(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】工業用織物
(51)【国際特許分類】
D21F 1/10 20060101AFI20230116BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230116BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20230116BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20230116BHJP
【FI】
D21F1/10
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
D03D15/283
(21)【出願番号】P 2022002240
(22)【出願日】2022-01-11
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 重信
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 努
(72)【発明者】
【氏名】野村 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 理貴
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3235379(JP,U)
【文献】登録実用新案第3232083(JP,U)
【文献】国際公開第2016/158640(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/055340(WO,A1)
【文献】特開2006-057217(JP,A)
【文献】特表2012-518726(JP,A)
【文献】特開2007-119965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0147410(US,A1)
【文献】国際公開第2021/152903(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/159829(WO,A1)
【文献】特開2013-224507(JP,A)
【文献】特開2004-068168(JP,A)
【文献】特表2001-512192(JP,A)
【文献】特開2003-342889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/00-13/12
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、
前記上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備え、
前記上面側織物および前記下面側織物は、複数の前記上面側経糸の一部の前記上面側経糸である上面側接結糸と複数の前記下面側経糸の一部の前記下面側経糸である下面側接結糸とによって接結され、
前記上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の前記上面側緯糸の上側と1本の前記上面側緯糸の下側を交互に通る第1織り込みパターンが形成され、
下面側に位置する前記経糸が前記下面側緯糸の下側を通ることで前記下面側織物の表面に形成されるナックルは、斜め方向に一様に並んでおり、
前記下面側織物の表面には、下面側に位置する経糸によって、1本の前記下面側緯糸の下側を通り、連続する3本の前記下面側緯糸の上側を通る第2織り込みパターンが繰り返し形成され、
前記上面側経糸および前記下面側経糸の本数は同じであり、
前記上面側緯糸および前記下面側緯糸の本数は同じであることを特徴とする工業用織物。
【請求項2】
前記上面側接結糸および前記下面側接結糸は、上下に組をなし、前記上面側織物の表面に第1織り込みパターンを形成し、前記下面側織物の表面に第2織り込みパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の工業用織物。
【請求項3】
前記下面側接結糸は、1本の前記上面側緯糸の上側を通って形成するナックルを2つ以上有することを特徴とする請求項1または2に記載の工業用織物。
【請求項4】
前記下面側接結糸は、1本の前記上面側緯糸の上側を通って形成するナックルを2つ有することを特徴とする請求項1または2に記載の工業用織物。
【請求項5】
上下に組をなす前記上面側経糸および前記下面側経糸が、前記上面側織物の面直方向に見て、面直方向に重なるオンスタックの構造を有し、
上下に組をなす前記上面側緯糸および前記下面側緯糸が、前記上面側織物の面直方向に見て、面直方向に重なるオンスタックの構造を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項6】
