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特許72107203価クロム及び無機化合物を含有した溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物、これを用いて表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】3価クロム及び無機化合物を含有した溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物、これを用いて表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/30 20060101AFI20230116BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230116BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20230116BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20230116BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230116BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230116BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230116BHJP
【FI】
C23C22/30
C23C28/00 C
C09D1/00
C09D183/04
C09D5/08
C09D7/63
C09D7/61
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021521989
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 KR2019013646
(87)【国際公開番号】W WO2020085716
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】10-2018-0127781
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ス-ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 カン-ミン
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00- 22/86
C23C 24/00- 30/00
C09D 1/00- 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含み、その含量比A/(A+B)が0.3~0.6を満たす3価クロム化合物30~51重量%;
シランカップリング剤5~15重量%;
バナジウム系防錆耐食剤0.2~3重量%;
コロイダルシリカ3~12重量%;
ポリシロキサンコポリマー0.5~5重量%;及び
水14~61.3重量%を含む、溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤は、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、及びテトラエチルオルソシリケートからなる群より選択される一つ以上である、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物。
【請求項3】
前記バナジウム系防錆耐食剤は、五酸化バナジウム(V)、メタバナジウム酸(HVO)、メタバナジウム酸アンモニウム、メタバナジウム酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム(VOCl)、三酸化バナジウム(V)、二酸化バナジウム(VO)、オキシ硫酸バナジウム(VOSO)、オキシシュウ酸バナジウム[VO(COO)]、バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(OC(CH)=CHCOCH))]、バナジウムアセチルアセトネート[V(OC(CH)=CHCOCH))]、三塩化バナジウム(VCl)、硫酸バナジウム(VSO・8HO)、二塩化バナジウム(VCl)及び酸化バナジウム(VO)からなる群より選択される一つ以上である、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物。
【請求項4】
前記コロイダルシリカは粒子サイズ5~15nmであり、pH3~5の酸性水溶液中に水分散された、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物。
【請求項5】
前記ポリシロキサンコポリマーは、シロキサン化合物及びシラン化合物のうち少なくとも一つの成分を含む、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物。
【請求項6】
前記シロキサン化合物は、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン及びヘキサメチルシロキサンからなる群より選択される一つ以上である、請求項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物。
【請求項7】
前記シラン化合物は、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、トリエチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ガンマグリシドキシトリエチルシラン、及びガンマグリシドキシトリメチルシランからなる群より選択される一つ以上である、請求項に記載の表面処理溶液組成物。
【請求項8】
前記ポリシロキサンコポリマーの重量平均分子量は300~1500である、請求項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板用表面処理溶液組成物。
【請求項9】
鋼板;
前記鋼板の少なくとも一面に形成された溶融亜鉛めっき層;及び
前記溶融亜鉛めっき層上に形成された3価クロメート被膜層を含み、
前記3価クロメート被膜層は、
リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含み、その含量比A/(A+B)が0.89~0.95を満たす3価クロム化合物37.7~58.1重量%;
シランカップリング剤34.6~40.7重量%;
バナジウム系防錆耐食剤1.4~8.2重量%;
コロイダルシリカ4.2~6.6重量%;及び
