(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】鋼板表面処理用二層組成物及びこれを用いて表面処理された鋼板
(51)【国際特許分類】
C09D 171/12 20060101AFI20230116BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230116BHJP
B32B 37/14 20060101ALI20230116BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230116BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230116BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230116BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230116BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20230116BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230116BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230116BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230116BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20230116BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
C09D171/12
C23C26/00 A
B32B37/14 Z
B32B27/20 Z
B32B27/18 E
B32B27/18 Z
B32B27/30 A
B32B15/08 Z
C09D133/02
C09D5/00 D
C09D7/61
C09D7/63
C09D4/02
C09D5/08
(21)【出願番号】P 2021534695
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 KR2019012020
(87)【国際公開番号】W WO2020130295
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165449
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン-フン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ウォン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、 ヒ-ジャ
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514448(JP,A)
【文献】特表2019-536895(JP,A)
【文献】特開2001-316845(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103374715(CN,A)
【文献】国際公開第2017/195652(WO,A1)
【文献】特開昭57-105344(JP,A)
【文献】特表2009-521608(JP,A)
【文献】特表2002-531696(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108300988(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
C23C 24/00- 30/00
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてフェノキシ樹脂1~12重量%、コロイダルシリカ0.001~1.0重量%、シランカップリング剤0.001~1.0重量%、腐食抑制剤0.1~1.0重量%、長期耐食性改善剤としてリン酸化合物0.001~1.0重量%及び残部の水を含む下塗り用コーティング組成物
を含む下塗り層が、乾燥され
た上に、
上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてアクリル酸樹脂0.1~5.0重量%、コロイダルシリカ30~50重量%、アルコキシシラン40~60重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、酸度調整剤0.01~1.00重量%及び残部の有機溶媒を含む上塗り用コーティング組成物
を含む上塗り層が0.1μm~50μmの厚さで積層され、
前記下塗り用コーティング組成物の腐食抑制剤は、ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロチタン酸、アンモニウムヘキサフルオロジルコネート及びアンモニウムヘキサフルオロチタネートからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記下塗り用コーティング組成物の長期耐食性改善剤は、リン酸とリン酸マンガンを1:2~2:1の重量比で混合したリン酸混合物である、
二層鋼板表面処理層。
【請求項2】
前記上塗り用コーティング組成物は、長期耐食性向上剤0.01~12.00重量%をさらに含む、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項3】
前記下塗り用コーティング組成物のフェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノールF型フェノキシ樹脂及びリン含有フェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの樹脂である、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項4】
