によって形成される堆積物の高さが2.5μm以下であり、溝とケイ素鋼片の横方向がなす角度が45°以下である。
【0020】
本発明において、方向性ケイ素鋼片の片面にスクライビングする場合、隣接する溝のケイ素鋼片の圧延方向における間隔が1~10mmであり、方向性ケイ素鋼片の両面にスクライビングする場合、隣接する溝のケイ素鋼片の圧延方向における間隔が2~20mmである。
【0021】
好ましくは、レーザーの波長が0.3~3μmである。
【0022】
以下、本発明の前記解決手段を詳細に説明する。
【0023】
従来の方向性ケイ素鋼は、製鉄、製鋼、連続鋳造、熱間圧延、1回または2回の冷間圧延による最終厚さまでの圧延を経てから、さらに脱炭焼鈍、表面へのMgO系焼鈍分離剤の塗布、高温焼鈍を経て、完全な2次再結晶およびケイ酸マグネシウムの下地層を形成し、最後に表面に絶縁層を塗布して熱延伸平坦化焼鈍して完成品を形成してから、分包して出荷する。本発明は、従来の方向性ケイ素鋼の製造に好適であり、瞬間的高エネルギーパルスレーザーによりケイ素鋼片の表面に走査して溝を形成し、スクライビング加工を脱炭焼鈍の前後、または熱延伸平坦化焼鈍の前後に実施することができる。熱延伸平坦化焼鈍後にスクライビング加工を行った方向性ケイ素鋼板またはストリップ材は、スクライビング加工の後、2次絶縁コーティングの塗布および焼結を行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0024】
本発明は、研究により、時間幅の小さいパルスレーザーを用いることにより、瞬間的なエネルギーを高めることができ、熱溶融や拡散による鋼板の変形を効果的に制御でき、かつパルスの時間幅の短縮が材料の熱効果を著しく低減し、熱溶融や金属のスパッタを低減できることを見出した。本発明において、1本のレーザーパルスの時間幅が100ns以下であると、レーザーにおける瞬間的なパルスエネルギーを大幅に向上し、加工溝の深さを5~35μmの範囲内とし、両側における堆積物の高さを2.5μm以下とすることができ、磁気特性に優れ、占積率のよい方向性ケイ素鋼製品を得ることができる。
【0025】
本発明に使用されるパルスレーザーの波長は、限定されないが、レーザーの波長の好ましい範囲は0.3~3μmであり、この好ましい範囲内であると、方向性ケイ素鋼材料のレーザー吸収係数がより高く、より良好な加工効率が得られる。
【0026】
本発明に使用されるパルスレーザーの単発パルスピークのエネルギー密度が0.05J/cm以上である。これは、パルスレーザーの単発パルスピークのエネルギー密度が0.05J/cm未満であると、レーザーエネルギーが低すぎ、方向性ケイ素鋼の表面でのスクライビングの加工効率が極めて低く、ひいては溝の形成ができなくなり、使用価値がないからである。
【0027】
本発明では、加工用レーザービームスポットが1つのビームスポットまたは複数のビームスポットの組み合わせであってもよい。図1に示すように、1つのビームスポットまたは複数のビームスポットの組み合わせにおけるビームスポットの形状が円形または楕円形であり、円形ビームスポット直径aおよび楕円形ビームスポットのレーザーの走査方向における直径aが5μm~1mmの範囲であり、楕円形ビームスポットのレーザーの走査方向と垂直な方向における直径bが5μm~300μmの範囲であり、複数のビームスポットの組み合わせが走査方向に直線状に配列される複数のビームスポットからなり、ビームスポットの数が2~300個であり、鋼板の表面に形成されるビームスポットの組み合わせにおけるビームスポットの走査方向におけるギャップの平均値dがc/5~5cの間にあり、cがビームスポットの走査方向における平均直径であり、ギャップをこの範囲の範囲に限定すると、レーザービームのギャップが冷却時間を形成させ、温度が高すぎて表面材に溶融物が堆積する現象が発生することを防止できる。本発明では、鉄損の低減効果を有する溝のサイズが得られる場合、前記1つのビームスポットまたは複数のビームスポットの組み合わせモードは、レーザー走査回数を低減し、レーザー走査効率を向上させることができる。
【0028】