ポリシロキサンコポリマー1.7~6.8重量%を含む、表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項10】
前記シランカップリング剤は、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、及びテトラエチルオルソシリケートからなる群より選択される一つ以上である、請求項に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項11】
前記バナジウム系防錆耐食剤は、五酸化バナジウム(V)、メタバナジウム酸(HVO)、メタバナジウム酸アンモニウム、メタバナジウム酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム(VOCl)、三酸化バナジウム(V)、二酸化バナジウム(VO)、オキシ硫酸バナジウム(VOSO)、オキシシュウ酸バナジウム[VO(COO)]、バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(OC(CH)=CHCOCH))]、バナジウムアセチルアセトネート[V(OC(CH)=CHCOCH))]、三塩化バナジウム(VCl)、硫酸バナジウム(VSO・8HO)、二塩化バナジウム(VCl)及び酸化バナジウム(VO)からなる群より選択される一つ以上である、請求項に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項12】
前記コロイダルシリカは粒子サイズ5~15nmである、請求項に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項13】
前記ポリシロキサンコポリマーは、シロキサン化合物及びシラン化合物のうち少なくとも一つの成分を含む、請求項に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項14】
前記シロキサン化合物は、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン及びヘキサメチルシロキサンからなる群より選択される一つ以上である、請求項13に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項15】
前記シラン化合物は、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、トリエチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ガンマグリシドキシトリエチルシラン、及びガンマグリシドキシトリメチルシランからなる群より選択される一つ以上である、請求項13に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項16】
前記ポリシロキサンコポリマーの重量平均分子量は300~1500である、請求項13に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項17】
前記3価クロメート被膜層は厚さが0.3~0.5μmである、請求項に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項18】
溶融亜鉛めっき層が形成された溶融亜鉛めっき鋼板上に、請求項1乃至のいずれか一項に記載の表面処理溶液組成物をコーティングする段階;及び
前記コーティングされた表面処理溶液組成物を乾燥して3価クロメート被膜層を形成する段階を含む、表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項19】
前記表面処理溶液組成物をコーティングする段階は、2.14~3.57μmの厚さでコーティングすることで行う、請求項18に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項20】
前記乾燥は素材鋼板の最終到達温度(PMT)を基準に、40~60℃の温度で行われる、請求項18に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項21】
前記乾燥は熱風乾燥炉又は誘導加熱炉で行われる、請求項18に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項22】
前記熱風乾燥炉は内部温度が100~200℃である、請求項21に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項23】
前記誘導加熱炉は1000~3500Aの電流が印加される、請求項21に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項24】
前記3価クロメート被膜層を空冷させる段階をさらに含む、請求項18に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項25】
前記溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は連続工程で行われ、前記連続工程の速度は80~100mpmである、請求項18に記載の表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食3価クロム及び無機化合物を含有した表面処理溶液組成物、上記組成物を用いて表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛(Zn)めっき層が形成された溶融めっき材は、犠牲防食による素地鉄の保護効果により耐食性に優れることから、建材用素材として広く使用されている。しかし、上記溶融めっき材は、露出面がZnからなっており、一般の腐食環境、特に、湿潤雰囲気に露出すると、表面に亜鉛酸化物である白錆が発生しやすく、素材の品質特性が悪くなる。また、亜鉛めっき材が高温高湿環境に露出する場合、表面の色が黒色に変化する黒変現象が発生しやすいという問題点がある。
【0003】
このような問題点を解決するために、従来は、めっき処理された鋼板に6価クロム又はクロメート処理を施すことで、耐食性及び耐黒変性を確保してきた。しかし、このような6価クロムは有害環境物質に指定され、現在、6価クロムの使用に対する規制が強化されている。さらに、6価クロムを溶融亜鉛めっき鋼板の表面処理剤として使用すると、鋼板表面が黒色に変化したり、又は黒点が発生したりするという問題がある。
【0004】