前記下塗り用コーティング組成物のシランカップリング剤は、ビニルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項5】
前記下塗り用コーティング組成物のリン酸化合物は、ポリリン酸、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸誘導体、及び亜リン酸からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項6】
前記
下塗り用及び上塗り用コーティング組成物のコロイダルシリカは、固形分が20~30重量%である水性コロイダルシリカである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項7】
前記上塗り用コーティング組成物のアクリル酸樹脂は、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体及びエチレンとアクリル系単量体の共重合体からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項8】
前記上塗り用コーティング組成物のアルコキシシランは、ビニルビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、及びトリメトキシフェニルシランからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項9】
前記上塗り用コーティング組成物のアクリレート系モノマーは、アクリル酸(Acrylic acid、glacial)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、ドデシルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項10】
前記上塗り用コーティング組成物の酸度調整剤は、有機酸、無機酸、またはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項11】
前記上塗り用コーティング組成物の長期耐食性向上剤は、セリウム(III)ナイトレート、ヒドロニウムセリウムナイトレートハイドレート、セリウムナイトレートヘキサハイドレート、セリウム(IV)ナイトレート、ジカリウムジアクアペンタニトラトセレート、ジカリウムヘキサニトラトセレート、トリカリウムジセリウムナイトレート、ジアンモニウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ジルビジウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ジセシウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ジタリウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ビス4-(4H-1,2,4-トリアゾール4イル)イミノメチルピリジニウムジアクアペンタニトラトセレート、1,10-フェナントロリン-H-ジアクアペンタニトラトセレート、ヒドロニウムセリウムナイトレートハイドレート、セリックマグネシウムナイトレート、セリックジンクナイトレート、セリックニッケルナイトレート、セリックコバルトナイトレート、及びセリックマンガンナイトレートからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項
2に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項12】
前記上塗り用コーティング組成物の有機溶媒はアルコールである、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項13】
前記下塗り用コーティング組成物及び上塗り用コーティング組成物は、被コーティング物に適用される前には、別の容器に保管される、請求項1に記載の
二層鋼板表面処理層。
【請求項14】
下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてフェノキシ樹脂1~12重量%、コロイダルシリカ0.001~1.0重量%、シランカップリング剤0.001~1.0重量%、腐食抑制剤0.1~1.0重量%、長期耐食性改善剤としてリン酸化合物0.001~1.0重量%及び残部の水を含む下塗り用コーティング組成物を鋼板に塗布して下塗り層を形成する段階;
前記下塗り層を40~80℃の温度で乾燥する段階;
前記下塗り層上に、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてアクリル酸樹脂0.1~5.0重量%、コロイダルシリカ30~50重量%、アルコキシシラン40~60重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、酸度調整剤0.01~1.00重量%及び残部の有機溶媒を含む上塗り用コーティング組成物を
0.1μm~50μmの厚さで塗布して上塗り層を形成する段階;及び
前記上塗り層を200~300℃の温度で乾燥する段階
を含
み、
前記下塗り用コーティング組成物の腐食抑制剤は、ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロチタン酸、アンモニウムヘキサフルオロジルコネート及びアンモニウムヘキサフルオロチタネートからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記下塗り用コーティング組成物の長期耐食性改善剤は、リン酸とリン酸マンガンを1:2~2:1の重量比で混合したリン酸混合物である、
耐食性の向上のための鋼板の表面処理方法。
【請求項15】
請求項1から
13のいずれか一項の
