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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】弾性表面波デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20230117BHJP
   H10N 30/095 20230101ALI20230117BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20230117BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20230117BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H01L41/41
H01L41/187
H01L41/113
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018039449
(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公開番号】P2019153992
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】515217498
【氏名又は名称】株式会社Piezo Studio
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 憲司
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/078135(WO,A1)
【文献】特開2001-223558(JP,A)
【文献】特開2015-213279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0261248(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L41/00-H01L41/47
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波デバイスであって、
前記圧電基板はCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶からなり、
前記単結晶のAl置換量xをパーセント表示した値をαとし、前記圧電基板の前記単結晶からの切り出し角および弾性表面波伝搬方向をオイラー角表示で(φ,θ,ψ)と表したとき、
α=23~25であり、
φ=-2°~2°であり、
0.2368α+52≦θ≦0.3526α+63であり、
ψ=(-0.0479α+0.5138)θ+(4.0562α-9.1558)であり、
.23≦x≦0.25であり、
α=23~25、θ=61°~63°、ψ=47°~51°である
ことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
表面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波デバイスであって、
前記圧電基板はCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶からなり、
前記単結晶のAl置換量xをパーセント表示した値をαとし、前記圧電基板の前記単結晶からの切り出し角および弾性表面波伝搬方向をオイラー角表示で(φ,θ,ψ)と表したとき、
α=23~25であり、
φ=-2°~2°であり、
θ=20°~50°であり、
ψ=20°~40°であり、
.23≦x≦0.25である
ことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面波を用いた弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
表面波を利用した弾性表面波デバイスは、小型,高信頼,高速,かつ低消費電力の装置として、携帯電話などの通信機器のフィルタ,信号源などへの利用が開発されている。また、特許文献1に示すような、ワイヤレスで温度や圧力、変位、湿度などを検出するセンサとして用いられている。表面波は、伝播媒質の表面から一波長以内の深さに90%以上のエネルギーを集中して伝播する弾性波であり、信号を伝播路上の任意の場所から取り出すことが可能であり、外部から伝播特性を容易に制御できるという特性を有している。
【0003】
弾性表面波デバイスは、圧電体材料と、この圧電材料の表面に形成された電極配線パターンなどから構成されている。特許文献1では、圧電材料として、ニオブ酸リチウムや水晶、タンタル酸リチウム、四ホウ酸リチウム、ランガサイトを挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-129185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、弾性表面波デバイスによるセンサでは、高温環境下におけるセンシングには課題がある。水晶やタンタル酸リチウムは、キュリー点が600℃前後と低く、これらの温度においては相転移を生じ圧電性が失われる問題がある。ニオブ酸リチウムは、キュリー点が1100℃程度と高いものの、焦電効果が強く、温度による変形等により電荷が発生し、最悪放電現象により基板が破壊される課題がある。ランガサイトは、融点(1500℃程度)まで相転移がなく有用であるが、希少元素を多く含み課題がある。また、ワイヤレスセンサで用いられる周波数は800MHz帯あるいは2.45GHz帯と高周波であり、電極パターン形成上音速が早いことが望ましい。ランガサイトは音速が2500m/sと低いことから、高周波帯には適さないという課題もある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、高温環境下においても、圧電性を失わず、音速が2500m/sよりも速く高周波化に有利であり、La等の希少元素を含まずに原料の安定供給に有利な弾性表面波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、表面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波デバイスであって、圧電基板はCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶からなり、単結晶のAl置換量xをパーセント表示した値をαとし、圧電基板の単結晶からの切り出し角および弾性表面波伝搬方向をオイラー角表示で(φ,θ,ψ)と表したとき、α=23~25であり、φ=-2°~2°であり、0.2368α+52≦θ≦0.3526α+63であり、ψ=(-0.0479α+0.5138)θ+(4.0562α-9.1558)であり、0.23≦x≦0.25である。
