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特許7210866着色表面を備えたコーティングの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】着色表面を備えたコーティングの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20230117BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230117BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20230117BHJP
   C25D 11/14 20060101ALI20230117BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C25D11/04 305
C23C14/06 N
C25D11/06 A
C25D11/14 301B
C25D11/26 302
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020514613
(86)(22)【出願日】2018-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018075057
(87)【国際公開番号】W WO2019053254
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-11
(31)【優先権主張番号】01151/17
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】トファルディ,スヴェン マシアス
(72)【発明者】
【氏名】エッゲマン,ジェンス
(72)【発明者】
【氏名】アルバート,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】クラポブ,デニス
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-153318(JP,A)
【文献】特開平06-287797(JP,A)
【文献】特開昭61-163262(JP,A)
【文献】特開2013-194298(JP,A)
【文献】特開平08-067978(JP,A)
【文献】特開2013-202700(JP,A)
【文献】特開2012-011393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色コーティング表面を備えたコーティングを有するコーティング基体の製造方法であって、
)真空コーティングチャンバの内部でコーティングされる1つまたは複数の基板表面を含む1つの基板本体または複数の基体を提供するステップと、
)ステップa)の実行後、コーティングされる1つまたは複数の基材表面にコーティングを堆積し、前記コーティングの堆積は金属層の堆積を含み、堆積される前記コーティングがさらなる層を含む場合、前記金属層は上層として堆積されるステップと、
)ステップb)の実行後、前記金属層の陽極酸化による前記着色コーティング表面の形成ステップと、を含み、
前記金属層は、少なくとも2つの異なる金属を含む単一金属層として堆積され、前記陽極酸化は、12から14の間のpH値を有するアルカリ電解質浴中で起こり、コーティングされる前記1つまたは複数の基板表面はアノードとして接続され、前記アルカリ電解質浴は水酸化ナトリウム(NaOH)を含み、かつ重量パーセントで0.5以上0.6以下のNaOH濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液であり、
前記金属層は、
アルミニウムとチタンとの混合物(AlTi)、または
AlTi合金、
から形成されていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
ステップb)中に、コーティングされる前記1つまたは複数の基板表面と前記単一金属層との間に少なくとも1つの非金属層が堆積され、前記単一金属層は少なくとも1つの非金属層上に直接堆積されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属層は、PVD技術を使用することにより堆積される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属層は、マグネトロンスパッタリング技術を使用することにより堆積される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属層は、HiPIMS技術を使用することにより堆積される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属層は、微粒子フィルターシステムの使用を含むアークイオンメッキ技術を使用することにより堆積される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記陽極酸化電圧が200Vより低くなるように選択される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体の表面にコーティングを有するコーティング基体を製造するための信頼性のある方法に関し、特に基体はツールであり得、コーティングは着色上層を含む。