したがって、最近6価クロムの環境有害性の問題を解決すべく、3価クロムを含有する表面処理溶液組成物を鋼板上にコーティングして亜鉛めっき鋼板の耐食性及び耐黒変性を確保する方法が適用されている。例えば、韓国公開特許第2006-0123628号公報、同第2005-0052215号公報、及び同第2009-0024450号公報では、3価クロムを含有した組成物に鋼板を浸漬させて化成処理する方法で耐食性及び黒変性を確保しているが、鉄鋼メーカーの連続工程に適用するには浸漬時間が長く、化成処理方法は、耐指紋性の低下などの問題を有している。
【0005】
また、韓国公開特許第2004-0046347号公報及び日本特開2002-069660号公報では、3価クロムを含有した組成物をめっき鋼板上にスプレー又はロールコーター方式でコーティングすることにより、鉄鋼メーカーの連続工程に適用が可能であり、耐指紋性の確保が可能である。しかし、上記組成物は、多孔質のシリカ成分が含まれるため、湿潤な雰囲気で変色の発生が激しいMg、Al合金に適さない。上記多孔質のシリカは吸湿する性質が強く、Mg、Al、Zn合金鋼板には、急激な変色の発生を誘発させるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、有害環境物質である6価クロムを含有することなく、人体に無害な3価クロム及び無機化合物を主成分とする表面処理溶液組成物を提供するものである。
【0007】
本発明の他の側面は、本発明の表面処理溶液組成物を溶融亜鉛めっき鋼板の表面に適用することにより、耐食性、耐黒変性、造管油反応性及び耐アルカリ性に優れた3価クロム及び無機化合物が表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板を提供するものである。
【0008】
本発明のさらに他の一側面は、本発明の表面処理溶液組成物を用いて表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点は、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含み、その含量比A/(A+B)が0.3~0.6を満たす3価クロム化合物30~51重量%;シランカップリング剤5~15重量%;バナジウム系防錆耐食剤0.2~3重量%;コロイダルシリカ3~12重量%;ポリシロキサンコポリマー0.5~5重量%;及び水14~61.3重量%を含む表面処理溶液組成物を提供する。
【0010】
本発明の他の観点は、鋼板;上記鋼板の少なくとも一面に形成された溶融亜鉛めっき層;及び上記溶融亜鉛めっき層上に形成された3価クロメート被膜層を含み、上記3価クロメート被膜層は、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含み、その含量比A/(A+B)が0.89~0.95を満たす3価クロム化合物37.7~58.1重量%;シランカップリング剤34.6~40.7重量%;バナジウム系防錆耐食剤1.4~8.2重量%;コロイダルシリカ4.2~6.6重量%;及びポリシロキサンコポリマー1.7~6.8重量%を含む表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0011】
本発明のさらに他の観点は、溶融亜鉛めっき層が形成された溶融亜鉛めっき鋼板上に上記表面処理溶液組成物をコーティングする段階;及び上記コーティングされた表面処理溶液組成物を乾燥して3価クロメート被膜層を形成する段階を含む、表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による3価クロム及び無機化合物を含有した表面処理溶液組成物で処理された溶融亜鉛めっき鋼板は、耐食性、耐黒変性、溶接性、及び耐アルカリ性に優れた効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、3価クロムを含有した表面処理溶液組成物、上記組成物を用いて表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板、及び上記溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【0015】
本発明の一実施形態による表面処理溶液組成物は、溶液組成物の総重量を基準に、3価クロム化合物30~51重量%、シランカップリング剤5~15重量%、バナジウム系防錆耐食剤0.2~3重量%、コロイダルシリカ3~12重量%、ポリシロキサンコポリマー0.5~5重量%及び水14~61.3重量%を含み、上記3価クロム化合物は、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)であり、その含量比A/(A+B)が0.3~0.6を満たすものである。
【0016】
本発明による3価クロムを含有した表面処理溶液組成物で表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板は、耐食性、耐黒変性、溶接性、及び耐アルカリ性に優れた効果がある。また、有害環境物質である6価クロムを含有することなく、人体に無害な3価クロムを主成分として含むことにより、人体に対する被害及び環境汚染の問題を防止するという効果がある。
【0017】
上記3価クロム化合物は、本発明の表面処理溶液組成物に主成分として含まれる成分であって、6価クロムと類似する自己治癒効果(self-healing effect)及び自己潤滑性を有しており、耐食性、及び耐黒変性を確保する作用をする。本発明の組成物に含まれる上記3価クロム化合物は、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含む。
【0018】
上記リン酸クロムの割合が増加するにつれて、耐食性が向上する効果を奏するのに対し、耐黒変性は劣化することがある。一方、硝酸クロムの割合が増加するにつれて耐黒変性が向上するのに対し、耐食性は劣化することがある。具体的には、上記リン酸クロムで被膜を生成する場合、リン酸成分は揮発しないため、被膜表面にリン酸クロム被膜が形成されて耐食性は向上するが、上記リン酸クロムの吸湿性質により耐黒変性が低下することがある。これに対し、上記硝酸クロムで被膜を生成する場合、硝酸成分がほとんど揮発して耐黒変性に影響を与えないが、硝酸クロムの含量が多くなるについて相対的に被膜表面にリン酸クロム被膜が形成されにくくなり、耐食性が劣化する可能性がある。
【0019】
したがって、本発明の一実施形態によると、上記リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)の含量比A/(A+B)が0.3~0.6を満たすように各成分の含量を制御する。上記含量比が0.3未満であると、加工後の耐食性が低下する可能性があり、0.6を超えると、耐黒変性が低下する可能性がある。
【0020】