【0008】
上記弾性表面波デバイスにおいて、α=0~2、θ=51°~55°、ψ=18°~22°であればよい。
【0009】
上記弾性表面波デバイスにおいて、α=23~2、θ=61°~63°、ψ=47°~51°であ
【0010】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、表面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波デバイスであって、圧電基板はCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶からなり、単結晶のAl置換量xをパーセント表示した値をαとし、圧電基板の単結晶からの切り出し角および弾性表面波伝搬方向をオイラー角表示で(φ,θ,ψ)と表したとき、α=23~25であり、φ=-2°~2°であり、θ=20°~50°であり、ψ=20°~40°であり、0.23≦x≦0.25である。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したことにより、本発明によれば、高温環境下においても、圧電性を失わず、音速が2500m/sよりも速く高周波化に有利であり、La等の希少元素を含まずに原料の安定供給に有利な弾性表面波デバイスが提供できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態における弾性表面波デバイスの構成を示す斜視図である。
図2図2は、カット角を説明するための説明図である。
図3図3は、実施例1における弾性表面波デバイスの特性を示す特性図である。
図4図4は、実施例2における弾性表面波デバイスの周波数変化量を示す特性図である。
図5図5は、実施例3における弾性表面波デバイスの周波数変化量を示す特性図である。
図6図6は、実施例4における弾性表面波デバイスの周波数変化量を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態おける弾性表面波デバイスについて図1を参照して説明する。この弾性表面波デバイスは、圧電基板101と、圧電基板101の表面に設けた交差指状電極102とを備える。圧電基板101はCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶からなる。
【0014】
ここで、圧電基板101を構成する単結晶のAl置換量xをパーセント表示した値をαとし、圧電基板101の単結晶からの切り出し角および弾性表面波伝搬方向をオイラー角表示で(φ,θ,ψ)と表したとき、α=23~25であり、φ=-2°~2°であり、0.2368α+52≦θ≦0.3526α+63であり、ψ=(-0.0479α+0.5138)θ+(4.0562α-9.1558)である。また、0.23≦x≦0.25である。
【0015】
なお、α=0~2、θ=51°~55°、ψ=18°~22°であればよい。また、α=23~2、θ=61°~63°、ψ=47°~51°であってもよい。
【0016】
また、圧電基板101を構成する単結晶のAl置換量xをパーセント表示した値をαとし、圧電基板101の単結晶からの切り出し角および弾性表面波伝搬方向をオイラー角表示で(φ,θ,ψ)と表したとき、α=23~25であり、φ=-2°~2°であり、θ=20°~50°であり、ψ=20°~40°であり、0.23≦x≦0.25であるようにしてもよい。
【0017】
なお、実施の形態では、圧電基板101の表面に、反射器となる電極部103,104を備える。反射器となる電極部103,104は、表面波の伝搬方向において、交差指状電極102を挾んで配置されている。
【0018】
[実施例1]
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。はじめに、実施例1について説明する。まず、高周波加熱によるチョクラルスキー法すなわち回転引上げ法を用いて、Ca3Ta(Ga1-xAlx3Si214単結晶(0.23≦x≦0.25)を作製した。得られた結晶から、圧電基板を切り出した。次に、得られた圧電基板の上に、入出力用交差指状電極(IDT)および反射器となる電極部を形成し、弾性表面波デバイスを作製した。この弾性表面波デバイスは、弾性表面波共振子である。
【0019】
IDTおよび電極部は、例えば、蒸着することで形成した白金膜を、よく知られたフォトリソグラフィ技術、およびエッチング技術を用いてパターニングすることで形成すればよい。IDTの一端を接地し、他端に高周波信号を印加すると、IDTから伝搬方向に弾性表面波が励振される。励振された弾性表面波は反射器により反射される。これにより、IDTの電極ピッチと弾性表面波速度で決まる周波数にて共振特性を得ることができる。
【0020】
例えば、圧電基板の裏面に加えられた圧力などにより圧電基板が変形すると、弾性表面波の伝搬距離が変化する。この変化に伴い、上述した共振周波数が変化することで、圧力を検出できる。なお、実施の形態における弾性表面波デバイスは、上述した共振子に限るものではなく、例えばトランスバーサル型の形態を用いて、伝搬路上に、何らかの物質と反応する反応膜を設け、この反応膜の作用を受けた伝搬速度の変化を遅延時間として検出するセンサとしてもよく、特にデバイス構造は限定されず、検出する対象も、圧力に限定されない。
【0021】
次に、圧電基板とするCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶を、Al置換量を0,15,25%として作製し、様々なカット角θの基板を切り出し、前述した弾性表面波共振子を作製した。なお、カット角θは、図2に示すように、基準となる結晶のZ面201に対する作製した圧電基板の表面202の角度θである。なお、カット角は、IEEE規格に準拠した表記方法である。
【0022】
作製した各共振子について、温度を180℃から900℃の間で変化させ、共振周波数の変化量を測定した。各Al置換量において、180℃から900℃における周波数変化量が少ないカット角について、横軸にオイラー角のθ、縦軸にψとしプロットした(図3)。周波数変化量は、それぞれ600℃のときの周波数を基準とし、基準からの周波数変化量を基準周波数で割って求めた。図3において、点線で囲まれた領域のθとψの組み合わせとすることで、周波数変化量を500ppm以下に抑えることができ好ましい。点線で囲まれた領域は、0.2368α+52≦θ≦0.3526α+63であり、ψ=(-0.0479α+0.5138)θ+(4.0562α-9.1558)を満たしている。