本発明による方法は、すべてのコーティング基体に対して高い鏡面反射光沢および再現可能な表面品質を示す着色上層の製造を可能にし得る。
【背景技術】
【0002】
物理蒸着(PVD)コーティングは現在、さまざまな種類の基体、例えば、ツールと構成成分の表面特性を改善するために適用されている。マイクロメートル範囲の厚さのPVDで製造された硬質の薄いコーティングは、通常、さまざまな種類のアプリケーションでの動作中(例えば、切りくず除去、金属成形、スライディングなど)にパフォーマンスを向上させるために、ツールおよび構成成分の表面に適用される。
【0003】
コーティングは、装飾目的または表示目的に使用され得ることも知られている。特許文献US9,464,354 B2では、単層摩耗認識層または多層摩耗認識層の使用が提案されている。摩耗認識層または多層は、元素金属、金属合金、または導電性金属化合物をPVDプロセスで堆積することによって生成され、酸性電解質浴での陽極酸化によって生成される領域を含む。陽極酸化によって生成される領域は、摩耗認識層または多層の厚さ全体には及ばない。
【0004】
陽極酸化の標準的な方法には、最初のステップとして酸洗いステップ(バルク材料の場合)が含まれ、その後に酸性電解質による陽極酸化ステップが続く。
【0005】
PVD技術を使用して金属層を堆積し、着色表面を得るために金属層を陽極酸化する上記の場合、金属層が非常に薄いため、酸洗ステップは不可能である。しかしながら、陽極酸化ステップが使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、酸性電解質浴での金属薄層(マイクロメートル範囲の厚さ)の陽極酸化によって得られた着色表面が、特に明確な色でない、光沢のない視覚効果および腐食した表面外観である、悪い表面品質を頻繁に示すことを発見した。酸電解質による陽極酸化中に、金属層とときにはまた基板本体の表面、または金属層の下に配置されたコーティング層が損傷し得る(溶解を含むこともある)。したがって、酸性電解質によるこの種の金属層の陽極酸化は、高品質で高レベルの鏡面反射光沢を示す着色表面を生成する確立されたプロセスとして使用するには十分に機能しない。
【0007】
この方法は、高い鏡面反射光沢を示し、特定のアプリケーション(例えば、インコネル(Inconel)718の機械加工に適したコーティングツールの決定されたラインを識別するため)に使用される製品の決定されたラインに属するコーティング製品の識別の目的に使用され得る、多種多様な優れた色のコーティングの製造を促進するのに十分な柔軟性もない。
【0008】
本発明の主な目的は、様々なコーティングされた基体、特にコーティングツールを製造するための信頼できる方法を提供することであり、ここで、高い鏡面反射光沢を有する異なる色の表面を示すコーティングが生成され得、これにより、この方法で生成されたコーティング基体の視覚的または光学的区別が可能になる。
【0009】
本発明による方法は、基体、好ましくはコーティングされる金属および/またはセラミック表面を含む複数の基体のコーティング、特にコーティングされる金属および/またはセラミック表面を含むツールのコーティングを可能にする。
【0010】
さらに、本発明による方法は、特にコーティング基体のコーティングの表面品質および光学特性に関して、再現可能な結果を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的は、コーティング基体を製造する方法を提供することにより達成され、ここで、コーティングされる表面を含む複数の基体は、着色コーティング表面を備え、以下のステップを含む。
-真空コーティングチャンバの内部にコーティングされる基体を提供するステップ、
-コーティングされる基板本体の表面にコーティングを堆積し、コーティングの堆積は、少なくとも1つもしくは複数の金属、好ましくは2つ以上の金属を含む、または少なくとも2つの異なる金属で形成された1つもしくは複数の金属合金を含む金属層の堆積を含むステップ、
-金属層の陽極酸化による着色表面を示す着色酸化物層を形成するステップ、
ここで、
-陽極酸化は、コーティング基体をアノードとして接続したアルカリ電解質浴で行われる。
【0012】
