(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】硫化水素を検出するための、または硫化水素濃度を測定するための組成物、および、生体内の炎症、低酸素損傷を有する組織、または癌を診断またはイメージングするための有効成分と同じものを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20230116BHJP
A61K 103/10 20060101ALN20230116BHJP
【FI】
A61K51/04 200
A61K103:10
(21)【出願番号】P 2021537427
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 KR2019011848
(87)【国際公開番号】W WO2020055175
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】10-2018-0108234
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ジェミン
(72)【発明者】
【氏名】キン,ヨンジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ユンサン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジヨン
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】Technetium-99m Radiopharmaceuticals: Manufacture of Kits, International Atoimc Energy Agency, 2008, [retieved on 2022-06-01], <https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/trs466_web.pdf>
【文献】Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging (2006) vol.33, no.3, p.319-328
【文献】Indian J. Nucl. Med. (2011) vol.26, issue 4, p.165-170
【文献】J. Nucl. Med. (1993) vol.34, no.2, p.242-245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/04
A61K 49/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有す
る化合物を含む、硫化水素を検出するための組成物:
ここで、前記
99m
Tcがラベル化された化合物は、下記式1で表される化合物:
[式1]
O=
99mTc(O=CO
--CHO
--(CHR
1)
m-CH
2R
2)
2
(式1において、
R
1およびR
2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
; または
99m
Tcがラベル化されたD-グルカル酸である。
【請求項2】
アルファ-ヒドロキシ酸が、
D-グルカル酸または以下の式2
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR
1)
m-CH
2R
2
(式2において、
R
1およびR
2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
で表される化合物である、請求項1に記載の硫化水素を検出するための組成物。
【請求項3】
アルファ-ヒドロキシ酸が、D-グルコン酸、D-グルコヘプトン酸、ガラクトン酸、D-グルカル酸
、D-乳酸、
およびL-乳
酸からなる群から選択される、請求項1に記載の硫化水素を検出するための組成物。
【請求項4】
組成物が硫化水素と反応し、不溶性材料を形成し、それによってイメージングを可能にする、請求項1に記載の硫化水素を検出するための組成物。
【請求項5】
組成物が、対象動物から単離される組織または細胞において硫化水素を検出する、請求項1に記載の硫化水素を検出するための組成物。
【請求項6】
組成物が、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血、および低酸素症からなる群から選択される疾患において硫化水素を検出する、請求項1に記載の硫化水素を検出するための組成物。
【請求項7】
99mTcを、
D-グルカル酸または式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸またはそのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩と反応させるステップを含有する、
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有す
る化合物を含む、硫化水素を検出するための組成物の調製方法:
ここで、前記
99m
Tcがラベル化された化合物は、下記式1で表される化合物:
[式1]
O=
99mTc(O=CO
--CHO
--(CHR
1)
m-CH
2R
2)
2
(式1において
R
1およびR
2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である);
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR
1)
m-CH
2R
2
(式2において、
R
1およびR
2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
; または
99m
Tcがラベル化されたD-グルカル酸である。
【請求項8】
還元剤、安定剤、賦形剤、およびバッファーからなる群から選択される1以上のアジュバントがさらに使用され得る、請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有す
る化合物を含む、硫化水素の濃度を測定するための組成物:
ここで、前記
99m
Tcがラベル化された化合物は、下記式1で表される化合物:
[式1]
O=
99mTc(O=CO
--CHO
--(CHR
1)
m-CH
2R
2)
2
(式1において、
R
1およびR
2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
; または
99m
Tcがラベル化されたD-グルカル酸である。
【請求項10】
式1で表される化合物を含む、硫化水素が発生する疾患をイメージングするための組成物:
[式1]
O=
99mTc(O=CO
--CHO
--(CHR
1)
m-CH
2R
2)
2
(式1において、
Rは、独立して水素またはヒドロキシル基であり、および、
mは、0~20の整数である)。
【請求項11】
疾患が、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血、および低酸素症からなる群から選択される、請求項10に記載のイメージングするための組成物。
【請求項12】
