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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】電磁流量計
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/60 20060101AFI20230117BHJP
【FI】
G01F1/60
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018130596
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2020008450
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「地熱発電技術研究開発/発電所の環境保全対策等技術開発/温泉と共生した地熱発電のための簡易遠隔温泉モニタリング装置の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】新井 崇
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇作
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀一
(72)【発明者】
【氏名】石川 郁光
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-521690(JP,A)
【文献】特開2003-097986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/58-1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定管内に形成された磁界の中を流れる計測対象の液体の流量を計測する電磁流量計であって、
前記液体の流れによって発生された起電力を検出し、該検出した起電力の大きさの流量信号を出力する少なくとも1対の検出電極と、
前記検出電極とアース電極との間に交流電流を流す測定回路と、
前記交流電流の周波数を1kHz以上に制御し、前記交流電流が流された状態で出力された前記流量信号に基づいて、1mS/cm以上の導電率の前記液体の導電率を算出可能にした制御・演算部と、
を備え、
前記測定回路は、
前記検出電極とアース電極との間に、周波数が1kHz以上の第1の交流電流を流す導電率測定回路と、
前記検出電極とアース電極との間に、周波数が前記第1の交流電流の周波数よりも低い第2の交流電流を流す付着診断回路と、
を備え、
前記第1の交流電流の電流源と前記第2の交流電流の電流源とは、別の電流源である、
ことを特徴とする電磁流量計。
【請求項2】
前記制御・演算部は、
前記第1の交流電流の周波数と前記第2の交流電流の周波数とを、前記電磁流量計における流量測定用の基準のクロック信号に依存しない周波数に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁流量計。
【請求項3】
前記制御・演算部は、
前記検出電極に付着した物質の電気特性の測定と、前記液体の導電率の測定とをするために、前記第1の交流電流の周波数を1kHz~20kHzの間における複数の周波数に制御し、前記第2の交流電流の周波数を、前記第1の交流電流の周波数よりも低い複数の周波数に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁流量計。
【請求項4】
前記制御・演算部は、
前記検出電極とアース電極との間のインピーダンスを模式的に表した等価モデルを用いて、前記導電率の算出と、前記検出電極に付着した物質の電気特性の診断とをする、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電磁流量計。
【請求項5】
前記等価モデルは、
前記検出電極の界面のインピーダンスを模式的に表した電極界面モデルと、前記物質のインピーダンスを模式的に表した付着物質モデルと、前記液体のインピーダンスを模式的に表した流体モデルとが直列に接続された構成の等価回路である、
ことを特徴とする請求項4に記載の電磁流量計。
【請求項6】
前記付着物質モデルは、
前記検出電極に付着した導電性の前記物質のインピーダンスを模式的に表した等価回路である、
ことを特徴とする請求項5に記載の電磁流量計。
【請求項7】
前記制御・演算部は、
前記流量信号から前記流体モデルを構成する流体抵抗を求め、前記流体抵抗の値から前記導電率を算出し、
前記流量信号から、前記電極界面モデルを構成する回路要素と前記付着物質モデルを構成する回路要素とを求め、それぞれの前記回路要素の周波数特性に基づいて、前記検出電極に付着した前記物質の電気特性を診断する、
ことを特徴とする請求項6に記載の電磁流量計。
【請求項8】
前記制御・演算部は、
それぞれの前記回路要素の周波数特性を、それぞれの前記回路要素の値をコール・コール・プロット図に表し、前記コール・コール・プロット図に表された円弧に基づいて、前記検出電極に付着した前記物質の電気特性を診断する、
ことを特徴とする請求項7に記載の電磁流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁誘導を利用して測定管の中を流れる導電性の流体の流量を計測する電磁流量計が実用化されている。電磁流量計は、磁場を形成するために測定管の外部に配置された励磁コイルと、測定管の中に取り付けられた1対の電極との構成によって、導電性の液体の流量を計測する。より具体的には、電磁流量計では、励磁コイルによって導電性の流体が流れる方向と直交する方向に磁場を形成し、流体が測定管の中、つまり、磁界の中を流れる際に発生した起電力(電圧)を1対の電極によって計測する。そして、電磁流量計では、計測した起電力の大きさ(電圧値)が測定管内を流れる流体の速度(流体速度)に比例することを利用して、計測した起電力の大きさ(電圧値)に基づいて流体の流量を計測(算出)し、計測した流体の流量を表す情報を出力する。
【0003】
また、従来の電磁流量計には、流体の流量に加えて、導電性の液体の導電率を計測する機能を備えたものもある。電磁流量計における液体の導電率の計測は、流体の流量を計測する際に励磁コイルに磁場を形成させる周波数に同期した交流信号を用いて行われる。より具体的には、電磁流量計における液体の導電率の計測は、励磁コイルに磁場を形成させる周波数の倍数で予め定めた周波数の電流を電極からアースリングに対して流し、電極とアースリングとの間のインピーダンスを計測することによって行われる。このとき、電極からアースリングに対して流す電流の周波数は、流体の流量の計測に影響しない周波数が選択される。なお、アースリングは、測定管と同一の電位(接地電位)を与えるための基準電極である。
【0004】
ところで、電磁流量計の電極には、汚れの原因となる物質が付着することが考えられる。また、電磁流量計では、付着した物質や測定管内を流れる流体の種類によって、電極が腐食してしまうことも考えられる。このような場合、電磁流量計では、計測する流体の流量に誤差が発生してしまうことになる。さらに、電磁流量計の電極に付着した物質は、その量が多くなると、測定管を詰まらせてしまう(閉塞させてしまう)ことも考えられる。このため、従来から、電磁流量計において、電極に対する物質の付着や電極の腐食を診断するための様々な技術が提案されている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、電極に対する絶縁物の付着を診断する電磁流量計の技術が開示されている。非特許文献1に開示された技術では、電極からアースリングに対して極微少の矩形電流を流し、オームの法則の原理で電極とアースリングとの間の抵抗値を測定することによって、電極に対する絶縁物の付着レベルを判定している。そして、例えば、特許文献1や特許文献2には、非特許文献1に開示されたような電極に対する絶縁物の付着を診断する技術を用いた電磁流量計の技術が開示されている。
【0006】
なお、特許文献1や特許文献2に開示された電磁流量計は、電極に付着した絶縁物を判定するための構成を、液体の導電率の測定にも用いている。つまり、特許文献1や特許文献2に開示された電磁流量計では、電極に付着した絶縁物を判定するために電極からアースリングに対して流す電流と、液体の導電率を計測するために電極からアースリングに対して流す電流とを、同じ回路から流している。
【0007】
