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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】陽圧缶
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/16 20060101AFI20230117BHJP
   B65D 1/42 20060101ALI20230117BHJP
   B65D 25/20 20060101ALI20230117BHJP
   B21D 51/26 20060101ALN20230117BHJP
【FI】
B65D1/16 111
B65D1/42
B65D25/20 N
B21D51/26 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019008808
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2019131293
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018013794
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018014035
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】眞仁田 清澄
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-155595(JP,A)
【文献】特開2016-050040(JP,A)
【文献】特開平11-208634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/16-1/42
B65D 8/04
B65D 25/20
B21D 51/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ合金製の絞りしごき缶であって、缶胴を有する缶本体と、該缶本体を陽圧状態で密閉する缶蓋とを備え、前記缶胴の少なくとも一部に凸状の境界稜線によって区画された多数の単位パネルで構成される多面体壁を有し、前記単位パネルは、自由状態では缶胴の内方に窪んだ形状で、前記缶胴に作用する内圧によって窪みが小さくなる方向に変形し、缶蓋の開封時に元の形状に復元し、復元する際に復元音を発する構成の陽圧缶において、
前記缶胴の缶胴径が66.5~67mmで、前記単位パネルの最大デプス変化量が0.4mm未満の単位パネルのみで構成されており、前記単位パネルの最大デプス変化量の平均値が0.15mm以上で0.4mm未満となるように構成され
前記最大デプス変化量は、内圧作用状態および内圧開放状態における前記パネルデプスの変化量で定義されていることを特徴とする陽圧缶。
【請求項2】
前記陽圧缶の開封時の前記復元音の音圧レベルを、前記缶胴から40cm離れた位置において、72dB以下に設定した請求項1に記載の陽圧缶。
【請求項3】
前記多面体壁は、缶胴の面積の75%以下とする請求項1または2に記載の陽圧缶。
【請求項4】
前記単位パネルは前記境界稜線としての斜め稜線によって区画される菱形形状で、前記缶胴の中心軸線を通る中心面上に位置する2つの頂点と、中心面に対して対称位置に位置する2つの頂点の計4つの頂点を有し、内圧が加わらない自由状態で、前記中心面に対して対称位置に位置する頂点を結ぶ谷折りの横稜線によって、前記缶胴の内方に屈曲して窪んだ構成となっており、前記最大デプス変化量は、前記横稜線の中点における単位パネルデプスの変化量とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の陽圧缶。
【請求項5】
前記多面体壁は、複数の前記単位パネルが前記缶胴の中心軸線と平行方向に並んだ単位パネル列が、前記缶胴の周方向に全周的に密に配列された構成で、前記単位パネルの横稜線を通る断面の角数が、16角の範囲に設定されている請求項に記載の陽圧缶。
【請求項6】
前記単位パネルの面積は、80mm2以上で120mm2以下に設定されている請求項に記載の陽圧缶。
【請求項7】
前記単位パネルは、前記缶胴の中心軸線と平行方向の断面形状が円弧状に窪んだ形状となっている請求項1乃至のいずれか1項に記載の陽圧缶。
【請求項8】
最大デプス変化量は、開封前の内圧が20~300kPaにおける最大デプス変化量である請求項1乃至のいずれか1項に記載の陽圧缶。
【請求項9】
前記開封前の内圧が120~150kPaである請求項に記載の陽圧缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、ビール、酎ハイ等の炭酸系飲料用の缶、内容物の酸化を防ぐ不活性ガスが封入された缶等、缶胴に内圧が作用する陽圧缶に関し、特に、缶胴に複数の単位パネルによって構成される多面体壁を有し、密封状態では単位パネルが内圧によって外側に膨らみ、開封時に元の形状に復元し、復元する際に復元音を発する陽圧缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の陽圧缶としては、たとえば、特許文献1に記載のような陽圧缶が知られている。
この陽圧缶は、缶胴を有する缶本体と、缶本体を陽圧状態で密閉する缶蓋とを備え、缶胴の少なくとも一部に多面体壁を有し、多面体壁は凸条の境界稜線で区画された折り構造の多数の単位パネルで構成されている。単位パネルは、缶胴を部分的に窪ませた形状で、缶胴に作用する内圧によって窪みが小さくなる方向に弾性変形し、缶蓋の開封時に元の窪んだ形状に復元するようになっている。
