(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】放湿冷却性繊維および該繊維を含有する繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D06M 11/63 20060101AFI20230117BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20230117BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20230117BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20230117BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20230117BHJP
D06M 11/38 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
D06M11/63
D03D15/20
D03D15/37
D04B1/16
D06M11/00 110
D06M11/38
(21)【出願番号】P 2018168607
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2017187734
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小原 則行
(72)【発明者】
【氏名】西崎 直哉
(72)【発明者】
【氏名】藤本 克也
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 16/00
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋構造とカルボキシル基を有する重合体を主成分とする表層部と、アクリロニトリル系重合体を主成分とする中心部とを有する芯鞘繊維であって、下記式3で示される数値Aが0.050以上0.080未満であり、下記の評価方法により求めた冷却温度(ΔT
30)が1.5℃以上であることを特徴とする放湿冷却性繊維。
[式3] A=繊維の有するカルボキシル基量[mmol/g]/繊維断面における「架橋構造とカルボキシル基を有する重合体を主成分とする表層部」の占める面積の割合[%]
(評価方法)
繊維をカードウェブとし、該カードウェブから2.5gを切り取って、16cm×9cmの大きさに折り畳み、測定試料とする。該測定試料を気温35℃、相対湿度90%の雰囲気下で16時間放置する。次いで、測定試料の中央部に電子温度計のセンサーを挿入し、気温20℃、相対湿度45%の雰囲気下に移し、30分経過した時の電子温度計の示す温度(t
30[℃])を読み取る。この結果から下記式1によりΔT
30を求める。
[式1]ΔT
30[℃]=20-t
30
【請求項2】
下記の評価方法により求めた冷却温度(ΔT
5)が1.0℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の放湿冷却性繊維。
(評価方法)
繊維をカードウェブとし、該カードウェブから2.5gを切り取って、16cm×9cmの大きさに折り畳み、測定試料とする。該測定試料を気温35℃、相対湿度90%の雰囲気下で16時間放置する。次いで、測定試料の中央部に電子温度計のセンサーを挿入し、気温20℃、相対湿度45%の雰囲気下に移し、5分経過した時の電子温度計の示す温度(t
5[℃])を読み取る。この結果から下記式2によりΔT
5を求める。
[式2]ΔT
5[℃]=20-t
5
【請求項3】
請求項1
または2に記載の放湿冷却性繊維を5質量%以上含有することを特徴とする繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放湿冷却性繊維および該繊維を含有する繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
放湿冷却とは、物質中に吸着された水分が気化して蒸散する(すなわち、放湿する)際に、その物質から気化熱を奪うことによって、物質の温度が低下する(すなわち、冷却する)現象のことを言う。放湿冷却性を有する繊維を衣服や寝具などの用途に用いた場合、人体に対する冷却効果を期待できる。
【0003】
例えば、特許文献1には、親水性化合物を繊維表面で重合させることにより加工されたポリエステル繊維を含む布帛であって、加工前の繊維を含む布帛に対比して、吸湿発熱による温度上昇が0.5℃以上であり、放湿冷却による温度降下が0.5℃以上である、吸湿発熱性/放湿冷却性布帛が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、疎水性合成繊維60重量%以上からなる布帛であって、塩型カルボキシル基と架橋構造を有するアクリル系重合体からなる高吸放湿性有機微粒子が繊維表面にグラフト重合により結合されたことを特徴とする吸放湿性布帛が開示されており、該布帛は放湿冷却効果を有することが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3の
図5や特許文献4の[0005]~[0007]段落には、架橋アクリレート系繊維が放湿冷却作用を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-88653号公報
【文献】特開2002-38375号公報
【文献】特開平9-59872号公報