上記リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含む3価クロム化合物の全含量は30~51重量%、好ましくは35~45重量%である。上記3価クロム化合物の含量が30重量%未満であると、堅固な不溶性被膜層が薄くなって耐食性が求められるめっき鋼板の表面において、水分浸透を効果的に遮断することができなくなる。その結果、黒変を誘発し、耐食性も低下するという問題がある。一方、上記3価クロム化合物の含量が51重量%を超えると、耐食性向上のために添加されるバナジウム系防錆耐食剤、コロイダルシリカ及びバインダーの役割を果たすシランカップリング剤の含量が相対的に減少して、十分な耐食性及び耐黒変性を確保することが困難であるという問題がある。
【0021】
上記シランカップリング剤は、無機成分と有機成分を架橋させる役割を果たし、これにより、乾燥の促進及び高耐食性を確保するためのものである。上記シランカップリング剤の種類は特に限定しないが、例えば、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシルオキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、及びテトラエチルオルソシリケートからなる群より選択される一つ以上であることが好ましい。
【0022】
上記シランカップリング剤の含量は5~15重量%、好ましくは7~12重量%である。上記シランカップリング剤の含量が5重量%未満であると、耐アルカリ性、耐燃料性が劣化し、15重量%を超えると、被膜の乾燥度が高くなって過度に硬い被膜が形成され、加工部耐食性が劣化する。
【0023】
上記バナジウム系防錆耐食剤は、本発明の表面処理溶液組成物で表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の表面に不動態被膜を形成することで、めっき鋼板の耐食性を向上させるために含まれるものである。これにより、上記溶融亜鉛めっき鋼板の被膜に損傷が発生した場合、隣接する被膜の4価バナジウムが溶出して3価に還元され、露出しためっき表面で不動態被膜を形成し、腐食を抑制する効果を有することができる。また、腐食環境下ではバナジウムが優先的に溶出し、めっき成分の溶解によるpHの上昇を抑制するため、溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上させる効果を有することができる。併せて、上記バナジウム系防錆耐食剤は、亜鉛の奇数電子イオンの形成によるめっき層表面の黒化現象を妨害してめっき層の耐黒変性を向上させる効果を有することができる。
【0024】
上記バナジウム系防錆耐食剤として、好ましくは、五酸化バナジウム(V)、メタバナジウム酸(HVO)、メタバナジウム酸アンモニウム、メタバナジウム酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム(VOCl)、三酸化バナジウム(V)、二酸化バナジウム(VO)、オキシ硫酸バナジウム(VOSO)、オキシシュウ酸バナジウム[VO(COO)]、バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(OC(CH)=CHCOCH))]、バナジウムアセチルアセトネート[V(OC(CH)=CHCOCH))]、三塩化バナジウム(VCl)、硫酸バナジウム(VSO・8HO)、二塩化バナジウム(VCl)、酸化バナジウム(VO)からなる群より選択される一つ以上であってもよい。
【0025】
上記バナジウム系防錆耐食剤の含量は0.2~3重量%、好ましくは0.5~2重量%である。上記防錆耐食剤の含量が0.2重量%未満であると、耐食性の確保が困難であるという問題があり、3重量%を超えると、耐黒変性及び耐アルカリ性の確保が困難であるという問題がある。
【0026】
上記コロイダルシリカは、3価クロム化合物と無機系シリカ結合を形成して被膜の緻密性を強化し、腐食因子の透過を遮断することにより、本発明の表面処理溶液組成物で表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性の向上に効果がある。上記コロイダルシリカは、粒子サイズが5~15nmであり、pH3~5の酸性水溶液中に水分散したものであってもよい。このとき、上記コロイダルシリカの粒子サイズが15nmを超える場合、水分散の過程で溶液安定性が低下するという問題が発生する可能性があり、めっき鋼板に被膜が形成された後、製品の加工のためのプレス工程等でプレス表面との摩擦により加工性が低下するという問題が発生する可能性がある。また、上記コロイダルシリカの粒子サイズが5nm未満である場合、腐食因子の遮断による耐食性の確保に問題がある可能性がある。さらに、上記コロイダルシリカを水分散させる酸性溶液のpHが3~5の範囲から外れた場合、分散したシリカ粒子の沈殿により溶液安定性が低下するという問題がある。
【0027】
上記コロイダルシリカは、水や有機溶剤のような液体に固形のシリカ粒子が沈殿及び凝集していない状態で安定して分散しているものであって、その種類は限定されないが、好ましくはLudox HAS(snowtex-O)が使用されることができる。
【0028】
上記コロイダルシリカの含量は3~12重量%、好ましくは5~10重量%である。上記コロイダルシリカの含量が3重量%未満であると、加工部の耐食性が劣化し、12重量%を超えると、被膜の吸湿性の増加により耐黒変性が低下するという問題がある。
【0029】
上記ポリシロキサンコポリマーは、本発明の表面処理溶液組成物で表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板の表面に有無機系結合を介して緻密な被膜を形成し、被膜の柔軟性付与により平板及び加工部の耐食性を向上させる役割を果たす。また、腐食因子の透過を遮断して上記溶融亜鉛めっき鋼板の耐黒変性を向上させ、柔軟な被膜性質を付与するため、加工性の向上に効果がある。
【0030】
上記ポリシロキサンコポリマーは、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ヘキサメチルシロキサンなどで構成される群より選択される一つ以上のシロキサン化合物;及びメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、トリエチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ガンマグリシドキシトリエチルシラン、ガンマグリシドキシトリメチルシランなどで構成される群より選択される一つ以上のシラン化合物のうち少なくとも一つの成分を含むことができる。
【0031】