このように、内容物を密封した状態では、内圧によって単位パネルの窪みによる凹凸が小さく、開封すると、窪み形状が復元し、缶胴の剛性を向上させると共に、視覚的に使用者に強い印象を与え、商品価値を高めるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3915450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は、この多面体壁を有する陽圧缶の商品価値をさらに高めるべく、鋭意研究した結果、開封時に単位パネルの形状が元の形状に復元する際に聞こえる復元音に着目した。
従来の陽圧缶については、プルタブによる缶蓋の引き裂き音と、ガスが抜ける際のガス放出音が大きく聞こえ、その後に復元音が聞こえている。この復元音は、複数回聞こえることもあり、注意すると気になる音であった。
本発明の目的は、多面体壁を構成する単位パネルの復元音を気にならない程度に小さくし得る陽圧缶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、
アルミ合金製の絞りしごき缶であって、缶胴を有する缶本体と、該缶本体を陽圧状態で密閉する缶蓋とを備え、前記缶胴の少なくとも一部に凸状の境界稜線によって区画された多数の単位パネルで構成される多面体壁を有し、前記単位パネルは、自由状態では缶胴の内方に窪んだ形状で、前記缶胴に作用する内圧によって窪みが小さくなる方向に変形し、缶蓋の開封時に元の形状に復元し、復元する際に復元音を発する構成の陽圧缶において、
前記缶胴の缶胴径が66.5~67mmで、前記単位パネルの最大デプス変化量が0.4mm未満の単位パネルのみで構成されており、前記単位パネルの最大デプス変化量の平均値が0.15mm以上で0.4mm未満となるように構成され、
前記最大デプス変化量は、内圧作用状態および内圧開放状態における前記パネルデプスの変化量で定義されていることを特徴とする。
単位パネルは、全周が境界稜線で囲まれている必要はなく、単位パネルの少なくとも一部が境界稜線で区画されている場合も含まれる。
大デプス変化量の最大値を基準とするとばらつきが大きくなるので、単位パネルの最大デプス変化量の平均値をとることを検討した。しかし、全ての単位パネルが完全に復元されるわけではなく、一部の単位パネルが復元しない場合もあり、単純に平均値をとっても明確にならないことがわかった。検討の結果、最大デプス変化量が0.4mm未満となる単位パネルを除外した平均値とすることにより、復元しない単位パネルの影響を除外することができ、多面体壁の復元形態を、正確に評価することができることがわかった。
このように平均値を用いることで、最大デプス変化量を安定して評価でき、一定以上の安定した復元音が得られる陽圧缶を実現できる。
大デプス変化量が0.4mm以上の単位パネルが無い場合には、復元しない単位パネルが少なく、全ての単位パネルの最大デプス変化量の平均値で評価するものとする。平均値は、0.4mmを超えることは無いので、0.4mm未満となるように構成される。単位パネルの最大デプス変化量の平均値を0.4mm未満とする場合に、0.15mm以上で0.4mm未満となるように設定する。
この範囲では、音が聞こえるが、気にならない程度に小さくなる。
【0006】
また、本発明は次のように構成することができる。
)前記陽圧缶の開封時の前記復元音の音圧レベルを、前記缶胴から40cm離れた位置において、72dB以下に設定する。
ガス放出音は70dB程度であり、70dB程度、72dB以下であれば、気にならないレベルとなる。好ましくは70dB以下に設定する。
)前記多面体壁は、缶胴の面積の75%以下とする。
)単位パネルは前記境界稜線としての斜め稜線によって区画される菱形形状で、前記缶胴の中心軸線を通る中心面上に位置する2つの頂点と、中心面に対して対称位置に位置する2つの頂点の計4つの頂点を有し、内圧が加わらない自由状態で、前記中心面に対して対称位置に位置する頂点を結ぶ谷折りの横稜線によって、前記缶胴の内方に屈曲して窪んだ構成となっており、前記最大変化デプス量は、前記横稜線の中点における単位パネルデプスの変化量とする。
このようにすれば、単位パネルの境界稜線の剛性が高く、内圧で中央が膨らむように変形していた横稜線が一気に元の形状に戻るものの、最大デプス変化量が小さいので、復元音を低減することができる。なお、単位パネルが完全に弾性復元する場合だけでなく、一部塑性変形して、完全には元の形状に戻らない場合も含まれる。
角より小さくなると、単位パネルの面積が大きくなり、最大デプス変化量が大きくなって、復元音が気になる大きさとなる。
一方、16角より大きいと、単位パネルの大きさが小さくなるために、成形が困難となる。よって16角とすることが好適である。
)単位パネルの面積は、80mm以上で120mm以下に設定される。
80mmより小さいと、パネル成形が困難となり、120mmより大きいと、最大デプス変化量は大きくなり、復元音が大きくなる。
)単位パネルは、前記缶胴の中心軸線と平行方向の断面形状が円弧状に窪んだ形状となっている。
円弧状の場合単位パネルが変形しやすいが、最大デプス変化量の平均値を0.15mm以上で0.4mm未満とすれば、復元音を気にならないレベルまで小さくすることができる。
)最大デプス変化量は、開封前の内圧が20~300kPaにおける最大デプス変化量、好適には120~150kPaとする。
内圧が高くなると、内圧作用状態のパネルデプスが浅くなり、内圧開放状態のパネルデプスとの差が大きくなり、結果的に最大デプス変化量は大きくなる。
