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特許7210819天然繊維を処理するための水性サイジング組成物および当該組成物により天然繊維を処理するプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】天然繊維を処理するための水性サイジング組成物および当該組成物により天然繊維を処理するプロセス
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/21 20060101AFI20230117BHJP
   D06M 13/50 20060101ALI20230117BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20230117BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20230117BHJP
【FI】
D06M15/21
D06M13/50
D06M13/148
D06M101:06
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020561709
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 TH2019000018
(87)【国際公開番号】W WO2019240672
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】1801003425
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TH
(73)【特許権者】
【識別番号】513160707
【氏名又は名称】ピーティーティー グローバル ケミカル パブリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロシリワット、タクル
(72)【発明者】
【氏名】ユアペルムキアティ、アヌチャ
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-132679(JP,A)
【文献】特開2002-194118(JP,A)
【文献】特開2002-038355(JP,A)
【文献】特開平02-117938(JP,A)
【文献】米国特許第04537807(US,A)
【文献】特開2004-313486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC D06M 13/00 - 15/715
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性物質において補強材料として使用される天然繊維を処理するための水性サイジング組成物であって、前記天然繊維は、原繊維または処理済み繊維であるセルロース系繊維であり、
(a)以下の構造(I)を有するポリマー材料であって、
【化3】
(I)
式中、Rはアルキル基を表し、
Xは、ホウ酸とジアルデヒドとの混合物から得られる共有結合した可逆架橋性基を表し、
p、q、およびrは、ポリマー主鎖上の重合度を表し、p、q、rの合計100%に対してpの割合は70~90%であり、qの割合は10~30%であり、rの割合は0.02~1.25%である、ポリマー材料と、
(b)抗菌特性を有する水溶性金属錯体と、
(c)酸化還元活性水溶性化合物と、を含む
水性サイジング組成物。
【請求項2】
Rが、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、または環状アルキル基から選択される、請求項1に記載の水性サイジング組成物。
【請求項3】
Rが、メチル基またはプロピル基から選択される直鎖アルキル基である、請求項2に記載の水性サイジング組成物。
【請求項4】
ホウ酸対ジアルデヒドの比が、モル基準に基づいて1:2~1:4の範囲内である、請求項に記載の水性サイジング組成物。
【請求項5】
前記ジアルデヒドが、グリオキサール、スクシンジアルデヒド、グルタルアルデヒド、またはそれらの混合物から選択される、請求項またはに記載の水性サイジング組成物。
【請求項6】
前記水溶性金属錯体が、銅錯体、銀錯体、またはそれらの混合物から選択される、請求項に記載の水性サイジング組成物。
【請求項7】
前記水溶性金属錯体が、ポリアミンまたはアミノカルボン酸塩から選択される配位子を含む、請求項またはに記載の水性サイジング組成物。
【請求項8】
前記酸化還元活性水溶性化合物が、アルドヘキソース、アルドペントース、またはそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の水性サイジング組成物。
【請求項9】
さらに、前記ポリマー材料を7~15重量体積パーセント(% w/v)、前記水溶性金属錯体を50~750百万分率(ppm)、および前記酸化還元活性水溶性化合物を100~1500百万分率(ppm)含む、請求項1に記載の水性サイジング組成物。
【請求項10】