また、上記ポリシロキサンコポリマーは、上記シロキサン化合物及び/又はシラン化合物をリン酸及び有機リン酸、シュウ酸、シトリック酸、蟻酸で構成される群より選択される一つ以上の酸触媒の存在下で合成されたものが好ましく、上記ポリシロキサンコポリマーの重量平均分子量300~1500の間の共重合体であって、より好ましくは、重量平均分子量650~750の間の共重合体であってもよい。上記ポリシロキサンコポリマーの重量平均分子量が300未満である場合、被膜の乾燥過程で安定的に被膜が形成されず、耐食性が低下する可能性があり、1500を超える場合、上記ポリシロキサンコポリマーの安定性に問題が生じる可能性がある。
【0032】
上記ポリシロキサンコポリマーの含量は0.5~5重量%、好ましくは1.0~4.5重量%である。上記ポリシロキサンコポリマーの含量が0.5重量%未満であると、加工部耐食性、耐黒変性、及び加工性が劣化するようになり、5重量%を超えると、耐アルカリ性が低下するという問題がある。
【0033】
上記水は、本発明の表面処理溶液組成物の溶媒であって、表面処理溶液組成物の成分を希釈するために使用する。上記水は、例えば、脱イオン水又は蒸留水を使用することができる。上記溶媒は本発明の各構成成分のほかに、残部として含まれるものであって、その含量は、例えば、14~61.3重量%であることが好ましい。
【0034】
本発明の他の実施形態によると、上述した3価クロムを含有した表面処理溶液組成物で表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【0035】
具体的に、上記表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板、上記鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層、及び上記亜鉛めっき層上に形成された3価クロメート被膜層を含む。このとき、上記3価クロメート被膜層として、上述した本発明の表面処理溶液組成物を使用することができ、より詳細には、3価クロム化合物37.7~58.1重量%、シランカップリング剤34.6~40.7重量%、バナジウム系防錆耐食剤1.4~8.2重量%、コロイダルシリカ4.2~6.6重量%、ポリシロキサンコポリマー1.7~6.8重量%を含む。さらに、上記3価クロム化合物は、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含み、その含量比A/(A+B)が0.89~0.95を満たすものである。
【0036】
上記3価クロメート被膜層は、前述の表面処理溶液組成物が乾燥されたコーティング層であって、上記3価クロメート被膜層に含まれた揮発性物質がすべて揮発した後に残った成分に該当する。これにより、上記3価クロメート被膜層には、溶媒である水が含まれておらず、また、3価クロメート化合物、シランカップリング剤に含まれていた水も含まれていない。したがって、3価クロメート被膜層に含まれた成分は、3価クロメート被膜層の全固形分100重量%を基準とした含量に該当する。
【0037】
上記3価クロム化合物は、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含み、その含量比A/(A+B)が0.89~0.95を満たし、その含量は、めっき鋼板上に乾燥された被膜層を基準に、37.7~58.1重量%、好ましくは44~51重量%である。上記3価クロム化合物の含量が37.7重量%未満であると、堅固な不溶性被膜層が薄くなって耐食性が求められるめっき鋼板の表面において水分浸透を効果的に遮断させることができず、黒変を誘発し、耐食性も低下するという問題がある。一方、上記3価クロム化合物の含量が58.1重量%を超えると、耐食性の向上のために添加されるバナジウム系防錆耐食剤、コロイダルシリカ、ポリシロキサン、及びバインダーの役割を果たすシランカップリング剤の含量が相対的に減少して、十分な耐食性及び耐黒変性の確保が困難であるという問題がある。
【0038】
また、上記リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)の含量比A/(A+B)が0.89~0.95を満たし、上記含量比が0.89未満であると、加工後の耐食性が低下する可能性があり、0.95を超えると、耐黒変性が低下する可能性がある。
【0039】
上記表面処理溶液組成物では、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)の含量比A/(A+B)が0.3~0.6である。しかし、上記リン酸クロム及び硝酸クロムには多量の水が含まれているため、上記表面処理溶液組成物を合金化亜鉛めっき鋼板上にコーティング-乾燥して被膜層を形成する工程で上記水が除去されることにより、上記被膜層に含まれるリン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)の含量比A/(A+B)は0.89~0.95である。
【0040】
上記シランカップリング剤の含量は、めっき鋼板上に乾燥された被膜層を基準に、34.6~40.7重量%、好ましくは38.7~40.7重量%である。上記シランカップリング剤の含量が34.6重量%未満であると、耐アルカリ性及び造管油侵害性が劣化し、40.7重量%を超えると、被膜の乾燥度が高くなって、過度に硬い被膜が形成され、加工部耐食性が弱くなり、耐燃料性が劣化する。
【0041】
上記バナジウム系防錆耐食剤の含量は、めっき鋼板上に乾燥された被膜層を基準に、1.4~8.2重量%、好ましくは1.4~4.7重量%である。上記防錆耐食剤の含量が1.4重量%未満であると、耐食性の確保が困難であるという問題があり、8.2重量%を超えると、耐黒変性及び耐アルカリ性の確保が困難であるという問題がある。
【0042】
上記コロイダルシリカの含量は、めっき鋼板上に乾燥された被膜層を基準に、4.2~6.6重量%、好ましくは5.8~6.6重量%である。上記コロイダルシリカの含量が4.2重量%未満であると、加工部耐食性が劣化するという問題があり、6.6重量%を超えると、被膜の吸湿性の増加により耐黒変性が低下するという問題がある。
【0043】
一方、上記ポリシロキサンコポリマーの含量は、めっき鋼板上に乾燥された被膜層を基準に、1.7~6.8重量%、好ましくは3.3~6.8重量%である。上記ポリシロキサンコポリマーの含量が1.7重量%未満であると、加工部耐食性、耐黒変性、及び加工性が劣化するという問題があり、6.8重量%を超えると、耐アルカリ性が劣化するという問題がある。
【0044】
本発明の一実施形態によると、溶融亜鉛めっき層が形成された溶融亜鉛めっき鋼板を準備する段階;上記溶融亜鉛めっき層上に本発明の表面処理溶液組成物をコーティングする段階;及び上記コーティングされた表面処理溶液組成物を乾燥して3価クロメート被膜層を形成する段階を含む溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0045】