本発明は、最大デプス変化量と復元音の間に一定の関係があることを見出したもので、内圧の好適な範囲としては、内圧作用時に、単位パネルの窪みが円筒に近くなるまで十分に変形させ、しかも塑性変形をできるだけ生じさせず、内圧開放時に元の窪み形状まで復帰させる程度の範囲であり、最大デプス変化量測定時の好ましい内圧の範囲としては20~300kPa、より好ましい範囲としては、120~150kPaとする。
この内圧の条件設定は、陽圧缶の使用範囲を制限するものではなく測定時の条件を設定するものである。たとえば、120kPaより低圧、あるいは150kPaより高圧で使用されているとしても、この圧力範囲で測定したときに、最大デプス変化量が請求項に記載の範囲となるものを含むものとする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、多面体壁を構成する単位パネルの復元音を気にならない程度に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る陽圧缶を示すもので、(A)は内圧作用状態の正面図、(B)は内圧開放状態の正面図、(C)は(B)のC部の拡大概略斜視図、(D)は(B)のD-D線断面図である。
図2図2は、図1の陽圧缶の単位パネルを示すもので、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
図3図3は、本発明の実施の形態2に係る陽圧缶を示すもので、(A)は内圧作用状態の正面図、(B)は内圧解放状態の正面図、(C)は(B)の一つの波打ち曲面を示す図、(D)は(C)のD-D線断面図、(E)は(B)のE―E線断面図である。
図4図4は、図3の陽圧缶の単位パネルを示すもので、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
図5図5(A)は、本発明の陽圧缶の最大デプス変化量の測定方法を示す図、(B)は陽圧缶の復元音の測定方法を示す図である。
図6図6は、単位パネルの最大デプス変化量の最大値と復元音の音圧レベルの関係を示すグラフである。
図7図7は、最大デプス変化量が0.4mm未満の単位パネルを除外した最大デプス変化量の平均値と復元音の関係を示すグラフである。
図8図8(A)は全ての単位パネルの最大デプス変化量の平均値と復元音の関係、(B)は最大デプス変化量が0.3mm未満の単位パネルを除外した平均値と復元音の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る陽圧缶を示すもので、図1(A)は内圧作用状態、図1(B)は内圧開放状態を示している。
陽圧缶1は、缶胴21を有する有底筒状の缶本体2と、缶本体2を陽圧状態で密閉する缶蓋3とを備え、缶胴21の少なくとも一部に多面体壁4を有している。缶本体2は、ストレートに延びる円筒形状の缶胴21と、缶胴21の上端の径を絞ったネック部22と、底部23とを有する構成で、ネック部22上端の口部に缶蓋3が巻締め固定されている。
陽圧缶1は、アルミ合金製の絞りしごき缶であり、一般的に、その容量は160ml~500ml、5℃における缶内圧が20~300[kPa]、缶胴21の板厚が0.075~0.135[mm]、缶胴径が66.5~67[mm](後述試験条件の缶胴径)、缶高さが90~170[mm]の範囲で使用されている。
【0010】
多面体壁4は、缶胴21の周長は変化させずに折り構造によって凹凸形状としたもので、斜め稜線51の折り目で区画された多数の単位パネル5で構成されている。すなわち、所定数の単位パネル5が缶胴21の中心軸線Nと平行方向(以下、単に軸方向という)に配列されてパネル列50を構成し、このパネル列50が缶胴21の周方向に全周的に配列された構成となっている。互いに隣り合うパネル列50の単位パネル5の軸方向の位相は、単位パネル5の軸方向の長さの半分だけずらして配列され、単位パネル5が軸方向及び周方向に密に配列されている。
多面体壁4は、この例では、缶胴21の軸方向中途部分に、帯状に設けられ、多面体壁4の上部及び下部領域は、凹凸の無い円筒面となっている。多面体壁4の面積は、図示例では缶胴に対して50%程度となっているが、復元音を考慮し、缶胴の75%以下とすることが、好適である。
【0011】
図1(C)は、図1(B)のC部拡大図である。
単位パネル5は、内圧が作用しない自由状態では、缶胴21の中心軸線Nと直交する面上に位置する谷折りの横稜線52を境界として缶内部に向かって、くの字状に屈曲するように窪んでいる。隣り合うパネル列50は、単位パネル5の長さの半分だけ軸方向にずれているので、周方向に一つ置きに位置するパネル列50の単位パネル5は、軸方向に同一位相にあり、横稜線52が、共通する頂点53を介してつながっている。したがって、単位パネル5の横稜線52の位置で、缶胴21の中心軸線Nと直交方向に切断した断面は、図1(D)に示すように、正多角形状となる。図示例では14角形状となっているが、14角形に限定されない。なお、頂点53の角は、面取りされている。また、横稜線52については、図示例では直線状に記載しているが、内圧解放状態及び空缶状態で、±0.5mm程度、缶内方に凸の円弧状、あるいは缶外方に凸の円弧状等の曲線形状となっていてもよい。
内圧作用状態では、個々の単位パネル5は、缶胴21に作用する内圧によって、図1(C)の二点鎖線で示すように、横稜線52が缶胴の円筒面に倣った円弧状に変形する。斜め稜線51についても、缶胴21の円筒面に倣うように変形するが、図1(C)では、簡易的に直線として記載している。
そして、缶蓋3のタブ6を引き起こして開封すると、開封部から内部のガスが放出されてガス放出音が生じると共に、個々の単位パネル5の斜め稜線51及び横稜線52が直線