上下に組をなす前記上面側経糸および前記下面側経糸が、前記上面側織物の面直方向に見て、60パーセント以上の割合で重なっており、
上下に組をなす前記上面側緯糸および前記下面側緯糸が、前記上面側織物の面直方向に見て、60パーセント以上の割合で重なっていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項7】
上下に組をなす前記上面側経糸および前記下面側経糸が、前記上面側織物の面直方向に見て、80パーセント以上の割合で重なっており、
上下に組をなす前記上面側緯糸および前記下面側緯糸が、前記上面側織物の面直方向に見て、80パーセント以上の割合で重なっていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項8】
接結糸でない前記上面側経糸に対する前記上面側接結糸の本数の比率と、接結糸でない前記下面側経糸に対する前記下面側接結糸の本数の比率は、3対1であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項9】
前記上面側経糸および前記下面側経糸は、完全組織においてそれぞれ8本であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項10】
前記上面側経糸は、完全組織において8本であり、
前記上面側緯糸は、完全組織において16本であり、
完全組織における2本の前記下面側接結糸のそれぞれが前記上面側緯糸の上側を通って形成するナックルの位置は、緯方向において4本の前記上面側経糸のずれがあり、経方向において8本の前記上面側緯糸のずれがあることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項11】
前記下面側織物の表面は、ポリエステルの前記下面側緯糸とポリアミドの前記下面側緯糸との交織で形成されることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項12】
前記上面側織物の表面は、ポリエステルの前記上面側緯糸とポリアミドの前記上面側緯糸との交織で形成されることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項13】
前記上面側接結糸が前記下面側緯糸に形成するナックルの数は、前記下面側接結糸が前記上面側緯糸に形成するナックルの数よりも少ないことを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の工業用織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機に用いられる工業用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抄紙機に用いられる工業用織物として、経糸と緯糸を製織した抄紙網が広く使われている。抄紙網に求められる特性は様々であるが、例えば、特許文献1には、上層面側経糸と上層面側緯糸とからなる上層面側織物と、下層面側経糸と下層面側緯糸とからなる下層面側織物とからなる工業用織物が開示されている。この工業用織物は、下層面側緯糸を織り込んで接結糸として機能する上層面側経糸と、接結糸として機能する上層面側経糸が下層面側緯糸を下側から織り込んだ部位で、上層面側緯糸を織り込んで接結糸として機能する下層面側経糸とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高速な脱水機構をもつマシンでは工業用織物への繊維の刺さり込みによるピンホールや、ファイバーキャリーバックが発生する。また網内部に保持された水が持ち回り、スプラッシュが発生する場合がある。
【0005】
本発明の目的は、良好な表面性を確保でき、脱水性を向上できる工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の工業用織物は、上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備える。上面側織物および下面側織物は、複数の上面側経糸の一部の上面側経糸である上面側接結糸と複数の下面側経糸の一部の下面側経糸である下面側接結糸とによって接結され、上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の上面側緯糸の上側と1本の上面側緯糸の下側を交互に通る第1織り込みパターンが形成され、下面側に位置する経糸が下面側緯糸の下側を通ることで下面側織物の表面に形成されるナックルは、斜め方向に一様に並んでおり、下面側織物の表面には、下面側に位置する経糸によって、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する3本の下面側緯糸の上側を通る第2織り込みパターンが繰り返し形成され、上面側経糸および下面側経糸の本数は同じであり、上面側緯糸および下面側緯糸の本数は同じである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な表面性を確保でき、脱水性を向上できる工業用織物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る工業用織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図2】