二層鋼板表面処理層を少なくとも一面に含む、表面処理された鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板表面処理用二層組成物及びこれを用いて表面処理された鋼板に関するものであって、より詳細には、酸に対する耐食性に優れた鋼板表面処理用二層組成物及びこれを用いて表面処理された鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫黄酸化物や窒素酸化物などが水分と混ざると、硫酸や硝酸などの強酸になるが、火力発電所の熱交換器、ダクト(Duct)などの設備は、このような強酸による腐食環境に晒されるようになる。したがって、このような露点腐食を低下させるために、高価なステンレススチールやホーロー鋼板などを用いるか、比較的低価でありながら露点腐食に対する抵抗性が大きい耐硫酸鋼などを適用している。すなわち、このような硫酸または硫酸-塩酸複合耐食鋼が、石炭または石油などの化石燃料を燃焼しながら生成される亜硫酸ガス及び塩素ガスを含有する排気ガスが水分と反応して硫酸及び塩酸を生成し硫酸または硫酸-塩酸複合腐食が深刻となる、火力発電所の脱硫及び脱硝設備または複合発電所の配管及びGGH(Gas Gas Heater)の比較的厚みのある鋼板を使用する必要がある熱素子(heat element)素材などに利用される。
【0003】
一般的に、硫酸-塩酸複合耐食鋼は、硫酸及び塩酸の複合雰囲気で一般鋼より腐食速度を遅延させるために、鋼中に銅(Cu)を多量に添加することで知られている。銅(Cu)は、他の添加元素に比べて硫酸腐食速度を大きく遅延させる効果に優れるが、多く添加する場合、熱間圧延時に鋼板のクラック発生を誘発するなどの問題がある。
【0004】
また、このように、硫酸-塩酸複合耐食鋼において銅(Cu)含有量が高いほど、耐食性の向上が可能であるのに対し、銅(Cu)は高価な元素であるため、含有量が増加するほど製造原価が高くなるだけでなく、融点の低い銅(Cu)が偏析するか、濃度が高い部位では若干の変形によってもクラックが発生しやすくなって、連続鋳造過程において加工を多く受けるスラブのコーナーなどにクラックが発生し、熱間圧延後には、表面欠陥として残存して他の部位よりも先に腐食するという問題点がある。
【0005】
韓国登録特許第10-1560902号では、鋼板の一組成としてSbを添加するとともに、熱間圧延後の冷却条件を適宜制御して複合耐食性を向上させる技術を開示しているが、これは鋼板自体の成分調整などによって耐食性を向上させようとするものであって、特定の鋼板以外に適用することは難しいという問題がある。
【0006】
一方、腐食反応は、構造体の表面から進行するが、ホーロー鋼板を除いたほとんどの素材は、表面に別途のコーティング層なしに使用されているのが現実である。したがって、鋼板自体の成分調整ではなく、鋼板表面のコーティングにより、上述の露点腐食を含む強酸に対する耐食性を向上させ、製品の寿命を延ばすことができる技術が開発された場合、関連分野で広く適用されることができるものと期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面は、強酸に対する耐食性を向上させることができる鋼板表面処理用二層組成物を提供する。
【0008】
本発明の他の側面は、上記本発明の鋼板表面処理用二層組成物を用いて表面処理する方法を提供する。
【0009】
本発明の別の側面は、上記本発明の鋼板表面処理用二層組成物を用いて表面処理された、強酸に対する耐食性が向上した鋼板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によると、下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてフェノキシ樹脂1~12重量%、コロイダルシリカ0.001~1.0重量%、シランカップリング剤0.001~1.0重量%、腐食抑制剤0.1~1.0重量%、長期耐食性改善剤としてリン酸化合物0.001~1.0重量%及び残部の水を含む下塗り用コーティング組成物;及び上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてアクリル酸樹脂0.1~5.0重量%、コロイダルシリカ30~50重量%、アルコキシシラン40~60重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、酸度調整剤0.01~1.00重量%及び残部の有機溶媒を含む上塗り用コーティング組成物からなる、鋼板表面処理用二層組成物が提供される。
【0011】
本発明の他の態様によると、上記本発明の鋼板表面処理用二層組成物を用いて、下塗り用コーティング組成物を鋼板に塗布して下塗り層を形成する段階;上記下塗り層を40~80℃の温度で乾燥する段階;上塗り用コーティング組成物を鋼板に塗布して上塗り層を形成する段階;及び上記上塗り層を200~300℃の温度で乾燥する段階を含む、耐食性向上のための鋼板の表面処理方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様によると、上記本発明の鋼板表面処理用二層組成物を用いて、上記下塗り用コーティング組成物から形成された下塗り層;及び上記下塗り層上に上記上塗り用コーティング組成物から形成された上塗り層が積層された表面処理層を少なくとも一面に含む、表面処理された鋼板が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面処理用溶液組成物を用いて形成されたコーティングは、長時間の間酸腐食に対する優れた耐食性を提供することができるため、本発明によると、硫酸及び塩酸などの強酸に対する耐食性が強い耐化学コーティング鋼板を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】長期耐食性評価において、局部腐食により端が欠けた比較実験例11の試験片(左)及び良好な実験例1の試験片(右)の結果を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付された図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明によると、鋼板の表面に強酸に対する抵抗が強いコーティングを適用して耐食性を向上させ、製品の寿命を延ばすことができる、鋼板表面処理用二層組成物が提供される。
【0017】
本発明の鋼板表面処理用二層組成物は、下塗り用コーティング組成物;及び上塗り用コーティング組成物からなる。
【0018】