疾患が、リウマチ性関節炎、非リウマチ性炎症性関節炎、ライム病に関連する関節炎、腎盂腎炎、腎炎、炎症性骨関節炎、髄膜炎、骨髄炎、炎症性腸疾患、虫垂炎、膵炎、敗血症、細菌感染に起因する炎症性疾患、心筋梗塞、心臓虚血、アンギーナ、狭心症、心筋症、心内膜炎、動脈硬化症、敗血症、糖尿病、脳卒中、肝硬変、喘息、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症、ダウン症候群、肺がん、乳房がん、子宮がん、卵巣がん、肝臓がん、脳がん、前立腺がん、甲状腺がん、神経内分泌腫瘍、胃がん、結腸がん、膵臓がん、膀胱がん、食道がん、および頭/首がんからなる群から選択される、請求項10に記載のイメージングするための組成物。
【請求項13】
式1で表される化合物を含む、硫化水素が発生する疾患を診断するための組成物:
[式1]
O=
99mTc(O=CO
--CHO
--(CHR
1)
m-CH
2R
2)
2
(式1において、
Rは、独立して水素またはヒドロキシル基であり、および、
mは、0~20の整数である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の背景
関連出願の相互参照
本特許出願は、2019年9月11日に出願された国際出願No.PCT/KR2019/011848の国内段階であり、2018年9月11日に出願された韓国出願No.10-2018-0108234からの優先権の利益を主張し、その各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
1.本発明の分野
本発明は、硫化水素を検出するための、または硫化水素の濃度を測定するための組成物、および、生体内の炎症、低酸素損傷を有する組織、または癌を診断またはイメージングするための、活性成分と同じものを含む組成物に関する。
2.関連技術の記載
硫化水素ガスは、卵などのたんぱく質を腐敗させることにより引き起こされ、およびその悪臭で有名である。このガスは主に、有機物で汚染された自然の火山、土壌、または水資源から発生し、および正常なまたは疾患状態の生物から発生され得る。加えて、硫化水素は、動物の体において病気のタイプに応じて、病気の状態を改善または悪化させることが見出されている。したがって、自然の土壌、空気、水資源の汚染レベルを測定するため、または生体の病的状態を診断するためには、硫化水素を検出して定量化する必要がある。
【0003】
加えて、硫化水素は、人体内のさまざまな炎症反応、低酸素症、心血管疾患、脳卒中、血管新生、血管拡張、癌、ダウン症候群、認知症、糖尿病、およびハンチントン病などの多くの疾患に関連していると報告されている。したがって、その検出は、さまざまな病気を診断し、予後を予測するために、極めて重要である。
【0004】
結果的に、メチレンブルー法、イオン選択性電極法、モノブロモオビマン-HPLC法、チオブロモビマン-GC法、および電流検出法などの多くの方法が開発され、およびサンプル中の硫化水素濃度を測定することが報告されている(KR Olson, et al., Nitric Oxide (2014) 41;11-26)。しかしながら、これらの方法は、単に血液などのサンプル中の硫化水素の濃度を測定するだけであるため、その分布をより正確に知ることは実行不能である。
【0005】
硫化水素を蛍光で検出する方法が開発され、硫化水素の発生部位をイメージにおいて表すことを実行可能にした。しかしながら、蛍光は透過性において弱く、それゆえヒトまたは大型動物において発生する硫化水素を検出するためにもイメージングするためにも使用できない。それは、マウスおよびゼブラフィッシュなどの極めて小さい動物、またはミトコンドリアなどの細胞内器官における硫化水素の発生を検出およびイメージングするためにのみ使用され得る(MD Hammers、et al。、J Am Chem Soc(2015)137:10216-10223; Y Chen、et al.、Angew Chem Int Ed(2013)52:1688-1691; K Sasakura、et al.、J Am Chem Soc(2011)133:18003-18005; AR Lippert、et al.、J Am Chem Soc(2011)133:10078-10080; N Kumar、et al.、Coord Chem Rev(2013)257:2335-2347)。
【0006】
低温化学発光による検出方法もまた開発されているが、この方法は、小さい動物にしか適用できないという問題を有する(J Cao、et al.、Chem Sci(2015)6:1979-1985)。
【0007】
最近、強い透過力で放射線を放出する放射性同位元素を使用して硫化水素を検出する方法が開発された。この方法において、64Cu放出陽電子が硫化水素と結合し、不溶性の64CuSを形成し、および硫化水素発生サイトに堆積し、このサイトの放射能を検出およびイメージングする(S Sarkar、et al.、Angew Chem Int Ed(2016)55:9365 -9370;韓国特許公開第10-2017-0018121)。上記の方法は、PET(陽電子放出断層撮影)を使用して、ヒトの体の深部の硫化水素発生部位を高解像度でイメージングされ得る。しかしながら、Cu-64は高価なターゲット材料であるNi-64に高価なサイクロトロンを使用して陽子線を照射する必要があるため、価格が極めて高く、使用に多くの制限がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の概要
本発明の目的は、硫化水素を検出するための、または硫化水素の濃度を測定するための組成物を提供することである。
本発明の別の目的は、炎症、低酸素損傷を有する組織、またはがんを診断またはイメージングするための組成物を提供することである。
上記の目的を達成するために、本発明のある側面において、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物を含む、硫化水素を検出するための組成物が提供される:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0009】
本発明の別の側面において、99mTcを、式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸またはそのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩と反応させるステップを含有する、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物を含む、硫化水素を検出するための組成物の調製方法が提供される:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0010】
本発明の別の側面において、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物を含む、硫化水素の濃度を測定するための組成物が提供される:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0011】
本発明の別の側面において、式1で表される化合物を含む、硫化水素が発生する疾患をイメージングするための組成物が提供される:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