形状に瞬間的に復元し、凹凸形状が現れると共に、その衝撃によって復元音が発生する。
復元音の大きさを決定する要因は、単位パネル5の形状、面積、板厚等、種々の要因が考えられるが、本発明者等は、鋭意検討した結果、単位パネル5の形状のデプスの変化量である最大デプス変化量と相関関係があることを見出した。
【0012】
以下、図2を参照して、単位パネル5の最大デプス変化量について説明する。
図2(A)は、単位パネル5の正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。図2(B),(C)において、破線は内圧作用状態、実線が内圧解放時の復元状態を示している。
この実施形態1における単位パネル5のパネルデプスは、頂点53aと頂点53cを結ぶ線から、横稜線52の中点mまでの、缶胴21の中心軸線Nと直交方向の距離であり、最大デプス変化量dmaxは、内圧作用状態および内圧開放状態における前記パネルデプスの変化量である。
単位パネル5は、図2(A)に示すように、4つの斜め稜線51によって区画される菱形形状で、4つの斜め稜線51をフレームとするドラムのように振動し、この振動によって空気が振動して復元音が発現する。
この単位パネル5は、缶胴21の中心軸線Nを通る中心面M上に位置する2つの頂点53a、53cと、中心面Mに対して対称位置に位置する2つの頂点53b、53dの計4つの頂点を有している。これら4つの頂点53a~53dは、缶胴21を構成する円筒面とほぼ一致する仮想円筒面Y(図2(B)中、二点鎖線で示す)上に位置し、内圧が加わらない自由状態で、中心面Mに対して対称位置に位置する頂点53b、53dを結ぶ谷折りの横稜線52によって、図2(B)の実線で示すように、軸方向に缶胴21の内方にくの字状に屈曲して窪んだ構成となっている。
内圧作用状態では、図2(B)に破線で示すように、上方三角形部分5Aと下方三角形部分5Bが、軸方向に延ばされるように変形し、横稜線52の中点mが、上下の頂点53a,53cを結ぶ線に近い位置まで変位する。横断面で見ると、図2(C)に破線で示すように、円弧状に変形している。
一方、内圧が開放されると、図2(B)に実線で示すように、単位パネル5は、くの字形状に復元し、横稜線52の中点mは最深部に戻る。横断面で見ると、図2(C)に示すように、破線の円弧状から実線の直線状に復元する。
この中点mが単位パネル5の最も大きく変位する部分で、この中点mにおけるパネルデプスの変化量を最大デプス変化量dmaxとする。
【0013】
後述する評価試験の測定結果(図6)より、最大デプス変化量dmaxの最大値を0.54mm以下とすることによって、ガス放出音の後に聞こえる復元音を、ガス放出音に近い気にならない音のレベルまで小さくすることができる。音圧レベルとしては、缶胴21から40cm離れた位置において、75dBより小さい範囲、さらに70dB程度以下にすることができる。
また、単位パネルの最大デプス変化量dmaxの平均値で評価する場合には、後述する評価試験の測定結果(図7図8)より、最大デプス変化量dmaxが0.4mm以上となる単位パネルについての最大デプス変化量dmaxの平均値を0.45mm以下とする。
本発明は、最大デプス変化量dmaxが0.4mm以上となる単位パネルが無い場合には、最大デプス変化量dmaxの平均値が0.4mm未満とする。特に、最大デプス変化量dmaxの平均値が0.4mm未満で0.15mm以上とすれば、音が聞こえるが、気にならない程度に小さくなる。
さらに、単位パネルの最大デプス変化量の平均値を0.15mm未満としておけば、完全に聞こえないレベルとすることができる。
【0014】
[多面体壁4の角数と最大デプス変化量dmaxの関係]
最大デプス変化量dmaxは、単位パネル5が小さいほど、小さくなる傾向にある。単位パネル5の大きさは、缶胴21の胴径が同じであれば、図1(C)に示した横断面の角数によって幾何学的に決まり、角数が多いほど最大デプス変化量dmaxが小さくなる。逆に角数が少ないほど、単位パネル5が大きくなって変形しやすく、最大デプス変化量dmaxが大きくなる。たとえば、缶胴径が50~70mmの範囲の場合、14角から16角とすることが好適である。断面角数が16角より大きくなると、缶胴径Dが50~70mmの範囲ではパネル成形が困難となる。14角から16角程度に設定すれば、最大デプス変化量dmaxの最大値を0.54mm以下、あるいは最大デプス変化量dmaxが0.4mm以上の単位パネルの最大デプス変化量dmaxの平均値が、0.45mm以下となるように構成することができる。また、本発明の実施例である16角程度とすれば、最大デプス変化量dmaxの平均値を0.15mm程度に設定し0.15mm未満あるいは0.15mm以上となるように構成することできる。
また、横稜線52の長さが幾何学的に決まっても、パネル面積は、縦寸法で変わってくるので、14角から16角で、80mm以上で120mm以下に設定することが好適である。80mmより小さいと、パネル成形が困難となり、120mmより大きいと、最大デプス変化量は大きくなり、復元音が大きくなる。
ここで、単位パネル5の面積は、平面的に展開した状態の面積、すなわち、単位パネル5の上方三角形部分5Aと下方三角形部分5Bの面積を足し合わせた面積である。
【0015】
[最大デプス変化量dmaxの調整]
最大デプス変化量dmaxは、たとえば、空缶時のパネルデプスを調整することによって調整可能である。横稜線52を、缶の内側あるいは外側に円弧状に湾曲させることで空缶時のパネルデプスを調整することができる。すなわち、缶の内側に円弧状に湾曲させれば、最大デプス変化量dmaxは大きくなり、缶の外側に円弧状に湾曲させれば最大デプス変化量dmaxは小さくなる。