また、例えば、特許文献3には、非特許文献1に開示されたような電極への絶縁物の付着を診断する技術を応用して、電極における腐食の程度を把握することができるようにした電磁流量計の技術が開示されている。特許文献3に開示された技術では、電極とアースリングとの間のインピーダンスを抵抗とコンデンサとが組み合わされた簡易的な等価回路で模式的に表している(モデリングしている)。そして、特許文献3に開示された技術では、電極からアースリングに対して流す極微少の矩形電流の周波数を変えながら電極とアースリングとの間のインピーダンスを計測し、計測したインピーダンスをコール・コールの円弧則に従ってプロットして、電極の腐食の状態を判定している。つまり、特許文献3に開示された技術では、コール・コールの円弧の様子が電極の腐食の状態によって変化することを利用し、電極とアースリングとの間のインピーダンスの計測結果に基づいて電極の腐食の状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-234840号公報
【文献】特開2003-097986号公報
【文献】特開2012-078280号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】吉川修、宿谷憲弘、田中俊行、田邊誠司、新井崇、太田博信、“新電磁流量計 ADMAG AXF シリーズ(英題:New ADMAG AXF Series Magnetic Flowmeters)”、横河電機株式会社、横河技報、Vol.48、No.1、p.19~24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、電磁流量計において電極に付着する物質には、様々な種類の物質がある。しかしながら、非特許文献1や、特許文献1および特許文献2に開示された電磁流量計の技術において判定する電極に付着する物質は、絶縁性の物質(絶縁物)である。このため、電磁流量計において電極に付着する物質が導電性の物質(例えば、シリカやカルシウムなど)である場合には、非特許文献1や特許文献1および特許文献2に開示された電磁流量計の技術を用いることができない。
【0011】
また、特許文献1や特許文献2に開示された電磁流量計の技術では、電極に付着した絶縁物の判定と液体の導電率の計測とを同じ回路で行っている。従って、特許文献1や特許文献2に開示された電磁流量計の技術では、液体の導電率を計測するために電極からアースリングに対して流す電流の周波数が、電極に付着した絶縁物を判定するために電極からアースリングに対して流す電流の周波数に依存することになる。このため、特許文献1や特許文献2に開示された電磁流量計の技術では、計測する対象の液体の導電率が、ある一定以上の導電率になると、電極に付着した絶縁物の判定に影響を受けることになる。従って、特許文献1や特許文献2に開示された電磁流量計では、電極に付着する物質が導電性の物質である場合を含め、計測する液体の導電率の範囲にも制約がある。
【0012】
また、特許文献3に開示された電磁流量計の技術において把握する腐食も、電極に付着した絶縁性の物質(絶縁物)である。そして、特許文献3に開示された電磁流量計の技術において模式的に表した(モデリングした)インピーダンスの等価回路は、簡易なものであるため、測定管における電極の界面の状態や流体の抵抗を正確に表しているとはいえない。このため、特許文献3に開示された電磁流量計の技術では、電極に付着する物質が導電性の物質である場合を含めると、計測したインピーダンスから少ない誤差で流体の流量を計測することは困難である。
【0013】
これらのことから、非特許文献1や、特許文献1~特許文献3に開示された電磁流量計の技術を用いても、電極に導電性の物質が付着した場合を含めて、正確に(少ない誤差で)流体の流量の計測や液体の導電率の計測をすることは困難であると考えられる。
【0014】
本発明は、上記の課題に基づいてなされたものであり、電極に導電性の物質が付着した場合でも付着物の有無を診断することができ、さらに液体の導電率を計測することができる電磁流量計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明の電磁流量計は、測定管内に形成された磁界の中を流れる計測対象の液体の流量を計測する電磁流量計であって、前記液体の流れによって発生された起電力を検出し、該検出した起電力の大きさの流量信号を出力する少なくとも1対の検出電極と、前記検出電極とアース電極との間に交流電流を流す測定回路と、前記交流電流の周波数を1kHz以上に制御し、前記交流電流が流された状態で出力された前記流量信号に基づいて、1mS/cm以上の導電率の前記液体の導電率を算出可能にした制御・演算部と、を備える、ことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、電磁流量計は、導電率を算出する際にそれぞれの検出電極に流す交流電流の周波数を1kHz以上に制御することにより、液体の導電率を計測する範囲が制約されることなく、液体の導電率が高い場合(例えば、導電率が1mS/cm以上である場合)であっても計測することができる。
【0017】
また、本発明の電磁流量計における前記測定回路は、前記検出電極とアース電極との間に第1の交流電流を流す導電率測定回路と、前記検出電極とアース電極との間に第2の交流電流を流す付着診断回路と、を備え、前記第1の交流電流の電流源と前記第2の交流電流の電流源とは、同一の電流源または別の電流源である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、電磁流量計は、液体の導電率の算出と検出電極への物質の付着の診断とを、異なる周波数の第1の交流電流と第2の交流電流とによって行うことができる。そして、本発明の電磁流量計は、導電率測定回路に備えた電流源が検出電極のそれぞれに流す第1の交流電流と、付着診断回路に備えた電流源が検出電極のそれぞれに流す第2の交流電流とを異なる電流値の交流電流にすることができる。これにより、本発明の電磁流量計は、導電率を算出する際にそれぞれの検出電極に流す第1の交流電流の電流値と、検出電極への物質の付着を診断する際にそれぞれの検出電極に流す第2の交流電流の電流値とを、適切な電流値にすることができ、第1の交流電流が流された状態で出力された流量信号に基づいて導電率を算出し、第2の交流電流が流された状態で出力された流量信号に基づいて検出電極への物質の付着を診断することができる。
【0019】
また、本発明の電磁流量計における前記制御・演算部は、前記第1の交流電流の周波数と前記第2の交流電流の周波数とを、前記電磁流量計における流量測定用の基準のクロック信号に依存しない周波数に制御する、ことを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、電磁流量計は、導電率を算出する際にそれぞれの検出電極に流す第1の交流電流の周波数と、検出電極への物質の付着を診断する際にそれぞれの検出電極に流す第2の交流電流の周波数とを、適切な周波数にすることができる。これにより、本発明の電磁流量計は、液体の導電率を計測する範囲が制約されることなく、液体の導電率が高い場合(例えば、導電率が1mS/cm以上である場合)であっても計測することができる。
【0021】
また、本発明の電磁流量計における前記制御・演算部は、前記検出電極に付着した物質の電気特性の測定と、前記液体の導電率の測定とをするために、前記第1の交流電流の周波数と前記第2の交流電流の周波数とを、10Hz~2MHzの間における複数の周波数に制御する、ことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、電磁流量計は、検出電極への物質の付着の測定と液体の導電率の測定とのそれぞれを行う際に、それぞれの検出電極に流す交流電流の周波数を10Hz~2MHzの間における複数の周波数に制御する。これにより、本発明の電磁流量計は、検出電極への物質の付着を適切に診断することができ、検出電極に付着した物質による影響を受けることなく、液体の導電率の算出を適切に行うことができる。
【0023】
また、本発明の電磁流量計における前記制御・演算部は、前記検出電極とアース電極との間のインピーダンスを模式的に表した等価モデルを用いて、前記導電率の算出と、前記検出電極に付着した物質の電気特性の診断とをする、ことを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、電磁流量計は、検出電極に付着した物質を含めて正確に表した等価モデルを用いて、液体の導電率と検出電極に付着した物質の電気特性を診断することができる。
【0025】
また、本発明の電磁流量計における前記等価モデルは、前記検出電極の界面のインピーダンスを模式的に表した電極界面モデルと、前記物質のインピーダンスを模式的に表した付着物質モデルと、前記液体のインピーダンスを模式的に表した流体モデルとが直列に接続された構成の等価回路である、ことを特徴とする。
【0026】
また、本発明の電磁流量計における前記付着物質モデルは、前記検出電極に付着した導電性の前記物質のインピーダンスを模式的に表した等価回路である、ことを特徴とする。
【0027】