Rは、独立して水素またはヒドロキシル基であり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0012】
本発明の別の側面において、式1で表される化合物を含む、硫化水素が発生する疾患を診断するための組成物が提供される:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
Rは、独立して水素またはヒドロキシル基であり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0013】
本発明の別の側面において、式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸またはそのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、およびアジュバントを含む、式1で表される化合物を調製するためのキットが提供される:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
Rは、独立して水素またはヒドロキシル基であり、および、
mは、0~20の整数である)
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0014】
有利な効果
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する式1(99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸)で表される化合物を含む、本発明に従う硫化水素を検出または硫化水素の濃度を測定するための組成物は、インビトロおよびインビボレベルにおいて、硫化水素の検出または濃度測定を可能にし、およびしたがって、硫化水素を検出するため、および硫化水素の濃度を測定するため、およびさらにまたインビボにおける硫化水素の生物学的役割を発見するために、とくに、血管新生、炎症、癌、アルツハイマー病、心血管虚血、および脳血管虚血からなる群から選択される疾患において、または低酸素組織において硫化水素を検出、イメージング、および定量的に測定するために有利に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、α-ヒドロキシ酸の式を表すダイアグラムである。
【
図2】
図2は、アセトンおよび生理食塩水を使用するITLC-SGによって、アルファ-ヒドロキシ酸としてD-グルコン酸を使用し、例1の方法に従って、
99mTcでラベル化された
99mTc-グルコン酸を展開することによる、ラベル化効率を測定することの結果を表す一連のグラフである。
【0016】
【
図3】
図3は、アセトンおよび生理食塩水を使用するITLC-SGによって、α-ヒドロキシ酸としてD-グルコヘプトナートを使用し、例1の方法に従って、
99mTcでラベル化された
99mTc-グルコヘプトナートを展開することによる、ラベル化効率を測定することの結果を表す一連のグラフである。
【
図4】
図4は、アセトンおよび生理食塩水を使用するITLC-SGによって、アルファ-ヒドロキシ酸としてD-グルカラートを使用し、例1の方法に従って、
99mTcでラベル化された
99mTc-グルカラートを展開することによる、ラベル化効率を測定することの結果を表す一連のグラフである。
【
図5】
図5は、アセトンおよび生理食塩水を使用するITLC-SGによって、アルファ-ヒドロキシ酸としてシトラートを使用し、例1の方法に従って、
99mTcでラベル化された
99mTc-シトラートを展開することによる、ラベル化効率を測定することの結果を表す一連のグラフである。
【0017】
【
図6】
図6は、アセトンおよび生理食塩水を使用するITLC-SGによって、アルファ-ヒドロキシ酸としてL-タートラートを使用し、例1の方法に従って、
99mTcでラベル化された
99mTc-タートラートを展開することによる、ラベル化効率を測定することの結果を表す一連のグラフである。
【
図7】
図7は、アセトンおよび生理食塩水を使用するITLC-SGによって、アルファ-ヒドロキシ酸としてD-グルクロナートを使用し、例1の方法に従って、
99mTcでラベル化された
99mTc-グルクロナートを展開することによる、ラベル化効率を測定することの結果を表す一連のグラフである。
【
図8】
図8は、実験例2で実施された、
99mTc-アルフス-ヒドロキシ酸とNaHSおよび様々な活性硫化物との反応後に発生する不溶性物質のパーセンテージを表すグラフである。
【0018】
【
図9】
図9は、実験例3で実施された、
99mTc-アルフス-ヒドロキシ酸を異なる濃度のNaHSと反応させることによって生成される不溶性物質の量を表すグラフである。
【
図10】
図10は、実験例5において実施された、炎症を誘発するためのマウスの足の裏へのカラギーナン、および他の足への生理食塩水、次いで
99mTc-グルコン酸および
99mTc-グルコヘプトナートの投与を実施した1時間後に得られた一連のSPECT/CTイメージである。
【
図11】
図11は、実験例6において実施された、ラットの中大脳動脈を2時間閉塞し、再灌流し、
99mTc-グルコン酸と[
18F]FDGを同時に投与した後、1時間後に抽出、自動放射、TTC染色したラット脳の一連のイメージである。
【0019】
好ましい態様の記載
本発明のある側面において、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物を含む、硫化水素を検出するための組成物が提供される:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
アルファ-ヒドロキシ酸は、以下の式2
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
で表される化合物であり得る。
【0020】
加えて、アルファ-ヒドロキシ酸は、D-グルコン酸、D-グルコヘプトン酸、ガラクトン酸、D-グルカル酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、D-乳酸、L-乳酸およびD-グルクロン酸からなる群から選択され得る。
【0021】
硫化水素を検出するための組成物は、硫化水素と反応し、不溶性材料を形成し、それによってイメージングを可能にする。よって、硫化水素を検出するために使用され得る。
硫化水素を検出するための組成物は、対象動物から単離された組織または細胞における硫化水素を検出し得る。
【0022】
組織または細胞は、硫化水素が発生した組織または細胞、または、硫化水素が発生した、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血、および低酸素症からなる群から選択される疾患の組織または細胞であり得る。加えて、組織または細胞は、リウマチ性関節炎、非リウマチ性炎症性関節炎、ライム病に関連する関節炎、腎盂腎炎、腎炎、炎症性骨関節炎、髄膜炎、骨髄炎、炎症性腸疾患、虫垂炎、膵炎、敗血症、細菌感染に起因する炎症性疾患、心筋梗塞、心臓虚血、アンギーナ、狭心症、心筋症、心内膜炎、動脈硬化症、敗血症、糖尿病、脳卒中、肝硬変、喘息、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症、ダウン症候群、肺がん、乳房がん、子宮がん、卵巣がん、肝臓がん、脳がん、前立腺がん、甲状腺がん、神経内分泌腫瘍、胃がん、結腸がん、膵臓がん、膀胱がん、食道がんおよび頭/首がんからなる群から選択される疾患の組織または細胞であり得る。