熱可塑性物質において補強材料として使用される天然繊維の調製プロセスであって、前記天然繊維は、原繊維または処理済み繊維であるセルロース系繊維であり、
(1)水性サイジング組成物であって、
(a)以下の構造(I)を有するポリマー材料であって、
【化4】
(I)
式中、Rはアルキル基を表し、
Xは、ホウ酸とジアルデヒドとの混合物から得られる共有結合した可逆架橋性基を表し、
p、q、およびrは、ポリマー主鎖上の重合度を表し、p、q、rの合計100%に対してpの割合は70~90%であり、qの割合は10~30%であり、rの割合は0.02~1.25%である、ポリマー材料と、
(b)抗菌特性を有する水溶性金属錯体と、
(c)酸化還元活性水溶性化合物と、を含む、水性サイジング組成物を用いて前記天然繊維をコーティングする段階と、
(2)(1)で得られた前記天然繊維を加熱により乾燥させて、使用のために好適なサイズに切断する段階と、を含む、プロセス。
【請求項11】
Rが、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、または環状アルキル基から選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
Rが、メチル基またはプロピル基から選択される直鎖アルキル基である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
ホウ酸対ジアルデヒドの比が、モル基準で1:2~1:4の範囲内である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項14】
前記ジアルデヒドが、グリオキサール、スクシンジアルデヒド、グルタルアルデヒド、またはそれらの混合物から選択される、請求項10または13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記水溶性金属錯体が、銅錯体、銀錯体、またはそれらの混合物から選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項16】
前記水溶性金属錯体が、ポリアミンまたはアミノカルボン酸塩から選択される配位子を含む、請求項10または15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記酸化還元活性水溶性化合物が、アルドヘキソース、アルドペントース、またはそれらの混合物から選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ポリマー材料を7~15重量体積パーセント(% w/v)、前記水溶性金属錯体を50~750百万分率(ppm)、および前記酸化還元活性水溶性化合物を100~1500百万分率(ppm)含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項19】
段階(1)の前記天然繊維の前記コーティングが、50℃未満の温度の前記水性サイジング組成物に前記天然繊維を浸漬させることによって実行される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項20】
段階(2)の加熱による前記乾燥は、80℃と等しいかまたはそれより高い温度で操作される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項21】
加熱による前記乾燥が、80~140℃の範囲内の温度で操作される、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記天然繊維が、ケナフ、ジュート、ヘンプ、またはそれらの混合物から選択される、請求項10か21のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維を処理するための水性サイジング組成物、および当該組成物により天然繊維を処理するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
天然繊維で補強された熱可塑性物質複合体は、様々な産業でのその用途においてより多くの関心を集めている。これは、当該材料が、ガラス繊維または炭素繊維などの他の繊維よりも軽いからである。さらに、当該材料は、その生物学的に再生可能な特性の点で利点を有し、これは大気への温室効果ガスの放出を低減する方法の1つである。
【0003】
天然繊維を含む補強材料の使用は上記の利点を有するものの、当該材料の使用は、加工品の分離をもたらす天然繊維とポリマーマトリックスとの適合性の低さ、工業的規模で補強材料となる繊維の大量製造を困難にする、全密度の低さ(約0.09~0.1g/cm)による繊維の柔らかさを含む繊維セルロース組成物中の微生物による使用中の機械的劣化など、いくつかの欠点を有する。
【0004】
天然繊維は主に、高極性ヒドロキシル基を主成分として含むセルロース成分で構成され、製造プロセスにおける熱可塑性マトリックス材料は明らかに繊維、特に、ポリエステル基またはポリエチレンもしくはポリプロピレンなどの非極性基よりも低い極性を有する。当該材料の極性の違いは、引張強度および曲げ強度などの機械的特性を直接もたらす、天然繊維とポリマーマトリックスとの間の表面結合に対して負の効果を有する。