上記表面処理溶液組成物は、リン酸クロム(A)及び硝酸クロム(B)を含み、その含量比A/(A+B)が0.3~0.6を満たす3価クロム化合物30~51重量%、シランカップリング剤5~15重量%、バナジウム系防錆耐食剤0.2~3重量%、コロイダルシリカ3~12重量%、ポリシロキサンコポリマー0.5~5重量%及び水14~61.3重量%を含む。上記表面処理溶液組成物に含まれる各成分の含量の範囲に対する技術的意味は上述のとおりである。
【0046】
本発明の一実施形態によると、上記めっき鋼板に表面処理溶液組成物を2.14~3.57μmの厚さで塗布することができる。このような厚さで塗布された表面処理溶液組成物は、乾燥工程によって乾燥した後、被膜層の厚さが0.3~0.5μm、好ましくは0.3~0.4μmになることができる。上記表面処理溶液組成物の塗布厚さが2.14μm未満であると、鋼板粗さの山部分に、表面処理溶液組成物が薄く塗布されて耐食性が低下するという問題が発生することがあり、3.57μmを超えると、厚い被膜層が形成されて、溶接性及び加工性などが低下するという問題が発生し得る。
【0047】
上記表面処理溶液組成物をコーティングする方法は、通常行われるコーティング方法であれば特に制限されないが、例えば、ロールコーティング、スプレー、浸漬、スプレー圧搾および浸漬圧搾から選択された、いずれか一つのコーティング方法で行うことが好ましい。
【0048】
上記溶融亜鉛めっき鋼板上にコーティングされた表面処理溶液組成物を乾燥する工程は、素材鋼板の最終到達温度(PMT)を基準に、40~60℃の温度で行われることが好ましい。上記乾燥温度が素材鋼板の最終到達温度(PMT)を基準に、40℃未満であると、乾燥が完全に行われず、耐アルカリ性及び造管油侵害性が劣化する可能性があり、60℃を超えると、空気中における冷却過程(空冷)中に鋼板が十分に冷却されずに包装されることとなって結露現象が発生し、鋼板の耐黒変性が劣化する可能性がある。
【0049】
一方、上記乾燥は熱風乾燥炉又は誘導加熱炉で行うことが好ましい。上記熱風乾燥炉を用いて表面処理コーティング組成物を乾燥する場合、上記熱風乾燥炉は、内部温度が100~200℃であることが好ましい。なお、上記誘導加熱炉を用いて表面処理コーティング組成物を乾燥する場合、上記誘導加熱炉に印加される電流は1000~3500Aであることが好ましく、1500~3000Aであることがより好ましい。上記熱風乾燥炉の内部温度が100℃未満であるか、又は誘導加熱炉に印加される電流が1000A未満であると、表面処理コーティング組成物の乾燥が完全に行われず、耐アルカリ性及び造管油侵害性が劣化する可能性がある。また、上記熱風乾燥炉の内部温度が200℃を超えるか、又は誘導加熱炉に印加される電流が3500Aを超えると、空気中における冷却過程(空冷)中に鋼板が十分に冷却されずに包装されることとなって、結露現象が発生し、鋼板の耐黒変性が劣化する可能性がある。
【0050】
また、上記表面処理溶液組成物を乾燥して3価クロメート被膜層を形成した後、上記3価クロメート被膜層を空冷させることで、最終的に表面処理された溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0051】
本発明の一実施形態による上記溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、連続工程で行われることができ、上記連続工程の速度は80~100mpmであることが好ましい。上記連続工程の速度が80mpm未満であると、生産性が低下するという問題が発生する可能性があり、100mpmを超えると、表面処理溶液組成物が乾燥される工程で、溶液が飛散して表面欠陥を発生させることがある。
【実施例
【0052】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0053】
(実施例)
1.3価クロム化合物の含量による物性の変化
本発明の表面処理溶液組成物の各成分の含量による物性の変化を実験するために、3価クロム化合物として硝酸クロム及びリン酸クロム;バナジウム系防錆耐食剤としてバナジウムアセチルアセトネート;コロイダルシリカとしてLudox HAS(snowtex-O);シランカップリング剤としてテトラエチルオルソシリケート及び3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシランの重量比1:1の混合物;ポリシロキサンコポリマーとしてポリビニルシロキサン、ビニルトリメトキシシラン及び酸触媒としてリン酸を使用して合成した重量平均分子量650のポリシロキサンコポリマー;及び水を含む表面処理溶液組成物を製造した。
【0054】
一方、以下の実施例では、本発明の表面処理溶液組成物が下記表1の含量範囲を満たす場合を実施例として記載しているが、一つ以上の成分が下記表1の含量範囲を満たしていない場合を比較例として記載した。
【0055】
【表1】
【0056】
以下の実験は、表2~8による各成分の含量を有する表面処理溶液組成物で実施し、以下の表2~8に記載された各成分の含量を「固形分基準」と記載した。より詳細に、上記「固形分基準」とは、本発明の溶液組成物に含まれた溶媒である水が乾燥被膜の状態で除去された以外にも、3価クロム化合物、シランカップリング剤に含まれた水が乾燥被膜の状態で除去されることにより現れる固形分100%を基準とするものである。下記表2~表8は、各実施例及び比較例で製造された組成物において、固形分が14重量%である場合を基準に、上記固形分を100重量%に換算した場合、測定した含量(重量%)を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
各成分の含量による物性の変化を測定するために、溶融亜鉛めっき鋼板を7cm×15cm(横×縦)に切断して油分を除去した後、乾燥被膜層の厚さ0.4μmになるようにして、上記表2で製造した3価クロム表面処理溶液組成物をバー(BAR)コーティングし、PMT60℃の条件で乾燥させて試験片を作製した。作製した試験片の平板耐食性、加工部耐食性、及び耐黒変性を評価し、評価結果は上記表2に記載した。上記平板耐食性、加工部耐食性、及び耐黒変性の評価方法は次のとおりである。
【0059】
<平板耐食性>
ASTM B117に規定された方法に基づいて、試験片を処理した後、時間経過に伴う鋼板の白錆発生率を測定した。このとき、評価基準は次のとおりである。
◎:白錆発生時間が144時間以上
○:白錆発生時間が96時間以上144時間未満
△:白錆発生時間が55時間未満96時間未満
×:白錆発生時間が55時間未満
【0060】
<加工部耐食性>
試験片をエリクソン試験機(Erichsen tester)を用いて6mmの高さに押し上げた後、24時間経過したときの白錆発生程度を測定した。このとき、評価基準は次のとおりである。
◎:48時間経過後の白錆発生が5%未満
△:48時間経過後の白錆発生が5%以上7%未満
×:48時間経過後の白錆発生が7%以上
【0061】
<耐黒変性>