本発明によれば、電磁流量計は、測定管における検出電極の界面の状態や、検出電極に付着している導電性の物質の状態、流体の抵抗を正確に表した等価モデルを用いて、液体の導電率と検出電極に付着した物質の電気測定を診断することができる。
【0028】
また、本発明の電磁流量計における前記制御・演算部は、前記流量信号から前記流体モデルを構成する流体抵抗を求め、前記流体抵抗の値から前記導電率を算出し、前記流量信号から、前記電極界面モデルを構成する回路要素と前記付着物質モデルを構成する回路要素とを求め、それぞれの前記回路要素の周波数特性に基づいて、前記検出電極に付着した前記物質の電気特性を診断する、ことを特徴とする。
【0029】
本発明によれば、電磁流量計は、等価モデルで表された回路要素のうち、対応する回路要素に基づいて、液体の導電率と検出電極に付着した物質の電気特性を診断することができる。
【0030】
また、本発明の電磁流量計における前記制御・演算部は、それぞれの前記回路要素の周波数特性を、それぞれの前記回路要素の値をコール・コール・プロット図に表し、前記コール・コール・プロット図に表された円弧に基づいて、前記検出電極に付着した前記物質の電気特性を診断する、ことを特徴とする。
【0031】
本発明によれば、電磁流量計は、対応する回路要素の周波数特性に基づいて、検出電極に付着した物質の有無を診断することができる。さらに、本発明の電磁流量計では、検出電極に付着した物質が積層している状態も診断することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、電極に付着した導電性の物質の電気特性を診断することができ、さらに液体の導電率を計測することができる電磁流量計を提供することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態における電磁流量計の概略構成を示したブロック図である。
図2】本発明の実施形態の電磁流量計において用いる等価回路である。
図3】本発明の実施形態の電磁流量計において参照する電気化学の分野の等価回路および電極に付着する物質の状態を示した図である。
図4】本発明の実施形態の電磁流量計において動作する構成を簡易的に示したブロック図である。
図5】本発明の実施形態の電磁流量計において計測するインピーダンスの一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態における電磁流量計の概略構成を示したブロック図である。電磁流量計100は、センサ1と、バッファ回路2Aおよびバッファ回路2Bと、差動増幅回路3と、流量信号A/D変換回路4と、励磁回路5と、制御・演算部6と、クロック回路7と、付着診断回路10と、導電率測定回路20とを含んで構成される。また、センサ1は、1対の検出電極(検出電極1Aおよび検出電極1B)と、励磁コイル1Cと、アースリング1Eと、測定管1Pとを含んで構成される。
【0035】
電磁流量計100は、測定管1Pの中を流れる計測対象の流体である導電性の液体の速度(流体速度)に基づいて、導電性の液体の流量を計測する機器である。電磁流量計100は、例えば、プラント内に配置された配管などの設備に設置される現場機器として用いられる。なお、プラントとしては、石油の精製や化学製品の生産を行う工業プラントの他、ガス田や油田などの井戸元やその周辺を管理制御するプラント、水力・火力・原子力などの発電を管理制御するプラント、太陽光や風力などの環境発電を管理制御するプラント、上下水やダムなどを管理制御するプラントなどが含まれる。この場合、電磁流量計100は、プラント内に配置された配管に設置された位置で、例えば、工業用水や薬品などの液体状の製品あるいは半製品の流体速度を計測し、計測した流体速度に基づいて流量を計測する。以下の説明においては、電磁流量計100が、プラント内に配置された配管に設置され、測定管1Pの中を流れる計測対象の流体である導電性の液体の流体速度を計測することによって、導電性の液体の流量を計測するものとして説明する。
【0036】
電磁流量計100は、センサ1が計測した電圧信号(以下、「流量信号」という)に基づいて、測定管1Pの中を流れる液体の流体速度を算出し、この流体速度から算出した液体の流量を表す計測信号を出力する。また、電磁流量計100は、検出電極1Aや検出電極1Bへの導電性の物質の付着を診断する機能や、計測対象の流体である導電性の液体の導電率を計測する機能を備えている。電磁流量計100は、センサ1が計測した流量信号に基づいて、検出電極1Aや検出電極1Bへの導電性の物質の付着の診断や、測定管1Pの中を流れる液体の導電率の計測を行い、その結果を計測信号として出力する。
【0037】
なお、電磁流量計100では、センサ1を構成する励磁コイル1Cが、測定管1Pの外部に配置され、センサ1を構成する1対の検出電極である検出電極1Aと検出電極1Bとのそれぞれが、測定管1P内で液体が接する面の対向した位置(図1に示した位置aまたは位置b)に配置されている。しかし、図1においては、説明を容易にするため、位置aに配置された検出電極1Aおよび位置bに配置された検出電極1Bのそれぞれを抜き出して、対応するバッファ回路2Aまたはバッファ回路2Bに隣接する位置に示している。また、電磁流量計100では、センサ1を構成するアースリング1Eは、測定管1Pの接地レベル(接地電位)の位置に配置されている。アースリング1Eは、測定管1Pと同一の電位(接地電位)を与えるためのアース電極(基準電極)である。なお、アースリング1Eは、検出電極1Aとアースリング1Eとの距離、および検出電極1Bとアースリング1Eとの距離が同等の距離となる位置に配置されることが望ましい。
【0038】
センサ1は、励磁コイル1Cによって測定管1Pに対して磁場を形成し、励磁コイル1Cによって形成された磁界の中を流れる液体、つまり、測定管1Pの中を流れる液体の抵抗(流体抵抗)によって発生した起電力(電圧)を、検出電極1Aと検出電極1Bとのそれぞれによって検出する。そして、検出電極1Aは、検出した起電力の大きさ(電圧値)の流量信号VAを、対応するバッファ回路2Aに出力する。また、検出電極1Bは、検出した起電力の大きさ(電圧値)の流量信号VBを、対応するバッファ回路2Bに出力する。
【0039】
励磁回路5は、センサ1を構成する励磁コイル1Cに測定管1Pに対する磁場を形成させるために必要な交流の励磁電流を出力する励磁回路である。励磁回路5は、制御・演算部6から出力された励磁電流タイミング信号TEXの周波数の励磁電流を、励磁コイル1Cに出力する。これにより、励磁コイル1Cによって、励磁電流タイミング信号TEXの周波数に応じた磁場が、測定管1Pの周辺に形成される。そして、検出電極1Aおよび検出電極1Bのそれぞれから、励磁回路5が出力した励磁電流に応じて励磁コイル1Cが形成した磁界の中を流れる液体によって発生した起電力の大きさ(電圧値)の流量信号(流量信号VAおよび流量信号VB)が、対応するバッファ回路2Aまたはバッファ回路2Bのいずれかに出力される。
【0040】
付着診断回路10は、電磁流量計100において検出電極への導電性の物質の付着を診断する際に、予め定めた信号レベル(電流値)の矩形の交流信号(矩形の交流電流(以下、「矩形電流」という))を、検出電極1Aおよび検出電極1Bと、アースリング1E、つまり、配管(接地レベル)との間に出力する同期整流回路である。付着診断回路10は、制御・演算部6から出力された付着診断タイミング信号TadXの周波数で、予め定めた電流値の矩形電流IadAを、検出電極1Aとアースリング1Eとの間に流す。また、付着診断回路10は、制御・演算部6から出力された付着診断タイミング信号TadXの周波数で、予め定めた電流値の矩形電流IadBを、検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流す。
【0041】
付着診断回路10は、定電流源11Aと、定電流源11Bとを含んで構成される。定電流源11Aおよび定電流源11Bのそれぞれは、制御・演算部6からの制御に応じた電流値の矩形電流を出力する定電流源である。定電流源11Aは、検出電極1Aとアースリング1Eとの間に矩形電流IadAを流す定電流源である。また、定電流源11Bは、検出電極1Bとアースリング1Eとの間に矩形電流IadBを流す定電流源である。なお、定電流源11Aが検出電極1Aとアースリング1Eとの間に流す矩形電流IadAと、定電流源11Bが検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流す矩形電流IadBとは、同じ周波数で極性が逆(逆の位相、つまり、位相が180度ずれたもの。「逆相」ともいう)の交流電流である。
【0042】