本発明では、研究により、溝の両側に溶融物が堆積することを防止するために、1つのビームスポットのエネルギー密度を適切に低減する必要があり、複数回で走査することで目標溝の深さに達することを見出した。本発明では、実験により、レーザービームスポットの数と走査回数を特定し、すなわち鋼片の同一位置に走査してスクライビングする時に、レーザービームスポットの数と走査回数との積を5以上とすることにより、熔融物の堆積の制御および鉄損の低減の二重目的を達成する。この積が5未満であると、レーザーエネルギーを高めることにより鉄損の低減の目的を達成することができるが、熱溶融の現象は深刻であり、溶融物が溝の両側に堆積し、ケイ素鋼片の占積率を大幅に低減させる。エネルギーを低減することで熱溶融を制御すると、目標溝の深さに達することができず、磁区を著しく細分化し、ケイ素鋼片の鉄損を低減する目的を達成することができない。
【0029】
瞬間的高エネルギーパルスレーザー源については、1本のレーザーで1回走査する流束密度Eは、下式で導出される。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、Eは、単発パルスピークのエネルギー密度であり、単位は、J/cmであり、式は、以下のとおりである。
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
は、レーザーパルスの繰り返し周波数であり、単位がHzである。Pは、レーザー出力であり、単位がWである。Sは、レーザービームスポット面積であり、単位がcmである。
【0035】
【数4】
【0036】
は、レーザービーム走査速度であり、その方向が鋼板の横方向と略平行であり、単位がcm/sである。
aは、ビームスポットの走査方向における直径であり、単位がcmである。
【0037】
本発明に係る1本のレーザーで1回走査する流束密度Eの範囲が1~100J/cmであり、流束密度Eがこの範囲を超えると、レーザーアブレーションによって溝を形成する時に深刻な熱堆積現象が形成され、溝エッジ部に熔融物が堆積し、方向性ケイ素鋼片の占積率を低減させる。
【0038】
本発明では、瞬間的高エネルギーパルスレーザーによりケイ素鋼片の片面または両面に線状微加工を行って、溝の深さが5~30μmであり、幅が8~310μmである溝を形成する。溝の深さが5μm未満、または溝の幅が8μm未満であると,スクライビングによる磁区細分化効果が顕著でなく、鉄損低減効果が限定的である。溝の深さが30μm、または幅が310μmを超えると、溝で漏れ磁束が多く磁気誘導が低下し、かつ通常、複数回走査してこそ目標溝の寸法を形成することができ、レーザースクライブ効率が低い。
【0039】
本発明において、方向性ケイ素鋼片の片面にスクライビングする場合、隣接する溝の圧延方向における間隔が1~10mmであり、方向性ケイ素鋼片両面にスクライビングする場合、隣接する溝の圧延方向における間隔が2~20mmである。レーザースクライブを方向性ケイ素鋼片の片面で実施する場合、隣接する溝の圧延方向における間隔が1mm未満であると、多くのスクライブラインが方向性ケイ素鋼片の磁気誘導を著しく低減させる。隣接する溝の圧延方向における間隔が10mmを超えると、スクライブラインにより形成される磁区細分化効果は限定的であり、鉄損低減効果が顕著でない。方向性ケイ素鋼片の両面で実施する場合、隣接する溝の圧延方向における間隔が2mm未満、20mmを超えると、同様に上記問題が発生する。
【発明の効果】
【0040】
本発明では、瞬間的高エネルギーパルスレーザー源を用いて非熱溶融性加工を行って溝を形成し、低鉄損の耐熱スクライビング方向性ケイ素鋼が得られ、かつスクライビング加工過程において熱影響、溶融物突起および熱影響部を大幅に低減し、その溝のエッジが平坦化であり、突起や堆積物の高さが小さく、かつ板状が良好であり、製造される方向性ケイ素鋼片の磁区細分化効果が顕著となり、鉄損が低く、かつ占積率が低下することがないことにより、方向性ケイ素鋼片により製造された巻鉄心変圧器が低損失、低騒音の特性を併せ持つ。
【0041】