本発明の文脈において、用語「着色酸化物層」は、特に、干渉効果によって引き起こされる色彩印象を示す透明または半透明の酸化物層を指す。言い換えれば、干渉効果による着色は、本発明の文脈において着色酸化物層と呼ばれている透明または半透明の酸化物層に色彩印象を与えるために使用されるメカニズムである。
【0013】
本発明の文脈において、用語「基体」は、コーティングされ得る表面を有する任意の種類の構成成分または部分を指すために使用される。
【0014】
本発明による着色コーティング表面を基体に提供するために、着色酸化物層は好ましくはコーティングの最外層として形成される。
【0015】
酸性電解質浴の代わりにアルカリ電解質浴を使用することにより、鏡面反射光沢が高く、明確で再現性のあるさまざまな色に関して驚くほど優れた結果が得られた。
【0016】
本発明による方法は、PVDコーティングを陽極酸化することにより、そしてこの方法で、異なる種類の基体のコーティング表面を着色することにより、より良い結果を達成することを可能にし得る。
【0017】
鏡面反射光沢と反射率のレベル(図1および図2に示す)は、タイプ「MICRO-TRI-GLOSS」(BYK-Gardner GmbH、ドイツ)の測定装置を使用して、DIN EN ISO 2813:2015-02に従って実行された。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属層は、1つまたは複数の金属、好ましくは2つ以上の金属を含む金属単一層として堆積される。
【0019】
1つまたは複数の金属は、1つもしくは複数の元素金属として、または1つもしくは複数の合金として、または1つもしくは複数の元素金属と1つもしくは複数の合金の組み合わせとして金属層に存在し得る。
【0020】
金属層が1つまたは複数の元素金属および1つまたは複数の合金を含む場合、1つまたは複数の金属が金属元素の形で、同時に合金の構成成分の形で金属層に存在し得る。
【0021】
本発明による着色酸化物層を製造する際の陽極酸化に必要な電圧は変化し得る。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、陽極酸化によって着色酸化物層を生成するために使用される陽極酸化電圧は、200V未満である。
【0023】
150V以下の陽極酸化電圧を印加すると、特に良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】アルゴン雰囲気中のAITi合金ターゲットからHiPIMSによって生成されたAITi合金からなる金属層の陽極酸化によって得られた着色表面の反射率に、印加された陽極酸化電圧の影響を示す。本発明によれば、異なる陽極酸化電圧での陽極酸化は、それぞれ重量%でNaOH濃度が0.6%の水酸化ナトリウム水溶液中で実施された。反射率が異なるさまざまな色が生成された。観察され得るように、反射率は20°の角度と60°の角度で測定された。測定値は、印加電圧に応じて約7.5%から約47.5%の間で変化した。得られた色は、陽極酸化電圧を調整することで調整され得る。
【0025】
図2図1を構成するために測定された着色表面の鏡面反射光沢レベルにおける、適用された陽極酸化電圧の影響の曲線を示すが、図2では、20°の角度で測定された鏡面反射光沢のレベルのみが示されている。
【0026】
金属層の陽極酸化に使用されるアルカリ電解質浴のpH値が12~14、より好ましくは12.5~13.5の範囲にある場合、本発明者らは、本発明により、特に驚くほど明確な色と高い鏡面反射光沢が得られると判断した。
【0027】
上記のpHは、任意の塩基、例えば水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムを使用することにより達成され得る。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルカリ電解質浴は水酸化ナトリウム(NaOH)を含む。
【0029】
本発明者らは、水酸化ナトリウム水溶液、すなわちHO+NaOHからなる水性アルカリ電解質浴を使用することにより、特に良好な結果が得られると判断した。
【0030】
重量パーセントでのNaOH濃度が0.5~0.6%の間の範囲にあった場合、本発明の上記実施形態による着色酸化物層を形成するためのアルカリ電解質浴として水酸化ナトリウム水溶液を使用する場合、特に再現可能な良好な結果が得られた。
【0031】
0.6%の重量パーセントのNaOH濃度を使用する場合、約13+/-0.2のpH値が測定され、これは、理論的に計算できるpH値(13.18)と非常によく相関する。アルカリ誤差として知られる現象のため、高pH値の正確な測定は困難である。
【0032】
本発明によれば、金属層は、所望の陽極酸化電圧で陽極陽極酸化を可能にする厚さを有して堆積され、陽極酸化は、金属層の外表面から金属層の全厚よりも大きくない浸透深さまで行われ得る。
【0033】