導電率測定回路20は、電磁流量計100において液体の導電率を計測する際に、予め定めた信号レベル(電流値)の矩形電流を、検出電極1Aおよび検出電極1Bと、アースリング1E、つまり、配管(接地レベル)との間に出力する同期整流回路である。導電率測定回路20は、制御・演算部6から出力された導電率測定タイミング信号TcmXの周波数で、予め定めた電流値の矩形電流IcmAを、検出電極1Aとアースリング1Eとの間に流す。また、導電率測定回路20は、制御・演算部6から出力された導電率測定タイミング信号TcmXの周波数で、予め定めた電流値の矩形電流IcmBを、検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流す。
【0043】
導電率測定回路20は、定電流源21Aと、定電流源21Bとを含んで構成される。定電流源21Aおよび定電流源21Bのそれぞれは、制御・演算部6からの制御に応じた電流値の矩形電流を出力する定電流源である。定電流源21Aは、検出電極1Aとアースリング1Eとの間に矩形電流IcmAを流す定電流源である。また、定電流源21Bは、検出電極1Bとアースリング1Eとの間に矩形電流IcmBを流す定電流源である。なお、定電流源21Aが検出電極1Aとアースリング1Eとの間に流す矩形電流IcmAと、定電流源21Bが検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流す矩形電流IcmBとは、付着診断回路10に備えた定電流源11Aが流す矩形電流IadAおよび定電流源11Bが流す矩形電流IadBと同様に、同じ周波数で極性が逆相の交流電流である。
【0044】
バッファ回路2Aおよびバッファ回路2Bのそれぞれは、対応する検出電極1Aまたは検出電極1Bに出力された流量信号(流量信号VAまたは流量信号VB)を、差動増幅回路3に受け渡すための緩衝回路である。バッファ回路2Aおよびバッファ回路2Bのそれぞれは、対応する検出電極1Aまたは検出電極1Bから出力された流量信号のインピーダンスを変換し、インピーダンス変換した後の流量信号を差動増幅回路3に出力する。
【0045】
差動増幅回路3は、バッファ回路2Aおよびバッファ回路2Bとのそれぞれから出力されたインピーダンス変換した後の流量信号の差分をとり、さらに差分をとった流量信号の信号レベルを増幅して、流量信号A/D変換回路4に出力する。以下の説明においては、差動増幅回路3が流量信号A/D変換回路4に出力する差分をとった流量信号を、「差分流量信号」という。差動増幅回路3が、バッファ回路2Aおよびバッファ回路2Bとのそれぞれから出力されたそれぞれの流量信号の差分をとることによって、電磁流量計100では、それぞれの流量信号に含まれる、例えば、商用ノイズなどの同相成分のノイズが除去された差分流量信号が、流量信号A/D変換回路4に出力される。
【0046】
流量信号A/D変換回路4は、差動増幅回路3から出力された差分流量信号(アナログ信号)をアナログデジタル変換し、センサ1が検出した流量信号(流量信号VAおよび流量信号VB)の信号レベルの大きさに応じたデジタル値のデジタル信号(以下、「差分デジタル流量信号」という)を生成する。流量信号A/D変換回路4は、生成した差分デジタル流量信号を、制御・演算部6に出力する。流量信号A/D変換回路4が出力した差分デジタル流量信号は、電磁流量計100が流体の流量を計測する通常の計測動作(以下、「流量計測動作」という)において、測定管1Pの中を流れる液体の流量を算出する演算処理(以下、「流量演算処理」という)に用いられる。また、流量信号A/D変換回路4が出力した差分デジタル流量信号は、電磁流量計100が検出電極への導電性の物質の付着を診断する診断動作(以下、「付着診断動作」という)において、検出電極に付着した物質の電気特性から導電性の物質の検出電極への付着を診断する演算処理(以下、「電極付着演算処理」という)に用いられる。なお、電磁流量計100では、検出電極1Aおよび検出電極1Bのいずれか一方の検出電極に対して付着診断動作を行い、電極付着演算処理において検出電極1Aおよび検出電極1Bのいずれか一方の検出電極に出力された流量信号(流量信号VAまたは流量信号VB)に対応する差分デジタル流量信号を用いることによって、それぞれの検出電極ごとに、導電性の物質の付着を診断することができる。また、流量信号A/D変換回路4が出力した差分デジタル流量信号は、電磁流量計100が液体の導電率を計測する計測動作(以下、「導電率計測動作」という)において、測定管1Pの中を流れる液体の導電率を算出する演算処理(以下、「導電率演算処理」という)に用いられる。なお、電磁流量計100における導電率演算処理では、検出電極1Aおよび検出電極1Bのいずれか一方の検出電極に出力された流量信号(流量信号VAまたは流量信号VB)に対応する差分デジタル流量信号のみを用いてもよい。
【0047】
クロック回路7は、クロックを発振し、発振したクロックの信号を、制御・演算部6が動作する、すなわち、電磁流量計100が動作する基準のクロック信号(システムクロック信号)として制御・演算部6に供給する。なお、クロック回路7が制御・演算部6に供給するクロック信号は、発振した原発振クロックの信号や、原発振クロックを分周した分周クロックの信号など、複数のクロック信号であってもよい。
【0048】
制御・演算部6は、クロック回路7から出力されたクロック信号に基づいて動作し、電磁流量計100に備えたそれぞれの構成要素を制御する。制御・演算部6は、例えば、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)などによって構成され、電磁流量計100の機能を実現するためのアプリケーションプログラムに応じて、電磁流量計100に備えたそれぞれの構成要素の全体を制御する。なお、制御・演算部6が実行するアプリケーションプログラムは、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)などの種々のメモリで構成される不図示の記憶部に記憶されていてもよい。この場合、制御・演算部6は、不図示の記憶部に記憶されたアプリケーションプログラムを読み出して実行することにより、電磁流量計100に備えたそれぞれの構成要素の全体を制御する。
【0049】
電磁流量計100では、流量計測動作と、付着診断動作と、導電率計測動作とを行うことができる。制御・演算部6は、電磁流量計100が行う動作に応じて、励磁回路5と、付着診断回路10と、導電率測定回路20とのそれぞれが動作するために必要な周波数のそれぞれのタイミング信号を生成する。より具体的には、制御・演算部6は、励磁回路5が励磁コイル1Cに測定管1Pに対する磁場を形成させるために必要な周波数(例えば、300Hz以下の周波数)の励磁電流タイミング信号TEXを生成する。なお、制御・演算部6が生成する励磁電流タイミング信号TEXの周波数は、従来の電磁流量計と同様である。また、制御・演算部6は、電磁流量計100が付着診断動作を行うために必要な予め定めた周波数の範囲の間(例えば、10Hz~2MHzの間)で掃引(スイープ)する周波数の付着診断タイミング信号TadXを生成する。なお、電磁流量計100が付着診断動作を行う際に制御・演算部6が生成する付着診断タイミング信号TadXの周波数は、10Hz~2MHzの間で掃引(スイープ)することに限定されるものではなく、例えば、10Hz~2MHzの間で予め定めた複数の周波数に順次切り替わるものであってもよい。また、制御・演算部6は、電磁流量計100が導電率計測動作を行うために必要な予め定めた高い周波数(例えば、1kHz以上の周波数)の導電率測定タイミング信号TcmXを生成する。つまり、制御・演算部6は、電磁流量計100が導電率計測動作を行う際に生成する導電率測定タイミング信号TcmXの周波数を、電磁流量計100が付着診断動作を行う際に生成する付着診断タイミング信号TadXの周波数以上の周波数にする。なお、電磁流量計100が導電率計測動作を行う際に制御・演算部6が生成する導電率測定タイミング信号TcmXは、例えば、1kHz~20kHzの間で周波数を掃引(スイープ)するもの、または1kHz~20kHzの間の予め定めた周波数に順次切り替わるものであってもよい。
【0050】
なお、制御・演算部6が生成する励磁電流タイミング信号TEX、付着診断タイミング信号TadX、および導電率測定タイミング信号TcmXのそれぞれのタイミング信号は、互いに相関関係にない。そして、励磁電流タイミング信号TEX、付着診断タイミング信号TadX、および導電率測定タイミング信号TcmXのそれぞれのタイミング信号は、クロック回路7から入力されたクロック信号(システムクロック信号)に同期している必要はない。つまり、励磁電流タイミング信号TEX、付着診断タイミング信号TadX、および導電率測定タイミング信号TcmXのそれぞれのタイミング信号は互いに依存しておらず、さらに、クロック回路7から入力されたクロック信号(システムクロック信号)にも依存していない。しかし、制御・演算部6は、クロック回路7から入力されたクロック信号を予め定めた分周比で分周することによって、励磁電流タイミング信号TEX、付着診断タイミング信号TadX、および導電率測定タイミング信号TcmXの一部または全部のタイミング信号を、容易に生成する構成にしてもよい。