【0016】
[実施形態2]
次に、図3及び図4を参照して、本発明の実施形態2について説明する。以下の説明では、上記実施形態と異なる点についてのみ説明するものとし、同一の部分については同一の符号を付して説明を省略する。
図3は、実施形態2に係る陽圧缶を示すもので、図1と同様に、図3(A)は内圧作用状態を示し、図3(B)は内圧解放状態を示している。
実施形態1では、単位パネル5が、直線的な横稜線52の折り目でくの字状に窪んだパネルによって構成されているが、実施形態2では、単位パネル25の、缶胴21の中心軸線Nと平行方向の断面形状が円弧状に窪んだパネル構成となっている。
【0017】
多面体壁24には、軸方向に山部26と谷部27が交互に形成される波打ち曲面30が、周方向に複数形成されている。この波打ち曲面30は、図1(C),(D)に示すように、缶胴21の中心軸線Nを通る中心面Mに対して対称形状の波形稜線251,252で区画されており、波形稜線251,252間の間隔の狭い部分が波打ち曲面30の山部26となり、間隔の広い部分が谷部27となっている。単位パネル25は、波打ち曲面30の一つの山部26の頂部26aから谷部27を経て次の山部26の頂部26aまでの領域で、山部26の頂部26aによって、上下の単位パネル25が区分される。すなわち、この実施形態2では、波形稜線251,252によって単位パネル25の全周が画定されるのではなく、一部は開いた構成で、山部26の頂部26aによって区分されるようになっている。この例では、山部26で区分されているが、波形稜線251,252の間隔が狭い部分が接触していてもよく、その場合には全周が境界稜線によって区画される。
互いに隣り合う波打ち曲面30,30の単位パネル25の軸方向の位相は、単位パネルの軸方向長さの半分だけずれており、単位パネル25が軸方向及び周方向に密に配列され
ている。
【0018】
波打ち曲面30の、缶胴21の中心軸線Nと直交方向の断面はどの位置でも直線状で、たとえば、山部26の頂部26aの位置で缶胴21の中心軸線Nと直交方向に切断した断面は、図3(E)に示すように、山部26の頂部26aの部分が狭く、単位パネル25の中間位置が広い多角形状となっている。図示例では、山部26を挟んで単位パネル25が12面形成されているが、12面に限定されない。また、波打ち曲面30の、缶胴21の中心軸線Nと直交方向の断面は、後述する[最大デプス変化量dmaxの調整]にあるように、谷部27における断面を缶の内側あるいは外側に円弧状に湾曲させる場合もあり、直線状に限定されない。
多面体壁4は、内圧作用状態では、図3(A)に示すように、各波打ち曲面30が軸方向に直線的に変形し、全体として凹凸の無い円筒面となる。各単位パネル25について見ると、水平断面において、円弧状に変形し、窪みがなくなる。そして、缶蓋3の開封時に、図3(B)に示すように、各単位パネル25は元の形状に復元し、復元する際に復元音を発する構成となっている。
この実施形態2においても、復元音は、実施形態1と同様に、単位パネル25の最大デプス変化量と相関関係がある。
【0019】
以下、図4を参照して、単位パネル25の最大デプス変化量dmaxについて説明する。
図4(A)は、単位パネル25の正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。図2と同様に、図4(B),(C)において、破線は内圧作用状態、実線が内圧解放時の復元状態を示している。
この実施形態2における単位パネル5のパネルデプスは、上下の2つの頂部26aを結ぶ線から、パネル中心m2までの、缶胴21の中心軸線Nと直交方向の距離であり、最大デプス変化量dmaxは、内圧作用状態および内圧開放状態における前記パネルデプスの変化量である。
単位パネル5は、図4(A)に示すように、波打ち曲面30の一つの山部26の頂部26aから谷部27を経て次の山部26の頂部26aまでの領域で、互いに交差しない一対の波形稜線251,252によって区画されている。
波形稜線251,252は、軸方向に、凹円弧稜線251b、252bと凸円弧稜線251a,252aが交互に繰り返し形成されるもので、中心面Mに対して、互いの凹円弧稜線251b、252bと凸円弧稜線251a,252aが対称的に対向している。谷部27の領域では、凹円弧稜線251b,252bが対向して樽形状に、上下の山部26は、凸円弧稜線251a,252aの頂点a1、a2までの部分が対向し、徐々に幅狭になる形状となっている。
この凸円弧稜線251a,252aの頂点a1,a2は、波打ち曲面30の山部26の頂部26aに位置するもので、単位パネル25の上下に折り目となる稜線はなく、山部26の頂部26aで区分されている。また、凹円弧稜線251b,252bの最大幅となる頂点b1,b2の位置は、隣接する単位パネル25の山部26の頂部26aが位置しており、単位パネル25の凹円弧稜線251b,252bの頂点b1,b2と、凸円弧稜線251a,252aの頂点a1,a2は、缶胴21の円筒面とほぼ一致する一つの仮想円筒面上に位置している。
単位パネル25のパネル中心m2は、中心面M上であって、最大幅となる凹円弧稜線251b,252bの頂点b1,b2を結ぶ仮想横線Xとの交点であり、単位パネル25を構成する波打ち曲面30の谷部27の、仮想円筒面からの最深部である。また、このパネル中心m2は、上下の山部26の頂部26a,26aの中間位置でもある。
【0020】
パネル中心m2は、図4(B)の実線で示すように、缶胴21の内方に向かって円弧状に窪んだ形状となっている。内圧作用状態では、図4(B)に破線で示すように、円弧