本発明の好ましい一実施形態によれば、金属層は、所望の陽極酸化電圧で陽極陽極酸化を可能にする厚さを有して堆積され、陽極酸化は、金属層の外表面から金属層の全厚に可能な限り等しい浸透深さまで行われ得る。
【0034】
次いで、達成されることが意図されている着色酸化物層の色に応じて、例えばチタンで形成され、好ましくはアルミニウムとチタンの混合物またはチタンとシリコンの混合物またはアルミニウムとシリコンの混合物で形成される、好ましい元素組成を有する金属層を堆積させ得る。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属層はチタン(Ti)またはアルミニウムとチタンの混合物(AlTi)もしくはAlTi合金を含むか、あるいは金属層はTiまたはAlTiもしくはAlTi合金でできている。
【0036】
本発明の更なる好ましい実施形態によれば、金属層はチタンとシリコンの混合物(TiSi)もしくはTiSi合金を含むか、または金属層はTiSiもしくはTiSi合金でできている。
【0037】
しかし、異なる色を形成するために、他の金属および金属または金属合金の混合物も使用し得る。
【0038】
本発明のさらに好ましい一実施形態によれば、金属層は、以下を含むか、または以下から形成される。
-アルミニウムとクロムとの混合物、または
-ジルコニウムもしくはジルコニウムを含む金属の混合物、または
-ニオブもしくはニオブを含む金属の混合物、または
-タンタルもしくはタンタルを含む金属の混合物、または
-クロムもしくはクロムを含む金属の混合物。
【0039】
上記のすべての金属の組み合わせまたは混合物は、明確な色の幅広いスペクトルを達成するのに特に適する(この文脈では、用語「明確な色」は、よく知られている光学的方法で測定できる、光学的に識別可能であり、特に、色の識別または定義に関連する均質な光学特性を備えている着色表面の色の印象を指すために使用される)。
【0040】
図3】さまざまな種類の表面で20°の角度で測定されたさまざまなレベルの鏡面反射光沢を示す。図3の実施例2は、窒化チタン(AITiN)で形成された機能層と、まだ陽極酸化されていないチタンアルミニウム合金(AITi合金)で形成された金属層を含むコーティングを備えたコーティング基体に対応する。機能層の堆積中に窒素ガス流とアルゴンガス流がコーティングチャンバに導入されたことを除いて、機能層と金属層の両方は、同じAITi合金ターゲットのHiPiMS技術と同じコーティング条件を使用して堆積され、一方で、金属層の堆積中、アルゴンガス流のみがコーティングチャンバに導入された。図3の実施例11は、窒化チタン(AITiN)で形成された機能層と、まだ陽極酸化されていないチタンアルミニウム合金(AITi合金)で形成された金属層を含むコーティングを備えたコーティング基体に対応する。機能層の堆積中に窒素ガス流がコーティングチャンバに導入されたことを除いて、機能層と金属層の両方は、同じAITi合金ターゲットから微粒子フィルター(この文脈での微粒子は液滴とも呼ばれる)システムなしでアークイオンメッキ技術(アーク蒸発)を使用して、同じコーティング条件を使用して堆積された一方で、金属層の堆積中、コーティングチャンバにガス流は導入されなかった。
【0041】
図3では、グロスユニット(Gloss Unit(GU))で20°の角度で測定された鏡面反射光沢は、微粒子フィルターシステムなしでアークイオンメッキ技術を使用して堆積されたコーティング(陽極酸化前の上層として金属層も含む)よりも、HiPIMS技術を使用して堆積されたコーティング(陽極酸化前の上層としての金属層を含む)の方が高いことがわかる。
【0042】
特に、金属層が、マイクロメートル範囲の厚さ、例えば、1~2マイクロメートルの層厚を有する薄層として堆積される場合、金属層の表面の品質は、金属層が堆積される表面の品質に影響されることに注意することが重要である。
【0043】
図3に示すように、実施例2の光沢レベル値(HiPIMS蒸着AITiN+AITiコーティング)と実施例1の光沢レベル値(コーティングされていない研磨スチール基板表面)とを比較すると、HiPIMS蒸着コーティングで測定された値は、コーティングされていない表面で測定された値に非常に近いことが観察され得る。
【0044】
また、金属層の表面の鏡面反射光沢のレベルが高いほど、本発明による陽極酸化によって形成された着色酸化物層の表面の鏡面反射光沢のレベルが高いことが観察された。
【0045】
本発明の枠組み内で、異なる色を有する着色酸化物層として形成された最外層を含むコーティングを切削ツールに提供することが可能であった。この色彩効果は、切削ツールの以前にPVDコーティング表面のアルカリ電解質浴での陽極酸化によって本発明に従って生成された薄い酸化物層から生じた干渉色により達成された。