【文献】特開2004-218111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した各文献の技術においては、放湿冷却効果が小さい、あるいは、持続しないため、放湿冷却効果を実感しにくいという問題を有している。本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、放湿冷却効果が大きく、持続できる繊維および該繊維を含有する繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、以下の手段により、放湿冷却効果が大きく、持続できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
(1) 架橋構造とカルボキシル基を有する重合体を主成分とする表層部と、アクリロニトリル系重合体を主成分とする中心部とを有する芯鞘繊維であって、下記式3で示される数値Aが0.050以上0.080未満であり、下記の評価方法により求めた冷却温度(ΔT30)が1.5℃以上であることを特徴とする放湿冷却性繊維。
[式3] A=繊維の有するカルボキシル基量[mmol/g]/繊維断面における「架橋構造とカルボキシル基を有する重合体を主成分とする表層部」の占める面積の割合[%]
(評価方法)
繊維をカードウェブとし、該カードウェブから2.5gを切り取って、16cm×9cmの大きさに折り畳み、測定試料とする。該測定試料を気温35℃、相対湿度90%の雰囲気下で16時間放置する。次いで、測定試料の中央部に電子温度計のセンサーを挿入し、気温20℃、相対湿度45%の雰囲気下に移し、30分経過した時の電子温度計の示す温度(t30[℃])を読み取る。この結果から下記式1によりΔT30を求める。
[式1]ΔT30[℃]=20-t30
(2) 下記の評価方法により求めた冷却温度(ΔT5)が1.0℃以上であることを特徴とする(1)に記載の放湿冷却性繊維。
(評価方法)
繊維をカードウェブとし、該カードウェブから2.5gを切り取って、16cm×9cmの大きさに折り畳み、測定試料とする。該測定試料を気温35℃、相対湿度90%の雰囲気下で16時間放置する。次いで、測定試料の中央部に電子温度計のセンサーを挿入し、気温20℃、相対湿度45%の雰囲気下に移し、5分経過した時の電子温度計の示す温度(t5[℃])を読み取る。この結果から下記式2によりΔT5を求める。
[式2]ΔT5[℃]=20-t5
(3) (1)または(2)に記載の放湿冷却性繊維を5質量%以上含有することを特徴とする繊維構造物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放湿冷却性繊維は、放湿冷却効果が大きく、かつその効果を持続できるという特性を有するものである。かかる特性を有する本発明の放湿冷却性繊維は、例えば、夏物衣料品(肌着、Tシャツ、帽子など)、あるいは夏物寝具(肌掛け布団の側地や中綿、敷きパッド)などの素材として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の放湿冷却性繊維は、後述する評価方法によって求めた冷却温度ΔT30が1.5℃以上、好ましくは2.0℃以上を示すものである。すなわち、本発明の放湿冷却性繊維は、放湿開始から30分経過後においても、雰囲気温度より1.5℃以上低い温度を保つものである。かかる特性により、本発明の放湿冷却性繊維を用いた繊維構造物は冷却効果の持続性に優れたものにすることができる。さらに、ΔT60が好ましくは1.0℃以上、より好ましくは1.5℃以上を示すものであれば、よりいっそう冷却効果の持続性に優れたものにすることができる。
【0012】
また、本発明の放湿冷却性繊維は、後述する評価方法によって求めた冷却温度ΔT5が1.0℃以上、好ましくは1.5℃以上を示すものであることが望ましい。冷却温度ΔT5が1.0℃以上であることは、放湿開始から5分経過後において、かかる繊維が雰囲気温度より1.0℃以上低い温度までに冷却されることを示している。かかる特性により、かかる繊維を用いた繊維構造物は速やかな冷却効果を得ることができるようになる。
【0013】
かかる本発明の放湿冷却性繊維としては、架橋構造とカルボキシル基を有する重合体を主成分とする表層部(以下、単に「表層部」ともいう)とアクリロニトリル系重合体を主成分とする中心部(以下、単に「中心部」ともいう)とを有する芯鞘繊維を挙げることができる。ここで、「主成分」との用語は、表層部または中心部のそれぞれにおいて、最多の成分であることを示すものであり、通常の場合であれば、前記の各重合体は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上を占めている。ここで、中心部を構成するアクリロニトリル系重合体は、架橋構造を有するものであってもよい。
【0014】
かかる芯鞘繊維では、親水性の高いカルボキシル基によって繊維に吸湿された水分が放湿されるが、かかるカルボキシル基が表層部に存在することにより、効率的に放湿することができ、放湿冷却効果を得られやすくなる。逆に、中心部にまでカルボキシル基が存在していても、中心部に吸湿された水分は繊維表面までの長い距離を移動しなければ放湿できないため、放湿冷却効果に寄与しづらい。
【0015】
また、中心部をアクリロニトリル系重合体で構成することにより、繊維物性が低くなりすぎず、紡績加工を行いやすく、また、使用時の耐久性も向上させることができる。このため、かかる芯鞘繊維においては、繊維構造物への含有割合をより多くすることができ、より優れた放湿冷却効果を発現させることが可能となる。
【0016】
さらに、上述の芯鞘繊維においては、下記式3で示される数値Aが好ましくは0.050以上0.080未満であり、より好ましくは0.055以上0.070未満であることが望ましい。