【0023】
硫化水素を検出するための組成物は、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血および低酸素症からなる群から選択される疾患において硫化水素を検出し得る。このとき、疾患は、硫化水素発生疾患または低酸素組織であり得る。
本発明の硫化水素を検出するための組成物は、活性スルフィド(active sulfide)の中で、NaHS(硫化水素)のみを選択的に検出するため、それは硫化水素の検出のために効果的に使用され得る(実験例2)。
【0024】
本発明の別の側面において、本発明は、99mTcを、式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸またはそのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩と反応させるステップを含有する、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物を含む、硫化水素を検出するための組成物の調製方法を提供する。
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0025】
式2で表されるアルファヒドロキシ酸は、D-グルコン酸、D-グルコヘプトン酸、ガラクトン酸、D-グルカル酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、D-乳酸、L-乳酸およびD-グルクロン酸からなる群から選択され得る。
アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)およびセシウム(Cs)からなる群から選択され得る。
【0026】
アルカリ土類金属は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)からなる群から選択され得る。
【0027】
具体的に言うと、上の調製方法は、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸、すなわち式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸にテクネチウム複合体を合成することによる、式1で表される化合物を得るための方法である。
【0028】
本発明の調製方法において、ジェネレータにおいて発生される99mTcが使用されたが、ジェネレータから即時に放出された99mTcは、酸化数+7をもつ極めて安定な形態のペルテクネチウム酸として存在し、およびしたがってラベル化されなかった。したがって、それを還元することによって酸化数を減らす必要がある。このとき、還元剤は、一般的に使用される還元剤である限り、限定せずに使用され得る。本発明の一態様において、SnCl2が還元剤として使用されたが、必ずしもそれに限定されるわけではない。
【0029】
アルファ-ヒドロキシ酸を99mTcで容易におよび都合よくラベル化するために、安定剤、賦形剤、またはバッファーが他の添加剤としてさらに使用され得る。
SnCl2、アスコルビン酸、ゲンチシニン酸(gentisinic acid)、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、ナトリウムホスファート、マンニトール、グルコース、ラクトース、ナトリウムアスコルバート等は、他の添加剤として使用され得る。
本発明に従う調製方法は、アルファ-ヒドロキシ酸を、99mTcで、ほとんど100%のラベル化効率でラベル化することができた(実験例1)。
【0030】
本発明の別の側面において、本発明は、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物を含む、硫化水素の濃度を測定するための組成物を提供する。[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
【0031】
アルファ-ヒドロキシ酸は、以下の式2で表される化合物であり得る。
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
加えて、式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸は、D-グルコン酸、D-グルコヘプトン酸、ガラクトン酸、D-グルカル酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、D-乳酸、L-乳酸およびD-グルクロン酸からなる群から選択され得る。
【0032】
硫化水素の濃度を測定するための組成物は、硫化水素と反応し、不溶性材料を形成し、硫化水素の濃度が測定され得る。
硫化水素の濃度を測定するための組成物は、対象動物から単離された組織または細胞における硫化水素の濃度を測定し得る。
【0033】
組織または細胞は、硫化水素が発生した組織または細胞、または、硫化水素が発生した血管新生、炎症、がん、‘アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血および低酸素症からなる群から選択される疾患の組織または細胞であり得る。加えて、組織または細胞は、リウマチ性関節炎、非リウマチ性炎症性関節炎、ライム病に関連する関節炎、腎盂腎炎、腎炎、炎症性骨関節炎、髄膜炎、骨髄炎、炎症性腸疾患、虫垂炎、膵炎、敗血症、細菌感染に起因する炎症性疾患、心筋梗塞、心臓虚血、アンギーナ、狭心症、心筋症、心内膜炎、動脈硬化症、敗血症、糖尿病、脳卒中、肝硬変、喘息、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症、ダウン症候群、肺がん、乳房がん、子宮がん、卵巣がん、肝臓がん、脳がん、前立腺がん、甲状腺がん、神経内分泌腫瘍、胃がん、結腸がん、膵臓がん、膀胱がん、食道がん、および頭/首がんからなる群から選択される疾患の組織または細胞であり得る。
【0034】
硫化水素の濃度を測定するための組成物は、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血および低酸素症からなる群から選択される疾患における硫化水素を検出し得る。このとき、疾患は、硫化水素発生疾患または低酸素組織であり得る。
不溶性物質の形成の度合いは、硫化水素の濃度に従って変化するため、硫化水素の濃度を測定するための組成物は、硫化水素の濃度を測定するために効果的に使用され得る(実験例3)。
【0035】
本発明の別の側面において、本発明は、式1で表される化合物を含む、硫化水素が発生する疾患をイメージングするための組成物を提供する。
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
Rは、独立して水素またはヒドロキシル基であり、および、
mは、0~20の整数である)
【0036】
アルファ-ヒドロキシ酸は、以下の式2で表される化合物であり得る。
