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特許7210820フィルタのオンライン診断方法およびオンライン診断システム
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  • 特許-フィルタのオンライン診断方法およびオンライン診断システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】フィルタのオンライン診断方法およびオンライン診断システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 46/42 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
B01D46/42 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016114572
(22)【出願日】2016-06-08
(65)【公開番号】P2017217616
(43)【公開日】2017-12-14
【審査請求日】2019-02-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(72)【発明者】
【氏名】門野 貴行
(72)【発明者】
【氏名】池田 卓司
(72)【発明者】
【氏名】横田 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】佐野 義哉
(72)【発明者】
【氏名】壽 章夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】池渕 立
【審判官】羽鳥 友哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-227899(JP,A)
【文献】特開2004-257954(JP,A)
【文献】特開2003-286861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D46/00-46/54
F24F11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気調和装置に使用されるフィルタのオンライン診断方法であって、
前記フィルタの気体流入側と気体流出側との差圧を差圧センサで測定した差圧データと、前記フィルタ周囲の温度および湿度を温度センサおよび湿度センサでそれぞれ測定した温度データおよび湿度データとをオンラインで受信し、
前記差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データ、および前記フィルタの使用期間をデータ格納部に時系列的に蓄積記憶し、
前記差圧データが一時的に急上昇して管理上の差圧限界値を超えた場合に、測定された前記差圧データを、前記温度データおよび湿度データが標準状態で取得された標準データと比較して、イレギュラーと判定し、
前記フィルタの周囲の温度および湿度である変動要素に前記差圧データを補正し、
補正後の前記差圧データに基づき、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測し、この時期をフィルタの交換時期として表示または警告する、フィルタのオンライン診断方法。
【請求項2】
前記表示または警告がオンラインで行われる請求項1に記載のフィルタのオンライン診断方法。
【請求項3】
前記差圧データ、温度センサおよび湿度センサの各測定データに加えて、前記フィルタの使用地域における大気中の粉塵濃度の情報を蓄積記憶し、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測する請求項1または2に記載のフィルタのオンライン診断方法。
【請求項4】
空気調和装置に使用されるフィルタのオンライン診断システムであって、
前記フィルタの気体流入側と気体流出側との差圧を差圧センサで測定した差圧データと、フィルタ周囲の温度および湿度を温度センサおよび湿度センサでそれぞれ測定した温度データおよび湿度データとを出力する測定装置と、
前記測定装置からの差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データ、および前記フィルタの使用期間を蓄積記憶し、前記差圧データが一時的に急上昇して管理上の差圧限界値を超えた場合に、測定された前記差圧データを、前記温度データおよび湿度データが標準状態で取得された標準データと比較して、イレギュラーと判定し、前記フィルタの周囲の温度および湿度である変動要素に前記差圧データを補正し、補正後の前記差圧データに基づき、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測する診断装置と、
該診断装置で予測された時期を前記フィルタの交換時期として表示または警告する手段と、
を備えたフィルタのオンライン診断システム。
【請求項5】
前記差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データに加えて、前記フィルタの使用地域における大気中の粉塵濃度の情報を蓄積記憶し、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測する請求項4に記載のフィルタのオンライン診断システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタを適正な交換時期に交換可能とするフィルタのオンライン診断方法およびオンライン診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭や工場などで使用される空気調和装置のフィルタは、ダクト(ガス流路)の吸入口側または排出口側に、フィルタがケーシング(フィルタ枠)に収容されて接続されている。このようなフィルタユニットは使用していくことで粉塵や異物などが付着して目詰りをおこし、抵抗が増加して圧損値(圧力損失値)が上昇する。そのため、フィルタユニットに差圧計などの測定機器を設置し、測定された圧損値が設定された限界値に達した時点で、目視可能な検知器や警報機などにより作業者に通知し、フィルタの交換を行っていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、フィルタの近傍に、圧損を測定する差圧センサを設け、その差圧センサの測定結果に基づいてフィルタの汚れが検知された場合に、洗浄用給水設備や洗浄空間の区画機構等を作動させて、フィルタを自動洗浄するようにした自動再生型換気装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、フィルタに埋設した圧力センサと、この圧力センサの付近にトランスミッタを取り付けて、フィルターハウジング内の圧力を監視する装置が記載されている。