[式3] A=カルボキシル基量[mmol/g]/繊維断面における表層部の占める面積の割合[%]
【0017】
ここで、数値Aは、繊維表層部中のカルボキシル基の濃度に相関する数値であり、この数値が大きいほど極性を有する官能基であるカルボキシル基が繊維表面上に高い濃度で存在することになる。従って、数値Aが大きいほど、繊維表層部により多くの水分を含有できるようになり、かかる水分をより速く放湿することができるようになる。
【0018】
かかる効果を得るためには、数値Aが0.050以上であることが好ましく、より好ましくは0.055以上である。しかし、数値Aが0.080以上の場合には吸湿により繊維表層部が粘着性を帯び、繊維同士が固着しやすくなりやすいため、紡績加工においてトラブルとなったり、洗濯などで風合いが悪化したりする場合がある。
【0019】
また、本発明の放湿冷却性繊維は、気温35℃、相対湿度90%の雰囲気下での飽和吸湿率と、前記雰囲気下で飽和させ、気温20℃、相対湿度45%の雰囲気下に移動させた30分後の吸湿率の差が好ましくは10パーセントポイント以上、より好ましくは12パーセントポイント以上、さらに好ましくは14パーセントポイント以上有するものであることが望ましい。かかる吸湿率の差が大きいほど放湿速度が大きいことを示しており、10パーセントポイントに満たない場合には、上述した冷却温度を十分に得られない場合がある。
【0020】
また、架橋構造及びカルボキシル基を有する重合体におけるカルボキシル基のカウンターイオンとしては、水素イオンだけに限らず、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の陽イオン、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属の陽イオン、マンガン、銅、亜鉛、銀などのその他の金属の陽イオン、アンモニウムイオンなどから1種あるいは複数種を必要な特性に応じて選択することができる。このような水素イオン以外のカウンターイオンを有するカルボキシル基(以下、塩型カルボキシル基という)が存在する場合、上述の飽和吸湿率差がより大きくなり、かつ、放湿速度がより大きくなるので、より大きな冷却効果が期待できる。かかる塩型カルボキシル基の量は、全カルボキシル基量に対して、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である。一方、あまりに塩型カルボキシル基量が多くなると、吸湿時に繊維が粘着性を帯びたり、脆化したりしやすくなるため、全カルボキシル基量に対して、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下とすることが望ましい。また、カウンターイオンとして、ナトリウムイオンやカリウムイオンを選択した場合には冷却効果をさらに大きくすることができる。
【0021】
次に、本発明の放湿冷却性繊維の代表的な製造方法としては、アクリロニトリル系繊維の表層部に架橋導入処理と加水分解処理を施す方法を採用することができる。なお、架橋導入処理については表層部にとどまらず、中心部にまで施されてもよい。原料となるアクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から公知の方法で製造することができる。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルが50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。後述するように、架橋構造はアクリロニトリル系重合体のニトリル基と架橋剤の反応によって形成されるため、アクリロニトリル系重合体中のアクリロニトリルの含有量が少ない場合は、架橋構造を導入できる量が少なくなり、加工や実用面において繊維強度が不足するおそれがある。
【0022】
上記のようなアクリロニトリル系繊維に対して架橋構造が導入される。架橋構造の導入には、従来公知の架橋剤を使用してもよいが、架橋構造の導入効率の点から窒素含有化合物を使用することが好ましい。窒素含有化合物としては、2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物やヒドラジン系化合物を使用することが好ましい。2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミン系化合物、ジエチレントリアミン、3,3’-イミノビス(プロピルアミン)、N-メチル-3,3’-イミノビス(プロピルアミン)などのトリアミン系化合物、トリエチレンテトラミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,3-プロピレンジアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,4-ブチレンジアミンなどのテトラミン系化合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどであって2個以上の1級アミノ基を有するポリアミン系化合物などが例示される。また、ヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネートなどが例示される。なお、1分子中の窒素原子の数の上限は特に限定されないが、12個以下であることが好ましく、さらに好ましくは6個以下であり、特に好ましくは4個以下である。1分子中の窒素原子の数が上記上限を超えると、架橋剤分子が大きくなり、繊維内に架橋構造を導入しにくくなる場合がある。架橋構造を導入する条件としては、特に限定されるものではなく、採用する架橋剤とアクリロニトリル系繊維との反応性や架橋構造の量などを勘案し、適宜選定することができる。例えば、架橋剤としてヒドラジン系化合物を用いる場合は、ヒドラジン濃度として0.1~10質量%となるように上記のヒドラジン系化合物を添加した水溶液に、上述したアクリロニトリル系繊維を浸漬し、80~150℃、2~10時間で処理する方法などが挙げられる。