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
【0037】
加えて、アルファ-ヒドロキシ酸は、D-グルコン酸、D-グルコヘプトン酸、ガラクトン酸、D-グルカル酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、D-乳酸、L-乳酸およびD-グルクロン酸からなる群から選択され得る。
硫化水素が発生する疾患をイメージングするための組成物は、硫化水素と反応し、不溶性材料を形成し、硫化水素がイメージングされ得る。
疾患は、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血および低酸素症からなる群から選択され得る。
【0038】
加えて、疾患は、リウマチ性関節炎、非リウマチ性炎症性関節炎、ライム病に関連する関節炎、腎盂腎炎、腎炎、炎症性骨関節炎、髄膜炎、骨髄炎、炎症性腸疾患、虫垂炎、膵炎、敗血症、細菌感染に起因する炎症性疾患、心筋梗塞、心臓虚血、アンギーナ、狭心症、心筋症、心内膜炎、動脈硬化症、敗血症、糖尿病、脳卒中、肝硬変、喘息、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症、ダウン症候群、肺がん、乳房がん、子宮がん、卵巣がん、肝臓がん、脳がん、前立腺がん、甲状腺がん、神経内分泌腫瘍、胃がん、結腸がん、膵臓がん、膀胱がん、食道がん、および頭/首がんからなる群から選択され得る。
【0039】
硫化水素が発生される疾患をイメージングするための組成物は、本発明に従って、硫化水素が発生する炎症を起こした組織をイメージングすることができ、および、イメージングするための処理組成物の摂取量が増加するか否かをとおして濃度の増加が知られることができ、イメージングだけでなく、濃度の上昇もまた確認されることができる。加えて、硫化水素濃度は蛍光アッセイをとおして定量化および数値で表現され得るため、それは、炎症を起こした組織における硫化水素の濃度を測定するために効果的に使用され得る(実験例4および5)。
【0040】
加えて、本発明に従うイメージングのための組成物を使用して、中大脳動脈閉塞後の再灌流における硫化水素濃度における上昇から、再灌流組織において硫化水素が発生したことが確認された。中大脳動脈閉塞後の再灌流組織における硫化水素の検出、濃度測定、およびイメージングが実行可能であることもまた確認された(実験例6)。
【0041】
本発明の別の側面において、本発明は、式1で表される化合物を含む、硫化水素が発生する疾患を診断するための組成物を提供する。
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
Rは、独立して水素またはヒドロキシル基であり、および、
mは、0~20の整数である)。
アルファ-ヒドロキシ酸は、以下の式2で表される化合物であり得る。
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0042】
加えて、アルファ-ヒドロキシ酸は、D-グルコン酸、D-グルコヘプトン酸、ガラクトン酸、D-グルカル酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、D-乳酸、L-乳酸およびD-グルクロン酸からなる群から選択され得る。
硫化水素が発生する疾患を診断するための組成物は、硫化水素と反応し、不溶性材料を形成し、硫化水素が発生する疾患の診断が実行可能である。
疾患は、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー認知症、心臓血管虚血、脳血管虚血および低酸素症からなる群から選択され得る。
【0043】
加えて、疾患は、リウマチ性関節炎、非リウマチ性炎症性関節炎、ライム病に関連する関節炎、腎盂腎炎、腎炎、炎症性骨関節炎、髄膜炎、骨髄炎、炎症性腸疾患、虫垂炎、膵炎、敗血症、細菌感染に起因する炎症性疾患、心筋梗塞、心臓虚血、アンギーナ、狭心症、心筋症、心内膜炎、動脈硬化症、敗血症、糖尿病、脳卒中、肝硬変、喘息、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症、ダウン症候群、肺がん、乳房がん、子宮がん、卵巣がん、肝臓がん、脳がん、前立腺がん、甲状腺がん、神経内分泌腫瘍、胃がん、結腸がん、膵臓がん、膀胱がん、食道がん、および頭/首がんからなる群から選択され得る。
【0044】
本発明に従って、硫化水素が発生する疾患を診断するための組成物は、硫化水素が発生する炎症組織をイメージングすることができ、イメージングのための処理組成物の摂取量が増加するかをとおして濃度増加が知られることができ、イメージングだけでなく、濃度の上昇も確認され得る。加えて、硫化水素濃度は蛍光分析をとおして定量化および数値で表現され得るため、それは、炎症性疾患を診断するためだけでなく、進行を評価するためにも効果的に使用され得る(実験例5)。
加えて、本発明に従ってイメージングのための組成物を使用して、中大脳動脈閉塞後の再灌流における硫化水素濃度の上昇から、再灌流組織に硫化水素が発生したことが確認された。再灌流組織は、中大脳動脈閉塞後に診断できることもまた確認された(実験例6)。
【0045】
本発明の別の側面において、本発明は、式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸またはそのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、およびアジュバントを含む、式1で表される化合物を調製するためのキットを提供する:
[式1]
O=99mTc(O=CO--CHO--(CHR1)m-CH2R2)2
(式1において、
Rは、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)
[式2]
HOOC-CHOH-(CHR1)m-CH2R2
(式2において、
R1およびR2は、独立して水素または-OHであり、および、
mは、0~20の整数である)。
【0046】
式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸は、D-グルコン酸、D-グルコヘプトン酸、ガラクトン酸、D-グルカル酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、D-乳酸、L-乳酸およびD-グルクロン酸からなる群から選択され得る。
【0047】
アジュバンドは、SnCl2、アスコルビン酸、ゲンチシニン酸(gentisinic acid)、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、ナトリウムホスファート、マンニトール、グルコース、ラクトース、およびナトリウムアスコルバートからなる群の少なくとも1つから選択され得る。
アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)およびセシウム(Cs)からなる群から選択され得る。
【0048】
アルカリ土類金属は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)からなる群から選択され得る。