本発明では、瞬間的高エネルギーパルスレーザーにより方向性ケイ素鋼片をスクライビングし、そのレーザービームスポットの数と走査回数との積が従来のレーザースクライブ法よりもはるかに多く、熱効果およびその蓄積を大幅に減少させることができるだけでなく、鋼板が変形しないことを確保しつつ、溝の両側における堆積物や金属のスパッタを効果的に制御でき、溝の両側における堆積物の高さが2.5μm以下になるように制御し、方向性ケイ素鋼の占積率が低下ないことを確保し、より高いレーザーエネルギー効率でより良好なスクライビング品質および完成品の性能が得られ、製造された方向性ケイ素鋼片の磁区細分化効果が顕著となり、鉄損が低く、かつ占積率が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明で使用されるレーザーの1つのビームスポットおよび複数のビームスポットの組み合わせの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、実施例および図面を参照しながら本発明をさらに説明する。
【0044】
実施例1
方向性ケイ素鋼は、製鉄、製鋼、連続鋳造を経て、質量%で、C:0.07%、Si:3.1%、Mn:0.14%、Al:0.020%、N:0.01%、S:0.01%を含む鋼スラブが得られ、熱間圧延プロセスを経て、さらに1回の冷間圧延により最終厚さ0.23mmまで圧延し、脱炭焼鈍プロセスを経て、表面に酸化層を形成した後に、その表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、さらに1250℃で高温焼鈍して20時間保持し、未反応の残留のMgOを洗浄した後、鋼板の一方の表面にレーザー耐熱スクライビングを施した。レーザー走査スクライビング加工のパラメータは以下のとおりである。レーザーパルスの時間幅が10nsであり、レーザー波長が1066nmであり、繰り返し周波数が800KHzであり、ビームスポットの走査方向と垂直な方向における直径bが50μmであり、組み合わせにおけるビームスポットの間隔dが10μmであり、ビームスポットの数が5個である。スクライビングにより形成された溝の深さを15~18μmの間に制御し、幅を50~55μmの間に制御し、溝と鋼板の横方向がなす角度が8°であり、隣接する溝の圧延方向における間隔が4.5mmである。具体的なスクライビング加工のパラメータは、表1を参照する。スクライビングが完了した後に、最終焼鈍により張力コーティングを与えた。
【0045】
ケイ素鋼片に対して、GB/T3655-2008におけるエプスタイン0.5kg法で磁気特性を測定し、GB/T19289-2003でケイ素鋼片の占積率を測定した。実施例1~10および比較例1-3の測定結果は表2に示す。
【0046】
表1~2から明らかなように、実施例1~10では、単発パルスピークのエネルギー密度Eおよび1本のレーザーで1回走査する流束密度Eが本発明に係る範囲にある場合、スクライビング後のケイ素鋼片の鉄損P17/50が0.75W/kg以下であり、占積率が95%以上に保持された。比較例1、2における1本のレーザーで1回走査する流束密度が本発明の範囲を超える場合、鉄損P17/50が良好であるにも関わらず、占積率が著しく低下した。比較例3では、単発パルスピークのエネルギー密度が低すぎるため、スクライビング効果が低すぎ、走査回数が30回に達したところ、レーザースクライブにより形成された溝の深さが3.3μmのみであり、鉄損が高く、産業上の使用価値を備えていなかった。
【0047】
実施例2
方向性ケイ素鋼は、製鉄、製鋼、連続鋳造を経て、質量%で、C:0.05%、Si:3.7%、Mn:0.10%、Al:0.03%、N:0.016%、S:0.013%を含む鋼スラブが得られ、熱間圧延プロセスを経て、さらに1回の冷間圧延により最終厚さ0.26mmまで圧延し、脱炭焼鈍プロセスを経て、表面に酸化層を形成した後に、その表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、さらに1250℃で高温焼鈍して20時間保持し、未反応の残留のMgOを洗浄した後、熱延伸平坦化焼鈍により張力コーティングを与えた後、鋼板の上下両面に同時にレーザースクライブを施した。レーザー波長は533nmであり、繰り返し周波数は600KHzであり、目標のスクライビング効果を実現するようにパルス幅、レーザー出力、ビームスポットサイズ、ビームスポットの組み合わせ、走査速度、走査回数などのパラメータを調整した。具体的なスクライビング加工のパラメータは表3を参照する。溝を鋼板の圧延方向と垂直とし、隣接する溝の圧延方向における間隔を6mmとした。スクライビングが完了した後に、さらに絶縁コーティングを塗布し乾燥・焼結し、最終完成品である方向性ケイ素鋼片を形成した。