【0023】
架橋構造が導入された後は、アルカリ性金属化合物による加水分解処理が施され、繊維の表層部に存在しているニトリル基が加水分解され、カルボキシル基が形成される。具体的な処理条件としては、上述したカルボキシル基濃度などを勘案し、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~5質量%の処理薬剤水溶液中、温度80~150℃で2~10時間処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。ここで、上述の架橋導入処理および加水分解処理は、上述のように順に行うより、それぞれの処理薬剤を混合した水溶液を用いて、一括して同時処理することが好ましい。さらに、この同時処理においては、従来より低濃度のアルカリ金属化合物の緩い条件で行い、その後の酸処理を従来より高温での厳しい条件で行うことが好ましい。このようにして得られる放湿冷却性繊維は、表層部に従来より多くのカルボキシル基が存在し、中心部に比較的硬いアクリロニトリル系重合体が温存された構造をとることができる。
【0024】
形成されたカルボキシル基のカウンターイオンとしては上述したようなものが挙げられる。所望のカウンターイオンに調整する方法としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩によるイオン交換処理、硝酸、硫酸、塩酸、蟻酸などによる酸処理、あるいは、アルカリ性金属化合物などによるpH調整処理などを施す方法が挙げられる。
【0025】
本発明の放湿冷却性繊維を含有する繊維構造物は、本発明の放湿冷却性繊維単独で、または他の繊維を組み合わせて形成することができる。他の繊維と組み合わせる場合、本発明の放湿冷却性繊維は、効果発現の点で5質量%以上使用することが好ましく、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満の使用率では均一な混合が難しくなる場合がある。また、組み合わせることのできる他の繊維としては、例えば、羽毛、羊毛、獣毛、絹、綿、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、セルロース系繊維を挙げることができる。
【0026】
本発明の繊維構造物の形態としては、中綿、糸、編地、織物、パイル布帛、不織布等が挙げられる。さらに具体的には、インナーウェア、パンツ、シャツ、ユニフォーム、カットソー、デニム、パジャマ、バスローブ、レギンス、ソックス、ストッキング、サポーター、腹巻き、手袋、ハンカチ、タオル、スカーフ、ストール、マフラー、マスク、フェイスマスク、帽子、枕、枕カバー、シーツ、タオルケット、敷きパッド、マット、ラグ、カーペットなどを挙げることができる。本発明の繊維構造物中の放湿冷却性繊維の含有形態は、実質的に均一に分布させる場合や、特定の場所に集中的に存在させる場合や、場所ごとに特定比率で分布させる場合などが考えられる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。
【0028】
<冷却温度の評価方法>
試料繊維をカードウェブとし、該カードウェブから2.5gを切り取って、16cm×9cmの大きさに折り畳み、測定試料とする。該測定試料を気温35℃、相対湿度90%の雰囲気下で16時間放置する。次いで、測定試料の中央部に電子温度計のセンサーを挿入し、気温20℃、相対湿度45%の雰囲気下に移し、一定時間(n[分])経過した時の電子温度計の示す温度(tn[℃])を読み取る。この結果から下記式によりΔTnを求める。
ΔTn[℃]=20-tn
【0029】
<数値Aの算出>
1.繊維断面における表層部断面積の割合
試料繊維を、繊維質量に対して2.5%のカチオン染料(Nichilon Black G 200)および2%の酢酸を含有する染色浴に、浴比1:80となるように浸漬し、30分間煮沸処理した後に、水洗、脱水、乾燥する。得られた染色済みの繊維を、繊維軸に垂直に薄くスライスし、繊維断面を光学顕微鏡で観察する。このとき、アクリロニトリル系重合体からなる中心部は黒く染色され、カルボキシル基が多く有する表層部は染料が十分に固定されず緑色になる。繊維断面における、繊維の直径(L1)、および、緑色から黒色へ変色し始める部分を境界として黒く染色されている中心部の直径(L2)を測定し、以下の式により表層部断面積の繊維断面積に占める割合を算出する。なお、10サンプルの平均値をとる。
繊維断面における表層部断面積の割合[%]=[1-{(L2/2)2π/(L1/2)2π}]×100
【0030】
2.カルボキシル基量