キットは、アルファ-ヒドロキシ酸の99mTcでの容易および便利なラベル化のために、アジュバンドを包含し得る。アジュバンドは、安定剤、賦形剤、またはバッファーでもよく、および具体的に言うと他の添加剤として、SnCl2、アスコルビン酸、ゲンチシニン酸(gentisinic acid)、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、ナトリウムホスファート、マンニトール、グルコース、ラクトース、ナトリウムアスコルバート等が使用され得る。
【0049】
具体的に言うと、キットは、式2で表されるアルファ-ヒドロキシ酸またはそのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、およびアジュバントとして塩化スズなどの還元剤を包含する凍結乾燥キットであり得る。このとき、ラベル化効率を最適化するために、キットは、キット内のpHを3~10、好ましくは4~7に調整することによって調製され得る。
99mTcは、キットに添加され、それは、室温~100℃にて1時間以内にアルファ-ヒドロキシ酸を99mTcでラベル化して使用され得る。
【0050】
キットは、抗酸化剤および賦形剤を加えて含有し得る。このとき、抗酸化剤は、放射性同位元素でラベル化されたα-ヒドロキシ酸が酸化または放射線分解によって劣化することを防ぐためのものである。ビタミンCまたはゲンチジン酸は、抗酸化剤として使用され得る。抗酸化剤および賦形剤は、キットの単位投与量あたり約0~500mg含有され得る。
キットは、不活性ガス環境下、滅菌容器内で凍結または凍結乾燥されてもよい。キットは、病院で使用する注射液を準備するためのバッファー滅菌バイアル、生理食塩水、シリンジ、フィルター、カラム、およびその他の補助装置をさらに包含してもよい。かかる改変は、当業者によく知られている。
【0051】
キットは、室温~100℃にて1時間以内に99mTcでのラベル化によって使用され得る。
【0052】
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する式1(99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸)で表される化合物を含む、本発明による硫化水素を検出または硫化水素の濃度を測定するための組成物は、インビトロおよびインビボレベルにおいて硫化水素の検出または濃度測定を可能にし、およびそのため、有利なことに、硫化水素を検出することおよび硫化水素濃度を測定することのために、およびさらにまたインビボにおける硫化水素の生物学的な役割を発見するために、とくに、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー病、心臓血管虚血、および脳血管虚血からなる群から選択される疾患においてまたは低酸素組織において硫化水素を発見すること、イメージングすること、および定量的に測定することのために使用され得る。
【0053】
加えて、99mTcは、他の放射性同位元素よりも供給が容易であり、および価格競争力があるため、それは経済的な利点を有する。
以下、本発明は、以下の例および実験例により詳細に説明される。
しかしながら、以下の例および実験例は、本発明を単に例示するためのものであり、本発明の内容は、それに限定されるものではない。
【0054】
例1:
99m
Tcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸(
99m
Tc-アルファ-ヒドロキシ酸)の調製
D-グルコナート、D-グルコヘプトナート、D-グルカラート、シトラート、L-タートラート、およびD-グルクロナートは、アルファ-ヒドロキシ酸として選択され、および各アルファ-ヒドロキシ酸を以下の方法により99mTcでラベル化した。ラベル化に使用した蒸留水はすべて、窒素ガスを1時間吹き込んだ後に使用した。各0.3Mのα-ヒドロキシ酸の100μLにナトリウムアスコルバート(25mg/mL)10μLを添加し、SnCl2・2H2O(0.05MHCl中2.5mg/mL)50μLを添加し、続いてよく混合した。ジェネレータから得られた99mTc(3mCi)140μLをそこへ添加し、室温で20分間、または100℃で10分間加熱してラベル化した。
【0055】
実験例1:ラベル化効率の測定
例1で調製した
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸(
99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸)のラベル化効率を測定するために、以下の実験を実施した。各
99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸のラベル化効率を測定した結果を
図2~7に示す。
具体的には、ラベル化効率を、ITLC(Instant Thin Layer Chromatography)によって測定した。長さ10cm、幅1cmのITLCプレートの底から1cmの位置に1~5μLのサンプルをロードした後、プレートをアセトンまたは生理食塩水を含有する展開槽に入れ、および展開した。展開完了すると、Radio-TLCスキャナーを使用して放射能をスキャンした。このとき、アセトンで展開したとき、ラベル化されていない
99mTcのみが溶媒に沿って上昇し、およびラベル化された
99mTcおよびコロイド状の
99mTcが原点(origin)に残った。生理食塩水で展開したとき、コロイド状の
99mTcは原点に残り、およびラベル化されていない
99mTcおよびラベル化された
99mTcは溶媒に沿って上昇した。
図2~7に示すように、すべてのα-ヒドロキシ酸でほぼ100%のラベル化効率が示された。
【0056】
実験例2:
99m
Tc-アルファ-ヒドロキシ酸とNaHSおよび様々な活性スルフィドとの反応の評価
本発明に従って
99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸と、NaHS(硫化水素)を包含する様々な活性硫化物との反応性を評価するために、以下の実験を実施し、およびその結果を
図8および表1に示す。
具体的には、例1において調製された
99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸を生理食塩水で5倍に希釈し、および次いで各希釈剤100μLを取り、各100μLに、0.4mMのNaHS、4mMのグルタチオン、0.4mMのシステイン、0.4mMの亜硫酸ナトリウム、0.4mMの硫酸ナトリウム、0.4mMのチオ硫酸ナトリウム、および0.4mMのNONOate(NO発生試薬)を含有する0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)を添加し、および37℃にて15分間反応させた。次いで、生理食塩水でITLCを展開し、原点に残存する放射能のパーセンテージを決定した。生理食塩水で展開したとき、原点に残存する放射能は不溶性物質から作られ、その部位に沈着されていた。
以下の表1は、
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸と活性スルフィドとの反応の後に生成する不溶性物質のパーセンテージを示す。
【0057】
【0058】