【0051】
そして、制御・演算部6は、生成したそれぞれのタイミング信号を、対応する構成要素に出力する。より具体的には、制御・演算部6は、励磁電流タイミング信号TEXを励磁回路5に出力し、付着診断タイミング信号TadXを付着診断回路10に出力し、導電率測定タイミング信号TcmXを導電率測定回路20に出力する。このとき、制御・演算部6は、電磁流量計100が流量計測動作、付着診断動作、および導電率計測動作のいずれの動作を行うかに応じて、生成したタイミング信号(励磁電流タイミング信号TEX、付着診断タイミング信号TadX、および導電率測定タイミング信号TcmX)を励磁回路5、付着診断回路10、および導電率測定回路20のそれぞれに出力するか否かを切り替える。より具体的には、制御・演算部6は、電磁流量計100が流量計測動作を行う際には、励磁回路5に励磁電流タイミング信号TEXを出力し、付着診断回路10と導電率測定回路20とのそれぞれには、対応するタイミング信号を出力しない。また、制御・演算部6は、電磁流量計100が付着診断動作を行う際には、付着診断回路10に付着診断タイミング信号TadXを出力し、励磁回路5と導電率測定回路20とのそれぞれには、対応するタイミング信号を出力しない。また、制御・演算部6は、電磁流量計100が導電率計測動作を行う際には、導電率測定回路20に導電率測定タイミング信号TcmXを出力し、励磁回路5と付着診断回路10とのそれぞれには、対応するタイミング信号を出力しない。つまり、制御・演算部6は、電磁流量計100が流量計測動作をするときと、付着診断動作をするときと、導電率計測動作をするときとで、生成したタイミング信号の出力を排他的に切り替える。
【0052】
なお、本発明においては、電磁流量計100において流量計測動作をする期間と、付着診断動作をする期間と、導電率計測動作をする期間とのそれぞれの長さに関しては、特に規定しない。例えば、電磁流量計100は、予め定めた周期的な期間ごとに、流量計測動作と、付着診断動作と、導電率計測動作とを順番に行ってもよい。また、例えば、電磁流量計100は、予め定めた周期的な期間ごとに、流量計測動作と、付着診断動作または導電率計測動作を交互に行ってもよい。このとき、電磁流量計100は、流量計測動作を行っていない期間において、付着診断動作と導電率計測動作とを交互に行ってもよい。また、例えば、電磁流量計100は、1日に1回や2回など、予め定めた割合で付着診断動作や導電率計測動作を行い、それ以外のときは流量計測動作を行っていてもよい。従って、制御・演算部6は、電磁流量計100が異なる動作を行う際に、励磁回路5、付着診断回路10、および導電率測定回路20のそれぞれに出力するタイミング信号を生成して出力してもよい。
【0053】
なお、電磁流量計100では、付着診断動作と導電率計測動作とを、制御・演算部6が付着診断回路10に出力する付着診断タイミング信号TadXと、導電率測定回路20に出力する導電率測定タイミング信号TcmXとで切り替えている。しかし、電磁流量計100では、付着診断動作と導電率計測動作とを同時期に行うこともできる。より具体的には、制御・演算部6は、付着診断動作を行うために10Hz~2MHzの間で掃引(スイープ)または予め定めた周波数に順次切り替えた付着診断タイミング信号TadXを付着診断回路10に出力した後に、導電率計測動作を行うための1kHz以上(例えば、20kHz)の周波数の導電率測定タイミング信号TcmXを導電率測定回路20に出力する。これにより、制御・演算部6は、電磁流量計100における付着診断動作と導電率計測動作とを同時期に行うようにすることができる。
【0054】
また、制御・演算部6は、流量信号A/D変換回路4から出力された差分デジタル流量信号に対して、電磁流量計100における予め定めた流量演算処理、電極付着演算処理、および導電率演算処理を行う演算処理部でもある。制御・演算部6は、それぞれの演算処理を行った結果、つまり、測定管1Pの中を流れる液体の流量や、検出電極への導電性の物質の付着を診断した結果、測定管1Pの中を流れる液体の導電率を表すデジタル信号を、計測信号として電磁流量計100の外部に出力する。なお、制御・演算部6は、流量演算処理、電極付着演算処理、および導電率演算処理を行う際に、不図示の記憶部を利用してもよい。つまり、制御・演算部6は、それぞれの演算処理において、処理の途中のデータなどを不図示の記憶部に一時的に記憶したり(書き込んだり)、不図示の記憶部に記憶されているデータを取得したり(読み出したり)しながら、それぞれの演算処理を実行してもよい。
【0055】
なお、制御・演算部6は、流量演算処理、電極付着演算処理、および導電率演算処理のそれぞれの演算処理を行わずに、流量信号A/D変換回路4から出力された差分デジタル流量信号を計測信号として出力する構成にしてもよい。この場合、例えば、電磁流量計100の外部のパーソナルコンピュータ(Personal Computer:PC)などによって、電磁流量計100から出力された計測信号に対して流量演算処理、電極付着演算処理、および導電率演算処理のそれぞれの演算処理を行うことができる。
【0056】
また、制御・演算部6は、デジタル信号を計測信号として外部に出力する際に、デジタル信号が表すデジタル値を、例えば、予め定めた範囲のデジタル値に変換してから出力してもよい。また、制御・演算部6は、外部に出力する計測信号(デジタル信号)を、例えば、4mA~20mAの範囲の直流アナログ信号に変換し、アナログ信号(電流信号)として出力してもよい。この場合、制御・演算部6は、外部に出力する計測信号(デジタル信号)が表すデジタル値を、4mA~20mAの範囲の信号レベルで表す直流アナログ信号にデジタルアナログ変換して出力する。また、制御・演算部6は、直流アナログ信号の計測信号を、プラント内に専用に構築された通信ネットワークによる通信よって、例えば、プラントにおいて設備の運転を制御する制御装置などの電磁流量計100の外部に出力してもよい。なお、プラントにおいて構築された通信ネットワークとしては、例えば、ISA100.11aなどの工業用の無線規格、センサネットワークシステムなどの無線規格、Wireless/Wired HART(登録商標)などの無線と有線とが混在した通信規格、MODBUS(登録商標)などのマスター/スレーブ方式の通信規格など、種々な通信規格によって電磁流量計100と制御装置との間でデータなどの送受信を行う通信ネットワークが考えられる。また、プラントにおいて構築された通信ネットワークとしては、例えば、FOUNDATION(登録商標)フィールドバス、PROFIBUS(PROCESS FIELD BUS)(登録商標)などのフィールドバス規格など、種々な方式によって電磁流量計100と制御装置との間でデータなどのやり取りを行う通信ネットワークが考えられる。なお、通信ネットワークは、例えば、一般的なWiFi(登録商標)の無線規格によって電磁流量計100と制御装置との間で送受信を行う通信ネットワークであってもよい。この場合、制御・演算部6は、出力するデジタル信号を直流アナログ信号にデジタルアナログ変換せずに、デジタル信号のまま、制御装置などの電磁流量計100の外部に出力(送信)することが考えられる。
【0057】
次に、電磁流量計100におけるそれぞれの動作について説明する。まず、電磁流量計100において測定管1Pの中を流れる液体の流量を計測する流量計測動作について説明する。流量計測動作において、電磁流量計100は、付着診断回路10および導電率測定回路20のそれぞれが交流信号を出力していない(矩形電流を流していない)状態で、励磁コイル1Cによって形成した磁界の中を液体が流れることによって発生した起電力(電圧)を、検出電極1Aと検出電極1Bとのそれぞれで検出する。そして、差動増幅回路3が、検出電極1Aおよび検出電極1Bのそれぞれが出力した流量信号(流量信号VAおよび流量信号VB)の差分をとって同相成分のノイズを除去した差分流量信号を出力し、流量信号A/D変換回路4が、差分流量信号(アナログ信号)をアナログデジタル変換した差分デジタル流量信号を出力する。その後、制御・演算部6が、流量信号A/D変換回路4が出力した差分デジタル流量信号に基づいて流量を算出し、計測信号として電磁流量計100の外部に出力する。なお、電磁流量計100における通常の流量計測動作は、一般的な電磁流量計において液体の流量を計測する計測動作と同様である。従って、電磁流量計100の通常の流量計測動作に関する詳細な説明は省略する。
【0058】