状に窪んだ単位パネル25が,缶胴21の中心軸線Nと平行に延ばされるように変形し、パネル中心m2が、上下の山部26の頂部26a,26aを結ぶ線に近い位置まで変位する。横断面で見ると、図4(C)に破線で示すように、円弧状に変形している。
一方、内圧が開放されると、図4(B)に実線で示すように、単位パネル5は、円弧形状に復元し、パネル中心m2は最深部に戻る。横断面で見ると、図4(C)に示すように、破線の円弧状から実線の直線状に復元する。
このパネル中心m2が単位パネル25の最も大きく変位する部分であり、このパネル中心m2内圧作用状態および内圧開放状態における前記パネルデプスの変化量が、最大デプス変化量dmaxであり、最大デプス変化量dmaxの最大値を0.54mm以下に設定すれば、復元音はガス放出音より十分に低い音量とすることができる。円弧状のパネルの場合には、復元しない単位パネルが少ないので、最大デプス変化量の平均値が、0.4mm未満、少なくとも0.15mm以下まで低くすれば、十分に低い音量となる。
【0021】
[最大デプス変化量dmaxの調整]
本実施形態2についても実施形態1と同様に、最大デプス変化量dmaxは、たとえば、空缶時のパネルデプスを調整することによって調整可能である。波打ち曲面30の、缶胴21の中心軸線Nと直交方向の断面はどの位置でも直線状となっているが、谷部27における断面を缶の内側あるいは外側に円弧状に湾曲させることで空缶時のパネルデプスを調整することができる。すなわち、缶の内側に円弧状に湾曲させれば、最大デプス変化量dmaxは大きくなり、缶の外側に円弧状に湾曲させれば最大デプス変化量dmaxを小さくなる。断面を缶の内側に湾曲させた場合は、内圧作用状態でのパネル中心m2は、上下の2つの頂部26aを結ぶ線よりも外側の位置まで変位する場合もある。
【0022】
[評価試験]
以下に、復元音の評価試験について説明する。
評価試験は、単位パネルが菱形形状の次のサンプルを用意した。サンプル1~6が比較例、サンプル7が本発明のサンプルである。さらにサンプル8として、実施形態2と同一形態の単位パネルが円弧形状のサンプルを用意した。
(サンプル1)角数:13角、パネル個数:91個、空缶デプス:0.81mm、単位パネル面積:126mm、多面体壁面積:缶胴の68%
(サンプル2)角数:13角、パネル個数:91個、空缶デプス:0.85mm、単位パネル面積:126mm、多面体壁面積:缶胴の68%
(サンプル3)角数:13角、パネル個数:91個、空缶デプス:0.89mm、単位パネル面積:126mm、多面体壁面積:缶胴の68%
(サンプル4)角数:13角、パネル個数:91個、空缶デプス:0.92mm、単位パネル面積:126mm、多面体壁面積:缶胴の68%
(サンプル5)角数:11角、パネル個数:66個、空缶デプス:1.38mm、単位パネル面積:177mm、多面体壁面積:缶胴の70%
(サンプル6)角数:11角、パネル個数:66個、空缶デプス:1.45mm、単位パネル面積:177mm、多面体壁面積:缶胴の70%
(サンプル7)角数:16角、パネル個数:144個、空缶デプス:0.83mm、単位パネル面積:83mm、多面体壁面積:缶胴の70%
(サンプル8)波打ち曲面数:26面、単位パネル面積:109mm、多面体壁面積:缶胴の70%、最大デプス変化量が大きくなるようにパネルデプスを調整。波打ち曲面数は高さが半位相ずれた面も1面と数える。
(試験条件)
評価試験の条件は、次の通りである。
・温度:5℃保管(液温は6.5~8℃)、
・缶内圧:120~150kPa
・缶胴の板厚0.092~0.122mm
・缶胴径:66.5~67mm
・缶高さ:121.8~122.2mm
・内容量:350ml
(試験方法)
最大デプス変化量dmaxは、内圧作用状態でのパネルデプスを測定し、次に内圧開放状態でのパネルデプスを測定し、その差を計測して求める。パネルデプスの測定方法は、図5(A)に示すように、陽圧缶1のボトム側をバキュームにより水平に保持し、デジマチックインジゲータ100(「デジマチック」は「株式会社ミツトヨ」の登録商標)の測定子101を、垂直に頂点53に当ててその高さをゼロ点とし、陽圧缶1を中心軸線N方向にスライドさせ、デジマチックインジゲータ100を横稜線53の中点mの位置に合わせ、測定子101を横稜線53の中点mに当てて高さを読み取って求める。
デジマチックインジケータ100は、水平の台上に垂直に立設されるスタンド102に固定される支持腕103に支持され、姿勢を垂直に保持される。一方、スタンド102のデジマチックインジケータ100の下方位置に、陽圧缶1を保持し、陽圧缶1の中心軸線Nに沿って水平に移動させる水平移動機構104が設けられている。水平移動機構104は、陽圧缶1の口部を保持する保持部105と、保持部105を水平に移動させるシリンダ機構や送りねじ機構等の伸縮部106とを備えた構成となっている。
パネルデプスは全ての単位パネル5で求め、各単位パネル5の内圧作用状態および内圧開放状態でのパネルデプスの差を最大デプス変化量dmaxとし、その最大値、さらに各単位パネルの最大デプス変化量dmaxの平均値を算出した。平均値は、最大デプス変化量dmaxが0.4mm未満の単位パネルを除いた単位パネルについての最大デプス変化量の平均値と、最大デプス変化量dmaxが0.3mm未満の単位パネルを除いた単位パネルについての最大デプス変化量の平均値と、最大デプス変化量dmaxの寸法によって単位パネルを除外しないで単位パネル全てについて求めた平均値についても算出している。各サンプルは3缶ずつで、最大デプス変化量の最大値については、最大値の3缶の平均値を(ave)、最大値を(max)、最小値を(min)としている。また、各単位パネルの最大デプス変化量dmaxの平均値については、測定数3缶に対する平均値を(ave)、最大値を(max)、最小値を(min)としている。デジマチックインジゲータは、「株式会社ミツトヨ」製、型番ID-C1012、測定子101は、「株式会社ミツトヨ」製、型番137413を用いた。