【0005】
一般に、上記の問題を克服するためにペレット切断中に相溶化剤が使用される。当該相溶化剤は、ヒドロキシル基と反応することができる化学官能基を有する。使用されている最も一般的な相溶化剤は、WO2009139508A1、WO1996005347A1、US7781500B2、ならびに研究論文、例えば、Keener TJ,(2004)Compos A:Appl Sci Manuf,Cantero G(2003),Compos Sci Technol、およびJoseph PV,(2003)Compos A:Appl Sci Manufなどに開示されている、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)である。
【0006】
US7879925B2は、エポキシド基を含む相溶化剤を添加するための方法を開示している。しかしながら、上述の方法は、繊維とマトリックスとの間の相互作用の問題のみを解決することができるが、これらの繊維の天然の特徴である繊維の束へと凝集した少量の繊維間の結合に対して一助とはならない。別の問題は、繊維と直接接触しないようにマトリックス中で相溶化剤を分布させることであった。
【0007】
US6939903B2および研究論文Agrawal R,(2000).Mater Sci Eng:Aは、有機キシラン誘導体用いることにより繊維を改善させるための他の方法を開示している。CN100487060Cおよび研究論文Paul A (1997)Compos Sci Technol and Sreekala MS(2003) Compos Sci Technolは、イソシアネートを用いることにより繊維を改善させるための方法を開示している。しかしながら、これらの方法は反応性の高い物質を用いたため、結果として製造プロセスが危険であった。
【0008】
セルロース系繊維がバクテリアおよび菌類の両方の微生物により消化され得、これは時間の経過と共に補強材料の機械的特性に影響を及ぼすことは周知である。US8338514B2は、プラスチックペレットの製造中に抗菌マスターバッチを添加することによる、セルロース系繊維の微生物による消化プロセスを開示している。当該物質は通常、当該抗菌物質が通常はポリマーマトリックス中に分布されているが、劣化した部分である繊維中のセルロースには結合していなかったため、活性化合物の分布に問題を有していた。
【0009】
US8183167B1およびUS8834917B2は、天然材料を維持するために不溶性の銅、銀粒子、およびナフテン酸銅(II)または塩化亜鉛(II)などの遷移金属を使用することを開示している。しかしながら、当該方法は、銅(II)または銀塩溶液中での繊維の浸漬、それに続く乾燥、およびアスコルビン酸または水素化ホウ素ナトリウムなどの還元溶液中での第2の浸漬を含む、多段階の方法であった。当該プロセスはまた、次の段階でコーティングが必要とされる場合に限定的であり得る。これは、繊維に結合した粒子が、コーティング物質に結合し得るからである。さらに、抗菌粒子をコーティング溶液内に添加するときにも問題があった。当該粒子が凝集および沈殿したためであり、これは工業的規模での使用には好適でなかった。
【0010】
補強材料として使用される炭素繊維およびガラス繊維は常に、有機キシラン、アクリレート、エポキシ、またはウレタンなどのコーティング溶液によりそれらの表面をコーティングされている。補強ペレットの製造プロセス中に材料の流動性を高めるために、天然繊維は、非常に低い全密度(おおよそ0.08g/cm)を有し、柔らかい外観を有しており、これらは、一般的なツールを用いた補強材料の製造における使用に対する障害であった。
【0011】
これらの問題を克服するために、Nam,G(2014)Effect of Natural Fiber Reinforced Polypropylene Composite Using Resin Impregnation.Agricultural SciencesおよびUS8419991B2に開示される、ポリ(ビニルアルコール)での天然繊維の浸漬コーティングの研究は、セルロース誘導体、デンプン誘導体、またはポリ(ビニルアルコール)もしくはポリ(ビニルアセテート)を含むサイジング剤の使用を開示している。しかしながら、デンプン誘導体およびセルロース誘導体は高親水性であり、当該特性は材料の吸水率を高めることになり、これは微生物による材料の劣化に影響を及ぼす。さらに、高極性特性は、ポリマーマトリックスとの適合性を低下させる。別の事例では、ポリ(ビニルアセテート)は、製造プロセス中に繊維表面からポリマーマトリックスへと溶出し得る。これにより、繊維とポリマーマトリックスとの相互作用が低下する。
【0012】