続いて、電磁流量計100において検出電極への導電性の物質の付着を診断する付着診断動作と、測定管1Pの中を流れる液体の導電率を計測する導電率計測動作について説明する。電磁流量計100における付着診断動作では、付着診断回路10が交流信号を出力し、電磁流量計100における導電率計測動作では、導電率測定回路20が交流信号を出力し、対応する検出電極1Aまたは検出電極1Bとアースリング1Eとの間にそれぞれの矩形電流を流す。これにより、検出電極1Aおよび検出電極1Bのそれぞれは、アースリング1Eとの間を流れる液体の流体抵抗によって発生した起電力(電圧値)を検出し、検出した起電力の大きさ(電圧値)の流量信号(流量信号VAまたは流量信号VB)を出力する。そして、電磁流量計100における付着診断動作と導電率計測動作とでも、電磁流量計100における通常の流量計測動作と同様に、差動増幅回路3が、検出電極1Aおよび検出電極1Bのそれぞれが出力した流量信号(流量信号VAおよび流量信号VB)の差分をとって同相成分のノイズを除去した差分流量信号を出力し、流量信号A/D変換回路4が、差分流量信号(アナログ信号)をアナログデジタル変換した差分デジタル流量信号を出力する。その後、制御・演算部6が、流量信号A/D変換回路4が出力した差分デジタル流量信号に対して電極付着演算処理や導電率演算処理を行う。そして、制御・演算部6は、電極付着演算処理を行って検出電極への導電性の物質の付着を診断した結果や、導電率演算処理を行って算出した測定管1Pの中を流れる液体の導電率を、計測信号として電磁流量計100の外部に出力する。
【0059】
なお、電磁流量計100における電極付着演算処理と導電率演算処理とでは、それぞれの検出電極からアースリング1Eまでの間のインピーダンスを、抵抗やコンデンサを組み合わせた等価回路で模式的に表し(モデリングし)、この等価回路に基づいて、それぞれの演算処理を行う。ここで、電磁流量計100における電極付着演算処理と導電率演算処理とにおいて用いる等価回路について説明する。
【0060】
図2は、本発明の実施形態の電磁流量計100において用いる等価回路である。図2には、検出電極1Aまたは検出電極1Bとアースリング1Eとの間のインピーダンスを模式的に表した(モデリングした)等価回路(以下、「等価モデル」という)である。また、図3は、本発明の実施形態の電磁流量計100において参照する電気化学の分野の等価回路および電極(検出電極1Aおよび検出電極1B)に付着する物質の状態を示した図である。なお、以下の説明においては、図2に示した等価モデルが、検出電極1Aとアースリング1Eとの間のインピーダンスを表した等価回路であるものとして説明する。
【0061】
図2に示した等価モデルは、電極界面モデルと、付着物質モデルと、流体モデルとが直列に接続された構成の等価回路である。ここで、電極界面モデルは、検出電極1Aの界面のインピーダンスを模式的に表した(モデリングした)等価回路である。また、付着物質モデルは、検出電極1Aに付着した導電性の物質のインピーダンスを模式的に表した(モデリングした)等価回路である。また、流体モデルは、測定管1Pの中を流れる導電性の液体のインピーダンスを模式的に表した(モデリングした)等価回路である。
【0062】
電極界面モデルは、電荷移動過程抵抗Rtとワールブルグ拡散インピーダンスWとが直列に接続され、さらに電気二重層容量Cdlが並列に接続されている。この電極界面モデルの構成は、図3の(a)に示したような、電気化学の分野の等価回路(以下、「電気化学モデル」という)に基づくものである。より具体的には、電極界面モデルの構成は、図3の(a)に示した電気化学モデルにおける電極の不動態皮膜内の不動態皮膜抵抗Rpsvより先の液体内の等価回路において、拡散電流Iが流れる電気二重層内の表面化学反応容量Cadと反応中間体化学反応抵抗Rsurを除いた構成である。なお、電極界面モデルにおいて電気化学モデルから表面化学反応容量Cadと反応中間体化学反応抵抗Rsurを除いのは、電磁流量計100では測定管1P内で化学反応は起こらないためである。
【0063】
また、付着物質モデルは、付着抵抗Raと付着容量Caとが並列に接続されている。この付着物質モデルの構成は、図3の(b)に示したような電極(検出電極1Aおよび検出電極1B)に付着するポーラス状の物質(付着物質)の状態を表したものである。より具体的には、付着物質モデルの構成は、図3の(b)に示したポーラス状の付着物質に含まれる液体に相当する部分を付着抵抗Raで表し、ポーラス状の付着物質に含まれる付着物に相当する部分を付着容量Caで表したものである。
【0064】
また、流体モデルは、流体抵抗Rsolで構成されている。この流体モデルの構成は、図3の(a)に示した電気化学モデルにおける液体内の等価回路において、電気二重層の先の構成である。
【0065】
そして、電磁流量計100では、制御・演算部6が、図2に示したような電極界面モデルと、付着物質モデルと、流体モデルとのそれぞれが直列に接続された等価モデルを用いて、検出電極への導電性の物質の付着を診断する電極付着演算処理と、測定管1Pの中を流れる液体の導電率を算出する導電率演算処理とを行う。より具体的には、制御・演算部6は、電極付着演算処理において、流量信号A/D変換回路4から出力されたそれぞれの周波数の差分デジタル流量信号から、例えば、最小二乗法の逆演算によって、等価モデルに含まれる電極界面モデルと付着物質モデルとにおけるそれぞれの回路要素(電荷移動過程抵抗Rt、ワールブルグ拡散インピーダンスW、電気二重層容量Cdl、付着抵抗Ra、および付着容量Ca)の値(パラメータ)を求める。そして、制御・演算部6は、それぞれの回路要素の周波数特性に基づいて、検出電極に付着した導電性の物質の有無を診断する。このとき、制御・演算部6は、それぞれの回路要素の周波数特性を求めるため、それぞれの回路要素のパラメータをコール・コールの円弧則に従って表した(プロットした)コール・コール・プロット図を生成する。そして、制御・演算部6は、生成したコール・コール・プロット図に表された円弧に基づいて、検出電極に付着した導電性の物質の有無を診断する。
【0066】
また、制御・演算部6は、導電率演算処理において、電極付着演算処理と同様に、流量信号A/D変換回路4から出力された差分デジタル流量信号から、等価モデルに含まれる流体抵抗Rsolの値(パラメータ)を求める。そして、制御・演算部6は、求めた流体抵抗Rsolの値から測定管1Pの中を流れる液体の導電率を算出する。
【0067】
なお、電磁流量計100において制御・演算部6が、電極付着演算処理と導電率演算処理とのそれぞれの演算処理において用いる、上述した電極界面モデルと、付着物質モデルと、流体モデルとのそれぞれのモデル(等価回路)が直列に接続された構成の等価モデルは、従来の電磁流量計において腐食を把握するために模式的に表した(モデリングした)等価回路、つまり、絶縁性の物質(絶縁物)に対応する等価回路も含んでいる。従って、制御・演算部6は、電極付着演算処理において検出電極への導電性の物質の付着の診断のみを行うのではなく、検出電極への絶縁物の付着の診断も、流量信号A/D変換回路4から出力されたそれぞれの周波数の差分デジタル流量信号から行うことができる。この場合、制御・演算部6は、流量信号A/D変換回路4から出力された差分デジタル流量信号から、等価モデルに含まれる付着抵抗Raと付着容量Caとの値(パラメータ)を求める。そして、制御・演算部6は、求めた付着抵抗Raと付着容量Caとのそれぞれのパラメータを表した(プロットした)コール・コール・プロット図を生成し、生成したコール・コール・プロット図に表された円弧に基づいて、検出電極に付着した絶縁物の有無を診断する。
【0068】
ここで、電磁流量計100が付着診断動作および導電率計測動作において計測するインピーダンスの一例について説明する。なお、上述したように、電磁流量計100では、付着診断動作を行う際に、制御・演算部6が、例えば、10Hz~2MHzの間で掃引(スイープ)する周波数の付着診断タイミング信号TadXを生成して付着診断回路10に出力し、付着診断回路10が、矩形電流IadAを検出電極1Aとアースリング1Eとの間に流し、矩形電流IadBを検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流す。また、電磁流量計100では、導電率計測動作を行う際に、制御・演算部6が、例えば、1kHz以上の周波数の導電率測定タイミング信号TcmXを生成して導電率測定回路20に出力し、導電率測定回路20が、矩形電流IcmAを検出電極1Aとアースリング1Eとの間に流し、矩形電流IcmBを検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流す。つまり、電磁流量計100では、制御・演算部6が、付着診断動作を行う期間に付着診断回路10が動作させ、導電率計測動作を行う期間に導電率測定回路20が動作させるように、付着診断回路10と導電率測定回路20とのそれぞれに出力するタイミング信号を切り替える。しかし、以下の説明においては、説明を容易にするため、付着診断回路10または導電率測定回路20のいずれか一方が、付着診断動作と導電率計測動作とにおける両方の矩形電流を、検出電極1Aとアースリング1Eとの間および検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流すものとして説明する。つまり、以下の説明においては、制御・演算部6が、付着診断回路10または導電率測定回路20のいずれか一方に、付着診断動作を行うための付着診断タイミング信号TadXに引き続き、導電率計測動作を行うための導電率測定タイミング信号TcmXを出力するものとして説明する。