図1に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1に示す意匠図における緯糸に沿った緯方向の部分断面図であり、
図3(b)は、面直方向に見た上面側経糸および下面側経糸を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明において、「経糸」とは、製紙用の多層織物をループ状のベルトとした場合に、紙の搬送方向に沿って伸びている糸であり、「緯糸」とは、経糸に対して交差する方向に伸びている糸である。また、「上面側織物」とは、多層織物を抄紙網として利用する場合に、抄紙網の両面のうち紙が搬送される表面側に位置する織物であり、「下面側織物」とは、抄紙用ベルトの両面のうち主として駆動ローラが当接する裏面側に位置する織物である。なお、単に「表面」とは、上面側織物や下面側織物の露出している側の面であり、上面側織物の「表面」とは、抄紙網における表面側に相当するが、下面側織物の「表面」とは、抄紙網における裏面側に相当する。
【0010】
また、「意匠図」とは織物組織の最小の繰り返し単位であって織物の完全組織に相当する。つまり、「完全組織」が前後左右に繰り返されて「織物」が形成される。また、「ナックル」とは経糸が1本又は複数本の緯糸の上、又は下を通って表面に露出した部分をいう。
【0011】
また、「接結糸」とは、上面側織物および下面側織物を構成する経糸の少なくとも一部の経糸であって、本来ならば下面側織物(又は上面側織物)の緯糸のみを織り込むべき経糸が、上面側織物(又は下面側織物)の緯糸を下面側(又は上面側)から織り込むことで、上面側織物と下面側織物を接結する糸である。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る工業用織物10の完全組織を示す意匠図である。
図2は、
図1に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
【0013】
意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示す。緯糸は、ダッシュを付したアラビア数字、例えば1'、2'、3'・・・で示す。上面側糸はUを付した数字、下面側糸はLを付した数字、例えば1'U、2'L等で示す。また、上面側織物と下面側織物とを接結する接結糸はBを付した数字で示し、例えば上面側経糸の接結糸は、UB、下面側経糸の接結糸はLBと示す。
【0014】
また、意匠図において、×印は、上面側経糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示し、○印は、下面側経糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示し、△印は、上面側経糸の接結糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示し、▲印は、下面側経糸の接結糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示している。×印、○印、△印および▲印はナックルを示す。これらの表記は、
図3以降でも同様に用いられる。
【0015】
図1に示す第1実施形態に係る工業用織物10は、上面側経糸(1U~8UB)と上面側緯糸(1’U~16’U)を含んで構成される上面側織物と、下面側経糸(1L~8LB)と下面側緯糸(1’L~16’L)を含んで構成される下面側織物とが接結されたものである。
【0016】
上面側経糸(1U~8UB)および下面側経糸(1L~8LB)は、完全組織において8本ずつであり、上面側緯糸(1’U~16’U)および下面側緯糸(1’L~16’L)は、完全組織において16本である。
【0017】
完全組織において8本の上面側経糸(1U~8UB)および下面側経糸(1L~8LB)のうちそれぞれの2本は、上面側織物および下面側織物を接結する上面側接結糸(4UB,8UB)および下面側接結糸(4LB,8LB)として機能する。上面側織物および下面側織物は、複数の上面側経糸の一部である上面側接結糸と複数の下面側経糸の一部である下面側接結糸とによって接結される。抄紙機上で張力がかかる経糸で接結することにより、高速な抄造マシンでも上面側織物と下面側織物が擦れることで生じる内部摩耗を抑えることができる。