繊維試料約1gを、50mlの1mol/l塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、繊維試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、十分乾燥させた繊維試料約0.2gを精秤し(W1[g])、100mlの水を加え、さらに、15mlの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して撹拌する。15分後、濾過によって試料繊維と濾液に分離し、引き続き試料繊維を、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで水洗する。このときの水洗水と濾液をあわせたものを、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/l塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V1[ml])を求める。得られた測定値から、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V1)/W1
【0031】
3.数値A
上記で求めた数値を用いて下記式により算出する。
数値A=カルボキシル基量[mmol/g]/繊維断面における表層部の占める面積の割合[%]
【0032】
<吸湿率差(放湿のしやすさ)>
充分乾燥した繊維試料約5gを精秤する(W1[g])。該試料を、気温35℃、相対湿度90%下で16時間静置し、吸湿した試料の質量を測定する(W2[g])。同試料を再度、相対湿度90%下で16時間静置し、直ちに気温20℃、相対湿度45%の雰囲気下に移動させ、30分経過後に、試料の質量を測定する(W3[g])。以上の測定結果から、下記の式により各吸湿率を算出する。
気温35℃、相対湿度90%下での飽和吸湿率[%]=(W2-W1)/W1×100
気温20℃、相対湿度45%下に移動させた30分後の吸湿率[%]=(W3-W1)/W1×100
以上のようにして求めた各吸湿率から吸湿率差を算出する。
【0033】
<塩型カルボキシル基の割合>
上述のカルボキシル基量の測定方法において、最初の1mol/l塩酸水溶液への浸漬およびそれに続く水への浸漬(水洗)を実施しないこと以外は同様にして、H型カルボキシル基量を算出する。かかるH型カルボキシル基量を上述のカルボキシル基量から差し引くことで、塩型カルボキシル基量を求め、上述のカルボキシル基量に対する割合を算出する。
【0034】
[実施例1]
アクリロニトリル90質量%、アクリル酸メチルエステル10質量%のアクリロニトリル系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)を48質量%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。該紡糸原液を常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、単繊維繊度1.7dtexのアクリル繊維を得た。
【0035】
得られたアクリル繊維に、水加ヒドラジン0.5質量%および水酸化ナトリウム2.0質量%を含有する水溶液中で、100℃×2時間、架橋導入処理および加水分解処理を同時に行い、8質量%硝酸水溶液で、100℃×3時間処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してカルボキシル基の一部を塩型に調整し、水洗、乾燥することにより、繊度3.0dtexの放湿冷却性繊維Aを得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。なお、かかる繊維の赤外線吸収測定においては、ニトリル基に由来する2250cm-1付近に吸収があり、繊維表層部においてはニトリル基の加水分解が進行しているが、繊維中心部においてはニトリル基が残存していることが確認された。
【0036】
[実施例2]
実施例1において、水酸化ナトリウムの濃度を1.5質量%とすること以外は同様にして、繊度2.5dtexの放湿冷却性繊維Bを得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0037】
[実施例3]
実施例1において、水酸化ナトリウムの濃度を2.5質量%とすること以外は同様にして、繊度3.5dtexの放湿冷却性繊維Cを得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
実施例1において、水酸化ナトリウムの濃度を3.5質量%とすること以外は同様にして、繊度4.2dtexの繊維Dを得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2、3]
繊度1.4dtexのレーヨンおよび繊度1.4dtexのポリエステルについての評価結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1から分かるように、実施例1~3の繊維は、放湿開始から30分経過後においても、雰囲気温度より1.5℃以上低い温度を保つものであり、さらに、放湿開始から5分経過後の時点で、雰囲気温度より1.0℃以上低い温度にまでに冷却されるものであって、速やかな冷却性と持続的な冷却性を併せ持つものである。これに対して、比較例1の繊維は、冷却性が劣るものであった。
【0042】
[実施例4]
放湿冷却性繊維Aとポリエステル繊維を30/70の割合とし、綿番手45/1の紡績糸を作成した。また、綿のみで綿番手40/1の紡績糸を作成した。次いで、これらの紡績糸を用いて天竺編みの編地を作成した。上述した冷却温度の測定方法におけるカードウェブに代えて、該編地を用い、冷却温度を測定した結果と編地における各繊維の混率を表2に示す。
【0043】
[比較例4]
実施例4で作成した綿の紡績糸のみを用いて、天竺編みの編地を作成し、該編地を用いて冷却温度を測定した結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
実施例4の本発明の冷却放湿性繊維を使用した繊維構造物においては、比較例4の綿100%の繊維構造物に比べて、冷却特性の優れたものであった。