一方、復元音の測定は、図5(B)に示すように、缶から40cm離した位置で騒音計120を設置し、音の大きさを測定した。この40cmは、マイク121と陽圧缶1と間の距離Lである。40cmの意味は、実際の開口時の缶と耳のおおよその距離を意味している。また、騒音計120は、床置きとし、台122によって、マイク121の高さを、床から60cm程度の高さに保持した。測定値は時間軸の波形データとして得られる。陽圧缶1を開口すると、始めにプルタブによる缶蓋の引き裂き音が発生し、次いでガス放出音、復元音の順に発生するので、復元音の部分の波形データの最大値を復元音の音圧レベルとしている。周波数重み付け特性はA特性で、時間重み付け特性はFとしている。測定数は3缶で、復元音の平均値(ave)、最大値(max)、最小値(min)を求めた。
騒音計120としては、「リオン株式会社」製、型番NL-42を用い、マイク121の先端にはウインドスクリーンWS-10を取り付けている。
【0023】
(測定結果)
測定結果は、表1に示す通りである。
【0024】
【表1】
【0025】
図6及び図7は、表1のデータをグラフ化したものである。
図6には、最大デプス変化量の最大値と復元音の大きさの関係が示され、図7には、最大デプス変化量の平均値と復元音の大きさの関係が示されている。各グラフにおいて、サンプル1~サンプル7を、それぞれS1~S7として示している。
まず、図6を参照して、最大デプス変化量の最大値と復元音の大きさの関係について説明する。
比較例の11角のサンプル5(S5)とサンプル6(S6)については、最大デプス変化量の最大値は0.74mm~0.86mmの範囲で、復元音が76dB~80dBと大きくなっている。一方、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)については、最大デプス変化量の平均値は0.55mm~0.74mmの範囲で、復元音は72dB~79dBの範囲となっている。サンプル8(S8)については、最大デプス変化量の最大値が、1.00mmで、復元音は83dBである。
一方、本発明品に係るサンプル7(S7)については、最大デプス変化量の最大値は0.22mm~0.31mmの範囲で、43dB~46dBの範囲と、ほぼ聞こえない範囲まで小さくなっている。
図6において、11角のサンプル5(S5)およびサンプル6(S6)の最大デプス変化量と復元音の平均値の点をg1、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)の最大デプス変化量と復元音の平均値の点をg2とし、g1とg2及びサンプル8を通る直線をG1とすると、11角のサンプル5(S5)とサンプル6(S6)に対して、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)の方が、最大デプス変化量が小さく、復元音も小さくなっている。
さらに、サンプル7(S7)についての、最大デプス変化量の平均値をg3とし、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)の平均点g2を通る直線をG2とすると、13角に対して16角に向けて、最大デプス変化量がさらに小さくなり、復元音も大きく低下している。この直線G2の勾配はG1の勾配よりも大きくなっている。
仮に、直線G1が13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)の最大デプス変化量の最小値の0.55mmに達すると75dBより下回り、0.54mmでは、73dB程度まで低下する。また、直線G2では、0.54mmのラインでは、ガス放出音の70dBを下回り、66dB程度まで低下し、復元音が全く気にならない範囲となる。実際には、復元音は、最大デプス変化量の低下に伴って、直線G1より直線G2に近い範囲で低下し、単位パネルの最大デプス変化量の最大値が0.54mm以下であれば、ガス放出音の前後のレベルまでに低下する。サンプル8は円弧パネルでサンプル1~7とは異なるが、最大デプス変化量と復元音の関係については、G1のライン上にあり、最大デプス変化量に応じて同様の挙動をする。サンプル8は、波打ち曲面が26面で、サンプル1~4の
断面角型の13角に類似するが、最大デプス変化量及び復元音については大きくなっている。最大デプス変化量を小さくする場合には、波打ち曲面の数を増やす対応となる。
【0026】
次に、図7及び図8を参照して、最大デプス変化量の平均値と復元音の大きさの関係について説明する。
図6のように、最大デプス変化量の最大値を用いる場合、ばらつきが大きくなる可能性があるので、単位パネルの最大デプス変化量の平均値をとることを検討した。しかし、全ての単位パネルの最大デプス変化量の平均値をとると、図8(A)に示すように、本発明のサンプル5(S5),サンプル6(S6)が、比較例のサンプル(S1)~サンプル4(S4)よりも、最大デプス変化量の平均値は小さいという反対の結果となった。この結果を検討した結果、全ての単位パネルが完全に復元されるわけではなく、一部の単位パネルについて、復元が不完全なものがあるためということがわかった。そこで、0.3mm以上の最大デプス変化量となる単位パネルについての平均値、0.4mm以上の最大デプス変化量となる単位パネルについての平均値について算出し、グラフとしたのが図7図8(B)である。