より詳細には、本発明の鋼板表面処理用二層組成物は、下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてフェノキシ樹脂1~12重量%、コロイダルシリカ0.001~1.0重量%、シランカップリング剤0.001~1.0重量%、腐食抑制剤0.1~1.0重量%、長期耐食性改善剤としてリン酸化合物0.001~1.0重量%及び残部の水を含む下塗り用コーティング組成物;及び乾燥された上記下塗り用コーティング組成物上に適用される上塗り用コーティング組成物であって、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてアクリル酸樹脂0.1~5.0重量%、コロイダルシリカ30~50重量%、アルコキシシラン40~60重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、酸度調整剤0.01~1.00重量%及び残部の有機溶媒を含む上塗り用コーティング組成物からなるものである。
【0019】
上記下塗り用組成物において、上記フェノキシ樹脂は、コーティング後の下塗りを形成する皮膜を形成するものであり、下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として1~12重量%、好ましくは2~8重量%含まれ、上記フェノキシ樹脂が1重量%未満であると、十分な皮膜形成ができず、耐食性を確保できない場合があり、12重量%を超えると、過度の樹脂成分により硬化度を十分に確保できず、皮膜剥離が発生し、これにより、耐食性を確保することができないことがある。
【0020】
上記下塗り用組成物において、上記フェノキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノールF型フェノキシ樹脂及びリン含有フェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの樹脂であることができる。
【0021】
上記下塗り用コーティング組成物のシランカップリング剤は、密着性改善剤として用いられ、下塗りと鋼板の密着性を向上させ、表面処理鋼板の耐水性及び耐食性を向上させるものであって、下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として0.001重量%~1.0重量%、好ましくは0.05~0.5重量%の含有量で含まれることができる。上記シランカップリング剤が0.001重量%未満であると、鋼板との密着性の劣化により耐食性を確保できない場合があり、1.0重量%を超えると、残留密着性改善剤の影響により耐食性が劣化することがある。
【0022】
上記シランカップリング剤は、例えば、ビニルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも一つであることができる。
【0023】
上記下塗り用コーティング組成物の腐食抑制剤は、耐食性を向上させ、皮膜強度を向上させるものであって、下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として腐食抑制剤は、0.1~1.0重量%、好ましくは0.3~0.8重量%の含有量で含まれることができる。上記腐食抑制剤が0.1重量%未満であると、耐食性を確保できない場合があり、1.0重量%を超えると、過度の強度によって加工性が劣化することがある。
【0024】
本発明の金属表面処理用下塗り溶液組成物において、上記腐食抑制剤の種類は特に制限されないが、例えば、ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロチタン酸、アンモニウムヘキサフルオロジルコネート及びアンモニウムヘキサフルオロチタネートからなる群から選択される少なくとも一つであることができる。
【0025】
上記下塗り用コーティング組成物の長期耐食性改善剤は、酸環境において長期耐食性を向上させるためのものであり、リン酸化合物が用いられることができ、下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてリン酸化合物0.001~1.0重量%、好ましくは0.05~0.5重量%の含有量で含まれることができる。上記長期耐食性改善剤が0.001重量%未満であると、長期耐食性を確保できない場合があり、1.0重量%を超えると、残留長期耐食性改善剤の影響により大気耐食性が劣化することがある。
【0026】
上記リン酸化合物は、ポリリン酸、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸誘導体、及び亜リン酸からなる群から選択される少なくとも一つであることができ、好ましくは、リン酸とリン酸マンガンを1:2~2:1の重量比で混合したリン酸混合物である。このようなリン酸混合物を用いる場合には、特に高い塗膜密着性などの優れた効果がある。
【0027】
上記下塗り用コーティング組成物の上記コロイダルシリカは、耐食性を向上させる役割を果たすものであって、例えば、固形分が20~30重量%である水性コロイダルシリカであることができ、下塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてコロイダルシリカは0.001~1.0重量%、好ましくは0.05~0.5重量%含まれ、コロイダルシリカが0.001重量%未満であると、耐食性を確保できない場合があり、1.0重量%を超えると、上塗りとの密着性が劣化して耐食性を確保できないことがある。
【0028】
この時、上記コロイダルシリカは、粒子の大きさが好ましくは5nm~50nmであることを含むことができ、固形分が20~30重量%である水性コロイダルシリカであることが好ましい。
【0029】
上記下塗り用コーティング組成物は、溶媒として水が用いられ、これにより、残部の水を含むことができる。
【0030】