表1に示すように、99mTcでラベル化されたグルコナート、グルコヘプトナート、およびグルカラートは、NaHSと最も反応した。具体的にいうと、99mTc-グルコナートは、最大であり、87.8±4.3%の不溶性物質を生成し、99mTc-グルコヘプトナートは、68.8±5.7%の不溶性物質を生成し、および99mTc-グルカラートは、37.0±4.7%の不溶性物質を生成した。一方、99mTc-シトラートは8.3±1.0%の不溶性物質を生成し、これは相対的に低かったが、他の活性化硫化物と比較して硫化水素と最も反応性が高かった。例1において調製された他の99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸、99mTc-タートラートおよび99mTc-グルクロナートは、99mTc-シトラートと同様の結果を示した。
【0059】
表1の結果をグラフにまとめ、および
図8に示す。
図8に示すとおり、
99mTcラベル化されたグルコナート、グルコヘプトナート、グルカラートはNaHSとのみ反応し、37.0~87.8%の不溶性物質を生成したが、他の活性硫化物と反応せず、硫化水素以外の活性硫化物との反応は極めて低かったことを意味する。一方、
99mTc-シトラートはNaHSによってさえ、不溶性物質をあまり生成しなかった。
【0060】
本発明による99mTcラベル化されたα-ヒドロキシ酸は、グルタチオン、システイン、亜硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸チオナトリウム、NOおよびリン酸バッファーなどのNaHS以外の活性物質と反応することにより、15%未満の不溶性物質を生成した。99mTcでラベル化されたα-ヒドロキシ酸は、不溶性物質の生成が少ないため、イメージに表示されなかった。
すなわち、本発明による9mTcラベル化されたα-ヒドロキシ酸は、活性硫化物の中からNaHS(硫化水素)のみを選択的に検出し、およびしたがって硫化水素の検出に効果的に使用され得ることが確認された。
【0061】
実験例3:NaHS濃度による
99m
Tc-アルファ-ヒドロキシ酸の反応度の評価
本発明の
99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸のNaHS(硫化水素)濃度による反応度を評価するために、以下の実験を行い、その結果を
図9に示す。
具体的に、例1において調製された
99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸を生理食塩水で5倍に希釈し、および次いで各希釈剤100μLを取り、それへ0~0.4mMのNaHSを含有する0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)100μLを添加し、続いて37℃で15分間反応させた。次いで、不溶性物質の割合を決定するために、ITLCを、生理食塩水を使用して展開した。
表9に示すとおり、
99mTc-グルコン酸は硫化水素と反応し、および不溶性物質を最も生成し、0.1mM未満の濃度で濃度が増加するにつれて不溶性物質の生成が増加することが確認された。しかしながら、0.1mMを超える濃度で平衡に達した。
【0062】
99mTc-グルコヘプトナートは、硫化水素の濃度が高くなるにつれて、不溶性物質の生成が徐々に増加することが確認された。
99mTc-グルカラートもまた、硫化水素の濃度が高くなるにつれて、不溶性物質の生成が徐々に増加することが確認された。
一方、99mTc-シトラートは不溶性物質をほとんど生成しないことが確認された。
【0063】
以上の結果から、本発明の99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸による不溶性物質の生成は、硫化水素の濃度によって変化することが確認され、およびしたがって、それは硫化水素の濃度測定に効果的に使用され得る。
【0064】
実験例4:硫化水素が生成した炎症を起こしたイメージングの観察
硫化水素は、カラギーナンの投与によって誘発された炎症を起こした組織で発生したことが報告されている(Li L、Bhatia M、Zhu YZ、etal。FASEBJ。(2005)19:1196-1198; Bhatia M、Sidhapuriwala J、 Moochhala SM、etal。BrJPharmacol。(2005)145:141-144。)したがって、本発明に従って99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸を投与したとき、硫化水素が発生した炎症を起こした組織のイメージングが可能かどうかを確認するために、以下の実験を実施した。
【0065】
<4-1>炎症を起こした組織のイメージング
1%カラギーナンを含有する生理食塩水30μLをマウスの右後足に注射し、および生理食塩水30μLをマウスの左後足に注射した。4時間後、例1でラベル化された300μCiの
99mTc-グルコナートまたは
99mTc-グルコヘプトナートをマウスの尾静脈に注射した。1時間後、SPECT-CTで後足を撮影し、結果を
図10に示す。
図10に示すとおり、両方のイメージは、炎症が誘発された足の放射性同位元素摂取量が多い結果を示す。
言い換えれば、
99mTc-グルコナートと
99mTc-グルコヘプトナートの両方は、カラギーナンを投与された炎症を起こしたエリアの放射能が、生理食塩水を投与されたエリアの放射能よりも明らかに高いことを示した。したがって、硫化水素が生成した炎症を起こしたエリアをイメージングできることが証明された。
【0066】
<4-2>炎症を起こしたエリアにおける硫化水素濃度の評価
炎症を起こしたエリアの硫化水素濃度が正常なエリアの硫化水素濃度よりも高いことを確認するために、文献に記載されている方法(AD Ang、A Konigstorfer、GI Giles、M Bhatia. AdvBiolChem、2012、2:360-365)を使用し以下のとおり測定した。4時間後、二酸化炭素ガスでマウスを安楽死させ、および足首を切り、および体重を測定した。氷で冷やした50mM炭酸ナトリウムバッファー(pH9)500μLを添加し、30秒間穏やかに、1分30秒適度に、そして30秒間激しく均質化した。1200xgで5分間遠心分離した後、上清を取得し、それに350μLの1%酢酸亜鉛と50μLの1.5M水酸化ナトリウムの混合溶液400μLを添加し、続いてよく混合した。1200xgで5分間遠心分離した後、上清を捨てた。沈殿したペレットに、窒素を飽和させた蒸留水1mLを添加し、1分間ボルテックスさせることにより混合させた。1200xgで5分間遠心分離した後、上清を捨てた。1g/Lのアスコルビン酸を含む160μLの25mM水酸化ナトリウム溶液をペレットに加え、よく混合した。7.2M塩酸に溶解させた20μLの47.5mのMDMPDおよび1.2M塩酸に溶解した20μLの80mMのFeCl3を添加し、および10秒間ボルテックスした。室温で15分間反応させた後、665nmで吸光度を測定した。同じ方法で測定した標準サンプルを用いて標準定量曲線を作成し、および次いで定量した。
【0067】
定量化の結果、生理食塩水で処理した足の硫化水素濃度は19.8±4.4μM(n=3)であったが、カラギーナンで処理した足の硫化水素濃度は43.7±3.5μM(n=3)、2倍以上になった。したがって、99mTc-グルコナートおよび99mTc-グルコヘプトナートの摂取量の増加は、硫化水素濃度の増加と相関していることが確認された。