【0069】
なお、この場合の電磁流量計100の構成は、図4に示したような構成となる。図4は、本発明の実施形態の電磁流量計100において動作する構成を簡易的に示したブロック図である。図4には、導電率測定回路20が付着診断動作と導電率計測動作とにおける両方の矩形電流を流す構成とし、付着診断動作と導電率計測動作とのそれぞれの動作に関連する構成要素を併せて示している。また、図4には、図2に示した等価モデルで模式的に表される(モデリングされる)、検出電極1Aとアースリング1Eとの間のインピーダンスZAEと、検出電極1Bとアースリング1Eとの間のインピーダンスZBEとのそれぞれを、測定管1P内に示している。また、図4には、付着診断動作と導電率計測動作とにおいて計測したインピーダンスZAEとインピーダンスZBEとに基づいて得ることができる検出電極1Aと検出電極1Bとの間のインピーダンスZABも、測定管1P内に示している。なお、インピーダンスZABも、インピーダンスZAEやインピーダンスZBEと同様に、図2に示した等価モデルで模式的に表す(モデリングする)ことができる。
【0070】
図5は、本発明の実施形態の電磁流量計100において計測するインピーダンス(インピーダンスZAE、インピーダンスZBE、およびインピーダンスZAB)の一例を説明する図である。図5は、電磁流量計100が、1週間に1回の割合で付着診断動作および導電率計測動作を行った6週間分のインピーダンスの一例である。図5には、導電率測定回路20が、制御・演算部6から出力されたタイミング信号に応じて、40Hz~200kHzの間で掃引(スイープ)する周波数の矩形電流を、検出電極1Aとアースリング1Eとの間と、検出電極1Bとアースリング1Eとの間とのそれぞれに流して計測したインピーダンスの値を、矩形電流の周波数ごとに示している。図5の(a)には、検出電極1Aとアースリング1Eとの間のインピーダンスZAEの値を矩形電流の周波数ごとに示している。また、図5の(b)には、検出電極1Bとアースリング1Eとの間のインピーダンスZBEの値を矩形電流の周波数ごとに示している。また、図5の(c)には、インピーダンスZAEとインピーダンスZBEとに基づいて得ることができる検出電極1Aと検出電極1Bとの間のインピーダンスZABの値を矩形電流の周波数ごとに示している。
【0071】
なお、図5の(a)のグラフにおいて、周波数が40Hz~10kHzの範囲(物質の付着特性の範囲)のインピーダンスZAEの値は、付着診断回路10が、制御・演算部6から出力された付着診断タイミング信号TadXに応じて検出電極1Aとアースリング1Eとの間に矩形電流IadAを流したときに検出電極1Aが検出した流量信号VAから得られるインピーダンスの値である。また、図5の(a)のグラフにおいて、周波数が10kHz~200kHzの範囲(流体抵抗特性の範囲)のインピーダンスZAEの値は、導電率測定回路20が、制御・演算部6から出力された導電率測定タイミング信号TcmXに応じて検出電極1Aとアースリング1Eとの間に矩形電流IcmAを流したときに検出電極1Aが検出した流量信号VAから得られるインピーダンスの値である。また、図5の(b)のグラフにおいて、物質の付着特性の範囲のインピーダンスZBEの値は、付着診断回路10が、制御・演算部6から出力された付着診断タイミング信号TadXに応じて検出電極1Bとアースリング1Eとの間に矩形電流IadBを流したときに検出電極1Bが検出した流量信号VBから得られるインピーダンスの値である。また、図5の(b)のグラフにおいて、流体抵抗特性の範囲のインピーダンスZBEの値は、導電率測定回路20が、制御・演算部6から出力された導電率測定タイミング信号TcmXに応じて検出電極1Bとアースリング1Eとの間に矩形電流IcmBを流したときに検出電極1Bが検出した流量信号VBから得られるインピーダンスの値である。また、図5の(c)のグラフにおいて、それぞれの特性の範囲のインピーダンスZABの値は、図5の(a)に示したインピーダンスZAEと、図5の(b)に示したインピーダンスZBEとにおける同じ特性の範囲(周波数の範囲)のインピーダンスの値に基づいて得ることができる検出電極1Aと検出電極1Bとの間のインピーダンスの値である。
【0072】
まず、物質の付着特性の範囲(40Hz~10kHzの周波数の範囲)のインピーダンスについて、つまり、検出電極への導電性の物質の付着を診断する付着診断動作について説明する。図5の(a)~図5の(c)のグラフに示したように、第1週~第5週までのそれぞれの周波数のインピーダンスの値は、それぞれのグラフにおいて比較的安定した値となっている。これに対して、第6週のインピーダンスの値は、周波数が低いときのインピーダンスの値が、他の週に比べて高くなっている。図5の(a)~図5の(c)のグラフでは、図5の(a)および図5の(c)のグラフにおいて、第6週のインピーダンスの値が特に高くなっている。このような場合、制御・演算部6は、電極付着演算処理において、少なくとも検出電極1Aに導電性の物質が付着したと診断する。そして、制御・演算部6は、検出電極への導電性の物質の付着を診断した結果を表す計測信号(デジタル信号)を、電磁流量計100の外部に出力する。
【0073】
なお、制御・演算部6は、電極付着演算処理において、例えば、予め定めた特定の周波数(図5の(a)~図5の(c)においては、1kHzの周波数)のインピーダンスの値の変化の履歴から、検出電極に付着した導電性の物質が積層している状態(導電性の物質の厚さ)などを診断し、その診断結果を表す計測信号(デジタル信号)を、電磁流量計100の外部に出力するようにしてもよい。これにより、電磁流量計100では、測定管1Pが詰まっている状態(閉塞している度合い)を判断することができる。
【0074】
なお、図5の(a)~図5の(c)のグラフでは、第1週目のインピーダンスの値に特異点の値Sがある。これは、例えば、現在はいずれの検出電極にも付着はしていないが、以前にいずれかの検出電極に付着していた導電性の物質が検出電極から剥離して浮遊しているものを検出したことによるものと考えることができる。このような場合、制御・演算部6は、電極付着演算処理において、特異点の値Sを含めずに(無視して)、検出電極への導電性の物質の付着を診断する。
【0075】
続いて、流体抵抗特性の範囲(10kHz~200kHzの周波数の範囲)のインピーダンスについて、つまり、液体の導電率を計測する導電率計測動作について説明する。図5の(a)~図5の(c)のグラフに示したように、第1週~第6週までのそれぞれの周波数のインピーダンスの値は、それぞれのグラフにおいて比較的安定した値となっている。これは、導電率計測動作において導電率測定回路20が検出電極1Aとアースリング1Eとの間に流す矩形電流IcmAと、検出電極1Bとアースリング1Eとの間に流す矩形電流IadBとのそれぞれの矩形電流の周波数が高いため、検出電極に付着した導電性の物質による影響を受けることなくそれぞれのインピーダンスを得ることができるからである。制御・演算部6は、導電率演算処理において、計測したインピーダンスの値(流体抵抗の抵抗値)から液体の導電率を算出し、算出した液体の導電率を表す計測信号(デジタル信号)を、電磁流量計100の外部に出力する。
【0076】
上記に述べたとおり、本発明を実施するための形態によれば、電磁流量計内に、測定管の中を流れる流体によって発生した起電力(電圧)を検出するそれぞれの検出電極とアースリング(アース電極)との間に予め定めた電流値の交流信号(交流電流、矩形電流)を出力する回路を備える。より具体的には、本発明を実施するための形態では、検出電極への導電性の物質の付着を診断するための周波数の矩形電流を流す付着診断回路と、測定管の中を流れる液体の導電率を計測するための周波数の矩形電流を流す導電率測定回路とを備える。そして、本発明を実施するための形態では、付着診断回路が検出電極とアースリングとの間に流す矩形電流の周波数を予め定めた周波数の範囲の間で掃引(スイープ)し、導電率測定回路が検出電極とアースリングとの間に流す矩形電流の周波数を高くする。そして、本発明を実施するための形態では、検出電極への導電性の物質の付着を診断する付着診断動作と、液体の導電率を計測する導電率計測動作とのそれぞれの動作においても、流体の流量を計測する通常の流量計測動作と同様に、差動増幅回路によって、それぞれの検出電極が出力した流量信号の差分をとることによって同相成分のノイズを除去した後の流量信号に基づいて、診断や計測を行う。このとき、本発明を実施するための形態では、それぞれの検出電極からアースリングまでの間のインピーダンスを、抵抗やコンデンサを組み合わせた等価回路で模式的に表した(モデリングした)等価回路に基づいて、診断や計測を行う。より具体的には、本発明を実施するための形態では、検出電極の界面を模式的に表した(モデリングした)電極界面モデルと、検出電極に付着した導電性の物質を模式的に表した(モデリングした)付着物質モデルと、測定管の中を流れる導電性の液体を模式的に表した(モデリングした)流体モデルとのそれぞれの等価回路が直列に接続された等価モデルを用いて、検出電極への導電性の物質の付着を診断し、液体の導電率を計測する。