【0046】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属層は、任意のPVD技術、例えば、アーク蒸発もしくはマグネトロンスパッタリングもしくは電子ビーム、またはその他、あるいはそれらの変形、好ましくは滑らかなコーティングの堆積を可能にするPVD技術、を使用することによって堆積される。
【0047】
発明者らは、陽極酸化される金属層の高品質(特に、滑らかな表面を示すための低粗さに関して)だけがプロセスの安定性と機能性の重要な要因ではないことを決定したが、非常に驚くべきことに、アルカリ電解質とアルカリ電解質浴で陽極酸化される高品質の金属層の組み合わせ、特に、陽極酸化される金属層が高密度および高平滑性に関して高品質を示す場合、この組み合わせにより、着色酸化物層の着色表面の品質に予想外の非常に重要な効果がもたらされ、特に、予想外の非常に明確な色と予想外の高い鏡面反射光沢が得られる。
【0048】
本発明によるアルカリ電解質浴中の陽極酸化後に得られた着色表面の鏡面反射光沢は、以前に堆積した金属層の表面品質と相関することが見出された。
【0049】
本発明者らは、本発明による酸化される金属層の堆積のための異なるマグネトロンスパッタリングプロセスの使用を調査し、この方法で堆積された金属層がより高い平滑性を示したため、この種のPVDプロセスが特に有利であることを見出した。本発明者らは、金属層の表面がより滑らかであるほど、本発明による金属層の陽極酸化により生成される着色酸化物層の鏡面反射光沢がより高くなると結論付ける。言い換えれば、金属層の液滴および欠陥が少ないほど、より光沢のある着色表面を生成することができる(本発明の文脈では、用語「より光沢のある」または「光沢のある」は、より光沢があるとも理解される)。本発明者らは、高出力パルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS)とも呼ばれる高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)と呼ばれるマグネトロンスパッタリングの特定の変形も調査した。この種のマグネトロンスパッタリングは、スパッタリングされるターゲット材料に高出力密度を適用し、この方法でスパッタリングされた材料の非常に高いイオン化を達成し、従来のマグネトロンスパッタリングプロセスよりも高密度のコーティングの堆積をもたらすことを特徴とし、達成されるイオン化はかなり低くなる。HiPIMSプロセスを使用して堆積した金属層の陽極酸化によって生成された着色酸化物層は、非フィルタアーク蒸発プロセスを使用して金属層を生成した場合よりも高い鏡面反射光沢と明確な色を示した。本発明者らは、金属層のより高い密度およびその表面がより滑らかであるほど、本発明による金属層の陽極酸化により生成される着色酸化物層の鏡面反射光沢がより高くなると結論付ける。発明者らは、金属層の堆積にHiPIMSを使用することで得られるような同様の非常に良好な結果は、高密度で非常に滑らかな表面を示す金属層の堆積を可能にする他の種類のPVD技術を使用することによっても(例えば、微粒子(いわゆる液滴など)のフィルタリングを可能にするフィルタアーク蒸発技術による)達成できると考えている。
【0050】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属層は、HiPIMS技術が使用されるPVDプロセスによって堆積される。
【0051】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、金属層は、従来のマグネトロン技術またはフィルタアーク蒸発技術が使用されるPVDプロセスによって堆積される。
【0052】
バルブ金属(Al、Ti、Ta、Nb、V、Hf、W)は、これらの金属が酸素含有環境にさらされると、表面が数ナノメートルの自然酸化膜ですぐに覆われるため、バルブ金属として分類される。したがって、本発明者らは、これらの金属が本発明の文脈において陽極酸化に特に適していると考えている。
【0053】
これらのバルブ金属ならびにCrおよびZrは、本発明の文脈において異なる実験のために金属層を形成するために使用された。
【0054】
すでに上で述べたように、HiPIMS技術を使用して酸化された金属層を堆積させると、アルカリ電解質浴での陽極酸化により、着色コーティング表面の非常に優れた仕上げが達成された。
【0055】
一般に、物理気相成長法(PVD)を使用して堆積した硬質皮膜は圧縮残留応力を示し、通常は耐チッピング性など、切削ツールの性能が向上することがわかっている。
【0056】
さまざまなPVDプロセスの中で、アーク蒸発(通常および以後、アークイオンメッキとも呼ばれる)は、ターゲットから蒸発する材料の成分の高いイオン化率、および得られる硬質皮膜の高い接着性により、広く採用されているPVD技術である。
【0057】