【0068】
本発明に従う99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸は、硫化水素が発生される炎症を起こした組織をイメージングすることができ、および濃度の増加は、処理された99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸の摂取が増加するかをとおして知られることができ、それゆえイメージングだけでなく、濃度の増加も確認できる。加えて、硫化水素濃度は蛍光分析により定量化および数値で表現され得るため、それは、炎症を起こした組織における硫化水素濃度の測定に効果的に使用され得る。
【0069】
実験例5:中大脳動脈閉塞後に再灌流したマウス脳のイメージングの観察
マウスの脳内の血流が遮断されて再灌流された12時間後に、脳内の硫化水素濃度が上昇したことが報告されている(Ren C、Du A、Li D、etal. BrainRes.(2010)1345:197 -205.)。そこで、本発明の
99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸を投与したとき、中大脳動脈閉塞後の再灌流マウス脳において硫化水素濃度を測定およびイメージングできるかを確認するため、以下の実験を実施し、および結果を
図11に示す。
【0070】
具体的には、中大脳動脈閉塞後の再灌流モデルは、Koizumiらの方法に従って構築された(Koizumi J、YoshidaY、Nakazawa T、et al. Jpn J Stroke(1986)8:1-8)。ケタミン(80mg/kg)の筋肉内注射によりマウスを麻酔し、および頸動脈、内頸動脈、外頸動脈を首の皮膚を切開することにより順番に分離した。次いで、27ゲージの針で外頸動脈に穴を開け、およびシリコーンでコーティングされたナイロン4.0糸を約17mm挿入して中大脳動脈を閉じ、および2時間後にナイロン糸を再び取り外して血流を再開した。マウスの皮膚を縫合し、および12時間回復させ、および例1において調製した
99mTc-グルコン酸の1mCiと[
18F]FDGの1mCiを混合し、およびマウスの尾静脈に投与した。1時間後、マウスをエーテルで麻酔し、および頭蓋骨を解剖することにより脳を摘出した。抽出した脳を用いて厚さ1mmの冠状切片を作製し、凍結し、およびBAS2500イメージプレート(Fuji Film Co.)に-20℃の冷凍庫で20分間曝露した。切片を20時間放置して
18Fの放射能を減衰させ、および冷凍庫で24時間イメージプレートに曝露した。曝露した組織を1%の2,3,5-テトラゾリウムクロライド(TTC)溶液で染色した。
図11において、TTC染色は生きている脳組織を表し、[
18F]FDGはグルコース代謝の程度を表し、および
99mTc-グルコン酸は硫化水素の発生部位を示す。
【0071】
図11に示すとおり、生きている組織はTTCによって赤く染色された。[
18F]FDGイメージは糖代謝を示し、TTCで染色された赤いエリアとほぼ重なっていることがわかり得る。
99mTc-グルコナートは、完全に死んだ脳組織や正常な脳組織ではなく、境界エリアで摂取されたため、再灌流後の損傷領域で摂取され、硫化水素の発生が高いと推定できる。
【0072】
以上の結果から、中大脳動脈閉塞後の再灌流組織では硫化水素濃度が上昇したため、再灌流組織において硫化水素が発生したことが確認された。
加えて、本発明による99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸を使用して、硫化水素の検出、濃度測定、および中大脳動脈閉塞後の再灌流組織のイメージングが可能であることが確認された。
【0073】
実験例6:
99m
Tc-アルファ-ヒドロキシ酸を投与した組織における
99m
Tc蓄積の確認
以下の実験を、本発明による99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸が硫化水素を含む組織に投与されたときに99mTcが蓄積されたかを確認するために実施した。
【0074】
具体的には、NaHSを1.7mg/mLの濃度でマトリゲルに溶解させ、およびBALB/cマウスの背中に50μL皮下注射し、および1mCiの99mTc-グルコン酸を尾静脈に注射した。1時間後、マトリゲルを回収し、秤量し、および放射能を測定した。結果を使用して、摂取量(%ID/g)を組織重量あたりの注入量に対して計算した。
【0075】
99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する式1で表される化合物(99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸)を含む、本発明による硫化水素を検出または硫化水素の濃度を測定するための組成物は、様々な活性硫化物中、硫化水素のみを選択的に検出することができ、および不溶性物質の発生の度合いは、硫化水素の濃度に応じて変化した。
【0076】
本発明の組成物を使用して、硫化水素の濃度を測定でき、硫化水素が発生した炎症を起こした組織のイメージング、および発生した硫化水素濃度の上昇を確認でき、硫化水素濃度を蛍光分析によって定量化および数値で表現できた。加えて、本発明の組成物を使用して、硫化水素の検出、濃度測定、および中大脳動脈閉塞後の再灌流組織のイメージングが可能であることが確認された。
【0077】
したがって、本発明に従う、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物(99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸)を含む、硫化水素を検出するための、または硫化水素の濃度を測定するための組成物は、インビトロおよびインビボレベルにおいて硫化水素の検出または濃度測定を可能にし、およびそのため、硫化水素を検出するため、および硫化水素の濃度を測定するため、およびさらにまた硫化水素のインビボでの生物学的な役割を発見するため、とくに、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー病、心臓血管虚血、および脳血管虚血からなる群から選択される疾患または低酸素組織において硫化水素を検出する、イメージングする、および定量的に測定するために、有利に使用され得る。
加えて、99mTcは他の放射性同位元素よりも供給が容易で価格競争力があるため、経済的な利点を有する。
【0078】
産業上の利用可能性
本発明に従う、99mTcでラベル化されたアルファ-ヒドロキシ酸を有する、式1で表される化合物(99mTc-アルファ-ヒドロキシ酸)を含む、硫化水素を検出するための、または硫化水素の濃度を測定するための組成物は、インビトロおよびインビボレベルにおいて硫化水素の検出または濃度測定を可能にし、およびそのため、硫化水素を検出するため、および硫化水素の濃度を測定するため、およびさらにまた硫化水素のインビボでの生物学的な役割を発見するため、とくに、血管新生、炎症、がん、アルツハイマー病、心臓血管虚血、および脳血管虚血からなる群から選択される疾患または低酸素組織において硫化水素を検出する、イメージングする、および定量的に測定するために、有利に使用され得る。