【0018】
次に、工業用織物10における各経糸と各緯糸との織り方について
図2(a)および
図2(b)を参照して説明する。
図2(a)および
図2(b)に示す上面側緯糸、下面側緯糸の配置は同じである。
【0019】
図2(a)は、上面側経糸3Uと下面側経糸3Lの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。
図2(a)に示すように、上面側経糸3Uが1本の上面側緯糸(2’U,4’U,6’U,8’U,10’U,12’U,14’U,16’U)の上側と、1本の上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U,9’U,11’U,13’U,15’U)の下側とを交互に通る第1織り込みパターンが繰り返し形成され、いわゆる平織りの織り込みパターンを形成する。
【0020】
上面側経糸(1U,2U,5U~7U)は、上面側経糸3Uとは織り込み位置が経方向にずれたものを含むもの、上面側経糸3Uと同じように、上面側緯糸(1’U~16’U)を1本ずつ交互に織り込むの第1織り込みパターンを形成する。
【0021】
下面側経糸3Lは、1本の下面側緯糸(3’L,7’L,11’L,15’L)の下側を通り、連続する3本の下面側緯糸(4’L~6’L,8’L~10’L,12’L~14’L,16’Lおよび1’L~2’L)の上側を通る、1/3組織の第2織り込みパターンを形成する。下面側経糸(1L,2L,5L~7L)は、下面側経糸3Lと織り込み位置が経方向にずれているものを含むものの、下面側経糸3Lと同様の第2織り込みパターンを有し、1/3組織の第2織り込みパターンを形成する。
【0022】
図2(b)は、上面側経糸4UBと下面側接結糸4LBとの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。上面側経糸4UBと下面側接結糸4LBは、上下に対向して組をなし、接結のため交差する。
【0023】
上面側接結糸4UBは、上面側緯糸(1’U,7’U,9’U,11’U,13’U,15’U)の上側を通って6つのナックルを形成し、残りの上面側緯糸(2’U~6’U,8’U,10’U,12’U,14’U,16’U)の下側を通る。また、上面側接結糸4UBは、下面側緯糸4’Lの下側を通って1つのナックルを形成し、下面側緯糸(4’L)以外の下面側緯糸(1’L~3’L,5’L~16’L)の上側を通る。上面側接結糸8UBは、上面側接結糸4UBと比べて織り込み位置が経方向にずれているが、上面側接結糸4UBと同様の織り込みパターンを有する。
【0024】
下面側接結糸4LBは、上面側緯糸(3’U,5’U)の上側を通って2つのナックルを形成し、残りの上面側緯糸(1’U~2’U,4’U,6’U~16’U)の下側を通る。また、下面側接結糸4LBは、下面側緯糸(8’L,12’L,16’L)の下側を通って3つのナックルを形成し、残りの下面側緯糸(1’L~7’L,9’L~11’L,13’L~15’L)の上側を通る。下面側接結糸8LBは、下面側接結糸4LBと比べて織り込み位置が経方向にずれているが、下面側接結糸4LBと同様の織り込みパターンを有する。
【0025】
上面側接結糸4UBは、1本の上面側緯糸1’Uの上側を通り、連続する5本の上面側緯糸(2’U~6’U)の下側を通り、上面側緯糸(7’U~16’U)を上下に交互に織り込む第1織り込みパターンを形成する。下面側接結糸4LBは、上面側接結糸4UBが連続する5本の上面側緯糸(2’U~6’U)の下側を通る間で、上面側緯糸3’Uの上側を通り、上面側緯糸4’Uの下側を通り、上面側緯糸5’Uの上側を通り、それら以外の上面側緯糸(1’U~2’U,6’U~16’U)の下側を通る。これにより、上面側接結糸4UBおよび下面側接結糸4LBは、互いに上面側織物の表面組織を補完し、上面側経糸(1U~3U,5U~7U)と同様に、上面側緯糸を1本ずつ上下に織り込む第1織り込みパターンを形成する。上面側接結糸8UBおよび下面側接結糸8LBも、上面側接結糸4UBおよび下面側接結糸4LBと同様に互いに上面側織物の表面組織を補完し、上面側緯糸を1本ずつ上下に織り込む第1織り込みパターンを形成する。この第1織り込みパターンを平織りという。これによって、上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸(上面側経糸および下面側接結糸である)によって、第1織り込みパターンが形成され、表面性を向上できる。上面側織物の表面を平織にすることで、良好な平滑性と紙繊維の支持性が得られため、紙繊維が刺さり込む箇所を減らすことができる。
【0026】