一方、本発明の鋼板表面処理用二層組成物の上塗り用コーティング組成物は、ゾルゲル法を介した無機バインダーを含むことができるものであって、これは低温反応が可能であるように優れた反応性を有する金属アルコキシド前駆体を用いてコロイド状態のゾルからゲルに進行する乾燥及び硬化過程を介して得ることができる。より詳細には、本発明の上塗り用コーティング組成物において、ナノ粒子のコロイダルシリカ及び3級アルコキシシランのゾルゲル反応で中間体を形成し、これに有機モノマーであるアクリレート系モノマーを追加反応させて主樹脂を合成した後、アクリル酸樹脂を後添することができる。
【0031】
上記上塗り用コーティング組成物は、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてアクリル酸樹脂0.1~5.0重量%、コロイダルシリカ30~50重量%、アルコキシシラン40~60重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、酸度調整剤0.01~1.00重量%及び残部の有機溶媒を含むものである。
【0032】
本発明の上塗り用コーティング組成物において、上記アクリル酸樹脂は、コーティングしようとする素材との付着性を向上させ、乾燥性を向上させる役割を果たすものであって、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として0.1~5.0重量%、好ましくは1.0~3.0重量%含まれて、上記アクリル酸樹脂の含有量が0.1重量%未満であると、コーティング時に素材との付着性が劣化するか、容易に乾燥されず、耐食性が確保されない可能性があり、5.0重量%を超えると、耐水性が低下して、塗膜剥離現象などが発生することがある。
【0033】
本発明の鋼板表面処理用二層組成物において、上記アクリル酸樹脂の具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体及びエチレンとアクリル系単量体の共重合体からなる群から選択される少なくとも一つであることができ、さらに、ポリビニルアルコール、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、またはこれらの組み合わせとのハイブリッド(Hybrid)樹脂、または混合物樹脂を用いることができる。
【0034】
上記上塗り用コーティング組成物の上記コロイダルシリカは、例えば、固形分が20~30重量%である水性コロイダルシリカであることができ、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準としてコロイダルシリカは30~50重量%、好ましくは35~45重量%含まれ、コロイダルシリカが30重量%未満であると、アルコキシシランと十分に結合できず、硬さを減少させ、耐食性を確保できない場合があり、50重量%を超えると、シランと未結合されたシリカが残存して塗膜形成を低下させることがあり、これにより、耐食性を確保できないことがある。
【0035】
この時、上記コロイダルシリカは、粒子の大きさが好ましくは5nm~50nmであるものを含むことができ、固形分が20~30重量%である水性コロイダルシリカであることが好ましい。
【0036】
上記上塗り用コーティング組成物のアルコキシシランは、上塗り用コーティング組成物100重量部に対して40~60重量%、好ましくは45~55重量%含まれることができる。上記アルコキシシランが40重量%未満であると、コロイダルシリカと十分に結合できず、塗膜形成できない可能性があり、これにより、耐食性を確保できない場合があり、60重量%を超えると、熱分解による有機ガスが排出されることがあり、多量のシラノールが残存して塗膜密着性が阻害され、これにより、耐食性を確保できないことがある。
【0037】
上記上塗り用コーティング組成物のアルコキシシランは、好ましくは、アルコキシ基が3つ以上であり、加水分解後に安定化することができるシランであって、例えば、ビニルビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン及びトリメトキシフェニルシランからなる群から選択される少なくとも一つであることができる。
【0038】
上記上塗り用コーティング組成物のアクリレート系モノマーは、コーティング時の塗膜形成及び架橋反応に寄与するものであって、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として5~15重量%、好ましくは7~13重量%含まれることができる。上記アクリレート系モノマーが5重量%未満であると、シリカ及び合成シラン重合体と十分に結合が形成されず、塗膜形成が低下することがあり、これにより、耐食性を確保できない場合があり、15重量%を超えると、反応しない残存モノマーにより耐水性が低下したり、耐食性が低下することがある。
【0039】
上記上塗り用コーティング組成物のアクリレート系モノマーは、アクリル酸(Acrylic acid、glacial)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、ドデシルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一つであることができるが、これに制限されるものではない。
【0040】
本発明の上塗り用コーティング組成物における酸度調整剤は、シランの加水分解を助けながらシランの安定性を向上させる役割を果たすものであって、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として0.01~1.00重量%、好ましくは0.05~0.8重量%含まれることができる。上記酸度調整剤の含有量が0.01重量%未満であると、加水分解時間が増加して全体樹脂組成物の溶液安定性が低下することがあり、1.00重量%を超えると、鋼板の腐食が発生することがあり、樹脂の分子量の制御が難しくなることがある。
【0041】
上記上塗り用コーティング組成物の酸度調整剤は、有機酸、無機酸またはこれらの組み合わせであることができ、より詳細には、酢酸、ギ酸、乳酸、グリコール酸などの有機酸;硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの有-無機酸;及びこれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のものを含むことができる。
【0042】