しかしながら、追加の機器(例えば、微粒子をろ過するためのシステム)を使用せずにアークイオンメッキプロセスを実行する場合、微粒子(現在、液滴と呼ばれる)なしで硬質皮膜を得るのは容易ではない。アークイオンメッキプロセス中、ターゲット材料はアーク放電下で溶融し、それにより溶融金属がターゲット表面から排出され、成長中の硬質皮膜に取り込まれて液滴を形成する。
【0058】
金属層を堆積させる場合のように、アーク放電を反応性ガス(反応性ガスは窒素と酸素など)なしで操作すると、液滴の量が大幅に増加する。
【0059】
マグネトロンスパッタリングプロセスではターゲット材料の溶融は意図されていないため、マグネトロンスパッタリングによって生成されるコーティングの液滴の量は、アークイオンメッキによって生成されるコーティングと比較して非常に少なくなる。
【0060】
HiPIMSプロセスを使用することにより、特定の高いコーティング密度を実現でき、通電が終了するターゲットと、通電される次のターゲットの両方に電力が供給されるように、電力が複数のターゲットに連続的に印加され、ターゲットが次々と連続して動作する。
【0061】
コーティングにこのようなスパッタリング技術を採用することにより、コーティング中にターゲット材料のイオン化率が高いレベルに維持され、それにより硬質皮膜はより高い密度と結晶性を有するようになる。
【0062】
高いコーティング密度と結晶性を示すコーティングを形成するために、パルス出力の最大出力密度は、1.0kW/cm以上の値に維持されるように制御する必要がある。不安定なコーティングが形成される可能性があるため、過度に大きな電力密度も望ましくない。したがって、コーティング中に適用されるパルス出力の最大出力密度は、3.0kW/cm以下の値に維持する必要がある。通電が終了するターゲットと、通電される次のターゲットの両方に電力が印加される時間の長さが短すぎるか長すぎる場合、ターゲットは十分にイオン化されないため、形成されるコーティングの密度はそれほど高くならない。
【0063】
これらの理由により、上記の継続時間は5マイクロ秒以上、好ましくは20マイクロ秒以下になるように調整することが望ましく、したがって、上記の継続時間は5マイクロ秒以上20マイクロ秒以下を選択することを勧める。
【0064】
ターゲット材料の特に高いイオン化率、そしてそれによる特に高いコーティング密度は、上記のように動作する少なくとも3つのターゲットを使用することで達成され得る。
【0065】
特に高いコーティング密度を示す金属層は、TiAl系合金ターゲットから製造された。
【0066】
本発明によるHiPIMSによって生成される金属層は、好ましくは、アルゴンを作業ガスとして使用することによって生成される。
【0067】
本発明の好ましい一実施形態によれば、着色コーティングは、以下の方法で基体の表面に設けられ得る。
-基体の表面に直接機能層を堆積し、機能層は、金属層に含まれる同じ金属の窒化物として生成され、
-金属層を堆積し、
-アルカリ電解質浴での金属層の陽極酸化により着色層を生成する。
ここで、機能層と金属層との製造に同じターゲットと同じPVD技術が使用され(例えば、上記のHiPIMSまたはフィルターアークイオンメッキ)、HiPIMSを使用する場合、アルゴンを作業ガスとして使用し、窒素を機能層の堆積用の反応性ガスとして使用し、アルゴンのみを金属層の堆積用の作業ガスとして使用する。
【0068】
機能層と金属層を堆積するために同じターゲット組成を使用することにより、例えば、機能層としてTiAlN層を、金属層としてTiAl層を堆積することが可能であろう。
【0069】
もちろん、機能層と金属層の堆積に異なるターゲット組成を使用することも可能であり、この方法で、例えば機能層としてAICrN層を、金属層としてAITi層を堆積することが可能である。
【0070】
本発明の文脈における好ましい機能層は、AITiN、AICrN、TiSiN、TiN、TiCN、TiB2である。もちろん、他の種類の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物、酸窒化物またはカルボキシ窒化物層も機能層として使用され得る。
【0071】
上述のように、窒化物層が機能層として堆積される場合、窒化物層は、高密度でNaCl型の結晶構造を示し、結晶性が増加した微細構造を有する硬質皮膜であることが好ましい。そのためには、好ましくは、負のバイアス電圧が、コーティングされる基体に印加され、好ましくは-100Vから-20Vの範囲で制御される。金属層は同じコーティング条件で堆積され得るが、窒素ガスは存在しない。
【0072】
そのような種類の金属層の陽極酸化を成功させるには、本発明による陽極酸化プロセスを実行する必要があり、それにより薄膜の損傷または溶解を回避し得る。
【0073】
これに関して、最新技術によるプロセスと比較して、少なくとも以下の大きな違いを導入しなければならない。
【0074】