この装置では、フィルタが目詰まりすると流量が低下してフィルタの下流側圧力が相当分低下するので、経膜圧の変化率に基づいてフィルタの有効寿命を推定することができる。そのため、圧力サンプリングを連続ベースで行えば、フィルタの有効寿命の推定根拠となるとしている。また、この装置では、圧力センサが有線または無線でトランスミッタと接続される。記録された圧力測定値はトランスミッタを介してフィルターハウジングの外部に伝送され、オペレーターにより確認されるとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載のフィルタ装置では、雨や霧の日などには、フィルタに付着したゴミが吸湿し拡大することで、一時的に圧損値が急上昇して、警報機が誤作動する場合がある。すなわち、図4に符号A,Bで示すように、例えば高温高湿下では、差圧データが高くなり、符号Bのように、管理上の差圧限界値Xを超えることもあった。そのため、適正な交換時期(符号Cで示す日数)までにフィルタを交換することがあった。
【0006】
また、フィルタの使用箇所ごとに環境が違うため、圧損上昇の傾向は異なる。すなわち、フィルタの適正な残り寿命を算出するには、フィルタを取り外して試験機関で測定し、使用環境ごとに、最終圧損までの期間を算出するか、使用期間と圧損値を標準データと比較することで、残り寿命を算出しなければならず、現場では残り寿命の判定が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-301423号公報
【文献】特開2007-283297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、フィルタの残り寿命を明確にして、適正な交換時期で交換することができるフィルタのオンライン診断方法およびオンライン診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るフィルタのオンライン診断方法は、フィルタの気体流入側と気体流出側との差圧を差圧センサで測定した差圧データと、フィルタ周囲の温度および湿度を温度センサおよび湿度センサでそれぞれ測定した温度データおよび湿度データとをオンラインで受信し、前記差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データを収集し、収集した前記測定データおよび使用期間に基づいて、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測し、この時期をフィルタの交換時期として表示または警告するものである。
【0010】
本発明の他の実施形態に係るフィルタのオンライン診断方法は、フィルタの気体流入側と気体流出側との差圧を差圧センサで測定した差圧データと、フィルタ周囲の温度および湿度を温度センサおよび湿度センサでそれぞれ測定した温度データおよび湿度データとをオンラインで受信し、前記差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データをデータ格納部に時系列的に蓄積記憶し、該データ格納部に蓄積記憶された前記各測定データおよびフィルタの使用期間に基づいて、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測し、この時期をフィルタの交換時期として表示または警告するものである。
【0011】
上記フィルタのオンライン診断方法において、表示または警告がオンラインで行われるのがよい。
また、上記フィルタのオンライン診断方法において、差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データに加えて、前記フィルタの使用地域における大気中の粉塵濃度の情報に基づいて、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測するのがよい。
【0012】
本発明の一実施形態に係るフィルタのオンライン診断システムは、フィルタの気体流入側と気体流出側との差圧を差圧センサで測定した差圧データと、フィルタ周囲の温度および湿度を温度センサおよび湿度センサでそれぞれ測定した温度データおよび湿度データとを出力する測定装置と、前記測定装置からの差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データおよびフィルタの使用期間に基づいて、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測する診断装置と、該診断装置で予測された時期をフィルタの交換時期として表示または警告する手段と、を備える。
【0013】
上記フィルタのオンライン診断システムにおいて、差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データに加えて、前記フィルタの使用地域における大気中の粉塵濃度の情報に基づいて、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測するのがよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、差圧データ、温度センサおよび湿度センサの各測定データに基づいて、フィルタの差圧が管理上の差圧上限値に達する時期を予測し、この時期をフィルタの交換時期として表示または警告する。従って、フィルタの残り寿命が明確になり、適正な交換時期でフィルタを交換することができる
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る概略システム構成図である
図2】本発明の一実施形態における診断装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3】標準状態でのフィルタの使用期間と圧損の関係を示すグラフである。
図4】差圧データを補正しない通常のフィルタの使用期間と圧損の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1において、1はフィルタであり、導体、医薬品など高い空気清浄度を求められる生産工場の産業空調設備やビル・大規模商業施設などの一般空調設備に使用されるものである。フィルタ1は、ケーシング2内に交換可能に収容されている。