【0023】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2においても、前述した実施例1と同様の共振子を作製した。実施例2では、Al置換量を0%としたCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶を用意し、この単結晶からのカット角θを(0,53,20)とした圧電基板を作製した。また、各条件の圧電基板を用いて共振子を作製した。実施例2の条件は、0.2368α+52≦θ≦0.3526α+63であり、ψ=(-0.0479α+0.5138)θ+(4.0562α-9.1558)を満たしている。
【0024】
作製した共振子について、180℃から900℃の温度範囲において周波数の変化量を測定した。図4に実施例2における弾性表面波デバイスの周波数変化量を示す。図4より明らかなように、180℃から900℃の範囲において、周波数変化量が500ppm以下となっていることが分かる。Al置換量0%において、圧電基板のカット角を(0,53,20)とすることで、温度による周波数の変化量の少ない弾性表面波共振子を得ることができる。このデバイスを用いることで、温度による影響が少ない圧力センサを得ることができる。なお、何れカット角においても電気機械結合係数は0.3%以上と良好であった。さらに、音速は2700m/s以上と高速であった。
【0025】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。実施例3においても、前述した実施例1と同様の共振子を作製した。実施例3では、Al置換量を25%としたCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶を用意し、この単結晶からのカット角θを(0,61-63,20)とした圧電基板を作製した。また、各条件の圧電基板を用いて共振子を作製した。実施例2の条件は、2368α+52≦θ≦0.3526α+63であり、ψ=(-0.0479α+0.5138)θ+(4.0562α-9.1558)を満たしている。
【0026】
作製した共振子について、180℃から900℃の温度範囲において周波数の変化量を測定した。図5に実施例3における弾性表面波デバイスの周波数変化量を示す。図5より明らかなように、180℃から900℃の範囲において、周波数変化量が500ppm以下となっていることが分かる。Al置換量25%において、圧電基板のカット角θを(0,61-63,20)とすることで、温度による周波数の変化量の少ない弾性表面波共振子を得ることができる。
【0027】
このデバイスを用いることで、温度による影響が少ない圧力センサを得ることができる。特に、θを63°とすることで、600℃付近で周波数変化の少ないセンサを得るこができる。また、θを61°とすることで700℃、θを62°とすることで500℃付近の動作に適したセンサを得ることができる。なお、何れの場合も電気機械結合係数は0.2%以上と良好であった。さらに、音速は2700m/s以上と高速であった。
【0028】
このように、センサの使用に応じて適切なカット角を選択すればよい。また、Alの置換量を増やすことで、高温環境下における結晶の導電率が低下することが知られており、Al25%にすることでより高温環境下のセンサとして望ましい。
【0029】
[実施例4]
次に、実施例4について説明する。実施例4においても、前述した実施例1と同様の共振子を作製した。実施例4では、Al置換量を25%としたCa3Ta(Ga1-xAlx3Si214の単結晶を用意し、この単結晶からのカット角について、Φ=0°、θ=10~60°、ψ=10~50°とした圧電基板を作製した(図2参照)。また、各条件の圧電基板を用いて実施例1と同様の共振子を作製した。
【0030】
作製した各共振子について、温度600℃における電気機械結合係数を測定した。結果を以下の表に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表に示すように、Φ=0°、θ=20~50°、ψ=20~40°とすることで、電気機械結合係数が0.3%以上とすることができる。特に、オイラー角(0,40,30)において、電気機械結合係数が0.45%と非常に大きくすることができる。また、実施例4の弾性表面波デバイスは、オイラー角(0,50,30)においては、図6に示すような周波数温度特性を示す。この特性において、周波数変化量は-8000~8000ppmと大きくなっているが、温度に応じて周波数が一定の傾きで大きく変化することから、高温環境下における温度センサとして望ましい。
【0033】
以上に説明したように、本発明によれば、200℃~1200℃を中心とした高温環境下においても、圧電性を失わず、音速が2500m/sよりも速く高周波化に有利であり、Laなどの希少元素を含まずに原料の安定供給に有利な弾性表面波デバイスが提供できる。
【0034】
本発明によれば、200℃~1200℃を中心とした高温環境下において、圧電性を消失せず、温度による変化が少ないセンサを実現できる。本発明によれば、Laを含まず安価なCaを使用し、さらにGaをAlに置換することでGaの使用量を削減できることから、デバイスの安定供給に貢献する。また、本発明のカット角を用いると、弾性表面波速度が2900m/sと高速であることから、本発明の弾性表面波デバイスは、ワイヤレスセンサでよく使われる高周波帯での使用に適している。
【0035】
さらに、本発明による結晶育成にあたっては、定比組成の出発原料を用いて育成を行った場合、融液成長法において結晶化率70%以上で作製した単結晶の内部に不純物が発生する恐れがある。このため、所望のコングルエント組成となるよう育成を実施するとよい。この場合、本発明による結晶の化学式は「Ca3Ta1+a(Ga1-xAlx3+bSi2+c14」となる。なお、-0.5<a<0.5、-0.5<b<0.5、-0.5<c<0.5(Ca3とした時の各組成比)である。
【0036】
以上のような、組成においても同様の効果が得られることは明白である。例えば、Caの一部または全部を、SrあるいはBaに置換してもよく、Taの一部または全部をNbに置換しても良い。
【0037】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0038】
101…圧電基板、102…交差指状電極、103…電極部、104…電極部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6