上面側接結糸4UBは、1本の下面側緯糸4’Lの下側を通り、残りの下面側緯糸(1’L~3’L,5’L~16’L)の上側を通る織り込みパターンを形成するとともに、下面側接結糸4LBは、下面側緯糸4’Lから3本離れた1本の下面側緯糸8’Lの下側を通り、連続する3本の下面側緯糸(9’L~11’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸12’Lの下側を通り、連続する3本の下面側緯糸(13’L~15’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸16’Lの下側を通り、連続する7本の下面側緯糸(1’L~7’L)の上側を通る織り込みパターンを繰り返して、下面側織物の表面に1/3組織の第2織り込みパターンを形成する。
【0027】
このように、上面側接結糸4UBおよび下面側接結糸4LBは、互いに下面側織物の表面を補完することで、1/3組織の第2織り込みパターンを形成し、下面側組織を崩すことなく織り込まれる。上面側接結糸8UBおよび下面側接結糸8LBも、上面側接結糸4UBおよび下面側接結糸4LBと同様に互いに下面側織物の表面組織を補完し、1/3組織の第2織り込みパターンを形成する。これにより、下面側織物の表面には、下面側に位置する経糸(下面側経糸および上面側接結糸である)によって、第2織り込みパターンが繰り返し形成される。これにより、平織りと比べて、下面側織物の表面に露出する下面側緯糸を増やし、耐摩耗性を向上できる。
【0028】
下面側に位置する経糸が下面側緯糸の下側を通ることで下面側織物の表面に形成されるナックル(
図1の○印および△印)は、斜め方向に一様に並んでいる。つまり、下面側織物の表面に形成されるナックルが、斜め方向に揃って配置されており、斜め方向からずれたものを含んでいない。この織り込みパターンを綾織という。これによって、下面側織物の表面の平滑性を良好にできる。下面側織物の1/3組織は下面側緯糸の曲がりを抑えることができ、工業用織物10の網厚を薄くできる。工業用織物10の網厚を薄くすることで網内部に保持する水が減り、網内部に保持した水が網の高速回転によりマシン周りに飛び散るスプラッシュを抑制でき、マシン汚れを抑えることができる。
【0029】
上面側接結糸(4UB,8UB)および下面側接結糸(4LB,8LB)は、上下に組をなし、上面側織物の表面に第1織り込みパターンを形成し、下面側織物の表面に第2織り込みパターンを形成する。これによって、上面側接結糸(4UB,8UB)および下面側接結糸(4LB,8LB)を設けても、上面側織物および下面側織物の表面に形成される織り込みパターンを一様にでき、表面性を向上できる。
【0030】
複数の上面側接結糸(4UB,8UB)および下面側接結糸(4LB,8LB)の組は、接結糸でない3組の上面側経糸(1U~3U,5U~7U)および下面側経糸(1L~3L,5L~7L)を挟んで等間隔に配置される。これにより、上面側接結糸(4UB,8UB)および下面側接結糸(4LB,8LB)の組を均等に離れて配置して、緯方向の接結位置の偏りを抑えることができる。
【0031】
完全組織における2本の下面側接結糸(4LB,8LB)のそれぞれが上面側緯糸(3’U,5’U,11’U,13’U)の上側を通って形成するナックルの位置は、緯方向において4本の上面側経糸のずれがあり、経方向において8本の上面側緯糸のずれがある。下面側接結糸4LBがナックルを形成する上面側緯糸(3’U,5’U)の位置と、下面側接結糸8LBがナックルを形成する上面側緯糸(11’U,13’U)の位置は、経方向において8本分の上面側緯糸だけオフセットされている。これによって、接結位置を分散することができる。接結位置を分散することで、接結による脱水阻害を抑え、通気性を向上できる。
【0032】
完全組織において上面側経糸(1U~8UB)および下面側経糸(1L~8LB)の本数は同じであり、完全組織において上面側緯糸(1’U~16’U)および下面側緯糸(1’L~16’L)の本数は同じである。これによって、工業用織物10をオンスタックの構造にすることが容易になる。ここで、新たに
図3を参照しつつ、オンスタック構造について説明する。
【0033】
図3(a)は、
図1に示す意匠図における緯糸に沿った緯方向の部分断面図であり、
図3(b)は、面直方向Fに見た上面側経糸3Uおよび下面側経糸3Lを示す。
【0034】
上下に組をなす上面側経糸3Uおよび下面側経糸3Lが、上面側織物の面直方向Fに見て、面直方向Fに重なるオンスタック構造を有する。また、上面側経糸4UBおよび下面側経糸4LBが、面直方向Fに重なるオンスタック構造を有する。このように、上下に組みをなす上面側経糸および下面側経糸が、多くの部分で面直方向Fに重なった状態をオンスタックの構造という。なお、面直方向Fとは、上面側織物の表面に垂直な方向をいい、上下方向に沿っている。
【0035】
上面側経糸3Uの直径D1と下面側経糸3Lの直径D2は、面直方向Fに見て距離D3だけ重なっている。この距離D3が直径D1に重なっている割合、または距離D3が直径D2に重なっている割合をもとに、上面側経糸3Uおよび下面側経糸3Lが面直方向Fに重なっている割合を算出する。なお、上面側経糸4UBおよび下面側経糸4LBが、面直方向Fに見て部分的に100パーセントの割合で重なっている状態を示す。