【0048】
ケイ素鋼片に対して、GB/T3655-2008におけるエプスタイン0.5kg法で磁気特性を測定し、GB/T19289-2003でケイ素鋼片の占積率を測定した。実施例11~20および比較例4~12の測定結果を表4に示す。
【0049】
表3~4から明らかなように、実施例11~20では、パルス幅、ビームスポットサイズ、ビームスポットの組み合わせのパラメータ、およびビームスポットの数と走査回数との積が本発明の範囲にある場合、スクライビングにより溝の両側に形成された突起物の高さが2.5μm以内であり、応力除去焼鈍後のケイ素鋼片は磁気特性が良好であった。比較例4~12では、上記パラメータが本発明に係る範囲を超えたところ、スクライビングにより溝の両側に形成された突起物が2.5μm超え、磁気誘導が著しく低減し、占積率が著しく低下した。
【0050】
実施例3
方向性ケイ素鋼は、製鉄、製鋼、連続鋳造を経て、質量%で、C:0.09%、Si:2.9%、Mn:0.12%、Al:0.019%、N:0.016%、S:0.012%を含む鋼スラブが得られ、熱間圧延プロセスを経て、さらに1回の冷間圧延により最終厚さ0.22mmまで圧延し、脱炭焼鈍プロセスを経て、表面に酸化層を形成した後に、その表面にパルスの時間幅が0.5nsであるパルスレーザー装置により線状微細溝のスクライビングを行った。レーザー出力は100Wであり、レーザーの波長は533nmであり、繰り返し周波数は200KHzであり、鋼板表面に収束するビームスポットは円形であり、レーザーは複数のビームスポットの組み合わせモードであり、ビームスポットの数は20個であり、組み合わせにおけるビームスポットの間隔は40μmであり、レーザーの走査速度は10m/sであり、異なるサイズの溝の深さ、幅、スクライブラインと鋼板の横方向がなす角度が得られるように走査回数、走査方向、走査偏移方向を調整した。具体的なスクライビング加工のパラメータを表5に示す。
【0051】
上記の試料は、温度が830℃である脱炭焼鈍プロセスを経て、表面に酸化層を形成した後に、その表面にMgO焼鈍分離剤を塗布し、コイルに巻き取ってから1200℃の高温焼鈍条件で20時間保持し、最後に残留のMgOを洗浄し、その表面に絶縁コーティングを塗布し最終の熱延伸平坦化焼鈍を行い、完成品であるケイ素鋼片を形成した。
【0052】
ケイ素鋼片に対して、GB/T3655-2008におけるエプスタイン0.5kg法で磁気特性を測定し、GB/T19289-2003でケイ素鋼片の占積率を測定した。実施例21-30および比較例13-21の測定結果は表6に示す。
【0053】
表5~6から明らかなように、実施例21~30では、レーザースクライブにより形成された溝のパラメータおよびスクライブラインが本発明に係る範囲内にある場合、鉄損P17/50および磁気誘導B8がいずれも良好であった。一方、比較例13~21では、レーザースクライブにより形成された溝およびスクライブラインのパラメータが本発明に係る範囲を超える場合、P17/50が高いまたはB8が著しく低い場合があった。
【0054】
以上のことから分かるように、本発明では、瞬間的高エネルギーレーザーによりケイ素鋼の表面にエッチングし、加工効率が高く、スクライビング効果が良いという利点があり、特に高効率・省エネタイプの巻鉄心変圧器の製造に適し、電網における送配電による電気エネルギー損失を有効に節約でき、良好な応用性を有する。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5-1】
【0060】
【表5-2】
【0061】
【表6】
図1