【0077】
これにより、本発明を実施するための形態の電磁流量計では、検出電極への導電性の物質の付着の診断をすることができる。しかも、本発明を実施するための形態の電磁流量計では、検出電極への導電性の物質の付着の診断に用いる等価モデルには、絶縁性の物質(絶縁物)に対応する等価回路も含まれているため、従来の電磁流量計のように、検出電極への絶縁物の付着の診断もすることができる。さらに、本発明を実施するための形態の電磁流量計では、導電率測定回路が検出電極とアースリングとの間に流す矩形電流の周波数を高くしているため、検出電極に付着した物質による影響を受けることなく、測定管の中を流れる液体の導電率を安定して計測することができる。つまり、本発明を実施するための形態の電磁流量計では、検出電極に導電性の物質が付着した状態であっても、測定管の中を流れる液体の導電率を安定して計測することができる。しかも、本発明を実施するための形態の電磁流量計では、付着診断回路が検出電極とアースリングとの間に流す矩形電流の周波数と、導電率測定回路が検出電極とアースリングとの間に流す矩形電流の周波数とは互いに依存しておらず、電磁流量計における基準のクロック信号(システムクロック信号)に同期している必要もないため、計測する液体の導電率の範囲が制約されることなく、例えば、1mS/cm以上などの高い導電率でも計測することができる。
【0078】
なお、本発明を実施するための形態の電磁流量計では、検出電極への導電性の物質の付着を診断するための周波数の矩形電流を流す付着診断回路と、測定管の中を流れる液体の導電率を計測するための周波数の矩形電流を流す導電率測定回路とのそれぞれを備える構成である場合について説明した。つまり、実施形態では、電磁流量計100が、付着診断回路10と導電率測定回路20とを備える構成である場合について説明した。しかし、上述したように、本発明を実施するための形態の電磁流量計では、検出電極への導電性の物質の付着を診断するための周波数の矩形電流と、測定管の中を流れる液体の導電率を計測するための周波数の矩形電流とのそれぞれを流すことができれば、その構成は、実施形態において説明した構成に限定されるものではない。つまり、電磁流量計は、実施形態において図4に示した構成のように、付着診断回路における検出電極への導電性の物質の付着を診断する機能と、導電率測定回路における液体の導電率を計測する機能とをまとめた1つの測定回路が、検出電極への導電性の物質の付着を診断するための矩形電流と、液体の導電率を計測するための矩形電流との両方の矩形電流を流す構成であってもよい。この場合、それぞれの機能をまとめた1つの測定回路に備える定電流源は、制御・演算部からの制御によって、検出電極への導電性の物質の付着を診断するための矩形電流と、液体の導電率を計測するための矩形電流とのそれぞれの信号レベル(電流値)を変更することができる、つまり、可変電流源であればよい。
【0079】
また、実施形態では、電磁流量計100に備えた制御・演算部6が、励磁回路5、付着診断回路10、および導電率測定回路20のそれぞれの動作に必要な周波数のタイミング信号(励磁電流タイミング信号TEX、付着診断タイミング信号TadX、および導電率測定タイミング信号TcmX)を生成して出力する構成である場合について説明した。しかし、電磁流量計100においてそれぞれのタイミング信号を生成する構成は、図1に示した構成に限定されるものではない。例えば、電磁流量計100に備えたカウンタ回路やタイマー回路によって、それぞれのタイミング信号を生成する構成にしてもよい。この場合、制御・演算部6は、電磁流量計100における付着診断動作と導電率計測動作とを切り替える構成であればよい。また、例えば、励磁回路5、付着診断回路10、および導電率測定回路20のそれぞれに備えた構成要素が、制御・演算部6が出力する対応するタイミング信号と同じ周波数の励磁電流や矩形電流を生成して出力する構成にしてもよい。この場合、制御・演算部6は、電磁流量計100において流量計測動作や、付着診断動作、導電率計測動作を行う際に、励磁電流や矩形電流の出力と停止とを制御する構成であればよい。
【0080】
また、実施形態では、電磁流量計100に備えた制御・演算部6が、電極付着演算処理を行って検出電極への導電性の物質の付着を診断した結果や、導電率演算処理を行って算出した測定管1Pの中を流れる液体の導電率を表す計測信号(デジタル信号)を、電磁流量計100の外部に出力する構成である場合について説明した。しかし、例えば、表示部を電磁流量計100に備えている構成とした場合には、この表示部に、検出電極への導電性の物質の付着を診断した結果や測定管1Pの中を流れる液体の導電率の情報を表示させる構成であってもよい。
【0081】
また、実施形態では、電磁流量計100において付着診断動作を開始するタイミングや、導電率計測動作を開始するタイミング、つまり、電磁流量計100において付着診断動作や導電率計測動作をするきっかけに関しては特に規定していない。このため、電磁流量計100において付着診断動作や導電率計測動作を開始するタイミングは、予め定めた周期ごとであってもよいし、例えば、プラントにおいて点検作業を行う作業員が手動(マニュアル)操作によって指示したタイミングであってもよい。
【0082】
また、実施形態では、電磁流量計100が、検出電極1Aと検出電極1Bとの2つの検出電極を備えた電磁流量計の構成を示した。しかし、電磁流量計100に備える検出電極の数は、図1に示した数に限定されるものではなく、例えば、4つ以上の検出電極を備えた電磁流量計など、図1に示した電磁流量計100よりもさらに多くの検出電極を備えた電磁流量計の構成であってもよい。そして、図1に示した電磁流量計100よりもさらに多くの検出電極を備えた電磁流量計の構成であっても同様に、電磁流量計100における検出電極への導電性の物質の付着を診断する考え方や、測定管の中を流れる液体の導電率を計測する考え方を適用することができる。
【0083】
なお、本発明を実施するための形態では、電磁流量計100が、プラント内に配置された配管に設置され、通常の流量計測動作において、測定管1Pの中を流れる計測対象の流体である導電性の液体の流量を計測するものとして説明した。しかし、電磁流量計100を利用する場所、つまり、電磁流量計100が設置される施設は、プラントに限定されるものではなく、様々な施設において電磁流量計100を利用することができる。例えば、電磁流量計100は、温泉地などにおいて温泉の湯量を計測するために利用することもできる。この場合も、湯の華が導電性の物質であるため、実施形態に示した電磁流量計100における検出電極への導電性の物質の付着を診断する機能や、液体(温泉水)の導電率を計測する機能は、有効であると考えられる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0085】
100・・・電磁流量計
1・・・センサ
1A・・・検出電極
1B・・・検出電極
1C・・・励磁コイル
1E・・・アースリング(アース電極)
1P・・・測定管
2A・・・バッファ回路
2B・・・バッファ回路
3・・・差動増幅回路
4・・・流量信号A/D変換回路
5・・・励磁回路
6・・・制御・演算部
7・・・クロック回路
10・・・付着診断回路
11A・・・定電流源(電流源)
11B・・・定電流源(電流源)
20・・・導電率測定回路
21A・・・定電流源(電流源)
21B・・・定電流源(電流源)
VA・・・流量信号
VB・・・流量信号
TEX・・・励磁電流タイミング信号
TadX・・・付着診断タイミング信号
IadA・・・矩形電流(第2の交流電流)
IadB・・・矩形電流(第2の交流電流)
TcmX・・・導電率測定タイミング信号
IcmA・・・矩形電流(第1の交流電流)
IcmB・・・矩形電流(第1の交流電流)
Rt・・・電荷移動過程抵抗(等価モデル,電極界面モデル,回路要素)
W・・・ワールブルグ拡散インピーダンス(等価モデル,電極界面モデル,回路要素)
Cdl・・・電気二重層容量(等価モデル,電極界面モデル,回路要素)
Ra・・・付着抵抗(等価モデル,付着物質モデル,回路要素)
Ca・・・付着容量(等価モデル,付着物質モデル,回路要素)
Rsol・・・流体抵抗(等価モデル,流体モデル,流体抵抗)
Rpsv・・・不動態皮膜抵抗
I・・・拡散電流
Cad・・・表面化学反応容量
Rsur・・・反応中間体化学反応抵抗
図1
図2
図3
図4
図5