上述のすべての問題から、本発明は、得られる繊維の特性がポリマーマトリックスと適合するように改善させ、抗菌特性を高め、それらの嵩密度および流動性を高めることにより得られる繊維の加工性を改善するために、天然繊維を処理するための水性サイジング組成物を開発することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明はまた、当該水性サイジング組成物による天然繊維の調製プロセスを開示している。当該プロセスは容易に実行することができ、溶出の問題を低減し、繊維の凝集および抗菌粒子の沈殿を低減する。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、天然繊維に適用するための水性サイジング組成物に関し、本発明に係る処理プロセスから得られる天然繊維は、繊維とポリマーマトリックスとの間で良好な適合性を提供して抗菌相乗効果をもたらし、かつ工業的規模での製造問題を低減する、補強材料として適用され得る。当該組成物は、
(a)以下の構造(I)を有するポリマー材料であって、
【化1】
(I)
式中、 Rがアルキル基を表し、 Xが、共有結合した可逆架橋性基を表し、
p、q、およびrは、ポリマー主鎖上の重合度を表し、重合度の総和は50より大きい、ポリマー材料と、
(b)抗菌特性を有する水溶性金属錯体と、
(c)酸化還元活性水溶性化合物と、を含む。
【0015】
一実施形態では、本発明は、当該組成物からの天然繊維の調製プロセスに関する。当該プロセスは容易に実行することができ、溶出の問題、繊維の凝集を低減し、抗菌粒子の沈殿を低減する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】走査電子顕微鏡を使用した繊維の表面分析を示し、(a)本発明に係る水性サイジング組成物でコーティングされた繊維、および(b)ポリビニルアセテートポリマー材料を含むサイジング組成物でコーティングされた繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で使用される技術的用語または科学的用語は、別段の記載がない限り、当業者によるものと同様の定義を有する。本明細書で挙げられる任意のツール、機器、方法、または化学物質は、それらが本発明にのみ特化したツール、機器、方法、または化学物質であるとの別段の記載がない限り、当業者によって一般的に使用されているツール、機器、方法、または化学物質を意味する。特許請求の範囲または明細書において、「含む(comprising)」と共に使用する単数名詞または単数代名詞は、「1」を意味し、かつ「1または複数」、「少なくとも1」および「1または1より多い」を含むことを意味する。本出願を通して、「約」という用語は、本明細書に出現または示される任意の数字が、機器、方法、または当該機器もしくは方法を使用する個人の任意のエラーにより変動または逸脱し得ることを意味し、これには、ポリマーの分子量などの物理的条件により生じる変動または逸脱が含まれる。 以下、発明の実施形態が示されるが、本発明の任意の範囲を限定する目的はない。
【0018】
本発明は、熱可塑性物質における補強材料として使用される天然繊維を処理するための水性サイジング組成物であって、
(a)以下の構造(I)を有するポリマー材料であって、
【化2】
(I)
式中、Rが、アルキル基を表し、 Xが、共有結合した可逆架橋性基を表し、
p、q、およびrは、ポリマー主鎖上の重合度を表し、重合度の総和は50より大きい、ポリマー材料と、
(b)抗菌特性を有する水溶性金属錯体と、
(c)酸化還元活性水溶性化合物と、を含む、水性サイジング組成物を開示する。
【0019】
一実施形態では、Rは、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、または環状アルキル基から、好ましくは直鎖アルキル基から、最も好ましくはメチル基またはプロピル基から選択されるアルキル基を表す。
【0020】
一実施形態では、Xは、架橋が他のポリマーまたは繊維内の他のセルロース組成物と結合している、共有結合した可逆架橋性基を表す。これは、サイジング組成物と天然繊維との間に強固な共有結合を形成することにより、表面の適合性、および形成プロセス中のポリマーマトリックスへのサイジング組成物の溶解の防止において重要な役割を有する。好ましくは、Xは、ホウ酸とジアルデヒドとの混合物から得られる。
【0021】
一実施形態では、モル基準に基づいてホウ酸対ジアルデヒドの比は、1:2~1:4の範囲内である。
【0022】
一実施形態では、ジアルデヒドは、グリオキサール、スクシンジアルデヒド、グルタルアルデヒド、またはそれらの混合物から選択される脂肪族ジアルデヒドである。
【0023】
一実施形態では、p、q、およびr重合度の総和は、100より大きい。好ましくは、p、q、およびr重合度の総和の100%に基づいて、p重合度の割合は70~90%であり、q重合度の割合は10~30%であり、r重合度の割合は0.02~1.25%である。
【0024】