試験片を50℃、相対湿度95%が維持される恒温恒湿機に120時間放置することで、試験前/後の試験片の色変化(色差:ΔE)を観察した。このとき、評価基準は次のとおりである。
◎:ΔE≦2
○:2<ΔE≦3
△:3<ΔE≦4
×:ΔE>4
【0062】
上記表2に示すように、3価クロム化合物の含量が、本発明が提案する含量を満たす場合(実施例1~4)には、すべての物性の面において「良好」以上の結果を示した。
【0063】
これに対し、3価クロム化合物を過度に少なく添加する場合(比較例1)には、平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性において「不良」の結果を示し、過度に多く添加した場合(比較例2)には、耐黒変性を除いたすべての物性の面において「不良」の結果を示した。
【0064】
2.3価クロム化合物に含まれるリン酸クロム(III)及び硝酸クロム(III)の割合による物性の変化
上記実施例3による3価クロム表面処理溶液組成物を使用するとともに、リン酸クロム(III)及び硝酸クロム(III)の割合を下記表3に記載されたリン酸クロム及び硝酸クロムの割合になるように制御した。具体的に、蒸留水にリン酸クロム化合物及び硝酸クロムを投入し、80℃で1時間反応させた後、常温まで冷却して3価クロム化合物(リン酸クロム(III)及び硝酸クロム(III))を製造した。このとき、上記リン酸クロム及び硝酸クロムの割合が下記表3の割合を満たすように、各成分の含量を制御した。
【0065】
【表3】
【0066】
溶融亜鉛めっき鋼板を7cm×15cm(横×縦)に切断して油分を除去した後、乾燥被膜層の厚さが0.4μmとなるように、上記表3で製造した3価クロム表面処理溶液組成物をバー(BAR)コーティングしてPMT60℃の条件で乾燥させることで試験片を作製した。作製した試験片の平板耐食性、及び耐黒変性を評価し、評価結果を上記表3に記載した。上記表3に示したように、リン酸クロムの割合が増加するにつれて耐食性が向上する効果を奏するのに対し、硝酸クロムの割合が増加するにつれて耐黒変性が向上する傾向を示す。しかし、本発明に示されているリン酸クロム及び硝酸クロムの割合以下、又は以上になると、耐食性又は耐黒変性が不良の傾向を示す。
【0067】
3.シランカップリング剤の含量及び種類による物性の変化
本発明の3価クロムを含有した表面処理溶液組成物、3価クロム化合物として硝酸クロム及びリン酸クロム;バナジウム系防錆耐食剤としてバナジウムアセチルアセトネート;コロイダルシリカとしてLudox HAS(snowtex-O);シランカップリング剤としてテトラエチルオルソシリケート及び3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシランの重量比1:1の混合物;ポリシロキサンコポリマーとしてポリビニルシロキサン、ビニルトリメトキシシラン及び酸触媒としてリン酸を使用して合成した重量平均分子量650のポリシロキサンコポリマーを含み、上記組成物の固形分を基準として、下記表4に記載された含量で混合した。
【0068】
【表4】
【0069】
溶融亜鉛めっき鋼板を7cm×15cm(横×縦)に切断して油分を除去した後、乾燥被膜層の厚さ0.4μmとなるように、上記表4で製造した3価クロム表面処理溶液組成物をバー(BAR)コーティングしてPMT60℃の条件で乾燥させることで試験片を作製した。作製した試験片の平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性、耐アルカリ性、及び溶接性を評価し、評価結果を上記表4に記載した。平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性の評価方法は上述のとおりであり、耐アルカリ性及び溶接性の評価方法は次のとおりである。
【0070】
<耐アルカリ性>
試験片をアルカリ脱脂溶液に60℃、2分間浸漬した後、水洗、Air blowingしてから前/後の色差(ΔE)を測定した。アルカリ脱脂溶液は、韓国の大韓パーカライジング社のFinecleaner L4460 A:20g/2.4L+L4460 B 12g/2.4L(pH=12)を使用した。このとき、評価基準は以下のとおりである。
◎:ΔE≦2
○:2<ΔE≦3
△:3<ΔE≦4
×:ΔE>4
【0071】
<溶接性>
溶接性は、空圧式AC Spot溶接機を用いて加圧力250kg、溶接時間15Cycle、通電電流は7.5kAでSpatterがなく、一定の強度を維持するものとして評価した。このとき、評価基準は、溶接が可能(○)、不可能(×)及び溶接品質不良(△)の3つのモードで評価基準を提示した。
【0072】
上記表4に示すように、シランカップリング剤の含量が、本発明で提案する含量を満たす場合(実施例8~11)には、すべての物性の面において良好(○)以上の結果を示した。
【0073】
これに対し、シランカップリング剤を過度に少なく添加する場合(比較例7)には、耐アルカリ性が「不良」の結果を示し、過度に多く添加した場合(比較例8)には、被膜の乾燥度が高くなって硬い被膜が形成され、加工部耐食性が弱くなり、耐黒変性が不良であり、溶接品質が「不良」の結果を示した。
【0074】
上記実施例11による3価クロム表面処理溶液組成物を製造し、シランカップリング剤の種類は、下記表5に記載されたシランカップリング剤を使用した。下記表5に記載されたシランカップリング剤を使用した3価クロム表面処理溶液組成物で上述のようにバー(BAR)コーティングし、PMT60℃の条件で乾燥させることで試験片を作製し、平板耐食性を評価して、その結果を表5に記載した。
【0075】
【表5】
【0076】
上記表5に示すように、実施例12~45は、平板耐食性が「良好」又は優れた結果を示した。特に、実施例41の組成に応じて製造された3価クロム表面処理溶液組成物を処理した試験片の場合、144時間以上後に発生した白錆面積が0%と、最も優れた結果を示した。
【0077】
4.バナジウム系防錆耐食剤の含量による物性の変化
本発明の3価クロムを含有した表面処理溶液組成物、3価クロム化合物として硝酸クロム及びリン酸クロム;バナジウム系防錆耐食剤としてバナジウムアセチルアセトネート;コロイダルシリカとしてLudox HAS(snowtex-O);シランカップリング剤としてテトラエチルオルソシリケート及び3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシランの重量比1:1の混合物;ポリシロキサンコポリマーとしてポリビニルシロキサン、ビニルトリメトキシシラン及び酸触媒としてリン酸を使用して合成した重量平均分子量650のポリシロキサンコポリマーを含み、下記表6に記載された含量(組成物の固形分基準)で混合した。
【0078】
【表6】
【0079】