【0036】
図3(b)には、面直方向Fに見た上面側経糸3Uおよび下面側経糸3Lの重なった領域S3を示す。この領域S3が上面側経糸3Uの面積S1の60パーセント以上、または下面側経糸3Lの面積S2の60パーセント以上であれば、上面側経糸3Uおよび下面側経糸3Lは60パーセント以上の割合で重なっている。面積S1、面積S2および領域S3の経方向長さは、例えば完全組織の長さであってよい。上面側経糸の面積S1と下面側経糸の面積S2が異なる場合、すなわち上面側経糸および下面側経糸の線径が異なる場合、上面側経糸および下面側経糸が重なる割合は、小さい線径を有する経糸の面積と領域S3とを比較して算出されてよい。
【0037】
上下に組をなす上面側経糸(1U~8UB)および下面側経糸(1L~8LB)のそれぞれが面直方向Fに見て60パーセント以上の割合で重なっていることが好ましい。また、上下に組をなす上面側緯糸(1’U~16’U)および下面側緯糸(1’L~16’L)のそれぞれが、上面側織物の面直方向に見て、60パーセント以上の割合で重なっていることが好ましい。これにより、工業用織物10の脱水性を高めることができる。
【0038】
より好ましくは、上下に組をなす上面側経糸(1U~8UB)および下面側経糸(1L~8LB)のそれぞれが面直方向Fに見て80パーセント以上の割合で重なっており、上下に組をなす上面側緯糸(1’U~16’U)および下面側緯糸(1’L~16’L)のそれぞれが、上面側織物の面直方向Fに見て、80パーセント以上の割合で重なっている。これにより、工業用織物10の脱水性を一層高めることができる。このようなオンスタック構造は、上面側経糸および下面側経糸の本数を同じにし、上面側緯糸および下面側緯糸の本数を同じにすることで達成できる。
【0039】
このように、上面側織物の表面を平織りにし、下面側織物の表面を綾織りにし、かつオンスタック構造にすることで、良好な平滑性と薄い網厚と高い脱水性を備える工業用織物10を実現できる。
【0040】
図1に戻る。接結糸でない上面側経糸(1U~3U,5U~7U)に対する上面側接結糸(4UB,8UB)の本数の比率と、下面側経糸(1L~3L,5L~7L)に対する下面側接結糸(4LB,8LB)の本数の比率は、3対1である。接結糸の本数を少なくすることで、脱水性を向上できる。
【0041】
下面側接結糸(4LB,8LB)は、1本の上面側緯糸の上側を通って形成するナックル(
図1の▲印)を2つ以上有する。例えば、下面側接結糸4LBは、上面側緯糸3’Uの上側と、上面側緯糸5’Uの上側を通って2つのナックルを形成する。これにより、接結糸の本数を抑えつつ、接結強度を高めることができる。
【0042】
また、上面側接結糸(4UB,8UB)が下面側緯糸に形成するナックルの数は1つであるが、下面側接結糸(4LB,8LB)が上面側緯糸に形成するナックルの数は2つである。つまり、上面側接結糸(4UB,8UB)が下面側緯糸に形成するナックルの数は、下面側接結糸(4LB,8LB)が上面側緯糸に形成するナックルの数よりも少ない。これにより、上面側接結糸(4UB,8UB)と下面側接結糸(4LB,8LB)の織り込みパターンを変えることで、接結位置の偏りを抑えることができる。上面側接結糸(4UB,8UB)が下面側織物の表面に露出することを抑え、摩耗により損傷する可能性を抑えることができる。上面側接結糸(4UB,8UB)が下面側緯糸に形成するナックルの位置は、経方向において、下面側接結糸(4LB,8LB)が上面側緯糸に形成する2つのナックルの間に位置する。
【0043】
下面側織物の表面は、ポリエステルの下面側緯糸とポリアミドの下面側緯糸との交織で形成されてもよい。つまり、完全組織における16本の下面側緯糸(1’L~16’L)には、ポリエステルからなる線材と、ポリアミドからなる線材が含まれる。これにより、下面側織物の強度を高めつつ、耐摩耗性を向上できる。
【0044】
上面側織物の表面は、ポリエステルの上面側緯糸とポリアミドの上面側緯糸との交織で形成されてもよい。つまり、完全組織における16本の上面側緯糸(1’U~16’U)には、ポリエステルからなる線材と、ポリアミドからなる線材が含まれる。これにより、上面側織物の強度を高めつつ、耐摩耗性を向上できる。
【0045】
上述の各実施形態に係る工業用織物は、以下の加工を施してもよい。例えば、表面の平滑性を向上させるために、工業用織物の表面側が0.02~0.05mmの範囲で研磨加工が施されていてもよい。特に表面側が0.02mm又は0.03mm研磨加工されているとよい。
【0046】
また、網(工業用織物)端部の糸がほつれるのを抑制するために、網端部から5mm~30mmの範囲(特に5mm、10mm、20mmまでの範囲)をポリウレタン樹脂でコーティングすることにより、補強されていてもよい。網端部のコーティングは片側でも両側でもよい。樹脂はホットメルトのポリウレタンであってもよい。