上塗り用コーティング組成物は溶媒であって、有機溶媒が用いられ、上記上塗り用コーティング組成物の有機溶媒は、アルコールであることができる。この時、上記溶媒は、シランの水に対する相溶性及び加水分解性、樹脂組成物の金属表面ウェッティング(Wetting)性、乾燥速度調節などの役割を果たすものとして、残部として含まれるが、好ましくは上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として1~15重量%の含有量で含まれることができる。上記有機溶媒の含有量が1重量%未満であると、相溶性が低下してコーティング液の貯蔵性が低下し、コーティング後の耐食性を確保できない場合があり、15重量%を超えると、粘度が過度に低くなって溶液の安定性が低下し、コーティング後の耐食性を確保できないことがある。
【0043】
本発明の上塗り用コーティング組成物において、上記有機溶媒の具体的な種類は特に制限されないが、例えば、アルコール、好ましくはメタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシエタノールなどからなる群から選択される1つ以上のものを含むことができる。
【0044】
さらに、上記本発明の上塗り用コーティング組成物は、長期耐食性向上剤0.01~12.00重量%をさらに含むことができ、この時、本発明の上塗り用コーティング組成物における長期耐食性向上剤は、コーティング剤の長期耐食性評価で発生する局部腐食を改善して、残存素材の厚さの均一性を向上させる役割を果たすものであって、上塗り用コーティング組成物の全体重量を基準として0.01~12.00重量%、好ましくは0.1~8重量%含まれることができる。上記長期耐食性向上剤の含有量が0.01重量%未満であると、長期耐食性向上効果が僅かであり、12.00重量%を超えると、長期耐食性向上効果は僅かであるのに対し、溶液の安定性が低下することがある。
【0045】
一方、上塗り用コーティング組成物における長期耐食性向上剤は、セリウム、カリウム、アンモニウム、ルビジウム、セシウム、タリウムなどの化合物を含むことが好ましく、例えば、上記上塗り用コーティング組成物の長期耐食性向上剤は、セリウム(III)ナイトレート、ヒドロニウムセリウムナイトレートハイドレート、セリウムナイトレートヘキサハイドレート、セリウム(IV)ナイトレート、ジカリウムジアクアペンタニトラトセレート、ジカリウムヘキサニトラトセレート、トリカリウムジセリウムナイトレート、ジアンモニウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ジルビジウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ジセシウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ジタリウムジアクアペンタニトラトセレートジハイドレート、ビス4-(4H-1,2,4-トリアゾール4イル)イミノメチルピリジニウムジアクアペンタニトラトセレート、1,10-フェナントロリン-H-ジアクアペンタニトラトセレート、ヒドロニウムセリウムナイトレートハイドレート、セリックマグネシウムナイトレート、セリックジンクナイトレート、セリックニッケルナイトレート、セリックコバルトナイトレート、及びセリックマンガンナイトレートからなる群から選択される少なくとも一つであることができる。
【0046】
上記本発明の二層鋼板表面処理用組成物は、下塗り用コーティング組成物と上塗り用コーティング組成物からなるものであり、これは下塗り用コーティング組成物と上塗り用コーティング組成物が混合されることを意味するものではなく、上記上塗り用コーティング組成物は、乾燥された上記下塗り用コーティング組成物上に適用されるものであって、例えば、上記下塗り用コーティング組成物と上塗り用コーティング組成物は、被コーティング物に適用される前には、別の容器に保管されてもよい。
【0047】
本発明の他の態様によると、上記本発明の鋼板表面処理用二層組成物を使用して耐食性の向上のための鋼板の表面処理方法が提供される。
【0048】
より詳細には、本発明の耐食性の向上のための鋼板の表面処理方法は、上記本発明の鋼板表面処理用二層組成物を用いて、下塗り用コーティング組成物を鋼板に塗布して下塗り層を形成する段階;上記下塗り層を40~80℃の温度で乾燥する段階;上塗り用コーティング組成物を鋼板に塗布して上塗り層を形成する段階;及び上記上塗り層を200~300℃の温度で乾燥する段階を含む。
【0049】
この際、上記下塗り用コーティング組成物の付着量は、特に制限されないが、好ましくは、1mg/m2~1000mg/m2の付着量でコーティングすることができる。本発明の下塗りのように、主に無機系成分からなるコーティングの場合、XRFなどの分析装備を用いて、シリコンのような特定成分が全体面積にどれだけコーティングされているかを示す付着量(mg/m2)を確認することができる。
【0050】
一方、上記下塗り用コーティング組成物の厚さは、特に制限されないが、例えば、0.001~10μmであることができる。
【0051】
上記下塗り層は、40~80℃の温度で乾燥することが好ましく、50~70℃の温度で乾燥することがより好ましい。上記乾燥温度が40℃未満の場合には、鋼板コイルが急速に流れる連続生産の条件で未乾燥、或いは遅い乾燥によるコーティング層の剥離などの問題があり、80℃超過の場合には、鋼板コイルが急速に流れる連続生産の条件でコイルを巻取る場合、潜熱による耐食性の低下、塗膜剥離などの問題がある。
【0052】
一方、上塗り用コーティング組成物の厚さは、特に制限されないが、好ましくは0.1μm~50μmであることができる。
【0053】
上記上塗り層は、200~300℃の温度で乾燥することが好ましく、230~280℃の温度で乾燥することがより好ましい。上記乾燥温度が200℃未満の場合には、鋼板コイルが急速に流れる連続生産の条件で未乾燥、或いは遅い乾燥によるコーティング層の剥離、耐食性の低下などの問題があり、300℃超過の場合には、過度の加熱による塗膜層の劣化、塗膜剥離、耐食性の低下などの問題がある。
【0054】