溶融亜鉛めっき鋼板を7cm×15cm(横×縦)に切断して油分を除去した後、乾燥被膜層の厚さ0.4μmとなるように、上記表6で製造した3価クロム表面処理溶液組成物をバー(BAR)コーティングし、PMT60℃の条件で乾燥させることで試験片を作製した。作製した試験片の平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性、耐アルカリ性を評価し、評価結果を上記表6に記載した。上記平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性、及び耐アルカリ性の評価方法は、上述のとおりである。上記表6に示したように、防錆耐食剤の含量が、本発明で提案する含量を満たす場合(実施例46~48)には、すべての物性の面において「良好」以上の結果を示した。バー(BAR)コーティングし、PMT60℃の条件で乾燥させることで試験片を作製した。作製した試験片の平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性、耐アルカリ性を評価し、評価結果を上記表6に記載した。上記平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性、及び耐アルカリ性の評価方法は、上述のとおりである。上記表6に示したように、防錆耐食剤の含量が、本発明で提案する含量を満たす場合(実施例46~48)には、すべての物性の面において「良好」以上の結果を示した。
【0080】
一方、防錆耐食剤を過度に少なく添加する場合(比較例9)には、耐黒変性、耐アルカリ性を除いたすべての物性の面において「不良」の結果を示し、過度に多く添加した場合(比較例10及び11)には、耐食性を除いたすべての物性の面において「不良」の結果を示した。
【0081】
5.コロイダルシリカの含量による物性の変化
本発明の3価クロムを含有した表面処理溶液組成物、3価クロム化合物として硝酸クロム及びリン酸クロム;バナジウム系防錆耐食剤としてバナジウムアセチルアセトネート;コロイダルシリカとしてLudox HAS(snowtex-O);シランカップリング剤としてテトラエチルオルソシリケート及び3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシランの重量比1:1の混合物;ポリシロキサンコポリマーとしてポリビニルシロキサン、ビニルトリメトキシシラン及び酸触媒としてリン酸を使用して合成した重量平均分子量650のポリシロキサンコポリマーを含み、下記表7に記載された含量(組成物の固形分基準)で混合した。
【0082】
【表7】
【0083】
溶融亜鉛めっき鋼板を7cm×15cm(横×縦)に切断して油分を除去した後、乾燥被膜層の厚さ0.4μmとなるように、上記表7で製造した3価クロム表面処理溶液組成物をバー(BAR)コーティングし、PMT60℃の条件で乾燥させることで試験片を作製した。作製した試験片の平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性を評価し、評価結果は、上記表7に記載した。上記表7に示すように、防錆耐食剤の含量が、本発明で提案する含量を満たす場合(実施例49~52)には、すべての物性の面において「良好」以上の結果を示した。
【0084】
一方、防錆耐食剤を過度に少なく添加する場合(比較例12)には、耐黒変性が「不良」の結果を示し、過度に多く添加した場合(比較例13)には、耐食性が「不良」の結果を示した。
【0085】
6.ポリシロキサンコポリマーの含量による物性の変化
本発明の3価クロムを含有した表面処理溶液組成物、3価クロム化合物として硝酸クロム及びリン酸クロム;バナジウム系防錆耐食剤としてバナジウムアセチルアセトネート;コロイダルシリカとしてLudox HAS(snowtex-O);シランカップリング剤としてテトラエチルオルソシリケート及び3-グリシルオキシプロピルトリメトキシシランの重量比1:1の混合物;ポリシロキサンコポリマーとしてポリビニルシロキサン、ビニルトリメトキシシラン及び酸触媒としてリン酸を使用して合成した重量平均分子量650のポリシロキサンコポリマーを含み、下記表8に記載された含量(組成物の固形分基準)で混合した。
【0086】
【表8】
【0087】
溶融亜鉛めっき鋼板を7cm×15cm(横×縦)に切断して油分を除去した後、乾燥被膜層の厚さ0.4μmとなるように、上記表8で製造した3価クロム表面処理溶液組成物をバー(BAR)コーティングし、PMT60℃の条件で乾燥させることで試験片を作製した。上記表8に示すように、ポリシロキサンコポリマーの含量が、本発明で提案する含量を満たす場合(実施例53~56)には、すべての物性の面において「良好」以上の結果を示した。これに対し、防錆耐食剤を過度に少なく添加する場合(比較例14)には、平板耐食性、加工部耐食性、耐黒変性が「不良」の結果を示し、過度に多く添加した場合(比較例15)には、耐アルカリ性が「不良」の結果を示した。
【0088】
7.被膜層の厚さ及び乾燥温度による物性の変化
溶融亜鉛めっき鋼板を7cm×15cm(横×縦)に切断して油分を除去した後、上記実施例2の組成物(シランカップリング剤の成分は、実施例41基準)をバー(BAR)コーティングし、熱風乾燥炉で乾燥させることで試験片を作製した。コーティングされた被膜層の厚さとPMTの温度を下記表9に記載された厚さに制御した。
【0089】
作製した試験片の耐アルカリ性、溶接性、平板耐食性、加工部耐食性、及び耐黒変性を評価し、評価結果を表9にまとめた。
【0090】
【表9】
【0091】
上記表8に示すように、0.3~0.5μmで被膜層を形成する場合(実施例57~59)、すべての物性の面において「良好」以上の結果を示した。これに対し、形成された被膜が薄すぎる場合(比較例16)には、溶接性以外のすべての物性の面において「普通(△)」の結果を示しており、加工部耐食性は「不良」の結果を示した。一方、過度に厚く形成させた場合(比較例17)には、溶接性を除いたすべての物性の面において「良好」以上の結果を示すが、実施例59と比べて向上した物性がないため、経済的な側面において実施例59以上の被膜厚さは求められず、溶接品質が不良であるという問題がある。また、上記表9に示すように、被膜の乾燥温度が40~60℃で被膜層を形成する場合(実施例57~59及び61)、すべての物性の面において「良好」以上の結果を示した。
【0092】
これに対し、乾燥温度が低すぎる場合(実施例60)には、十分に乾燥されないため、耐アルカリ性が「普通(△)」の結果を示した。一方、乾燥温度が高すぎる場合(実施例62)には、空気中における冷却過程(空冷)中に鋼板が十分に冷却されずに包装されることとなって、結露現象による耐黒変性が「普通(△)」の結果を示した。
【0093】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。