0.3mm以上の単位パネルを抽出したものでは、図8(B)に示すように、サンプル5(S5)およびサンプル6(S6)が、サンプル1~サンプル4と交錯する範囲となり
、判然としないが、0.4mm以上の単位パネルを抽出すると、図7に示すように、サンプル5(S5)およびサンプル6(S6)が、サンプル1~サンプル4と交錯する範囲を脱し、サンプル5(S5)およびサンプル6(S6)の最大デプス変化量(平均値)が、サンプル1~サンプル4の最大デプス変化量(平均値)よりも大きく、明確に分かれることが分かった。
そこで、各缶の最大デプス変化量の平均値の算出にあたって、最大デプス変化量が0.4mm未満の単位パネルを除外し、復元しない単位パネルの影響を排除するものとした。サンプル7(S7)は、全ての単位パネルが復元しており、制限なしの最大デプス変化量の平均値をとり、サンプル1(S1)~サンプル6(S6)の0.4mm未満を除外したデータと同等に扱うものとする。
図7に示すように、比較例の11角のサンプル5(S5)とサンプル6(S6)については、最大デプス変化量の平均値は0.57mm~0.67mmの範囲で、復元音が76dB~80dBと大きくなっている。一方、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)については、最大デプス変化量の平均値は0.48mm~0.53mmの範囲で、復元音は72dB~78dBの範囲となっている。
本発明品に係るサンプル7(S7)については、最大デプス変化量の平均値は0.17mm~0.20mmの範囲で、43dB~46dBの範囲と、ほぼ聞こえない範囲まで小さくなっている。
図7において、11角のサンプル5(S5)とサンプル6(S6)の最大デプス変化量と復元音の平均値の点をg11、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)の最大デプス変化量と復元音の平均値の点をg12とし、g11とg12を通る直線をG11とすると、11角のサンプル5(S5)とサンプル6(S6)に対して、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)の方が、最大デプス変化量が小さく、復元音も小さくなっている。
さらに、サンプル7(S7)についての、最大デプス変化量の平均値をg13とし、13角のサンプル1(S1)~サンプル4(S4)の平均点g12を通る直線をG12とすると、13角に対して16角に向けて、最大デプス変化量がさらに小さくなり、復元音も大きく低下している。この直線G12の勾配はG11の勾配よりも大きくなっている。
【0027】
直線G12では、0.45mmのラインでは、ガス放出音と同程度の71dB付近まで低下しており、復元音が気にならない範囲となる。復元音は、最大デプス変化量の低下に伴って、直線G11より直線G12に近い範囲で低下するものと考えられ、最大デプス変化量が0.4mm以上となる単位パネルの最大デプス変化量の平均値が、0.45mm以下であれば、75dBを切って、ガス放出音に近いレベルまで低下する。ガス放出音は70dB程度であり、72dB以下であれば、気にならないレベルとなる。好ましくは70dB以下に設定する。
一方、最大デプス変化量の0.4mm以上の単位パネルの平均値について、0.45mm以上に設定しており、最大デプス変化量の最大値が0.4mmから0.45mmの間にある場合は、当然、平均値は0.45mm未満となる。
最大デプス変化量が0.4mm以上の単位パネルが無い場合には、復元しない単位パネルの影響が小さく、全ての単位パネルの最大デプス変化量の平均値で評価するものとする。平均値は、0.4mmを超えることは無いので、0.4mm未満となるように構成すればよい。
また、図7に示すように、最大デプス変化量の平均値が0.15mmに達すると40dBより小さくなり、ほとんど聞こえないレベルとなっている。したがって、最大デプス変化量の平均値を、0.15mm以上で0.4mm未満となるように設定すれば、音が聞こえるが、気にならない程度に小さくなるレベルとすることができる。
また、単位パネルの最大デプス変化量の平均値を0.15mm以下としておけば、完全に聞こえないレベルとすることができる。
円弧状の単位パネルの場合には、サンプル8のデータしかないものの、最大デプス変化
量の平均値が、0.4mm未満、少なくとも0.15mm以下まで低くすれば、ガス放出音に対して十分に低い音量となる。
断面角数では、14角と16角の間、14角,15角、16角程度であれば、最大デプス変化量の平均値は0.45mm以下となる。
なお、多面体壁を構成する単位パネルについては、上記実施形態1の屈曲した菱形形状、実施形態2の円弧形状に限られず、折り構造によって、缶胴の内方に窪んだ形状で、缶胴に作用する内圧によって窪みが小さくなる方向に変形し、缶蓋の開封時に元の形状に復元する種々のパターンに適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 陽圧缶、
2 缶本体
21 缶胴、22 ネック部、23 底部、
3 缶蓋
4 多面体壁
5 単位パネル 5A 上方三角形部分、5B 下方三角形部分
51 斜め稜線、52 横稜線、53(53a~53d) 頂点
50 パネル列
6 タブ
24 多面体壁
25 単位パネル
251,252 波形稜線、
30 波打ち曲面
26 山部、26a 頂部 27 谷部
100 デジマチックインジケータ
120 騒音計
M 中心面
N 中心軸線
dmax 最大デプス変化量
m 横稜線の中点
m2 パネル中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8