このような方法により、上記本発明の鋼板表面処理用二層組成物を用いて、上記下塗り用コーティング組成物から形成された下塗り層;及び上記下塗り層上に上記上塗り用コーティング組成物から形成された上塗り層が積層された表面処理層を少なくとも一面に含む、表面処理された鋼板が獲得されることができる。
【0055】
本発明の鋼板表面処理用二層組成物を適用することができる鋼板は、特に制限されるものではないが、ステンレス鋼板、炭素鋼、アンカー(ANCOR)鋼などから選択することができる。
【0056】
本発明の表面処理用溶液組成物を用いて形成されたコーティングは、長時間の間酸腐食に対する優れた耐食性を提供することができるため、本発明によると、硫酸及び塩酸などの強酸に対する耐食性が強い耐化学コーティング鋼板を獲得することができる。
【0057】
以下、具体的な実施例を介して本発明をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例
1.鋼板表面処理用二層溶液組成物の製造
(1)下塗り溶液樹脂組成物
蒸留水に長期耐食性改善剤であるリン酸とリン酸マンガンを1:1重量比率で入れてpHを4.0±1.5の範囲に調整した後、コロイダルシリカ(Ludox HAS、固形分30%、粒子の大きさ12nm、W.R.Grace&Co.Conn.)、密着性改善剤としてシランカップリング剤であるグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、腐食抑制剤としてヘキサフルオロジルコン酸をそれぞれ添加した後、常温で約1時間撹拌させる。
【0059】
(2)上塗り溶液樹脂組成物
コロイダルシリカLudox HSA(固形分30%、粒子の大きさ12nm、W.R.Grace&Co.Conn.)にシランとしてテトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane)、溶剤としてエタノール、酸度調整剤である酢酸をそれぞれ添加した後、温度が約50℃を超えないように冷却させ、約5時間撹拌させる。このとき、コロイダルシリカは、シランによって表面改質が起こり、シランは加水分解される。十分に反応させた後、モノマーとしてエチルアセテート(Ethyl acrylate)と、有機樹脂としてポリ(メタ)アクリル酸、長期耐食性向上剤としてセリウムナイトレートをそれぞれ後添して、さらに約24時間反応させる。
【0060】
下記表1のような組成で製造された下塗り用組成物を1.2mm厚さの鋼板表面にバーコーティングした後、約60℃のオーブンに入れて乾燥した後、下記表2のような組成で製造された上塗り用組成物を、上記下塗り層がコーティングされた鋼板表面にバーコーティングした後、約250℃のオーブンに入れて乾燥及び硬化させて表面処理鋼板を製造した。
【0061】
このとき、下記表1のように下塗り用コーティング組成物の組成を変化させるときの上塗り用コーティング組成物の組成は、実施例9の組成を用い、表2の上塗り用コーティング組成物の組成を変化させるときの下塗り用コーティング組成物の組成は、実施例1の組成を用いた。
【0062】
このように製造された表面処理鋼板の硫酸腐食条件における腐食特性を調査するために、表面処理鋼板試験片を70℃に維持される硫酸50vol%水溶液に6時間浸漬した後、試験片の腐食減量を測定した。
【0063】
また、硫酸-塩酸複合腐食条件における腐食特性を調査するために、表面処理鋼板試験片を、60℃に維持される硫酸16.9vol%及び塩酸0.35vol%の混合水溶液に6時間浸漬した後、試験片の腐食減量を測定した。
【0064】
【0065】
【0066】
上記それぞれの実施例及び比較例で製造されたコーティング組成物を用いた表面処理鋼板について、下記提示された方法でその物性を測定した。
【0067】
2.表面処理鋼板の物性測定
(1)硫酸耐食性
上記実施例及び比較例でそれぞれ製造された表面処理鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試験片を製造した後、70℃に維持される硫酸50vol%水溶液に6時間浸漬した後、試験片の腐食減量を測定した。硫酸耐食性の評価基準は、下記に従った。
<硫酸耐食性の評価基準>
○:15mg/cm2/hr未満
△:15以上65mg/cm2/hr未満
×:65mg/cm2/hr以上
【0068】
(2)複合耐食性
上記実施例及び比較例でそれぞれ製造された表面処理鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試験片を製造した後、60℃に維持される硫酸16.9vol%及び塩酸0.35vol%の混合水溶液に6時間浸漬した後、試験片の腐食減量を測定した。複合耐食性の評価基準は、下記に従った。
<複合耐食性の評価基準>
○:3mg/cm2/hr未満
△:3以上6mg/cm2/hr未満
×:6mg/cm2/hr以上
【0069】
(3)塗膜密着性
上記実施例及び比較例でそれぞれ製造された表面処理鋼板を150cm×75cm(横×縦)の大きさに裁断して試験片を製造し、上記試験片の表面をクロスカットガイド(cross cut guide)を利用して1mmおきに横及び縦にそれぞれ100個のセルを形成するように線を引き、上記100個のセルが形成された部分をエリクセン(Erichsen)試験機を用いて、6mmの高さに押し上げ、押し上げた部位に剥離テープ(NB-1、Ichiban社(製))を付着した後、剥がしながらエリクセン部分の剥離有無を観察した。塗膜密着性の評価基準は、下記に従った。
<塗膜密着性の評価基準>
○:表面の剥離がない場合
△:表面の剥離が100個のうち1個~3個である場合
×:表面の剥離が100個のうち3個を超える場合
【0070】
(4)加工後の硫酸耐食性
上記実施例及び比較例でそれぞれ製造された表面処理鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試験片を製造し、上記試験片をエリクセン(Erichsen)試験機を用いて6mmの高さに加工した後、70℃に維持される硫酸50vol%水溶液に6時間浸漬した後、試験片の腐食減量を測定した。加工後の硫酸耐食性の評価基準は、下記に従った。
<加工後の硫酸耐食性の評価基準>
○:15mg/cm2/hr未満