本発明の好ましい実施形態によれば、コーティングは、基体と着色酸化物層(干渉効果により着色)との間に少なくとも1つの機能層を含む。機能層は、例えば、耐摩耗性および/または耐酸化性を示す硬質薄膜(本発明の文脈において、用語「硬質薄膜」は「硬質皮膜コーティング」を指す)であり得る。
【0075】
本発明による方法の任意の好ましい実施形態は、着色コーティング基体を製造するために有利に使用され得る。コーティング基体は、例えば次のものであり得る:
-ツール、例えば、切削ツールまたは成形ツール、
-医療装置または医療デバイス、
-自動車部品、
-装飾部品、
-コーティングされる基板材料としてSiCまたはSiNを含むツールまたは部品。
【0076】
本発明に従って生成される色は、技術的および装飾的な目的の両方を満たすことができ、例えば、ツールの特定の色分けとして使用され得る。
【0077】
本発明は以下を開示する:
【0078】
1つまたは複数のコーティングされる表面を含む1つの基体または複数の基体に着色コーティング表面が設けられる、コーティング基体の製造方法であって、以下のステップを含む方法。
-真空コーティングチャンバの内部にコーティングされる基体を提供するステップ、
-1つもしくは複数の金属を含む、または少なくとも2つの異なる金属で形成された1つもしくは複数の金属合金を含む金属層の堆積を含む、コーティングされる基体の表面にコーティングを堆積するステップ、
-金属層の陽極酸化による着色表面を示す着色酸化物層を形成するステップ、
ここで、
-陽極酸化は、コーティング基体をアノードとして接続したアルカリ電解質浴で行われる。
【0079】
金属層の陽極酸化に使用されるアルカリ電解質浴のpH値は、12~14の範囲、好ましくは12.5~13.5の範囲である。
【0080】
好ましくは、アルカリ電解質浴は水酸化ナトリウム(NaOH)を含む。
【0081】
好ましくは、アルカリ電解質浴は水酸化ナトリウム水溶液であり、それを使用する場合、溶液中のNaOH濃度は、好ましくは重量パーセントで0.5以上0.6以下である。
【0082】
高品質の金属層を得るために、この層は次のタイプのPVD技術を使用して堆積することが好ましい:
マグネトロンスパッタリング技術、
-HiPIMS技術、または
-微粒子フィルターシステムの使用を含むアークイオンメッキ技術。
【0083】
陽極酸化電圧は200Vより低くなるように選択しなければならない。
【0084】
本発明の好ましい実施形態は、次のように要約され得る。
着色コーティング表面を有するコーティングを有するコーティング基体を製造する方法であって、
a)真空コーティングチャンバの内部でコーティングされる1つもしくは複数の基板表面を含む1つの基板本体または複数の基体を提供するステップと、
b)ステップa)の実行後、コーティングする1つまたは複数の基板表面にコーティングを堆積し、コーティングの堆積には、金属層の堆積が含まれ、堆積コーティングがさらなる層を含む場合、金属層は上層として堆積されるステップと、
c)ステップb)の実行後、前記金属層の陽極酸化による前記着色コーティング表面の形成ステップと、を含み、
金属層は、少なくとも2つの異なる金属を含む単一金属層として堆積され、陽極酸化は、12から14の間、好ましくは12.5から13.5の間のpH値を有するアルカリ電解質浴中で起こり、コーティングされる1つまたは複数の基板表面はアノードとして接続され、前記アルカリ電解質浴は水酸化ナトリウム(NaOH)を含むことを特徴とする、方法。
【0085】
上記の方法は、ステップb)で、コーティングされる1つまたは複数の基板表面と単一の金属層との間に少なくとも1つの非金属層が堆積されるように実行することもでき、単一の金属層は、少なくとも1つの非金属層上に直接堆積される。
【0086】
この非金属層は、例えば上述の機能層であり得る。
【0087】
もちろん、本発明によれば、基板と金属層との間にいかなる層を堆積させることなく、コーティングされる基板表面に金属層を直接堆積させることも可能である。
【0088】
上記の2つの方法のいずれかは、アルカリ電解質浴が、重量パーセントで0.5以上0.6以下のNaOH濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液である。
【0089】
上記の3つの方法のいずれかは、金属層が、好ましくは以下を使用することにより、金属層の高品質(特に低粗さおよび平滑性に関して)を達成することを可能にするPVD技術を使用することにより堆積される。
-マグネトロンスパッタリング技術、
-HiPIMS技術、または
-微粒子フィルターシステムの使用を含むアークイオンメッキ技術。
【0090】
すでに上で述べたように、陽極酸化電圧は200V未満に選択する。
【0091】
特定の色を得るために、次のものを含む金属層を生成することが有利であり得る:
-1つもしくは複数の金属と1つもしくは複数の金属合金、または
-1つもしくは複数の金属合金。
図1
図2
図3