p、q、およびr重合度は、ビニルアルカノエート単位、ビニルアルコール単位、およびビニル基単位の組成のランダムポリマーを与え、p、q、およびrの比は、所望の水性サイジング組成物の特性にとってい重要である。高いp値は、ポリマーマトリックスに対する良好な適合性を与えるが、サイジング組成物の脱離も引き起こす。高いq値は天然繊維相に対する良好な適合性を与えるが、望ましくない吸水も増加させる。高いr値は、サイジング組成物と天然繊維との間の結合強度を高めるが、高すぎる値は、寒天様のテクスチャ、およびサイジング組成物の凝集を引き起こす。
【0025】
一実施形態では、水溶性金属錯体は、金属と配位子との錯体であり、当該錯体は抗菌特性を有し、好ましくは銅錯体または銀錯体である。
【0026】
一実施形態では、水溶性金属錯体の配位子は、ポリアミンまたはアミノカルボン酸塩から選択される。
【0027】
一実施形態では、酸化還元活性水溶性化合物は、アルドヘキソース、アルドペントース、またはそれらの混合物から選択される。
【0028】
一実施形態では、ポリマー材料は、ポリマー材料を7~15重量体積パーセント(% w/v)、水溶性金属錯体を50~750百万分率(ppm)、および酸化還元活性水溶性化合物を100~1500百万分率(ppm)含む。
【0029】
一実施形態では、本発明は、熱可塑性物質において補強材料として使用される天然繊維の調製プロセスであって、(1)上述の水性サイジング組成物を用いて天然繊維をコーティングする段階と、(2)(1)で得られた天然繊維を加熱により乾燥させて、使用のために好適なサイズに切断する段階とを含む、プロセスに関する。
【0030】
一実施形態では、段階(1)の天然繊維のコーティングは、50℃未満の温度、好ましくは周囲温度の当該水性サイジング組成物に天然繊維を浸漬させることによって実行される。
【0031】
一実施形態では、金属錯体を放出して抗菌粒子を提供するために、段階(2)の加熱による乾燥は、80℃より高いまたはそれと等しい温度、好ましくは80~140℃の範囲内の温度で操作される。さらに、これにより、金属錯体の分解および酸化還元活性化合物での反応が引き起こされる。
【0032】
一実施形態では、天然繊維を水性サイジング組成物に完全に浸漬させるために、天然繊維は繊維移送およびローラシステムにより移送されてもよい。その後、繊維は、ローラシステムによってプレスされ、余剰の液体を排出するために固定される。
【0033】
一実施形態では、補強材料の製造のための切断繊維を製造するために、天然繊維は乾燥された後、移送されて自動切断機により切断される。切断繊維の好ましい長さは、それらが機械の中でくっつくことなく一般的な材料供給装置で使用され得ることを保証するために、1~3.5mmの範囲内である。
【0034】
一実施形態では、セルロース系繊維を製造するための天然繊維は、原繊維または処理済み繊維である。
【0035】
一実施形態では、植物からセルロース系繊維を製造するための天然繊維には、綿、麻、ヘンプ、ジュート、パイナップル繊維、竹繊維、およびココナッツ繊維が含まれるがこれらに限定されず、好ましくは、ケナフ、ジュート、ヘンプ、またはそれらの混合物である。
【0036】
一実施形態では、天然繊維は、リグニンおよび繊維からのいくらかのヘミセルロースなどの汚染物質を除去するために、アルカリ性溶液への浸漬に供され得る。
【0037】
一実施形態では、本発明に係るプロセスから得られる天然繊維は、複合材料中のポリオレフィンにおいて補強材料として適用され得る。
【0038】
一実施形態では、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらのコポリマー、またはそれらの混合物から選択される。
【0039】
一実施形態では、本発明からの天然繊維での補強から得られる複合材料は、本発明から得られる補強材料を含む複合ペレットから形成される加工品を製造するために工業において適用されることができ、これには、自動車産業における自動車部品、航空機部品、船舶部品、水パイプ、バケツ、物資支持物、電気器具部品、および車両部品が含まれるがこれらに限定されない。
【0040】
以下の実施例は、本発明の実施形態を示すためのみであり、いかなる方法でも本発明の範囲を限定するためではない。
【0041】
水性エマルジョンサイジング組成物における水溶性金属錯体の安定性試験
水性エマルジョンサイジング組成物における水溶性金属錯体の安定性を試験するために、本発明に係る抗菌特性を有する金属錯体を含む当該水性エマルジョンサイジング組成物および比較用サンプルを、以下のように試験した。
【0042】
以下の成分を含有する混合物を撹拌した。
-p、q、およびrの総和の100%に基づいて約75%のp、約24%のq、および約1%のrを提供するための、ポリビニルアセテートとポリビニルアルコールとのコポリマー、ホウ酸、およびグリオキサールの混合物から得られる、12%w/vの構造(I)に係るポリマー。
-300ppmの金属錯体、または表1に示される抗菌特性を有する金属錯体。
【0043】
その後、安定性を試験するために、混合物を閉じた容器の中に2カ月間置いた。結果を表1に示す。
[表1]金属錯体または抗菌特性を有する金属錯体の安定性試験の結果
【表1】
【0044】
天然繊維の物理的特性に対する、本発明に係る水性サイジング組成物の効果