【0047】
網端部の耐摩耗性を向上させるために、網端部から20mm~500mm離れた範囲(特に25,50,75,100,150,250,300,350,400mm離れた範囲)を、巾が7mm程度の3本~16本(特に3,4,7,8,10,12,15,16本)の帯状の樹脂により全長さに亘ってコーティングしてもよい。前述の複数本のポリウレタン樹脂は網の両端部に塗布されていてもよく、片側のみでもよい。樹脂はホットメルトのポリウレタンであってもよい。
【0048】
また、防汚性を向上させるために、網全体に樹脂によるコーティングがなされていてもよい。また、網端部付近で紙の抄造巾をトリミングできるように、網端部から10mm~500mm離れた範囲(特に10,15,20,25,30,40,50,75,100,150,200,250,300,350,400mm)を、巾が3,5,7,10,15,20mm程度の1本の帯状の樹脂により全長さに亘ってコーティングしていてもよい。前述の樹脂は網の両端部に塗布されていてもよく、片側のみでもよい。樹脂はポリウレタンであってよく、ホットメルトでもよい。また、使用中に網の筋曲がりが分かるように、全巾に亘って巾25mm又は50mm程度の線が網にひかれていてもよい。
【0049】
工業用織物の好ましい要素の範囲について列挙する。経糸(経糸は、上面側経糸、下面側経糸、第1接結経糸、第2接結経糸および第3接結経糸を含む。)の線径は0.10~1.0mmが好ましく、0.1~0.5mmが更に好ましく、特に0.11~0.35mmが好ましい。下面側経糸の線径は、上面側経糸の線径と同じであってよく、上面側経糸の線径の1.1倍から1.2倍の大きさで設定されてもよい。また、緯糸の線径は、0.10~1.0mmが好ましく、0.12~0.6mmが更に好ましく、特に0.12~0.55mmが好ましい。下面側緯糸の線径は、上面側緯糸の線径よりも大きいことが望ましく、上面側緯糸の線径の1.1倍から3.0倍の大きさであってよく、より好ましくは1.2倍から2.0倍の大きさであってよい。
【0050】
上面側緯糸は、PET線のみ、ポリアミド線のみ、又はPET線とポリアミド線を交互に織り込んだものであってもよい。下面側緯糸は、PET線のみ、ポリアミド線のみであってよく、PET線とポリアミド線を交互に織り込んだものであってもよい。また、機械の駆動負荷を低減するために、低摩擦糸を下面側緯糸に織り込んでもよい。
【0051】
通気度は、100cm3/cm2/s~600cm3/cm2/sが好ましく、120cm3/cm2/s~300cm3/cm2/sが更に好ましい。
【0052】
網厚は0.3mm~3.0mmが好ましく、0.5mm~2.5mmが更に好ましく、0.5mm~1.0mmが特に好ましい。使用用途としては、主に抄紙用や不織布用ベルトとして使用され、特に抄紙用脱水ベルト、スパンボンド不織布搬送用ベルトとして使用されてよい。
【0053】
上述の各実施の形態に係る経糸や緯糸の断面形状は円形に限らず、四角形状や星型等の糸や、楕円形状、中空、芯鞘構造等の糸が使用できる。特に下経糸の断面形状を正方形又は長方形又は楕円形状にすることで、糸の断面積が増加し、伸び耐性や剛性を向上できる。
【0054】
また、糸の材質としても、目的の特性を満たす範囲で自由に選択でき、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じて様々な物質をブレンドしたり含有させた糸を使用したりしてもよい。一般的に工業用織物を構成する糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
1’L 下面側緯糸、 1’U 上面側緯糸、 1L 下面側経糸、 1U 上面側経糸、 4UB 下面側接結糸、 4UB 上面側接結糸、 10 工業用織物。
【要約】
【課題】脱水性を向上できる工業用織物を提供する。
【解決手段】上面側織物および下面側織物は、複数の上面側経糸の一部である上面側接結糸と複数の下面側経糸の一部である下面側接結糸とによって接結される。上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の上面側緯糸の上側と1本の上面側緯糸の下側を交互に通る第1織り込みパターンが形成される。下面側に位置する経糸が下面側緯糸の下側を通ることで下面側織物の表面に形成されるナックルは、斜め方向に一様に並んでいる。下面側織物の表面には、下面側に位置する経糸によって、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する3本の下面側緯糸の上側を通る第2織り込みパターンが繰り返し形成される。上面側経糸および下面側経糸の本数は同じであり、上面側緯糸および下面側緯糸の本数は同じである。
【選択図】
図1