フィルタ1の近傍には、差圧センサ31、温度センサ32、湿度センサ33、および風速センサ34が設置されている。
【0017】
フィルタ1は、通過する空気(外気)等の気体をろ過するためのフィルタであり、空気中のゴミや異物などのエアロゾルを集塵する機能を持つ。
フィルタ1の形状や種類は特に限定されず、例えば、プレフィルタと、中性能フィルタまたは高性能フィルタとの組合せであってもよい。ケーシング2の形状は、フィルタ1を一枚以上収容可能であれば特に限定されない。このフィルタ1は、ケーシング2の側面に設置した開口部(図示せず)からケーシング2内に収容され、内部に設けた押圧手段、例えばカムクランプ(図示せず)を回転させるなどして着脱することができる。
【0018】
フィルタ1のケーシング2に備えられた差圧センサ31は、フィルタ1への気体流入側と気体流出側との差圧を測定するものである。差圧センサ31としては、例えば、ダイアフラム式、ベローズ式、ブルドン式、沈鐘式、リング式、分銅式のものなどの差圧計を使用することができる。
温度センサ32としては、例えば、熱電対、白金素子温度センサ、光ファイバ温度センサ、サーミスタ、電気抵抗の温度変化を利用する抵抗温度センサ、熱起電力を利用する熱電温度センサ、トランジスタのベース・エミッタ間電圧の温度による変化を利用したIC温度センサなどを使用することができる。
湿度センサ33としては、抵抗式あるいは容量式のものなどを使用することができる。
【0019】
その他にも、フィルタ1を通過する気体の風速を測定する風速センサ34が、フィルタ1の周囲に、さらに備えられている。風速や風圧が低下すると、フィルタ1が異物などにより目詰まりしていることを判別できる。風速センサ34としては、例えば、風速計、風圧計などを使用することができる。
【0020】
また、これらの測定データに加えて、GPS(全地球測位システム)等によって得られるフィルタ1の位置情報に基づいて、フィルタ1を使用している地域における公開された大気中の粉塵濃度の情報を入手し、この粉塵濃度のデータも考慮するのが好ましい。粉塵濃度の高い地域では、フィルタ1の交換時期が短くなり、逆に粉塵濃度の低い地域では、フィルタ1の交換時期が長くなる傾向がある。


【0021】
フィルタ1の周囲で測定された差圧、温度、湿度、風速などの測定データは、測定装置4に送られる。
【0022】
測定装置4では、所定時間毎に、伝送された差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データをWiFi又はBluetooth(登録商標)等の無線通信で受信装置5に送信する。受信装置5は各測定データをインターネット、ローカルエリアネットワーク等の任意のネットワーク6を介してサポートセンター7へオンラインで送信する。受信装置5は携帯端末でもよい。受信装置5が携帯端末でGPS(全地球測位システム)を有する場合は、各測定データと共にGPSデータを任意のネットワーク6を介してサポートセンター7へオンラインで送信する。
サポートセンター7は、オンライン診断装置8を有している。このオンライン診断装置8は、測定装置4から送信された差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データを中央演算装置9で受信し、受信した各データをデータ格納部10(データロガ)に時系列的に蓄積記憶する。各測定データの最初の測定時刻を測定フィルタの使用開始時刻とし、使用期間を蓄積記録する。
【0023】
中央演算装置9では、図2に示すフィルタ1の診断処理を実行する。診断結果は、予測されるフィルタ1の交換時期を含んでおり、表示装置11および警告装置12にて空気調和装置の管理者に連絡される。表示装置11および警告装置12は、いずれか一方のみであってもよい。
【0024】
表示装置11としては特に限定されず、例えば、電光板や、表示ランプ、あるいはパソコン上または携帯端末などで管理するソフトウェアなどであってもよい。前記携帯端末は受信装置5と同じものでもよい。
警告装置12としては、例えば、光による警告灯や、音声や音による警報機などが挙げられる。この警告部8は表示装置11と併用して使用してもよい。
これらの表示装置11や警告装置12は、フィルタ1やケーシング2の近傍に設置してもよいし、外部に設置してもよい。
【0025】
次に、フィルタ1の診断処理手順を図2に基づいて説明する。先ず、ステップS1で、測定装置4から差圧データ、温度データおよび湿度データの各測定データ(以下、単に測定データということがある)を受信したか否かを判定する。測定データを受信したときにはステップS2に移行する。
【0026】
ステップS2では、受信した測定データを各種データ毎にデータ格納部10に時系列的に格納し、次いでステップS3に移行して、一定期間の測定データを収集したか否かを判定し、一定期間の分析データの収集が完了していないときには前記ステップS2に戻り、一定期間の測定データの収集が完了したときには、ステップS4に移行する。
【0027】
ステップS4では、測定データおよびフィルタ1の使用期間に基づいて、測定されたフィルタ1の差圧値をフィルタ1の周囲の温度、湿度、風圧(風速)等の変動要素にて補正する。
すなわち、例えば、使用期間中、一時的にフィルタ1が高温高湿環境下におかれた場合、図4に符号A,Bで示すように、差圧データ(圧損値)が高くなり、符号Bのように、管理上の差圧限界値Xを超えることもある。
【0028】
このような場合、図3に示すような標準データ(温度、湿度、風圧(風速) 等が標準状態で取得された差圧データ)と比較することで、フィルタ1に付着したゴミや異物が雨や霧などによって吸湿し拡大して一時的に急上昇する圧損値(差圧データ)をイレギュラーと判定する。
【0029】
次に、ステップS5において、補正後の差圧データに基づき、図3に符号Dで示す管理上の差圧限界値Xに到達する時期を予測する。
【0030】
ステップS6において、空気調和装置の管理者に対して、フィルタ1の交換時期を連絡する。管理者への連絡は、表示装置11や警告装置12にて行う。
【0031】
これにより、管理者は、フィルタ1の残り寿命を明確に把握することができるので、適正な交換時期でフィルタ1を交換することができる
【符号の説明】
【0032】
1 フィルタ
2 ケーシング
4 測定装置
5 監視装置
6 ネットワーク
7 サポートセンター
8 オンライン診断装置
9 中央演算装置
10 データ格納部
11 表示装置
12 警告装置
31 差圧センサ
32 温度センサ
33 湿度センサ
34 風速センサ
図1
図2
図3
図4