上記の詳細によって調製した構造(I)を有する12%w/vのポリマー材料と、250ppmの銀(I)ポリアミド錯体と、500ppmのアルドヘキソースとを含む、本発明に係る水性サイジング組成物にアルカリ性金属処理済みケナフを浸漬させた。その後、得られた繊維を乾燥させて約2mmの長さに切断した。
【0045】
得られた繊維は良好な流動性を有し、かつ約0.14g/cmの嵩密度値を有していたことが見出された。これは、低い流動性を有し、かつ約0.09g/cmの嵩密度値を有していた、本発明に係るサイジング組成物を含まない繊維よりも良好であった。
【0046】
コーティングプロセスに供された繊維とポリオレフィンとの適合性試験
本発明に係る水性サイジング組成物でのコーティングプロセスに供された繊維とポリオレフィンとの適合性を試験するために、当該研究において、以下に詳細により調製された、繊維とポリプロピレン-ポリエチレンブロックコポリマーとの複合材料をサンプルとして使用した。
【0047】
ポリプロピレン-ポリエチレンブロックコポリマーを、上記の本発明に係る水性サイジング組成物でのコーティングプロセスに供された繊維と混合した。ここで、繊維の量は約30重量%であった。これを、約190℃の温度で5分間、ブラベンダーで混合した。得られた複合体を走査電子顕微鏡(SEM)により分析した。結果を図1に示す。
【0048】
図1(a)は、走査電子顕微鏡によって分析した、本発明に係る水性サイジング組成物でのコーティングプロセスに供された繊維の写真を示す。一方、図1(b)は、走査電子顕微鏡によって分析した、ポリビニルアセテートであったポリマー材料でのコーティングプロセスに供された繊維の写真を示す。
【0049】
図1(a)および1(b)から、本発明に係る水性サイジング組成物に供されたサンプルが、本発明に係るコーティングから得られた繊維からのサイジング組成物の脱離を伴わずに良好な表面相互作用を与えたことが見出された。
【0050】
本発明に係る水性サイジング組成物でのコーティングプロセスに供された天然繊維を含む複合材料の機械的特性試験
複合材料の機械的特性を試験するために、以下の複合材料の調製方法により、ポリプロピレンコポリマーおよびポリプロピレンポリマーを、本発明に係る水性サイジング組成物でのコーティングプロセスに供された天然繊維と混合した。
【0051】
二軸スクリュー押出機により、4百分率(phr)を含有するポリプロピレンコポリマーまたはポリプロピレンポリマーのマスターバッチを混合した。ここで、複合材料の10重量%、20重量%、および30重量%の、上記の本発明に係る水性サイジング組成物でのコーティングプロセスに供された天然繊維を、内部供給装置を介して供給した。二軸スクリュー押出機から得られたプラスチックペレットを射出成形に供して、これらのサンプルを試験した。結果を表2および表3に示す。
【0052】
以下は、上記の方法から調製したサンプルのいくつかの特性の試験例であり、試験のために用いた方法および機器は一般に使用される方法および機器であり、本発明の範囲を限定する意図はない。
【0053】
引張強度および引張弾性率試験
Instron Instrumentモデル5567により、約50mm/分の速度でASTM D638規格の試験の前に3mmの厚みを有する犬の骨の形状に形成されたサンプルを使用して引張強度および引張弾性率を試験した。ゲージ長さは約25mmであった。
【0054】
曲げ強度および曲げ弾性率試験
Instron Instrumentモデル2810により、曲げ強度および曲げ弾性率を試験した。4点試験を使用して、ASTM D790規格に従って剛性および半剛性材料を評価した。サンプルを射出成形に供して、3mmの厚さ、10mmの幅、および64mmのプレス長さを有する試料を得た。
【0055】
加熱撓み温度試験
Instron Instrumentモデル ISO306により、加熱撓み温度を試験した。12.7mmの幅、120mmの長さ、および3mmの厚さを有する試料へと、試料を射出成形により形成した。ASTM D648に従って加熱温度を試験した。
【0056】
アイゾット衝撃弾性試験
Instron InstrumentモデルCEAST9050により、アイゾット衝撃弾性を試験した。12.7mmの幅、63.5mmの長さ、および3mmの厚さを有する試料へと、得られた複合ペレットを射出成形により形成した。試験の前に、試料を10.16mmの断片に切断した。
[表2]ポリマーマトリックスとしてポリプロピレンコポリマーを使用した複合材料の機械的特性
【表2】
[表3]ポリマーマトリックスとしてポリプロピレンポリマーを使用した複合材料の機械的特性
【表3】
【0057】
表2および表3から、繊維が添加されると、ポリプロピレンコポリマーおよびポリプロピレンポリマーの機械的特性が高まることが見出された。プラスチックに混合した繊維の量が増加すると、引張弾性率、曲げ弾性率、および加熱撓み温度が著しく増加した。これは、本発明に係るプロセスから調製された天然繊維によって引き起こされた。
【0058】
本発明の好ましい実施形態
本発明の好ましい実施形態は、発明の説明において提供される通りである。
図1(a)】
図1(b)】