△:15mg以上65mg/cm2/hr未満
×:65mg/cm2/hr以上
【0071】
(5)長期耐食性の腐食減量
上記実施例及び比較例でそれぞれ製造された表面処理鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試験片を製造した後、70℃に維持される硫酸50vol%水溶液に96時間浸漬させた後、試験片の腐食減量を測定し、初期重量に対する腐食後の試験片の重量を測定して%で示した。硫酸耐食性の評価基準は、下記に従った。
<硫酸耐食性の評価基準>
○:初期厚さに対して35%以上
△:初期厚さに対して12%以上35%未満
×:初期厚さに対して12%未満
【0072】
(6)長期耐食性の最小厚さ
上記実施例及び比較例でそれぞれ製造された表面処理鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試験片を製造した後、70℃に維持される硫酸50vol%水溶液に96時間浸漬させた後、試験片の初期厚さに対する腐食後の試験片の最も薄い部位の厚さを測定して%で示した。硫酸耐食性の評価基準は、下記に従った。
<硫酸耐食性の評価基準>
○:初期厚さに対して25%以上
△:初期厚さに対して10%以上25%未満
×:初期厚さに対して10%未満
【0073】
下塗り用コーティング組成物として上記表1の実施例1~4及び比較例1~10の組成をそれぞれ用い、上塗り用コーティング組成物として上記表2の実施例9の組成を用いて製造された表面処理鋼板に対する物性測定結果を下記表3に記載した。
【0074】
【0075】
上記表3に示したように、下塗り用コーティング組成物として本発明に係る 実施例1~4を用いた場合、硫酸耐食性、複合耐食性、及び塗膜密着性が非常に優れることが分かる。
【0076】
しかし、比較実験例1の場合、下塗り溶液組成物に樹脂が含まれていないため、適切な皮膜が形成できず、耐食性及び加工性などが劣化したことが分かる。比較実験例2の場合、下塗り溶液組成物にコロイダルシリカの含有量が過度に添加され、上塗りとの密着性を低下させ、複合耐食性及び塗膜密着性、加工後の硫酸耐食性などが劣化したことが分かる。比較実験例3の場合、密着性改善剤であるシランカップリング剤が過度に添加されてコーティング層内の残存量の影響により硫酸耐食性及び複合耐食性などが劣化したことが分かる。比較実験例4の場合、腐食抑制剤が含まれていないため、硫酸耐食性及び複合耐食性、長期耐食性の腐食減量などが劣化したことが分かる。比較実験例5の場合、長期耐食性改善剤が含まれていないため、長期耐食性の腐食減量及び長期耐食性の最小厚さが劣化したことが分かる。比較実験例6の場合、密着性改善剤が含まれていないため、上塗り層と下塗り層の密着性が低下し、耐食性及び塗膜密着性などが劣化したことが分かる。比較実験例7の場合、腐食抑制剤が過度に添加されて加工性が低下し、塗膜密着性が劣化したことが分かる。比較実験例8の場合、長期耐食性改善剤であるリン酸及びリン酸マンガンが過度に含まれて、超過された酸の影響により耐食性及び塗膜密着性などが劣化したことが分かる。比較実験例9の場合、コロイダルシリカが含まれていないため、硫酸耐食性及び複合耐食性などが劣化したことが分かる。比較実験例10の場合、下塗り層の付着量が過度に高く、塗膜密着性が劣化したことが分かる。比較実験例11の場合、下塗り層がコーティングされていないため、加工後の硫酸耐食性及び長期耐食性の最小厚さなどが劣化したことが分かる。
【0077】
一方、上塗り用コーティング組成物として上記表2の実施例5~8及び比較例12~21の組成をそれぞれ用い、下塗り用コーティング組成物として上記表1の実施例1の組成を用いて製造された表面処理鋼板に対する物性測定結果を下記表4に記載した。
【0078】
【0079】
上記表4に示したように、上塗り用コーティング組成物として本発明に係る実施例5~9の組成を用いた場合、硫酸耐食性、複合耐食性、塗膜密着性、及び加工後の硫酸耐食性に非常に優れることが分かる。また、コーティング及び乾燥過程での沸騰現象などの表面欠陥が発生しないため、非常に良好な表面品質を確保した。
【0080】
しかし、比較実験例12の場合、コロイダルシリカの含有量が過度に添加されてシランとの反応での残留シリカが多量に残ってコーティング層の形成を妨害し、これにより、硫酸耐食性及び複合耐食性が著しく低下し、塗膜密着性も劣化したことが分かる。比較実験例13の場合、シラン含有量が不足して比較例1のようにコロイダルシリカの表面が十分に改質されず、これにより、多量の残留シリカがコーティング層の形成を妨害し、硫酸耐食性及び複合耐食性を低下させ、塗膜密着性も劣化したことが分かる。比較実験例14の場合には、酸度調整剤が過度に添加されてシランで改質されたシリカとモノマー及び有機樹脂の有無機混合樹脂の分子量が過度に増加して溶液のゲル化(Gelation)が起こるか、コーティングをしても硫酸耐食性や複合耐食性が低下したことが分かる。また、残留酸度調整剤により鋼板の腐食が進行することもある。比較実験例15の場合には、溶剤が含まれていないため、溶液組成物の製造過程でゲル化(Gelation)が容易に起こり、コーティングをしても硫酸耐食性及び複合耐食性が低下したことが分かる。比較実験例16及び比較実験例17の場合には、それぞれモノマー及び有機樹脂が過度に添加されているが、このように無機成分に対する有機成分の含有量が過量である場合、硫酸耐食性及び複合耐食性が低下したことが分かる。比較実験例18の場合には、シラン含有量が過量に添加されて溶液組成物の製造過程において、熱分解による有機ガスが排出されることがあり、多量の残存シランによりコーティング後の耐硫酸性が低下したことが分かる。比較実験例19の場合には、コーティング層の厚さが不足して硫酸耐食性、複合耐食性、加工後の硫酸耐食性及び長期耐食性が劣化したことが分かる。比較実験例20の場合には、コーティング層の厚さが適正厚さを超えて、塗膜密着性及び加工後の硫酸耐食性が低下したことが分かる。
【0081】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で様々な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。